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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】クリップ
(51)【国際特許分類】
   F16B 19/10 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
F16B19/10 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020125500
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021727
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】阿部 亮太
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-050707(JP,U)
【文献】実開平01-165810(JP,U)
【文献】登録実用新案第3182541(JP,U)
【文献】特開2016-109196(JP,A)
【文献】特開2011-231871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
留付対象の留付孔に挿通される先端を有した筒状の脚部を備え、前記脚部の先端を拡開するためのスリットが前記脚部の先端から基端に向けて形成されているグロメットと、
前記脚部に押し込み可能に構成された軸部を備え、前記軸部が前記脚部に押し込まれた押込状態で、前記軸部が前記脚部の先端を前記脚部の内側から拡開するピンと、を備え、
前記脚部の拡開によって前記留付対象を留付け、かつ、前記押込状態の前記ピンに外部から加わる回転力を前記軸部の抜き出しに変換するように構成されたクリップであって、
前記軸部の周面から前記軸部の径方向外側に向け突き出る突部を備え、
前記押込状態の前記ピンは、前記スリットの端部と前記突部とが前記軸部の径方向において対向するように前記グロメットと係合し、
前記回転力が一方向であるときに当該回転力を前記軸部の抜き出しに変換する一方で、前記回転力が他方向であるときに当該回転力で前記軸部が回転することを規制するラッチカムをさらに備え、
前記押込状態の前記ピンは、前記スリットにおける前記一方向の上流端部と前記突部とが対向するように前記グロメットと係合する
クリップ。
【請求項2】
前記突部は、前記一方向における下流側の端面であって、前記押込状態において前記上流端部と対向する第1面を備え、
前記第1面と前記軸部の周面とが形成する角度は、90°以下である
請求項に記載のクリップ。
【請求項3】
前記突部は、前記一方向における上流側の端面である第2面を備え、
前記第2面と前記軸部の周面とが形成する角度は、90°よりも大きい
請求項またはに記載のクリップ。
【請求項4】
前記突部は、前記スリットの延びる方向に沿って延びる形状を有する
請求項1からのいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項5】
前記脚部の周方向における前記突部の幅が、前記周方向における前記スリットの幅よりも小さい
請求項1からのいずれか一項に記載のクリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロメットとピンとを備えるクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
内張りやパネルなどを車体に留め付けるクリップは、グロメットとピンとを備える(例えば、特許文献1を参照)。グロメットは、ピン挿入孔を有した円環状のグロメット頭部と、ピン挿入孔から下方に延びる筒状の脚部とを備える。ピンは、円盤状のピン頭部と、ピン頭部から下方に延びる柱状の軸部とを備える。グロメット頭部は、ピンの回転を止めるための周回カム面を備え、ピン頭部は、周回カム面に沿って従動するためのカムフォロアーを備える。脚部は、軸部の押し込みによって拡開するように構成されている。
【0003】
クリップの取り付けでは、まず、留付対象の留付孔に脚部が挿し込まれる。次いで、ピン挿入孔から脚部の内部に向けて、軸部が押し込まれる。脚部は、軸部の押し込みに伴って、軸部に押し広げられる。押し広げられた脚部は、脚部が留付孔から抜け出ること、および、軸部が脚部から抜け出ることを抑制する。この状態で、ピンを抜き出すためのピン頭部の回転、すなわち、カムフォロアーの回転は、周回カム面によって係止され、これにより、クリップが留付対象を留め付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-231871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、クリップの留め外しでは、まず、カムフォロアーが周回カム面に沿って従動する程度の回転力でピン頭部が回される。そして、カムフォロアーが周回カム面に沿って従動し、ピン頭部の回転が軸部の抜き出しに変換される。
【0006】
ここで、内張りやパネルなどを車体に留め付ける用途のように、クリップが使用される環境には、塵や砂などの異物が少なからず存在する。脚部の筒内に異物が存在している状態で、ピンの軸部が脚部に押し込まれると、軸部と脚部との間に介在する異物が、脚部をさらに押し広げる。その結果、ピンの軸部が脚部に過剰に締め付けられてしまい、次回の抜き出しに際して、ピン頭部の回転に大きな負荷を強いている。
【0007】
本発明の目的は、グロメットからピンを抜き出すときの負荷を軽減可能としたクリップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのクリップは、留付対象の留付孔に挿通される先端を有した筒状の脚部を備え、前記脚部の先端を拡開するためのスリットが前記脚部の先端から基端に向けて形成されているグロメットと、前記脚部に押し込み可能に構成された軸部を備え、前記軸部が前記脚部に押し込まれた押込状態で、前記軸部が前記脚部の先端を前記脚部の内側から拡開するピンと、を備える。このクリップは、前記脚部の拡開によって前記留付対象を留付け、かつ、前記押込状態の前記ピンに外部から加わる回転力を前記軸部の抜き出しに変換するように構成されたクリップである。そして、前記軸部の周面から前記軸部の径方向外側に向け突き出る突部を備え、前記押込状態の前記ピンは、前記スリットの端部と前記突部とが前記軸部の径方向において対向するように前記グロメットと係合する。
【0009】
上記クリップによれば、押込状態のピンに外部から回転力が加えられて、ピンが回転しはじめる。ピンが回転しはじめるとき、スリットの端部と突部とは、軸部の径方向において対向している。そのため、軸部の周面と脚部の内周面との間に介在する異物は、突部が回転しはじめるときに、脚部の外に向けてスリットから掻き出される。結果として、異物の介在による回転負荷の増大を抑制すること、ひいてはグロメットからピンを抜き出すときの負荷を軽減することが可能となる。
【0010】
上記クリップは、前記回転力が一方向であるときに当該回転力を前記軸部の抜き出しに変換する一方で、前記回転力が他方向であるときに当該回転力で前記軸部が回転することを規制するラッチカムをさらに備える。そして、前記押込状態の前記ピンは、前記スリットにおける前記一方向の上流端部と前記突部とが対向するように前記グロメットと係合してもよい。
【0011】
上記クリップによれば、外部からピンに加わる回転力が一方向であるとき、カム面は回転力を軸部の抜き出しに変換する。一方で、外部からピンに加わる回転力が他方向であるとき、カム面は回転力で軸部が回転することを規制する。すなわち、軸部の抜き出し際し、軸部の回転が一方向に規制される。そして、スリットにおける一方向の上流端部と突部とが対向するように、押込状態のピンとグロメットとが係合する。そのため、軸部の周面と脚部の内周面との間に介在する異物は、突部が回転しはじめるときに、スリットの上流端部から下流端部に向けて押されながら、脚部の外に掻き出される。結果として、軸部の回転が双方向である構成と比べて、回転負荷の増大抑制を高い確度のもとで実現できる。
【0012】
上記クリップにおいて、前記突部は、前記一方向における下流側の端面であって、前記押込状態において前記上流端部と対向する第1面を備える。そして、前記第1面と前記軸部の周面とが形成する角度は、90°以下であってもよい。
【0013】
上記クリップによれば、軸部の周面と第1面とが形成する角度が90°以下であるから、軸部の回転に伴って第1面が回転するとき、軸部の周面と脚部の内周面との間に介在する異物が、第1面に引っ掛かりやすく、これにより、第1面によって掻き出されやすくなる。そのため、突部が回転しはじめるときに、軸部の周面と脚部の内周面との間に介在する異物は、脚部の外に向けてスリットからさらに掻き出されやすくなる。
【0014】
上記クリップにおいて、前記突部は、前記一方向における上流側の端面である第2面を備える。そして、前記第2面と前記軸部の周面とが形成する角度は、90°よりも大きくてもよい。
【0015】
上記クリップによれば、軸部の周面と第2面とが形成する角度が90°よりも大きいから、第2面がスリットと対向するとき、第2面に向けて押し流される異物は、スリットに向けて誘導される。結果として、突部が回転しているときに、異物の掻き出しを円滑にすることが可能ともなる。
【0016】
上記クリップにおいて、前記突部は、前記スリットの延びる方向に沿って延びる形状を有してもよい。このクリップによれば、スリットの延びる方向に沿って突起が延びる分だけ、多くの異物をスリットから掻き出すことが可能ともなる。
【0017】
上記クリップにおいて、前記周方向における前記突部の幅が、前記周方向における前記スリットの幅よりも小さくてもよい。このクリップによれば、周方向における突起の幅がスリットの幅よりも小さいため、スリットを通過した突起と脚部の内周面との間に異物が詰まることが抑えられる。そのため、回転開始から回転終了までの全体で、軸部の回転を円滑にすることが可能ともなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、グロメットからピンを抜き出すときの負荷が軽減可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】クリップの一実施形態における斜視構造を示す斜視図。
図2】グロメットの斜視構造を示す斜視図。
図3】ピンの斜視構造を示す斜視図。
図4】押込状態におけるピン軸部と脚部との断面構造を示す端面図。
図5図4が示す領域Aを拡大して示す部分拡大断面図。
図6】クリップが使用されている状態を示す断面図。
図7】クリップが使用されている状態を示す断面図。
図8】クリップの作用を説明するための断面図。
図9図8が示すIX‐IX線に沿う構造を示す端面図。
図10】クリップの作用を説明するための断面図。
図11図10が示すXI‐XI線に沿う構造を示す端面図。
図12】クリップの作用を説明するための断面図。
図13図12が示すXIII‐XIII線に沿う構造を示す端面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1から図13を参照して、クリップの一実施形態を説明する。以下では、クリップの構造、クリップの使用方法、および、クリップの作用を順に説明する。
【0021】
[クリップの構造]
図1から図5を参照して、クリップの構造を説明する。
図1が示すように、クリップ10は、グロメット11とピン12とを備える。グロメット11は、グロメット頭部21と脚部22とを備える。グロメット頭部21は、円環状を有する。脚部22は、グロメット頭部21の裏面21Rに接続され、裏面21Rから留付方向D1に向けて延びる筒状を有する。脚部22は、裏面21Rに接続された基端22Aと基端22Aとは反対側の先端22Bとを有する。脚部22は、先端22Bから基端22Aに向けて延びるスリット22Sを備える。
【0022】
図2が示すように、グロメット頭部21は、グロメット頭部21の厚さ方向に沿ってグロメット頭部21を貫通する挿通孔21Aを備える。挿通孔21Aは、脚部22が区画する筒内と連通している。グロメット頭部21の挿通孔21Aと脚部22が区画する筒内とは、ピン12が押し込まれる押し込み孔を構成する。
【0023】
グロメット頭部21は、裏面21Rとは反対側の表面21Fを備える。表面21Fには、円孔状の凹部21Bが形成されている。凹部21Bは、挿通孔21Aの周りを囲む円環状の底面を有する。凹部21Bの底面には、4つのラッチ突部21Cから構成される周回カム面21Sが位置する。4つのラッチ突部21Cは、凹部21Bの周方向に等配されている。各ラッチ突部21Cは、1つの回転方向に沿うスロープ状を有する。図2が示す例では、各ラッチ突部21Cは、左回りにおいて次第に高くなるようなスロープ状を有する。脚部22は、先端22Bの近傍において内径が最も小さくなるように先細りしている。なお、ラッチ突部21Cが次第に高くなる方向、すなわち上述した左回りは、解除方向DR1であり、解除方向DR1とは反対の方向は、押込方向DR2である。
【0024】
図3が示すように、ピン12は、ピン頭部31と軸部32とを備える。ピン頭部31は、グロメット頭部21の挿通孔21Aよりも大きい円板状を有する。軸部32は、ピン頭部31の裏面31Rに接続され、当該裏面31Rから留付方向D1に沿って延びる柱状を有する。軸部32は、留付方向D1における中間に括れた外周面32Sを備える。軸部32は、外周面32Sから突き出る複数の突部32Rを備える。各突部32Rは、留付方向D1に沿って延びる形状を有する。
【0025】
ピン頭部31は、裏面31Rとは反対側の表面31Fを備える。表面31Fには、把持部31Aが位置する。把持部31Aは、ピン頭部31に対して軸部32とは反対側に向けて突き出た形状を有する。把持部31Aは、クリップ10の使用者が把持可能な部分である。裏面31Rには、2つのカムフォロアー31Bが位置する。カムフォロアー31Bは、留付方向D1に沿って裏面31Rから突き出ている。ピン頭部31の表面31Fと対向する視点から見て、2つのカムフォロアー31Bは、軸部32の中心軸を挟んで互いに対向している。
【0026】
ピン12は、グロメット頭部21の挿通孔21Aに差し込まれて、脚部22の筒内に押し込まれることによって、グロメット11に締結される。詳細には、ピン12が挿通孔21Aに通された後に、軸部32の先端部32Bが脚部22の先端22Bから飛び出るように、軸部32が脚部22に押し込まれる。そして、ピン12が軸部32の周方向に沿って回転されることによって、各カムフォロアー31Bが周回カム面21Sに沿って従動する。この際、互いに隣り合うラッチ突部21Cの間に各カムフォロアー31Bは嵌まり込み、ピン12がグロメット11に締結される。
【0027】
カムフォロアー31Bとラッチ突部21Cとは、カムフォロアー31Bが上述した解除方向DR1の回転力に従動することを許容し、ラッチ突部21Cのスロープに従ってカムフォロアー31Bを上動させる。一方、カムフォロアー31Bとラッチ突部21Cとは、カムフォロアー31Bが上述した押込方向DR2の回転力に従動することを一旦許容し、互いに隣り合うラッチ突部21Cの間に各カムフォロアー31Bが嵌まり込んだ状態で、さらなる回転を規制する。すなわち、カムフォロアー31Bとラッチ突部21Cとは、一方向の回転を許容するワンウェイのラッチカムを構成すると共に、カムフォロアー31Bの回転を軸部32の抜き出しに変換する。
【0028】
ピン12は、突部32Rよりも先端部32B寄りに仮止部32Cを備える。仮止部32Cは、留付方向D1において縮径された部分である。仮止部32Cは、4つの仮止め突部32C1と、軸部32の周方向において2つの仮止め突部32C1によって挟まれる溝32C2とを備える。
【0029】
ピン12の先端部32Bのみが脚部22から飛び出し、かつ、脚部22の先端22Bが仮止部32Cに位置する状態は、ピン12がグロメット11に対して仮止めされた状態である。ピン12がグロメット11に仮止めされた状態では、脚部22の先端22Bが仮止部32Cの溝32C2内に位置し、かつ、脚部22の各スリット22S内に、互いに異なる仮止め突部32C1が位置する。このとき、ピン12は、ピン12の中心軸を回転軸としたグロメット11に対する回転を規制される。
【0030】
ピン12は、留付方向D1において、突部32Rと仮止部32Cとの間に規制部32Dを備える。本実施形態において、ピン12は4つの規制部32Dを備える。軸部32の周方向において、規制部32Dは等配されている。規制部32Dは、軸部32の外周面32Sから径方向の外側に向けて突き出た形状を有する。留付方向D1において、各規制部32Dは、互いに異なる溝32C2と隣り合っている。
【0031】
図4は、留付方向D1に直交する平面に沿う断面における軸部32の構造、および、脚部22の構造を示している。なお、図4は、軸部32が脚部22に押し込まれた状態であって、脚部22の先端22Bが規制部32Dに引っ掛かっている押込状態での軸部32の構造、および、脚部22の構造を示している。
【0032】
図4が示すように、スリット22Sは、脚部22の周方向において第1端部22S1と第2端部22S2とを有する。突部32Rは、押込状態において、第1端部22S1に対向している。ピン12は、押込状態において、上述した解除方向DR1、すなわち脚部22の周方向に沿って第1端部22S1から第2端部22S2に向かう方向に沿って回転する。ピン12が解除方向DR1に回転することによって押込状態が解除される。
【0033】
上述したように、ラッチ突部21Cがスロープ状を有するから、グロメット11に締結されたピン12は、解除方向DR1には回転が可能である一方で、押込方向DR2には回転することができない。図4が示す例では、ピン12は、右回りには回転が可能である一方で、左回りには回転ができない。そのため、ピン12の締結が解除されるはじめるとき、すなわち、軸部32が回りはじめるとき、第1端部22S1から第2端部22S2に向かう方向のみに、突部32Rは回転する。
【0034】
軸部32は、スリット22Sと同じ数の突部32Rを備える。4つの突部32Rは、軸部32の周方向において間隔を空けて等配されている。留付方向D1に直交する断面において、軸部32の外周面32Sのうち、2つの突部32Rの間に位置する部分は、曲率中心が軸部32内に位置するような弧状を有する。脚部22の周方向に沿う突部32Rの幅W32Rが、脚部22の周方向に沿うスリット22Sの幅W22Sよりも小さい。
【0035】
図5は、図4が示す領域Aを拡大して示している。
図5が示すように、留付方向D1と直交する平面に沿う断面において、突部32Rは、第1面32R1と第2面32R2とを備える。第1面32R1は、ピン12の解除方向DR1における下流側の端面である。第2面32R2は、ピン12の解除方向DR1における上流側の端面である。外周面32Sにおいて第1面32R1に繋がる部分、すなわち解除方向DR1において第1面32R1よりも下流側に位置する部分と、第1面32R1とが形成する第1角度θ1は、90°以下であることが好ましい。本実施形態では、第1角度θ1は90°である。外周面32Sにおいて第2面32R2に繋がる部分、すなわち解除方向DR1において第2面32R2よりも上流側に位置する部分と、第2面32R2とが形成する第2角度θ2は、90°よりも大きいことが好ましい。
【0036】
突部32Rは、第1面32R1を第2面32R2に接続する接続面32R3を備える。接続面32R3は、ピン12の解除方向DR1において、第1面32R1と第2面32R2との間に位置する。接続面32R3は、第2面32R2から第1面32R1に向かう方向に沿って、軸部32の中心から離れる傾斜を有する。
【0037】
[クリップの使用方法]
図6および図7を参照して、クリップ10の使用方法を説明する。図6は、クリップ10が留付対象Tを留め付けていない状態を示している。一方で、図7は、クリップ10が留付対象Tを留め付けている状態を示している。留付対象は、例えば内張りと車体との積層体であり、内張りを車体に留め付けるため、留付対象の留付孔にクリップが取り付けられる。
【0038】
図6が示すように、クリップ10が留付対象Tに取り付けられる際には、ピン12がグロメット11に仮止めされた状態で、留付対象Tの留付孔THにグロメット11が挿入される。これにより、脚部22の外表面が、留付孔THの内表面に接するように、グロメット11が留付対象Tに取り付けられる。この際、ピン12は、グロメット11に対する回転を規制された状態である。また、脚部22の先端22Bは、ピン12の仮止部32Cに位置する。
【0039】
図7が示すように、留付方向D1に沿ってピン12が押し込まれる。これにより、脚部22の先端22Bが、ピン12の仮止部32Cから抜け出る。そして、留付方向D1において、脚部22の先端22Bが規制部32Dよりも基端部32A寄りに位置するまで押し込まれると、脚部22の径方向における外側に向けて、脚部22が押し広げられる。この際、ピン12が押込方向DR2に回されて、ピン頭部31のカムフォロアー31Bが、2つのラッチ突部21Cの間に嵌まり、これによって、ピン12が押込状態に遷移する。すなわち、ピン12がグロメット11に締結される。
【0040】
[クリップの作用]
図8から図13を参照して、クリップ10の作用を説明する。なお、図8図10、および、図12では、図示の便宜上、留付対象Tの図示が省略されている。また、図9は、図8が示すIX‐IX線に沿う断面構造を示している。図11は、図10が示すXI‐XI線に沿う断面構造を示している。図13は、図12が示すXIII‐XIII線に沿う断面構造を示している。
【0041】
図8が示すように、クリップ10が留付対象Tを留め付けている状態では、ピン12の軸部32とグロメット11の脚部22との間に、脚部22の変形による隙間が形成される。当該隙間は、スリット22Sを介して脚部22の外部に連通するから、脚部22のなかには脚部22の外部から異物Sが進入する。あるいは、脚部22のなかに異物Sが存在する状態でピン12の押し込みが行われたときも、脚部22のなかには異物Sが存在する。異物Sは、砂や埃、さらには、スリット22Sを通じて脚部22のなかに進入した水分の蒸発によって硬化した砂や埃の塊である。
【0042】
図9が示すように、クリップ10を留付対象Tに取り付けた状態で長期間が経過すると、軸部32の周方向の全体に異物Sが堆積する。この状態においてグロメット11に対するピン12の締結を解除する際には、ピン12を解除方向DR1に回す、すなわちスリット22Sの第1端部22S1から第2端部22S2に向かう方向に沿ってピン12を回転させる。この際、軸部32の突部32Rが第1端部22S1から第2端部22S2に向かう方向に沿って移動する。突部32Rは、軸部32の径方向においてスリット22Sと対向する状態で第1端部22S1から第2端部22S2に向けて移動するから、突部32Rによって動かされた突部32Rの周りに位置する異物Sは、スリット22Sに向けて移動しやすい。これにより、グロメット11からピン12を取り外すときの負荷を軽減ことが可能である。
【0043】
また、上述したように、軸部32において設定された第1角度θ1が90°以下であるから、突部32Rの周りに位置する異物Sを軸部32の径方向における外側に向けて移動させやすい。また、解除方向DR1において、第2面32R2の上流に位置する他の突部32Rもまた、異物Sを下流に向けて移動させる。この際、軸部32において設定された第2角度θ2が90°よりも大きいから、第2面32R2がスリット22Sと対向する際には、下流に向けて移動する異物Sがスリット22Sに向けて誘導されることとなる。
【0044】
図10が示すように、本実施形態のクリップ10によれば、軸部32の周りに堆積した異物Sを軸部32の径方向における外側に向けて掻き出すことが可能であるから、ピン12を解除方向DR1に回しながら、留付方向D1に沿ってピン12を引き上げることが可能である。すなわち、異物Sの掻き出しと軸部32の抜き出しとをほぼ同時にはじめることが可能である。
【0045】
図11が示すように、ピン12を回転させて引き上げる間にわたって、突部32Rが軸部32の径方向における外側に向けて異物Sを掻き出すから、脚部22のなかに位置する異物Sのほとんどがスリット22Sに向けて移動する。
【0046】
図12が示すように、ピン12がさらに引き上げられることによって、規制部32Dによる脚部22に対する移動の規制が解除され、これによって、脚部22の先端22Bがピン12の仮止部32Cに位置する。この際に、脚部22の先端22Bは、仮止部32Cが有する溝32C2内に位置するから、先端22Bが拡開された状態が解除される。これにより、グロメット11が留付対象Tを留め付ける状態が解除されるため、グロメット11を留付対象Tの留付孔THから取り外すことが可能である。
【0047】
図13が示すように、ピン12の引き上げ、すなわち、ピン12の回転によって、脚部22内に位置した異物Sのほとんどが、スリット22Sを介して脚部22の外部に掻き出される。そのため、グロメット11によってピン12を再び締結することが可能であるから、クリップ10を再利用することが可能である。
【0048】
以上説明したように、クリップの一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)押込状態のピン12に解除方向DR1の回転力が加えられて、ピン12が回転しはじめるとき、スリット22Sの第1端部22S1と突部32Rとが対向している。そのため、軸部32の外周面32Sと脚部22の内周面との間に介在する異物Sは、突部32Rが回転しはじめるときに、脚部22の外に向けてスリット22Sから掻き出される。結果として、異物Sの介在による回転負荷の増大を抑制すること、ひいてはグロメット11からピン12を抜き出すときの負荷を軽減することが可能となる。
【0049】
(2)ピン12に加わる回転力が解除方向DR1であるとき、周回カム面21Sは回転力を軸部32の抜き出しに変換する。一方で、ピン12に加わる回転力が押込方向DR2であるとき、周回カム面21Sは回転力で軸部32が回転することを規制する。そして、軸部32の回転が規制されている状態で押込状態となり、スリット22Sにおける上流端部である第1端部22S1と突部32Rとが対向する。そのため、軸部32の外周面32Sと脚部22の内周面との間に介在する異物Sは、突部32Rが回転しはじめるときに、スリット22Sの第1端部22S1から下流端部である第2端部22S2に向けて押されながら、脚部22の外に掻き出される。結果として、軸部32の回転が双方向である構成と比べて、回転負荷の増大抑制を高い確度のもとで実現できる。
【0050】
(3)軸部32の外周面32Sと第1面32R1とが形成する角度が90°以下である構成であれば、軸部32の外周面32Sと脚部22の内周面との間に介在する異物Sが、第1面32R1に引っ掛かりやすく、これにより、第1面32R1によって掻き出されやすくなる。
【0051】
(4)軸部32の外周面32Sと第2面32R2とが形成する角度が90°よりも大きい構成であれば、第2面32R2がスリット22Sと対向するとき、第2面32R2に向けて押し流される異物Sが、スリット22Sに向けて誘導される。結果として、突部32Rが回転しているときに、異物Sの掻き出しを円滑にすることが可能ともなる。
【0052】
(5)スリット22Sの延びる方向に沿って突部32Rが延びる分だけ、多くの異物Sをスリット22Sから掻き出すことが可能ともなる。
【0053】
(6)解除方向DR1における突部32Rの幅W32Rがスリット22Sの幅W22Sよりも小さいため、スリット22Sを通過した突部32Rと脚部22の内周面との間に異物Sが詰まることが抑えられる。そのため、ピン12の回転開始から回転終了までの全体で、軸部32の回転を円滑にすることが可能ともなる。
【0054】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・突部32Rの幅W32Rは、スリット22Sの幅W22Sと等しくてもよいし、スリット22Sの幅W22Sよりも大きくすることも可能である。
【0055】
・突部32Rは、スリット22Sの延びる方向に沿って並べられてもよい。
・軸部32の外周面32Sと第2面32R2とが形成する角度は90°未満に変更可能であり、また、軸部32の外周面32Sと第1面32R1とが形成する角度が90°より大きい角度に変更することも可能である。
【0056】
・グロメット11とピン12との係合は、ラッチカムによる係合に限らず、例えばグロメット11に形成された凹部にピン12が備える凸部が嵌合する構成であってもよい。要は、押込状態においてグロメット11に対するピン12の回転を規制する、すなわちスリット22Sに対し突部32Rを位置決めする構成であって、係合を解除する回転力を受けて、ピン12を解除方向DR1に回転させる構成であればよい。
【符号の説明】
【0057】
T…留付対象
TH…留付孔
W22S,W32R…幅
10…クリップ
11…グロメット
12…ピン
22…脚部
22S…スリット
32…軸部
32R…突部
図1
図2
図3
図4
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図6
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図10
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図13