(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/097 20060101AFI20231130BHJP
F16D 55/225 20060101ALI20231130BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F16D65/097 E
F16D55/225 102Z
B60T13/74 G
(21)【出願番号】P 2021567203
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2020045992
(87)【国際公開番号】W WO2021131736
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019234340
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】兪 昊
(72)【発明者】
【氏名】臼井 拓也
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-167323(JP,A)
【文献】特開2000-234640(JP,A)
【文献】特開2016-089979(JP,A)
【文献】特開2000-220670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキであって、該ディスクブレーキは、
電動モータの駆動によりシリンダ部内のピストンを推進し、パッドをディスクロータに押圧することで制動力を付与するブレーキ機構と、
前記ディスクロータの軸方向であって、該ディスクロータから離間する方向に、前記パッドを付勢する弾性部材と、を備え、
前記弾性部材の付勢力は、前記ピストンの前記シリンダ部に対する摺動抵抗より大き
く設定され、
制動解除時に前記弾性部材の付勢力により、前記パッドと前記ピストンとを前記ディスクロータから離れる方向に後退させることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキにおいて、
前記ピストンは、前記電動モータの駆動力が伝達される回転直動変換機構の作動により前記シリンダ部内を推進する構成であって、
前記弾性部材の付勢力は、前記回転直動変換機構を作動させるための摺動抵抗より小さいことを特徴するディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のディスクブレーキにおいて、
前記パッドは、車両の非回転部に取り付けられる取付部材に摺動可能に支持されており、
前記弾性部材の付勢力は、前記ピストンの前記シリンダ部に対する摺動抵抗と、前記パッドの前記取付部材に対する摺動抵抗とを合わせた力より大きいことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のディスクブレーキにおいて、
前記シリンダ部は、車両の非回転部に取り付けられる取付部材に摺動可能に支持されており、
前記弾性部材の付勢力は、前記シリンダ部の前記取付部材に対する摺動抵抗より大きいことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載のディスクブレーキにおいて、
前記弾性部材は、車両の非回転部に取り付けられる取付部材と前記パッドとの間に設けられることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項6】
ディスクブレーキであって、該ディスクブレーキは、
ブレーキ機構であって、パッドの摺動を支持し、車両の非回転部に取り付けられる取付部材と、シリンダ部を有し前記取付部材に対してディスクロータの軸方向に摺動可能に支持されるキャリパと、を有し、
前記シリンダ部内を摺動するピストンにより、前記パッドを前記ディスクロータに押圧して制動力を付与する前記ブレーキ機構と、
前記ディスクロータの軸方向であって、該ディスクロータから離間する方向に、前記パッドを付勢する弾性部材と、を備え、
前記弾性部材の付勢力は、前記ピストンの前記シリンダ部に対する摺動抵抗より小さく、前記パッドの前記取付部材に対する摺動抵抗と前記キャリパの前記取付部材に対する摺動抵抗とを合わせた力より大きいことを特徴とするディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられるディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のディスクブレーキにおいて、パッドの引き摺りを抑制する構造として、特許文献1に記載のディスクブレーキ装置が提案されている。当該特許文献1に記載のディスクブレーキ装置では、シリンダ部に軸方向へ摺動可能に嵌合したピストンをその軸方向に戻す皿ばねが設けられている。その結果、制動操作を解除したときには、ピストンが皿ばねの付勢力により、シリンダ部の壁面との間に生じる摩擦係合力に抗してその軸方向に戻される。これにより、インナーパッドはディスクロータから容易に離間することが可能となり、インナーパッドの引き摺り現象、すなわち引き摺りトルクが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のディスクブレーキ装置では、パッドに、戻し機構が備えられていないために、引き摺りトルク低減効果が小さい。また、通常、ディスクブレーキには、パッドの摩耗に応じてピストンを前進させるパッド摩耗追従機構を備える必要があるが、特許文献1に記載のディスクブレーキ装置では、その構造が複雑になる。
【0005】
そして、本発明は、効果的にパッドの引き摺りを抑制することができるディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、ディスクブレーキであって、該ディスクブレーキは、電動モータの駆動によりシリンダ部内のピストンを推進し、パッドをディスクロータに押圧することで制動力を付与するブレーキ機構と、前記ディスクロータの軸方向であって、該ディスクロータから離間する方向に、前記パッドを付勢する弾性部材と、を備え、前記弾性部材の付勢力は、前記ピストンの前記シリンダ部に対する摺動抵抗より大きく設定され、制動解除時に前記弾性部材の付勢力により、前記パッドと前記ピストンとを前記ディスクロータから離れる方向に後退させることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、ディスクブレーキであって、該ディスクブレーキは、
ブレーキ機構であって、パッドの摺動を支持し、車両の非回転部に取り付けられる取付部材と、シリンダ部を有し前記取付部材に対してディスクロータの軸方向に摺動可能に支持されるキャリパと、を有し、前記シリンダ部内を摺動するピストンにより、前記パッドを前記ディスクロータに押圧して制動力を付与する前記ブレーキ機構と、前記ディスクロータの軸方向であって、該ディスクロータから離間する方向に、前記パッドを付勢する弾性部材と、を備え、前記弾性部材の付勢力は、前記ピストンの前記シリンダ部に対する摺動抵抗より小さく、前記パッドの前記取付部材に対する摺動抵抗と前記キャリパの前記取付部材に対する摺動抵抗とを合わせた力より大きいことを特徴とする。
【0008】
本発明の一実施形態に係るディスクブレーキによれば、効果的にパッドの引き摺りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るディスクブレーキの斜視図。
【
図2】本発明の実施形態に係るディスクブレーキの一部断面図。
【
図3】本発明の実施形態に係るディスクブレーキの要部分解斜視図。
【
図4】本発明の実施形態に係るディスクブレーキに採用した弾性部材の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態を
図1乃至
図4に基づいて詳細に説明する。
図1~
図3に示すように、本発明の実施形態に係るディスクブレーキ1は、電動モータ56の駆動により制動力を発生させる電動ブレーキ装置が採用されている。本ディスクブレーキ1には、車両の回転部(図示略)に取り付けられたディスクロータDを挟んでその軸方向両側に配置された一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4とが設けられている。本ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型として構成されている。なお、一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4とは、車両のナックル等の非回転部(図示略)に固定されたブラケット5にディスクロータDの軸方向へ移動可能に支持されている。当該ブラケット5が取付部材に相当する。
【0011】
ブラケット5は、後述するスライドピン64、64がそれぞれ挿通される一対のピン挿嵌部8、8と、一対のピン挿嵌部8、8に一体的に接続され、インナ及びアウタブレーキパッド2、3をそれぞれ独立して支持するインナ側及びアウタ側支持部9、10と、を備えている。一対のピン挿嵌部8、8は、ディスクロータDの回転方向に沿って間隔を置いて配置される。一対のピン挿嵌部8、8は、共にディスクロータDの軸方向に沿ってそれぞれ延びている。各ピン挿嵌部8は、有底円筒状に形成される。各ピン挿嵌部8の内部にスライドピン64が軸方向に摺動自在に挿通される。
【0012】
各ピン挿嵌部8は、その開口側がインナ側を指向して、その底部側がアウタ側に指向する。各ピン挿嵌部8のインナ側端部には、円筒状のピン穴ボス部11、11がそれぞれ形成される。各ピン挿嵌部8のアウタ側にアウタ側支持部10が一体的に接続される。また、各ピン挿嵌部8に、アウタ側支持部10からディスクロータDの軸方向に沿ってインナ側に間隔を置いてインナ側支持部9が接続される。
【0013】
インナ側支持部9は、一対のピン挿嵌部8、8から略直交する方向にそれぞれ延びる一対のインナ側腕部14、14と、該一対のインナ側腕部14、14の端部を連結するインナ側ビーム部15と、から構成される。一対のインナ側腕部14、14の対向面には、嵌合凹部16、16がそれぞれ形成される。各嵌合凹部16、16は、ディスクロータDの軸方向に沿って形成される。インナ側腕部14の嵌合凹部16と、後述するアウタ支持部10(アウタ側腕部17)の嵌合凹部19とには、それらを跨ぐように、パッドスプリング31が嵌合されている。インナ側ビーム部15のディスクロータDの回転方向両端には、ディスクロータDの軸方向に沿って貫通する貫通孔22、22がそれぞれ形成される。
【0014】
インナブレーキパッド2は、ディスクロータDとの接触により摩擦力を受けるインナライニング24と、該インナライニング24のディスクロータDと接触する表面とは反対側の裏面に設けられたインナバックプレート25と、該インナバックプレート25のインナライニング24と接触する表面とは反対側の裏面に設けられたインナシム26と、を含んで構成されている。インナバックプレート25であって、ディスクロータDの回転方向両端部には、その外方に突出する嵌合部29、29がそれぞれ形成される。各嵌合部29、29の周辺に、後述する弾性部材34、34を固定するための固定用ボス部30、30がインナ側に向かってそれぞれ突設されている。
【0015】
そして、インナブレーキパッド2は、そのインナバックプレート25の各嵌合部29、29を一対のインナ側腕部14、14の対向面に設けた各嵌合凹部16、16にパッドスプリング31、31を介して嵌合することで、一対のインナ側腕部14、14間に配置される。その結果、インナブレーキパッド2は、一対のインナ側腕部14、14に対して、ディスクロータDの軸方向に沿って摺動自在に支持される。ここで、制動時及び制動解除時には、インナブレーキパッド2の、一対のインナ側腕部14、14に対する摺動抵抗が発生する。
【0016】
インナブレーキパッド2、詳しくはインナバックプレート25とブラケット5のインナ側支持部9との間には、弾性部材34が配置されている。弾性部材34、34は、ディスクロータDの回転方向に沿って間隔を置いて一対配置されている。一対の弾性部材34、34は、インナブレーキパッド2を、ディスクロータDの軸方向であって、インナ側、すなわちディスクロータDから離れる方向に付勢している。言い換えれば、一対の弾性部材34、34は、インナブレーキパッド2をブラケット5のインナ側支持部9に対してディスクロータDから離れる方向に付勢している。
図4に示すように、
図2も参照しながら、弾性部材34は、薄くて細長い略矩形状のバネ板材を、複数箇所屈曲して構成されている。詳しくは、弾性部材34は、インナブレーキパッド2のインナバックプレート25に設けた固定用ボス部30に固定される固定部37と、該固定部37の端部から連続して延びる立設部38と、該立設部38の端部から連続して延びる傾斜部39と、該傾斜部39から連続して延びる対向部40と、該対向部40の端部から連続して延びる接触部41と、から構成される。
【0017】
固定部37には、弾性部材34をインナバックプレート25の固定用ボス部30に固定するための固定用孔42が形成されている。立設部38は、固定部37の端部から該固定部37と略直交して延びる。立設部38は、固定部37(インナバックプレート25)から離れる方向に延びる。傾斜部39は、弾性部材34の取付状態にて、立設部38の端部からインナ側腕部14に向かって延びる。傾斜部39は、弾性部材34の取付状態にて、インナ側腕部14に向かって近づくようにインナブレーキパッド2の長手方向に対して傾斜して延びる。対向部40は、立設部38と対向して延びる。対向部40は、弾性部材34の取付状態にて、ディスクロータDの軸方向に対して若干内側に傾斜して延びる。言い換えれば、対向部40は、立設部38との間の距離が次第に小さくなるように傾斜して延びる。接触部41は、弾性部材34の取付状態にて、外方に向かって半円弧状に湾曲して延びる。接触部41は、弾性部材34の取付状態にて、その外周面がインナ側腕部14のインナ側の面に接触する。
【0018】
そして、インナブレーキパッド2のインナバックプレート25に設けた各固定用ボス部30に、弾性部材34の固定部37に設けた固定用孔42を挿通して、該インナバックプレート25に一対の弾性部材34、34をそれぞれ固定する。このとき、各弾性部材34、34の接触部41、41の外周面が、ブラケット5の各インナ側腕部14、14のインナ側の面にそれぞれ接触する。その結果、各弾性部材34、34により、インナブレーキパッド2は、ディスクロータDの軸方向であって、インナ側支持部9に対して、インナ側、すなわちディスクロータDから離れる方向に付勢される。
【0019】
アウタ側支持部10は、各ピン挿嵌部8、8から略直交する方向に延びる一対のアウタ側腕部17、17と、該一対のアウタ側腕部17、17の端部を連結するアウタ側ビーム部18と、から構成される。一対のアウタ側腕部17、17の対向面には、嵌合凹部19、19がそれぞれ形成される。各嵌合凹部19、19は、ディスクロータDの軸方向に沿って形成される。なお、上述したように、インナ支持部9(インナ側腕部14)の嵌合凹部16と、アウタ側腕部17の嵌合凹部19とには、それらを跨ぐように、パッドスプリング31が嵌合されている。そして、ブラケット5は、インナ側支持部9(インナ側ビーム部15)に設けた各貫通孔22、22を介して車両の非回転部分に取り付けられる。
【0020】
アウタブレーキパッド3は、インナブレーキパッド2と同様に、ディスクロータDとの接触により摩擦力を受けるアウタライニング44と、該アウタライニング44のディスクロータDと接触する表面とは反対側の裏面に設けられたアウタバックプレート45と、該アウタバックプレート45のアウタライニング44と接触する表面とは反対側の裏面に設けられたアウタシム46と、を含んで構成されている。アウタバックプレート45であって、ディスクロータDの回転方向両端部には、その外方に突出する嵌合部49、49がそれぞれ形成される。各嵌合部49、49の周辺に、弾性部材34、34を固定するための固定用ボス部50、50がアウタ側に向かってそれぞれ突設されている。
【0021】
そして、アウタブレーキパッド3は、そのアウタバックプレート45の各嵌合部49、49を一対のアウタ側腕部17、17の対向面に設けた各嵌合凹部19、19にパッドスプリング31、31を介して嵌合することで、一対のアウタ側腕部17、17間に配置される。その結果、アウタブレーキパッド3は、一対のアウタ側腕部17、17に対して、ディスクロータDの軸方向に沿って摺動自在に支持される。ここで、制動時及び制動解除時には、アウタブレーキパッド3の、一対のアウタ側腕部17、17に対する摺動抵抗が発生する。
【0022】
アウタブレーキパッド3、詳しくはアウタバックプレート45とブラケット5のアウタ支持部10との間には弾性部材34が配置されている。弾性部材34、34は、ディスクロータDの回転方向に沿って間隔を置いて一対配置されている。一対の弾性部材34、34は、アウタブレーキパッド3を、ディスクロータDの軸方向であって、アウタ側、すなわちディスクロータDから離れる方向に付勢している。言い換えれば、一対の弾性部材34、34は、アウタブレーキパッド3をブラケット5のアウタ側支持部10に対してディスクロータDから離れる方向に付勢している。このアウタ側の弾性部材34の構成は、インナブレーキバッド2とブラケット5との間に設けた、インナ側の弾性部材34の構成と同様であるので、ここでの説明を省略する。
【0023】
そして、アウタブレーキパッド3のアウタバックプレート45に設けた各固定用ボス部50に、弾性部材34の固定部37に設けた固定用孔42を挿通して、該アウタバックプレート45に一対の弾性部材34、34をそれぞれ固定する。このとき、各弾性部材34、34の接触部41、41の外周面が、ブラケット5の各アウタ側腕部15のアウタ側の面にそれぞれ接触する。その結果、各弾性部材34、34により、アウタブレーキパッド3は、ディスクロータDの軸方向であって、アウタ側支持部10に対して、アウタ側、すなわちディスクロータDから離れる方向に付勢される。なお、弾性部材34の付勢力については、後で詳述する。
【0024】
また、
図1及び
図2に示すように、キャリパ4は、キャリパ4の主体であるキャリパ本体55と、キャリパ本体55と並ぶように配置される電動モータ56と、を備えている。キャリパ本体55には、車両内側のインナブレーキパッド2に対向する基端側に配置され、該インナブレーキパッド2に対向して開口する円筒状のシリンダ部59と、シリンダ部59からディスクロータDを跨いでアウタ側へ延び、車両外側のアウタブレーキパッド3に対向する先端側に配置される一対の爪部60、60と、シリンダ部59から外方にそれぞれ延びる一対のキャリパ腕部61、61とが一体的に接続されて構成される。
【0025】
一対のキャリパ腕部61、61には、その先端部にスライドピン64、64がそれぞれ各固定ナット65、65により固定される。各スライドピン64、64は、シリンダ部59の軸方向に沿って延びる。そして、上述したように、シリンダ部59から延びる各スライドピン64、64が、ブラケット5の一対のピン挿嵌部8、8にそれぞれ軸方向に摺動自在に挿通される。ここで、制動時及び制動解除時には、各スライドピン64、64の、各ピン挿嵌部8、8に対する摺動抵抗が発生する。なお、キャリパ本体55の各キャリパ腕部61、61と、ブラケット5の各ピン挿嵌部8、8との間には、スライドピン64、64を覆う伸縮自在な蛇腹部を有するゴム製のピンブーツ66、66が設けられている。
【0026】
図2を参照して、シリンダ部59の内部には、シリンダボア70が形成されている。シリンダ部59のシリンダボア70内には、ピストン72が軸方向に沿って摺動自在に配置されている。なお、ピストン72の外周面と、シリンダボア70の内周面との間には、シール部材(図示略)が配置されている。ピストン72は、インナブレーキパッド2を押圧するものであって、カップ状に形成される。ピストン72の底部54がインナブレーキパッド2に対向するようにシリンダボア70内に配置される。ピストン72の底部54とインナブレーキパッド2とは、互いに相対回転不能に係合される。この係合によって、ピストン72は、シリンダボア70、ひいてはキャリパ本体55に対して相対回転不能になる。ここで、制動時及び制動解除時には、ピストン72の、シリンダボア70に対する摺動抵抗が発生する。
【0027】
キャリパ本体55には、ブレーキ機構76と、制御装置79と、が備えられている。ブレーキ機構76は、電動モータ56の回転を減速して、その回転トルクを増力する減速機構74と、該減速機構74からの回転が伝達されてピストン72に推力を付与する回転直動変換機構75と、が備えられている。減速機構74は、電動モータ56からの回転が伝達される遊星歯車減速機構等を備えており、電動モータ56からの回転は、この減速機構74により減速、増力されて回転直動変換機構75に伝達される。
【0028】
回転直動変換機構75は、図示は省略するが、例えば、減速機構74からの回転が伝達される軸部材(回転部材)と、該軸部材とねじ係合されるナット部材(直動部材)と、を備えて構成される。すなわち、当該回転直動変換機構75は、軸部材が軸方向に移動不能に支持され、ナット部材が軸方向に移動自在に支持され、且つシリンダ部59に対して相対回転不能に支持される。そして、当該回転直動変換機構75の作動時には、軸部材の回転によりナット部材が直動して、ピストン72を押圧するようになる。
【0029】
さらに、回転直動変換機構75は、図示は省略するが、例えば、減速機構74からの回転が伝達される軸部材(回転直動部材)と、該軸部材とねじ係合されるナット部材(固定部材)と、を備えて構成されるが、軸部材がシリンダ部59に対して回転自在に、且つ軸方向に移動自在に支持される。一方、ナット部材がシリンダ部59に対して相対回転不能に支持され、且つ軸方向にも移動不能に支持される。そして、当該回転直動変換機構75の作動時には、軸部材がナット部材に対して相対回転しながら直動することによりピストン72を押圧するようになる。
そして、制動時及び制動解除時における回転直動変換機構75の作動時には、軸部材とナット部材との間のねじ係合部にて摺動抵抗が発生する。
【0030】
制御装置79は、ピストン72の位置情報に基づき、電動モータ56の駆動力を制御するものである。詳しくは、制御装置79には、図示は省略するが、電動モータ56の回転角度を検出する回転角検出手段、インナ及びアウタブレーキパッド2、3によってディスクロータDを押圧した際の反力を検出する推力センサ、ブレーキペダルに取り付けられたストロークセンサ等の運転者の要求を検出する検出センサ、運転者が要求することなくブレーキが必要な様々な状況を検出する種々の検出センサ等が電気的に接続される。そして、通常走行における制動時及び制動解除時には、当該制御装置79により、回転角検出手段からの検出信号、すなわちピストン72の位置情報、推力センサからの検出信号、運転者の要求に対応した検出センサ、ブレーキが必要な様々な状況を検出する種々の検出センサからの検出信号等に基づき電動モータ56の駆動を制御して、回転直動変換機構75の直動部材(回転直動部材を含む)の、シリンダ部59内の軸方向の位置を制御するものである。
【0031】
そして、上述した各弾性部材34の付勢力は、当然ながら、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の、ブラケット5のインナ側及びアウタ側腕部14、17に対する摺動抵抗よりも大きく設定される。また、各弾性部材34の付勢力は、ピストン72の、シリンダ部59のシリンダボア70に対する摺動抵抗よりも大きく設定される。さらに、各弾性部材34の付勢力は、シリンダ部59に連結された各スライドピン64、64の、ブラケット5の各ピン挿嵌部8、8に対する摺動抵抗よりも大きく設定される。さらに、各弾性部材34の付勢力は、ピストン72の、シリンダ部59のシリンダボア70に対する摺動抵抗と、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の、インナ側及びアウタ側腕部14、17に対する摺動抵抗とを加えた摺動抵抗よりも大きく設定される。さらにまた、各弾性部材34の付勢力は、回転直動変換機構75を作動させるための摺動抵抗よりも小さく設定される。なお、各弾性部材34の付勢力を、ピストン72のシリンダ部59に対する摺動抵抗よりも小さく、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の、ブラケット5のインナ側及びアウタ側腕部14、17に対する摺動抵抗とシリンダ部59に連結された各スライドピン64、64の、ブラケット5の各ピン挿嵌部8、8に対する摺動抵抗とを合わせた力より大きく設定してもよい。
【0032】
次に、上述した、本実施形態に係るディスクブレーキ1において、通常走行における制動及び制動解除時の作用について説明する。
通常走行における制動時には、制御装置79からの指令により、電動モータ56が駆動されて、その制動方向の回転が、減速機構74を介して回転直動変換機構75に伝達される。その結果、回転直動変換機構75の直動部材(回転直動部材を含む)が前進してピストン72を前進させる。そして、ピストン72が、シリンダボア70との間のシール部材を弾性変形させながら、インナブレーキパッド2をディスクロータDに押し付ける。そして、ピストン72によるインナブレーキパッド2への押圧力に対する反力により、キャリパ本体55がブラケット5に対して
図2における右方向に移動して、一対の爪部60、60によりアウタブレーキパッド3をディスクロータDに押し付ける。この結果、ディスクロータDが、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3により挟みつけられて摩擦力が発生し、ひいては、車両の制動力が発生することになる。
【0033】
一方、制動解除時には、制御装置79からの指令により、電動モータ56が駆動され、その制動解除方向の回転が、減速機構74を介して回転直動変換機構75に伝達される。そして、回転直動変換機構75の直動部材(回転直動部材を含む)が後退して初期位置に戻り、ピストン72も、回転直動変換機構75の直動部材とともに後退する。その結果、ピストン72からインナブレーキパッド2への押圧力が解除されて、一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3による制動力が解除される。
【0034】
そこで、この制動解除時、制御装置79が電動モータ56の駆動力を制御しているので、制御装置79により、回転直動変換機構75の直動部材(回転直動部材を含む)の、シリンダ部59の軸方向に沿う位置が制御される。要するに、制御装置79により、回転直動変換機構75の直動部材(回転直動部材を含む)は、その初期位置に後退して停止された状態で維持される。
【0035】
そして、各弾性部材34、34は、少なくとも、ピストン72の、シリンダ部59のシリンダボア70に対する摺動抵抗よりも大きく設定されると共に、シリンダ部59に連結された各スライドピン64、64の、ブラケット5の各ピン挿嵌部8、8に対する摺動抵抗よりも大きく設定される。その結果、制動解除時、各弾性部材34、34の付勢力により、インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3を、ディスクロータDの軸方向であって、確実にディスクロータDから離れる方向に後退させることができる。
【0036】
なお、制動解除時、ピストン72が初期位置まで後退していない状態でも、各弾性部材34、34の付勢力により、インナブレーキパッド2と共にピストン72もシリンダボア70に対して後退させることができる。なおこのとき、各弾性部材34、34の付勢力により、ピストン72はシリンダボア70に対して後退するが、回転直動変換機構75の初期位置に後退した直動部材(回転直動部材を含む)がストッパとなるために、それ以上後退することはなく、正規の初期位置に停止する。これにより、各弾性部材34、34の付勢力により、ピストン72がシリンダ部59内を戻り過ぎることはなく、ブレーキ動作の際の応答性に問題が生じることはない。
【0037】
また、制動解除時、各弾性部材34、34の付勢力により、回転直動変換機構75の直動部材(回転直動部材を含む)を、ピストン72を介して後退方向に押圧することになるが、各弾性部材34、34の付勢力は、回転直動変換機構75を作動させるための摺動抵抗よりも小さく設定されているので、回転直動変換機構75の回転部材(回転直動部材を含む)に対して、後退方向への回転が付与されることはなく、電動モータ56への負荷は抑制される。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、ディスクロータDの軸方向であって、該ディスクロータDから離間する方向に、インナ及びアウタブレーキパッド2、3を付勢する弾性部材34、34を備えており、該弾性部材34の付勢力は、ピストン72のシリンダ部59に対する摺動抵抗より大きく設定されている。その結果、制動解除時、ピストン72が初期位置まで後退していない状態でも、特に、インナ側の一対の弾性部材34、34の付勢力により、ピストン72をシリンダ部59内であって、その初期位置まで後退させることができる。その結果、特に、インナブレーキパッド2をピストン72と共に、ピストン72とシリンダボア70との摺動抵抗に抗するように、ディスクロータDから離れる方向に後退させることができる。これにより、特に、インナ側の一対の弾性部材34、34の付勢力により、特に、インナブレーキパッド2の引き摺りを抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、各弾性部材34、34の付勢力は、シリンダ部59(スライドピン64)の、ブラケット5(ピン挿嵌部8)に対する摺動抵抗よりも大きく設定されている。その結果、制動解除時、特に、アウタ側の一対の弾性部材34、34の付勢力により、アウタブレーキパッド3がディスクロータDから離れる方向に後退される。このとき、一対の爪部60、60を介して、シリンダ部59に連結される各スライドピン64、64を、ブラケット5の各ピン挿嵌部8、8内において各ピン挿嵌部8、8との摺動抵抗に抗するように、アウタ側に後退させることができる。このように、シリンダ部59の各スライドピン64、64と、ブラケット5の各ピン挿嵌合部8、8との間において、相対的な初期位置に戻すことで、特に、アウタブレーキパッド3をディスクロータDから離れる方向に後退させることができる。これにより、特に、アウタ側の一対の弾性部材34、34の付勢力により、特に、アウタブレーキパッド3の引き摺りを抑制することができる。
【0040】
さらに、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、各弾性部材34、34を備えているので、回転直動変換機構75の直動部材(回転直動部材を含む)及びピストン72を、回転直動変換機構75の各構成部材間のクリアランス(組付ガタ)を考慮した比較的長い距離を後退させる必要性がなくなり、必要最小限の距離でピストン72を後退させることができ、ブレーキ動作の応答性を向上させることができる。しかも、各弾性部材34、34の付勢力により、回転直動変換機構75の各構成部材間のクリアランス(組付ガタ)を含む、回転直動変換機構75とピストン72との間のクリアランス(組付ガタ)を吸収することができ、さらに、ブレーキ動作の応答性を向上させることができる。
【0041】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、各弾性部材34、34の付勢力は、回転直動変換機構75を作動させるための摺動抵抗より小さく設定されている。その結果、各弾性部材34、34の付勢力により、回転直動変換機構75の直動部材(回転直動部材を含む)を、ピストン72を介して後退方向へ押圧する際、回転直動変換機構75の回転部材(回転直動部材を含む)に対して、後退方向への回転が付与されることはなく、電動モータ56への負荷を抑制することができる。
【0042】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、各弾性部材34、34の付勢力は、ピストン72のシリンダボア70に対する摺動抵抗と、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の、インナ側及びアウタ側腕部14、17に対する摺動抵抗とを加えた摺動抵抗よりも大きく設定される。その結果、制動解除時、各弾性部材34、34の付勢力により、インナ及びアウタブレーキパッド2、3を、ディスクロータDの軸方向であって、ディスクロータDから離れる方向にスムーズに後退させることができ、インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3の引き摺りを確実に抑制することができる。
【0043】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、各弾性部材34、34の付勢力を、ピストン72のシリンダ部59に対する摺動抵抗より小さく、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の、ブラケット5のインナ側及びアウタ側腕部14、17に対する摺動抵抗とシリンダ部59に連結された各スライドピン64、64の、ブラケット5の各ピン挿嵌部8、8に対する摺動抵抗とを合わせた力より大きく設定する場合もある。その場合には、各弾性部材34、34の付勢力により、ピストン72をシリンダ部59(シリンダボア70)に対して摺動して後退させることはできないが、キャリパ4、及びインナ及びアウタブレーキパッド2、3をブラケット5に対して、インナ及びアウタブレーキパッド2、3がディスクロータDから離れる方向に後退させることができ、その結果、インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3の引き摺りを抑制することができる。
【0044】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、インナ側の一対の弾性部材34、34は、ブラケット5のインナ側支持部9と、インナブレーキパッド2との間に設けられ、一方、アウタ側の一対の弾性部材34、34は、ブラケット5のアウタ側支持部10と、アウタブレーキパッド3との間に設けられているので、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の引き摺りを抑制するための構造を簡素化することができる。
【0045】
以上説明した実施形態に基づくディスクブレーキ1として、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様では、ディスクブレーキであって、該ディスクブレーキは、電動モータ(56)の駆動によりシリンダ部(59)内のピストン(72)を推進し、パッド(2、3)をディスクロータ(D)に押圧することで制動力を付与するブレーキ機構(76)と、前記ディスクロータ(D)の軸方向であって、該ディスクロータ(D)から離間する方向に、前記パッド(2、3)を付勢する弾性部材(34)と、を備え、前記弾性部材(34)の付勢力は、前記ピストン(72)の前記シリンダ部(59)に対する摺動抵抗より大きい。
【0046】
第2の態様では、第1の態様において、前記ピストン(72)は、前記電動モータ(56)の駆動力が伝達される回転直動変換機構(75)の作動により前記シリンダ部(59)内を推進する構成であって、前記弾性部材(34)の付勢力は、前記回転直動変換機構(75)を作動させるための摺動抵抗より小さい。
【0047】
第3の態様では、第1または第2の態様において、前記パッド(2、3)は、車両の非回転部に取り付けられる取付部材(5)に摺動可能に支持されており、前記弾性部材(34)の付勢力は、前記ピストン(72)の前記シリンダ部(59)に対する摺動抵抗と、前記パッド(2、3)の前記取付部材(5)に対する摺動抵抗とを合わせた力より大きい。
【0048】
第4の態様では、第1乃至3いずれかの態様において、前記シリンダ部(59)は、車両の非回転部に取り付けられる取付部材(5)に摺動可能に支持されており、前記弾性部材(34)の付勢力は、前記シリンダ部(59)の前記取付部材(5)に対する摺動抵抗より大きい。
【0049】
第5の態様では、第1乃至4いずれかの態様において、前記弾性部材(34)は、車両の非回転部に取り付けられる取付部材(5)と前記パッド(2、3)との間に設けられる。
【0050】
第6の態様では、ディスクブレーキであって、該ディスクブレーキは、ブレーキ機構であって、パッド(2、3)の摺動を支持し、車両の非回転部に取り付けられる取付部材(5)と、シリンダ部(59)を有し前記取付部材(5)に対してディスクロータ(D)の軸方向に摺動可能に支持されるキャリパ(4)と、を有し、前記シリンダ部(59)内を摺動するピストン(72)により、前記パッド(2、3)を前記ディスクロータ(D)に押圧して制動力を付与する前記ブレーキ機構(76)と、前記ディスクロータ(D)の軸方向であって、該ディスクロータ(D)から離間する方向に、前記パッド(2、3)を付勢する弾性部材(34)と、を備え、前記弾性部材(34)の付勢力は、前記ピストン(72)の前記シリンダ部(59)に対する摺動抵抗より小さく、前記パッド(2、3)の前記取付部材(5)に対する摺動抵抗と前記キャリパ(4)の前記取付部材(5)に対する摺動抵抗とを合わせた力より大きい。
【0051】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0052】
本願は、2019年12月25日付出願の日本国特許出願第2019-234340号に基づく優先権を主張する。2019年12月25日付出願の日本国特許出願第2019-234340号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書を含む全開示内容は、参照により本願に全体として組み込まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 ディスクブレーキ,2 インナブレーキパッド(パッド),3 アウタブレーキパッド(パッド),4 キャリパ,5 ブラケット(取付部材),34 弾性部材,56 電動モータ,59 シリンダ部,72 ピストン,75 回転直動変換機構,76 ブレーキ機構,D ディスクロータ