(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
C25B 13/04 20210101AFI20231130BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20231130BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20231130BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20231130BHJP
C25B 13/02 20060101ALI20231130BHJP
C25B 13/07 20210101ALI20231130BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20231130BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20231130BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20231130BHJP
【FI】
C25B13/04 301
C25B1/042
C25B1/23
C25B9/00 A
C25B13/02 301
C25B13/07
H01M8/1213
H01M8/124
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2022150110
(22)【出願日】2022-09-21
【審査請求日】2023-07-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】千葉 春香
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 玄太
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1954455(CN,A)
【文献】米国特許第08623301(US,B1)
【文献】特開2006-225678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/02
H01M 8/1213
H01M 8/124
C25B 1/23
C25B 9/00
H01M 8/12
C25B 13/04
C25B 13/07
C25B 1/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、
前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記電解質層は、
前記第1電極層上に配置される内側部と、
前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域上に配置される外周部と、
を有し、
前記内側部及び前記外周部それぞれは、所定のイオン伝導性材料を含み、
前記外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径は、前記内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径より小さい、
電気化学セル。
【請求項2】
前記外周部は、前記主面に垂直な断面において、前記主面のうち前記第1電極層から露出する前記領域を
前記主面の先端まで覆っている、
請求項1に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セル(電解セル、燃料電池など)において、金属支持体によってセル本体部を支持する構造が知られている。例えば、特許文献1に記載の電気化学セルは、第1電極層、電解質層、及び第2電極層がこの順で金属支持体の主面上に積層されたセル本体部を備えている。電解質層は、第1電極層上に配置される内側部と、金属支持体の主面のうち第1電極層から露出する領域上に配置される外周部とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電気化学セルでは、電解質層の内側部と金属支持体との間に第1電極層が介挿されているのに対して、電解質の外周部は金属支持体に直接接続されている。そのため、電解質の外周部には、金属支持体との熱膨張係数差に起因する熱応力が繰り返しかかることによって割れが生じやすい。
【0005】
本発明の課題は、電解質に割れが生じることを抑制可能な電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面に係る電気化学セルは、金属支持体と、セル本体部とを備える。金属支持体は、主面に形成された複数の供給孔を有する。セル本体部は、主面上に形成され複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、第1電極層及び第2電極層の間に配置される電解質層とを有する。電解質層は、第1電極層上に配置される内側部と、主面のうち第1電極層から露出する領域上に配置される外周部とを有する。内側部及び外周部それぞれは、所定のイオン伝導性材料を含む。外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径は、内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径より小さい。
【0007】
本発明の第2の側面に係る電気化学セルは、第1の側面に係り、外周部は、主面に垂直な断面において、主面のうち第1電極層から露出する領域の略全部を覆っている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電解質に割れが生じることを抑制可能な電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る電解セルの平面図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る電解セルの断面図である。
【
図5】
図5は、変形例5に係る電解セルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.第1実施形態
【0011】
(電解セル1)
図1は、第1実施形態に係る電解セル1の平面図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。
図3は、
図2の部分拡大図である。
図3は、金属支持体20の第1主面20Sに垂直な断面である。
【0012】
電解セル1は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に広がる板状に形成される。本実施形態において、電解セル1は、平面視においてY軸方向に延びる長方形に形成される。ただし、電解セル1の平面形状は特に限られず、長方形以外の多角形、楕円形、円形などであってもよい。
【0013】
図2に示すように、電解セル1は、セル本体部10、金属支持体20、及び流路部材30を備える。
【0014】
[セル本体部10]
セル本体部10は、水素極層6(カソード)、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9(アノード)を有する。水素極層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9は、X軸方向及びY軸方向に垂直なZ軸方向において、この順で金属支持体20側から積層されている。水素極層6、電解質層7、及び酸素極層9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0015】
[水素極層6]
水素極層6は、金属支持体20及び電解質層7の間に配置される。水素極層6は、金属支持体20によって支持される。詳細には、水素極層6は、金属支持体20の第1主面20S上に配置される。水素極層6は、金属支持体20の第1主面20Sに形成された複数の供給孔21を覆う。水素極層6の一部は、各供給孔21内に入り込んでいてよい。水素極層6は、本発明に係る「第1電極層」の一例である。
【0016】
水素極層6には、各供給孔21を介して原料ガスが供給される。原料ガスは、CO2及びH2Oを含む。水素極層6は、下記(1)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスから、H2、CO、及びO2-を生成する。
・水素極層6:CO2+H2O+4e-→CO+H2+2O2-・・・(1)
【0017】
水素極層6は、電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。水素極層6は、酸化物イオン伝導性を有していてよい。水素極層6は、例えば、8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)、(La,Sr)(Cr,Mn)O3、(La,Sr)TiO3、Sr2(Fe,Mo)2O6、(La,Sr)VO3、(La,Sr)FeO3、及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料、或いは、これらのうち1つ以上とNiOとの複合物によって構成することができる。
【0018】
水素極層6の気孔率は特に制限されないが、例えば5%以上70%以下とすることができる。水素極層6の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。水素極層6の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば12×10―6/℃以上20×10-6/℃以下とすることができる。
【0019】
水素極層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0020】
[電解質層7]
電解質層7は、水素極層6及び酸素極層9の間に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、電解質層7は、水素極層6及び反応防止層8の間に配置され、水素極層6及び反応防止層8それぞれに接続される。
【0021】
電解質層7は、水素極層6において生成されたO2-を酸素極層9側に伝達させる。電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密体である。酸化物イオン伝導性材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア、例えば8YSZ)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム固溶セリア)、LSGM(ランタンガレート)、及びこれらの複合材料が挙げられる。
【0022】
電解質層7は、水素極層6を覆うとともに、金属支持体20の第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域を覆う。
【0023】
具体的には、電解質層7は、
図1及び
図2に示すように、内側部71及び外周部72を有する。内側部71は、水素極層6上に配置される。内側部71は、水素極層6の表面全体を覆う。外周部72は、金属支持体20の第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域上に配置される。
【0024】
外周部72は、
図3に示すように、第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆っていることが好ましい。これによって、金属支持体20の剛性だけでなく緻密質な電解質層7の剛性をも電解セル1の外周部に付与できるため、電解セル1全体の剛性を向上させることができる。なお、略全部を覆うとは、外周部72が第1主面20Sの先端P20上に配置されていることを意味する。ただし、外周部72は、第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆っていなくてもよい。
【0025】
図3に示すように、内側部71及び外周部72の境界は、基準線Lによって規定される。基準線Lは、水素極層6の先端P6を通り、かつ、第1主面20Sに垂直な直線である。内側部71は、電解質層7のうち、基準線L上の領域と、基準線Lを基準として外周部72と反対側(すなわち、内側)の領域とを含む。外周部72は、電解質層7のうち、基準線Lを基準として内側部71と反対側(すなわち、外側)の領域である。このように、基準線L上の領域は、外周部72ではなく内側部71に属する。
【0026】
内側部71及び外周部72それぞれは、同じ酸化物イオン伝導性材料(本発明に係る「所定のイオン伝導性材料」)を含む。外周部72に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径は、内側部71に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径より小さい。このように、外周部72において酸化物イオン伝導性材料の結晶子径を相対的に小さくすることによって、外周部72に塑性を付与することができる。従って、金属支持体20との熱膨張係数差に起因する熱応力が外周部72に繰り返しかかったとしても、熱応力を外周部72の内部で吸収することができるため、外周部72に割れ(クラック)が生じることを抑制できる。
【0027】
また、内側部71と金属支持体20との間には多孔質の水素極層6が介挿されており、内側部71と金属支持体20との間に生じる熱応力は水素極層6の内部で吸収されるため、内側部71に割れ(クラック)が生じることも抑制できる。
【0028】
内側部71及び外周部72それぞれに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径は、各部の表面をXRD(X-ray Diffraction)分析することによって取得することができる。本実施形態では、内側部71上に反応防止層8及び酸素極層9が配置されているので、結晶子径を測定する際には、反応防止層8及び酸素極層9を表面側からサンドペーパーで研磨して除去することによって、内側部71の表面を露出させる必要がある。このとき、多孔質な反応防止層8及び酸素極層9は容易に研磨で除去することができるため、下層の緻密な電解質層7を選択的に残すことができる。
【0029】
結晶子径は、粉末X線回折装置(商品名 D8 advance、Bruker AXS社製)を用いて、以下の条件で測定される。
<測定条件>
X線管球・・・・・・・・Cu
X線出力・・・・・・・・40kV、40mA
スキャンスピード・・・・0.5秒/0.05°
ステップ幅・・・・・・・0.05°
走査範囲・・・・・・・・5~70°
試料回転・・・・・・・・15rpm
【0030】
上記条件で測定した結果得られる電解質層7の回折パターンをBruker AXS社製解析ソフトTOPASを用いてFundamental Parameter法(FP法)で解析する。そして、結晶子径の算出には、Scherrerの式に基づいたSingle Profile Fitting法(SPF法)を用いることができる。なお、このSPF法の計算に用いるk値は1.0とすることができる。結晶子径は、X線回折の回折ピーク毎に算出されるが、本明細書においては、最大強度となるメインピークから算出された結晶子径を用いることとする。例えば、YSZやGDCは(111)面の回折ピークから算出された結晶子径を用いる。
【0031】
内側部71に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径の値は特に限られないが、例えば、酸化物イオン伝導性材料がYSZである場合には12nm以上300nm以下とすることができ、GDCである場合には12nm以上280nm以下とすることができる。
【0032】
外周部72に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径の値は特に限られないが、例えば、酸化物イオン伝導性材料がYSZである場合には10nm以上295nm以下とすることができ、GDCである場合には10nm以上275nm以下とすることができる。
【0033】
電解質層7の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上7%以下とすることができる。電解質層7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。電解質層7の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば10×10―6/℃以上12×10―6/℃以下とすることができる。
【0034】
電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。焼成法やスプレーコーティング法のように原料粉末をもとに電解質層7を形成するプロセスでは、原料の仮焼温度を変えることで結晶子径の異なる材料を作り分けたうえで、各材料を塗り分けることによって内側部71及び外周部72を形成することができる。PVD法やCVD法のようにイオンの形態で電解質層7を形成するプロセスでは、内側部71及び外周部72それぞれを形成する際の基板の加熱温度や成膜条件を変えることで内側部71及び外周部72の結晶子径を調整することができる。
【0035】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7及び酸素極層9の間に配置される。反応防止層8は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質層7の構成元素が酸素極層9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0036】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される多孔体である。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0037】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば10%以上40%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0038】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0039】
[酸素極層9]
酸素極層9は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極層9は反応防止層8に接続される。電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極層9は電解質層7に接続される。酸素極層9は、本発明に係る「第2電極層」の一例である。
【0040】
酸素極層9は、下記(2)式の化学反応に従って、水素極層6から電解質層7を介して伝達されるO2-からO2を生成する。
・酸素極層9:2O2-→O2+4e-・・・(2)
【0041】
酸素極層9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。酸素極層9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O3、(La,Sr)FeO3、La(Ni,Fe)O3、(La,Sr)CoO3、及び(Sm,Sr)CoO3のうち1つ以上と酸化物イオン伝導材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0042】
酸素極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0043】
酸素極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0044】
[金属支持体20]
金属支持体20は、セル本体部10を支持する。金属支持体20は、板状に形成される。金属支持体20は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。金属支持体20は電解セル1の強度を保つことができればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0045】
図2に示すように、金属支持体20は、複数の供給孔21、第1主面20S及び第2主面20Tを有する。第1主面20Sは、本発明に係る「主面」の一例である。
【0046】
各供給孔21は、第1主面20Sに形成される。各供給孔21は、第1主面20Sから第2主面20Tまで金属支持体20を貫通する。各供給孔21は、第1主面20S及び第2主面20Tそれぞれに開口する。各供給孔21の第1主面20Sの開口は、水素極層6によって覆われる。すなわち、各供給孔21は、第1主面20Sのうち水素極層6に接合される領域に形成される。各供給孔21は、金属支持体20及び流路部材30の間の流路30aに繋がる。
【0047】
各供給孔21は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。また、金属支持体20が多孔質金属によって構成される場合、各供給孔21は多孔質金属の開気孔であってもよい。各供給孔21は、第1主面20Sに対して垂直であってもよいし、第1主面20Sに対して垂直でなくてもよいし、直線状でなくてもよい。
【0048】
第1主面20Sには、セル本体部10が接合される。第2主面20Tには、流路部材30が接合される。第1主面20Sは、第2主面20Tの反対側に設けられる。
【0049】
金属支持体20は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体20は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体20におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0050】
金属支持体20は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体20におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体20におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体20は、TiをTiO2(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO2(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0051】
金属支持体20の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば10×10―6/℃以上20×10―6/℃以下とすることができる。
【0052】
金属支持体20は、金属支持体20の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化クロム膜は、金属支持体20の表面の少なくとも一部を覆う。また、酸化クロム膜は、各供給孔21の内壁面の少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0053】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体20の第2主面20Tに接合される。流路部材30は、金属支持体20との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体20の各供給孔21を介して、セル本体部10の水素極層6に供給される。
【0054】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体20と同様の材料によって形成されていてもよい。この場合、流路部材30は、金属支持体20と実質的に一体であってもよい。
【0055】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側方を取り囲む環状部材である。枠体31は、金属支持体20の第2主面20Tに接合される。インターコネクタ32は、外部電源又は他の電解セルを電解セル1と電気的に直列に接続するための板状部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0056】
本実施形態では、枠体31とインターコネクタ32が別部材となっているが、枠体31とインターコネクタ32は一体の部材であってもよい。
【0057】
2.第2実施形態
図4は、第2実施形態に係る電解セル1の断面図である。第2実施形態は、電解質層7が二層構造である点において上記第1実施形態と相違する。従って、当該相違点について以下説明する。
【0058】
本実施形態に係る電解質層7は、第1電解質層7a及び第2電解質層7bを有する。第1電解質層7aは、水素極層6を覆うとともに、金属支持体20の第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域を覆う。第2電解質層7bは、第1電解質層7aを覆う。
【0059】
第1電解質層7a及び第2電解質層7bそれぞれは、酸化物イオン伝導性を有する緻密体である。第1電解質層7a及び第2電解質層7bそれぞれは、互いに異なる酸化物イオン伝導性材料を含む。酸化物イオン伝導性材料としては、例えば、YSZ、GDC、ScSZ、SDC、LSGM、及びこれらの複合材料が挙げられる。
【0060】
第1電解質層7aの気孔率は特に制限されないが、例えば1%以上10%未満とすることができる。第1電解質層7aの厚みは特に制限されないが、例えば3μm以上50μm以下とすることができる。
【0061】
第2電解質層7bの気孔率は特に制限されないが、例えば1%以上10%未満とすることができる。第2電解質層7bの厚みは特に制限されないが、例えば3μm以上50μm以下とすることができる。
【0062】
電解質層7は、
図4に示すように、内側部71及び外周部72を有する。内側部71及び外周部72の境界は、上記第1実施形態にて説明した通り、基準線Lによって規定される。内側部71には第1電解質層7a及び第2電解質層7bの一部が含まれ、外周部72には第1電解質層7a及び第2電解質層7bの残部が含まれる。
【0063】
外周部72は、第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆っていることが好ましい。これによって、電解セル1全体の剛性を向上させることができる。
【0064】
外周部72に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径は、内側部71に含まれる同じ酸化物イオン伝導性材料の結晶子径より小さい。これによって、外周部72に割れ(クラック)が生じることを抑制できる。
【0065】
ここで、内側部71に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径は、内側部71のうち第1電解質層7a及び第2電解質層7bのいずれに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径であってもよい。第2電解質層7bの厚みが大きければ、XRD分析において、内側部71のうち第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンが得られるため、内側部71のうち第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径が算出される。一方、第2電解質層7bの厚みが小さければ、XRD分析において、内側部71のうち第1電解質層7a及び第2電解質層7bの両方に含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンが重畳的に得られる。そのため、材料種に基づき、得られた回折パターンを第1電解質層7aに含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンと第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンとに分離することによって、内側部71のうち第1電解質層7aに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径と第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径とが算出される。
【0066】
同様に、外周部72に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径は、外周部72のうち第1電解質層7a及び第2電解質層7bのいずれに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径であってもよい。第2電解質層7bの厚みが大きければ、XRD分析において、外周部72のうち第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンが得られるため、外周部72のうち第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径が算出される。一方、第2電解質層7bの厚みが小さければ、XRD分析において、外周部72のうち第1電解質層7a及び第2電解質層7bの両方に含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンが重畳的に得られる。そのため、材料種に基づき、得られた回折パターンを第1電解質層7aに含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンと第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンとに分離することによって、外周部72のうち第1電解質層7aに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径と第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径とが算出される。
【0067】
このように、内側部71及び外周部72それぞれに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径を比較する際、第1電解質層7a及び第2電解質層7bのいずれに含まれる酸化物イオン伝導性材料で比較してもよいが、同じ酸化物イオン伝導性材料の結晶子径を比較する必要がある。これは、異なる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径を比較しても、第2電解質層7bの塑性を示す指標とはならないからである。
【0068】
なお、内側部71及び外周部72それぞれにおいて、第1電解質層7aに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径と第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径の両方を求めることができる場合には、外周部72のうち第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径が、内側部71のうち第2電解質層7bに含まれる同じ酸化物イオン伝導性材料の結晶子径より小さいことが好ましい。これによって、外周部72のうち特に割れが生じやすい表面側領域に相当する第2電解質層7bに塑性を付与することができるため、外周部72に割れが生じることをより効果的に抑制できる。
【0069】
第1電解質層7a及び第2電解質層7bそれぞれの形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。焼成法やスプレーコーティング法のように原料粉末をもとに各電解質層を形成するプロセスでは、原料の仮焼温度を変えることで結晶子径の異なる材料を作り分けたうえで、各材料を塗り分けることによって内側部71及び外周部72を形成することができる。PVD法やCVD法のようにイオンの形態で各電解質層を形成するプロセスでは、内側部71及び外周部72それぞれを形成する際の基板の加熱温度や成膜条件を変えることで内側部71及び外周部72の結晶子径を調整することができる。
【0070】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0071】
[変形例1]
上記第1及び第2実施形態において、水素極層6の厚みは、
図3及び
図4に示したように、先端P6に近づくほど徐々に薄くなることとしたが、これに限られない。水素極層6の断面形状は適宜変更可能である。
【0072】
[変形例2]
上記第1及び第2実施形態では、
図3及び
図4に示した一断面において、外周部72は、第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆っていることが好ましいことを説明した。
図3及び
図4に示した構成は、電解セル1の外周部の全ての断面において観察されることが好ましいが、電解セル1の外周部の少なくとも一断面において観察できればよい。
【0073】
[変形例3]
上記第1及び第2実施形態において、水素極層6はカソードとして機能し、酸素極層9はアノードとして機能することとしたが、水素極層6がアノードとして機能し、酸素極層9がカソードとして機能してもよい。この場合、水素極層6と酸素極層9の構成材料を入れ替えるとともに、水素極層6の外表面に原料ガスを流す。
【0074】
[変形例4]
上記第1及び第2実施形態では、電気化学セルの一例として電解セル1について説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【0075】
[変形例5]
上記第2実施形態では、
図4に示すように、第2電解質層7bが第1電解質層7aの表面全体を覆うこととしたが、これに限られない。第2電解質層7bは、第1電解質層7aの表面の一部を覆っていてもよい。
【0076】
例えば、
図5に示すように、第2電解質層7bは、第1電解質層7aと酸素極層9とに挟まれる領域にのみ配置されていてもよい。この場合、内側部71は第1電解質層7a及び第2電解質層7bによって構成され、外周部72は第1電解質層7aのみによって構成される。
【0077】
そして、第2電解質層7bの厚みが小さければ、内側部71のXRD分析によって、内側部71のうち第1電解質層7a及び第2電解質層7bの両方に含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンが重畳的に得られる。そのため、材料種に基づき、得られた回折パターンを第1電解質層7aに含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンと第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の回折パターンとに分離することによって、内側部71のうち第1電解質層7aに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径と第2電解質層7bに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径とが算出される。
【0078】
このように、
図5に示すような構成であっても、内側部71及び外周部72それぞれに含まれる第1電解質層7aの結晶子径を比較することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 セル
6 水素極層
7 電解質層
71 内側部
72 外周部
8 反応防止層
9 酸素極層
10 セル本体部
20 金属支持体
20S 第1主面
21 供給孔
30 流路部材
30a 流路
7a 第1電解質層
7b 第2電解質層
【要約】
【課題】電解質に割れが生じることを抑制可能な電気化学セルを提供する。
【解決手段】電解セル1において、電解質層7は、水素極層6上に配置される内側部71と、金属支持体20の第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域上に配置される外周部72とを有する。内側部71及び外周部72それぞれは、同じ酸化物イオン伝導性材料を含む。外周部72に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径は、内側部71に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径より小さい。
【選択図】
図3