(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】偏光板及びその製造方法、ならびに光学機器
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231130BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20231130BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/14
G02F1/1335 510
(21)【出願番号】P 2020090347
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】武田 吐夢
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-066571(JP,A)
【文献】特開2020-003556(JP,A)
【文献】特開2016-212156(JP,A)
【文献】特開2019-066809(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046921(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/115059(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 1/14
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、
透明基板と、
前記透明基板の第1の面に形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部と、を備え、
前記複数の凸部はそれぞれ、前記透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を有し、
前記複数の凸部はそれぞれさらに、頂面及び側面が誘電体からなる保護膜に覆われており、
前記保護膜は、前記凸部を前記透明基板の表面に直交する面であって、かつ、前記第1方向に直交する面で切った断面から見て、前記頂面側から前記透明基板側にかけて面積が漸増してなる、偏光板。
【請求項2】
前記保護膜の形状は、隣接する前記凸部間の中心を基準として略左右対称である、請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記保護膜の底面が前記透明基板上にある、請求項1又は2のいずれかに記載の偏光板。
【請求項4】
前記透明基板が、前記凸部の側面を覆う保護膜の外周面から延伸する面に沿って彫り込まれている、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項5】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、
透明基板の第1の面に、反射層、誘電体層及び吸収層を順に形成して、反射層、誘電体層及び吸収層からなる積層体を作製する工程と、
前記積層体を選択的にエッチングすることにより、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部を形成する工程と、
前記複数の凸部のそれぞれの表面を覆う誘電体層からなる保護膜を形成する工程と、を有し、
前記保護膜を形成する工程は、前記保護膜が、前記凸部を前記透明基板の表面に直交する面であって、かつ、前記第1方向に直交する面で切った断面から見て、頂面側から透明基板側にかけて面積が漸増してなるようにエッチングする工程を含む、偏光板の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の偏光板を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板及びその製造方法、ならびに光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、一方向の偏光を吸収し、これと直交する方向の偏光を透過させる光学素子である。液晶表示装置では、原理上、偏光板が必要となる。特に、透過型液晶プロジェクタのような、光量の大きな光源を使用する液晶表示装置では、偏光板は強い輻射線を受けるため、優れた耐熱性や耐光性が必要となるとともに、数cm程度の大きさと、高い消光比および反射率特性の制御が要求される。これらの要求に応えるための、ワイヤグリッド型の無機偏光板が提案されている。
【0003】
ワイヤグリッド型の偏光板は、一方向に延在する導体のワイヤを基板上に、使用する光の波長の帯域よりも狭いピッチ(数十nm~数百nm)で多数並べて配置した構造を有する。この偏光板に光が入射すると、ワイヤの延在方向に平行な偏光(TE波(S波))は透過することができず、ワイヤの延在方向に垂直な偏光(TM波(P波))は、そのまま透過する。
【0004】
ワイヤグリッド型の偏光板は、耐熱性や耐光性に優れ、比較的大きな素子が作製でき、高い消光比を有している。また、多層構造とすることで反射率特性の制御も可能となり、偏光板の表面で反射された戻り光が液晶プロジェクタの装置内で再度反射されて生じる、ゴースト等による画質の劣化を低減させることから、液晶プロジェクタ等の用途に適している。
【0005】
これに対して、ワイヤグリッド型の偏光板として、種々の偏光板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-536651号公報
【文献】特表2019-536074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、ワイヤグリッド偏光子(偏光板)の側壁に互いを補助し得るサイドバーを形成した偏光板が開示されている。これによると、ワイヤグリッド偏光子の耐久性を向上させることができ、可視スペクトルにおいて良好な偏光特性が示された、と記載されている。しかしながら、高アスペクト比なワイヤグリッド偏光子を、サイドバーのみで耐久性を向上させるためには、おのずとサイドバー幅は太くなることで、透過率低下や反射率上昇など、良好な偏光特性は得られない。また、埋め込んだ場合も同様で、払拭できるくらいワイヤグリッド偏光子の耐久性は向上するが、より透過率低下や反射率上昇など、良好な偏光特性は得られない。
【0008】
特許文献2は、ワイヤグリッド偏光子(偏光板)の先端から側壁にかけてオーバーコート層を形成した偏光板、ならびにオーバーコート層上に反射防止層を形成した偏光板が開示されている。これによると、ワイヤグリッド偏光子は耐久性があり得、かつ高性能を有し得る、と記載されている。しかしながら、オーバーコート層によってワイヤグリッド偏光子を支持し倒壊を避けたとしても、空気層を含むことで透過率低下や反射率上昇など、高性能な偏光特性は得られない。また、その上に反射防止層を形成することで偏光特性は回復すると思われるが、おのずと工程が増えるためにコストアップとなることは間違いない。
【0009】
近年、照明・ディスプレイ光源は、ランプからLEDそしてレーザーへと進化しており、液晶プロジェクタにおいても、半導体レーザー(LD)を幾つも用いることで高光束とし、高輝度化を図っている。それにより、偏光板は、高光度な強い光の環境下においても耐えつつ、高い透過率特性が求められている。そのためには、保護膜を含めてグリッド構造を最適化した偏光板の提案が必要となる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、保護膜を含めてグリッド構造を最適化することで、グリッドの倒壊を防止するなど耐久性を維持しつつ透過軸方向の光透過特性が改善された、偏光板及びその製造方法、並びにその偏光板を備える光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
(1)本発明の一態様に係る偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、
透明基板と、前記透明基板の第1の面に形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部と、を備え、前記複数の凸部はそれぞれ、前記透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を有し、前記複数の凸部はそれぞれさらに、頂面及び側面が誘電体からなる保護膜に覆われており、前記保護膜は、前記凸部を前記透明基板の表面に直交する面であって、かつ、前記第1方向に直交する面で切った断面から見て、前記頂面側から前記透明基板側にかけて面積が漸増してなる。
【0013】
(2)上記態様において、前記保護膜の形状は、隣接する前記凸部間の中心を基準として略左右対称であってもよい。
【0014】
(3)上記態様において、前記保護膜の底面が前記透明基板上にあってもよい。
【0015】
(4)上記態様において、前記透明基板が、前記凸部の側面を覆う保護膜の外周面から延伸する面に沿って彫り込まれていてもよい。
【0016】
(5)本発明の他の態様に係る偏光板の製造方法は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、透明基板の第1の面に、反射層、誘電体層及び吸収層を順に形成して、反射層、誘電体層及び吸収層からなる積層体を作製する工程と、前記積層体を選択的にエッチングすることにより、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部を形成する工程と、前記複数の凸部のそれぞれの表面を覆う誘電体層からなる保護膜を形成する工程と、を有し、前記保護膜を形成する工程は、前記保護膜が、前記凸部を前記透明基板の表面に直交する面であって、かつ、前記第1方向に直交する面で切った断面から見て、頂面側から透明基板側にかけて面積が漸増してなるようにエッチングする工程を含む。
【0017】
(6)本発明のさらに他の態様に係る光学機器は、上記態様の偏光板を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐久性を維持しつつ透過軸方向の光透過特性が改善された偏光板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る偏光板の斜視模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
【
図3】
図3に示した偏光板の寸法を説明するための断面模式図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
【
図5】
図4に示した偏光板の寸法を説明するための断面模式図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
【
図7】
図6に示した偏光板の寸法を説明するための断面模式図である。
【
図8】保護膜形状加工前の状態のモデルの断面模式図である。
【
図9】保護膜を有さない従来構成のモデルの断面模式図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る偏光板にて、シミュレーションによって計算された、光学特性における透過軸透過率を示すグラフである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る偏光板にて、シミュレーションによって計算された透過軸透過率の波長帯域毎の平均透過軸透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
[偏光板(第1実施形態)]
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光板の斜視模式図である。
図1に示す偏光板100は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板10と、透明基板10の第1の面10aに形成された、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列し第1方向(Y方向)に延在する複数の凸部20を備える。
図1においては、凸部20を覆う保護膜は図示していない。
【0022】
ここで、
図1に示すように、複数の凸部の延在する方向(第1方向)をY軸方向と称する。Y軸方向に直交し、透明基板の主面に沿って複数の凸部が配列する方向をX軸方向と称する。Y軸方向ならびにX軸方向に直交し、透明基板の主面に対して垂直な方向をZ軸方向と称する。なお、偏光板に入射する光は、透明基板の第1の面10a側でも第2の面10b側からでもよいのだが、好適には、
図1に例示するように、透明基板の複数の凸部が形成されている第1の面側(グリッド面側)において、X軸方向及びY軸方向に直交するZ軸方向から入射する。
【0023】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板は、透過、反射、干渉、及び光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、Y軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、X軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。従って、
図1においては、Y軸方向が偏光板の吸収軸の方向であり、X軸方向が偏光板の透過軸の方向である。
【0024】
図2は、本発明の第1実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
図2に示す偏光板100は、透明基板10と、透明基板10の第1の面10aに形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部20を備え、複数の凸部20は、透明基板10側から順に、反射層21と、誘電体層22と、吸収層23とを有し、複数の凸部20はそれぞれさらに、頂面20aa及び側面20abが誘電体からなる保護膜40Aに覆われており、保護膜40Aは、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て、頂面20aa側から透明基板10側にかけて面積が漸増してなるものである。
なお、本発明の偏光板は、本発明の効果を発現する限りにおいて、透明基板と、反射層と、誘電体層と、吸収層と、保護膜と、それ以外の層が存在していてもよい。
【0025】
図2に示される偏光板の複数の凸部が形成された側(グリッド面側)から入射した光は、吸収層及び誘電体層を通過する際に一部が吸収されて減衰する。吸収層及び誘電体層を透過した光のうち、偏光波(TM波(P波))は高い透過率で反射層を透過する。一方、吸収層及び誘電体層を透過した光のうち、偏光波(TE波(S波))は反射層で反射される。反射層で反射されたTE波は、吸収層及び誘電体層を通過する際に一部は吸収され、一部は反射して反射層に戻る。また、反射層で反射されたTE波は、吸収層及び誘電体層を通過する際に干渉して減衰する。以上のようにTE波の選択的減衰を行うことにより、偏光板は、所望の偏光特性を得ることができる。
【0026】
ここで本明細書における偏光板の寸法につき、
図3を用いて説明する。高さhとは、
図3における透明基板の主面に垂直なZ軸方向の寸法であって、凸部の高さと保護膜の高さ(厚さ)h1とを合わせた高さを意味する。幅wとは、保護膜を備えた複数の凸部の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、高さh方向に直交するX軸方向の寸法を意味する。また、偏光板を複数の凸部の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、複数の凸部のX軸方向の繰り返し間隔を、ピッチpと称する。
【0027】
本発明の偏光板において、複数の凸部のピッチpは、使用帯域の光の波長よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、複数の凸部のピッチpは、例えば、100nm~200nmが好ましい。この複数の凸部のピッチpは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチpを測定し、その算術平均値を複数の凸部のピッチpとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0028】
本発明の偏光板は、グリッド先端からグリッド間を覆う保護膜形状を最適化することを特徴とする。これにより、耐久性を維持しつつ透過軸方向の光透過特性を良くすることが可能である。
【0029】
[透明基板]
透明基板10としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、偏光板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm~810nm程度の可視光が挙げられる。透明基板の主面形状は特に制限されず、目的に応じた形状(例えば、矩形形状)が適宜選択される。透明基板の平均厚みは、例えば、0.3mm~1mmが好ましい。
【0030】
透明基板10の構成材料としては、屈折率が1.1~2.2の材料が好ましく、ガラス、水晶、石英、サファイア等が挙げられる。コスト及び透光率の観点からは、ガラス、特に石英ガラス(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いることが好ましい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラス等の安価なガラス材料を用いることができる。
【0031】
また、熱伝導性の観点からは、熱伝導性が高い水晶やサファイアを用いることが好ましい。これにより、強い光に対して高い耐光性が得られ、発熱量の多いプロジェクタの光学エンジン用の偏光板として好ましく用いられる。
【0032】
なお、水晶やサファイア等の光学活性の結晶からなる透明基板を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行方向又は垂直方向に複数の凸部を配置することが好ましい。これにより、優れた光学特性が得られる。ここで、光学軸とは、その方向に進む光のO(常光線)とE(異常光線)の屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0033】
[反射層]
反射層21は、透明基板上に形成され、吸収軸であるY軸方向に、帯状に延びた金属膜が配列されたものである。
【0034】
反射層21は、ワイヤグリッド型偏光子としての機能を有し、反射層の長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、反射層の長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。反射層の膜厚は、特に制限されず、例えば、100nm~300nmが好ましい。なお、反射層の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0035】
反射層の構成材料としては、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の元素単体、又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。中でも、反射層は、可視光領域においてワイヤグリッドでの吸収損失を小さく抑えるという観点とコストの観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されることが好ましい。なお、これらの金属材料以外にも、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された金属以外の無機膜や樹脂膜で構成してもよい。
【0036】
なお、反射層21は、例えば蒸着法やスパッタ法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、反射層は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0037】
[誘電体層]
誘電体層22は、反射層上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた誘電体膜が配列されたものである。誘電体層の膜厚は、吸収層で反射した偏光に対して、吸収層を透過して反射層で反射した偏光の位相が半波長ずれる範囲で形成される。具体的には、誘電体層の膜厚は、偏光の位相を調整して干渉効果を高めることが可能な1nm~500nmの範囲で適宜設定される。この誘電体層の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。また、誘電体層22bは、反射層と後述する吸収層との構成元素の相互拡散を抑制するバリア層としても形成される。
【0038】
誘電体層22を構成する材料としては、SiO2等のSi酸化物、Al2O3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物、MgF2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、またはこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。
中でも、透過率並びにバリア層の機能の観点から、誘電体層22は、Si酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Nb酸化物及びTa酸化物から構成される群から選択されたいずれか一種以上の酸化物から構成されていることが好ましい。
【0039】
誘電体層22の屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。反射層21の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電体層22の材料を選択することで、偏光板の光学特性を制御することができる。また、誘電体層22の膜厚及び屈折率を適宜調整することにより、反射層21で反射したTE波について、吸収層23を透過する際に一部を反射して反射層21に戻すことができ、吸収層23を通過した光を干渉により減衰させることができる。このようにして、TE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性を得ることができる。
【0040】
なお、誘電体層22は、蒸着法やスパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、誘電体層は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0041】
[吸収層]
吸収層23は、使用帯域の光の波長に対して吸収作用を有するものであり、誘電体層22上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びて配列されたものである。吸収層の膜厚は、特に制限されず、例えば、5nm~50nmが好ましい。この吸収層の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0042】
吸収層23は、金属、合金材料及び半導体材料から構成される群から選択されたいずれかの一種以上の材料から構成されていることが好ましい。
【0043】
吸収層23の構成材料としては、適用される光の波長範囲によって適宜選択される。
金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体またはこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β-FeSi2、MgSi2、NiSi2、BaSi2、CrSi2、CoSi2、TaSi等)が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。中でも、吸収層は、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0044】
吸収層23として半導体材料を用いる場合には、吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが関与するため、バンドギャップエネルギーが使用帯域以下であることが必要である。
例えば、可視光で使用する場合、波長400nm以上での吸収、即ち、バンドギャップとしては3.1eV以下の材料を使用する必要がある。
なお、吸収層23は、例えば蒸着法やスパッタ法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、吸収層23は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0045】
[保護膜]
複数の凸部20のそれぞれの頂面20aa及び側面20abは、上述の誘電体層22を構成可能な材料からなる保護膜40Aで覆われている。保護膜40Aにより覆うことで、偏光板の耐久性を向上することができる。
なお、凸部20の頂面20aaは、吸収層23の頂面でもあり、凸部20の側面20abは、反射層21の側面21b、誘電体層22の側面22b及び吸収層23の側面23bからなるものであり、保護膜40Aは、凸部20の頂面20aaを覆う上部保護膜40Aaと、凸部20の側面20abを覆う側部保護膜40Abとからなる。
【0046】
保護膜は、凸部を透明基板の表面に直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て、頂面側から透明基板側にかけて(-Z方向に向けて)面積が漸増してなる形状を有する。ここで、「面積が漸増してなる形状」としては、その断面視の傾斜面が直線状でも曲線状でもよい。曲線状傾斜面の形状は、その曲線が例えば、放物線の式(Z=aX2:aは係数)や双曲線の式(Z=b/X:bは係数)に沿ったものとすることができる。
【0047】
保護膜は、凸部を透明基板の表面に直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て、略左右対称の構成とすることができる。
【0048】
上部保護膜40Aaの表面40Aaaは、頂面40Aaaaと傾斜面40Aaabとからなる。傾斜面40Aaabは、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て直線状の傾斜面である。保護膜40Aは、略テーパー状部分を有する構成である。
側部保護膜40Abの表面40Abaは、傾斜面からなる。傾斜面40Abaも凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て直線状の傾斜面であり、上部保護膜40Aaの傾斜面40Aaabから連続してなるものである。
保護膜40Aの傾斜面は、傾斜面40Aaabと傾斜面40Abaとからなり、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て直線状の傾斜面である。
【0049】
図2に示す偏光板100では、直線状の傾斜面である傾斜面40Aaabと傾斜面40Abaとが同じ角度で傾斜しており、連続してつながった構成であるが、それぞれの傾斜角が異なっていて不連続につながる構成としてもよい。
【0050】
上部保護膜40Aaの底面の幅w
0(
図3参照)は、凸部20の頂面20aaの幅wよりも広い構成である。そのため、凸部20の頂面20aaの両端20aae(
図3参照)は、保護膜40Aの傾斜面には接触しない。換言すると、保護膜40Aの傾斜面は、凸部20の頂面20aaの両端20aaeからは離間している。この構成によって、凸部20は保護膜40Aによって完全に覆われた構成となる。
【0051】
隣接する保護膜40A同士の底面(側部保護膜40Abの底面)同士は接しており、透明基板10の第1の面10aは露出していない。
図2に示す偏光板100では、隣接する保護膜40Aの底面(側部保護膜40Abの底面)同士は接する構成であるが、重なり合って厚みを有する構成とすることもできる。
【0052】
保護膜40Aを形成する際には、緻密で均一且つ膜厚制御性に優れる、ALD(Atomic Layer Deposition)法を用いることが好ましい。また、上述の誘電体層22と同様、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0053】
なお、保護膜40Aの形状において、上部保護膜40Aaは必ずしも平坦である必要はなく、また、側部保護膜40Abも側面形状の変化についても、変曲点がない場合に限られない。例えば、凸部20が埋め込まれた断面形状として、上部保護膜40Aaの表面40Aaaが曲面を描き、側部保護膜40Abの側面40Abaの変曲点が複数あるような形状であっても良いし、保護膜40Aに高さ分布があっても良い。
【0054】
なお、保護膜40Aが凸部20間を完全に埋め込む場合、あるいは、凸部20間の一部を埋める場合には、上述の誘電体層22を形成する方法以外にも、SOG(Spin on Glass)法を利用することができる。SOGによれば、空気層を含まず平坦化が可能となる。
【0055】
保護膜の材料としては公知の金属酸化物や金属窒化物などが挙げられるが、耐熱性の観点からはAl2O3が特に好ましい。
【0056】
(1)保護膜40Aのうち、上部保護膜40Aaの厚み(高さ)h1は、高さhの変化による特性の影響を考慮して、例えば、0<h1<50nmとすることができ、0<h1<25nmであることが好ましい。
(2)また、保護膜40Aは凸部20を完全に覆うことが必要である。従って、凸部の高さ(h-h1)と同じ高さ位置での保護膜40Aの幅w
0は、凸部の幅wよりも大きい(w
0>w)。
(3)隣接する凸部の側部傾斜面40Aba同士の交点(
図3中のX=x0)は、隣接する凸部20間の中間(中心)に位置する(すなわち、保護膜の形状がX=x0を基準として左右対称である)ことが光学特性上好ましいが、いずれかの凸部側にずれていてもよい。
(1)~(3)の特徴は、後述する実施形態においても共通する特徴である。
【0057】
[反射防止層]
反射防止層が、透明基板10の第2面10b上に形成されてもよい。反射防止層は、公知の反射防止材料からなるものとすることができ、例えば、誘電体層22を構成可能な材料を少なくとも2層以上の多層膜で構成されたものとすることができる。後述する偏光板200や偏光板300についても同様である。
多層膜の一例として、屈折率の異なる低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させることで、界面反射された光を干渉により減衰させることができる。反射防止層の膜厚は、特に制限されず、誘電体層22を構成する誘電体層1層あたり1nm~500nmの範囲で適宜設定される。この反射防止層の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0058】
低屈折率層は、SiO2(Siの酸化物)等を主成分とした層である。低屈折率層の屈折率は、好ましくは1.20~1.60であり、より好ましくは1.30~1.50である。
高屈折率層の屈折率は、好ましくは2.00~2.60であり、より好ましくは2.10~2.45である。このような高屈折率の誘電体としては、五酸化ニオブ(Nb2O5、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO2、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO3、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO2、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta2O5、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)などが挙げられる。
【0059】
なお、反射防止層は、上述の誘電体層と同じ成膜方法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。好適には、より高密度な膜が形成可能となる、イオンビームアシストされたIAD法(Ion-beam Assisted Deposition)やIBS法(Ion Beam Sputtering)を用いることが望ましい。
【0060】
さらに、この後に保護膜が形成されることを加味し、材料や膜厚など、光学特性が低下しない反射防止層の設計が行われていることが望ましい。
【0061】
[撥水膜]
さらに、本発明の偏光板は、偏光板100の表面100a、100bの少なくとも一方が、有機系撥水膜により覆われていてもよい。透明基板10の第2面10b上に反射防止層を備える場合には、その反射防止層を有機系撥水膜により覆われていてもよい。後述する偏光板200や偏光板300についても同様であり、偏光板200の表面200a、200bの少なくとも一方、あるいは、偏光板300の表面300a、300bの少なくとも一方が有機系撥水膜により覆われていてもよい。
有機系撥水膜は、例えばパーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物等で構成され、例えば上述のCVD法やALD法を利用することにより形成可能である。これにより、偏光板の耐湿性等の信頼性を向上できる。
【0062】
[偏光板(第2実施形態)]
図4は、本発明の第2実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
図4に示す偏光板200は、透明基板10と、透明基板10の第1の面10aに形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部20を備え、複数の凸部20は、透明基板10側から順に、反射層21と、誘電体層22と、吸収層23とを有し、複数の凸部20はそれぞれさらに、頂面20aa及び側面20abが誘電体からなる保護膜41Aに覆われており、保護膜41Aは、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て、頂面20aa側から透明基板10側にかけて面積が漸増してなる点は、
図2に示した偏光板100と共通する。
【0063】
一方、
図2に示した偏光板100において、保護膜40Aの傾斜面は、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て直線状の傾斜面であるのに対して、
図4に示した偏光板200において、保護膜41Aの傾斜面は、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面である点は異なる。
図4に示した偏光板200において、曲線状傾斜面の形状は、その曲線が略放物線の式(Z=aX
2)の例である。保護膜41Aは、略放物線部分を有する構成である。
【0064】
保護膜41Aは、凸部20の頂面20aaを覆う上部保護膜41Aaと、凸部20の側面20abを覆う側部保護膜41Abとからなる。
上部保護膜41Aaの表面41Aaaは、頂面41Aaaaと傾斜面41Aaabとからなる。傾斜面41Aaabは、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面である。
側部保護膜41Abの表面41Abaは、傾斜面からなる。傾斜面41Abaも凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面であり、上部保護膜41Aaの傾斜面41Aaabから連続してなるものである。
保護膜41Aの傾斜面は、傾斜面41Aaabと傾斜面41Abaとからなり、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面である。
【0065】
図4に示す偏光板200では、曲線状の傾斜面である傾斜面41Aaabと傾斜面41Abaとが連続してつながった構成であるが、不連続につながる構成とすることもできる。
また、
図4に示す偏光板200では、保護膜40Aの傾斜面は、凸部20側に凹んだ曲線状の傾斜面であるが、その逆に外側に膨れた曲線状の傾斜面とする構成であってもよい。
【0066】
上部保護膜41Aaの底面の幅w
1(
図5参照)は、凸部20の頂面20aaの幅wよりも広い構成である。そのため、凸部20の頂面20aaの両端20aae(
図5参照)は、保護膜41Aの傾斜面には接触しない。換言すると、保護膜41Aの傾斜面は、凸部20の頂面20aaの両端20aaeからは離間している。この構成によって、凸部20は保護膜41Aによって完全に覆われた構成となる。
【0067】
隣接する保護膜41A同士の底面(側部保護膜41Abの底面)同士は接しており、透明基板10の第1の面10aは露出していない。
図4に示す偏光板200では、隣接する保護膜41A同士の底面(側部保護膜41Abの底面)同士は接する構成であるが、重なり合って厚みを有する構成とすることもできる。
【0068】
[偏光板(第3実施形態)]
図6は、本発明の第3実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
図6に示す偏光板300は、透明基板11と、透明基板11の第1の面10aに形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部20を備え、複数の凸部20は、透明基板11側から順に、反射層21と、誘電体層22と、吸収層23とを有し、複数の凸部20はそれぞれさらに、頂面20aa及び側面20abが誘電体からなる保護膜42Aに覆われており、保護膜42Aは、凸部20を透明基板11の表面11aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て、頂面20aa側から透明基板11側にかけて面積が漸増してなる点は、
図2に示した偏光板100と共通する。
【0069】
一方、
図2に示した偏光板100において、保護膜40Aの傾斜面は、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て直線状の傾斜面であるのに対して、
図6に示す偏光板300において、保護膜42Aの傾斜面は、凸部20を透明基板10の表面10aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面である点は異なる。
図6に示す偏光板300において、曲線状傾斜面の形状は、その曲線が放物線の式(Z=bX
2)の例である。保護膜42Aは、放物線状部を有する構成である。
【0070】
また、
図6に示す偏光板300は、
図4に示した偏光板200と、凸部20を透明基板の表面に直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面である点は共通する。一方、
図6に示す偏光板300において、透明基板が彫り込まれている点で、透明基板が彫り込まれていない
図4に示した偏光板200とは異なる。この構成の違いに基づくと、
図6に示す偏光板300は、
図4に示した偏光板200の変形例と言える。
【0071】
保護膜42Aは、凸部20の頂面20aaを覆う上部保護膜42Aaと、凸部20の側面20abを覆う側部保護膜42Abとからなる。
上部保護膜42Aaの表面42Aaaは、頂面42Aaaaと傾斜面42Aaabとからなる。傾斜面42Aaabは、凸部20を透明基板11の表面11aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面である。
側部保護膜42Abの表面42Abaは、傾斜面からなる。傾斜面42Abaも凸部20を透明基板11の表面11aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面であり、上部保護膜42Aaの傾斜面42Aaabから連続してなるものである。
保護膜42Aの傾斜面は、傾斜面42Aaabと傾斜面42Abaとからなり、凸部20を透明基板11の表面11aに直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て曲線状の傾斜面である。
【0072】
透明基板11は、側部保護膜42Abの傾斜面42Abaに連続的につながるように透明基板11の第1面11aから彫り込まれた彫り込み部12aを有する。彫り込み部12aは深さdで、隣り合う側部保護膜42Abのそれぞれの傾斜面42Abaに連続的につながるように形成されている。
彫り込み部12aは、側部保護膜42Abの傾斜面42Abaに沿って延伸する面を表面としてなる構成である。
【0073】
図6に示す偏光板300では、彫り込み部12aは隣り合う側部保護膜42Abのそれぞれの傾斜面42Abaに連続的につながるように形成された構成であるが、彫り込み部12aを、隣り合う側部保護膜42Abのそれぞれの傾斜面42Abaに不連続につながる構成とすることも可能である。
また、
図4に示す偏光板200では、保護膜40Aの傾斜面は、凸部20側に凹んだ曲線状の傾斜面であるが、その逆に外側に膨れた曲線状の傾斜面とする構成であってもよい。
【0074】
上部保護膜42Aaの底面の幅w
1(
図7参照)は、凸部20の頂面20aaの幅wよりも広い構成である。そのため、凸部20の頂面20aaの両端20aae(
図5参照)は、保護膜42Aの傾斜面には接触しない。換言すると、保護膜42Aの傾斜面は、凸部20の頂面20aaの両端20aaeからは離間している。この構成によって、凸部20は保護膜42Aによって完全に覆われた構成となる。
【0075】
図6に示す偏光板300では、
図2に示した偏光板100及び
図4に示した偏光板200と異なり、隣接する保護膜42A同士の底面(側部保護膜42Abの底面)同士は接していない構成である。
【0076】
[偏光板の製造方法]
本発明の偏光板の製造方法は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、透明基板の第1の面に、反射層、誘電体層及び吸収層を順に形成して、反射層、誘電体層及び吸収層からなる積層体を作製する工程と、前記積層体を選択的にエッチングすることにより、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部を形成する工程と、前記複数の凸部のそれぞれの表面を覆う誘電体層からなる保護膜を形成する工程と、を有し、前記保護膜を形成する工程において、前記保護膜が、前記凸部を前記透明基板の表面に直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面で切った断面から見て、頂部側から透明基板側にかけて面積が漸増してなるようにエッチングする工程を含む。
【0077】
複数の凸部の形成について、透明基板の一方の面に形成した積層成膜上に、例えば、フォトリソグラフィ法、ナノインプリント法等により、レジストにて一次元格子状のマスクパターンを形成する。マスクパターンが形成されていない部分を、選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列される複数の凸部を形成する。エッチング方法としては、例えば、エッチング対象に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0078】
保護膜の形成について、凸部の表面を覆うように、たとえば、メチルシリケートやメチルシロキサンなどを原料とした、SOG法によりグリッド間を完全に埋め込み平坦化する。次に、フォトリソグラフィ法、ナノインプリント法等により、保護膜上に形成したレジストにて、上述の凸部に重なる位置で、一次元格子状のマスクパターンを形成する。次に、保護膜を選択的にエッチングすることにより、保護膜の形状を加工することができる。たとえば、略テーパーあるいは略放物線を描くように加工することもできる。
CVD(Chemical Vapor Deposion)法やALD(Atomic Layer Deposition)法は、凸部間の埋め込みの際に、凸部に分子が積もっていく形で凸部間を埋めていくため、空気層が形成されてしまい、保護膜との間に界面を形成してしまうことによる不要な反射の原因となってしまうため、好ましくない。
【0079】
以上により、
図1及び
図2に示す偏光板が製造される。なお、本発明の偏光板の製造方法は、反射防止膜を形成する工程や、偏光板の表面を有機系撥水膜で被覆する工程を、有していてもよい。
【0080】
[光学機器]
本発明の光学機器は、上述した本発明に係る偏光板を備える。本発明に係る偏光板は、種々の用途に利用することが可能である。適用される光学機器としては、例えば、液晶ディスプレイや液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイや車のヘッドライト等が挙げられる。特に、本発明に係る偏光板は、高透過であることから、例えば、半導体レーザー(LD)を幾つも用いた高光度な強い光の環境下においても、耐熱性に優れつつ高い透過率で高輝度化が図れる。これにより、液晶プロジェクタ等の用途に好適に用いることができる。
【0081】
本発明に係る光学機器が複数の偏光板を備える場合、複数の偏光板の少なくとも1つが本発明に係る偏光板であればよい。例えば、本発明に係る光学機器が液晶プロジェクタである場合、液晶パネルの入射側及び出射側に配置される偏光板の少なくとも一方が本発明に係る偏光板であればよい。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲での変形及び改良は本発明に含まれる。
【0083】
[シミュレーション]
本発明に係る偏光板として、
図2に示した偏光板、
図4に示した偏光板、及び、
図6に示した偏光板をモデルとしてシミュレーションを行った。具体的には、これらの偏光板の光学特性について、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションにより検証した。シミュレーションには、Grating Solver Development社のグレーティングシミュレータGsolverを用いた。
【0084】
比較のために、
図8に示したベタ膜の保護膜に凸部が埋め込まれている構成のモデル、
図9に示した保護膜形成前(保護膜なし)のモデルについてもシミュレーションを行った。
図8及び
図9において、
図2、
図4及び
図6と同じ符号で示した部材は材料やパラメータはそれらと同じである。
図8において、符号140は、保護膜40A、41A、42Aと同じ材料からなる層であり、保護膜40A、41A、42Aに加工する前の状態を示す層であり、その厚み(高さ)h1は
図2、
図4、及び
図6のモデルと同じである。
【0085】
図2に示した偏光板(テーパー状部を有する保護膜)、
図4に示した偏光板(放物線状部)、及び、
図6に示した偏光板(放物線状部+彫り込み部)のモデルにおいて、共通のパラメータ及び材料は以下の通りである。
透明基板:材料(無アルカリガラス)、厚み(0.7mm)、
反射層 :材料(Al)、厚み(250nm)、幅w(35nm)、
誘電体層:材料(SiO
2)、厚み(5nm)、幅w(35nm)、
吸収層 :材料(FeSi)、厚み(25nm)、幅w(35nm)、
保護膜 :材料(SiO
2)、高さh1(15nm)
グリッド:高さ(凸部と保護膜の和)h(295nm)、ピッチp(141nm)。
図2に示した偏光板、
図4に示した偏光板及び
図6に示した偏光板のいずれの実施形態においても、保護膜の形状は、隣接する凸部間の中心(例えば、
図3のX=x0)を基準にして左右対称である。
【0086】
また、
図2に示した偏光板のモデルにおいて、頂面40Aaaaの幅は凸部の幅Wと同じとし、かつ、凸部の高さ(h-h1)と同じ高さ位置での保護膜40Aの幅w
0(
図3参照)は、40.39nmとした。
また、
図4に示した偏光板のモデルにおいて、曲線状傾斜面の形状は、凸部を透明基板の表面に直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面であって、第1方向に直交する面で切った断面から見て、放物線の式(Z=aX
2)で表すことができるものとした。また、頂面41Aaaaの幅は凸部の幅Wと同じとし、かつ、凸部の高さ(h-h1)と同じ高さ位置での保護膜41Aの幅w
1(
図5参照)は、37.73nmとした。
【0087】
また、
図6に示した偏光板のモデルにおいて、曲線状傾斜面の形状は、凸部を透明基板の表面に直交する面であって、かつ、第1方向に直交する面であって、第1方向に直交する面で切った断面から見て、放物線の式(Z=bX
2)で表すことができるものとした。また、頂面42Aaaaの幅は凸部の幅Wと同じとし、かつ、凸部の高さ(h-h1)と同じ高さ位置での保護膜42Aの幅w
2(
図7参照)は、37.55nmとした。
また、
図6に示した偏光板のモデルにおいて、彫り込み部の深さdは、20nmとした。
【0088】
図10は、シミュレーションを行って得られた、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))における透過軸透過率の分光波形を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率(%)を示している。ここで、透過軸透過率とは、偏光板に入射する透過軸方向(X軸方向)の偏光(TM波)の透過率を意味する。
【0089】
図2に示した偏光板、
図4に示した偏光板、及び、
図6に示した偏光板のいずれも、ベタ膜の保護膜に凸部が埋め込まれている構成(
図8)よりも、全波長範囲(400nm~700nm)で透過軸透過率が向上している。
3つ構成で比較すると、
図6に示した偏光板(テーパー状部分+彫り込み部)、
図4に示した偏光板、
図2に示した偏光板の順に透過軸透過率が向上している。
図6に示した偏光板では、
図4に示した偏光板に対して透明基板をわずかに彫り込むだけで、保護膜形成前(保護膜なし)の構成(
図9)と同等レベルまで透過軸透過率が向上している。
これは、可視光以下の領域で保護膜の形状が基板方向(―Z方向)に向けて広がっていくことにより、保護膜と、保護膜と隣接する空気層との間の屈折率差が徐々に小さくなっていくことによって、反射抑制効果が高くなっているためと考えられる。
【0090】
図11は、シミュレーションを行って得られた、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
【0091】
図2に示した偏光板、
図4に示した偏光板、及び、
図6に示した偏光板のいずれも、保護膜を有さない従来構成よりも、全波長帯域で透過軸透過率の平均値が向上している。
また、3つ構成で比較すると、全波長帯域において、
図6に示した偏光板、
図4に示した偏光板、
図2に示した偏光板の順に透過軸透過率の平均値が向上している。
図6に示した偏光板では、
図4に示した偏光板に対して透明基板をわずかに彫り込むだけで、保護膜形成前(保護膜なし)の構成(
図9)と同等レベルまで透過軸透過率の平均値が向上している。
【符号の説明】
【0092】
10、11 透明基板
10a、11a 第1の面
10b、11b 第2の面
20 凸部
21 反射層
22 誘電体層
23 吸収層
40A、41A、42A 保護膜
100、200、300 偏光板
100a、200a、300a 偏光板の表面