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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】車体側部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20231130BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20231130BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20231130BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B62D21/15 B
B62D25/20 F
B60K1/04 Z
F16F7/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022090636
(22)【出願日】2022-06-03
【審査請求日】2023-10-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 孝信
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼ 昭太朗
(72)【発明者】
【氏名】操上 義崇
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-18823(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176792(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/225766(WO,A1)
【文献】特開2017-197093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/15
B62D 25/20
B60K 1/04
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車長方向に延在するサイドシルと、該サイドシルよりも車幅方向車内側に配設されたバッテリーパックと、を備えた車体側部構造であって、
車高方向に略平行な底部と該底部の上端及び下端から連続する一対の縦壁部とを有する略コ字断面部を備え、前記サイドシルに対向する前記バッテリーパックの車幅方向外周側に車幅方向車外側に前記向かって凸形状に設けられ、引張強度が270MPa級以上340MPa級以下、板厚が1.0mm以上1.4mm以下の鋼板からなり、容易に変形して衝突エネルギーを吸収し、バッテリーパックへの入力荷重を軽減する衝突エネルギー吸収部材を有し、
車幅方向車外側から前記サイドシルに衝突荷重が入力する側面衝突時において、入力した衝突荷重を前記バッテリーパックに伝達させにくくするように、前記衝突エネルギー吸収部材と前記サイドシルとの間に空間が確保され、前記衝突エネルギー吸収部材は前記サイドシルと離間していることを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記衝突エネルギー吸収部材は、車高方向の高さを基準としたときの車幅方向の幅との縦横比が0.4以上2.5以下の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の車体側部構造。
【請求項3】
前記衝突エネルギー吸収部材は、前記一対の縦壁部が車幅方向車外側に向かって近づく方向に傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の車体側部構造。
【請求項4】
前記衝突エネルギー吸収部材は、一方の前記縦壁部が車幅方向において水平線に対して平行であり、他方の前記縦壁部が車幅方向車外側に向かって前記一方の縦壁部に近づく方向に傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の車体側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドシルよりも車幅方向車内側にバッテリーパックが配設された電気自動車等の車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に自動車産業においては環境問題に起因したエンジン車から電気自動車等への置換が進みつつある。電気自動車等は車体下部のフロア部に大きな電池(バッテリー)を収容したバッテリーパックを配置している。そして、そのバッテリーにはLi系の材料を用いることが多いため、衝突時にバッテリーパックが破損してバッテリーから液漏れすると発火の危険性があるので、バッテリーパックを守る構造が必要となる。このバッテリーパックを守るものとして車幅方向の両外側にサイドシルがあり、サイドシルの間にバッテリーパックが配置されている。
【0003】
バッテリーパックを守る技術として、例えば特許文献1には、閉断面部を有するロッカ(サイドシル)と、下方側から支持された状態でロッカに固定された電池パック(バッテリーパック)と、を備えた車両において、アルミニウム合金等を用いて形成され閉断面構造を成す梯子状の衝撃吸収部がロッカ内に設けられる技術が開示されている。そして、当該技術によれば、車両の側突時に衝撃吸収部が塑性変形することで衝突エネルギーを吸収することが可能であるとされており、これにより、バッテリーパックを保護することができると考えられる。
【0004】
また、特許文献2には、バッテリーパックをフロアサイドメンバーに着脱可能に固定するとともに、フロアパネルに吊り下げ支持する技術が開示されている。そして、当該技術によれば、車体の側面衝突時において、バッテリーパックは変形したサイドシルによりフロアサイドメンバーとの固定が解除され、フロアパネルにのみ支持された状態となるようにすることで、バッテリーパックを適切に保護することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6930267号公報
【文献】特開2019-167060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バッテリーパックを守る構造としてバッテリーパック周辺に衝突エネルギーを吸収する衝突エネルギー吸収部材を配置することは重要である。しかし、特許文献1に開示されている技術においては、ロッカ(サイドシル)内に形成する衝撃吸収部(衝突エネルギー吸収部材)の閉断面構造が複雑であり、かつ重量が重くなり燃費に悪影響を及ぼす恐れがある。さらに、アルミニウム合金を用いた場合においては廉価に製造することが困難であるという問題がある。また、衝撃吸収部の閉断面構造が頑強であるため、側面衝突時におけるロッカ(サイドシル)の変形中に荷重を電池パック(バッテリーパック)に伝達しすぎることでバッテリーパックが破損する可能性があった。
【0007】
また、特許文献2に開示されている技術においては、車両の側面衝突時にバッテリーパックをフロアサイドメンバーから離脱させてフロアパネルにのみ支持された状態とするため、バッテリーパックが脱落して破損する可能性があることに加え、固定状態を解除する機構が働かなった場合には変形したサイドシルを介して衝突荷重がバッテリーパックに入力して破損させる恐れがあった。
そのため、サイドシルとサイドシルの車幅方向車内側に配設されたバッテリーパックとを備えた車両においては、側面衝突時において、効率的かつ確実に衝突エネルギーを吸収してバッテリーパックを保護する構造が求められていた。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、サイドシルとサイドシルの車幅方向車内側に配設されたバッテリーパックとを備えた車体の側面衝突時において、効率的かつ確実に衝突エネルギーを吸収してバッテリーパックを保護することができる車体側部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る車体側部構造は、車長方向に延在するサイドシルと、該サイドシルよりも車幅方向車内側に配設されたバッテリーパックと、を備えたものであって、
車高方向に略平行な底部と該底部の上端及び下端から連続する一対の縦壁部とを有する略コ字断面部を備え、前記バッテリーパックの車幅方向外周側に前記サイドシルとの間に空間を確保しつつ車幅方向車外側に向かって凸形状に設けられ、引張強度が270MPa級以上340MPa級以下、板厚が1.0mm以上1.4mm以下の鋼板からなる衝突エネルギー吸収部材を有し、
車幅方向車外側から前記サイドシルに衝突荷重が入力する側面衝突時において、入力した衝突荷重により変形した前記サイドシルが前記衝突エネルギー吸収部材に接触した後、該衝突エネルギー吸収部材が変形して衝突エネルギーを吸収し、前記バッテリーパックに伝達する荷重を低減させるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記衝突エネルギー吸収部材は、車高方向の高さを基準としたときの車幅方向の幅との縦横比が0.4以上2.5以下の範囲内であることを特徴とするものである。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記衝突エネルギー吸収部材は、前記一対の縦壁部が車幅方向車外側に向かって近づく方向に傾斜していることを特徴とするものである。
【0012】
(4)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記衝突エネルギー吸収部材は、一方の前記縦壁部が車幅方向において水平線に対して平行であり、他方の前記縦壁部が車幅方向車外側に向かって前記一方の縦壁部に近づく方向に傾斜していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、衝突エネルギー吸収部材を容易に変形させる断面構造とし、さらに引張強度が270MPa級以上340MPa級以下の低強度であって板厚が1.0mm以上1.4mm以下の薄い鋼板からなるものとすることで、サイドシルよりも車幅方向車内側にバッテリーパックが配設された車両の側面衝突時において、車両に入力した衝突荷重をバッテリーパックに伝達させにくくすることができる。その結果、側面衝突時においてバッテリーパックの変形を抑制し、電気自動車等のバッテリーパックを守ることができ、安全な車を作ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る車体側部構造を説明する図である。
図2】本発明の実施の形態に係る車体側部構造において、衝突エネルギー吸収部材の形状の具体例を説明する図である。
図3】実施例において、解析対象とした車両の側面衝突を説明する図である。
図4】実施例において、バッテリーパックの変形量と、バッテリーパックへの入力荷重の評価方法を示す図である((a)バッテリーパックの変形量の評価位置、(b)バッテリーパックへの入力荷重)。
図5】実施例において、発明例1~発明例3に係る車体側部構造を示す図である((a)発明例1、(b)発明例2、(c)発明例3)。
図6】実施例において、発明例4及び発明例5と従来例に係る車体側部構造を示す図である((a)発明例4、(b)発明例5、(c)従来例)。
図7】実施例において、バッテリーパックへの入力荷重として求めた接触反力の結果を示すグラフである。
図8】実施例において、衝突エネルギー吸収部材の縦横比を変更した場合に関して、バッテリーパックへの入力荷重として求めた接触反力の最大値を示すグラフである。
図9】実施例において、発明例1~発明例5及び従来例に係る車体側部構造の側面衝突過程における変形状態を示す図である((a)発明例1、(b)発明例2、(c)発明例3、(d)発明例4、(e)発明例5、(f)従来例)。
図10】実施例において、発明例に係る車体側部構造の衝突エネルギー吸収部材に用いる鋼板の引張強度と板厚を変更した場合のバッテリーパックの変形量と接触反力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る車体側部構造1は、一例として図1に示すように、車長方向に延在するサイドシル3と、サイドシル3よりも車幅方向車内側に配設されたバッテリーパック5と、フロアクロスメンバー7と、地面側クロスメンバー9と、を備えたものであって、バッテリーパック5の車幅方向外周側に衝突エネルギー吸収部材11を有するものである。
以下、図1に基づいて、本実施の形態に係る車体側部構造1を説明する。
なお、本明細書及び図面において、同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を割愛する。
【0016】
サイドシル3は、図1に示すように、車幅方向の車外側に向かって開口する溝形状を有するサイドシルインナ3aと、車幅方向車内側に向かって開口する溝形状を有するサイドシルアウタ3bと、を備えてなり、サイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとが互いの開口側を向かい合わせて車体上方側の端部と車体下方側の端部がそれぞれ接合されて閉断面構造を形成している。
また、サイドシルインナ3aの溝形状は、車高方向に略平行な底部3a1と、底部3a1の上端及び下端のそれぞれから連続する一対の縦壁部3a2、3a3と、により断面ハット形状に形成されている。
【0017】
バッテリーパック5は、内部にバッテリーセル(図示なし)を搭載したものであり、バッテリーパックアッパ5aと、バッテリーパックロア5bと、を有する。そして、バッテリーパック5は、車幅方向外周側に配設されたバッテリーフレームアッシー13により支持されている。なお、本実施の形態において、バッテリーフレームアッシー13は、図1に示すように、複数の鋼板部材により構成されている。
【0018】
フロアクロスメンバー7は、バッテリーパック5の車体上方側に配設され、車幅方向車外側の端部7aがサイドシルインナ3aの上部に接続されている。
【0019】
地面側クロスメンバー9は、バッテリーパック5の車体下方側に配設され、車幅方向車外側の端部9aがサイドシル3の下部とボルト15により締結されている。
【0020】
衝突エネルギー吸収部材11は、車高方向に略平行な底部11aと、底部11aの上端及び下端から連続して車幅方向において略平行な一対の縦壁部11b、11cとを有する略コ字断面部11dを備え、バッテリーパック5の車幅方向外周側のバッテリーフレームアッシー13に、サイドシル3との間に空間を確保しつつ車幅方向車外側に向かって凸形状に設けられたものである。そして、衝突エネルギー吸収部材11は、引張強度が270MPa級以上340MPa級以下、板厚が1.0mm以上1.4mm以下の鋼板製である。なお、本実施の形態において、衝突エネルギー吸収部材11は、バッテリーフレームアッシー13の外周面にバッテリーフレームアッシー13に沿って車長方向の全長にわたって又は一部に接合されている。
衝突エネルギー吸収部材11に用いる鋼板の引張強度と板厚の範囲については、後述する実施例において説明する。
【0021】
そして、車体側部構造1においては、車幅方向車外側からサイドシル3に衝突荷重が入力する側面衝突時において、入力した衝突荷重により変形したサイドシル3が衝突エネルギー吸収部材11に接触した後、衝突エネルギー吸収部材11が変形して衝突エネルギーを吸収し、バッテリーパック5に伝達する荷重を低減させるようにしたものである。
【0022】
特許文献1に開示されている技術における衝撃吸収部(本願の衝突エネルギー吸収部材に相当)は、車両の側面衝突時において衝撃吸収部自体が変形しながら衝突エネルギーを吸収するものであるが、前述したように、衝撃吸収部の閉断面構造が頑強であるために衝撃吸収部の変形中に衝突荷重を車幅方向車内側のバッテリーパックに伝達してしまい、バッテリーパックを破損させる恐れがあった。
【0023】
これに対し、本実施の形態に係る車体側部構造1によれば、衝突エネルギー吸収部材11を容易に変形させる断面構造とし、さらに引張強度が270MPa級以上340MPa級以下の低強度であって板厚が1.0mm以上1.4mm以下の薄い鋼板からなるものとすることで、サイドシル3よりも車幅方向車内側にバッテリーパック5が配設された車両の側面衝突時において、変形したサイドシル3が衝突エネルギー吸収部材に11に接触した後、衝突エネルギー吸収部材11が変形して衝突エネルギーを吸収するため、車両に入力した衝突荷重をバッテリーパック5に伝達させにくくすることができる。
その結果、側面衝突時における伝達荷重の低減とバッテリーパック5の変形を抑制することが出来るようになり、電気自動車のバッテリーパック5を守ることができ、安全な車を作ることが可能となる。
【0024】
なお、車体側部構造1において、衝突エネルギー吸収部材11は、車高方向の高さHを基準としたときの車幅方向の幅Wとの縦横比(W/H)が0.4以上2.5以下の範囲内となるように設定する。例えば、図2(a)及び(b)に示す車体側部構造1は、衝突エネルギー吸収部材11の車高方向の高さHは変更せず、車幅方向の幅Wを、縦横比W/Hが0.4以上2.5以下の範囲内(図2(a):W/H=0.86、図2(b):W/H=1.43)となるように設定した具体例である。
【0025】
これにより、サイドシル3とバッテリーパック5との間に衝突エネルギー吸収部材11を設けることができ、かつ、側突時において衝突エネルギー吸収部材11により衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0026】
上記の説明において、衝突エネルギー吸収部材11は、図2(a)及び(b)に示すように、一対の縦壁部11b、11cがいずれも車幅方向において水平なものであった。
【0027】
もっとも、本発明において、図2(c)に示す衝突エネルギー吸収部材23のように、車高方向に略平行な底部23aと底部23aの上端及び下端から連続する一対の縦壁部23b、23cとを有する略コ字断面部23dを備え、一対の縦壁部23b、23cが車幅方向車外側に向かって近づく方向に傾斜していることが好ましい。特に、縦壁部23b、23cの傾斜角は、いずれも、車幅方向における水平線に対して20°以下であることが好ましい。ここで、縦壁部の傾斜角は、水平線に対する鋭角側の角度とする(以下、同様)。
【0028】
若しくは、図2(d)に示す衝突エネルギー吸収部材27のように、車高方向に略平行な底部27aと底部27aの上端及び下端から連続する一対の縦壁部27b、27cとを有する略コ字断面部27dを備え、一方の縦壁部27bが車幅方向において水平線に対して平行であり、他方の縦壁部27cが車幅方向車外側に向かって縦壁部27bに近づく方向に傾斜していることが好ましい。特に、傾斜している縦壁部27cは、車幅方向における水平線に対する傾斜角が20°以下であることが好ましい。
【0029】
このように、衝突エネルギー吸収部材23の一対の縦壁部23b、23cの双方、又は、衝突エネルギー吸収部材27の縦壁部27cを、車幅方向の水平線に対して傾斜させることにより、衝突エネルギー吸収部材は傾斜した縦壁部を持つことにより変形が進むにつれ断面が拡大する形状となり、接触初期は潰れやすく、接触後期は大きく変形できるため、側面衝突時におけるバッテリーパックへの伝達荷重をより低減とすることができる。
【0030】
また、傾斜している縦壁部23b、23c、又は縦壁部27cの傾斜角に20°という上限があるのは、傾斜角が20°よりも大きくなると潰れにくくなってしまったり、塑性変形中に座屈して完全に潰れなくなるためである。
これに対し、傾斜している縦壁部23b、23c、又は縦壁部27cの傾斜角が20°以下の場合、縦壁部23b、23c、又は縦壁部27bは容易に潰れることができ、衝突エネルギーを吸収する上で好ましい。
【0031】
なお、本実施の形態に係る車体側部構造1は、図1に示したように、バッテリーフレームアッシー13を備えたものであり、衝突エネルギー吸収部材11は、バッテリーフレームアッシー13の車幅方向の外周面に設けられたものであった。
もっとも、本発明に係る車体側部構造は、バッテリーフレームアッシーを備えていないものであってもよく、この場合、衝突エネルギー吸収部材は、バッテリーパックの車幅方向の外周面に設けられたものであればよい。
【0032】
また、本実施の形態に係る車体側部構造1は、バッテリーパック5の上方側にフロアクロスメンバー7が配設され、下方側に地面側クロスメンバー9が配設されたものであったが、本発明は、フロアクロスメンバー7のみが配設されたものであってもよい。
この場合においても、サイドシルが変形して衝突エネルギー吸収部材11に接触した後は、衝突エネルギー吸収部材が変形して衝突エネルギーを吸収するため、バッテリーパックに伝達する荷重を低減し、バッテリーパックの変形を抑制することができる。
【0033】
なお、本実施の形態において、衝突エネルギー吸収部材11は、前述したように、サイドシル3との間に所定の空間を確保しつつバッテリーパック5側に設けられたものである。
そして、衝突エネルギー吸収部材11とサイドシル3との間に空間を確実に確保するためには、衝突エネルギー吸収部材11の底部11aが、サイドシル3の車内側の最内位置(サイドシルインナ3aの底部3a1の車幅方向位置)よりも車幅方向車内側に位置するように、衝突エネルギー吸収部材11の幅Wを設定することが好ましい。
【実施例
【0034】
本発明に係る車体側部構造の作用効果について検証するための具体的な解析を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0035】
本実施例では、前述した実施の形態において図1に示した、サイドシル3と、バッテリーパック5と、フロアクロスメンバー7と、地面側クロスメンバー9と、を備え、衝突エネルギー吸収部材11と、を有する車体側部構造1(発明例)を備えた車両101に対して、図3に示すように、車幅方向車外側からポール103を衝突させる側面衝突解析を行った。
【0036】
側面衝突解析においては、車両101を車幅方向に29km/hまで加速し、車両101の側面に対して剛体であるポール103に衝突させた。ここで、ポール103を車両101に衝突させるポール衝突位置は、車長方向位置TL=1394mmと1916mmの2水準とした。なお、TL=1916mmは、フロアクロスメンバー7と、地面側クロスメンバー9(図1)の配置された車長方向位置であり、TL=1394mmはフロアクロスメンバー7及び地面側クロスメンバー9の配置されていない車長方向位置である。
【0037】
ポール103が車両101の側面のサイドシル3に衝突すると、サイドシル3(図1参照)は局所的に変形して車内側へと侵入する。そこで、本実施例では、側面衝突過程におけるバッテリーパック5の変形量とバッテリーパック5側に入力する荷重を評価した。
【0038】
バッテリーパック5の変形量については、図4(a)に示すように、車長方向の複数位置(図4(a)中に矢印で示す位置)において、バッテリーパック5の変形前と変形後それぞれの車幅方向の長さを測定し、変形前後の差分を求めた。
一方、バッテリーパック5側に入力する荷重については、図4(b)に示すように、衝突過程において衝突エネルギー吸収部材11のサイドシルインナ3aへの接触によりバッテリーフレームアッシー13に生じる反力(接触反力)を求めた。
【0039】
本実施例では、図5及び図6に示すように、衝突エネルギー吸収部材11、23、27の寸法及び形状を本発明の範囲内で変更したものを発明例1~発明例5とした。
【0040】
発明例1は、図5(a)に示すように、衝突エネルギー吸収部材11の縦壁部11b、11cがいずれも車幅方向において水平であり、幅W=50mm、高さH=35mmとしたものである。
【0041】
発明例2は、図5(b)に示すように、衝突エネルギー吸収部材23の縦壁部23b、23cがいずれも車幅方向における水平線に対して車幅方向車外側に向かって近づく方向に傾斜しているものであり、最内位置における高さを発明例1の高さ(=35mm)と等しくしたまま、車幅方向における最外位置における高さを25mmとしたものである。
【0042】
発明例3は、図5(c)に示すように、衝突エネルギー吸収部材11の幅Wを発明例1よりも小さくして40mmとしたものである。
【0043】
発明例4は、図6(a)に示すように、衝突エネルギー吸収部材11の幅Wを発明例3よりもさらに小さくして30mmとしたものである。
【0044】
発明例5は、図6(b)に示すように、衝突エネルギー吸収部材27の一方の縦壁部27bが車幅方向において水平線に対して平行であり、他方の縦壁部27cが車幅方向における水平線に対して車幅方向車外側に向かって一方の縦壁部27bに近づく方向に傾斜しているものであり、最内位置における高さを発明例1の高さ(=35mm)よりも10mm大きくしたものである。
【0045】
さらに、本実施例では、比較対象として、図6(c)に示す車体側部構造21(従来例)と、表1に示すように、衝突エネルギー吸収部材11に用いた鋼板の引張強度及び板厚が本発明の好適範囲外とした車体側部構造1(比較例1~比較例6)についても、発明例(発明例1~発明例5)と同様に図3に示す車両101の側面衝突解析を行い、側面衝突過程におけるバッテリーパック5の変形量とバッテリーパック5側に入力する荷重を評価した。なお、表1中の高さHは、車幅方向車外側の高さを記載した。
【0046】
【表1】
【0047】
従来例に係る車体側部構造31は、図6(c)に示すように、サイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとを有してなるサイドシル3を備え、サイドシル3の下部とバッテリーフレームアッシー13とがアルミ製の連結部材33で接続されたものである。
【0048】
従来例におけるバッテリーパック5の変形量は、発明例と同様に求めた(図4参照)。
また、従来例においてバッテリーパック5側に入力する荷重は、連結部材33とバッテリーフレームアッシー13との間の接触反力を求めた。
【0049】
比較例1は、発明例1の衝突エネルギー吸収部材11の幅W(=50mm)と等しくしたまま高さHを15mmと小さくし、縦横比W/Hを本発明の範囲(0.4以上2.5以下)よりも大きく(=3.33)としたものである。
比較例2は、発明例1の衝突エネルギー吸収部材11の高さH(=35mm)と等しくしたまま、幅Wを10mmと小さくし、縦横比W/Hを本発明の範囲(0.4以上2.5以下)よりも小さく(=0.29)したものである。
比較例3は、衝突エネルギー吸収部材11の高さHと幅Wの双方を変更し、縦横比W/Hを本発明の範囲(0.4以上2.5以下)よりも小さく(=0.33)したものである。
比較例4は、衝突エネルギー吸収部材11の高さHと幅Wの双方を変更し、縦横比W/Hを本発明の範囲(0.4以上2.5以下)よりも大きく(=2.67)したものである。
比較例5は、発明例1の衝突エネルギー吸収部材11の高さH(=35mm)と等しくしたまま、幅Wを100mmと大きくし、縦横比W/Hを本発明の範囲(0.4以上2.5以下)よりも大きく(=2.86)したものである。
比較例6は、衝突エネルギー吸収部材11の高さHと幅Wの双方を変更し、縦横比W/Hを本発明の範囲(0.4以上2.5以下)よりも小さく(=0.30)したものである。
【0050】
図7に、発明例1~発明例5及び従来例において、ポール衝突位置を車長方向位置TL=1394mm(図7(a))及び1916mm(図7(b))とした側面衝突時において、バッテリーパック5に入力する荷重として求めた接触反力の結果を示す。
図7に示すように、いずれのポール衝突位置においても、発明例1~発明例5の接触反力は従来例よりも大幅に低下していることが分かる。
【0051】
図8に、衝突エネルギー吸収部材11の縦横比W/Hを変更した場合について、車両101の側面衝突時においてバッテリーパック5に入力する荷重として求めた接触反力の最大値と衝突エネルギー吸収部材11の縦横比W/Hとの関係を示すグラフである。また、前述した表1に、発明例1~5と比較例1~比較例6のそれぞれについて求めた接触反力の最大値を示す。
【0052】
図8及び表1に示すように、接触反力の最大値は、衝突エネルギー吸収部材11の縦横比W/Hが本発明の範囲外である0.4未満又は2.5超においては100kNよりも大きい結果であったが、縦横比W/Hが本発明の範囲内である0.4以上2.5以下においては100kN以下となる結果であった。
【0053】
図9に、発明例1~発明例5及び従来例に係る車体側部構造1、21、25及び31を備えた車両101にポール103を側面衝突させたときの衝突終了後の変形の様子を示す。
【0054】
従来例(図9(f))においては、サイドシル3とバッテリーフレームアッシー13とを接続する連結部材33が十分に変形して完全に潰れるまでには至っておらず、車両101に入力した荷重がバッテリーパック5側へと伝達してしまい、バッテリーパック5が変形している。
【0055】
これに対し、発明例1~発明例5に係る車体側部構造1、21、25においては、いずれも、衝突エネルギー吸収部材11、23、27が十分に変形して完全に潰れている。これより、発明例1~発明例5においては、サイドシル3が変形して衝突エネルギー吸収部材11に接触した後に衝突エネルギーをさらに吸収し、バッテリーパック5へと伝達する荷重を低減し、バッテリーパック5を保護していることが分かる。
【0056】
図10に、衝突エネルギー吸収部材11に用いた鋼板の引張強度と板厚を変更した場合について、車両101の側面衝突時におけるバッテリーパック5の変形量と接触反力の時間変化の結果を示す。なお、車長方向位置TL=1230mm、1569mm、1916mm、2243mmには、フロアクロスメンバー7と、地面側クロスメンバー9(図1)が配置されており(図10中のA)、図10は車長方向位置TL=1394mm、すなわち、フロアクロスメンバー7及び地面側クロスメンバー9の配置されていない位置、をポール衝突位置としたときの結果である。
【0057】
バッテリーパック5の変形量に関しては、図10(a)に示すように、発明例及び比較例に示す結果は、いずれの引張強度及び板厚においても従来例よりも低下した。しかしながら、比較例に比べて板厚の薄い発明例の方がバッテリーパックの変形量は小さくなっている。さらに、板厚が等しくて引張強度の異なる場合のバッテリーパックの変形量はほとんど変わらず、引張強度の影響は軽微であった。
【0058】
また、接触反力に関しては、図10(b)に示すように、発明例及び比較例に示す結果は、いずれの引張強度及び板厚においても従来例よりも低下した。しかしながら、比較例に比べて板厚の薄い発明例の方が接触反力は低下した。さらに、板厚が等しくて引張強度の異なる場合の接触反力はほとんど変わらず、引張強度の影響は軽微であった。
【0059】
そして、図10に示した結果から、衝突エネルギー吸収部材11は、鋼板の引張強度を270MPa級以上340MPa級以下とし、板厚を2mm未満、具体的には1.4mm以下とすることにより、側面衝突時において衝突エネルギー吸収部材11を容易に変形させて衝突エネルギーを吸収し、バッテリーパック5への入力荷重を十分に低減できることが示された。
【符号の説明】
【0060】
1 車体側部構造
3 サイドシル
3a サイドシルインナ
3a1 底部
3a2 縦壁部
3a3 縦壁部
3b サイドシルアウタ
5 バッテリーパック
5a バッテリーパックアッパ
5b バッテリーパックロア
7 フロアクロスメンバー
7a 端部
9 地面側クロスメンバー
9a 端部
11 衝突エネルギー吸収部材
11a 底部
11b 縦壁部
11c 縦壁部
11d 略コ字断面部
13 バッテリーフレームアッシー
15 ボルト
21 車体側部構造
23 衝突エネルギー吸収部材
23a 底部
23b 縦壁部
23c 縦壁部
23d 略コ字断面部
25 車体側部構造
27 衝突エネルギー吸収部材
27a 底部
27b 縦壁部
27c 縦壁部
27d 略コ字断面部
31 車体側部構造
33 連結部材
101 車両
103 ポール
【要約】
【課題】電気自動車等の側面衝突時にバッテリーパックに入力する荷重を低減する車体側部構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る車体側部構造1は、車長方向に延在するサイドシル3と、サイドシル3よりも車幅方向車内側に配設されたバッテリーパック5と、を備えたものであって、バッテリーパック5の車幅方向外周側に、車幅方向車外側に向かって凸形状に設けられ、引張強度が270MPa級以上340MPa級以下、板厚が1.0mm以上1.4mm以下の鋼板からなる衝突エネルギー吸収部材11を有し、車幅方向車外側からサイドシル3に衝突荷重が入力する側面衝突時において、入力した衝突荷重により変形したサイドシル3が衝突エネルギー吸収部材11に接触した後、衝突エネルギー吸収部材11が変形して衝突エネルギーを吸収してバッテリーパック5に伝達する荷重を低減させるようにしたものである。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10