(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】車両運動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/10 20120101AFI20231130BHJP
B60W 30/14 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B60W50/10
B60W30/14
(21)【出願番号】P 2021151871
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】福川 将城
(72)【発明者】
【氏名】大坪 道弘
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一城
(72)【発明者】
【氏名】酒井 陽次
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-132032(JP,A)
【文献】特開2009-18681(JP,A)
【文献】特開2004-239207(JP,A)
【文献】特開2008-37154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両に駆動力を伝達する駆動装置と、前記車両に制動力を付与する制動装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、
前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、
前記駆動装置および前記制動装置を制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算して、前記要求前後力を前記駆動装置および前記制動装置に出力する要求出力部と、
前記制動装置を操作する制動操作部材を前記車両の運転者が操作している場合に、前記制動操作部材の操作量に応じて演算される制動指示値を取得して、該制動指示値が前記要求値よりも小さい場合に前記運転者による操作干渉があると判定する判定部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記操作干渉がある場合に前記制御量の増加を禁止する
一方で、前記制御量の減少を許容する
車両運動制御装置。
【請求項2】
車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両に駆動力を伝達する駆動装置と、前記車両に制動力を付与する制動装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、
前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、
前記駆動装置および前記制動装置を制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算して、前記要求前後力を前記駆動装置および前記制動装置に出力する要求出力部と、
前記駆動装置を操作する加速操作部材を前記車両の運転者が操作している場合に、前記加速操作部材の操作量に応じて演算される加速指示値を取得して、該加速指示値が前記要求値よりも大きい場合に前記運転者による操作干渉があると判定する判定部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記操作干渉がある場合に前記制御量の減少を禁止する
一方で、前記制御量の増加を許容する
車両運動制御装置。
【請求項3】
車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両に駆動力を伝達する駆動装置と、前記車両に制動力を付与する制動装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、
前記要求値は、前記車両の前後方向に作用する力を示す前後力の上限として規定される上限要求値であり、
前記上限要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、
前記駆動装置および前記制動装置を制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算して、前記要求前後力を前記駆動装置および前記制動装置に出力する要求出力部と、
前記駆動装置を操作する加速操作部材の操作量に応じて演算される加速指示値を取得する判定部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記加速指示値が前記上限要求値よりも小さい場合に前記制御量の増加を禁止する一方で、前記加速指示値が前記上限要求値以上である場合に前記制御量の増加を許容する
車両運動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動を制御する車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動力を出力する駆動装置と、制動力を出力する制動装置と、駆動装置および制動装置を制御することによって自動運転制御を実行する自動運転制御装置と、を備える車両が記載されている。この自動運転制御装置では、目標加速度と実加速度との偏差を解消するために、フィードバック制御を実行して駆動力および制動力が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような自動運転制御の実行中に、車両の加速度に関する操作が運転者によって行われることがある。このとき、自動運転制御と運転者による操作とが干渉する場合がある。上記のようにフィードバック制御は、目標加速度と実加速度との偏差に基づくものである。このため、運転者による操作が行われている場合に、仮に、操作が干渉していない場合のようにフィードバック制御を続けると、制御量が過度に大きくなったり、制御量が過度に小さくなったりするおそれがある。たとえば、実際の加速度が目標加速度に収束しにくくなるおそれがある。また、運転者が減速を意図して操作を行った場合に車両を加速させる制御が行われるような、操作と相反する制御が行われるおそれもある。
【0005】
特許文献1に記載されているような制御装置では、運転者による操作の干渉を考慮して車両の制御を行うことが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両運動制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両に駆動力を伝達する駆動装置と、前記車両に制動力を付与する制動装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、前記駆動装置および前記制動装置を制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算して、前記要求前後力を前記駆動装置および前記制動装置に出力する要求出力部と、前記制動装置を操作する制動操作部材を前記車両の運転者が操作している場合に、前記制動操作部材の操作量に応じて演算される制動指示値を取得して、該制動指示値が前記要求値よりも小さい場合に前記運転者による操作干渉があると判定する判定部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記操作干渉がある場合に前記制御量の増加を禁止することをその要旨とする。
【0007】
運転者が制動操作部材を操作することによる制動指示値が要求値よりも小さくなる場合には、自動的に調整されている走行速度よりも走行速度を小さくしたいという意図が運転者の操作に含まれていると考えられる。この場合にフィードバック制御において制御量が増加されると、走行速度がより大きくなるおそれがあるため、運転者に違和感を与えることがある。そこで上記構成では、制動指示値が要求値よりも小さくなる操作干渉がある場合には、制御量の増加が禁止される。このため、車両の走行速度が自動的に調整されている際に操作を行った運転者に対して違和感を与えにくくなる。これによって、操作干渉を考慮しつつ、操作干渉がある場合にもフィードバック制御を継続して実行することができる。
【0008】
上記課題を解決するための車両運動制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両に駆動力を伝達する駆動装置と、前記車両に制動力を付与する制動装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、前記駆動装置および前記制動装置を制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算して、前記要求前後力を前記駆動装置および前記制動装置に出力する要求出力部と、前記駆動装置を操作する加速操作部材を前記車両の運転者が操作している場合に、前記加速操作部材の操作量に応じて演算される加速指示値を取得して、該加速指示値が前記要求値よりも大きい場合に前記運転者による操作干渉があると判定する判定部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記操作干渉がある場合に前記制御量の減少を禁止することをその要旨とする。
【0009】
運転者が加速操作部材を操作することによる加速指示値が要求値よりも大きくなる場合には、自動的に調整されている走行速度よりも走行速度を大きくしたいという意図が運転者の操作に含まれていると考えられる。この場合にフィードバック制御において制御量が減少されると、走行速度がより小さくなるおそれがあるため、運転者に違和感を与えることがある。そこで上記構成では、加速指示値が要求値よりも大きくなる操作干渉がある場合には、制御量の減少が禁止される。このため、車両の走行速度が自動的に調整されている際に操作を行った運転者に対して違和感を与えにくくなる。これによって、操作干渉を考慮しつつ、操作干渉がある場合にもフィードバック制御を継続して実行することができる。
【0010】
上記課題を解決するための車両運動制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両に駆動力を伝達する駆動装置と、前記車両に制動力を付与する制動装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、前記要求値は、前記車両の前後方向に作用する力を示す前後力の上限として規定される上限要求値であり、前記上限要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、前記駆動装置および前記制動装置を制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算して、前記要求前後力を前記駆動装置および前記制動装置に出力する要求出力部と、前記駆動装置を操作する加速操作部材の操作量に応じて演算される加速指示値を取得する判定部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記加速指示値が前記上限要求値よりも小さい場合に前記制御量の増加を禁止する一方で、前記加速指示値が前記上限要求値以上である場合に前記制御量の増加を許容することをその要旨とする。
【0011】
加速指示値が上限要求値に達していない場合に制御量が増加すると、その後に加速指示値が大きくなり上限要求値に達した時点において車両の前後力が既に大きくなっており上限要求値による前後力の制限ができなくなるおそれがある。そこで上記構成によれば、加速指示値が上限要求値よりも小さい場合には、制御量の増加が禁止される。このため、加速指示値が上限要求値よりも小さい場合に前後力が過度に大きくなることを抑制できる。そして一方で、加速指示値が上限要求値以上である場合には、制御量の増加が許容される。これによって、加速指示値が上限要求値以上である場合には、フィードバック制御によって偏差を小さくしつつ、前後力を上限要求値に制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態の車両運動制御装置と、同車両運動制御装置の制御対象である車両と、を示す模式図である。
【
図2】
図2は、同車両運動制御装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
【
図4】
図4は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態の車両運動制御装置を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
【
図7】
図7は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
【
図8】
図8は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
【
図9】
図9は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の車両運動制御装置10について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、駆動装置30と制動装置40と運転支援装置60と車両運動制御装置10とを備える車両90を示す。
【0014】
車両運動制御装置10は、車両90の運動を管理することができる。具体的には、車両運動制御装置10は、車両90の前後方向に作用する力を示す前後力を調整することによって車両90の運動を制御する。より具体的には、車両運動制御装置10は、駆動装置30および制動装置40を制御して車両90の前後方向における加速度を調整することによって車両90の走行速度を調整する。
【0015】
図1には、車両90が備える車軸92の一つと、車軸92に取り付けられている車輪91の一つと、を示している。
車両90は、車両90の運転者による操作が可能な操作部材を備えている。
図1には、操作部材として、加速操作部材93と制動操作部材94とを示している。加速操作部材93の一例は、アクセルペダルである。制動操作部材94の一例は、ブレーキペダルである。
【0016】
車両90は、車内監視系70を備えていてもよい。車内監視系70は、監視装置と、監視系制御装置と、を備えている。監視装置は、車両90の車内における情報を取得するためのカメラ等である。監視系制御装置は、CPU等の処理回路によって構成される。監視系制御装置は、監視装置が取得した情報を処理して車両運動制御装置10に送信することができる。
【0017】
〈運転支援装置〉
図1および
図2に示すように、運転支援装置60は、車両運動制御装置10に接続されている。運転支援装置60は、車両90の走行を支援するための要求値Rcを演算する。運転支援装置60は、要求値Rcを車両運動制御装置10に送信する。
【0018】
要求値Rcは、車両90の前後方向に作用する力を示す前後力の要求値である。要求値Rcが正の値である場合には、運転支援装置60が車両90の加速を要求していることを示す。一方、要求値Rcが負の値である場合には、運転支援装置60が車両90の減速を要求していることを示す。
【0019】
運転支援装置60は、車両90の周囲の情報を取得するための取得装置を備えている。取得装置は、たとえばカメラやレーダー等によって構成されている。取得装置は、車両90の周囲に位置する他の車両および障害物等に対する車両90との相対距離を取得することができる。取得装置は、車両90が走行する道路の形状を取得したり、車線を認識したりすることもできる。運転支援装置60は、要求値Rcを演算するための支援演算部を備えている。支援演算部は、取得装置によって得られる情報を用いて要求値Rcを演算する処理回路である。
【0020】
〈駆動装置〉
車両90が備える駆動装置30の一例は、電動モータによって駆動力を発生させる装置である。
図1には、駆動装置30が備えるアクチュエータとして、モータジェネレータ31を示している。モータジェネレータ31を電動機として機能させることによって、車両90に駆動力が伝達される。駆動力は、車軸92を介して車輪91に伝達される。なお、モータジェネレータ31を発電機として機能させると、車両90に回生制動力を作用させることができる。
【0021】
駆動装置30は、処理回路によって構成される駆動制御装置32を備えている。駆動制御装置32は、駆動装置30のアクチュエータを制御する機能を備えている。たとえば、駆動制御装置32は、車両運動制御装置10から送信される駆動要求値Fdqに基づいてモータジェネレータ31を作動させて駆動力を発生させることができる。また、駆動制御装置32は、加速操作部材93の操作量に応じてモータジェネレータ31を作動させて駆動力を発生させることもできる。駆動制御装置32は、駆動要求値Fdqに基づいてモータジェネレータ31を作動させている際に加速操作部材93が操作された場合には、加速操作部材93の操作量に応じて駆動要求値Fdqを増加させてもよい。たとえば、駆動制御装置32は、オーバライド操作が行われているか否かを判定するオーバライド判定処理を行うことができる。一例として駆動制御装置32は、加速指示値Saが要求値Rcよりも大きくなった場合にオーバライド操作が行われていると判定して、加速操作部材93の操作量を駆動力に反映させるように駆動装置30を作動させることができる。
【0022】
なお、駆動装置30のアクチュエータは、電動モータに限らず、内燃機関および変速装置でもよい。また、電動モータと内燃機関と変速装置とが駆動装置30に採用されていてもよい。その他、駆動装置30のアクチュエータとしては、車両の各車輪におけるホイールに電動モータを取り付けたインホイールモータでもよい。
【0023】
〈制動装置〉
車両90が備える制動装置40の一例は、摩擦制動装置である。
図1には、摩擦制動装置の一例として液圧制動装置を示している。制動装置40は、車両90の各車輪91に対応した制動機構50を備えている。
【0024】
制動機構50は、ホイールシリンダ53と、車輪91と一体回転する回転体51と、回転体51に対して押し付けることができる摩擦材52と、によって構成されている。制動機構50の一例は、ディスクブレーキである。制動機構50は、ドラムブレーキであってもよい。
【0025】
図1に示すように、液圧制動装置である制動装置40は、液圧発生装置を備えている。制動装置40は、液圧発生装置からブレーキ液が供給される制動アクチュエータ41を備えている。
【0026】
制動アクチュエータ41は、各ホイールシリンダ53に接続されている。液圧制動装置では、制動機構50が備えるホイールシリンダ53内の液圧であるWC圧に応じて摩擦制動力を発生させることができる。制動機構50は、WC圧が高いほど、車輪91と一体回転する回転体51に対して摩擦材52を押し付ける力が大きくなるように構成されている。各制動機構50は、WC圧が高いほど大きな制動力を車輪91に付与することができる。WC圧は、回転体51に摩擦材52を押し付ける押圧力を示す値の一例である。
【0027】
制動装置40は、処理回路によって構成される制動制御装置42を備えている。制動制御装置42は、制動装置40の制動アクチュエータ41を制御する機能を備えている。たとえば、制動制御装置42は、車両運動制御装置10から送信される制動要求値Fbqに基づいて制動アクチュエータ41を作動させて制動力を発生させることができる。また、制動制御装置42は、制動操作部材94の操作量に応じて制動アクチュエータ41を作動させて制動力を発生させることもできる。制動制御装置42は、制動要求値Fbqに基づいて制動アクチュエータ41を作動させている際に制動操作部材94が操作された場合には、制動操作部材94の操作量に応じて制動要求値Fbqを減少させてもよい。たとえば、制動制御装置42は、オーバライド操作が行われているか否かを判定するオーバライド判定処理を行うことができる。一例として制動制御装置42は、制動指示値Sbが要求値Rcよりも小さくなった場合にオーバライド操作が行われていると判定して、制動操作部材94の操作量を制動力に反映させるように制動装置40を作動させることができる。
【0028】
〈前後力〉
前後力の次元では、値が正である場合には、車両90を加速させる方向の力を示す。一方で、値が負である場合には、車両90を減速させる方向の力を示す。前後力の次元では、値が「0」から離れているほど車両90に作用させる力が大きいことを示す。
【0029】
駆動装置30では、駆動要求値Fdqが正の値である場合には、駆動要求値Fdqが大きいほど駆動力が大きくなるようモータジェネレータ31が制御される。駆動装置30では、駆動要求値Fdqが「0」である場合には、駆動力が伝達されない。
【0030】
制動装置40では、制動要求値Fbqが小さいほど制動力が大きくなるよう制動アクチュエータ41が制御される。制動装置40では、制動要求値Fbqが「0」である場合には、制動力が付与されない。制動要求値Fbqの最大値は、「0」である。
【0031】
なお、駆動要求値Fdqは、負の値として演算されることもある。駆動要求値Fdqが負の値である場合は、たとえば回生制動力が要求されていることを示す。駆動装置30は、駆動要求値Fdqが負の値である場合には、駆動要求値Fdqが小さいほど回生制動力が大きくなるようモータジェネレータ31を制御する。なお、駆動装置30に内燃機関が採用されている場合には、駆動要求値Fdqが負の値であることは、エンジンブレーキが要求されていることを示す。
【0032】
加速指示値Saと駆動力との関係を説明する。加速操作部材93の操作量が大きいほど加速指示値Saが大きく演算される。駆動制御装置32は、加速指示値Saが大きいほど駆動力が大きくなるよう駆動装置30を制御することができる。すなわち、駆動制御装置32は、加速操作部材93の操作量が大きいほど駆動力が大きくなるようモータジェネレータ31を制御することができる。
【0033】
制動指示値Sbと制動力との関係を説明する。制動操作部材94の操作量が大きいほど制動指示値Sbが小さく演算される。制動制御装置42は、制動指示値Sbが小さいほど制動力が大きくなるよう制動装置40を制御することができる。すなわち、制動制御装置42は、制動操作部材94の操作量が大きいほど制動力が大きくなるよう制動アクチュエータ41を制御することができる。
【0034】
〈センサ〉
車両90は、各種センサを備えている。
図1および
図2には、各種センサの一例として、車輪速センサSE1、前後加速度センサSE2、加速操作センサSE3および制動操作センサSE4を示している。各種センサからの検出信号は、車両運動制御装置10に入力される。
【0035】
車輪速センサSE1は、車輪速度Vwを検出するセンサである。車輪速センサSE1は、各車輪91のそれぞれに設けられている。車両運動制御装置10は、車輪速センサSE1からの検出信号に基づいて、各車輪91の車輪速度Vwを演算することができる。車両運動制御装置10は、各車輪速度Vwに基づいて車体速度Vxを演算することができる。車体速度Vxは、車両90の走行速度を示す。
【0036】
前後加速度センサSE2は、車両90の前後方向における加速度を検出するセンサである。車両運動制御装置10は、前後加速度センサSE2からの検出信号を加速度検出値Gxとして取得することができる。
【0037】
加速操作センサSE3は、加速操作部材93の操作量を検出するセンサである。車両運動制御装置10は、加速操作センサSE3の検出値に基づいて、加速指示値Saを演算することができる。加速指示値Saは、前後力の要求値を示す値として演算される。
【0038】
制動操作センサSE4は、制動操作部材94の操作量を検出するセンサである。車両運動制御装置10は、制動操作センサSE4の検出値に基づいて、制動指示値Sbを演算することができる。制動指示値Sbは、前後力の要求値を示す値として演算される。制動指示値Sbは、「0」以下の値である。
【0039】
〈車両運動制御装置〉
車両運動制御装置10について説明する。車両運動制御装置10は、運転支援装置60からの要求値Rcに基づいて車両90の走行速度を自動的に調整する運転支援制御を実行する。運転支援制御としては、自動運転、自動駐車、アダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシストおよび衝突回避ブレーキ等の制御が挙げられる。
【0040】
車両運動制御装置10は、駆動制御装置32および制動制御装置42と接続されている。車両運動制御装置10と駆動制御装置32と制動制御装置42との間では、情報の送受信が可能である。駆動制御装置32と制動制御装置42とは、車両運動制御装置10を介して情報の送受信をすることができる。駆動制御装置32と制動制御装置42とは、直接接続されていてもよい。この場合には、駆動制御装置32と制動制御装置42との間で情報を送受信することができる。
【0041】
車両運動制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている処理回路である。
図2には、機能部の一例として、車体速度演算部11、実加速度演算部12、目標加速度演算部14、偏差演算部15、PI制御部16、制限処理部17、干渉判定部20および要求出力部19を示している。車両運動制御装置10が備える各機能部は、互いに情報の送受信が可能である。
【0042】
車体速度演算部11は、車輪速センサSE1の検出信号に基づく車輪速度Vwから、車両90の走行速度、すなわち車体速度Vxを演算する。
実加速度演算部12は、車体速度Vxを時間微分した値と、前後加速度センサSE2の検出信号に基づく加速度検出値Gxと、に基づいて、車両90の実加速度Gaを演算する。
【0043】
目標加速度演算部14は、運転支援装置60から送信される要求値Rcに基づいて目標加速度Gtを演算する。具体的には、目標加速度演算部14は、前後力である要求値Rcを加速度に変換することによって、目標加速度Gtを演算する。車両90の加速が要求されている場合には、目標加速度Gtは、正の値となる。車両90の減速が要求されている場合には、目標加速度Gtは、負の値となる。
【0044】
偏差演算部15は、目標加速度演算部14が演算した目標加速度Gtから実加速度演算部12が演算した実加速度Gaを差し引くことで、加速度の偏差hGを演算する。
PI制御部16及び制限処理部17は、フィードバック制御部を構成する。フィードバック制御部は、偏差hGに基づいて、偏差hGを小さくするためのフィードバック制御量を演算する。フィードバック制御部は、フィードバック制御量として制限制御量Rsを出力する。
【0045】
要求出力部19は、駆動装置30および制動装置40を制御する制御量を演算する。たとえば要求出力部19は、駆動装置30および制動装置40を制御する要求前後力を演算する。要求出力部19は、要求前後力として駆動要求値Fdqおよび制動要求値Fbqを出力する。車両運動制御装置10では、要求値Rcと制限制御量Rsとの和が補正後要求値Rtとして要求出力部19に入力される。すなわち、補正後要求値Rtは、制限制御量Rsが大きいほど大きい値になる。補正後要求値Rtは、制限制御量Rsが小さいほど小さい値になる。要求出力部19は、補正後要求値Rtに応じて駆動要求値Fdqおよび制動要求値Fbqを演算する。要求出力部19は、駆動要求値Fdqを駆動装置30に出力する。要求出力部19は、制動要求値Fbqを制動装置40に出力する。なお、要求出力部19が演算して出力する制御量は、前後力の次元の値に限らない。要求出力部19が演算して出力する制御量は、加速度の次元の値でもよいし、力の次元の値でもよい。
【0046】
干渉判定部20は、車両90の運転者による操作が運転支援制御に干渉しているか否かを判定する。干渉判定部20には、加速指示値Sa、制動指示値Sbおよび要求値Rcが入力される。干渉判定部20は、加速指示値Sa、制動指示値Sbおよび要求値Rcに基づいて、操作干渉があるか否かを判定する。干渉判定部20は、操作干渉がある場合には、当該操作干渉が起きた状況に応じて増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbのうち少なくとも一方のフラグをONに設定する。干渉判定部20によるフラグ操作の詳細は、後述する。
【0047】
〈〈フィードバック制御部〉〉
フィードバック制御部について、より詳細に説明する。
図2に示すように、PI制御部16は、偏差hGに基づいてFB制御量Rhを出力する。PI制御部16による演算は、比例制御および積分制御を含む。PI制御部16は、偏差hGを小さくするためのフィードバック制御量として、FB制御量Rhを演算する。PI制御部16は、FB制御量Rhを演算する過程で、値を前後力の次元に変換する。
【0048】
フィードバック制御部では、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbのうち少なくとも一方のフラグがONにされている間は、PI制御部16は、積分制御を停止する。積分制御が停止されている期間でもPI制御部16は、FB制御量Rhの演算を継続する。すなわち、当該期間に演算されるFB制御量Rhは、積分項が加算されていない値となる。
【0049】
図2に示すように、制限処理部17には、FB制御量Rhが入力される。制限処理部17は、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbに応じて、制限制御量Rsを出力する。
【0050】
制限処理部17は、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbがOFFにされている場合には、入力されたFB制御量Rhを制限制御量Rsとして出力する。
制限処理部17は、増加禁止フラグKaがONにされている場合には、フィードバック制御量が増加することを禁止する。この処理について具体的に説明する。制限処理部17は、増加禁止フラグKaがONにされている場合には、PI制御部16からFB制御量Rhが入力されると、当該FB制御量Rhと前回出力した制限制御量Rsとを比較する。制限処理部17は、入力されたFB制御量Rhが制限制御量Rs以上である場合には、前回出力した制限制御量Rsと同じ値の制限制御量Rsを出力する。一方で、FB制御量Rhが制限制御量Rsよりも小さい場合には、入力されたFB制御量Rhを制限制御量Rsとして出力する。
【0051】
制限処理部17は、減少禁止フラグKbがONにされている場合には、フィードバック制御量が減少することを禁止する。この処理について具体的に説明する。制限処理部17は、減少禁止フラグKbがONにされている場合には、PI制御部16からFB制御量Rhが入力されると、当該FB制御量Rhと前回出力した制限制御量Rsとを比較する。制限処理部17は、入力されたFB制御量Rhが制限制御量Rs以下である場合には、前回出力した制限制御量Rsと同じ値の制限制御量Rsを出力する。一方で、FB制御量Rhが制限制御量Rsよりも大きい場合には、入力されたFB制御量Rhを制限制御量Rsとして出力する。
【0052】
〈〈干渉判定部〉〉
干渉判定部20の機能について、例を挙げて詳細に説明する。
図3は、運転支援制御が実行されている際に加速操作部材93の操作による操作干渉が発生する場合の例を示す。
図3の(a)には、干渉判定部20に入力されている加速指示値Saと要求値Rcとを示す。
図3に示す例では、
図3の(a)に示すように、要求値Rcが正の値である。要求値Rcは、
図3に例示する期間において一定であるとする。
図3の(a)に示すように、タイミングt11以降では、加速操作部材93の操作量が大きくされて、加速指示値Saが増大している。タイミングt11以降において増大している加速指示値Saは、タイミングt12以降では、要求値Rcよりも大きくなっている。
【0053】
干渉判定部20は、加速指示値Saが要求値Rcよりも大きいと、操作干渉があると判定する。そして、干渉判定部20は、減少禁止フラグKbをONに設定する。すなわち干渉判定部20は、タイミングt12において操作干渉があると判定する。そして、
図3の(c)に示すように、タイミングt12において減少禁止フラグKbをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt12以降においてフィードバック制御量が減少することを禁止する。
【0054】
干渉判定部20は、加速指示値Saが減少して加速指示値Saが要求値Rc以下になると、操作干渉が解消されたと判定する。そして干渉判定部20は、減少禁止フラグKbをOFFに設定する。
【0055】
図3の(b)に示す増加禁止フラグKaは、
図3に示す例の場合には、干渉判定部20によって操作されない。すなわち、増加禁止フラグKaは、タイミングt12以降もOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加することを禁止しない。このため、タイミングt12以降においてもフィードバック制御量が増加することは許容されている。
【0056】
図4は、運転支援制御が実行されている際に制動操作部材94が操作される場合の例を示す。
図4の(a)には、干渉判定部20に入力されている制動指示値Sbと要求値Rcとを示す。
図4に示す例では、
図4の(a)に示すように、要求値Rcが正の値である。要求値Rcは、
図4に例示する期間において一定であるとする。
図4の(a)に示すように、タイミングt21よりも前の期間では、制動指示値Sbが「0」である。すなわち、タイミングt21よりも前の期間では、制動操作部材94が操作されていない。タイミングt21において制動操作部材94の操作が開始されている。タイミングt21以降では、制動操作部材94の操作量が大きくされて、制動指示値Sbが負の値になっている。
【0057】
干渉判定部20は、制動指示値Sbが要求値Rcよりも小さいと、操作干渉があると判定する。そして、干渉判定部20は、増加禁止フラグKaをONに設定する。
図4に示す例では要求値Rcが正の値であるため、制動操作部材94の操作が開始されて制動指示値Sbが演算され始めた時点から、制動指示値Sbが要求値Rcよりも小さくなる。すなわち干渉判定部20は、タイミングt21以降において、制動指示値Sbが要求値Rcよりも小さくなったと判定して、操作干渉があると判定する。そして、
図4の(b)に示すように、タイミングt21において増加禁止フラグKaをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt21以降においてフィードバック制御量が増加することを禁止する。
【0058】
干渉判定部20は、制動操作部材94の操作が解消されると、操作干渉が解消されたと判定する。そして干渉判定部20は、増加禁止フラグKaをOFFに設定する。なお、
図4に示す例とは異なり要求値Rcが負の値である場合には、干渉判定部20は、制動指示値Sbが増加して制動指示値Sbが要求値Rc以上になると、操作干渉が解消されたと判定する。そして干渉判定部20は、増加禁止フラグKaをOFFに設定する。
【0059】
図4の(c)に示す減少禁止フラグKbは、
図4に示す例の場合には、干渉判定部20によって操作されない。すなわち、減少禁止フラグKbは、タイミングt21以降もOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が減少することを禁止しない。このため、タイミングt21以降においてもフィードバック制御量が減少することは許容されている。
【0060】
〈作用および効果〉
第1実施形態の作用および効果について説明する。
運転支援制御の実行中において、車両90の運転者が制動操作部材94を操作することによる制動指示値Sbが要求値Rcよりも小さくなる場合には、自動的に調整されている走行速度よりも走行速度を小さくしたいという意図が操作に含まれていると考えられる。この場合にフィードバック制御部が出力するフィードバック制御量が増加されると、走行速度がより大きくなるおそれがあるため、運転者に違和感を与えることがある。
【0061】
この点、車両運動制御装置10では、制動指示値Sbが要求値Rcよりも小さくなる操作干渉がある場合には、フィードバック制御量の増加が禁止される。より詳しくは、増加が禁止された制限制御量Rsが制限処理部17によって出力される。このため、車両90の走行速度が自動的に調整されている際に操作を行った運転者に対して違和感を与えにくくなる。これによって、操作干渉を考慮しつつ、操作干渉がある場合にもフィードバック制御を継続して実行することができる。
【0062】
車両運動制御装置10では、フィードバック制御量の増加が禁止されることによって、フィードバック制御量の増加が禁止されない場合と比較して、フィードバック制御量が過度に大きくなることを抑制できる。これによって、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束するまでの時間が長くなることを抑制できる。
【0063】
運転支援制御の実行中において、車両90の運転者が加速操作部材93を操作することによる加速指示値Saが要求値Rcよりも大きくなる場合には、自動的に調整されている走行速度よりも走行速度を大きくしたいという意図が操作に含まれていると考えられる。この場合にフィードバック制御部が出力するフィードバック制御量が減少されると、走行速度がより小さくなるおそれがあるため、運転者に違和感を与えることがある。
【0064】
この点、車両運動制御装置10では、加速指示値Saが要求値Rcよりも大きくなる操作干渉がある場合には、フィードバック制御量の減少が禁止される。より詳しくは、減少が禁止された制限制御量Rsが制限処理部17によって出力される。このため、車両90の走行速度が自動的に調整されている際に操作を行った運転者に対して違和感を与えにくくなる。これによって、操作干渉を考慮しつつ、操作干渉がある場合にもフィードバック制御を継続して実行することができる。
【0065】
車両運動制御装置10では、
図3に例示したように加速指示値Saが要求値Rcよりも大きくなった場合には、フィードバック制御量の減少を禁止する一方で、フィードバック制御量の増加を許容する。これによって、フィードバック制御量の増加によって偏差hGを小さくできる場合には、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束するように制限制御量Rsを演算することができる。
【0066】
車両運動制御装置10では、
図4に例示したように制動指示値Sbが要求値Rcよりも小さくなった場合には、フィードバック制御量の増加を禁止する一方で、フィードバック制御量の減少を許容する。これによって、フィードバック制御量の減少によって偏差hGを小さくできる場合には、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束するように制限制御量Rsを演算することができる。
【0067】
車両運動制御装置10によれば、操作干渉がある場合でもフィードバック制御を継続することができる。より詳しくは、操作干渉がある場合でもフィードバック制御部は、FB制御量Rhの演算を継続する。これによって、操作干渉が解消された後において、目標加速度Gtと実加速度Gaとの偏差hGを小さくするフィードバック制御の連続性を確保することができる。
【0068】
車両運動制御装置10では、操作干渉がある場合には、積分制御が停止される。このため、FB制御量Rhは、運転者による操作が干渉している期間における時間経過による影響を受けることがない。これによって、フィードバック制御の連続性を確保することができる。
【0069】
(第2実施形態)
第2実施形態の車両運動制御装置110について、
図5~
図9を参照して説明する。以下では、第2実施形態の車両運動制御装置110について、第1実施形態の車両運動制御装置10と異なる構成について説明する。第1実施形態の車両運動制御装置10と共通の構成についての説明は、適宜省略する。
【0070】
第1実施形態では、運転支援装置60は、要求値Rcを車両運動制御装置10に送信するように構成した。第2実施形態では、運転支援装置60は、上限要求値Rjおよび下限要求値Rkを演算する。運転支援装置60は、要求値Rcに替えて、上限要求値Rjおよび下限要求値Rkを送信する。上限要求値Rjは、車両90の前後方向に作用する前後力の上限として規定される値である。下限要求値Rkは、車両90の前後方向に作用する前後力の下限として規定される値である。
【0071】
さらに、車両運動制御装置110は、調停部113を備えている。調停部113には、上限要求値Rjおよび下限要求値Rkが入力される。調停部113は、上限要求値Rjと下限要求値Rkとを比較して、小さい方の要求値を調停後の要求値Rxとして出力する。すなわち、上限要求値Rjが下限要求値Rkよりも小さい場合には、上限要求値Rjが調停後の要求値Rxとして出力される。また、下限要求値Rkが上限要求値Rjよりも小さい場合には、下限要求値Rkが調停後の要求値Rxとして出力される。
【0072】
目標加速度演算部14は、調停後の要求値Rxを用いて目標加速度Gtを演算する。
干渉判定部120は、調停後の要求値Rx、すなわち上限要求値Rjまたは下限要求値Rkと、加速指示値Saおよび制動指示値Sbに基づいて、操作干渉があるか否かを判定する。
【0073】
車両運動制御装置110では、調停部113が出力する調停後の要求値Rxと、制限処理部17が出力する制限制御量Rsと、の和が補正後要求値Rtとして要求出力部19に入力される。
【0074】
〈〈干渉判定部〉〉
干渉判定部120の機能について、例を挙げて詳細に説明する。
まず、
図6および
図7を用いて、調停後の要求値Rxが下限要求値Rkである場合について説明する。
図6および
図7に示す例では、
図6の(a)および
図7の(a)に示すように、下限要求値Rkが正の値である。下限要求値Rkは、
図6および
図7に例示するそれぞれの期間において一定であるとする。
【0075】
図6は、運転支援制御が実行されている際に加速操作部材93の操作による操作干渉が発生する場合の例を示す。
図6の(a)に示すように、タイミングt31以降では、加速操作部材93の操作量が大きくされて、加速指示値Saが増大している。タイミングt31以降において増大している加速指示値Saは、タイミングt32以降では、下限要求値Rkよりも大きくなっている。
【0076】
干渉判定部120は、加速指示値Saが下限要求値Rkよりも大きいと、操作干渉があると判定する。そして、干渉判定部120は、減少禁止フラグKbをONに設定する。すなわち干渉判定部120は、タイミングt32において操作干渉があると判定する。そして、
図6の(c)に示すように、タイミングt32において減少禁止フラグKbをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt32以降においてフィードバック制御量が減少することを禁止する。
【0077】
干渉判定部120は、加速指示値Saが減少して加速指示値Saが下限要求値Rk以下になると、操作干渉が解消されたと判定する。そして干渉判定部120は、減少禁止フラグKbをOFFに設定する。
【0078】
図6の(b)に示す増加禁止フラグKaは、
図6に示す例の場合には、干渉判定部120によって操作されない。すなわち、増加禁止フラグKaは、タイミングt32以降もOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加することを禁止しない。このため、タイミングt32以降においてもフィードバック制御量が増加することは許容されている。
【0079】
図7は、運転支援制御が実行されている際に制動操作部材94が操作される場合の例を示す。
図7の(a)に示すように、タイミングt41よりも前の期間では、制動指示値Sbが「0」である。すなわち、タイミングt41よりも前の期間では、制動操作部材94が操作されていない。タイミングt41において制動操作部材94の操作が開始されている。タイミングt41以降では、制動操作部材94の操作量が大きくされて、制動指示値Sbが負の値になっている。
【0080】
干渉判定部120は、制動指示値Sbが下限要求値Rkよりも小さいと、操作干渉があると判定する。そして、干渉判定部120は、増加禁止フラグKaをONに設定する。
図7に示す例では下限要求値Rkが正の値であるため、制動操作部材94の操作が開始されて制動指示値Sbが演算され始めた時点から、制動指示値Sbが下限要求値Rkよりも小さくなる。すなわち干渉判定部120は、タイミングt41以降において、制動指示値Sbが下限要求値Rkよりも小さくなったと判定して、操作干渉があると判定する。そして、
図7の(b)に示すように、タイミングt41において増加禁止フラグKaをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt41以降においてフィードバック制御量が増加することを禁止する。
【0081】
干渉判定部120は、制動操作部材94の操作が解消されると、操作干渉が解消されたと判定する。そして干渉判定部120は、増加禁止フラグKaをOFFに設定する。
図7の(c)に示す減少禁止フラグKbは、
図7に示す例の場合には、干渉判定部120によって操作されない。すなわち、減少禁止フラグKbは、タイミングt41以降もOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が減少することを禁止しない。このため、タイミングt41以降においてもフィードバック制御量が減少することは許容されている。
【0082】
次に、
図8および
図9を用いて、調停後の要求値Rxが上限要求値Rjである場合について説明する。
図8に示す例では、
図8の(a)に示すように、上限要求値Rjが負の値である。
図9に示す例では、
図9の(a)に示すように、上限要求値Rjが正の値である。上限要求値Rjは、
図8および
図9に例示するそれぞれの期間において一定であるとする。
【0083】
図8は、運転支援制御が実行されている際に制動操作部材94が操作される場合の例を示す。
図8の(a)に示すように、タイミングt51よりも前の期間では、制動指示値Sbが「0」である。すなわち、タイミングt51よりも前の期間では、制動操作部材94が操作されていない。タイミングt51において制動操作部材94の操作が開始されている。タイミングt51以降では、制動操作部材94の操作量が大きくされて、制動指示値Sbが負の値になっている。
【0084】
干渉判定部120は、制動指示値Sbが上限要求値Rjよりも小さいと、操作干渉があると判定する。そして、干渉判定部120は、増加禁止フラグKaをONに設定する。
図8に示す例では制動操作部材94の操作が開始されてからタイミングt52よりも前の期間では、上限要求値Rjの方が制動指示値Sbよりも小さい。干渉判定部120は、制動指示値Sbが上限要求値Rjよりも小さくなるタイミングt52以降において、操作干渉があると判定する。そして、
図8の(b)に示すように、タイミングt52において増加禁止フラグKaをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt52以降においてフィードバック制御量が増加することを禁止する。
【0085】
干渉判定部120は、制動指示値Sbが増加して制動指示値Sbが上限要求値Rj以上になると、操作干渉が解消されたと判定する。そして干渉判定部120は、増加禁止フラグKaをOFFに設定する。
【0086】
図8の(c)に示す減少禁止フラグKbは、
図8に示す例の場合には、干渉判定部120によって操作されない。すなわち、減少禁止フラグKbは、タイミングt52以降もOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が減少することを禁止しない。このため、タイミングt52以降においてもフィードバック制御量が減少することは許容されている。
【0087】
図9は、運転支援制御が実行されている際に加速操作部材93が操作される場合の例を示す。
図9の(a)に示すように、タイミングt61以降では、加速操作部材93の操作量が大きくされて、加速指示値Saが増大している。加速指示値Saは、タイミングt62よりも前の期間では、上限要求値Rjよりも小さい。加速指示値Saは、タイミングt62において上限要求値Rjに達している。その後、加速指示値Saは、上限要求値Rjよりも大きくなっている。
【0088】
干渉判定部120は、加速指示値Saが上限要求値Rjよりも小さい場合には、増加禁止フラグKaをONに設定する。すなわち干渉判定部120は、タイミングt62よりも前の期間では、
図9の(b)に示すように、増加禁止フラグKaをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt62よりも前の期間ではフィードバック制御量が増加することを禁止する。すなわち、干渉判定部120は、駆動装置30を操作する加速操作部材93の操作量に応じて演算される加速指示値Saを取得する。フィードバック制御部は、加速指示値Saが上限要求値Rjよりも小さい場合にフィードバック制御量の増加を禁止する。
【0089】
干渉判定部120は、加速指示値Saが上限要求値Rj以上である場合には、増加禁止フラグKaをOFFに設定する。干渉判定部120は、加速指示値Saが上限要求値Rj以上である場合には、操作干渉があると判定する。すなわち干渉判定部120は、タイミングt62以降では、
図9の(b)に示すように、増加禁止フラグKaをOFFに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt62以降ではフィードバック制御量が増加することを許容する。
【0090】
図9の(c)に示す減少禁止フラグKbは、
図9に示す例の場合には、干渉判定部120によって操作されない。すなわち、減少禁止フラグKbは、
図9に例示する期間においてOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が減少することを禁止しない。このため、
図9に例示する期間ではフィードバック制御量が減少することは許容されている。
【0091】
〈作用および効果〉
第2実施形態の作用および効果について説明する。
車両運動制御装置110によれば、第1実施形態と同様に、操作干渉を考慮しつつ、操作干渉がある場合にもフィードバック制御を継続して実行することができる。
【0092】
図6に例示したように調停後の要求値Rxが下限要求値Rkである場合に加速指示値Saが下限要求値Rkよりも大きくなる状況の一例は、アダプティブクルーズコントロールが実行されている場合に運転者が車両90を加速させようとする状況である。車両運動制御装置110では、このような場合に、フィードバック制御量の減少を禁止してフィードバック制御を継続することができる。
【0093】
図7に例示したように調停後の要求値Rxが下限要求値Rkである場合に制動指示値Sbが下限要求値Rkよりも小さくなる状況の一例は、アダプティブクルーズコントロールが実行されている場合に運転者が車両90を減速させようとする状況である。車両運動制御装置110では、このような場合に、フィードバック制御量の増加を禁止してフィードバック制御を継続することができる。
【0094】
図8に例示したように調停後の要求値Rxが上限要求値Rjである場合に制動指示値Sbが上限要求値Rjよりも小さくなる状況の一例は、衝突回避ブレーキが実行されている場合に運転者が車両90をさらに減速させようとする状況である。車両運動制御装置110では、このような場合に、フィードバック制御量の増加を禁止してフィードバック制御を継続することができる。
【0095】
車両90では前後力の上限が上限要求値Rjである。調停後の要求値Rxが上限要求値Rjであり加速指示値Saが上限要求値Rjに達していない場合には、駆動装置30は、上限要求値Rjではなく加速指示値Saに従って制御されている状態である。加速指示値Saが上限要求値Rjに達していない場合にフィードバック制御量が増加すると、その後に加速指示値Saが大きくなり上限要求値Rjに達した時点において、たとえば次のような問題が生じることがある。たとえば、加速指示値Saが上限要求値Rjに達した時点において、車両90に実際に作用する前後力が既に大きくなっており上限要求値Rjによる前後力の制限ができなくなるおそれがある。
【0096】
この点、車両運動制御装置110では、加速指示値Saが上限要求値Rjよりも小さい場合には、フィードバック制御量の増加が禁止される。このため、加速指示値Saが上限要求値Rjよりも小さい場合に前後力が過度に大きくなることを抑制できる。そして一方で、加速指示値Saが上限要求値Rj以上である場合には、フィードバック制御量の増加が許容される。これによって、加速指示値Saが上限要求値Rj以上である場合には、フィードバック制御によって偏差hGを小さくしつつ、前後力を上限要求値Rjに制限することができる。
【0097】
なお、車両運動制御装置110によれば、加速指示値Saが「0」よりも小さい場合にも、加速指示値Saが上限要求値Rjよりも小さければフィードバック制御量の増加が禁止される。たとえば、運転者が加速操作部材93を操作しないことによってエンジンブレーキを要求しているような場合に、加速指示値Saが上限要求値Rjよりも小さければフィードバック制御量の増加を禁止することができる。
【0098】
(他の実施形態)
上記第1実施形態および第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。各実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0099】
・車両運動制御装置10,110には、車内監視系70からの情報に基づく置換要求値Rrが入力されてもよい。置換要求値Rrは、前後力の要求値である。置換要求値Rrは、運転者が車両90の操作を行うことができない場合に車内監視系70から出力される。車両運動制御装置10,110は、置換要求値Rrが入力されている場合には、運転支援装置60からの要求値に替えて置換要求値Rrに基づいて目標加速度Gtを演算するとよい。
【0100】
・上記第1実施形態および第2実施形態では、要求値Rc、上限要求値Rjおよび下限要求値Rkを前後力とした。運転支援装置60からの要求値は、前後力と相関する値であればよい。たとえば、要求値は、加速度であってもよい。この場合、車両運動制御装置10,110は、目標加速度Gtを演算する必要がない点で目標加速度演算部14を省略することもできる。また、要求値は、車軸トルクでもよい。
【0101】
要求値が前後力ではない場合であっても、要求値の次元と、加速指示値Saおよび制動指示値Sbの次元と、を合わせれば、干渉判定部20,120において操作干渉があるか否かを判定することが可能である。
【0102】
・上記第1実施形態および第2実施形態におけるフィードバック制御部の構成は一例である。フィードバック制御部において実行されるフィードバック制御量の増加または減少を禁止する処理は、上記実施形態に例示したものに限らない。
【0103】
・処理回路である車両運動制御装置10、車両運動制御装置110、駆動制御装置32、制動制御装置42および支援演算部は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置の例は、CPU、DSPおよびGPU等である。プロセッサは、メモリを備える。メモリの例は、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等である。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等である。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える回路。
【0104】
・駆動制御装置32、制動制御装置42および支援演算部が実現する機能の一部または全部は、車両運動制御装置10,110によって実現されてもよい。
・車両運動制御装置10,110が実現する機能の一部は、車両運動制御装置10,110と接続されている他の処理回路によって実現されてもよい。
【0105】
・制動装置40として例示した摩擦制動装置の他の例は、電動モータの駆動力を機械的に伝達して回転体に摩擦材を押し付ける電動制動装置である。この場合には、電動モータが制動装置のアクチュエータに対応する。
【0106】
・車両90が摩擦制動装置を備えていることは必須の構成ではない。摩擦制動装置を備えていない車両においては、回生制動力を発生させることのできる装置が制動装置に対応する。
【符号の説明】
【0107】
10…車両運動制御装置
16…PI制御部
17…制限処理部
19…要求出力部
20…干渉判定部
30…駆動装置
31…モータジェネレータ
32…駆動制御装置
40…制動装置
41…制動アクチュエータ
42…制動制御装置
60…運転支援装置
90…車両
91…車輪
93…加速操作部材
94…制動操作部材
110…車両運動制御装置
120…干渉判定部