(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】バックラッシ除去装置、バックラッシ除去方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/18 20060101AFI20231130BHJP
B25J 11/00 20060101ALI20231130BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F16H55/18
B25J11/00 Z
F16H55/17 B
(21)【出願番号】P 2020031754
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】藤井 琢也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 章元
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美文
(72)【発明者】
【氏名】早川 明日香
(72)【発明者】
【氏名】峯田 涼平
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-118000(JP,A)
【文献】特開2000-283266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/18
B25J 11/00
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット(1)に設けられているギヤ部品(5)のバックラッシを除去するバックラッシ除去装置(12)であって、
前記ギヤ部品は、両端側で固定される軸部材(9)と、前記軸部材に相対回転可能な状態で支持されるギヤ(7、10)とを有するものであり、
一端側を固定した状態の前記軸部材に所定のトルクで周方向へのねじりを加えるねじり機構(13)と、
前記ねじり機構によって周方向へのねじりが加えられた状態の前記軸部材の他端側を溶接して固定する溶接機構(14)と、
を備えるバックラッシ除去装置。
【請求項2】
前記ロボットが載置され、前記軸部材と同軸で前記ロボットを回転させるターンテーブル(15)を備える請求項1記載のバックラッシ除去装置。
【請求項3】
前記ねじり機構を、前記軸部材に周方向へのねじりを加えた状態で前記ターンテーブルと同期して回転させる回転機構(16)を備える
請求項2記載のバックラッシ除去装置。
【請求項4】
前記ねじり機構は、前記軸部材の溶接される側の端部に形成されている溝部に挿入するねじり治具(13b)と、前記ねじり治具を前記軸部材と同軸で回転させるねじり駆動部(13a)とを備えており、前記ねじり治具を所定のトルクで回転させることによって前記軸部材に周方向へのねじりを加える請求項1から3のいずれか一項記載のバックラッシ除去装置。
【請求項5】
前記溶接機構は、1つのモータからの出力を2系統の伝達経路で駆動対象物まで伝達するいずれか一方の前記伝達経路に設けられている前記ギヤ部品を溶接する請求項1から4のいずれか一項記載のバックラッシ除去装置。
【請求項6】
ロボット(1)に設けられているギヤ部品(5)のバックラッシを除去するバックラッシ除去方法であって、
両端側が固定される軸部材(9)と前記軸部材に相対回転可能な状態で支持されているギヤ(7、10)とを有する前記ギヤ部品を、前記軸部材の一端側を固定した状態で前記軸部材に所定のトルクで周方向へのねじりを加えつつ、前記軸部材の他端側を溶接して固定する溶接工程(S5)を含むバックラッシ除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットに設けられているギヤ部品のバックラッシを除去するバックラッシ除去装置、バックラッシ除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットの分野では、高精度な位置決め行うために、波動歯車装置を用いた減速機が採用されている。ただし、比較的小型のロボットの場合には、減速機を小型化する必要があることから、複数のギヤ部品を用いた多段式の減速機を採用することもある。そして、多段式の減速機では、高精度な位置決めを行うためにバックラッシを除去することが求められる。そのため、例えば特許文献1では、複数のモータを用いることによってバックラッシを除去することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ギヤ部品のバックラッシを除去するために追加部材を用いることは、ロボットの小型化を損なうおそれがある。
本開示は、小型化を損なうことなくロボットのギヤ部品のバックラッシを除去することができるバックラッシの除去装置、バックラッシ除去方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のバックラッシ除去装置(12)は、ロボット(1)に設けられているギヤ部品(5)のバックラッシを除去するものであって、ギヤ部品は、両端側で固定される軸部材(9)と、軸部材に相対回転可能な状態で支持されるギヤ(7、10)とを有するものであり、一端側を固定した状態の軸部材に所定のトルクで周方向へのねじりを加えるねじり機構(13)と、ねじり機構によって周方向へのねじりが加えられた状態の軸部材の他端側を溶接して固定する溶接機構(14)とを備える。これにより、軸部材にねじりを復元しようとする復元力が生じ、その復元力によってギヤが付勢されてバックラッシが除去される。このとき、軸部材は、ギヤ部品に予め設けられている部材であるため、追加部材を要することがない。したがって、小型化を損なうことなくロボットのギヤ部品のバックラッシを除去することができる。
【0006】
また、実施形態のバックラッシ除去方法は、ロボット(1)に設けられているギヤ部品(5)のバックラッシを除去するものであって、両端側が固定される軸部材(9)と軸部材に相対回転可能な状態で支持されているギヤ(7、10)とを有するギヤ部品を、軸部材の一端側を固定した状態で軸部材に所定のトルクで周方向へのねじりを加えつつ、軸部材の他端側を溶接して固定する溶接工程(S5)を含む。これにより、軸部材にねじりを復元しようとする復元力が生じ、その復元力によってギヤが付勢されてバックラッシが除去される。このとき、軸部材は、ギヤ部品に予め設けられている部材であるため、追加部材を要することがない。したがって、小型化を損なうことなくロボットのギヤ部品のバックラッシを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態によるロボットの構成を模式的に示す図
【
図5】バックラッシ除去装置の構成を模式的に示す図
【
図6】トーションバーにねじりを加える態様を模式的に示す図
【
図7】バックラッシ除去方法における工程の流れを示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、ロボット1は、ベース1a、第1アーム1b、第2アーム1c、第3アーム1d、第4アーム1e、第5アーム1f、およびフランジ1gを備えている。つまり、本実施形態では、ロボット1として垂直多関節型のいわゆる6軸ロボットを想定している。ただし、自由度が7以上のいわゆる7軸ロボットや、水平多関節型のいわゆる4軸ロボットを対象とすることもできる。
【0009】
第1アーム1bは、ベース1aに相対回転可能に連結されている。以下、ベース1aに対する第1アーム1bの回転軸を、第1軸(J1)と称する。また、第2アーム1cは第1アーム1bに対して相対回転可能に連結されており、第3アーム1dは第2アーム1cに対して相対回転可能に連結されており、第4アーム1eは第3アーム1dに対して相対回転可能に連結されており、第5アーム1fは第4アーム1eに対して相対回転可能に連結されている。そして、第5アーム1fの先端に、
図1ではワークを把持するハンド2を設けたフランジ1gが接続されている。
【0010】
このロボット1は、比較的小型に設計されている。ここで、比較的小型とは、例えば人が作業する作業台の上に載置可能な程度の大きさを想定している。このようなロボット1は、人と協同して各種の作業を行ういわゆる協調ロボットとして用いられる。
【0011】
また、ロボット1には、周知のように各関節部分に図示しないモータおよび減速機構が設けられている。そして、ロボット1は、制御装置3から出力される制御指令に基づいて各モータが駆動されることによって任意の姿勢に制御される。以下、第1アーム1bを駆動するためにベース1aと第1アーム1bとの間の関節部分に設けられている減速機構を、減速機4と称する。
【0012】
この減速機4は、比較的小型のロボット1の内部に収容する必要があることから、
図2に平面視にて模式的に示すように、複数のギヤ部品5で構成された多段式の構成を採用している。なお、
図2では、説明の簡略化のために、各ギヤ部品5の歯は示していない。また、
図2では、モータ6側から見て1段目のギヤ部品5には符号に「A」を付加してギヤ部品5Aと示し、2段目のギヤ部品5には符号に「B」を付加してギヤ部品5Bと示し、3段目のギヤ部品5には符号に「C」を付加してギヤ部品5Cと示し、最終段となるギヤ部品5には符号に「D」を付加してギヤ部品5Dと示している。
【0013】
また、減速機4は、モータの出力を2系統の伝達経路でギヤ部品5Dまで伝達する構成となっている。これは、減速機4はロボット1の全体を駆動する位置に設けられていることから、比較的大きなトルクをギヤ部品5Dに伝達する必要があるためである。以下、
図2において図示左側の伝達経路を便宜的に経路Lと称し、図示右側の伝達経路を便宜的に経路Rと称するとともに、説明のために、経路Lを構成するギヤ部品5には符号の末尾に「L」を付し、経路Rを構成するギヤ部品5には符号の末尾に「R」を付している。
【0014】
減速機4の場合、モータ6の出力は、まず出力ピニオン6aを介してギヤ部品5Aに伝達される。なお、
図2において各ギヤ部品5に重なっている各矢印は、ギヤ部品5の回転方向を示している。このギヤ部品5Aには外周歯が設けられており、ギヤ部品5Aの外周歯とギヤ部品5BLおよびギヤ部品5BRの外周歯とが噛み合うことにより、モータの出力がギヤ部品5Aからギヤ部品5BLおよびギヤ部品5BRに伝達される。ここでは、
図2に示すギヤ部品5の外縁に位置する歯を外周歯と称し、内周側に位置する歯を内周歯と称している。
【0015】
これらギヤ部品5BLおよびギヤ部品5BRには外周歯と同期して回転する内周歯が設けられており、それぞれの内周歯がギヤ部品5CLの外周歯またはギヤ部品5CRの外周歯と噛み合うことにより、モータの出力がギヤ部品5BLからギヤ部品5CLに、また、ギヤ部品5BRからギヤ部品5CRに伝達される。
【0016】
ギヤ部品5CLおよびギヤ部品5CRには外周歯と同期して回転する内周歯が設けられており、それぞれの内周歯がギヤ部品5Dの外周歯と噛み合うことにより、モータの出力がギヤ部品5CLおよびギヤ部品5CLからギヤ部品5Dに伝達される。このギヤ部品5Dは、第1アーム1bが連結および固定されるものであり、複数の取り付け孔を有する固定部が設けられている。そして、ギヤ部品5Dが回転すると、それに同期して第1アーム1bが回転する。
【0017】
さて、この減速機4は、ロボット1の関節部分のうち最もベース1a側に設けられている。換言すると、減速機4は、ロボット1の姿勢の起点となる位置に設けられている。そのため、減速機4には高い位置決め精度が求められる。これは、ギヤ部品5Dの回転角度がずれた場合には、ロボット1の先端に位置するフランジ1gの位置が大きくずれてしまうためである。減速機4の場合、位置決め精度はギヤ部品5Dの回転角度の精度に相当する。
【0018】
そのため、本実施形態では、第1アーム1bを駆動するために設けられている減速機4を、後述するバックラッシの除去対象としている。また、詳細は後述するが、本実施形態では、複数のギヤ部品5を備える減速機4において、前段側から伝達された出力を後段側に伝達する中段に配置されるギヤ部品5であって一方の経路Rに設けられているギヤ部品5CRを、バックラッシを除去する対象としている。なお
図2には、バックラッシを除去する対象であるギヤ部品5CRの回転軸をハッチングにて模式的に示している。このギヤ部品5CRの回転軸は、後述する溶接個所に相当する。
【0019】
ここで、ギヤ部品5CRの詳細について説明する。ギヤ部品5CRは、
図3に示すように、外面が内周歯として機能する小ピニオン7、小ピニオン7が圧入されている内周側シャフト8、棒状に形成されている軸部材としてのトーションバー9、外面が外周歯として機能する大ピニオン10、および大ピニオン10が圧入されている外周側シャフト11を備えている。
【0020】
小ピニオン7は内周側シャフト8に対して相対回転可能な状態で外周面に圧入され、大ピニオン10は外周側シャフト11に対して相対回転可能な状態で外周面に圧入される。そして、トーションバー9は、内周側シャフト8の内周に設けられている図示しない挿入口に挿入された状態で、図示下方の端部が溶接により内周側シャフト8に固定される。また、トーションバー9は、外周側シャフト11の内周に設けられている図示しない挿入口に挿入された状態で、後述するように溶接機構によって溶接により固定される。
【0021】
このとき、内周側シャフト8は、ロボット1のベース1a内の構造物に固定される。このため、トーションバー9は、図示下方の一端が内周側シャフト8を介して固定され、図示上方の他端も固定されることになる。つまり、ギヤ部品5CRは、両端側で固定される軸部材としてのトーションバー9と、その軸部材に相対回転可能な状態で支持されるギヤとしての小ピニオン7および大ピニオン10とを有している。なお、小ピニオン7および大ピニオン10は、互いに連結された状態になっており、一体に回転する。
【0022】
次に、ギヤ部品5CRに生じるバックラッシについて説明する。前述のように、ギヤ部品5CRの外周歯は、ギヤ部品5Dの外周歯と噛み合うことになる。このとき、
図4に対策なしとして示すように、バックラッシに対する対策を行っていない場合には、ギヤ部品5CRの外周歯とギヤ部品5Dの外周歯との間にバックラッシつまりは隙間(X)が生じる可能性がある。このバックラッシは、いわゆる遊びとして意図的に設けられているものの、位置決め精度が低下する要因になるおそれがある。なお、
図4では視認しやすいように意図的におおきなバックラッシを示しているが、実際のバックラッシは周知のように極微小なものである。
【0023】
そのため、トーションバー9に矢印Y1にて示すように周方向へのねじりが加えると、そのねじりによってトーションバー9に逆向きの復元力が生じ、矢印Y2にて示すようにギヤ部品5CRの大ピニオン10には、ねじりと逆向きの付勢力が発生する。その結果、矢印Hにて示す領域のように、大ピニオン10が付勢されることでギヤ部品5CRの外周歯とギヤ部品5Dの外周歯とが接触した状態、つまりは、バックラッシが除去された状態になる。そして、バックラッシが除去されることにより、ギヤ部品5Dに対するギヤ部品5CRの位置関係が精度よく定まることになる。
【0024】
ただし、このギヤ部品5CRは、ロボット1に組み込まれるものである。そのため、ロボット1に組み込む前に、ギヤ部品5CR単体に対してねじりを加えたとしても、そのねじりは、ギヤ部品5CRをロボット1に組み込む際に戻ってしまうおそれがある。
【0025】
そのため、本実施形態では、
図5に示すバックラッシ除去装置12を用いることにより、ねじりが加えられた状態のギヤ部品5CRをロボット1に組み付け可能にしている。このバックラッシ除去装置12は、ねじり機構13、溶接機構14、ターンテーブル15、および回転機構16などを備えている。
【0026】
ねじり機構13は、一端側を固定した状態のトーションバー9に所定のトルクで周方向へのねじりを加えるものである。このねじり機構13は、例えばサーボモータで構成されたねじり駆動部13aと、ねじり駆動部13aによって回転されるねじり治具13bとを備えており、回転機構16に支持された状態で、その全体が上下動可能に構成されている。
【0027】
図6に示すように、トーションバー9の上端には、直線状の溝部9aが形成されている。この溝部9aは、本実施形態ではトーションバー9を径方向に貫通する直線状に形成されている。そして、ねじり治具13bは、トーションバー9側の端部が溝部9aに挿入可能な形状に形成されている。本実施形態では、ねじり治具13bの端部は、いわゆるマイナスドライバーのような形状をしており、溝部9aに挿入可能な厚みと、概ねトーションバー9の直径と同じ程度の幅を有している。
【0028】
また、ねじり治具13bは、概ねトーションバー9の直径と同等の太さに形成された軸部分が、トーションバー9の上端から所定の長さで伸びている。そして、ねじり機構13は、ねじり治具13bの端部をトーションバー9の溝部9aに挿入した状態で、ねじり駆動部13aによりねじり治具13bを所定のトルクで回転させることによって、トーションバー9に周方向へのねじりを加える。
【0029】
溶接機構14は、本実施形態では照射向きが可変な状態で支持されているレーザ溶接機14aを備えている。レーザ溶接機14aは、周知のように、レーザ光14bを照射することにより溶接個所を溶接する。そのため、溶接機構14は、電極を用いる溶接手法と比べると、溶接個所に与える物理的な外力を抑制することが可能になる。そのため、回転体の中心軸として機能するトーションバー9にたわみが発生するおそれが低減される。本実施形態の場合、溶接個所は、
図6に示したトーションバー9の外周と外周側シャフト11の上端との境界(K)である。この溶接機構14は、図示しない支持部材によって支持されている。
【0030】
ターンテーブル15は、減速機4が組みつけられた状態のロボット1が載置されるものであり、載置されたロボット1を、トーションバー9を中心として、トーションバー9を中心軸として回転させる。本実施形態では、ターンテーブル15には、減速機4が組みつけられた状態のベース1aが載置される。このターンテーブル15は、例えばサーボモータで構成されたテーブル駆動部15aによって回転駆動される。これにより、レーザ溶接機14aを固定した状態で、トーションバー9の上端側の全周を溶接することが可能になる。これにより、ねじり機構13によって周方向へのねじりが加えられた状態でトーションバー9を溶接して固定することができる。
【0031】
ところで、ターンテーブル15の回転に同期させてねじり駆動部13aによりねじり治具13bを回転させ続ければ、ねじりを加えた状態でトーションバー9を溶接することが可能になると考えられる。その一方で、トルクを正確に加え続けて溶接するためには、トルクを加えた状態にねじり機構13を維持しつつ溶接できることが好ましいと考えられる。そこで、本実施形態では、バックラッシ除去装置12に回転機構16を設けている。
【0032】
この回転機構16は、例えばサーボモータにより構成されており、ねじり機構13とともに上下動可能な状態で図示しない支持部材によって支持されている。そして、回転機構16は、その出力にねじり機構13が接続されており、ねじり機構13の全体をターンテーブル15と同期させて回転させる。つまり、回転機構16は、ねじり機構13を、トーションバー9に周方向へのねじりを加えた状態でターンテーブル15と同期して回転させる。これにより、トーションバーに与えるトルクを一定に保ちつつ、トーションバー9の全周に渡って溶接することが可能になる。
【0033】
次に、上記した構成の作用について説明する。
前述のように、多段式の減速機4は、ロボット1の小型化に寄与すると考えられる一方、バックラッシを除去することが求められる。ただし、バックラッシを除去するために追加部材を設けることは、ロボット1の小型化を損なうおそれがある。そこで、本実施形態では、多段式の減速機4を採用するロボット1において、上記したバックラッシ除去装置12を用い、以下に説明するバックラッシ除去方法により、小型化を損なうことなくバックラッシを除去することができるようにしている。
【0034】
バックラッシ除去方法では、
図7に示すように、ステップS1において、ロボット1ここではベース1aを載置する。このとき、
図6に示すように、バックラッシ除去装置12の近くには作業台18が配置されており、破線にて示すようにベース1aが作業台18に載置される。この作業台18では、溶接前の事前準備が行われる。具体的には、作業台18には、破線にて示すように位置決め治具19が予め用意されている。そして、
図7に示すステップS2において、ベース1aを位置決め治具19に取り付けることにより、ベース1aに位置決め治具19を装着する。
【0035】
この位置決め治具19には、ギヤ部品5CRの内周側シャフト8に設けられている位置決め孔8aに挿入される位置決めピン19aが設けられている。このとき、ギヤ部品5CRは、下端側で予めベース1aに固定された状態になっている。そのため、位置決めピン19aが位置決め孔8aに挿入されるようにベース1aを載置することで、ギヤ部品5CRの中心軸が位置決めピン19aの中心軸と一致するようになる。つまり、位置決め治具19とギヤ部品5CRの中心軸との位置関係が定まることになる。
【0036】
また、作業台18には、溶接個所の高さを計測する計測器20が設けられている。この計測器20は、例えばレーザ距離計により構成されており、
図7に示すステップS3において、位置決め治具19を装着した状態における溶接位置の高さを計測する。このとき計測された高さは、溶接機構14による溶接時に利用される。
【0037】
高さが計測されると、
図7に示すステップS4において、位置決め治具19を装着した状態のロボット1を、ターンテーブル15に載置する。このとき、位置決め治具19は、ターンテーブル15上の所定の位置に載置される。この所定の位置は、位置決めピン19aの中心軸とターンテーブル15の回転軸とが一致する位置として予め設定されている。そのため、位置決め治具19を所定の位置に載置することにより、ターンテーブル15の回転軸とギヤ部品5CRの中心軸つまりはトーションバー9の中心軸とが、互いに一致することになる。つまり、ターンテーブル15とトーションバー9との位置関係が定まることになる。
【0038】
そして、
図7に示すステップS5において、溶接が行われる。このステップS5では、両端側が固定される軸部材としてのトーションバー9と、トーションバー9に相対回転可能な状態で支持されている小ピニオン7および大ピニオン10とを有するギヤ部品5CRを、トーションバー9の図示下方の一端側を固定した状態で、トーションバー9に所定のトルクで周方向へのねじりを加えつつ、トーションバー9の図示上方の他端側を溶接して固定する。このステップS5は、溶接工程に相当する。
【0039】
より具体的には、トーションバー9は、ねじり機構13により周方向に所定のトルクが加えられた状態で、ターンテーブル15によってベース1aとともに回転する。このとき、ねじり機構13は、回転機構16によってターンテーブル15と同期して全体的に回転する。その結果、トーションバー9は、ねじりが加えられた状態であって、且つ、一定のトルクが与えられた状態で、自身の中心軸を中心として回転する。
【0040】
そして、溶接機構14は、レーザ溶接機14aの焦点を計測した高さに合わせた状態で、より厳密にいえば、その高さにおけるトーションバー9の外周と外周側シャフト11の上端との境界の位置に焦点を合わせた状態で溶接を行う。このとき、ねじり治具13bは、上記したように概ねトーションバー9の直径と同じ大きさであり、トーションバー9の上端から所定の長さで伸びていることから、ねじりを加えた状態でトーションバー9を回転させたとしても、レーザ光14bを遮ることがない。
【0041】
そのため、レーザ溶接機14aを移動させなくてもトーションバー9の外周の全域を溶接することができる。また、本実施形態では、ターンテーブル15を概ね2周半させることにより、トーションバー9の外周を2周半に渡って溶接している。このようにして、多段式の減速機4を構成するギヤ部品5CRを、トーションバー9にねじりを加えた状態で溶接および固定している。
【0042】
以上説明したバックラッシ除去装置12およびバックラッシ除去方法によれば、次のような効果を得ることができる。
【0043】
バックラッシ除去装置12は、両端側で固定される軸部材としてのトーションバー9と、トーションバー9に相対回転可能な状態で支持される小ピニオン7および大ピニオン10とを有するギヤ部品5のバックラッシを除去するものであって、一端側を固定した状態のトーションバー9に所定のトルクで周方向へのねじりを加えるねじり機構13と、ねじり機構13によって周方向へのねじりが加えられた状態のトーションバー9の他端側を溶接して固定する溶接機構14と、を備える。
【0044】
これにより、トーションバー9には、ねじりが加えられた状態でその両端が固定されることから、ねじりを復元しようとする復元力が発生する。そして、その復元力により、小ピニオン7および大ピニオン10が周方向に付勢され、ギヤ部品5の歯が他のギヤ部品5の歯と当接した状態になる。これにより、減速機4のバックラッシを除去することができる。そして、トーションバー9は、ギヤ部品5に必要な部材であることから、バックラッシを除去しない場合と比べて追加部材が発生しない。したがって、小型化を損なうことなくロボット1のギヤ部品5のバックラッシを除去することができる。
【0045】
また、両端側が固定される軸部材としてのトーションバー9と、トーションバー9に相対回転可能な状態で支持されている小ピニオン7および大ピニオン10とを有するギヤ部品5を、トーションバー9の図示下方の一端側を固定した状態で、トーションバー9に所定のトルクで周方向へのねじりを加えつつ、トーションバー9の図示上方の他端側を溶接して固定する溶接工程を含むバックラッシ除去方法によっても、小型化を損なうことなくロボット1のギヤ部品5のバックラッシを除去することができる。
【0046】
また、バックラッシ除去装置12は、ロボット1が載置され、トーションバー9と同軸でロボット1を回転させるターンテーブル15を備えている。これにより、溶接機構14を移動させなくても、トーションバー9の全周を溶接することができる。
【0047】
また、バックラッシ除去装置12は、ねじり機構13を、トーションバー9に周方向へのねじりを加えた状態でターンテーブル15と同期して回転させる回転機構16を備えている。これにより、トーションバー9に与えるねじり、つまりは、トーションバー9に与えるトルクを容易に一定に保つことができる。
【0048】
また、バックラッシ除去装置12では、ねじり機構13は、トーションバー9の溶接される側の端部に形成されている溝部9aに挿入するねじり治具13bと、ねじり治具13bをトーションバー9と同軸で回転させるねじり駆動部13aとを備えており、ねじり治具13bを所定のトルクで回転させることによってトーションバー9に周方向へのねじりを加える。これにより、ロボット1に組み付けた状態で、トーションバー9にねじりを加えることができる。
【0049】
このとき、ねじり治具13bは、トーションバー9の端部から所定の長さで形成されている。そのため、溶接機構14を移動させなくてもレーザ光14bが遮られることがなく、容易にトーションバー9の全周を溶接することができる。
【0050】
また、バックラッシ除去装置12では、溶接機構14は1つのモータからの出力を2系統の伝達経路で駆動対象物まで伝達する減速機4において、いずれか一方の伝達経路に設けられているギヤ部品5を溶接する。これにより、バックラッシを除去するための作業負荷を過度に増加させることなく、また、ロボット1の構造を過度に変更することなく、バックラッシを除去することができる。
【0051】
また、バックラッシ除去装置12では、溶接機構14は、減速機4のうち前段側から伝達された出力を後段側に伝達する中段に配置されるギヤ部品5を溶接する。これにより、バックラッシを除去するための作業負荷を過度に増加させることなく、また、ロボット1の構造を過度に変更することなく、バックラッシを除去することができる。
【0052】
また、バックラッシ除去装置12では、溶接機構14は、トーションバー9の周囲を1周以上に渡って溶接する。これにより、トーションバー9を強固に固定することができる。また、溶接されない部位がなくなるので、復元力の偏りをなくすことができ、トーションバー9が変形することを抑制できる。
【0053】
実施形態では多段式の減速機4に用いるギヤ部品5を対象としてバックラッシを除去したが、実施形態とは段数が異なる減速機4に用いるギヤ部品5を対象とすることができる。また、減速機4以外に用いられるギヤ部品5を対象とすることができる。また、実施形態では小ピニオン7および大ピニオン10を有するギヤ部品5を対象とした例を示したが1つのピニオンを有するギヤ部品5を対象とすることができる。
【0054】
実施形態では回転機構16を設け、ねじり機構13全体をターンテーブル15に同期して回転させる構成を例示したが、回転機構16を設けることなく、トルクを与えつつターンテーブル15と同期してねじり治具13bを回転させる構成とすることができる。
【0055】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に含まれるものである。
【0056】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0057】
図面中、1はロボット、5はギヤ部品、7は小ピニオン(ギヤ)、9はトーションバー(軸部材)、10は大ピニオン(ギヤ)、12はバックラッシ除去装置、13はねじり機構、14は溶接機構、15はターンテーブル、16は回転機構を示す。