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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】蛍光体粉末および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20231130BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231130BHJP
【FI】
C09K11/64
H01L33/50
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021516029
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2020016538
(87)【国際公開番号】W WO2020218109
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019081456
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小林 学
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-308593(JP,A)
【文献】特開2017-210529(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186058(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/143590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00-11/89
H01L33/00;33/48-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子を主成分として含む蛍光体粉末であって、
超音波ホモジナイザ処理が施されていない前記蛍光体粉末において、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により測定されるメジアン径(D50)をD1とし、
以下の条件で実施される超音波ホモジナイザ処理が施された前記蛍光体粉末において、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により測定されるメジアン径(D50)をD2としたとき、
D1/D2が1.05以上1.70以下である蛍光体粉末。
(条件)
前記蛍光体粉末30mgを、濃度0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100ml中に均一に分散させた分散液を、底面が内径5.5cmの円柱状容器に入れる。次に当該分散液中に、超音波ホモジナイザの外径20mmの円柱状チップを1.0cm以上浸した状態で、周波数19.5kHz、出力150Wで3分間、当該分散液に超音波を照射する。
【請求項2】
前記D1が10μm以上35μm以下である請求項1に記載の蛍光体粉末。
【請求項3】
前記D2が8μm以上25μm以下である請求項1または2に記載の蛍光体粉末。
【請求項4】
発光素子と、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蛍光体粉末を用いた波長変換部と、
を備える発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粉末および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LEDなどの半導体発光素子と、当該半導体発光素子からの光の一部を吸収し、吸収した光を長波長の波長変換光に変換して発光する蛍光体とを組み合わせた発光装置の開発が進められている。蛍光体としては、結晶構造が比較的安定な窒化物蛍光体や酸窒化物蛍光体が注目されている。特に、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体は耐熱性、耐久性に優れ、温度上昇に伴う輝度変化が小さいという特徴に加え、紫外から青色光の幅広い波長の光で励起され、520~550nmの波長域にピークを有する緑色光を発光することから、白色LEDに有用な蛍光体として実用化が進んでいる(特許文献1参照)。
たとえば、特許文献2には、平均粒度(d1)(空気透過法)が9~16μmであり、粒度分布でのメディアン径(50%D)が12.5~35μmであり、50%D/d1=1.4~2.2なる条件を満たすβ型サイアロン蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2010/143590号
【文献】国際公開第2011/083671号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、白色LEDの需要の増大とともに、一層の高輝度化が求められるようになり、白色LEDに用いられるβ型サイアロン蛍光体の特性に対する要求水準がますます高くなっている。
【0005】
本発明は上述のような課題を鑑みたものであり、白色LEDの輝度を向上させることができるβ型サイアロン蛍光体に関する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子を主成分として含む蛍光体粉末であって、
超音波ホモジナイザ処理が施されていない前記蛍光体粉末において、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により測定されるメジアン径(D50)をD1とし、
以下の条件で実施される超音波ホモジナイザ処理が施された前記蛍光体粉末において、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により測定されるメジアン径(D50)をD2としたとき、
D1/D2が1.05以上1.70以下である蛍光体粉末が提供される。
(条件)
前記蛍光体粉末30mgを、濃度0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100ml中に均一に分散させた分散液を、底面が内径5.5cmの円柱状容器に入れる。次に当該分散液中に、超音波ホモジナイザの外径20mmの円柱状チップを1.0cm以上浸した状態で、周波数19.5kHz、出力150Wで3分間、当該分散液に超音波を照射する。
【0007】
また、本発明によれば、発光素子と、上述の蛍光体粉末と、を備える発光装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蛍光体粉末によれば、白色LEDの輝度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
本発明者らは、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子の凝集状態と当該蛍光体粒子を用いた白色LEDの輝度との関係を調べたところ、蛍光体粒子の超音波ホモジナイザ前後でのメジアン径の比と、当該蛍光体を用いた白色LEDの輝度に密接な関係性があることを見出した。従来のEuを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子では、超音波ホモジナイザ処理前後でのメジアン径の比を調節することは何ら検討されておらず、蛍光体粒子の凝集の程度を制御することで、白色LEDの輝度を向上させる余地があると考え、本発明の完成に至った。
【0011】
実施形態に係る蛍光体粉末は、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子(以下、単に「蛍光体粒子」と呼ぶ場合がある)を主成分として含む。ここで主成分とは、蛍光体粉末の全体に対して、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子を90質量%以上含む場合をいう。この場合、蛍光体粉末は、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子以外の蛍光体粒子を含んでもよい。
なお、本実施形態の蛍光体粉末は、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子からなること、言い換えると、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子の含有率が100質量%であることが好ましい。
本実施形態のEuを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子の成分は、一般式:Si6-zAl8-z(z=0.005~1)で表されるβ型サイアロンに発光中心として二価のユーロピウム(Eu2+)を固溶した蛍光体である。
【0012】
実施形態に係る蛍光体粉末は、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子を主成分として含む蛍光体粉末であって、超音波ホモジナイザ処理が施されていない前記蛍光体粉末において、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により測定されるメジアン径(D50)をD1とし、以下の条件で実施される超音波ホモジナイザ処理が施された前記蛍光体粉末において、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により測定されるメジアン径(D50)をD2としたとき、
D1/D2が1.05以上1.70以下である。
(条件)
前記蛍光体粉末30mgを、濃度0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100ml中に均一に分散させた分散液を、底面が内径5.5cmの円柱状容器に入れる。次に当該分散液中に、超音波ホモジナイザの外径20mmの円柱状チップを1.0cm以上浸した状態で、周波数19.5kHz、出力150Wで3分間、当該分散液に超音波を照射する。
【0013】
本実施形態の蛍光体粉末は、上記の特定の条件の超音波ホモジナイザ処理を行うことにより、蛍光体粒子の凝集がほぐれて、単分散化されるものである。言い換えると、本実施形態の蛍光体粉末は、蛍光体粒子が適度に凝集したものである。そして、ほとんど凝集していない場合は、単分散の状態に近いため、上記の特定の条件の超音波ホモジナイザ処理によって分散させられても、D1とD2はほぼ同等になり、D1/D2は1に近くなる。また、蛍光体粒子の凝集の程度が大きすぎる場合は、上記の特定の条件の超音波ホモジナイザ処理によって凝集がほぐれ単分散化される蛍光体粒子が多くなるため、D1/D2は大きくなる。
本実施形態の蛍光体粉末は、D1/D2を1.05以上とすることにより、当該蛍光体粉末を用いた白色LEDの輝度の向上を図ることができる。一方、D1/D2を1.70以下とすることにより、粒子の凝集を抑制することで、後述する白色LEDの封止材中での分散性を良好にし、輝度の低下を抑制することができる。
特許文献1、2に記載されたような、通常の技術水準でのβ型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末は、超音波ホモジナイザ処理をしても、蛍光体粉末の凝集状態はほぼ変動しない。すなわち、ほとんど凝集していないといえる。これに対して、本実施形態の蛍光体粉末では、D1/D2を所定の範囲に特定することによって、蛍光体粉末を適度に凝集させることによって、本実施形態の蛍光体粉末を白色LEDに用いたときの全光束を向上することができるものである。
【0014】
なお、上記条件の分散液は、蛍光体粉末30mgと、0.2%に調整したヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100mlとを200mlのビーカー内に採取した後、室温(25℃)でスパチュラーを用いて沈殿が生じない程度に均一に攪拌することで得られる。
【0015】
なお、蛍光体粉末のメジアン径(D50)は、具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定、フローセル式により算出される。このとき、計測装置への粉末供給時には超音波をかけず、試料供給器として付属のSDC(Sample Delivery Controller)を用いて、ポンプ流速75%でサンプルを供給し、測定する。なお、分散媒としては0.2%に調整したヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を使用する。
【0016】
D1/D2の下限は1.10以上が好ましく、1.15以上がより好ましく、1.20以上がさらに好ましい。一方、D1/D2は1.65以下が好ましく、1.55以下がより好ましい。D1/D2の下限および上限を上記範囲とすることにより、当該蛍光体粉末を用いた白色LEDの輝度をさらに向上させることができる。
【0017】
D1の下限は10μm以上が好ましく13μm以上がより好ましく、16μm以上がさらに好ましい。また、D1の上限は35μm以下が好ましく、32μm以下がより好ましく、29μm以下がさらに好ましい。D1の下限および上限を上記範囲とすることにより、当該蛍光体粉末を用いた白色LEDの輝度をより一層向上させることができる。
【0018】
D2の下限は8μm以上が好ましく、11μm以上がより好ましく、14μm以上がさらに好ましい。D2の上限は25μm以下が好ましく、22μm以下がより好ましく、19μm以下がさらに好ましい。D2の下限および上限を上記範囲とすることにより、当該蛍光体粉末を用いた白色LEDの輝度をより一層向上させることができる。
【0019】
また、実施形態に係る蛍光体粉末のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により測定されるメジアン径(D10)は、7.0~25μmが好ましく、9.5~20μmがより好ましい。
また、実施形態に係る蛍光体粉末のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により測定されるメジアン径(D90)は、20~60μmが好ましく、25~55μmがより好ましい。
実施形態に係る蛍光体粉末のメジアン径(D10)、メジアン径(D90)を上記の数値範囲とすることにより、蛍光体粉末のばらつきを抑制し、当該蛍光体粉末を用いた白色LEDの輝度をより一層向上させることができる。
【0020】
(蛍光体粉末の製造方法)
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、下記に述べるように、たとえば、混合工程、第1焼成工程、第2焼成工程、解砕・粉砕工程、アニール処理工程、酸処理工程および洗浄・濾過工程で構成される。上述したD1/D2は、上記各工程を総合的に適切に組み合わせるとともに、アニール処理工程における充填方法(充填密度)や降温速度などを調節することにより実現される。
【0021】
<混合工程>
混合工程では、例えば窒化ケイ素などのケイ素化合物、例えば窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、Euの金属、酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、窒化物または酸窒化物から選ばれるEu化合物(まとめて原料化合物という)を、それぞれ本実施形態の蛍光体粉末を構成するように秤量して混合し、原料混合物を調製する。原料化合物を混合する方法は特に限定されないが、例えばV型混合機等の公知の混合装置を用いて混合し、さらに乳鉢、ボールミル、遊星ミル、ジェットミルなどを用いて十分に混合する方法が挙げられる。なお、空気中の水分及び酸素と激しく反応する窒化ユーロピウム等を混合する場合は、不活性雰囲気で置換されたグローブボックス内で取り扱うことが適切である。
【0022】
アルミニウム化合物としては、加熱により分解して酸化アルミニウムを産生するアルミニウム含有化合物から選ばれる1種以上のアルミニウム化合物も挙げることができる。
【0023】
<第1焼成工程>
上記の原料混合粉末を少なくとも当該原料が接する面が窒化ホウ素からなる坩堝等の容器に充填し、窒素雰囲気中で1550℃以上2100℃以下の温度で加熱することにより、原料粉末内の反応を進行させる。第1焼成工程での目的は、反応を利用してEuを混合粉末中に高分散化させることが目的であり、この段階で部分的にでもβ型サイアロンが生成していれば、その生成率の大小は問わない。Euは、原料中に含まれる酸化物が高温になって生成する液相中を拡散することにより、高分散化する。焼成の温度を1550℃以上とすることにより、この液相の存在量を十分なものとし、Euの拡散を十分なものとすることができる。焼成温度を2100℃以下とすることにより、β型サイアロンの分解を抑制するための、非常に高い窒素圧力を必要とせずに済むため、工業的に好ましい。第1焼成工程における焼成時間は、焼成温度にもよるが、2時間以上18時間以下の範囲で調整することが好ましい。
【0024】
第1焼成工程で得られた試料(第1焼成粉)は、原料配合組成や焼成温度により、粉末状であったり、塊状になったりする。そこで、必要に応じて解砕、粉砕を行い、例えば、目開き45μmの篩を全通する程度の粉末状にする
【0025】
<第2焼成工程>
次に、この第1焼成粉に対して、窒化ケイ素、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ユーロピウムから選ばれる一種以上を添加し、混合工程と同様の方法により、混合し、容器に充填し、窒素雰囲気中、1900℃以上2100℃以下の温度で第2焼成工程を実施し、Euが固溶したβ型サイアロンを得る。第2焼成工程では、β型サイアロンの生成率を高めるために、1900℃以上の焼成温度が好ましい。第2焼成工程における焼成時間は、焼成温度にもよるが、6時間以上18時間以下の範囲で調整することが好ましい。
【0026】
<解砕・粉砕工程>
第2焼成工程後の試料(第2焼成粉)は塊状となっているため、粉砕、解砕に必要に応じて分級操作を組み合わせて所定サイズの粉末状とする。具体的な処理操作の例としては、第2焼成粉を解砕して粉砕し、目開き20μm以上45μm以下の範囲で篩分級処理し、篩を通過した粉末を得る方法、あるいは、第2焼成粉をボールミルや振動ミル、ジェットミル等の一般的な粉砕機を使用して所定の粒度に粉砕する方法が挙げられる。なお、粉砕機を使用する場合は、なるべく緩和な粉砕装置や粉砕条件を採用し、第2焼成粉に機械的なダメージを与えないようにすることが好ましい。
【0027】
また、前記粉砕処理の際には、不純物元素の混入を防ぐため、被粉砕物である第2焼成粉と接触する粉砕装置の部品は、窒化ケイ素、アルミナ、サイアロンといった高靭性セラミックス製であることが好ましい。解砕・粉砕工程が終了した第2焼成粉は、励起光の吸収効率が高く、また十分な発光効率を発揮するLED用の酸窒化物蛍光体を最終的に得るという点からは、平均粒径が50μm以下の粉末状となるように調整することが好ましい。
【0028】
<アニール処理工程>
上記方法により合成したEuを賦活したβ型サイアロン粉末を純窒素以外の非酸化性雰囲気中で第2焼成工程よりも低い温度でアニール処理を行い、Eu中のEu2+の割合を高めるとともに、蛍光発光を阻害するEuを次工程での酸処理で溶解除去できるように状態を変化させる。アニール処理を行う雰囲気としては、希ガス又は還元性ガスが好ましい。希ガスは、例えば、アルゴンやヘリウムなどの第18属元素のガスである。還元性ガスは、例えばアンモニア、炭酸ガス、一酸化炭素、水素などの還元力を有するガスである。還元性ガスは、単体として使用しても、窒素や希ガスなどの中性ガスとの混合ガスでも構わない
【0029】
アニール処理の温度は、使用する雰囲気により適正な範囲が異なる。温度が低すぎると、Euの状態変化が進まず特性が向上せず、温度が高すぎるとβ型サイアロンが分解してしまうので、好ましくない。アルゴンやヘリウムなどの希ガス雰囲気でアニール処理する場合の適正な温度範囲は、1350℃以上1600℃以下である。アニール処理工程におけるアニール時間は、アニール温度にもよるが、4時間以上12時間以下の範囲で調整することが好ましい。
なお、上述したD1/D2を適度な値とする観点から、上述したアニール処理をする場合、蓋付きの容器(原料が接する面が窒化ホウ素からなる坩堝等)に、Euを賦活したβ型サイアロン粉末をタッピングしながら充填し、充填度合いを適度に高めることが好ましい。充填の度合いとしては、たとえば、Euを賦活したβ型サイアロン粉末が蓋に接触するほど密な状態であることが挙げられる。
また、上述したD1/D2を適度な値とする観点から、アニール処理後のEuを賦活したβ型サイアロン粉末を従来の水準よりも速い降温速度で冷却することが好ましい。冷却条件としては、好ましくは、1000℃~1500℃の温度領域を3~10℃/分、より好ましくは、上記温度範囲を4~6℃/分で降温させることが挙げられる。
【0030】
<酸処理工程>
次に、アニール処理を行ったβ型サイアロン粉末に対して、酸処理を行う。酸処理に用いられる酸としては、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸から選ばれる1種又は2種以上の酸が用いられ、これらの酸を含む水溶液の形で使用される。この酸処理の主な目的は、アニール処理の際に生じる、蛍光や発光を阻害する化合物の除去であり、フッ化水素酸と硝酸の混酸を用いることが好ましい。この酸処理工程は、アニール処理を行ったβ型サイアロン粉末を上述の酸を含む水溶液に分散し、数分から数時間程度(例:10分以上3時間以内)、撹拌することにより、上記の酸と反応させることにより行う。酸の温度は室温でもよいが、温度が高いほど反応が進みやすいので、50℃以上80℃以下が好ましい。
【0031】
<洗浄・濾過工程>
酸処理工程の後、フィルター等でβ型サイアロン粉末を酸から分離し、分離されたβ型サイアロン粉末を水洗する。水洗後のβ型サイアロン粉末をフィルターを用いて濾過し、Euを賦活したβ型サイアロン蛍光体粒子を主成分とする蛍光体粉末を得る。
【0032】
本実施形態の蛍光体粉末は、アルミラミネートフィルム製の包装体に封入してもよい。すなわち、当該包装体は、包装内部に本実施形態の蛍光体粉末を乾燥状態で内包する。
【0033】
(発光装置)
実施形態に係る発光装置は、発光素子と、上述した実施形態の蛍光体粉末を用いた波長変換部と、を備える。より具体的には、当該発光装置は、本実施形態の蛍光体粉末を備える白色発光ダイオード(LED)である。そのようなLEDにおいては、蛍光体粉末を封止材中に封止して使用することが好ましい。そのような封止材としては特に限定はされず、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ペルフルオロポリマー樹脂、ガラスなどが挙げられる。ディスプレイのバックライト用途などの高出力・高輝度が求められる用途では、高温や強い光に曝露されても耐久性を有する封止材が好ましく、この観点からシリコーン樹脂が特に好ましい。
【0034】
また発光光源としては、β型サイアロン蛍光体の緑色発光を補完する色の波長の光やβ型サイアロン蛍光体を効率よく励起できる波長の光を発するものが好ましく、例えば青色光源(青色LEDなど)を使用可能である。好ましくは、当該発光光源からの光のピーク波長を、青色を含む範囲の波長(例えば420nm以上560nm以下の範囲)とすることができ、より好ましくは420nm以上480nm以下の範囲とすることができる。
【0035】
また実施形態に係る発光装置は、波長455nmの励起光を受けた際にピーク波長が610nm以上670nm以下の赤色光を発光する蛍光体(以下、「赤色蛍光体」という)を更に含むことができる。この赤色蛍光体は、単一種であってもよいが、2種以上としてもよい。このような構成を有する本発明の発光装置は、緑色光を発光するβ型サイアロン蛍光体、青色光を生じる発光光源、及び赤色光を発光する赤色蛍光体の組み合わせによって白色光を得ることができると共に、これら3色の混合比を変えることによって様々な色域の発光を得ることができる。特に、赤色蛍光体として、半値幅の狭い発光スペクトルを有するMn賦活KSiF蛍光体を用いると、高色域の発光装置が得られるため好ましい。
【0036】
本実施形態の発光装置は、上述した蛍光体粉末を波長変換部材として用いることにより、輝度の向上を図ることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
実施例1の蛍光体粉末の製造方法について説明する。
【0040】
<混合工程>
α型窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製、SN-E10グレード、酸素含有量1.0質量%)95.90質量%、窒化アルミニウム粉末(株式会社トクヤマ製、Fグレード、酸素含有量0.8質量%)2.75質量%、酸化アルミニウム粉末(大明化学工業株式会社製、TM-DARグレード)0.56質量%、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業株式会社製、RUグレード)0.80質量%をV型混合機(筒井理化学器械株式会社製、S-3)を用い混合し、更に目開き250μmの篩を全通させ凝集を取り除き、原料混合粉末を得た。ここでの配合比(第1の配合組成(質量%))は、β型サイアロンの一般式:Si6-zAl8-zにおいて、酸化ユーロピウムを除いて、Si/Al比から算出してz=0.22となるように設計したものである。
【0041】
<第1焼成工程>
ここで得た第1の配合組成を有する原料混合粉末200gを、内径10cm、高さ10cmの蓋付きの円筒型窒化ホウ素容器(デンカ社製、N-1グレード)に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.8MPaの加圧窒素雰囲気中、1850℃で4時間の加熱処理(第1焼成工程)を行った。前記加熱処理を行った粉末を目開き45μmの篩を通過させた。なお、粉末は全て篩を通過した。この第1焼成工程を実施し、篩を通過した粉末(第1焼成粉という)と、前記第1の配合組成を有する原料混合粉末を質量比で70:30となる配合比(第2の配合組成(質量%))で配合し、前記と同様の方法により混合した。
【0042】
<第2焼成工程>
得られた混合粉末200gを内径10cm、高さ10cmの蓋付きの円筒型窒化ホウ素容器に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.8MPaの加圧窒素雰囲気中、2020℃で12時間の加熱処理(第2焼成工程)を実施した。
<解砕・粉砕工程>
加熱処理後の試料は緩く凝集した塊状となっていたので、この塊をハンマーにより、粗砕した後、超音速ジェット粉砕器(日本ニューマチック工業株式会社製、PJM-80SP)により粉砕した。粉砕条件は、試料供給速度を50g/分、粉砕エア圧力を0.3MPaとした。この粉砕粉末を目開き45μmの篩を通過させた。なお、篩の通過率は96%であった。
【0043】
<アニール処理工程>
第2焼成工程を実施し、目開き45μmの篩を通過させた粉砕粉末600gを、タッピングしながら内径10cm、高さ10cmの蓋付き円筒型窒化ホウ素容器に充填した。このとき粉末が蓋に接触するほど密に充填されていた。充填した容器をカーボンヒーターの電気炉で、大気圧アルゴン雰囲気中、1500℃で8時間のアニール処理を行った。なお、アニールの降温の際に1000℃~1500℃の温度領域を5℃/分で降温させた。前記アニール処理を行った粉末を目開き45μmの篩を通過させた。篩の通過率は95%であった。
【0044】
<酸処理工程>
アニール処理を行った粉末に対して、50%フッ化水素酸と70%硝酸の1:1混酸中、75℃で30分間浸す酸処理を行った。
【0045】
<洗浄・濾過工程>
酸処理後の粉末を沈殿させ、上澄み液と微粉を除去するデカンテーションを溶液のpHが5以上で上澄み液が透明になるまで繰り返し、最終的に得られた沈殿物をろ過、乾燥し、実施例1の蛍光体粉末を得た。粉末X線回折測定を行った結果、存在する結晶相はβ型サイアロン単相であり、β型サイアロン蛍光体が単相で得られていることを確認できた。
【0046】
(実施例2)
実施例1の第2の配合組成(質量%)を、第1焼成粉と、前記第1の配合組成を有する原料混合粉末を質量比で50:50となる配合比で配合したこと以外は、実施例1と同じ方法により実施例2の蛍光体粉末を作製した。なお、アニール処理を行った粉末を目開き45μmの篩を通過させたときの篩の通過率は95%であった。
【0047】
(実施例3)
実施例1の第2の配合組成(質量%)を、第1焼成粉と、前記第1の配合組成を有する原料混合粉末を質量比で30:70となる配合比で配合し、実施例1と同じ条件で第2焼成を行った。加熱処理後の粉砕条件を、試料供給速度を50g/分、粉砕エア圧力を0.5MPaとした。それ以外については、実施例1と同じ方法により実施例3の蛍光体粉末を作製した。なお、アニール処理を行った粉末を目開き45μmの篩を通過させたときの篩の通過率は96%であった。
【0048】
(比較例1)
アニール処理工程において、充填量を100gにし、β型サイアロン蛍光体の通常の製法にならい、タッピングせず充填したこと以外は、実施例1と同じ方法により比較例1の蛍光体粉末を作製した。なお、アニール処理を行った粉末を目開き45μmの篩を通過させたところ、粉末は全て篩を通過した。
【0049】
(比較例2)
アニール処理工程において、アニールの降温の際に1000℃~1500℃の温度領域を0.5℃/分で降温させたこと以外は、実施例1と同じ方法により比較例2の蛍光体粉末を作製した。なお、アニール処理を行った粉末を目開き45μmの篩を通過させたときの篩の通過率は84%であった。
【0050】
(蛍光体粉末の発光特性評価)
得られた実施例1~3及び比較例1、2の蛍光体粉末について、以下の発光特性評価を行った。結果を表1に示す。
蛍光体粉末の蛍光特性は、ローダミンB法及び標準光源により校正した分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、F-7000)にて、専用の固体試料ホルダーに蛍光体粉末を充填して、波長455nmに分光した励起光を照射した時の蛍光スペクトルを測定し、ピーク強度及びピーク波長を求めた。なお、ピーク強度は測定装置や条件によって変化するため単位は任意単位であり、同一条件で測定し、実施例1~3及び比較例1、2の蛍光体粉末を連続して測定した。比較例1の蛍光体粉末でのピーク強度を100%として比較した。
【0051】
(蛍光体粉末の粒度分布の評価)
実施例1~3及び比較例1、2の蛍光体粉末について、以下の2条件で粒径分布の評価を行った。結果を表1に示す。
<条件1:超音波ホモジナイザを用いた前処理有のメジアン径>
蛍光体粉末30mgと、0.2%に調整したヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100mlとを200mlのビーカー内に採取した後、室温(25℃)でスパチュラーを用いて沈殿が生じない程度に均一に攪拌し、分散液を得た。
得られた分散液を、底面が半径2.75cm円柱状容器(内径5.5cm)に入れ、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所社製、US-150E)の半径10mmの円柱状チップ(外径20mm)を1.0cm以上分散液に浸し、周波数19.5kHz、出力150Wで3分間超音波を照射し、測定対象溶液を得た。
フローセル方式のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3300EXII)を用いて、上記の測定対象溶液を、循環系に充填した分散媒に投入し、測定対象試料を生成した後に、この測定対象試料を循環させながら、蛍光体粉末の粒径を測定し、各メジアン径D10、D50、D90を求めた。
【0052】
<条件2:超音波ホモジナイザ前処理無のメジアン径>
上記の条件1と同様にして、分散液を用意し、上述した超音波ホモジナイザ処理を行わずに、測定対象溶液を得た。得られた測定対象溶液について、上記の条件1と同様にして、フローセル方式のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて、蛍光体粉末の粒径を測定し、各メジアン径D10、D50、D90を求めた。
【0053】
実施例1~3及び比較例1、2の各蛍光体粉末の評価結果を以下の表1にまとめた。この結果において、超音波ホモジナイザを用いた前処理有りのメジアン径(D50)をD2とし、超音波ホモジナイザ前処理無しのメジアン径(D50)、言い換えると、超音波ホモジナイザ処理をせずに測定したメジアン径をD1とし、D50比(D1/D2)を算出した。D1/D2の値から、比較例1の蛍光体粉末は、実施例1~3よりも凝集の程度が低く、ほとんど単分散に近いことが理解できた。また比較例2は超音波ホモジナイザ処理によって凝集が崩壊し多くが単分散化されたため、実施例1~3よりも多くの蛍光体粉末同士が凝集していたことが把握された。
【0054】
【表1】
【0055】
(β型サイアロン蛍光体を使用したLEDの発光特性評価)
実施例1の蛍光体粉末を、赤色蛍光体としてフッ化物蛍光体であるKSiF蛍光体(デンカ社製、KR-3K01)とともにシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング社製、JCR6175)に添加して、自転公転式の混合機(シンキー社製 あわとり練太郎:ARV-310)で混合してスラリーを得た。前記スラリーをピーク波長450nmの青色LED素子を接合した表面実装タイプのパッケージにポッティングし、更にそれを熱硬化させることにより実施例4の白色LEDを作製した。β型サイアロン蛍光体とフッ化物蛍光体の添加量比は、通電発光時に白色LEDの色度座標(x,y)が(0.28,0.27)になるように調整した。
【0056】
実施例1の蛍光体粉末の代わりに、実施例2の蛍光体粉末を使用したこと以外は実施例4と同じ方法で、実施例5の白色LEDを作製した。また実施例3、比較例1、2の蛍光体粉末をそれぞれ使用したこと以外は実施例4と同様にして、実施例6、比較例3、4の白色LEDもそれぞれ作製した。β型サイアロン蛍光体とフッ化物蛍光体の添加量比は、いずれも通電発光時に白色LEDの色度座標(x,y)が(0.28,0.27)になるように調整した。
【0057】
(輝度の評価)
実施例4~6、比較例3、4の白色LEDを通電発光させた際の色度を全光束測定装置(大塚電子社製、直径300mm積分半球と分光光度計/MCPD-9800とを組合せた装置)によって測定した。得られた白色LEDから色度xが0.275~0.284、色度yが0.265~0.274の範囲の各10個をピックアップし、通電発光させた際の全光束の平均値を算出した。この評価結果は、比較例3の全光束の平均値を100%とした場合の相対評価とした。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表1~2に示される実施例と比較例の結果から、本実施形態の蛍光体粉末では、D1/D2の値が特定の範囲にあること、すなわち適度な凝集状態にあることにより、白色LEDとして使用したときに輝度が高いことが確認された。
【0060】
この出願は、2019年4月23日に出願された日本出願特願2019-081456号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。