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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】付加製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20231130BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20231130BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20231130BHJP
   B29C 64/371 20170101ALI20231130BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20231130BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231130BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20231130BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F3/105
B29C64/153
B29C64/371
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y50/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020131646
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028322
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川中 啓嗣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昇
(72)【発明者】
【氏名】松下 慎二
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265521(JP,A)
【文献】特開2017-105075(JP,A)
【文献】特開2017-110261(JP,A)
【文献】特開2017-145476(JP,A)
【文献】特表2017-507820(JP,A)
【文献】特開2019-142024(JP,A)
【文献】国際公開第2020/099241(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0232429(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106392067(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 12/90
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内のステージの上に粉末床を形成し、前記粉末床にレーザを照射して溶融結合により造形物を製造する付加製造方法であって、
前記チャンバの内部の圧力を低下させて減圧環境とし、
前記ステージの予熱を行い、
前記予熱を継続しつつ前記チャンバ内にアルゴンガスを供給して前記チャンバ内の減圧環境の圧力を20000[Pa]以上、30000[Pa]以下に調整し、
前記ステージの予熱温度を200[℃]以上、650[℃]以下としながら、
前記ステージの上に前記粉末床を形成することを特徴とする付加製造方法。
【請求項2】
前記粉末床の形成と前記溶融結合とを繰り返す付加製造中に、前記チャンバ内において180[s]で300[Pa]以上の圧力変化量が測定された場合に、前記圧力変化量の測定時の前記溶融結合の完了後に、前記チャンバ内の真空排気と、前記チャンバ内の酸素量および圧力の調整と、を行う、
請求項1に記載の付加製造方法。
【請求項3】
前記粉末床の形成と前記溶融結合とを繰り返す付加製造中に、前記チャンバ内において規定値以上の酸素量が測定された場合に、前記規定値以上の酸素量が測定された直後の前記溶融結合の完了後に、前記チャンバ内の真空排気と、前記チャンバ内の酸素量および圧力の調整とを行う、
請求項1に記載の付加製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、付加製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から単結晶の製造方法に関する発明が知られている(下記特許文献1を参照)。特許文献1に記載された単結晶の製造方法は、種結晶を準備する準備工程と、付加製造技術を用いて、種結晶上に無機材料を供給し、熱エネルギーにより前記無機材料を溶融して、前記種結晶上に単結晶を育成する育成工程とを備える。
【0003】
また、金属間化合物を含有する構造物の製造方法に関する発明が知られている(下記特許文献2を参照)。この従来の構造物の製造方法は、金属基台上に供給された前記構造物の出発材料となる粉末粒子と、前記金属基台の表層とを溶融して混合層を形成する混合層形成工程と、前記粉末粒子を前記混合層上に供給して溶融し、前記構造物を形成する造形工程とを備える。
【0004】
これら従来の製造方法は、チャンバ内が真空になった後、チャンバ内にアルゴン、窒素などの不活性ガスを供給し、造形テーブル上に配置された基台を予熱する工程を含んでいる。この工程では、チャンバ内を真空に引いた後、不活性ガスを供給することなく基台を予熱してもよく、チャンバ内を真空にせずに、不活性ガスを供給した後、基台を予熱してもよい(特許文献1の第0044段落、特許文献2の第0047段落を参照)。
【0005】
さらに、上記従来の製造方法は、基台を予熱した後に、パウダーベッドを形成する工程を含む。この工程では、粉末供給室のピストンを上昇させてリコータを移動させることで粉末粒子を排出し、排出された粉末粒子をベッド形成室に供給して基台および造形テーブル上に堆積させ、無機層およびパウダーベッドを形成する(特許文献1の第0046段落、特許文献2の第0048段落を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-189618号公報
【文献】特開2017-109357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願の発明者らは、上記従来の製造方法のように、チャンバ内を減圧し、基台の予熱と不活性ガスの供給を行いながら基台上に粉末床を形成すると、粉末床を形成できない場合や粉末床が不均一になる場合があることを見出した。本開示は、チャンバ内を減圧し、ステージの予熱と不活性ガスの供給を行いながらステージ上に粉末床を形成しても、均一な粉末床を形成可能な付加製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、チャンバ内のステージの上に粉末床を形成し、前記粉末床にレーザを照射して溶融結合により造形物を製造する付加製造方法であって、前記チャンバ内の圧力を8000[Pa]以上、30000[Pa]以下に減圧し、前記ステージの予熱と不活性ガスの供給を行いながら前記ステージ上に前記粉末床を形成することを特徴とする付加製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の上記一態様によれば、チャンバ内を減圧し、ステージの予熱と不活性ガスの供給を行いながらステージ上に粉末床を形成しても、均一な粉末床を形成可能な付加製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の付加製造方法の実施形態に係るフロー図。
図2図1の付加製造方法を実施するための付加製造装置の一例を示す概略断面図。
図3図1の造形準備工程の詳細を示すフロー図。
図4図1の付加製造工程に含まれる付加製造処理のフロー図。
図5図1の付加製造工程に含まれる温度モニタリング処理のフロー図。
図6図1の付加製造工程に含まれる酸素量モニタリング処理のフロー図。
図7図1の付加製造工程に含まれる圧力モニタリング処理のフロー図。
図8】ステージの予熱と不活性ガスの供給を行いながら形成した粉末床の写真図。
図9】ステージの予熱と不活性ガスの供給を行いながら形成した粉末床の写真図。
図10】ステージの予熱と不活性ガスの供給を行いながら形成した粉末床の写真図。
図11】実施例1の付加製造方法の造形物の浸透探傷試験の結果を示す写真。
図12】実施例1の付加製造方法の造形物の断面を拡大した写真。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本開示に係る付加製造方法の実施形態を説明する。
【0012】
付加製造は、材料を付着することによって物体を三次元形状の数値表現から作成するプロセスであり、除去的な製造とは対照をなすものである。付加製造は、「3Dプリンター」や「積層造形」とも呼ばれ、多くの場合、複数の層を積層させることによって実現される。
【0013】
図1は、本開示の付加製造方法の実施形態に係るフロー図である。図2は、図1の付加製造方法Mを実施するための付加製造装置100の一例を示す概略断面図である。本実施形態の付加製造方法Mは、たとえば、図1に示すように、造形準備工程P1と、付加製造工程P2とを含み、図2に示すような付加製造装置100によって実施することが可能である。以下では、まず、付加製造装置100の構成の一例を説明し、次に、その付加製造装置100を用いた本実施形態の付加製造方法Mについて説明する。
【0014】
(付加製造装置)
付加製造装置100は、たとえば、チャンバ10と、ガス供給部20と、排気機構30と、材料供給部40と、付加製造部50と、回収部60と、リコータ70と、ビーム源80と、制御部90と、を備えている。
【0015】
チャンバ10は、たとえば、ビーム源80および排気機構30を除く付加製造装置100の各部を収容している。チャンバ10は、たとえば、保護ガラス12gがはめ込まれた透過窓12を有している。透過窓12は、チャンバ10の外部に配置されたビーム源80から照射されるレーザLを透過させ、チャンバ10の内部の付加製造部50のステージ51に載置された粉末床PBに到達させる。
【0016】
チャンバ10は、たとえば真空チャンバであり、排気機構30によって排気を行うことで、内部の圧力が大気圧よりも低い減圧環境になる。チャンバ10の内部には、たとえば、温度センサ13、圧力センサ14、および酸素センサ15などが設置されている。図2では簡略化しているが、温度センサ13は、たとえば、ステージ51の温度を測定する熱電対などの接触式の温度センサと、ステージ51の上に形成された粉末床PBの温度を測定する赤外線放射温度計などの非接触式の温度センサとを含む。圧力センサ14および酸素センサ15は、それぞれ、チャンバ10内の減圧環境の圧力および酸素量(酸素濃度)を測定する。また、図示を省略するが、チャンバ10は、たとえば、付加製造部50のステージ51上に形成された粉末床PBを撮影するカメラを有してもよい。
【0017】
ガス供給部20は、チャンバ10に接続され、チャンバ10の内部へ不活性ガスを供給する。ガス供給部20は、たとえば、図示を省略するガス供給源や制御弁を備えている。ガス供給源は、不活性ガスが充填された高圧タンクによって構成されている。制御弁は、制御部90によって制御され、ガス供給源からチャンバ10へ供給する不活性ガスの流量を制御する。不活性ガスとしては、たとえば、窒素またはアルゴンを使用することができる。
【0018】
排気機構30は、たとえば、真空ポンプによって構成され、真空引き用の配管31を介してチャンバ10に接続される。排気機構30は、たとえば、制御部90によって制御され、チャンバ10内の気体を排出することで、チャンバ10の内部を大気圧よりも減圧された真空圧にして、チャンバ10内を減圧環境にする。
【0019】
材料供給部40は、たとえば、材料粉末Pを収容可能な凹状に設けられ、上部が開放されて上端に開口部を有している。材料供給部40は、材料粉末Pを載置して供給するための上下に移動可能なステージ41を有している。ステージ41は、材料供給部40の底壁を構成している。ステージ41は、たとえば、適宜の昇降機構によって、所定のピッチで昇降可能に設けられている。ステージ41の昇降機構は、たとえば制御部90に接続され、制御部90によって制御される。また、材料供給部40は、昇降式でなく材料粉末Pを落下させて供給する方式でもよい。
【0020】
造形物Sの付加製造に用いられる材料粉末Pとしては、特に限定されないが、たとえば、熱間工具鋼、銅、チタン合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属材料の粉末、ポリアミドなどの樹脂材料の粉末、セラミックスの粉末などを用いることができる。本実施形態の付加製造装置100は、材料粉末Pとして、たとえば、平均粒径が約30μm程度で、粒径の範囲が約15μmから約45μmの金属材料の粉末を使用することができる。
【0021】
付加製造部50は、たとえば、前述の材料供給部40と同様に、材料粉末Pを収容可能な凹状に設けられ、上部が開放されて上端に開口部を有している。付加製造部50は、材料粉末Pを敷いて粉末床PBを形成するためのステージ51を有している。ステージ51は、付加製造部50の底壁を構成する。ステージ51の上には、材料供給部40から供給される材料粉末Pと、付加製造によって製造される造形物Sが載置される。
【0022】
付加製造部50の開口部と材料供給部40の開口部は、たとえば、鉛直方向の高さがおおむね等しく、おおむね水平方向に並んでいる。付加製造用のステージ51は、前述の材料供給用のステージ41と同様に、たとえば、適宜の昇降機構によって、所定のピッチで昇降可能に設けられている。また、ステージ51は、たとえば、ステージ51を予熱するヒータを含む予熱機構を備えている。ステージ51の昇降機構および予熱機構は、たとえば制御部90に接続され、制御部90によって制御される。
【0023】
回収部60は、たとえば、前述の材料供給部40と同様に、材料粉末Pを収容可能な凹状に設けられ、上部が開放されて上端に開口部を有している。図示の例において、回収部60の底壁は、下端部に固定されているが、材料供給部40および付加製造部50と同様に、昇降可能なステージによって構成されていてもよい。回収部60の開口部と、付加製造部50の開口部は、鉛直方向の高さがおおむね等しく、おおむね水平方向に並んでいる。回収部60は、たとえば、リコータ70によって材料供給部40から付加製造部50に供給された余分な材料粉末Pを収容して回収する。
【0024】
リコータ70は、材料供給部40から供給される材料粉末Pを付加製造部50のステージ51上に運んで均しながら敷き詰めることで、ステージ51上に粉末床PBを形成する。リコータ70は、たとえば、移動機構75を備えている。移動機構75は、たとえばリニアモータであり、材料供給部40から付加製造部50へ向かうおおむね水平な進行方向Dに沿って、リコータ70を移動させる。
【0025】
ビーム源80は、たとえば、数Wから数kW程度の出力のレーザLを発生させるレーザ光源を用いることができる。本実施形態の付加製造装置100のビーム源80は、たとえば、波長が1080nm、出力が500Wのシングルモードファイバーレーザ、すなわちエネルギー強度がガウス分布のレーザを発生させるレーザ光源である。また、ビーム源80は、たとえば、粉末床PB上でレーザLを走査させるためのガルバノスキャナを含んでいる。
【0026】
制御部90は、たとえば、マイクロコントローラやファームウェアによって構成されている。制御部90は、たとえば、CPUなどの処理装置と、RAMやROMなどの記憶装置と、記憶装置に記憶されたプログラムやデータと、付加製造装置100の各部との信号のやり取りを行う入出力部とを備えている。制御部90は、処理装置によって記憶装置に記憶されたプログラムを実行することで、ガス供給部20、排気機構30、材料供給部40、付加製造部50、およびビーム源80を制御する。また、温度センサ13、圧力センサ14および酸素センサ15の検出結果ならびにカメラの出力などが、制御部90に入力される。
【0027】
(付加製造方法)
次に、付加製造装置100を用いた本実施形態の付加製造方法Mについて説明する。図1に示すように、本実施形態の付加製造方法Mは、たとえば造形準備工程P1と、付加製造工程P2とを有している。
【0028】
図3は、図1の造形準備工程P1の詳細を示すフロー図である。造形準備工程P1において、設計者やエンジニアは、まず、データ準備P101を実施する。データ準備P101では、たとえば、付加製造方法Mによって製造する造形物Sの3D-CADデータなどの三次元データを、専用の編集装置を用いて三次元データに基づいて、造形物Sを製造するための各種のパラメータを演算する。
【0029】
さらに、このデータ準備P101において、専用の編集装置は、三次元データに基づいて、造形物Sのスライスデータを生成する。さらに、編集装置と制御部90の記憶部を接続して、演算したレーザ照射の軌跡を記憶させる。制御部90は、たとえば、生成したスライスデータに基づいて、ガス供給部20、排気機構30、材料供給部40、付加製造部50、リコータ70、およびビーム源80などを動作させるための制御量を演算する。以上により、データ準備P101が終了する。
【0030】
次に、エンジニアは、ステージ51の設置P102を行う。具体的には、付加製造部50の造形面の高さにステージ51の頂面を合わせ、付加製造部50に材料粉末Pを敷くことができる状態にする。以降は、制御部90の制御の下で付加製造装置100がシーケンスに従って実施する。
【0031】
制御部90は、チャンバ10の真空排気P103を実施する。具体的には、制御部90は、たとえば、排気機構30によってチャンバ10の内部の気体を排出して、チャンバ10の内部の圧力を低下させ、大気圧よりも低い真空圧の減圧環境とする。
【0032】
制御部90は、たとえば、この真空排気P103と並行して、酸素量すなわち酸素濃度の判定P104を実行する。この判定P104において、制御部90は、酸素センサ15の検出結果に基づいて、酸素量が規定範囲内か否かを判定する。減圧環境の酸素濃度の規定範囲は、たとえば、20[ppm]以下、10[ppm]以下、または、0.3[ppm]以下に設定され、制御部90の記憶部に記憶されている。
【0033】
この判定P104において、制御部90は、酸素量が規定範囲外である(NO)と判定すると、チャンバ10の真空排気P103を継続し、酸素量が規定範囲内である(YES)と判定されるまで、この判定P104を繰り返し実行する。この判定P104において、制御部90は、酸素量が規定範囲内である(YES)と判定すると、ステージ51の予熱P105を行う。
【0034】
ステージ51の予熱P105において、制御部90は、たとえば、ステージ51の予熱機構を制御して、ステージ51を予熱する。制御部90は、たとえば、ステージ51の予熱P105と並行して、ステージ51の温度の判定P106を行う。この温度の判定P106において、制御部90は、温度センサ13の検出結果に基づいて、ステージ51の予熱温度が規定範囲内か否かを判定する。ステージ51の予熱温度の規定範囲は、たとえば、90[℃]以上、110[℃]以下、または、450[℃]以上、550[℃]以下のように設定され、制御部90の記憶部に記憶されている。
【0035】
この温度の判定P106において、制御部90は、ステージ51の温度が規定範囲外である(NO)と判定すると、ステージ51の予熱機構の出力制御P107を実行する。そして、制御部90は、この温度の判定P106において、ステージ51の温度が規定範囲内である(YES)と判定されるまで、予熱機構の出力制御P107とステージ51の予熱P105を繰り返し実行する。
【0036】
また、ステージ51の温度の判定P106において、制御部90は、ステージ51の温度が規定範囲内である(YES)と判定すると、予熱P105を継続しつつ不活性ガスの供給P108を開始する。さらに、制御部90は、チャンバ10内の減圧環境の圧力調整P109と、圧力の判定P110と、圧力変化率の判定P111を行う。
【0037】
具体的には、制御部90は、たとえば、チャンバ10内の圧力調整P109において、ガス供給部20の流量制御弁の開度および排気機構30の真空ポンプの出力を制御する。これにより、制御部90は、チャンバ10内への不活性ガスの供給量とチャンバ10内からの排気量を調節して、チャンバ10内の減圧環境の圧力を調整する。なお、ガス供給部20によって供給する不活性ガスとしては、たとえば、窒素ガス、アルゴンガスなどを使用することができ、不活性ガスの供給量は、たとえば、約15[l/min]とすることができる。
【0038】
また、制御部90は、圧力の判定P110において、圧力センサ14の検出結果に基づいて、チャンバ10内の減圧環境の圧力が、記憶部に記憶された規定範囲内であるか否かを判定する。この圧力の判定P110において、制御部90は、チャンバ10内の減圧環境の圧力が規定範囲外である(NO)と判定すると、チャンバ10内の圧力調整P109と、圧力の判定P110とを繰り返す。
【0039】
減圧環境の圧力の適切な範囲は、たとえば、不活性ガスの種類やステージ51の予熱温度に応じて変化する。そのため、減圧環境の圧力の規定範囲は、たとえば、不活性ガスの種類とステージ51の予熱温度に応じて設定され、制御部90の記憶部に記憶されている。減圧環境の圧力の規定範囲は、不活性ガスの種類とステージ51の予熱温度に応じて、たとえば、8000[Pa]以上、30000[Pa]以下に設定することができる。
【0040】
より具体的には、不活性ガスが窒素ガスである場合には、減圧環境の圧力の規定範囲は、たとえば、8000[Pa]以上、30000[Pa]以下に設定することができる。また、不活性ガスが窒素ガスであり、ステージ51の予熱温度を200[℃]以上、650[℃]以下に設定する場合には、減圧環境の圧力を12000[Pa]以上、30000[Pa]以下、より詳細には、12000[Pa]以上、14000[Pa]以下に設定することができる。
【0041】
また、不活性ガスがアルゴンガスである場合には、減圧環境の圧力の規定範囲は、たとえば、12000[Pa]以上、30000[Pa]以下に設定することができる。また、不活性ガスがアルゴンガスであり、粉末床PBの予熱温度を200[℃]以上、650[℃]以下に設定する場合には、減圧環境の圧力を20000[Pa]以上、30000[Pa]以下に設定することができる。
【0042】
制御部90は、圧力の判定P110において、チャンバ10内の減圧環境の圧力が規定範囲内である(YES)と判定すると、圧力変化率の判定P111を行う。ここで、チャンバ10内の減圧環境の圧力変化率とは、たとえば、処理110の直前の規定時間内における減圧環境の圧力の変化量である。すなわち、圧力変化率の判定P111において、制御部90は、たとえば、圧力センサ14によって検出された圧力を所定の時間にわたって記憶装置に記憶させ、その所定の時間内の圧力の変化量を算出し、予め記憶装置に記憶された変化量の上限値と比較する。ここで、所定の時間は、たとえば180[s]に設定することができ、変化量の上限値は、たとえば300[Pa]に設定することができる。
【0043】
制御部90は、この圧力変化率の判定P111において、減圧環境の圧力変化率が規定範囲外である(NO)と判定すると、減圧環境の圧力調整P109と、圧力の判定P110と、圧力変化率の判定P111を繰り返す。制御部90は、この圧力変化率の判定P111において、減圧環境の圧力変化率が規定範囲内である(YES)と判定すると、ステージ51の高さ調整P112を実行する。
【0044】
このステージ51の高さ調整P112において、制御部90は、たとえば、ステージ51の予熱による膨張に起因する高さの増加分に応じて、ステージ51の昇降機構を制御してステージ51を下降させる。ステージ51の高さの増加分は、熱膨張の演算によって求めてもよく、非接触位置センサなどによって検出してもよい。以上により、造形準備工程P1が終了する。
【0045】
次に、制御部90は、図1に示す付加製造工程P2を開始する。図4から図7は、それぞれ、付加製造工程P2に含まれる、付加製造処理P2a、温度モニタリング処理P2b、酸素量モニタリング処理P2c、および圧力モニタリング処理P2dの各処理のフロー図である。制御部90は、たとえば、付加製造工程P2を開始すると、付加製造処理P2a、温度モニタリング処理P2b、酸素量モニタリング処理P2c、および圧力モニタリング処理P2dの各処理を並行して実施する。
【0046】
制御部90は、付加製造処理P2aを開始すると、まず、粉末床PBの形成P201を行う。粉末床PBの形成P201において、制御部90は、たとえば、材料供給部40のステージ41を所定の高さで上昇させ、所定量の付加製造用の材料粉末Pを材料供給部40の開口部よりも上方に押し上げる。制御部90は、リコータ70の移動機構75を駆動させ、材料供給部40の開口部および付加製造部50の開口部を横断するように、リコータ70を進行方向Dの前方へ移動させる。
【0047】
これにより、材料供給部40の開口部よりも上方に押し上げられた材料粉末Pが、材料供給部40から付加製造部50へ移動してステージ51の上に敷き詰められて粉末床PBが形成される。以上により、粉末床PBの形成P201が完了する。次に、制御部90は、粉末床PBの状態判定P202を行う。
【0048】
図8は、粉末床PBの形成P201において、減圧したチャンバ10内でステージ51の予熱と不活性ガスの供給を行いながらステージ51上に形成した粉末床PBの一例を示す写真図である。制御部90は、粉末床PBの状態判定P202において、たとえば、粉末床PBを撮影するカメラの出力に基づいて、粉末床PBが均一か否かを判定する。たとえば、図8に示すように、粉末床PBが均一に形成されている場合、制御部90は、粉末床PBが均一である(YES)と判定し、溶融結合P203を開始する。
【0049】
一方、たとえば、粉末床PBに凹凸や欠損が見られたり、ステージ51が部分的に露出したりしている場合などは、制御部90は、粉末床PBが均一ではない(NO)と判定する。この場合、制御部90は、判定回数の更新P204と、判定回数の判定P205を行う。
【0050】
判定回数の更新P204において、制御部90は、記憶部に記憶された状態判定P202の実施回数に1を加算して更新し、更新した実施回数を記憶部に上書きする。判定回数が規定回数の判定P205において、制御部90は、記憶部に記憶された判定回数すなわち状態判定P202の実施回数が、記憶部に記憶された規定回数以下であるか否かを判定する。
【0051】
この判定P205において、制御部90は、判定回数が規定回数以下である(YES)と判定すると、制御部90は、粉末床PBの形成P201と、粉末床PBの状態判定P202を繰り返す。一方、この判定P205において、判定回数が規定回数を超過している(NO)と判定すると、制御部90は、付加製造処理P2aを終了させ、図1に示す付加製造方法Mを終了させる。
【0052】
なお、粉末床PBの状態判定P202は必ずしも実施しなければならないものではない。たとえば、状態判定P202を行うことなく、粉末床PBの状態にかかわらず、粉末床PBの形成P201の動作が終わった時点で、溶融結合P203を開始してもよい。その場合、判定回数の更新P204および規定回数の判定P205も行わない。
【0053】
制御部90は、状態判定P202において粉末床PBが均一である(YES)と判定して、溶融結合P203を開始すると、図2に示すビーム源80を制御して、粉末床PBにレーザLを照射し、材料粉末Pを溶融結合させる。このとき、制御部90は、造形準備工程P1のデータ準備P101で演算したパラメータおよび制御量に基づいて、ビーム源80のガルバノスキャナを制御して、造形物Sのスライスデータから演算された軌跡に従いレーザLを粉末床PB上で走査させて、対象となる層を造形する。
【0054】
制御部90は、溶融結合P203によってスライスデータに基づく造形物Sを構成する一層の造形が完了すると、層数の加算P206と、層数の判定P207を行う。層数の加算P206において、制御部90は、記憶部に記憶された造形物Sの造形済みの層数に1を加算して、記憶部に上書きする。層数の判定P207において、制御部90は、記憶部に記憶された造形物Sの造形済みの層数と、造形物Sの層数の合計である規定数とが等しいか否かを判定する。
【0055】
この層数の判定P207において、制御部90は、造形物Sの造形済みの層数が規定数未満である(NO)と判定すると、ステージ51の高さ調整P208を行って、粉末床PBの形成P201から層数の判定P207までの処理を繰り返す。ステージ51の高さ調整P208において、制御部90は、スライスデータに基づく造形物Sを構成する一層の高さに基づいて、ステージ51の昇降機構を制御して、ステージ51を下降させる。
【0056】
一方、層数の判定P207において、制御部90は、造形物Sの造形済みの層数が規定数に等しい(YES)と判定すると、付加製造処理P2aを終了させ、図1に示す付加製造方法Mを終了させる。
【0057】
また、制御部90は、以上の付加製造処理P2aと並行して、図5に示す温度モニタリング処理P2bを実施する。制御部90は、温度モニタリング処理P2bを開始すると、まずステージ51の温度測定P211と温度の判定P212を行う。ステージ51の温度測定P211において、制御部90は、温度センサ13の検出結果に基づいて、ステージ51の温度を測定する。また、温度の判定P212において、制御部90は、温度測定P211で測定されたステージ51の温度が、記憶部に記憶された規定温度範囲内か否かを判定する。
【0058】
制御部90は、判定P212において、ステージ51の温度が規定温度範囲内である(YES)と判定すると、付加製造処理P2aが終了するまで、ステージ51の温度測定P211と温度の判定P212を繰り返す。一方、制御部90は、判定P212において、ステージ51の温度が規定温度範囲外である(NO)と判定すると、溶融結合P203の完了判定P213を行う。
【0059】
制御部90は、溶融結合の完了判定P213において、造形物Sを構成する一層の溶融結合P203が完了していない(NO)と判定すると、造形物Sを構成する一層の溶融結合P203が完了するまで、完了判定P213を繰り返し行う。制御部90は、溶融結合の完了判定P213において、一層の溶融結合P203が完了した(YES)と判定すると、付加製造処理P2aの停止P214と、ステージ51の予熱機構の出力調整P215と、ステージ51の温度の測定P216と、ステージ51の温度の判定P217を行う。
【0060】
ステージ51の予熱機構の出力調整P215、ステージ51の温度の測定P216および判定P217は、造形準備工程P1におけるステージ51の予熱機構の出力制御P107、ステージ51の予熱P105および温度の判定P106と同様に行うことができる。ステージ51の温度の判定P217において、制御部90は、ステージ51の温度が規定範囲外である(NO)と判定すると、ステージ51の予熱機構の出力調整P215、ステージ51の温度の測定P216および判定P217を繰り返し実行する。
【0061】
一方、ステージ51の温度の判定P217において、制御部90は、ステージ51の温度が規定範囲内である(YES)と判定すると、停止した付加製造処理P2aを再開P218させて、温度モニタリング処理P2bを終了する。制御部90は、たとえば、付加製造処理P2aが終了するまで、温度モニタリング処理P2bを繰り返し実行する。
【0062】
また、制御部90は、前述の付加製造処理P2aおよび温度モニタリング処理P2bと並行して、図6に示す酸素量モニタリング処理P2cを実施する。制御部90は、酸素量モニタリング処理P2cを開始すると、まず酸素量の測定P221と酸素量の判定P222を行う。酸素量の測定P221において、制御部90は、酸素センサ15の検出結果に基づいて、チャンバ10内の酸素量を測定する。また、酸素量の判定P222において、制御部90は、酸素量の測定P221で測定されたチャンバ10内の酸素量が、記憶部に記憶された規定範囲内か否かを判定する。
【0063】
制御部90は、酸素量の判定P222において、チャンバ10内の酸素量が規定範囲内である(YES)と判定すると、付加製造処理P2aが終了するまで、酸素量の測定P221と判定P222を繰り返す。一方、制御部90は、酸素量の判定P222において、チャンバ10内の酸素量が規定範囲外である(NO)と判定すると、溶融結合P203の完了判定P223を行う。
【0064】
制御部90は、溶融結合P203の完了判定P223において、造形物Sを構成する一層の溶融結合P203が完了していない(NO)と判定すると、造形物Sを構成する一層の溶融結合P203が完了するまで、完了判定P223を繰り返し行う。制御部90は、完了判定P223において、一層の溶融結合P203が完了した(YES)と判定すると、付加製造処理P2aの停止P224と、チャンバ10の真空排気P225と、酸素量の判定P226を行う。真空排気P225および酸素量の判定P226は、それぞれ、造形準備工程P1における真空排気P103および酸素量の判定P104と同様に行うことができる。
【0065】
制御部90は、酸素量の判定P226において、酸素量が規定範囲内である(YES)と判定すると、造形準備工程P1の不活性ガスの供給P227、圧力の調整P228、圧力の判定P229、および圧力変化率の判定P230を行う。これらの各工程は、前述の造形準備工程P1の不活性ガスの供給P108、圧力調整P109、圧力の判定P110、および圧力変化率の判定P111と同様に行うことができる。
【0066】
制御部90は、圧力の判定P229および圧力変化率の判定P230において、チャンバ10内の圧力およびその変化率が規定範囲内である(YES)と判定すると、付加製造処理P2aを再開P231する。以上により、酸素量モニタリング処理P2cが終了する。制御部90は、付加製造処理P2aが終了するまで、酸素量モニタリング処理P2cを繰り返し実行する。
【0067】
また、制御部90は、前述の付加製造処理P2a、温度モニタリング処理P2b、および酸素量モニタリング処理P2cと並行して、図7に示す圧力モニタリング処理P2dを実施する。制御部90は、圧力モニタリング処理P2dを開始すると、まず圧力の測定P241と圧力の判定P242を行う。圧力の測定P241において、制御部90は、圧力センサ14の検出結果に基づいて、チャンバ10内の圧力を測定する。また、圧力の判定P242において、制御部90は、圧力の測定P241で測定されたチャンバ10内の圧力が、記憶部に記憶された規定範囲内か否かを判定する。
【0068】
制御部90は、圧力の判定P242において、チャンバ10内の圧力が規定範囲内である(YES)と判定すると、付加製造処理P2aが終了するまで、圧力の測定P241と判定P242を繰り返す。一方、制御部90は、圧力の判定P242において、チャンバ10内の圧力が規定範囲外である(NO)と判定すると、造形物Sを構成する一層の溶融結合P203の完了判定P243を行う。この溶融結合P203の完了判定P243は、温度モニタリング処理P2bおよび酸素量モニタリング処理P2cにおける完了判定P213,P223と同様に行うことができる。
【0069】
また、圧力モニタリング処理P2dにおける溶融結合P203の完了判定P243以降の処理、すなわち付加製造処理P2aの停止P244から再開P251までの処理は、酸素量モニタリング処理P2cにおける付加製造処理P2aの停止P224から再開P231までの処理と同様に行うことができる。以上により、圧力モニタリング処理P2dが終了する。制御部90は、付加製造処理P2aが終了するまで、圧力モニタリング処理P2dを繰り返し実行する。
【0070】
以下、本実施形態の付加製造方法Mの作用を説明する。
【0071】
本実施形態の付加製造方法Mは、前述のように、チャンバ10内のステージ51の上に粉末床PBを形成し、その粉末床PBにレーザLを照射して溶融結合P203により造形物Sを製造する方法である。本実施形態の付加製造方法Mは、チャンバ10内の圧力を8000[Pa]以上、30000[Pa]以下に減圧し、ステージ51の予熱と不活性ガスの供給を行いながらステージ51上に粉末床PBを形成することを特徴としている。
【0072】
このような構成により、造形物Sが造形されるチャンバ10内の減圧環境の酸素量を十分に低下させ、付加製造時に造形物Sに取り込まれる酸素を低減させ、粉末床PBの形成P201および溶融結合P203における材料の酸化を抑制することができる。したがって、造形物Sの付加製造に、割れ感受性の高い材料、すなわち高硬度で延性が低い材料を使用しても、それらの材料が脆性状態になること、および脆性的な特性を有することを抑制し、造形物Sの割れを抑制しながら、造形物Sを製造することが可能になる。
【0073】
さらに、減圧環境で造形物Sの付加製造処理P2aを行うことで、ステージ51の予熱P105において、ステージ51から環境中への放熱を低減してエネルギーロスを削減することができる。また、不活性ガスを供給しながら造形物Sの付加製造を行うことで、レーザLの照射による粉末床PBの溶融結合P203で発生する金属蒸気を、不活性ガスの流れによって、造形物Sの造形を行う減圧環境から排出することができ、造形物Sの品質を向上させることができる。
【0074】
また、チャンバ10内の圧力を上記範囲とすることで、チャンバ10内を減圧し、ステージ51の予熱P105と不活性ガスの供給を行いながらステージ51上に粉末床PBを形成しても、図8のように均一な粉末床PBを形成することができる。これに対し、チャンバ10内を上記の圧力の範囲外で減圧し、ステージ51の予熱P105と不活性ガスの供給を行いながらステージ51上に粉末床PBを形成すると、たとえば図9図10のように、粉末床PBを形成することができない。この理由は定かではないが、たとえば、加熱機構を備えた高温のステージ51の近傍において、不活性ガスが膨張することによる影響などが想定される。
【0075】
また、本実施形態の付加製造方法Mにおいて、チャンバ10内に供給する不活性ガスを窒素ガスとすることで、上記のような広い圧力範囲で粉末床PBを形成することが可能になる。さらに、不活性ガスを窒素ガスとした場合、チャンバ10内の圧力を12000[Pa]以上とし、ステージ51の予熱温度を200[℃]以上、650[℃]以下にすることができる。これにより、図8に示すように、チャンバ10内を減圧し、ステージ51の予熱と不活性ガスの供給を行いながら、ステージ51上に平坦で均一な粉末床PBを形成することが可能になる。
【0076】
また、本実施形態の付加製造方法Mにおいて、不活性ガスをアルゴンガスとし、減圧環境の圧力を12000[Pa]以上にすることで、不活性ガスの供給とステージ51の予熱を行いながら、ステージ51上に粉末床PBを形成することが可能になる。これに対し、不活性ガスをアルゴンガスとし、チャンバ10内の圧力を12000[Pa]未満にすると、ステージ51の予熱と不活性ガスの供給を行いながら、ステージ51上に粉末床PBを形成することが困難になる。
【0077】
また、本実施形態の付加製造方法Mにおいて、不活性ガスをアルゴンガスとする場合には、ステージ51の予熱温度を200[℃]以上、650[℃]以下とする場合には、チャンバ10内の圧力を20000[Pa]以上とすることが好ましい。これにより、図8に示すように、チャンバ10内を減圧し、ステージ51の予熱と不活性ガスの供給を行いながら、ステージ51上に平坦で均一な粉末床PBを形成することが可能になる。これに対し、不活性ガスをアルゴンガスとし、ステージ51を200[℃]以上、650[℃]以下にする場合、チャンバ10内の圧力を20000[Pa]未満にすると、ステージ51の予熱と不活性ガスの供給を行いながらステージ51上に粉末床PBの形成を行う場合に、図9に示すように、平坦で均一な粉末床PBの形成が困難になる。
【0078】
また、本実施形態の付加製造方法Mは、粉末床PBの形成P201および予熱と溶融結合P203とを繰り返す付加製造処理P2a中に、ステージ51の予熱温度が規定された温度範囲内となるように予熱温度を制御する温度モニタリング処理P2bを含む。このように、ステージ51の予熱温度を制御することで、前述のような高硬度で延性が低い材料を使用する場合に、造形物Sの割れを抑制することが可能になる。
【0079】
また、本実施形態の付加製造方法Mは、粉末床PBの形成P201および予熱と溶融結合P203とを繰り返す付加製造処理P2a中に、チャンバ10内において180[s]で300[Pa]以上の圧力変化量が測定された場合に、圧力変化量の測定時の溶融結合P203の完了後に、チャンバ10内の真空排気P245と、チャンバ10内の酸素量および圧力の調整と、を行う、圧力モニタリング処理P2dを含む。このように、減圧環境の圧力の変化率を所定の範囲以下に制御することで、不活性ガスの供給と排気を安定させ、造形物Sの欠陥率を低下させることができる。圧力の増加は、レーザ照射によって粉末床PBを溶融凝固させた場合に生じるガス成分や金属蒸気の影響によって起こる。一方、圧力の低下はガス供給と排気能力のバランスにおいて排気能力が上回った場合に発生する。これらの要因によって、圧力の変動が生じる。
【0080】
また、本実施形態の付加製造方法Mは、粉末床PBの形成P201および予熱と溶融結合P203とを繰り返す付加製造処理P2a中に、チャンバ10内において規定値以上の酸素量が測定された場合に、規定値以上の酸素量が測定された直後の溶融結合P203の完了後に、チャンバ10内の真空排気P225と、チャンバ10内の酸素量および圧力の調整とを行う、酸素量モニタリング処理P2cを含む。このように、減圧環境の酸素量を規定値以下に制御することで、材料の酸化を効果的に抑制することができ、高硬度で延性が低い材料を使用しても、造形物Sの割れを抑制しながら、造形物Sを製造することが可能になる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態によれば、チャンバ10内を減圧し、ステージ51の予熱と不活性ガスの供給を行いながらステージ51上に粉末床PBを形成しても、均一な粉末床PBを形成可能で、安定した溶融結合P203が可能な付加製造方法Mを提供することができる。
【0082】
以上、図面を用いて本開示に係る付加製造方法の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【0083】
以下、本開示の付加製造方法にかかる実施例1および実施例2を説明する。
【0084】
[実施例1]
材料粉末Pとして、熱間工具鋼鋼材(JIS SKD61)の粉末を使用し、前述の実施形態で説明した造形準備工程P1と付加製造工程P2を含む付加製造方法Mによって造形物Sを製造した。なお、酸素量モニタリング処理P2cの酸素量の判定P222における酸素量の規定範囲は、0.3[ppm]以下に設定した。また、造形準備工程P1および温度モニタリング処理P2bの温度の判定P106,P212におけるステージ51の予熱温度の範囲は、450[℃]以上、550[℃]以下に設定した。また、不活性ガスは窒素ガスとし、供給量を15[l/min]とし、チャンバ10内の圧力を12000[Pa]以上、14000[Pa]以下に制御した。
【0085】
図11は、実施例1による造形物Sの浸透探傷試験の結果を示す写真である。図12は、実施例1の造形物Sの断面を拡大した写真である。実施例1による造形物Sは、探傷試験の結果、割れは確認されなかった。
【0086】
[実施例2]
材料粉末Pとして、ニッケル基合金(Alloy718)の粉末を使用し、前述の実施形態で説明した造形準備工程P1と付加製造工程P2を含む付加製造方法Mによって造形物Sを製造した。なお、酸素量モニタリング処理P2cの酸素量の判定P222における酸素量の規定範囲は、0.3[ppm]以下に設定した。また、造形準備工程P1および温度モニタリング処理P2bの温度の判定P106,P212におけるステージ51の予熱温度の範囲は、60[℃]以上、80[℃]以下に設定した。また、不活性ガスはアルゴンガスとし、供給量を15[l/min]とし、チャンバ内の減圧環境の圧力を12000[Pa]以上、14000[Pa]以下に制御した。本実施例で使用したニッケル合金の材料粉末Pは、付加製造において予熱を必要としない材料であるが、本実施例の付加製造方法により、減圧環境の酸素量を低減することができ、造形物Sの酸素量を約90[ppm]に低減することができた。
【符号の説明】
【0087】
10 チャンバ
51 ステージ
L レーザ
M 付加製造方法
P2a 付加製造処理
P102 ステージの設置
P105 ステージの予熱
P203 溶融結合
P215 出力の制御(予熱温度の制御)
P216 温度の測定(予熱温度の制御)
P217 温度の判定(予熱温度の制御)
P225 真空排気(酸素量の調整)
P226 酸素量の判定(酸素量の調整)
P228 圧力の調整
P245 真空排気(酸素量の調整)
P246 酸素量の判定(酸素量の調整)
P248 圧力の調整
PB 粉末床
S 造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12