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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ボルデテラ属種を培養する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20231130BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 39/10 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61P31/04
A61K39/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020550857
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 IB2019000305
(87)【国際公開番号】W WO2019180507
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】62/645,473
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517055195
【氏名又は名称】サノフィ パスツール インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ファレル
(72)【発明者】
【氏名】ボー・チー・サン
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・バルビラト
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル・デ・ヘスス・メネンデス・ディアス
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・チアペッタ
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00659879(EP,A2)
【文献】国際公開第2008/146830(WO,A1)
【文献】日本細菌学雑誌, 1996, Vol. 51, No. 3, pp. 737-744
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルデテラ属種を培養する方法であって、該方法は:
ボルデテラ属種を液体培地中にて有酸素条件下で培養すること;及び
該種の培養の間、液体培地のpHを維持することを含み、ここで液体培地のpHを維持することは:
該ボルデテラ属種の培養の間にpH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために液体培地に第一及び第二の酸を添加することを含み、
ここで該第一の酸は、硝酸であり
こで該第二の酸は、リン酸であ
ここで第一の酸及び第二の酸は溶液状態で混合され、該溶液は、第一の酸を30%~50%及び第二の酸を50%~70%(%体積/体積)含み、第一の酸の濃度は、3.5Mであり、第二の酸の濃度は、2.5Mであり、そして
ここで上記pH値の所定の範囲は6.0~9.0である、
上記方法。
【請求項2】
溶液は、第一の酸40%及び第二の酸60%(体積/体積)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記方法は、液体培地からボルデテラ抗原を単離することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ボルデテラ抗原を単離することは:
ボルデテラ属種の培養後に液体培地を細胞フラクション及び上清フラクションに分離すること;
百日咳毒素(PT)、繊維状赤血球凝集素(FHA)及びパータクチン(PRN)の1つ又はそれ以上を上清フラクションから単離すること、並びに
2型及び3型線毛を細胞フラクションから単離すること
を含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
上記方法は、単離された抗原をサブユニットワクチンとして製剤化することを更に含む
、請求項に記載の方法。
【請求項6】
ボルデテラ属種を培養する方法であって、該方法は:
ボルデテラ属種を有酸素条件下で液体培地中にて培養すること;及び液体培地のpHを該種の培養の間維持することを含み、ここで液体培地のpHを維持することは:
該ボルデテラ属種の培養の間pH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために液体培地に硝酸を添加することを含
ここで上記pH値の所定の範囲は6.0~9.0である、
上記方法。
【請求項7】
上記方法は、液体培地からボルデテラ抗原を単離することをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
ボルデテラ抗原を単離することは:
ボルデテラ属種の培養後に液体培地を細胞フラクション及び上清フラクションに分離すること;
ボルデテラ抗原を上清フラクションから単離することを含み、ここで単離されたボルデテラ抗原はパータクチンを含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
上記方法は、単離されたボルデテラ抗原をサブユニットワクチンとして製剤化することをさらに含む、請求項又はに記載の方法。
【請求項10】
ボルデテラ属種培養からの上清フラクションにおけるボルデテラ線毛性凝集原2及び線毛性凝集原3(FIM2/3)の収量を増加させるための方法であって、該方法は:
ボルデテラ属種を有酸素条件下で液体培地中にて培養すること;
該種の培養の間、液体培地のpHを維持することであって、ここで液体培地のpHを維持することは:
該ボルデテラ属種の培養の間、pH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために液体培地に酸を添加することを含み、
ここで酸は硝酸を含む;
ボルデテラ属種培養後に液体培地を細胞フラクション及び上清フラクションに分離すること;並びに
上清フラクションからFIM2/3を単離すること
を含
ここで上記pH値の所定の範囲は6.0~9.0である、
上記方法。
【請求項11】
上記ボルデテラ属種は百日咳菌である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記pH値の所定の範囲は6.8~7.3である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記ボルデテラ属種の培養は大規模製造条件下で起こる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
液体培地は化学的に規定された液体培地である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記化学的に規定された液体培地は、ジメチル-β-シクロデキストリンを追加されたStainer-Scholte培地である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第62/645,473号(2018年3月20日出願)(その開示全体が参照により本明細書に加入される)の利益を主張し、その出願日に依る。
【0002】
技術分野
本出願は、概して、百日咳菌(Bordetella pertussis)のようなボルデテラ属種(Bordetella species)を培養するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
百日咳は、重篤な咳き込みを特徴とする肺の細菌感染症である。百日咳菌(Bordetella pertussis)は、この状態の主原因である。化学的に解毒された百日咳菌(B.pertussis)の全細胞(wP)を含み、そしてジフテリア及び破傷風抗原とともに製剤化されたワクチンが何十年も利用可能である。1990年代から、wPワクチンは多くの国において無細胞百日咳ワクチンと置き換えられてきた。無細胞百日咳(aP)ワクチンは、wPワクチンと比較して比較的少ない副作用を誘導し、これらは発熱の高い危険性、注射部位での反応源性及びより少ない程度でけいれんを伴う。
【0004】
現在の無細胞ワクチンは、以下の病原性因子に基づく:百日咳毒素(PT)、繊維状赤血球凝集素(filamentous hemagglutinin)(FHA)、パータクチン(PRN)、線毛性凝集原(fimbrial agglutinogen)2及び線毛性凝集原3(FIM2/3又はFIM)。いくつかの無細胞ワクチンはPT及びFHAのみ又はPT単独を含有するが、一般に、PT、FHA、PRN、線毛性凝集原2及び線毛性凝集原3成分を含有する無細胞百日咳ワクチンは、現在利用可能な最も有効なaPワクチンであると考えられている。
【0005】
百日咳aPワクチンのための当該分野で公知の製造方法は、主に2つの段階から構成される:上流発酵プロセス及び下流精製プロセス。上流発酵プロセスは、典型的には増加する体積の一連のバイオリアクターにおけるボルデテラ属種(Bordetella)の培養を含み、ここで微生物が制御された条件下で増殖する。典型的には、ボルデテラ属種培養の制御された条件は、エネルギー源としてアミノ酸を含有する培地を含む。ボルデテラ属細胞の培養は、細胞が、炭水化物、ラクテート及び解糖中間体のような特定のエネルギー源を効率的に利用できないという点で独特である。代わりに、これらの生物はそれらの主要な炭素及びエネルギー源としてアミノ酸、典型的にはグルタミン酸を使用する。グルタメートの利用において、α-アミノ基が除去され、そして炭素骨格はα-ケトグルタレート代謝中間体に変換される。酵素グルタミン酸デヒドロゲナーゼにより調節されるグルタメートの酸化的脱アミノは以下の反応に従う:
グルタメート+NAD+HO=NH +NADH+H+α-ケトグルタレート
【0006】
ボルデテラ属種によるアミノ酸の脱アミノは、培地中のアンモニアのアンモニウムイオンへの反応に起因して培養の間にpHの増加を生じる。増強された細胞密度は、培地のpHを継続的に維持することにより少なくとも部分的にボルデテラ属種培養の間に達成され得る。従って、ボルデテラ属種を培養する方法は、典型的には、より低い塩基性レベルにpHを維持するために、酸、典型的にはリン酸を加えることによりpHを制御することも含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
培養後に細胞は上清(遠心分離液(centrate)としても知られる)から分離され、これは典型的には細胞フラクション及び上清フラクションを生じる培養培地の遠心分離を含み、そして必要に応じて、目的の抗原は細胞及び/又は上清フラクションからさらに単離され得る。FIMは通常は細胞フラクションから単離されるが、少量のFIMは上清中にも見いだされ得る。逆に、培養の間に細胞から放出されるPT、FHA及びPRNは、典型的に上清から単離される。しかし、PRNの相当な部分はしばしば細胞に付随したままであり、従って上清中には存在せず、抗原の潜在的な損失を生じる。それ故、上清中のこの抗原の量を増加させるボルデテラ属種抗原製造、特にPRN製造のより効率的な方法の必要性が依然として当該分野に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
要旨
本発明者らは、上清中の増加した量のPRNを生じる、ボルデテラ属種を培養するための方法を開発した。驚くべきことに、本発明者らは、上清中のPRNの量が、少なくとも部分的に、培養の間pHを維持するために使用される酸の種類に依存するということに気づいた。さらに、本発明者らは、驚くべきことに、pH制御のために特定の酸ブレンドを使用することにより他の抗原の収量に影響を及ぼすことなく上清中でPRNを増加させることができるということに気づいた。さらに、本発明者らは、強い酸又は酸ブレンドの使用がバイオマスレベルでの実質的な変化を生じないということを発見した。従って、pH制御のために使用される酸の種類の単純な変化が、下流ボルデテラ抗原製造プロセスに対して最小の影響を生じる。本方法のこれら及び他の予期せぬ利益は本明細書以下に記載される。
【0009】
より詳細には、一局面において、本開示は、ボルデテラ属種、典型的には百日咳菌を培養するための方法に関し、該方法は:ボルデテラ属種を有酸素条件下で液体培地中で培養すること;及び該種の培養の間、液体培地のpHを維持することを含み、ここで液体培地のpHを維持することは:ボルデテラ属種の培養の間pH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために必要に応じて、硝酸のような強酸を液体培地に添加することを含む。
【0010】
さらに、別の局面において、本開示は、ボルデテラ属種培養からの上清フラクションにおけるボルデテラ線毛性凝集原2及び線毛性凝集原3(FIM2/3)の収量を増加させるための方法に関し、該方法は:ボルデテラ属種、典型的には百日咳菌を有酸素条件下で液体培地中で培養すること;該種の培養の間、液体培地のpHを維持すること、[ここで液体培地のpHを維持することは:ボルデテラ属種の培養の間、pH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために必要に応じて液体培地に酸を添加することを含み、ここで酸は、硝酸、塩酸又は硫酸のような水中で本質的に完全に解離する無機酸を含む]、ボルデテラ属種の培養後の液体培地を細胞フラクション及び上清フラクションに分離すること;並びに上清フラクションからFIM2/3を単離することを含む。
【0011】
さらに別の局面において、本開示は、ボルデテラ属種、典型的には百日咳菌を培養するための方法に関し、該方法は:ボルデテラ属種を有酸素条件下で液体培地中で培養すること;及び該種の培養の間、液体培地のpHを維持することを含み、ここで液体培地のpHを維持することは:ボルデテラ属種の培養の間、pH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために必要に応じて液体培地に第一及び第二の酸を添加することを含み、ここで第一の酸は、硝酸、塩酸又は硫酸のような水中で本質的に完全に解離する無機酸であり、最も典型的には硝酸であり、そしてここで第二の酸は、リン酸のような1より大きい酸解離定数(pKa)を有する有機酸又は無機酸である。
【0012】
いくつかの実施態様において、第一の酸及び第二の酸は溶液状態で混合され、ここで溶液は第一の酸を約20%~約75%、例えば約30%~約50%、例えば約40%、及び第二の酸を約25%~約80%、例えば約50%~約70%、例えば約60%(体積/体積)含む。
【0013】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載される方法は、液体培地からボルデテラ抗原を単離すること、例えば、ボルデテラ属種の培養後に液体培地を細胞フラクション及び上清フラクションに分離することをさらに含む。
【0014】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載される方法は、百日咳毒素(PT)、繊維状赤血球凝集素(FHA)及びパータクチン(PRN)の1つ又はそれ以上を上清フラクションから単離すること、並びにFIM2/3を細胞フラクション及び/又は上清から単離することをさらに含む。
【0015】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載される方法は、単離されたボルデテラ抗原をサブユニットワクチンとして製剤化することをさらに含む。
【0016】
本明細書に記載される方法のいずれかにおいて、pH値の所定の範囲は、6.0~9.0、例えば6.8~7.3であり得る。
【0017】
いくつかの実施態様において、本方法に従うボルデテラ属種の培養は、大規模製造条件下で起こる。
【0018】
いくつかの実施態様において、ボルデテラ属種を培養するために使用される液体培地は、化学的に規定された液体培地、例えばジメチル-β-シクロデキストリンを追加されたStainer-Scholte培地である。
【0019】
本開示の適用性のさらなる領域は、本明細書以後に提供される詳細な記載から明らかとなるだろう。当然のことながら、詳細な記載及び特定の実施例は、本開示のいくつかの望ましい局面を示すが、説明の目的のみのためであり、本開示の範囲を限定することは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例1に記載されるように、ボルデテラ属種培養の間にpH制御を維持するために様々な酸を使用して製造されたボルデテラ属種培養物から得られた上清フラクション又は細胞フラクション中のPRNの相対量を示すウェスタンブロットを表す。
図2-1】図2A~2Dは、実施例2に記載されるように、上清からのPRN(図2A)、PT(図2B)及びFHA(図2C)、並びに細胞フラクション及び上清からのFIM2/3(図2D)の収量に対する、複合培地におけるボルデテラ属種培養の間のpH制御のために異なる比の3.5M硝酸及び2.5Mリン酸のブレンドを使用した効果を表す。
図2-2】図2-1の続き。
図3-1】図3A~3Dは、実施例3に記載されるように、上清からのPRN(図3A)、PT(図3B)及びFHA(図3C)、並びに細胞フラクション及び上清からのFIM2/3(図3D)の収量に対する、化学的に規定された培地におけるボルデテラ属種培養の間のpH制御のために異なる比の3.5M硝酸及び2.5Mリン酸のブレンドを使用した効果を表す。
図3-2】図3-1の続き。
図4図4A~Bは、実施例4に記載されるように、20L及び200Lスケールでの上清からのPRN(図4A)、並びに200Lスケールでの上清(遠心分離液)からのFIM2/3(図4B)の収量に対する、複合培地におけるボルデテラ属種培養の間のpH制御のために異なる比の3.5M硝酸及び2.5Mリン酸のブレンドを使用した効果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
様々な望ましい局面の以下の記載は、本来は単に例示に過ぎず、そしていかなるようにも本開示、その適用、又は使用を制限することは意図されない。
【0022】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確にそうではないと指示していなければ複数の言及を含む。従って例えば、「方法(a method)」への言及は、1つもしくはそれ以上の方法、及び/もしくは本明細書に記載される種類の工程、並びに/又は本開示などを読むと当業者にあきらかとなるであろうものを含む。
【0023】
全体をとおして使用される範囲は、範囲内である値の1つ1つ全てを記載するための簡潔な表現として使用される。範囲内のいずれの値も、範囲の境界として選択され得る。さらに、本明細書において引用される全ての参考文献は、それら全体として参照により本明細書に加入される。本開示における定義と引用される参考文献の定義における矛盾の場合には、本開示が支配する。
【0024】
本明細書で使用される「ボルデテラ属(Bordetella)」は、プロテオバクテリア門の小さな(0.2~0.7μm)グラム陰性球桿菌の属を指す。典型的には、ボルデテラ属種は偏性好気性菌である。ボルデテラ属種はまた、高度に偏好性であり、すなわち培養が困難である。全ての種がヒトに感染することができる。
【0025】
本明細書で使用される用語「培養する」又は「培養すること」は、培養における細胞の増殖を指す。本明細書で使用される用語「培養する」は、培地における細胞又は生物のいずれかの増殖を指す。用語「培地(culture medium)」又は「培地(medium)」は当該分野で認識されており、そして一般に、生存細胞の培養のために使用されるいずれかの物質又は調製物を指す。細胞培養を参照して使用される用語「培地」は細胞を取り囲む環境の成分を含む。
【0026】
様々な実施態様において、本発明の方法は:ボルデテラ属種を有酸素条件下で液体培地中にて培養すること;及び液体培地のpHを該種の培養の間維持することを含み、ここで液体培地のpHを維持することは:該ボルデテラ属種の培養の間pH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために必要に応じて、水中で本質的に完全に解離する無機酸、例えば硝酸を液体培地に添加することを含む。
【0027】
ボルデテラ属細胞を培養するための当該分野で公知のいずれの液体培地も本発明の方法とともに使用され得る。様々な実施態様において、複合培地が使用される。本明細書において使用される「複合培地」は、植物又は動物起源のペプトン消化物又は抽出物を含有する培地を指す。本発明の方法とともに使用するために適した複合培地の例としては、例えば、Hornibrook培地、Cohen-Wheeler培地、B2培地、又は他の類似した液体培地が挙げられる。ジメチルβシクロデキストリン及びカザミノ酸も含む改変Stainer&Scholte培地は、使用に適した別の例である。しかし典型的には、以下の実施例に記載されるように、カザミノ酸を含有する複合培地は、培養の間初期に使用され、そしてその後、増殖因子及び栄養供給としてグルタミン酸一ナトリウムを含む栄養サプリメントを追加される。本明細書で使用される「カザミノ酸」は、カゼインの加水分解により得られたアミノ酸の混合物を指す。
【0028】
他の実施態様において、化学的に規定された培地は、ボルデテラ属種を培養するために本発明の方法とともに使用される。化学的に規定された培地は、しばしば、化学的に規定されていない培地と異なり、化学的に規定された培地は正確な濃度の各栄養素を含有し、それ故培地の変動性を減少させ、そして発酵生成物の品質を改善するので有益であるとしばしば考えられている。本明細書で使用される用語「化学的に規定された培地」は、酵母、酵母抽出物、ペプトン、トリプトン(tryptones)及びカザミノ酸のような複雑な材料を実質的に有していない培地を指す。
【0029】
以下の表1は、本発明の方法とともに使用するために適した化学的に規定された培地、すなわち、Stainer&Scholte(SS)培地及びSS培地の改変バージョン(追加SS培地)(これは、ジメチル-β-シクロデキストリン、百日咳菌(B. pertussis)の増殖刺激物質、及び他の小さな変更を含む)の組成の例を示す。これらの例において、複合培地中のカザミノ酸は、選択されたアミノ酸で置き換えられた。1つ又はそれ以上のさらなるアミノ酸を含んでいてもよい。
【0030】
【表1】
【0031】
いくつかの実施態様において、液体培地はボルデテラ属種を含む。様々な実施態様において、ボルデテラ属種は、ボルデテラ・アビウム(Bordetella avium)、ボルデテラ・ヒンジイ(Bordetella hinzii)、ボルデテラ・トレマツム(Bordetella trematum)、ボルデテラ・ホルメシイ(Bordetella holmesii)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)及び百日咳菌 (別にHaemophilus pertussisとしても知られる)からなる群より選択される種である。典型的には、ボルデテラ属種は、パラ百日咳菌、気管支敗血症菌及び百日咳菌からなる群から選択される。より典型的には、ボルデテラ属種は百日咳菌である。
【0032】
発酵プロセスは典型的には少なくとも2段階で進行する:(i)シード増殖及び(ii)培養。第一段階は振盪フラスコで行われる。比較的小さいシード培養物が、ストック培養からの播種により最初に増殖し(例えば、ワーキングシード(working seed))、そしてこれを増殖させて、培養物を播種するために使用する(例えば、シード培養、発酵培養)。1つより多くのシード増殖段階は、培地の播種のためにボルデテラ属種の量をスケールアップするために使用され得る。あるいは、培養段階における種の増殖は、望ましい場合、直接播種により貯蔵された培養物から直接的に進められ得る。培養段階を開始するために、シード培養物の一部又は全てが培地に播種するために使用される。1つ又はそれ以上の培養工程又は継代がある。例えば、ボルデテラ属種を2000Lバイオリアクターで培養するために、シード培養物を使用して、第一の培養容器(20L)に播種し得、これは第二の培養容器(200L)に播種するために使用され、そしてこれは第3の培養容器(2000L)に播種するために使用される。さらなる例として、ボルデテラ属種を200L容器で培養するために、シード培養物を使用して、二次フラスコに播種するために使用される一次フラスコに播種し得、これを使用して20L容器に播種し、これを今度は200L容器に播種するために使用する。
【0033】
いくつかの実施態様において、ボルデテラ属種の培養は、液体培地を例えば1、2、3又は5リットル含有する2、5又は10リットルフラスコのような小さい容器においてボルデテラ属種を増殖させることを含む。他の実施態様において、本発明のボルデテラ属種を培養する方法は、大規模製造条件を使用する。本明細書で使用される「大規模製造条件」は、10と10,000リットルとの間、25と5000リットルとの間、25と2000リットルとの間、50と1000リットルとの間、100リットルと5000リットルとの間、500リットルと8000リットルとの間、1500リットルと6500リットルとの間、約1500~1600リットル、約3000~3200リットル、約6000~6400リットル、25リットルより大きいかもしくは25リットルに等しい、例えば100リットルより大きいかもしくは100リットルに等しい、例えば少なくとも100リットルかつ10,000リットルより小さいか又は10,000リットルに等しい、例えば、少なくとも100リットルかつ8000リットルより小さいかもしくは8000リットルに等しい、例えば少なくとも100リットルかつ4000リットルより小さいかもしくは4000リットルに等しい、又は例えば少なくとも100リットルかつ2000リットルより小さいかもしくは2000リットルに等しい作業体積で、培養容器、典型的にはバイオリアクターにおいて細胞を培養することを指す。
【0034】
様々な実施態様において、培養プロセスは、32℃より高いかもしくは32℃に等しい、33℃より高いかもしくは33℃に等しい、34℃より高いかもしくは34℃に等しい、45℃より低いかもしくは45℃に等しい、42℃より低いかもしくは42℃に等しい、40℃より低いかもしくは40℃に等しい、38℃より低いかもしくは38℃に等しい、32℃と45℃との間、33℃と42℃との間、33℃と40℃との間又は33℃と38℃との間の温度で行われる。典型的には、培養は34℃~38℃の範囲に及ぶ温度で行われる。
【0035】
通気は、当該分野で公知のいずれかの方法により、例えば培養容器を振盪もしくは回転することにより、又はバイオリアクターのシャフトに取り付けられた1つもしくはそれ以上の羽根車の使用により達成され得る。あるいは、空気又は純粋な酸素を培養容器中に導入し得る。溶存酸素は、例えば、約20%~40%又は約30%のレベルの空気飽和度に調節され得る。いくつかの実施態様において、溶存酸素のレベルは、10μΜと160μΜとの間、15μΜと140μΜとの間、30μΜと120μΜとの間、45μΜと15μΜとの間、60μΜと100μΜとの間、又は約80μΜである。
【0036】
いくつかの実施態様において、ポリジメチルシロキサンのような消泡剤が、培養プロセスの間液体培地中に組み込まれ得る。
【0037】
いくつかの実施態様において、培養期間は、9時間~56時間、例えば26時間もしくはそれ以下、又は48時間もしくはそれ以下の範囲に及ぶ。培養プロセスの各工程は、それ自体の培養期間を有し得る。
【0038】
強酸
様々な実施態様において、液体培地のpHは、生物の培養の間継続的に評価され、そして必要に応じて、生物の増殖の間、値の所定の範囲内に培地のpHを維持するために十分な濃度で、酸が液体培地に供給される。一般に、培養全体を通して培地が制御されるpHの範囲は、典型的には、約6.0~約9.0、より典型的には約6.8~約7.3、例えば、約7.0~7.2である。pHの決定、及び必要な場合調整は、典型的には自動で、例えばポンプに作動可能に接続されたpHメーターを使用して自動的に達成され、このポンプは、所定の範囲外のpH決定に応じて、液体培地に酸をポンプで送るための蠕動ポンプであり得る。
【0039】
本明細書で使用される「酸」は、水溶液に添加された場合に、水分子(HO)にプロトンを供与する物質を指す。典型的には、強酸、例えば強無機酸が、培地のpHを維持するために使用される。本明細書で使用される「強酸」は、水中で本質的に完全に解離するものである。対照的に、弱(mild)又は弱(weak)酸は、水中で不完全に解離する酸である。すなわち弱酸は、溶液中でその水素の全ては放出せず、そのプロトンを溶液に部分的な量しか供与しない。
【0040】
強酸はまたKa及び/又はpKa値を参照して定義されてもよい。本明細書において使用されるKaは、解離平衡状態における平衡定数:[H][A]/[HA]を指す。従って、Kaの数値は、生成物の濃度を反応物の濃度で割ったものに等しく、ここで反応物は酸(HA)であり、そして生成物は共役塩基及びHである。本明細書で使用されるpKaは、pKa=log10Kaにより定義される定数である酸解離定数を意味する。
【0041】
例えば、水(HO)は、ヒドロニウムイオン、Hの塩基であり、25℃で0のpKaを有する。ヒドロニウムイオンより小さいpKaを有する酸が強酸とみなされる。例えば塩酸(HCl)はpKa-7を有し、これはヒドロニウムイオンのpKaより小さい。これは、HClがそのプロトンを本質的に完全に水に放出してHカチオンを形成するということを意味する。この理由から、HClは水中で強酸と分類される。水溶液中のHClの全てが100%解離されていると仮定することができ、ヒドロニウムイオン濃度及び塩化物イオン濃度の両方が加えられたHClの量に直接相当するということを意味する。
【0042】
HClに加えて、本発明のボルデテラ属種培養方法においてpHを制御するために使用され得る他の強酸の例としては、臭化水素酸、硫酸、硝酸、塩素酸、過塩素酸、過マンガン酸、及びヨウ化水素酸が挙げられる。しかし、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)又は硝酸(HNO)が典型的に使用される。なおより典型的には、本発明の方法で使用される強酸は硝酸(HNO)である。
【0043】
本明細書において開示される強酸と対照的に、「弱酸」は約10-1より小さいKa値又は1より大きいpKa値を有する酸を指す。弱酸の例としては、リン酸、亜リン酸、亜硝酸及び亜硫酸が挙げられる。強酸及び弱酸の他の例並びにそれらのKa及びpKa値を以下の表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
いくつかの実施態様において、1つの強酸のみ、1つの強無機酸、例えば硝酸のみのように1つの酸のみを含む溶液は、本発明の方法の液体培地のpHを維持するために使用される。すなわち、pHを制御するために使用される溶液中の酸の100%が強酸、例えば強無機酸、例えばHCl、HSO又はHNOである。幾つかの実施態様において、1つの強酸のみ、1つの強無機酸、例えば硝酸のみを含む溶液のモル濃度は、0.5M~5.0M、例えば1.0M~4.0M、例えば約3.5M、例えば3.5M硝酸又は3.5M HClである。典型的には、3.5M硝酸が本発明の方法とともに使用される。
【0046】
様々な実施態様において、典型的には培養の後に、例えば遠心分離を使用して培地を細胞フラクションと上清フラクションに分離する工程が続く。PRN、PT、FHA及びFIM2/3を含む、ボルデテラ属種培養からの1つ又はそれ以上の抗原は、当該分野で利用可能な方法を使用して細胞及び上清フラクションからさらに単離することができ、これらの方法としては、米国特許第5,877,298号(その全体として参照により本明細書に加入される)に記載されるものが挙げられる。本明細書で使用される用語「抗原」又は「免疫原」は、被験体、例えばヒトのような哺乳動物に曝露されると、その抗原に特異的な免疫応答を誘導する1つ又はそれ以上のエピトープ(鎖状、立体構造的(conformational)又は両方)を含有する分子を指す。エピトープは抗原の特異的部位であり、これがT細胞受容体又は特異的抗体に結合し、そして典型的には約3つのアミノ酸残基から約20のアミノ酸残基を含む。用語抗原はサブユニット抗原を指す:抗原が天然で付随している生物全体から分離されて個別の抗原。
【0047】
用語「単離された」又は「単離すること」は、実質的に純粋な形態、例えば、約95%より高い純度であるか、又は少なくとも部分的に精製されている、例えば85%より高く純粋であるか、75%より高く純粋であるか、もしくは50%より高く純粋であるか、又は何らかの方法でその天然環境もしくはその増殖培地から取り出された物質を指す。従って、「単離された」又は「単離すること」へのいずれかの言及は、その液体培地から、かつ/又は全細胞細菌調製物から取り出されており、かつ実質的に又は少なくとも部分的に精製されていてもよい抗原のような薬剤を包含し、これらとしては、例えば、ボルデテラ属種培養培地の遠心分離により得られた細胞又は上清フラクションが挙げられる。用語「単離された」はまた、他の薬剤、希釈剤、賦形剤、アジュバント及び/又はタンパク質とともに溶液状態にある免疫原も包含する。
【0048】
PRNのような抗原の単離は、例えば、米国特許第5,667,787号及び同第5,877,298号(これらはその全体として参照により本明細書に加入される)に記載されるような当該分野で公知のいずれかの方法により行われ得る。典型的には、単離プロセスは、上清フラクションもしくは遠心分離液としても本明細書に置いて言及される水性材料と細胞フラクションとに液体培地を分離することから始まる。分離は様々な方法により達成され得る。例えば、培養物中の固形物を重力下で沈降させることができ、ついで水性材料をデカンテーション又は吸引により除去することができる。しかし、典型的には、固形ペレット及び上清を得るために遠心分離を使用し、これらは容易に分離することができる。ペレットはボルデテラ属種細胞及び他の不溶性物質を含む。上清は培地及び培養の間に細菌により放出されたいずれかの成分を含む。
【0049】
典型的にはPT、FHA及びPRNを含有する上清は濾過され、ついで例えばセルロース膜を使用することにより濃縮される。PT、FHA及びPRNは、例えばパーライト分画により分離され得る。PRNはこの分離工程において使用されるカラムのランスルーで集められ得るが、PT及びFHAは所望される場合カラムから溶出され得る。
【0050】
いくつかの実施態様において、例えば、米国特許第5,667,787号(これはその全体として参照により本明細書に加入される)に記載されるように、3つの異なる濃度で硫酸アンモニウムを使用する3つの連続した沈殿工程でPRNを沈殿させる。例えば、第一及び第三の沈殿において、ペレットは目的のフラクションであるが、第二の沈殿では上清が使用される。次いで、遠心分離により集められた最終ペレットを、例えば、10mM HCl Tris緩衝液に溶解し得、そしてクロマトグラフィーカラムにロードし得る。次いで生成物を最終クロマトグラフィー工程にかける前に限外濾過し、そして透析濾過し得る。最終濾過は、PRNの定量前に予備濾過工程及び滅菌濾過(0.2μmフィルター)を含んでいてもよい。
【0051】
いくつかの実施態様において、精製されたPRNは、リン酸アルミニウムのようなアジュバント上に吸着される。当該分野で公知のように、アジュバントは抗原に応じて免疫系を増強するために役立つ化合物である。吸着プロセスにおいて、例えば、リン酸アルミニウム溶液を抗原に加え、そして4日間16℃~24℃で混合する。吸着後に、PRNは2℃~8℃で36ヶ月まで保存され得る。
【0052】
いくつかの実施態様において、1つの酸、例えば1つの強酸のみ、例えば1つの強無機酸、例えば硝酸又は塩酸のみを含む溶液、例えば100%3.5M硝酸又は100%3.5M塩酸を含む溶液が、本発明の方法に従うボルデテラ属種培養の間pHを維持するために使用される場合、本明細書において定義されるような1つ又はそれ以上のより弱い酸、例えばリン酸(HPO)のみ、例えば100%2.5Mリン酸を含む溶液を使用してpHが維持される場合の上清におけるPRNの量と比較して、PRNは上清において増加する。
【0053】
いくつかの実施態様において、1つの酸のみ、例えば1つの強酸のみ、例えば強無機酸、例えば硝酸又は塩酸のみを含む溶液、例えば100%3.5M硝酸又は100%3.5M塩酸を含む溶液が、本発明の方法に従ってボルデテラ属種培養の間pHを維持するために使用される場合、本明細書で定義されるような1つ又はそれ以上のより弱い酸、例えばリン酸(HPO)のみ、例えば100%2.5Mリン酸を含む溶液を使用してpHが維持される場合の上清中のPRNの量と比較して、PRNは上清中で約1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍又は10倍、典型的には約3倍~6倍増加する。
【0054】
いくつかの実施態様において、1つの酸のみ、例えば1つの強酸のみ、例えば1つの強無機酸、例えば硝酸又は塩酸のみを含む溶液、例えば100%3.5M硝酸又は100%3.5M塩酸を含む溶液が、本発明の方法に従うボルデテラ属種培養の間pHを維持するために使用される場合、1つ又はそれ以上の本明細書において定義されるようなより弱い酸、例えばリン酸(HPO)、例えば100%2.5Mリン酸を含む溶液を使用してpHを維持する場合の細胞フラクション中のPRNの量と比較して、PRNはそれに応じて細胞フラクション中で約10%、25%、50%、75%又は100%、典型的には50%減少する。
【0055】
本開示はまた、ボルデテラ属種培養からの上清フラクションにおける線毛性凝集原2及び線毛性凝集原3の収量を増加させるための方法に関し、該方法は:ボルデテラ属種を有酸素条件下で本明細書に記載される液体培地中にて培養すること;該種の培養の間、液体培地のpHを維持すること、[ここで液体培地のpHを維持することは:本明細書に記載されるように該ボルデテラ属種の培養の間、pH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために必要に応じて培地に酸を添加することを含み、ここで酸は水中で本質的に完全に解離する無機酸、すなわち本明細書に記載される強酸を含む]、並びにボルデテラ属種培養後に液体培地を細胞フラクション及び上清フラクション(遠心分離液)に分離すること;並びに細胞フラクション及び/又は上清フラクションから2型及び3型線毛を単離することを含む。
【0056】
いくつかの実施態様において、FIM2/3はボルデテラ属種培養物から単離される。これらの実施態様において、培養に使用される液体培地は、複合培地でも化学的に規定された培地でもよい。典型的には、これらの実施態様において、液体培地は、本明細書に記載されるような化学的に規定された培地、例えば補足SS培地である。様々な実施態様において、FIM2/3は、本明細書に記載されるように、例えば遠心分離により液体培地を細胞フラクション及び上清フラクションに分離した後の上清及び/又は細胞フラクションから得られる。FIM2/3は、当該分野で公知のいずれかの方法に従って上清フラクション及び/又は細胞フラクションから単離され得る。特定の実施態様において、FIM2/3は上清フラクションから単離される。他の実施態様において、FIM2/3は細胞フラクションから単離される。例えば、FIM2/3は、当該分野で公知の技術(例えば、尿素、加熱又は超音波処理)を使用して細胞を溶解し、続いてFIM2/3をさらに単離することにより細胞フラクションから単離され得る。
【0057】
いくつかの実施態様において、1つの酸のみ、例えば1つの強酸のみ、例えば1つの強無機酸、例えば、硝酸、硫酸、または塩酸のみを含む溶液、例えば100%3.5M硝酸又は100%3.5M塩酸を含む溶液が、本発明の方法に従うボルデテラ属種培養の間、pHを維持するために使用される場合、本明細書において定義される1つ又はそれ以上のより弱い酸例えばリン酸(HPO)、例えば100%2.5Mリン酸を含む溶液を使用してpHが維持される場合の上清におけるFIM2/3の量と比較して、FIM2/3は上清において増加する。
【0058】
いくつかの実施態様において、1つの酸のみ、例えば1つの強酸のみ、例えば1つの強無機酸、例えば硝酸、硫酸又は塩酸のみを含む溶液、例えば100%3.5M硝酸又は100%3.5M塩酸を含む溶液が、本発明の方法に従ってボルデテラ属種培養の間、pHを維持するために使用される場合、本明細書において定義される1つ又はそれ以上のより弱い酸、例えばリン酸(HPO)のみ、例えば100%2.5Mリン酸を含む溶液を使用してpHが維持される場合の上清におけるFIM2/3の量と比較して、FIM2/3は、上清において約1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍又は10倍、典型的には約3倍増加する。
【0059】
酸ブレンド
本開示はまた、本明細書に記載されるように、ボルデテラ属種を培養するための方法に関し、該方法は:ボルデテラ属種を液体培地中にて本明細書に記載されるように有酸素条件下で培養すること;及び該種の培養の間、液体培地のpHを維持することを含み、ここで液体培地のpHを維持することは:該ボルデテラ属種の培養の間に、本明細書に記載されるpH値の所定の範囲内に液体培地のpHを維持するために必要に応じて培地に第一及び第二の酸を添加することを含み、ここで該第一の酸は、水中で本質的に完全に解離する無機酸であり、そしてここで該第二の酸は、1より大きい酸解離定数(pKa)を有する無機酸又は有機酸である。
【0060】
様々な実施態様において、液体培地のpHは、第一の酸及び第二の酸のブレンドを使用してボルデテラ属種培養の間維持される。pHを制御するために酸ブレンドを使用するいくつかの実施態様において、液体培地は複合培地でも化学的に規定された培地でもよい。しかし典型的には、液体培地は本明細書に記載されるような化学的に規定された培地、例えば補足SS培地である。
【0061】
pH制御のために酸ブレンドを使用するいくつかの実施態様において、第一の酸は強酸、すなわち本明細書において記載されるように、水中において本質的に完全に解離する酸である。より典型的には、第一の酸は臭化水素酸、硫酸、硝酸、塩素酸、過塩素酸、過マンガン酸、及びヨウ化水素酸のような強無機酸である。しかし、なおより典型的には、第一の酸は塩酸(HCl)、硫酸(HSO)または硝酸(HNO)である。さらになおより典型的には、強酸は硝酸(HNO)である。
【0062】
様々な実施態様において、第二の酸もまた、培地のpHを維持するために使用される。典型的には、第二の酸は第一の酸よりも弱い酸である。第一の酸を第二の酸と混合して共役酸-塩基対を生じ、この共役酸-塩基対において、より弱い酸である第二の酸は、第一の酸からの水素イオン(H)を受容する塩基として有効に機能する。様々な実施態様において、この第二の酸は、約10-1未満のKa値または1より大きいpKa値を有する酸の群から選択される。本発明の方法とともに使用するための弱酸の例を表2に示す。典型的には、弱酸としては亜塩素酸、アジ化水素酸、フッ化水素酸、硫化水素酸、次亜硫酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸、次亜リン酸、ヨウ素酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、及び亜硫酸のような無機酸が挙げられる。より典型的には、弱酸はリン酸(HPO)である。
【0063】
いくつかの実施態様において、弱酸は有機酸である。有機酸は無機酸よりもゆっくりと、より不完全に解離する傾向がある。本発明の方法とともに使用するための、第一の酸、すなわち強酸と組み合わせられ得る約10-1未満のKa値または1より大きいpKa値を有する有機酸の例も表2に示す。適切な有機酸としては、例えば、酢酸、乳酸及びアスコルビン酸が挙げられる。例えば、酢酸(CHCOH)はヒドロニウムイオンより大きいが水自体、すなわち14(25℃)よりは小さい、pKa4.75を有する。これは、酢酸が水中で解離するがわずかな程度までだけであることを意味する。従って、酢酸は弱酸として分類され、そしてボルデテラ属種培養の間液体培地のpHを維持するために本開示の強酸と組み合わされ得る。
【0064】
いくつかの実施態様において、ブレンドされた酸溶液は、約99%まで、例えば約98%、例えば約97%、例えば約95%、例えば約90%、例えば約80%、例えば約75%、例えば約70%、例えば約60%、例えば約55%、例えば約50%、例えば約45%、例えば約40%、例えば約35%、例えば約30%、例えば約25%、例えば約20%、例えば約10%、例えば約5%、例えば約1%の強酸を含み、ここでブレンドされた酸溶液の残りはより弱い酸(体積/体積)、すなわち1より大きいpKaを有する酸を含む。
【0065】
いくつかの実施態様において、ブレンドされた酸溶液は、約99%まで、例えば約98%、例えば約97%、例えば約95%、例えば約90%、例えば約80%、例えば約75%、例えば約70%、例えば約60%、例えば約55%、例えば約50%、例えば約45%、例えば約40%、例えば約35%、例えば約30%、例えば約25%、例えば約20%、例えば約10%、例えば約5%、例えば約1%の、1より大きいpKaを有する弱酸を含み、ここでブレンドされた酸溶液の残りは、強酸(体積/体積)、すなわち水中で本質的に完全に解離する酸を含む。
【0066】
典型的に、ブレンドされた酸溶液は、30%と50%との間、例えば約40%の本明細書において定義された強酸、例えば強無機酸、例えば硝酸、硫酸または塩酸、及び50%と70%、例えば約60%の1より大きいpKa値を有するより弱い酸(体積/体積)を含む。典型的に、1より大きいpKaを有する第二の酸はリン酸である。
【0067】
いくつかの実施態様において、本発明のブレンドされた酸溶液において使用される本明細書において定義される強酸、例えば強無機酸、例えば硝酸を含む溶液のモル濃度は、0.5M~5.0M、例えば1.0M~4.0M、例えば3.5M、例えば3.5Mの硝酸または3.5M HCl、典型的には3.5M硝酸の範囲に及ぶ。
【0068】
いくつかの実施態様において、ブレンドされた酸溶液において使用される本明細書において定義された弱酸、例えば無機又は有機弱酸、例えばリン酸を含む溶液のモル濃度は、0.5M~5.0M、例えば1.0M~4.0M、例えば3.5M、例えば2.5M、例えば2.5M リン酸の範囲に及ぶ。いくつかの実施態様において、ブレンドされた酸溶液は、30%と50%との間の3.5M HCl又は3.5M HNO及び50%と70%との間の2.5M HPOを含む。典型的には、ブレンドされた酸溶液は、約40%3.5M HCl又は3.5M HNO及び約60%2.5M HPOを含む。なおより典型的には、ブレンドされた酸溶液は約40%3.5M HNO及び約60%2.5M HPOを含む。
【0069】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載される第一及び第二の酸を含む溶液、例えば、約40%3.5M硝酸及び約60%2.5Mリン酸を含む溶液が、本発明の方法に従うボルデテラ属種培養の間pHを維持するために使用される場合、本明細書において定義される1つ又はそれ以上のより弱い酸、例えばリン酸(HPO)のみ、例えば100%2.5Mリン酸を含む溶液を使用してpHが維持される場合の上清中のPRNの量と比較して、PRNは上清において約1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍又は10倍、典型的には約2倍~3倍増加する。
【0070】
いくつかの実施態様において、上清中で観察されるPRNの増加は、上清中の他の抗原の量の減少を伴わない。例えば、いくつかの実施態様において、本明細書に記載される第一及び第二の酸を含む溶液、例えば約40%3.5M硝酸及び約60%2.5Mリン酸を含む溶液が、本発明に従うボルデテラ属種培養の間pHを維持するために使用される場合、本明細書において定義される1つ又はそれ以上のより弱い酸、例えばリン酸(HPO)のみ、例えば100%2.5Mリン酸を使用してpHが維持される場合の上清中のPT又はFHAの量と比較して、上清中のPT又はFHAが付随して減少することも実質的に減少することもなく、PRNは上清中で増加する。
【0071】
いくつかの実施態様において、上清において観察されるPRNの増加は、細胞フラクションにおける他の抗原の量の減少を伴わない。例えば、いくつかの実施態様において、本明細書に記載される第一及び第二の酸を含む溶液、例えば約40%3.5M硝酸及び約60%2.5Mリン酸を含む溶液が、本発明の方法に従うボルデテラ属種培養の間pHを維持するために使用される場合、本明細書において定義される1つ又はそれ以上のより弱い酸、例えばリン酸(HPO)のみ、例えば100%2.5Mリン酸を含む溶液を使用してpHが維持される場合の細胞フラクションにおけるFIM2/3の量と比較して、細胞フラクション中のFIM2/3が付随して減少することも実質的に減少することもなく、上清中のPRNが増加する。
【0072】
ボルデテラ抗原の量に関連して本明細書で使用される「実質的に減少することなく」は、本明細書に記載されるブレンドされた酸溶液が、上清及び細胞フラクションが得られたボルデテラ属種培養のpHを維持するために使用されない場合、例えば2.5Mリン酸の溶液又は本明細書に記載される別の弱酸の溶液が培養の間にボルデテラ属種液体培地のpHを維持するために使用される場合のボルデテラ属種培養から観察されるか又は単離されるボルデテラ抗原の量と比較して、約25%もしくはそれ以下、例えば20%もしくはそれ以下、例えば15%もしくはそれ以下、例えば10%もしくはそれ以下、例えば5%もしくはそれ以下又は例えば2%もしくはそれ以下の減少を意味する。
【0073】
当該分野で公知のいずれかの方法を使用して、本明細書に記載されるように第一及び第二の酸がpH制御のために使用される本発明の方法に従うボルデテラ属種の培養の後に、抗原PRN、PT、FHA及びFIM2/3が得られ得る。以前に示したように、PRNは当該分野で公知の方法に従って単離することができる。
【0074】
PTは、例えば米国特許第5,877,298号(その全体が参照により本明細書に加入される)の実施例2において記載されるように単離され得る。PTはまた、例えば米国特許第5,085,862号、WO96/34623、米国特許第4,705,868号、EP0336736、WO9115505、EP0306318、EP0322533、EP0396964、EP0275689、WO91/12020、EP0427462、WO9819702及び米国特許第4,784,589号(これらはそれぞれその全体として参照により本明細書に加入される)に記載される方法を使用して単離され得る。
【0075】
例えばFHAは、米国特許第5,877,298号(その全体として参照により本明細書に加入される)の実施例2に記載されるように単離され得る。例えばFHAはまた、WO9013313、EP0484621、WO9634623、EP0336736、WO9115505、米国特許第4,784,589号、及びWO9004641(これらはそれぞれその全体として参照により本明細書に加入される)に記載されるように単離され得る。
【0076】
FIM2/3は、例えば、米国特許第5,877,298号(その全体として参照により本明細書に加入される)に記載されるように細胞フラクションから単離され得る。FIM2/3はまた、例えば、米国特許第4,784,589号、米国特許第6,475,754号、EP0555894、WO9858668、及びWO0207764(これらはそれぞれその全体として参照により本明細書に加入される)に記載されるように単離され得る。
【0077】
いくつかの実施態様において、FIM2/3は細胞フラクションよりむしろ上清から単離される。典型的には、これらの実施態様において、本発明の培養方法は、複合液体培地よりもむしろ化学的に規定された液体培地を含む。
【0078】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載される第一及び第二の酸を含む溶液、例えば約40%3.5M硝酸及び約60%2.5Mリン酸を含む溶液が、本発明の方法に従うボルデテラ属種培養の間にpHを維持するために使用される場合、本明細書において定義される1つ又はそれ以上のより弱い酸、例えばリン酸(HPO)、例えば、100%2.5Mリン酸を含む溶液を使用してpHが維持される場合の上清におけるFIM2/3の量と比較して、FIM2/3は上清において約1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍又は10倍、典型的には約3倍増加する。
【0079】
ワクチンの製剤化
いくつかの実施態様において、本明細書に記載される単離された抗原の1つ又はそれ以上は、免疫原性組成物又はサブユニットワクチンに製剤化される。本明細書で使用される「サブユニットワクチン」は、目的の病原体、例えば、ウイルス、細菌、寄生生物、真菌、又は真菌様生物から誘導されるか、それらと相同であるか、又はそれら由来の(全ての抗原ではないが)1つ又はそれ以上の抗原を含むワクチンの型を指す。このようなワクチンは、インタクトな病原細胞もしくは病原性粒子、又はそのような細胞もしくは粒子の溶解物も実質的に含まない。従って、サブユニットワクチン又はサブユニット組成物は、病原体から少なくとも部分的に精製されたか、又は実質的に精製された免疫原性ポリペプチド又はそれらのアナログから製造され得る。サブユニットワクチンにおける抗原を得る方法としては、標準的な精製技術、組み換え産生、又は化学合成が挙げられる。従って「サブユニットワクチン」は、ウイルス、細菌、又は他の免疫原の規定された抗原性成分からなるワクチンを指す。
【0080】
様々な実施態様において、1つ又はそれ以上の抗原が、サブユニットワクチンのヒト用量へと製剤化される。本明細書で使用される「ヒト用量」は、単回投与でヒトに投与されるワクチンの量を指す。典型的には、この量は0.1~2ミリリットル、例えば0.2~1ミリリットル、典型的には0.5ミリリットルの体積で存在する。従って、示される量は、例えば、0.5ミリリットルのバルクワクチンあたりマイクログラムの濃度で存在し得る。特定の実施態様において、従って(単回)ヒト用量は0.5ミリリットルに等しい。
【0081】
いくつかの実施態様において、ワクチンに製剤化される1つ又はそれ以上の抗原は、PT及びFHAを含む。いくつかの実施態様において、ワクチンに製剤化される1つ又はそれ以上の抗原は、PT、FHA、及びFIM2/3、並びにPRNを含む。
【0082】
いくつかの実施態様において、ワクチンへのPTの組み込みはPTの解毒を含む。PTは化学的に解毒されても遺伝子的に解毒されてもよい。例えば、化学的解毒は、ホルムアルデヒド、過酸化水素、テトラニトロメタン、又はグルタルアルデヒドでの処理のような、様々な従来の化学的解毒方法のいずれか1により行われ得る。例えば、解毒は米国特許第5,877,298号(その全体として参照により本明細書に加入される)の実施例3に記載されるように行われ得る。
【0083】
特定の実施態様において、PTは遺伝子的に解毒される。これは、例えば、米国特許第7,144,576号、同第7,666,436号、及び同第7,427,404号(これらはそれぞれその全体として参照により本明細書に加入される)に記載されたように、百日咳毒素遺伝子を変異させて百日咳毒素の触媒サブユニットS1の酵素活性を不活化することにより達成され得る。
【0084】
特定の実施態様において、本発明の抗原のワクチンへの製剤化は、ヒト用量あたり2~50μg、5~40μg、10~30μg、又は20~25μgの範囲に及ぶ量のPTを組み込むことを含む。
【0085】
特定の実施態様において、本発明の抗原のワクチンへの製剤化は、ヒト用量あたり2~50μg、5~40μg、10~30μg、又は20~25μgの範囲に及ぶ量のFHAを組み込むことを含む。
【0086】
特定の実施態様において、本発明の抗原のワクチンへの製剤化は、ヒト用量あたり0.5~100μg、1~50μg、2~20μg、3~30μg、5~20μg、又は6~10μgの範囲に及ぶ量のPRNを組み込むことを含む。
【0087】
特定の実施態様において、ワクチンへと製剤化され得るFIM2対FIM3の質量比、は、約1:3~約3:1、例えば約1:1~約3:1、例えば約1.5:1~約2:1である。特定の実施態様において、本発明の抗原をワクチンへと製剤化することは、ヒト用量あたり1~100μg、例えばヒト用量あたり3~50μg、又は3~30μg、例えば5μgの範囲に及ぶ量のFIM2/3を組み込むことを含む。
【0088】
特定の実施態様において、免疫原性組成物又はワクチンへと製剤化される抗原はさらに、ボルデテラ属種以外の1つ又はそれ以上の病原体由来の抗原とともに製剤化され得る。例えば、特定の実施態様において、製剤は以下の1つ又はそれ以上を含む: 破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型オリゴ糖又は多糖抱合体(Hib)、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)及び/又は不活化ポリオウイルス(IPV)。
【0089】
免疫原性組成物又はワクチンとして製剤化される本発明の抗原は、注射剤として、液剤又は乳剤として製剤化され得る。例えば、本発明のボルデテラ抗原は、抗原と適合性である薬学的に許容しうる賦形剤と混合され得る。このような賦形剤としては、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、及びそれらの組み合わせが挙げられ得る。免疫原性組成物及びワクチンは、それらの有効性を増強するための湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝化剤、又はアジュバントのような補助物質をさらに含有し得る。
【0090】
一般的に、リン酸緩衝化食塩水中0.005~0.5パーセント溶液として使用されるアジュバントと抗原が同時投与される場合、免疫原性は有意に改善され得る。アジュバントは、抗原の免疫原性を増強するが、免疫原性自体は必ずしも必要ではない。アジュバントは、免疫系の細胞への抗原の遅い持続した放出を促進するデポー効果を生じるために投与部位に局所的に近くに抗原を保持することにより作用し得る。アジュバントはまた、免疫系の細胞を抗原デポーに誘引することができ、そしてこのような細胞を刺激して免疫応答を惹起し得る。典型的には、水酸化アルミニウム及びリン酸アルミニウム(集合的にミョウバンと一般的に呼ばれる)は、本発明のボルデテラ属種培養方法から製造されるワクチンを処方するために使用され得る。
【実施例
【0091】
実施例1. 強酸はボルデテラ属種培養からの上清中のPRN収量を増加する
100x増殖因子溶液(表4)5mLを含むブロス(改変Stainer-Scholte培地、表3)500mLをそれぞれ入れた2L振盪フラスコにおいて作業シード(2.5mL)を播種した。培養物を44時間インキュベーター振盪機で増殖させ、そして増殖因子溶液(表4)を追加したブロス1150mL(改変Stainer-Scholte培地、表3)を入れた2L発酵器/バイオリアクター(2L BIOSTAT B発酵器(B.Braun Biotech International、Berlin、Germany)に播種するために使用した。
【0092】
培養期間の間、グルタミン酸一ナトリウム及び増殖因子、グルタチオン、硫酸第一鉄、アスコルビン酸、ニコチン酸及びシステインのフィーディングサプリメントを、抗原収量を増加させるためにバイオリアクターに継続的に添加した。サプリメント溶液の添加は、バッチ培養段階の間、初期炭素源の消費後に起こる溶存酸素(DO)レベルの急な増加及び撹拌の急な減少をきっかけにして開始した。温度(36℃±2℃)、溶存酸素(35%)、撹拌(100~675rpm)及びpH(7.2)レベルに関して同じ操作条件下でそれぞれバイオリアクターを動作させ、そして継続的にモニタリングして制御した。2.5Mリン酸、3.5M硝酸又は3.5M塩酸を、各バイオリアクターのpHを維持するために使用した。消泡剤を泡制御のために継続的に添加した。培養時間は約48時間であった。
【0093】
培養期間の終わりに、ブロスを遠心分離して細胞フラクション及び上清フラクションを得た。各フラクションをPRNについてELISA及びウェスタンブロット法により検定した。PRN、PT及びFHA ELISA分析のための上清サンプルを、サンプルをPRNについて1/100と1/200との間、FHAについて1/20と1/40との間、そしてPTについて1/40の間の希釈倍率で希釈することにより調製した。PRN ELISAのための細胞ペレット可溶化液サンプルを、最終濃度0.5%まで加えたTriton X-100及び0.25mg/mLリゾチームを含む溶解緩衝液中に細胞ペレットを再懸濁することにより調製した。サンプル可溶化液をELISAアッセイのために1/100希釈した。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
上清フラクション中のPRNの相対量を表5(以下)及び図1に示す。2.5Mリン酸をpH制御のために3.5M硝酸又は3.5M塩酸のような別の溶液で置き換えた場合、バイオリアクター収穫物の上清におけるPRN収量は約4~5mg/Lから15~30mg/Lに増加した。バイオリアクター収穫物からのサンプルのウェスタンブロット法による細胞フラクションに付随し、そして上清中に存在するPRNの相対量の調査は、PRN百日咳菌(B.pertussis)の全体的な発現は、バイオリアクターpH制御のためにリン酸の酸代替物の使用に応じて実質的に増加しなかったかもしれないが、代わりに、上清中のPRNの増加は、収穫された細胞に付随していた量の減少に相当する(すなわち、細胞から上清中により多く放出された)ということを示していた。
【0097】
【表5】
【0098】
しかしながら、表6は、上清中の他の抗原の収量が2.5Mリン酸に対する酸代替物の使用で増加しなかったことを示す。例えば、表6は、2.5Mリン酸が使用された場合の収量(33.2mg/L、PT;194.1mg/L、FHA)と比較して、バイオリアクターpH制御のためにそれぞれ3.5M硝酸又は3.5M塩酸を使用した培養後のELISAにより測定してPT(約19~24.5mg/L)及びFHA(約120~124mg/L)のより低い収量を示す。
【0099】
【表6】
【0100】
実施例2. 酸ブレンドはPT及びFHAの損失を軽減しながらボルデテラ属種培養からの上清におけるPRN及びFIM2/3の収量を増加する。
【0101】
硝酸及びリン酸の異なる比での酸ブレンドをバイオリアクターpH制御のために使用した事以外は実施例1について上で記載されたように培養物を製造した。PRN、PT、FHA及びFIM2/3抗原を、抗原製造に対する酸ブレンドの効果を評価するために単離した。培養期間の終わりに、収穫物を遠心分離して細胞フラクション及び上清フラクションを得た。上清フラクションをELISAによりPRN、PT、FHA及びFIM2/3抗原についてアッセイした。細胞ペレットを注射用水(WFI)中に再懸濁し、そして8M尿素で処理して細胞を溶解し、そしてELISAによる分析のためにFIM2/3を遊離した。
【0102】
図2A~2Dは、複数回のバイオリアクター実行についてのバイオリアクター収穫物におけるELISAにより測定した各抗原の収量を示す。図2Aは、pH制御のために100%3.5M硝酸を含む溶液が2.5Mリン酸を含む溶液の代わりに使用された場合に、バイオリアクター収穫物の上清におけるPRN収量が増加した(4mg/Lから12~20mg/Lへ)ということを裏付ける。図2Dはまた、上清中のFIM2/3収量が、100%3.5M硝酸を100%2.5Mリン酸の代わりに使用した場合に、約4mg/Lから12mg/Lに有意に増加したことを実証した。
【0103】
しかし、図2Dはまた、100%3.5M硝酸を含む溶液が100%2.5Mリン酸を含む溶液の代わりにpH制御のために使用される場合、細胞フラクションにおけるFIM2/3の収量の減少が観察された(約50%減少)ということを示す。さらに2b~cはまた、バイオリアクター収穫物の上清中のPT及びFHAの収量もまた、100%3.5M硝酸で有意に減少した、すなわちそれぞれ21mg/Lから15mg/L及び190mg/Lから80~120mg/Lに減少したことを示す。
【0104】
しかし、バイオリアクターpH制御に使用したブレンド中の硝酸の比が低くなるにつれて、上清フラクションにおけるPT及びFHAの収量並びに細胞フラクションにおけるFIM2/3の収量の減少が軽減された。図2B~Dを参照のこと。さらに30~50%3.5M硝酸及び70%~50%2.5Mリン酸では、バイオリアクター収穫物の上清フラクションにおけるPRN及びFIM2/3収量に対する改善は、100%2.5Mリン酸のみを含む溶液をpH制御に使用した場合の収量と比較してなお観察された(それぞれ図2A及び2D、7~10mg/L及び5~9mg/L)。
【0105】
実施例3. 酸ブレンド及び化学的に規定された培地は、PT及びFHAの損失を軽減しながら、ボルデテラ属種培養からの上清におけるPRN及びFIM2/3の収量をさらに増加する。
【0106】
化学的に規定された培地を複合培地の代わりに使用したこと以外は、実施例1について上で記載されたように培養物を製造した。実施例2に記載されるような様々な比の硝酸及びリン酸のブレンドをバイオリアクターpH制御に使用した。PRN、PT、FHA及びFIM2/3抗原を実施例2について上で記載されたように単離した。
【0107】
図3は、複数回のバイオリアクター実行についてのバイオリアクター収穫物におけるELISAにより測定された各抗原の収量を示す。図3A~Dはまた、100%3.5M硝酸が100%2.5Mリン酸の代わりにpH制御のために称された場合に、バイオリアクター収穫物の上清フラクションにおけるPRN収量が増加した(5~7mg/Lから14~22mg/L)ことも裏付ける。さらに、図3はまた、100%3.5M硝酸を含む溶液を100%2.5Mリン酸を含む溶液の代わりにpH制御のために使用した場合に上清フラクションにおけるFIM2/3収量が約4mg/Lから16mg/Lに有意に増加したことを裏付ける。
【0108】
さらに、図3は、100%2.5Mリン酸に対して100%3.5M硝酸溶液をpH制御に使用した場合に細胞フラクションに付随するFIM2/3の減少を裏付けた(10~14mg/Lから3~6mg/Lまで)。実施例2に同様に示されるように、バイオリアクター収穫物の上清フラクションにおけるPT及びFHAの収量はまた、100%3.5M硝酸を用いてそれぞれ約24~27mg/Lから12~15mg/Lに、そして145~280mg/Lから85~190mg/Lに有意に減少した。
【0109】
しかし、バイオリアクターpH制御のために使用されたブレンドにおける硝酸の比率が低くなるにつれて、上清フラクションにおけるPT及びFHA並びに細胞フラクションにおけるFIM2/3の収穫収量の減少は軽減された。図3B~Dを参照のこと。さらに、30~50%3.5M硝酸及び70%~50%2.5Mリン酸では、バイオリアクター収穫物の上清フラクションにおけるPRN及びFIM2/3の収量に対する改善は、100%2.5Mリン酸のみを含む溶液をpH制御に使用した場合の収量と比較してなお観察された(図3A及び3D、それぞれ10~15mg/L及び8~12mg/L)。
【0110】
実施例4. 酸ブレンドは、より大規模でのボルデテラ属種培養からの上清におけるPRN及びFIM2/3収量を増加する。
【0111】
硝酸及びリン酸のブレンドの効果が小規模培養の人為的影響ではないことを確実にするために、20L及び200Lバイオリアクタースケールの両方で実験を行った。20Lスケールでは、シード増殖を100x増殖因子溶液(表4)を追加した改変Stainer-Scholte培地(表3)100mLを入れた500mL振盪フラスコで開始し、そして44時間培養した。この一次フラスコを、100x増殖因子溶液(表4)を追加した改変Stainer-Scholte培地(表3)500mLを入れた4つの2Lフラスコに播種するために使用し、そして44時間培養した。これらの二次フラスコを使用して、100x増殖因子溶液(表4)を追加した改変Stainer-Scholte培地(表3)11.5Lを入れた20L BIOSTAT(R) Cplusバイオリアクター(Sartorius Stedium、Bohemia、NY、USA)に播種するために使用した。第一フェーズを振盪フラスコで行った。比較的少量のシード培養物を最初にストック培養物(例えばワーキングシード)からの播種により増殖させ、そしてこれを培養物(例えば、シード培養、発酵培養)を播種するために使用した。
【0112】
消泡試薬をより高い濃度で使用した事以外は、全ての培養パラメーターを2Lフラスコと同様のやり方で同じ試薬を使用して制御した。20Lバイオリアクター実行において、0、40%、及び100%(体積/体積)のいずれかの3.5M硝酸を含有し残りは2.5Mリン酸の溶液を使用してpHを制御した。
【0113】
200Lスケールでは、シード増殖を100x増殖因子溶液(表4)を追加した改変Stainer-Scholte培地(表3)100mLを使用して250mL振盪フラスコにおいて開始した。この一次フラスコを使用して、100x増殖因子溶液(表4)を追加した改変Stainer-Scholte培地(表3)1Lを入れた4Lフラスコに播種し、続いて20L及び200Lバイオリアクターで継代した。200Lバイオリアクターの作業体積は160Lである。消泡試薬をより高い濃度で使用した事以外は、全ての培養パラメーターを2Lフラスコと同様のやり方で同じ試薬を使用して制御した。200Lバイオリアクター実行において、0及び40%(体積/体積)のいずれかの7M硝酸及び残りは5Mリン酸を含有する溶液を使用してpHを制御した。
【0114】
図4Aは、20L及び200Lスケールの両方で2Lスケールで生じた結果と同様のやり方でpH制御のために使用される硝酸の比率を増加させるにつれて、収穫物上清におけるPRNの収量が増加するということを示す。20L及び200Lスケールでのこれらの実験において、PRN収量は、100%2.5M及び5Mリン酸をpH制御に使用した場合5~7mg/Lであり、40%(体積/体積)3.5M及び7M硝酸を、それぞれ残りの2.5m及び5Mリン酸とブレンドしてpH制御に使用した場合11~13mg/Lに増加し、そして100%3.5M硝酸を20LスケールでpH制御に使用した場合に16mg/Lに増加した。
【0115】
さらに、図4Bは、100%2.5Mリン酸に対して40%(体積/体積)7M硝酸及び残りは5Mリン酸をpH制御に使用した場合、200L収穫物の上清中のFIM2/3の増加(5.0mg/Lに対して9.9mg/L)を裏付けた。
【0116】
2000L製造プロセスからスケールダウンされたバイオリアクター、一次回収及び精製プロセスを使用して20L及び200Lスケールの両方で収穫された上清からもPRNを精製し、そして様々な分析方法を使用して特徴づけした。20L材料についての表6における要約は、様々な異なる分析方法を使用して特徴づけされた場合の精製されたPRNの品質が、同じスケールでの対照実行(100%2.5Mリン酸)からのPRN又は2000L製造プロセス(これもpH制御に100%2.5Mリン酸を使用する)を使用して製造されたPRNの両方と比較した場合に、酸ブレンド(40%硝酸/60%リン酸)を使用した場合、実質的に異なっていなかったことを示す。
【0117】
【表7】
【0118】
1つ又はそれ以上の例となる実施態様が本明細書に記載されたが、当業者には当然のことながら、形態及び詳細における様々な変更が、以下の特許請求の範囲により定義される本発明の概念の精神及び範囲から逸脱することなく、それらに為され得る。
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4