IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ワコムの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】センサシステム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
G06F3/041 600
G06F3/041 534
G06F3/041 550
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020007100
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021114202
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】110004277
【氏名又は名称】弁理士法人そらおと
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】野村 佳生
(72)【発明者】
【氏名】畑野 雄飛
【審査官】円子 英紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-111011(JP,A)
【文献】特開平09-311757(JP,A)
【文献】特開2015-064693(JP,A)
【文献】特開2005-346583(JP,A)
【文献】特開2016-122382(JP,A)
【文献】特開2000-099260(JP,A)
【文献】国際公開第2019/054243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/03
G06F 3/044
G06F 3/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ有効領域を有する少なくとも1つのパネル面上のスタイラスを検出するセンサシステムであって、
前記スタイラスの位置、及び、前記スタイラスのペン先に加わる圧力を示す筆圧値を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得した位置及び筆圧値をホストプロセッサに出力する位置等出力ステップと、を含み、
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合、前記ホストプロセッサに対して、前記スタイラスが前記パネル面に接触したことを示すペンダウン、及び、前記スタイラスが前記パネル面から離脱したことを示すペンアップの少なくとも一方の発生を隠蔽し、
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に前記取得ステップにより取得した筆圧値が非接触を示す値となった後、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域内に戻るまでの間、前記出力ステップは、前記取得ステップにより取得した筆圧値の出力を制限する、
ンサシステム。
【請求項2】
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に前記取得ステップにより取得した筆圧値が非接触を示す値となった後、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域内に戻るまでの間、前記出力ステップは、前記取得ステップにより取得した筆圧値に代え、非接触を示す筆圧値を出力する、
請求項に記載のセンサシステム。
【請求項3】
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に前記取得ステップにより取得した筆圧値が非接触を示す値となった後、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域内に戻るまでの間、前記出力ステップは、前記取得ステップにより取得した位置及び筆圧値の前記ホストプロセッサへの出力を行わない、
請求項に記載のセンサシステム。
【請求項4】
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に前記取得ステップにより取得した筆圧値が接触を示す第1の値から非接触を示す値に変化した後、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域内に戻るまでの間、前記出力ステップは、前記取得ステップにより取得した筆圧値に代え、前記第1の値を出力する、
請求項に記載のセンサシステム。
【請求項5】
それぞれ有効領域を有する少なくとも1つのパネル面上のスタイラスを検出するセンサシステムであって、
前記スタイラスの位置、及び、前記スタイラスのペン先に加わる圧力を示す筆圧値を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得した位置及び筆圧値をホストプロセッサに出力する位置等出力ステップと、を含み、
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合、前記ホストプロセッサに対して、前記スタイラスが前記パネル面に接触したことを示すペンダウン、及び、前記スタイラスが前記パネル面から離脱したことを示すペンアップの少なくとも一方の発生を隠蔽し、
前記取得ステップにより取得した筆圧値が接触を示す値に変化したことを検出したことに応じて前記ペンダウンを示す情報を前記ホストプロセッサに対して出力する状態出力ステップをさらに有し、
前記状態出力ステップは、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に、前記ペンダウンを示す情報の前記ホストプロセッサへの出力を行わない、
ンサシステム。
【請求項6】
前記取得ステップにより取得した筆圧値が接触を示す値に変化したことを検出したことに応じて前記ペンダウンを示す情報を前記ホストプロセッサに対して出力する状態出力ステップをさらに有し、
前記状態出力ステップは、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に、前記ペンダウンを示す情報の前記ホストプロセッサへの出力を行わない、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のセンサシステム。
【請求項7】
前記状態出力ステップは、
前記取得ステップにより取得した筆圧値が非接触を示す値に変化したことを検出したことに応じて前記ペンアップを示す情報を前記ホストプロセッサに対して出力し、
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に、前記ペンアップを示す情報の前記ホストプロセッサへの出力を行わない、
請求項5又は6に記載のセンサシステム。
【請求項8】
それぞれ有効領域を有する少なくとも1つのパネル面上のスタイラスを検出するセンサシステムであって、
前記スタイラスの位置、及び、前記スタイラスのペン先に加わる圧力を示す筆圧値を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得した位置及び筆圧値をホストプロセッサに出力する位置等出力ステップと、を含み、
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合、前記ホストプロセッサに対して、前記スタイラスが前記パネル面に接触したことを示すペンダウン、及び、前記スタイラスが前記パネル面から離脱したことを示すペンアップの少なくとも一方の発生を隠蔽し、
前記位置等出力ステップは、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合、前記取得ステップにより取得した位置に代えて、該位置に対応する前記有効領域内の位置を前記ホストプロセッサに出力する、
ンサシステム。
【請求項9】
前記位置等出力ステップは、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合、前記取得ステップにより取得した位置に代えて、該位置に対応する前記有効領域内の位置を前記ホストプロセッサに出力する、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のセンサシステム。
【請求項10】
それぞれ有効領域を有する少なくとも1つのパネル面上のスタイラスを検出するセンサシステムであって、
前記スタイラスの位置、及び、前記スタイラスのペン先に加わる圧力を示す筆圧値を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得した位置及び筆圧値をホストプロセッサに出力する位置等出力ステップと、を含み、
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合、前記ホストプロセッサに対して、前記スタイラスが前記パネル面に接触したことを示すペンダウン、及び、前記スタイラスが前記パネル面から離脱したことを示すペンアップの少なくとも一方の発生を隠蔽し、
前記センサシステムは、それぞれパネル面を有する第1及び第2のディスプレイ上のスタイラスを検出するセンサシステムであって、
前記スタイラスが送信するダウンリンク信号の受信動作を実行する受信ステップと、
前記受信ステップにより前記ダウンリンク信号を受信できなかったことに応じて前記ペンアップを示す情報を前記ホストプロセッサに対して出力する状態出力ステップと、
前記スタイラスが前記第1及び第2のディスプレイのパネル面間の領域に位置しているか否かを判定する判定ステップとをさらに有し、
前記状態出力ステップは、前記判定ステップにより前記スタイラスが前記パネル面間の領域に位置していると判定される場合に、所定期間にわたり、前記ペンアップを示す情報の前記ホストプロセッサへの出力を行わない、
ンサシステム。
【請求項11】
前記受信ステップにより前記ダウンリンク信号を受信できなかったことに応じて前記スタイラスとのペアリングを解除するペアリング解除ステップをさらに有し、
前記ペアリング解除ステップは、前記判定ステップにより前記スタイラスが前記パネル面間の領域に位置していると判定される場合に、前記所定期間にわたり、前記スタイラスとのペアリングの解除を行わない、
請求項10に記載のセンサシステム。
【請求項12】
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に前記取得ステップにより取得した筆圧値が非接触を示す値となった後、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域内に戻るまでの間、前記出力ステップは、前記取得ステップにより取得した筆圧値の出力を制限する、
請求項10又は11に記載のセンサシステム。
【請求項13】
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に前記取得ステップにより取得した筆圧値が非接触を示す値となった後、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域内に戻るまでの間、前記出力ステップは、前記取得ステップにより取得した筆圧値に代え、非接触を示す筆圧値を出力する、
請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項14】
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に前記取得ステップにより取得した筆圧値が非接触を示す値となった後、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域内に戻るまでの間、前記出力ステップは、前記取得ステップにより取得した位置及び筆圧値の前記ホストプロセッサへの出力を行わない、
請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項15】
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に前記取得ステップにより取得した筆圧値が接触を示す第1の値から非接触を示す値に変化した後、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域内に戻るまでの間、前記出力ステップは、前記取得ステップにより取得した筆圧値に代え、前記第1の値を出力する、
請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項16】
前記受信ステップにより前記ダウンリンク信号を受信できなかったことに応じて、前記ホストプロセッサに対して前回出力した前記位置及び筆圧値を前記ホストプロセッサに出力する前回値出力ステップ
をさらに有する請求項10乃至15のいずれか一項に記載のセンサシステム。
【請求項17】
それぞれ有効領域を有する少なくとも1つのパネル面上のスタイラスを検出するセンサシステムであって、
前記スタイラスの位置、及び、前記スタイラスのペン先に加わる圧力を示す筆圧値を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得した位置及び筆圧値をホストプロセッサに出力する位置等出力ステップと、を含み、
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合、前記ホストプロセッサに対して、前記スタイラスが前記パネル面に接触したことを示すペンダウン、及び、前記スタイラスが前記パネル面から離脱したことを示すペンアップの少なくとも一方の発生を隠蔽し、
前記センサシステムは、それぞれ有効領域を有する第1及び第2のディスプレイ上のスタイラスを検出するセンサシステムであって、
前記スタイラスが送信するダウンリンク信号の受信動作を実行する受信ステップと、
前記受信ステップにより前記ダウンリンク信号を受信できなかったことに応じて前記スタイラスとのペアリングを解除するペアリング解除ステップと、
前記スタイラスが前記第1及び第2のディスプレイのパネル面間の領域に位置しているか否かを判定する判定ステップとをさらに有し、
前記ペアリング解除ステップは、前記判定ステップにより前記スタイラスが前記パネル面間の領域に位置していると判定される場合に、所定期間にわたり、前記スタイラスとのペアリングの解除を行わない、
ンサシステム。
【請求項18】
前記取得ステップにより取得した筆圧値が非接触を示す値に変化したことを検出したことに応じて前記ペンアップを示す情報を前記ホストプロセッサに対して出力する状態出力ステップをさらに有し、
前記状態出力ステップは、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に、前記ペンアップを示す情報の前記ホストプロセッサへの出力を行わない、
請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項19】
前記状態出力ステップは、
前記取得ステップにより取得した筆圧値が接触を示す値に変化したことを検出したことに応じて前記ペンダウンを示す情報を前記ホストプロセッサに対して出力し、
前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合に、前記ペンダウンを示す情報の前記ホストプロセッサへの出力を行わない、
請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項20】
前記受信ステップにより前記ダウンリンク信号を受信できなかったことに応じて、前記ホストプロセッサに対して前回出力した前記位置及び筆圧値を前記ホストプロセッサに出力する前回値出力ステップ
をさらに有する請求項1乃至1のいずれか一項に記載のセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサシステムに関し、特に、スタイラスによるペン入力を行うためのセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のノートパソコンは、タッチパッドあるいはトラックパッド(以下、「タッチパッド」と総称する)を備えるものが多い。タッチパッドは一般に、指による入力(以下、「タッチ入力」と称する)を実現するためのタッチパネルと、マウスデバイスの右クリック又は左クリック機能と等価な機能を実現するためのボタン機能とを備えており、タッチパネルとボタン機能とを別個の機構により設けるか否かにより、ディスクリート型と非ディスクリート型とのいずれかに分類される。
【0003】
ディスクリート型のタッチパッドは、クリック操作用の専用ボタンをタッチパネルとは別に有して構成される。一方、非ディスクリート型のタッチパッドはそのような専用ボタンを有しておらず、クリック操作はタッチパネルの押下によって実現される。非ディスクリート型のタッチパッドはさらに、タッチパネルの押下によりクリックを実現するための具体的な構造により、「クリックパッド」と「プレッシャーパッド」の2タイプに分けることができる。クリックパッドは、ユーザの押下によってタッチパネルが下向きに変位するタイプのタッチパッドであり、タッチパネルの直下にクリックボタンを有して構成される。一方、プレッシャーパッドは、タッチパネルに加わえられた押圧力をフォースセンサによって検出し、このフォースセンサの出力の閾値判定によってクリックを実現するタイプのタッチパッドである。非特許文献1には、タッチパッドに以上の3タイプ(ディスクリート型、クリックパッド、プレッシャーパッド)が含まれることが開示されている。
【0004】
また、近年、2つの画面を有する折り畳み型のタブレット端末が注目されている。以下、この種のタブレット端末を「デュアルスクリーンモデル」と称する。デュアルスクリーンモデルの登場に伴い、2つの画面のそれぞれにおいて、タッチ入力と、スタイラスによる入力(以下、「ペン入力」と称する)との両方を利用可能にする技術の開発も進められている。
【0005】
特許文献1には、そのような技術の一例が開示されている。特許文献1に示されるように、デュアルスクリーンモデル内には、第1の画面用のセンサ電極群に接続された第1の集積回路と、第2の画面用のセンサ電極群に接続された第2の集積回路と、第1及び第2の集積回路に接続されたホストプロセッサとを含むセンサシステムが設けられ、このセンサシステムによってタッチ入力及びペン入力が実現される。
【0006】
さらに、ペン入力やタッチ入力を実現するためにタッチパネルのパネル面やディスプレイの表示面(以下、「パネル面」と総称する)の内側に設けられるセンサ電極群は、対応するパネル面に相当する領域(以下、「有効領域」と称する)に比べると少し広い領域にわたって配置されることがある。その場合、スタイラスを検出可能な領域は、有効領域よりも少し大きくなる。以下では、スタイラスを検出可能な領域のうち有効領域外の領域を「検出可能領域」と称する。特許文献2には、検出したスタイラスの位置が検出可能領域内にあった場合、有効領域内の位置に変換することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-133487号公報
【文献】特開2000-099260号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Eliot Graff、外3名、「ウインドウズ精密タッチパッドのコレクション(Windows Precision Touchpad Collection)」、[online]、平成29年5月2日、マイクロソフト・コーポレイション、[令和2年1月15日検索]、インターネット<URL: https://docs.microsoft.com/en-us/windows-hardware/design/component-guidelines/touchpad-windows-precision-touchpad-collection>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、検出可能領域は、有効領域とは異なり、指やスタイラスが摺動することを予定していない領域である。その結果、検出可能領域には、段差や溝などの障害物が存在している場合がある。ごく小さなものなので、相対的に太い指先を用いてタッチ入力を行う場合には何ら問題を生じないが、相対的に細いスタイラスのペン先を用いてペン入力を行う場合には、誤操作の原因となる。つまり、スタイラスのペン先が障害物を通過するとき、スタイラスにより検出される筆圧値に急激な変化が発生する場合があり、この変化はユーザの意図しないペンダウンを発生させるので、誤タップなどの誤操作が発生することになる。
【0010】
したがって、本発明の目的の一つは、ペン入力における誤操作の発生を防止できるセンサシステムを提供することにある。
【0011】
また、デュアルスクリーンモデルに関しては、画面間を跨がって1本の線画を描きたいという、ユーザからの要望がある。しかしながら、段差や溝などの障害物やスタイラスを検出できない不感領域が画面間に存在していると、そこでユーザの意図しないペンアップが発生するため、線画が途切れてしまう。
【0012】
したがって、本発明の目的の他の一つは、デュアルスクリーンモデルの画面間を跨がって1本の線画を描くことを可能にするセンサシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるセンサシステムは、それぞれ有効領域を有する少なくとも1つのパネル面上のスタイラスを検出するセンサシステムであって、前記スタイラスの位置、及び、前記スタイラスのペン先に加わる圧力を示す筆圧値を取得する取得ステップと、前記取得ステップにより取得した位置及び筆圧値をホストプロセッサに出力する位置等出力ステップと、を含み、前記取得ステップにより取得した位置が前記有効領域の外にある場合、前記ホストプロセッサに対して、前記スタイラスが前記パネル面に接触したことを示すペンダウン、及び、前記スタイラスが前記パネル面から離脱したことを示すペンアップの少なくとも一方の発生を隠蔽する、センサシステムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ペン先が有効領域外にある場合にペンダウンが発生しないので、ペン入力における誤操作の発生を防止できる。また、ペン先が有効領域外にある場合にペンアップが発生しないので、デュアルスクリーンモデルの画面間を跨がって1本の線画を描くことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態によるノートパソコン1を示す図である。
図2図1に示したノートパソコン1の内部構成を示す図である。
図3】(a)(b)は、図1に示したタッチパッド5の近傍における筐体2の断面図である。
図4】本発明の第1の実施の形態の変形例によるノートパソコン1aを構成する筐体2の断面図である。
図5】本発明の第1の実施の形態の背景技術によるセンサシステムが実行する処理を示す図である。
図6】(a)は、図5のステップS108で実行される「状態レポート処理」の詳細を示す図であり、図6(b)は、図5のステップS111で実行される「位置等レポート処理」の詳細を示す図である。
図7】有効領域R1内の対応位置について説明する図である。
図8図5及び図6に示した背景技術による処理を実行した結果の第1の例(比較例1-1)を示す図である。
図9図5及び図6に示した背景技術による処理を実行した結果の第2の例(比較例1-2)を示す図である。
図10】本発明の第1の実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。
図11図10に示した位置等レポート処理を実行した結果の例(実施例1-1)を示す図である。
図12】本発明の第1の実施の形態の第1の変形例によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。
図13図12に示した位置等レポート処理を実行した結果の例(実施例1-2)を示す図である。
図14】本発明の第1の実施の形態の第2の変形例によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。
図15図14に示した本変形例による処理を実行した結果の例(実施例1-3)を示す図である。
図16】本発明の第2の実施の形態の背景技術によるセンサシステムが実行する状態レポート処理を示す図である。
図17図16に示した背景技術による処理を実行した結果の第1の例(比較例2-1)を示す図である。
図18図16に示した背景技術による処理を実行した結果の第2の例(比較例2-2)を示す図である。
図19】本発明の第2の実施の形態によるセンサシステムが実行する状態レポート処理を示す図である。
図20】、図19に示した本実施の形態による状態レポート処理を実行した結果の例(実施例2)を示す図である。
図21】本発明の第3の実施の形態によるタブレット端末20を示す図である。
図22図21に示したタブレット端末20の内部構成を示す図である。
図23】本発明の第3の実施の形態の課題を説明する図である。
図24】本発明の第3の実施の形態の背景技術による処理を実行した結果の例(比較例3)を示す図である。
図25】本発明の第3の実施の形態によるセンサシステムが実行する状態レポート処理を示す図である。
図26】本発明の第3の実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。
図27図25及び図26に示した本発明の第3の実施の形態による処理を実行した結果の例(実施例3)を示す図である。
図28】本発明の第4の実施の形態の背景技術による処理を実行した結果の例(比較例4)を示す図である。
図29】本発明の第4の実施の形態によるセンサシステムが実行する状態レポート処理を示す図である。
図30】本発明の第4の実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。
図31図29及び図30に示した本発明の第4の実施の形態による処理を実行した結果の例(実施例4)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態によるノートパソコン1を示す図である。同図に示すように、ノートパソコン1は、筐体2、ディスプレイ3、キーボード4、及びタッチパッド5を有して構成される。また、図2は、ノートパソコン1の内部構成を示す図である。同図には、タッチパッド5に関係する部分のみを示している。図2に示すように、ノートパソコン1の内部には、ホストプロセッサ7が設けられる。
【0018】
ホストプロセッサ7は、ノートパソコン1の各部を制御する中央処理装置であり、図示しないメモリ内に記憶されたプログラムを読み出して実行する役割を果たす。ホストプロセッサ7が実行するプログラムには、ノートパソコン1のオペレーティングシステム、各種の描画アプリケーション、各種の通信プログラムなどが含まれる。
【0019】
ディスプレイ3は、ホストプロセッサ7の制御に従って視覚的情報を出力するための出力手段である。キーボード4及びタッチパッド5は、ユーザの入力を受け付け、ホストプロセッサ7に供給する役割を果たす入力手段である。ノートパソコン1には、この他にも、通常のコンピュータが有する各種の入出力手段及び通信手段が設けられる。
【0020】
図3(a)(b)は、タッチパッド5の近傍における筐体2の断面図である。タッチパッド5は上述したクリックパッドであり、タッチパネル5aと、支点5bと、クリックボタン5cとを有して構成される。タッチパッド5は全体として筐体2に設けられた長方形の凹部2cの中に埋め込まれており、初期状態では、タッチパネル5aの表面は筐体2の表面と平行の状態に維持されている。
【0021】
図3(a)から理解されるように、タッチパッド5は上述したペン入力及びタッチ入力の両方に対応している。ペン入力は、ユーザがタッチパネル5a上でスタイラスSのペン先を摺動させ、その軌跡を後述するセンサコントローラ11(図2を参照)が検出することによって実現される。また、タッチ入力は、ユーザがタッチパネル5a上で自身の指Fを摺動させ、その軌跡を後述するセンサコントローラ11(図2を参照)が検出することによって実現される。
【0022】
支点5b及びクリックボタン5cはそれぞれ、垂直方向には、タッチパネル5aの下面と凹部2cの底面の間に配置される。また、支点5b及びクリックボタン5cはそれぞれ、水平方向には、ノートパソコン1のユーザから見て凹部2cの奥側及び手前側に配置される。スタイラスS又は指Fによってタッチパネル5aの上面のうちクリックボタン5cの上方の近傍領域に圧力が加わると、図3(b)に示すようにタッチパネル5aの一部が沈み、沈下量が一定量以上になるとクリックボタン5cが押下される。このようにしてクリックが実現されるが、タッチパネル5aの一部が沈んでいるとき、図3(b)に示すように、タッチパネル5aと筐体2の間に段差5dが発生する。この段差5dはごく小さなものなので、相対的に太い指Fによるタッチ入力を行う場合には何ら問題を生じないが、相対的に細いスタイラスSのペン先を用いてペン入力を行う場合には、上述した誤操作の原因となる。
【0023】
図4は、本実施の形態の変形例によるノートパソコン1aを構成する筐体2の断面図である。本変形例によるノートパソコン1aは、クリックパッドであるタッチパッド5に代え、ディスクリート型又はプレッシャーパッドであるタッチパッド6を有する点で、本実施の形態によるノートパソコン1と相違する。タッチパッド6はタッチパッド5のように沈むことはないが、タッチパッド6と凹部2cの側面との間に、図示したような僅かな溝6aや、図示しない段差が存在する場合がある。これらの障害物もごく小さなものなので、相対的に太い指Fによるタッチ入力を行う場合には何ら問題を生じないが、相対的に細いスタイラスSのペン先を用いてペン入力を行う場合には、上述した誤操作の原因となる。以下ではタッチパッド5に着目して説明するが、本発明は、タッチパッド6にも同様に適用できる。
【0024】
図2に戻り、タッチパッド5は、各複数のセンサ電極10x,10yを含むセンサ10と、センサコントローラ11と、各センサ電極10xをセンサコントローラ11に接続するための複数のルーティング線12xと、各センサ電極10yをセンサコントローラ11に接続するための複数のルーティング線12yと、各ルーティング線12x,12yを外部環境から切り離すためのガード配線LGとを含んで構成される。
【0025】
センサコントローラ11は、複数の処理を実行可能に構成された集積回路である。センサコントローラ11によって実行される処理には、タッチパネル5aのパネル面内におけるスタイラスS及び指Fの位置を検出するとともに、スタイラスSが送信したデータを受信し、検出した位置及び受信したデータをホストプロセッサ7に出力する処理が含まれる。本明細書では、この出力を「レポート」と称する場合がある。センサコントローラ11及びホストプロセッサ7は本発明によるセンサシステムを構成しており、後述する各処理はセンサコントローラ11及びホストプロセッサ7のいずれか一方又は両方により実行される。
【0026】
センサコントローラ11とスタイラスSとは、センサ10を介して双方向に通信可能に構成される。以下では、センサコントローラ11がスタイラスSに対して送信する信号を「アップリンク信号」と称し、スタイラスSがセンサコントローラ11に対して送信する信号を「ダウンリンク信号」と称する。センサコントローラ11とスタイラスSの間の通信の詳細については、後ほど図5及び図6を参照して詳しく説明する。
【0027】
図2に示すように、タッチパッド5は有効領域R1及び検出可能領域R2を有して構成される。有効領域R1は、タッチパネル5aのパネル面に相当する領域である。一方、検出可能領域R2は、センサコントローラ11がスタイラスSを検出可能な領域のうち有効領域R1の領域である。検出可能領域R2は、有効領域R1を取り囲むように配置される。
【0028】
以下、初めに本実施の形態の背景技術による処理を説明した後、本実施の形態によるセンサシステムが実行する処理について、詳しく説明する。
【0029】
図5は、本実施の形態の背景技術によるセンサシステムが実行する処理を示す図である。同図には、センサコントローラ11が新たなスタイラスSとペアリングし、そのスタイラスSの状態や位置等を取得して、ホストプロセッサ7にレポートする処理を示している。また、図6(a)は、図5のステップS108で実行される「状態レポート処理」の詳細を示す図であり、図6(b)は、図5のステップS111で実行される「位置等レポート処理」の詳細を示す図である。
【0030】
初めに、センサコントローラ11によって、センサ10を介してアップリンク信号が送信される(ステップS100)。センサコントローラ11は、このアップリンク信号の送信を定期的に行い、その都度、ダウンリンク信号の受信動作を実行する(ステップS101)。
【0031】
センサコントローラ11は、ステップS101で実行した受信動作の結果としてダウンリンク信号を受信したか否かを判定し(ステップS102)、受信していないと判定した場合には、ステップS100に戻って処理を繰り返す。一方、受信したと判定した場合、センサコントローラ11は、ダウンリンク信号の送信元であるスタイラスSとの間でペアリングを実施する(ステップS103)。具体的に説明すると、センサコントローラ11は、スタイラスSに割り当てる通信リソース(時間スロット、周波数、拡散符号など)と、スタイラスSに割り当てるローカルIDとを決定し、これらを示すアップリンク信号を送信する。また、センサコントローラ11は、このアップリンク信号への応答として送信されたダウンリンク信号により、スタイラスSからペンIDを受信する。こうしてペンIDが受信できた場合、センサコントローラ11は、受信したペンIDと、割り当てた通信リソースを示す情報とを、割り当てたローカルIDに対応付けて記憶する。ここまでの処理が完了することにより、ペアリング成功となる。センサコントローラ11とペアリングしたスタイラスSには、割り当てられた通信リソース及びローカルIDが保存される。
【0032】
センサコントローラ11は、ステップS103の終了後、スタイラスSとのペアリングが成功したか否かを判定し(ステップS104)、失敗したと判定した場合には、ステップS100に戻って処理を繰り返す。一方、成功したと判定した場合、センサコントローラ11は、以下で説明する処理のための初期設定を行う(ステップS105)。具体的には、後述するペアリング解除フラグの値を初期値Falseに設定するなどの処理を行う。
【0033】
続いてセンサコントローラ11は、アップリンク信号を送信する(ステップS106)。このアップリンク信号は、ペアリング中のスタイラスSに割り当てたローカルIDと、このスタイラスSに対する命令を示すコマンド信号とを含み得る。アップリンク信号を受信したスタイラスSは、アップリンク信号の受信タイミングと、予め記憶しておいた通信リソースとに基づいて決定されるタイミングでダウンリンク信号を送信する。また、アップリンク信号が自身に割り当てられたローカルIDを含むコマンド信号を含んでいた場合には、そのコマンド信号によって指示された処理を行う。
【0034】
ダウンリンク信号には、センサコントローラ11がスタイラスSの位置を検出するための位置信号と、スタイラスSのペン先に加わっている圧力を示す筆圧値とが含まれる。スタイラスSは、この筆圧値を検出するための圧力センサを有して構成される。圧力センサによって検出される筆圧値は、スタイラスSのペン先がパネル面に接触していない場合に0となり、接触していない場合に0より大きい値となる。コマンド信号が特定のデータの送信を要求するものであった場合には、そのデータもダウンリンク信号に含まれる。
【0035】
センサコントローラ11は、スタイラスSがダウンリンク信号を送信するタイミングで、ダウンリンク信号の受信動作を実行する(ステップS107。受信ステップ)。そして、まず初めに状態レポート処理を実行する(ステップS108)。
【0036】
状態レポート処理について、図6(a)を参照しながら説明する。状態レポート処理を開始したセンサコントローラ11は、図6(a)に示すように、ステップS107を実行した結果としてダウンリンク信号を受信したか否かを判定する(ステップS120)。受信したと判定した場合、センサコントローラ11は、各複数のセンサ電極10x,10yそれぞれにおける位置信号の受信強度に基づいてスタイラスSの位置x,yを取得するとともに、ダウンリンク信号に含まれる筆圧値Pを取得する(ステップS121。取得ステップ)。そして、0から0より大きい値への筆圧値Pの変化を検出したか否かを判定し(ステップS122)、検出したと判定した場合には、ペンダウン(スタイラスSがタッチパネル5aのパネル面に接触したこと)の発生を示すペンダウン情報を、ローカルIDと関連付けてホストプロセッサ7に出力する(ステップS123。状態出力ステップ)。検出していないと判定した場合には、状態レポート処理を終了する。
【0037】
ステップS120でダウンリンク信号を受信していないと判定した場合のセンサコントローラ11は、ペンアップ(スタイラスSがタッチパネル5aのパネル面から離脱したこと)の発生を示すペンアップ情報を、ローカルIDと関連付けてホストプロセッサ7に出力し(ステップS125。状態出力ステップ)、さらにペアリング解除フラグの値をTrueに設定したうえで(ステップS126)、状態レポート処理を終了する。
【0038】
図5に戻る。状態レポート処理を終了したセンサコントローラ11は、ペアリング解除フラグの値を判定する(ステップS109)。その結果、ペアリング解除フラグの値がTrueであった場合、センサコントローラ11は、スタイラスSとのペアリングを解除する(ステップS110。ペアリング解除ステップ)。具体的には、割り当てたローカルIDに対応付けて記憶していたペンID及び通信リソースを示す情報を削除する。センサコントローラ11はその後、ステップS100に戻って処理を繰り返す。一方、ステップS109でFalseと判定した場合、センサコントローラ11は、位置等レポート処理を実行したうえで(ステップS111)、ステップS106に処理を戻す。
【0039】
位置等レポート処理について、図6(b)を参照しながら説明する。位置等レポート処理を開始したセンサコントローラ11は、図6(b)に示すように、まずステップS102で取得した位置x,yが有効領域R1内の位置であるか否かを判定する(ステップS130)。その結果、有効領域R1内の位置であると判定した場合、センサコントローラ11は、ローカルIDに関連付けて位置x,y及び筆圧値Pをホストプロセッサ7に出力し(ステップS131。位置等出力ステップ)、処理を終了する。一方、有効領域R1内の位置でないと判定した場合、センサコントローラ11は、位置x,yに対応する有効領域R1内の位置(対応位置)を取得し、ローカルID及び筆圧値Pとともにホストプロセッサ7に出力する(ステップS132)。
【0040】
図7は、有効領域R1内の対応位置について説明する図である。同図においては、有効領域R1の長手方向をx方向とし、x方向と直交する方向をy方向としている。また、有効領域R1のx方向一方端のx座標、x方向他方端のx座標、y方向一方端のy座標、及びy方向他方端のy座標をそれぞれ、x、x、y、yとしている。さらに、検出可能領域R2のx方向他方端(x側の端部)のx座標をx(>x)としている。
【0041】
センサコントローラ11は、ステップS121で取得した位置xをx及びxと比較する。その結果、xがxより小さい場合にはxをxで置き換え、xがxより大きい場合にはxをxで置き換える。また、センサコントローラ11は、ステップS121で取得した位置yをy及びyと比較し、yがyより小さい場合にはyをyで置き換え、yがyより大きい場合にはyをyで置き換える。位置x,yに対応する有効領域R1内の対応位置は、こうして置換処理を行った結果として得られる位置である。
【0042】
図8は、図5及び図6に示した背景技術による処理を実行した結果の第1の例(比較例1-1)を示す図である。同図に示した時刻t~t14は、スタイラスSによるダウンリンク信号の送信タイミングに対応している。本比較例によるスタイラスSは、時刻tから時刻tにかけて有効領域R1の上方からタッチパネル5aのパネル面に接近し、時刻t,tの間でパネル面に接触した後、接触状態を維持したまま、時刻t,tの間で検出可能領域R2に移動し、さらに、時刻t10,t11の間で有効領域R1に戻り、その後、時刻t12の経過後にパネル面から離脱する。なお、同図に示す位置x、x、x、y、yは、図7に示した例による。
【0043】
スタイラスSがパネル面に接近すると、センサコントローラ11は、上述したペアリングの後、時刻tで位置x,y及び筆圧値Pを取得できるようになる。この時点でスタイラスSのペン先はまだパネル面に接触していないことから、筆圧値Pは0である。また、スタイラスSが有効領域R1の上方にあることから、検出される位置x,yはx≦x≦x,y≦y≦yを満たす。
【0044】
その後、時刻t,tの間でスタイラスSのペン先が有効領域R1に接触すると、時刻tで筆圧値Pが0より大きい値に変化する。続いて時刻t,tの間でスタイラスSのペン先が検出可能領域R2に移動すると、時刻tで、検出される位置x,yが検出可能領域R2内の位置に変化する。図8には、位置xがx≦x≦xを満たす値に変化した場合を示している。その後、時刻t10,t11の間でスタイラスSのペン先が再び有効領域R1に戻ってくると、時刻t11で、検出される位置x,yが有効領域R1内の位置に戻る。
【0045】
さらに、時刻t12,t13の間でスタイラスSのペン先がパネル面を離脱すると、時刻t13で筆圧値Pが0に変化する。そして、時刻t13,t14の間でスタイラスSとパネル面の間の距離が拡大すると、時刻t14でダウンリンク信号がセンサ10に届かなくなり、センサコントローラ11は位置x,y及び筆圧値Pを取得できなくなる。
【0046】
位置x,y及び筆圧値Pを取得できている時刻tから時刻t13までの間、センサコントローラ11からホストプロセッサ7には、ローカルIDに関連付けて位置x,y及び筆圧値Pが出力され続ける。ただし、スタイラスSのペン先が検出可能領域R2内にある時刻tから時刻t10までの間には、取得した位置x,yに代え、有効領域R1内の対応位置の座標が出力される。この例では、図8に示すように、位置x,yが出力されることになる。
【0047】
また、センサコントローラ11は、筆圧値Pが0より大きい値に変化した時刻tにおいて、ホストプロセッサ7に対してペンダウン情報を出力する。センサコントローラ11はさらに、ダウンリンク信号が受信できなくなった時刻t14において、ホストプロセッサ7に対してペンアップ情報を出力する。
【0048】
ここで、本実施の形態によるホストプロセッサ7は、センサコントローラ11から供給される筆圧値Pに基づき、スタイラスSの状態を判定するように構成される。具体的には、筆圧値Pが0である場合にはペンアップの状態であると判定し、筆圧値Pが0から0より大きい値に変化した場合にはペンダウンが発生したと判定する。筆圧値Pが0より大きい値が継続している間には、ホストプロセッサ7は、スタイラスSがパネル面上で摺動していることを示すペンムーブの状態にあると判定する。こうして判定された状態は、ホストプロセッサ7により、画面に表示しているカーソルの移動、タップ操作、ストロークデータの生成及び描画などのために利用される。
【0049】
また、本実施の形態によるホストプロセッサ7は、センサコントローラ11からペンアップ情報が供給された場合に、そのスタイラスSに関する処理を終了するように構成される。その後、再度同じスタイラスSが使われたとしても、ホストプロセッサ7によるストロークデータ生成などの処理は、以前の処理とは別の処理として実行されることになる。
【0050】
図9は、図5及び図6に示した背景技術による処理を実行した結果の第2の例(比較例1-2)を示す図である。本比較例は、スタイラスSが時刻tからtにかけて図3(b)に示した段差5dを通過する点で比較例1-1と相違し、その他の点では比較例1-1と同様である。
【0051】
ペン先が段差5dを通過している間、センサコントローラ11によって取得される筆圧値Pは0となり、また、段差5dの通過直後には、筆圧値Pは一時的に大きな値となる。このように筆圧値Pが一時的に大きな値になっていることを、図9及び後掲の各図では「P>>0」と書き表している。
【0052】
時刻tで筆圧値Pが0から0より大きい値に変化していることから、ホストプロセッサ7は、時刻tでペンダウンを検出する。このペンダウンは、障害物の通過によって生じたものであって、ユーザが意図して起こしたものではない。加えて、時刻tでホストプロセッサ7に供給されている位置は、スタイラスSのペン先の実際の位置(検出可能領域R2内の位置)ではなく、有効領域R1内の対応位置に置換されている。したがって、もし有効領域R1内の対応位置に対応するディスプレイ3内の位置に「閉じる」ボタンなどの操作可能なGUI(Graphical User Interface)が表示されていると、意図せずしてタップ操作が発生し、ユーザによって誤操作と認識されることになる。
【0053】
本実施の形態によるセンサシステムは、取得した位置x,yが有効領域R1の外にある場合に、ホストプロセッサ7に対してペンダウンの発生を隠蔽することにより、以上のような誤操作の発生を防止するものである。以下、そのために本実施の形態によるセンサシステムが行う処理について、詳しく説明する。
【0054】
図10は、本実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。同図を図6(b)と比較すると理解されるように、本実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理は、ステップS1~S5が追加されている点で、背景技術によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理と相違する。以下、相違点を中心に説明する。
【0055】
図10に示すように、本実施の形態によるセンサシステムは、ステップS131の実行後に出力代替フラグの値をFalseに設定する(ステップS1)。この出力代替フラグは、センサコントローラ11が図6(a)のステップS121で取得した筆圧値Pをそのままレポートする場合にFalse、それ以外の場合にTrueとなる変数である。出力代替フラグの初期値はFalseであり、図5のステップS105において初期設定される。
【0056】
また、本実施の形態によるセンサシステムは、ステップS130において位置x,yが有効領域R1内の位置でないと判定した場合、まず筆圧値Pが0であるか否かを判定する(ステップS2)。そして、筆圧値Pが0であると判定した場合には、出力代替フラグの値をTrueに設定したうえで(ステップS3)、ステップS4に処理を進める。筆圧値Pが0でないと判定した場合には、センサシステムは、出力代替フラグの値を変更することなくステップS4に処理を進める。
【0057】
ステップS4では、センサシステムは、出力代替フラグの値を判定する(ステップS4)。その結果、出力代替フラグの値はFalseであると判定した場合、ペアリング時に割り当てたローカルIDに関連付けて、有効領域R1内の対応位置及び筆圧値Pをホストプロセッサ7に出力する(ステップS132)。一方、出力代替フラグの値はTrueであると判定した場合、センサシステムは、筆圧値Pの出力を制限する。具体的には、ペアリング時に割り当てたローカルIDに関連付けて、有効領域R1内の対応位置及び筆圧値0(すなわち、非接触を示す筆圧値)をホストプロセッサ7に出力する(ステップS5)。これにより、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にあり、かつ、筆圧値Pが一度でも0になった後は、スタイラスSのペン先が有効領域R1に戻るまでの間、筆圧値Pに代えて筆圧値0がレポートされることになる。
【0058】
図11は、図10に示した位置等レポート処理を実行した結果の例(実施例1-1)を示す図である。本実施例におけるスタイラスSの動きは、図9に示した比較例1-2のものと同一である。本実施例と比較例1-2との違いは、スタイラスSの動きを受けてセンサコントローラ11がホストプロセッサ7に出力するデータの内容が異なる点にある。
【0059】
詳しく説明すると、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にあり、かつ、筆圧値Pが0になった時刻tからスタイラスSのペン先が有効領域R1に戻るまでの間までの間、比較例1-2では筆圧値Pがそのまま出力されているが、本実施例では筆圧値0が出力されている。したがって、時刻tにおける筆圧値Pの急上昇に応じてホストプロセッサ7がペンダウンを発生させてしまうことが防止される。
【0060】
以上説明したように、本実施の形態によるセンサシステムによれば、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合に、ユーザの意図に反してペンダウンが発生することを防止できる。したがって、ディスプレイ3の端に表示されている「閉じる」ボタンの誤タップなど、検出可能領域R2内に存在する段差や溝などの障害物に起因する誤操作の発生を防止することが可能になる。
【0061】
ここで、本実施の形態にはいくつかの変形例が考えられる。以下、本実施の形態の第1及び第2の変形例について、図面を参照しながら説明する。
【0062】
図12は、本実施の形態の第1の変形例によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。同図を図10と比較すると理解されるように、本変形例によるセンサシステムは、ステップS5を実行しないことによって筆圧値Pの出力を制限する点で、本実施の形態によるセンサシステムと相違する。ステップS5を実行しないので、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にあるときに一旦筆圧値Pが0になると、その後は、スタイラスSのペン先が有効領域R1内に戻るまで、位置x,y及び筆圧値Pがホストプロセッサ7に供給されないことになる。したがって、本実施の形態と同様に、時刻tにおける筆圧値Pの急上昇に応じてホストプロセッサ7がペンダウンを発生させてしまうことが防止される。
【0063】
図13は、図12に示した位置等レポート処理を実行した結果の例(実施例1-2)を示す図である。本実施例におけるスタイラスSの動きも、図9に示した比較例1-2のものと同一である。図13に示すように、本実施例では、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にあり、かつ、筆圧値Pが0になった時刻tからスタイラスSのペン先が有効領域R1に戻るまでの間、ホストプロセッサ7への位置x,y及び筆圧値Pのレポートが停止される。レポートが停止している間、ホストプロセッサ7はスタイラスSの状態を維持しつつレポートの再開を待機し、レポートが再開された後、画面に表示しているカーソルの移動、ストロークデータの生成及び描画などの処理を再開する。
【0064】
以上説明したように、本変形例によるセンサシステムによっても、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合にペンダウンが発生することを防止できる。したがって、本実施の形態と同様、ディスプレイ3の端に表示されている「閉じる」ボタンの誤タップなど、検出可能領域R2内に存在する段差や溝などの障害物に起因する誤操作の発生を防止することが可能になる。
【0065】
図14は、本実施の形態の第2の変形例によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。同図を図10と比較すると理解されるように、本変形例によるセンサシステムは、ステップS131とステップS1の間にステップS10を実行し、ステップS132の後にステップS11を実行し、ステップS5に代えてステップS12を実行する点で、本実施の形態によるセンサシステムと相違する。
【0066】
ステップS10,S11はそれぞれ、変数Paに筆圧値Pを代入するステップである。変数Paは、筆圧値Pを一時保存するための変数である。変数Paの初期値は0であり、図5のステップS105において初期設定される。ステップS12は、筆圧値0に代えて筆圧値Pa(第1の値)を出力することによって筆圧値Pの出力を制限する点で、図10に示したステップS5と相違する。これらの処理によれば、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にあるときに一旦筆圧値Pが0になると、その後は、スタイラスSのペン先が有効領域R1内に戻るまで、新たに取得された筆圧値Pに代えて、筆圧値Pが0になる直前の筆圧値Pa(>0)が出力されることになる。したがって、本実施の形態と同様に、時刻tにおける筆圧値Pの急上昇に応じてホストプロセッサ7がペンダウンを発生させてしまうことが防止される。
【0067】
図15は、図14に示した位置等レポート処理を実行した結果の例(実施例1-3)を示す図である。本実施例におけるスタイラスSの動きも、図9に示した比較例1-2のものと同一である。図15に示すように、本実施例では、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にあり、かつ、筆圧値Pが0になった時刻tからスタイラスSのペン先が有効領域R1に戻るまでの間、筆圧値Pに代えて筆圧値Paがホストプロセッサ7にレポートされる。したがって、段差や溝などの障害物の影響で急上昇した時刻t9の筆圧値Pは、ホストプロセッサ7にレポートされないことになる。
【0068】
以上説明したように、本変形例によるセンサシステムによっても、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合にペンダウンが発生することを防止できる。したがって、本実施の形態と同様、ディスプレイ3の端に表示されている「閉じる」ボタンの誤タップなど、検出可能領域R2内に存在する段差や溝などの障害物に起因する誤操作の発生を防止することが可能になる。
【0069】
なお、本実施の形態において、後述する第2の実施の形態と同様に、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合にペンダウンの出力を行わないこととしてもよい。こうすることで、万一何らかのアプリケーションがセンサコントローラ11から供給されるペン状態に応じた処理を行っていたとしても、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合にペンダウンが発生することを防止可能となる。
【0070】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態によるセンサシステムについて、説明する。本実施の形態によるセンサシステムは、センサコントローラ11がペンアップを出力するタイミングの点で第1の実施の形態によるセンサシステムと異なる。また、ホストプロセッサ7が行う処理も、第1の実施の形態で説明したものと異なる。以下、相違点に着目して説明する。
【0071】
図16は、本実施の形態の背景技術によるセンサシステムが実行する状態レポート処理を示す図である。同図に示す状態レポート処理は、ステップS125が行われない点、及び、ステップS127,S128が追加されている点で、図6(a)に示した状態レポート処理と相違する。
【0072】
本背景技術によるセンサシステムは、ステップS122,S123の処理が終了した後、0より大きい値から0への筆圧値Pの変化を検出したか否かを判定し(ステップS127)、検出したと判定した場合には、上述したペンアップ情報をローカルIDと関連付けてホストプロセッサ7に出力する(ステップS128。状態出力ステップ)。検出していないと判定した場合には、状態レポート処理を終了する。
【0073】
本実施の形態によるホストプロセッサ7は、第1の実施の形態によるホストプロセッサ7とは異なり、センサコントローラ11から供給されるペン状態(ペンアップ又はペンダウン)をスタイラスSの状態として利用するように構成される。すなわち、本実施の形態によるホストプロセッサ7は、センサコントローラ11から供給されるペン状態に基づいて、画面に表示しているカーソルの移動、タップ操作、ストロークデータの生成及び描画などの処理を行う。
【0074】
図17は、図16に示した背景技術による処理を実行した結果の第1の例(比較例2-1)を示す図である。本比較例によるスタイラスSの動きは、図8に示した比較例1-1のものと同様である。図17に示すように、本比較例では、時刻t13で筆圧値Pが0になったことに応じて、ホストプロセッサ7に対してペンアップ情報がレポートされる。結果として、ホストプロセッサ7が内部に有しているスタイラスSの状態は、図8の比較例1-1と同じものになる。
【0075】
図18は、図16に示した背景技術による処理を実行した結果の第2の例(比較例2-2)を示す図である。本比較例によるスタイラスSの動きは、図9に示した比較例1-2のものと同様である。図18に示すように、本比較例では、時刻t,t13のそれぞれにおいて、ホストプロセッサ7に対しペンアップ情報がレポートされる。結果として、ホストプロセッサ7が内部に有しているスタイラスSの状態は、図9の比較例1-2と同じものになる。
【0076】
ここで、第1の実施の形態においては、筆圧値Pの出力内容の変更又は筆圧値Pの出力停止により、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合のペンダウンの発生を防止していた。しかし、本実施の形態ではホストプロセッサ7の処理が異なるため、第1の実施の形態と同じ方法では、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合のペンダウンの発生を防止できない。そこで本実施の形態によるセンサシステムにおいては、センサコントローラ11からのペン状態の出力を停止することにより、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合のペンダウンの発生を防止する。以下、詳しく説明する。
【0077】
図19は、本実施の形態によるセンサシステムが実行する状態レポート処理を示す図である。同図を図16と比較すると理解されるように、本実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理は、ステップS20が追加されている点で、背景技術によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理と相違する。
【0078】
ステップS20は、ステップS121で取得した位置x,yが有効領域R1内の位置であるか否かを判定するステップである。本実施の形態によるセンサシステムは、このステップS20において有効領域R1内の位置であると判定した場合には、背景技術によるセンサシステムと同様にステップS122,S127の処理を行う一方、有効領域R1内の位置でないと判定した場合には、ステップS122,S127の処理をスキップする。これにより、位置x,yが有効領域R1内の位置でない場合には、センサコントローラ11からホストプロセッサ7にペン状態がレポートされないことになる。
【0079】
図20は、図19に示した状態レポート処理を実行した結果の例(実施例2)を示す図である。本実施例におけるスタイラスSの動きは、図18に示した比較例2-2のものと同一である。本実施例と比較例2-2との違いは、スタイラスSの動きを受けてセンサコントローラ11がホストプロセッサ7に出力するペン状態の内容が異なる点にある。
【0080】
詳しく説明すると、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある時刻tから時刻t10の間、比較例2-2ではペンアップとペンダウンが1回ずつ出力されているが、本実施例では一度も出力されない。したがって、時刻tにおける筆圧値Pの急上昇に応じて、ペンダウンによる操作が発生してしまうことが防止される。
【0081】
以上説明したように、本実施の形態によるセンサシステムによっても、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合に、ユーザの意図に反してペンダウンが発生することを防止できる。したがって、第1の実施の形態と同様に、ディスプレイ3の端に表示されている「閉じる」ボタンの誤タップなど、検出可能領域R2内に存在する段差や溝などの障害物に起因する誤操作の発生を防止することが可能になる。
【0082】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態及びその第1及び第2の変形例で説明したように、ペン先が有効領域R1外にある場合に、筆圧値Pの出力内容の変更又は筆圧値Pの出力停止といった処理を行うこととしてもよい。
【0083】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態によるセンサシステムについて、説明する。
【0084】
図21は、本実施の形態によるタブレット端末20を示す図である。タブレット端末20は上述したデュアルスクリーンモデルであり、ディスプレイ3a(第1のディスプレイ)を有する筐体2aと、ディスプレイ3b(第2のディスプレイ)を有する筐体2bとがヒンジ21を介して接続された構成を有している。筐体2bは、ヒンジ21を中心として、図示した矢印Aに沿って360度回動可能に構成される。
【0085】
ディスプレイ3a,3bはそれぞれ、ペン入力及びタッチ入力の両方に対応して構成される。ペン入力は、ユーザがディスプレイ3a,3b上でスタイラスSのペン先を摺動させ、その軌跡を後述するセンサコントローラ11a,11b(図22を参照)が検出することによって実現される。また、タッチ入力は、ユーザがディスプレイ3a,3b上で自身の指Fを摺動させ、その軌跡を後述するセンサコントローラ11a,11b(図22を参照)が検出することによって実現される。
【0086】
図22は、タブレット端末20の内部構成を示す図である。同図には、ディスプレイ3a,3bのペン入力及びタッチ入力に関係する部分のみを示している。同図に示すように、タブレット端末20もホストプロセッサ7を有して構成される。ホストプロセッサ7は、タブレット端末20の各部を制御する中央処理装置であり、図示しないメモリ内に記憶されたプログラムを読み出して実行する役割を果たす。ホストプロセッサ7が実行するプログラムには、タブレット端末20のオペレーティングシステム、各種の描画アプリケーション、各種の通信プログラムなどが含まれる。
【0087】
また、ディスプレイ3aは、各複数のセンサ電極10xa,10yaを含むセンサ10aと、センサコントローラ11aと、各センサ電極10xaをセンサコントローラ11aに接続するための複数のルーティング線12xaと、各センサ電極10yaをセンサコントローラ11aに接続するための複数のルーティング線12yaと、各ルーティング線12xa,12yaを外部環境から切り離すためのガード配線LGとを含んで構成される。同様に、ディスプレイ3bは、各複数のセンサ電極10xb,10ybを含むセンサ10bと、センサコントローラ11bと、各センサ電極10xbをセンサコントローラ11bに接続するための複数のルーティング線12xbと、各センサ電極10ybをセンサコントローラ11bに接続するための複数のルーティング線12ybと、各ルーティング線12xb,12ybを外部環境から切り離すためのガード配線LGとを含んで構成される。
【0088】
ルーティング線12xa,12xbはそれぞれ、対応するセンサ電極10xa,10xbのy方向の両端のうち、図21に示したヒンジ21から遠い側の端部に接続される。ルーティング線12xa,12xbをこのように構成しているのは、ディスプレイ3a,3bの画面間の距離をできるだけ短くするためである。
【0089】
センサコントローラ11a,11bはそれぞれ、複数の処理を実行可能に構成された集積回路である。センサコントローラ11a,11bによって実行される処理には、ディスプレイ3a,3bのパネル面内におけるスタイラスS及び指Fの位置を検出するとともに、スタイラスSが送信したデータを受信し、検出した位置及び受信したデータをホストプロセッサ7にレポートする処理が含まれる。センサコントローラ11a,11b及びホストプロセッサ7は本発明によるセンサシステムを構成しており、後述する各処理は、センサコントローラ11a,11b及びホストプロセッサ7のいずれか1つ以上により実行される。
【0090】
センサコントローラ11a,11bはそれぞれ、第1の実施の形態によるセンサコントローラ11と同様に、センサ10a,10bを介してスタイラスSと双方向に通信可能に構成される。以下では、センサコントローラ11a,11bがスタイラスSに対して送信する信号を「アップリンク信号」と称し、スタイラスSがセンサコントローラ11a,11bに対して送信する信号を「ダウンリンク信号」と称する。
【0091】
図22に示すように、ディスプレイ3aは、有効領域R1a及び検出可能領域R2aを有して構成される。有効領域R1aは、ディスプレイ3aのパネル面に相当する領域である。検出可能領域R2aは、センサコントローラ11aがスタイラスSを検出可能な領域のうち有効領域R1a外の領域である。検出可能領域R2aは、有効領域R1aを取り囲むように配置される。
【0092】
同様に、ディスプレイ3bは、有効領域R1b及び検出可能領域R2bを有して構成される。有効領域R1bは、ディスプレイ3bのパネル面に相当する領域である。検出可能領域R2bは、センサコントローラ11bがスタイラスSを検出可能な領域のうち有効領域R1b外の領域である。検出可能領域R2bは、有効領域R1bを取り囲むように配置される。
【0093】
検出可能領域R2aと検出可能領域R2bの間には、スタイラスSを検出できない不感領域R3が形成される。不感領域R3内にスタイラスSのペン先がある場合、センサコントローラ11a,11bのいずれも、そのスタイラスSからのダウンリンク信号を受信することはできない。
【0094】
本実施の形態の背景技術によるセンサシステムが実行する処理は、図5及び図6を参照して説明した処理と同様である。なお、本実施の形態の背景技術にかかるセンサコントローラ11a,11b及びホストプロセッサ7は、必要に応じて互いに通信を行うことにより、ディスプレイ3a,3bを1つのタッチ面として取り扱うよう構成される。具体的には、センサコントローラ11a,11bの一方がペアリングしたスタイラスSの情報を、センサコントローラ11a,11bの他方にも共有可能に構成される。
【0095】
また、本実施の形態によるホストプロセッサ7は、第1の実施の形態と同様、センサコントローラ11a,11bから供給される筆圧値Pに基づきスタイラスSの状態を判定するとともに、センサコントローラ11からペンアップ情報がレポートされた場合に、そのスタイラスSに関する処理を終了するように構成される。
【0096】
図23は、本実施の形態の課題を説明する図である。同図には、筐体2bを180度の位置に配置した場合を示しており、同図に示すストロークデータSTは、タブレット端末20のユーザが描きたいと考えるであろうストロークデータの一例である。このストロークデータSTは、ディスプレイ3a,3b間を跨がって、1つのつながった線画を構成している。本実施の形態の背景技術によるセンサシステムによれば、スタイラスSを用いてこのようなストロークデータSTを描こうとしても、ディスプレイ3a,3b間でユーザの意図しないペンアップが発生したり、ペアリングが解除されてしまうことにより、ディスプレイ3a,3bごとに異なる2つのストロークデータになってしまう場合がある。これは、ディスプレイ3a,3b間に存在する段差や溝などの障害物や、不感領域R3の存在によるものである。したがって、本実施の形態によるセンサシステムの課題は、ディスプレイ3a,3b間でユーザの意図しないペンアップやペアリング解除が発生することを防止し、それによって、図23に示すストロークデータSTのように、ディスプレイ3a,3b間を跨がって1本のストロークデータを描けるようにすることにある。
【0097】
図23には、以下の説明で利用する座標も示している。同図に示すように、以下の説明では、有効領域R1a,R1bの配列方向をy方向とし、y方向と直交する方向をx方向とする。また、有効領域R1aのx方向一方端のx座標及びx方向他方端のx座標をそれぞれx、xとする。この場合、有効領域R1bのx方向一方端のx座標及びx方向他方端のx座標もそれぞれx、xとなる。さらに、有効領域R1aのy方向一方端のy座標、有効領域R1aのy方向他方端のy座標、検出可能領域R2aのy方向他方端(有効領域R1b側の端部)のy座標、検出可能領域R2bのy方向一方端(有効領域R1a側の端部)のy座標、有効領域R1bのy方向一方端のy座標、有効領域R1bのy方向他方端のy座標をそれぞれ、y、y、y、y、y、yとする。
【0098】
また、以下の説明では、検出可能領域R2aのうちy≦y≦yを満たす領域を特に特定検出可能領域R2aaと称し、検出可能領域R2bのうちy≦y≦yを満たす領域を特に特定検出可能領域R2baと称する場合がある。図23には、これら特定検出可能領域R2aa,R2baをハッチングにより明示している。
【0099】
図24は、本実施の形態の背景技術による処理を実行した結果の例(比較例3)を示す図である。同図に示した時刻t~t17は、スタイラスSによるダウンリンク信号の送信タイミングに対応している。本比較例によるスタイラスSは、時刻tから時刻tにかけて有効領域R1aの上方からディスプレイ3aに接近し、時刻t,tの間でディスプレイ3aのパネル面に接触した後、接触状態を維持したまま、時刻t,tの間で特定検出可能領域R2aaに移動する。その後、時刻t,tの間で不感領域R3、時刻t10,t11の間で特定検出可能領域R2ba、時刻t13,t14の間で有効領域R1bに順次移動し、時刻t15の経過後にディスプレイ3bのパネル面から離脱する。
【0100】
図24に示すように、スタイラスSがディスプレイ3aに接近すると、センサコントローラ11aは、上述したペアリングの後、時刻tで位置x,y及び筆圧値Pを取得できるようになる。この時点でスタイラスSのペン先はまだパネル面に接触していないことから、筆圧値Pは0である。また、スタイラスSが有効領域R1aの上方にあることから、検出される位置x,yはx≦x≦x,y≦y≦yを満たす。
【0101】
その後、時刻t,tの間でスタイラスSのペン先が有効領域R1aに接触すると、時刻tで筆圧値Pが0より大きい値に変化する。続いて時刻t,tの間でスタイラスSのペン先が特定検出可能領域R2aaに移動すると、時刻tで、検出される位置x,yが特定検出可能領域R2aa内の位置に変化する。
【0102】
図24には、特定検出可能領域R2aa内に段差や溝などの障害物がある場合を示している。この障害物の影響により、時刻tで一時的に筆圧値Pが0になり、時刻tで筆圧値Pが一時的に大きな値となっている。
【0103】
時刻t,tの間でスタイラスSのペン先が不感領域R3に移動すると、センサコントローラ11a,11bのいずれもスタイラスSからのダウンリンク信号を受信できなくなるので、位置x,y及び筆圧値Pのいずれも未検出となる。これにより、図5のステップS110において、一旦スタイラスSとのペアリングが解除されることになる。
【0104】
その後、時刻t10,t11の間でスタイラスSのペン先が特定検出可能領域R2baに入ると、再びペアリングが行われ、時刻t11で、検出される位置x,yが特定検出可能領域R2aa内の位置に変化する。さらに、時刻t13,t14の間でスタイラスSのペン先が有効領域R1bに入ると、時刻t14で、検出される位置x,yが有効領域R1b内の位置に変化する。図23には、特定検出可能領域R2ba内に段差や溝などの障害物がない場合を示しているが、もちろん存在する可能性もあり、その場合には時刻t,tと同様の筆圧値Pの変化が観測されることになる。
【0105】
時刻t15,t16の間でスタイラスSのペン先がパネル面を離脱すると、時刻t16で筆圧値Pが0に変化する。そして、時刻t16,t17の間でスタイラスSとパネル面の間の距離が拡大すると、時刻t17でダウンリンク信号がセンサ10bに届かなくなり、センサコントローラ11bは再び位置x,y及び筆圧値Pを取得できなくなる。
【0106】
時刻tから時刻tまでの間、センサコントローラ11aは、ホストプロセッサ7に対し、第1のローカルID(図24及び後掲の図では「LID1」と記す)に関連付けて位置x,y及び筆圧値Pを出力する。また、時刻t11から時刻t16までの間、センサコントローラ11bは、ホストプロセッサ7に対し、第2のローカルID(図24及び後掲の図では「LID2」と記す)に関連付けて位置x,y及び筆圧値Pを出力する。ただし、スタイラスSのペン先が検出可能領域R2a,R2b内にある時刻tから時刻t及び時刻t11から時刻t13までの間には、取得した位置yに代え、有効領域内の対応位置(位置y又は位置y)が出力される。
【0107】
ホストプロセッサ7は、時刻t,t,t11で筆圧値Pが0より大きい値に変化したことにより、ペンダウンが発生したと判定する。また、筆圧値Pが0である時刻t,t,t,t16では、スタイラスSがペンアップの状態であると判定する。さらに、ダウンリンク信号が受信できなくなった時刻t,t17においてセンサコントローラ11a,11bがペンアップ情報をレポートすることにより、ホストプロセッサ7は、時刻t,t17のそれぞれにおいてスタイラスSに関する処理を終了する。
【0108】
時刻tで発生するペンアップ、及び、時刻tにおけるペアリング解除及びホストプロセッサ7におけるスタイラスSに関する処理の終了は、図23に示したストロークデータSTを描こうとするユーザにとって、意図しないものである。結果として、ユーザの描こうとする線画がユーザの意図に反して途切れてしまうことになる。
【0109】
本実施の形態によるセンサシステムは、取得した位置x,yが有効領域R1の外にある場合に、ホストプロセッサ7に対してペンアップの発生を隠蔽するとともに、ペアリングの解除を猶予することにより、以上のような線画の途切れを防止するものである。以下、そのために本実施の形態によるセンサシステムが行う処理について、詳しく説明する。
【0110】
図25は、本実施の形態によるセンサシステムが実行する状態レポート処理を示す図である。同図を図6(a)と比較すると理解されるように、本実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理は、ステップS30~S34が追加されている点で、背景技術によるセンサシステムが実行する状態レポート処理と相違する。以下、相違点を中心に説明する。
【0111】
図25に示すように、本実施の形態によるセンサシステムは、ダウンリンク信号を受信できなかったとステップS120において判定した場合、まずスタイラスSのペン先がディスプレイ3aとディスプレイ3bの画面間(パネル面間)の領域に位置しているか否かを判定する(ステップS30。判定ステップ)。センサシステムは、最後に取得されていた位置x,yが特定検出可能領域R2aa,R2baのいずれかにある場合にステップS30の判定結果を肯定とし、それ以外の場合にステップS30の判定結果を否定とすればよい。
【0112】
ステップS30で否定的な結果を得たセンサシステムは、図6(a)を参照して説明したステップS125,S126を実行し、状態レポート処理を終了する。これにより、図5のステップS110においてスタイラスSとのペアリングが解除されることになる。
【0113】
一方、ステップS30で肯定的な結果を得たセンサシステムは、変数Nが所定値Kより大きいか否かを判定する(ステップS32)。変数Nの初期値は0であり、図5のステップS105において初期設定される。ステップS32で所定値Kより大きいと判定した場合、センサシステムはステップS125,S126を実行し、状態レポート処理を終了する。これにより、図5のステップS110においてスタイラスSとのペアリングが解除される。一方、ステップS30で所定値Kより大きくないと判定したセンサシステムは、変数Nを1インクリメントする(ステップS32)。これらの処理により、所定値Kより規定される所定期間だけ、ペンアップ情報の出力とペアリングの解除の実行が猶予されることになる。
【0114】
センサシステムは、ステップS32を終了したら直ちに状態レポート処理を終了してもよいが、図25に破線で示すように、ホストプロセッサ7に対し、前回と同じ値により、ローカルIDに関連付けて位置x,y及び筆圧値Pを出力することとしてもよい(ステップS33。前回値出力ステップ)。こうすることで、スタイラスSのペン先が不感領域R3内にある場合でも、ホストプロセッサ7に有効な位置x,y及び筆圧値Pを出力し続けることが可能になる。
【0115】
また、本実施の形態によるセンサシステムは、ダウンリンク信号を受信したとステップS120において判定した場合、ステップS121において位置x,y及び筆圧値Pを取得するとともに、上述した変数Nに0を代入する(ステップS34)。その後は、図6(a)と同様にステップS122,S123の処理を実行し、状態レポート処理を終了する。
【0116】
図26は、本実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。同図を図14と比較すると理解されるように、本実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理は、図14に示した第1の実施の形態の第2の変形例による位置等レポート処理に、ステップS40~S44を追加したものとなっている。以下、図14との相違点を中心に説明する。
【0117】
本実施の形態によるセンサシステムは、ステップS2,S3にかかる処理の実行後、スタイラスSのペン先がディスプレイ3aとディスプレイ3bの画面間(パネル面間)の領域に位置しているか否かを判定する(ステップS40)。これは、図25に示したステップS30と同様の処理である。
【0118】
ステップS40で否定的な結果を得たセンサシステムは、図14と同様に、ステップS4,S132,S11,S12の処理を行う。一方、ステップS40で肯定的な結果を得たセンサシステムは、まず出力代替フラグの値を判定する(ステップS41)。その結果、出力代替フラグの値はFalseであると判定した場合、ペアリング時に割り当てたローカルIDに関連付けて、位置x,y及び筆圧値Pをホストプロセッサ7に出力する(ステップS42)。そして変数Paに筆圧値Pを代入し(ステップS43)、位置等レポート処理を終了する。一方、出力代替フラグの値はTrueであると判定したセンサシステムは、ペアリング時に割り当てたローカルIDに関連付けて、位置x,y及び筆圧値Paをホストプロセッサ7に出力する(ステップS44)。
【0119】
以上の処理によれば、スタイラスSのペン先が有効領域R1a,R1b外であって特定検出可能領域R2aa,R2ba外でもある領域に存在するときには、第1の実施の形態の第2の変形例と同様に、筆圧値Pが0になるまでは有効領域R1a,R1b内の対応位置及び筆圧値Pが出力され、一旦筆圧値Pが0になると、その後は、新たに取得された筆圧値Pに代えて、筆圧値Pが0になる直前の筆圧値Pa(>0)が有効領域R1a,R1b内の対応位置とともに出力されることになる。一方、スタイラスSのペン先が特定検出可能領域R2aa,R2ba内に存在するときには、筆圧値については上記と同様である一方で、有効領域R1a,R1b内の対応位置ではなく、図25のステップS121で取得された位置x,yが出力されることになる。
【0120】
図27は、図25及び図26に示した本実施の形態による処理を実行した結果の例(実施例3)を示す図である。本実施例におけるスタイラスSの動きは、図24に示した比較例3のものと同一である。図27に示すように、本実施例においては、スタイラスSのペン先が不感領域R3内にある時刻t,t10でペンアップ情報が出力されず、ペアリングも解除されない。また、スタイラスSのペン先が有効領域R1a,R1b外にある時刻tから時刻t13の間、一旦筆圧値Pが0になった時刻tの後は、筆圧値Pに代えて、筆圧値Pa(=時刻tにおける筆圧値P)がホストプロセッサ7に供給される。したがって、時刻tでペアリングが解除され、ホストプロセッサ7におけるスタイラスSに関する処理が一旦終了してしまうことがなく、また、時刻tでホストプロセッサ7がペンアップを発生させることもないので、図23に示したストロークデータSTがディスプレイ3a,3bの間で途切れてしまうことが防止される。
【0121】
また、本実施の形態によれば、スタイラスSのペン先が特定検出可能領域R2aa内にある時刻tから時刻t、及び、特定検出可能領域R2baにある時刻t11から時刻t13の間、有効領域R1a,R1b内の対応位置ではなく、特定検出可能領域R2aa,R2ba内の座標がホストプロセッサ7に供給されるので、ホストプロセッサ7は、ディスプレイ3a,3bに跨がるストロークデータを滑らかに生成することができる。さらに、本実施の形態によれば、スタイラスSのペン先が不感領域R3内にある時刻tから時刻t10の間、前回と同じ値によりローカルIDに関連付けて位置x,y及び筆圧値Pを出力し続けることができ、そうすることでホストプロセッサ7は、ディスプレイ3a,3bに跨がるストロークデータをより滑らかに生成することが可能になる。
【0122】
以上説明したように、本実施の形態によるセンサシステムによれば、スタイラスSのペン先が画面間にある場合にペンアップが発生せず、ペアリングも解除されないので、ディスプレイ3a,3bの間を跨がって1本の線画を描くことが可能になる。また、スタイラスSのペン先が特定検出可能領域R2aa,R2ba内にある間、有効領域R1a,R1b内の対応位置ではなく特定検出可能領域R2aa,R2ba内の座標がホストプロセッサ7に供給されるとともに、スタイラスSのペン先が不感領域R3内にある間、位置x,y及び筆圧値Pを出力し続けることもできるので、ディスプレイ3a,3bに跨がるストロークデータを滑らかに生成することが可能になる。
【0123】
また、本実施の形態によるセンサシステムによれば、画面間以外の領域に関しては、第1の実施の形態等と同様に、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合に、ユーザの意図に反してペンダウンが発生することを防止できる。したがって、ディスプレイ3a,3bの端に表示されている「閉じる」ボタンの誤タップなど、検出可能領域R2a,R2b内に存在する段差や溝などの障害物に起因する誤操作の発生を防止することが可能になる。
【0124】
なお、本実施の形態においては、図26のステップS44,S12で筆圧値Paを出力することとしたが、第1の実施の形態のように筆圧値0を出力することとしてもよいし、第1の実施の形態の第1の変形例のように筆圧値を出力しないこととしてもよい。
【0125】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態によるセンサシステムについて、説明する。本実施の形態によるセンサシステムは、センサコントローラ11がペンアップ情報を出力するタイミングの点で第3の実施の形態によるセンサシステムと異なる。また、ホストプロセッサ7が行う処理も、第3の実施の形態で説明したものと異なる。以下、相違点に着目して説明する。
【0126】
本実施の形態の背景技術によるセンサシステムが行う処理は、図16を参照して説明した第2の実施の形態の背景技術によるセンサシステムが行う処理と同一である。本実施の形態によるホストプロセッサ7も、第2の実施の形態によるホストプロセッサ7と同様に、センサコントローラ11a,11bからレポートされるペン状態(ペンアップ又はペンダウン)をスタイラスSの状態として利用するように構成される。
【0127】
図28は、本実施の形態の背景技術による処理を実行した結果の例(比較例4)を示す図である。本比較例によるスタイラスSの動きは、図24に示した比較例3のものと同様である。図28に示すように、本比較例では、時刻t,t16で筆圧値Pが0になったことに応じて、センサコントローラ11aからホストプロセッサ7に対してペンアップ情報がレポートされる。結果として、ホストプロセッサ7が内部に有しているスタイラスSの状態は、図24の比較例3と同じものになる。
【0128】
なお、ホストプロセッサ7は、時刻t,t10で位置x,y等がセンサコントローラ11a,11bから供給されなくなっている間、直ちにスタイラスSに関する処理を終了するのではなく、一定時間待機してから終了するよう構成される。ただし、本比較例では、時刻tで一旦ペアリングが解除され、その結果として時刻t11以後に供給される位置x,y等はそれまでと異なるローカルIDに関連付けられているので、ホストプロセッサ7は、時刻tまでのストロークデータと時刻t11以降のストロークデータとを、異なるスタイラスSによって描かれたものととして処理することになる。
【0129】
ここで、第3の実施の形態においては、筆圧値Pの出力内容の変更又は筆圧値Pの出力停止により、スタイラスSのペン先が画面間にある場合のペンアップの発生を防止していた。しかし、本実施の形態ではホストプロセッサ7の処理が異なるため、第3の実施の形態と同じ方法では、スタイラスSのペン先が画面間にある場合のペンアップの発生を防止できない。そこで本実施の形態によるセンサシステムにおいては、センサコントローラ11a,11bからのペン状態の出力を停止することにより、ペン先が有効領域R1a,R1b外にある場合のペンダウンの発生を防止する。一方、スタイラスSのペン先が画面間にある場合にペアリングの解除を一定時間猶予する処理は、第3の実施の形態と同様に実施する。以下、詳しく説明する。
【0130】
図29は、本実施の形態によるセンサシステムが実行する状態レポート処理を示す図である。同図を図25と比較すると理解されるように、ダウンリンク信号を受信しなかったとステップS120で判定した後の処理は、ペンアップ情報を出力するステップS125を有しない点を除き、図25に示した処理と同様である。また、ダウンリンク信号を受信したとステップS120で判定した後、ステップS121とともにステップS34を行う点も図25と同様である。したがって、本実施の形態によるセンサシステムによれば、所定値Kより規定される回数分だけ、ペアリング解除の実行が猶予されることになる。
【0131】
また、図29図19と比較すると理解されるように、ステップS34の後の処理は、図19に示した第2の実施の形態によるセンサシステムの処理と同様である。したがって、本実施の形態によるセンサシステムによれば、位置x,yが有効領域R1a,R1b内の位置でない場合には、センサコントローラ11a,11bからホストプロセッサ7にペン状態がレポートされないことになる。
【0132】
図30は、本実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理を示す図である。同図を図6(b)と比較すると理解されるように、本実施の形態によるセンサシステムが実行する位置等レポート処理は、図6(b)の処理にステップS50を追加したものとなっている。
【0133】
ステップS50は、図25に示したステップS30、図26に示したステップS40と同様、スタイラスSのペン先がディスプレイ3aとディスプレイ3bの画面間(パネル面間)の領域に位置しているか否かを判定する処理である。本実施の形態によるセンサシステムは、ステップS130で位置x,yが有効領域R1a,R1b内の位置でないと判定した場合、ステップS50の判定を行う。そして、ステップS50でスタイラスSのペン先が画面間にあると判定した場合にはステップS131の処理を行い、ステップS50でスタイラスSのペン先が画面間にないと判定した場合にステップS132の処理を行う。これにより、スタイラスSのペン先が画面間にある場合には、位置x,yを有効領域R1a,R1b内の対応位置に置き換える処理が行われないことになる。
【0134】
図31は、図29及び図30に示した本実施の形態による処理を実行した結果の例(実施例4)を示す図である。本実施例におけるスタイラスSの動きは、図28に示した比較例4のものと同一である。図31に示すように、本実施の形態によれば、スタイラスSのペン先が有効領域R1a,R1b外にある時刻tから時刻t13までの間、センサコントローラ11a,11bからホストプロセッサ7にペン状態が出力されることはない。また、スタイラスSのペン先が不感領域R3内にある時刻t,t10においてもペアリングは解除されず、したがって、時刻t10の経過後もローカルIDは維持される。したがって、時刻tから時刻t13までの間、ホストプロセッサ7ではペンムーブの状態が維持されることになるので、図23に示したストロークデータSTがディスプレイ3a,3bの間で途切れてしまうことが防止される。
【0135】
以上説明したように、本実施の形態によるセンサシステムによっても、スタイラスSのペン先が画面間にある場合にペンアップが発生せず、ペアリングも解除されないので、ディスプレイ3a,3bの間を跨がって1本の線画を描くことが可能になる。
【0136】
また、本実施の形態によるセンサシステムによっても、スタイラスSのペン先が特定検出可能領域R2aa,R2ba内にある間、有効領域R1a,R1b内の対応位置ではなく特定検出可能領域R2aa,R2ba内の座標がホストプロセッサ7に供給されるとともに、スタイラスSのペン先が不感領域R3内にある間、位置x,y及び筆圧値Pを出力し続けることもできるので、ディスプレイ3a,3bに跨がるストロークデータを滑らかに生成することが可能になる。
【0137】
また、本実施の形態によるセンサシステムによっても、画面間以外の領域に関しては、第2の実施の形態等と同様に、スタイラスSのペン先が有効領域R1外にある場合に、ユーザの意図に反してペンダウンが発生することを防止できる。したがって、ディスプレイ3a,3bの端に表示されている「閉じる」ボタンの誤タップなど、検出可能領域R2a,R2b内に存在する段差や溝などの障害物に起因する誤操作の発生を防止することが可能になる。
【0138】
なお、本実施の形態においても、第3の実施の形態で説明したように、ペン先が有効領域R1a,R1b外にある場合に、筆圧値Pの出力内容の変更又は筆圧値Pの出力停止といった処理を行うこととしてもよい。
【0139】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0140】
1a ノートパソコン
2,2a,2b 筐体
2c 凹部
3,3a,3b ディスプレイ
4 キーボード
5 タッチパッド
5a タッチパネル
5b 支点
5c クリックボタン
5d 段差
6 タッチパッド
6a 溝
7 ホストプロセッサ
10,10a,10b センサ
10x,10y,10xa,10ya,10xb,10yb センサ電極
11,11a,11b センサコントローラ
12x,12y,12xa,12ya,12xb,12yb ルーティング線
20 タブレット端末
21 ヒンジ
F 指
LG ガード配線
P,Pa 筆圧値
R1,R1a,R1b 有効領域
R2,R2a,R2b 検出可能領域
R2aa,R2ba 特定検出可能領域
R3 不感領域
S スタイラス
ST ストロークデータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31