(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/024 20060101AFI20231130BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20231130BHJP
H01S 5/14 20060101ALI20231130BHJP
H01S 3/0941 20060101ALI20231130BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H01S5/024
H01S5/022
H01S5/14
H01S3/0941
H01S3/10 Z
(21)【出願番号】P 2021038910
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592163734
【氏名又は名称】京セラSOC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 正美
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-070787(JP,A)
【文献】特開平09-312440(JP,A)
【文献】特開2001-196683(JP,A)
【文献】特開2001-337253(JP,A)
【文献】特開平08-204256(JP,A)
【文献】特開平10-098222(JP,A)
【文献】特開2009-164443(JP,A)
【文献】特開平11-103119(JP,A)
【文献】特開2005-265900(JP,A)
【文献】特開2006-086396(JP,A)
【文献】特開2003-080604(JP,A)
【文献】実開昭63-167764(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0091804(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102227045(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01S 3/00-3/00
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
H01L 33/00-33/64
G02B 6/12-6/14
G02B 6/26-6/27
G02B 6/30-6/34
G02B 6/42-6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器
および該共振器に向かって進行する光を発するレーザダイオードを含むレーザの構成要素を複数、レーザ光の進行方向に沿って配列して筐体内に収容し、
前記筐体を、前記配列の方向と略平行に延びる接着剤層を介して温度調節素子に接合し、
前記筐体の検出温度に基づいて前記温度調節素子を駆動して前記筐体を所定温度に調節
するレーザ装置において、
前記接着剤層として、前記筐体と前記温度調節素子との間の距離を規定する、複数の略均一形状のスペーサが分散されている接着剤層が用いられたことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記スペーサが、球状のビーズである請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記ビーズの外径が10μm~100μmの範囲にある請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記スペーサが、円柱状のファイバーである請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記スペーサが、ガラスあるいはセラミックスからなるものである請求項1~4のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記筐体内に収容されたレーザが、外部共振器型レーザである請求項1~5のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記筐体内に収容されたレーザが、レーザダイオード励起固体レーザである請求項1~5のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記筐体内に収容されたレーザが、発振波長を狭帯域化する波長制御素子を含むものである請求項1~7のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ装置に関し、特に詳細には、レーザ構成要素を筐体内に収容し、この筐体を温度調整するように構成されたレーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されているように、レーザダイオード等の発光素子を自身では発振しないように構成し、この発光素子から出射した光を外部共振器によって発振させるようにした外部共振器型レーザが公知となっている。また、例えば特許文献2に示されているように、レーザダイオードから発せられたレーザ光によって固体レーザ結晶を励起するレーザダイオード励起固体レーザも公知となっている。
【0003】
上述の外部共振器型レーザやレーザダイオード励起固体レーザにおいては、共振器長が周囲温度によって変化し、その結果光出力が変動することを防止する提案が従来種々なされている。例えば特許文献2には、レーザ構成要素を筐体内に収容し、この筐体をペルチェ素子等の温度調節素子によって所定温度に温度調節する構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-29428号公報
【文献】特開2001-332787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、レーザ構成要素を収容した筐体を所定温度に温度調節するようにした従来のレーザ装置は、そのような対策を施していても光出力が変動することがあり、この点に改良の余地が残されている。本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、光出力の変動を確実に抑制することができるレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるレーザ装置は、
共振器を含むレーザの構成要素を筐体内に収容し、
上記筐体を、接着剤層を介して温度調節素子に接合し、
上記筐体の検出温度に基づいて上記温度調節素子を駆動して筐体を所定温度に調節するレーザ装置において、
上記接着剤層として、上記筐体と上記温度調節素子との間の距離を規定する、複数の略均一形状のスペーサが分散されている接着剤層が用いられたことを特徴とするものである。
【0007】
なお、上記のスペーサとして具体的には、球状のビーズを好適に用いることができる。その場合、ビーズの外径は10μm~100μmの範囲にあることが望ましい。
【0008】
あるいは上記のスペーサとして、円柱状のファイバーを用いることもできる。
【0009】
また、そのようなスペーサとしては、ガラスあるいはセラミックスからなるものを好適に用いることができる。
【0010】
また、本発明によるレーザ装置において、筐体内に収容するレーザとしては、外部共振器型レーザや、あるいはレーザダイオード励起固体レーザが適用可能である。さらに、そのように筐体内に収容されたレーザは、発振波長を狭帯域化する波長制御素子を含むものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明者は、レーザ構成要素を収容した筐体を所定温度に温度調節するようにした従来のレーザ装置において、光出力が変動してしまう理由を解明した。以下、その理由を説明する。
図8は、従来のレーザ装置を概略的に示すものであり、図中の10はレーザ構成要素(図示せず)を内部に収容した筐体、30はペルチェ素子等の温度調節素子を示している。そして筐体10の図中下面と、温度調節素子30の図中上面(接着面)とは図示外の薄い接着剤層を介して接合されている。この
図8で上から下に向けて示す(a)、(b)、および(c)はそれぞれ、周囲温度が比較的低い場合、周囲温度が筐体10の内部温度と同程度である場合、および周囲温度が比較的高い場合を示している。
【0012】
(a)の場合は温度調節素子30の図中上面が加温されることから筐体10が拡がるように変形し、(c)の場合は温度調節素子30の図中上面が冷却されることから筐体10が縮むように変形する。筐体10と温度調節素子30とを接合する接着剤層は従来、温度調節の応答性を良くするために比較的薄く形成されているので、温度調節素子30が駆動したときの変形が、直接的に筐体10に伝わって該筐体10の変形を招く。そして、この変形により、筐体内部に収容されている共振器の長さが変化し、その結果、レーザ装置の光出力が変動することを本発明者は見出した。こうした不具合を招かないように接着剤層を比較的厚く形成することも考えられるが、そうする場合は接着剤層の厚さを均一に制御するのが困難になり、その結果、レーザ装置の特性に大きな個体差が発生してしまう。
【0013】
それに対して本発明のレーザ装置においては、接着剤層として、筐体と温度調節素子との間の距離を規定する、複数の略均一形状のスペーサが分散されている接着剤層が用いられているので、接着剤層の厚さを均一に制御可能とした上で、この厚さを比較的大きく取ることができる。そこで、温度調節素子の変形を筐体に伝わり難くして筐体の変形、ひいては共振器長の変化を防止し、レーザ装置の光出力変動を防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態によるレーザ装置を示す一部破断側面図
【
図3】
図1のレーザ装置において、スペーサであるビーズの外径を10μmとしたときの光出力特性を示すグラフ
【
図4】
図1のレーザ装置において、スペーサであるビーズの外径を30μmとしたときの光出力特性を示すグラフ
【
図5】
図1のレーザ装置において、スペーサであるビーズの外径を50μmとしたときの光出力特性を示すグラフ
【
図6】
図1のレーザ装置において、スペーサであるビーズの外径を100μmとしたときの光出力特性を示すグラフ
【
図7】従来のレーザ装置における光出力特性の一例を示すグラフ
【
図8】従来のレーザ装置における問題を説明する概略図
【
図9】上記ビーズの外径とレーザ装置の光出力変動量との関係を示すグラフ
【
図10】本発明の第2実施形態によるレーザ装置を示す一部破断側面図
【
図12】本発明の第3実施形態によるレーザ装置を示す一部破断側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施形態によるレーザ装置1を一部破断して示す側面図である。また
図2は、このレーザ装置1と比較するための例として、従来のレーザ装置100を一部破断して示す側面図である。
図1に示す通り本実施形態のレーザ装置1は、例えば金属板からなるベース板20と、このベース板20の上に熱伝導性接着剤層22を介して接合されたペルチェ素子30と、このペルチェ素子30の上に熱伝導性接着剤層21を介して接合された函状の筐体40とを有している。なおこれらの
図1および
図2においては筐体40を破断して、その内部に収容されたレーザ構成要素を明示している。
【0016】
図1に示される通り筐体40の前方側面(図中の右側面)には、光取出し用の窓が形成され、この窓には透明部材からなる光透過部材40aが嵌合固定されている。また筐体40の内部にはマウント41が固定され、このマウント41の上に、レーザ構成要素が保持されている。すなわち、図中で左から右に向かって順にレーザダイオード(以下、LDという)11、コリメートレンズ12、バンドパスフィルタ(以下、BPFという)13、収束レンズ14および共振器ミラー15が配置、固定されている。また筐体40の外において、上記光透過部材40aと向き合う位置には、コリメートレンズ16が保持されている。
【0017】
上記LD11の前端面11aから出射した光Lはコリメートレンズ12によって平行光化された後、BPF13を通過してから収束レンズ14により集光されて、共振器ミラー15の後端面15a上で収束する。LD11は例えばGaN基板からなる、自身で発振しないものであるが、その後端面11bには高反射コート(例えば反射率99%)が施されており、また共振器ミラー15の後端面15aにも、比較的高い反射率(例えば65%)で上記光Lを反射させるコートが施されている。それにより光Lが発振して高出力のレーザ光が得られる。つまり本実施形態では、LD11の後端面11bと共振器ミラー15の後端面15aとによって外部共振器が構成されている。
【0018】
発振したレーザ光Lは、BPF13により波長選択されて、発振波長が488nmに設定される。BPF13の透過波長幅は一例として0.5nmや、1.0nm程度であり、それによりレーザ光Lは、極めて狭帯域のものとなる。こうして、例えば発振モードが縦シングルモードであって、さらに駆動電流の増減を行っても発振波長の変動幅が0.01nm以下である高品質の狭帯域レーザを得ることができる。
【0019】
通常、外部共振器の構成が無い場合、縦モードはマルチモードであり、駆動電流の増減による発振波長の変動幅も数nmと大きいので、外部共振器が構成されたことにより用途範囲が著しく拡大する。このレーザ光Lは、共振器ミラー15(例えば透過率35%)および光透過部材40aを透過した後、コリメートレンズ16によって平行光化され、所定の用途に用いられる。
【0020】
筐体40には、その温度を検出するサーミスタ42が組み込まれている。このサーミスタ42が出力する温度検出信号S1は、コントローラ(温度調節制御回路)43に入力される。コントローラ43は入力された温度検出信号S1が示す温度に基づいて、温度調節素子であるペルチェ素子30の駆動を制御する駆動制御信号S2を出力する。駆動制御信号S2は基本的に、筐体40に接合しているペルチェ素子30の接合面(
図1中で上面)を、温度検出信号S1が示す検出温度が所定温度(例えば36℃)より低い場合は加温させ、反対に検出温度が所定温度より高い場合は冷却させる信号である。ペルチェ素子30がこのように駆動制御されることにより、筐体40の温度は上記所定温度に設定される。そこで、筐体40内の共振器の長さが所定長さに維持されるので、共振器長が変化してレーザ光Lの光出力が変動することが防止される。
【0021】
ここで、以上述べた本発明によるレーザ装置1と、比較例として
図2に示した従来のレーザ装置100とを対比する。これらレーザ装置の基本的な相違点は、ペルチェ素子30と筐体40とが、従来のレーザ装置100では厚さが5μm~10μm程度と比較的薄い接着剤層21を介して接合されているのに対して、本発明によるレーザ装置1では、複数の略均一形状のスペーサ50が分散されている接着剤層21が用いられている点にある。本発明によるレーザ装置1では、上記のスペーサ50が分散されていることにより、筐体40とペルチェ素子30との間の距離が均一でかつ比較的大きく(一例として10μm~100μm程度)規定されている。
【0022】
本実施形態において、スペーサ50はより具体的には、二酸化ケイ素からなるセラミック製の球状ビーズである。ただしこの球状のビーズ50はそれ以外のセラミック製でもよく、さらにはジルコニア、アルミナ、あるいはガラス製のビーズも適用可能である。一般には、硬度が高く、不純物が少なくて安定性が高い無機材料製のビーズがより好適に用いられ得る。
【0023】
先に述べたように筐体40とペルチェ素子30との間の距離を均一に規定する上で、複数のビーズ50の外径はバラツキが無い、あるいは僅少であることが望ましい。上述のような材料からなるビーズ50は、外径の誤差が±10%内に収まるように作製可能であるので、上記距離を均一に規定する上で好ましい。ただし、ビーズ50の外径の誤差が±50%程度有っても、レーザ光Lの光出力変動を防止し、また筐体40の温度調節の応答性を高く保つ上で、実用上問題は無い。
【0024】
上記ビーズ50が分散される接着剤層21としては、熱応答が良いという点から本実施形態ではシリコーン系の熱伝導接着剤からなるものが適用されている。しかしそれに限らずに、熱応答は劣るものの、エポキシ系やシアノアクリル系の有機接着剤からなるものを適用することもできる。
【0025】
本実施形態では、接着剤にビーズ50を分散させた後、その接着剤をペルチェ素子30の接着面に塗布して接着剤層21としているが、ビーズ50が分散された接着剤層21は、その他の方法によって形成することも可能である。例えば、ペルチェ素子30の接着面に予め複数のビーズ50を撒き、その上に接着剤をディスペンサーで塗布することにより、ビーズ50が分散された接着剤層21を形成することもできる。
【0026】
接着剤量に対するビーズ50の分散量は、重量比で1%程度確保されていれば、後述する本発明の効果を得る上で十分である。ただし、ビーズ50の分散量が余りに少ないと、筐体40やペルチェ素子30の接着面を構成する金属の凹凸に埋もれてしまって、本発明の効果を十分に得ることができないことも起こり得るので、ビーズ50の総数は数十個程度以上であることが望ましい。以下、上記のことを詳しく説明する。
【0027】
ペルチェ素子30と筐体40の各接合面の面精度がガラスの様に凹凸が無い非常に良いものであるならば、1面当りのビーズ個数は最低3個あれば、ペルチェ素子30と筐体40との間の距離は一定値(ビーズ50の外径と同じ値)になる。1個あるいは2個ではペルチェ素子30と筐体40とが互いに傾いてしまうが、3個有れば傾くことがなく、3個を超えたビーズ50は無駄になる。以上は、上記各接合面が理想的な面であると仮定した上での幾何学的な見地からの判断であるが、上記各接合面の実際の面精度も考慮すると事情は異なってくる。
【0028】
つまり、上記各接合面は通常金属面であって、その金属面には一般に数μm~数10μm程度の切削痕が存在する。そのため、3個の内の1つのビーズ50がたまたま切削痕に埋もれてしまうと、ペルチェ素子30と筐体40との間の距離については2個の場合と同等の状態になる。そのように切削痕に埋もれるビーズ50がいくつか有っても、それに拘わらず上記距離について所望の状態を実現させるためには、3個を上回るビーズ個数が必要になる。本発明者が以上の見地から、接着剤量に対するビーズ50の好ましい分散量を求めた結果、重量比で1%程度有れば上記所望の状態を実現できることが判った。上記重量比が30%以上となる程に多数のビーズ50が分散されていると、接着剤層21の本来の接着機能が低下するので、それを回避するために上記重量比を1%程度とするのが望ましい。
【0029】
また温度調節素子としては、ペルチェ素子30以外の素子が用いられてもよい。例えば、冷却機能を備えない電気駆動ヒータ等も適用可能である。
【0030】
以上説明した構成を有する本実施形態のレーザ装置1が奏する効果について説明する。このレーザ装置1においては、接着剤層21として、筐体40とペルチェ素子30との間の距離を規定する、複数の略均一形状のビーズ50が分散されている接着剤層21が用いられているので、接着剤層21の厚さを均一に制御可能とした上で、この厚さを比較的大きく取ることができる。そこで、ペルチェ素子30の自身の温度変化による変形を筐体40に伝わり難くすることができる。そこで筐体40の変形、ひいては共振器長の変化を防止して、レーザ装置1の光出力変動を防止可能となる。
【0031】
次に、本実施形態のレーザ装置1における光出力変動を実際に測定した結果について説明する。ここでは、ビーズ50の外径をそれぞれ20μm、30μm、50μm、100μmとした(つまり、筐体40とペルチェ素子30との間の距離がそれらの各値となっている)4通りのレーザ装置1をサンプルとして作成し、各サンプルの周囲温度を10℃~40℃の範囲で変化させたときのレーザ光Lの光出力変動を測定した。
【0032】
この光出力変動を測定した結果を、
図3~
図6のグラフに示す。
図3、
図4、
図5、
図6の順に、ビーズ50の外径が20μm、30μm、50μm、100μmである場合の測定結果を示している。これらの図において、横軸の時間(h)はレーザ装置1を駆動開始してからの経過時間(単位は時間)を示し、右縦軸はレーザ装置1の周囲温度(単位は℃)を、左縦軸はレーザ光Lの光出力(相対値)を示している。各サンプルについて、複数の経過時間(h)毎に温度(℃)および光出力(相対値)を測定し、各グラフでは温度(℃)の測定値を四角形のプロットで、光出力(相対値)の測定値を円形のプロットで示している。それらのプロットを判別し易くするために、前者のプロットの集合には「T」の表示を付し、後者のプロットの集合には「P」の表示を付してある。
【0033】
なお、この測定に際してLD11は、駆動電流を一定値(一例として150mA)にして駆動した。このように駆動電流は一定値であるから、光出力変動の要因は、周囲温度の変化に応じたペルチェ素子30の変形を受けた筐体40の変形による共振器長変化であるということが判る。
【0034】
また、これらの測定結果と比較するために、
図2に示した従来のレーザ装置についても同様の測定を行い、その結果を
図7に示す。この比較例としての従来のレーザ装置は、
図2に示す接着剤層21がビーズを含まないで、その厚さが5μmとされたものである。
図7における測定結果の表示の仕方は、
図3~
図6におけるのと同様である。
【0035】
図3~
図6のグラフに示された、光出力の概ね測定開始時の値に対する変動量(比率で示す)に着目すると、この変動量は、ビーズ50の外径が20μm、30μm、50μm、100μmである場合にそれぞれ19%、12%、6%、6%となっている。この変動量は、
図7に示す従来のレーザ装置における28%と比べて顕著に抑えられており、前述した本発明による効果が裏付けられている。
【0036】
また
図9は、本実施形態のレーザ装置1においてビーズ50の外径を20μm、30μm、50μm、70μm、100μmとした場合の上記光出力変動量と、
図7に示す比較例としての従来のレーザ装置における光出力変動量とを併せて示している。同図に示される通り、ビーズ50の外径が50μm~100μmの範囲では光出力変動量が飽和している。したがって、光出力の変動を抑えるという観点からは、ビーズ50の外径を50μmよりも大とすることは特に効果的ではないと言える。
【0037】
他方、接着剤層21の熱伝導率は金属のそれと比べて一般に低いので、接着剤層21の厚さが大であるほど、筐体40の温度調節において熱応答の時間が遅くなる。したがって、この熱応答の時間をより短くして、かつ、光出力の変動を抑える上では、ビーズ50の外径を50μm程度とすることが一般的には望ましいと言える。しかし、熱応答時間を決める要因は接着剤層21の厚さの他に、サーミスタ42の取り付け位置、筐体40の熱容量、筐体40とペルチェ素子30との接着面積等、多くのものがある。
図9の測定結果を得た条件、つまり設定温度36℃で、ビーズ50の外径が20μmから100μmの範囲内では、いずれの測定の場合も、室温22℃から設定温度36℃までの到達時間は約2分以下であり、この到達時間の違いはバラツキの範囲内であった。したがって、熱応答時間を考慮に入れても、ビーズ50の外径は50μm~100μmの範囲内のいずれでも良いことが判った。
【0038】
次に
図10および
図11を参照して、本発明の第2実施形態によるレーザ装置2について説明する。なお、これらの
図10および
図11において、先に説明した
図1中のものと同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要の無い限り省略する(以下、同様)。
【0039】
このレーザ装置2は、
図1に示した第1実施形態のレーザ装置1と対比すると、球状のビーズ50に代えて、複数の円柱状のファイバー60がスペーサとして接着剤層21に分散されている点で相違するものである。複数のファイバー60は、長さが例えば1mmで、外径が例えば120μmと均一なものである。なお、複数のファイバー60の接着剤層21に沿った配置状態を
図11に示している。このような複数のファイバー60が接着剤層21に分散されていることにより、筐体40とペルチェ素子30との間の距離が均一の120μmに規定されている。
【0040】
以上の構成を有するレーザ装置2について、光出力の変動量を調べたところ、変動量は6%に抑えられていることが分かった。そこでこのレーザ装置2においても、第1実施形態のレーザ装置1による効果と同様の効果が得られていることが裏付けられた。
【0041】
なおファイバー60としては、長さが1mm以外のものも適用可能である。またファイバー60の外径も120μm以外であってもよく、規定したい筐体40とペルチェ素子30との間の距離に応じて適切な外径を選択すればよい。
【0042】
次に
図12を参照して、本発明の第3実施形態によるレーザ装置3について説明する。このレーザ装置3は、
図1に示した第1実施形態のレーザ装置1と対比すると、筐体40内に収容されたレーザが外部共振器型レーザではなく、レーザダイオード励起固体レーザである点で相違するものである。このレーザダイオード励起固体レーザは、励起光としてのレーザ光L1を出射するLD11と、発散するこのレーザ光L1を収束させる収束レンズ70と、レーザ光Lの収束位置に配されたNd:YAG結晶71と、その前方に配された共振器ミラー72とを備えて構成されている。
【0043】
LD11としては、波長808nmのレーザ光L1を出射するものが用いられている。Nd:YAG結晶71は、ネオジウム(Nd)がドーピングされた固体レーザ媒質であり、上記レーザ光L1により励起されて、波長946nmの光Lを発する。この光Lは、適宜のコーティングが施されたNd:YAG結晶71の後端面71aと共振器ミラー72のミラー面72aとの間で共振し、レーザ発振が引き起こされる。こうして得られた波長946nmの固体レーザ光Lは、光透過部材40aを透過して筐体40の外に取り出され、所定の用途に用いられる。
【0044】
以上の構成を有するレーザ装置3においても、複数の球状ビーズ50が分散された接着剤層21が用いられたことにより、第1実施形態のレーザ装置1が奏する効果と基本的に同様の効果が得られる。
【0045】
なお
図12に示したレーザダイオード励起固体レーザにおいて、Nd:YAG結晶71と共振器ミラー72との間に非線形光学結晶、例えばLBO(LiB
3O
5:三ホウ酸リチウム)を配置すると、第二高調波である波長473nmのブルー光を得ることができる。その他にも、このような波長変換(短波長化)を行うレーザダイオード励起固体レーザ等のレーザ装置は種々公知となっており、本発明はその種のレーザ装置に対しても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1、2、3 レーザ装置
10、40 筐体
11 レーザダイオード
12、16 コリメートレンズ
13 バンドパスフィルタ
14、70 収束レンズ
15、72 共振器ミラー
21、22 接着剤層
30 ペルチェ素子
42 サーミスタ
43 コントローラ
50 ビーズ
60 ファイバー
71 Nd:YAG結晶