(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】路網生成装置、路網生成方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
(21)【出願番号】P 2022162376
(22)【出願日】2022-10-07
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207778
【氏名又は名称】阿形 直起
(72)【発明者】
【氏名】小平 肇
(72)【発明者】
【氏名】青木 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】濱口 竜平
【審査官】鈴木 崇雅
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-112773(JP,A)
【文献】特開2017-097088(JP,A)
【文献】特開2008-170277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 29/00-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の地理的領域の地形を示す地形データに基づいて路網の候補領域を生成する生成部と、
前記候補領域の外接矩形を設定し、前記外接矩形の対角線の長さを用いて、前記候補領域の
丸み係数を算出する算出部と、
前記
丸み係数に基づいて、前記候補領域が路網を示すか否かを判定する判定部と、
を有することを特徴とする路網生成装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記候補領域の前記外接矩形に対する面積比または前記外接矩形のアスペクト比をさらに算出し、
前記判定部は、前記面積比または前記アスペクト比にさらに基づいて、前記候補領域が路網を示すか否かを判定する、
請求項
1に記載の路網生成装置。
【請求項3】
前記判定部は、
前記候補領域の丸み係数が第1閾値以上であるか否かを判定し、
前記丸み係数が前記第1閾値以上であると判定された候補領域について、当該候補領域の面積比が第2閾値以下であるか否かおよび当該候補領域のアスペクト比が第3閾値以下であるか否かを判定し、
前記面積比が前記第2閾値以下であると判定された候補領域および前記アスペクト比が前記第3閾値以下であると判定された候補領域を、路網を示す候補領域であると判定する、
請求項
2に記載の路網生成装置。
【請求項4】
路網生成装置によって実行される路網生成方法であって、
所定の地理的領域の地形を示す地形データから路網の候補領域を
生成し、
前記候補領域の外接矩形を設定し、前記外接矩形の対角線の長さを用いて、前記候補領域の
丸み係数を算出し、
前記
丸み係数に基づいて、前記候補領域が路網を示すか否かを判定する、
ことを含むことを特徴とする路網生成方法。
【請求項5】
所定の地理的領域の地形を示す地形データから路網の候補領域を
生成し、
前記候補領域の外接矩形を設定し、前記外接矩形の対角線の長さを用いて、前記候補領域の
丸み係数を算出し、
前記
丸み係数に基づいて、前記候補領域が路網を示すか否かを判定する、
ことをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路網生成装置、路網生成方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空写真などの画像データやDEM(Digital Elevation Model)等の地形データから路網を抽出する技術が知られている。例えば、特許文献1には、地物を示すカラー画像の画素値に基づいて道路の候補領域を抽出する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような道路の候補領域を、より簡易かつ高精度に検出することが求められている。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、路網の候補領域の形状を用いて、路網を示す領域を簡易かつ高精度に検出することを可能とする路網生成装置、路網生成方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る路網生成装置は、所定の地理的領域の地形を示す地形データに基づいて路網の候補領域を生成する生成部と、候補領域の外接矩形を設定し、外接矩形の対角線の長さを用いて、候補領域の形状に関する指標を算出する算出部と、指標に基づいて、候補領域が路網を示すか否かを判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、算出部は、候補領域の形状に関する指標として、候補領域の丸み係数を算出することが好ましい。
【0008】
また、算出部は、候補領域の外接矩形に対する面積比または外接矩形のアスペクト比をさらに算出し、判定部は、面積比またはアスペクト比にさらに基づいて、候補領域が路網を示すか否かを判定することが好ましい。
【0009】
また、判定部は、候補領域の丸み係数が第1閾値以上であるか否かを判定し、丸み係数が第1閾値以上であると判定された候補領域について、候補領域の面積比が第2閾値以下であるか否かおよび候補領域のアスペクト比が第3閾値以下であるか否かを判定し、面積比が第2閾値以下であると判定された候補領域およびアスペクト比が第3閾値以下であると判定された候補領域を、路網を示す候補領域であると判定することが好ましい。
【0010】
本発明の実施形態に係る路網生成方法は、路網生成装置によって実行される路網生成方法であって、所定の地理的領域の地形を示す地形データから路網の候補領域を抽出し、候補領域の外接矩形を設定し、外接矩形の対角線の長さを用いて、候補領域の形状に関する指標を算出し、指標に基づいて、候補領域が路網を示すか否かを判定する、ことを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の実施形態に係るプログラムは、所定の地理的領域の地形を示す地形データから路網の候補領域を抽出し、候補領域の外接矩形を設定し、外接矩形の対角線の長さを用いて、候補領域の形状に関する指標を算出し、指標に基づいて、候補領域が路網を示すか否かを判定する、ことをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る路網生成装置、路網生成方法およびプログラムは、路網の候補領域の形状を用いて、路網を示す領域を高精度に検出することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】地形データT1のデータ構造を示す図である。
【
図3】候補領域データT2のデータ構造を示す図である。
【
図5】候補領域を生成する方法について説明するための模式図である。
【
図7】(A)-(C)は路網を示すと判定された候補領域の例を示す図であり、(D)-(E)は路網を示さないと判定された候補領域の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る路網生成装置1の機能ブロック図である。路網生成装置1は、所定の地理的領域の地形を示す地形データから路網の候補領域を生成する。以下の説明では、路網は林内路網(林道、林業専用道および森林作業道を含む路網をいう。)であるものとする。
【0016】
林内路網は、雨水が集中して路面を流れることを防止するために、曲がりくねりながら所定の方向に延伸する形状(波形線形または屈曲線形)を有する。特に、林業専用道および森林作業道は経済性を考慮して地形に沿って整備されるため、より顕著な波形線形または屈曲線形を有する。また、林業専用道は、幹線である林道から分岐して整備され、森林専用道は林業専用道からさらに分岐して整備される。路網生成装置1は、このような林内路網の特徴的な形状に基づいて、候補領域が路網を示すか否かを判定する。路網生成装置1は、例えばPC(Personal Computer)、サーバ、携帯電話機、スマートフォン等の情報処理装置(コンピュータ)である。路網生成装置1は、記憶部11、通信部12、処理部13を有する。
【0017】
記憶部11は、プログラムおよびデータを記憶するための構成であり、例えば半導体メモリを備える。記憶部11は、プログラムとして、処理部13による処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム等を記憶する。プログラムは、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)等のコンピュータ読取可能かつ非一時的な可搬型記憶媒体から記憶部11にインストールされる。
【0018】
通信部12は、路網生成装置1を他の装置と通信可能にする構成であり、通信インタフェース回路を備える。通信部12が備える通信インタフェース回路は、有線LAN(Local Area Network)又は無線LAN等の通信インタフェース回路である。通信部12は、データを他の装置から受信して処理部13に供給するとともに、処理部13から供給されたデータを他の装置に送信する。
【0019】
処理部13は、路網生成装置1の動作を統括的に制御する構成であり、一つまたは複数のプロセッサおよびその周辺回路を備える。処理部13は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を備える。処理部13は、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を備えてもよい。処理部13は、記憶部11に記憶されているプログラムに基づいて路網生成装置1の各種処理が適切な手順で実行されるように、各構成の動作を制御するとともに、各種の処理を実行する。
【0020】
処理部13は、取得部131、生成部132、選択部133、算出部134、判定部135および出力部136をその機能ブロックとして備える。これらの各部は、処理部13によって実行されるプログラムによって実現される機能モジュールである。これらの各部は、ファームウェアとして路網生成装置1に実装されてもよい。
【0021】
図2は、記憶部11に記憶される地形データT1のデータ構造を示す図である。地形データT1は、所定の地理的領域の地形を示すデータである。地形データT1は、地表面の曲率(curvature)および傾斜(slope)を示すデータであり、これらのデータを図化して生成された図はCS立体図として知られている。地形データT1は、矩形領域、標高、傾斜、曲率等を相互に関連付けて記憶する。
【0022】
矩形領域は、路網を含む所定の地理的領域をあらかじめ所定の大きさの矩形に区分した領域(メッシュ)の位置を識別する情報であり、例えば矩形領域の中心位置を示す座標である。標高は、矩形領域の標高の代表値であり、例えば矩形領域の中心位置における標高である。傾斜は、矩形領域における地表面の傾きを示す情報であり、例えば矩形領域の標高とその矩形領域に隣接する矩形領域の標高とに基づいて算出される。曲率は、矩形領域における地表面の曲率を示す情報であり、例えば矩形領域の標高とその矩形領域を挟んで隣接する二つの矩形領域の標高とに基づいて算出される。
【0023】
地形データT1は、航空レーザ測量等に基づいて取得されたDEM、航空写真等に基づいてあらかじめ生成され、記憶部11に記憶される。
【0024】
図3は、記憶部11に記憶される候補領域データT2のデータ構造を示す図である。候補領域データT2は、路網の候補領域の形状を示すポリゴンデータである。候補領域データT2は、候補領域ID、形状等を相互に関連付けて記憶する。
【0025】
候補領域IDは、候補領域を識別する情報である。形状は、候補領域の形状を示す情報である。候補領域は複数の矩形領域が連結された多角形であり、その頂点の位置座標を隣接する順に配列した情報が形状として記憶される。
【0026】
候補領域データT2は、後述する路網生成処理において、地形データT1に基づいて生成され、記憶部11に記憶される。
【0027】
図4は、路網生成装置1によって実行される路網生成処理の流れを示すフロー図である。路網生成処理は、記憶部11に記憶されるプログラムに基づいて、処理部13が路網生成装置1の各構成と協働することにより実現される。
【0028】
最初に、取得部131は、地形データT1を記憶部11から取得する(ステップS11)。
【0029】
次に、生成部132は、地形データT1に基づいて、路網の候補領域を生成する(ステップS12)。例えば、生成部132は、学習済みモデルを用いて路網の候補領域を生成する。
【0030】
学習済みモデルは、地形データT1が入力された場合に、地形データT1に含まれる各矩形領域について、その矩形領域が道路の位置に対応する(すなわち、路網を示す)確信度を出力するように学習されたモデルである。モデルは、例えば畳み込みニューラルネットワークである。生成部132は、記憶部11から地形データT1を取得する。生成部132は、地形データT1を学習済みモデルに入力し、学習済みモデルから出力された各矩形領域の確信度を取得する。生成部132は、確信度が所定値以上である矩形領域に対応する画素の画素値が「1」であり、確信度が所定値未満である矩形領域に対応する画素の画素値が「0」である二値画像を生成する。
【0031】
生成部132は、画素値が「1」である画素の連結成分を二値画像から抽出する。生成部132は、抽出した連結成分の外周に対応する多角形を示すポリゴンデータを路網の候補領域として生成する。生成部132は、生成した候補領域を候補領域データT2として記憶部11に記憶する。
【0032】
図5は、二値画像から候補領域を生成する方法について説明するための模式図である。
図5に示す矩形は、二値画像を構成する画素を示す。
図5では、二値画像において画素値が「1」である領域が黒で、画素値が「0」である領域が白でそれぞれ図示されている。
図5に示す例では、生成部132は、画素値が「1」である画素の連結成分として、連結成分A1およびA2を二値画像から抽出する。生成部132は、連結成分A1およびA2の外周を特定し、外周の頂点(
図5に白抜きの丸で図示)を抽出する。生成部132は、抽出した頂点を隣接する順に配列したデータを候補領域の形状として生成する。生成部132は、生成された候補領域の形状に候補領域の識別情報を関連付けて、候補領域テーブルT2として記憶部11に記憶する。
【0033】
図4に戻り、選択部133は、生成された候補領域のうちの一つの候補領域を選択する(ステップS13)。
【0034】
次に、算出部134および判定部135は、選択された候補領域の形状に関する指標を算出し、指標に基づいて候補領域が路網を示すか否かを判定する判定処理を実行する(ステップS14)。判定処理の詳細については後述する。
【0035】
次に、選択部133は、生成された全ての候補領域が選択されたか否かを判定する(ステップS15)。全ての候補領域が選択されていない場合(ステップS15-No)、処理はステップS13に戻り、選択部133は、選択されていない候補領域のうちの一つの候補領域を選択する。
【0036】
全ての候補領域が選択された場合(ステップS15-Yes)、出力部136は、判定の結果を出力する(ステップS16)。例えば、出力部136は、候補領域データT2に含まれる候補領域に、路網を示すか否かの判定の結果を関連付ける。出力部136は、通信部12を介して、判定の結果が関連付けられた候補領域データT2を他の装置に送信することにより出力する。以上で、路網生成処理は終了する。
【0037】
図6は、判定処理の流れを示すフロー図である。判定処理は、路網生成処理のステップS14において実行される。
【0038】
最初に、算出部134は、選択された候補領域について、丸み係数、面積比およびアスペクト比を算出する(ステップS21)。算出部134は、候補領域の外接矩形を設定し、外接矩形の対角線の長さを用いて、候補領域の形状に関する指標を算出する。外接矩形は、候補領域の全ての頂点がその内部または辺上に位置するような矩形のうち、最小の面積を有する矩形である。外接矩形は、候補領域の全ての頂点がその内部または辺上に位置するような矩形のうち、最小の周長を有する矩形でもよい。算出部134は、外接矩形の対角線の長さを用いて、候補領域の丸み係数を算出する。また、算出部134は、候補領域の外接矩形に対する面積比および外接矩形のアスペクト比を算出する。各指標の意義については後述する。なお、候補領域の丸み計数は、候補領域の形状に関する指標の一例である。
【0039】
次に、判定部135は、候補領域の丸み係数が第1閾値以上であるか否かを判定する(ステップS22)。第1閾値は、路網を示す候補領域が適切に判定できるように実験的に設定され、例えば9.0である。候補領域の丸み係数が第1閾値未満である場合(ステップS22-No)、判定部135は、候補領域が路網を示さないと判定する(ステップS23)。以上で、判定処理は終了する。
【0040】
候補領域の丸み係数が第1閾値以上である場合(ステップS22-Yes)、判定部135は、候補領域の外接矩形に対する面積比が第2閾値以下であるか否か、および外接矩形のアスペクト比が第3閾値以下であるか否かを判定する(ステップS24)。第2閾値は、路網を示す候補領域が適切に判定できるように実験的に設定され、例えば0.25である。第3閾値は、路網を示す候補領域が適切に判定できるように実験的に設定され、例えば0.25である。面積比が第2閾値より大きく、かつアスペクト比が第3閾値より大きい場合(ステップS24-No)、判定部135は、候補領域が路網を示さないと判定する(ステップS23)。面積比が第2閾値以下であるか、またはアスペクト比が第3閾値以下である場合(ステップS24-Yes)、判定部135は、候補領域が路網を示すと判定する(ステップS25)。以上で、判定処理を終了する。
【0041】
以下では、候補領域の形状に関する指標について説明する。上述したように、林内路網は波形線形または屈曲線形の形状を有する。また、一般に、道路は単純閉曲線を構成しないため、単純閉曲線を構成する候補領域は路網を示すものではないと考えられる。一方で、林業専用道および森林作業道は林道から分岐しているため、林内路網の一部には閉曲線が含まれる可能性がある。以下に説明するような候補領域の形状に関する指標を用いることにより、単純閉曲線を構成するような候補領域が除外され、路網を示す候補領域が適切に抽出される。
【0042】
候補領域の丸み係数(roundness)は、候補領域の形状が真円に近いか、または扁平であるかを示す指標である。丸み係数は、候補領域の形状が真円である場合に最小値である1をとり、道路のように所定方向に延伸する線形である場合に大きな値をとる。丸み係数は、候補領域の頂点間の距離の最大値(最大長)lmaxと候補領域の面積Sを用いて次の式で表される。
【数1】
ここで、候補領域の面積Sは、候補領域の外周を示す線分で囲まれる領域の面積である。すなわち、候補領域が直線形である場合には、候補領域の面積は候補領域の幅と長さとの積である。また、候補領域が閉曲線である場合には、候補領域の面積は、候補領域の幅と長さとの積に、候補領域に囲まれる閉領域の面積を加えたものである。例えば、候補領域が円環形である場合には、候補領域の面積は、候補領域の幅と長さとの積に、候補領域に囲まれる円形領域の面積を加えたものであるから、候補領域の外径を直径とする円の面積と等しい。
【0043】
仮に、候補領域を半径rの真円であると考えると、最大長lmaxを円の直径である2rと考えることができるから、丸み係数が1となる。
【0044】
候補領域は多数の頂点を有するため、各候補領域について最大長を算出すると、計算負荷が大きくなる。一方、最大長lmaxは候補領域の二つの頂点の間の距離のうち最も長いものであるから、候補領域に外接する外接矩形の対角線長dよりも短く、かつ対角線長dに近い値をとると考えられる。したがって、丸み係数は次の式で概算される。
【数2】
【0045】
候補領域の外接矩形に対する面積比は、候補領域の面積を外接矩形の面積で除することにより算出される。候補領域が直線形、または矩形の単純閉曲線である場合、外接矩形と候補領域とが一致し、面積比は最大値である1をとる。また、候補領域が閉曲線となる部分を含む場合、上述したように、候補領域の面積に閉曲線に囲まれる領域の面積が含まれるため、面積比は大きくなる。候補領域が波形線形若しくは屈曲線形に近づくほど、外接矩形の面積が大きくなるため、面積比は小さくなる。
【0046】
外接矩形のアスペクト比は、外接矩形の短辺長を外接矩形の長辺長で除することにより算出される。候補領域が直線形である場合、外接矩形も一方向に延伸する矩形となり、アスペクト比が小さくなる。候補領域が波形線形若しくは屈曲線形または閉曲線に近づくほど、外接矩形が正方形に近くなり、アスペクト比が大きくなる。
【0047】
図7(A)-(E)は、候補領域に対する判定の結果の例を示す図である。
図7(A)-(E)では、候補領域が実線により、外接矩形が破線によりそれぞれ図示されている。
【0048】
図7(A)は、路網を示すと判定される候補領域の例を示す。
図7(A)の候補領域は波形線形であり、林内路網と同様の形状的特徴を有している。
【0049】
図7(A)の候補領域は閉曲線を含まないため、候補領域の面積は小さい。したがって、丸み係数は第1閾値以上である。また、
図7(A)の候補領域は直線形に近いため、候補領域の外接矩形の面積も小さい。したがって、面積比は第2閾値より大きい。一方、候補領域が直線形に近いため、外接矩形のアスペクト比は第3閾値以下である。以上より、
図7(A)の候補領域は路網を示すものと判定される。
【0050】
図7(B)は、路網を示すと判定される候補領域の他の例を示す。
図7(B)の候補領域の一部は閉曲線を構成しているが、閉曲線から複数の波形曲線が分岐している。このような形状は、例えば単一の林業専用道が複数の林道に接続している林内路網にみられる形状であるから、
図7(B)の候補領域は林内路網と同様の形状的特徴を有している。
【0051】
図7(B)の候補領域の一部は閉曲線B1を構成している。上述したように、このような場合、候補領域の面積には閉曲線B1で囲まれる領域B2(ハッチングで図示)の面積が含まれるため、候補領域の面積は大きい。一方で、
図7(B)の候補領域は閉曲線から分岐した複数の波形曲線B3を有しているため、外接矩形も大きい。したがって、丸み係数は第1閾値以上である。また、面積比は第2閾値以下である。一方、閉曲線から分岐した複数の波形曲線B3の延伸方向はそれぞれ異なるため、外接矩形のアスペクト比は第3閾値より大きい。以上より、
図7(B)の候補領域は路網を示すものと判定される。
【0052】
図7(C)の候補領域は、路網を示すと判定された候補領域の他の例を示す。
図7(C)の候補領域は屈曲線形であり、林内路網と同様の形状的特徴を有しているが、
図7(A)の候補領域よりも直線形に近い。
【0053】
図7(C)の候補領域は、
図7(A)の候補領域と同様に、閉曲線を含まないため、候補領域の面積は小さい。したがって、丸み係数は第1閾値以上である。一方、
図7(C)の候補領域は直線形に近いため、候補領域の形状と外接矩形の形状が略一致する。したがって、面積比は第2閾値より大きい。一方、
図7(C)の候補領域は直線形に近いため、外接矩形のアスペクト比は第3閾値以下である。以上より、
図7(C)の候補領域は路網を示すものと判定される。
【0054】
図7(A)-(C)に示したように、候補領域が閉曲線を含まない場合、または閉曲線を含むが、閉曲線から他の曲線が分岐している場合には、候補領域の面積に対して外接矩形の対角線長が大きくなるため、丸み係数が大きくなる。また、
図7(A)に示したように、候補領域が波形線形または屈曲線形である場合には、面積比およびアスペクト比の両方が小さくなる。
図7(B)に示したように、候補領域が他の曲線と分岐した閉曲線である場合には、アスペクト比が大きくなる場合があるが、面積比は小さくなる。
図7(C)に示したように、候補領域が直線形に近い場合には、面積比が小さくなる場合があるが、アスペクト比が小さくなる。すなわち、候補領域が林内路網と同様の形状的特徴を有している場合には、丸み係数が大きくなるとともに、面積比およびアスペクト比のうちの少なくとも一方が小さくなる。したがって、判定処理により路網を示す候補領域が適切に抽出される。
【0055】
図7(D)は、路網を示さないと判定された候補領域の例を示す。
図7(D)の候補領域は略楕円形の単純閉曲線である。一般に、道路は単純閉曲線を構成しないため、
図7(D)の候補領域は林内路網とは異なる形状的特徴を有している。
【0056】
図7(D)の候補領域は略楕円形であり、真円に近いため、丸み係数は第1閾値未満である。したがって、
図7(D)の候補領域は路網を示さないものと判定された。
【0057】
図7(E)は、路網を示さないと判定された候補領域の他の例を示す。
図7(E)は、
図7(D)の候補領域と同様に略楕円形であり、林内路網とは異なる形状的特徴を有しているが、
図7(D)よりも扁平である。
【0058】
図7(E)の候補領域は単純閉曲線であるため、その面積は大きい。もっとも、
図7(E)の候補領域は
図7(D)の候補領域よりも扁平であるため、丸み係数は第1閾値以上であった。一方、
図7(E)の候補領域は単純閉曲線であるため、面積比は第2閾値より大きい。また、
図7(D)の候補領域の外接矩形のアスペクト比も第3閾値より大きい。したがって、
図7(D)の候補領域は路網を示さないと判定される。
【0059】
図7(D)および(E)に示したように、候補領域が単純閉曲線を構成するような場合には、その形状に応じて丸み係数が小さくなるか、または面積比およびアスペクト比が大きくなる。したがって、判定処理により路網を示さない候補領域が適切に除外される。
【0060】
以上説明したように、路網生成装置1は、候補領域の外接矩形の対角線を用いて候補領域の形状に関する指標を算出し、算出された指標に基づいて候補領域が路網を示すか否かを判定する。候補領域の形状に基づいて候補領域が路網を示すか否かを判定することにより、高精度に候補領域が路網を示すか否かが判定される。また、候補領域の形状に関する指標の算出に外接矩形の対角線長を用いることにより、指標が簡易に算出される。したがって、路網生成装置1は、道路の候補領域が路網を示すか否かを簡易かつ高精度に検出することを可能とする。
【0061】
上述した説明では、路網生成処理のステップS12において、生成部152がCS立体図である地形データT1に基づいて候補領域を生成するものとしたが、このような例に限られない。生成部152は、矩形領域と画素値(RGB値)が関連付けられた航空写真等の画像データから候補領域を生成してもよい。
【0062】
上述した説明では、判定処理のステップS21において、算出部154が丸み係数、面積比およびアスペクト比を算出するものとしたが、このような例に限られない。例えば、算出部154は、丸み係数のみを算出し、面積比およびアスペクト比を算出しなくてもよい。この場合も、一定程度の精度で候補領域が路網を示すか否かを算出することができる。また、算出部154は、丸み係数、面積比およびアスペクト比とは異なる指標を算出してもよい。
【0063】
上述した説明では、路網生成装置1は林内路網の候補領域を生成するものとしたが、このような例に限られず、他の路網の候補領域を生成するものとしてもよい。林内路網に限られず、道路が単純閉曲線を構成しないというのは一般的な性質であるため、路網生成装置1は、他の路網を示す領域も、高精度に検出することができる。
【0064】
当業者は、本発明の範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 路網生成装置
132 生成部
134 算出部
135 判定部
【要約】
【課題】路網の候補領域の形状を用いて、路網を示す領域を簡易かつ高精度に検出することを可能とする路網生成装置等を提供する。
【解決手段】路網生成装置は、所定の地理的領域の地形を示す地形データに基づいて路網の候補領域を生成する生成部と、候補領域の外接矩形を設定し、外接矩形の対角線の長さを用いて、候補領域の形状に関する指標を算出する算出部と、指標に基づいて、候補領域が路網を示すか否かを判定する判定部と、を有する。
【選択図】
図4