(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
B32B 18/00 20060101AFI20231130BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20231130BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20231130BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20231130BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20231130BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20231130BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B32B18/00 C
C09J11/04
C09J7/30
H01L21/68 R
B32B7/12
C04B37/02 A
C09J183/07
(21)【出願番号】P 2022096165
(22)【出願日】2022-06-15
(62)【分割の表示】P 2021079671の分割
【原出願日】2018-08-07
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 絵里
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-120463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 1/00-201/10
C04B 37/00-37/04
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料が内部に配置されたセラミックス部材と、前記セラミックス部材の熱膨張率と異なる熱膨張率を有するベース部材と、前記セラミックス部材と前記ベース部材との間に配置されて前記セラミックス部材と前記ベース部材とを接合する接着部材と、を備える保持装置において、
前記接着部材は、ポリオルガノシロキサンを含む接着剤組成物で構成され、
前記ポリオルガノシロキサンは、両末端にR
1
3SiO
1/2単位と、m個のR
2
2SiO
2/2単位と、n個のR
3R
4SiO
2/2単位とを含み(ここで、R
1およびR
2は互いに独立に炭素数1~12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R
3は炭素数1~12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R
4は炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、かつ、前記ポリオルガノシロキサンはケイ素原子に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含み、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)、
前記ポリオルガノシロキサンは、RSiO
3/2単位(T単位)およびSiO
4/2単位(Q単位)を含まず、
前記接着剤組成物のガラス転移温度は、-80℃以下であ
り、
前記接着部材は、
-60℃における貯蔵弾性率が、100MPa以下であり、
-60℃におけるせん断接着歪みが、100%以上であり、かつ、
-60℃における伸び率が、40%以上である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置において、
前記接着部材は、-60℃から200℃における伸び率が100%以上であり、かつ、-60℃における伸び率が152%以上である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の保持装置において、
前記接着部材は、-60℃における貯蔵弾性率が、40MPa以下である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記接着部材は、-60℃におけるせん断接着歪みが、250%以上である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記ポリオルガノシロキサンにおける前記芳香族炭化水素基の含有量は、3mol%以上、16mol%以下である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記ポリオルガノシロキサンにおける前記R
3R
4SiO
2/2単位の前記R
3と前記R
4とは、同一の置換基である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記ポリオルガノシロキサンにおける前記R
3R
4SiO
2/2単位の前記R
3と前記R
4とは、ともにフェニル基である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記ポリオルガノシロキサンは、単一種類のポリオルガノシロキサンからなる、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記接着剤組成物中の水分量は、10ppm以上、5000ppm以下である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記接着剤組成物は、平均粒子径が5nm以上、50μm以下の充填材を含み、
前記充填材は、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウムおよび窒化ホウ素の内の少なくとも1つである、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記接着剤組成物は、架橋剤を含み、
前記接着剤組成物における前記架橋剤の添加量は、前記架橋剤中の[Si-H]基と前記ポリオルガノシロキサン中の[CH
2=CH-]基のmol比を「[Si-H]/[CH
2=CH-]」と表した場合、その値が、0.5以上、1.5以下である、
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、複合部材および接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベース部材と、セラミックスにより形成されたセラミックス部材と、ベース部材とセラミックス部材とを接着する接着部材とを備える複合部材の1つとして、半導体を製造する際にウェハを保持する静電チャックがある。静電チャックは、チャック電極を有しており、チャック電極に電圧が印加されることにより発生する静電引力を利用して、セラミックス部材の表面にウェハを吸着して保持する。
【0003】
静電チャックのベース部材とセラミックス部材とを接着する接着部材として、シリコーン樹脂を含むものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、-60℃程度の低温下で、半導体の製造工程の内の一部の工程が行われることがある。このような場合には、静電チャックにも低温下でも良好な物性を維持することが要求される。例えば、静電チャックのセラミックス部材を構成するセラミックスとベース部材を構成する材料(例えば、金属)とは、熱膨張差が大きい。このため、セラミックス部材とベース部材とを接着する接着部材には、接着性のみならず、この熱膨張差を緩和するために低温下でも柔軟性を維持することが要求される。
【0006】
なお、このような課題は、ベース部材とセラミックス部材とを接着するための接着部材を備える静電チャックに限らず、当該接着部材を備える真空チャック等の他の保持装置や、当該接着部材を備えるシャワーヘッド等の半導体製造装置用部品等の他の複合部材に共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される複合部材は、セラミックス部材と、前記セラミックス部材の熱膨張率と異なる熱膨張率を有するベース部材と、前記セラミックス部材と前記ベース部材との間に配置されて前記セラミックス部材と前記ベース部材とを接合する接着部材と、を備える複合部材において、前記接着部材は、-60℃における貯蔵弾性率が、100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが、100%以上であり、かつ、-60℃における伸び率が、40%以上である。
【0010】
本複合部材では、接着部材の-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下である。このように、本複合部材では、接着部材が-60℃においても良好な柔軟性を有している。このため、本複合部材を-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材とベース部材との熱膨張率差により生じる熱応力を、接着部材が変形することにより、緩和することができる。従って、本複合部材では、本複合部材に応力がかかった際に、接着部材が、セラミックス部材と接着部材との界面や、ベース部材と接着部材との界面から剥がれ、または、接着部材自体が破断することを抑制することができる。また、本複合部材では、接着部材が-60℃においても良好な柔軟性を有しているため、セラミックス部材に反り等が生じることにより、セラミックス部材の平面度が低下することを抑制することができる。例えば、本複合部材を、ウェハ等の対象物を保持する静電チャック等の保持装置として用いた場合、静電チャックにおいても、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。このため、対象物の温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材の平面度の低下を抑制することができる。
【0011】
また、本複合部材では、接着部材の-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上である。したがって、-60℃においても、接着部材と、セラミックス部材およびベース部材との良好な接着性を維持することができる。このように、本複合部材では、接着部材が-60℃においても良好な接着性を有している。このため、本複合部材を-60℃程度の低温下で使用した際に、接着部材がセラミックス部材やベース部材から剥がれることを抑制することができる。
【0012】
また、本複合部材では、接着部材の-60℃における伸び率が40%以上である。したがって、-60℃においても、接着部材自体の良好な伸びを維持することができる。このように、本複合部材では、接着部材自体が-60℃においても良好な伸びを有している。このため、本複合部材を-60℃程度の低温下で使用した際に、接着部材自体が破断することを抑制することができる。
【0013】
従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。例えば、本複合部材を、ウェハ等の対象物を保持する静電チャック等の保持装置として用いた場合、静電チャックにおいても、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。このため、対象物の温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材の平面度の低下を抑制することができる。
【0014】
(2)上記複合部材において、前記接着部材は、ポリオルガノシロキサンを含む接着剤組成物で構成され、前記ポリオルガノシロキサンは、両末端にR1
3SiO1/2単位と、m個のR2
2SiO2/2単位と、n個のR3R4SiO2/2単位とを含み(ここで、R1およびR2は互いに独立に炭素数1~12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数1~12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R4は炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、かつ、前記ポリオルガノシロキサンはケイ素原子に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含み、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)、前記ポリオルガノシロキサンにおける前記芳香族炭化水素基の含有量は、3mol%以上、16mol%以下である構成としてもよい。
【0015】
本複合部材によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材を効率的に実現することができる。すなわち、本複合部材では、ポリオルガノシロキサンがその分子中にR3R4SiO2/2単位(以下、「第2のD単位」ともいう)を含むとともに、第2のD単位中の置換基R4が炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基である。このように、本複合部材では、ポリオルガノシロキサンの分子構造の一部分である第2のD単位に嵩高い置換基が導入されている。このため、ポリオルガノシロキサンの分子内または分子間において立体障害が生じ、この結果、ポリオルガノシロキサンの結晶化を抑制することができる。このように結晶化が抑制されたポリオルガノシロキサンを含む接着剤組成物は、結晶化が生じたポリオルガノシロキサンを含む接着剤組成物に比べて、そのガラス転移温度を良好に低下させうる。そして、接着剤組成物のガラス転移温度を低下させることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。
【0016】
ポリオルガノシロキサンにおける芳香族炭化水素基の含有量が3mol%未満である場合には、芳香族炭化水素基を導入することによるガラス転移温度の低下効果が充分に発揮され難い。また、ポリオルガノシロキサンに含まれる芳香族炭化水素基の含有量が16mol%を超える場合には、芳香族炭化水素基同士がπ―πスタッキングによる相互作用を引き起こし、結晶化を招き、ガラス転移温度が上昇する傾向がある。このため、芳香族炭化水素基の含有量が3mol%未満、または、16mol%を超えるポリオルガノシロキサンを用いた接着剤組成物により作製された複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りが発生する要因となる。本複合部材では、ポリオルガノシロキサンに含まれる芳香族炭化水素基の含有量が3mol%以上、16mol%以下であるため、接着剤組成物のガラス転移温度を良好に低下させる。従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。
【0017】
(3)上記複合部材において、前記ポリオルガノシロキサンにおける前記R3R4SiO2/2単位の前記R3と前記R4とは、同一の置換基である構成としてもよい。本複合部材によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材をより効率的に実現することができる。すなわち、本複合部材のポリオルガノシロキサンでは、分子内や分子間における立体障害が効果的に現れ、ポリオルガノシロキサンの結晶化が更に効果的に抑制される。具体的には、ポリオルガノシロキサン中において、対称の位置に配置された置換基R3と置換基R4とが、同一の置換基である場合、対称の位置において同等の立体障害が現れるため、ポリオルガノシロキサンの結晶化を大きく抑制し、ひいては、ガラス転移温度を更に効果的に低下させることができる。従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。
【0018】
(4)上記複合部材において、前記ポリオルガノシロキサンにおける前記R3R4SiO2/2単位の前記R3と前記R4とは、ともにフェニル基である構成としてもよい。本複合部材によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材をより効率的に実現することができる。すなわち、本複合部材のポリオルガノシロキサンでは、分子内や分子間における立体障害が効果的に現れ、ポリオルガノシロキサンの結晶化が更に効果的に抑制される。この結果、ガラス転移温度を更に効果的に低下させることができる。従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。また、ポリオルガノシロキサン中のR3R4SiO2/2単位において、置換基R3と置換基R4とが、ともにフェニル基であるポリオルガノシロキサンは、合成が容易であり、また、市場において容易かつ安価に入手できる傾向がある。
【0019】
(5)上記複合部材において、前記ポリオルガノシロキサンは、単一種類のポリオルガノシロキサンからなる構成としてもよい。本複合部材によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材をより効率的に実現することができる。すなわち、本複合部材のポリオルガノシロキサンは、異なる種類のポリオルガノシロキサンが混合されている場合に比べ、ポリオルガノシロキサンの分子同士の相溶性が向上する。これにより、-60℃以下での複合部材において、柔軟性、接着性および伸びに関する特性を更に効果的に向上させることができる。従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。また、保存中に接着剤組成物中の成分が分離しなくなるため、接着剤組成物の使用可能時間が長くなり、効率良く使用できるようになる。
【0020】
(6)上記複合部材において、前記接着剤組成物のガラス転移温度は、-60℃以下である構成としてもよい。本複合部材によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材をより効率的に実現することができる。接着剤組成物のガラス転移温度が-60℃を超えると、-60℃の低温下において、柔軟性、接着性および伸びに関する特性が低下する傾向がある。換言すれば、複合部材が有する柔軟なエラストマーやゴムとしての性質が低下する傾向があり、ひいては、柔軟性が低下する傾向がある。本複合部材では、接着剤組成物のガラス転移温度が-60℃以下であるため、-60℃の低温下においても、柔軟性、接着性および伸びに関する特性を更に効果的に向上させることができる。従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。
【0021】
(7)上記複合部材において、前記接着剤組成物中の水分量は、10ppm以上、5000ppm以下である構成としてもよい。本複合部材によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材をより効率的に実現することができる。接着剤組成物の接着性を向上させるために、シランカップリング剤を添加することがある。そして、シランカップリング剤は、加水分解することにより接着効果を発揮する。ここで、接着剤組成物中の水分量が10ppm以下であると、シランカップリング剤の加水分解が良好に進行するのに十分でない。また、接着剤組成物中の水分量が5000ppm以上であると、半導体の製造における加熱/冷却の熱サイクルの過程で、接着部材に含まれる水分が、セラミックス部材との接合面や、ベース部材との接合面に凝集・結露することにより、これらの接合面における接着性を低下させる要因となる。このような接着部材に含まれる水分の凝集・結露は、低温下においても起こりうる。本複合部材では、接着剤組成物中の水分量を10ppm以上、5000ppm以下とすることで、接着剤組成物の接着性を向上させることができる。従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。
【0022】
(8)上記複合部材において、前記接着剤組成物は、平均粒子径が5nm以上、50μm以下の充填材を含み、前記充填材は、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウムおよび窒化ホウ素の内の少なくとも1つである構成としてもよい。本複合部材によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材をより効率的に実現することができると共に、シート成形等の際のシート厚みの制御性を向上させることができる。充填材の平均粒子径が5nm未満であると、充填材の比表面積が大きくなるため、充填材の比表面積が小さい場合に比べ、充填材と充填材との間の距離が狭くなる。このため、接着剤組成物全体における充填材と充填材との間を流動する接着剤組成物の割合が低下して接着剤組成物が高粘度化し、ひいては、シート成形等の際の成形性が低下する。また、充填材の平均粒子径が50μmを超えると、粒子径が大きくなるため、粒子径が小さい場合に比べ、シート成形等の際のシート厚みを制御することが困難となる。本複合部材では、接着剤組成物に含まれる充填材の平均粒子径を5nm以上、50μm以下とすることで、シート成形等の加工の際に良好な成形性を確保することができる。従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができると共に、シート成形等の際のシート厚みの制御性を向上させることができる。
【0023】
(9)上記複合部材において、前記接着部材のゴム硬度は、JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメータで、50以下である構成としてもよい。本複合部材によれば、室温で優れた柔軟性を発揮する。従って、上記構成とすることにより、本複合部材を、室温で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。
【0024】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、静電チャック等の保持装置や、シャワーヘッド等の半導体製造装置用部品、およびそれらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】本実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図6】接着剤組成物の貯蔵弾性率の測定結果に基づき、ガラス転移温度を特定するための方法を示す説明図である。
【
図7】せん断接着歪みの特定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
A.実施形態:
A-1.静電チャック100の構成:
図1は、本実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、本実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0027】
静電チャック100は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されたセラミックス部材10およびベース部材20を備える。セラミックス部材10とベース部材20とは、セラミックス部材10の下面S2(
図2参照)とベース部材20の上面S3とが上記配列方向に対向するように配置される。静電チャック100は、さらに、セラミックス部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置された接着部材30を備える。静電チャック100は、特許請求の範囲における複合部材に相当する。
【0028】
セラミックス部材10は、上述した配列方向(Z軸方向)に略直交する略円形の上面S1(以下、「吸着面S1」ともいう)を有する板状部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックス部材10の直径は、例えば100mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、セラミックス部材10の厚さは、例えば1mm~10mm程度である。
【0029】
セラミックス部材10の形成材料としては、種々のセラミックスが用いられ得るが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合(重量割合)の最も多い成分を意味する。
【0030】
セラミックス部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されたチャック電極40が設けられている。チャック電極40に電源(図示せず)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミックス部材10の吸着面S1に吸着固定される。
【0031】
また、セラミックス部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)を含む抵抗発熱体により構成されたヒータ電極50が設けられている。Z軸方向視でのヒータ電極50の形状は、例えば略螺旋状である。ヒータ電極50に電源(図示せず)から電圧が印加されると、ヒータ電極50が発熱することによってセラミックス部材10が温められ、セラミックス部材10の吸着面S1に保持されたウェハWが温められる。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。
【0032】
ベース部材20は、例えばセラミックス部材10と同径の、または、セラミックス部材10より径が大きい略円形平面の板状部材である。ベース部材20の直径は、例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm程度)であり、ベース部材20の厚さは、例えば20mm~40mm程度である。ベース部材20は、セラミックス部材10の熱膨張率と異なる熱膨張率を有しており、例えば、金属や種々の複合材料により形成されている。金属としては、Al(アルミニウム)やTi(チタン)、または、それらの合金が用いられることが好ましい。複合材料としては、炭化ケイ素(SiC)を主成分とする多孔質セラミックスに、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金を溶融して加圧浸透させた複合材料が用いられることが好ましい。複合材料に含まれるアルミニウム合金は、Si(ケイ素)やMg(マグネシウム)を含んでいてもよいし、性質等に影響の無い範囲でその他の元素を含んでいてもよい。
【0033】
ベース部材20の内部には冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却される。接着部材30を介したベース部材20とセラミックス部材10との間の伝熱(熱引き)によりセラミックス部材10が冷却され、セラミックス部材10の吸着面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度分布の制御が実現される。
【0034】
接着部材30は、セラミックス部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置され、セラミックス部材10とベース部材20とを接合している。接着部材30の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度である。なお、接着部材30は、セラミックス部材10の下面S2の全面に配置されていてもよく、または、下面S2の一部のみに配置されていてもよい。
【0035】
A-2.接着部材30の詳細構成:
次に、接着部材30の構成について、詳細に説明する。
A-2-1.接着部材30の物性:
まず、接着部材30が有する物性について説明する。
【0036】
接着部材30の-60℃における貯蔵弾性率は、100MPa以下である。接着部材30の-60℃における貯蔵弾性率が、100MPaを超えると、-60℃における接着部材30の柔軟性が低下する傾向がある。これに対し、接着部材30の-60℃における貯蔵弾性率が、100MPa以下であれば、-60℃においても接着部材30の良好な柔軟性が維持される傾向がある。接着部材30の-60℃における貯蔵弾性率は、より好ましくは、60MPa以下であり、さらに好ましくは、40MPa以下である。
【0037】
接着部材30の-60℃におけるせん断接着歪みは、100%以上である。接着部材30の-60℃におけるせん断接着歪みが、100%未満であると、-60℃における接着部材30と、セラミックス部材10およびベース部材20との接着性が低下する傾向がある。これに対し、接着部材30の-60℃におけるせん断接着歪みが、100%以上であれば、-60℃においても接着部材30と、セラミックス部材10およびベース部材20との良好な接着性が維持される傾向がある。接着部材30の-60℃におけるせん断接着歪みは、より好ましくは、200%以上であり、さらに好ましくは、250%以上である。
【0038】
接着部材30の-60℃における伸び率は、40%以上である。接着部材30の-60℃における伸び率が、40%未満であると、-60℃における接着部材30自体の伸びが低下する傾向がある。これに対し、接着部材30の-60℃における伸び率が、40%以上であれば、-60℃においても接着部材30自体の良好な伸びが維持される傾向がある。接着部材30の-60℃における伸び率は、より好ましくは、60%以上であり、さらに好ましくは、100%以上である。
【0039】
接着部材30のゴム硬度は、JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメータで、50以下である。接着部材30のゴム硬度が、50を超えると、接着部材30の柔軟性が低下する傾向がある。これに対し、接着部材30のゴム硬度が、50以下であれば、接着部材30の良好な柔軟性が維持される傾向がある。接着部材30のゴム硬度は、より好ましくは、45以下である。
【0040】
A-2-2.接着部材30の組成:
次に、接着部材30の組成について説明する。
【0041】
本実施形態において、接着部材30は、ポリオルガノシロキサン(以下、「シリコーン樹脂」ともいう)を含む接着剤組成物(以下、「シリコーン樹脂組成物」ともいう)である。このポリオルガノシロキサンは、両末端にR1
3SiO1/2単位(以下、「M単位」ともいう)と、m個のR2
2SiO2/2単位(以下、「第1のD単位」ともいう)と、n個のR3R4SiO2/2単位(以下、「第2のD単位」ともいう)とを含んでいる(ここで、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)。このようなポリオルガノシロキサンは、下記一般式(1)で表される。
(R1
3SiO1/2)2(R2
2SiO2/2)m(R3R4SiO2/2)n ・・・一般式(1)
(R1およびR2は互いに独立に炭素数1~12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数1~12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R4は炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、かつ、上記ポリオルガノシロキサンはケイ素原子(Si原子)に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含んでいる。)また、接着剤組成物の柔軟性を高める観点から、ポリオルガノシロキサン構造中に、RSiO3/2単位(T単位)およびSiO4/2単位(Q単位)を含まないことが好ましい。
【0042】
上記一般式(1)において、R1およびR2は、より好ましくは、炭素数2~8のアルケニル基、または、炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。炭素数2~8のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;並びにこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つがフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基等が挙げられる。
【0043】
上記一般式(1)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の少なくとも1つは、より好ましくは、炭素数2~8のアルケニル基であり、さらに好ましくは、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基およびブテニル基を含む炭素原子数2~4の低級アルケニル基であり、特に好ましくは、ビニル基である。上記一般式(1)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の残りの2つは、より好ましくは、互いに独立に炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基およびイソプロピル基を含む炭素原子数1~3の低級アルキル基であり、特に好ましくは、メチル基である。すなわち、上記一般式(1)のM単位において、M単位に含まれるR1の内の1つは、ビニル基であり、R1の内の残りの2つは、メチル基であることが好ましい。
【0044】
上記一般式(1)において、R3は、より好ましくは、炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基である。炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない非置換もしくは置換の一価炭化水素基としては、上記一般式(1)におけるR1およびR2として例示したものと同じものを例示することができる。炭素数6~10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基;並びにこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つがフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基などが挙げられる。上記一般式(1)において、R3は、さらに好ましくは、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基を含むアリール基であり、特に好ましくは、フェニル基である。
【0045】
上記一般式(1)において、R4は、より好ましくは、炭素数6~10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基である。炭素数6~10の非置換もしくは置換の一価芳香族炭化水素基としては、上記一般式(1)におけるR3として例示したものと同じものを例示することができる。上記一般式(1)において、R4は、さらに好ましくは、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基を含むアリール基であり、特に好ましくは、フェニル基である。上記一般式(1)において、R3とR4とは、同一の置換基であることが好ましい。上記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンとして、特に好ましくは、ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーである。
【0046】
上記ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量は、3mol%以上、16mol%以下である。上記ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量が3mol%未満であると、上記芳香族炭化水素基を導入することによるガラス転移温度の低下効果が充分に発揮され難い傾向がある。これに対し、上記ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量が16mol%を超えると、上記芳香族炭化水素基同士がπ-πスタッキングによる相互作用を引き起こし、結晶化を招き、ガラス転移温度が上昇する傾向がある。上記ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量は、より好ましくは、4mol%以上、14mol%以下であり、さらに好ましくは、5mol%以上、12mol%以下である。
【0047】
上記接着剤組成物に含まれる、上記構造を有するポリオルガノシロキサンは、単一種類のポリオルガノシロキサンからなることが好ましい。「単一種類のポリオルガノシロキサンからなる」とは、接着剤組成物を構成する全てのポリオルガノシロキサンが、上記一般式(1)において、R1,R2,R3,R4のいずれの置換基においても一意に定められた分子構造を有していることを意味し、R1,R2,R3,R4の全てまたはいずれかの置換基が異なる分子構造を有するポリオルガノシロキサンの混合物でないことを意味する。なお、シランカップリング剤、硬化触媒、架橋剤等のシリコーン化合物の添加を排除するものではない。
【0048】
シランカップリング剤は、接着性付与を目的として添加することができる。シランカップリング剤としては、従来公知のいずれのシランカップリング剤も使用することができ、特に限定されない。シランカップリング剤として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリスメトキシエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、または、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を用いることができる。なお、上記シランカップリング剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。シランカップリング剤の添加量は、上記シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、20重量部以下である。当該添加量が0.1重量部未満であると、上記接着剤組成物に十分な接着性が付与されない傾向がある。これに対し、当該添加量が20重量部を超えると、ポリオルガノシロキサンの硬化を阻害する傾向がある。当該添加量は、より好ましくは、0.5重量部以上、15重量部以下であり、さらに好ましくは、1重量部以上、10重量部以下である。なお、上記シランカップリング剤の代わりに、チタネート系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤を使用してもよい。
【0049】
硬化触媒は、硬化反応の促進を目的として添加することができる。硬化触媒としては、従来公知のいずれの硬化触媒も使用することができ、特に限定されない。硬化触媒としては、例えば、有機錫、無機錫、チタン触媒、ビスマス触媒、金属錯体、白金触媒、塩基性物質および有機燐酸化物等を用いることができる。硬化触媒は、より好ましくは、白金触媒、ロジウム触媒である。白金触媒は、例えば、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、または、キレート構造を有する白金錯体等である。なお、上記硬化触媒を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。硬化触媒の添加量は、上記ポリオルガノシロキサンに対して、白金の重量で、5ppm以上、100ppm以下である。当該添加量が5ppm未満であると、上記ポリオルガノシロキサンの硬化が十分に進行しなくなる傾向がある。これに対し、当該添加量が100ppmを超えると、硬化の進行が速くなるため、均一な組成物が得られない傾向がある。当該添加量は、より好ましくは、10ppm以上、70ppm以下であり、さらに好ましくは、15ppm以上、40ppm以下である。
【0050】
架橋剤は、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと反応し、上記ポリオルガノシロキサンの主骨格の形成を目的として添加することができる。架橋剤としては、従来公知のいずれの架橋剤も使用することができ、特に限定されない。架橋剤は、1分子中に少なくとも3つのヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが好ましい。このような架橋剤として、例えば、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、または、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン)等を用いることができる。なお、上記架橋剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。架橋剤の添加量は、架橋剤中の[Si-H]基とアルケニル基含有ポリオルガノシロキサン中の[CH2=CH-]基のmol比を「[Si-H]/[CH2=CH-]」と表した場合、その値が、0.5以上、1.5以下である。当該添加量が0.5未満であると、上記ポリオルガノシロキサンの架橋が不十分となり、十分な強度を得られない傾向がある。これに対し、当該添加量が1.5を超えると、架橋が過剰に進行するため、柔軟性が失われる傾向がある。当該添加量は、より好ましくは、0.7以上、1.3以下であり、さらに好ましくは、0.9以上、1.1以下である。
【0051】
接着部材30は、シリコーン樹脂に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分として、例えば、充填材、反応抑制剤、粘度調整剤等が挙げられる。
【0052】
充填材は、接着部材30を構成する接着剤組成物の熱伝導率や強度の制御および粘度調整の少なくとも1つを目的として添加することができる。充填材としては、従来公知のいずれの充填材も使用することができ、特に限定されない。充填材として、例えば、シリカ(例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、または、溶融球状シリカ等)、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ジルコニア、窒化ケイ素、または、炭化ケイ素等を用いることができる。充填材は、より好ましくは、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、または、窒化ホウ素であり、さらに好ましくは、アルミナ、窒化アルミニウムである。なお、上記充填材を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
充填材の平均粒子径は、特に限定されないが、5nm以上、50μm以下であることが好ましい。当該平均粒子径が5nm未満であると、充填材の比表面積が大きくなるため、充填材の比表面積が小さい場合に比べ、充填材の表面を被覆するシリコーン樹脂が多い。このため、接着剤組成物全体における充填材と充填材との間を流動可能なシリコーン樹脂が少なく、樹脂の粘度が高くなり、ひいては、シート成形等の際の成形性が低下する傾向がある。これに対し、当該平均粒子径が50μmを超えると、粒子径が大きいため、粒子径が小さい場合に比べ、シート成形等の際のシート厚みを制御することが困難となる結果、接着部材30の表面における平坦性が低下する傾向がある。充填材の平均粒子径は、より好ましくは、50nm以上、40μm以下、さらに好ましくは、100nm以上、30μm以下である。なお、充填材の平均粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。また、充填材成分の形状は、特に限定されない。
【0054】
充填材は、上記ポリオルガノシロキサンへの分散性向上の観点から、その表面が疎水処理(表面処理)されていてもよい。例えば、充填材としてのシリカは、オルガノシランやオルガノシラザン、ジオルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。なお、表面処理剤の添加量及び表面処理方法については、特に限定されない。
【0055】
充填材は、粉末の状態で接着剤組成物に添加されてもよく、または、充填材を有機溶剤に分散させたスラリーの状態で接着剤組成物に添加されてもよい。
【0056】
充填材の添加量は、上記シリコーン樹脂100重量部に対して、1重量部以上、600重量部以下である。当該添加量が1重量部未満であると、熱伝導率や強度の制御または粘度調整の効果が得られにくい傾向がある。これに対し、当該添加量が600重量部を超えると、接着剤組成物の柔軟性が低下する傾向がある。充填材の添加量は、より好ましくは、100重量部以上、500重量部以下、さらに好ましくは、200重量部以上、400重量部以下である。
【0057】
反応抑制剤は、接着剤組成物の硬化速度の調整を目的として添加することができる。反応抑制剤としては、従来公知のいずれの反応抑制剤も使用することができ、特に限定されない。反応抑制剤として、例えば、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。反応抑制剤は、より好ましくは、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレートである。なお、上記反応抑制剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。反応抑制剤の添加量は、上記シリコーン樹脂100重量部に対して、10重量部以下である。当該添加量が10重量部を超えると、正常な硬化を阻害し、硬化不良を引き起こす傾向がある。反応抑制剤の添加量は、より好ましくは、0.1重量部以上、6重量部以下、さらに好ましくは、0.2重量部以上、2重量部以下である。なお、反応抑制剤は、白金触媒等の触媒活性を制御し、接着剤組成物が加熱硬化前に増粘やゲル化を起こさないようにするために必要に応じて任意に添加するものである。
【0058】
粘度調整剤は、接着シートを作製する際のシートの厚みのばらつきを小さくするために、シリコーン樹脂の粘度を調整することを目的として添加することができる。粘度調整剤としては、従来公知のいずれの粘度調整剤も使用することができ、特に限定されない。粘度調整剤として、例えば、煙霧質シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、煙霧質アルミナ、ヒュームドアルミナ、コロイダルアルミナ等が挙げられる。粘度調整剤は、より好ましくは、煙霧質シリカまたは煙霧質アルミナである。なお、上記粘度調整剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、粘度調整剤は、その表面が疎水処理(表面処理)等されていてもよい。粘度調整剤の添加量は、上記シリコーン樹脂100重量部に対して、0.05重量部以上、10重量部以下である。当該添加量が0.05重量部未満であると、粘度調整の効果が得られない傾向がある。これに対し、当該添加量が10重量部を超えると、粘度が増加し過ぎて流動性が低下し、シート厚みのばらつきが増加する傾向がある。粘度調整剤の添加量は、より好ましくは、0.1重量部以上、5重量部以下、さらに好ましくは、0.5重量部以上、2重量部以下である。
【0059】
上記接着剤組成物のガラス転移温度(Tg)は、-60℃以下である。接着剤組成物のガラス転移温度が-60℃を超えると、低温環境下において、柔軟性、接着性および伸びに関する特性が低下する傾向がある。換言すれば、接着部材30が有する柔軟なエラストマーやゴムとしての性質が低下する傾向がある。これに対し、接着剤組成物のガラス転移温度が-60℃以下であれば、低温環境下においても、柔軟性、接着性および伸びに関する良好な特性が維持される傾向がある。接着剤組成物のガラス転移温度は、より好ましくは、-70℃以下であり、さらに好ましくは、-80℃以下である。
【0060】
上記接着剤組成物中の水分量は、10ppm以上、5000ppm以下である。接着剤組成物中の水分量は、接着剤組成物中に含まれるシランカップリング剤の加水分解に影響を及ぼす。ここで、シランカップリング剤は、加水分解することで接着効果を発揮する。当該水分量が10ppm未満であると、シランカップリング剤の加水分解が良好に進行するのに十分でなく、ひいては、接着部材30の接着性の向上を抑制する。また、当該水分量が5000ppmを超えると、半導体の製造における加熱/冷却の熱サイクルの過程で、接着部材30に含まれる水分が、セラミックス部材10との接合面や、ベース部材20との接合面に凝集・結露することにより、これらの接合面における接着性を低下させる要因となる。接着剤組成物中の水分量は、より好ましくは、20ppm以上、4000ppm以下である。なお、当該水分量は、カールフィッシャー水分測定装置により測定することができる。
【0061】
A-3.静電チャック100の製造方法:
次に、本実施形態における静電チャック100の製造方法を説明する。はじめに、チャック電極40およびヒータ電極50等の導電性材料層が内部に配置された板状のセラミックス部材10を作製する。セラミックス部材10の作製は、例えば、公知のシート積層法やプレス成形法により行うことができる。
【0062】
シート積層法によるセラミックス部材10の作製方法の一例は、次の通りである。まず、アルミナ原料とブチラール樹脂と可塑剤と溶剤とを混合し、得られた混合物をドクターブレード法によってシート状に成形することにより、複数枚のセラミックスグリーンシートを作製する。また、所定のセラミックスグリーンシートに対して、スルーホールの形成やビア用インクの充填、チャック電極40、ヒータ電極50の形成のための電極用インクの塗布等の必要な加工を行う。電極用インクが塗布された箇所が、導電性材料層となる。なお、ビア用インクや電極用インクとしては、例えばタングステンやモリブデン等の導電性材料とアルミナ原料とエトセル(登録商標)樹脂と溶剤とを混合してスラリー状としたメタライズインクが用いられる。その後、複数のセラミックスグリーンシートを積層して熱圧着し、所定のサイズに加工することにより、セラミックス成形体を得る。
【0063】
得られたセラミックス成形体を窒素中で脱脂した後、加湿した水素窒素雰囲気で、所定の温度(例えば1500℃~1600℃)で常圧焼成することにより、板状のセラミックス部材10を作製する。
【0064】
次に、セラミックス部材10とベース部材20とを、接着部材30を介して接合する。具体的には、セラミックス部材10に加えて、ベース部材20および上記接着剤組成物をシート化した接着剤(接着シート)を準備する。ベース部材20は、例えばアルミニウム合金により形成される。接着剤は、ポリオルガノシロキサンを含む接着剤組成物(シリコーン樹脂組成物)である。接着シートは、上記接着剤組成物を真空下で撹拌することにより接着ペーストを作製し、作製された接着ペーストを、必要に応じてロールコーター等を用いてシート状に成形した後、所定の時間、所定の温度で加熱し、半硬化させることにより作製される。セラミックス部材10とベース部材20との間に接着剤を配置し、真空中で貼り合せ、そのまま加熱する。これにより、接着剤が硬化して接着部材30が形成され、セラミックス部材10とベース部材20とが接着部材30により接着される。その後、必要により後処理(外周の研磨、端子の形成等)を行う。以上の製造方法により、上述した構成の静電チャック100が製造される。
【0065】
A-4.性能評価:
上述した製造方法で使用される接着剤組成物から構成される接着剤(接着ペースト、接着シート)を対象に、以下に説明する性能評価を行った。
図3~
図5は、性能評価の結果を示す説明図である。
【0066】
A-4-1.各サンプルについて:
図3~
図5に示すように、性能評価では、サンプルS1~S8の試験片が用いられた。各試験片は、サンプル毎に定められた配合量で接着剤組成物を準備し、各接着剤組成物から構成される接着剤を用いた。
【0067】
(接着ペーストの作製方法)
各サンプルの接着ペーストの作製方法は、次の通りである。サンプルS1~S8に記載のポリオルガノシロキサンA1~A4に、それぞれ、触媒として白金触媒、シランカップリング剤、充填材および架橋剤を添加する。これにより、接着ペーストが作製される。接着ペーストの硬化速度は、充填材の種類と量とによっても調整でき、同じ種類の充填材を使用した場合、添加量が多いほど、硬化速度が遅くなる傾向にある。熱伝導率や強度の制御のための充填材としてアルミナ(Al2O3)粒子(平均粒子径10μm)を使用する。
【0068】
サンプルS1~S8で用いられるポリオルガノシロキサンA1~A4の構造は、以下の通りである。
・A1:ビニル末端ポリジメチルシロキサン(平均分子量63,000、フェニル基含有量0mol%)
・A2:ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー(平均分子量62,000、フェニル基含有量3.3mol%)
・A3:ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー(平均分子量60,000、フェニル基含有量5.0mol%)
・A4:ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー(平均分子量55,000、フェニル基含有量16.0mol%)
なお、ポリオルガノシロキサン(シリコーン樹脂)中のフェニル基の含有量は、ケイ素原子に結合するメチル基の数とフェニル基の数との総数に占めるフェニル基の数の割合に基づき、算出した。ケイ素原子に結合するメチル基およびフェニル基の数は、NMR測定により測定した。
【0069】
(ポリオルガノシロキサンA1:ビニル末端ポリジメチルシロキサンの合成方法)
ジメチルジクロロシラン((CH3)2SiCl2、D単位の原料)を出発物質として、このジメチルジクロロシランを加水分解し環状シロキサンオリゴマーを作製し、触媒存在下で開環重合を行う。触媒としては酸触媒とアルカリ触媒のどちらも使用可能だが、通常は水酸化カリウムを用いることができる。ポリマーの末端基は、末端基となるM単位、すなわちトリメチルシロキシ単位として、トリメチルクロロシラン((CH3)3SiCl)やヘキサメチルジシロキサン((CH3)3SiOSi(CH3)3)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。末端に官能基を導入する場合は、官能基を有するM単位、例えば、ジメチルビニルクロロシラン((CH3)2(CH2=CH)SiCl)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。ポリマーの平均分子量は、M単位とD単位の混合割合を変更することにより制御することができる。例えば、ポリオルガノシロキサンA1の平均分子量は63,000であり、これは、M単位:D単位=2:847の割合で重合を行うことにより制御可能である。反応性の官能基は、上記化合物のメチル基を例えば脂肪族不飽和炭化水素基に変更することで導入することができ、具体的には、CH3(CH2=CH)SiCl2、または、(CH3)2(CH2=CH)SiClを添加することで導入することができる。
【0070】
(ポリオルガノシロキサンA2,A3,A4:ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーの合成方法)
ポリオルガノシロキサンA1の出発物質であるジメチルジクロロシラン((CH3)2SiCl2)のメチル基がフェニル基に置き換わった((C6H5)2SiCl2)、または、((CH3)(C6H5)SiCl2)を用いて、ジメチルジクロロシラン((CH3)2SiCl2)の一部を置き換えることで、上記ポリオルガノシロキサンAの合成方法と同様の手順で合成することが可能である。ポリマーの末端基は、末端基となるM単位、すなわちトリメチルシロキシ単位として、トリメチルクロロシラン((CH3)3SiCl)やヘキサメチルジシロキサン((CH3)3SiOSi(CH3)3)を、上記ジメチルジクロロシラン(D単位)に混合しておくことにより導入することができる。末端に官能基を導入する場合は、官能基を有するM単位、例えば、ジメチルビニルクロロシラン((CH3)2(CH2=CH)SiCl)を混合しておくことにより導入することができる。ポリマーの平均分子量は、M単位とD単位の混合割合を変更することにより制御することができる。また、最終的なビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーにおけるフェニル基の含有量は((C6H5)2SiCl2)、または、((CH3)(C6H5)SiCl2)の添加量を変えることで制御可能である。例えば、ポリオルガノシロキサンA2の平均分子量は62,000であり、フェニル基の含有量が3.3mol%であるが、これは、M単位:D単位(ジメチルシロキサン):D単位(ジフェニルシロキサン)=2:764:26の割合で重合を行うことにより制御可能である。同様に、ポリオルガノシロキサンA3は、M単位:D単位(ジメチルシロキサン):D単位(ジフェニルシロキサン)=2:707:37の割合で重合を行うことにより制御可能であり、ポリオルガノシロキサンA4は、M単位:D単位(ジメチルシロキサン):D単位(ジフェニルシロキサン)=2:490:93の割合で重合を行うことにより制御可能である。
【0071】
具体的に、サンプルS1~S8は、次の材料を含む接着剤組成物(シリコーン樹脂組成物)である。
・ポリオルガノシロキサンA1~A4:100重量部
・白金触媒:白金含有量で0.003重量部
・シランカップリング剤:2重量部
・アルミナ粒子:300重量部
・架橋剤:3重量部
【0072】
(接着シートの作製方法)
各サンプルの接着シートの作製方法(接着ペーストの半硬化(シート化)方法)は、次の通りである。上述のように作製した接着ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に塗り広げる。塗り広げる方法は、公知の方法を用いることができ、本性能評価では、ドクターブレードを用いる。次に、PETフィルムに塗り広げられた接着ペーストを所定の大きさに切断し、その後、切断されたPETフィルム付の接着ペーストを乾燥機によって所定の時間、所定の温度で加熱することによって接着ペーストを半硬化させる。これにより、PETフィルム付の接着シートが形成される。なお、加熱中において、埃の付着を防ぐなどの必要に応じて、各接着ペーストをカバーフィルムで覆ってもよい。
【0073】
A-4-2.評価手法:
(粘度)
公知の粘度測定機(例えば、東機産業(株)製コーンプレート型粘度計TVE-22H型)を使用して、接着剤組成物の粘度を測定した。具体的には、上述のように作製した接着ペーストを用いて、シェアレート1s-1,2s-1,5s-1,10s-1,20s-1,10s-1,5s-1,2s-1,1s-1の順で粘度を測定し、最初の1s-1の値を粘度とした。
【0074】
(ゴム硬度)
公知のゴム硬度測定機(JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメータ)を使用して、接着剤組成物のゴム硬度を測定した。具体的には、上述のように作製した接着ペーストを内径18mm、長さ17mmの容器へ入れ、100℃で10時間加熱した後、さらに、150℃で50時間加熱することにより、接着ペーストを硬化させて硬化体を得た。なお、当該接着ペーストから硬化体を得るための硬化条件は、接着ペーストが硬化する条件であればよく、接着ペーストを構成する材料に依存して異なっていてもよい。当該得られた硬化体の上下面におけるゴム硬度を測定し、測定値の平均値をゴム硬度とした。
【0075】
なお、被着体に接着済み(すなわち硬化済み)の接着剤組成物のゴム硬度は、以下の方法により測定することができる。まず、ナイフ等を用いて被着体から接着剤組成物をそぎ落とす。このとき、そぎ落とされた接着剤組成物の厚さができるだけ厚くなるように、接着剤組成物をそぎ落とすことが好ましい。そぎ落とされた接着剤組成物を積層し、上記ゴム硬度測定機を使用して、接着剤組成物のゴム硬度を測定することができる。上記そぎ落とされた接着剤組成物を積層する際、積層された接着剤組成物の厚さが、上記ゴム硬度測定機において押針(圧子)を押し込んで測定する際に接着剤組成物を載置する下地の硬さが影響しない厚さまで十分に厚くなるように積層することが好ましい。積層された接着剤組成物の厚さは、例えば、厚さ6mm以上であることが好ましい。
【0076】
(伸び率)
公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用し、引張試験(50mm/分で実施)での、接着剤組成物の伸び率を測定した。具体的に、測定のための試験片は、上述のように作製した接着シートを100℃で10時間硬化させた後、さらに、150℃で50時間硬化させ、幅10mm×長さ70mmの短冊状に切り出すことにより作製した。接着剤組成物の厚さは、
図4では、0.35mm、
図3および
図5では、0.15mmとした。当該試験片の両端から長さ20mmの各部分を治具で保持し、中間の長さ30mmの部分をサンプル長とした。伸び率は、当該試験片(接着剤組成物)が破断するまで引っ張り、破断したときのサンプル長(mm)から元のサンプル長(上記サンプルでは中間の長さ30mm)を引いた後、元のサンプル長(mm)で除すことにより算出した(下式(2)参照)。
伸び率(%)=[破断したときのサンプル長(mm)-元のサンプル長(mm)]/元のサンプル長(mm) ・・・(2)
【0077】
なお、被着体に接着済みの接着剤組成物の伸び率は、以下の方法により測定することができる。まず、ナイフ等を用いて被着体から接着剤組成物をそぎ落とし、例えば幅10mm×長さ70mmに成形することで、上記と同様の測定が可能となる。伸び率は、上記と同様の測定方法により、当該試験片(接着剤組成物)が破断するまで引っ張り、破断したときのサンプル長(mm)から元のサンプル長を引いた後、元のサンプル長(mm)で除すことにより算出することが可能である。測定のため試験片の大きさおよび形状は、引張試験機の治具で保持できるものであれば、大きさおよび形状は任意である。また、厚さについても任意のため、そぎ落とした接着剤組成物をそのまま測定に用いることも可能である。
【0078】
(引張弾性率)
公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用し、引張試験(50mm/分で実施)での、接着剤組成物の引張弾性率を測定した。具体的に、測定のための試験片は、上述のように作製した接着シートを100℃で10時間硬化させた後、さらに、150℃で50時間硬化させ、幅10mm×長さ70mmの短冊状に切り出すことにより作製した。接着剤組成物の厚さは、
図4では、0.35mm、
図3および
図5では、0.15mmとした。当該試験片の両端から長さ20mmの各部分を治具で保持し、中間の長さ30mmの部分で引張弾性率を測定した。当該試験片(接着剤組成物)が破断するまで引っ張りながら、サンプル長による荷重の変化を測定した。当該荷重を試験片の断面積(
図4では、幅10mm×厚さ0.35mm、
図3および
図5では、幅10mm×厚さ0.15mm)で除すことにより引張応力を算出した。引張弾性率は、以下の式(3)により算出される歪みを横軸とし、上記引張応力を縦軸とするグラフにおいて、上記引張応力が0.2~0.5MPaとなる範囲の傾きを計算することにより算出した。
歪み(%)=[引っ張り中のサンプル長(mm)-元のサンプル長(mm)]/元のサンプル長(mm) ・・・(3)
【0079】
(引張強度)
公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用し、引張試験(50mm/分で実施)での、接着剤組成物の引張強度を測定した。測定のための試験片は、上述のように作製した接着シートを100℃で10時間硬化させた後、さらに、150℃で50時間硬化させ、幅10mm×長さ70mmの短冊状に切り出すことにより作製した。接着剤組成物の試験片の厚さは、
図4では、0.35mm、
図3および
図5では、0.15mmとした。引張強度は、当該試験片(接着剤組成物)が破断するまで引っ張り、そのときの最大点試験力を試験片の断面積(
図4では、幅10mm×厚さ0.35mm、
図3および
図5では、幅10mm×厚さ0.15mm)で除すことで算出した。
【0080】
(せん断接着強度)
公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用し、引張試験(2mm/分で実施)での、接着剤組成物のせん断接着強度を測定した。まず、測定のための試験片は、具体的には、上述のように作製した接着シートを幅12.5mm×長さ100mm×厚さ1mmの2枚のアルミニウム板の端12.5mm×12.5mmの部分にそれぞれ貼り付け、2枚のアルミニウム板を互いに逆方向に引っ張ることができる向きで貼り合わせた後、100℃で10時間加熱した後、さらに、150℃で50時間加熱して接着することにより作製した。これにより、2枚のアルミニウム板にそれぞれ貼り付けられた2枚の接着シートが互いに接合し、せん断接着強度の算出対象となる接着剤組成物が構成される。2枚のアルミニウム板にそれぞれ貼り付けられた接着剤組成物の試験片の厚さの合計厚さは、
図4では、0.7mm、
図3および
図5では、0.3mmとした。次に、上記接着剤組成物にせん断力が作用するように、2つのアルミニウム板を相対移動させた。例えば、引張試験機を用いて、試験片が破断するまで、一方のアルミニウム板1を接着面に平行な一方の方向に引張速度2mm/分で移動させながら、荷重を測定する。当該試験片が破断するまでにおける最大荷重を移動前の接着剤組成物の接着面積(12.5mm×12.5mm)で除すことによりせん断接着強度を算出した。
【0081】
(せん断接着歪み)
公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用し、引張試験での、接着剤組成物のせん断接着歪み(歪み量)を測定した。
図7は、せん断接着歪みの算出方法を模式的に示す説明図である。まず、測定のための試験片は、具体的には、上述のように作製した接着シートを幅12.5mm×長さ100mm×厚さ1mmの2枚のアルミニウム板201,202の端12.5mm×12.5mmの部分にそれぞれ貼り付け、2枚のアルミニウム板を互いに逆方向に引っ張ることができる向きで貼り合わせた後、100℃で10時間加熱した後、さらに、150℃で50時間加熱して接着することにより作製した。これにより、
図7のA欄およびB欄に示すように、2枚のアルミニウム板201,202にそれぞれ貼り付けられた2枚の接着シートが互いに接合し、せん断接着歪みの算出対象となる接着剤組成物SAが構成される。2枚のアルミニウム板201,202にそれぞれ貼り付けられた接着剤組成物の試験片の厚さの合計厚さtは、
図4では、0.7mm、
図3および
図5では、0.3mmとした。次に、上記接着剤組成物SAにせん断力が作用するように、2つのアルミニウム板201,202を相対移動させた。例えば、引張試験機を用いて、一方のアルミニウム板201を接着面に平行な一方の方向(例えば、
図7のC欄における上方向)に引張速度2mm/分で移動させながら、荷重と移動距離とを測定する。荷重を移動前の接着剤組成物の接着面積(12.5mm×12.5mm)で除すことによりせん断接着応力を算出した。このような2枚のアルミニウム板201,202の相対移動を接着剤組成物SAが破断するまで継続し、せん断接着応力が最大になったときの距離ΔLを測定する。最後に、以下の式(4)の通り、距離ΔLを移動前の接着剤組成物SAの合計厚さtで除すことにより、接着剤組成物SAのせん断接着歪み(%)を算出した。
せん断接着歪み(%)=(ΔL/t)×100 ・・・(4)
【0082】
なお、被着体に接着済みの接着剤組成物のせん断接着歪みは、以下の方法により測定することができる。まず、レーザーカット加工等により、接着剤組成物を被着体ごと切り出す。切り出す試験片の大きさおよび形状は、引張試験機の治具で保持することができ、かつ、接着剤組成物により接着している2枚の被着体を
図7に示されるように互いに逆方向に引っ張ることができる大きさおよび形状であればよい。また、接着剤組成物の厚さについても特に限定されないため、切り出した被着体付き接着剤組成物をそのまま測定に用いることも可能である。なお、引張試験を行う前に、切り出した試験片における接着剤組成物の接着面積と、接着剤組成物の厚さとを測定する。その後は、上述した方法と同様に引っ張り試験を行い、せん断接着応力が最大になったときの距離ΔLを接着剤組成物の合計厚さtで除すことにより、せん断接着歪み(%)を算出する。
【0083】
(破壊面評価)
上記せん断接着強度を測定した際の試験片の破断面について、破断面全体の面積に対する凝集破壊(即ち、アルミニウム板と接着剤組成物の硬化物が界面剥離せずに接着剤組成物の硬化物自体が破断)した部分の面積の比率(百分率)を凝集破壊率として算出した。算出の結果、凝集破壊率が80%以上である場合に、破壊面の評価を「○」とした。
【0084】
(ガラス転移温度)
図6は、動的粘弾性測定装置(DMA)を使用し、接着剤組成物の貯蔵弾性率を測定した結果を示すグラフであり、縦軸は、貯蔵弾性率E’(GPa)を示し、横軸は温度(℃)を示す。ガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定装置(DMA)を使用して、貯蔵弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率の測定結果から
図6に示すグラフを得る。当該グラフにおいて、接着剤組成物の貯蔵弾性率が大きく低下し始める部分の接線交点PIにおける温度を特定し、当該温度をガラス転移温度(Tg)とした。測定のための試験片は、上述のように作製した接着シートを100℃で10時間硬化させた後、さらに、150℃で50時間硬化させ、幅4mm×長さ50mmに切り出すことにより作製した。
【0085】
(貯蔵弾性率)
動的粘弾性測定装置(DMA)を使用し、接着剤組成物の貯蔵弾性率を測定した。測定条件は、負荷方法は引張とし、プリロード1g、周波数は11Hz、振幅は16μm、昇温速度は2℃/分にて実施した。測定は、温度を室温から一旦-150℃まで下げた後、上記の昇温速度で昇温しながら行い、-60℃における貯蔵弾性率を求めた。測定のための試験片は、上述のように作製した接着シートを100℃で10時間硬化させた後、さらに、150℃で50時間硬化させ、幅4mm×長さ50mmに切り出すことにより作製した。当該試験片における、中間の長さ40mmの部分で貯蔵弾性率を測定した。
【0086】
なお、被着体に接着済みの接着剤組成物の貯蔵弾性率は、以下の方法により測定することができる。まず、ナイフ等を用いて被着体から接着剤組成物をそぎ落とし、例えば、幅4mm×長さ50mmに切り出すことで上記と同様の測定が可能となる。測定条件は、負荷方法は引張とし、プリロード1g、周波数は11Hz、振幅は16μm、昇温速度は2℃/分にて実施した。測定は、温度を室温から一旦-150℃まで下げた後、上記の昇温速度で昇温しながら行い、-60℃における貯蔵弾性率を求める。厚さについては任意のため、そぎ落とした接着剤組成物をそのまま測定に用いることも可能である。また、被着体に接着済みの接着剤組成物のガラス転移温度は、次の方法により求めることができる。まず、被着体に接着済みの接着剤組成物について貯蔵弾性率を測定し、当該貯蔵弾性率の測定結果から
図6と同様のグラフを得る。当該グラフにおいて、上記接線交点PIにおける温度を特定し、当該温度をガラス転移温度(Tg)とする。
【0087】
(水分測定)
カールフィッシャー水分計(平沼産業製 AQ-7)と水分気化装置(平沼産業製 EV-6)を用いて水分気化法にて、水分量を測定した。測定のための試験試料は、樹脂組成物を約0.2g用意し、水分気化装置を用いて150℃で加熱し、揮発した水分を、窒素ガスを用いてカールフィッシャー水分計に導入し、測定した。
【0088】
(接着ペーストの使用可能時間)
充填材未添加の接着ペーストを作製し、容器に入れた状態で1時間静置した後、樹脂の分離や、白濁の有無を観察した。1時間後の接着ペーストに樹脂の分離や白濁が見られない場合は「分離なし」(
図3および
図5中において「○」)、樹脂の分離や白濁が見られる場合は「分離あり」(
図3および
図5中において「×」)と評価した。なお、充填材未添加の接着ペーストは、上記接着ペーストに添加される材料の内、充填材を除いた材料(ポリオルガノシロキサン、白金触媒、シランカップリング剤、架橋剤)で作製した。
【0089】
(平均分子量の測定)
ポリオルガノシロキサンの平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPS)を用いて測定し、ポリスチレン換算の平均分子量として算出した。溶媒にはトルエンを用いた。
【0090】
A-4-3.評価結果:
図3には、サンプルS1~S4について、水分量、粘度、ゴム硬度、25℃での接着物性の評価としての、伸び率、引張弾性率、引張強度、せん断接着強度、せん断接着歪みの測定結果および破断面の評価結果が示されている。
図3には、さらに、耐寒性の評価としてのガラス転移温度、25℃および-60℃での柔軟性の評価としての貯蔵弾性率の測定結果および接着ペーストの使用可能時間の評価が示されている。ポリオルガノシロキサン中のフェニル基の含有量が0mol%であるポリオルガノシロキサンA1を用いたサンプルS1の-60℃での貯蔵弾性率の値は、20×10
2MPaと、100MPaを超える値であった。この値は、同じサンプルS1の25℃での貯蔵弾性率の値である2.3MPaと比較して、非常に大きい値であった。すなわち、サンプルS1では、25℃から-60℃に温度を低下させると、貯蔵弾性率の値が非常に大きく上昇した。これに対して、ポリオルガノシロキサン中のフェニル基の含有量が、それぞれ、3.3,5.0,16.0mol%であるポリオルガノシロキサンA2~A4を用いたサンプルS2~S4の-60℃での貯蔵弾性率の値は、それぞれ、26,2.8,4.2MPaと、100MPa以下の値であった。また、同じサンプルS2~S4の25℃での貯蔵弾性率の値は、それぞれ、1.1,1.7,0.8MPaであり、これらと比較して、-60℃での貯蔵弾性率の値は、若干上昇するも大きくは上昇しなかった。これは、接着剤組成物がポリオルガノシロキサンを含み、当該ポリオルガノシロキサンが、両末端にR
1
3SiO
1/2単位と、m個のR
2
2SiO
2/2単位と、n個のR
3R
4SiO
2/2単位とを含み(本実施形態では、各末端のR
1の内の1つはビニル基であり、各末端のR
1の内の残りの2つはメチル基であり、R
2はともにメチル基であり、R
3およびR
4はともにフェニル基である)、当該ポリオルガノシロキサンにおけるフェニル基の含有量が、3mol%以上、16mol%以下であるためと考えられた。
【0091】
サンプルS2~S4の内、サンプルS3,S4では、-60℃での貯蔵弾性率の値が5MPa以下と、特に低い結果となった。これは、接着剤組成物のガラス転移温度が-60℃以下であったためと考えられた。また、サンプルS1~S4について、接着剤組成物中の水分量は、表中に記載の通り、10ppm以上、5000ppm以下であった。このサンプルS1~S4についての破断面の評価は、いずれも「○」であり、良好な接着性が得られた。これは、サンプルS1~S4の接着剤に含まれる水分量が、シランカップリング剤が良好に加水分解するために充分であり、かつ、試験片を作製する際の加熱/冷却の過程において、アルミニウム板との接合面に凝集・結露することのない量であったためと考えられた。また、サンプルS1~S4についての、接着ペーストの使用可能時間に関する評価は、いずれも「○」であった。これは、サンプルS1~S4は、いずれも単一種類のポリオルガノシロキサンから構成されているためであると考えられた。
【0092】
図4には、サンプルS1,S3について、-60℃~200℃での伸び率、引張弾性率、引張強度、せん断接着強度、せん断接着歪み、貯蔵弾性率の測定結果が示されている。サンプルS1では、-60℃での伸び率は113%と、40%以上の値であり、-60℃でのせん断接着歪みは217%と、100%以上の値であった一方、-60℃での貯蔵弾性率は20×10
2MPaと、100MPaを大きく超える値であった。これに対して、サンプルS3では、-60℃での伸び率は152%と、40%以上の値であり、-60℃でのせん断接着歪みは284%と、100%以上の値であり、かつ、-60℃での貯蔵弾性率も2.8MPaと、100MPa以下の値であった。このように、サンプルS3では、特に、-60℃での貯蔵弾性率の値が、25℃での貯蔵弾性率の値と比較して、大きく上昇することはなかった。これは、接着剤組成物に含まれるポリオルガノシロキサンが、フェニル基を5.0mol%含んでいるためと考えられた。
【0093】
図5には、ポリオルガノシロキサンA1とA4との添加割合を変更して、両者を混合することにより作製されたサンプルS1,S4~S8について、粘度、ゴム硬度、25℃での接着物性の評価としての、伸び率、引張弾性率、引張強度、せん断接着強度、せん断接着歪みの測定結果および破断面の評価結果が示されている。
図5には、さらに、耐寒性の評価としてのガラス転移温度、25℃および-60℃での柔軟性の評価としての貯蔵弾性率の測定結果および接着ペーストの使用可能時間の評価が示されている。ポリオルガノシロキサン混合後のフェニル基の含有量が3.2mol%であるサンプルS5の-60℃での貯蔵弾性率の値は、フェニル基の含有量が0mol%であるサンプルS1の当該値と比較すれば低いものの、7.4×10
2MPaと、100MPaを超える値であった。また、この値を、フェニル基の含有量が同程度であり、かつ、単一種類のポリオルガノシロキサンA2から構成されるサンプルS2の当該値と比較すると、単一種類のポリオルガノシロキサンから構成されたサンプルS2の26MPaに対して、非常に高い値であった。また、フェニル基の含有量が6.4mol%~12.8mol%であるサンプルS6~S8では、-60℃での貯蔵弾性率の値は、4.3MPa~93MPaと、100MPa以下の値であった。
【0094】
サンプルS6~S8は、フェニル基の含有量が0mol%であるポリオルガノシロキサンA1を含むサンプルS1と、フェニル基の含有量が16.0mol%であるポリオルガノシロキサンA4を含むサンプルS4との混合物である。そして、サンプルS1,S4における25℃での引張強度が2.2,1.0MPaであった一方、サンプルS6~S8の25℃での引張強度は0.4MPa~0.6MPaであった。また、サンプルS1,S4における25℃でのせん断接着強度は2.4,0.9MPaであった一方、サンプルS6の25℃でのせん断接着強度は0.4MPaであった。このように、2種類のポリオルガノシロキサンを混合したサンプルS6~S8の25℃での引張強度およびせん断接着強度は、1種類のポリオルガノシロキサンから構成されたサンプルS1,S4の25℃での引張強度およびせん断接着強度より低い結果となった。これは、種類の異なるポリオルガノシロキサンを混合したサンプルにおいては、種類の異なるポリオルガノシロキサン同士の相溶性が低下したことに起因すると考えられた。また、サンプルS5~S8についての、接着ペーストの使用可能時間に関する評価は、いずれも「×」であった。これは、サンプルS5~S8は、種類の異なるポリオルガノシロキサンから構成されているためであると考えられた。上記の結果から、接着剤組成物に含まれるポリオルガノシロキサンは、単一種類のポリオルガノシロキサンであることが好ましいと考えられた。
【0095】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の静電チャック100は、セラミックス部材10と、ベース部材20と、セラミックス部材10とベース部材20との間に配置されてセラミックス部材10とベース部材20とを接合する接着部材30と、を備える。そして、接着部材30を構成する接着剤組成物(シリコーン樹脂組成物)は、-60℃における貯蔵弾性率が、100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが、100%以上であり、かつ、-60℃における伸び率が、40%以上である。
【0096】
本実施形態の静電チャック100では、接着部材30の-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下である。このように、本実施形態の静電チャック100では、接着部材30が-60℃においても良好な柔軟性を有している。このため、本実施形態の静電チャック100を-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張率差により生じる熱応力を、接着部材30が変形することにより、緩和することができる。従って、本実施形態の静電チャック100では、静電チャック100に応力がかかった際に、接着部材30が、セラミックス部材10と接着部材30との界面や、ベース部材20と接着部材30との界面から剥がれ、または、接着部材30自体が破断することを抑制することができる。また、本実施形態の静電チャック100では、接着部材30が-60℃においても良好な柔軟性を有しているため、セラミックス部材10に反り等が生じることにより、セラミックス部材10の平面度が低下することを抑制することができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができる。
【0097】
また、本実施形態の静電チャック100では、接着部材30の-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上である。したがって、-60℃においても、接着部材30と、セラミックス部材10およびベース部材20との良好な接着性を維持することができる。このように、本実施形態の静電チャック100では、接着部材30が-60℃においても良好な接着性を有している。このため、本実施形態の静電チャック100を-60℃程度の低温下で使用した際に、接着部材30がセラミックス部材10やベース部材20から剥がれることを抑制することができる。
【0098】
また、本実施形態の静電チャック100では、接着部材30の-60℃における伸び率が40%以上である。したがって、-60℃においても、接着部材30自体の良好な伸びを維持することができる。このように、本実施形態の静電チャック100では、接着部材30自体が-60℃においても良好な伸びを有している。このため、本実施形態の静電チャック100を-60℃程度の低温下で使用した際に、接着部材30自体が破断することを抑制することができる。
【0099】
従って、本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができる。
【0100】
本実施形態の接着部材30は、ポリオルガノシロキサンを含む接着剤組成物で構成され、当該ポリオルガノシロキサンは、両末端にR1
3SiO1/2単位と、m個のR2
2SiO2/2単位と、n個のR3R4SiO2/2単位とを含み(ここで、R1およびR2は互いに独立に炭素数1~12の非置換または置換の脂肪族炭化水素基であり、R3は炭素数1~12の非置換もしくは置換の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、R4は炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基であり、かつ、前記ポリオルガノシロキサンはケイ素原子に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含み、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)、当該ポリオルガノシロキサンにおける上記芳香族炭化水素基の含有量は、3mol%以上、16mol%以下である。
【0101】
本実施形態の静電チャック100によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材30を効率的に実現することができる。すなわち、本実施形態の静電チャック100では、ポリオルガノシロキサンがその分子中に第2のD単位を含むとともに、第2のD単位中の置換基R4が炭素数6~10の非置換もしくは置換の芳香族炭化水素基である。このように、本実施形態の静電チャック100では、ポリオルガノシロキサンの分子構造の一部分である第2のD単位に嵩高い置換基が導入されている。このため、ポリオルガノシロキサンの分子内または分子間において立体障害が生じ、この結果、ポリオルガノシロキサンの結晶化を抑制することができる。このように結晶化が抑制されたポリオルガノシロキサンを含む接着剤組成物は、結晶化が生じたポリオルガノシロキサンを含む接着剤組成物に比べて、そのガラス転移温度を良好に低下させうる。そして、接着剤組成物のガラス転移温度を低下させることにより、本実施形態の静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができる。
【0102】
ポリオルガノシロキサンにおける芳香族炭化水素基の含有量が3mol%未満である場合には、芳香族炭化水素基を導入することによるガラス転移温度の低下効果が充分に発揮され難い。また、ポリオルガノシロキサンに含まれる芳香族炭化水素基の含有量が16mol%を超える場合には、芳香族炭化水素基同士がπ―πスタッキングによる相互作用を引き起こし、結晶化を招き、ガラス転移温度が上昇する傾向がある。このため、芳香族炭化水素基の含有量が3mol%未満、または、16mol%を超えるポリオルガノシロキサンを用いた接着剤組成物により作製された静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りが発生する要因となる。本実施形態の静電チャック100では、ポリオルガノシロキサンに含まれる芳香族炭化水素基の含有量が3mol%以上、16mol%以下であるため、接着剤組成物のガラス転移温度を良好に低下させる。従って、本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができる。
【0103】
本実施形態の静電チャック100において、上記ポリオルガノシロキサンにおける第2のD単位のR3とR4とは、同一の置換基である。本実施形態の静電チャック100によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材30をより効率的に実現することができる。すなわち、本実施形態の静電チャック100のポリオルガノシロキサンでは、分子内や分子間における立体障害が効果的に現れ、ポリオルガノシロキサンの結晶化が更に効果的に抑制される。具体的には、ポリオルガノシロキサン中において、対称の位置に配置された置換基R3と置換基R4とが、同一の置換基である場合、対称の位置において同等の立体障害が現れるため、ポリオルガノシロキサンの結晶化を抑制し、ひいては、ガラス転移温度を更に効果的に低下させることができる。従って、本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができる。
【0104】
本実施形態の静電チャック100において、上記ポリオルガノシロキサンにおける第2のD単位のR3とR4とは、ともにフェニル基である。本実施形態の静電チャック100によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材30をより効率的に実現することができる。すなわち、本実施形態の静電チャック100のポリオルガノシロキサンでは、分子内や分子間における立体障害が効果的に現れ、ポリオルガノシロキサンの結晶化が更に効果的に抑制される。この結果、ガラス転移温度を更に効果的に低下させることができる。従って、本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができる。また、ポリオルガノシロキサン中のR3R4SiO2/2単位において、置換基R3と置換基R4とが、ともにフェニル基であるポリオルガノシロキサンは、合成が容易であり、また、市場において容易かつ安価に入手できる傾向がある。
【0105】
本実施形態の静電チャック100において、上記ポリオルガノシロキサンは、単一種類のポリオルガノシロキサンからなる。本実施形態の静電チャック100によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材30をより効率的に実現することができる。すなわち、本実施形態の静電チャック100のポリオルガノシロキサンは、異なる種類のポリオルガノシロキサンが混合されている場合に比べ、ポリオルガノシロキサンの分子同士の相溶性が向上する。これにより、-60℃以下での静電チャック100において、柔軟性、接着性および伸びに関する特性を更に効果的に向上させることができる。従って、本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができる。また、保存中に接着剤組成物中の成分が分離しなくなるため、接着剤組成物の使用可能時間が長くなり、効率良く使用できるようになる。
【0106】
上述したように、「単一種類のポリオルガノシロキサンからなる」とは、接着剤組成物を構成する全てのポリオルガノシロキサンが、上記一般式(1)において、R1,R2,R3,R4のいずれの置換基においても一意に定められた分子構造を有していることを意味し、R1,R2,R3,R4の全てまたはいずれかの置換基が異なる分子構造を有するポリオルガノシロキサンの混合物でないことを意味する。すなわち、R1,R2,R3,R4がそれぞれ同じであれば、分子量の異なる、すなわち、上記一般式(1)においてmとnとの両方またはいずれか一方が異なる、2種類のポリオルガノシロキサンであっても、両ポリオルガノシロキサンは「単一種類のポリオルガノシロキサン」であると言える。すなわち、本実施形態において、「単一種類のポリオルガノシロキサン」とは、R1,R2,R3,R4がそれぞれ同じであり、かつ、ポリオルガノシロキサンの分子中におけるフェニル基の含有量が3mol%以上、16mol%以下であることを意味する。なお、ポリオルガノシロキサンの分子中におけるフェニル基の含有量は、3mol%以上、16mol%以下である限りにおいて、ポリオルガノシロキサンの分子同士で含有量が異なっていてもよい。「単一種類のポリオルガノシロキサン」として、より好ましくは、上記分子量の異なる2種類のポリオルガノシロキサンの分子中における各フェニル基の含有量は略同一であり、具体的には、±1mol%の範囲内である。「単一種類のポリオルガノシロキサン」は、さらに好ましくは、分子量分布が狭く、かつ、フェニル基の含有量が略同一(具体的には、±1mol%の範囲内)であるポリオルガノシロキサンである。具体的には、「単一種類のポリオルガノシロキサン」は、フェニル基を含有しないポリジメチルシロキサンとフェニル基を含有するポリジメチルシロキサンとの2種類のポリオルガノシロキサンを混合することによって、フェニル基の含有量が3mol%以上、16mol%以下に調整されたポリオルガノシロキサンではない。すなわち、本実施形態の静電チャック100では、ポリオルガノシロキサンの各分子中におけるフェニル基の含有量が3mol%以上、16mol%以下であることを意味する。
【0107】
本実施形態の静電チャック100において、上記接着剤組成物のガラス転移温度は、-60℃以下である。本実施形態の静電チャック100によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材30をより効率的に実現することができる。接着剤組成物のガラス転移温度が-60℃を超えると、-60℃の低温下において、柔軟性、接着性および伸びに関する特性が低下する傾向がある。換言すれば、静電チャック100が有する柔軟なエラストマーやゴムとしての性質が低下する傾向があり、ひいては、柔軟性が低下する傾向がある。本実施形態の静電チャック100では、接着剤組成物のガラス転移温度が-60℃以下であるため、-60℃の低温下においても、柔軟性、接着性および伸びに関する特性を更に効果的に向上させることができる。従って、本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができる。
【0108】
本実施形態の静電チャック100において、上記接着剤組成物中の水分量は、10ppm以上、5000ppm以下である。本実施形態の静電チャック100によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材30をより効率的に実現することができる。接着剤組成物の接着性を向上させるために、シランカップリング剤を添加することがある。そして、シランカップリング剤は、加水分解することにより接着効果を発揮する。ここで、接着剤組成物中の水分量が10ppm以下であると、シランカップリング剤の加水分解が良好に進行するのに十分でない。また、接着剤組成物中の水分量が5000ppm以上であると、半導体の製造における加熱/冷却の熱サイクルの過程で、接着部材30に含まれる水分が、セラミックス部材10との接合面や、ベース部材20との接合面に凝集・結露することにより、これらの接合面における接着性を低下させる要因となる。このような接着部材30に含まれる水分の凝集・結露は、低温下においても起こりうる。本実施形態の静電チャック100では、接着剤組成物中の水分量を10ppm以上、5000ppm以下とすることで、接着剤組成物の接着性を向上させることができる。従って、本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができる。
【0109】
本実施形態の静電チャック100において、上記接着剤組成物は、充填材として、平均粒子径が10μmのアルミナおよび窒化アルミニウムを含んでいる。このため、本実施形態の接着剤組成物は、充填材の添加効果を発揮しつつ、接着剤組成物の高粘度化を抑制し、かつ、シート成形等の際のシート厚みを制御することができる。本実施形態の静電チャック100によれば、-60℃における貯蔵弾性率が100MPa以下であり、-60℃におけるせん断接着歪みが100%以上であり、-60℃における伸び率が40%以上である接着部材30をより効率的に実現することができると共に、シート成形等の際のシート厚みの制御性を向上させることができる。充填材の平均粒子径が5nm未満であると、充填材の比表面積が大きくなるため、充填材の比表面積が小さい場合に比べ、充填材と充填材との間の距離が狭くなる。このため、接着剤組成物全体における充填材と充填材との間を流動する接着剤組成物の割合が低下して接着剤組成物が高粘度化し、ひいては、シート成形等の際の成形性が低下する。また、充填材の平均粒子径が50μmを超えると、粒子径が大きくなるため、粒子径が小さい場合に比べ、シート成形等の際のシート厚みを制御することが困難となる。本実施形態の静電チャック100では、接着剤組成物に含まれる充填材の平均粒子径を5nm以上、50μm以下とすることで、シート成形等の加工の際に良好な成形性を確保することができる。従って、本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、-60℃程度の低温下で使用した際に、セラミックス部材10やベース部材20からの接着部材30の剥がれや接着部材30自体の破断、セラミックス部材10の反りを抑制することができると共に、シート成形等の際のシート厚みの制御性を向上させることができる。このため、ウェハWの温度分布の制御性を向上させつつ、セラミックス部材10の平面度の低下を抑制することができると共に、シート成形等の際のシート厚みの制御性を向上させることができる。
【0110】
本実施形態の静電チャック100において、接着部材30のゴム硬度は、JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメータで、50以下である。本実施形態の静電チャック100によれば、室温下で優れた柔軟性を発揮する。本実施形態の構成とすることにより、静電チャック100を、室温下で使用した際に、セラミックス部材やベース部材からの接着部材の剥がれや接着部材自体の破断、セラミックス部材の反りを抑制することができる。
【0111】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0112】
上記実施形態における接着剤組成物の構成は、種々変形可能である。また、ポリオルガノシロキサンの種類、接着剤組成物中に含まれる材料の配合量等は、上記実施形態の記載に限定されるものではない。また、接着剤組成物を構成する各材料は、あくまで一例であり、必要に応じて他の材料を含んでいてもよい。
【0113】
また、本発明は、接着部材30を備える静電チャック100に限らず、上記接着部材を備える真空チャック等の他の保持装置や、上記接着部材を備えるシャワーヘッド等の半導体製造装置用部品や、低温下で用いられるその他の接着部材を備える保持装置および半導体製造装置用部品にも適用可能である。
【符号の説明】
【0114】
10:セラミックス部材 20:ベース部材 21:冷媒流路 30:接着部材 40:チャック電極 50:ヒータ電極 60:ドライバ電極 100:静電チャック 201,202:アルミニウム板 S1:上面(吸着面) S2:下面 S3:上面 SA:接着剤組成物 W:ウェハ