(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】はんだ付け製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20231130BHJP
B23K 35/14 20060101ALI20231130BHJP
B23K 3/02 20060101ALI20231130BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20231130BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20231130BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/14 B
B23K3/02 R
H05K3/34 512C
B23K35/26 310A
C22C13/00
(21)【出願番号】P 2021154163
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2020205781
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慶
(72)【発明者】
【氏名】浜元 和幸
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼冨 尚志
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 基泰
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 陽子
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-061978(JP,A)
【文献】特許第6795774(JP,B1)
【文献】特開2013-146740(JP,A)
【文献】特開2010-046687(JP,A)
【文献】特開2017-113776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/14
B23K 3/02
H05K 3/34
B23K 35/26
C22C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被はんだ付け部(11)をはんだ付けすることにより、はんだ付け製品(1)を製造する方法において、
貫通孔(22)を有する筒状のはんだ鏝(2、21)を上記被はんだ付け部に当接し、上記貫通孔から上記被はんだ付け部に糸はんだ片(3)を供給するはんだ供給工程と、
上記はんだ鏝により上記糸はんだ片を加熱し、上記被はんだ付け部において上記糸はんだ片を溶融させる加熱工程と、
上記糸はんだ片の溶融物(34)を硬化させることにより、上記被はんだ付け部をはんだ付けする硬化工程と、を有し、
上記糸はんだ片が、フラックスを含む芯部(31)と、該芯部を被覆するはんだ合金を含む被覆部(32)とから構成されており、
上記フラックスが、
酸価10KOHmg/g未満のロジンを主成分と
し、
上記フラックスの総酸価が60KOHmg/g以下である、はんだ付け製品の製造方法。
【請求項2】
上記フラックス中の、
酸価10KOHmg/g未満のロジンの含有率が、60質量%以上である、請求項1に記載のはんだ付け製品の製造方法。
【請求項3】
上記フラックスが、さらに酸価150KOHmg/g以上のロジンを含む、請求項1又は
2に記載のはんだ付け製品の製造方法。
【請求項4】
上記フラックスの総酸価が20~60KOHmg/gである、請求項1~3のいずれか1項に記載のはんだ付け製品の製造方法。
【請求項5】
上記フラックスの400℃での加熱減量が55質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のはんだ付け製品の製造方法。
【請求項6】
上記フラックスがさらにハロゲン系活性剤を含有し、上記フラックス中のハロゲン含有率が4質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のはんだ付け製品の製造方法。
【請求項7】
上記はんだ付け製品が車載用である、請求項1~6のいずれか1項に記載のはんだ付け製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂スリーブ式はんだ付けにより、はんだ付け製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子製品などのはんだ付け製品は、例えば、電子部品の端子間や、電子部品と基板の電子回路とをはんだ付けすることにより製造される。はんだ付けにより、センサ、アクチュエータ、インバータ、パワーウインドウ、モータ等のはんだ付け製品が製造されている。電子部品と基板のはんだ付けには、主にリフロー、噴流といった、面付けと呼ばれるはんだ付けが採用されている。これらのはんだ付けにより完成した電子回路と、コネクタ、アクチュエータ、センサ等とを接合するはんだ付けは、後付けはんだとよばれ、後付けはんだには、コテ式、レーザ式、スリーブ式が用いられる。
【0003】
スリーブ式はんだ工法は、はんだ付け時のはんだとフラックスの飛散を抑制し、更に被接合対象への安定したはんだの定量供給という点より優れている(特許文献1参照)。
【0004】
スリーブ式のはんだ付けでは、一般に、筒状のはんだ鏝、糸はんだが用いられる。糸はんだは、はんだ合金とフラックスとを含有し、フラックスとしては、ロジンなどの樹脂(具体的には、やに)が用いられる。このようなはんだは、やに入りはんだとも呼ばれる。
【0005】
はんだ付けの技術分野では、上述のメリットを生かすべく、スリーブ式のはんだ付け工法に適したはんだやフラックスの技術開発が進められている。例えば特許文献2には、揮発性ロジンを主成分とするフラックスを用いる技術が開示されている。特許文献2によれば、かかる技術により、フラックスに起因したはんだ付け不良の抑制が可能になるとされる。具体的には、清掃頻度を少なくしつつはんだ付け不良の抑制が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5184359号公報
【文献】特許第6516053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献2に開示のようなフラックスでは、フラックスが揮発しやすくなるためはんだ鏝の内部への汚れの蓄積を抑制できるものの、フラックスの一部は、はんだ鏝内部に残存し、フラックス残渣がはんだ鏝内部で炭化物の汚れとして蓄積してしまう。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、筒状のはんだ鏝内部への汚れの蓄積を抑制することができる、はんだ付け製品の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、被はんだ付け部(11)をはんだ付けすることにより、はんだ付け製品(1)を製造する方法において、
貫通孔(22)を有する筒状のはんだ鏝(2、21)を上記被はんだ付け部に当接し、上記貫通孔から上記被はんだ付け部に糸はんだ片(3)を供給するはんだ供給工程と、
上記はんだ鏝により上記糸はんだ片を加熱し、上記被はんだ付け部において上記糸はんだ片を溶融させる加熱工程と、
上記糸はんだ片の溶融物(34)を硬化させることにより、上記被はんだ付け部をはんだ付けする硬化工程と、を有し、
上記糸はんだ片が、フラックスを含む芯部(31)と、該芯部を被覆するはんだ合金を含む被覆部(32)とから構成されており、
上記フラックスが、酸価10KOHmg/g未満のロジンを主成分とし、
上記フラックスの総酸価が60KOHmg/g以下である、はんだ付け製品の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記態様によれば、被はんだ付け部とはんだとの濡れ性を良好にしつつ、筒状のはんだ鏝内部への汚れの蓄積を抑制し、絶縁信頼性の高いはんだ付け製品の製造方法を提供することができる。
【0011】
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1におけるスリーブ式のはんだ付け方法を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1における糸はんだの断面を示す模式図である。
【
図3】
図3(a)は、筒状のはんだ鏝内部に汚れがない状態における被はんだ付け部の模式図であり、
図3(b)は、筒状のはんだ鏝内部に汚れが蓄積された状態における被はんだ付け部の模式図である。
【
図4】実験例における濡れ性の判定基準を示す説明図である。
【
図5】実験例における実施例1、比較例1の熱重量測定の結果を示すグラフである。
【
図6】実験例における実施例1~実施例3、実施例5、比較例1の総酸価と詰まりショット数との関係を示すグラフである。
【
図7】実験例における実施例1~実施例3、実施例5、比較例1のフラックス中の酸価フリーロジンの含有率と総酸価との関係を示すグラフである。
【
図8】実験例における実施例1~実施例3、実施例5、比較例1の400℃における熱重量測定の結果と詰まりショット数との関係を示すグラフである。
【
図9】フラックス中のハロゲン含有率と絶縁抵抗試験結果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
はんだ付け製品の製造方法に係る実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。なお、本明細書において、「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。本明細書において「wt%」と「質量%」とは、実質的に同義である。
【0014】
はんだ付け製品1は、はんだ付け部を有する製品を意味する。はんだ付け製品1としては、具体的には、
図1(a)~(c)に示すように、プリント基板12と、このプリント基板12にはんだ付けされた電子部品13とを有する製品が挙げられる。プリント基板12はスルーホール120を有していてもよい。より具体的には、被はんだ付け部11が、プリント基板12のスルーホール120と、端子14(例えば金属ピン)とから構成されており、はんだ付け製品1としては、このような被はんだ付け部11がはんだ付けされた製品が挙げられる。構成の図示を省略するが、プリント基板12は、所謂多層基板であってもよい。はんだ付け製品1は、はんだ付けにより形成されたはんだ付け部を有しているものであれば、特に限定されない。
【0015】
上記製造方法では、はんだ供給工程、加熱工程、及び硬化工程が行われる。これらの工程を有するはんだ付け工法の中で、はんだ(つまり、はんだ合金)の融点を超える温度まで糸はんだをはんだ鏝で加熱し、接合対象物を加熱すると共に、糸はんだを溶融させるはんだ付けであって、はんだ鏝の貫通孔内に糸はんだが供給され、はんだ鏝がはんだの融点を超える温度を保ち、貫通孔に供給された糸はんだを加熱するはんだ付け方法は、所謂スリーブ式と呼ばれる。スリーブ式のはんだ付け工法は、
図1(a)~(c)に示されるように、例えばスリーブ式のはんだ付け機2(つまり、はんだ鏝2)を用いて実施される。
【0016】
はんだ供給工程では、
図1(a)に示すようにはんだ付け機2の先端を被はんだ付け部11に当接させる。はんだ付け機2は、筒状の本体部21を有し、本体部21には貫通孔22が形成されている。
図1(a)に示されるように、例えば本体部21の先端が被はんだ付け部11に当接される。本体部21は、例えば、被はんだ付け部11の少なくとも一部又は全体が貫通孔22の内部に配置されるように当接させる。筒状の本体部21は、例えば、熱伝導性等に優れたセラミックスを含む材質から構成され、より具体的には窒化アルミニウム、炭化ケイ素などから構成される。
【0017】
はんだ供給工程では、
図1(a)に示すように、本体部21の貫通孔22から被はんだ付け部11に糸はんだ片3を供給する。糸はんだ片3は、例えば自重により貫通孔22内を移動させて被はんだ付け部11に供給することができる。糸はんだ30の形状は、
図2に示すように、例えば棒状、円柱状であり、糸はんだは芯部31と被覆部32とから構成されている。糸はんだ片3についても同様である。芯部31は、フラックスから構成されている。被覆部32は、芯部31を被覆し、はんだ合金から構成されている。糸はんだ30は、例えば、被はんだ付け部11のはんだ付けに適した大きさ(具体的には長さ)に切断され、糸はんだ片3となる。この糸はんだ片3が被はんだ付け部11に供給される。
【0018】
はんだ合金の組成は、一般に、はんだ付けに使用される合金組成であれば特に限定されない。はんだ合金としては、例えば軟ろうと呼ばれるはんだが用いられる。はんだ合金の融点は、通常180℃~280℃である。
【0019】
フラックスは、少なくともロジンを含有する。フラックスは、さらに活性剤などを含有することができる。活性剤については、後述する。
【0020】
フラックスは、酸価が実質的に0のロジン(例えばロジンエステル)を少なくとも含有し、酸価が実質的に0のロジンを主成分とする。本明細書において、実質的に0とは、ロジンの持つカルボン酸をエステル化した際に反応残基(具体的には、カルボキシ基)によりロジンがわずかに酸価を持つことがあるため、このような場合を含めることを意味する。具体的には、酸価が実質的に0のロジンとは、酸価10KOHmg/g未満のロジンを意味する。酸価が実質的に0のロジンのことを、本明細書では、適宜「酸価フリーロジン」という。酸価フリーロジンが主成分ではない場合には、フラックス残渣が、筒状のはんだ鏝本体部21の内部に蓄積し易くなる。つまり、はんだ鏝本体部21の内部への汚れを十分に抑制することができなくなるおそれがある。
図3(b)に示すように、はんだ鏝本体部21の内部に汚れ39が多く蓄積すると、加熱工程において糸はんだ片3が溶融しても、被はんだ付け部11にフラックスやはんだ合金が十分に供給されにくくなるおそれがある。また、筒状のはんだ鏝(つまり、本体部21)の熱伝導性が低下し、フラックスやはんだ合金が被はんだ付け部11に供給されにくくなるおそれがある。さらに、これらの不具合を回避するために行われる汚れ除去作業の実施頻度が増え、はんだ付け製品1の製造コストが増大するおそれがある。なお、主成分は、フラックスを構成する成分の中で最も多い成分を意味し、50質量%以上であることが好ましい。
また、
図3(a)に示すように、汚れが蓄積されていない状態では、被はんだ付け部11への糸はんだ片3の供給は妨げられず、例えばヒータ25からの熱伝導が妨げられることもない。
【0021】
本明細書において酸価の測定対象は、例えば、基材樹脂(具体的にはロジン)、フラックスである。酸価の測定は、JIS Z 3197:2012 8.1.4.1.1に準拠して行われる。測定条件の詳細は後述する。
【0022】
本明細書では、上述の測定方法において、酸価が10KOHmg/g未満(0を含む)の場合をもって、酸価が実質的に0であるとする。酸価が10KOHmg/g以上の場合には、酸価は実際の測定値によって表される。
【0023】
フラックスの酸価は、20~60KOHmg/gであることが好ましい。フラックスの酸価は、フラックス全体の酸価であり、この酸価を「総酸価」という。総酸価数が20KOHmg/g以上であることにより、濡れ性が向上する。また、総酸価数が60KOHmg/g以下であることにより、汚れが蓄積しにくくなる。濡れ性がさらに向上し、フラックス汚れが筒状のはんだ鏝内部に蓄積しにくくなるという観点から、総酸価は、23~57KOHmg/gであることがより好ましく、25~54KOHmg/gであることがさらに好ましい。
【0024】
フラックスの総酸価は例えば次のようにして調整できる。例えば、酸価が実質的に0を超えるロジン(つまり、酸価フリーロジン以外のロジン)をフラックス中に添加し、そのロジンの配合割合を調整することにより、フラックスの総酸価を調整することができる。具体的には、酸価が高いロジンを添加し、その配合割合を増やすことにより総酸価は高くなる傾向がある。一方、酸価フリーロジンの配合割合を増やすことにより、総酸価は低くなる傾向がある。なお、酸価が実質的に0を超えるロジンとしては、水添ロジン、酸変性ロジン、不均化ロジン、フェノール変性ロジン等を用いることができる。
【0025】
また、フラックス中に、活性剤などのロジン以外の成分を添加することも可能である。活性剤としては、有機酸、ハロゲン系活性剤、アミン等が例示される。これらの活性剤は、例えば、糸はんだ用のフラックスに一般に用いられるものの中から選択して使用される。また、活性剤として有機酸を用いる場合には、その配合割合を調整することにより、フラックスの総酸価を調整することができる。
【0026】
有機酸としてはグルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、エイコサン二酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、サリチル酸、ジグリコール酸、ジピコリン酸、ジブチルアニリンジグリコール酸、スベリン酸、セバシン酸、チオグリコール酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ドデカン二酸、パラヒドロキシフェニル酢酸、ピコリン酸、フェニルコハク酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、ラウリン酸、安息香酸、酒石酸、イソシアヌル酸トリス(2-カルボキシエチル)、グリシン、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、4-tert-ブチル安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジエチルグルタル酸、2-キノリンカルボン酸、3-ヒドロキシ安息香酸、リンゴ酸、p-アニス酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等を用いることができる。
【0027】
ハロゲン系活性剤としては、有機ブロモ化合物を用いることができる。具体的には、trans-2,3-ジブロモ-1,4-ブテンジオール、トリアリルイソシアヌレート6臭化物、1-ブロモ-2-ブタノール、1-ブロモ-2-プロパノール、3-ブロモ-1-プロパノール、3-ブロモ-1,2-プロパンジオール、1,4-ジブロモ-2-ブタノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノール、2,3-ジブロモ-1-プロパノール、2,3-ジブロモ-1,4-ブタンジオール、2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、trans-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、cis-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、テトラブロモフタル酸、ブロモコハク酸、2,2,2-トリブロモエタノール等を用いることができる。また、ハロゲン系活性剤としては、有機クロロ化合物を用いることができる。具体的には、クロロアルカン、塩素化脂肪酸エステル、ヘット酸、ヘット酸無水物等を用いることができる。また、ハロゲン系活性剤としては、有機フルオロ化合物であるフッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキル基を有する界面活性剤、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
【0028】
アミンとしては、モノエタノールアミン、ジフェニルグアニジン、エチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2′-メチルイミダゾリル-(1′)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2′-ウンデシルイミダゾリル-(1′)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2′-エチル-4′-メチルイミダゾリル-(1′)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2′-メチルイミダゾリル-(1′)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジン、エポキシ-イミダゾールアダクト、2-メチルベンゾイミダゾール、2-オクチルベンゾイミダゾール、2-ペンチルベンゾイミダゾール、2-(1-エチルペンチル)ベンゾイミダゾール、2-ノニルベンゾイミダゾール、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2-(2′-ヒドロキシ-5′-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2′-ヒドロキシ-3′-tert-ブチル-5′-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2′-ヒドロキシ-5′-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2′-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-tert-オクチル-6′-tert-ブチル-4′-メチル-2,2′-メチレンビスフェノール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、2,2′-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、1-(1′,2′-ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2,3-ジカルボキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-[(2-エチルヘキシルアミノ)メチル]ベンゾトリアゾール、2,6-ビス[(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]-4-メチルフェノール、ロジンアミン、N,N-ジエチルアニリン等を用いることができる。
【0029】
フラックス中の活性剤の含有率は、10質量%以下であることが好ましい。この場合には、絶縁信頼性がより向上する。絶縁信頼性をさらに向上させるという観点から、フラックス中の活性剤の含有率は、4質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、本開示でのフラックスでは、上記のように活性剤の含有率を減らしても、濡れ性が十分に優れる。また、濡れ性を確保するというという観点から、フラックスは、活性剤を含有することが好ましく、その含有率は、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
フラックスは、さらにハライドを含むハロゲン系活性剤を含有することができる。フラックス中のハロゲン含有率は4質量%以下であることが好ましい。この場合には、例えば高湿度環境下での絶縁抵抗の劣化を防止することができる。この効果が向上するという観点から、フラックス中のハロゲン含有率は3.5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
フラックスは、さらに、酸価150KOHmg/g以上のロジンを含有することが好ましい。この場合には、総酸価の調整が容易になり、酸価フリーロジンに比べて十分に少ない量の添加で総酸価を例えば20KOHmg/g以上にまで高めることができる。これにより、濡れ性の向上効果と、汚れ蓄積の抑制効果との両立が可能になる。同様の観点から、フラックスは、酸価200KOHg/g以上のロジンを含有することがより好ましい。
【0032】
フラックス中の酸価フリーロジンの含有率は60質量%以上であることが好ましい。この場合には、フラックスの、筒状のはんだ鏝本体部21の内部への蓄積抑制効果がより向上する。この効果がさらに向上するという観点から、フラックス中の酸価フリーロジンの含有率は、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
一般にスリーブ式はんだ付けでは、はんだ付け時間を短縮し、生産性を向上することを目的に、例えばヒータにより加熱された筒状のはんだ鏝から、筒状のはんだ鏝内部に供給された糸はんだ片及び被はんだ付け部に素早く熱伝達させるために、はんだ鏝の温度をはんだ溶融温度(具体的には、はんだ合金の融点)よりはるかに高い温度(例えば、400℃)に加熱してはんだ付けが行われる。はんだ付け時の加熱温度である400℃でのフラックスの加熱減量は、55質量%以下であることが好ましい。つまり、フラックスを温度400℃で加熱した際のフラックスの重量減少率が55質量%以下であることが好ましい。この場合には、加熱されたはんだ鏝の内部でフラックスがほとんど揮発せずに液状のままはんだ付け部に排出される。そのため、フラックスの揮発成分がフラックスヒュームとなってはんだ鏝本体部の外周や、はんだ付け機の他の部分に汚れとして付着することを抑制する効果がある。加熱減量の詳細な測定方法については実験例にて示す。
【0034】
なお、汚れの蓄積は、次のようにして起こると考えられる。ロジンは、カルボキシ基を有しているため、カルボキシ基に由来するタッキファイヤ特性(具体的には粘着性、接着性)を有している。そのため、ロジンが、フラックス残渣(つまり汚れ)として蓄積すると考えられる。一方、内壁に蓄積した残渣は、例えば定期的な清掃により除去される。残渣は強固に蓄積しているため、清掃には、例えば超硬ドリルを用いられ、物理的な除去が行われる。したがって、筒状のはんだ鏝2の内壁表面には、微細な凹凸が形成されやすい。この内壁表面の凹凸が、所謂アンカー効果を高め、残渣がさらに蓄積しやすくなると考えられる。
【0035】
本発明者らは、本開示に至るにあたり、ロジンの酸価と、汚れの蓄積性とに相関があることを見出している。本開示のように、カルボキシ基をほぼ含まないためタッキファイヤ特性を発揮しにくい酸価フリーロジンを主成分とすることにより、アクリル化ロジンのような酸価0を超えるロジンを減らすことが可能になり、汚れの低減が可能になると考えられる。
【0036】
図1(a)~(c)に示されるように、はんだ鏝2には、例えばヒータ25が内蔵される。ヒータ25の加熱方式、構成は、特に限定されないが、ヒータ25により貫通孔22内が加熱できるように構成されている。
【0037】
次に、加熱工程では、はんだ鏝2により、糸はんだ片3を加熱する。加熱により、糸はんだ片3を溶融させる。具体的には、フラックスを軟化又は溶融させ、はんだ合金を溶融させる。加熱は、例えばヒータ25により行われる。
【0038】
加熱工程での加熱温度は、例えば、はんだ合金の融点以上であり、はんだ合金を速やかに溶融させることができる温度である。加熱温度は、具体的には400℃以上であることが好ましい。また、基板などの被はんだ付け部11の周囲への熱ダメージ、焦げを防止するという観点から、加熱温度は、例えば550℃以下であることが好ましい。
【0039】
硬化工程では、糸はんだ片3の溶融物34を硬化させる。硬化は空冷などの冷却により行われる。このようにして、被はんだ付け部11をはんだ付けし、はんだ付け部35(はんだフィレット35)を有するはんだ付け製品1を製造することができる。
【0040】
以上のように、本実施形態では、はんだ付け製品1を製造することができる。製造にあたり、酸価フリーロジンを主成分とするフラックスを用いることにより、筒状のはんだ鏝2の内部にフラックス残渣による汚れが蓄積することを抑制できる。フラックス残渣が内部に蓄積すると、はんだ付け時の高温状態のはんだ鏝2から内部に供給された糸はんだ片への熱伝達阻害が起こるが、本開示の製造方法では、上記のようにフラックス残渣の蓄積が抑制されるため、熱伝達阻害が抑制される。そのため、はんだ鏝2の内部の清掃頻度を大幅に減少させることができ、清掃のために例えばはんだ付け製品1の製造ラインを休止させることなく、連続で、性能品質が安定したはんだ付け製品1を製造することができる。清掃は、例えば定期的に行われ、一般的には、汚れが所定量に達した際にはんだ付けを休止し、超硬ドリルを筒内へ挿入し物理的に除去する方法、あるいはスリーブ自体を例えば600℃以上に加熱し有機物(具体的にはフラックス残渣)を炭化させて減量を行う方法のいずれか、または両方が適宜用いられる。
【0041】
また、はんだ付け製品1は、車載用であることが好ましい。車載用のはんだ付け製品1としては、例えば、センサ、アクチュエータ、インバータ、パワーウインドウ、モータなどが例示される。
【0042】
なお、以降の説明において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0043】
(実験例)
本例は、表1に示す各フラックスを含有する糸はんだ(実施例1~5、比較例1)を用いてはんだ付け製品1を製造し、各種測定、評価を行う例である。なお、はんだ付け製品1は、実施形態1において説明のように、はんだ供給工程、加熱工程、硬化工程を行うことにより行った。
【0044】
表1において、はんだ合金の組成は、すべての実施例、比較例において共通であり、Sn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cuである。また、表1における各測定、評価は、次のようにして行った。
【0045】
「フラックス中の酸価フリーロジン含有率」
GC-FID(つまり、ガスクロマトグラフィー定量分析法)により行った。測定は、Agilent Technologies製のガスクロマトグラフ装置Agilent7890Aを用いて、JIS K 0123:2018に準拠して行った。GC条件は試料注入量2μL、注入口温度260℃、キャリアガスHe(線速度25cm/sec)とし、FID条件は取り込み速度5Hz、検出器温度300℃、エア流量400mL/min、H2流量30mL/min、メークアップ流量25mL/minとした。
【0046】
「フラックスの酸価(総酸価)」
酸価試験により行った。測定は、京都電子製電位差滴定装置AT-710を用いて、JIS Z3197:2012 8.1.4.1.1に準拠して行った。複合ガラス電極を用い、滴定液は0.5N-水酸化カリウムを用いた。
【0047】
「400℃でのフラックスの加熱減量」
TG法(熱重量測定法)により行った。測定は、JIS K 7120:1987に準拠して行った。このときの400℃でのフラックスの重量減少率が加熱減量である。なお、実施例1と、比較例1についての測定結果を
図5に示す。なお、
図5では縦軸が重量残存率R(単位:%)であるが、加熱減量D(単位:%)は、下記式(1)から算出される。なお、スリーブ式のはんだ付けでは、一般に、加熱工程での温度を400℃以上にすることが通常であるため、その最低温度400℃でのフラックスの加熱減量を測定した。
D=100-R ・・・(1)
【0048】
「ハロゲン含有率」
燃焼イオンクロマトグラフィーにより行った。測定は、日東精工アナリテック製の燃焼装置AQF-2100H型、およびサーモフィッシャー製のイオンクロマトグラフ装置ICS-1100を用いて、BS EN 14582:2016に準拠して行った。燃焼装置条件は、インレット温度900℃、アウトレット温度1000℃、エア流量200mL/min、O2流量400mL/min、WSAr流量100mL/minとし、IC条件は流量1.2mL/min、試料注入量25~100μL、測定時間23minとした。
【0049】
「汚れ評価」
実施形態1における
図1(a)~
図1(c)に示すように、スルーホール120を有するプリント基板12に連続ではんだ付けを実施した。スリーブ式のはんだ付け機2としては、アポロ精工製のJ-CAT 300 SLVを用いた。汚れがスリーブ(つまり、筒状の本体部21)の内壁に蓄積し(
図3の(b)参照)、汚れによりはんだ鏝の先端が詰まってくるとはんだ付不良が発生する。その結果、良好なはんだフィレットが形成できなくなる。ピンゲージをスリーブの中に落下させることにより、汚れ蓄積による内径変化を確認し、1.3mmである内径が、0.5mm変化した時をもって詰まり寿命と定義し、詰まり寿命までの連続はんだ付けショット数を詰まりショット数と定義する。詰まりショット数は15000以上である場合が良好(つまり、○)であり、15000未満の場合が不可(つまり×)である。詰まりショット数が高ければ高い程、汚れが蓄積しにくいことを意味する。15000ショット以上であれば、例えば、1点あたりのはんだ付けにかかる時間(具体的には、スリーブ式はんだ設備の加工ポイントへの移動時間を含む時間)が2秒の場合、30000秒(つまり、8.3時間)で限界に達するため、例えば、1日を2回に分けて稼働させる場合、1回分の稼働時間はおよそ8時間となるため、1回の稼働内で清掃のための途中休止が必要なくなる。
なお、本評価方法の判定基準は、厳しいものであり、詰まりショット数は、例えば12000以上でも十分に高い値であり、汚れ蓄積抑制効果が十分に発揮されているといえる。すなわち、詰まりショット数は、12000以上が好ましく、13000以上であることがより好ましく、14000以上であることがさらに好ましく、15000以上であることがさらにより好ましい。
【0050】
「濡れ性」
汚れ評価と同様に、はんだ付け機2を用いてスルーホール120を有するプリント基板12にはんだ付けを行った。そして、ランド表裏の赤目率でぬれ性を評価した。赤目とは、はんだ付時にランド全体にはんだがぬれ広がらず、一部のランドに銅箔の露出部が残る現象である。評価は、
図4に示す指標に基づいて行った。80箇所において、
図4に基づいた赤目率の評価を行った。千住金属工業製のECO-SOLDER RMA02と比較し、ECO-SOLDER RMA02より優れた結果であれば◎、同等であれば〇、ECO-SOLDER RMA02より劣る結果であれば×と判定した。なお、千住金属工業製のECO-SOLDER RMA02は、JIS AA級(JIS Z3197:2012)を満たすものである。
【0051】
「絶縁抵抗」
JIS Z3197:2012 8.5.3に準拠して行った。具体的には、やに入りはんだをくし形基板にはんだ付けし、85℃85%RHの高温高湿条件下に設置して、エスペック製のイオンマイグレーション評価システムAMI-150-U-5を用いて100Vの電圧を印加することで電気抵抗を測定した。JIS Z 3283:2017においては、168時間経過時点の絶縁抵抗値で測定すると規定されているが、本願においては、JIS規格よりさらに厳しい条件となる、168時間の中で最も絶縁抵抗が低下した値(最低値)を評価基準とした。JIS AA級は1×109Ω以上と規定されているため、絶縁抵抗値の最低値が1×109Ω以上の場合を合格(つまり「○」)と評価し、絶縁抵抗値の最低値が1×109Ω未満の場合を不合格(つまり「×」)と評価した。
【0052】
【0053】
表1より理解されるように、フラックスが実質的に酸価0のロジンを主成分とする場合(具体的には、実施例1~実施例5)には、筒状のはんだ鏝本体部21の内部への汚れの蓄積を抑制できることがわかる。さらに、濡れ性も良好であり、また、絶縁抵抗が十分に高く、絶縁信頼性に優れている。これに対し、酸価フリーロジン、つまり、酸価が実質的に0のロジンが主成分でない場合(具体的には、比較例1)には、汚れが蓄積しやすくなっていた。
【0054】
また、
図6より理解されるように、フラックスの総酸価と詰まりショット数とには相関があり、総酸価が60mgKOH/g以下の場合には、十分に詰まりショット数が高くなる。また、上述したように総酸価をさらに小さくすることにより、詰まりショット数を例えば15000以上にまで高めることができる。なお、
図7より理解されるように、総酸価は、フラックス中の酸価フリーロジンの含有率と相関がある。
【0055】
また、
図8より理解されるように、温度400℃でのフラックスの加熱減量が55質量%以下である場合には、詰まりショット数が高くなる。さらに、
図9より理解されるように、フラックス中のハロゲン含有率が4質量%以下である場合には、絶縁抵抗が十分に高くなり、絶縁信頼性に優れたはんだ付け製品の製造が可能になる。なお、
図9では、実施例1~5、比較例1以外にも別途フラックスを作製し、絶縁抵抗の評価を行い、その評価結果も併記してある。
【0056】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 はんだ付け製品
11 被はんだ付け部
2 はんだ鏝(はんだ付け機)
21 本体部
22 貫通孔
3 糸はんだ片