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特許7394219交通システムを制御する方法、装置、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】交通システムを制御する方法、装置、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/08 20060101AFI20231130BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20231130BHJP
   G08G 1/07 20060101ALI20231130BHJP
   G08G 1/081 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G08G1/08 A
G08G1/00 C
G08G1/07 C
G08G1/081
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022526298
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2020080144
(87)【国際公開番号】W WO2021089367
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】102019129943.8
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020116669.9
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522288832
【氏名又は名称】フジツウ テクノロジー ソリューションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】シンケル・フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】キルシュ・マルクス
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-171694(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0164418(US,A1)
【文献】特開平9-326100(JP,A)
【文献】特開2003-132490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り替え可能な信号機を有する複数の交差点と、前記交差点の間にある道路セクションとを有する交通システムを制御する方法であって、
関連する複数の道路セクションの交通負荷を検出するステップと、
関連する各道路セクションの前記検出された交通負荷に応じて、関連する各道路セクションのローカルストレス関数を決定するステップと、
前記ローカルストレス関数に基づいて前記交通システム全体のグローバルストレス関数を決定するステップと、
量子コンセプトプロセッサを用いて、関連する前記道路セクションに隣接する複数の交差点の複数の信号機の切り替え時間を調整するとともに、最適化された切り替え時間を同時に決定するステップであって、前記最適化された切り替え時間は、前記グローバルストレス関数が検出可能な最小値に達するように決定される、ステップと、
前記最適化された切り替え時間に基づく切り替えモデルに従って前記信号機を切り替えるステップとを有する、
方法。
【請求項2】
前記グローバルストレス関数は、二次最適化項、特にQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)項として定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ローカルストレス関数を決定するステップは、前記関連する各道路セクションに隣接する信号機の可能な緑色相の選択値に基づいて追加的に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記交通システムの履歴データをロードするステップをさらに含み、
さらに、前記ローカルストレス関数を決定するステップは、前記履歴データを考慮して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ローカルストレス関数を決定するステップ、前記グローバルストレス関数を決定するステップ、前記最適化された切り替え時間を決定するステップ、及び前記信号機を切り替えるステップは、周期的に繰り返され、次の切り替え期間に対して前記最適化された切り替え時間を、常に決定し、さらに、前記交通負荷を検出するステップは、周期的に繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記交通負荷を検出するために、前記関連する各道路セクション上の複数の車両を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ローカルストレス関数を決定するために、前記関連する各道路セクションに隣接する交差点の信号機の現在の切り換え時間をさらに考慮する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
切り替え可能な信号機を有する複数の交差点と、前記交差点の間にある道路セクションとを有する交通システムを制御する装置であって、
関連する複数の道路セクションの交通負荷を検出するように構成された少なくとも1つのセンサと、
前記関連する各道路セクションの前記検出された交通負荷に応じて、関連する各道路セクションのローカルストレス関数を決定するように構成され、前記ローカルストレス関数に基づいて前記交通システム全体のグローバルストレス関数を決定するように構成された計算部と、
前記関連する道路セクションに隣接する前記複数の交差点の複数の信号機の切り替え時間を調整するとともに、最適化された切り替え時間を同時に決定するように構成された量子コンセプトプロセッサであって、前記最適化された切り替え時間は、前記グローバルストレス関数が検出可能な最小値に達するように決定される、量子コンセプトプロセッサと、
前記最適化された切り替え時間に基づく切り替えモデルに従って前記信号機を切り替えるように構成された切り替え装置とを有する、
装置。
【請求項9】
前記量子コンセプトプロセッサは、量子アニーリングシミュレーションを使用して最適化問題を解決するように構成されるプロセッサである、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
コンピュータ装置によってプログラムが実行されると、前記コンピュータ装置に請求項1に記載の方法を実行させる命令を備えるコンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のコンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読取可能記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切替可能な信号機を備えた複数の交差点と、交差点間にある道路セクションとを備える交通システムを制御する方法に関する。本発明は、さらに、対応する装置、コンピュータ・プログラム、およびコンピュータ読み取り可能記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
道路交通は、世界的に増加しており、特に都市や混雑した地域で増加している。交通渋滞、混雑した道路、遅い交通は、道路利用者にとって大きな時間の損失となるだけでなく、混雑した道路の近くに住む住民にとって、ますます大気汚染や健康問題の一因となっている。車両がより長い渋滞に巻き込まれれば、環境中により多くの排気ガスが放出される。したがって、道路の混雑や渋滞をできるだけ避けることが望ましい。
【0003】
しかし、交通システムがますます複雑化し、交通システム内の交通を容易に制御することがますます困難になっていることが問題である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、上記の問題を解決又は緩和する方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能記憶媒体を説明することにある。
【0005】
この問題は、独立クレームの特徴によって解決される。有利な実施形態は、従属クレームにおいて特徴付けられる。
【0006】
第1の態様によれば、切り替え可能な信号機を有する複数の交差点と、前記交差点の間にある道路セクションとを有する交通システムを制御する方法であって、
関連する複数の道路セクションの交通負荷を検出するステップと、
関連する各道路セクションの検出された交通負荷に応じて、各道路セクションのローカルストレス関数を決定するステップと、
前記ローカルストレス関数に基づいて前記交通システム全体のグローバルストレス関数を決定するステップと、
量子コンセプトプロセッサを用いて、関連する前記道路セクションに隣接する交差点の信号機の最適化された切り替え時間を決定するステップであって、前記最適化された切り替え時間は、前記グローバルストレス関数が検出可能な最小値に達するように決定される、決定するステップと、
前記最適化された切り替え時間に基づく切り替えモデルに従って前記信号機を切り替えるステップとを有する。
【0007】
利点は、グローバルストレス関数を最小化することにより、交通ができるだけスムーズに、かつできるだけ輻輳の少ない状態で流れることを可能にする信号機の切り替え時間を決定することである。量子コンセプトプロセッサの助けを借りて、多数の信号機の切り替え時間を、検討中の交通システム全体で可能な限り低くなるように同時に変調する。本明細書に記載する方法では、量子コンセプトプロセッサを用いて、最適化された切り替え時間の決定を特に迅速に決定することができ、その結果、増加した交通に対する迅速な反応が可能となり、輻輳およびグリッドロックされた交通を回避または少なくとも低減することができる。
【0008】
なお、交通負荷については、例えば、関連する道路セクションにおける車両密度を考慮する。さらに、例えば、道路セクションの交通ストレスに影響を与える可能性のある交通負荷の観点から、車種、車両サイズ、その他の記録可能なデータを記録することも可能である。
【0009】
交通ストレスとストレス関数は、例えば、道路セクションの渋滞の尺度である変数を記述する。例えば、ストレス関数は、道路セクションに現在存在する車両数と、道路セクションに負荷をかけずに許容できる車両の最大数との差を用いて計算される。代替的又は追加的に、排ガス値のような環境影響の尺度である値もまた、ストレス関数を決定するために使用することができる。グローバルストレス関数は、決定された全てのローカルストレス関数の和によって決定され得る。
【0010】
本明細書で使用されるように、量子コンセプトプロセッサは、最適化タスクの加速的実行のための量子アルゴリズムに基づくプロセッサである。例えば、量子アニーリングシミュレーションを用いて最適化問題を解くように設定されたプロセッサである。このようなプロセッサは、例えば、相補型金属酸化物半導体(CMOS)技術のような従来のハードウェア技術に基づいてもよい。このような量子コンセプトプロセッサの一例が、同社の「富士通」の「デジタルアニーラ」である。しかし、代替的に、他の量子プロセッサ、将来的には、実際の量子ビット技術に基づくものも、本明細書に記載される手順のために使用することができる。言い換えれば、量子コンセプトプロセッサは、古典的技術の特殊なプロセッサまたは量子アニーラ上で、QUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)関数を最小化する概念を実現するプロセッサである。
【0011】
信号機の切替時間として、例えば、各信号機の赤色相と緑色相の比(ratios of red to green phases of the respective traffic lights)が決定される。
【0012】
求められるグローバルストレス関数の最小値は、対応するストレス関数のローカル最小値または絶対的最小値のいずれかである。
【0013】
関連する道路セクションは、交通システムのすべての道路セクションとすることができる。あるいは、関連する道路セクションは、特に、特定の信号機の制御のみに関心があるか、可能である場合には、交通システムの道路セクションの一部にすぎないかもしれない。
【0014】
信号機は、例えば、対応するカラー信号(赤/緑)を使用して、車両の運転者に、関連する交差点で停止する必要があるか、またはそれを通過することができるかを示す視覚信号システムである。しかし、或いは、信号機は、交通の流れを制御するために使用される他の信号機であってもよい。例えば、それらは、例えば、交通流を制御するために非視覚的信号を使用する特殊な信号であってもよく、特に、自律的車両が交通システムにおいて支配的であるか又は排他的である場合には、そうである。
【0015】
切り替えモデルは、例えば、決定された切り替え時間に直接基づいてもよく、すなわち、各交通機は、最適化された切り替え時間として決定された切り替え時間に応じて直接的に切り替えされる。あるいは、これらの切り替え時間に基づいているが、さらに、個々の切り替え時間のオフセットなどのさらに別の関数を考慮した切り替えモデルを使用することも可能である。
【0016】
少なくとも1つの実施形態において、グローバルストレス関数は、二次最適化項、特に、Quadratic Unconstrained Binary Optimization(QUBO)項として定義される。
【0017】
有利にも、このような項は、量子コンセプトプロセッサを用いて最適化問題を解くのに特に適している。
【0018】
少なくとも1つの実施形態では、ローカルストレス関数の決定は、それぞれの関連する道路セクションに隣接する交通信号用の可能性のある異なる緑色相の選択された値に基づいて追加的に行われる。
【0019】
信号機の可能性のある異なる緑色相は、それぞれの信号機の赤色と緑色の比を表す。可能性のある異なる緑色相は、例えば、40%緑色対60%赤色、50%緑色対50%赤色、70%緑色対30%赤色、ならびに他の任意の赤色および緑色の互いに対する時間分布であり得る。隣接する信号機は、当該道路セクションに直接隣接する信号機であるが、当該道路セクションに隣接する交差点に存在する全ての信号機を含むこともできる。
【0020】
少なくとも1つの実施形態において、本方法は、交通システムの履歴データをロードするステップをさらに含み、ローカルストレス関数を決定するステップは、履歴データを考慮して行われる。
【0021】
有利にも、交通システムは、交通システムに関する経験値に基づいてさらに制御することができる。このようにして、例えば、より正確なローカルストレス関数を決定することができる。例えば、履歴データは、各交差点における最大交通フローを定義するため、または特定の経路を選択する車両の数に対応する各切り替え期間の値を決定するために使用される。さらに、履歴データは、各切り替え期間のための交通負荷をより正確に決定するために、または、切り替え期間当たりに、端にある各道路セクションに新しい車が何台出現するかのような交通システムの境界条件を指定するために使用することができる。代替的または追加的に、このような境界条件のために周期的境界条件を選択することができる、すなわち、交通システムに現れるのと同じ数の車両が交通システムを離れるという仮定を置くことができる。
【0022】
少なくとも1つの実施形態では、ローカルストレス関数を決定するステップ、グローバルストレス関数を決定するステップ、最適化された切り替え時間を決定するステップ、及び信号機を切り替えるステップは、周期的に繰り返され、次の切り替え期間に対して最適化された切り替え時間を、常に決定する。少なくとも一つのさらに別の実施形態において、代替的に又は追加的に、交通負荷の記録が周期的に繰り返される。
【0023】
ここで、最適化された切り替え時間を連続的に決定することができ、従って、交通システムの変化に対応することが可能であることが利点である。例えば、これらの値は、90秒毎に再測定される。あるいは、例えばラッシュアワー、休日、祝日など、交通時間に合わせて、より短い、またはより長い時間間隔を選択することもできる。
【0024】
第2の態様によれば、切り替え可能な信号機を有する複数の交差点と、前記交差点の間にある道路セクションとを有する交通システムを制御する装置は、
関連する複数の道路セクションの交通負荷を検出するように構成された少なくとも1つのセンサと、
関連する各道路セクションの検出された交通負荷に応じて、関連する各道路セクションのローカルストレス関数を決定するように構成され、前記ローカルストレス関数に基づいて前記交通システム全体のグローバルストレス関数を決定するように構成された計算部と、
関連する道路セクションに隣接する交差点の信号機の最適化された切り替え時間を決定するように構成された量子コンセプトプロセッサであって、最適化された切り替え時間は、前記グローバルストレス関数が検出可能な最小値に達するように決定される、量子コンセプトプロセッサと、
最適化された切り替え時間に基づく切り替えモデルに従って信号機を切り替えるように構成された切り替え装置とを有する。
【0025】
ここで適切なセンサは、例えば、関連する道路セクションの交通負荷をリアルタイムで連続的に記録するように構成されたセンサである。少なくとも1つの実施形態では、計算部は、さらに、各関連道路セクションの異なる切り替え時間について予測される交通負荷の関数として、各関連道路セクションについてのローカルストレス関数を決定するように構成される。
【0026】
第3の態様によれば、本発明は、コンピュータプログラムによって特徴付けられ、コンピュータプログラムは、コンピュータ装置によってプログラムが実行されると、コンピュータ装置に第1の態様による方法を実行させる命令を備える。
【0027】
第4の態様によれば、本発明は、第3の態様のコンピュータプログラムを含むコンピュータ読み取り可能記憶媒体により特徴付けられる。
【0028】
また、第1の態様の実施形態は、第2、第3、および第4の態様にあってもよく、その逆も可能であり、対応する効果を有する。
【0029】
本発明の例示的な実施形態は、概略図を参照して以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】交通システムの概略図を示す。
図2図1に示す交通システムを制御する方法のフローチャートを示す。
図3図1に示す交通システムを制御する装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、交通システム1の概略図である。交通システム1は、本明細書に開示されている本発明の説明を容易にするために、非常に単純化された形態で示されている。しかし、この非常に単純化された表現は、本発明の限定を意図するものではない。
【0032】
交通システム1は、複数の道路2を備えている。道路2は、東西方向及び南北方向に走っている。2つの道路2の各交わりは交差点3を構成する。
【0033】
交差点3は、数学的記述のために連続番号が付されている。「n」は西東方向の交差点3を示し、「m」は南北方向の交差点3を示す。西東方向は図1に示す座標系のx方向に対応し、南北方向は座標系のy方向に対応する。「n」は0からN - 1まで走り、Nは南北方向に走る道路2の総数を表す。「m」は0からM - 1まで走り、Mは西東方向に走る道路2の総数を表す。
【0034】
交差点3の間では、道路2は、道路セクション4によって形成される。各交差点3において、4つの流入道路セクション4が到着し、4つの流出道路セクション4が出発する。入出道路セクション4は、その方向に応じて番号が付されている:
東方向 (正のx方向):0
北方向 (正のy方向):1
西方向 (負のx方向):2
南方向 (負のy方向):3
道路セクション4は、各々が交差点3の流入出道路セクション4として、または対応する隣接交差点3の流出入道路セクション4として、それぞれ記述することができる。
outn,m,0=in(n+1)modN,m,2
outn,m,1=in(m+1)modM,3
outn,m,2=in(n-1)modN,m,0
outn,m,3=in(m-1)modM,m,1
ここで、”modN”および”modM”は、周期的境界条件を示すために使用される。
【0035】
以下、本発明の方法の説明及び本発明の装置の説明は、それぞれ、出路セクション4に基づいて行う。当然のことながら、同様に道路セクション4で考えること可能である。
【0036】
より簡単な説明のために、本明細書に示す例示的な実施形態では、切替可能な交通信号5が各交差点3に配置され、光信号によって道路利用者と通信する。道路セクション4には、道路2を走行し、信号機5を通過するか、そこで停車する車両6がある。
【0037】
ここに示す例示的な実施形態では、交通負荷ln,m,d(t)は、時刻tにおける出路セクション4「outn,m,d」上の複数の車両6を示す。
【0038】
西東方向x、南北方向yの交通システム1の道路2に沿った離散的なステップに対して、以下の補助関数を定義する:
xd:{0,1,2,3}->{-1,0,1};xd(0)=1,xd(1)=0,xd(2)=-1,xd(3)=0
yd:{0,1,2,3}->{-1,0,1};yd(0)=0,yd(1)=1,yd(2)=0,yd(3)=-1
例えば、xd(0)は、東方向のステップを表し、yd(3)は南方向、すなわち負のy方向のステップを表す。
【0039】
グローバルストレス関数Sは、交通システム1の過負荷の値を提供し、個々の道路セクション4のローカルストレス関数fの和である。グローバルストレス関数Sは、次のように定義できる:
【0040】
【数1】
ここで、ln,m,d(t)は交通負荷であり、fn,m,dは道路セクション4のローカルストレス関数であり、道路セクション4の位置はインデックスnとmによって特徴付けられ、方向はインデックスdによって特徴付けられる。各ローカルストレス関数の依存性は、記述を簡略化するように選択される。ストレス関数を決定するために、本方法は、各道路に割り当てることができるいくつかの異なるパラメータ、例えば、現在運転可能な速度および/または現在のCO排出量を考慮することができる。
【0041】
簡単にするために、本例ではローカルストレス関数fを以下のように定義する:
【0042】
【数2】
ここで、Vは、特定の道路セクション4に、渋滞やグリッドロックされた交通を招く可能性のある過剰な交通を生じさせることなく、特定の道路セクション4にあることができる車両6の最大数に対応する定数である。言い換えれば、Vは、特定の道路セクション4に、ストレスを生じさせることなくあることができる車両6の最大数である。簡単にするために、図示の例示的な実施形態における全ての道路セクション4について、同じ定数Vを仮定する。
【0043】
ローカルストレス関数fは、任意的に複雑にすることができ、所望の交通最適化(例えば、交通渋滞の軽減、排気ガス濃度の低減など)の必要性および要件に従って、交通システム1に対して設定することができる。交通負荷に加えて、ストレス関数は、交通スループット、排気排出物、騒音などの多くの他の影響変数にも依存し得る。例えば、ローカルストレス関数fは、例えば、道路固有の閾値及び累進関数を使用することによって、実際の交通システムにおける実際の条件に適合させることができる。
【0044】
ここで用いられるローカルストレス関数fの定義は、道路セクション4上の車両数6が定数Vを下回る限り、0の値を与える。道路セクション4上の車両数6が定数Vよりも大きい場合、車両数6が増加するにつれてローカルストレスが増加する。
【0045】
この場合のグローバルストレス関数は、次のように定義される:
【0046】
【数3】
ここで、各交差点3における出路セクション4のみを考慮するが、そうしなければ、全ての交差点3および全ての方向dにわたり合計するために、全ての道路セクション4が2回カウントされてしまう。
【0047】
説明を容易に理解できるようにするため、ここではさらに、全ての信号機5が共通のクロックサイクルを有し、信号機5間の位相シフトの影響は無視できると仮定する。しかし、代替的に、信号5のクロックサイクル間の位相シフト及び/又は異なるクロックサイクルも当然考慮することができる。
【0048】
特別な交通信号5のサイクル時間Tにおける緑色相λn,mの割合は、例えば、Rステップにおいて、rとモデル化される。ここで、rは0からR-1までの自然数であり、Rはステップrの総数である。信号機5のサイクルタイムTは、例えば、赤色相の始まりから信号機5の次の赤色相の始まりまでの秒単位の時間である。ここに示す例示的な実施形態では、固定サイクル時間Tが仮定され、これもまた、説明を単純化するために、全ての信号機5に対して同時にクロックされる。或いは、サイクルタイムTは、個々の信号機5に対しても変化させることができ、或いは、本明細書に示されている方法によってさらに最適化することができる。この目的のために、サイクル時間Tはまた、ローカルストレス関数fn,m,dを介して考慮され得る。
【0049】
緑色相λn,mは、
【0050】
【数4】
と定義され、特定の交差点3の信号機5が西東方向xで緑色に切り替わるサイクルタイムTの割合を示す。さらに、Tは、いわゆるクリアリング時間であり、信号機5の切り替えと、関連する交差点3のクリアとの間の経過時間を秒単位で示す。Tは、車両3が実際に交差点3を通過できる時間を秒単位で示す交通時間である。交通時間TはTT::T-2Tから計算される。さらに、交通流Fは、1秒間に1つの緑色相の間に、交差点3を1方向dに通過できる車両6の数を示す。
【0051】
次の時刻t+1における西東方向xの特定の道路セクション4の交通負荷lは、時刻tにおけるこの道路セクション4の現在の交通負荷l、すなわち、次のサイクル時Tにおける隣接道路セクション4の流入交通を加え、他の隣接道路セクション4への流出交通を差し引いたものである:
【0052】
【数5】
流入出交通は、ここでは、それぞれ、最小の関数として定義され、それによって、合計の流入または流出のいずれかの交通負荷lが、それぞれの信号機5を介して可能な最大の流入出交通より小さい場合に考慮され、または、そうでなければ、可能な最大の流入出交通が考慮される。
【0053】
従って、道路セクション4の交通負荷l及びその結果としてのローカルストレス関数fは、道路セクション4に隣接する交差点n,mの緑色相に対して選択される値λn,mと、道路セクション4に隣接する隣接交差点n+1,mの緑色相に対して選択される値λ(n+1)modN,mとに依存する。
【0054】
が中心交差点に対する緑色相λn,mのrの値であり、rが中心交差点に隣接する交差点に対する緑色相λn,mのrの値である場合、結果は次のようになる:
【0055】
【数6】
、rでは、時刻t+1における交差点n,mから東方向xへの道路セクション4の交通負荷lは以下で求められる:
【0056】
【数7】
一般に、すべての方向dに対して、この項は以下のように表すことができる:
【0057】
【数8】
時刻t+1におけるインデックス「n,m」の交差点3から方向dへの流出道路セクション4に対するローカルストレス関数は、次のようになる:
【0058】
【数9】
ここに示すローカルストレス関数fは、説明を容易に理解できるようにするため、交通システム1に関する比較的単純な仮定に基づいている。
【0059】
しかし、ローカルストレス関数fは拡張することができ、特に実際の交通システムへの適応を改善するために、いかなる複雑さにおいても表現することができる。この目的のために、例えば、交通システム1に関する統計的評価または人工知能による方法によって収集される履歴データを、ローカルストレス関数fについて考慮することもできる。また、例えば、実行時の履歴データに基づいて、ローカルストレス関数fを連続的に調整することも可能である。
【0060】
次に、緑色相のすべての可能な値λをビットモデルで表すことができる。
特定の信号機5に対して
【0061】
【数10】
の特定の値が選択された場合、対応するビットxn,m,r=1である。信号機5に対して別の値が選択された場合、xn,m,r=0である。
【0062】
しかし、緑色相の値λは、各交通信号5に対して正確に1つ選択されなければならず、すなわち、ビットxn,m,r(r=0,1,...、R-1)のうちの1つが1であり、他は0でなければならない。これは、次のHが最小化される場合である:
【0063】
【数11】
この場合、HはH=0で最小である。
【0064】
交通システム1のグローバルストレスを最小化するため、以下のHまたはHが最小化されるように
【0065】
【数12】
を選択しなければならない:
【0066】
【数13】
【0067】
【数14】
図2および図3を参照して、この最適化問題が本発明によってどのように解決され得るかを以下に説明する。
【0068】
図2は、図1による交通システム1を制御する方法100のフロー図を示す。
【0069】
第1のステップ101では、道路セクション4の交通負荷lが検出される。ここに示す例示的な実施形態では、交通システム1の全ての道路セクション4について交通負荷が検出される。代替的な実施形態では、関連する道路セクション4、すなわち、交通システム1の最適化が行われる道路セクション4の交通負荷のみを検出または考慮することも可能である。
【0070】
交通負荷lは、例えば、道路センサによって、浮動電話データ(FPD)又は浮動車両データ(FCD)によって検出される。追加的に又は代替的に、交通システム1の履歴データ、すなわち、以前の測定値からの経験値又は交通システムの交通に関して利用可能な他の値も、交通負荷lを検出するために使用することができる。
【0071】
第2のステップ102では、各道路セクション4の記録された交通負荷lの関数として、各道路セクション4についてローカルストレス関数fが決定される。道路セクション4のローカルストレス関数fを決定するために、この道路セクション4に隣接する交差点3の信号機5の電流切り替え時間も考慮することができる。言い換えると、次の切換サイクルで検討中の道路セクション4に車両6が何台入り、車両6が何台出るかを考慮することができる。
【0072】
第3のステップ103では、交通システム1全体についてのグローバルストレス関数Sが、流入及び流出する交差点における緑色相の可能な全ての比率のローカルストレス関数
【0073】
【数15】
に基づいて決定される。グローバルストレス関数Sは、ここでは交通システム1の輻輳または過負荷の尺度である。ここで、いくつかの道路セクション4の渋滞は、交通システム1の道路セクション4における可能なストレスのない車両6の最大数を超えない車両6の分布よりも全体的に高いグローバルストレス値を提供し、2番目の場合では、交通システム1において走行する車両6の総数がより多い場合であっても同様である。
【0074】
第4のステップ104では、量子コンセプトプロセッサを用いて、最適化された切り替え時間、すなわち、交差点3の信号機5の緑色相λの最適化された長さが決定される。これは、関数Hを最小化することによって行われ、Hは、ネットワークのすべての信号機において緑色部分に対するそれぞれの決定の下でグローバルストレスを表する。最適化された切り替え時間は、グローバルストレス関数Sが見出される最小値を仮定するように決定される。
【0075】
すなわち、グローバルストレス関数Sに対する最適化問題を解き、それにより、最適化問題を解くことは、交通システム1全体を考慮し、交差点3の個別の信号機5の切替時間を互いに独立に調整するだけではない。ここに示される方法100により、全ての(または全ての関連する)交通信号機5について最適化された切り替え時間が同時に決定され、従って、交通システム1全体について最良の可能なシステム状態、すなわち、可能な限り最小のグローバルストレスを有するシステム状態が決定される。
【0076】
ここに示す交通システム1では、交差点3のそれぞれに1種類の信号しか存在しない。しかし、ここに示された方法100は、各交差点3に異なる信号機を考慮するためにも使用することができる。例えば、信号機5に加えて、全部又は一部の交差点3に回転灯などがあってもよい。ここで、交差点3における異なる信号タイプに対して緑色相λを最適化するために、rに対して異なる値を選択することができる。これらの異なる値rは、例えば、互いに依存する。
【0077】
第5のステップ105では、最適化された切り替え時間に基づく切り替えモデルに従って信号機5が切り替えられる。切り替えモデルは、例えば、最適化された切り替え時間に直接基づいてもよく、すなわち、各信号機システム5は、最適化された切り替え時間に従って直接切り替えられる。あるいは、これらの最適化された切り替え時間に基づく切り替えモデルを使用することも可能であるが、これに加えて、例えば、オフセット、中間状態、例えば、黄色相、付加的な交通フロー、例えば、横断軌道車又は旋回レーン、又は類似のものを考慮に入れることも可能である。このような付加は、本明細書に示される方法100によっても最適化することができる。
【0078】
ここに示される方法100は、例えば、交通システム1の進行中の動作と並行して定期的に実行される。このようにして、現在の交通量に適合した信号機5の切替時間を常に決定することができる。例えば、方法100は、一定の時間が経過した後、例えば、90秒毎に、またはその後のサイクル時間の各サイクル時間TPにおいて実行される。このサイクル時間TPは、全ての信号機5に対して予め定義することができ、或いは、異なる信号機5に対して個別のサイクル時間TPがあってもよい。代替的に、または追加的に、方法100は、例えば、交通システム1内の交通量またはグローバルストレス値に依存して、動的に実行することもできる。
【0079】
サイクル・タイムTは、緑色相λに加えて、またはその代わりに最適化することもできる。この場合、各交差点3のサイクル時間Tのビットを最適化する関数に加えるか、上述のビットをそれで置き換える必要がある。サイクル時間Tはまた、ローカルストレス関数fについて考慮することができ、従って、特に、将来のローカルストレスf(t+1)に含まれる。
【0080】
さらに、切り替え位相、すなわち、異なる交通信号5のサイクル時間TP間のオフセットは、緑色相λおよびサイクル時間TPに加えて、または代替的に最適化することができる。この場合、各交差点3の切り替え位相のビットは、最適化する関数に加えるか、上述のビットをそれで置き換えなければならない。切り替え位相はローカルストレス関数fについても考慮することができ、従って、特に将来のローカルストレスf(t+1)に含まれる。
【0081】
図3は、図1による交通システム1を制御する装置7の概略図である。
【0082】
装置7は、道路セクション5の交通負荷lを記録することができるセンサ8を備えている。センサ8は、例えば、道路センサ、浮動電話データ(FPD)を収集するためのセンサ、または浮動車両データ(FCD)を収集するセンサである。
【0083】
また、装置7は、各道路セクション4の検出された交通負荷lに応じて、各道路セクション4のローカルストレス関数fを求めることができる計算部9を備える。さらに、計算部9は、ローカルストレス関数fに基づいて、交通システム1全体のグローバルストレス関数Sを求めることができる。例えば、計算部9として従来のコンピュータが使用される。計算部9は、ネットワーク10、例えばインターネットに接続されている。
【0084】
装置7は、さらに、量子コンセプトプロセッサ11を備えており、このプロセッサは、信号機5の最適化された切り替え時間を決定するように構成されており、最適化された切り替え時間は、グローバルストレス関数Sが、検出されるべき最小値を仮定するように決定される。
【0085】
本事例で使用される量子コンセプトプロセッサ11は、例えば、量子アニーリングシミュレーションによって最適化問題を解くように設定されたプロセッサである。このような量子コンセプトプロセッサ11は、例えば、従来の技術、例えば、相補型金属酸化物半導体(CMOS)技術に基づくことができる。しかし、代替的に、将来的には、真の量子ビット技術に基づくものを含む、任意の他の量子コンセプトプロセッサ11が、装置7に使用されてもよい。
【0086】
また、量子コンセプトプロセッサ11はネットワーク10に接続される。計算部9は、グローバルストレス関数Sをネットワーク10を介して量子コンセプトプロセッサ11に送信するように構成されている。次いで、量子コンセプトプロセッサ11は、決定された最適化された切り替え時間を、ネットワーク10を介して計算部9に送り返す。
【0087】
装置7はさらに、最適化された切り替え時間に基づく切り替えモデルに従って信号機5を切り替えるように構成された切り替えデバイス12を備える。切り替え装置12は、ここでは、計算部9に接続されているので、計算部は、最適化された切り替え時間に基づいて切り替え装置12を制御する。
【符号の説明】
【0088】
1 交通システム
2 道路
3 交差点
4 道路セクション
5 信号機
6 車両
7 装置
8 センサ
9 計算部
10 ネットワーク
11 量子コンセプトプロセッサ
12 切り替え装置
x 西東方向
y 南北方向
100 方法
101 - 105 ステップ
図1
図2
図3