(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】麦茶の味質改善剤及び麦茶飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20231130BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20231130BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/38 L
A23L2/38 M
(21)【出願番号】P 2020105949
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将紘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智典
(72)【発明者】
【氏名】上本 倉平
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-051126(JP,A)
【文献】特開2014-018181(JP,A)
【文献】特開2012-217348(JP,A)
【文献】特開2015-100306(JP,A)
【文献】特開昭54-145298(JP,A)
【文献】特開昭47-009719(JP,A)
【文献】YAHYA, H. et al.,Flavour generation during commercial barley and malt roasting operations: A time course study,Food Chemistry,2014年,Vol.145, No.15,pp.378-387,DOI: 10.1016/j.foodchem.2013.08.046
【文献】TATSU, S. et al.,Key Odorants in Japanese Roasted Barley Tea (Mugi-Cha)-Differences between Roasted Barley Tea Prepar,J. Agric. Food Chem.,2020年02月11日,Vol.68, No.9,pp.2728-2737,DOI: 10.1021/acs.jafc.9b08063
【文献】PAPETTI, A. et al.,Free α-dicarbonyl compounds in coffee, barley coffee and soy sauce and effects of in vitro digestio,Food Chemistry,2014年,Vol.164,pp.259-265,DOI: 10.1016/j.foodchem.2014.05.022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンから選ばれる少なくとも1以上を含有する、麦茶の味質改善剤
であって、
麦茶に含まれるグアイアコールと、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計量との質量比率[(2,3-ブタンジオン+2,3-ペンタンジオン)/グアイアコール]が2.8~10となるように用いられる、上記味質改善剤。
【請求項2】
常温で飲用される麦茶の風味を増強するものである、請求項1に記載の味質改善剤。
【請求項3】
麦茶に含まれるグアイアコールと、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計量との質量比率[(2,3-ブタンジオン+2,3-ペンタンジオン)/グアイアコール]が2.8~10となるように2,3-ブタンジオンを含有させることを含む、麦茶飲料の味質改善方法。
【請求項4】
麦茶に含まれるグアイアコールと、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計量との質量比率[(2,3-ブタンジオン+2,3-ペンタンジオン)/グアイアコール]が2.8~10である麦茶飲料。
【請求項5】
L値が20~50である、焙煎した大麦であって、
焙煎大麦5gに100℃の湯200mlを注いで5分間抽出して得た抽出液中の2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計量が、可溶性固形分(Bx)当たり3500ppb/Bx以上となる、上記大麦。
【請求項6】
請求項5に記載の焙煎大麦を原料とする麦茶飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は麦茶飲料に関する。特に本発明は、常温で飲用した場合にも麦茶独特の風味を維持したまま雑味を低減することができる麦茶の味質改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
麦茶は、焙煎した大麦を、熱湯で煮出したり、湯や水で浸出したりして得られる、麦茶独特の甘く香ばしい香りを有する抽出液を嗜好するものである。近年、麦茶の持つ健康効果が明らかになり、嗜好品として飲用するのみではなく、喉を潤すための水分補給(止渇)飲料や、血流改善を期待する健康飲料等として、継続的に麦茶を飲用することが推奨されている。そして、仕事をしながらデスクに飲み物を置いて、それを長時間かけて少しずつ飲む「ちびだら飲み」の飲料としても、麦茶が飲用されるようになっている。
【0003】
従来、麦茶は、麦茶ポットに入れて冷蔵保管されるので、冷蔵温度程度の低温で飲用されることが多かったが、ちびだら飲みの場合には、常温に長時間さらされるため、麦茶の液温は徐々に常温に近い温度になる。麦茶を常温で飲用すると、低温で飲用する場合に比べて香ばしい香りや甘みなどが低減する。
【0004】
麦茶飲料に関して、デンプン量やβグルカン量などの多糖類量及び麦由来可溶性固形分によりコク、濃度感等を調整し、マルトース量の二糖類量により甘味等を調整し、フラン系化合物群量やピラジン系化合物群量などの香気成分量により香り等を調整することにより、低温時に加え、生ぬるさが感じられる常温で飲用しても、適度な香味と甘味を備えた容器詰麦茶飲料が提案されている(特許文献1)。また、ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含む水溶液を原料麦に含浸させた後、100~200℃の温度で焙焼することにより、香ばしい香りと甘味やコク味が増強された麦茶用麦も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-217348号公報
【文献】特開2012-170332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
麦茶には、麦茶独特の甘く香ばしい風味を担っている成分と、雑味と知覚される成分とが含まれている。常温で飲用した場合、知覚される麦茶独特の甘く香ばしい風味の成分と雑味成分とのバランスが崩れるため、飲料としての嗜好性や止渇性が低下することがある。水で浸出する水出しにより麦茶を製造すれば、常温で知覚される雑味が少なくマイルドですっきりした味わいになるものの、同時に麦茶独特の香り、色及び味などが不足してしまう傾向があった。
【0007】
本発明の課題は、常温で飲用した場合にも、麦茶独特の風味を維持したまま雑味を低減することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、常温で低減する麦茶独特の風味を増強することができれば、相対的に雑味が知覚されにくくなるとの知見を得た。そして、驚くべきことに、オフフレーバー成分として知られている2,3-ブタンジオンや2,3-ペンタンジオンが常温で麦茶風味をエンハンスする作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
[1] 2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンから選ばれる少なくとも1以上を含有する、麦茶の味質改善剤。
[2] 常温で飲用される麦茶の風味を増強するものである、[1]に記載の味質改善剤。
[3] 麦茶に含まれるグアイアコールと、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計量との質量比率[(2,3-ブタンジオン+2,3-ペンタンジオン)/グアイアコール]が2.8~10となるように用いられる、[1]または[2]に記載の味質改善剤。
[4] 麦茶に含まれるグアイアコールと、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計量との質量比率[(2,3-ブタンジオン+2,3-ペンタンジオン)/グアイアコール]が2.8~10となるように2,3-ブタンジオンを含有させることを含む、麦茶飲料の味質改善方法。
[5] 麦茶に含まれるグアイアコールと、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計量との質量比率[(2,3-ブタンジオン+2,3-ペンタンジオン)/グアイアコール]が2.8~10である麦茶飲料。
[6] L値が20~50である、焙煎した大麦であって、焙煎大麦5gに100℃の湯200mlを注いで5分間抽出して得た抽出液中の2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計量が、可溶性固形分(Bx)あたり3500ppb/Bx以上となる、上記大麦。
[7] [6]に記載の焙煎大麦を原料とする麦茶飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、麦茶独特の甘く香ばしい風味が増強され、雑味が低減されるので、常温で飲用した場合にも風味、味の点で満足のいく麦茶を得ることができる。また本発明は、煩雑な工程や複雑な設備が不要であるという利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(味質改善剤)
本発明の味質改善剤は、2,3-ブタンジオン(2,3-Butanedione)及び2,3-ペンタンジオン(2,3-Pentanedione)から選ばれる少なくとも1以上を含有する。2,3-ブタンジオンや2,3-ペンタンジオンは、酵母や微生物の発酵により発生する臭気成分であり、バターやチーズなどの乳製品には不可欠な香りであり、酒類などでは好ましくないオフフレーバー(異臭)成分として知られている。本発明の発明者らは、これら2,3-ブタンジオンや2,3-ペンタンジオンが、麦茶中では弁別閾値が上がる傾向にある一方で、麦茶独特の甘く香ばしい香気をエンハンスする作用を有することを見出した。
【0012】
麦茶独特の甘く香ばしい香気成分の一つとして、シクロテン(Cyclotene)が例示できる。低沸点成分であるシクロテンは、常温で飛散しやすく、その結果、麦茶に含まれる雑味成分の香気が相対的に強くなるが、本発明に基づいて2,3-ブタンジオンを麦茶飲料に含有させることにより、シクロテンに代表される麦茶独特の香気が増強されるので、雑味成分を低減させなくても、低温で飲用した場合と同じような香味を有する麦茶、すなわち雑味が少なく甘く香ばしい風味豊かな麦茶を得ることができる。ここで、麦茶の雑味成分としては、薬品臭として知覚されられているグアイアコール(Guaiacol)を例示できる。また、本明細書において、「雑味」とは、麦茶本来の味を損なうものであって、後味のすっきり感やキレを損なう苦味と渋味を伴う味を意味する。
【0013】
本発明の味質改善剤は、シクロテン等の麦茶独特の甘く香ばしい香気成分の風味を増強することにより、相対的にグアイアコール等に起因する雑味を低減(マスキング)するものである。本発明において、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンは、麦茶中のグアイアコール含有量に対する質量割合[2,3-ブタンジオンと2,3-ペンタンジオンの合計(含有)量/グアイアコールの含有量]が2.8~10となるように含有させると、より顕著な効果を発現することから好ましい。2,3-ブタンジオンと2,3-ペンタンジオンの合計(含有)量/グアイアコールの含有量が、3.0~9であることがより好ましく、3.5~8であることがさらに好ましく、4~6であることが特に好ましい。
【0014】
本発明の好ましい態様において、麦茶に含まれる2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計(含有)量は、可溶性固形分あたり3500ppb/Bx以上であり、4300ppb/Bx以上がより好ましく、5000ppb/Bx以上がさらに好ましい。2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンをこのように配合することで、トップだけでなくミドルノートにまで影響を及ぼすほど甘く香ばしい香りがエンハンスされ、雑味をより効果的にマスキングできる。麦茶に含まれる2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオン含有量の上限は特にないが、甘い香りを強く感じすぎて香気バランスが崩れる可能性があるため、12000ppb/Bx以下や10000ppb/Bx以下とすることが好ましい。
【0015】
ここで、本明細書でいう「固形分当たり」とは、20℃における抽出液中の可溶性固形分濃度当たりを意味し、可溶性固形分濃度は、糖度計や屈折計などを用いて得られるBrix(ブリックス)値に相当する。ブリックス値は、20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値である。例えば、本発明に関して「2,3-ブタンジオンを固形分当たり3000ppb含有する」とは、抽出液中の2,3-ブタンジオン含有量[ppb]を抽出液の可溶性固形分濃度[Bx]で除した値が3000であることをいう。
【0016】
本発明の2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンから選ばれる少なくとも1以上を含む味質改善剤は、麦茶独特の風味を増強させるものであり、常温で飲用する麦茶に対して特に好適に適用される。本発明によれば、シクロテンに代表される麦茶独特の甘く香ばしい風味を増強することができる。効果の顕著さから、本発明の好ましい態様において、麦茶の固形分当たりのシクロテン含有量は300(ppb/Bx)以上、より好ましくは350以上、さらに好ましくは500以上である。麦茶の固形分当たりのシクロテン含有量の上限は特にないが、甘い香りを強く感じすぎて香気バランスが崩れる可能性があるため、3000(ppb/Bx)程度とすることが好ましい。
【0017】
本発明の味質改善剤で使用される2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンは、飲食品の分野において通常使用されているものであれば由来は特に限定されず、例えば、化学合成品でも、2,3-ブタンジオン及び/又は2,3-ペンタンジオンを含有する植物から抽出したものでもよいが、植物抽出物を用いる方法は、安全性の観点から好ましい。
【0018】
2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンは、大麦の加熱処理の際に炭水化物の分解によって生じる場合がある。例えば、大麦を適切に焙煎処理することによって、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンを多く生成させた焙煎大麦を得ることが可能であり、そのような焙煎大麦の抽出物は、本発明の味質改善剤の好適な態様の一例である。焙煎大麦の抽出物として使用すると、麦茶の香り以外の問題、例えば添加した植物抽出物の味が麦茶の味に影響を及ぼすという問題が発生しないという点でも好ましい。
【0019】
(2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンを高含有する焙煎大麦)
本発明において、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンは、L値は20~50(好ましくは30~40程度)に焙煎された焙煎大麦の抽出物の形態で用いることができる。本明細書において、L値とは、大麦の焙煎の程度を色(明度)で評価するための値であり、黒を0、白を100として、色差計で測定することができる。色差計としては、明度測定機(Colorette4/Probat社製)を用いることができる。
【0020】
本発明者らは、明度変化率を指標とした特定の条件で焙煎を行うことにより、焙煎大麦の抽出物中に2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンが特異的に多くなることを見出している。2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンが特異的に多い焙煎大麦は、本発明の味質改善剤の原料として好適に用いられるものである。
【0021】
明度変化率を指標とした特定条件の焙煎として、具体的には、熱風ドラム式焙煎機(Neotec社製)を用いて大麦550gを投入した場合に、式1
【0022】
【0023】
により表される明度変化率が-0.12以上かつ-0.04未満となるような条件の焙煎がある。ここで、明度比率とは、式2
【0024】
【0025】
で表される値であり、焙煎開始前(即ち、焙煎時間0秒(T0))の大麦の明度に対する焙煎開始後のある時点(Tn(例えば、T1、T2))での大麦の明度(L値)の比である。
【0026】
本明細書における大麦の明度は、粉砕機(コーン式コーヒーグラインダーKG364J/デロンギ社製)にて大麦を粉砕後、明度測定機(Colorette4/Probat社製)にて測定されるL値をいう。
【0027】
本発明の好ましい態様に係る焙煎大麦は、上記の明度変化率を指標とした特定条件の焙煎により得られる。本発明に係る焙煎大麦は、焙煎大麦5gに100℃の湯200mlを注いで5分間抽出して得た抽出液中の2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計(含有)量は、固形分当たり3500ppb/Bx以上が好ましく、5000ppb/Bx以上がより好ましく、6000ppb/Bx以上がさらに好ましく、7000ppb/Bx以上がよりさらに好ましく、8000ppb/Bx以上であってもよい。また、本発明に係る焙煎大麦から抽出した抽出液は特異的に2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンが多く、好ましい態様において、(2,3-ブタンジオンと2,3-ペンタンジオンの合計量)/グアイアコールの含有量が2.8以上となる。従来の一般的な焙煎大麦では、同様に抽出した場合の大麦抽出液中の固形分当たりの2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの合計(含有)量は1000~3100ppb/Bx程度であり、グアイアコール含有量に対する質量割合は、2.2以下程度である。
【0028】
一つの態様において、本発明は、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンから選ばれる少なくとも1以上を配合することを含む、麦茶飲料の製造方法である。好ましい態様において、本発明に係る麦茶飲料の製造方法では、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンを含有する焙煎大麦から抽出液を得る。焙煎大麦からの抽出は公知の方法によることができ、例えば、水や熱水、抽出助剤を添加した水溶液を用いて実施すればよい。抽出方法としては、例えば、ニーダー抽出、攪拌抽出(バッチ抽出)、向流抽出(ドリップ抽出)、カラム抽出等の公知の方法を採用することができ、原料である焙煎大麦を粉砕してから抽出してもよい。また、抽出条件は特に限定されず、抽出方法により適宜選択することができる。
【0029】
麦茶飲料には、本発明の目的を逸脱しない範囲であれば、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。各種添加剤としては、例えば、酸化防止剤、色素類、エキス類、香料などを用いることができる。
【0030】
本発明の麦茶飲料は、pHが4.5~7.0であることが好ましく、5.0~6.5であることがより好ましい。飲料のpH調整は、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を用いて適宜行うことができる。飲料のpHは、市販のpHメーターを使用して20℃において測定することができる。
【0031】
本発明において麦茶飲料は、容器詰飲料の形態であってもよい。本発明によれば、常温で飲用する場合でも麦茶独特の好ましい香味をしっかりと感じることができ、容器詰麦茶飲料は、本発明の好適な態様の一つである。
【0032】
容器詰飲料に使用される容器は、一般の飲料と同様に公知の容器を使用することができ、例えば、樹脂製容器、金属製容器、紙製容器、ガラス製容器などを好適に使用できる。一つの態様において、容器詰緑茶飲料は、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などに充填して密閉した形態で提供することができる。本発明の緑茶飲料の容量は、特に限定されないが、例えば100mL~3000mLであり、好ましくは350mL~2000mLであり、500~1000mLとしてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0034】
実験1:2,3-ブタンジオンによる味質改善作用(1)
麦茶用に市販されている焙煎大麦(はくばく 丸粒麦茶)5gに対し、100℃の湯200mlを注いで5分間保持した後に、10~200メッシュの金属メッシュによる固液分離を行い可溶性固形分濃度(Bx)が0.016の大麦抽出液を得た(サンプル1-1、シクロテン濃度:15ppb)。これに、2,3-ブタンジオン(富士フイルム和光純薬)を表1に記載の濃度となるように添加してサンプルを調製した(サンプル1-2~1-3)。また、サンプル1-1に、2,3-ブタンジオン(富士フイルム和光純薬)及びグアイアコール(富士フイルム和光純薬)を表1に記載の濃度となるように添加したサンプルも調製した(サンプル1-4)
得られた麦茶飲料について、訓練された専門パネル5名により、サンプル1-1を対照とした官能評価を常温にて実施した。冷蔵温度(5℃)の麦茶飲料を基準として評価の基準をすり合わせた上で、香ばしい香りの強さ、甘い香りの強さ、クリーンさ(雑味を感じない味わい)について、サンプル1-1を4点として、各パネルが1点~7点で点数付け(0.5点刻み)し、平均点を算出した。また、麦茶飲料の味質改善(甘く香ばしい香りが強化され雑味が抑制されているか)について、下記の基準に基づいて総合的に評価した。
・〇:改善効果があると5名全員が評価
・△:改善効果があると判断した評価者が3名または4名
・×:改善効果があると判断した評価者が2名以下
表1に結果を示す。2,3-ブタンジオンの添加により、香ばしい香りや甘い香りがエンハンスされることでグアイアコールに代表される不快な香りを感じにくくなり、後味の雑味を抑制することができた。(A)2,3-ブタンジオン及び(B)2,3-ペンタンジオンの合計量((A)+(B))とグアイアコールの質量比([(A)+(B)]/Guaiacol)が大きくなると、香ばしい香りや甘い香りがエンハンスされることで相対的にネガな香りを感じにくくなり、後味の不快感(雑味)が効果的に抑制された。
【0035】
【0036】
実験2:2,3-ブタンジオンによる味質改善作用(2)
市販の焙煎大麦(つぶまる、小川産業)を用いて、可溶性固形分濃度が0.03となるように水で希釈して麦茶飲料を得た(サンプル2-1)以外は、実験1と同様にして2,3-ブタンジオンを添加してサンプルを調製し、常温で官能評価した。
【0037】
表2に結果を示す。実験1と同様に、麦茶飲料を変えた場合にも2,3-ブタンジオンの添加により、香ばしい香りや甘い香りがエンハンスされることでグアイアコールに代表される不快な香りを感じにくくなり、後味の雑味を抑制することができた。
【0038】
【0039】
実験3:2,3-ペンタンジオンによる味質改善作用
実験1のサンプル1-1を対照(サンプル3-1)とし、2,3-ペンタンジオン(東京化成工業)を表3に記載の濃度となるように添加する以外は、実験1と同様にしてサンプルを調製し、常温にて官能評価した。
【0040】
表3に結果を示す。2,3-ペンタンジオンの添加により、(A)2,3-ブタンジオン及び(B)2,3-ペンタンジオンの合計量((A)+(B))とグアイアコールの比([(A)+(B)]/Guaiacol)が大きくなり、香ばしい香りや甘い香りがエンハンスされることで相対的にネガな香りを感じにくくなり、後味の不快感(雑味)が効果的に抑制された。
【0041】
【0042】
表1~表3の結果から、麦茶中のグアイアコール含有量に対する2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの質量割合[(2,3-ブタンジオンと2,3-ペンタンジオンの合計量)/グアイアコールの含有量]が2.8以上となるように配合すると、麦茶飲料を常温で飲用した場合にも、麦茶独特の甘く香ばしい香気成分の香気が増強され、グアイアコールに代表される雑味成分が知覚されにくくなることが明らかとなった。
【0043】
実験4:2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンを高含有する焙煎大麦抽出液による味質改善作用
4-1.焙煎大麦の製造
焙煎機には、熱風ドラム式焙煎機(Neotec社製)を用いた。まず、焙煎機内の空気温度(「焙煎室の温度」ともいう)が130℃になるまで予備運転を行い、焙煎室の温度が130℃に達した後、焙煎原料である大麦を550g投入して焙煎を開始した。焙煎大麦の明度変化率がそれぞれ下記のようになるよう熱風調整を行って、明度(L値)が30~40の焙煎大麦A~Cを得た。
■焙煎大麦A:0分(焙煎開始直後)を基準とし、明度変化率が-0.12となるように麦を3分間焙煎した。
■焙煎大麦B:0分(焙煎開始直後)を基準とし、明度変化率が-0.03となるように麦を7分間焙煎した後、明度変化率が-0.06となるように麦をさらに3分間焙煎した。
■焙煎大麦C:焙煎前に生麦1kgを常温の水800gに1時間浸漬し、その後、焙煎大麦Aと同様の条件で麦を焙煎した。
【0044】
ここで、明度変化率とは、式1
【0045】
【0046】
で示される値である。
なお、大麦の明度(L値)は、粉砕機で大麦を粉砕後、明度測定機(Colorette4/Probat社製)を用いて測定した。粉砕機としては、コーン式コーヒーグラインダー(KG364J/デロンギ社製)を使用し、粉砕粒度が最も細かくなる設定にして麦を粉砕した(14段階に設定可能なグラインド目盛を最も極細挽きになるように設定)。
【0047】
4-2.焙煎大麦抽出物の分析
得られた焙煎大麦A~Cおよび市販の麦茶飲料用焙煎大麦(D:はくばく、E:つぶまる)から麦茶飲料を調製し、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により含有成分を分析した。麦茶飲料は、焙煎大麦5gに100℃の湯200mlを注いで5分間抽出して調製した。抽出液中の各成分量については、下記の方法によって分析した。
・GC本体装置:Agilent Technologies 7890A
・MS検出器:Agilent Technologies 5975C inert XL MSD with Triple-Axis Detector
・前処理装置:MultiPurpose Sampler MPS for GC
・試料注入条件:ダイナミックヘッドスペース法
サンプル温度 80℃
圧力 160kPa
セプタムパージ流量 3 mL/min
スプリットレスモード
・カラム:HP-INNOWAX(長さ:60m、直径:0.250mm、厚さ:0.25 μm)
流量 1.5 mL/min
圧力 160 kPa
・オーブン:40℃→240℃(7.5℃/min)
・MS:イオン源温度 240℃
イオン化方式 EI法
モード:SIM/スキャン
EMゲイン:1800V
・ポストラン:10min。
【0048】
表4に、分析結果を示す。明度変化率が-0.12以上かつ-0.04未満となるように焙煎して製造した焙煎大麦は、2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンの濃度が特異的に高くなることが判明した。この抽出液を常温で官能評価した結果、焙煎大麦A~Cは、市販の焙煎大麦(焙煎大麦D,E)と比較して、麦茶独特の甘く香ばしい香りが強く、雑味が少ない飲料であった。
【0049】
【0050】
4-3.焙煎大麦抽出物による味質改善作用
実験4-2で得られた焙煎大麦AまたはBの抽出液を、市販の焙煎大麦(D、E)の抽出液に添加し、味質改善作用を確認した。具体的には、焙煎大麦抽出液A又はBを下表に示す割合で焙煎大麦抽出液DまたはEと混合して麦茶飲料を調製し、実験1と同様にして味質改善作用を常温で官能評価した。
【0051】
結果を表5及び表6に示す。2,3-ブタンジオン及び2,3-ペンタンジオンを多く含む焙煎大麦の抽出物を含有させることにより、常温で飲用した場合の麦茶飲料の味質を改善することができた。
【0052】
【0053】