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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】歯科用プライマー
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/30 20200101AFI20231130BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20231130BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231130BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231130BHJP
【FI】
A61K6/30
C09D4/00
C09D5/00 D
C09D7/63
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019193825
(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公開番号】P2021066694
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】592093578
【氏名又は名称】サンメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】宮森 沙耶香
(72)【発明者】
【氏名】横山 武志
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆司
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-198966(JP,A)
【文献】特開平11-240815(JP,A)
【文献】特開2000-178111(JP,A)
【文献】特開2002-265312(JP,A)
【文献】特開2000-248201(JP,A)
【文献】特開平09-067546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
C09D 4/00,5/00,7/63
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示す含硫黄トリアジン環化合物と、
酸性基を有する重合性モノマーと、
シランカップリング剤と、を含む歯科用プライマーであって、
前記重合性モノマーの含有割合は、前記含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、1.8質量部以下であり、
前記シランカップリング剤の含有割合は、前記含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、21質量部以上であり、
前記歯科用プライマーにおける前記含硫黄トリアジン環化合物および前記重合性モノマーの総和の含有割合は、1.0質量%以下であることを特徴とする、歯科用プライマー。
【化1】
(一般式(1)中、R1は、HまたはCH3を示す。R2は、炭素数1~20のアルキレン基を示す。R3は、H、炭素数1~8のアルキル基またはアリール基を示す。Xは、COO、OCO、CONH、COS、SCO、CSS、S、O、または、下記化学式(2)に示す原子団を示す。Yは、O、SまたはNを示す。kは、0または1を示す。mは、0または1を示す。nは、YがOまたはSのときは0、YがNのときは1を示す。R4およびR5は、H、金属イオンまたはアンモニウムイオンを示す。R4およびR5は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。)
【化2】
【請求項2】
前記重合性モノマーは、リン酸基を有する重合性モノマーを含み、
前記リン酸基を有する重合性モノマーの含有割合は、前記含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、1.0質量部以上であることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用プライマー。
【請求項3】
前記シランカップリング剤の含有割合は、前記含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、25質量部以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の歯科用プライマー。
【請求項4】
前記歯科用プライマーにおける前記含硫黄トリアジン環化合物および前記重合性モノマーの総和の含有割合は、0.7質量%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用プライマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用プライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕(虫歯)の歯科治療において、う蝕部分を除去した後、クラウンおよびインレーなどの修復材料を、歯科用接着剤により歯牙に接着することが知られている。そのような歯科治療において、修復材料を歯牙に接着する前に、修復材料の表面を歯科用プライマーにより処理して、歯牙に対する修復材料の接着性の向上を図ることが検討されている。
【0003】
そのような歯科用プライマーは、通常、修復材料の材質に応じた表面改質のために、歯科治療において、修復材料の材質に適した歯科用プライマーが選択される。
【0004】
例えば、含硫黄トリアジン環化合物と、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP)と、シランカップリング剤とを含有し、MDPの含有割合が、含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、2.0質量部であり、シランカップリング剤の含有割合が、含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、10質量部であり、含硫黄トリアジン環化合物およびMDPの総和の含有割合が、全体に対して1.4質量%である金属材料用接着性組成物が提案されている(例えば、特許文献1の実施例10~12参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-198966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、修復材料の材質に関わらず、修復材料に対する接着性を確保できる歯科用プライマーが望まれている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の金属材料用接着性組成物は、金属材料からなる修復材料に対する接着性を確保できる一方、セラミックスからなる修復材料に対する接着性を十分に確保できないという不具合がある。また、特許文献1に記載の金属材料用接着性組成物は、含硫黄トリアジン環化合物に起因する臭気を有しており、臭気の低減が望まれている。
【0008】
本発明は、修復材料の材質に関わらず、修復材料に対する接着性の向上を図ることができながら、臭気を低減することができる歯科用プライマーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、下記一般式(1)に示す含硫黄トリアジン環化合物と、酸性基を有する重合性モノマーと、シランカップリング剤と、を含む歯科用プライマーであって、前記重合性モノマーの含有割合は、前記含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、2.0質量部未満であり、前記シランカップリング剤の含有割合は、前記含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、21質量部以上であり、前記歯科用プライマーにおける前記含硫黄トリアジン環化合物および前記重合性モノマーの総和の含有割合は、1.0質量%以下である、歯科用プライマーを含む。
【0010】
【化1】
【0011】
(一般式(1)中、Rは、HまたはCHを示す。Rは、炭素数1~20のアルキレン基を示す。Rは、H、炭素数1~8のアルキル基またはアリール基を示す。Xは、COO、OCO、CONH、COS、SCO、CSS、S、O、または、下記化学式(2)に示す原子団を示す。Yは、O、SまたはNを示す。kは、0または1を示す。mは、0または1を示す。nは、YがOまたはSのときは0、YがNのときは1を示す。RおよびRは、H、金属イオンまたはアンモニウムイオンを示す。RおよびRは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。)。
【0012】
【化2】
【0013】
本発明[2]は、前記重合性モノマーは、リン酸基を有する重合性モノマーを含み、前記リン酸基を有する重合性モノマーの含有割合は、前記含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、1.0質量部以上である、上記[1]に記載の歯科用プライマーを含む。
【0014】
本発明[3]は、前記シランカップリング剤の含有割合は、前記含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、25質量部以上である、上記[1]または[2]に記載の歯科用プライマーを含む。
【0015】
本発明[4]は、前記歯科用プライマーにおける前記含硫黄トリアジン環化合物および前記重合性モノマーの総和の含有割合は、0.7質量%以下である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の歯科用プライマーを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歯科用プライマーは、酸性基を有する重合性モノマーの含有割合が上記上限未満であり、シランカップリング剤の含有割合が上記下限以上であり、かつ、含硫黄トリアジン環化合物および重合性モノマーの総和の含有割合が上記上限以下であるので、修復材料に対する接着性の向上を図ることができながら、臭気を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の歯科用プライマーは、必須成分として、含硫黄トリアジン環化合物と、酸性基を有する重合性モノマー(以下、酸性基含有重合性モノマーとする。)と、シランカップリング剤とを含有する。
【0018】
(1)含硫黄トリアジン環化合物
含硫黄トリアジン環化合物は、下記一般式(1)により示される。
【0019】
【化1】
【0020】
(一般式(1)中、Rは、HまたはCHを示す。Rは、炭素数1~20のアルキレン基を示す。Rは、H、炭素数1~8のアルキル基またはアリール基を示す。Xは、COO、OCO、CONH、COS、SCO、CSS、S、O、または、下記化学式(2)に示す原子団を示す。Yは、O、SまたはNを示す。kは、0または1を示す。mは、0または1を示す。nは、YがOまたはSのときは0、YがNのときは1を示す。RおよびRは、H、金属イオンまたはアンモニウムイオンを示す。RおよびRは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。)。
【0021】
【化2】
【0022】
一般式(1)において、Rは、水素原子(H)またはメチル基(CH)を示し、好ましくは、Hを示す。
【0023】
一般式(1)において、Rは、炭素数1~20のアルキレン基を示し、好ましくは、炭素数1~8のアルキレン基を示し、より好ましくは、炭素数1~3のアルキレン基を示し、さらに好ましくは、メチレン基を示す。
【0024】
一般式(1)において、Rは、水素原子(H)、炭素数1~8のアルキル基およびアリール基からなる群から選択される1種を示し、好ましくは、炭素数1~8のアルキル基を示し、より好ましくは、プロピル基を示す。
【0025】
一般式(1)において、Xは、COO、OCO、CONH、COS、SCO、CSS、S、Oおよび上記化学式(2)に示す原子団からなる群から選択される1種を示し、好ましくは、上記化学式(2)に示す原子団を示す。
【0026】
一般式(1)において、Yは、酸素原子(O)、硫黄原子(S)および窒素原子(N)からなる群から選択される1種を示し、好ましくは、Nを示す。
【0027】
一般式(1)において、kは、0または1を示し、好ましくは、1を示す。
【0028】
一般式(1)において、mは、0または1を示し、好ましくは、1を示す。
【0029】
一般式(1)において、RおよびRは、水素原子(H)、金属イオンおよびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種を示す。
【0030】
金属イオンとして、例えば、アルカリ金属イオン(例えば、Li、Na、Kなど)、アルカリ土類金属イオン(例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+など)などが挙げられる。
【0031】
金属イオンのなかでは、好ましくは、アルカリ金属イオンが挙げられ、さらに好ましくは、Naが挙げられる。
【0032】
一般式(1)において、RおよびRは、好ましくは、水素原子(H)を示す。
【0033】
一般式(1)において、RおよびRは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよいが、好ましくは、互いに同じである。
【0034】
一般式(1)においてRおよびRがともに水素原子である場合、含硫黄トリアジン環化合物のなかには、トリアジンジチオール型(下記ii)において、互変異性体としてジチオン型(下記i)が存在する。言い換えれば、一般式(1)においてRおよびRがともに水素原子である場合、含硫黄トリアジン環化合物は、下記iiに示す環を有するトリアジンジチオール型と、下記iに示す環を有するジチオン型との両方を包含する。
【0035】
【化3】
【0036】
このような含硫黄トリアジン環化合物として、具体的には、特開2000-198966号公報の[0023]段落~[0027]段落に例示される含硫黄トリアジン環化合物などが挙げられる。
【0037】
含硫黄トリアジン環化合物は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0038】
含硫黄トリアジン環化合物のなかでは、好ましくは、下記化学式(4)に示す含硫黄トリアジン環化合物が挙げられる。
【0039】
【化4】
【0040】
歯科用プライマーにおける含硫黄トリアジン環化合物の含有割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.2質量%以上、例えば、2.0質量%以下、好ましくは、0.5質量%以下、より好ましくは、0.3質量%以下である。
【0041】
(2)酸性基含有重合性モノマー
酸性基含有重合性モノマーは、重合可能なモノマーであって、酸性基を有する。酸性基は、遊離の酸性基、および/または、酸無水物を形成している酸性基を含む。
【0042】
酸性基(遊離の酸性基、および/または、酸無水物を形成している酸性基)は、例えば、酸性基含有重合性モノマーの分子中において、一方の末端に位置する。
【0043】
遊離の酸性基として、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基などが挙げられる。このような酸性基は、酸性基含有重合性モノマーの分子中において、1種のみ含有されてもよく、2種以上併有されてもよい。言い換えれば、酸性基は、カルボキシ基、リン酸基およびスルホ基の群から選択される少なくとも1種の官能基である。また、酸性基の官能基数は、1以上であれば特に制限されない。
【0044】
このような酸性基は、酸無水物を形成することができる。酸無水物は、2つの酸性基が脱水縮合することにより形成される。なお、以下において、酸無水物を形成している酸性基を酸性基の酸無水物とする。
【0045】
酸性基の酸無水物として、例えば、カルボキシ基の酸無水物、リン酸基の酸無水物、スルホ基の酸無水物などが挙げられる。酸性基の酸無水物は、酸性基含有重合性モノマーの分子中において、1種のみ含有されてもよく、2種以上併有されてもよい。
【0046】
このような遊離の酸性基および酸性基の酸無水物のなかでは、好ましくは、遊離のリン酸基、および、カルボキシ基の酸無水物が挙げられ、より好ましくは、遊離のリン酸基が挙げられる。
【0047】
また、酸性基含有重合性モノマーは、好ましくは、重合性基と、結合基とをさらに含む。
【0048】
重合性基は、例えば、酸性基含有重合性モノマーの分子中において、酸性基と反対側の末端(他方の末端)に位置する。
【0049】
重合性基は、エチレン性不飽和二重結合を含む。重合性基として、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミド基、ビニル基、シアン化ビニル基などが挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられる。なお、(メタ)アクリロイルとは、メタクリロイルおよび/またはアクリロイルを含む。
【0050】
結合基は、重合性基と酸性基とを結合する。つまり、結合基は、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基と、酸性基とを結合する。
【0051】
結合基は、アルキレン基を少なくとも含む。アルキレン基の炭素数は、例えば、1以上、好ましくは、2以上、より好ましくは、4以上、例えば、30以下、好ましくは、18以下である。
【0052】
結合基は、アルキレン基からなってもよく、アルキレン基に加えて他の原子団を含んでもよい。
【0053】
具体的には、結合基がアルキレン基からなる場合、アルキレン基の一方の末端は、酸性基と直接結合し、アルキレン基の他方の末端は、重合性基と直接結合する。この場合、酸性基含有重合性モノマーは、好ましくは、遊離の酸性基を含む。
【0054】
また、結合基がアルキレン基に加えて他の原子団を含む場合、アルキレン基の一方の末端は、他の原子団を介して酸性基と結合し、アルキレン基の他方の末端は、重合性基と直接結合する。この場合、酸性基含有重合性モノマーは、好ましくは、2つ以上の遊離の酸性基、または、1つ以上の酸性基の酸無水物を有する。
【0055】
他の原子団として、例えば、芳香族環および連結基が挙げられる。
【0056】
芳香族環には、2つ以上(好ましくは2つ)の遊離の酸性基、または、1つ以上(好ましくは1つ)の酸性基の酸無水物が結合される。芳香族環として、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環などの炭素数6~18の芳香族環が挙げられる。芳香族環のなかでは、好ましくは、ベンゼン環が挙げられる。
【0057】
連結基は、アルキレン基の一方の末端と芳香族環とを結合する。連結基として、例えば、カルボニル基、アミド基などが挙げられ、好ましくは、カルボニル基が挙げられる。
【0058】
このような酸性基含有重合性モノマーの分子量は、例えば、70以上、好ましくは、200以上、例えば、600以下、好ましくは、400以下である。
【0059】
また、酸性基含有重合性モノマーは、含有する酸性基の種類によって分類することができる。
【0060】
酸性基含有重合性モノマーとして、例えば、カルボキシ基および/またはカルボキシ基の酸無水物を含有するカルボキシ型重合性モノマー、リン酸基および/またはリン酸基の酸無水物を含有するリン酸型重合性モノマー、スルホ基および/またはスルホ基の酸無水物を含有するスルホ型重合性モノマーなどが挙げられる。酸性基含有重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0061】
酸性基含有重合性モノマーのなかでは、好ましくは、カルボキシ型重合性モノマーおよびリン酸型重合性モノマーが挙げられる。
【0062】
カルボキシ型重合性モノマーとして、例えば、特開2006-347943号公報の[0043]段落に例示されるカルボキシル基含有重合性単量体などが挙げられる。カルボキシ型重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0063】
カルボキシ型重合性モノマーのなかでは、好ましくは、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物が挙げられ、より好ましくは、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物(以下、4-METAとする。)が挙げられる。
【0064】
4-METAは、分子の一方の末端に位置するカルボキシ基の酸無水物と、分子の他方の末端に位置するメタクリロイルオキシ基(重合性基)と、カルボキシ基の酸無水物が結合するベンゼン環(結合基)と、ベンゼン環に結合するカルボニル基(結合基)と、カルボニル基とメタクリロイルオキシ基とを結合するエチレン基(結合基)とからなる。
【0065】
リン酸型重合性モノマーとして、例えば、特開2006-347943号公報の[0045]段落に例示されるリン酸基含有重合性単量体などが挙げられる。リン酸型重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0066】
リン酸型重合性モノマーのなかでは、好ましくは、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェートが挙げられ、より好ましくは、10-メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェート(以下、MDPとする。)が挙げられる。
【0067】
MDPは、分子の一方の末端に位置する遊離のリン酸基と、分子の他方の末端に位置するメタクリロイルオキシ基(重合性基)と、リン酸基とメタクリロイルオキシ基とを結合するデシレン基(結合基)とからなる。
【0068】
このような酸性基含有重合性モノマーは、好ましくは、リン酸型重合性モノマーを含み、より好ましくは、リン酸型重合性モノマーからなる。
【0069】
酸性基含有重合性モノマーがリン酸型重合性モノマーを含有する場合、リン酸型重合性モノマーの含有割合は、含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、例えば、0.3質量部以上、好ましくは、0.5質量部以上、より好ましくは、1.0質量部以上、2.0質量部未満、好ましくは、1.5質量部以下である。
【0070】
リン酸型重合性モノマーの含有割合が上記下限以上であると、ジルコニアセラミックスに対する歯科用プライマーの接着性の向上を確実に図ることができる。
【0071】
酸性基含有重合性モノマーの含有割合は、含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、好ましくは、1.0質量部以上、より好ましくは、1.3質量部以上、2.0質量部未満、好ましくは、1.8質量部以下、より好ましくは、1.5質量部以下である。
【0072】
歯科用プライマーにおける酸性基含有重合性モノマーの含有割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.2質量%以上、より好ましくは、0.3質量%以上、例えば、1.0質量%以下、好ましくは、0.8質量%以下、より好ましくは、0.5質量%以下である。
【0073】
酸性基含有重合性モノマーの含有割合が上記下限以上であると、種々の材料に対する歯科用プライマーの接着性の向上を図ることができる。酸性基含有重合性モノマーの含有割合が上記上限以下であると、歯科用プライマーの臭気の低減を図ることができる。
【0074】
また、歯科用プライマーにおける含硫黄トリアジン環化合物および酸性基含有重合性モノマーの総和の含有割合は、例えば、0.2質量%以上、好ましくは、0.4質量%以上、1.0質量%以下、好ましくは、0.7質量%以下である。
【0075】
含硫黄トリアジン環化合物および酸性基含有重合性モノマーの総和の含有割合が上記下限以上であれば、種々の材料に対する歯科用プライマーの接着性の向上を確実に図ることができる。含硫黄トリアジン環化合物および酸性基含有重合性モノマーの総和の含有割合が上記上限以下であると、歯科用プライマーの臭気の低減を確実に図ることができる。
【0076】
(3)シランカップリング剤
シランカップリング剤として、例えば、分子内にアルコキシシリル基を有する重合性モノマーが挙げられる。アルコキシシリル基を有する重合性モノマーとして、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、アリルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、2-スチリルエチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン塩酸塩、トリメトキシシリルプロピルアリルアミンなどが挙げられる。
【0077】
シランカップリング剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0078】
シランカップリング剤のなかでは、好ましくは、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられ、より好ましくは、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0079】
シランカップリング剤の含有割合は、含硫黄トリアジン環化合物1.0質量部に対して、21質量部以上、好ましくは、25質量部以上、例えば、40質量部以下、好ましくは、30質量部以下である。
【0080】
歯科用プライマーにおけるシランカップリング剤の含有割合は、例えば、2質量%以上、好ましくは、3質量%以上、例えば、15質量%以下、好ましくは、10質量%以下、より好ましくは、8質量%以下である。
【0081】
シランカップリング剤の含有割合が上記下限以上であると、歯科用プライマーのセラミックスに対する接着性の向上を確実に図ることができる。シランカップリング剤が上記上限以下であると、セラミックスの被着面に対し適量なシランカップリング剤の塗布によって接着性の向上を確実に図ることができる。
【0082】
(4)任意成分
歯科用プライマーは、任意成分として、好ましくは、上記した酸性基含有重合性モノマー以外の他の重合性モノマーと、溶媒とをさらに含有する。つまり、歯科用プライマーは、モノマー成分として、酸性基含有重合性モノマーのみを含有してもよく、酸性基含有重合性モノマーおよび他の重合性モノマーを含有してもよい。
【0083】
(4-1)他の重合性モノマー
他の重合性モノマーは、分子中に上記の重合性基を有する一方、上記の酸性基を有しない。
【0084】
その他の重合性モノマーの分子量は、例えば、70以上、好ましくは、100以上、例えば、1000以下、好ましくは、700以下である。
【0085】
その他の重合性モノマーとして、例えば、一官能(メタ)アクリレート、二官能(メタ)アクリレート、三官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0086】
一官能(メタ)アクリレートとして、例えば、アルキルモノ(メタ)アクリレート(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなど)、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート(例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなど)、アリールモノ(メタ)アクリレート(例えば、ベンジル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
【0087】
二官能(メタ)アクリレートとして、例えば、アルキレンジ(メタ)アクリレート(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなど)、ウレタン結合を有するウレタンジ(メタ)アクリレート(例えば、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレートなど)、オキシアルキレンジ(メタ)アクリレート(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなど)、芳香環含有ジ(メタ)アクリレート(例えば、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
【0088】
三官能(メタ)アクリレートとして、例えば、イソシアヌレート環を有するイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート(例えば、トリス(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなど)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0089】
また、他の重合性モノマーには、分子中に水酸基を有する水酸基含有重合性モノマー(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなど)が含まれる。
【0090】
他の重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0091】
他の重合性モノマーのなかでは、好ましくは、一官能(メタ)アクリレートが挙げられ、より好ましくは、アルキルモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、メチルメタクリレート(以下、MMAとする。)が挙げられる。
【0092】
他の重合性モノマーの含有割合は、モノマー成分(酸性基含有重合性モノマーおよび他の重合性モノマーの総和)を100質量%としたときに、例えば、90質量%以上、好ましくは、95質量%以上、例えば、99.9質量%以下である。
【0093】
歯科用プライマーにおける他の重合性モノマーの含有割合は、例えば、30質量%以上、好ましくは、40質量%以上、より好ましくは、60質量%以上、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下である。
【0094】
(4-2)溶媒
溶媒は、上記した含硫黄トリアジン環化合物を溶解可能である。溶媒として、例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類など)が挙げられる。溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。溶媒のなかでは、好ましくは、ケトン類が挙げられ、より好ましくは、アセトンが挙げられる。
【0095】
溶媒の含有割合は、含硫黄トリアジン環化合物1質量部に対して、例えば、50質量部以上、好ましくは、60質量部以上、例えば、150質量部以下、好ましくは、130質量部以下、より好ましくは、100質量部以下である。
【0096】
歯科用プライマーにおける溶媒の含有割合は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下、より好ましくは、20質量%以下である。
【0097】
(4-3)重合禁止剤
また、歯科用プライマーは、任意成分として、重合禁止剤をさらに含有することができる。
【0098】
重合禁止剤は、モノマー成分の意図しない重合反応を抑制できる化合物であって、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジンなどが挙げられる。重合禁止剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0099】
重合禁止剤のなかでは、好ましくは、ジブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTとする。)、および、ヒドロキノンモノメチルエーテル(以下、MEHQとする。)が挙げられ、好ましくは、BHTおよびMEHQの併用が挙げられる。
【0100】
重合禁止剤の含有割合は、モノマー成分(酸性基含有重合性モノマーおよび他の重合性モノマーの総和)100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.03質量部以上、例えば、1.0質量部以下、好ましくは、0.2質量部以下、より好ましくは、0.08質量部以下である。
【0101】
歯科用プライマーにおける重合禁止剤の含有割合は、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.03質量%以上、例えば、0.5質量%以下、好ましくは、0.1質量%以下、より好ましくは、0.05質量%以下である。
【0102】
(4-4)その他の添加剤
さらに、歯科用プライマーは、任意成分として、その他の添加剤を適宜の割合で含有することができる。その他の添加剤として、例えば、光重合開始剤、還元剤、フィラーなどが挙げられる。
【0103】
(5)二液型プライマー
このような歯科用プライマーは、例えば、上記した含硫黄トリアジン環化合物と、上記した酸性基含有重合性モノマーとを含有するA液と、上記したシランカップリング剤を含有するB剤とを別々に備える二液型プライマー(プライマーキット)として調製できる。
【0104】
A液は、上記した含硫黄トリアジン環化合物および酸性基含有重合性モノマーに加えて、好ましくは、上記した重合禁止剤と、上記した他の重合性モノマーと、上記した溶媒と、を含有することができる。
【0105】
A液における含硫黄トリアジン環化合物の含有割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.3質量%以上、例えば、1.0質量%以下、好ましくは、0.8質量%以下、より好ましくは、0.6質量%以下である。
【0106】
A液における酸性基含有重合性モノマーの含有割合は、例えば、0.2質量%以上、好ましくは、0.5質量%以上、例えば、2.0質量%以下、好ましくは、1.5質量%以下、より好ましくは、1.0質量%以下である。
【0107】
A液における重合禁止剤の含有割合は、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.05質量%以上、例えば、0.3質量%以下、好ましくは、0.1質量%以下である。
【0108】
A液における他の重合性モノマーの含有割合は、例えば、0質量%以上、好ましくは、50質量%以上、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下である。
【0109】
A液における溶媒の含有割合は、例えば、5質量%以上、好ましくは、15質量%以上、例えば、98質量%以下、好ましくは、45質量%以下、より好ましくは、35質量%以下である。
【0110】
B液は、上記したシランカップリング剤に加えて、好ましくは、上記した他の重合性モノマーをさらに含有する。
【0111】
B液におけるシランカップリング剤の含有割合は、例えば、3質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、30質量%以下、好ましくは、20質量%以下、より好ましくは、15質量%以下である。
【0112】
B液における他の重合性モノマーの含有割合は、例えば、70質量%以上、好ましくは、80質量%以上、より好ましくは、85質量%以上、例えば、97質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。
【0113】
このような二液型プライマーは、A液およびB液を使用直前に混合して、例えば、修復材料(例えば、クラウン、インレーなど)に塗布される。
【0114】
修復材料の材料として、例えば、金属(例えば、金合金、金銀パラジウム合金、コバルトクロム合金など)、セラミックス(例えば、ジルコニア、長石質、二ケイ酸リチウム、アルミナなど)、コンポジットレジン、セラミックス系CAD/CAM用ブロック、コンポジット系CAD/CAM用ブロックなどが挙げられる。
【0115】
(6)作用効果
上記した歯科用プライマーによれば、酸性基含有重合性モノマーの含有割合が上記上限未満であり、シランカップリング剤の含有割合が上記下限以上であり、かつ、含硫黄トリアジン環化合物および酸性基含有重合性モノマーの総和の含有割合が上記上限以下である。そのため、歯科用プライマーの修復材料に対する接着性の向上を図ることができながら、歯科用プライマーの臭気を低減することができる。
【実施例
【0116】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0117】
<実施例1~5および比較例1~4>
1.A液の調製
表1の処方に従って、含硫黄トリアジン環化合物と、酸性基含有重合性モノマーと、重合禁止剤とを、溶媒およびその他の重合性モノマーに溶解または分散して、A液を調製した。
【0118】
2.B液の調製
表1の処方に従って、シランカップリング剤を、その他の重合性モノマーに溶解または分散して、B液を調製した。
【0119】
<評価>
1.臭気試験
実施例に沿って調製したA液およびB液を多層の高密度ポリエチレン容器に5mL分注した後、蓋をして、65℃オーブン中に63日間静置した。加熱後のA液およびB液をダッペン内で混合後、臭気の確認を被験者5名にて官能試験を実施した。
【0120】
そして、臭気を以下の基準により評価した。その結果を表1に示す。なお、臭気によって不快感を及ぼさない「〇」および「△」の評価を使用可能な基準とした。
○:5名全員が臭気なしと判断。
△:5名中1名または2名が臭気ありと判断。
×:5名中3名以上が臭気ありと判断。
【0121】
2.初期接着強さ測定
2.1 金合金
被着体として金合金を準備した。金合金の被着面を、シリコンカーバイド研磨紙で、#600、#1000、#2000まで仕上げ、研磨した。研磨後の金合金を水中に浸漬して10分間超音波洗浄した後、エアー乾燥を実施した。被着面には、接着面積を規定するための直径4.8mmの穴を有するテープを貼付した。
【0122】
次いで、各実施例および各比較例において調製されたA剤およびB剤を混合したプライマーを、穴から露出する被着面に塗布して、エアー乾燥を実施した。その後、被着面に接着性レジンとしてのスーパーボンド(サンメディカル社製)を筆積し、50μmアルミナサンドブラスト処理を施したステンレス棒を接着した。
【0123】
ステンレス棒を接着したサンプルを室温(25℃)下にて30分静置後、接着耐久性の評価のために5℃と55℃の水中に各20秒間交互に繰り返し浸漬する熱サイクル試験を10,000回実施した。オートグラフ(AG-IS、島津製作所社製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minで引張破壊強度を測定し、面積から接着強さを算出したサンプル数5の平均値を算出した。
【0124】
そして、金合金に対する初期接着強さを以下の基準により評価した。その結果を表1に示す。
○:初期接着強さが25MPaを超過
△:初期接着強さが20MPaを超過25MPa以下
×:初期接着強さが20MPa以下
2.2 長石質セラミックス
被着体を長石質セラミックスに変更した点、および、熱サイクル試験の実施回数を5,000回に変更した点以外は、金合金に対する初期接着強さの測定と同様にして、長石質セラミックスに対する初期接着強さを算出した。
【0125】
そして、長石質セラミックスに対する初期接着強さを以下の基準により評価した。その結果を表1に示す。
○:初期接着強さが30MPaを超過
△:初期接着強さが25MPaを超過30MPa以下
×:初期接着強さが25MPa以下
2.3 ジルコニアセラミックス
被着体をジルコニアセラミックスに変更した点以外は、金合金に対する初期接着強さの測定と同様にして、ジルコニアセラミックスに対する初期接着強さを算出した。
【0126】
そして、ジルコニアセラミックスに対する初期接着強さを以下の基準により評価した。その結果を表1に示す。
○:初期接着強さが30MPaを超過
△:初期接着強さが25MPaを超過30MPa以下
×:初期接着強さが25MPa以下
【0127】
【表1】
【0128】
表1中の略号の詳細を下記する。
【0129】
VTD:上記化学式(4)に示す含硫黄トリアジン環化合物
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェート
4-META:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸の無水物
MMA:メチルメタクリレート
MEHQ:ヒドロキノンモノメチルエーテル
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
γ-MPTS:3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン。