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特許7394080乳酸アルキルを添加された触媒、その調製および水素化処理および/または水素化分解の方法におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】乳酸アルキルを添加された触媒、その調製および水素化処理および/または水素化分解の方法におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/34 20060101AFI20231130BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20231130BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231130BHJP
   B01J 38/50 20060101ALI20231130BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B01J31/34 M
B01J37/02 101D
B01J37/02 101Z
B01J37/08
B01J38/50
C10G45/08 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020573020
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2019066437
(87)【国際公開番号】W WO2020002139
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】1855773
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】カレット ぺ-ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ギユー フローラン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-528252(JP,A)
【文献】国際公開第2016/173759(WO,A1)
【文献】特表2015-506827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0194892(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0165316(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C10G 45/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、コバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の第VIII族元素と、モリブデンおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種の第VIB族元素と、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸イソペンチル、乳酸cis-3-ヘキセニル、乳酸L-メンチル、乳酸ブチルブチリル、2-メルカプトプロパン酸エチル、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチル、エトキシ酢酸エチル、α-ヒドロキシイソブタン酸エチル、α-ヒドロキシイソブタン酸tert-ブチル、2-ヒドロキシカプロン酸エチルおよび2-ヒドロキシ吉草酸エチルから選ばれる少なくとも1種の第1有機化合物とを含む、炭化水素ベースのフラクションの水素化処理および/または水素化分解のための触媒。
【請求項2】
第VIB族元素の含有率は、触媒の全重量に対する第VIB族金属の酸化物として表される重量で5重量%~40重量%であり、第VIII族元素の含有率は、触媒の全重量に対する第VIII族金属の酸化物として表される重量で1重量%~10重量%である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
触媒中の第VIII族元素対第VIB族元素のモル比は、0.1~0.8である、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
リンも含有し、リンの含有率は、触媒の全重量に対するPとして表される重量で0.1重量%~20重量%であり、触媒中のリン対第VIB族元素のモル比は、0.05以上である、請求項1~のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項5】
前記第1有機化合物の含有率は、触媒の全重量に対する重量で1重量%~45重量%である、請求項1~のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項6】
前記第1有機化合物以外の酸素および/または窒素および/または硫黄を含有する第2有機化合物も含有する、請求項1~のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項7】
前記第2有機化合物は、カルボン酸、アルコール、チオール、チオエーテル、スルホン、スルホキシド、エーテル、アルデヒド、ケトン、エステル、カルボナート、アミン、ニトリル、イミド、オキシム、ウレア、アミドの基から選ばれる1種または複数種の化学官能基を含む化合物さらにはフラン環を含む化合物さらには糖から選ばれる、請求項に記載の触媒。
【請求項8】
前記第2有機化合物は、γ-バレロラクトン、2-アセチルブチロラクトン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、エチレンジアミン四酢酸、マレイン酸、マロン酸、クエン酸、グルコン酸、グルコース、フルクトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、γ-ケト吉草酸、ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカルボナート、3-オキソブタン酸2-メトキシエチル、ビシン、トリシン、2-フルアルデヒド、5-ヒドロキシメチルフルフラール、2-アセチルフラン、5-メチル-2-フルアルデヒド、アスコルビン酸、3-ヒドロキシブタン酸エチル、3-エトキシプロパン酸エチル、酢酸2-エトキシエチル、酢酸2-ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、1-ビニル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,5-ペンタンジオール、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,5-ピロリジンジオン、5-メチル-2(3H)-フラノン、1-メチル-2-ピペリジノンおよび4-アミノブタン酸から選ばれる、請求項に記載の触媒。
【請求項9】
少なくとも一部硫化されている、請求項1~のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1つに記載の触媒を調製する方法であって、以下の工程:
a) 第VIB族元素を含む化合物と、第VIII族元素を含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1種の前記第1有機化合物と、場合によるリンとを、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と接触しているように置くか、または、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含有している再生触媒を、前記第1有機化合物と接触しているように置き、触媒前駆体を得る工程、
b) 工程a)に由来する前記触媒前駆体を200℃未満の温度で乾燥させるが、続けてそれを焼成することはしない工程
を含む、方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1つに記載の触媒を調製する方法であって、以下の工程:
i) 少なくとも1種の前記第1有機化合物を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体上に沈着させる工程であって、該工程は、前記担体と、液体の形態にある前記第1有機化合物とを、同時にかつ担体と液体の形態にある前記第1有機化合物との間のあらゆる物理的な接触なしで、前記第1有機化合物の沸点より低い温度で、前記第1有機化合物の部分が気体の形態で担体に移送されるような圧力および時間の条件下に統括する工程を行うことによるものである、工程、
ii) 第VIB族元素を含む少なくとも1種の化合物と、第VIII族元素を含む少なくとも1種の化合物と、場合によるリンとを、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と接触しているように置く工程、
iii) 工程ii)の終結の際に得られた固体を乾燥させる工程
を含み、
工程ii)およびiii)の前またはそれらの後にまたは工程iii)の間に工程i)を行う、方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1つに記載の触媒を調製する方法であって、以下の工程:
i’) 少なくとも1種の前記第1有機化合物を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体上に沈着させる工程であって、該工程は、担体を、閉鎖型または開放チャンバにおいて、少なくとも1種の前記第1有機化合物を含有している細孔性固体と統括する工程を行うことによるものであり、前記第1有機化合物の部分が細孔性固体から担体に気体状で移送されるような温度、圧力および時間の条件下にこの工程を行う、工程、
ii) 第VIB族元素を含む少なくとも1種の化合物と、第VIII族元素を含む少なくとも1種の化合物と、場合によるリンとを、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と接触しているように置く工程、
iii) 工程ii)の終結の際に得られた固体を乾燥させる工程
を含み、
工程ii)およびiii)の前またはそれらの後に別個に工程i’)を行う
方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1つに記載の触媒を調製する方法であって、以下の工程:
i’’) 少なくとも1種の前記第1有機化合物を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含有している再生触媒上に沈着させる工程であって、該工程は、前記再生触媒と、液体の形態にある少なくとも1種の前記第1有機化合物とを、同時にかつ再生触媒と液体の形態にある前記第1有機化合物との間のあらゆる物理的な接触なしで、前記第1有機化合物の沸点より低い温度で、前記第1有機化合物の部分が気体の形態で再生触媒に移送されるような圧力および時間の条件下に統括する工程を行うことによるものである工程、または
i’’’) 少なくとも1種の前記第1有機化合物を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含有している再生触媒上に沈着させる工程であって、該工程は、再生触媒を、閉鎖型または開放チャンバにおいて、少なくとも1種の前記第1有機化合物を含有している細孔性固体と統括する工程を行うことによるものであり、前記第1有機化合物の部分が細孔性固体から再生触媒に気体状で移送されるような温度、圧力および時間の条件下にこの工程を行う、工程
を含む、方法。
【請求項14】
炭化水素ベースのフラクションの水素化処理および/または水素化分解のための方法における請求項1~10のいずれか1つに記載の触媒の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物によって添加物含浸させられた触媒、同触媒を調製する方法および水素化処理および/または水素化分解の分野におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、炭化水素ベースのフラクションの水素化処理のための触媒は、そこに含有される硫黄ベースまたは窒素ベースの化合物を取り除いて、例えば、石油製品を、所与の適用(自動車燃料、ガソリンまたはガスオイル、家庭用燃料油、ジェット燃料)のために要求される仕様(硫黄の含有率、芳香族化合物の含有率等)に一致させる機能を有している。従来の水素化処理触媒は、一般的に、酸化物担体と、第VIB族および第VIII族のその酸化物の形態の金属をベースとする活性相と、さらにリンとを含む。これらの触媒の調製は、一般的に、金属およびリンを担体上に含浸させる工程と、その後の、乾燥および焼成とを含み、この焼成により活性相をその酸化物の形態で得ることが可能となる。水素化処理および/または水素化分解の反応におけるその使用の前に、これらの触媒は、一般的に、硫化に付されて、活性種を形成する。
【0003】
水素化処理触媒に有機化合物を添加して、それらの活性を向上させることが当業者によって推奨されたが、これは、とりわけ、含浸と、その後の乾燥とを行うが、続いての焼成を行わないことによって調製された触媒の場合である。これらの触媒は、しばしば、「添加物含浸乾燥触媒(additive-impregnated dried catalysts)」と呼ばれる。
【0004】
多くの文献に、添加物としての種々の範囲の有機化合物の使用が記載されており、例えば、窒素ベースの有機化合物および/または酸素ベースの有機化合物がある。
【0005】
酸素ベースの有機化合物の系統において、モノオール、ジオールまたはポリオール(これらはエーテル化されてもよい)の使用が特許文献1~6に記載されている。
【0006】
カルボン酸の使用を特許請求している複数の特許も見出される(特許文献7~8)。特に、特許文献8において、クエン酸、さらには酒石酸、酪酸、ヒドロキシヘキサン酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリセリン酸、グリコール酸およびヒドロキシ酪酸が記載された。特殊性は、乾燥処理にあり、これは、200℃未満の温度で行われなければならない。
【0007】
従来技術は、エステル基を含む添加物にほとんど言及していない(特許文献9、10)。
【0008】
特許文献11には、ラクタム、(ラクトンタイプの)環式エステルまたは(オキサシクロアルカンタイプの)環式エーテルの使用が記載されている。
【0009】
選ばれる化合物にかかわりなく、誘発される改変により、燃料の硫黄および/または窒素の含有率に関する仕様を満たすように触媒の性能を十分に増大させることが常時可能になるとは限らない。さらに、それらを工業的に展開することはしばしば非常に困難である。当該方法が実施するにはあまりに複雑であるからである。
【0010】
結論として、触媒の製造業者にとって、改善された性能を有する新規の水素化処理および/または水素化分解の触媒を見出すことは必須であるようである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第96/41848号
【文献】国際公開第01/76741号
【文献】米国特許第4012340号明細書
【文献】米国特許第3954673号明細書
【文献】欧州特許出願公開第601722号明細書(特開平6-226108号公報)
【文献】国際公開第2005/035691号
【文献】欧州特許出願公開第1402948号明細書(特開2003-299960号公報)
【文献】欧州特許出願公開第0482817号明細書(特開平4-156948号公報)
【文献】欧州特許出願公開第1046424号明細書(特開2000-342971号公報)
【文献】国際公開第2006/077326号
【文献】米国特許出願公開第2014/0353213号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(概要)
本発明は、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIII族元素と、少なくとも1種の第VIB族元素と、式(I):
【0013】
【化1】
【0014】
式中、
・Rは、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~12個の炭素原子を含んでいるものである、
・RおよびRは、水素原子と、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~12個の炭素原子を含んでいるものとから選ばれる、
・Xは、RおよびRが水素原子を示す場合のほかは、酸素原子または硫黄原子から選ばれ、RおよびRが水素原子を示す場合には、Xは酸素原子である、
・Yは、水素原子、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~12個の炭素原子を含んでいるものまたはユニット-C(O)Rから選ばれ、Rは、水素原子と、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~12個の炭素原子を含んでいるものとから選ばれる
の少なくとも1種の化合物とを含んでいる触媒に関する。
【0015】
本出願人が事実上見出したことは、少なくとも1種の第VIII族元素と、少なくとも1種の第VIB族元素とを含有している触媒上で有機添加物として式(I)の化合物を使用することにより、水素化処理および/または水素化分解の触媒であって、改善された触媒性能を示すものを得ることが可能となることである。
【0016】
具体的には、本発明による触媒は、添加物含浸させられていない既知触媒および既知の添加物含浸乾燥触媒に対して増大した活性を示す。典型的には、活性を増大させることによって、所望の硫黄または窒素の含有率(例えばULSD、すなわち、ultra-low sulfur diesel(超低硫黄軽油)モードにおける、ガスオイル供給原料の場合には硫黄10ppm)を達成するのに要求される温度が低下させられてよい。同様に、安定性が増大させられる。要求される温度を低減させることによってサイクルタイムが延長されるからである。
【0017】
一つの変形例によると、式(I)の化合物は、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸イソペンチル、乳酸cis-3-ヘキセニル、乳酸L-メンチル、乳酸ブチルブチリル、2-メルカプトプロパン酸エチル、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチル、エトキシ酢酸エチル、α-ヒドロキシイソブタン酸エチル、α-ヒドロキシイソブタン酸tert-ブチル、2-ヒドロキシカプロン酸エチルおよび2-ヒドロキシ吉草酸エチルから選ばれる。
【0018】
別の変形例によると、Rはメチル基を示し、Rは水素原子を示す。
【0019】
好ましい変形例によると、式(I)の化合物は、乳酸ブチルおよび乳酸ブチルブチリルから選ばれる。
【0020】
一つの変形例によると、第VIB族元素の含有率は、触媒の全重量に対する第VIB族金属の酸化物として表される重量で5重量%~40重量%であり、第VIII族元素の含有率は、触媒の全重量に対する第VIII族金属の酸化物として表される重量で1重量%~10重量%である。
【0021】
一つの変形例によると、触媒中の第VIII族元素対第VIB族元素のモル比は、0.1~0.8である。
【0022】
一つの変形例によると、触媒は、リンも含有し、リンの含有率は、触媒の全重量に対するPとして表される重量で0.1重量%~20重量%であり、触媒中のリン対第VIB族元素のモル比は、0.05以上である。
【0023】
一つの変形例によると、式(I)の化合物の含有率は、触媒の全重量に対して1重量%~45重量%である。
【0024】
一つの変形例によると、触媒は、式(I)の化合物以外の酸素および/または窒素および/または硫黄を含有している有機化合物も含有する。
【0025】
この変形例によると、有機化合物(1種または複数種)は、カルボン酸、アルコール、チオール、チオエーテル、スルホン、スルホキシド、エーテル、アルデヒド、ケトン、エステル、カルボナート、アミン、ニトリル、イミド、オキシム、ウレア、アミドの基から選ばれる1種または複数種の化学官能基を含む化合物、さらにはフラン環を含む化合物、さらには糖から選ばれる。
【0026】
この変形例によると、式(I)の化合物以外の有機化合物は、γ-バレロラクトン、2-アセチルブチロラクトン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA)、マレイン酸、マロン酸、クエン酸、グルコン酸、グルコース、フルクトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、γ-ケト吉草酸、ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン、プロピレンカルボナート、3-オキソブタン酸2-メトキシエチル、ビシン、トリシン、2-フルアルデヒド(フルフラールとしても知られている)、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-(ヒドロキシメチル)-2-フルアルデヒドまたは5-HMFとしても知られている)、2-アセチルフラン、5-メチル-2-フルアルデヒド、アスコルビン酸、3-ヒドロキシブタン酸エチル、3-エトキシプロパン酸エチル、酢酸2-エトキシエチル、酢酸2-ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、1-ビニル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,5-ペンタンジオール、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,5-ピロリジンジオン、5-メチル-2(3H)-フラノン、1-メチル-2-ピペリジジノンおよび4-アミノブタン酸から選ばれる。
【0027】
一つの変形例によると、触媒は、少なくとも一部、硫化されている。
【0028】
本発明は、特許請求の範囲において記載されたような本発明による触媒を調製する方法にも関する。
【0029】
本発明は、炭化水素ベースのフラクションの水素化処理および/または水素化分解の方法における本発明による触媒の使用にも関する。
【0030】
以下、化学元素の族は、CAS分類(CRC Handbook of Chemistry and Physics, published by CRC Press, 編集主任 D.R. Lide, 第81版, 2000-2001)に従って与えられる。例えば、CAS分類による第VIII族は、新IUPAC分類による8、9および10族の金属に対応する。
【0031】
用語「水素化処理(hydrotreating)」は、水素化脱硫(hydrodesulfurization:HDS)、水素化脱窒(hydrodeazotization:HDA)および芳香族化合物の水素化(hydrogenation of aromatics:HOA)をとりわけ包含する反応を指す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(発明の詳細な説明)
(触媒)
本発明は、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIII族元素と、少なくとも1種の第VIB族元素と、以下に説明される少なくとも1種の式(I)の有機化合物とを含んでいる触媒に関する。
【0033】
本発明による触媒は、フレッシュな触媒、すなわち、触媒ユニットにおける触媒として、とりわけ、水素化処理および/または水素化分解において前もって使用されていない触媒であってよい。
【0034】
本発明による触媒は、活性回復触媒(rejuvenated catalyst)であってもよい。用語「活性回復触媒(rejuvenated catalyst)」は、触媒ユニットにおける触媒として、とりわけ水素化処理および/または水素化分解において使用されており、かつ、部分的または全体的なコークの除去、例えば、焼成することによる除去の少なくとも1回の工程(再生)に付されていた触媒を意味する。この再生触媒は、次いで、少なくとも1種の式(I)の化合物を添加物含浸させられて、活性回復触媒が得られる。この活性回復触媒は、1種または複数種の他の有機添加物を含有してよく、他の有機添加物は、式(I)の化合物の前、その後またはそれと同時に加えられてよい。
【0035】
前記触媒の水素化機能基は、活性相としても知られるものであり、このものは、少なくとも1種の第VIB族元素および少なくとも1種の第VIII族元素によって提供される。
【0036】
好ましい第VIB族元素は、モリブデンおよびタングステンである。好ましい第VIII族元素は、非貴金属元素であり、特にコバルトおよびニッケルである。有利には、水素化機能基は、コバルト-モリブデン、ニッケル-モリブデン、ニッケル-タングステンまたはニッケル-コバルト-モリブデン、またはニッケル-モリブデン-タングステンの元素の組み合わせによって形成される群から選ばれる。
【0037】
相当な水素化脱硫または水素化脱窒の活性または芳香族化合物の相当な水素化の活性が望まれる場合、水素化機能基は、有利には、ニッケルとモリブデンとの組み合わせによって提供される:モリブデンの存在中のニッケルとタングステンとの組み合わせも有利であってよい。供給原料、例えば、減圧蒸留液またはより重質な蒸留液の場合、コバルト-ニッケル-モリブデンタイプの組み合わせが有利に用いられてよい。
【0038】
第VIB族および第VIII族の元素の全含有率は、有利には、触媒の全重量に対する酸化物として表される重量で6重量%超である。
【0039】
第VIB族元素の含有率は、触媒の全重量に対する第VIB族金属の酸化物として表される重量で5重量%~40重量%、好ましくは8重量%~35重量%、より好ましくは10重量%~30重量%である。
【0040】
第VIII族元素の含有率は、触媒の全重量に対する第VIII族金属の酸化物として表される重量で1重量%~10重量%、好ましくは1.5重量%~9重量%、より好ましくは2重量%~8重量%である。
【0041】
触媒中の第VIII族元素対第VIB族元素のモル比は、優先的には0.1~0.8、好ましくは0.15~0.6、一層より好ましくは0.2~0.5である。
【0042】
本発明による触媒は、有利には、ドーパントとしてリンも含む。ドーパントは、追加の元素であり、それ自体は、触媒的性質を有していないが、活性相の触媒活性を増大させる。
【0043】
前記触媒中のリンの含有率は、触媒の全重量に対するPとして表される重量で好ましくは0.1重量%~20重量%、Pとして表される重量で好ましくは0.2重量%~15重量%、Pとして表される重量で大いに好ましくは0.3重量%~11重量%である。
【0044】
触媒中のリン対第VIB族元素のモル比は、0.05以上、好ましくは0.07以上、好ましくは0.08~1、好ましくは0.1~0.9、大いに好ましくは0.15~0.8である。
【0045】
本発明による触媒は、リンを伴ってまたは伴わずに、有利には、ホウ素、フッ素およびホウ素とフッ素の混合物から選ばれる少なくとも1種のドーパントも含有してもよい。
【0046】
触媒がホウ素またはフッ素またはホウ素とフッ素の混合物を含有する場合、ホウ素またはフッ素またはその2種の混合物の含有率は、触媒の全重量に対するホウ素および/またはフッ素の酸化物として表される重量で好ましくは0.1重量%~10重量%、好ましくは0.2重量%~7重量%、大いに好ましくは0.2重量%~5重量%である。
【0047】
本発明による触媒は、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体を含む。
【0048】
前記触媒のための担体がアルミナをベースとする場合、それは、担体の全重量に対して50重量%超のアルミナを含有し、一般的には、それは、アルミナのみまたは下記に規定されるようなシリカ-アルミナを含有する。
【0049】
好ましくは、担体は、アルミナを含み、好ましくは押出アルミナである。好ましくは、アルミナはガンマアルミナである。
【0050】
アルミナ担体が有する全細孔容積は、有利には0.1~1.5cm・g-1、好ましく0.4~1.1cm・g-1である。全細孔容積の測定は、水銀ポロシメトリにより、規格ASTM D4284に従って、ぬれ角140°で、Rouquerol F.;Rouquerol J.;Singh K.による成書“Adsorption by Powders & Porous Solids:Principle, methodology and applications”、AcademicPress、1999に記載されたようにして、例えば、Micromeritics(登録商標)ブランドのAutopore III(登録商標)モデル機器によって行われる。
【0051】
アルミナ担体の比表面積は、有利には5~400m・g-1、好ましくは10~350m・g-1、より好ましくは40~350m・g-1である。比表面積は、本発明では、BET法により、規格ASTM D3663に従って決定され、当該方法は、上記に挙げられた同一の成書において記載されている。
【0052】
別の好ましい場合において、前記触媒のための担体は、担体の全重量に対して最低50重量%のアルミナを含有しているシリカ-アルミナである。担体中のシリカの含有率は、担体の全重量に対して最高50重量%であり、通常、45重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0053】
ケイ素源は当業者に周知である。言及されてよい例は、ケイ酸、粉体状またはコロイド状(シリカゾル)のシリカおよびオルトケイ酸テトラエチルSi(OEt)を含む。
【0054】
前記触媒のための担体がシリカをベースとする場合、それは、担体の全重量に対して50重量%超のシリカを含有し、一般的には、それは、シリカのみを含有する。
【0055】
特に好ましい変形例によると、担体は、アルミナ、シリカまたはシリカ-アルミナからなる。
【0056】
担体は、有利には、担体の全重量に対して0.1重量%~50重量%のゼオライトをさらに含有してもよい。この場合、当業者に知られているゼオライトのあらゆる供給源およびあらゆる関連調製方法が組み入れられてよい。好ましくは、ゼオライトは、FAU、BEA、ISV、IWR、IWW、MEI、UWYの群から選ばれ、好ましくは、ゼオライトは、FAUおよびBEAの群から選ばれ、例えば、Yおよび/またはベータのゼオライト、特に好ましくは、例えば、USYおよび/またはベータのゼオライトである。
【0057】
担体は、第VIB族および第VIII族の金属(1種または複数種)の少なくとも一部、リンを含むドーパント(1種または複数種)の少なくとも一部および/または酸素(式(I)の化合物または他の化合物)および/または窒素および/または硫黄を含有している有機化合物(1種または複数種)の少なくとも一部を含有してもよく、この有機化合物は、含浸とは別に導入されたものである(例えば、担体の調製の間に導入される)。
【0058】
担体は、有利には、ビーズ、押出物、ペレットまたは不規則かつ非球形の凝集物の形態にあり、この凝集物の特定の形状は、粉砕工程に由来してよい。
【0059】
本発明による触媒は、式(I)
【0060】
【化2】
【0061】
の少なくとも1種の化合物も含み、
式中、
・Rは、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~12個の炭素原子を含んでいるものであり、
・RおよびRは、水素原子と、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~12個の炭素原子を含んでいるものとから選ばれ、
・Xは、RおよびRが水素原子を示す場合のほかは、酸素原子または硫黄原子から選ばれ、RおよびRが水素原子を示す場合には、Xは酸素原子であり、
・Yは、水素原子、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~12個の炭素原子を含んでいるものまたはユニット-C(O)Rから選ばれ、Rは、水素原子と、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~12個の炭素原子を含んでいるものとから選ばれる。
【0062】
好ましい変形例によると、Rは、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~4個の炭素原子を含んでいるものである。
【0063】
好ましい実施形態によると、RおよびRは、水素原子と、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~4個の炭素原子を含んでいるものとから選ばれる。
【0064】
好ましい変形例によると、Yは、水素原子、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~4個の炭素原子を含んでいるものまたはユニット-C(O)Rから選ばれ、Rは、水素原子と、飽和または不飽和の、直鎖、分枝または環式の炭化水素ベースの基であって、1~4個の炭素原子を含んでいるものとから選ばれる。
【0065】
一つの変形例によると、式(I)の化合物は、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸イソペンチル、乳酸cis-3-ヘキセニル、乳酸L-メンチル、乳酸ブチルブチリル、2-メルカプトプロパン酸エチル、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチル、エトキシ酢酸エチル、α-ヒドロキシイソブタン酸エチル、α-ヒドロキシイソブタン酸tert-ブチル、2-ヒドロキシカプロン酸エチルおよび2-ヒドロキシ吉草酸エチルから選ばれる。
【0066】
別の変形例によると、Rはメチル基を示し、Rは水素原子を示す。
【0067】
一つの変形例によると、式(I)の化合物は、乳酸ブチルおよび乳酸ブチルブチリルから選ばれ、これらは、それぞれ、下記の式(a)および(b)に相当する。
【0068】
【化3】
【0069】
触媒上に少なくとも1種の式(I)の化合物が存在することにより、添加物含浸させられていない既知の触媒および既知の添加物含浸乾燥触媒に対して増大した活性を観察することが可能となる。触媒は、1種または複数種の式(I)の化合物、特には、2種の式(I)の化合物を含んでよい。本発明による触媒上の式(I)の化合物(1種または複数種)の含有率は、触媒の全重量に対する重量で1重量%~45重量%、好ましくは2重量%~30重量%、より好ましくは3重量%~25重量%である。乾燥工程を要求する触媒の調製の間に、式(I)の化合物の導入に連続する乾燥工程(1回または複数回)は、200℃未満の温度で行われ、好ましくは、触媒上に残留する炭素を基に計算されて、導入された式(I)の化合物の量の最低30%、好ましくは最低50%、大いに好ましくは最低70%が保存される。
【0070】
式(I)の化合物は、一般的に高い純度を有する従来の化学産業に由来してよい。
【0071】
本発明による触媒は、式(I)の化合物に加えて、添加物としての役割のために知られている別の1種の有機化合物または一群の有機化合物を含んでよい。添加物の機能は、添加物を有しない触媒に対して触媒活性を増大させることにある。より特定的には、本発明による触媒は、式(I)の化合物以外の1種または複数種の酸素ベースの有機化合物および/または1種または複数種の窒素ベースの有機化合物および/または1種または複数種の硫黄ベースの有機化合物を含んでもよい。好ましくは、本発明による触媒は、式(I)の化合物以外の1種または複数種の酸素ベースの有機化合物および/または1種または複数種の窒素ベースの有機化合物を含んでもよい。好ましくは、有機化合物は、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも1個の酸素および/または窒素の原子を含有する。
【0072】
一般的に、有機化合物は、カルボン酸、アルコール、チオール、チオエーテル、スルホン、スルホキシド、エーテル、アルデヒド、ケトン、エステル、カルボナート、アミン、ニトリル、イミド、オキシム、ウレアおよびアミドの官能基から選ばれる1種または複数種の化学官能基を含む化合物さらにはフラン環を含む化合物さらには糖から選ばれる。
【0073】
酸素ベースの有機化合物は、カルボン酸、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、エステルおよびカルボナートの官能基から選ばれる1種または複数種の化学官能基を含む化合物さらにはフラン環を含む化合物さらには糖から選ばれる1種または複数種であってよい。例として、酸素ベースの有機化合物は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量200~1500g/mol)、プロピレングリコール、2-ブトキシエタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、グリセロール、アセトフェノン、2,4-ペンタンジオン、ペンタノン、酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、シュウ酸、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、γ-ケト吉草酸、コハク酸C1-C4ジアルキル、より特定的にはコハク酸ジメチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、3-オキソブタン酸2-メトキシエチル、3-オキソブタン酸2-メタクリロイルオキシエチル、ジベンゾフラン、クラウンエーテル、オルソフタル酸、グルコース、フルクトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、γ-バレロラクトン、2-アセチルブチロラクトン、プロピレンカルボナート、2-フルアルデヒド(フルフラールとしても知られている)、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-(ヒドロキシメチル)-2-フルアルデヒドまたは5-HMFとしても知られている)、2-アセチルフラン、5-メチル-2-フルアルデヒド、2-フロ酸メチル、フルフリルアルコール(フルフラノールとしても知られている)、酢酸フルフリル、アスコルビン酸、3-ヒドロキシブタン酸エチル、3-エトキシプロパン酸エチル、酢酸2-エトキシエチル、酢酸2-ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールおよび5-メチル-2(3H)-フラノンからなる群から選ばれる1種または複数種であってよい。
【0074】
窒素ベースの有機化合物は、アミンおよびニトリルの基から選ばれる1種または複数種の化学官能基を含む化合物から選ばれる1種または複数種であってよい。例として、窒素ベースの有機化合物は、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アセトニトリル、オクチルアミン、グアニジンまたはカルバゾールからなる群から選ばれる1種または複数種であってよい。
【0075】
酸素および窒素を含有している有機化合物は、カルボン酸、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、エステル、カルボナート、アミン、ニトリル、イミド、アミド、ウレアおよびオキシムの基から選ばれる1種または複数種の化学官能基を含む化合物から選ばれる1種または複数種であってよい。例として、酸素および窒素を含有している有機化合物は、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、モノエタノールアミン(monoethanolamine:MEA)、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA)、アラニン、グリシン、ニトリロ三酢酸(nitrilotriacetic acid:NTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸(N-(2-hydroxyethyl)ethylenediamine-N,N’,N’-triacetic acid:HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(diethylenetriaminepentaacetic acid:DPTA)、テトラメチルウレア、グルタミン酸、ジメチルグリオキシム、ビシン、トリシン、シアノ酢酸2-メトキシエチル、1-エチル-2-ピロリジノン、1-ビニル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダソリジノン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロシジノン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,5-ピロリジンジオン、1-メチル-2-ピペリジノン、1-アセチル-2-アゼパノン、1-ビニル-2-アゼパノンおよび4-アミノブタン酸からなる群から選ばれる1種または複数種であってよい。
【0076】
硫黄ベースの有機化合物は、チオール、チオエーテル、スルホンおよびスルホキシドの基から選ばれる1種または複数種の化学官能基を含む化合物から選ばれる1種または複数種であってよい。例として、硫黄ベースの有機化合物は、チオグリコール酸、2,2’-チオジエタノール、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸、ベンゾチオフェンのスルホン誘導体またはベンゾチオフェンのスルホキシド誘導体、3-(メチルチオ)プロパン酸メチルおよび3-(メチルチオ)プロパン酸エチルからなる群から選ばれる1種または複数種であってよい。
【0077】
好ましくは、酸素ベースの有機化合物は、γ-バレロラクトン、2-アセチルブチロラクトン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、マレイン酸、マロン酸、クエン酸、グルコン酸、グルコース、フルクトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、γ-ケト吉草酸、ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカルボナート、3-オキソブタン酸2-メトキシエチル、ビシン、トリシン、2-フルアルデヒド(フルフラールとしても知られている)、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-(ヒドロキシメチル)-2-フルアルデヒドまたは5-HMFとしても知られている)、2-アセチルフラン、5-メチル-2-フルアルデヒド、アスコルビン酸、3-ヒドロキシブタン酸エチル、3-エトキシプロパン酸エチル、酢酸2-エトキシエチル、酢酸2-ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、1-ビニル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,5-ペンタンジオール、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,5-ピロリジンジオン、5-メチル-2(3H)-フラノン、1-メチル-2-ピペリジノンおよび4-アミノブタン酸から好適に選ばれる。
【0078】
それ(それら)が存在する場合、添加物含浸させられた官能基化有機化合物(1種または複数種)であって、本発明による触媒上に(式(I)の化合物以外の)酸素および/または窒素および/または硫黄を含有しているものの含有率は、触媒の全重量に対する重量で1重量%~30重量%、好ましくは1.5重量%~25重量%、より好ましくは2重量%~20重量%である。
【0079】
(調製方法)
本発明による触媒の調製は、当業者に知られている有機化合物を添加物含浸させられた担持型触媒を調製するためのあらゆる方法に従って行われてよい。
【0080】
第1の変形例によると、本発明による触媒は、前記式(I)の化合物を含浸させる工程を行うことによって調製されてよく、有利には、式(I)の化合物が希釈された溶媒を含有している溶液による。この変形例によると、前記触媒を調製するための方法は、液相を介して前記式(I)の化合物を加える工程を含む。含浸の後、溶媒および/または過剰の式(I)の化合物を取り除き、それ故に、触媒の使用のために必要とされる孔隙を自由にするために乾燥工程が必要である。
【0081】
第2および第3の変形例によると、本発明による触媒の調製は、気相を介して前記式(I)の化合物を加える工程を行うことによって行われてよい。これらの変形例は以下に説明される。
【0082】
(液相を介した式(I)の化合物の導入)
第1の変形例によると、本発明による触媒は、以下の工程:
a) 第VIB族元素を含む化合物と、第VIII族元素を含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1種の式(I)の化合物と、場合によるリンとを、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と接触しているように置くか、またはアルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含有している再生触媒を、少なくとも1種の式(I)の化合物と接触しているように置いて、触媒前駆体を得る工程、
b) 工程a)に由来する前記触媒前駆体を、200℃未満の温度で乾燥させるが、続けてそれの焼成は行わない、工程
を含んでいる調製方法に従って調製されてよい。
【0083】
この変形例によると、フレッシュな触媒を調製するための方法が最初に記載されることになり、その後に、活性回復触媒を調製するための方法が説明されることになる。
【0084】
(I)フレッシュな触媒を調製するための方法)
接触しているように置く工程a)は、複数の実施形態を含み、これらは、式(I)の化合物の導入のときによってとりわけ異なっており、これは、金属の含浸と同時に(共含浸)または金属の含浸の後に(後含浸)、または、最後に、金属の含浸の前に(前含浸)行われてよい。さらに、接触しているように置く工程は、少なくとも2種の実施形態、例えば、共含浸と後含浸とを組み合わせてよい。これらの種々の実施形態は、以下に説明されることになる。各実施形態は、単独でまたは組み合わせで利用されて、1回または複数回の工程において進行してよい。
【0085】
本発明による触媒は、その調製方法の間に、式(I)の化合物または酸素および/または窒素および/または硫黄を含有している任意の他の有機化合物の導入の後にあらゆる焼成を経ず、式(I)の化合物または任意の他の有機化合物が少なくとも部分的に触媒中に維持されていることを指摘することは重要である。用語「焼成(calcination)」は、ここでは、空気または酸素を含有しているガス下の200℃以上の温度での熱処理を意味する。
【0086】
しかしながら、触媒前駆体が焼成工程を経てよいのは、式(I)の化合物または酸素および/または窒素および/または硫黄を含有している任意の他の有機化合物の導入の前、とりわけ、第VIB族および第VIII族の元素の含浸(後含浸)の後、場合によっては、リンおよび/または別のドーパントの存在中、または、すでに使用された触媒の再生の間である。活性相としても知られている、本発明による触媒の第VIB族および第VIII族の元素を含む水素化機能基は、その時に、酸化物の形態にある。
【0087】
別の変形例によると、触媒前駆体は、第VIB族および第VIII族の元素の含浸の後(後含浸)にあらゆる焼成工程を経ず、それは、乾燥させられるだけである。活性相としても知られている、本発明による触媒の第VIB族および第VIII族の元素を含む水素化機能基は、その時、酸化物の形態にはない。
【0088】
実施形態にかかわりなく、接触しているように置く工程a)は、一般的に、少なくとも1回の含浸工程、好ましくは乾式含浸工程を含み、この工程において、担体は、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含んでいる含浸溶液を含浸させられる。以下に詳細に説明される共含浸の場合、この含浸溶液は、少なくとも1種の式(I)の化合物も含む。第VIB族および第VIII族の元素は、一般的に、含浸によって、優先的には乾式含浸によってまたは過剰の溶液中の含浸によって導入される。好ましくは、実施形態にかかわりなく第VIB族および第VIII族の元素の全量が含浸、好ましくは乾式含浸によって導入される。
【0089】
第VIB族および第VIII族の元素は、前記担体の形成の間の、マトリクスとして選ばれた少なくとも1種のアルミナゲルと混ぜるときに部分的に導入されてもよく、水素化元素の残りは、続いて含浸によって導入される。好ましくは、第VIB族および第VIII族の元素が、混ぜるときに部分的に導入される場合、この工程の間に導入される第VIB族元素の割合は、最終触媒上に導入される第VIB族元素の全量の5重量%未満である。
【0090】
好ましくは、導入方法にかかわりなく、第VIB族元素は第VIII族元素と同時に導入される。
【0091】
用いられてよいモリブデン前駆体は当業者に周知である。例えば、モリブデン源の中で、使用がなされてよいのは、酸化物および水酸化物、モリブデン酸およびその塩、特に、アンモニウム塩、例えば、モリブデン酸アンモニウム、七モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸(HPMo1240)およびその塩、および場合によるケイモリブデン酸(HSiMo1240)およびその塩である。モリブデン源は、ヘテロポリ化合物であってもよく、例えば、ケギン、ラクナケギン、置換ケギン、ドーソン、アンダーソンまたはストランドベルグの型のものである。三酸化モリブデンおよびケギン、ラクナケギンまたは置換ケギンの型のヘテロポリアニオンが好適に用いられる。
【0092】
用いられてよいタングステン前駆体も当業者に周知である。例えば、タングステン源の中で、使用がなされてよいのは、酸化物および水酸化物、タングステン酸およびその塩、特に、アンモニウム塩、例えば、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸およびその塩、および場合によるタングストケイ酸(HSiW1240)およびその塩である。タングステン源は、ヘテロポリ化合物であってもよく、例えば、ケギン、ラクナケギン、置換ケギンまたはドーソンの型のものである。酸化物およびアンモニウム塩、例えば、メタタングステン酸アンモニウムまたはケギン、ラクナケギンまたは置換ケギンの型のヘテロポリアニオンが好適に用いられる。
【0093】
用いられてよい第VIII族元素の前駆体は、有利には、第VIII族元素の酸化物、水酸化物、ヒドロキシ炭酸塩、炭酸塩および硝酸塩から選ばれる。例えば、ヒドロキシ炭酸ニッケルまたは炭酸コバルトまたは水酸化コバルトが好適に用いられる。
【0094】
リンが存在する場合、それは、含浸によって全体的または部分的に導入されてよい。好ましくは、それは、含浸、好ましくは乾式含浸によって導入され、第VIB族および第VIII族の元素の前駆体を含有している溶液による。
【0095】
前記リンは、有利には、単独でまたは第VIB族および第VIII族の元素の少なくとも1種との混合物として導入されてよく、これは、水素化機能基が複数の部分で導入されるならば前記水素化機能基の含浸の工程のいずれかにおいてなされてよい。前記リンは、式(I)の化合物が水素化機能基とは別に(以下に説明される後含浸および前含浸の場合において)導入されるならば、全体的または部分的に、式(I)の化合物の含浸の間に導入されてもよく、これは、式(I)の化合物以外の酸素および/または窒素および/または硫黄を含有している有機化合物が存在する中または存在しない中でなされてよい。それは、担体の合成の段階で、その合成におけるあらゆる工程において導入されてもよい。それ故に、それは、アルミナ前駆体である、選ばれたアルミナゲルのマトリクス、例えばかつ好ましくはオキシ水酸化アルミニウム(ベーマイト)を混ぜ合わせる前、その間またはその後に導入されてよい。
【0096】
好ましいリン前駆体は、オルトリン酸HPOであるが、その塩およびエステル、例えば、リン酸アンモニウムも使用に適している。リンは、第VIB族元素(1種または複数種)と同時に、ケギン、ラクナケギン、置換ケギンまたはストランドベルグのヘテロポリアニオンの形態で導入されてもよい。
【0097】
式(I)の化合物は、有利には、含浸溶液に導入される。この含浸溶液は、調製方法に応じて、第VIB族および第VIII族の元素を、以下に対応する全量で含有しているものと同一の溶液であるかまたはそれとは異なる溶液であってよい
- 式(I)の化合物対触媒前駆体の第VIB族元素(1種または複数種)のモル比は、含浸溶液(1種または複数種)に導入された成分を基に計算されて、0.01~5mol/mol、好ましくは0.05~3mol/mol、好ましくは0.05~1.5mol/mol、大いに好ましくは0.1~1mol/molである、および
- 式(I)の化合物対触媒前駆体の第VIII族元素(1種または複数種)のモル比は、含浸溶液(1種または複数種)に導入された成分を基に計算されて、0.02~17mol/mol、好ましくは0.1~10mol/mol、好ましくは0.15~5mol/mol、大いに好ましくは0.2~3.5mol/molである。
【0098】
複数種の式(I)の化合物が存在する場合、種々のモル比が、存在する式(I)の化合物のそれぞれについて適用される。
【0099】
本発明において記載されるあらゆる含浸溶液は、当業者に知られているあらゆる極性溶媒を含んでよい。用いられる前記極性溶媒は、有利には、メタノール、エタノール、水、フェノールおよびシクロヘキサノールによって形成される群から選ばれ、これらは、単独でまたは混合物として利用される。前記極性溶媒は、有利には、プロピレンカルボナート、DMSO(dimethyl sulfoxide:ジメチルスルホキシド)、N-メチルピロリドン(N-methylpyrrolidone:NMP)およびスルホランによって形成される群から選ばれてもよく、これらは、単独でまたは混合物として利用される。好ましくは、極性プロトン性溶媒が用いられる。一般的な極性溶媒と並びにそれらの比誘電率との一覧が成書“Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry”C. Reichardt, Wiley-VCH,第3版,2003,472-474ページにおいて見出され得る。大いに好ましくは、用いられる溶媒は、水またはエタノールであり、特に好ましくは、溶媒は水である。一つの可能な実施形態において、溶媒は、含浸溶液から欠かされていてよく、とりわけ、前含浸または後含浸の調製の間である。
【0100】
触媒がホウ素、フッ素またはホウ素とフッ素の混合物から選ばれるドーパントも含む場合、この(これらの)ドーパントの導入は、上記のリンの導入と同じ方法で調製の種々の工程において種々の手法において行われてよい。
【0101】
ホウ素の前駆体は、ホウ酸、オルトホウ酸HBO、二ホウ酸アンモニウムまたは五ホウ酸アンモニウム、酸化ホウ素またはホウ酸エステルであってよい。ホウ素は、例えば、水/アルコールの混合物中または水/エタノールアミンの混合物中のホウ酸の溶液によって導入されてよい。好ましくは、ホウ素の前駆体は、もしホウ素が導入されるならば、オルトホウ酸である。
【0102】
用いられてよいフッ素の前駆体は当業者に周知である。例えば、フッ素化物アニオンがフッ化水素酸またはその塩の形態で導入されてよい。これらの塩は、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機化合物により形成される。後者の場合、塩は、有利には、有機化合物とフッ化水素酸との間の反応によって反応混合物中に形成される。フッ素は、例えば、フッ化水素酸、またはフッ化アンモニウムまたは二フッ化アンモニウムの水溶液の含浸によって導入されてよい。
【0103】
触媒が(式(I)の化合物に加えて)式(I)の化合物以外の酸素および/または窒素および/または硫黄を含有している有機化合物から選ばれる1種の追加添加物または一群の追加添加物も含む場合、それは工程a)の含浸溶液に導入されてよい。
【0104】
酸素および/または窒素および/または硫黄を含有している有機化合物(1種または複数種)対触媒上の第VIB族元素(1種または複数種)のモル比は、含浸溶液(1種または複数種)に導入された成分を基に計算されて、0.05~5mol/mol、好ましくは0.1~4mol/mol、好ましくは0.2~3mol/molである。
【0105】
酸素および/または窒素および/または硫黄を含有している有機化合物(1種または複数種)対式(I)の化合物のモル比は、含浸溶液(1種または複数種)に導入された成分を基に計算されて、0.05~5mol/mol、好ましくは0.1~4mol/mol、好ましくは0.2~3mol/molである。
【0106】
複数種の酸素および/または窒素および/または硫黄を含有している有機化合物が存在する場合、異なるモル比が存在している有機化合物のそれぞれについて適用される。
【0107】
有利には、各含浸工程の後に、含浸済みの担体は、熟成のためにそのままにされる。熟成により、含浸溶液を担体内に均一に分散させることが可能となる。
【0108】
本発明において記載されるあらゆる熟成工程は、有利には、大気圧で、水飽和雰囲気中、17℃~50℃の温度、好ましくは室温で行われる。一般的には、熟成時間は、10分~48時間、好ましくは30分~5時間で十分である。より長い時間の期間は除外されないが、必ずしも何等かの改善を与えるわけではない。
【0109】
本発明に従う調製方法の工程b)によると、場合により熟成させられた工程a)において得られた触媒前駆体は、200℃未満の温度で乾燥させる工程に付されるが、続けての焼成工程は行われない。
【0110】
本発明において記載された式(I)の化合物の導入の後のあらゆる乾燥工程が行われる際の温度は、200℃未満、好ましくは50~180℃、好ましくは70~150℃、大いに好ましくは75~130℃である。
【0111】
乾燥工程は、有利には、当業者に知られているあらゆる技術を介して行われる。それは、有利には、大気圧でまたは減圧で、好ましくは大気圧で行われる。それは、有利には、高温空気または任意の他の高温ガスを用いる交差型床(crossed bed)で行われる。好ましくは、乾燥が固定床において行われる場合、用いられるガスは、空気、または不活性ガス、例えばアルゴンまたは窒素のいずれかである。大いに好ましくは、乾燥は、交差型床中、窒素および/または空気が存在する中で行われる。好ましくは、乾燥工程は、5分~4時間、好ましくは30分~4時間、大いに好ましくは1時間~3時間の短い継続期間を有する。乾燥は、次いで、含浸工程の間に導入される式(I)の化合物の最低30%を優先的に維持するように行われる;好ましくは、この量は、触媒上に残留している炭素を基に計算されて、50%超、一層より好ましくは70%超である。式(I)の化合物以外の酸素および/または窒素および/または硫黄を含有する有機化合物が存在している場合、乾燥工程は、触媒上に残留している炭素を基に計算されて、導入される量の最低30%、好ましくは最低50%、大いに好ましくは最低70%を好適に維持するように行われる。
【0112】
乾燥工程b)の終結の際に、乾燥済み触媒が得られるが、このものは、あらゆるその後の焼成工程に付されない。
【0113】
(共含浸)
(フレッシュな)触媒を調製するための方法の工程a)の第1の実施形態によると、第VIB族および第VIII族の元素を含んでいる前記化合物と、式(I)の化合物と、場合によるリンとは、1回または複数回の共含浸工程を介して、前記担体上に沈着させられる。すなわち、第VIB族および第VIII族の元素を含んでいる前記化合物と、式(I)の化合物と、場合によるリンとは、前記担体に同時に導入される(「共含浸」)。
【0114】
(後含浸)
本発明による(フレッシュな)触媒を調製するための方法の工程a)の第2の実施形態によると、式(I)の少なくとも1種の化合物は、乾燥済みかつ場合による焼成済みの含浸済み担体であって、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含んでおり、前記担体は、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとしているものと接触しているように置かれて、触媒前駆体が得られる。
【0115】
この第2の実施形態は、式(I)の化合物の「後含浸(post-impregnation)」調製である。
【0116】
第VIB族および第VIII族の元素と、場合によるリンとの担体上への導入は、有利には、担体上への過剰の溶液による1回または複数回の含浸を介して、または好ましくは担体上への1回または複数回の乾式含浸を介して、好ましくは、前記担体の1回のみの乾式含浸を介して行われてよく、金属前駆体(1種または複数種)と、好ましくはリン前駆体とを含有している溶液(1種または複数種)、好ましくは水溶液(1種または複数種)が用いられる。
【0117】
複数回の含浸工程が行われる場合、各含浸工程の後に、好ましくは、中間乾燥工程が200℃未満の温度で行われる。式(I)の化合物の導入に先行する各中間乾燥工程の後に、焼成の工程が行われてよい。
【0118】
焼成は、一般的には200℃~900℃、好ましくは250℃~750℃の温度で行われる。焼成時間は、一般的には30分~16時間、好ましくは1時間~5時間である。それは、一般的には、空気中で行われる。焼成により、第VIB族および第VIII族の金属の前駆体を酸化物に転化することが可能となる。
【0119】
式(I)の化合物は、有利には、1回または複数回の工程において、過剰での含浸、または乾式含浸、または当業者に知られている任意の他の手段のいずれかによって沈着させられてよい。好ましくは、式(I)の化合物は、乾式含浸によって、上記のような溶媒が存在する中または存在しない中で導入される。
【0120】
好ましくは、含浸溶液中の溶媒は水であり、これは、工業的スケールでの実施を促進する。
【0121】
場合によっては熟成させられた触媒前駆体は、次いで、上記の通り、200℃未満の温度で乾燥させる工程に付されるが、その後の焼成工程は行われない。
【0122】
(前含浸)
本発明による(フレッシュな)触媒を調製する方法の工程a)の第3の実施形態によると、第VIB族元素を含む少なくとも1種の化合物と、第VIII族元素を含む少なくとも1種の化合物と、場合によるリンとは、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体であって、少なくとも1種の式(I)の化合物を含有しているものと接触しているように置かれ、触媒前駆体が得られる。
【0123】
この第3の実施形態は、式(I)の化合物の「前含浸(pre-impregnation)」調製である。式(I)の化合物は、担体の調製中のあらゆるときに、優先的には成形の間にまたは既に成形された担体上の含浸によって導入されてよい。
【0124】
事前成形済みの担体上への式(I)の化合物の導入が選ばれるならば、この導入は、後含浸について指し示されたのと同様に行われてよい。
【0125】
成形の間の導入が選ばれるならば、好ましくは、前記成形は、押出配合(extrusion blending)によって、ペレット化によって、滴下凝集(drop coagulation)(オイルドロップ)法によって、回転板造粒(spinning-plate granulation)によってまたは当業者に周知である任意の他の方法を介して行われる。大いに好ましくは、前記成形は、押出配合によって行われ、式(I)の化合物は、押出配合におけるあらゆるときにおいて導入され得る。成形工程の終結の際に得られた成形済み材料は、次いで、有利には、式(I)の化合物の少なくとも一部が残留するような温度、好ましくは200℃未満の温度での熱処理の工程を経る。
【0126】
第VIB族および第VIII族の元素と、場合によるリンとの導入は、有利には、1回または複数回の含浸を介して行われてよい。
【0127】
上記の3種の様式は、記載されたように単独でまたは技術および実用上の制約に応じて他の混成調製様式を起こすように組み合わされて行われてよい。
【0128】
別の代替の実施形態によると、工程a)における接触しているように置く工程は、接触して置く工程の少なくとも2種の様式を組み合わせ、例えば、第VIB族および第VIII族の元素と、場合によるリンとの、有機化合物による共含浸を行い、その後に、200℃未満の温度で乾燥させ、次いで、共含浸のために用いられたものと同一であってもそれとは異なってもよい有機化合物の後含浸を行うが、有機化合物の少なくとも一方が式(I)の化合物であることが前提となる。
【0129】
(II)活性回復触媒を調製する方法)
本発明による触媒は、活性回復触媒であってよい。その調製方法は、以下の工程:
a) アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含有している再生触媒を、少なくとも1種の式(I)の化合物と接触しているように置いて、触媒前駆体を得る工程、
b) 工程a)に由来する前記触媒前駆体を200℃未満の温度で乾燥させるが、続けてのそれの焼成は行わない、工程
を含む。
【0130】
再生触媒は、触媒ユニットにおける触媒として、とりわけ、水素化処理および/または水素化分解において用いられた、かつ、部分的または全体的なコークの除去の少なくとも1回の工程、例えば、焼成(再生)による工程に付された触媒である。再生は、当業者に知られているあらゆる手段を介して行われてよい。再生は、一般的には、350~550℃、通常には400~520℃、または420~520℃、または450~520℃の温度での焼成によって行われ、500℃未満の温度がしばしば有利である。
【0131】
再生触媒は、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを、上記に指し示されたそれぞれの割合で含有する。再生の後に、再生触媒の第VIB族および第VIII族の元素を含んでいる水素化機能基は酸化物の形態にある。それは、上記のようなリン以外のドーパントを含有してもよい。
【0132】
好ましくは、工程a)の接触しているように置く工程は、少なくとも1種の式(I)の化合物を含んでいる含浸溶液を再生触媒に含浸させることによって行われ、触媒前駆体が得られる。
【0133】
式(I)の化合物は、有利には、1回または複数回の工程において、過剰での含浸、または乾式含浸、または当業者知られている任意の他の手段のいずれかによって、すでに記載されたのと同様の方法で、上記の第VIB族または第VIII族の元素当たりのモル比で沈着させられてよい。
【0134】
熟成および乾燥に関する上記の操作条件は、言うまでもなく、後者の実施形態の絡みで適用されてよい。
【0135】
(気相を介した式(I)の化合物の導入)
2種の変形例によると、本発明によるフレッシュな触媒は、国内の出願番号17/53.921および17/53.922の下に出願された仏国特許出願において記載されたような気相を介した前記式(I)の化合物の添加の工程を行うことによって調製されてよい。これらの変形例によると、前記触媒を調製する方法は、前記式(I)の化合物の含浸の従来の工程を含まない。結論として、式(I)の化合物の導入の後に乾燥工程を行うことは必要ではない。
【0136】
2種の変形例のうちの第1のものによると、本発明による触媒を調製する方法は、以下の工程:
i) 少なくとも1種の式(I)の化合物を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体上に沈着させる工程であって、前記担体と、液体の形態にあるフラン化合物とを同時にかつ担体と液体の形態にある式(I)の化合物との間のあらゆる物理的な接触なく、式(I)の化合物の沸点より低い温度で、前記式(I)の化合物の部分が気体の形態で担体に移送されるような圧力および時間の条件下に統括する工程を行うことによる、工程、
ii) 第VIB族元素を含む少なくとも1種の化合物と、第VIII族元素を含む少なくとも1種の化合物と、場合によるリンとを、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と接触しているように置く工程、
iii) 工程ii)の終結の際に得られた固体を乾燥させる工程
を含み、
工程ii)およびiii)の前またはそれらの後にまたは工程iii)の間に工程i)を行う。
【0137】
この変形例は、担体への式(I)の化合物の添加が液体の形態にある式(I)の化合物との物理的な接触なしで、すなわち、液体を担体に含浸させることなく行われる点で特徴付けられる。本方法は、所与の温度および所与の圧力における式(I)の化合物の液相によって生じたその蒸気圧の存在の原理に基づいている。それ故に、液体の形態にある式(I)の化合物の分子の部分が、気体の形態に変化し(気化)、次いで、担体に(気体状で)移送される。この統括工程i)は、担体中の式(I)の化合物の目標含有率を達成するのに十分である時間にわたって行われる。
【0138】
一般的に、工程i)は、0~1MPaの絶対圧力で行われる。
【0139】
好ましくは、工程i)の操作温度は、200℃未満、好ましくは10℃~150℃、より好ましくは25℃~120℃である。
【0140】
2種の変形例のうちの第2のものによると、本発明による触媒を調製する方法は、以下の工程:
i’) 少なくとも1種の式(I)の化合物を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体上に沈着させる工程であって、該工程は、担体を閉鎖型または開放チャンバにおいて、少なくとも1種の式(I)の化合物を含有している細孔性固体と統括する工程を行うことによるものであり、この工程を、前記式(I)の化合物の部分が細孔性固体から担体に気体状で移送されるような温度、圧力および時間の条件下に行う、工程、
ii) 第VIB族元素を含む少なくとも1種の化合物と、第VIII族元素を含む少なくとも1種の化合物と、場合によるリンとを、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と接触しているように置く工程、
iii) 工程ii)の終結の際に得られた固体を乾燥させる工程
を含み、
工程ii)およびiii)の前またはそれらの後に別個に工程i’)を行う。
【0141】
この第2の変形例によると、式(I)の化合物の添加は、開放または閉鎖型のチャンバにおいて、前記固体上に液体の形態ですでに沈着させられている式(I)の化合物に豊富な細孔性固体の第1のバッチを、担体(前記式(I)の化合物に乏しい細孔性固体の第2のバッチ)と統括することからなる。細孔性固体のこの統括の目的は、細孔性固体の第1のバッチ中に含有される式(I)の化合物の部分が細孔性固体の第2のバッチに気体状で移送されることを可能にすることにある。本発明によると、用語「式(I)の化合物に乏しい(low in compound of formula (I))」は、とりわけ、細孔性固体の第2のバッチが前記式(I)の化合物を含まない場合にわたる。
【0142】
この第2の変形例も、所与の温度および所与の圧力における式(I)の化合物の蒸気圧の存在の原理に基づいている。それ故に、式(I)の化合物に豊富な細孔性固体のバッチの式(I)の化合物の分子の部分は、気体の形態に変化し(気化)、次いで、担体(式(I)の化合物に乏しい固体)に(気体状で)移送される。本発明によると、式(I)の化合物に豊富な細孔性固体は、担体(式(I)の化合物に乏しい細孔性固体)を式(I)の化合物により豊富にするための式(I)の化合物の供給源としての機能を果たす。
【0143】
式(I)の化合物に豊富な細孔性固体は、有利には、細孔性担体、好ましくは、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体であり、このものは、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含有してよい。
【0144】
(式(I)の化合物に豊富な固体の第1のバッチ)/(担体または式(I)の化合物に乏しい固体の第2のバッチ)の質量比は、固体の細孔分布および統括工程i’)に由来する固体上の式(I)の化合物の目標量に関する目的に依存する。この質量比は、一般的には、10以下、好ましくは2未満、一層より好ましくは0.05~1(上下限値を含む)である。
【0145】
細孔性固体のバッチを統括する工程は、好ましくは、制御された温度および圧力の条件下に行われ、その結果、温度は、気体状で移送されるべき前記式(I)の化合物の沸点より低い。好ましくは、操作温度は、150℃未満であり、絶対圧力は、一般的には0~1MPa、好ましくは0~0.5MPa、より好ましくは0~0.2MPaである。それ故に、開放または閉鎖型のチャンバにおいて、場合によってはチャンバ中に存在するガスの組成を制御しながら統括工程を行うことが可能であるだろう。
【0146】
細孔性固体を統括する工程が開放チャンバにおいて行われる場合、チャンバからの式(I)の化合物の同伴が可及的に制限されることが保証されるだろう。あるいは、細孔性固体を統括する工程は、閉鎖型チャンバにおいて、例えば、外部環境とのガス交換に不浸透性である固体を格納または輸送するためのコンテナにおいて行われてよい。
【0147】
用語「統括(bringing together)」は、固体がチャンバ中に同時に存在するが、2バッチの固体の何等かの物理的な接触は必ずしもないという事実を意味する。
【0148】
用語「式(I)の化合物に豊富な(rich in compound of formula (I))」は、固体が工程i’)において用いられた前記式(I)の化合物の全量の50%超、好ましくは最低60%、好ましくは最低80%、好ましくは最低90%、好ましくは100%を含有しているという事実を反映している。一つの実施形態によると、工程i’)の開始時に、式(I)の化合物に豊富な細孔性固体は、工程i’)において用いられた全量の100%を含有し、したがって、担体(式(I)の化合物に乏しい固体の第2のバッチ)は、前記式(I)の化合物の全量の0%を含有する。
【0149】
気相を介した(フレッシュな)触媒の調製のための2種の変形例は、2種の実施形態に従って行われてよい。
【0150】
第1の実施形態によると、活性相が最初に導入され(前記活性相は、第VIB族元素を含む少なくとも1種の化合物と、第VIII族元素を含む少なくとも1種の化合物と、場合によるリンとを細孔性固体上に含んでいる)(工程ii))、それは、次いで、乾燥させられ(工程iii))、次いで、活性金属相と、場合によるリンとを含有している乾燥済み担体は、液体の形態にある少なくとも1種の式(I)の化合物または少なくとも1種の式(I)の化合物を含有している細孔性固体と統括する工程i)またはi’)において処理されて、前記式(I)の化合物を添加物含浸させられた触媒が提供される。この第1の実施形態の一つの変形例によると、工程i)は、工程iii)と同時に行われる。
【0151】
別の実施形態によると、担体は、最初に、式(I)の化合物を添加して有機化合物を添加物含浸させられた触媒担体を提供する工程(工程i)またはi’))に付され、これは、場合による熟成段階の後に、活性相の含浸の工程(工程ii))、次いで、乾燥(工程iii))に送られる。
【0152】
2種の実施形態において、細孔性担体は、式(I)の化合物以外の追加の有機化合物を特にすでに含有してよい。同様に、この追加の有機化合物は、活性金属相と、場合によるリンとを含有している溶液により導入され得る。
【0153】
2種の他の変形例によると、気相を介して前記式(I)の化合物を添加する工程は、再生触媒上で行われてもよい。
【0154】
これらの2種の変形例によると、本発明による触媒を調製する方法は、以下の工程:
i’’) 少なくとも1種の式(I)の化合物を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含有している再生触媒上に沈着させる工程であって、前記再生触媒と液体の形態にある少なくとも1種の式(I)の化合物とを、同時にかつ再生触媒と液体の形態にある式(I)の化合物との間のあらゆる物理的な接触なく、式(I)の化合物の沸点より低い温度で、および前記式(I)の化合物の部分が再生触媒に気体の形態で移送されるような圧力および時間の条件下に統括する工程を行うことによるものである、工程、または
i’’’) 少なくとも1種の式(I)の化合物を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、少なくとも1種の第VIB族元素と、少なくとも1種の第VIII族元素と、場合によるリンとを含有している再生触媒上に沈着させる工程であって、再生触媒を、閉鎖型または開放チャンバにおいて、少なくとも1種の式(I)の化合物を含有している細孔性固体と統括する工程を行うことにより行い、この工程を、前記式(I)の化合物の部分が細孔性固体から再生触媒に気体状で移送されるような温度、圧力および時間の条件下に行う、工程
を含む。
【0155】
上記のような気相における式(I)の化合物の導入によって得られたフレッシュなまたは活性回復された添加物含浸触媒は、1回または複数回の後続工程により処理されて、i)、i’)、i’’)またはi’’’)において用いられたものとは異なる1種または複数種の他の追加の有機化合物を組み入れてもよい。1種または複数種の他の追加の異なる有機化合物の組み入れは、気相添加方法によってまたは当業者に知られている任意の他の方法によって、例えば、追加の有機化合物を含有している溶液の含浸によって行われてよい。
【0156】
(硫化)
水素化処理および/または水素化分解の反応のためのその使用の前に、本発明において記載された導入の様式の1つにより得られた触媒を硫化触媒に変換して、その活性種を形成することが有利である。この活性化または硫化の工程は、当業者に周知である方法を介して、有利には水素および硫化水素の存在中のスルホ還元(sulfo-reductive)雰囲気下に行われる。
【0157】
本発明による方法の調製の種々の様式による工程b)の終結の際に、得られた前記触媒は、それ故に、有利には、硫化工程に付され、中間焼成工程は行われない。
【0158】
前記乾燥済み触媒は、有利には、現場外(ex situ)または現場内(in situ)で硫化される。硫化剤は、HSガス、単体硫黄(elemental sulfur)、CS、チオール、スルフィドおよび/またはポリスルフィド、400℃より低い沸点を有しかつ硫黄化合物または触媒を硫化する目的で炭化水素供給原料の活性化のために用いられる任意の他の硫黄ベースの化合物を含有する炭化水素フラクションである。前記硫黄ベースの化合物は、有利には、アルキルジスルフィド、例えば、ジメチルジスルフィド(dimethyl disulfide:DMDS)、アルキルスルフィド、例えば、ジメチルスルフィド、チオール、例えば、n-ブチルチオール(または1-ブタンチオール)およびtert-ノニルポリスルフィドタイプのポリスルフィド化合物から選ばれる。触媒は、脱硫されるべき供給原料中に含有される硫黄によって硫化されてもよい。好ましくは、触媒は、硫化剤および炭化水素ベースの供給原料が存在する中で現場内硫化される。大いに好ましくは、触媒は、ジメチルジスルフィドを添加物含浸させられた炭化水素ベースの供給原料が存在する中で現場内硫化される。
【0159】
(水素化処理および/または水素化分解の方法)
最後に、本発明の別の主題は、炭化水素ベースのフラクションの水素化処理および/または水素化分解のための方法における本発明による触媒または本発明による調製方法に従って調製された触媒の使用である。
【0160】
本発明による触媒、好ましくは、前もって硫化工程を経た触媒は、有利には、炭化水素ベースの供給原料、例えば、石油フラクション、石炭に由来するフラクションまたは天然ガスから生じた炭化水素、場合によっては混合物としてのそれら、あるいは、バイオマスに由来する炭化水素ベースのフラクションの水素化処理および/または水素化分解の反応のために、より特定的には、炭化水素ベースの供給原料の水素化、水素化脱窒、水素化脱芳香族、水素化脱硫、水素化脱酸素、水素化脱金属または水素化転化の反応のために用いられる。
【0161】
これらの場合において、本発明による触媒、好ましくは前もって硫化工程を経た触媒は、従来技術の触媒に対して改善された活性を有している。この触媒は、有利には、供給原料の接触分解または水素化分解の前処理、または残渣の水素化脱硫またはガスオイル(ULSD:ultra-low-sulfur diesel)の強行水素化脱硫(forced hydrodesulfurization)において用いられてもよい。
【0162】
水素化処理方法において用いられる供給原料は、例えば、ガソリン、ガスオイル、減圧ガスオイル、常圧残渣、減圧残渣、常圧蒸留液、減圧蒸留液、重質燃料油、油、ワックスおよびパラフィン、使用済み油、脱歴残渣または粗製油(crudes)、熱転化方法または接触転化方法を起源とする供給原料、リグノセルロース供給原料、または、より一般的には、バイオマスに由来する供給原料であり、これらは単独でまたは混合物として利用される。処理される供給原料、特に、上記のものは、一般的には、ヘテロ原子、例えば、硫黄、酸素および窒素を含有し、重質供給原料では、それらは、通常、金属も含有する。
【0163】
上記の炭化水素供給原料を水素化する反応を含む方法において用いられる操作条件は、一般的には以下の通りである:温度は有利には180℃~450℃、好ましくは250℃~440℃であり、圧力は有利には0.5~30MPa、好ましくは1~18MPaであり、毎時空間速度は、有利には0.1~20h-1、好ましくは0.2~5h-1であり、水素/供給原料の比は、標準の温度および圧力の条件下に測定される水素の容積/液体供給原料の容積として表されて、有利には50L/L~5000L/L、好ましくは80~2000L/Lである。
【0164】
第1の使用様式によると、本発明による前記水素化処理方法は、本発明による少なくとも1種の触媒の存在中で行われるガスオイルフラクションの水素化処理、とりわけ水素化脱硫(HDS)のための方法である。本発明による前記水素化処理方法は、前記ガスオイルフラクション中に存在する硫黄ベースの化合物を除去して施行環境基準、すなわち、許可される硫黄の含有率:最高10ppmに合わせる方に向けられる。それにより、水素化処理されるべきガスオイルフラクションの芳香族化合物および窒素の含有率を低減させることも可能となる。
【0165】
本発明の方法により水素化処理されるべき前記ガスオイルフラクションは、0.02重量%~5.0重量%の硫黄を含有する。それは、有利には、コーキングユニット、ビスブレーキングユニット、水蒸気分解ユニット、より重質な供給原料を水素化処理および/または水素化分解するためのユニットおよび/または接触分解ユニット(流動接触分解)の直留蒸留(または直留ガスオイル)に由来する。前記ガスオイルフラクションは、優先的には、大気圧で250℃~400℃の沸点を有する化合物の最低90%を含有する。
【0166】
本発明による前記ガスオイルフラクションを水素化処理するための方法は、以下の操作条件下に行われる:温度は200~400℃、優先的には300~380℃であり、全圧は、2MPa~10MPa、より優先的には3MPa~8MPaであり、水素の容積/炭化水素ベースの供給原料の容積の比は、標準の温度および圧力の条件下に測定される水素の容積/液体供給原料の容積として表されて、100~600リットル/リットル、より優先的には200~400リットル/リットルであり、毎時空間速度(hourly space velocity:HSV)は、1~10h-1、優先的には2~8h-1である。HSVは、時間で表される接触時間の逆数に対応し、本発明による水素化処理方法を行う反応ユニットに装填された触媒の容積当たりの、液体炭化水素ベースの供給原料の容積流量の比によって定義される。本発明による前記ガスオイルフラクションを水素化処理するための方法を行う反応ユニットは、優先的には、固定床、移動床または沸騰床において、好ましくは固定床において行われる。
【0167】
第2の使用様式によると、本発明による前記水素化処理および/または水素化分解の方法は、本発明による少なくとも1種の触媒の存在中で行われる減圧蒸留液フラクションの水素化処理(とりわけ、水素化脱硫、水素化脱窒、芳香族化合物の水素化)および/または水素化分解のための方法である。前記水素化処理および/または水素化分解の方法は、本発明による水素化分解前処理または水素化分解の方法とも称されるものであり、これは、場合に応じて、必要であれば、前記蒸留液フラクション中に存在する硫黄ベースの化合物、窒素ベースの化合物、芳香族化合物を除去して前処理を行った後に、接触分解または水素化転化の方法において転化する方に、または場合によっては前もって前処理された蒸留液フラクションを水素化分解する方に向けられる。
【0168】
上記の減圧蒸留液の水素化処理および/または水素化分解の方法を介して非常に多彩な供給原料が処理されてよい。一般的には、それらは、大気圧において340℃超で沸騰する化合物の最低20容積%、しばしば最低80容積%を含有する。供給原料は、例えば、減圧蒸留液、また潤滑油ベースからの芳香族化合物の抽出のためのユニットに由来するまたは潤滑油ベース、および/または脱歴油の溶媒脱歴に由来する供給原料であってよく、または、供給原料は、脱歴油またはフィッシャー・トロプシュ方法に由来するパラフィン、またはここまでに言及された供給原料の任意の混合物であってよい。一般に、供給原料は、大気圧で340℃超、一層より良好には大気圧で370℃超のT5沸点を有する。すなわち、供給原料中に存在する化合物の95%は、340℃超、一層より良好には370℃超の沸点を有する。本発明による方法において処理される供給原料の窒素の含有率は、通常、200重量ppm超、好ましくは500~10000重量ppmである。本発明による方法において処理される供給原料の硫黄の含有率は、通常には0.01重量%~5.0重量%である。供給原料は、金属(例えばニッケルおよびバナジウム)を含有してもよい。アスファルテンの含有率は、一般的には3000重量ppm未満である。
【0169】
水素化処理および/または水素化分解の触媒は、一般的に、水素の存在中で、ここまでに記載された供給原料と接触しているように置かれ、その際の温度は、200℃超、通常250℃~480℃、有利には320℃~450℃、好ましくは330℃~435℃であり、圧力は、1MPa超、通常には2~25MPa、好ましくは3~20MPaであり、毎時空間速度は、0.1~20.0h-1、好ましくは0.1~6.0h-1、好ましくは0.2~3.0h-1であり、導入される水素の量は、水素の容積(リットル)/炭化水素の容積(リットル)の容積比が、液体供給原料の容積当たりの、標準の温度および圧力の条件下に測定される水素の容積として表されて、80~5000L/L、通常には100~2000L/Lであるようにされる。本発明による方法において用いられるこれらの操作条件により、一般的には、大気圧で340℃未満、一層より良好には大気圧で370℃未満の沸点を有している生成物への、通過当たり転化率:15%超、一層より好ましくは20%~95%を得ることが可能となる。
【0170】
本発明による触媒を用いる減圧蒸留液の水素化処理および/または水素化分解の方法は、マイルド水素化分解から高圧水素化分解に広がる圧力の範囲および転化の範囲にわたる。用語「マイルド水素化分解(mild hydrocracking)」は、穏やかな転化、一般的には40%未満の転化に至り、かつ、低い圧力、好ましくは2MPa~6MPaの圧力で操作する水素化分解を意味する。
【0171】
本発明による触媒は、単独で、1基または複数基の固定床触媒床において、1基または複数基の反応器において、「一工程」水素化分解スキームで、未転化フラクションの液体再循環を伴ってまたは伴わずに、または「二工程」水素化分解スキームにおいて、場合によっては、本発明の触媒の上流に装填された水素化精製触媒との組み合わせで、用いられてよい。
【0172】
第3の使用様式によると、本発明による前記水素化処理および/または水素化分解の方法は、有利には、流動床接触分解(またはFCC:fluid catalytic cracking)方法における前処理として行われる。温度範囲、圧力、水素再循環比および毎時空間速度に関する前処理の操作条件は、一般的には、減圧蒸留液の水素化処理および/または水素化分解の方法のための上記のもの同一である。FCC方法は、当業者に知られている従来の方法で、適切な分解条件下に、より小さい分子量の炭化水素ベースの生成物を生じさせる目的のために行われてよい。接触分解の概要説明は、例えば、Ullmannの Encyclopedia of Industrial Chemistry A18巻,1991,61~64ページにおいて見出されるだろう。
【0173】
第4の使用様式によると、本発明による前記水素化処理および/または水素化分解の方法は、本発明による少なくとも1種の触媒の存在中でガソリンフラクションを水素化処理(とりわけ水素化脱硫)するための方法である。
【0174】
他の水素化処理方法とは違って、ガソリンの水素化処理(とりわけ水素化脱硫)により、2倍の対立する制約:ガソリンの徹底的水素化脱硫を保証することおよびオクタン価の喪失を制限するように存在する不飽和化合物の水素化を制限することを扱うことが可能にならなければならない。
【0175】
供給原料は、一般的には、30~260℃の蒸留範囲を有する炭化水素フラクションである。好ましくは、この炭化水素フラクションは、ガソリンタイプのフラクションである。大いに好ましくは、ガソリンフラクションは、オレフィン性ガソリンフラクションであり、例えば、接触分解ユニット(流動接触分解)に由来するものである。
【0176】
水素化処理の方法は、炭化水素フラクションを、本発明による触媒および水素と、以下の条件下に接触しているように置くことからなる:その際の温度は、200~400℃、好ましくは230~330℃であり、その際の全圧は、1~3MPa、好ましくは1.5~2.5MPaであり、その際の毎時空間速度(HSV)は、触媒の容積に対する供給原料の容積流量であると定義されて、1~10h-1、好ましくは2~6h-1であり、その際の水素/ガソリン供給原料の容積比は、100~600NL/L、好ましくは200~400NL/Lである。
【0177】
ガソリンの水素化処理の方法は、固定床タイプまたは沸騰床タイプの1基または直列の複数基の反応器において行われてよい。直列の少なくとも2基の反応器を用いてこの方法が行われるならば、第1の水素化脱硫反応器に由来する流出物からHSを除去するためのデバイスを提供することが可能であり、その後に第2の水素化脱硫反応器において前記流出物を処理する。
【0178】
続く実施例は、従来技術の触媒に対する本発明の方法に従って調製された触媒上の活性における相当な利得を実証し、かつ、本発明を明示するが、しかしながら、本発明の範囲を制限するものではない。
【0179】
(実施例)
(実施例1:有機化合物がないアルミナ上CoMoP触媒C1およびC2の調製(本発明に合致しない))
BET比表面積が230m/gであり、水銀ポロシメトリによって測定される細孔容積が0.78mL/gであり、平均細孔径が水銀ポロシメトリによる容積中位径として定義されて11.5nmであり、「押出物」の形態にあるアルミナ担体に、コバルト、モリブデンおよびリンを加える。含浸溶液の調製を、90℃で、酸化モリブデン(21.1g)および水酸化コバルト(5.04g)をリン酸の85重量%水溶液11.8g中に溶解させることによって行う。乾式含浸の後、押出物を、水飽和雰囲気中24時間にわたって室温でそのままにして熟成させ、次いで、90℃で16時間にわたって乾燥させる。このようにして得られた乾燥済み触媒前駆体をC1で示す。触媒前駆体C1の焼成を450℃で2時間にわたって行い、焼成済み触媒C2を得るに至る。触媒前駆体C1および触媒C2の最終の金属組成は、酸化物の形態で表され、かつ、乾燥触媒の重量に対して、以下の通りである:MoO=19.5±0.2重量%、CoO=3.8±0.1重量%およびP=6.7±0.1重量%。
【0180】
(実施例2:共含浸による有機化合物(クエン酸)の導入によるアルミナ上のCoMoP触媒C3(本発明に合致しない)の調製)
実施例1においてすでに記載され、「押出物」の形態にあるアルミナ担体に、コバルト、モリブデンおよびリンを加える。含浸溶液の調製を、90℃で、酸化モリブデン(28.28g)および水酸化コバルト(6.57g)をリン酸および水の85%水溶液15.85g中に溶解させることによって行う。先行混合物の均一化の後、クエン酸38gを加えた後に、水の添加によって担体の細孔容積に溶液の容積を調節する。(クエン酸)/Moのモル比は、1mol/molに等しく、(クエン酸)/Coのモル比は、2.7mol/molに等しい。乾式含浸の後に、押出物を水飽和雰囲気中、24時間にわたって室温でそのままにして熟成させ、次いで、120℃で16時間にわたって乾燥させる。このようにして得られたクエン酸を添加物含浸させられた乾燥済み触媒をC3で示す。触媒C3の最終組成は、酸化物の形態で表されかつ乾燥触媒の重量に対して、以下の通りである:MoO=19.6±0.2重量%、CoO=3.7±0.1重量%およびP=6.7±0.1重量%。
【0181】
(実施例3:金属の含浸の後の気相中の有機化合物(乳酸ブチル)の導入によるアルミナ上CoMoP触媒C4(本発明に合致する)の調製)
結晶皿に含まれる乳酸ブチル3.7gを、閉鎖型チャンバ中に置く。触媒前駆体C1 12gを、同一の閉鎖型チャンバに導入し、ステンレス鋼グリッド上に置き、液体の乳酸ブチルを、触媒前駆体C1と物理的に接触していないようにする。閉鎖型チャンバを、オーブン中、120℃で2時間にわたって置く。触媒前駆体C1を液体の形態にある乳酸ブチル化合物と統括した後に触媒C4 13.9gをこのようにして得る。触媒上にこのように移送された乳酸ブチルの量は、乳酸ブチル/Moのモル比がモリブデンのモル当たり0.8molである(コバルトのモル当たり2.2molに相当する)。乾燥触媒の重量に対する触媒C4の最終金属組成は以下の通りである:MoO=19.5±0.2重量%、CoO=3.8±0.1重量%およびP=6.7±0.1重量%。
【0182】
(実施例4:金属の含浸の後の気相中の有機化合物(乳酸ブチルブチリル)の導入によるアルミナ上CoMoP触媒C5(本発明に合致する)の調製)
結晶皿中に含まれる乳酸ブチルブチリル5.4gを、閉鎖型チャンバ中に置く。触媒前駆体C1 12gを、同一の閉鎖型チャンバに導入し、ステンレス鋼グリッド上に置き、液体の乳酸ブチルブチリルが、触媒前駆体C1と物理的に接触していないようにする。閉鎖型チャンバを、オーブン中120℃で6時間にわたって置く。触媒前駆体C1を液体の形態にある乳酸ブチルブチリル化合物と統括した後に触媒C5 14.7gをこのようにして得る。触媒上にこのように移送させた乳酸ブチルブチリルの量は、乳酸ブチルブチリル/Moのモル比がモリブデンのモル当たり0.8molである(コバルトのモル当たり2.2molに相当する)。乾燥触媒の重量に対する触媒C5の最終金属組成は以下の通りである:MoO=19.5±0.2重量%、CoO=3.8±0.1重量%およびP=6.7±0.1重量%。
【0183】
(実施例5:触媒C1、C2およびC3(本発明に合致しない)およびC4およびC5(本発明に合致する)のガスオイルの水素化脱硫(HDS)における評価)
触媒C1、C2およびC3(本発明に合致しない)およびC4およびC5(本発明に合致する)をガスオイルのHDSにおいて試験した。
【0184】
用いられたガスオイル供給原料の特徴は以下の通りである:15℃での密度=0.8522g/cm、硫黄の含有率=1.44重量%。
【0185】
模擬蒸留:
IP: 155℃
10%: 247℃
50%: 315℃
90%: 392℃
FP: 444℃
【0186】
等温交差固定床試験反応器において試験を行い、流体は、底部から上方に流通する。
【0187】
触媒前駆体を、最初に、反応器において350℃で圧力下に試験のガスオイルに2重量%のジメチルジスルフィドを加えたものよって現場内硫化する。
【0188】
水素化脱硫試験を以下の操作条件下に行った:全圧は7MPaであり、触媒容積は30cmであり、温度は330~360℃であり、水素流量は24L/hであり、供給原料流量は60cm/hである。
【0189】
試験された触媒の触媒性能は、表1において与えられる。それらは、基準として選ばれた(比較の)触媒C2に対するセルシウス度で表される:それらは、流出物中の硫黄50ppmに到達するために適用される温度差に対応する。負の値は、目標の硫黄の含有率がより低い温度について達成されることおよびしたがって活性に増大があることを意味する。正の値は、目標の硫黄の含有率がより高い温度について達成されることおよびしたがって活性の喪失があることを意味する。
【0190】
表1は、本発明による有機化合物によって与えられる触媒効果上の利得を明確に示している。具体的には、触媒C4およびC5(本発明に合致する)は、評価された全ての他の触媒について得られた活性より高い活性を有する。本発明に合致する触媒の利点は意義深いが、本発明に合致する触媒は、触媒C3より低い有機化合物の割合を有し、それ故に、他の化合物のものより高い固有の効能を有し、それに関して、相当な触媒の効果を観察するためにより大きい割合の化合物を導入することが必要である。
【0191】
【表1】