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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】点火プラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/54 20060101AFI20231130BHJP
   H01T 13/20 20060101ALI20231130BHJP
   H01T 13/32 20060101ALI20231130BHJP
   F02B 19/16 20060101ALI20231130BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H01T13/54
H01T13/20 B
H01T13/32
F02B19/16 B
F02P13/00 301J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020028575
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021136059
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】西尾 典晃
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特許第2641551(JP,B2)
【文献】特開2010-182536(JP,A)
【文献】特開昭52-052010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
F02B 1/00 - 23/10
F02P 1/00 - 3/12
F02P 7/00 - 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラグ軸方向先端側に位置する副室(2)と、該副室(2)を形成する副室形成部(30)と、上記副室内に先端部(11)が位置する中心電極(10)と、を備え、
上記副室形成部には、上記副室を主燃焼室(3)に連通させる一つ又は複数の噴孔(32)が形成されており、
上記噴孔の少なくとも一つにおける外縁部(35)は、上記噴孔の貫通方向から見て不連続となるエッジ(36)を含んでおり、
上記エッジは、上記噴孔の主燃焼室側開口部に位置しているとともに、上記副室形成部の外表面に設けられた凹形状の溝により形成されており、
上記溝の幅又は深さは、上記噴孔の中心から離れるにつれて小さくなっている、点火プラグ。
【請求項2】
上記溝は、上記噴孔の中心から離れるにつれて流路の断面積が増加するように構成されている、請求項1に記載の点火プラグ。
【請求項3】
プラグ軸方向先端側に位置する副室(2)と、該副室(2)を形成する副室形成部(30)と、上記副室内に先端部(11)が位置する中心電極(10)と、を備え、
上記副室形成部には、上記副室を主燃焼室(3)に連通させる一つ又は複数の噴孔(32)が形成されており、
上記噴孔の少なくとも一つにおける外縁部(35)は、上記噴孔の貫通方向から見て不連続となるエッジ(36)を含んでおり、
上記エッジは、上記噴孔の主燃焼室側開口部に位置しているとともに、上記副室形成部の外表面に設けられた凹形状の溝により形成されており、
上記溝は、上記噴孔の中心から離れるにつれて流路の断面積が増加するように構成されている、点火プラグ。
【請求項4】
上記エッジは、上記噴孔の中心位置よりもプラグ軸方向先端側に位置している、請求項1~3のいずれか一項に記載の点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、点火プラグとして、主燃焼室と連通する噴孔を有する副室を備え、噴孔を介して副室内に混合気を流入させて、副室内で生じた火炎を噴孔から主燃焼室内に噴出させるものがある。例えば、特許文献1には、一つの噴孔に副室から主燃焼室に至るまでに分岐して主燃焼室に開口した分枝噴孔が設けられた構成が開示されている。かかる構成によれば、主燃焼室から副室に向かって噴孔に流入するガス流が噴孔内の分枝部に干渉して副室内に到達しにくくなるため、当該噴孔においてガスの逆流の抑制が図られている。また、噴孔に加えて分枝噴孔が燃焼室に開口させたことによって、主燃焼室の広い範囲において主燃焼室内の燃料ガスが燃焼させ着火性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-47050公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、低温始動時などでは結露によって主燃焼室内に水滴が発生する場合があり、かかる水滴が噴孔に付着すると噴孔が覆われて火炎の噴出が阻害されるおそれがある。さらに噴孔全体を覆うように付着した水が氷結した場合には、当該氷結した水が溶けるまで噴孔が閉塞した状態に維持されてしまい、火炎の噴出が著しく阻害される。そして、特許文献1の構成では、噴孔の開口部に水滴が付着した場合に、噴孔の分枝部まで水が到達すると、当該噴孔が閉塞するとともに分枝噴孔も閉塞してしまうおそれがある。かかる場合には、当該噴孔及び分枝噴孔を介した火炎の噴出が阻害されて着火性が低下する。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、副室を有する点火プラグにおいて、副室の噴孔が水によって閉塞されることが防止される点火プラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、プラグ軸方向先端側に位置する副室(2)と、該副室(2)を形成する副室形成部(30)と、上記副室内に先端部(11)が位置する中心電極(10)と、を備え、
上記副室形成部には、上記副室を主燃焼室(3)に連通させる一つ又は複数の噴孔(32)が形成されており、
上記噴孔の少なくとも一つにおける外縁部(35)は、上記噴孔の貫通方向から見て不連続となるエッジ(36)を含んでおり、
上記エッジは、上記噴孔の主燃焼室側開口部に位置しているとともに、上記副室形成部の外表面に設けられた凹形状の溝により形成されており、
上記溝の幅又は深さは、上記噴孔の中心から離れるにつれて小さくなっている、点火プラグ(1)にある。
また、本発明の他の態様は、プラグ軸方向先端側に位置する副室(2)と、該副室(2)を形成する副室形成部(30)と、上記副室内に先端部(11)が位置する中心電極(10)と、を備え、
上記副室形成部には、上記副室を主燃焼室(3)に連通させる一つ又は複数の噴孔(32)が形成されており、
上記噴孔の少なくとも一つにおける外縁部(35)は、上記噴孔の貫通方向から見て不連続となるエッジ(36)を含んでおり、
上記エッジは、上記噴孔の主燃焼室側開口部に位置しているとともに、上記副室形成部の外表面に設けられた凹形状の溝により形成されており、
上記溝は、上記噴孔の中心から離れるにつれて流路の断面積が増加するように構成されている、点火プラグにある。
【発明の効果】
【0007】
上記点火プラグでは、副室形成部に形成された噴孔の外縁部は、噴孔の貫通方向から見て不連続となるエッジを含んでいる。これにより、主燃焼室に結露が生じて水滴が噴孔に付着しても当該噴孔のエッジによって水の表面張力のバランスが崩されるため、当該水は噴孔を覆った状態を維持できず、噴孔が閉塞されることが防止される。そのため、火炎の噴出が阻害されず、着火性の低下が防止される。さらに、噴孔の外縁部の上記エッジによって当該噴孔から噴出する火炎の流れが乱されることとなる。その結果、噴出火炎が主燃焼室内の燃料ガスと接触しやすくなり着火性が向上する。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、副室を有する点火プラグにおいて、副室の噴孔が水によって閉塞されることが防止される点火プラグを提供することができる。
【0009】
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1における、点火プラグの側面図。
図2図1における、II-II線位置の断面一部拡大図。
図3図2の一部拡大図。
図4】実施形態1における、点火プラグの底面図。
図5】実施形態1における、点火プラグの底面斜視図。
図6図5における、噴孔の拡大図。
図7】(a)比較形態の点火プラグにおける噴孔に水が付着したときの概念図、(b)実施形態1の点火プラグにおける噴孔に水が付着したときの底面図。
図8】実施形態1における、噴出される火炎の状態を説明するための概念図。
図9】変形形態1における、噴出される火炎の状態を説明するための概念図。
図10】変形形態2における、点火プラグの底面図。
図11図10における、XI-XI線位置の断面一部拡大図。
図12】(a)~(d)変形形態3~6における、点火プラグの底面図。
図13】(a)~(d)変形形態7~11における、点火プラグの底面図。
図14】(a)~(d)変形形態12~15における、点火プラグの底面図。
図15】実施形態2における、点火プラグの底面図。
図16】実施形態2における、点火プラグの底面斜視図。
図17】(a)~(e)図15における、XVII-XVII線位置での断面一部拡大図。
図18】変形形態16における、点火プラグの底面図。
図19】(a)~(d)変形形態17~20における、点火プラグの底面図。
図20】(a)~(d)変形形態21~24における、点火プラグの底面図。
図21】実施形態3における、点火プラグの断面一部拡大図。
図22】実施形態3における、点火プラグの底面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
点火プラグの実施形態1について、図1図8を用いて説明する。
図2図3に示すように、本実施形態の点火プラグ1は、プラグ軸方向先端側Y1に位置する副室2と、副室2を形成する副室形成部30と、副室2内に先端部11が位置する中心電極10とを備える。
副室形成部30には、副室2を主燃焼室3に連通させる一つ又は複数の噴孔32が形成されている。
そして、図4に示すように、噴孔32の少なくとも一つにおける外縁部35には、噴孔32の貫通方向L1から見て不連続となるエッジ36が設けられている。
【0012】
以下、本実施形態の点火プラグ1について、詳述する。
図1に示すように、本実施形態の点火プラグ1は、先端が内燃機関の主燃焼室3に露出するように内燃機関のシリンダヘッド101に取り付けられる。図2に示すように、点火プラグ1は、プラグ軸方向Yを長手方向とする筒状のハウジング40を有する。ハウジング40内にハウジング40と同軸上に筒状の絶縁碍子20が配置されている。ハウジング40のプラグ軸方向先端側Y1には副室2を形成する副室形成部30が設けられている。副室形成部30は、ハウジング40とは別部品として形成されている。なお、本実施形態1では、ハウジング40と副室形成部30とを別体としたが、これに替えて、両者を一部品として一体的に形成してもよい。また、副室形成部30をシリンダヘッド101と一体で形成してもよい。
【0013】
図2に示すように、絶縁碍子20の内側には絶縁碍子20と同軸上に中心電極10が配置されている。中心電極10のプラグ軸方向先端側Y1には棒状の先端部11が溶接されて取り付けられており、先端部11は副室2内に露出している。
【0014】
図1図2に示すように、副室形成部30には、一つ又は複数の噴孔32が形成されている。本実施形態1では、噴孔32は複数形成されており、第1噴孔321と第2噴孔322とを含む。図2に示すように、第1噴孔321は、プラグ軸方向先端側Y1の底壁部31において、プラグ軸線1a上に位置するように貫通形成されている。図3に示すように、本実施形態1では、第1噴孔321は、点火プラグ1のプラグ軸線1aに沿って形成されており、第1噴孔321の貫通方向L1はプラグ軸方向Yと一致している。図4図5に示すように、第2噴孔322は8個設けられ、プラグ軸方向先端側Y1から見てプラグ軸線1aを中心とする仮想円上に等間隔で配列している。噴孔32の外縁部35は、第1噴孔321の外縁部351と第2噴孔322の外縁部352とを含む。
【0015】
図6に示すように、噴孔32の外縁部35は、噴孔32の貫通方向L1から見て不連続となるエッジ36を有している。ここで、「不連続となるエッジ」とは、輪郭線が滑らかではなく角張った形状を有している部分を意味する。本実施形態1では、第1噴孔321の外縁部351は、不連続となるエッジ361、362を有している。図5図6に示すように、第1噴孔321は略円柱形をなしているとともに、径方向外方に向けて三角形状に切り欠いてなる切り欠き部370を有しており、当該切り欠き部370によってエッジ361、362が形成されている。エッジ361は切り欠き部370の根元部からなる出隅形状をなしており、エッジ362は切り欠き部370の最深部からなる入隅形状をなしている。そして、エッジ361は切り欠き部370の最深部に向けて延設されてエッジ362に繋がっている。なお、エッジ361、362は、厳密な角形状でなくとも実質的に角張った形状であればよく、作用効果を奏する範囲で若干のRを有する丸角形状であってもよい。
【0016】
図3に示すように、切り欠き部370は、第1噴孔321の内周面において第1噴孔321の貫通方向L1に沿って、第1噴孔321の副室内側開口部321aから主燃焼室側開口部321bに亘って形成されている。これにより、エッジ361、362も、第1噴孔321の貫通方向L1に沿って副室内側開口部321aから主燃焼室側開口部321bに亘って形成されている。本実施形態では、図5図6に示すように、切り欠き部370は、外縁部351において等間隔に4つ形成されている。なお、切り欠き部370を設ける数は特に限定されず、1~3個でもよく、5個以上でもよい。
【0017】
本実施形態では、図6に示すように、第1噴孔321の貫通方向L1から見たとき、中心電極10の先端部11は第1噴孔321の外縁部351の内側に収まっている。そして、図3に示すように、先端部11と第1噴孔321の副室内側開口部321aとは所定距離をおいて離間しており両者の間の空間部が放電ギャップGとなる。本実施形態では、エッジ36が設けられた第1噴孔321の副室内側開口部321aと中心電極10の先端部11との間に放電経路Sが形成されるように構成されている。
【0018】
次に、本実施形態の点火プラグ1における作用効果について、詳述する。
本実施形態の点火プラグ1では、副室形成部30に形成された第1噴孔321の外縁部351は、第1噴孔321の貫通方向L1から見て不連続となるエッジ361、362を含んでいる。これにより、主燃焼室3に結露が生じて水滴が第1噴孔321に付着しても第1噴孔321のエッジ361、362によって水の表面張力のバランスが崩されるため、当該水は第1噴孔321全体を覆った状態を維持できず、第1噴孔321が閉塞されることが防止される。
【0019】
すなわち、図7(a)に示す比較例の点火プラグ9のように噴孔921の外縁部951が円形であって不連続となるエッジを含まない場合には、水Wが噴孔921に付着すると、図7(a)に示すように水Wが噴孔921全体を覆った状態で水の表面張力がバランスして、噴孔921が水Wによって閉塞されることがある。噴孔921が閉塞されると火炎の噴出が阻害されることとなる。特に、噴孔32の外縁部351や噴孔32の内周面と中心電極10との間に放電ギャップGを形成して電界強度を増強させて気中放電させる点火プラグでは、噴孔が閉塞されると放電自体が阻害されて、火炎の噴出のみならず着火自体が不可能となる事態も想定される。しかしながら、図7(b)に示す本実施形態の点火プラグ1では、水Wが第1噴孔321に付着しても、外縁部351におけるエッジ361、362によって水Wの表面張力のバランスが崩され、その結果、例えば、図7(b)に示すように水Wは矢印Pで示すように引き寄せられて、第1噴孔321が閉塞されることが防止される。これにより、第1噴孔321からの火炎の噴出が阻害されず、着火性の低下が防止される。また、上記気中放電させる構成においては着火が不可能となる事態を回避できる。
【0020】
さらに、本実施形態の点火プラグ1によれば、第1噴孔321の外縁部351がエッジ361、362を含むことで、第1噴孔321の外縁部が円形である場合に比べて、噴出する火炎であるジェットの絞りの効果が不均等となる。すなわち、図8において矢印Fで示すように、エッジ361、362の近傍を通過する火炎は微小な渦状に噴出することとなり、噴出する火炎内に速度差が生じて火炎の進行に乱れが発生することとなる。その結果、火炎と燃料ガスとの接触が促進されて、着火性の向上が図られる。さらに、火炎の進行に乱れが発生することにより、噴出する火炎の到達距離を低減させることが可能となる。その結果、噴出する火炎が燃焼室を構成するシリンダヘッド101の壁面やピストンヘッドの表面に衝突することを抑制して、火炎における冷損を低減した構成とすることが可能となる。
【0021】
また、本実施形態では、エッジ36は第1噴孔321の副室内側開口部321aにも位置しているとともに、当該副室内側開口部321aと中心電極10の先端部11との間に放電経路Sが形成されるように構成されている。これにより、水による閉塞が防止された第1噴孔321に近い位置で放電が形成されるため、当該第1噴孔321を介して火炎を噴出させやすくなり、着火性の向上が図られる。
【0022】
また、本実施形態では、エッジ361、362は、第1噴孔321の貫通方向L1に沿って、第1噴孔321の副室内側開口部321aから主燃焼室側開口部321bまで連続して形成されている。これにより、エッジ361、362は副室内側開口部321aにも形成されており、副室2の内側においても第1噴孔321が水によって閉塞されることが防止される。また、本実施形態では、放電経路Sが副室内側開口部321aと中心電極10の先端部11との間に形成されるように構成されており、副室内側開口部321aにおけるエッジ361に電界が集中しやすくなる。その結果、放電経路Sは副室内側開口部321aにおけるエッジ361と中心電極10の先端部11との間に形成されやすくなるため、放電の安定化が図られ、着火性の向上に寄与する。
【0023】
本実施形態では、エッジ361は、第1噴孔321の貫通方向L1から見たとき、第1噴孔321の径方向外方に向けて延設されている。これにより、第1噴孔321を覆うように付着した水は、表面張力によってエッジ361に沿って第1噴孔321の径方向外方に向けて引き寄せられるため、当該水が第1噴孔321全体を覆うことが防止されて第1噴孔321の閉塞が防止される。
【0024】
なお、本実施形態では、エッジ361、362は、第1噴孔321の貫通方向L1から見たとき外縁部351において径方向外方に向けて切り欠かれた切り欠き部370により形成されているが、これに替えて又はこれとともに、外縁部351において径方向内方に向けて突出した突出部によりエッジを形成してもよい。例えば、図9に示す変形形態1のように、外縁部351において径方向外方に向けて切り欠かれた2つの切り欠き部371と、2つの切り欠き部371の間において径方向内方に向けて突出形成された突出部372と形成することができる。これによれば、2つの切り欠き部371の根元部と突出部372の先端部にそれぞれ出隅形状のエッジ361を形成し、2つの切り欠き部371の最深部にそれぞれ入隅形状のエッジ362を形成することができる。
【0025】
図9に示す変形形態1の点火プラグ1によれば、エッジ361、362が設けられることで、噴出する火炎のジェットの絞りの効果が不均等となり、矢印Fで示すように、エッジ361、362の近傍を通過する火炎はそれぞれ微小な渦状に噴出することとなり、ジェットの進行に乱れが発生することとなる。その結果、ジェットと燃料ガスとの接触が一層促進されて、着火性の向上が図られる。さらに、ジェットの進行に乱れが発生することにより、ジェットの到達距離を一層低減させることが可能となるため、ジェットが燃焼室を構成するシリンダヘッドの壁面やピストンヘッドの表面に衝突することを抑制しやすくなり、火炎における冷損をより低減しやすい構成とすることができる。
【0026】
なお、本実施形態では、複数の噴孔32のうち、第1噴孔321にのみエッジ361、362を形成したが、これに替えて又はこれとともに第2噴孔322の少なくとも一つにエッジ361、362を設けてもよい。例えば、図10に示す変形形態2のように、第2噴孔322のそれぞれの外縁部352に切り欠き部370を形成してエッジ36を設けることとしてもよい。当該エッジ36は、図11に示すように、各第2噴孔322において、第2噴孔322の貫通方向L2から見て、第2噴孔322の中心位置322aよりもプラグ軸方向先端側Y1に設けられている。これにより、当該点火プラグ1をシリンダヘッドに組付けた状態において、エッジ36は第2噴孔322における重力方向下方に位置することとなる。そのため、第2噴孔322に付着した水は重力によって切り欠き部370に移動しやすくなる。そして、切り欠き部370により形成されたエッジ361、362によって水の表面張力のバランスが崩されて、第2噴孔322全体が水に覆われて閉塞されることが防止され、着火性の向上が図られる。
【0027】
なお、本実施形態では、エッジ361、362は外縁部351を三角形状に切り欠いてなる切り欠き部370により形成したが、これに限らず、例えば、図12(a)に示す変形形態3のように、外縁部351を長方形状に切り欠いて切り欠き部370を設け、これによりエッジ36を形成してもよい。また、図12(b)に示す変形形態4のように、外縁部351を径方向外方に向けて幅広になる台形形状に切り欠いて切り欠き部370を設け、これによりエッジ36を形成してもよい。
【0028】
また、図12(c)に示す変形形態5のように、外縁部351を同一の直径を有する2つの円をずらして重ね合わせた形状の輪郭とすることにより、外縁部351において噴孔内側に対向するように突出した2つの突出部372を設け、これにより出隅形状のエッジ361を形成してもよい。また、図12(d)に示す変形形態6のように、外縁部351を同一の直径を有する3つの円の中心が正三角形の頂点に位置するように当該3つの円をずらして重ね合わせた形状の輪郭とすることにより、外縁部351において噴孔内側に突出した3つの突出部372を設け、これにより出隅形状のエッジ361を形成してもよい。いずれの場合も本実施形態と同等の作用効果を奏することができる。
【0029】
また、図13(a)に示す変形形態7のように、噴孔321の貫通方向から見て外縁部351を正方形とし、外縁部351における4つの角部を入隅形状のエッジ362としてもよい。また、図13(b)に示す変形形態8のように、変形形態7の構成に加えて正方形の外縁部351における各辺の中央に長方形状に切り欠いてなる切り欠き部370をさらに設け、これによりさらにエッジ361、362を形成してもよい。また、図13(c)に示す変形形態9のように、正方形の外縁部351における各角部に長方形状に切り欠いてなる切り欠き部370を設け、これによりエッジ361、362を形成してもよい。また、図13(d)に示す変形形態10のように、正方形の外縁部351における各辺の中央に三角形状に切り欠いてなる切り欠き部370を設け、これによりさらにエッジ361、362を形成してもよい。また、図13(e)に示す変形形態11のように、正方形の外縁部351における一対の対角を噴孔内側に三角形状に突出させてなる突出部372を設け、これによりさらにエッジ361、362を形成してもよい。いずれの場合も本実施形態と同等の作用効果を奏することができる。
【0030】
なお、噴孔の外縁部351の形状は、種々の多角形状とすることができる。例えば、図14(a)に示す変形形態12のように、第1噴孔321の外縁部351の形状を正三角形状とし、外縁部351の3つの角部を入隅形状のエッジ362とすることができる。また、図14(b)に示す変形形態13のように、第1噴孔321の外縁部351の形状を正五角形状として外縁部351の5つの角を入隅形状のエッジ362としたり、図14(c)に示す変形形態14のように、第1噴孔321の外縁部351の形状を正六角形状として外縁部351の6つの角を入隅形状のエッジ362としたりすることもできる。また、図14(d)に示す変形形態15のように、第1噴孔321の外縁部351の形状を長方形の各長辺を両端から中央にかけて噴孔321内に三角形状に突出させた突出部372を設けて、当該突出部372の先端を出隅形状のエッジ361とし、短辺の両端を入隅形状のエッジ362とすることができる。いずれの場合においても、本実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0031】
なお、本実施形態の点火プラグ1は、副室2内に燃料を投入する構成を備えていてもよい。また、本実施形態の点火プラグ1は放電ギャップGに気中放電を発生させる構成としたが、これに替えて、放電ギャップGに沿面放電を生じる構成としてもよい。この場合も本実施形態と同等の作用効果を奏することができる。
【0032】
以上のごとく、本実施形態及び変形形態によれば、着火性の向上が図られる点火プラグを提供することができる。
【0033】
(実施形態2)
実施形態2の点火プラグ1では、実施形態1における図4図6に示す切り欠き部370に替えて、図15図16に示すように、副室形成部30の外表面において、第1噴孔321は径方向外方に延びた溝380を有している。これにより、エッジ36は、第1噴孔321の主燃焼室側開口部321bに位置している。そして、第1噴孔321の外縁部351は、図15に示すように貫通方向L1のうちプラグ先端からプラグ基端に向かうY2方向に見たとき、副室形成部30を貫通した部分を形成する円弧状部分と副室形成部30の外表面に凹状に設けられた溝380を形成する直線状部分とを含む。そして、円弧状部分と直線状部分との境界部がエッジ362となっており、本実施形態2では、当該エッジ362は出隅形状をなしている。その他の構成は、実施形態1と同等であって、本実施形態2においても実施形態1と同一の符合を付してその説明を省略する。
【0034】
本実施形態2では、図15図16に示すように、副室形成部30の外表面において、プラグ軸方向Yから見て、8個の溝380が第1噴孔321の中心を基準として放射状に延びるとともに周方向において等間隔に配置されている。各溝380は、図17(a)に示すように、凹形状に形成されており、本実施形態2では、溝380の延びる方向に直交する断面形状が四角形状となっている。なお、溝380の凹形状は特に限定されず、図17(b)に示すように三角形状としたり、図17(c)に示すように半円形状としたり、図17(d)に示すように台形形状としたりすることができる。また、溝380は、図17(e)に示すように二つの凹形状が平行に並んだ形状としてもよい。いずれの場合も、溝380の内側は第1噴孔321の一部となっている、
【0035】
図16に示すように、溝380の深さは、第1噴孔321の中心から離れるにつれて小さくなっている。これにより、溝380は、第1噴孔321の中心から離れるにつれて毛細管現象が大きくなっている。
【0036】
本実施形態2の点火プラグ1によれば、エッジ36は、第1噴孔321の主燃焼室側開口部321bに位置している。これにより、主燃焼室3側から第1噴孔321に付着する水が第1噴孔321の主燃焼室側開口部321b全体を覆うことが防止される。そして、本実施形態2では、エッジ36は、副室形成部30の外表面において、第1噴孔321の中心から離れるように外方に向けて延びている。これにより、第1噴孔321を覆うように付着した水は、毛細管現象によりエッジ36に沿って第1噴孔321の径方向外方に移動することとなり、実施形態1の場合と同様の作用効果を奏する。
【0037】
さらに、本実施形態2では、エッジ361は、副室形成部30の外表面に設けられた凹形状の溝380により形成されている。これにより、第1噴孔321を覆うように付着した水は、毛細管現象により溝380に入り込んで溝380の先端側、すなわち第1噴孔321の径方向外方に移動して溝380の先端で保持されて、第1噴孔321全体を覆うことが防止され、第1噴孔321の閉塞が防止される。
【0038】
さらに、本実施形態2では、溝380は先端に向かうにつれて浅くなっていることにより、第1噴孔321の中心から離れるにつれてエッジ36において生じる毛細管現象が強くなるように構成されている。これにより、第1噴孔321を覆うように付着した水は溝380に沿って第1噴孔321の径方向外方に移動することとなる。そして、溝380は先端に向かうにつれて浅くなっているため、移動した水が徐々に蒸発したり、水滴となって主燃焼室3内に落下したりして、当該水が第1噴孔321全体を覆うことが一層防止されて第1噴孔321の閉塞が一層防止される。
【0039】
なお、本実施形態2では溝380の幅は一定としたが、これに限らず、例えば、図18に示す変形形態16ように、第1噴孔321の中心から離れるにつれて幅が狭くなるようにしてもよい。このようにすれば、第1噴孔321の中心から離れるにつれてエッジ36において生じる毛細管現象が強くなるとともに、溝380の先端に移動した水が水滴となって主燃焼室3内に落下しやすくなるため、当該水が第1噴孔321全体を覆うことが一層防止されて第1噴孔321の閉塞が一層防止される。
【0040】
なお、本実施形態2では、図15に示すように、溝380を当該すると第2噴孔322に到達するが、これに替えて、図19(a)に示す変形形態16では、溝380が延びる方向に延長させても互い隣り合う第2噴孔322の間を進んで第2噴孔322には到達しないようになっている。これにより、溝380の先端に移動した水が第2噴孔322に移ることを予防でき、第2噴孔322の水による閉塞を未然に防止できる。さらに、図19(b)に示す変形形態17では、溝380は互い隣り合う第2噴孔322の間を超えてさらに先まで延びている。これにより、溝380の先端に移動した水が第2噴孔322に移ることを一層予防でき、第2噴孔322の水による閉塞を未然に防止できる。
【0041】
また、図19(c)に示す変形形態18では、第2噴孔322の中心からプラグ軸線に向けて溝381が形成されている。溝381は重力方向下方に延びることとなるため、第2噴孔322を覆うように付着した水が当該溝381に沿って移動しやすくなっている。これにより、第2噴孔322の閉塞が防止される。さらに、図19(d)に示す変形形態19では、第2噴孔322からプラグ軸線と反対方向に向けて溝382が形成されている。この場合も第2噴孔322を覆うように付着した水は毛細管現象によって溝382にも沿って移動することとなるため、第2噴孔322の閉塞が一層防止される。
【0042】
また、図20(a)に示す変形形態21では、第1噴孔321から径方向外方に向けて延びる溝380から枝分かれして設けられた枝状溝383が複数設けられている。この構成によれば、溝380は第1噴孔321から遠ざかるにつれてその流路の断面積が増加することとなる。そのため、第1噴孔321から遠ざかるにつれて水を保持できる部分が増え、第1噴孔321の閉塞が一層防止される。また、図20(b)に示す変形形態22では、第1噴孔321から径方向外方に向けて延びる溝380と、第1噴孔321と同心円状に形成された環状溝384が設けられており、両者が互いに交差している。これにより、第1噴孔321の外縁部351に直接つながっていない環状溝384にも溝380を介して第1噴孔321を覆う水を移動させることができるため、第1噴孔321の閉塞を効果的に防止することができる。なお、溝380における流路の断面積とは、溝380の延びる方向に直交する溝380の断面の面積である。
【0043】
なお、図20(c)に示す変形形態23のように、溝380と環状溝384とが互いに網目状に形成されていてもよい。また、図20(d)に示す変形形態24のように、縦溝385とこれに直交する横溝386とが互いに格子状に形成されていてもよい。いずれの場合も各噴孔32から水を取り除くことができ噴孔32の閉塞の防止を図ることができる。
【0044】
なお、本実施形態2及び変形形態16~24では、図17(a)~(d)に示すように、溝380~386を副室形成部30の外表面30aに形成したが、これに替えて又はこれとともに、副室形成部30の内表面30bに同様の溝を設けることとしてもよい。この場合は、副室2内で結露して生じた水により噴孔32が閉塞されることを防止することができる。
【0045】
(実施形態3)
本実施形態3の点火プラグ1では、図21に示すように、ハウジング40と副室形成部30とが一部品で形成されており、副室形成部30の先端には、筒状の第1噴孔形成部60が設けられている。第1噴孔形成部60は、副室形成部30の先端から副室2内に入り込むように設けられている。第1噴孔形成部60の副室内側開口部60aから主燃焼室側開口部60bに亘って拡径している。そして、副室内側開口部60aが第1噴孔321を形成しており、第1噴孔形成部60の内周面60cは主燃焼室3に面している。さらに、当該内周面60cに、複数の溝380が形成されている。各溝380は、副室内側開口部60aから主燃焼室側開口部60bに亘って直線状に設けられており、図22に示すように、周方向に互いに等間隔の位置にある。その他の構成については実施形態1の場合と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0046】
本実施形態3の点火プラグ1によれば、第1噴孔形成部60の内周面60cに設けられた複数の溝380により、複数のエッジ361が副室内側開口部321aから主燃焼室側開口部321bに亘って連続して形成されている。これにより、複数のエッジ361はいずれも副室内側開口部60aから重力方向下方に延びることとなるため、副室内側開口部60aや第1噴孔形成部60の内周面60cに付着した水はエッジ361を形成する溝380に沿って主燃焼室側開口部60bに移動して保持され又は蒸発し又は主燃焼室3内に水滴となって落下したり、溝380で蒸発したりすることとなる。そのため、第1噴孔321の閉塞が効果的に防止される。そして、本実施形態3の点火プラグ1によっても、実施形態1と同等の作用効果を奏する。
【0047】
本発明は上記各実施形態及び変形形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…点火プラグ、2…副室、3…主燃焼室、10…中心電極、30…副室形成部、32…噴孔、321…第1噴孔、322…第2噴孔、35・351・352…外縁部、36・361・362…エッジ、40…ハウジング
図1
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