(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】車体側部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20231130BHJP
B62D 21/15 20060101ALI20231130BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20231130BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D21/15 B
B60K1/04 Z
(21)【出願番号】P 2022090635
(22)【出願日】2022-06-03
【審査請求日】2023-10-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 孝信
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼ 昭太朗
(72)【発明者】
【氏名】操上 義崇
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-18823(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176792(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/225766(WO,A1)
【文献】特開2017-197093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B62D 21/15
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の車幅方向車外側に配設されて車長方向に延在するサイドシルと、該サイドシルよりも車幅方向車内側における前記車体の下部に配設されたバッテリーパックと、車幅方向に延在して車幅方向車外側の端部が前記サイドシルに接続するフロアクロスメンバーと、を備えた車体側部構造であって、
前記サイドシルに用いる鋼板は引張強度980MPa級以上とし、
前記サイドシルは、車幅方向の車外側に向かって開口する溝形状を有するサイドシルインナと、車幅方向車内側に向かって開口する溝形状を有するサイドシルアウタとが互いの開口側を向かい合わせて車体上方側の端部と車体下方側の端部がそれぞれ接合されて閉断面構造を形成しており、
前記バッテリーパックの車幅方向外周側に車幅方向車外側に向かって凸形状
で、前記閉断面構造に対向するように設けられ、前記サイドシルに対して車幅方向車外側から衝突荷重が入力した際に
潰れて衝突エネルギーを吸収する衝突エネルギー吸収部材と、
該衝突エネルギー吸収部材側と前記サイドシルとの間に空間を確保するように、前記サイドシル
の前記閉断面構造の車幅方向車内側に前記衝突エネルギー吸収部材の凸形状に合わせて車幅方向車外側に凹む凹形状に形成された凹形状部と、を備え、
前記衝突エネルギー吸収部材及び前記凹形状部は、前記サイドシルに沿って車長方向の全長にわたって又は一部に設けられ、
車幅方向車外側から前記サイドシルに衝突荷重が入力した際に、前記サイドシルと前記バッテリーパック側との間の前記空間により前記サイドシルと前記衝突エネルギー吸収部材とが接触させるタイミングを遅らせて、前記サイドシルと前記衝突エネルギー吸収部材とが接触する前は前記サイドシルに入力した衝突荷重を前記フロアクロスメンバーに伝達させ、前記サイドシルと前記衝突エネルギー吸収部材とが接触した後は、前記衝突エネルギー吸収部材が衝突エネルギーを吸収することにより、前記バッテリーパックに伝達する荷重を低減させるようにしたことを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記凹形状部は、前記サイドシル
の前記閉断面構造の車幅方向車内側の車体高さ方向の1/2以下の領域に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車体側部構造。
【請求項3】
前記凹形状部の車幅方向の深さが50mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車体側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドシルよりも車幅方向車内側にバッテリーパックを備えた電気自動車等の車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に自動車産業においては環境問題に起因して、エンジン車から電気自動車等への置換が進みつつある。電気自動車等は車体下部のフロア部に大きな電池(バッテリー)を収容したバッテリーパックを配置している。そして、バッテリーにはLi系の材料を用いることが多く、衝突時にバッテリーパックが破損してバッテリーから液漏れすると発火の危険性があるので、バッテリーパックを守る構造が必要となる。このバッテリーパックを守るものとしてサイドシルがあり、車体両側のサイドシルの間にバッテリーパックが配置される。
【0003】
一般的に、電気自動車等のサイドシルは、例えば特許文献1に開示されているように、サイドシルの内側が従来の車体と同じでストレートで凹凸のない形状であった。しかしながら、バッテリーパックを守る構造としての観点においては、サイドシルの形状は重要である。
そのため、例えば特許文献2には、長手方向に垂直な断面が天板と2つの縦壁と2つのフランジとを備えてなるハット形状のハット部材を備えたサイドシルにおいて、長手方向の垂直な方向に伸びる複数の溝部を縦壁に設けることにより、自動車の側面衝突時においてサイドシルの変形に要する荷重を大きくすることで高いエネルギー吸収効率を発揮し、バッテリーを保護する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6928719号公報
【文献】特許6703322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示されている技術においては、ハット部材の縦壁に複数の溝部を設けたことにより、車幅方向車外側から衝突荷重が入力すると前記縦壁が蛇腹状に変形しやすくなってしまった。その結果、サイドシルの車幅方向車内側への変形量が大きくなり、バッテリーパックに大きな荷重が入力して変形させてしまい、バッテリーを守ることができない場合があった。
そのため、電気自動車等の側面衝突時において、サイドシルの変形によるバッテリーパックに入力する荷重と変形を低減することが求められていた。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、電気自動車等の側面衝突時において、サイドシルの変形によるバッテリーパックに入力する荷重と変形を低減することができる車体側部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る車体側部構造は、車体の車幅方向車外側に配設されて車長方向に延在するサイドシルと、該サイドシルよりも車幅方向車内側における前記車体の下部に配設されたバッテリーパックと、車幅方向に延在して車幅方向車外側の端部が前記サイドシルに接続するフロアクロスメンバーと、を備えたものであって、
前記サイドシルに用いる鋼板は引張強度980MPa級以上とし、
前記バッテリーパックの車幅方向外周側に車幅方向車外側に向かって凸形状に設けられ、前記サイドシルに対して車幅方向車外側から衝突荷重が入力した際に衝突エネルギーを吸収する衝突エネルギー吸収部材と、
該衝突エネルギー吸収部材側と前記サイドシルとの間に空間を確保するように、前記サイドシルの車幅方向車内側に前記衝突エネルギー吸収部材の凸形状に合わせて車幅方向車外側に凹む凹形状に形成された凹形状部と、を備え、
前記衝突エネルギー吸収部材及び前記凹形状部は、前記サイドシルに沿って車長方向の全長にわたって又は一部に設けられ、
車幅方向車外側から前記サイドシルに衝突荷重が入力した際に、前記サイドシルと前記バッテリーパック側との間の前記空間により前記サイドシルと前記衝突エネルギー吸収部材とが接触させるタイミングを遅らせて、前記サイドシルと前記衝突エネルギー吸収部材とが接触する前は前記サイドシルに入力した衝突荷重を前記フロアクロスメンバーに伝達させ、前記サイドシルと前記衝突エネルギー吸収部材とが接触した後は、前記衝突エネルギー吸収部材が衝突エネルギーを吸収することにより、前記バッテリーパックに伝達する荷重を低減させるようにしたことを特徴とするものである。
【0008】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記凹形状部は、前記サイドシルの車幅方向車内側の車体高さ方向の1/2以下の領域に形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記凹形状部の車幅方向の深さが50mm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気自動車等のバッテリーパックの車幅方向外周側に車幅方向車外側に向かって突出した凸形状であり、サイドシルに車幅方向車外側から入力する衝突荷重が入力した際に衝突エネルギーを吸収する衝突エネルギー吸収部材と、サイドシルとバッテリーパック側との間に空間を確保するように、衝突エネルギー吸収部材の凸形状に合わせてサイドシルの車幅方向車内側に凹形状に形成された凹形状部と、を有することにより、車幅方向車外側から前記サイドシルに衝突荷重が入力する側面衝突時において、衝突エネルギー吸収部材とサイドシルに形成された凹形状部との間に確保された空間によりサイドシルがバッテリーパックに接触するタイミングを遅らせて、サイドシルが接触するまではフロアクロスメンバーに荷重を伝達させることができ、側面衝突が進行してサイドシルが衝突エネルギー吸収部材に接触した後は、衝突エネルギー吸収部材が衝突エネルギーを吸収することができるので、バッテリーパックに入力する荷重の低減や変形を抑制してバッテリーパックを損傷から守り、安全な車両を作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車体側部構造を説明する図である。
【
図2】実施例において、解析対象とした車体の側面衝突を説明する図である。
【
図3】実施例において、バッテリーパックの変形量とバッテリーパックへの入力荷重の評価方法を示す図である((a)バッテリーパックの変形量の評価位置、(b)バッテリーパックへの入力荷重)。
【
図4】実施例において、比較対象とした比較例に係る車体側部構造の断面図である。
【
図5】実施例において、比較対象とした従来例に係る車体側部構造を示す図である。
【
図6】実施例において、バッテリーパックの変形量の結果を示すグラフである。
【
図7】実施例において、バッテリーパックへの入力荷重として求めた接触反力の結果を示すグラフである。
【
図8】実施例において、従来例及び発明例に係る車体側部構造の側面衝突過程における変形状態を示す図である((a)従来例、(b)発明例)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る車体側部構造1は、
図1に示すように、車長方向に延在するサイドシル3と、サイドシル3よりも車幅方向車内側に配設されたバッテリーパック5、車幅方向に延在して車幅方向車外側の端部7aがサイドシル3に接続するフロアクロスメンバー7及び地面側クロスメンバー9と、を備えたものであって、サイドシル3に用いる鋼板は引張強度980MPa級以上とし、バッテリーパック5の車幅方向外周側に設けられた衝突エネルギー吸収部材11と、サイドシル3における車幅方向車内側に形成された凹形状部13と、を有するものである。
以下、
図1に基づいて、本実施の形態に係る車体側部構造1を説明する。
なお、本明細書及び図面において、同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を割愛する。
【0013】
サイドシル3は、
図1に示すように、車幅方向の車外側に向かって開口する溝形状を有するサイドシルインナ3aと、車幅方向車内側に向かって開口する溝形状を有するサイドシルアウタ3bと、を備えてなり、サイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとが互いの開口側を向かい合わせて車体上方側の端部と車体下方側の端部がそれぞれ接合されて閉断面構造を形成している。
【0014】
バッテリーパック5は、内部にバッテリーセル(図示なし)を搭載したものであり、バッテリーパックアッパ5aと、バッテリーパックロア5bと、を有する。そして、バッテリーパック5は、車幅方向外周側に配設されたバッテリーフレームアッシー15により支持されている。なお、本実施の形態において、バッテリーフレームアッシー15は、
図1に示すように、複数の鋼板部材により構成されている。
【0015】
フロアクロスメンバー7は、バッテリーパック5の車体上方側に配設され、車幅方向車外側の端部7aがサイドシルインナ3aの上部に接続されている。
【0016】
地面側クロスメンバー9は、バッテリーパック5の車体下方側に配設され、車幅方向車外側の端部9aがサイドシル3の下部とボルト17により締結されている。
【0017】
衝突エネルギー吸収部材11は、バッテリーパック5の車幅方向外周側に車幅方向車外側に向かって凸形状に設けられ、サイドシル3に車幅方向車外側から衝突荷重が入力した際に衝突エネルギーを吸収するものである。
【0018】
凹形状部13は、サイドシル3の車幅方向車内側に衝突エネルギー吸収部材11の凸形状に合わせて車幅方向車外側に凹む凹形状に形成されたものである。これにより、衝突エネルギー吸収部材11とサイドシル3との間に所定の空間が確保されている。
【0019】
そして、車体側部構造1は、車幅方向車外側からサイドシル3に衝突荷重が入力した際に、衝突エネルギー吸収部材11とサイドシル3の凹形状部13との間の空間が確保させていることによりサイドシル3と衝突エネルギー吸収部材11とが接触するタイミングを遅らせて、前記サイドシルと前記衝突エネルギー吸収部材とが接触する前はサイドシル3に入力した衝突荷重をフロアクロスメンバー7と地面側クロスメンバー9に伝達させ、サイドシル3と衝突エネルギー吸収部材11とが接触した後は衝突エネルギー吸収部材11が衝突エネルギーを吸収することにより、バッテリーパック5に伝達する荷重を低減させるようにしたものである。これにより、バッテリーパック5の変形を抑制し、バッテリーパック5内のバッテリーを保護することができる。
【0020】
なお、凹形状部13は、サイドシル3の車幅方向車内側の車体高さ方向1/2以下の領域に形成されていることが望ましい(
図1中の破線枠内)。これにより、凹形状部13を形成してもサイドシル3の機能を損なうことなく、衝突エネルギー吸収部材11との間に空間を確保することができる。
【0021】
さらに、凹形状部13の車幅方向の深さは50mm以下であることが望ましい。これにより、サイドシル3の機能を確保しつつサイドシルインナ3aに凹形状部13を形成することができる。
【0022】
また、衝突エネルギー吸収部材11及び凹形状部13は、サイドシル3の車長方向に沿ってサイドシルの全長に渡って設けられたものであってもよいし、車長方向の一部に設けられたものであってもよい。車長方向の一部に設ける場合にあっては、全長のうちポールが侵入する領域とすればよい。
【0023】
また、本発明に係る車体側部構造においては、サイドシルの機能(剛性や衝突エネルギー吸収性等)を確保する観点から、サイドシルに用いる鋼板の引張強度は980MPa級以上とし、例えば、引張強度980MPa級、1180MPa級、1370MPa級、1470MPa級、1760MPa級の鋼板を用いることができる。
【0024】
本実施の形態に係る車体側部構造1は、
図1に示したように、バッテリーフレームアッシー15を備えたものであり、衝突エネルギー吸収部材11は、バッテリーフレームアッシー15の車幅方向外周面に設けられたものであった。もっとも、本発明に係る車体側部構造は、バッテリーフレームアッシーを備えていないものであってもよく、この場合、衝突エネルギー吸収部材は、バッテリーパックの車幅方向外周面に設けられたものであればよい。
【0025】
また、本実施の形態に係る車体側部構造1は、バッテリーパック5の上方側にフロアクロスメンバー7が配設され、下方側に地面側クロスメンバー9が配設されたものであったが、本発明は、フロアクロスメンバーのみが配設されたものであってもよい。
この場合においても、サイドシルの車幅方向車外側から衝突荷重が入力した際に、サイドシルが衝突エネルギー吸収部材に接触するまでの間はサイドシルに入力した衝突荷重をフロアクロスメンバーに分散させ、サイドシルが衝突エネルギー吸収部材と接触した後は衝突エネルギー吸収部材に衝突エネルギーを吸収させるため、バッテリーパックに伝達する荷重を低減し、バッテリーパックの変形を抑制することができる。
【実施例】
【0026】
本発明に係る車体側部構造の作用効果について検証するための具体的な解析を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0027】
本実施例では、前述した実施の形態において
図1に示した、サイドシル3と、バッテリーパック5と、フロアクロスメンバー7と、地面側クロスメンバー9と、を備え、衝突エネルギー吸収部材11と、凹形状部13(深さ20mm)と、を有する車体側部構造1(発明例)を備えた車両101に対して、
図2に示すように、車幅方向車外側からポール103を衝突させる側面衝突解析を行った。
なお、フロアクロスメンバー7と地面側クロスメンバー9を、車高方向の対応する位置に、車長方向において348mmの間隔をあけて4セットを1044mmの範囲に配置した(
図6中の「A」の位置)。また、衝突エネルギー吸収部材11と凹形状部13を、サイドシル3の車長方向に沿って、フロアクロスメンバー7と地面側クロスメンバー9の配置された範囲にわたって設けた(
図6中の「A」の位置)。
【0028】
側面衝突解析においては、車両101を車幅方向に29km/hまで加速し、車両101の側面に対して剛体であるポール103に衝突させた。そして、ポール103が車両101の側面に衝突すると、サイドシル3(
図1参照)は局所的に変形して車内側へと侵入する。
そして、本実施例では、側面衝突過程におけるバッテリーパック5の変形量とバッテリーパック5側に入力する荷重を評価した。
【0029】
バッテリーパック5(
図1参照)の変形量については、
図3(a)に示すように、車長方向の複数位置(
図3(a)中に矢印で示す位置)において、バッテリーパック5の変形前と変形後それぞれの車幅方向の長さを測定し、変形前後の差分を求めた。
一方、バッテリーパック5側に入力する荷重については、
図3(b)に示すように、衝突過程において衝突エネルギー吸収部材11のサイドシルインナ3aへの接触によりバッテリーフレームアッシー15に生じる反力(接触反力)を求めた。
【0030】
本実施例では、比較対象として、
図4に示すよう車体側部構造21(従来例)及び
図5に示す車体側部構造31(比較例)についても、発明例と同様に
図2に示す側面衝突試験を行い、側面衝突過程におけるバッテリーパック5の変形量とバッテリーパック5側に入力する荷重を評価した。
【0031】
従来例に係る車体側部構造21は、
図4に示すように、サイドシルインナ23aとサイドシルアウタ23bとを有してなるサイドシル23を備え、サイドシル23の下部とバッテリーフレームアッシー15とがアルミ製の連結部材25で接続されたものである。
【0032】
一方、比較例に係る車体側部構造31は、
図5に示すように、サイドシルインナ33aとサイドシルアウタ33bとを有してなるサイドシル33を備え、バッテリーフレームアッシー15に衝突エネルギー吸収部材11が設けられているものの、サイドシル33の車内側に凹形状部が形成されていないものである。
【0033】
従来例及び比較例におけるバッテリーパック5の変形量は、発明例と同様に求めた(
図3参照)。
これに対し、従来例におけるバッテリーパック5側に入力する荷重は、連結部材25とバッテリーフレームアッシー15との間の接触反力を求め、比較例におけるバッテリーパック5に入力する荷重は、発明例と同様に、衝突エネルギー吸収部材11のサイドシルインナ33aへの接触により生じるバッテリーフレームアッシー15との間の接触反力を求めた。
【0034】
図6に、発明例、従来例及び比較例におけるバッテリーパック5の車長方向各位置での変形量の解析結果を示す。
図6中のAは、フロアクロスメンバー7と地面側クロスメンバー9の配置された車長方向の位置を示している。そして、
図6は、車両101の側面に対して剛体であるポール103を衝突させる位置を、フロアクロスメンバー7と地面側クロスメンバー9、衝突エネルギー吸収部材11と凹形状部13の配置された車長方向位置(=1568mm)とし、ポール103の直径を254mmとした場合の結果である。
【0035】
バッテリーパック5の変形量は、いずれの車長方向位置においても、従来例及び比較例に比べて発明例が小さい結果であった。フロアクロスメンバー7と地面側クロスメンバー9の配置された車長方向位置4箇所(
図6のA)のバッテリーパック5の変形量の平均値は、従来例が0.76mm、比較例が0.42mmであるのに対し、本発明が0.37mmであり従来例より44%、比較例より13%、それぞれ低減する結果であった。
また、フロアクロスメンバー7と地面側クロスメンバー9の配置されていない車長方向位置(
図6のA以外)におけるバッテリーパック5の変形量の最大値は、従来例が4.73mm、比較例が1.92mmであるのに対し、本発明例が1.41mmであり、従来例より70%、比較例より27%、それぞれ低減する結果であった。
【0036】
図7に、フロアクロスメンバー7と地面側クロスメンバー9の配置された車長方向位置1568mmにおけるバッテリーパック5側に入力する荷重の解析結果を示す。
【0037】
発明例におけるバッテリーパック5側に入力する荷重がピーク値に到達する時間は0.0382秒であり、従来例の0.0262秒、比較例の0.0380秒よりも、それぞれ0.012秒、0.0002秒遅くなっている。この結果として、発明例におけるバッテリーパック5側に入力する荷重はピーク値で92kNであり、従来例(ピーク値:266kN)及び比較例(ピーク値:179kN)に比べて著しく低減(従来例に対し65%、比較例に対し49%、それぞれ低減)する結果となった。
【0038】
図8に、車両101の側面
衝突開始時(0.0s)及び衝突中(衝突開始から0.15s及び0.2s)における従来例の車体側部構造21と発明例の車体側部構造1の変形の様子を示す。
【0039】
従来例では、
図8(a)に示すように、0.015sにおいてバッテリーパック5に繋がっている連結部材25の変形が起こり、0.02sにおいても連結部材25は完全に潰れきれておらず衝突開始時の形状が残っている。そのため、バッテリーパック5へと荷重が伝達して変形していることが分かる。
【0040】
これに対し、発明例では、
図8(b)に示すように、サイドシル3に凹形状部13が形成されていることで、0.015sにおいてもサイドシル3は衝突エネルギー吸収部材11に接触しておらず、フロアクロスメンバー7及び地面側クロスメンバー9はサイドシル3の上下に接続する構造となっている。このことから、サイドシルに入力した荷重はフロアクロスメンバー7及び地面側クロスメンバー9に伝達されて、衝突エネルギーが吸収されていることが示唆される。
【0041】
さらに、側面衝突が進行するとサイドシル3は衝突エネルギー吸収部材11と接触した後の0.02sにおいて、衝突エネルギー吸収部材11はほぼ潰れているものの、バッテリーフレームアッシー15は変形していない。これより、衝突エネルギー吸収部材11が衝突エネルギーを吸収することで、バッテリーパック5(バッテリーフレームアッシー15)に入力する荷重を低減し、バッテリーパック5の変形を抑制できていることが分かる。
【0042】
以上、本発明に係る車体側部構造によれば、衝突エネルギー吸収部材とサイドシルとの間に確保された空間によりサイドシルがバッテリーパックに接触するタイミングを遅らせて、サイドシルが接触するまではフロアクロスメンバーの荷重を伝達させることができ、側面衝突が進行してサイドシルが衝突エネルギー吸収部材に接触した後は、衝突エネルギー吸収部材が衝突エネルギーを吸収することができるので、バッテリーパックに入力する荷重の低減や変形を抑制してバッテリーパックを損傷から守り、電気自動車等の車体側部構造として適していることが示された。
【符号の説明】
【0043】
1 車体側部構造
3 サイドシル
3a サイドシルインナ
3b サイドシルアウタ
5 バッテリーパック
5a バッテリーパックアッパ
5b バッテリーパックロア
7 フロアクロスメンバー
7a 端部
9 地面側クロスメンバー
9a 端部
11 衝突エネルギー吸収部材
13 凹形状部
15 バッテリーフレームアッシー
17 ボルト
21 車体側部構造
23 サイドシル
23a サイドシルインナ
23b サイドシルアウタ
25 連結部材
31 車体側部構造
33 サイドシル
33a サイドシルインナ
33b サイドシルアウタ
101 車両
103 ポール
【要約】
【課題】電気自動車等の側面衝突時にバッテリーパックに入力する荷重を低減する車体側部構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る車体側部構造1は、バッテリーパック5の車幅方向外周側に車幅方向車外側に向かって凸形状に設けられた衝突エネルギー吸収部材11と、衝突エネルギー吸収部材11とサイドシル3との間に空間を確保するようにサイドシル3に凹形状に形成された凹形状部13と、を備え、サイドシル3の側面に衝突荷重が入力した際に、サイドシル3と衝突エネルギー吸収部材11とが接触するタイミングを遅らせて、サイドシル3が衝突エネルギー吸収部材11に接触するまではサイドシル3に入力した衝突荷重をフロアクロスメンバー7に伝達させ、サイドシル3と衝突エネルギー吸収部材11とが接触した後は衝突エネルギー吸収部材11に衝突エネルギーを吸収させることにより、バッテリーパック5に伝達する荷重を低減させるものである。
【選択図】
図1