(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法、および熱可塑性樹脂発泡粒子
(51)【国際特許分類】
C08J 9/18 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
C08J9/18 CER
C08J9/18 CEZ
(21)【出願番号】P 2021501727
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2020001944
(87)【国際公開番号】W WO2020170694
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019026285
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 勇貴
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/085337(WO,A1)
【文献】特開2003-082148(JP,A)
【文献】特開2014-098161(JP,A)
【文献】特開2016-222849(JP,A)
【文献】特開2010-031265(JP,A)
【文献】特開2000-263627(JP,A)
【文献】特開2000-351867(JP,A)
【文献】特開2002-355816(JP,A)
【文献】特開平06-192464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧容器内で熱可塑性樹脂粒子を水系分散媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程と、
発泡剤として炭酸ガスを使用して、前記分散液を前記熱可塑性樹脂粒子の軟化温度以上の温度に加熱し加圧した後、前記耐圧容器内の内圧よりも低圧雰囲気下に放出することによって発泡させる発泡工程と、を含み、
前記発泡工程は、前記耐圧容器中の混合物を放出部から放出する際に、当該混合物を曲面に衝突させる衝突工程を含
み、
前記曲面が凹曲面であり、前記凹曲面の曲率半径は500~1500mmである、熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項2】
前記混合物の前記曲面に対する衝突角度は、13°以上である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項3】
前記混合物の前記曲面に対する衝突角度は、15°~25°である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項4】
前記放出部から前記曲面までの距離をLとしたとき、
前記衝突工程では、50mm≦L≦600mmで前記混合物を前記曲面に衝突させる、請求項1~3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項5】
前記放出部は、前記混合物が放出されるオリフィスを備えており、
前記オリフィスの口径は、6mm以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項6】
耐圧容器内で熱可塑性樹脂粒子を水系分散媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程と、
発泡剤として炭酸ガスを使用して、前記分散液を前記熱可塑性樹脂粒子の軟化温度以上の温度に加熱し加圧した後、前記耐圧容器内の内圧よりも低圧雰囲気下に放出することによって発泡させる発泡工程と、を含み、
前記発泡工程は、前記耐圧容器中の混合物を放出部から放出する際に、当該混合物を曲面に衝突させる衝突工程を含み、
前記放出部は、前記混合物が放出されるオリフィスを備えており、
前記オリフィスの口径は、6mm以上である、熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項7】
製造する発泡粒子の発泡倍率が10~25倍である、請求項1~
6の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項8】
発泡倍率が18~25倍であり、
構成する粒子セル間のセル径の差が70μm以下である、熱可塑性樹脂発泡粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法、および熱可塑性樹脂発泡粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、熱可塑性樹脂粒子を耐圧容器内で水系分散媒に分散させ、前記熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し加圧した後、該熱可塑性樹脂粒子を前記容器内よりも低圧の雰囲気に放出して発泡させることによって発泡粒子を製造する方法は公知である。また、必要に応じて容器内に発泡剤を分散させる方法も公知である。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、ポリオレフィン系樹脂粒子を前記容器内よりも低圧の雰囲気に放出して発泡させる際に、耐圧容器の放出部から衝突板または容器壁に発泡粒子を衝突させる技術が開示されている。これにより、発泡粒子の発泡倍率のバラツキを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3963720号
【文献】特許第4747472号
【文献】特許第4818101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、発泡倍率が比較的低い発泡粒子は、発泡粒子の発泡倍率のバラツキが大きくなる傾向がある。一方、発泡倍率が比較的高い発泡粒子は、セル構造が不均一になる傾向がある。上述した従来技術では、上記の点で改善の余地がある。
【0006】
本発明の一態様は、低発泡倍率では少なくとも発泡倍率のバラツキが改善され、高発泡倍率では少なくともセル構造が均一になった熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法、および熱可塑性樹脂発泡粒子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法は、耐圧容器内で熱可塑性樹脂粒子を水系分散媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程と、発泡剤として炭酸ガスを使用して、前記分散液を前記熱可塑性樹脂粒子の軟化温度以上の温度に加熱し加圧した後、前記耐圧容器内の内圧よりも低圧雰囲気下に放出することによって発泡させる発泡工程と、を含み、前記発泡工程は、前記耐圧容器中の混合物を放出部から放出する際に、当該混合物を曲面に衝突させる衝突工程を含む。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂発泡粒子は、発泡倍率が10~25倍であり、構成する粒子セル間のセル径の差が70μm以下である構成である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、低発泡倍率では少なくとも発泡倍率のバラツキが改善され、高発泡倍率では少なくともセル構造が均一になった熱可塑性樹脂発泡粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法にて使用される発泡装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法にて使用される絞り盤の構成を示す正面図である。
【
図3】
図2に示す絞り盤1の変形例の構成を示す正面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法にて使用される絞り盤の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0012】
1.本実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法
本発明者は、上記の課題に対して鋭意検討した結果、耐圧容器の内容物を放出部から放出させる際に、特定の構造を有する部材に衝突させることにより、低発泡倍率の発泡粒子を製造する場合、少なくとも発泡倍率のバラツキが改善されるという独自の知見を見出した。さらに、高発泡倍率の発泡粒子を製造する場合には、少なくともセル構造が均一になるという知見を独自に見出した。そして、本発明者は、これらの知見に基づき、本実施形態に至った。
【0013】
すなわち、本実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法(以下、単に本方法と記す)は、耐圧容器内で熱可塑性樹脂粒子を水系分散媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程と、発泡剤として炭酸ガスを使用して、前記分散液を前記熱可塑性樹脂粒子の軟化温度以上の温度に加熱し加圧した後、前記耐圧容器内の内圧よりも低圧雰囲気下に放出することによって発泡させる発泡工程と、を含み、前記発泡工程は、前記耐圧容器中の混合物を放出部から放出する際に、当該混合物を曲面に衝突させる衝突工程を含む。
【0014】
2.熱可塑性樹脂発泡粒子の材料
本実施形態にて使用される熱可塑性樹脂粒子の基材樹脂は、一般的な公知の発泡性の熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、およびこれらの混合物等が挙げられる。前記熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、またはポリエステル系樹脂である。ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族系ポリエステル樹脂、芳香族系ポリエステル樹脂、脂肪族芳香族系ポリエステル樹脂などが挙げられる。ポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ(ブチレンアジペート-co-ブチレンテレフラレート)(PBAT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。また、ポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)からなる群から選択される少なくとも1種である。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂が好適に使用される。以下、熱可塑性樹脂粒子の基材樹脂としてポリオレフィン系樹脂を使用した実施形態について説明する。なお、本実施形態に使用され得る熱可塑性樹脂粒子の基材樹脂は、ポリオレフィン系樹脂に限定されない。
【0015】
2-1.ポリオレフィン系樹脂
ポリオレフィン系樹脂粒子の基材樹脂となるポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン単位を50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上含む樹脂のことである。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低分子量ポリエチレン等のポリエチレン類;プロピレンホモポリマー;エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体等のα-オレフィン-プロピレンランダム共重合体、並びに、α-オレフィン-プロピレンブロック共重合体等のポリプロピレン類;プロピレンホモポリマー、ポリブテン等のその他のポリオレフィンホモポリマー類;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
【0016】
これらの内でも、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、およびプロピレン-1-ブテンランダム共重合体が、発泡粒子とするときに良好な発泡性を示すため、好適に使用される。
【0017】
また、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の基材樹脂には、ポリオレフィン系樹脂以外に、該ポリオレフィン系樹脂の特性が失われない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリスチレン、ポリブテン、アイオノマー等が混合されていてもよい。
【0018】
また、ポリオレフィン系樹脂は、通常、発泡粒子を製造し易いように、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて溶融し、且つ円柱形状、楕円形状、球形状、立方体形状、直方体形状等の樹脂粒子に予め加工しておくことが好ましい。なお、樹脂粒子はペレットとも称する。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂粒子は、一粒の重量が0.1~30mgであることが好ましく、0.3~10mgであることがより好ましい。
【0020】
2-2.ポリオレフィン系樹脂に加える添加剤
ポリオレフィン系樹脂に添加剤を加える場合には、前記ポリオレフィン系樹脂粒子の製造前に、ブレンダー等を用いてポリオレフィン系樹脂と添加剤とを混合することが好ましい。添加剤の具体例としては、セル造核剤(単に造核剤とも称する)が挙げられる。また、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の炭化水素系発泡剤を使用する場合には、造核剤としては、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、酸化チタン、ベントナイト、硫酸バリウム等のような無機造核剤が一般に使用される。セル造核剤の添加量は、使用するポリオレフィン系樹脂の種類、セル造核剤の種類によって異なるので一概には規定できないが、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、概ね0.001重量部以上、2重量部以下であることが好ましい。
【0021】
また、発泡剤として炭酸ガス(二酸化炭素)を使用する本方法では、前記無機造核剤および/または親水性物質を使用することが好ましい。水系分散物の分散媒として水を使用する場合には、ポリオレフィン系樹脂中に水が含浸し、含浸した水が他の発泡剤と共にあるいは単独で発泡剤として作用する。
【0022】
前記親水性物質は、ポリオレフィン系樹脂に含浸される水分量を多くするように作用する。親水性物質の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硼砂、硼酸亜鉛等の無機物質;あるいは、グリセリン、メラミン、イソシアヌル酸、メラミン・イソシアヌル酸縮合物;ポリエチレングリコール、またはポリエチレンオキシド等のポリエーテル、ポリエーテルのポリプロピレン等への付加物、およびこれらのポリマーアロイ;エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、ブタジエン-(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、カルボキシル化ニトリルゴムのアルカリ金属塩、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等の重合体;等の有機物が挙げられる。これら親水性物質は、単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
【0023】
親水性物質の添加量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0 .005重量部以上、2重量部以下であることが好ましく、0.005重量 部以上、1重量部以下であることがより好ましい。親水性物質の種類および量を調整することにより、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の平均気泡径を調整することができる。
【0024】
さらに、ポリオレフィン系樹脂粒子の製造時には、必要により着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、リン系加工安定剤、ラクトン系加工安定剤、金属不活性剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾエート系光安定剤、ヒンダートアミン系光安定剤、難燃剤、難燃助剤、酸中和剤、結晶核剤、アミド系添加剤等の添加剤を、ポリオレフィン系樹脂の特性を損なわない範囲で添加することができる。
【0025】
2-3.発泡剤
本方法では、前記発泡工程にて使用される発泡剤は炭酸ガス(二酸化炭素)である。なお、本方法は、発泡剤として炭酸ガスを使用した方法であればよく、炭酸ガスと従来公知の発泡剤とを併用した方法も本方法の範疇に含まれる。従来公知の発泡剤としては、プロパン、イソブタン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の揮発性の炭化水素系発泡剤、および空気、窒素、水等の無機ガスを用いることが可能である。
【0026】
1-4.分散剤および分散助剤
前記水系分散媒としては水を使用することが好ましい。メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等を水に添加した分散媒も、水系分散剤として使用することができる。
【0027】
水系分散媒においては、ポリオレフィン系樹脂粒子同士の融着を防止するために、分散剤を使用することが好ましい。分散剤の具体例としては、例えば、第三リン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、タルク、クレー等の無機系分散剤が挙げられる。これらの中でも、第三リン酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリンが、少ない使用量でも耐圧容器内のポリオレフィン系樹脂粒子を含んでなる水系分散物を安定的に分散させることができるため、より好ましい。
【0028】
また、分散剤と共に分散助剤を使用することが好ましい。分散助剤の具体例としては、例えば、N-アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等のカルボン酸塩型;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩等のスルホン酸塩型;硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等の硫酸エステル型;および、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンリン酸塩、アルキルアリルエーテル硫酸塩等のリン酸エステル型;等の陰イオン界面活性剤が挙げられる。また、分散助剤として、マレイン酸共重合体塩;ポリアクリル酸塩等のポリカルボン酸型高分子界面活性剤;および、ポリスチレンスルホン酸塩、ナフタルスルホン酸ホルマリン縮合物塩;等の多価陰イオン高分子界面活性剤も使用することができる。
【0029】
分散助剤として、スルホン酸塩型の陰イオン界面活性剤を使用することが好ましく、さらには、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれる1種もしくは2種類以上の混合物を用いることが好ましい。また、アルキルスルホン酸塩を使用することがより好ましく、疎水基として炭素数10~18の直鎖状の炭素鎖を持つアルキルスルホン酸塩を使用することが、ポリオレフィン系樹脂の発泡粒子に付着する分散剤を低減することができるため、特に好ましい。
【0030】
そして、本発明の実施形態においては、分散剤として第三リン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム、硫酸バリウムまたはカオリンから選ばれる1種以上と、分散助剤としてn-パラフィンスルホン酸ソーダを併用することが特に好ましい。
【0031】
3.本方法の各工程
3-1.分散液調製工程
前記分散液調製工程では、耐圧容器内で上述したポリオレフィン系樹脂粒子を上述した水系分散媒に分散させて分散液を調製している。
【0032】
分散剤および分散助剤の使用量は、その種類、または用いるポリオレフィン系樹脂の種類および使用量に応じて異なる。通常、分散剤は、水系分散媒100重量部に対して、0.1重量部以上、5重量部以下で配合することが好ましく、0.2重量部以上、3重量部以下で配合することがより好ましい。分散助剤は、水系分散媒100重量部に対して、0.001重量部以上、0.3重量部以下で配合することが好ましく、0.001重量部以上、0.1重量部以下で配合することがより好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂粒子は、水系分散媒中での分散性を良好にするため、通常、水系分散媒100重量部に対して、20重量部以上、100重量部以下で使用することが好ましい。前記構成であれば、ポリオレフィン系樹脂粒子を耐圧容器内で水系分散媒中に安定に分散させることができる。
【0033】
3-2.発泡工程
前記発泡工程では、発泡剤として炭酸ガスを使用して、前記分散液を前記ポリオレフィン系樹脂粒子の軟化温度以上の温度に加熱し加圧した後、前記耐圧容器内の内圧よりも低圧雰囲気下に放出することによって発泡させる。より具体的には、発泡工程では、前記分散液を前記ポリオレフィン系樹脂組成物の軟化温度以上の温度に加熱し、発泡剤となる炭酸ガスを前記樹脂組成物粒子に含浸させる。その後、無機ガスを耐圧容器内に導入して、耐圧容器内の圧力を0.6~5.0MPaとし、この圧力を保持しつつ、前記耐圧容器内の内圧よりも低圧の雰囲気中に放出することによって発泡させる。
【0034】
前記分散液を加熱する温度は、前記ポリオレフィン系樹脂粒子の軟化温度以上であれば、特に限定されないが、好ましくは前記ポリオレフィン系樹脂粒子の融点以上、さらに好ましくは融点+5℃以上である。また、前記分散液を加熱する温度は、好ましくは融点+20℃以下、さらに好ましくは融点+15℃以下の温度である。例えば、融点145℃のエチレン-プロピレン共重合体の場合、加熱温度は145~165℃、さらには150~160℃が好ましい。加熱温度が145℃未満である場合、ポリオレフィン系樹脂粒子が発泡しにくくなる。また、加熱温度が165℃を超える場合、得られる発泡粒子の機械的強度、耐熱性が充分でなく、耐圧容器内でポリオレフィン系樹脂粒子が融着しやすくなる傾向が生じる。
【0035】
なお、前記ポリオレフィン系樹脂の融点は、DSC(示差走査熱量計)によって40℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、10℃/分の速度で40℃まで冷却した後、再度、10℃/分の速度で220℃まで昇温したときに現れる融解ピークの頂点の温度である。
【0036】
前記無機ガスとしては、特に限定されないが、窒素、空気またはこれらを主体(通常、50容量%以上、好ましくは70容量%以上)とし、アルゴン、ヘリウム、キセノンなどの不活性ガスや水蒸気、酸素、水素、オゾンなどを少量(50容量%以下、好ましくは30容量%以下)含む無機ガスなどを使用することができるが、経済性、生産性、環境適合性などの点から窒素が好ましく、安全性、経済性の点から空気が更に好ましい。
【0037】
前記無機ガスによる保持圧力は、特に限定されないが、発泡倍率の向上、発泡倍率バラツキの低減の点から、前述のように0.6~5.0MPaが好ましく、1.0~3.5MPaがより好ましい。保持圧力が0.6MPa未満の場合、無機ガスを導入することによる効果が少なくなり、発泡粒子が充分に発泡しない傾向にあり、所望とする発泡倍率を有する発泡粒子を得ることが困難である傾向がある。また、5.0MPaを超えると得られる発泡粒子の気泡が微細化し、独立気泡率が低下して成形品の収縮、形状安定性、機械的強度、耐熱性が損なわれる傾向にある。無機ガスの導入時期は、発泡粒子の倍率および倍率バラツキ等の品質には大きく影響を及ぼさないので、耐圧容器内の加熱前、加熱途中、加熱後のいずれもよい。
【0038】
また、前記無機ガスで加圧して所定の圧力に到達後、前記ポリオレフィン系樹脂粒子を水系分散媒とともに低圧雰囲気中に放出するまでの時間は、特に限定されないが、生産性向上の観点から60分以内であるか、あるいは、できるだけ短いことが好ましい。なお、放出中の容器内圧力は前記到達した圧力を維持することが好ましい。
【0039】
また、前記分散液が放出される低圧雰囲気は、耐圧容器内の内圧よりも低圧の圧力の雰囲気であればよいが、通常、大気圧付近の圧力の雰囲気が選ばれる。また、前記雰囲気とは、放出された水系分散物(発泡粒子および水系分散媒)の飛散軌跡を包含する空間を意味するが、一般にはパイプ、ダクト状のもので外気と遮断した装置内をいう。
【0040】
ここで、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の製造方法においては、前記分散液(ポリオレフィン系樹脂粒子および水系分散媒)は、好ましくは耐圧容器の内圧を保持しつつ耐圧容器から絞り盤を通した後、耐圧容器の内圧よりも低圧雰囲気中に放出される。ここで、本方法にて使用される絞り盤について、以下に説明する。
【0041】
<絞り盤>
前記絞り盤は、一般に放出時間の調整、発泡倍率の均一化のために使用される。本方法では、オリフィス板に筒体を付けた筒付き絞り盤を用いている。これにより、放出された分散液の飛散角度を小さくすることができる。その結果、均一な大きさの発泡粒子に発泡させ、かつ、倍率バラツキを少なくできる。前記オリフィス板としては、オリフィス型、ノズル型、ベンチュリ型等を使用することができ、また、これらを組み合わせても使用できる。好ましくは、オリフィス板として、オリフィス型を用いることが好ましい。オリフィス型を用いることにより、簡単な構造で、流出速度を一定に保持でき、高倍率、かつ、倍率バラツキの少ない発泡粒子を得ることができる。
【0042】
図2は、本方法にて使用される絞り盤1の構成を示す正面図である。
図3は、
図2に示す絞り盤1の変形例の構成を示す正面図である。
図4は、絞り盤1の構成を示す断面図である。
【0043】
図2および
図4に示されるように、絞り盤1は、筒体2と、オリフィス板3と、を備えている。筒体2は、円筒形状であり、オリフィス板3における分散液の放出側の面に形成されている。また、オリフィス板3には、分散液が通過するオリフィス5が形成されている。筒体2は、その内側面がオリフィス5を囲むように配置されている。より具体的には、オリフィス5の中心と筒体2の中心とがほぼ一致する位置関係となっている。
【0044】
オリフィス板3を使用する場合、オリフィス5の口径haは、特に限定されないが、6.0mm以上が好ましく、7.0mm以上がより好ましく、8.0mm以上がより好ましい。また、口径haの上限は、特に限定されない。しかし、口径haが大きくなる程、発泡粒子を輸送するための能力の必要性が高くなり、設備費が高くなってしまう。
【0045】
また、オリフィス板3の厚みは、0.2~10mmが好ましく、0.5~5mmがより好ましい。厚みが0.2mm未満である場合、放出時の圧力により、オリフィス板3が破損するおそれがある。一方、厚みが10mmを超えると、得られる発泡粒子の発泡倍率が低下して、所望とする発泡倍率を有する発泡粒子を得ることが困難になるとともに、樹脂により開孔部が閉塞するおそれがある。
【0046】
また、オリフィス板3に取り付ける筒体2は、オリフィス5における分散液の放出側に一体的に取り付けられる。筒体2の材質は、特に限定されるものではないが、一般的には金属が用いられる。また、筒体2とオリフィス板3とを一体化する方法は、特に限定されず、溶接、嵌合、螺合、接着等を用いてもよい。必要に応じて、オリフィス板3と筒体2とは、同一物として製造されてもよい。
【0047】
また、筒体2におけるオリフィス板3と反対側の開口面積は、筒体2の大きさや長さに応じて適宜設定可能であり、一般的には、オリフィス5の開口面積の1.3倍以上である。筒体2の当該開口面積がオリフィス5の開口面積の1.3倍未満である場合は、放出される発泡粒子の凝集や詰まりが起こりやすくなる。なお、筒体2の長さが短ければ上記のような問題は起こらないが、筒体2の効果は起こり難くなる。
【0048】
図2に示す筒体2の形状は、円筒に限定されず、円や楕円の一部を含む円形孔であってもよい。ここでいう円形孔とは、内側壁が円形、楕円形、矩形や正方形の相対する2辺に該辺を直径とする半円がつけ加えられた形状のものなどの形状を構成する貫通孔のことを意味する。
【0049】
筒体2は、円形孔に限定されない。
図3に示されるように、筒体2は、スリット形状4であってもよい。ここでいうスリット形状4の筒体2とは、矩形、正方形、菱形、台形、平行四辺形、他の四角形、三角形、五角形、六角形などの多角形の形状の貫通孔を意味する。
【0050】
また、筒体2の形状は角柱や円柱状であってもよい。この場合、筒体2の開口部の形状はスリット形状4または円形状となる。また、このような筒体2は、正面(分散液を放出する側)の幅または短径Haが、0.6mm以上、好ましくは1.2~25mmであり、筒体2の放出方向の長さMが、5mm以上、好ましくは5~300mmの形状である。筒体のスリット形状4または円形状の正面の幅または短径Haが0.6mm未満である場合、スリットまたは孔が閉塞しやすくなる。筒体2の長さMが5mm未満である場合は、放出された分散液の飛散軌跡が筒体2の付いていない絞り盤1を使用した場合と差がない。このため、倍率バラツキの低減効果が弱くなる。また、長さMが300mmよりも長い場合は、筒体2の内部にて発泡粒子同士が衝突して融着し、発泡粒子を得ることができなくなるおそれがある。
【0051】
また、筒体2の形状は、角錐または円錐形状の一部をなす形状であってもよい。この場合、筒体2におけるオリフィス板3と接する部分の面積は、オリフィス5の開口面積に近い。そして、筒体2を通ってから分散液が放出される時点での筒体2の開口面積は広くなっている。すなわち、筒体2の形状は、当該筒体2の側壁によって囲まれた開口面積が分散液の放出方向へ向かうに従い大きくなる形状である。
【0052】
また、筒付きの絞り盤1には、オリフィス板3のオリフィス5の開孔数と同数以下の筒体2が設けられ得る。絞り盤1におけるオリフィス5が複数個である場合には、生産速度が大きくなるので有利である。
【0053】
次に、筒付きの絞り盤1の筒体2のスリット形状4または円形状の正面の幅または短径H
a、筒体2の長さMの求め方について、
図1~
図3を参照して説明する。なお、筒体2の寸法は筒体の内径寸法である。
【0054】
まず、長さMは、分散液の放出方向において、筒体2における最もオリフィス板3に近い箇所から最もオリフィス板3から遠い箇所までの距離として規定される。また、幅Haおよび高さは、スリット形状4が矩形である場合、長辺および短辺(正方形の場合はおなじ)である。また、スリット形状4が台形である場合、底辺および高さのうち大きい方の寸法が幅Haであり、小さいほうの寸法が高さとなる。また、スリット形状4がその他の形状である場合、スリット形状4の重心点を通る任意の直線をスリット形状4の辺により切り取った線分のうち、最も長い線分の長さを長径とし、最も短い線分を短径Haとする。また、筒体2が楕円形状である場合、長軸を幅Haまたは長径とし、短軸を高さまたは短径Haとする。
【0055】
筒付きの絞り盤1に2つ以上の筒体が設けられている場合、複数の筒体2のスリット形状4または円形状は、全て同じ形状であってもよいし、全て異なる形状であってもよい。また、一部が同じ形状であり一部が異なる形状であってもよい。
【0056】
3-3.衝突工程
本方法では、前記発泡工程は、前記耐圧容器中の混合物を放出部(例えば絞り盤1)から放出する際に、当該混合物を曲面に衝突させる衝突工程を含む。ここでいう「混合物」とは、ポリオレフィン系樹脂粒子に発泡剤として炭酸ガスを含侵させたものと分散液との混合物を意味する。
図1は、本方法にて使用される発泡装置の一例の概略構成を示す図である。
図1に示されるように、本方法に発泡装置は、筒付きの絞り盤1と、放出配管6と、耐圧容器7と、バルブ8と、低圧容器13と、衝突板14と、を備えている。
【0057】
放出配管6は、耐圧容器7と低圧容器13との間を連結する配管である。そして、この放出配管6にバルブ8が設けられている。バルブ8は、耐圧容器7の開閉を切り替える弁である。また、絞り盤1は、放出配管6の出口に配置されている。放出配管6と低圧容器13とは、絞り盤1を介して連通している。また、衝突板14は、低圧容器13内に設けられており、絞り盤1の出口と対向するように配置されている。
【0058】
耐圧容器7内には、ポリオレフィン樹脂からなる樹脂粒子9を水系分散媒10に分散させた分散液が収容されている。耐圧容器7内部で加熱加圧された分散液は、バルブ8を開けることにより放出配管6を通過し、絞り盤1の出口から低圧容器13内に放出されて発泡粒子11となる。衝突工程では、絞り盤1の出口から放出された発泡粒子11を衝突板14に衝突させている。
【0059】
本方法において、衝突板14は、絞り盤1から放出される発泡粒子11の飛散方向を変化させるための部材である。通常、発泡時には樹脂粒子9の軟化温度以下になると樹脂が硬化して発泡は終了する。しかし、本方法のように水系分散媒10に樹脂粒子9が分散された分散液を衝突板14に衝突させた場合、発泡雰囲気の温度および湿度がより均一になるためと考えられるが、発泡粒子11個々が均一に発泡し、発泡倍率のバラツキが小さくなる。ここで、本方法において、衝突板14は曲面14aを有する。本方法では、絞り盤1から放出される分散液を曲面14aに衝突させている。この曲面14aは、特に限定されないが、好ましくは分散液の飛散方向に窪んだ凹曲面である。
【0060】
本方法では、特に分散液を曲面14aに衝突させているので、低発泡倍率の発泡粒子11を製造する場合には、少なくとも発泡倍率のバラツキをさらに小さくすることができる。一方、高発泡倍率の発泡粒子11を製造する場合には、少なくともセル構造が均一となった発泡粒子11を得ることが可能である。一般的に、製造する発泡粒子の発泡倍率が高くなる程、製造される発泡粒子のセル構造が不均一となる傾向にある。本発明者は、分散液を曲面14aに衝突させることによって、製造する発泡粒子の発泡倍率が高い場合でもセル構造を均一化できるという知見を見出し、本方法に至った。本方法の知見に基づく技術思想は、従来の知見から予測できるものではなく、本発明者らが独自に完成させたものである。
【0061】
なお、ここでいう「低発泡倍率」とは、発泡倍率が10~18倍、好ましくは12~16倍のことを意味し、「高発泡倍率」は、発泡倍率が18~25倍、好ましくは20~22倍のことを意味する。
【0062】
また、衝突板14の曲面14aの曲率半径は、500~1500mm、好ましくは800~1200mm、より好ましくは900~1100mm、さらに好ましくは1000mmである。曲面14aの曲率半径が500mm未満である場合、発泡粒子の流動性が悪化するため好ましくない。曲面14aの曲率半径が1500mmを超える場合、衝突の効果が弱くなるため好ましくない。
【0063】
衝突板14の大きさは、発泡粒子11を衝突させることができる大きさであればよい。また、放出部(絞り盤1の先端)から衝突板14までの距離Lは、発泡粒子11を衝突させることができる距離であればよい。発泡倍率のバラツキが小さく、かつセル構造が均一な発泡粒子11を製造するには、距離Lは、50mm≦L≦600mm、好ましくは50mm<D<400mm、より好ましくは50mm<D<200mm、さらに好ましくは50mm<D<100mmである。距離Lが50mm以上である場合、絞り盤1と衝突板14との間の隙間で発泡粒子11同士を融着させずに発泡が行えるため好ましい。また、耐圧容器内の加熱、加圧条件による違いはあるが、距離Lが600mm以下の場合、衝突の効果が十分に働き、倍率バラツキ低減効果やセル構造均一化効果が大きくなるため好ましい。衝突板14までの距離Lは長すぎると、衝突するまでに発泡粒子11が冷えて発泡しにくくなり所望の発泡倍率を得るのが困難になる。それゆえ、距離Lは、発泡雰囲気に合わせて設定する必要がある。
【0064】
また、衝突板14の材質は、特に限定されないが、金属、プラスチック、ゴム、フェルト、セラミックス、木材であってもよい。
【0065】
また、発泡粒子11の曲面14aに対する衝突角度θは、発泡粒子11が衝突できる角度であればよい。発泡倍率のバラツキが小さく、かつセル構造が均一な発泡粒子11を製造するには、衝突角度θは、好ましくは13°以上、より好ましくは15~25°であり、さらに好ましくは18~22°である。ここでいう衝突角度θとは、
図1に示されるように、絞り盤1における筒体の軸線Rと衝突板14との交点をPとしたとき、Pにおける衝突板14の接線Gと軸線Rとのなす角度を意味する。
【0066】
衝突角度θが13°以上である場合、衝突の効果が強くなり発泡倍率のバラツキ低減効果が大きくなりやすいので好ましい。また、衝突角度θが15~25°の場合、発泡倍率のバラツキ低減効果が大きく、且つ衝突面(曲面14a)でのセルが微細化しにくくなりセル構造が均一になる傾向があるためより好ましい。
【0067】
上述のように、本方法では、オリフィス5の口径haは、6.0mm以上であることが好ましい。一般的に、発泡粒子11を短時間発泡して製造するに際し、口径haを大きくし開口面積を大きくして発泡粒子11を多く放出させる方策が採られる。このように口径haを大きくして発泡粒子11を放出した場合、従来の方法(特許文献1~3)では、発泡倍率のバラツキが悪化することを本発明者は見出している。本発明者は、衝突板14における発泡粒子11の衝突面を衝突板14とすることによって、大口径のオリフィス5(口径haが6.0mm以上)を用いた短時間発泡であっても、発泡倍率のバラツキを顕著に低減できるという知見を独自に見出した。それゆえ、本方法は、大口径のオリフィスを用いた短時間発泡において、適用されることが好ましい。
【0068】
このようにして得られるポリオレフィン系樹脂粒子を含む分散液からの発泡粒子は、発泡倍率が約2~40倍であり、好ましくは3~30倍である。また、当該発泡粒子は、独立気泡率が約80~100%であり、好ましくは90~100%である。さらに、当該発泡粒子は、平均気泡径が約20~500μmであり、好ましくは100~400μmである。
【0069】
前記発泡倍率が2倍未満の場合、得られる成形体の柔軟性などが不充分となり、また40倍を超える場合、得られる成形体の機械的強度、耐熱性などが不充分となる。また、前記独立気泡率が80%未満の場合、2次発泡力が不足するため、成形時に融着不良が発生し、得られる成形体の機械的強度等が低下する。また、前記平均気泡径が20μm未満の場合、得られる成形体の形状が歪む等の問題が生じ、500μmを超える場合、得られる成形体の機械的強度が低下する。また、前記発泡倍率のバラツキが7%以下である場合、成形体の重量バラツキが少なくなり製品収率が向上する。
【0070】
また、前記ポリオレフィン系樹脂発泡粒子は、80%以上の独立気泡率を有する。それゆえ、必要に応じて、発泡粒子を耐圧容器中で加熱加圧下、一定時間処理することによって空気含浸を行った後に成形用金型に充填し、蒸気加熱することにより加熱型内発泡成形して金型どおりの成形体を製造してもよい。このようにして得られた発泡成形体は、柔軟性、緩衝性に優れ、しかも寸法収縮率が小さく、形状変形が小さいため、きわめて商品価値が高いものとなる。
【0071】
そして、発泡倍率が10~18倍の低発泡倍率の発泡粒子において、少なくとも発泡倍率のバラツキは、発泡条件等にも左右されるが、通常、10%未満、好ましくは7.0%以下、より好ましくは5.0%以下となる傾向がある。低発泡倍率の発泡粒子を製造する場合、本実施形態に係る製造方法は、従来の発泡方法と比較して、発泡倍率バラツキの小さい良好な発泡粒子を得ることができる。
【0072】
また、発泡倍率が18~25倍の高発泡倍率の発泡粒子においては、少なくともセル構造の均一性が良好になる。より具体的には、構成する粒子セル間のセル径、言い換えると1つの発泡粒子における最小平均セル径と最大平均セル径との差(以下、単にセル径差と称する場合がある)が70μm以下である。なお、セル径差は、例えば、次のようにして算出することが可能である。まず、発泡粒子を切断し、当該切断面を上下左右に4分割する。次いで、4分割した領域それぞれについて平均セル径を算出する。そして、算出された4つの平均セル径のうち、最大値を最大平均セル径とし最小値を最小平均セル径として、これらの差を前記セル径差とする。当該セル径差は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。前記セル径差が70μm以下である場合、成形体としての製品の外観が良くなるため好ましい。セル径差は、小さい程好ましい。
【0073】
すなわち、本実施形態に係るポリオレフィン系樹脂発泡粒子は、以下の(i)および(ii)を満たす。
【0074】
(i)発泡倍率が18~25倍である、
(ii)発泡粒子の切断面を4分割した領域それぞれにて算出された4つの平均セル径のうち、最小平均セル径と最大平均セル径との差が70μm以下である。
【0075】
上述したように、発泡倍率が比較的高い従来の発泡粒子は、セル構造が不均一になる傾向がある。本実施形態に係るポリオレフィン系樹脂発泡粒子は、発泡倍率が高いにも関わらずセル構造が均一であるという特徴がある。
【0076】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法は、耐圧容器7内で熱可塑性樹脂粒子(樹脂粒子9)を水系分散媒10に分散させて分散液を調製する分散液調製工程と、発泡剤として炭酸ガスを使用して、前記分散液を前記熱可塑性樹脂粒子の軟化温度以上の温度に加熱し加圧した後、前記耐圧容器7内の内圧よりも低圧雰囲気下(低圧容器13)に放出することによって発泡させる発泡工程と、を含み、前記発泡工程は、前記耐圧容器7中の混合物を放出部(絞り盤1)から放出する際に、当該混合物を曲面14aに衝突させる衝突工程を含む。
【0078】
本発明の態様2に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法は、態様1において、前記混合物の前記曲面14aに対する衝突角度θは、13°以上である。
【0079】
本発明の態様3に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法は、態様1または2において、前記混合物の前記曲面14aに対する衝突角度θは、15~25°である。
【0080】
本発明の態様4に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法は、態様1~3の何れかにおいて、前記放出部(絞り盤1)から前記曲面14aまでの距離をLとしたとき、前記衝突工程では、50mm≦L≦600mmで前記混合物を前記曲面14aに衝突させる。
【0081】
本発明の態様5に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法は、態様1~4の何れかにおいて、前記放出部(絞り盤1)は、前記混合物が放出されるオリフィス5を備えており、前記オリフィス5の口径haは、6mm以上である。
【0082】
本発明の態様6に係る熱可塑性樹脂発泡粒子の製造方法は、態様1~5の何れかにおいて、製造する発泡粒子の発泡倍率が10~25倍である。
【0083】
本発明の態様7に係る熱可塑性樹脂発泡粒子は、発泡倍率が18~25倍であり、構成する粒子セル間のセル径の差が70μm以下である。
【実施例】
【0084】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されて解釈されるべきではない。
【0085】
<発泡粒子の発泡倍率のバラツキ測定>
ポリオレフィン系樹脂発泡粒子1kgを、JIS Z8801の標準篩(呼び寸法1、1.18、1.4、1.7、2、2.36、2.8、3.35、4、4.75、5.6の11種の篩)で篩い分けした。各篩に残るポリオレフィン系樹脂発泡粒子の重量分率Wi、発泡倍率Kiを測定し、下記の式(1)から平均発泡倍率Kavを算出する。
【0086】
【数1】
次に重量分率Wi、発泡倍率Kiおよび平均発泡倍率Kavを用いて式(2)
【数2】
から発泡倍率の標準偏差δmを計算し、式(3)
【数3】
から倍率バラツキR(%)を求めた。なお、発泡倍率のバラツキは、10%未満を合格レベルとした。
【0087】
なお、各篩に残るポリオレフィン系樹脂発泡粒子の発泡倍率Kiは、次のようにして求めた。まず、各篩に残るポリオレフィン系樹脂発泡粒子の重量Giを0.001gまで正確に秤量した(小数点以下4桁目を四捨五入)。次いで、秤量された重量既知のポリオレフィン系樹脂発泡粒子を23℃の水100mlが収容されたメスシリンダー内の水に水没させたときに上昇した目盛りから、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の体積yi(cm3)を読み取った。そして、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の重量Gi(g)をポリオレフィン系樹脂発泡粒子の体積yi(cm3)で除し、これをg/L単位に換算することにより各篩いのポリオレフィン系樹脂発泡粒子の見かけ密度di求めた。最後に基材樹脂の密度ds(=900g/L)との比から発泡倍率Ki=ds/diを求めた。
【0088】
<発泡粒子のセル構造均一性の評価>
気泡膜が破壊されないように充分注意して発泡粒子をほぼ中央で切断した。その切断面について、上下左右に4分割した領域をマイクロスコープで観察し、それぞれの領域での平均セル径を算出した。平均セル径は、長さ1000μmに相当する線分を引き、該線分が通る気泡数nを測定した。そして、上記気泡数nから気泡径を1000/n(μm)で算出した。なお、平均セル径の算出は、発泡粒子30粒それぞれについて行った。
【0089】
発泡粒子30粒それぞれについて、最小平均セル径および最大平均セル径を算出した。そして、算出された、最小平均セル径と最大平均セル径との差(セル径差)に基づき、セル構造均一性の評価を以下のように行った。なお、この評価は、30粒の発泡粒子間での前記セル径の平均値に基づいて行われた。
【0090】
最小平均セル径と最大平均セル径との差が
30μm未満:5、
30μm以上60μm未満:4、
60μm以上90μm未満:3、
90μm以上120μm未満:2、
120μm以上:1。
【0091】
(実施例1)
〔樹脂粒子の製造〕
ポリオレフィン系樹脂であるエチレン-プロピレンランダム共重合体(密度0.90g/cm3、エチレン含有率3%、融点145℃、MI=7.5g/10分、曲げ弾性率1000MPa)を26mmφ二軸押出機[東芝機械株式会社製、TEM26-SX]に供給し、溶融混練した。その後、直径1.2mmφの円筒ダイより押し出し、水冷後カッターで切断し、円柱状のポリオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物粒子(ペレット)(1.2mg/粒)を得た。得られた樹脂粒子の融点は145℃、JISK7112により測定した密度0.90g/cm3であった。
【0092】
〔発泡粒子の製造〕
得られた樹脂粒子100重量部、分散剤として第三リン酸カルシウム[太平化学産業(株)製]0.5重量部および分散助剤としてアルキルスルホン酸ナトリウム(n-パラフィンスルホン酸ソーダ)[花王(株)製、ラテムルPS]0.03重量部を、水200重量部と共に
図1に示す装置の耐圧容器7内に仕込んだ。その後、炭酸ガスを3.5重量部仕込み、耐圧容器7内にて水分散液を攪拌しながら、151℃まで加熱した。このときの耐圧容器7内の圧力は約1.7MPaであった。その後、炭酸ガスを追加圧入して2.2MPaまで昇圧した。前記発泡温度、発泡圧力で20分間保持した後、耐圧容器7下部のバルブ8を開いて水系分散液を、口径h
aが8mmのオリフィス5を有する1穴の絞り盤1から低圧容器13へ放出した。そして、低圧容器13内にて、水系分散液を曲率半径1000mmの曲面14aに衝突させて、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子を得た(衝突工程)。この衝突工程では、絞り盤1と衝突板14との距離Lを150mmとし、衝突角度θを18°とした。また、本実施例1では、製造される発泡粒子の目標発泡倍率を14倍とした。
【0093】
得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0094】
(実施例2)
絞り盤1と衝突板14との距離Lを50mmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0095】
(実施例3)
絞り盤1と衝突板14との距離Lを300mmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0096】
(実施例4)
絞り盤1と衝突板14との距離Lを600mmとしたこと、および目標発泡倍率を13倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0097】
(実施例5)
衝突角度θを15°としたこと、および目標発泡倍率を13倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0098】
(実施例6)
衝突角度θを25°としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0099】
(実施例7)
目標発泡倍率を9倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0100】
(実施例8)
目標発泡倍率を20倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0101】
(実施例9)
絞り盤1と衝突板14との距離Lを5mmとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0102】
(実施例10)
絞り盤1と衝突板14との距離Lを700mmとしたこと、および目標発泡倍率を13倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0103】
(実施例11)
衝突角度θを13°としたこと、および目標発泡倍率を12倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0104】
(実施例12)
衝突角度θを30°としたこと、および目標発泡倍率を14倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0105】
(比較例1)
曲面14aの代わりに平板状の衝突板に水系分散液を衝突させたこと、衝突角度θを20°としたこと、絞り盤1と衝突板14との距離Lを300mmとしたこと、および目標発泡倍率を12倍としたこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0106】
(比較例2)
目標発泡倍率を20倍としたこと以外は、比較例1と同様の方法で発泡粒子を得た。得られた発泡粒子について、発泡倍率のバラツキを測定するとともに、セル構造の均一性を評価した。
【0107】
実施例1~12、並びに比較例1および2の発泡粒子の発泡倍率のバラツキおよびセル構造の均一性の評価結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
表1の結果から、実施例1~12の発泡粒子は、発泡倍率のバラツキが10%以下であり、バラツキが良好であった。一方、比較例1の発泡粒子は、発泡倍率のバラツキが10%を超え、バラツキが良好ではなかった。それゆえ、実施例1~12の発泡粒子は、比較例1の発泡粒子よりも発泡倍率のバラツキが低減されていることが分かった。また、実施例1~7、9~12と比較例1との比較から、目標発泡倍率が12~14倍程度の低発泡倍率で発泡粒子を製造した場合、曲面14aを有する衝突板14を用いることにより、少なくとも発泡倍率のバラツキを低減できることが分かった。また、衝突角度については、衝突面が曲面であり、且つ衝突角度が13°以上である場合、発泡倍率のバラツキが7%以下となり良好であることがわかった。
【0109】
また、実施例8では、目標発泡倍率が20倍程度の高発泡倍率で発泡粒子を製造している。製造された発泡粒子は、(i)発泡倍率が20倍であり、(ii)セル構造の均一性の評価が4であった。すなわち、(ii)最小平均セル径と最大平均セル径との差が70μm以下であった。
【0110】
一方、比較例2では、目標発泡倍率が20倍程度の高発泡倍率で発泡粒子を製造した場合、セル構造の均一性の評価が2であった。すなわち、最小平均セル径と最大平均セル径との差が70μmを超えていた。
【0111】
実施例8と比較例2との比較結果から、目標発泡倍率が20倍程度の高発泡倍率で発泡粒子を製造した場合、曲面14aを有する衝突板14を用いることにより、少なくともセル構造が均一な発泡粒子を得ることができることが分かった。
【0112】
また、実施例1~4と実施例9および10との比較から、絞り盤1と衝突板14との距離Lが50~600mmである場合、発泡倍率のバラツキがより低減されるとともに、セル構造も均一になることがわかった。さらに、実施例1、実施例5および6と実施例11および12との比較から、衝突角度θが15°~25°である場合、発泡倍率のバラツキが5%以下となり非常にバラツキが少なく、且つ、セル構造の均一性の評価が4以上となりセル構造も均一になることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、例えば、緩衝包装材、物流資材、断熱材、土木建築部材、自動車部材などの製造に使用される発泡粒子に好適に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0114】
1 絞り盤(放出部)
2 筒体
3 オリフィス板
4 スリット形状
5 オリフィス
6 放出配管
7 耐圧容器
8 バルブ
9 樹脂粒子
10 水系分散媒
11 発泡粒子
14 衝突板
14a 曲面
13 低圧容器