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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】車体側部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20231130BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20231130BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20231130BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D21/15 B
B60K1/04 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022090638
(22)【出願日】2022-06-03
【審査請求日】2023-10-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 孝信
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼ 昭太朗
(72)【発明者】
【氏名】操上 義崇
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226353(JP,A)
【文献】特開2022-81180(JP,A)
【文献】特開2020-82945(JP,A)
【文献】特開2021-30918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B62D 21/15
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の車幅方向車外側において車体前後方向に延設され、天板と一対の縦壁とを有し、車幅方向の車外側に向かって開口する溝形状を有するサイドシルインナと、車幅方向車内側に向かって開口する溝形状を有するサイドシルアウタとが車高方向の上端部及び下端部で接合されてなるサイドシルと、該サイドシルよりも車幅方向車内側における前記車体の下部に配設されたバッテリーパックと、前記サイドシルよりも車幅方向車内側の上方において車幅方向に延設されたフロアクロスメンバと、を備えた車体側部構造であって、
前記フロアクロスメンバは、引張強度が1180MPa級以上の金属板からなり、車幅方向車外側の端部が前記サイドシルインナの車幅方向車内側の面である前記天板とは当接せず、前記サイドシルインナの車高方向の上面に覆いかぶさるように配設されるとともに前記サイドシルインナと前記サイドシルアウタとの前記上端部における接合面部にまで延出して当接することを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記フロアクロスメンバは、車幅方向に延在する溝形状を有し、その先端には前記接合面部に当接する壁面部が設けられ、該壁面部により前記フロアクロスメンバの端部の溝形状が閉じた形状であることを特徴とする請求項1記載の車体側部構造。
【請求項3】
前記フロアクロスメンバの前記端部は、前記サイドシルインナと前記サイドシルアウタとの前記接合面部に結合していることを特徴とする請求項1又は2に記載の車体側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドシルよりも車幅方向車内側にバッテリーパックが配設された電気自動車等の車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に自動車産業においては環境問題に起因したエンジン車から電気自動車への置換が進みつつある。電気自動車等は車体下部のフロア部に大きな電池(バッテリー)を収容したバッテリーパックを配置している。そして、そのバッテリーにはLi系の材料を用いることが多いため、衝突時にバッテリーパックが破損してバッテリーから液漏れすると発火の危険性があるので、バッテリーパックを守る構造が必要となる。このバッテリーパックを守るものとして、車幅方向に延在するフロアクロスメンバと車幅方向両外側において車長方向に延在するサイドシルとがあり、両サイドシルの間にフロアクロスメンバが配置されてその下方にバッテリーパックが配置されている。
【0003】
電気自動車等の側面衝突時においてバッテリーパックを守る技術として、例えば、特許文献1には、バッテリーパックと、車幅方向外側に車体前後方向に延設されたサイドシルと、左右のサイドシルの間に架設されたフロアクロスメンバを備えた車両において、フロアクロスメンバの両端部がサイドシルにおけるサイドシルインナの車内側の側面部からサイドシルインナとサイドシルアウタとの接合部に渡り接続している構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6734709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術においては、車両側面のサイドシルにポール等が衝突して荷重が入力する側面衝突時に、サイドシルインナの車内側の側面部からサイドシルアウタとサイドシルインナとの接合部に渡るフロアクロスメンバとサイドシルとの接続部を介して、衝突荷重はサイドシルからフロアクロスメンバに伝達されて、フロアクロスメンバによって反力が増幅されることで、サイドシルアウタ及びサイドシルインナを潰し、サイドシルアウタ及びサイドシルインナは、潰れて圧縮変形することにより衝突エネルギーを効率的に吸収する。しかし、先にサイドシルが潰れてしまうと、バッテリーパックへと伝達する荷重を十分に低減できず、バッテリーパックを十分に保護することができないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、サイドシルとサイドシルの車幅方向車内側に配設されたバッテリーパックとフロアクロスメンバとを備えた車体の側面衝突時において、車体の側面衝突時においてバッテリーパックへと伝達する荷重を低減することによりバッテリーパックを保護することができる車体側部構造を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る車体側部構造は、車体の車幅方向車外側において車体前後方向に延設されたサイドシルインナとサイドシルアウタとが車高方向の上端部及び下端部で接合されてなるサイドシルと、該サイドシルよりも車幅方向車内側における前記車体の下部に配設されたバッテリーパックと、前記サイドシルよりも車幅方向車内側の上方において車幅方向に延設されたフロアクロスメンバと、を備えたものであって、
前記フロアクロスメンバは、引張強度が1180MPa級以上の金属板からなり、車幅方向車外側の端部が前記サイドシルインナの車幅方向車内側の面とは当接せず、前記サイドシルインナの車高方向の上面に覆いかぶさるように配設されるとともに前記サイドシルインナと前記サイドシルアウタとの前記上端部における接合面部にまで延出して当接し、
車幅方向車外側から前記サイドシルに衝突荷重が入力する側面衝突時において、前記サイドシルアウタが変形して潰れた後は、前記 サイドシルに入力した荷重を前記フロアクロスメンバに伝達させるようにして前記バッテリーパックに伝達する荷重を低減させるようにしたことを特徴とするものである。
【0008】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記フロアクロスメンバは、車幅方向に延在する溝形状を有し、その先端には前記接合面部に当接する壁面部が設けられ、該壁面部により前記フロアクロスメンバの端部の溝形状が閉じた形状であることを特徴とするものである。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記フロアクロスメンバの前記端部は、前記サイドシルインナと前記サイドシルアウタとの前記接合面部に結合していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、フロアクロスメンバは、その車幅方向車外側の端部がサイドシルインナの車幅方向車内側の面とは当接せず、サイドシルインナの車高方向の上面に覆いかぶさるように配設されるとともにサイドシルインナとサイドシルアウタとが接合される接合面部にまで延出して当接していることにより、側面衝突時において車体に入力した荷重の荷重伝達経路がフロアクロスメンバに形成され、フロアクロスメンバによる車幅方向車外側への反力は主にサイドシルインナとサイドシルアウタとが接合される接合面部に加わるので、サイドシルアウタは潰れて圧縮変形することにより衝突エネルギーを吸収するが、サイドシルインナは潰れずに形態を維持することが出来る。さらに、フロアクロスメンバを引張強度1180MPa以上の金属板からなるものとするので、サイドシルアウタが圧縮変形して潰れた後もサイドシルに入力した荷重をフロアクロスメンバが変形することなく受け続けることができるので、サイドシルインナは変形して潰れにくくなり、衝突エネルギー吸収能力を保持し続けることができるので、バッテリーパック5への荷重伝達を低減することができる。その結果、側面衝突時においてバッテリーパック5の変形を抑制し、バッテリーパックを損傷から守ることができ、安全な車両を作ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る車体側部構造を説明する図である。
図2】本発明の実施の形態に係る車体側部構造において、側面衝突時における荷重の伝達を説明する図である((a)従来の車体側部構造、(b)本実施の形態に係る車体側部構造、(c)側面衝突時における荷重伝達経路)。
図3】本発明の実施の形態に係る車体の側部構造において、フロアクロスメンバの端部が閉じた形状の具体例を示す図である。
図4】実施例において、解析対象とした車体の側面衝突を説明する図である。
図5】実施例において、バッテリーパックの変形量と、バッテリーパックへの入力荷重の評価方法を示す図である((a)バッテリーパックの変形量の評価位置、(b)バッテリーパックへの入力荷重)。
図6】実施例において、発明例及び比較例1、2に係る車体側部構造の(i)車長方向位置TL=1568mm、及び、(ii)車長方向位置TL=1916mmにおける断面図である((a)発明例、(b)比較例1、(c)比較例2)。
図7】実施例において、車長方向位置TL=1916mmにポールが衝突した場合におけるバッテリーパックの変形量の結果を示すグラフである。
図8】実施例において、車長方向位置TL=1916mmにポールが衝突した場合におけるバッテリーパックへの入力荷重として求めた接触反力の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る車体側部構造1は、図1に一例として示すように、サイドシル3と、バッテリーパック5と、フロアクロスメンバ7と、フロアパネル9と、を備えたものである。
【0013】
以下、図1に基づいて、本実施の形態に係る車体側部構造1を説明する。
なお、図1には、バッテリーパック5の上方に配設されたフロアパネル9、等といった他の車体部品が図示されているが、以下の説明では、これらの他の車体部品は本発明の要部ではないため、これらの説明は割愛する。
また、本明細書及び図面において、同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を割愛する。
【0014】
サイドシル3は、図1に示すように、車体の車幅方向車外側において車体前後方向に延設されたサイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとを備えてなるものである。
サイドシルインナ3aは、天板3a1と一対の縦壁3a2とにより車幅方向の車外側に向かって開口する溝形状を有し、サイドシルアウタ3bは、車幅方向車内側に向かって開口する溝形状を有する。そして、サイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとが互いの開口側を向かい合わせて車高方向の上端部3c及び下端部(図示なし)で接合されて閉断面構造を形成している。
【0015】
なお、図1に示す車体側部構造1において、サイドシル3の車高方向上部の約1/3以上の範囲を図示したものである。そして、サイドシルインナ3a及びサイドシルアウタ3bは、例えば、天板と一対の縦壁及びフランジとを備えてなるハット断面形状のものであり、サイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bの上端部及び下端部のフランジ同士が接合され、閉断面構造のサイドシル3を構成している。
もっとも、本発明において、サイドシルインナとサイドシルアウタはハット断面形状のものに限らず、それぞれの上端部及び下端部が接合され、閉断面構造のサイドシルを構成するものであればよい。
【0016】
バッテリーパック5は、図1に示すように、サイドシル3よりも車幅方向車内側における車体の下部に配設されたものであり、内部にバッテリーセル(図示なし)を搭載している。
【0017】
フロアクロスメンバ7は、底面と一対の縦壁及びフランジとを備えてなるハット断面形状のものであり、底面と一対の縦壁とにより車幅方向に延在する溝形状を有し、図1に示すように、サイドシル3よりも車幅方向車内側の上方において車幅方向に延設されたものである。なお、図1の車体側部構造の断面図では、底面の断面が表示されている。
そして、フロアクロスメンバ7は、引張強度が1180MPa級以上の金属板からなり、その車幅方向車外側の端部7aがサイドシルインナ3aの車幅方向車内側の面とは当接せず、サイドシルインナ3aの車高方向の上面に覆いかぶさるように配設されるとともにサイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとが接合される接合面部3dにまで延出して当接している。
ここで、サイドシルインナ3aの車高方向の上面とは、図1に示すようにサイドシルインナ3aが天板3a1と縦壁3a2とフランジ3a3とを備えてなるハット断面形状の場合においては、縦壁3a2のことを指す。また、サイドシルインナ3aの車幅方向車内側の面とは、天板3a1のことを指す。
【0018】
そして、車体側部構造1においては、車幅方向車外側からサイドシル3に衝突荷重が入力する側面衝突時において、サイドシル3に入力した衝突荷重によりサイドシルアウタ3bが圧縮変形して潰れ、サイドシルアウタ3bが潰れた後は、サイドシル3に入力する荷重をフロアクロスメンバ7が変形することなく荷重を受け続けるようにしてバッテリーパック5に伝達する荷重を低減させるようにしたものである。
【0019】
本実施の形態に係る車体側部構造1の作用効果は、以下のとおりである。
図2(a)に一例として示すような、サイドシル3とバッテリーパック5とフロアクロスメンバ23と、を備えた従来の車体側部構造21においては、フロアクロスメンバ23の車幅方向の端部23aがサイドシルインナ3aの上方にまで延出しているものの、サイドシル3の上端部3cにおける接合面部3dに当接しているものではなかった。そのため、側面衝突時においてサイドシル3に荷重が入力した場合、まず、サイドシルアウタ3bが変形して潰れた後、フロアクロスメンバ23へと荷重が十分に伝達せず、バッテリーパック5への荷重伝達を十分に低減することができなかった。
【0020】
これに対し、本実施の形態に係る車体側部構造1によれば、図1及び図2(b)に示すように、サイドシル3の上端部3cにおける接合面部3dにフロアクロスメンバ7の端部7aが当接していることで、図2(c)に示すように、側面衝突時において車体に入力した荷重の荷重伝達経路がフロアクロスメンバ7に形成され、フロアクロスメンバ7による車幅方向車外側への反力は主にサイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとが接合される接合面部3dに加わるので、サイドシルアウタ3bは潰れて圧縮変形することにより衝突エネルギーを吸収するが、サイドシルインナ3aは潰れずに形態を維持することが出来る。
さらに、フロアクロスメンバ7を引張強度1180MPa以上の金属板からなるものとするので、サイドシルアウタ3bが圧縮変形して潰れた後もサイドシル3に入力した荷重をフロアクロスメンバ7が変形することなく荷重を受け続けることができるので、サイドシルインナは変形して潰れにくくなり、衝突エネルギー吸収能力を保持し続けることができるので、バッテリーパック5への荷重伝達を低減することができる。
その結果、側面衝突時においてバッテリーパック5の変形を抑制し、バッテリーパック5を損傷から守ることができ、安全な車両を作ることが可能となる。
【0021】
なお、本実施の形態において、フロアクロスメンバ7は、引張強度1180MPa級以上の金属板からなるものであるが、引張強度1180MPa未満の金属板からなるもの場合、フロアクロスメンバに荷重が伝達した際に容易に変形してしまい、荷重を十分に伝達させることができず、バッテリーパック5に伝達する荷重を低減することができない。
【0022】
そのため、本実施の形態において、フロアクロスメンバ7は、引張強度1180MPa級以上の金属板からなるものとし、具体的には、引張強度1180MPa級、1370MPa級、1470MPa級、1760MPa級の鋼板が例示される。
【0023】
なお、車体側部構造1において、フロアクロスメンバ7の端部7aは、サイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとが接合している接合面部3dに当接しているが結合はされていないものであった。
もっとも、本発明においては、フロアクロスメンバの端部は、サイドシルインナとサイドシルアウタとの接合面部に結合していることが好ましい。これにより、側面衝突時において、フロアクロスメンバの端部とサイドシルインナとサイドシルアウタとの接合面部とのずれが生じにくくなり、車体(サイドシル)に入力した荷重のフロアクロスメンバへの荷重伝達経路を維持できるので、フロアクロスメンバに荷重をより伝達しやすくなり、バッテリーパックに伝達する荷重をさらに低減させることができる。
【0024】
また、本発明において、フロアクロスメンバ7は、底面と一対の縦壁とを備えて車幅方向に延在する溝形状を有し(図示なし)、例えば図1に示すように、端部7aの先端には底面7a1から屈曲して連続する壁面部7bが設けられ、壁面部7bによりフロアクロスメンバ7の端部7aの溝形状が閉じた形状であることが好ましい。これにより、フロアクロスメンバ7の端部7aを潰れにくくし、車体が大きく変形することを防ぐことができる。
【0025】
フロアクロスメンバ7の車幅方向の端部7aにおける溝形状が閉じた形状の具体例を図3に示す。
図3(a)に示すフロアクロスメンバ7は、端部7aの先端において底面7a1と一対の縦壁7a2と壁面部7bとが一体化(一体成形)されて連続していることにより、溝形状が閉じた形状となっているものである。
図3(b)に示すフロアクロスメンバ7は、縦壁高さ(車高方向高さ)が高いため、溝形状の底面7a1と先端の壁面部7bとが屈曲して連続しているものの、溝形状の底面7a1と一対の縦壁7a2とが一体化(一体成形)されておらず連続していないが、底面7a1と壁面部7bの両側辺部には縦壁7a2側に折れ曲がる溶接代7cが設けられており、溶接代7cと縦壁7a2とがスポット溶接等で接合されていることにより、溝形状が閉じた形状となっているものである。
【実施例
【0026】
本発明に係る車体側部構造の作用効果について検証するための具体的な解析を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0027】
本実施例では、前述した実施の形態において図1に示した、サイドシル3と、バッテリーパック5と、フロアクロスメンバ7と、を有する車体側部構造1(発明例)を備えた車両101に対して、図4に示すように、車幅方向車外側からポール103を衝突させる側面衝突解析を行った。
また、本実施例における車体側部構造1において、バッテリーパック5は、図5(b)に示すように、車幅方向外周側に配設されたバッテリーフレームアッシー11により支持されている。そして、バッテリーフレームアッシー11は、図5(b)に示すように、複数の鋼板部材により構成されている。
【0028】
側面衝突解析においては、車両101を車幅方向に29km/hまで加速し、車両101の側面に対して剛体であるポール103に衝突させた。ここで、ポール103を車両101に衝突させるポール衝突位置は、車長方向位置TL=1916mmとした。
ポール103が車両101の側面のサイドシル3に衝突すると、サイドシル3(図1参照)は局所的に変形して車内側へと侵入する。そこで、本実施例では、側面衝突過程におけるバッテリーパック5の変形量とバッテリーパック5側に入力する荷重を評価した。
【0029】
バッテリーパック5の変形量については、図5(a)に示すように、車長方向の複数位置(図5(a)中に矢印で示す位置)において、バッテリーパック5の変形前と変形後それぞれの車幅方向の長さを測定し、変形前後の差分を求めた。
一方、バッテリーパック5側に入力する荷重については、図5(b)に示すように、衝突過程において、バッテリーフレームアッシー11の車幅方向外周側に設けられた連結部材13の接触によりバッテリーフレームアッシー11に生じる反力(接触反力)を求めた。
【0030】
さらに、本実施例では、比較対象として、図6(b)に示す車体側部構造21(比較例1)と、図6(c)に示す車体側部構造31(比較例2)についても、発明例と同様に、図4に示す車両の側面衝突解析を行い、側面衝突過程におけるバッテリーパック5の変形量とバッテリーパック5側に入力する荷重を評価した。
【0031】
比較例1に係る車体側部構造21は、フロアクロスメンバ23の車幅方向の端部23aがサイドシルインナ3aに覆い被さるように延在しているものの、サイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとの接合面部3dに当接していないものである。
【0032】
比較例2に係る車体側部構造31は、フロアクロスメンバ33の車幅方向の端部33aがサイドシルインナ3aの上方にまで延在していないものである。
【0033】
比較例1及び比較例2においてバッテリーパック5側に入力する荷重は、発明例と同様、連結部材13とバッテリーフレームアッシー11との間の接触反力を求めた。
【0034】
図7に、発明例、比較例1及び比較例2において、ポール衝突位置を車長方向位置TL=1916mmとした側面衝突時において、バッテリーパック5の変形量の結果を示す。
図7に示すように、フロアクロスメンバ33の端部33aがサイドシルインナ3aの上方にまで延在していない比較例2と比べて、発明例及び比較例1におけるバッテリーパック5の変形量は小さくなった。また、発明例と比較例1とを比較すると、発明例の方がバッテリーパック5の変形量は小さい結果であった。
【0035】
図8に、発明例、比較例1及び従来例2において、ポール衝突位置を車長方向位置TL=1916mmとした側面衝突時において、バッテリーパック5に入力する荷重として求めた接触反力の結果を示す。
図8に示すように、フロアクロスメンバ33の端部33aがサイドシルインナ3aの上方にまで延在していない比較例2と比べて、発明例及び比較例1におけるバッテリーパック5に入力する荷重は小さくなった。また、発明例と比較例1とを比較すると、発明例の方がバッテリーパック5に入力する荷重は小さい結果であった。
分かる。
【0036】
以上、本発明に係る車体側部構造によれば、側面衝突時において、車両に入力した荷重をフロアクロスメンバに伝達させるようにしたことにより、バッテリーパックに入力する荷重を十分に低減することができ、バッテリーパックの変形量を小さくし、バッテリーパックを保護できることが示された。
【符号の説明】
【0037】
1 車体側部構造
3 サイドシル
3a サイドシルインナ
3a1 天板(側面)
3a2 縦壁(上面)
3a3 フランジ
3b サイドシルアウタ
3c 上端部
3d 接合面部
5 バッテリーパック
7 フロアクロスメンバ
7a 端部
7a1 底面
7a2 縦壁
7b 壁面部
7c 溶接代
9 フロアパネル
11 バッテリーフレームアッシー
13 連結部材
21 車体側部構造
23 フロアクロスメンバ
23a 端部
31 車体側部構造
33 フロアクロスメンバ
33a 端部
【要約】
【課題】電気自動車等の側面衝突時にバッテリーパックに入力する荷重を低減する車体側部構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る車体側部構造1は、サイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bとが接合されてなるサイドシル3と、サイドシル3よりも車幅方向車内側に配設されたバッテリーパック5と、車幅方向に延設されたフロアクロスメンバ7と、を備えたものであって、フロアクロスメンバ7は、引張強度が1180MPa級以上の金属板からなり、端部7aがサイドシルインナ3aの側面3a1とは当接せず上面3a2に覆いかぶさるように配設されるとともにサイドシルインナ3aとサイドシルアウタ3bの上端部3cにおける接合面部3dにまで延出して当接し、側面衝突時において、サイドシルアウタ3bが変形して潰れた後は、サイドシル3に入力した荷重をフロアクロスメンバ7に伝達させるようにしてバッテリーパック5に伝達する荷重を低減させる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8