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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】車両運動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20231130BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021151872
(22)【出願日】2021-09-17
(65)【公開番号】P2023044043
(43)【公開日】2023-03-30
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】浅野 誠之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一城
(72)【発明者】
【氏名】酒井 陽次
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-107225(JP,A)
【文献】特開2020-019456(JP,A)
【文献】国際公開第2021/144065(WO,A1)
【文献】特開2020-045077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させるアクチュエータと、前記車両の車輪の空転を抑制するトラクション制御を実行するアクチュエータ制御装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、
前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、
前記アクチュエータを制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算する要求出力部と、
制御可能な前記前後力の範囲であるアベイラビリティを表す情報として、前記トラクション制御が実行されているか否かを取得する取得部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記トラクション制御が実行されている場合に、前記制御量の増加を禁止する
車両運動制御装置。
【請求項2】
車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させるアクチュエータと、前記車両の車輪のロックを抑制するアンチロックブレーキ制御、および前記車両の横滑りを防止する横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御を実行するアクチュエータ制御装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、
前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、
前記アクチュエータを制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算する要求出力部と、
制御可能な前記前後力の範囲であるアベイラビリティを表す情報として、前記アンチロックブレーキ制御および前記横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されているか否かを取得する取得部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記アンチロックブレーキ制御および前記横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合に、前記制御量を一定に維持する
車両運動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動を制御する車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動力を出力する駆動装置と、制動力を出力する制動装置と、駆動装置および制動装置を制御することによって自動運転制御を実施する自動運転制御装置と、を備える車両が記載されている。この自動運転制御装置では、目標加速度と実加速度との偏差を解消するために、フィードバック制御を実行して駆動力および制動力が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-98972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の前後方向に作用する力を示す前後力は、車両を加速させる方向の力が大きいほど大きい値を示す。また、前後力は、車両を減速させる方向の力が大きいほど小さい値を示す。前後力を制御可能な範囲は、車両の走行中の状況に応じて変動しうる。たとえば、駆動装置として発生可能な前後力の範囲がある。制動装置としても発生可能な前後力の範囲がある。また、制動装置および駆動装置のうち少なくとも一方の装置を対象とする自動運転制御以外の制御が介入した場合には、当該制御の内容によって前後力を制御可能な範囲が制限されることがある。
【0005】
前後力を制御可能な範囲を超えるような要求を駆動装置または制動装置に行っても、当該要求が反映された前後力を実現することはできない。要求する前後力を実現できない状態でフィードバック制御を続けると、制御量が過度に大きくなったり、制御量が過度に小さくなったりするおそれがある。その後、前後力を制御可能な範囲に要求が収まる状態に移行すると、実加速度が目標加速度に収束するまでに要する時間が長くなるおそれがある。このため、特許文献1に記載されているようなフィードバック制御を行う場合には、制御可能な前後力の範囲を考慮して車両の制御を行うことが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両運動制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させるアクチュエータと、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、前記アクチュエータを制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算する要求出力部と、制御可能な前記前後力の範囲であるアベイラビリティとして、前記アクチュエータが発生可能な前記前後力の範囲を取得する取得部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記要求前後力が前記アベイラビリティにおける最小値よりも小さい場合に、前記制御量の減少を禁止することをその要旨とする。
【0007】
上記構成では、アクチュエータが発生可能な前後力の範囲がアベイラビリティとして取得される。すなわち、アベイラビリティの最小値は、アクチュエータが発生可能な最小値である。要求前後力がアベイラビリティにおける最小値よりも小さい場合には、要求前後力に応じた前後力を実現することができない。この状態で制御量の減少を許容すると、前後力が減少されない状態で制御量がさらに減少される場合がある。こうした場合には、車両に実際に作用する前後力が減少することなく制御量が不要に減少を続けることになる。制御量が過度に小さくされると、実際の加速度が目標加速度に収束することの妨げとなるおそれがある。そこで上記構成によれば、要求前後力がアベイラビリティにおける最小値よりも小さい場合には、制御量の減少が禁止される。このため、制御量が過度に小さくなることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。
【0008】
上記課題を解決するための車両運動制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させるアクチュエータと、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、前記アクチュエータを制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算する要求出力部と、制御可能な前記前後力の範囲であるアベイラビリティとして、前記アクチュエータが発生可能な前記前後力の範囲を取得する取得部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記要求前後力が前記アベイラビリティにおける最大値よりも大きい場合に、前記制御量の増加を禁止することをその要旨とする。
【0009】
上記構成では、アクチュエータが発生可能な前後力の範囲がアベイラビリティとして取得される。すなわち、アベイラビリティの最大値は、アクチュエータが発生可能な最大値である。要求前後力がアベイラビリティにおける最大値よりも大きい場合には、要求前後力に応じた前後力を実現することができない。この状態で制御量の増加を許容すると、前後力が増加されない状態で制御量がさらに増加される場合がある。こうした場合には、車両に実際に作用する前後力が増加することなく制御量が不要に増加を続けることになる。制御量が過度に大きくされると、実際の加速度が目標加速度に収束することの妨げとなるおそれがある。そこで上記構成によれば、要求前後力がアベイラビリティにおける最大値よりも大きい場合には、制御量の増加が禁止される。このため、制御量が過度に大きくなることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。
【0010】
上記課題を解決するための車両運動制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させるアクチュエータと、前記車両の車輪の空転を抑制するトラクション制御を実行するアクチュエータ制御装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、前記アクチュエータを制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算する要求出力部と、制御可能な前記前後力の範囲であるアベイラビリティを表す情報として、前記トラクション制御が実行されているか否かを取得する取得部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記トラクション制御が実行されている場合に、前記制御量の増加を禁止することをその要旨とする。
【0011】
トラクション制御は、車輪の加速スリップを抑制する制御である。トラクション制御では、駆動力の減少または制動力の増加によって加速スリップの抑制を実現する。このようなトラクション制御が実行されている場合に、仮に前後力を増加させると、トラクション制御の目的である加速スリップの抑制を達成できないおそれがある。このため、トラクション制御が実行されている場合には、前後力を増加させることに制限がある。換言すれば、トラクション制御が実行されている場合には、トラクション制御が実行されていない場合よりもアベイラビリティが狭く制限されるといえる。こうしたトラクション制御が実行されている場合に制御量の増加を許容すると、前後力が増加されない状態で制御量がさらに増加される場合がある。こうした場合には、車両に実際に作用する前後力が増加することなく制御量が不要に増加を続けることになる。制御量が過度に大きくされると、実際の加速度が目標加速度に収束することの妨げとなるおそれがある。
【0012】
そこで上記構成によれば、トラクション制御が実行されている場合には、制御量の増加が禁止される。このため、制御量が過度に大きくなることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。
【0013】
上記課題を解決するための車両運動制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させるアクチュエータと、前記車両の車輪のロックを抑制するアンチロックブレーキ制御、および前記車両の横滑りを防止する横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御を実行するアクチュエータ制御装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、前記アクチュエータを制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算する要求出力部と、制御可能な前記前後力の範囲であるアベイラビリティを表す情報として、前記アンチロックブレーキ制御および前記横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されているか否かを取得する取得部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記アンチロックブレーキ制御および前記横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合に、前記制御量を一定に維持することをその要旨とする。
【0014】
アンチロックブレーキ制御は、車両を制動する際に車輪のスリップ量を低下させる制御である。アンチロックブレーキ制御では、制動力を調整してスリップ量の低下を実現する。このようなアンチロックブレーキ制御が実行されている場合に、仮に前後力を増加または減少させると、アンチロックブレーキ制御の目的であるスリップ量の低下を達成できないおそれがある。横滑り防止制御は、車両を旋回させる際に車輪のスリップ量を低下させる制御である。横滑り防止制御では、駆動力および制動力を調整してスリップ量の低下を実現する。このような横滑り防止制御が実行されている場合に、仮に前後力を増加または減少させると、横滑り防止制御の目的であるスリップ量の低下を達成できないおそれがある。
【0015】
このため、アンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合には、前後力を増加および減少させることに制限がある。換言すれば、アンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合には、アンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御の両方が実行されていない場合よりもアベイラビリティが狭く制限されるといえる。こうしたアンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合に制御量の増加および減少を許容すると、前後力が増減されない状態で制御量がさらに増減される場合がある。こうした場合には、車両に実際に作用する前後力が増減することなく制御量が不要に増加または減少を続けることになる。制御量が過度に大きくされたり過度に小さくされたりすると、実際の加速度が目標加速度に収束することの妨げとなるおそれがある。
【0016】
そこで上記構成によれば、アンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合には、制御量が一定に維持される。このため、制御量が過度に大きくなったり過度に小さくなったりすることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。
【0017】
上記課題を解決するための車両運動制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させるアクチュエータとして駆動装置と摩擦制動装置と、を有する車両に適用され、前記運転支援装置からの要求値に基づいて前記車両の走行速度を自動的に調整する車両運動制御装置であって、前記要求値に応じた加速度である目標加速度と前記車両の実際の加速度との偏差を入力とするフィードバック制御を実行することによって、前記偏差を小さくするための制御量を演算するフィードバック制御部と、前記アクチュエータを制御する要求前後力を前記制御量に基づいて演算する要求出力部と、制御可能な前記前後力の範囲であるアベイラビリティを表す情報として、前記摩擦制動装置における摩擦材の温度を取得する取得部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記温度が判定温度以上である場合に、前記制御量の減少を禁止することをその要旨とする。
【0018】
摩擦制動装置では、摩擦材を回転体に押圧する押圧力と、当該押圧力に応じて実際に車輪に作用する制動力と、の関係が摩擦材の温度に応じて変化することがある。特に、摩擦材の温度が過度に高くなると、押圧力を増加させても制動力が増加しにくくなるという問題がある。すなわち、摩擦制動装置の作動によって前後力を減少させることができない場合がある。この状態で制御量の減少を許容すると、前後力が減少されない状態で制御量がさらに減少される場合がある。こうした場合には、車両に実際に作用する前後力が減少することなく制御量が不要に減少を続けることになる。制御量が過度に小さくされると、実際の加速度が目標加速度に収束することの妨げとなるおそれがある。そこで上記構成によれば、摩擦材の温度が判定温度以上である場合には、制御量の減少が禁止される。このため、制御量が過度に小さくなることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、車両運動制御装置の一実施形態と、同車両運動制御装置の制御対象である車両と、を示す模式図である。
図2図2は、同車両運動制御装置を示すブロック図である。
図3図3は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
図4図4は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
図5図5は、同車両運動制御装置が実行する処理を説明する図である。
図6図6は、同車両運動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、同車両運動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、同車両運動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、車両運動制御装置の一実施形態について、図1図8を参照して説明する。
図1は、駆動装置30と制動装置40と運転支援装置60と車両運動制御装置10とを備える車両90を示す。
【0021】
車両運動制御装置10は、車両90の運動を管理することができる。具体的には、車両運動制御装置10は、車両90の前後方向に作用する力を示す前後力を調整することによって車両90の運動を制御する。より具体的には、車両運動制御装置10は、駆動装置30および制動装置40を制御して車両90の前後方向における加速度を調整することによって車両90の走行速度を調整する。
【0022】
図1には、車両90が備える車軸92の一つと、車軸92に取り付けられている車輪91の一つと、を示している。車輪91は、駆動輪である。
車両90は、車内監視系70を備えていてもよい。車内監視系70は、監視装置と、監視系制御装置と、を備えている。監視装置は、車両90の車内における情報を取得するためのカメラ等である。監視系制御装置は、CPU等の処理回路によって構成される。監視系制御装置は、監視装置が取得した情報を処理して車両運動制御装置10に送信することができる。
【0023】
〈運転支援装置〉
図1および図2に示すように、運転支援装置60は、車両運動制御装置10に接続されている。運転支援装置60は、車両90の走行を支援するための要求値Rcを演算する。運転支援装置60は、要求値Rcを車両運動制御装置10に送信する。
【0024】
要求値Rcは、車両90の前後方向に作用する力を示す前後力の要求値である。要求値Rcが正の値である場合には、運転支援装置60が車両90の加速を要求していることを示す。一方、要求値Rcが負の値である場合には、運転支援装置60が車両90の減速を要求していることを示す。
【0025】
運転支援装置60は、車両90の周囲の情報を取得するための取得装置を備えている。取得装置は、たとえばカメラやレーダー等によって構成されている。取得装置は、車両90の周囲に位置する他の車両および障害物等に対する車両90との相対距離を取得することができる。取得装置は、車両90が走行する道路の形状を取得したり、車線を認識したりすることもできる。運転支援装置60は、要求値Rcを演算するための支援演算部を備えている。支援演算部は、取得装置によって得られる情報を用いて要求値Rcを演算する処理回路である。
【0026】
〈駆動装置〉
車両90が備える駆動装置30の一例は、電動モータによって駆動力を発生させる装置である。図1には、駆動装置30が備えるアクチュエータとして、モータジェネレータ31を示している。モータジェネレータ31は、車両90が備えるバッテリに接続されている。モータジェネレータ31を電動機として機能させることによって、車両90に駆動力が伝達される。駆動力は、車軸92を介して車輪91に伝達される。モータジェネレータ31は、前後力を発生させるアクチュエータの一例である。なお、モータジェネレータ31を発電機として機能させると、車両90に回生制動力を作用させることができる。
【0027】
駆動装置30は、処理回路によって構成される駆動制御装置32を備えている。駆動制御装置32は、駆動装置30のアクチュエータを制御する機能を備えている。たとえば、駆動制御装置32は、車両運動制御装置10から送信される駆動要求値Fdqに基づいてモータジェネレータ31を作動させて駆動力を発生させることができる。
【0028】
なお、駆動装置30のアクチュエータは、電動モータに限らず、内燃機関および変速装置でもよい。また、電動モータと内燃機関と変速装置とが駆動装置30に採用されていてもよい。その他、駆動装置30のアクチュエータとしては、車両の各車輪におけるホイールに電動モータを取り付けたインホイールモータでもよい。
【0029】
〈制動装置〉
車両90が備える制動装置40の一例は、摩擦制動装置である。図1には、摩擦制動装置の一例として液圧制動装置を示している。制動装置40は、車両90の各車輪91に対応した制動機構50を備えている。
【0030】
制動機構50は、ホイールシリンダ53と、車輪91と一体回転する回転体51と、回転体51に対して押し付けることができる摩擦材52と、によって構成されている。制動機構50の一例は、ディスクブレーキである。制動機構50は、ドラムブレーキであってもよい。
【0031】
図1に示すように、液圧制動装置である制動装置40は、液圧発生装置を備えている。制動装置40は、液圧発生装置からブレーキ液が供給される制動アクチュエータ41を備えている。
【0032】
制動アクチュエータ41は、各ホイールシリンダ53に接続されている。液圧制動装置では、制動機構50が備えるホイールシリンダ53内の液圧であるWC圧に応じて摩擦制動力を発生させることができる。制動機構50は、WC圧が高いほど、車輪91と一体回転する回転体51に対して摩擦材52を押し付ける力が大きくなるように構成されている。各制動機構50は、WC圧が高いほど大きな制動力を車輪91に付与することができる。WC圧は、回転体51に摩擦材52を押し付ける押圧力を示す値の一例である。制動アクチュエータ41は、前後力を発生させるアクチュエータの一例である。
【0033】
制動装置40は、処理回路によって構成される制動制御装置42を備えている。制動制御装置42は、制動装置40の制動アクチュエータ41を制御する機能を備えている。たとえば、制動制御装置42は、車両運動制御装置10から送信される制動要求値Fbqに基づいて制動アクチュエータ41を作動させて制動力を発生させることができる。
【0034】
制動制御装置42は、摩擦材52の温度を取得してもよい。たとえば、制動制御装置42は、摩擦材52の温度を推定する推定処理を実行する。推定処理の一例としては、摩擦材52を回転体51に押し付けている時間、押圧力の大きさ、および摩擦材52が回転体51から離れている時間に基づいて、摩擦材温度Tpを推定することができる。摩擦材温度Tpは、摩擦材52の温度を検出する温度センサの検出信号に基づいて取得してもよい。
【0035】
〈車両安定制御〉
駆動制御装置32および制動制御装置42は、車両90の走行を安定させるための車両安定制御を実行する機能を備えていてもよい。車両安定制御としては、たとえば、トラクション制御、アンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御等が挙げられる。
【0036】
トラクション制御は、車輪91のうち駆動輪の加速スリップを抑制することによって、駆動輪の空転を抑制する制御である。トラクション制御では、駆動力の減少または制動力の増加によって、駆動輪の加速スリップの抑制を実現する。駆動制御装置32および制動制御装置42は、トラクション制御を実行するアクチュエータ制御装置に対応する。
【0037】
アンチロックブレーキ制御は、車両90を制動する際に車輪91のスリップ量を低下させることによって、車輪91のロックを抑制する制御である。アンチロックブレーキ制御では、制動力を調整することによって車輪91のスリップ量の低下を実現する。制動制御装置42は、アンチロックブレーキ制御を実行するアクチュエータ制御装置に対応する。
【0038】
横滑り防止制御は、車両90を旋回させる際に車輪91のスリップ量を低下させることによって、車両90の横滑りを抑制する制御である。横滑り防止制御では、駆動力および制動力を調整して車輪91のスリップ量の低下を実現する。駆動制御装置32および制動制御装置42は、横滑り防止制御を実行するアクチュエータ制御装置に対応する。
【0039】
アクチュエータ制御装置は、トラクション制御を開始すると、TCS実行フラグLTをONに設定する。アクチュエータ制御装置は、トラクション制御を終了すると、TCS実行フラグLTをOFFに設定する。
【0040】
アクチュエータ制御装置は、アンチロックブレーキ制御を開始すると、ABS実行フラグLAをONに設定する。アクチュエータ制御装置は、アンチロックブレーキ制御を終了すると、ABS実行フラグLAをOFFに設定する。
【0041】
アクチュエータ制御装置は、横滑り防止制御を開始すると、ESC実行フラグLEをONに設定する。アクチュエータ制御装置は、横滑り防止制御を終了すると、ESC実行フラグLEをOFFに設定する。
【0042】
車両安定制御は、駆動装置30または制動装置40を作動させる制御のうち優先度が高い制御である。車両安定制御が実行されている間は、優先度の低い制御が制限されることがある。
【0043】
〈前後力〉
前後力の次元では、値が正である場合には、車両90を加速させる方向の力を示す。一方で、値が負である場合には、車両90を減速させる方向の力を示す。前後力の次元では、値が「0」から離れているほど車両90に作用させる力が大きいことを示す。
【0044】
駆動装置30では、駆動要求値Fdqが正の値である場合には、駆動要求値Fdqが大きいほど駆動力が大きくなるようモータジェネレータ31が制御される。駆動装置30では、駆動要求値Fdqが「0」である場合には、駆動力が伝達されない。
【0045】
制動装置40では、制動要求値Fbqが小さいほど制動力が大きくなるよう制動アクチュエータ41が制御される。制動装置40では、制動要求値Fbqが「0」である場合には、制動力が付与されない。制動要求値Fbqの最大値は、「0」である。
【0046】
なお、駆動要求値Fdqは、負の値として演算されることもある。駆動要求値Fdqが負の値である場合は、たとえば回生制動力が要求されていることを示す。駆動装置30は、駆動要求値Fdqが負の値である場合には、駆動要求値Fdqが小さいほど回生制動力が大きくなるようモータジェネレータ31を制御する。なお、駆動装置30に内燃機関が採用されている場合には、駆動要求値Fdqが負の値であることは、エンジンブレーキが要求されていることを示す。
【0047】
〈アベイラビリティ〉
車両90の前後力を制御可能な範囲をアベイラビリティという。アベイラビリティは、車両90の走行中に、車両90の状態量等によって変動する。
【0048】
アベイラビリティを規定する一例は、駆動装置30における伝達可能範囲AyPTである。伝達可能範囲AyPTは、駆動装置30が備えるモータジェネレータ31が発生可能な前後力の範囲である。たとえば、伝達可能範囲AyPTは、駆動制御装置32によって演算される。たとえば、伝達可能範囲AyPTは、バッテリからモータジェネレータ31に供給が可能な電力量によって変動する。伝達可能範囲AyPTの最大値を第1最大前後力Fdxとして、伝達可能範囲AyPTの最小値を第1最小前後力Fdzとする。
【0049】
アベイラビリティを規定する一例は、制動装置40における制動可能範囲AyBRである。制動可能範囲AyBRは、制動装置40が備える制動アクチュエータ41が発生可能な前後力の範囲である。たとえば、制動可能範囲AyBRは、制動制御装置42によって演算される。たとえば、制動可能範囲AyBRは、ブレーキ液の温度によって変動する。制動可能範囲AyBRの最大値を第2最大前後力Fbxとして、制動可能範囲AyBRの最小値を第2最小前後力Fbzとする。
【0050】
アベイラビリティを規定する他の例として、車両安定制御の実行状態を挙げることができる。車両安定制御の実行状態に応じて、車両安定制御よりも優先度の低い制御に関してのアベイラビリティが制限される。
【0051】
たとえば、トラクション制御が実行されている場合に、仮に前後力を増加させると、トラクション制御の目的である加速スリップの抑制を達成できないおそれがある。このため、トラクション制御が実行されている場合には、前後力の増加を制限することが好ましい。換言すれば、トラクション制御が実行されている場合には、トラクション制御が実行されていない場合よりもアベイラビリティを狭く制限することが好ましい。より好ましくは、アベイラビリティの最大値を「0」にすることである。
【0052】
また、たとえば、アンチロックブレーキ制御が実行されている場合に、仮に前後力を増加または減少させると、アンチロックブレーキ制御の目的であるスリップ量の低下を達成できないおそれがある。このため、アンチロックブレーキ制御が実行されている場合には、前後力の増加および減少を制限することが好ましい。換言すれば、アンチロックブレーキ制御が実行されている場合には、アンチロックブレーキ制御が実行されていない場合よりもアベイラビリティを狭く制限することが好ましい。より好ましくは、アベイラビリティの最大値および最小値を「0」にすることである。
【0053】
また、たとえば、横滑り防止制御が実行されている場合に、仮に前後力を増加または減少させると、横滑り防止制御の目的であるスリップ量の低下を達成できないおそれがある。このため、横滑り防止制御が実行されている場合には、前後力の増加および減少を制限することが好ましい。換言すれば、横滑り防止制御が実行されている場合には、横滑り防止制御が実行されていない場合よりもアベイラビリティを狭く制限することが好ましい。より好ましくは、アベイラビリティの最大値および最小値を「0」にすることである。
【0054】
さらに、アベイラビリティを規定する他の例として、摩擦材温度Tpを挙げることができる。摩擦制動装置である制動装置40では、摩擦材52を回転体51に押圧する押圧力と、当該押圧力に応じて実際に車輪91に作用する制動力と、の関係が摩擦材温度Tpに応じて変化することがある。特に、摩擦材温度Tpが過度に高くなると、押圧力を増加させても制動力が増加しにくくなるという問題がある。すなわち、制動装置40の作動によって前後力を減少させることができない場合がある。このため、摩擦材温度Tpが高い場合には、摩擦材温度Tpが低い場合と比較して、制動可能範囲AyBRの最小値である第2最小前後力Fbzが「0」に近い値になるといえる。
【0055】
以上のように、伝達可能範囲AyPT、制動可能範囲AyBR、車両安定制御の実行状態、および摩擦材温度Tpは、車両90の前後力を制御可能な範囲であるアベイラビリティを表す情報の例である。アベイラビリティは、車両安定制御の実行状態および摩擦材温度Tpによって、伝達可能範囲AyPTまたは制動可能範囲AyBRよりも制限されることがある。
【0056】
〈センサ〉
車両90は、各種センサを備えている。図1および図2には、各種センサの一例として、車輪速センサSE1および前後加速度センサSE2を示している。各種センサからの検出信号は、車両運動制御装置10に入力される。
【0057】
車輪速センサSE1は、車輪速度Vwを検出するセンサである。車輪速センサSE1は、各車輪91のそれぞれに設けられている。車両運動制御装置10は、車輪速センサSE1からの検出信号に基づいて、各車輪91の車輪速度Vwを演算することができる。車両運動制御装置10は、各車輪速度Vwに基づいて車体速度Vxを演算することができる。車体速度Vxは、車両90の走行速度を示す。
【0058】
前後加速度センサSE2は、車両90の前後方向における加速度を検出するセンサである。車両運動制御装置10は、前後加速度センサSE2からの検出信号を加速度検出値Gxとして取得することができる。
【0059】
〈車両運動制御装置〉
車両運動制御装置10について説明する。車両運動制御装置10は、運転支援装置60からの要求値Rcに基づいて車両90の走行速度を自動的に調整する運転支援制御を実行する。運転支援制御としては、たとえば、自動運転、自動駐車、アダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシストおよび衝突回避ブレーキ等の制御が挙げられる。運転支援制御は、車両安定制御よりも優先度が低い制御である。
【0060】
車両運動制御装置10は、駆動制御装置32および制動制御装置42と接続されている。車両運動制御装置10と駆動制御装置32と制動制御装置42との間では、情報の送受信が可能である。駆動制御装置32と制動制御装置42とは、車両運動制御装置10を介して情報の送受信をすることができる。駆動制御装置32と制動制御装置42とは、直接接続されていてもよい。この場合には、駆動制御装置32と制動制御装置42との間で情報を送受信することができる。
【0061】
車両運動制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている処理回路である。図2には、機能部の一例として、車体速度演算部11、実加速度演算部12、目標加速度演算部14、偏差演算部15、PI制御部16、制限処理部17、取得部20および要求出力部19を示している。車両運動制御装置10が備える各機能部は、互いに情報の送受信が可能である。
【0062】
車体速度演算部11は、車輪速センサSE1の検出信号に基づく車輪速度Vwから、車両90の走行速度、すなわち車体速度Vxを演算する。
実加速度演算部12は、車体速度Vxを時間微分した値と、前後加速度センサSE2の検出信号に基づく加速度検出値Gxと、に基づいて、車両90の実加速度Gaを演算する。
【0063】
目標加速度演算部14は、運転支援装置60から送信される要求値Rcに基づいて目標加速度Gtを演算する。具体的には、目標加速度演算部14は、前後力である要求値Rcを加速度に変換することによって、目標加速度Gtを演算する。車両90の加速が要求されている場合には、目標加速度Gtは、正の値となる。車両90の減速が要求されている場合には、目標加速度Gtは、負の値となる。
【0064】
偏差演算部15は、目標加速度演算部14が演算した目標加速度Gtから実加速度演算部12が演算した実加速度Gaを差し引くことで、加速度の偏差hGを演算する。
PI制御部16及び制限処理部17は、フィードバック制御部を構成する。フィードバック制御部は、偏差hGに基づいて、偏差hGを小さくするためのフィードバック制御量を演算する。フィードバック制御部は、フィードバック制御量として制限制御量Rsを出力する。
【0065】
要求出力部19は、駆動装置30および制動装置40を制御する要求前後力を演算する。要求出力部19は、要求前後力として駆動要求値Fdqおよび制動要求値Fbqを出力する。車両運動制御装置10では、要求値Rcと制限制御量Rsとの和が補正後要求値Rtとして要求出力部19に入力される。すなわち、補正後要求値Rtは、制限制御量Rsが大きいほど大きい値になる。補正後要求値Rtは、制限制御量Rsが小さいほど小さい値になる。要求出力部19は、補正後要求値Rtに応じて駆動要求値Fdqおよび制動要求値Fbqを演算する。要求出力部19は、駆動要求値Fdqを駆動装置30に出力する。要求出力部19は、制動要求値Fbqを制動装置40に出力する。
【0066】
取得部20は、アベイラビリティを取得する。具体的には、取得部20は、アベイラビリティを表す情報として、以下の情報を取得することができる。取得部20は、駆動装置30の駆動制御装置32から、伝達可能範囲AyPTの第1最大前後力Fdxおよび第1最小前後力Fdzを取得する。取得部20は、制動装置40の制動制御装置42から、制動可能範囲AyBRの第2最大前後力Fbxおよび第2最小前後力Fbzを取得する。取得部20は、アクチュエータ制御装置から、TCS実行フラグLT、ABS実行フラグLA、およびESC実行フラグLEを取得する。取得部20は、制動制御装置42から摩擦材温度Tpを取得する。また、取得部20は、要求出力部19から駆動要求値Fdqおよび制動要求値Fbqを取得する。
【0067】
取得部20は、取得したアベイラビリティおよび要求前後力に応じて、増加禁止フラグKaと減少禁止フラグKbとを操作する。取得部20によるフラグ操作の詳細は、後述する。
【0068】
〈〈フィードバック制御部〉〉
フィードバック制御部について、より詳細に説明する。
図2に示すように、PI制御部16は、偏差hGに基づいてFB制御量Rhを出力する。PI制御部16による演算は、比例制御および積分制御を含む。PI制御部16は、偏差hGを小さくするためのフィードバック制御量として、FB制御量Rhを演算する。PI制御部16は、FB制御量Rhを演算する過程で、値を前後力の次元に変換する。
【0069】
フィードバック制御部では、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbのうち少なくとも一方のフラグがONにされている間は、PI制御部16は、積分制御を停止する。積分制御が停止されている期間でもPI制御部16は、FB制御量Rhの演算を継続する。すなわち、当該期間に演算されるFB制御量Rhは、積分項が加算されていない値となる。
【0070】
図2に示すように、制限処理部17には、FB制御量Rhが入力される。制限処理部17は、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbに応じて、制限制御量Rsを出力する。
【0071】
制限処理部17は、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbがOFFにされている場合には、入力されたFB制御量Rhを制限制御量Rsとして出力する。
制限処理部17は、増加禁止フラグKaがONにされている場合には、フィードバック制御量が増加することを禁止する。この処理について具体的に説明する。制限処理部17は、増加禁止フラグKaがONにされている場合には、PI制御部16からFB制御量Rhが入力されると、当該FB制御量Rhと前回出力した制限制御量Rsとを比較する。制限処理部17は、入力されたFB制御量Rhが制限制御量Rs以上である場合には、前回出力した制限制御量Rsと同じ値の制限制御量Rsを出力する。一方で、FB制御量Rhが制限制御量Rsよりも小さい場合には、入力されたFB制御量Rhを制限制御量Rsとして出力する。
【0072】
制限処理部17は、減少禁止フラグKbがONにされている場合には、フィードバック制御量が減少することを禁止する。この処理について具体的に説明する。制限処理部17は、減少禁止フラグKbがONにされている場合には、PI制御部16からFB制御量Rhが入力されると、当該FB制御量Rhと前回出力した制限制御量Rsとを比較する。制限処理部17は、入力されたFB制御量Rhが制限制御量Rs以下である場合には、前回出力した制限制御量Rsと同じ値の制限制御量Rsを出力する。一方で、FB制御量Rhが制限制御量Rsよりも大きい場合には、入力されたFB制御量Rhを制限制御量Rsとして出力する。
【0073】
〈〈取得部〉〉
取得部20の機能について、例を挙げて詳細に説明する。
図3および図4を用いて、伝達可能範囲AyPTおよび駆動要求値Fdqに基づいて取得部20がフラグの操作を行う場合の例を説明する。
【0074】
図3は、運転支援制御が実行されている際に駆動要求値Fdqが増加する場合の例を示す。図3の(a)には、取得部20に入力されている伝達可能範囲AyPTと駆動要求値Fdqとを示す。図3の(a)に示すように、タイミングt11よりも前の期間では、駆動要求値Fdqは「0」である。タイミングt11以降では、駆動要求値Fdqが増大している。タイミングt11以降において増大している駆動要求値Fdqは、タイミングt12以降では、第1最大前後力Fdxよりも大きくなっている。
【0075】
取得部20は、駆動要求値Fdqが伝達可能範囲AyPTにおける第1最大前後力Fdxよりも大きい場合に、駆動要求値Fdqがアベイラビリティの最大値よりも大きいと判定する。そして、取得部20は、増加禁止フラグKaをONに設定する。すなわち取得部20は、タイミングt12において駆動要求値Fdqがアベイラビリティの最大値よりも大きいと判定する。そして、図3の(b)に示すように、タイミングt12において増加禁止フラグKaをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt12以降においてフィードバック制御量が増加することを禁止する。
【0076】
取得部20は、駆動要求値Fdqが減少して駆動要求値Fdqが第1最大前後力Fdx以下になると、駆動要求値Fdqがアベイラビリティの範囲内にあると判定する。そして取得部20は、増加禁止フラグKaをOFFに設定する。
【0077】
図3の(c)に示す減少禁止フラグKbは、図3に示す例の場合には、取得部20によって操作されない。すなわち、減少禁止フラグKbは、タイミングt12以降もOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が減少することを禁止しない。このため、タイミングt12以降においてもフィードバック制御量が減少することは許容されている。
【0078】
図4は、運転支援制御が実行されている際に駆動要求値Fdqが減少する場合の例を示す。図4の(a)には、取得部20に入力されている伝達可能範囲AyPTと駆動要求値Fdqとを示す。図4の(a)に示すように、タイミングt21よりも前の期間では、駆動要求値Fdqは「0」である。タイミングt21以降では、駆動要求値Fdqが減少している。タイミングt21以降において減少している駆動要求値Fdqは、タイミングt22以降では、第1最小前後力Fdzよりも小さくなっている。
【0079】
取得部20は、駆動要求値Fdqが伝達可能範囲AyPTにおける第1最小前後力Fdzよりも小さい場合に、駆動要求値Fdqがアベイラビリティの最小値よりも小さいと判定する。そして、取得部20は、減少禁止フラグKbをONに設定する。すなわち取得部20は、タイミングt22において駆動要求値Fdqがアベイラビリティの最小値よりも小さいと判定する。そして、図4の(c)に示すように、タイミングt22において減少禁止フラグKbをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt22以降においてフィードバック制御量が減少することを禁止する。
【0080】
取得部20は、駆動要求値Fdqが増加して駆動要求値Fdqが第1最小前後力Fdz以上になると、駆動要求値Fdqがアベイラビリティの範囲内にあると判定する。そして取得部20は、減少禁止フラグKbをOFFに設定する。
【0081】
図4の(b)に示す増加禁止フラグKaは、図4に示す例の場合には、取得部20によって操作されない。すなわち、増加禁止フラグKaは、タイミングt22以降もOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加することを禁止しない。このため、タイミングt22以降においてもフィードバック制御量が増加することは許容されている。
【0082】
図5を用いて、制動可能範囲AyBRおよび制動要求値Fbqに基づいて取得部20がフラグの操作を行う場合の例を説明する。
図5は、運転支援制御が実行されている際に制動要求値Fbqが減少する場合の例を示す。図5の(a)には、取得部20に入力されている制動可能範囲AyBRと制動要求値Fbqとを示す。図5の(a)に示すように、タイミングt31よりも前の期間では、制動要求値Fbqは「0」である。タイミングt31以降では、制動要求値Fbqが減少している。タイミングt31以降において減少している制動要求値Fbqは、タイミングt32以降では、第2最小前後力Fbzよりも小さくなっている。
【0083】
取得部20は、制動要求値Fbqが制動可能範囲AyBRにおける第2最小前後力Fbzよりも小さい場合に、制動要求値Fbqがアベイラビリティの最小値よりも小さいと判定する。そして、取得部20は、減少禁止フラグKbをONに設定する。すなわち取得部20は、タイミングt32において制動要求値Fbqがアベイラビリティの最小値よりも小さいと判定する。そして、図5の(c)に示すように、タイミングt22において減少禁止フラグKbをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、タイミングt32以降においてフィードバック制御量が減少することを禁止する。
【0084】
取得部20は、制動要求値Fbqが増加して制動要求値Fbqが第2最小前後力Fbz以上になると、制動要求値Fbqがアベイラビリティの範囲内にあると判定する。そして取得部20は、減少禁止フラグKbをOFFに設定する。
【0085】
図5の(b)に示す増加禁止フラグKaは、図5に示す例の場合には、取得部20によって操作されない。すなわち、増加禁止フラグKaは、タイミングt32以降もOFFに設定されている。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加することを禁止しない。このため、タイミングt32以降においてもフィードバック制御量が増加することは許容されている。
【0086】
なお、図3~5に示した例では、いずれの車両安定制御も実行されていないものとする。さらに、図3~5に示した例では、摩擦材温度Tpが判定温度Txよりも低いものとする。
【0087】
図6を用いて、トラクション制御の実行状態に基づいて取得部20がフラグの操作を行う場合の例を説明する。図6には、取得部20が実行する処理の流れを例示している。本処理ルーチンは、運転支援制御が実行されている場合に、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0088】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、取得部20は、TCS実行フラグLTがONに設定されているか否かを判定する。TCS実行フラグLTがONに設定されている場合には(S101:YES)、取得部20は、処理をステップS102に移行する。ステップS102では、取得部20は、増加禁止フラグKaをONに設定する。その後、取得部20は、本処理ルーチンを終了する。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加することを禁止する。このとき、取得部20は、減少禁止フラグKbを操作しない。このため、減少禁止フラグKbは、初期値のOFFである。すなわち制限処理部17は、フィードバック制御量が減少することを許容する。
【0089】
一方で、ステップS101の処理において、TCS実行フラグLTがONに設定されていない場合、すなわちTCS実行フラグLTがOFFに設定されている場合には(S101:NO)、取得部20は、処理をステップS103に移行する。ステップS103では、取得部20は、増加禁止フラグKaをOFFに設定する。その後、取得部20は、本処理ルーチンを終了する。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加することを許容する。
【0090】
図7を用いて、アンチロックブレーキ制御または横滑り防止制御の実行状態に基づいて取得部20がフラグの操作を行う場合の例を説明する。図7には、取得部20が実行する処理の流れを例示している。本処理ルーチンは、運転支援制御が実行されている場合に、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0091】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201では、取得部20は、ABS実行フラグLAがONに設定されているか否かを判定する。ABS実行フラグLAがONに設定されている場合には(S201:YES)、取得部20は、処理をステップS202に移行する。ステップS202では、取得部20は、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbをONに設定する。その後、取得部20は、本処理ルーチンを終了する。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加および減少することを禁止する。すなわち、制限処理部17は、フィードバック制御量を一定に維持する。
【0092】
一方で、ステップS201の処理において、ABS実行フラグLAがONに設定されていない場合、すなわちABS実行フラグLAがOFFに設定されている場合には(S201:NO)、取得部20は、処理をステップS203に移行する。ステップS203では、取得部20は、ESC実行フラグLEがONに設定されているか否かを判定する。ESC実行フラグLEがONに設定されている場合には(S203:YES)、取得部20は、処理をステップS102に移行する。すなわち、取得部20は、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbをONに設定する。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加および減少することを禁止する。すなわち、制限処理部17は、フィードバック制御量を一定に維持する。
【0093】
ステップS203の処理において、ESC実行フラグLEがONに設定されていない場合、すなわちESC実行フラグLEがOFFに設定されている場合には(S203:NO)、取得部20は、処理をステップS204に移行する。ステップS204では、取得部20は、増加禁止フラグKaおよび減少禁止フラグKbをOFFに設定する。その後、取得部20は、本処理ルーチンを終了する。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が増加および減少することを許容する。
【0094】
図8を用いて、摩擦材52の温度に基づいて取得部20がフラグの操作を行う場合の例を説明する。図8には、取得部20が実行する処理の流れを例示している。本処理ルーチンは、運転支援制御が実行されている場合に、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0095】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS301では、取得部20は、摩擦材温度Tpが判定温度Tx以上であるか否かを判定する。判定温度Txは、摩擦材温度Tpが過度に上昇しているか否かを判定するために取得部20に記憶されている値である。判定温度Txは、実験等に基づいて予め設定されている。
【0096】
ステップS301の処理において、摩擦材温度Tpが判定温度Tx以上である場合には(S301:YES)、取得部20は、処理をステップS302に移行する。ステップS302では、取得部20は、減少禁止フラグKbをONに設定する。その後、取得部20は、本処理ルーチンを終了する。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が減少することを禁止する。このとき、取得部20は、増加禁止フラグKaを操作しない。このため、増加禁止フラグKaは、初期値のOFFである。すなわち制限処理部17は、フィードバック制御量が増加することを許容する。
【0097】
一方で、ステップS301の処理において、摩擦材温度Tpが判定温度Txよりも低い場合には(S301:NO)、取得部20は、処理をステップS303に移行する。ステップS303では、取得部20は、減少禁止フラグKbをOFFに設定する。その後、取得部20は、本処理ルーチンを終了する。この結果として、制限処理部17は、フィードバック制御量が減少することを許容する。
【0098】
〈作用および効果〉
本実施形態の作用および効果について説明する。
図3に例示したように駆動要求値Fdqが第1最大前後力Fdxよりも大きくなる場合には、駆動要求値Fdqに応じた前後力を実現することができない。仮に、この状態でフィードバック制御量の増加を許容すると、前後力が増加されない状態でフィードバック制御量がさらに増加される場合がある。こうした場合には、車両90に実際に作用する前後力が減少することなくフィードバック制御量が不要に増加を続けることになる。フィードバック制御量が過度に大きくされると、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束することの妨げとなるおそれがある。また、フィードバック制御量が過度に大きくされると、駆動要求値Fdqに応じた前後力を実現することができる状態に切り換わった場合に、実加速度Gaが急に変動するおそれもある。
【0099】
この点、車両運動制御装置10では、駆動要求値Fdqが第1最大前後力Fdxよりも大きい場合には、フィードバック制御量の増加が禁止される。このため、フィードバック制御量が過度に大きくなることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。
【0100】
図4に例示したように駆動要求値Fdqが第1最小前後力Fdzよりも小さくなる場合には、駆動要求値Fdqに応じた前後力を実現することができない。仮に、この状態でフィードバック制御量の減少を許容すると、前後力が減少されない状態でフィードバック制御量がさらに減少される場合がある。こうした場合には、車両90に実際に作用する前後力が減少することなくフィードバック制御量が不要に減少を続けることになる。フィードバック制御量が過度に小さくされると、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束することの妨げとなるおそれがある。また、フィードバック制御量が過度に小さくされると、駆動要求値Fdqに応じた前後力を実現することができる状態に切り換わった場合に、実加速度Gaが急に変動するおそれもある。
【0101】
この点、車両運動制御装置10では、駆動要求値Fdqが第1最小前後力Fdzよりも小さい場合には、フィードバック制御量の減少が禁止される。このため、フィードバック制御量が過度に小さくなることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。
【0102】
図5に例示したように制動要求値Fbqが第2最小前後力Fbzよりも小さくなる場合には、制動要求値Fbqに応じた前後力を実現することができない。仮に、この状態でフィードバック制御量の減少を許容すると、前後力が減少されない状態でフィードバック制御量がさらに減少される場合がある。こうした場合には、車両90に実際に作用する前後力が減少することなくフィードバック制御量が不要に減少を続けることになる。フィードバック制御量が過度に小さくされると、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束することの妨げとなるおそれがある。また、フィードバック制御量が過度に小さくされると、制動要求値Fbqに応じた前後力を実現することができる状態に切り換わった場合に、実加速度Gaが急に変動するおそれもある。
【0103】
この点、車両運動制御装置10では、駆動要求値Fdqが第1最小前後力Fdzよりも小さい場合には、フィードバック制御量の減少が禁止される。このため、フィードバック制御量が過度に小さくなることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。
【0104】
仮に、トラクション制御が実行されている場合にフィードバック制御量の増加を許容すると、前後力が増加されない状態でフィードバック制御量がさらに増加される場合がある。こうした場合には、車両90に実際に作用する前後力が増加することなくフィードバック制御量が不要に増加を続けることになる。フィードバック制御量が過度に大きくされると、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束することの妨げとなるおそれがある。
【0105】
この点、車両運動制御装置10は、トラクション制御が実行されている場合には、要求前後力がアベイラビリティの範囲外にあると判定して、要求前後力に従った制御を達成できないと判定する。車両運動制御装置10では、トラクション制御が実行されている場合には、フィードバック制御量の増加を禁止する。このため、フィードバック制御量が過度に大きくなることを抑制できる。これによって、トラクション制御が終了された後のフィードバック制御において、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束するまでの時間が長くなることを抑制できる。
【0106】
仮に、アンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合にフィードバック制御量の増加および減少を許容すると、前後力が増減されない状態でフィードバック制御量がさらに増減される場合がある。こうした場合には、車両90に実際に作用する前後力が増減することなくフィードバック制御量が不要に増加または減少を続けることになる。フィードバック制御量が過度に大きくされたり過度に小さくされたりすると、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束することの妨げとなるおそれがある。
【0107】
この点、車両運動制御装置10は、アンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合には、要求前後力がアベイラビリティの範囲外にあると判定して、要求前後力に従った制御を達成できないと判定する。車両運動制御装置10では、アンチロックブレーキ制御および横滑り防止制御のうち少なくとも一方の制御が実行されている場合には、フィードバック制御量を一定に維持する。このため、フィードバック制御量が過度に大きくなったり過度に小さくなったりすることを抑制できる。これによって、アンチロックブレーキ制御または横滑り防止制御が終了された後のフィードバック制御において、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束するまでの時間が長くなることを抑制できる。
【0108】
摩擦制動装置では、摩擦材温度Tpが過度に高くなると、押圧力を増加させても制動力が増加しにくくなるという問題がある。すなわち、摩擦制動装置の作動によって前後力を減少させることができない場合がある。この状態でフィードバック制御量の減少を許容すると、前後力が減少されない状態で制御量がさらに減少される場合がある。こうした場合には、車両90に実際に作用する前後力が減少することなくフィードバック制御量が不要に減少を続けることになる。フィードバック制御量が過度に小さくされると、実加速度Gaが目標加速度Gtに収束することの妨げとなるおそれがある。
【0109】
この点、車両運動制御装置10は、摩擦材温度Tpが判定温度Tx以上である場合には、要求前後力がアベイラビリティの範囲外にあると判定して、要求前後力に従った制御を達成できないと判定する。車両運動制御装置10では、摩擦材温度Tpが判定温度Tx以上である場合には、フィードバック制御量の減少を禁止する。このため、フィードバック制御量が過度に小さくなることを抑制できる。これによって、アベイラビリティを考慮してフィードバック制御を実行することができる。また、フィードバック制御量の減少を禁止することによって、制動要求値Fbqが小さくされること、すなわち制動力が大きくされることを抑制できる。これによって、摩擦材温度Tpがさらに上昇することを抑制できる。
【0110】
車両運動制御装置10によれば、運転支援制御における要求前後力がアベイラビリティの範囲外にある場合でもフィードバック制御を継続することができる。より詳しくは、要求前後力がアベイラビリティの範囲外にある場合でもフィードバック制御部は、FB制御量Rhの演算を継続する。これによって、要求前後力がアベイラビリティの範囲内に戻った後において、目標加速度Gtと実加速度Gaとの偏差hGを小さくするフィードバック制御の連続性を確保することができる。
【0111】
車両運動制御装置10では、運転支援制御における要求前後力がアベイラビリティの範囲外にある場合には、積分制御が停止される。このため、FB制御量Rhは、要求前後力がアベイラビリティの範囲外にある期間における時間経過による影響を受けることがない。これによって、フィードバック制御の連続性を確保することができる。
【0112】
(他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0113】
・車両運動制御装置10には、車内監視系70からの情報に基づく置換要求値Rrが入力されてもよい。置換要求値Rrは、前後力の要求値である。置換要求値Rrは、運転者が車両90の操作を行うことができない場合に車内監視系70から出力される。車両運動制御装置10は、置換要求値Rrが入力されている場合には、運転支援装置60からの要求値に替えて置換要求値Rrに基づいて目標加速度Gtを演算するとよい。
【0114】
・上記実施形態では、アンチロックブレーキ制御を実行している場合には、フィードバック制御量を一定に維持するようにした。これに替えて、アンチロックブレーキ制御を実行している場合には、フィードバック制御量の減少を禁止する一方で、フィードバック制御量の増加を許容するようにしてもよい。
【0115】
・上記実施形態では、トラクション制御を実行している場合には、フィードバック制御量の増加を禁止するようにした。これに替えて、トラクション制御を実行している場合には、フィードバック制御量の増加および減少を禁止するようにしてもよい。すなわち、トラクション制御を実行している場合には、フィードバック制御量を一定に維持するようにしてもよい。
【0116】
・上記実施形態では、摩擦材温度Tpが判定温度Tx以上である場合に、フィードバック制御量の減少を禁止した。これに替えて、摩擦材温度Tpの上昇速度が規定の判定速度以上である場合に、フィードバック制御量の減少を禁止するようにしてもよい。
【0117】
・上記実施形態では、要求値Rcを前後力とした。運転支援装置60からの要求値は、前後力と相関する値であればよい。たとえば、要求値は、加速度であってもよい。この場合、車両運動制御装置10は、目標加速度Gtを演算する必要がない点で目標加速度演算部14を省略することもできる。また、要求値は、車軸トルクでもよい。
【0118】
・上記実施形態におけるフィードバック制御部の構成は一例である。フィードバック制御部において実行されるフィードバック制御量の増加または減少を禁止する処理は、上記実施形態に例示したものに限らない。
【0119】
・処理回路である車両運動制御装置10、駆動制御装置32、制動制御装置42および支援演算部は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置の例は、CPU、DSPおよびGPU等である。プロセッサは、メモリを備える。メモリの例は、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等である。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等である。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える回路。
【0120】
・駆動制御装置32、制動制御装置42および支援演算部が実現する機能の一部または全部は、車両運動制御装置10によって実現されてもよい。
・車両運動制御装置10が実現する機能の一部は、車両運動制御装置10と接続されている他の処理回路によって実現されてもよい。
【0121】
・車両90が摩擦制動装置を備えていることは必須の構成ではない。摩擦制動装置を備えていない車両においては、回生制動力を発生させることのできる装置が制動装置に対応する。
【符号の説明】
【0122】
10…車両運動制御装置
16…PI制御部
17…制限処理部
19…要求出力部
20…取得部
30…駆動装置
31…モータジェネレータ
32…駆動制御装置
40…制動装置
41…制動アクチュエータ
42…制動制御装置
52…摩擦材
53…ホイールシリンダ
60…運転支援装置
90…車両
91…車輪
図1
図2
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図7
図8