(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】薄片および薄片由来繊維状物を含む集合物、中綿、ならびにこれを用いた枕および敷物
(51)【国際特許分類】
A47G 9/10 20060101AFI20231130BHJP
A47G 27/02 20060101ALI20231130BHJP
A47C 27/12 20060101ALI20231130BHJP
A47C 27/22 20060101ALI20231130BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20231130BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20231130BHJP
A61L 9/013 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
A47G9/10 G
A47G9/10 C
A47G27/02 103Z
A47C27/12 Z
A47C27/22 Z
A61L9/01 Q
A61L9/00 Z
A61L9/013
(21)【出願番号】P 2019238951
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-08-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】奥平 壮臨
(72)【発明者】
【氏名】前田 紗苗
(72)【発明者】
【氏名】早川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】薄井 義治
【審査官】高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3085203(JP,U)
【文献】実開昭49-046924(JP,U)
【文献】特開2005-103112(JP,A)
【文献】特開2010-270424(JP,A)
【文献】特開2018-117598(JP,A)
【文献】特開2007-105427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 9/10
A47G 27/02
A47C 27/12
A47C 27/22
A61L 9/01
A61L 9/00
A61L 9/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料の粉末状物
が混合されて含有
された合成樹脂
からなる、フィルムまたはシートを切断および/または破砕して得られる薄片および薄片由来繊維状物を含み、
前記薄片は、5μ~100μmの厚さを有し、
前記薄片由来繊維状物は、前記薄片が捩れて、及び/又は丸まってなるものであり、
前記樹木は、ヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科クロベ属、ヒノキ科ビャクシン属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、マツ科ヒマラヤスギ属、マツ科トウヒ属、マツ科マツ属、マツ科カラマツ属、マツ科ツガ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、イチイ科カヤ属、およびヒノキ科アスナロ属から選ばれる少なくとも1種である、
中綿用集合物。
【請求項2】
前記薄片及び前記薄片由来繊維状物に加えて、一部が薄片部であり一部が繊維状部である中間物を含む、請求項1に記載の
中綿用集合物。
【請求項3】
前記集合物に含まれる前記薄片の少なくとも一部において、前記薄片の表面で前記材料の粉末状物の一部が露出し、または合成樹脂の薄い膜で覆われている、請求項1または2に記載の
中綿用集合物。
【請求項4】
前記集合物に含まれる前記薄片の少なくとも一部において、前記薄片の表面で前記薄片を構成する合成樹脂と前記材料の粉末状物との間に隙間が形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の
中綿用集合物。
【請求項5】
前記材料は、少なくとも樹木の葉に由来するものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の
中綿用集合物。
【請求項6】
前記材料の粉末状物は、消臭および/または芳香機能を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の
中綿用集合物。
【請求項7】
前記材料の粉末状物は、合成樹脂100質量部に対して0.01~10質量部の量で、合成樹脂に含有されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の
中綿用集合物。
【請求項8】
前記合成樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂である、請求項1~7のいずれか1項に記載の
中綿用集合物。
【請求項9】
前記材料の粉末状物の平均粒子径が前記薄片の厚さよりも小さい、請求項1~7のいずれか1項に記載の
中綿用集合物。
【請求項10】
ヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科クロベ属、ヒノキ科ビャクシン属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、マツ科ヒマラヤスギ属、マツ科トウヒ属、マツ科マツ属、マツ科カラマツ属、マツ科ツガ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、イチイ科カヤ属、およびヒノキ科アスナロ属から選ばれる少なくとも1種の樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料の粉末状物
が混合されて含有
された合成樹脂
からなる、厚さが5μm~100μmのフィルムまたはシートを作製する工程、
前記シートを切断および/または破砕して、薄片、および前記薄片が捩れて、及び/又は丸まってなる薄片由来繊維状物を得る工程
を含む、薄片および薄片由来繊維状物を含む
中綿用集合物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の
中綿用集合物を含む、中綿。
【請求項12】
請求項11に記載の中綿を含む、枕。
【請求項13】
請求項11に記載の中綿を第一層とし、他の中綿を第二層とする積層体を中綿として含む、枕。
【請求項14】
請求項11に記載の中綿を含む、敷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄片および薄片由来繊維状物を含む集合物、中綿、ならびにこれを用いた枕および敷物に関する。
【背景技術】
【0002】
枕等に用いられる中綿として種々の構成のものが提案されている。例えば、特許文献1は合成樹脂フィルムの2~20メッシュの粒度のカールをつけた粉砕物の全部あるいは一部を枕の中綿として用いることを提案している。特許文献2は、熱可塑性プラスチックスのフィルム又はシートを破砕して得られる無定形破砕物、および/または熱可塑性プラスチックス短線条を枕の填め物として用いることを提案している。特許文献3は、合成樹脂のフィルム小片であって、ランダムに皺および折りたたみ部分を無数に有するように付与したものを、枕の芯材として使用することを提案している。特許文献4は、プラスチック素材にそのプラスチックの溶融温度よりも高い温度に耐える香料を混入して、プラスチック素材を溶融及び成形することにより得られる、シート状、帯状又は繊維状をなす発香体を枕本体に添設することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実願昭46-20945号(実開昭47-16715)のマイクロフィルム
【文献】実願昭47-88761号(実開昭49-46924)のマイクロフィルム
【文献】実願昭50-51168号(実開昭51-132213)のマイクロフィルム
【文献】実願昭61-1300号(実開昭62-113769)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人または動物の汗、皮脂、および生活臭等に起因して、または産業活動の結果として生じる臭いを比較的長期間にわたって緩和することができ、ならびに/あるいは芳香を生じさせる中綿として使用可能な薄片および薄片由来繊維状物を含む集合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、一実施形態として、樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料の粉末状物を含有する合成樹脂を含む薄片および薄片由来繊維状物を含み、
前記薄片は、5μ~100μmの厚さを有し、
前記薄片由来繊維状物は、前記薄片が捩れて、及び/又は丸まってなるものである、
集合物を提供する。
【0006】
本開示はまた、別の実施形態として、前記薄片及び前記薄片由来繊維状物に加えて、一部が薄片部であり一部が繊維状部である中間物を含む、集合物を提供する。
【0007】
本開示はまた、別の実施形態として、前記薄片および薄片由来繊維状物、および場合により前記中間物を含む集合物を含む中綿を提供する。
【0008】
本開示はまた、さらに別の実施形態として、前記中綿を含む枕を提供し、さらにまた別の実施形態として、前記中綿を含む敷物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施形態によれば、樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料が、薄片および薄片由来繊維状物を構成する合成樹脂に含まれる。この材料は固体状物であって、材料を構成する木質部および/または葉の部分は不揮発性であり、材料に含まれる精油等の成分は揮発しにくく、当該材料を含む合成樹脂を含む薄片および薄片由来繊維状物を含む集合物は、長期間にわたって当該材料が奏する機能(例えば消臭効果)を発揮できる。したがって、この集合物は長期間の使用が予定されている製品に用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態の集合物に含まれる薄片由来繊維状物、薄片、および中間物の形状の例を示す平面図
【
図2】薄片由来繊維状物の見かけ長さ、および中間物の繊維状部の見かけ長さを示す平面図
【
図3】本開示の集合物を製造するのに用いるペレットを製造する押出機の例を示す模式図
【
図4】実施例1の集合物に含まれる薄片の表面を撮影したSEM像
【
図5】実施例1の集合物に含まれる薄片の表面を撮影したSEM像
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の一実施形態に至った経緯等)
枕や敷物等は人または動物の汗、皮脂または生活臭等に触れやすい物品であり、かつ長期間にわたって使用されるものであるため、汗、皮脂または生活臭等それ自体、あるいはこれらの変質に起因して臭いを放ちやすいものである。特に、枕は毎日使用するものであり、頭皮と長時間接触するため臭いを放ちやすく、この臭いが安眠の妨げとなることもある。臭いを解消するためには、例えば、枕や敷物を覆うカバーを頻繁に洗濯する等の対策が一般にとられる。しかしながら、カバーを洗濯するだけでは枕等の内部に浸み込んだ汗等に起因する臭いを取り除くことはできない。
【0012】
あるいは、例えば、特許文献4に記載の発香体を用い、芳香によって悪臭をマスキングすることも臭いの問題を解決する有用な方法である。しかしながら、同文献に記載の発香体は精油を混入してなるものであり、精油は比較的短時間で揮発するため、枕や敷物等の使用期間に比して、消臭効果が得られる期間(消臭効果の持続時間)が短いという問題がある。
【0013】
そこで、本発明者らは、枕等に用いたときに比較的長期間にわたって汗等の臭いを軽減することができる中綿の構成を検討し、消臭効果を奏する材料として樹木の木質部および/または葉から精油等を除去した材料に着目した。この材料は不揮発性であって、比較的長期間消臭効果を発揮し、また、比較的粒径の小さな粉体とすることもできる。また、特許文献1ないし3等に開示されているように、合成樹脂からなるフィルムまたはシートを薄片に加工した形態のものが枕等の中綿として使用できることが知られている。本発明者らは、この薄片に前記特定の材料の粉体を含有させることで、消臭効果を長期間示す中綿が得られることを見出し、本実施形態に至った。また、当該特定の材料の粉体は、精油および水分の少なくとも一部が除去された天然由来の材料であり、森林で感じる香りを適度に放出し得る。よって、本実施形態の中綿を枕等に用いられても、当該材料からの香りが過度に強くなりにくく、利用者に対し、快適な睡眠環境または室内環境をもたらす。
【0014】
(精油および水分の少なくとも一部が除去された材料)
本開示の一実施形態は、樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料を含有する合成樹脂を含む、薄片および薄片由来繊維状物を含む集合物である。まず、この材料について説明する。
本実施形態で用いる材料は、樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部を除去することにより得られるものであり、精油および水分の少なくとも一部を取り出した後の残渣(または残留物)とも言えるものである。したがって、当該材料においては、それに含まれる液体(一般には、精油および水分)の量が、生木に含まれる液体の量よりも少なく、生木と比較してより乾燥した状態のものであるが、精油等の残留物(残留油分)が通常存在し、この残留物が持続的な消臭及び/又は芳香機能に寄与すると考えられる。
【0015】
当該材料は、樹木の木質部および/または葉から精油および水分の少なくとも一部が除去されたものである。当該材料はいずれの方法で得られたものであってよく、例えば、伐採された樹木の木質部および/または葉を減圧下で、精油分(および水分)を蒸留により、除去(すなわち、抽出する)方法で得られたものであってよい。減圧下での蒸留はマイクロ波を照射しながら実施してよい。マイクロ波照射を行いながら減圧下で精油分(および水分)を蒸留、抽出する方法(以下、「減圧水蒸気蒸留法」という)は、マイクロ波が水分子を直接加熱する性質を利用して、素材中に元から含まれている水分のみで精油の抽出を行う方法である。減圧水蒸気蒸留法によって得られた当該材料は、粉砕されやすく、特に機械的な加工で粉砕されやすいため、粉末状物として用いるのに適している。減圧水蒸気蒸留法の詳細は、例えば、特開2015-160154号公報特許文献3および国際公開第WO2010/098440号パンフレットに記載されている。
【0016】
あるいは、樹木の木質部および/または葉から精油のみを少なくとも一部除去し、別の工程にて水分を除去する方法、または樹木の木質部および/または葉から精油および水分の少なくとも一部を除去し、別の工程にてさらに水分の少なくとも一部を除去する方法によって、本実施形態で使用する材料を得てもよい。樹木の木質部および/または葉に含まれる水分の一部は、これらを粉末状物に加工する前に又は加工している間に、乾燥処理を実施することにより、除去することもできる。
【0017】
本実施形態で用いる材料は、樹木の木質部、即ち、枝、幹および根のいずれか1つまたは複数に由来するものであってよく、あるいは樹木の葉に由来するものであってよく、あるいは樹木の木質部と葉の双方に由来するものであってよい。その意味で、「および/または」という用語が使用されている。樹木の木質部と葉の双方に由来する当該材料は、例えば、製材工程において樹木の幹から落とされた枝葉(枝に葉がついた状態のもの)を減圧水蒸気蒸留法による精油の抽出に付して得られるものであってよい。
【0018】
本実施形態で用いる材料は、少なくとも樹木の葉に由来するものであることがより好ましい。「少なくとも樹木の葉に由来する」とは、当該材料が樹木の葉に由来する成分または部分を含むことをいい、「少なくとも樹木の葉に由来する」材料は、樹木の木質部に由来する成分または部分をさらに含んでよい。当該材料が少なくとも樹木の葉に由来するものであることは、例えば光学顕微鏡で当該材料を観察したときに、葉緑体に由来する緑色または青色の部分が当該材料に含まれていることで確認することができる。当該材料が少なくとも樹木の葉に由来するものである場合には、モノテルペンやセスキテルペン等の成分が多く含まれるため好ましい。
【0019】
樹木は、例えば、ヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科クロベ属、ヒノキ科ビャクシン属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、マツ科ヒマラヤスギ属、マツ科トウヒ属、マツ科マツ属、マツ科カラマツ属、マツ科ツガ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、イチイ科カヤ属、およびヒノキ科アスナロ属から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0020】
ヒノキ科ヒノキ属の樹木としては、ヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、ローソンヒノキ、チャボヒバ、サワラ、クジャクヒバ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、イトヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、およびヒムロスギ等が挙げられる。ヒノキ科クロベ属の樹木としては、ニオイヒバ、およびネズコ等が挙げられる。ヒノキ科ビャクシン属の樹木としては、ハイビャクシン、ネズミサン、エンピツビャクシン、およびオキナワハイネズ等が挙げられる。ヒノキ科スギ属の樹木としては、スギ、アシウスギ、エンコウスギ、ヨレスギ、オウゴンスギ、セッカスギ、およびミドリスギ等が挙げられる。
【0021】
マツ科モミ属の樹木としては、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、およびノーブルファー等が挙げられる。マツ科トウヒ属の樹木としては、アカエゾマツ、およびトウヒ等が挙げられる。マツ科マツ属の樹木としては、アカマツ、ダイオウショウ、ストローブマツ、およびハイマツ等が挙げられる。マツ科カラマツ属の樹木としては、カラマツ等が挙げられる。マツ科ツガ属の樹木としては、ツガ等が挙げられる。フトモモ科ユーカリ属の樹木としては、ユーカリ、ギンマルバユーカリ、カマルドレンシス、およびレモンユーカリ等が挙げられる。コウヤマキ科コウヤマキ属の樹木としては、コウヤマキ等が挙げられる。イチイ科カヤ属の樹木としては、カヤ等が挙げられる。ヒノキ科アスナロ属の樹木としては、ヒバ、アスナロ、ヒノキアスナロ、およびホソバアスナロ等が挙げられる。
【0022】
特に好ましい樹木原料としては、ヒノキ科ヒノキ属の樹木である、ヒノキ、タイワンヒノキ、およびベイヒバ;ヒノキ科スギ属の樹木であるスギ;マツ科モミ属の樹木であるトドマツ、およびモミ;フトモモ科ユーカリ属の樹木であるユーカリ;コウヤマキ科コウヤマキ属の樹木であるコウヤマキ;ヒノキ科アスナロ属の樹木であるヒバが挙げられる。これらの樹木原料は、日本に多く分布しており、入手が容易であることから好ましく用いられる。
【0023】
当該材料は、生木である樹木の木質部および/または葉から精油および水分の少なくとも一部が除去されたものであるが、精油が完全に取り除かれず、一部が当該材料に残っていてもよい。その場合、当該精油は、当該材料の消臭機能及び/又は芳香機能に資することがある。特に、精油等の残留物が残っている当該材料は、精油等の残留物の有する機能と、当該材料の持つ多孔質構造とが相俟って多機能性を有し、特に、高い消臭機能及び/又は芳香機能を発揮し、好ましく用いられる。
【0024】
当該材料に存在する精油は、モノテルペンやセスキテルペン等の成分を含むことが好ましく、具体的には、α-ピネン、β-ピネン、カンフェン、サンテン、トリシクレン、β-カリオフィレン、ミルセン、アロオシメン、イソプレン、オシメン、ピロネン、クリプトテネン、β-フェランドレン、2,4(8)-p-メンタジエン、メノゲレン、セスキシトロネン、ジンギベレン、サビネン、3,8(9)-p-メンタジエン、テルピネン-4-オール、シトロネラール、ボルニルアセテート、α-テルピネオール、δ-3-カレン、テルピノレン、γ-テルピネンおよび1,8-シネオールから選ばれる少なくとも1種の成分を含むことが好ましい。
【0025】
当該材料に存在する精油は、好ましくは揮発性が低いおよび/または不揮発性である。揮発性が低いほど、より長い期間にわたって精油の機能(例えば、消臭機能および/または芳香機能)が発揮されるからである。また、精油成分は比較的分子量の大きい成分を含むことが好ましい。分子量が大きいほど、揮発しにくいからである。樹木の木質部等から精油を抽出すると、より分子量が小さい、および/または揮発しやすい精油が優先的に抽出されるため、当該材料には揮発性の低い、および/または分子量のより大きい精油が残る傾向にある。当該材料に残る精油成分はモノテルペンの含有量が少なく、セスキテルペン、ジテルペンまたはテトラテルペンをより多く含むことが好ましい。セスキテルペン、ジテルペンなどの分子量が大きいテルペン類の割合が大きいと、長期間にわたって消臭機能および/または芳香機能を発揮するとともに、様々な消臭機能を発揮すること、すなわち種々の臭いに対応することが可能となる。
【0026】
当該材料は、一般に、消臭機能および/または芳香機能を発揮する。当該材料が芳香機能を発する場合、芳香機能は当該材料に存在する精油により奏されると考えられる。
当該材料は、例えば、人体または動物の汗、皮脂、または生活臭に由来する臭いを軽減することができる。当該材料は、好ましくは、アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン、酢酸、トルエン、ケトン体(例えばアセトン)、ジアセチルおよび不飽和アルデヒド(例えばノナネール)から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはアンモニア、硫化水素、およびメチルメルカプタンから選ばれる少なくとも1種に由来する臭いを消臭し得る機能を有している。
【0027】
また、当該材料が芳香機能を有する場合には、当該材料からの芳香により臭いがマスキングされて、感覚的に弱められる。
【0028】
当該材料は、粉末状物として合成樹脂に含まれる。当該材料は、例えば、高速気流によるジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、高圧水流を用いた湿式微粉砕装置などを用いて粉末状物にすることができる。粉末状物の平均粒子径は後述する方法でフィルムまたはシートを得る際に、フィルムまたはシートの厚さよりも小さいものとしてよい。粉末状物の平均粒子径がフィルムまたはシートの厚さよりも大きくなると、フィルムまたはシートを製造することが困難となることがある。
【0029】
本実施形態において、上記材料の粉末状物の平均粒子径は1μm~15μmであってよく、特に5μm~10μmであってよい。また、当該材料からなる粉末状物は一般に粒径分布を有するため、平均粒子径が上記の範囲内にあっても、粒径分布の範囲が広い(すなわち、粒径の大きな粉末状物が含まれる)場合には、粉末状物を含む合成樹脂を薄いフィルムまたはシートとすることが困難となることがある。そこで、本実施形態では、当該材料の粉末状物の最大粒径は400メッシュ篩い(約32μm以下)としてよく、特に20μm以下の粒径の粒子が90%(体積)以上を占めてよい。
粉末状物の平均粒子径および粒径分布は、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置(具体的には、レーザー回析式粒子径分布測定装置(島津製作所社製、SALD 2300))で計測することができ、平均粒子径はメディアン径(D50)で表される。
【0030】
(薄片、薄片由来繊維状物および中間物)
次に、上記で説明した材料の粉末状物を含有する合成樹脂を含む薄片、薄片由来繊維状物および中間物をその製造方法とともに説明する。
【0031】
本実施形態の薄片および薄片由来繊維状物、ならびに場合により中間物を含む集合物(以下、便宜的に「薄片集合物」と呼ぶ)は、上記で説明した材料の粉末状物を含有する合成樹脂を含むフィルムまたはシートを切断または破砕して得られるものである。そのため、薄片は一定の形状および寸法を有しておらず、その形状は幾何学的な形状ではないのが一般的である。本実施形態の集合物の例を、薄片の形状(フィルムまたはシートの厚さに垂直な面の形状)が分かるように平面図(集合物を撮影した写真)を
図1に示す。
図1に示すとおり、薄片の形状は四角形、三角形または円形等ではなく、不定形である。また、薄片は、後述するとおりフィルムまたはシートを例えばナイフ等で引きちぎる、または切り裂く等して形成されるため、その外縁が直線または滑らかな曲線となっておらず、不規則に波打ったもの、細かなギザギザを有するものであることが多い。さらにまた、薄片は、皺が形成されていたり、折れ曲がったり、穴を有する形態として得られるものであってよい。
【0032】
薄片の厚さは、例えば5μm~150μmであってよく、好ましくは10μm~100μm、特に15μm~75μm、より特には20μm~60μmであってよい。薄片の厚さは、薄片を形成するためのフィルムまたはシートの厚さにほぼ相当する。上記材料の粉末状物を含むフィルムまたはシートは、厚さが5μm未満のものとして得ることは一般に困難である。一方、薄片の厚さの上限は特に限定されないものの、大きすぎる場合には中綿として用いたときにクッション性および触感が低下することがある。
なお、薄片の厚さは、フィルムまたはシートが切断または破断されるときに加わる力によって延伸されて、フィルムまたはシートの厚さよりも少し小さくなることがある。
【0033】
薄片の大きさ(薄片の厚さに垂直な面の寸法)は特に限定されないが、中綿のクッション性、嵩高性および触感等を考慮すれば、例えば、直径2.0cmφ~3.5cmφのパンチングプレートなどの開口部を通過する寸法であってよい。開口部が大きすぎると、中綿にしたときの柔軟性(触感)が低下する場合があり、開口部が細かすぎると、嵩高性が低下する場合がある。皺を有する又は折れ曲がる等した薄片は、皺や折れ曲がりのない状態では上記開口部を通過できない場合もあるが、そのような薄片も上記開口部を通過する限りにおいて、上記で規定される大きさを有するものとする。
【0034】
上記の寸法の開口部を通過する薄片は種々の大きさのものが含まれる薄片の混合物であり、混合物にはフィルムまたはシートがちぎれて粉のようになったものも含まれることがある。また、上記の寸法の開口部を通過するものの多くが、開口部よりもかなり小さい寸法を有することもある。そのため、ある程度大きな寸法の薄片を得る必要がある場合、所望の寸法の薄片が通過しない寸法の開口部を用意し、開口部上に残った薄片(開口部を通過しない薄片)を取り出すようにしてもよい。
【0035】
薄片由来繊維状物は、上記の薄片が外から加わる力によって捩れる、及び/または丸まる等して、紙縒りのごとく細い線条物となったものである。薄片由来繊維状物は、フィルムまたはシートを切断または破砕するときに加わる力で形成されたものであってよい。薄片由来繊維状物は薄片集合物において骨格のような役割をすると考えられ、これを含む薄片集合物を中綿として用いたときには嵩高な物品を得ることができる。
【0036】
薄片由来繊維状物は、長さとして、繊維状物を直線状に伸ばしたときの長さ(正味長さ)と、繊維状物を静置したときの長さ(見かけ長さ)で表すことができる。繊維状物の見かけ長さを示す図面として薄片由来繊維状物を撮影した写真を
図2に示す。正味長さは、例えば、15mm~80mmであってよく、特に18mm~70mm、より特には20mm~60mmであってよい。薄片由来繊維状物の正味長さが短すぎると、前述した骨格のような役割を果たしにくく、長すぎると、吹き込み時に絡まりが生じやすく、作業効率が悪くなる傾向にある。
【0037】
薄片由来繊維状物は、例えば、10mm~70mmの見かけ長さを有してよく、特に13mm~60mm、より特には15mm~50mmの見かけ長さを有してよい。薄片由来繊維状物の見かけ長さが短すぎると、前述した骨格のような役割を果たしにくく、長すぎると、吹き込み時に絡まりが生じやすく、作業効率が悪くなる傾向にある。
【0038】
薄片由来繊維状物の幅は、正味長さを求める際に伸ばしたときの直線に直交する方向の寸法であり、幅が一定でない場合は、最大の寸法を当該薄片由来繊維状物の幅とする。例えば、薄片由来繊維状物は、1mm~8mmの幅を有してよく、特に1.3mm~7mm、より特には1.5mm~6mmの幅を有してよい。薄片由来繊維状物の幅が短すぎると、前述した骨格のような役割を果たしにくく、長すぎると、薄片や後述する中間物と大差がない。
【0039】
本実施形態の集合物は、前記薄片及び前記薄片由来繊維状物の他に、
図1に示すような形状を有する中間物を含んでよい。中間物は、一部が薄片(薄片部)で一部が薄片由来繊維状物(繊維状部)である形状を有する。本実施形態では、繊維状部の見かけ長さが10mm以上であるものを中間物とし、繊維状部の見かけ長さが10mm未満であるものは薄片とする。中間物の繊維状部の見かけ長さは、10mm~50mmであってよく、特に13mm~40mm、より特には15mm~30mmであってよい。繊維状部の見かけ長さが短すぎると、前述した骨格のような役割を果たしにくく、長すぎると、吹き込み時に絡み合いを調整しにくくなる傾向にある。中間物の繊維状部の見かけ長さを示す図面として中間物を撮影した写真を
図2に示す。
【0040】
薄片由来繊維状物が集合物に占める割合は、好ましくは、5%~50%であり、より好ましくは、6%~45%であり、さらにより好ましくは、8%~40%である。薄片由来繊維状物が集合物に占める割合が上記範囲内にあると、薄片由来繊維状物の役割(骨格のような役割)が有効に発揮されて、嵩高であり、嵩回復性の高い集合物が得られる。
【0041】
中間物が集合物に占める割合は、好ましくは、1%~15%であり、より好ましくは、2%~12%であり、さらにより好ましくは、3%~10%である。中間物が集合物に占める割合が上記範囲内にあると、中間物によって吹き込み時の絡み合いが有効に調整され、嵩高であり、嵩回復性の高い集合物が得られる。
【0042】
薄片および薄片由来繊維状物において、上記材料の粉末状物は、合成樹脂100質量部に対して、例えば0.01質量部~10質量部の量で含まれてよく、特に0.1質量部~0.5質量部、より特には0.2質量部~0.4質量部の量で含まれていてよい。上記材料の粉末状物の含まれる量が少なすぎると消臭効果が十分に発揮されないことがあり、多すぎると薄片を形成するベースとなるフィルムまたはシートを製造することが困難となることがある。
【0043】
薄片および薄片由来繊維状物において、上記材料の粉末状物は合成樹脂により固定されるため脱落しにくいものの、一部の粉末状物は薄片の表面で合成樹脂により薄く覆われ、場合により一部が露出した状態で存在する。そのため、薄片および薄片由来繊維状物中の上記材料の粉末状物は、それが有する消臭機能等を発揮しやすい。
【0044】
薄片および薄片由来繊維状物において、上記材料の粉末状物の少なくとも一部は、合成樹脂との間に隙間を生じた状態で存在してよい。そのよう隙間が存在すると、当該隙間において粉末状物が露出するので、消臭機能がより発揮されやすくなり、また、当該粉末状物が発する芳香がより拡散されやすくなる。合成樹脂と粉末状物との間の隙間は、フィルムまたはシートの状態では存在せず、薄片を得る際に形成されることがある。これは薄片を切断または破砕するときに加わる外力によって、フィルムまたはシートが伸長されることによると考えられる。
【0045】
薄片および薄片由来繊維状物を構成する合成樹脂は特に限定されない。合成樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-アクリル酸共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66等のポリアミド系樹脂が挙げられる。合成樹脂として異なる二以上のものが含まれていてよい。
【0046】
本実施形態では、特にポリエチレン樹脂を用いてよい。ポリエチレン樹脂を用いると、後述するペレットの製造およびフィルムまたはシートの成形の間、加工温度を140℃~180℃程度とすることができるので、加工中、上記材料の粉末状物に含まれる精油成分が蒸発しにくい。その結果、上記材料の消臭機能等が損なわれることなく、薄片集合物を得ることができる。より特には低密度ポリエチレン樹脂を用いてよい。低密度ポリエチレン樹脂は、柔軟なフィルムまたはシートを与えるので、薄片集合物を柔らかいものとすることができる。
【0047】
薄片および薄片由来繊維状物は、一又は複数の合成樹脂に上記材料の粉末状物を混合したペレットを、適切な方法でフィルムまたはシートに成形した後、公知の切断機または粉砕機で切断または破砕することにより製造してよい。
【0048】
上記材料の粉末状物を含むペレットは公知の方法で製造することができる。例えば、ペレットは
図2に示す構成の押出機1を用いて製造してよい。
図3に示す押出機1を用いる場合、ベース樹脂となる合成樹脂のペレットと上記材料の粉末状物を原料供給口2から供給し、樹脂溶解部3に送る。樹脂溶解部3では、加工温度を合成樹脂が溶融する温度に設定して、合成樹脂を溶解するとともに、樹脂溶解部3内のスクリューの回転により合成樹脂と粉末状物を混合する。混合物は混練分散部4に送られ、複数枚の混練プレートの回転により合成樹脂と粉末状物はさらに均一に混合される。混練分散部4には、減圧ライン5が設けられている。減圧ライン5は、例えば、粉末状物が水分散液として合成樹脂のペレットとともに供給される場合に、水分を水蒸気の状態で除去するのに用いられる。混練された混合物は、押出部6から押し出された後、冷却されて、取り出し口7から取り出され、さらにペレタイザーにてペレット化される。ペレットは、合成樹脂100質量部に対して上記材料の粉末状物が、例えば0.1質量部~50質量部、特に0.5質量部~30質量部の量で含まれるものであってよい。
【0049】
上記材料の粉末状物を合成樹脂100質量部に対して0.01質量部~10質量部という比較的少ない量で含有させた薄片および薄片由来繊維状物を得たい場合には、上記材料の粉末状物を含む合成樹脂のペレットをマスターバッチとして用いてよい。マスターバッチを用いる方法によれば、少ない量の粉末状物が均一に分散されたフィルムまたはシートを効率的に製造することができる。マスターバッチを用いる場合には、マスターバッチと上記材料の粉末状物を含まない合成樹脂のペレットとを混合して、フィルムまたはシートに成形する。
【0050】
マスターバッチを用いる製造方法では、最終的に得られる薄片および薄片由来繊維状物において所定の量で上記材料の粉末状物が含まれるよう、マスターバッチに含まれる上記材料の粉末状物の量を決定し、また、マスターバッチを計量して用いる。マスターバッチは合成樹脂100質量部に対して上記材料の粉末状物を例えば1質量部~50質量部の量で含むものであってよく、マスターバッチと合成樹脂のペレットとの混合比は例えば1:99~20:80(質量比)、特に2:98~5:95(質量比)であってよい。
【0051】
フィルムまたはシートの成形方法は特に限定されない。例えば、フィルムまたはシートはインフレーション成形により製造してよく、またはTダイにより製造してよい。フィルムまたはシートの成形に際しては、必要に応じて延伸処理を実施してよい。
【0052】
本実施形態の薄片集合物は、厚さが5μm~150μmであるフィルムまたはシートを用いて製造してよい。前述のとおり、本実施形態の薄片集合物を構成する薄片は、5μm~150μmの厚さを有するものであるところ、後述する切断および/または破砕等によってフィルムまたはシートの厚さはほとんど変化せず、変化するとしてもわずかに減少するだけであることによる。フィルムまたはシートの厚さは、より好ましくは10μm~100μmであってよく、特に15μm~50μmであってよく、より特には20μm~40μmであってよい。
【0053】
前記フィルムまたはシートを半透明のものとする場合、上記材料の粉末状物以外に、着色料または顔料を合成樹脂に混合してフィルム化を実施してよい。着色料または顔料として、例えば、酸化チタンが用いられる。
また、前記フィルムまたはシートの製造に際しては、得ようとする薄片集合物の柔軟性(剛性)、屈曲性、および変形性などを考慮して、合成樹脂の種類、およびフィルムまたはシートの厚さを選択し、ならびに/あるいは皺や凹凸等を適宜付与してよい。
【0054】
上記の方法によって得られるフィルムまたはシートは、その表面及び/または内部に粉末状物を担持することで、所定の機能(例えば消臭機能)を発揮することができる。
【0055】
また、本実施形態の薄片集合物は、例えば、引張強力が50N/50mm~100N/50mm、または破断伸度が150%~300%であるフィルムまたはシートを用いて製造してよい。そのようなフィルムを用いて製造した薄片集合物は、柔軟性および嵩高性を有する傾向にある。
【0056】
薄片集合物はフィルムまたはシートを切断および/または破砕等して薄片とすることにより得られる。切断および/または破砕等は、例えば、回転刃式粉砕機を用いて実施してよい。回転刃式粉砕機を用いる場合、回転する刃と刃との間にフィルムまたはシートを共有してフィルムを切り裂くことで薄片および薄片由来繊維状物を得ることができる。
【0057】
得られた薄片集合物からは、必要に応じて、大きすぎる、または小さすぎる薄片および薄片由来繊維状物を取り除いてよい。そのような除去作業は所定の寸法の目を有する篩を用いて実施してよい。
【0058】
(中綿およびこれを用いた製品)
本実施形態の薄片集合物は枕および敷物等の中綿として用いてよい。中綿は本実施形態の薄片集合物のみで構成されていてよく、あるいは他の中綿材料と混合して用いてよい。他の中綿材料は、合成繊維、天然繊維または羽毛等から選択してよく、あるいは上記材料の粉末状物を含まない合成樹脂の薄片を含む集合物であってよく、あるいはまた枕等の中綿として用いられている合成樹脂の成形体(ビーズ、小片、チューブ等)であってよい。他の中綿材料と組み合わせて用いることで、製品において得られるクッション性、触感、および嵩高性等を調整することができる。
【0059】
また、本実施形態の薄片集合物を他の中綿材料と組み合わせて用いる場合、本実施形態の薄片集合物を含む中綿を第一層とし、他の中綿材料を含む中綿を第二層として、枕または敷物等の中綿を構成してよい。中綿を積層体とすることで、本実施形態の薄片集合物による消臭機能等を利用しつつ、他の中綿材料によって枕等の硬さおよびクッション性等を調節することがより容易となる。あるいは、本実施形態の薄片集合物と他の中綿材料とは混合して用いてもよい。
【0060】
本実施形態の薄片集合物を中綿として用いるのに適した製品は、枕、布団、敷きパッドなどの寝具、クッション、座布団、敷物、ダウンジャケットなどの衣料等である。枕は、比較的長時間にわたって人の頭部と接した状態で用いられ、頭部の汗および皮脂等の臭いが付きやすく、また、使用時に鼻と近い位置にあって利用者が臭いを感じやすいものであるから、本実施形態の薄片集合物による消臭機能等が有効に利用される。布団、敷きパッドなどの寝具、クッション、座布団、敷物等も、人体またはペット等の小動物が直接触れるものであり、本実施形態の薄片集合物を中綿として用いれば、人体または小動物から発せられる汗等が付着したときに、汗等から発せられる臭いを消臭できる。また、敷物は、長期間に亘って一定の空間に配置されるので、これが置かれた空間の不快な臭いを消臭する、あるいは芳香を徐放して当該空間を快適なものとすることができる。
【0061】
また、これらの製品の中綿に本実施形態の集合物が含まれると、薄片と薄片との間に空気層が形成されやすい。薄片に含まれる上記材料の粉末状物が芳香を発する場合には、芳香成分が当該空気層に滞留しやすく、製品に押圧等が加わったときには、芳香成分を含む空気が製品の外に放出されて、利用者が上記材料に由来する芳香を感じることができる。特に、枕および敷パッドの場合、利用者が寝返りを打つたびに異なる場所で押圧が加わって、その都度、芳香が放たれやすくなるので、利用者に快適な使用感を提供することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本実施形態を実施例により説明する。
[樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料の製造]
樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部を除去した材料(粉末状物)を、以下の手順で製造した。
(1)葉のついた状態のトドマツの枝90kgを、圧砕式粉砕機(KYB製作所製)を用いて粉砕し、それぞれ10~20mm程度の寸法を有する小片の集合物を得た後、当該集合物をマイクロ波蒸留装置の蒸留槽内に入れた。次いで、蒸留槽内の圧力を、約15kPaの減圧に保持し、約1時間マイクロ波照射した。発生した蒸気(油分、水分)を減圧ポンプで吸引して、蒸留槽内から除去し、残渣としてトドマツ処理物を得た。得られたトドマツ処理物の量は68kgであった。
(2)得られたトドマツ処理物(残渣)を、高速気流によるジェットミルを用いた粉砕処理に付し、残渣の精油および水分の少なくとも一部を除去した材料の粉末状物(以下、単に粉末状物と呼ぶ)を得た。粉末状物の平均粒子径は8μmであり、最大粒径は32μmであった。また、粉末状物を光学顕微鏡で観察すると、緑色または青色の部分が含まれており、葉由来の材料が含まれていることが確認できた。
【0063】
[マスターバッチ樹脂組成物の製造]
マスターバッチ樹脂組成物を以下の順番で製造した。
(1)前記粉末状物と、ベース樹脂として、低密度ポリエチレンのペレット(日本ポリエチレン株式会社製、商品名「ハーモレックス NF464A」)を準備した。
(2)
図1に示す押出機1の原料供給口2から、予めドライブレンドしたベース樹脂ペレット100質量部と、粉末状物10質量部を供給した。
(3)押出機内における加工温度を180~190℃に設定し、樹脂溶解部3にてスクリューの回転軸に沿って供給物を混練分散部4に送った。次いで、混練分散部4にて、回転している複数枚の混練プレートにてベース樹脂と粉末状物を均一に混合し、粉末状物を分散させた。
(4)次いで、押出部6から樹脂組成物を押し出し、さらに冷却して、取り出し口7から取り出した。
(5)ペレタイザーに導き、ペレット化して、トドマツから精油および水分の少なくとも一部が除去された材料(粉末状物)を含有する低密度ポリエチレンマスターバッチ樹脂組成物を得た。
【0064】
[薄片集合物の製造]
(実施例1)
マスターバッチ樹脂組成物3質量部と、ベース樹脂としてマスターバッチ樹脂組成物を製造する際に用いたものと同じ低密度ポリエチレンペレット97質量部とを混合して、インフレーション成形により、厚さ40μmの低密度ポリエチレンフィルムを得た。このフィルム中には、上記材料の粉末状物がポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.27質量部の量で含まれていた。
【0065】
得られたフィルムを、回転刃式粉砕機を用いて切断及び破砕して、薄片、薄片由来繊維状物、および中間物を含む薄片集合物を得た。薄片由来繊維状物は、フィルムを切断等するときに加わる力によって、薄片が捩れる、および/または丸まることにより形成された。
得られた集合物から、薄片、薄片由来繊維状物、および中間物を任意に合計100個採取して、その形状およびその大きさを測定した。薄片由来繊維状物の正味長さは、17mm~58mmであり、その平均(n=29)は30.79mmであった。薄片由来繊維状物の見かけ長さは10mm~40mmであり、その平均(n=29)は24.96mmであった。薄片由来繊維状物の幅は、1mm~6mmであり、その平均(n=29)は3.13mmであった。
中間物の繊維状部の見かけ長さは10mm~24mmであり、その平均(n=7)は17.14mmであった。
【0066】
(実施例2)
厚さ50μmとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で、低密度ポリエチレンフィルムを得た。このフィルム中には、上記材料の粉末状物がポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.27質量部の量で含まれていた。得られたフィルムを、実施例1と同様の方法で、切断及び破砕して、薄片、薄片由来繊維状物、および中間物を含む薄片集合物を得た。
【0067】
(実施例3)
厚さ100μmとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で、低密度ポリエチレンフィルムを得た。このフィルム中には、上記材料の粉末状物がポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.27質量部の量で含まれていた。得られたフィルムを、実施例1と同様の方法で、切断及び破砕して、薄片、薄片由来繊維状物、および中間物を含む薄片集合物を得た。
【0068】
(実施例4)
マスターバッチ樹脂組成物5質量部と、ベース樹脂としてマスターバッチ樹脂組成物を製造する際に用いたものと同じ低密度ポリエチレンペレット95質量部とを混合して、インフレーション成形としたこと以外は、実施例1と同様の手順で、厚さ40μmの低密度ポリエチレンフィルムを得た。このフィルム中には、上記材料の粉末状物がポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.45質量部の量で含まれていた。得られたフィルムを、実施例1と同様の方法で、切断及び破砕して、薄片、薄片由来繊維状物、および中間物を含む薄片集合物を得た。
【0069】
得られた薄片集合物の消臭性能および芳香性能を以下の手順にて評価した。評価結果を表1~表3に示す。
【0070】
(消臭性能)
得られた薄片集合物の消臭性能を評価するため、ろ紙(GE Healthcare Life Sciences Whatman FILTER PAPERS 2、直径110mm)を4つ折りにし、250ppmに調整したアンモニア水溶液3.0mLを吸収させる。アンモニア水溶液を含んだろ紙とフィルム片(面積換算0.03m2)を10Lの袋に入れた後、測定用袋に入れて、一定時間経過後にアンモニア濃度を測定した。
【0071】
(感覚的消臭性能試験)
得られた薄片集合物の感覚的消臭性能を評価するため、体臭などに含まれるアンモニアを用いて、6段階臭気強度表示法により芳香性能を評価した。10Lテドラーバッグ内にアンモニアのみを封入し臭気強度を判定した。その後、実施例1で得られた薄片集合物40gを混合した場合の臭気強度を比較した。臭気強度は評価者10名の平均値とした。
(6段階臭気強度表示法)
0:無臭
1:やっと感知できるにおい(検知閾値濃度)
2:何のにおいであるかがわかる弱いにおい(認知閾値濃度)
3:らくに感知できるにおい
4:強いにおい
5:強烈なにおい
【0072】
(芳香性能)
得られた薄片集合物の芳香性能を評価するために、10Lテドラーバッグ内に薄片集合物40gを封入し、6段階臭気強度法及び以下に示す基準の9段階快・不快度表示法を用いて評価した。臭気強度および快・不快度は、評価者10名の平均値とした。
(9段階快・不快度表示法)
+4:極端に快
+3:非常に快
+2:快
+1:やや快
0:快でも不快でもない
-1:やや不快
-2:不快
-3:非常に不快
-4:極端に不快
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
表1および表2に示すとおり、実施例1~4の薄片集合物はいずれも消臭機能を有するものであった。また、表3に示すとおり、実施例1の薄片集合物を用いた芳香性能試験においては、低い臭気強度が得られるとともに、快・不快度は「非常に快(3)」と「快(2)」との間であったため、この薄片集合物は十分な芳香性能を保有しているといえる。
【0077】
さらに、実施例1で得られた薄片集合物から、薄片を取り出し、その表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。SEM像を
図4および
図5に示す。これらの図面に示すとおり、薄片の表面では一部の粉末状物が露出して、または樹脂の薄い膜で覆われて存在していることが確認でき、粉末状物の一部について、粉末状物と樹脂との界面に隙間が生じていることも確認できた。
【0078】
(実施例5)
縦350mm×横500mmの綿製の袋に実施例1で得られた薄片集合物900gを収容し、開口部を縫い合わせて枕を作成した。この枕からは樹木のかすかな芳香が得られ、この枕を使用することで心地よい睡眠に導入することができた。また、頭皮等から発生するアンモニアやノネナール等の悪臭に対して消臭効果が示された。
【0079】
(実施例6)
縦1800mm×横1800mmの綿製のパッドに実施例1で得られた薄片集合物1,000gを収容し、開口部を縫い合わせて敷物を作成した。この敷物からは樹木のかすかな芳香が得られ、この敷物を置いた部屋の空気を心地よいものとことができた。また、足や体から発生するアンモニア等の悪臭に対して消臭効果が示された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示の薄片繊維集合物は、樹木の木質部および/または葉から精油および水分の少なくとも一部が除去された材料が薄片を構成する合成樹脂の中に含有され、当該材料が消臭機能等を長期間にわたって発揮するので、枕や敷物等の中綿として利用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 押出機
2 原料供給口
3 樹脂溶解部
4 混練分散部
5 減圧ライン
6 押出部
7 取り出し口