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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】回転電機の固定子及びその組立て方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20231130BHJP
   H02K 1/12 20060101ALI20231130BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K1/12 Z
H02K15/02 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022514313
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2021002141
(87)【国際公開番号】W WO2021205708
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2020068927
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 慎司
(72)【発明者】
【氏名】渡 伸次郎
(72)【発明者】
【氏名】ズライカ モハマドバシール
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/133337(WO,A1)
【文献】特開2008-245471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 1/12
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁鋼板を積層した固定子コアと、前記固定子コアの周囲に絶縁体を介して巻回された固定子コイルと、を有する回転電機の固定子であって、
前記絶縁体は、回転電機の回転軸線方向における前記固定子コアの両端部に設けられた樹脂製の第1ボビン部及び第2ボビン部と、前記第1ボビン部と前記第2ボビン部との間の前記固定子コイルが巻回される前記固定子コアの側面を覆う絶縁シートと、を有して構成され、
前記電磁鋼板は、積層方向に隣接する電磁鋼板との接触面が平滑な平面で構成され
前記第1ボビン部及び前記第2ボビン部は、前記固定子コアを樹脂成型金型内に配置して型締め力を印加した状態で樹脂を射出することにより成型される射出成型部品であると共に、樹脂の射出成型時に前記絶縁シートと接着されて、前記第1ボビン部と前記第2ボビン部とが前記絶縁シートによって連結された状態となり、
前記固定子コアは、前記第1ボビン部及び前記第2ボビン部の射出成型後の前記複数の電磁鋼板の復元力が前記絶縁シートの張力と釣り合うことで、前記複数の電磁鋼板の密着した状態が保持される回転電機の固定子。
【請求項2】
前記復元力が前記電磁鋼板の積層面の内周側と外周側で同等である、請求項に記載の回転電機の固定子。
【請求項3】
前記絶縁シートは、前記固定子コアの側面を覆う中央部分と、前記固定子の径方向において前記中央部分の両側に設けられた折り曲げ部と、を有し、
前記折り曲げ部は、前記固定子コイルの前記固定子コアの側面側とは反対側の側面を覆う請求項に記載の回転電機の固定子。
【請求項4】
請求項1に記載の固定子と、前記固定子の内周側に隙間を介して配置された回転子と、を備えた回転電機。
【請求項5】
複数の電磁鋼板を積層した固定子コアと、前記固定子コアの周囲に絶縁体を介して巻回された固定子コイルと、を有し、前記絶縁体は、回転電機の回転軸線方向における前記固定子コアの両端部に設けられた樹脂製の第1ボビン部及び第2ボビン部と、前記第1ボビン部と前記第2ボビン部との間の前記固定子コイルが巻回される前記固定子コアの側面を覆う絶縁シートと、を有して構成される回転電機の固定子の組立て方法であって、
前記電磁鋼板を、積層方向に隣接する電磁鋼板の接触面が平滑な平面で構成される同一形状の電磁鋼板で構成し、
前記電磁鋼板を板状部材から打ち抜いて作成すると共に、前記電磁鋼板を打ち抜かれる順番に連続して積層して1つの固定子コアを構成し、次の固定子コアは前の固定子コアを構成する最後の電磁鋼板の次の電磁鋼板から連続して積層して構成し、
前記第1ボビン部及び前記第2ボビン部は、前記固定子コアを樹脂成型金型内に配置して型締め力を印加した状態で樹脂を射出することにより成型されると共に、樹脂の射出成型時に前記絶縁シートと接着されて、前記第1ボビン部と前記第2ボビン部とが前記絶縁シートによって連結され、
前記固定子コアは、前記第1ボビン部及び前記第2ボビン部の射出成型後の前記複数の電磁鋼板の復元力が前記絶縁シートの張力と釣り合うことで、前記複数の電磁鋼板が密着した状態に保持される回転電機の固定子の組立て方法。
【請求項6】
前記電磁鋼板の積層方向における長さ寸法を大きくする復元力が積層面の内周側と外周側で同等になるように電磁鋼板を積層することを特徴とする請求項に記載の回転電機の固定子の組立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の固定子及びその組立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の固定子コイルの形態には、磁極歯毎に素線を集中して巻回してコイルを形成する集中巻と、複数のスロットを跨いで素線を巻回し、コイルエンドで異相、又は同相のコイル同士が重なり合うようにした分布巻と、がある。集中巻は、分布巻と比較してコイルエンドを小さくでき、回転電機の小型化、高効率化に有効である。一方、分布巻は、固定子内周の回転磁界分布を正弦波に近づけることができ、集中巻よりも高出力で騒音を小さくすることができる。
【0003】
固定子コアと固定子コイル間との絶縁には、集中巻の場合は樹脂成形品のボビンが用いられ、分布巻の場合は絶縁紙が用いられるのが一般的である。
【0004】
特開2009-148093号公報(特許文献1)には、樹脂成形品のボビンによって絶縁する技術が開示されている。特許文献1のボビンは、略直方体形状のボビン本体と、ボビン本体の外径側に設けられたつば部と、が樹脂で一体成形されている(段落0044,0046,0047参照)。
【0005】
また、特開2015-50428号公報(特許文献2)には、ボビンの一部に絶縁紙を採用することで絶縁部の厚さを低減させ、固定子コイルの占積率を向上させる技術が開示されている。特許文献2のボビンは、断面矩形状の溝部が形成された略H字状の断面を有するコア材と、溝部に取り付けたコ字状の絶縁シートと、を射出成型のキャビティ内に配置して樹脂を射出し、コア材の前後に樹脂成型体を備えたボビンを形成している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-148093号公報
【文献】特開2015-50428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のボビンは、略直方体のボビン本体と固定子コアとの絶縁および固定子コイルを固定するためのつば部が一体成形されている。より多くの固定子コイルを巻回するために、固定子コアと固定子コイルとの絶縁部には、必要な絶縁性能が得られる範囲で薄くすることが要求される。一方、固定子コイルの固定部はコイル巻回時の荷重に耐えられる強度が必要となる。樹脂材料の強度を向上させるためには、ガラス繊維等を含有した材料を採用する必要がある。しかし、ガラス繊維等を含有した材料は、成形時の流動性が悪化する。流動性の低い樹脂材料を用いる場合、絶縁部の最小厚さを厚くする必要があり、固定子コイルの占積率が低化することになる。
【0008】
特許文献2のボビンは、固定子コイルの占積率低化を防止するために絶縁部に絶縁紙を配置し、固定子コイルの固定部は射出成形された樹脂により成形されている。射出成形時に溶融した樹脂成型体が短繊維を含む絶縁紙の表面に含浸することで、樹脂成型体と絶縁紙とが一体となって作製される。ここで固定子コアは積層鋼板によって構成されており、樹脂成型体は積層鋼板表面に成形されている。固定子コアを構成する積層鋼板は、鋼板表面に凹凸を設け、積層方向に隣接する鋼板の凹凸を噛み合わせ、積層方向に加圧することで、凹凸部を塑性変形させて結合させるかしめという技術を用いることが一般的である。
かしめによって積層鋼板間を固定し、積層鋼板を一体部品とすることで、積層鋼板を取り扱う作業性を向上させることができる。
【0009】
一方、かしめによって積層鋼板間を固定した場合には、コイル巻回時にかしめがある領域は変形しにくく、かしめが無い領域で変形しやすいことに起因して、固定子コアの反りが発生しやすくなる。樹脂成型体と絶縁紙を一体成型した固定子においては、固定子コアの反りが大きくなると絶縁紙とボビンの結合部の破損など絶縁信頼性が低下する要因となる。
【0010】
本発明の目的は、絶縁信頼性に優れた回転電機の固定子及びその組立て方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の回転電機の固定子は、
複数の電磁鋼板を積層した固定子コアと、前記固定子コアの周囲に絶縁体を介して巻回された固定子コイルと、を有する回転電機の固定子であって、
前記絶縁体は、回転電機の回転軸線方向における前記固定子コアの両端部に設けられた樹脂製の第1ボビン部及び第2ボビン部と、前記第1ボビン部と前記第2ボビン部との間の前記固定子コイルが巻回される前記固定子コアの側面を覆う絶縁シートと、を有して構成され、
前記電磁鋼板は、積層方向に隣接する電磁鋼板との接触面が平滑な平面で構成され、
前記第1ボビン部及び前記第2ボビン部は、前記固定子コアを樹脂成型金型内に配置して型締め力を印加した状態で樹脂を射出することにより成型される射出成型部品であると共に、樹脂の射出成型時に前記絶縁シートと接着されて、前記第1ボビン部と前記第2ボビン部とが前記絶縁シートによって連結された状態となり、
前記固定子コアは、前記第1ボビン部及び前記第2ボビン部の射出成型後の前記複数の電磁鋼板の復元力が前記絶縁シートの張力と釣り合うことで、前記複数の電磁鋼板の密着した状態が保持される。
また、上記目的を達成するために、本発明の回転電機の固定子は、
複数の電磁鋼板を積層した固定子コアと、前記固定子コアの周囲に絶縁体を介して巻回された固定子コイルと、を有し、前記絶縁体は、回転電機の回転軸線方向における前記固定子コアの両端部に設けられた樹脂製の第1ボビン部及び第2ボビン部と、前記第1ボビン部と前記第2ボビン部との間の前記固定子コイルが巻回される前記固定子コアの側面を覆う絶縁シートと、を有して構成される回転電機の固定子の組立て方法であって、
前記電磁鋼板を、積層方向に隣接する電磁鋼板の接触面が平滑な平面で構成される同一形状の電磁鋼板で構成し、
前記電磁鋼板を板状部材から打ち抜いて作成すると共に、前記電磁鋼板を打ち抜かれる順番に連続して積層して1つの固定子コアを構成し、次の固定子コアは前の固定子コアを構成する最後の電磁鋼板の次の電磁鋼板から連続して積層して構成し、
前記第1ボビン部及び前記第2ボビン部は、前記固定子コアを樹脂成型金型内に配置して型締め力を印加した状態で樹脂を射出することにより成型されると共に、樹脂の射出成型時に前記絶縁シートと接着されて、前記第1ボビン部と前記第2ボビン部とが前記絶縁シートによって連結され、
前記固定子コアは、前記第1ボビン部及び前記第2ボビン部の射出成型後の前記複数の電磁鋼板の復元力が前記絶縁シートの張力と釣り合うことで、前記複数の電磁鋼板が密着した状態に保持される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、絶縁信頼性に優れた回転電機の固定子を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例に係る回転電機RMの全体構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施例に係る固定子コア5、ボビン6および絶縁紙1の組体の斜視図である。
図3】本発明の一実施例に係る集中巻固定子コア8を用いた固定子100の斜視図である。
図4】本発明の一実施例に係る集中巻固定子コア8の斜視図である。
図5】本発明の一実施例に係る固定子コア5、ボビン6および絶縁紙1の組体の構造を示す分解図である。
図6】本発明の一実施例に係る固定子コア5の、シャフト12の軸方向に垂直な断面の一部を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を、電動自動車に使用される回転電機を用いて説明する。本実施例の回転電機は、車両の車輪を駆動するモータの機能と、回生を利用して発電を行う発電機の機能を有しており、車両の走行状況に応じてそれらの機能を切り替えて使用される。
【0015】
最初に、図1を用いて、本発明の一実施例に係る回転電機の全体構成について説明する。図1は、本発明の一実施例に係る回転電機RMの全体構成を示す断面図である。
【0016】
本実施形態で説明する回転電機RMは、ハイブリッド自動車用のものである。回転電機RMは、エンジンと変速機の間、もしくはトランスミッションの中に搭載される。
【0017】
回転電機RMの周囲は、ケース130に囲まれている。ここで、回転電機RMがエンジンとトランスミッションの間の配置される場合、ケース130はエンジンのケースやトランスミッションのケースによって構成することができる。また、回転電機RMがトランスミッションの中に搭載される場合には、ケース130はトランスミッションのケースによって構成することができる。
【0018】
回転電機RMは、永久磁石内蔵型の3相同期モータである。固定子コイルに大電流(例えば、400A)の3相交流が供給されることで、電動機として動作する。また、回転電機RMがエンジンによって駆動されると、発電機として動作し、3相交流の発電電力を出力する。発電機として動作する場合、固定子コイルから出力する電流は、電動機として動作する場合に比べて小さく、例えば、100Aである。また、本例で用いる回転電機RMは、回転軸(シャフトの軸方向)方向の厚さが、外径よりも小さな扁平型の回転電機である。
【0019】
回転電機RMは、回転子200と、固定子100と、ハウジング9とを備えている。回転子200は、ステータ100の内周側に、隙間を介して配置されている。回転子200は、シャフト12に固定されている。シャフト12の両端は、軸受14A,14Bにより回転可能に支持されている。固定子100の外周は、ハウジング9の内周に固定される。
ハウジング9の外周は、ケース130の内周側に固定される。
【0020】
ケース130の底部には、ポンプ140が配置されている。また、ケース130の底部には、冷媒RFの溜まり部150が形成される。冷媒RFとしては、例えば、絶縁油を用いる。固定子100の下部側の一部は、溜まり部150に溜まった冷媒RFに浸されている。ポンプ140は、溜まり部150に溜まった冷媒RFを吸引して、冷媒通路152を経由して、ケース130の上部に形成された冷媒出口154A,154Bから吐出する。
冷媒出口154A,154Bは、固定子100のティースに巻回された固定子コイルの両端部(コイルエンド部)の上部に形成されている。また、冷媒出口154Aは、13カ所設けられている。冷媒出口154Bも、同様に、13カ所設けられている。
【0021】
冷媒出口154A,154Bから吐出した冷媒は、固定子コイルの両端のコイルエンド部に直接吹きかけられ、固定子コイルのコイルエンド部を冷却する。固定子100の熱を奪った冷媒RFは、ケース130の下部に溜まり、そこでポンプ140により、強制的に冷媒通路152を通り、循環され、再度、冷媒出口154A,154Bから放出され、固定子100を冷却する。
【0022】
以下、図2乃至図6を用いて、固定子コア5、固定子コイル7、固定子コアと固定子コイル7との組体、および固定子100について説明する。
【0023】
本実施例の回転電機100の固定子コイル7の形態は、磁極歯毎に素線を集中して巻回してコイルを形成する集中巻コイルであり、集中巻コイルが巻回された固定子コア5(固定子コイル7と固定子コア5との組体)は集中巻固定子コア8と呼んで説明する。固定子100は複数の集中巻固定子コア8が一体に組み付けられて構成される。
【0024】
図2は、本発明の一実施例に係る固定子コア5、ボビン6および絶縁紙1の組体の斜視図である。
【0025】
集中巻固定子コア8を構成するボビン6は、結線板側樹脂製ボビン(第1ボビン部)61と、反結線板側樹脂製ボビン(第2ボビン部)62と、で構成されている。結線板側樹脂製ボビン61は、ボビン6において、回転軸方向における一方の端部を構成する部材(一端部材)である。反結線板側樹脂製ボビン62は、ボビン6において、回転軸方向における他方の端部を構成する部材(他端部材)である。絶縁紙1は、結線板側樹脂製ボビン61と反結線板側樹脂製ボビン62とを接続する接続部材である。
【0026】
結線板側樹脂製ボビン61、反結線板側樹脂製ボビン62、および絶縁紙1の具体的な構成については、後で詳細に説明する。
【0027】
図3は、本発明の一実施例に係る集中巻固定子コア8を用いた固定子100の斜視図である。
【0028】
回転電機RMは、固定子100と回転子200(図1参照)とを同軸状に備え、車両側のトランスミッションケース等に固定されている。回転子200は固定子100の内周側に回転可能に保持され、固定子100と回転子200との間に発生する駆動力を外部へ伝達する。固定子100は円筒形状のハウジング9内に複数の集中巻固定子コア8が周方向に環状に配置されて形成される。固定子100は、ハウジング9の外周の凸部91Aに設けられた貫通穴91にボルト等の締結部材を挿通して、車両側トランスミッションケースに固定されている。
【0029】
図4は、本発明の一実施例に係る集中巻固定子コア8の斜視図である。
【0030】
集中巻固定子コア8は、複数の集中巻コイル7が環状に組まれて構成されている。図4ではボビン6に集中巻コイル7が巻回された状態を示している。
【0031】
集中巻固定子コア8は、電磁鋼板5aを積層した固定子コア5と、固定子コア5の回転軸方向の両端面を覆うように配設された樹脂製のボビン6と、固定子コア5の側面を覆うように配置され、樹脂製のボビン6と溶着されている絶縁紙1と、絶縁被膜導線7aが巻回されて構成される固定子コイル7と、を備える。
【0032】
ボビン6は、固定子コア5の回転軸方向の両端面に配置され、固定子コイル7と固定子コア5との間を電気的に絶縁すると共に、固定子コイル7の巻線及び巻き始めコイル端末701と巻き終わりコイル端末702の位置を規制する係止部(凹凸部)6b、6cを有している。巻き始めコイル端末701及び巻き終わりコイル端末702は回転電機RMの回転軸方向に延伸されている。絶縁紙1は固定子コア5の側面に配置され、固定子コイル7と固定子コア5との間を電気的に絶縁している。固定子コア5の継鉄部51は、隣接する集中巻固定子コア8同士を連結して、円筒状の固定子100を構成するためのものである。
【0033】
再び図3に戻って説明する。
【0034】
回転電機RMの固定子100の回転軸方向の端面に円環状の結線板2が配置され、コイルエンドが形成されている。結線板2には貫通孔が複数開孔され、各貫通孔にコイル端末70が挿通している。本実施例では、集中巻コイル7の個数は、24個であり、U相、V相、及びW相の3つのコイルが8回繰り返して、配置されている。したがって、コイル端末70の総数は48本である。24本の巻き始めコイル端末701は、結線板2の内周側に配置され、互いに結線されて中性点が形成される。一方の巻き終わりコイル端末702の24本は、8本ずつ3つの相(U相、V相、W相)に分割され、各相(U相、V相、W相)が結線板2の外周側において異なる径方向位置に配置されている。同じ相の巻き終わりコイル端末702は同一半径の位置に引き出されている。U相コイル8本,V相コイル8本,W相コイル8本はそれぞれ上述したように結線され、三相の集中巻固定子コア8が形成される。
【0035】
コイル端末701,702は、結線板2の貫通孔に挿通されて4つの導体3(U相、V相、W相、中性点)の何れかに電気的に接続されている。このために、結線板2の表面に配置された導体3には接続孔が開孔され、接続孔にはコイル端末70の端部が導体3の上面から突出するように挿通される。この後、TIG溶接によりコイル端末70の端部、及び接続孔の周辺を溶融させてコイル端末70と導体3とが接合される。
【0036】
例えば、導体3dは、24本の集中巻コイル7のコイル端末701が接続されて、中性点を構成する。導体3aにはU相を構成する8本の集中巻コイル7のコイル端末702が接続され、導体3aは端子TA1に電気的に接続される。導体3bにはV相を構成する8本の集中巻コイル7のコイル端末702が接続され、導体3bは端子TB1に電気的に接続される。導体3cにはW相を構成する8本の集中巻コイル7のコイル端末702が接続され、導体3cは端子TC1に電気的に接続される。
【0037】
図5は、本発明の一実施例に係る固定子コア5、ボビン6および絶縁紙1の組体の構造を示す分解図である。
【0038】
固定子コア5、ボビン6および絶縁紙1の組体は、固定子コア5の一端面52aに結線板側樹脂製ボビン61が配置され、他端面52bに反結線板側樹脂製ボビン62が配置され、固定子コア5の回転方向の両側面に絶縁紙1が配置されて、構成される。
【0039】
樹脂製ボビン6と絶縁紙1の材料は絶縁性の材料であり、図示しない固定子コイルと固定子コア5との電気的絶縁を維持する。固定子コア5、ボビン6および絶縁紙1の組体が組み立てられた状態では、絶縁紙1の回転軸方向における長さ寸法L1は固定子コア(積層された電磁鋼板:積層鋼板)5の回転軸方向における長さ寸法L5よりも大きく、絶縁紙1の回転軸方向における両端部はそれぞれ結線板側樹脂製ボビン61の接合部63と反結線側樹脂製ボビン62の接合部64とに接合されている。絶縁紙1は短繊維を含むシート状の絶縁体(シート状絶縁部材)で、樹脂製ボビン6の射出成形時に、溶融樹脂が絶縁紙1の短繊維間に溶け込むことで、ボビン61,62に接着状態となっている。
【0040】
また、絶縁紙1は、固定子コア5の側面に対向して側面を覆う中央部分1aと、固定子100の径方向において中央部分1aの両側に設けられた折り曲げ部1b,1cと、を有する。集中巻コイル7が巻回される前の状態において、固定子100の周方向における折り曲げ部1b,1cの長さ寸法L1b,L1cは、固定子コア5の側面から突き出す継鉄部51の長さ寸法L51よりも大きい。
【0041】
固定子コア5は、電磁鋼板5aを回転電機RM(図1参照)の回転軸方向に積層して形成される。電磁鋼板5aは、隣接する電磁鋼板5aに接触する表面が絶縁被膜を持つ平滑面(かしめのための凹凸を有しない面)となっており、積層された電磁鋼板5aの層間を絶縁することで、磁束の変化によって発生する渦電流損を低減している。固定子コア5は打ち抜き工法により成形され、打ち抜き歪などの影響により、積層面は完全な平面ではなく、層間に微小な隙間が存在している。樹脂製ボビン6を成形する際に、固定子コア5を積層方向に加圧することで電磁鋼板を弾性変形させて層間の隙間がつぶれた状態で樹脂製ボビン6と絶縁紙1とが接着される。射出成形後は層間の隙間が発生する方向(積層方向)に弾性変形していた電磁鋼板5aに反発力(復元力)が発生するが、積層方向両端面の樹脂製ボビン61と62との間の距離は絶縁紙1の長さによって規制され、電磁鋼板5aの反発力と絶縁紙1の引張力とが釣り合うことで、固定子コア5は複数の電磁鋼板5aが一体に組み付けられた状態を保つ。
【0042】
ここで、電磁鋼板5aの表面を平滑面(かしめのための凹凸を有しない面)とする作用効果について説明する。
【0043】
従来用いられていた、凹凸部を塑性変形させて積層鋼板(電磁鋼板)を結合するかしめは、以下のような課題を生じさせる。
【0044】
かしめは加圧荷重をかけて隣接する積層鋼板間の隙間をつぶした状態で凹凸を塑性変形させるが、鋼板には弾性変形域があるため、加圧荷重を除去すると鋼板間には微小な隙間が発生する。このような固定子コア上に直接樹脂成型体を成型する場合は、鋼板表面には金型の型締め力に加えて樹脂の射出圧が加わる。このため、金型の型締め力で隙間がつぶれるように変形した積層鋼板は、さらに積層鋼板間の隙間がつぶれるように変形する。この積層鋼板の変形により、金型と積層鋼板との間に隙間が発生し、射出された樹脂が漏れて、成形バリの原因となる。
【0045】
成形バリ低減のためには樹脂の射出前に積層鋼板間の隙間を潰し、固定子コアの樹脂射出圧による変形を抑制する必要がある。そのためには型締め力を高くする必要があり、金型および射出成型機の大型化を招き、コスト増加の要因となる。
【0046】
また、積層鋼板の板厚偏差や金型の摩耗によりかしめ状態も変動し、積層方向の寸法のばらつきや積層鋼板間の隙間をつぶすための荷重のばらつきが大きいため、過剰な型締め力となる恐れがある。
【0047】
さらに、コイルの巻回時には、かしめがある領域とかしめが無い領域で変形量が異なることから、固定子コアの反りが発生しやすい。固定子コアが反ると絶縁紙に対して伸縮方向の力が発生し、樹脂製ボビンと絶縁紙の結合部の破損といった絶縁不良の原因となる。
【0048】
さらに、積層鋼板の凹凸部とかしめによる塑性変形部は磁気特性が悪化するため、鉄損の増加による回転電機の効率の低下を招く。
【0049】
本実施例によれば、固定子コア5は積層方向に隣接する電磁鋼板5a同士の接触面(表面)が平滑な平面であるため、隣接する積層鋼板5a間を容易に密着させることができる。積層鋼板5a間が密着した状態で樹脂の射出成形を行うため、射出圧による積層鋼板5aの変形が少なく、成形バリの発生を抑制できる。また、積層鋼板5aは、型締め力と樹脂の射出圧とが印加されることで積層方向に圧縮された状態となり、この圧縮状態で固定子コア5の両端に樹脂製ボビン61,62が成形されると同時に、成形された樹脂製ボビン61,62が絶縁紙1によって連結される。このため、射出成型後は積層鋼板5aの復元力(電磁鋼板の積層方向における長さ寸法を大きくする復元力)と、絶縁紙1の張力とが釣り合うことで積層鋼板5aは密着された状態を保持することができる。この際、積層方向に隣接する電磁鋼板5a同士の接触面(表面)が平滑な平面とし、電磁鋼板の積層面の内周側と外周側で復元力を同等にすることで、絶縁紙の張力と釣り合った状態で安定して積層鋼板の密着状態を保持することができる。このため、固定子コア5の組立作業および固定子100の組立作業において、作業性が悪化することは無い。
【0050】
また、積層方向に隣接する電磁鋼板5a同士の接触面(表面)が平滑な平面であることから、コイルの巻回時に固定子コアの変形量が場所によって異なることがなく、固定子コアの反りを抑制できる。固定子コアの反り抑制は、電磁鋼板の積層面の内周側と外周側で復元力を同等にすることが有効である。その結果、絶縁紙の破損といった絶縁不良が防止され、絶縁信頼性を向上できる。
【0051】
さらに凹凸部を塑性変形させるかしめを廃止することで、積層鋼板5aの磁気特性の悪化を抑制することができる。さらに、積層鋼板5a間が結合されていないため、積層鋼板5aの板厚偏差による積厚ばらつきを積層枚数の調整により安定させることが容易となり、射出成形条件を安定させることができる。
【0052】
本実施例では、絶縁紙1の長さ寸法L1と固定子コア5の長さ寸法L5の差分は、絶縁紙1の長さ寸法L1と固定子コア5との接合強度を確保するのに十分な大きさを確保する必要がある。本実施例によれば、積層鋼板5a間の隙間の影響を低減できるため、接合部64の変動を小さくして、接合部64の面積を確実に確保することができる。
【0053】
また、積層鋼板の表面に凹凸を設ける場合、回転軸方向において固定子コアの一方の端部に設けられる一枚の電磁鋼板は、凹凸の無い積層鋼板にする必要がある。これは、凹凸によって形成される凸部が固定子コア5の一方の端面から突出することを防ぐためである。積層鋼板を一枚の板状部材から打ち抜いて製造する場合、凹凸のある積層鋼板と凹凸のない積層鋼板とを組み合わせる必要がある。そして、積層鋼板の板厚偏差による積厚ばらつきを積層枚数の調整により調整する場合、凹凸の無い2枚の積層鋼板の間で凹凸のある積層鋼板を抜いて、固定子コア5の長さ寸法L5を調整する必要がある。このため、固定子コア5の長さ寸法L5を調整するための工程が複雑になる。
【0054】
本願発明では、電磁鋼板5aの表面を平滑にしたことにより、積層する全ての電磁鋼板5aを同じ形状にすることができる。そのため、一枚の板状部材から打ち抜かれる電磁鋼板5aを打ち抜かれる順番に連続して積層した積層板を準備し、積層板から所定の長さ寸法の積層鋼板を抜き取ることで1つの固定子コア5を構成することができる。そして、次の固定子コア5は前の固定子コア5を構成する最後の電磁鋼板5aの次の電磁鋼板5aから連続して積層して構成することができる。これにより、電磁鋼板5aを抜く作業を不要にして、固定子コア5を構成することができ、固定子コア5の組み付け作業を簡略化できる。
【0055】
図6は、本発明の一実施例に係る固定子コア5の、シャフト12の軸方向に垂直な断面を示す部分断面図である。
【0056】
絶縁紙1は集中巻コイル7の巻回後に、固定子コア5の側面に配置された集中巻コイル7を覆うことができる十分な長さL1b,L1cを有している。すなわち、絶縁紙1の折り曲げ部1a,1bは、固定子コイル7の固定子コア5の側面側とは反対側の側面を覆う十分な長さL1b,L1cを有している。固定子100の組立時に絶縁紙1が集中巻コイル7を覆う状態とすることで、隣接する集中巻コイル7の間の絶縁を保つことができる。
【0057】
以上説明したように、本実施例によれば、固定子コア5を構成する電磁鋼板5aを、かしめによる締結がなくても一体部品として扱うことができるため、組立時の作業性の悪化を招くことがない。さらにはコイル巻回時の固定子コアの反りを抑制することができ、絶縁信頼性を向上できる。また、渦電流損を低減させることができる。さらに固定子コア5の回転方向側面の絶縁を絶縁紙1で実現することで、一般的な樹脂製のボビンで絶縁する場合と比べて絶縁層を薄くすることができる。さらに、絶縁紙1を隣接する集中巻コイル7の間に配置することが容易にでき、隣接するコイル間の絶縁信頼性を向上させ、隣接するコイル間に設ける絶縁層となる間隙を小さくすることができる。
【0058】
集中巻コイル7の絶縁層を低減させることで、より多くのコイルを巻回することができるようになり、コイル抵抗低減による銅損の低減や、コイル巻数増加による回転電機特性の改善が実現できる。さらに、樹脂成型金型内に固定子コア5を設置する際に、積層枚数を変更することが容易になる。電磁鋼板5aの板厚偏差と金型の寸法に応じて、固定子コア5の長さ寸法L5が適切な寸法となるように、電磁鋼板5aの枚数を調整して金型に設置することにより、安定した樹脂成型を行うことができる。
【0059】
さらには、本実施例によれば、積層鋼板の密着性を高められることから、固定子コアの軸方向の寸法精度を向上することができ、これよって、モータ特性のばらつきを小さくできるという利点も有する。また、固定子コアの寸法精度の向上は、隣接する分割コア同士の固定を安定して行うことができ、信頼性向上の利点も有する。
【0060】
上述したように、本実施例によれば、作業性の悪化を招くことなく、回転電機RMの絶縁信頼性の向上、損失低減および特性の向上を実現することができる。 本実施例では、固定子コア5に穴はないが、位置決め等の目的により穴があっても、積層方向に隣接する電磁鋼板5aに凸部が無ければ平滑な電磁鋼板5aとみなすことができ、本実施例と同様の効果が得られる。
【0061】
また、本実施例では集中巻コイル7の断面積を円形にしているが、角形でもよい。角形にすることで集中巻コイル7を高密度で巻回できるため、回転電機RMの効率が向上する。また、本実施例では、ボビン6の一部に絶縁紙1を採用することでボビン6の絶縁部の厚さを低減させ、固定子コイル(集中巻コイル)7の占積率を向上することができる。
【0062】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。
例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…絶縁紙、2…結線板、3…導体、5…固定子コア、6…ボビン、7…集中巻コイル(固定子コイル)、8…集中巻固定子コア、9…ハウジング、51…継鉄部、52a,52b…固定子コア端面、61…結線板側樹脂製ボビン,62…反結線板側樹脂製ボビン,70…コイル端末,91…貫通穴、100…固定子、200…回転子、701…巻き始めコイル端末、702…巻き終わりコイル端末。
図1
図2
図3
図4
図5
図6