(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】楽器用の改善された弦
(51)【国際特許分類】
G10D 3/10 20060101AFI20231130BHJP
G10D 1/02 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G10D3/10
G10D1/02
(21)【出願番号】P 2021526258
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2019081486
(87)【国際公開番号】W WO2020099635
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-07
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515058994
【氏名又は名称】ラルセン ストリングス アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ビー. シーヴァート
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ツヴァイク
(72)【発明者】
【氏名】ラウウィッツ トォーヴァット ラーセン
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0071529(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 3/10
G10D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用の弦であって、前記弦は
外面を有し、荷重を支持する少なくとも1本の第1の芯部と、
前記第1の芯部にらせん巻きで巻きつく少なくとも1本の第1の巻線ストランドと、及び、
振動減衰に適する少なくとも1つの制振材とを備え、
前記第1の巻線ストランドは内面を有し、前記第1の巻線ストランドの前記内面は前記芯部の前記外面に面し、前記制振材は前記第1の芯部の前記外面と、前記第1の巻線ストランドの前記内面との間に配置され、前記第1の巻線ストランドの前記内面は、前記内面に少なくとも1つのプロファイル加工された凹部を備え、前記凹部は前記第1の芯部と前記第1の巻線ストランドとの間でリザーバとして機能し、前記リザーバは前記制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方に適しており、それによって、前記第1の巻線ストランドの隣接するらせん巻き間の隙間を通った前記制振材の放散が少なくとも低減される、弦。
【請求項2】
前記第1の巻線ストランドは更に外面を有し、前記第1の巻線ストランドの前記外面は制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方に適したプロファイル加工された凹部を有する、請求項1に記載の弦。
【請求項3】
前記第1の巻線ストランドの前記外面の前記プロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされた前記制振材は、前記第1の巻線ストランドの前記内面の前記プロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされた前記制振材と同じ、又は、異なる、請求項1及び2のいずれかの請求項に記載の弦。
【請求項4】
前記第1の巻線ストランドの前記内面の前記プロファイル加工された凹部は、前記第1の巻線ストランドの前記外面の前記プロファイル加工された凹部とは、大きさ又は形状のいずれか又はその両方が異なる、請求項1~3のいずれかの請求項に記載の弦。
【請求項5】
前記第1の巻線ストランドの前記らせん巻きに平行及び隣接して、前記荷重を支持する第1の芯部の周りに巻き付く第2の巻線ストランドを更に備え、前記第2の巻線ストランドは前記第1の巻線ストランドの内面又は外面のいずれか又はその両方の対応するプロファイル加工された凹部とは、大きさ又は形状のいずれか又はその両方が異なるプロファイル加工された凹部を、内面又は外面のいずれか又はその両方に有する、請求項1~4のいずれかに記載の弦。
【請求項6】
前記第1の巻線ストランド又は第2の巻線ストランドのいずれか又はその両方の前記らせん巻きに平行及び隣接して、前記荷重を支持する第1の芯部の周りにらせん状に巻き付く第3の
巻線ストランドを更に備え、前記第3の巻線ストランドは隣接する巻線ストランドの内面又は外面のいずれか又はその両方の対応するプロファイル加工された凹部とは、大きさ又は形状のいずれか又はその両方が異なるプロファイル加工された凹部を、内面又は外面のいずれか又はその両方に有する、請求項1~5のいずれかに記載の弦。
【請求項7】
前記第1、第2、第3のいずれか又はその全ての巻線ストランドの内面又は外面のいずれかの長さに少なくとも部分的に沿って延びる前記プロファイル加工された凹部の断面積と、前記第1、第2、第3のいずれか又はその全ての巻線ストランドの断面積との割合は、1:100~10:1、より好ましくは1:50~1:1、そして、最も好ましくは、1:11~1:4である、請求項1及び2
のいずれかの請求項に記載の弦。
【請求項8】
前記第1、第2
又は第3の巻線ストランド
の内面又は外面の断面、又は前記第1、第2
又は第3の巻線ストランドの内面又は外面の凹部の断面は、長さ方向に沿った少なくとも一部において、円形、三角形、長方形、方形、五角形、六角形、七角形、八角形、星形、アーチ形凹み又は波状、及び、それらの任意の近似又は任意の組み合わせ
の形状の輪郭を備える、請求項1~7のいずれかに記載の弦。
【請求項9】
前記荷重を支持する第1の芯部は、鋼などの金属、又は、例えば、ポリアミド、PEEK若しくはポリエステルなどで作られたモノフィラメント若しくはマルチフィラメントなどのポリマーから製造される、請求項1~8のいずれかに記載の弦。
【請求項10】
前記第1、第2、第3のいずれか又はその全ての巻線ストランドは、ポリアミド、PEEK若しくはポリエステルなどのポリマー、又は、鋼、アルミニウム、チタン、銅などの金属から製造される、請求項1~9のいずれかに記載の弦。
【請求項11】
第2又は第3のいずれか又はその両方の巻線ストランドは、前記第1の巻線ストランドの材料とは異なる材料から作られる、請求項10に記載の弦。
【請求項12】
前記第1、第2、第3のいずれか又はその全ての巻線ストランドは、前記第1の芯部の長さ軸に対して10~170度、より好ましくは30~150度、そして、最も好ましくは60~120度の角度で前記荷重を支持する第1の芯部の周りにらせん状に巻き付く、請求項1~11のいずれかに記載の弦。
【請求項13】
バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器であって、前記楽器は
基部と、
ネックと、及び
各々が前記弦楽器の前記基部又はその付近、及び、前記ネック又はその付近に取り付けられる複数の弦とを備え、
前記弦は、
外面を有し、荷重を支持する第1の芯部と、
前記第1の芯部にらせん巻きで巻きつく少なくとも1本の第1の巻線ストランドと、及び、
振動減衰に適する制振材とを備え、前記第1の巻線ストランドは内面を有し、前記第1の巻線ストランドの前記内面は前記第1の芯部の前記外面に面し、前記制振材は前記第1の芯部の前記外面と、前記第1の巻線ストランドの前記内面との間に配置され、
前記第1の巻線ストランドの前記内面は、前記内面の長さの少なくとも一部に少なくとも1つのプロファイル加工された凹部を備え、前記凹部は前記第1の芯部と前記第1の巻線ストランドとの間でリザーバとして機能し、前記リザーバは前記制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方に適しており、それによって、前記第1の巻線ストランドの隣接するらせん巻き間の隙間を通った前記制振材の放散が少なくとも低減される、擦弦楽器。
【請求項14】
バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用の弦の製造方法であって、前記方法は
外面を有し、荷重を支持する第1の芯部を提供することと、
内面を有する第1の巻線ストランドを提供することと、前記内面は、前記内面の長さの少なくとも一部にプロファイル加工された凹部を備え、
前記第1の芯部の前記外面又は前記第1の巻線ストランドの前記プロファイル加工された凹部のいずれか又はその両方に制振材を適用することと、及び、
前記第1の巻線ストランドを前記第1の芯部の周りにらせん状に巻きつけることとを含み、
それによって、前記荷重を支持する第1の芯部の前記外面を前記第1の巻線ストランドが実質的に覆い、前記制振材は、前記第1の巻線ストランドの前記プロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされる、方法。
【請求項15】
バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器の、荷重を支持する第1の芯部の外面と第1の巻線ストランドの内面との間に制振材を含有又は保持のいずれか又はその両方を行うための方法であって、前記方法は
前記第1の巻線ストランドの前記内面にプロファイル加工された凹部を作成することと、
前記第1の芯部の前記外面又は前記第1の巻線ストランドの前記プロファイル加工された凹部のいずれか又はその両方に制振材を塗布することと、及び、
前記第1の巻線ストランドを前記第1の芯部の前記外面の周りに、前記第1の巻線ストランドの前記内面の前記プロファイル加工された凹部が前記第1の芯部の前記外面に配向するようにらせん状に巻きつけることとを含み、
それによって、前記第1の巻線ストランドの前記内面が前記第1の芯部の前記外面に接して、前記制振材が前記外面に配置される際に、前記第1の芯部の前記外面に塗布された前記制振材は、前記巻線ストランドの前記プロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用の弦に関する。さらに、本発明は、上記弦及び本発明に記載される弦が張られた弦楽器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
擦弦楽器用の弦は、典型的に、荷重を支持する芯部と、弦に厚みと質量を加える幾層かの巻線によって構成される。巻線層は、フラット若しくはラウンドの金属線、又は、モノフィラメント若しくはマルチフィラメントのポリマーフィラメントのことがある。モノフィラメント巻線の場合、円形断面を有することが最も多いが、一部の場合には、方形断面を有する。
【0003】
弦の製造業者は、巻線層の間に制振材を塗布する選択肢がある。制振材は、弦の音響特性に影響を与え、弦の製造業者が任意の弦に独特な音響プロファイルを作り出すことを可能にする。弦の独特な音響プロファイルは、弦に塗布される制振材の種類及び量の両方、更に、弦の制振材が塗布される位置、すなわち、どの2層間に制振材が塗布されるか、によって影響を受ける。制振材は、ポリマー接着剤、天然又は合成ワックスなどの一種でもよい。制振材は、典型的に、室温において水よりも粘性のある液体である。
【0004】
制振材は、主に弦の2種類の領域に配置される。第1の領域はこれら巻線ストランドの縁が丸いために隣接する巻線ストランド間に作られる空隙である。第2の種類の領域は、巻線ストランドの表面、つまり、巻線層の間であり、この場合、制振材はストランドの塗膜又は部分的な塗膜の役割をする。
【0005】
結果として、制振材は弦の製品寿命にも影響を及ぼす。製品寿命とは、弦の取り換えが必要となるまでに、演奏家がその弦で演奏可能な期間を意味する。これは弦によって異なり、一般的に、より高音の弦ではより短い。
【0006】
弦の音響特性及びそれに対応する弦の製品寿命に関して、弦は3つの局面を経て変化する。第1の局面は弦が新しいときで、弦は慣らし局面を経て弦の音響特性は改善されていく。慣らし局面から、弦は徐々に最適な演奏局面に変化し、弦の音響特性は最高の状態になる。最適局面が一定期間続くと、弦の音響特性は最適以下の局面に劣化し、弦はまだ充分演奏可能だが、プロの演奏家の多くには基準以下とみなされ、この時点で弦の製品寿命は期限切れとなり、演奏家は弦を交換する。すなわち、演奏家にとって弦の製品寿命の最も重要な部分は、最適音響局面である。
【0007】
弦の交換が必要となるのには幾つもの理由があり得るが、その一つは音響プロファイルの否定的変化である。音が粗くなる、若しくは、金属的になる、又は、音の深み若しくは焦点が失われるなど否定的な影響が生じ得る。これは、芯部又は巻線材料の材料疲労によることがある。しかしながら、この影響には、最も短い製品寿命を有する弦の実際の製品寿命よりも長い時間がかかることが観察されている。弦の製品寿命に渡る音質の変化は、弦に塗布された制振材とも関連する可能性が最も高い。制振材は、弦が演奏されているときに、弦の巻きを通って漏れ出すことがある。時間の経過と共に、制振材はやがて硬化、若しくは、酸化することがある、又は、演奏家によって演奏されることによって汚れ、汗、及び樹脂の残渣がしみ込んで変化することがある。この影響は材料疲労と比べてより短い時間的尺度で発生するようで、したがって、楽器用弦の製品寿命を短くする主原因であると一般的に考えられている。
【0008】
制振材の問題を克服する1つの方法は、弦に塗布する制振材の量を増加することである。制振材の量が多ければ、制振材が最適以下の局面、つまり、弦の交換時点に達するまでにより時間がかかることになり、概して弦の製品寿命が延びることになる。しかしながら、現在のところ、弦に加えられる制振材の量には現実的な制約があり、それを超えると弦が飽和し、制振材が巻きを通って弦の表面に漏れ出す。さらに、制振材の量が過剰だと、弦の音を鈍く消音させるおそれがあり、これは音響特性として望ましくない。
【0009】
耐久性の問題を克服するもう1つの方法は、制振材を弦に密封することである。巻線では、隣接する巻きの間に必ず分離/隙間が生じる。隣接する2つの巻きの間の分離は比較的小さく、ある巻線層を観察すると、隣接する巻きは互いに接し、隙間が閉じられているように見える。しかしながら、弦が楽器上に張られ/伸ばされ、演奏された場合、弦は毎秒数100~数1000回振動し、巻線層をきつく巻くことを試みても、この振動によって制振材が隙間から漏れ出す。
【0010】
したがって、楽器用の改善された弦は利益をもたらすであろう。そして、特に、より耐久性があり高品質な楽器用弦は利益をもたらすであろう。
先行技術の説明
【0011】
特許文献1は、ギターなどの楽器用の共鳴する弦の組み立てについて記載している。しかしながら、ギターの弦は制振材で制振されることがないため、特許文献1は制振材を含まず、擦弦楽器には適さない。この引用文献は、寧ろ、芯部と任意の隣接する巻線ストランドに特定の“接点”を実現し、弦に特定の共鳴機能を持たせる目的で設計されている。特許文献1に記載される弦の開閉は、ギター楽器が当該共鳴機能を実現するのに望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の更なる目的は、従来技術に代替手段を提供することにある。
【0014】
特に、本発明の目的は、従来技術の弦の製品寿命が比較的短いという上記問題を解決する楽器用弦を提供することにあると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、上述した目的及びその他幾つかの目的は、バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用の弦を提供することで、本発明の第1の態様により得られることが意図される。弦は、外面を有し、荷重を支持する少なくとも1本の第1の芯部と、第1の芯部にらせん巻きで巻きつく少なくとも1本の第1の巻線ストランドと、及び、振動減衰に適する少なくとも1つの制振材とを備え、第1の巻線ストランドは内面を有し、第1の巻線ストランドの内面は芯部の外面に面し、制振材は第1の芯部の外面と、第1の巻線ストランドの内面との間に配置され、第1の巻線ストランドの内面は、当該内面に少なくとも1つのプロファイル加工された凹部を備え、当該凹部は第1の芯部と第1の巻線ストランドとの間でリザーバとして機能し、当該リザーバは制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方に適しており、それによって、第1の巻線ストランドの隣接するらせん巻き間の隙間を通った制振材の放散が少なくとも低減される。
【0016】
本発明は楽器用弦の製品寿命を延長することに特に利点があるが、これに限られない。音響特性は制振材に依存し、制振材はより長い期間保持又は含有のいずれか又はその両方がなされるため、本発明は、最適音響特性局面が延長されたより長い製品寿命を有する弦を演奏家に提供する。現在のデータでは、同等の最新の市販弦と比較して2~3倍の製品寿命の延長を示しており、弦の関連技術のなかでも目覚ましい。
【0017】
本文脈において、弦の製品寿命の最適以下の局面は一時点とみなされ、この時点で、弦は通常プロ演奏家の認識上変化している。この時点で、弦の音は否定的/望ましくない方向に変化しており、設計上意図された音を反映しなくなる。これは、弦が演奏不可能になることを意味しない。新しい弦、特にチェロ用のものは個人演奏家にとって比較的高価となり得るため、最適に演奏可能な局面をかなり過ぎた弦で演奏する演奏家も多い。最適以下の局面に入った後も弦はいくらかの品質を保持する。弦が意図された/最適な品質とは異なるというだけである。本発明に係わるプロファイル加工された凹部を有する巻線ストランドを弦の構造に使用する利点の1つは、最適以下の局面が来るのを先送りすることである。本出願者が実施した試験では、弦の最適に演奏可能な局面が通常の製品寿命の3倍、あるいはそれ以上延長されることを示している。
【0018】
本発明は好ましくは弦楽器、好ましくは、(第1又は第2のいずれか又は両方の)バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器に適用されるが、ギター、ウクレレ、バンジョー、コントラバス、ダブルベース、リュート、ハープ、ツィターなどのその他の弦楽器への本発明の適用も考えられる。また、弦は二胡や中国琵琶などの伝統的な中国の楽器など、その他のヨーロッパ以外の伝統楽器にも適用され得るが、これに限られない。
【0019】
本発明の文脈で、荷重を支持する芯部は弦の最も内側の部分であると理解され、芯部は1本の(金属又は繊維)ワイヤー、(金属又は繊維又はその組み合わせの)複数の繊維、又は、編組、織り、又は別の方法で結合されたフィラメント又はワイヤーを備えることがあり、その周りに付加的にストランドを巻き付けることが可能な弦の芯部を形成する。荷重を支持する芯部は、弦の張力がかかる部分と理解される。本発明の文脈で第2、第3などの荷重を支持する芯部を適用し得ることも考えられる。
【0020】
本発明の文脈で、輪郭は、輪郭線のように明瞭な起伏として見られる又は表される外形と理解される。さらに、プロファイル加工された凹部は、巻線ストランド内の意図的な構造であって、当該凹部は楽器用弦の製造過程で意図的に作成又は導入のいずれか又はその両方がなされており、製造過程の不規則なひっかき傷や切り傷ではないことが理解される。
【0021】
本発明の文脈で、リザーバは空洞、空隙又は空間と理解され、リザーバは、制振材、ポリマーマトリックス又は液体などの物質を含有又は保持のいずれか又はその両方を行うための容量を有する。リザーバを形成する凹部は、荷重を支持する第1の芯部に隣接することがあるが、或いは又はそれに加えて、第1の巻線ストランドの凹部は介在する1本以上の巻線ストランドによって分離され得ることが理解される。
【0022】
本発明の文脈で、制振材はポリマー接着剤、天然又は合成ワックスなどと理解される。楽器用弦のための制振材は、典型的に室温で水よりも粘度の高い液体である。弦に液体を提供する目的は、所望の特性を得るために、不要な振動を抑えて音を調節することにある。一部の液体は温かみのある音を作り出すために適用され、一部の液体は音に華やかさを加え、一部の液体は演奏家の演奏し易さや弦の触り心地に影響を与え得る。制振材の効果は弦の内部減衰と言える。
【0023】
制振材は、ワックス、(飽和、不飽和)脂肪酸、ロジン、ポリマー液など、天然(動物性、植物性)及び合成の幅広い液体から選択できる。また、制振材は2種類以上の液体の混合物でもよく、弦に塗布する前に混合される。これらの混合物は、例えば、オイル及びロジン、又は、ポリマー及びワックスでもよい。これは全てを網羅したリストではなく、当業者には、どのような種類の制振材が各種楽器用弦に適しているかについて、一般的で公表された情報があることが知られている。米国特許出願公開第2017004810(A1)号明細書[0077]~[0081]、[0094]~[0095]及び[0098]段落を参照されたい。塗布される液体は、巻線ストランドの凹部から簡単に染み出てしまわないように、一定の粘度を有することが重要なことがある。
【0024】
一般的に塗布される制振材は、天然樹脂、好ましくはコロホニー及びコロホニー誘導体をベースにした天然樹脂、合成樹脂、好ましくはポリアミド樹脂及びポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂及びエポキシ樹脂、天然又は合成タイプのワックス、高粘度のオイル、加えて、樹脂、ワックス又はオイルのいずれか又はその全てのブレンドである。制振材は、常温で水よりも明らかに高い粘度を持つ液体である。
【0025】
本発明の文脈で、隙間とは、細長い物体の周りの1つの巻きと次の隣接する巻きとの間の空間と理解され、荷重を支持する第1の芯部の周りに巻きつく巻線ストランドは、芯部の周りに巻線ストランド自体に隣接して敷設されるため、連続したらせん状の隙間を形成する。隙間は、芯部の長さに沿って複数の連続したらせん状の隙間を形成するように芯部の周りに互いに隣接して平行に巻かれた、2本以上の巻線ストランド間の空間と理解することもできる。
【0026】
本発明の文脈で、放散とは、物質又は材料が薄く広がる、散る、消耗する、蒸発する、分解する、又は別の方法で、時間の経過若しくは振動などの動きのいずれか若しくはその両方によって、徐々に霧散又は消滅することと理解される。
【0027】
本発明の有利な実施形態では、楽器用弦の第1の巻線ストランドは更に外面を有し、巻線ストランドの当該外面は制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方に適したプロファイル加工された凹部を有する。巻線ストランドの本数、及び、巻線ストランドが互いに重なって敷設されるか、又は、弦の荷重を支持する芯部の長さに沿って互いに隣接して敷設されるかによって、1本の巻線ストランドの外面は第2の巻線ストランドの内面に接することがあり、それによって、1本の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部は第2の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部に係合する又は連結する可能性があることが理解される。
【0028】
本発明の有利な実施形態では、第1の巻線ストランドの外面のプロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされた制振材は、第1の巻線ストランドの内面のプロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされた制振材と同じ、又は、異なる。本発明に係わる弦の製造には1つ以上の制振材が使用されることがあり、複数のプロファイル加工された凹部の設計及び荷重を支持する芯部の周りへの巻線ストランドの巻き方によって、2つ以上の制振材が互いに接する、混合される、又はその両方が起こり得ることが理解される。
【0029】
本発明の有利な実施形態では、第1の巻線ストランドの内面のプロファイル加工された凹部は、第1の巻線ストランドの外面のプロファイル加工された凹部とは、大きさ又は形状のいずれか又はその両方が異なることがある。この特定の実施形態では、制振材を凹部内に最適に含有することで弦の製品寿命を延長するために、弦のいずれかの音響特性を最適化するため、内面のプロファイル加工された凹部の大きさは、外面のプロファイル加工された凹部よりも断面積が大きい又は小さいことがあり、当該プロファイル加工された凹部の特定の輪郭形状は異なることがある。
【0030】
本発明の有利な実施形態では、弦は第1の巻線ストランドのらせん状巻きに平行及び隣接して、荷重を支持する第1の芯部の周りに巻き付く第2の巻線ストランドを更に備え、第2の巻線ストランドは第1の巻線ストランドの内面又は外面のいずれか又はその両方の対応するプロファイル加工された凹部とは、大きさ又は形状のいずれか又はその両方が異なるプロファイル加工された凹部を、内面又は外面のいずれか又はその両方に有する。この特定の実施形態では、制振材を凹部内に最適に含有することで、又は、第2若しくは第3若しくはその両方の巻線ストランドの隣接表面及び各々の凹部との相互作用によって、又はその両方によって弦の製品寿命を延長するために、弦のいずれかの音響特性を最適化するため、第1の巻線ストランドの内面又は外面のプロファイル加工された凹部の大きさは、第2の巻線ストランドの内面又は外面のプロファイル加工された凹部よりも断面積が大きい又は小さいことがあり、2本の巻線ストランドの当該対応するプロファイル加工された凹部の特定の輪郭形状は異なることがある。
【0031】
本発明の有利な実施形態では、弦は第1の巻線ストランド又は第2の巻線ストランドのいずれか又はその両方のらせん巻きに平行及び隣接して、荷重を支持する第1の芯部の周りにらせん状に巻き付く第3の巻線を更に備え、第3の巻線は隣接する巻線ストランドの内面又は外面のいずれか又はその両方の対応するプロファイル加工された凹部とは、大きさ又は形状のいずれか又はその両方が異なるプロファイル加工された凹部を、内面又は外面のいずれか又はその両方に有する。この特定の実施形態では、制振材を凹部内に最適に含有することで、又は、第1若しくは第2若しくはその両方の巻線ストランドの隣接表面及び各々の凹部との相互作用によって、又はその両方によって弦の製品寿命を延長するために、あるいは弦の音響特性を最適化するために、第3の巻線ストランドの内面又は外面のプロファイル加工された凹部の大きさは、第1又は第2の巻線ストランドの内面又は外面のプロファイル加工された凹部よりも断面積が大きい又は小さいことがあり、2本以上の巻線ストランドの対応するプロファイル加工された凹部の特定の輪郭形状は異なることがある。
【0032】
本発明の第1の態様に係わる本発明の有利な実施形態では、弦は、第2又は第3のいずれか又はその両方の巻線ストランドを更に備え、第1の巻線ストランドは荷重を支持する第1の芯部の周りに巻き付き、第2の巻線ストランドは第1の巻線ストランドの周りに巻き付き、第3の巻線ストランドは第2の巻線ストランドの周りに巻き付き、それによって、芯部の周りに巻き付く複数の層を有する芯部が作られ、各層は1本の巻線ストランドを備える。この実施形態では、荷重を支持する芯部は楽器用弦の中心にあり、第1の巻線ストランドは当該芯部に巻き付く第1層のことがあり、第2の巻線ストランドは第2層のことがあり、第3の巻線ストランドは第3層のことがあり、第4の巻線ストランドは第4層のことがあり、第5の巻線ストランドは第5層のことがあり、第6の巻線ストランドは第6層のことがあり、各層の間には制振材が塗布されることがあり、各層の間の制振材は他の層の間の制振材とは異なることがある。本発明の楽器用弦は、11層以上を備え得ることが理解される。したがって、一部の実施形態では、1本の巻線ストランドが2層又は3層に重なりあう、又は、最大5層に積層することがあるが、或いは、各層は数本の異なる巻線ストランドを有することがある。例えば、5本の異なる巻線ストランドが単層又は別の層又はその両方に敷設されるなど、2~10本の異なる巻線ストランドが敷設されることがある。この場合、例えば36本の単一フィラメントの束を含むマルチフィラメントの巻線ストランドは、単一巻線ストランドと考えられる。
【0033】
本発明の有利な実施形態では、第1、第2、第3のいずれか又はその全ての巻線ストランドの内面又は外面のいずれかの長さに少なくとも部分的に沿って延びるプロファイル加工された凹部の断面積と、第1、第2、第3のいずれか又はその全ての巻線ストランドの断面積との割合は、1:100~10:1、より好ましくは1:50~1:1、そして、最も好ましくは、1:11~1:4である。これらの割合は、巻線ストランドとプロファイル加工された凹部との断面積の割合である(アスペクト比ではない)。当業者には理解されるが、これらの断面積は、弦が装着されていない又は張られていない状態と弦が張られた状態とで、例えば1~3%などわずかに変化することがある。異なる旨が記載されない限り、当該割合の値は、弦の張られていない状態である。また、割合は弦が演奏されることによって経時的にわずかに変化することがある。
【0034】
本発明の有利な実施形態では、第1、第2、第3のいずれか若しくはその全ての巻線ストランドの断面積、又は、第1、第2、第3のいずれか若しくはその全ての巻線ストランドの内面若しくは外面のいずれか若しくはその両方の長さに少なくとも部分的に沿ったプロファイル加工された凹部の断面積、又はその両方は、円形、三角形、長方形、方形、五角形、六角形、七角形、八角形、星形、アーチ形凹み又は波状の輪郭、及び、それらの任意の近似又は任意の組み合わせのいずれか又はその両方などの形状の輪郭を備える。製造上の制約から、全ての形状は近似形状となり得ることを理解されたい。さらに、一定の音響特性又は製品寿命の延長又はその両方を得るため、各々が様々な大きさと形状を有する任意の数のプロファイル加工された凹部を有するワイヤーストランドの任意の組み合わせが、本発明に係わる楽器用弦を作成するのに用いられ得ることが理解される。
【0035】
本発明の有利な実施形態では、荷重を支持する第1の芯部は、鋼などの金属、又は、例えば、ポリアミド、PEEK若しくはポリエステルなどで作られたモノフィラメント若しくはマルチフィラメントなどのポリマーから製造されることがある。
【0036】
本発明によると、楽器用弦の芯部は、ポリマーストランド、有機又は無機繊維、金属、形状記憶合金、又はそれらの任意の組み合わせなど、織り、編組、又は別の方法で結合された複数の芯要素によって製造され得ることが理解される。
【0037】
本発明のより有利な実施形態では、芯部は、通常は金属又はポリマー製の複数のストランドを有するワイヤーロープ又はロープコアとして製造されることがあり、複数のストランドとストランド内のワイヤーの幾何学的配置がワイヤーロープ構造を構成する。
【0038】
本発明の最も有利な実施形態では、芯部は、円形、楕円形、三角形、長方形、方形、五角形、六角形、七角形、又は、八角形のことがある。製造上の制約から、全ての形状は近似形状となり得ることを理解されたい。
【0039】
本発明の有利な実施形態では、第1、第2、第3のいずれか又はその全ての巻線ストランドは、ポリアミド、PEEK又はポリエステル、PEK、PVDF、PPS、アラミド、PAEK、PBT、ポリエチレン、PET、ポリプロピレン、PVC、PTFE、ポリカーボネート、ポリイミド、LCPなどがあるがこれらに限られないポリマーや、鋼、アルミニウム、チタン、銀、ウォルフラム、ニッケル、コンスタンタン、モネル、ヒドロナリウム、金、銅などの金属、形状記憶合金、有機若しくは無機繊維、又は上記材料の任意の組み合わせから製造されることがある。
【0040】
本発明の有利な実施形態では、第2又は第3のいずれか又はその両方の巻線ストランドは、第1の巻線ストランドの材料とは異なる材料から作られることがある。第1の巻線ストランドは金属などの材料Aから作られてもよく、第2の巻線ストランドはポリマーなどの材料Bから作られてもよく、第3の巻線ストランドは材料Aとは異なる金属などの材料Cから作られてもよいことが理解される。あるいは、第1及び第2の巻線ストランドは材料Aから作られ、第3の巻線ストランドは材料Bから作られてもよい。
【0041】
本発明の有利な実施形態では、第1、第2、第3のいずれか又はその全ての巻線ストランドは、第1の芯部の長さ軸に対して10~170度、より好ましくは30~150度、最も好ましくは60~120度の角度で、荷重を支持する第1の芯部の周りにらせん状に巻き付くことがある。
【0042】
本発明の第2の態様は、バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器に関し、楽器は基部と、ネックと、各々が弦楽器の基部又はその付近、及び、ネック又はその付近に取り付けられる複数の弦とを備え、弦は、外面を有し、荷重を支持する第1の芯部と、第1の芯部にらせん巻きで巻きつく少なくとも1本の第1の巻線ストランドと、及び、振動減衰に適する制振材とを備え、第1の巻線ストランドは内面を有し、第1の巻線ストランドの内面は第1の芯部の外面に面し、制振材は第1の芯部の外面と、第1の巻線ストランドの内面との間に配置され、第1の巻線ストランドの内面は、内面の長さの少なくとも一部に少なくとも1つのプロファイル加工された凹部を備え、凹部は第1の芯部と第1の巻線ストランドとの間でリザーバとして機能し、リザーバは制振材を含有又は保持のいずれか又はその両方に適しており、それによって、第1の巻線ストランドの隣接するらせん巻き間の隙間を通った制振材の放散が少なくとも低減される。
【0043】
本発明の有利な実施形態では、複数の弦はその全てが、巻線ストランドの本数、複数の弦の各々の弦の各巻線ストランド内のプロファイル加工された凹部の大きさ及び形状、及び、複数の弦の各々の弦の各巻線ストランド内のプロファイル加工された凹部に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされた同じ又は異なる制振材の多様な組み合わせによって得られる異なり、補完し合う音響特性を有する。
【0044】
本発明は、第3の態様において、バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用弦の製造方法に関する。本方法は外面を有し、荷重を支持する第1の芯部を提供することと、内面を有する第1の巻線ストランドを提供することと、内面は、内面の長さに沿った少なくとも一部にプロファイル加工された凹部を備え、第1の芯部の外面又は第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部のいずれか又はその両方に制振材を塗布することと、及び、第1の芯部の周りに第1の巻線ストランドをらせん状に巻きつけることとを含み、それによって、荷重を支持する第1の芯部の外面を第1の巻線ストランドが実質的に覆い、制振材は、第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされる。
【0045】
本発明の文脈で、弦は典型的に1つの演奏可能な部分と、当該弦を楽器に留める又は固定する2つの部分を有することが当業者に理解されるであろう。本発明は通常演奏可能な部分に実装されるが、これに限られない。つまり、一部の実施形態では、製造過程によっては固定部分にも付加的に適用されることがある。
【0046】
本発明の第3の態様は、第1の態様に係わる弦楽器用の弦をサプライチェーンの実施可能な任意の時点で提供することで本発明の方法が実施され得るという点において特に利点があるがこれに限られない。
【0047】
第4の態様では、本発明はバイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用弦の荷重を支持する第1の芯部の外面と第1の巻線ストランドの内面との間に制振材を含有又は保持のいずれか又はその両方を行うための方法に関する。本方法は、第1の巻線ストランドの内面にプロファイル加工された凹部を作成することと、第1の芯部の外面又は第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部のいずれか又はその両方に制振材を塗布することと、第1の巻線ストランドを第1の芯部の外面の周りに、第1の巻線ストランドの内面のプロファイル加工された凹部が第1の芯部の外面に配向するようにらせん状に巻きつけることとを含み、それによって、第1の巻線ストランドの内面が第1の芯部の外面に接して、制振材が外面に配置される際に、第1の芯部の外面又は第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部又はその両方に塗布された制振材は、巻線ストランドのプロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされる。
【0048】
本発明の文脈で、制振材の塗布は浸漬、噴霧、塗装、置換又は刷毛塗など、これらに限られない様々な方法によって行われ得る。
【0049】
本発明のこの態様は、新しく改善された製造方法又は商品又はその両方の作成に関連することが多い追加の支出、消費及び排出の少なくとも量を削減するために、既存の製造方法及び機械を新しい方法又は機械又はその両方と組み合わせて使用することによって本発明に係わる方法を実施することができる点に特に利点があるがこれに限られない。
【0050】
第5の態様では、本発明は弦楽器、好ましくは、バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用の弦に関する。弦は、外面を有し、荷重を支持する少なくとも1本の第1の芯部と、第1の芯部にらせん巻きで巻きつく少なくとも1本の第1の巻線ストランドと、及び、振動減衰に適する少なくとも1つの制振材とを備え、第1の巻線ストランドは内面を有し、第1の巻線ストランドの内面は芯部の外面に面し、制振材は第1の芯部の外面と、第1の巻線ストランドの内面との間に配置され、第1の巻線ストランドの内面は、内面に少なくとも1つのプロファイル加工された凹部を備え、凹部は第1の芯部と第1の巻線ストランドとの間でリザーバとして機能し、リザーバは制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方に適しており、それによって、第1の巻線ストランドの隣接するらせん巻き間の隙間を通った制振材の放散が少なくとも低減される。
【0051】
本発明のこの態様は、第5の態様に係わる弦は耐久性のある弦又は一式の弦を提供することがあり、擦弦楽器に使われるのみでなく、弦は弓を用いるのではなく弦をかき鳴らす又は叩くことによって演奏されるギター又はハープなどの楽器に装着される弦であってもよいという点に利点がある。
【0052】
第6の態様では、本発明は弦楽器、好ましくは、バイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器に関する。楽器は、基部と、ネックと、及び、各々が当該弦楽器の基部又はその付近、及び、ネック又はその付近に取り付けられる複数の弦とを備え、弦は、外面を有し、荷重を支持する第1の芯部と、第1の芯部にらせん巻きで巻きつく少なくとも1本の第1の巻線ストランドと、及び、振動減衰に適する制振材とを備え、第1の巻線ストランドは内面を有し、第1の巻線ストランドの内面は第1の芯部の外面に面し、制振材は第1の芯部の外面と、第1の巻線ストランドの内面との間に配置され、第1の巻線ストランドの内面は、内面の長さの少なくとも一部に少なくとも1つのプロファイル加工された凹部を備え、凹部は第1の芯部と第1の巻線ストランドとの間でリザーバとして機能し、リザーバは制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方に適しており、それによって、第1の巻線ストランドの隣接するらせん巻き間の隙間を通った制振材の放散が少なくとも低減される。
【0053】
第7の態様では、本発明は楽器、好ましくはバイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用の弦の製造方法に関する。本方法は、外面を有し、荷重を支持する第1の芯部を提供することと、内面を有する第1の巻線ストランドを提供することと、内面は、内面の長さの少なくとも一部に沿ってプロファイル加工された凹部を備え、第1の芯部の外面又は第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部のいずれか又はその両方に制振材を塗布することと、及び、第1の巻線ストランドを第1の芯部の周りにらせん状に巻きつけることとを含み、それによって、荷重を支持する第1の芯部の外面を第1の巻線ストランドが実質的に覆い、制振材は、第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部内に含有又は保持又はその両方がなされる。
【0054】
第8の態様では、本発明は、楽器、好ましくはバイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器用の弦の荷重を支持する第1の芯部の外面と第1の巻線ストランドの内面との間に制振材を含有又は保持のいずれか又はその両方を行うための方法に関する。本方法は、第1の巻線ストランドの内面にプロファイル加工された凹部を作成することと、第1の芯部の外面又は第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部のいずれか又はその両方に制振材を塗布することと、第1の巻線ストランドを第1の芯部の外面の周りに、第1の巻線ストランドの内面のプロファイル加工された凹部が第1の芯部の外面に配向するようにらせん状に巻きつけることとを含み、それによって、第1の巻線ストランドの内面が第1の芯部の外面に接して、制振材が外面に配置される際に、第1の芯部の外面又は第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部のいずれか又はその両方に塗布された制振材は、巻線ストランドのプロファイル加工された凹部内に含有又は保持又はその両方がなされるのが可能になる。
【0055】
本発明の第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7及び第8の態様は、それぞれ、その他の任意の態様と組み合わされることがある。本発明のこれら及びその他の態様は、以下に記載される実施形態を参照して明確になり、解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
本発明に係わる弦楽器用弦に関して、添付の図面を参照してより詳細に説明する。図面は本発明の1つの実施方法を示し、添付の特許請求の範囲一式の範囲内にあるその他の可能な実施形態の制約になるとは解釈されない。
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係わる弦の長手方向断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される実施形態と同様の弦の長手方向断面の分解図である。
【
図3】
図3は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部を有する巻線ストランドの各種断面形状の概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部を有する巻線ストランドの更なる断面形状の別の概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部を有する巻線ストランドの更なる断面形状の別の概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部を有する巻線ストランドの更なる断面形状の別の概略図である。
【
図7】
図7は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部を有する巻線ストランドの更なる断面形状の別の概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部を有する巻線ストランドの更なる断面形状の別の概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部を有する巻線ストランドの更なる断面形状の別の概略図である。
【
図10】
図10は、芯部及び芯部の周りに巻き付く巻線ストランドを有する弦の概略図である。
【
図11】
図11は、本発明に係わる弦の断面からなる顕微鏡写真を示す。
【
図12】
図12は、本発明に係わる弦の断面からなる顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1は、弦1の長手方向断面図である。
図1において、芯部10は弦1の中心にあり、第1の巻線ストランド100が芯部10の外面11の周りにらせん状に巻き付く。第2の巻線ストランド200は、第1の巻線ストランド100の周りに巻き付く。模式的に、第1の巻線ストランドのみが、任意の制振材(
図1には図示せず。
図2参照)を含有又は保持又はその両方を行うプロファイル加工された凹部150(
図1では上部及び下部から芯部10に面するのこぎり歯状パターン)を有するようにみえる。
【0058】
図2は、弦1の長手方向の断面の分解図である。弦1の分解図は外面11を有する芯部10の一部を示す。芯部10の周りには、第1の巻線ストランド100がらせん状に巻き付き、同じ第1の巻線ストランド100の第2の巻き110が隣接する。2つの隣接する巻き100及び110の間に、隙間102が形成される。芯部10と第1の巻線ストランドとの間の空間50には制振材40が塗布される。制振材40は粘性材料で、芯部10の外面11、第1の巻線ストランド100の内面101を部分的に覆うことがあり、少なくとも部分的に空隙103を充填することがある。空隙103は内面101のプロファイル加工された凹部150により形成され、隣接する巻き100と110との間の隙間102を通って制振材40が放散しないよう制振材40の含有又は保持又はその両方を行う。したがって、プロファイル加工された凹部150は、複数の空隙103を有する内面101によって形成され得る。第2の巻線ストランド200は、第1の巻線ストランドの外面104の周りに巻かれる。
【0059】
図3は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部150を有する巻線ストランド300の各種断面形状の概略図である。
【0060】
図3Aは、三角形の空隙103を有する巻線ストランド300の第1の変形例を示す。三角形の空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。凹部150は、巻線ストランド300の内面101に沿って2回、3回、4回、又は5回など複数回繰り返されることがあり、これによってのこぎり歯形状を形成することが理解される。
【0061】
図3Bは、三角形の空隙103を有する巻線ストランド300の第2の変形例を示す。三角形の空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。
【0062】
図3Cは、三角形の空隙103を有する巻線ストランド300の第3の変形例を示す。三角形の空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。
【0063】
図4は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部150を有する巻線ストランド300の各種断面形状の概略図である。
【0064】
図4Aは、円形の空隙103を有する巻線ストランド300の第4の変形例を示す。円形の空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。
【0065】
図4Bは、三角形の空隙103を有する巻線ストランド300の第5の変形例を示す。三角形の空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。
【0066】
図4Cは、三角形の空隙103を有する巻線ストランド300の第6の変形例を示す。三角形の空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。
【0067】
図5は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部150を有する巻線ストランド300の各種断面形状の概略図である。
【0068】
図5Aは、円形の空隙103を有する巻線ストランド300の第7の変形例を示す。円形の空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。
【0069】
図5Bは、開放角の方形の空隙103を有する巻線ストランド300の第8の変形例を示す。開放角の方形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。
【0070】
図5Cは、
図5Bと同様の開放角の方形の空隙103を有する巻線ストランド300の第9の変形例を示すが、
図5Bと比較して空隙103は巻線ストランド300の長さに沿ってより広い。空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。さらに、プロファイル加工された凹部150は一端が開放端になっている。
【0071】
図6は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部150を有する巻線ストランド300の各種断面形状の概略図である。
【0072】
図6Aは、開放角の方形の空隙103を有する巻線ストランド300の第10の変形例を示す。開放角の方形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。
図6Aの空隙103は
図5Bの空隙と同様であるが、
図6Aの巻線ストランド300は、
図5Bとは異なり内面にのみプロファイル加工された凹部150を有する。
【0073】
図6Bは、方形の空隙103を有する巻線ストランド300の第11の変形例を示す。空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。
【0074】
図6Cは、
図6Bと同様の方形の空隙103を有する巻線ストランド300の第12の変形例を示すが、
図6Bと比べてプロファイル加工された凹部15は一端が開放端で、空隙103は巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。
【0075】
図7は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部150を有する巻線ストランド300の各種断面形状の概略図である。
【0076】
図7Aは、丸漏斗形の空隙103を有する巻線ストランド300の第13の変形例を示す。丸漏斗形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。
【0077】
図7Bは、丸漏斗形の空隙103を有する巻線ストランド300の第14の変形例を示す。丸漏斗形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成される空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成される空隙103’を有する。
【0078】
図7Cは、交互にダイヤモンド形状の空隙及び三角形の空隙103を有する巻線ストランド300の第15の変形例を示す。ダイヤモンド形状の空隙及び三角形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、外面104は、巻線ストランド300の内面101とは異なる形状の空隙103’を有し、空隙103’の形状は開放角の方形である。なお、巻線ストランド300が芯部の周りに巻き付く方向によって、内面101と外面104が入れ替わることがあり、巻線ストランド300の内面101が弦の外面104になることがある。
【0079】
図8は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部150を有する巻線ストランド300の各種断面形状の概略図である。
【0080】
図8Aは、三角形の空隙103を有する巻線ストランド300の第16の変形例を示す。三角形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150から形成される。この特定の実施形態では、外面104は、巻線ストランド300の内面101とは異なる形状の空隙103’を有し、空隙103’の形状は丸漏斗形である。なお、巻線ストランド300が芯部の周りに巻き付く方向によって、内面101と外面104が入れ替わることがあり、巻線ストランド300の内面101が弦の外面104になることがある。
【0081】
図8Bは、方形の空隙103を有する巻線ストランド300の第17の変形例を示す。空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成された空隙103と同一のプロファイル加工された凹部150’によって形成された空隙103’を有する。さらに、巻線ストランドの両端は矢印状で、隣接する巻線の隙間に三角形状を形成する。
【0082】
図8Cは、交互に半丸漏斗形と半三角形の空隙103を有する、空隙103を持つ巻線ストランド300の第18の変形例を示す。半丸漏斗形と半三角形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、巻線ストランド300の外面104は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150によって形成された空隙103と長手方向に鏡面対象なプロファイル加工された凹部150’により形成された空隙103’を有する。さらに、巻線ストランドの一端は矢印形状で、反対の一端は丸形状であり、隣接する巻き間に、空隙103及び103’の各々に類似した隙間を形成する。
【0083】
図9は、本発明の一部の実施形態に係わる、各種プロファイル加工された凹部150を有する巻線ストランド300の各種断面形状の概略図である。
【0084】
図9Aは、開放角の方形又は偏菱形の空隙103を有する巻線ストランド300の第19の変形例を示す。開放角の方形又は偏菱形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、外面104は、巻線ストランド300の内面101とは異なる形状の空隙103’を有し、空隙103’の形状は丸漏斗形状である。なお、巻線ストランド300が芯部の周りに巻き付く方向によって、内面101と外面104が入れ替わることがあり、巻線ストランド300の内面101が弦の外面104になり得る。
【0085】
図9Bは、
図9Aの空隙103よりも幅広い開放角の方形又は偏菱形の空隙103を有する巻線ストランド300の第20の変形例を示す。開放角の方形又は偏菱形の空隙103は、巻線ストランド300の内面101のプロファイル加工された凹部150により形成される。この特定の実施形態では、外面104は、巻線ストランド300の内面101とは異なる形状の空隙103’を有し、空隙103’の形状は丸漏斗形である。なお、巻線ストランド300が芯部の周りに巻き付く方向によって、内面101と外面104が入れ替わることがあり、巻線ストランド300の内面101が弦の外面104になり得る。
【0086】
図10は、芯部10及び芯部10の周りにらせん状に巻き付き、巻き間に隙間を形成する第1の巻線ストランド100の概略図である。巻線ストランドは内面101に丸漏斗形の空隙103を形成するプロファイル加工された凹部150を有する。第1の巻線ストランド100の外面104では、同様のプロファイル加工された凹部150’が丸漏斗形の空隙103’を形成する。
【0087】
図11及び12は、本発明に係わる弦の断面からなる2つの顕微鏡写真を示す。
【0088】
図11は、楽器用弦1の長手方向断面を高い顕微鏡倍率で示す。中央の大きく明るい部分は、荷重を支持する芯部10である鋼線を示す。芯部10の上下両側に、内面101及び外面104にプロファイル加工された凹部150を有する第1の巻線ストランド100が見える。プロファイル加工された凹部150は丸い空隙103を形成し、これらプロファイル加工された凹部領域150の芯部10と第1の巻線ストランド100との間のインタフェースに制振材40を含有する。芯部10の上下の外側の明るい部分は、第2及び最後の巻線ストランド200である扁平金属線を示し、空隙103’を形成する第1の巻線ストランド100のプロファイル加工された外面104を覆っている。第1の巻線ストランド100は芯部10の外面11に巻き付き、隣接する巻き間にそれぞれ隙間102を形成する。
【0089】
図12は、楽器用弦1の長手方向断面を高い顕微鏡倍率で示す。中央の大きく明るい部分は、荷重を支持する芯部10である鋼線を示す。芯部10の上下両側に、内面101及び外面104にプロファイル加工された凹部150を有する第1の巻線ストランド100が見える。プロファイル加工された凹部150は方形の空隙103を形成し、これらプロファイル加工された凹部領域150の芯部10と第1の巻線ストランド100との間のインタフェースに制振材40を含有する。芯部10の上下の外側の明るい部分は、第2及び最後の巻線ストランド200である扁平金属線を示し、空隙103’を形成する第1の巻線ストランド100のプロファイル加工された外面104を覆っている。第1の巻線ストランド100は芯部10の外面11に巻き付き、隣接する巻き間にそれぞれ隙間102を形成する。
【0090】
図13は、楽器、好ましくはバイオリン、ビオラ又はチェロなどの擦弦楽器の荷重を支持する第1の芯部の外面と第1の巻線ストランドの内面との間に制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方を行うための本発明に係わる方法のフロー図である。本方法は、
S1-第1の巻線ストランドの内面にプロファイル加工された凹部を作成することと、
S2-第1の芯部の外面又は第1の巻線ストランドのプロファイル加工された凹部のいずれか又はその両方に制振材を塗布することと、及び、
S3-第1の巻線ストランドを第1の芯部の外面の周りに、第1の巻線ストランドの内面のプロファイル加工された凹部が第1の芯部の外面に配向するようにらせん状に巻きつけることと、を含み、
それによって、第1の巻線ストランドの内面が第1の芯部の外面に接して、制振材が当該外面に配置される際に、第1の芯部の外面に塗布された制振材は、巻線ストランドのプロファイル加工された凹部内に含有又は保持のいずれか又はその両方がなされ得る。
【0091】
本発明の好ましい実施形態では、擦弦楽器用の弦は、中実丸鋼芯で構成される芯部を有する。鋼芯は直径0.100mm~0.600mm、又はより好ましくは、0.300mm~0.400mmを有することがある。鋼芯上に制振材の層が塗布される。制振材の上に凹面を有するポリマーストランドが巻き付き、凹面に制振材が含有されることがある。ポリマーストランドは、0.200mm~0.700mm、又はより好ましくは0.400mm~0.500mmの幅、及び、0.050mm~0.300mmの高さ、又はより好ましくは0.140mm~0.170mmの高さを有することがある。凹面ポリマーストランドは、1~6の凹部、より好ましくは、2~5の凹部、そして、最も好ましくは3つの凹部を有する。さらに、凹面ポリマーストランドは
図3の輪郭Bに図示されるような輪郭を有する。凹面ポリマーストランドの上には、扁平金属巻線層が配置され、扁平金属巻線層は、0.200mm~0.800mmの幅、より好ましくは0.500mm~0.600mmの幅、及び、0.010mm~0.200mmの高さ、又はより好ましくは0.040mm~0.090mmの高さを有する。
【0092】
本発明の別の好ましい実施形態では、擦弦楽器用の弦は、0.010mm~0.600mmの直径、又はより好ましくは0.350mm~0.420mmの直径の鋼索芯構造で構成される芯を有する。当該鋼索芯上に制振材の層が塗布される。制振材の上に、凹面を有する凹面ポリマーストランドが巻き付き、凹面に制振材が含有されることがある。ポリマーストランドは、0.200mm~0.700mmの幅、又はより好ましくは0.400mm~0.500mmの幅、及び、0.050mm~0.300mmの高さ、又はより好ましくは0.140mm~0.170mmの高さを有する。凹面ポリマーストランドは、1~6の凹部、より好ましくは、2~5の凹部、そして、最も好ましくは3つの凹部を有する。さらに、凹面ポリマーストランドは
図3の輪郭Bに図示されるような輪郭を有する。凹面ポリマーストランドの上には、扁平金属巻線層が配置され、扁平金属巻線層は、0.300mm~0.800mmの幅、又はより好ましくは0.500mm~0.600mmの幅、及び、0.010mm~0.200の高さ、又はより好ましくは0.040mm~0.090mmの高さを有する。
【0093】
本発明の有利な実施形態では、擦弦楽器用の弦は、0.100mm~0.600mmの直径、又はより好ましくは0.300mm~0.400mmの直径の中実丸鋼芯から構成される芯を有する。芯上に制振材の層が塗布される。芯及び制振材の上に、アルミニウム製の凹面巻線ストランドが適用される。巻線ストランドは
図5の輪郭Aに図示される輪郭と同様の輪郭を有する凹面ストランドを有する。凹面ストランドは、0.200mm~0.800mmの幅、又はより好ましくは0.450mm~0.550mmの幅、及び、0.050mm~0.400mmの高さ、又はより好ましくは0.150mm~0.200mmの高さを有する。当該凹面ポリマーストランドの上には、扁平金属巻線層が配置され、扁平金属巻線層は、0.300mm~0.800mmの幅、又はより好ましくは0.500mm~0.600mmの幅、及び、0.010mm~0.200mmの高さ、又はより好ましくは0.040mm~0.090mmの高さを有する。
【0094】
本発明の別の有利な実施形態では、擦弦楽器用の弦は、0.100mm~0.600mmの直径、又はより好ましくは0.300mm~0.400mmの直径の丸鋼芯を有する。0.010mm~0.200mmの高さ、又はより好ましくは0.050mmの高さを有するアルミニウムの扁平層が芯の周りに巻き付く。アルミニウムの扁平層の上に、制振材の層が塗布される。アルミニウムの扁平層及び制振材の上に、ポリマー凹面巻線ストランドが巻き付き、ポリマー凹面巻線ストランドは0.100mm~0.500mmの幅、又はより好ましくは0.300mm~0.350mmの幅、及び、0.050mm~0.300mmの高さ、又はより好ましくは0.120mm~0.140mmの高さを有し、ポリマー凹面巻線ストランドは
図6の輪郭Bと同様の輪郭を有する。凹面ポリマー巻線ストランドの上には、扁平金属巻線層が配置され、扁平金属巻線層は、0.300mm~0.800mmの幅、又はより好ましくは0.500mm~0.600mmの幅、及び、0.010mm~0.200mm又はより好ましくは0.040mm~0.090mmの高さを有する。
【0095】
本発明の更に別の有利な実施形態では、擦弦楽器用の弦は、0.100mm~0.400mmの直径、又はより好ましくは0.220mm~0.280mmの直径の丸鋼芯を有する。芯上に、制振材の層が塗布される。芯及び制振材の上に、ポリマー材料製の凹面巻線ストランドが巻き付く。凹面巻線ストランドは0.100mm~0.500mmの幅、又はより好ましくは0.300mm~0.350mmの幅、及び、0.050mm~0.300mmの高さ、又はより好ましくは0.100mm~0.120mmの高さを有する。凹面巻線ストランドは
図3の輪郭Cに図示される輪郭と同様の輪郭を有することがある。凹部ポリマー巻線ストランドの上には、扁平金属巻線層が配置され、扁平金属巻線層は、0.050mm~0.700mmの幅、より好ましくは0.200mm~0.500mmの幅、及び、0.010mm~0.150mmの高さ、又はより好ましくは0.030mm~0.060mmの高さを有する。
【0096】
本発明の更に別の有利な実施形態では、擦弦楽器用の弦は中実丸鋼芯から構成される芯部を有する。鋼芯は、0.100mm~0.600mmの直径、又はより好ましくは0.300mm~0.400mmの直径を有する。鋼芯上に、制振材の層が塗布される。制振材の上に、凹面を有するポリマーストランドが巻き付き、凹面に当該制振材が含有されることがある。ポリマーストランドは0.200mm~0.700mmの幅、又はより好ましくは0.400mm~0.500mmの幅、及び、0.050mm~0.300mmの高さ、又はより好ましくは0.140mm~0.170mmの高さを有する。凹面ポリマーストランドは、1~6の凹部、より好ましくは、2~5の凹部、そして、最も好ましくは3つの凹部を有する。さらに、凹面巻線ストランドは
図3の輪郭Bに図示されるような輪郭を有する。凹面ポリマーストランドの上には、丸金属巻線層が配置され、丸金属巻線層は、0.005mm~0.200mmの直径、又はより好ましくは0.010mm~0.100mmの直径を有する。丸金属巻線層の上には、扁平金属巻線層が配置され、扁平金属巻線層は、0.050mm~0.700mmの幅、又はより好ましくは0.200mm~0.500mmの幅、及び、0.005mm~0.200mmの高さ、又はより好ましくは0.030mm~0.060mmの高さを有する。
【0097】
上述したいずれの実施形態の鋼芯も一本以上の繊維ストランドを備える繊維芯に置き換えられ得ることが理解される。
【0098】
端的に言うと、本発明は、例えば、バイオリン、ビオラ又はチェロのような擦弦楽器など、擦弦楽器用の弦1に関する。弦は、荷重を支持する第1の芯部10及び第1の芯部にらせん巻きに巻き付く巻線ストランド100を有する。振動減衰に適した制振材40が巻線ストランド内のプロファイル加工された凹部150に配置される。凹部は、第1の芯部と巻線ストランドとの間のリザーバとして機能する。リザーバは制振材の含有又は保持のいずれか又はその両方を行い、それによって、巻線ストランドの隣接するらせん巻き間の隙間を通って制振材が放散するのを少なくとも低減する。本発明は、弦に最適な音響特性でより長い製品寿命をもたらす。
【0099】
本発明は特定の実施形態に関連して記載されたが、本発明は本明細書中に提示された例に何ら制限されると解釈されるべきではない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲一式によって定義される。特許請求の範囲の文脈で、「備える」という用語は、その他の可能性のある要素又は工程を排除しない。また、単数表記による参照は複数であることを排除すると解釈されるべきではない。図面中に示される要素に関して特許請求の範囲において使用される参照符号は、本発明の範囲を制限するものとは解釈されない。さらに、異なる請求項に記載される個々の特徴は有利に組み合わされてもよく、異なる請求項でこれら特徴に関して言及することは、特徴の組み合わせが可能又は有利ではないことを排除するものではない。