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特許7394241積層造形用銅合金粉末とその評価方法、銅合金積層造形体の製造方法および銅合金積層造形体
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  • 特許-積層造形用銅合金粉末とその評価方法、銅合金積層造形体の製造方法および銅合金積層造形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】積層造形用銅合金粉末とその評価方法、銅合金積層造形体の製造方法および銅合金積層造形体
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20231130BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20231130BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231130BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20231130BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20231130BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20231130BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231130BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20231130BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20231130BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231130BHJP
   B22F 10/28 20210101ALN20231130BHJP
   B22F 10/36 20210101ALN20231130BHJP
   B22F 10/25 20210101ALN20231130BHJP
   B22F 10/362 20210101ALN20231130BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/08 B
B22F1/00 L
B22F1/05
B22F10/64
B22F10/34
B33Y10/00
B33Y80/00
B33Y70/10
C22F1/00 602
C22F1/00 628
C22F1/00 630C
C22F1/00 650F
C22F1/00 651A
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
B22F10/28
B22F10/36
B22F10/25
B22F10/362
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022572141
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045516
(87)【国際公開番号】W WO2022138233
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2020216764
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】松本 誠一
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 雄史
(72)【発明者】
【氏名】今井 堅
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠
(72)【発明者】
【氏名】櫛橋 誠
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/239655(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044073(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110872658(CN,A)
【文献】特開2018-154910(JP,A)
【文献】特開2018-197389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
C22F 1/08
C22F 1/00
B22F 1/00
B22F 1/05
B22F 10/64
B22F 10/34
B33Y 10/00
B33Y 80/00
B33Y 70/10
B22F 10/28
B22F 10/36
B22F 10/25
B22F 10/362
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形法により積層造形物を造形するために用いられる積層造形用銅合金粉末であって、
クロムを0.40~1.5重量%、および、銀を0.10~1.0重量%含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる積層造形用銅合金粉末。
【請求項2】
50%粒径(D50)が3~200μmである請求項1に記載の積層造形用銅合金粉末。
【請求項3】
JIS Z 2504の測定法で測定したときの粉末の見掛密度が3.5g/cm3以上である請求項1または2に記載の積層造形用銅合金粉末。
【請求項4】
せん断試験によって得られた破壊包絡線から求めた銅合金粉末の付着力が、0.600kPa以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の積層造形用銅合金粉末。
【請求項5】
ジルコニウムをさらに0~0.01重量%(ただし、ジルコニウムが0重量%および0.01重量%である場合を除く)含有する請求項1から4のいずれか1項に記載の積層造形用銅合金粉末。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により積層造形された、クロムを0.40~1.5重量%、および、銀を0.10~1.0重量%含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる銅合金積層造形体であって、
前記銅合金積層造形体を測定した導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)をX軸とY軸からなる2次元グラフにプロットした場合に、点(X,Y)が(Y=-6X+680)で示される境界線よりも高強度側および高導電率側に位置する銅合金積層造形体。
【請求項7】
請求項5に記載の積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により積層造形された、クロムを0.40~1.5重量%、銀を0.10~1.0重量%、および、ジルコニウムを0~0.01重量%(ただし、ジルコニウムが0重量%および0.01重量%である場合を除く)含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる銅合金積層造形体であって、
前記銅合金積層造形体を測定した導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)をX軸とY軸からなる2次元グラフにプロットした場合に、点(X,Y)が(Y=-6X+680)で示される境界線よりも高強度側および高導電率側に位置する銅合金積層造形体。
【請求項8】
70%IACS以上の導電率を有する請求項6または7に記載の銅合金積層造形体。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか1項に記載の積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により請求項6~8のいずれか1項に記載の銅合金積層造形体を積層造形する積層造形工程と、
前記銅合金積層造形体を、450~700℃で保持する時効処理工程と、
を含む銅合金積層造形体の製造方法であって、
前記時効処理工程は、時効処理温度が500℃未満の場合には、時効処理時間を0.5時間以上、10時間以下に設定し、時効処理温度が500℃以上の場合には、0.5時間以上、3時間以下に設定する銅合金積層造形体の製造方法。
【請求項10】
積層造形用銅合金粉末の評価方法であって、
評価対象の積層造形用銅合金粉末を用いて、銅合金積層造形体を積層造形する工程と、
前記銅合金積層造形体の導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)を測定する工程と、
導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)をX軸とY軸からなる2次元グラフにプロットした場合に、所定の造形条件で積層造形を行い、所定の時効処理を行った銅合金積層造形体の特性を示す点(X,Y)が(Y=-6X+680)で示される境界線よりも高強度側および高導電率側に位置するならば、当該評価対象の積層造形用銅合金粉末を高強度および高導電率の銅合金積層造形体を積層造形可能な積層造形用銅合金粉末として評価する工程と、
を含む積層造形用銅合金粉末の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用銅合金粉末、積層造形用銅合金粉末の評価方法、銅合金積層造形体の製造方法および銅合金積層造形体に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、アトマイズ法によって製造された1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する積層造形用の銅合金粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6389557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に銅合金の強度(硬さ)と導電率とはトレードオフの関係にあり、上記文献に記載の技術では、高強度かつ高導電率の銅合金積層造形体は得られていない。
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形用銅合金粉末は、
積層造形法により積層造形物を造形するために用いられる積層造形用銅合金粉末であって、
クロムを0.40~1.5重量%、および、銀を0.10~1.0重量%含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる積層造形用銅合金粉末である。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る銅合金積層造形体は、
上記積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により積層造形された、クロムを0.40~1.5重量%、および、銀を0.10~1.0重量%含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる銅合金積層造形体であって、
前記銅合金積層造形体を測定した導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)をX軸とY軸からなる2次元グラフにプロットした場合に、点(X,Y)が(Y=-6X+680)で示される境界線よりも高強度側および高導電率側に位置する銅合金積層造形体である。
また、上記目的を達成するため、本発明に係る銅合金積層造形体は、
上記積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により積層造形された、クロムを0.40~1.5重量%、銀を0.10~1.0重量%、および、ジルコニウムを0~0.01重量%(ただし、ジルコニウムが0重量%および0.01重量%である場合を除く)含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる銅合金積層造形体であって、
前記銅合金積層造形体を測定した導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)をX軸とY軸からなる2次元グラフにプロットした場合に、点(X,Y)が(Y=-6X+680)で示される境界線よりも高強度側および高導電率側に位置する銅合金積層造形体である。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形用銅合金粉末の評価方法は、
上記積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により上記銅合金積層造形体を積層造形する積層造形工程と、
前記銅合金積層造形体を、450~700℃で保持する時効処理工程と、
を含む銅合金積層造形体の製造方法であって、
前記時効処理工程は、時効処理温度が500℃未満の場合には、時効処理時間を0.5時間以上、10時間以下に設定し、時効処理温度が500℃以上の場合には、0.5時間以上、3時間以下に設定する銅合金積層造形体の製造方法である。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形用銅合金粉末の評価方法は、
積層造形用銅合金粉末の評価方法であって、
評価対象の積層造形用銅合金粉末を用いて、銅合金積層造形体を積層造形する工程と、
前記銅合金積層造形体の導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)を測定する工程と、
導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)をX軸とY軸からなる2次元グラフにプロットした場合に、所定の造形条件で積層造形を行い、所定の時効処理を行った銅合金積層造形体の特性を示す点(X,Y)が(Y=-6X+680)で示される境界線よりも高強度側および高導電率側に位置するならば当該評価対象の積層造形用銅合金粉末を高強度および高導電率の銅合金積層造形体を積層造形可能な積層造形用銅合金粉末として評価する工程と、
を含む積層造形用銅合金粉末の評価方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高強度かつ高導電率の銅合金積層造形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】特許文献1における積層造形体のビッカース硬さと導電率の関係および境界線を示すグラフである。
図2】本実施形態における積層造形用銅合金粉末の評価方法の手順を示すフローチャートである。
図3】本実施形態で用いられた積層造形用銅合金粉末における銅と銀の2元系合金状態図およびクロムと銀の2元系合金状態図である。
図4】本実施例と比較例において得られた銅合金積層造形体のビッカース硬さと導電率の関係および境界線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素は単なる例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
[第1実施形態]
本実施形態においては、積層造形用銅合金粉末の新たな評価方法について説明する。その前に、まず積層造形用銅合金粉末の現状について説明する。
【0013】
<積層造形用銅合金粉末の現状>
積層造形技術は、従来の加工技術では困難であった複雑な形状の製品の作製が可能であり、様々な分野での応用が期待されている。特に機械的特性等に優れる金属材料の適用が望まれている。
【0014】
金属材料の中でも銅は、優れた導電率、熱伝導率を有することから、ヒートシンクや熱交換器など複雑な形状を有している製品などへの積層造形法の適用が期待されている。しかし、これまでに積層造形用金属粉末として適用された材料は、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタン等およびその合金が主であり、銅および銅合金の適用例はまだ少ない。これは、銅は高い導電率および、高い熱伝導率を有しているが故に、積層造形時にレーザ等で入射した熱エネルギーが急速に放熱拡散してしまい、十分に溶融させることができず、高密度の積層造形体を得ることが難しかったからである。
【0015】
これに対して特許文献1では、アトマイズ法によって製造された1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する積層造形用の銅合金粉末が開示されている。この銅合金粉末は、製造に際して溶融状態から急冷凝固されることで過飽和にクロムが固溶しているため、熱拡散・放熱性が低下し、熱伝導率が低下することから、低出力の造形装置を用いても容易に溶融させて造形を行うことができる。そして積層造形時には造形領域は一旦溶融後、急冷凝固されることでクロムが過飽和に固溶した状態になっているため、積層造形体を時効処理することで、基質である銅からクロムが析出し、それに伴い銅基質の純度が上昇し、導電率が向上するとともに、析出強化による強度向上を同時に図ることができる。
【0016】
特許文献1の実施例によれば、強度が最大となる450~500℃時効において、導電率47.64~73.96%IACS、ビッカース硬さ213.3~259.8Hvという硬さと導電率を有する銅合金積層造形体が得られている。
【0017】
<積層造形用銅合金粉末の評価方法>
しかしながら、一般に銅合金の強度、硬さと導電率はトレードオフの関係にあり、例えば特許文献1に記載された積層造形体の場合においてビッカース硬さと導電率の関係を整理すると、図1のようになる。図1は、特許文献1における積層造形体のビッカース硬さと導電率の関係および境界線を示すグラフである。
【0018】
図1に示すように、ビッカース硬さY(Hv)と導電率X(%IACS)との関係が、下記(1)式で表される境界線に対して下部の領域、すなわち、低強度側かつ低導電率側の領域にとどまる。特許文献1の場合も含め、一般に時効処理温度を高めるか、もしくは時効処理時間を長くすることで導電率を向上させることはできるが、過時効となって析出したクロム粒子が粗大化し強度は大幅に低下してしまう。これはすなわち、強度が最大となる時効処理条件では、銅基質中からクロムが完全に析出し切れておらず、基質中に固溶限以上のクロムが残留していることを示している。
【0019】
[数1]
Y=-6X+680 (1)
【0020】
実用的な積層造形用銅合金には、高密度化を実現して銅本来の優れた導電率を発現させるだけではなく、導電率と機械的強度とをより高いレベルで両立することが望まれている。しかし、上述のごとく、導電率と強度の間にはトレードオフの関係があるため、両特性を両立させることは容易ではなく、例えば特許文献1においては、上記(1)式で表される境界線に対して上部の領域、すなわち、高強度側かつ高導電率側の領域にあるような積層造形用銅合金は得られていない。
【0021】
本実施形態においては、導電率と機械的強度とをより高いレベルで両立することを目指す上で、高強度かつ高導電率であることを具体的に表す基準として、式(1)を目安としている。導電率(%IACS)をX軸、ビッカース硬さ(Hv)をY軸に置き、特性をグラフ上にプロットすることで強度と導電率のバランスをX-Yグラフ上の一次関数から評価することができる。強度と導電率の間にはトレードオフの関係があり、導電率が高まるほどビッカース硬さは低下することから、X-Yグラフ上においては、負の傾きを有する一次関数として表すことができる。
【0022】
金属においては、導電率と熱伝導率はほぼ比例関係にあることが、ウィーデマン・フランツの法則として知られている。よって、本発明の積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により積層造形された銅合金積層造形体は、優れた導電率を有することから、高熱伝導率を有する銅合金積層造形体としても使用可能である。
【0023】
(積層造形用銅合金粉末の評価方法の手順)
図2は、本実施形態における積層造形用銅合金粉末の評価方法の手順を示すフローチャートである。
【0024】
図2のステップS201においては、評価対象の積層造形用銅合金粉末により積層造形のための粉末層の形成処理を行う。そして、ステップS202において、評価対象の積層造形用銅合金粉末により積層造形可能な粉末層ができるか否かを判定する。スキージング性が悪く積層造形可能な粉末層ができない場合は、ステップS209において、積層造形用銅合金粉末としては不十分であると評価する。
【0025】
一方、スキージング性が十分であり積層造形可能な粉末層ができる場合は、ステップS203において、評価対象の積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置などを用いて積層造形体を製造する。ステップS204においては、製造された積層造形体の導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)を測定する。ステップS205においては、測定された導電率X(%IACS)およびビッカース硬さY(Hv)を軸とする2次元グラフ(図1参照)上のプロット点(X,Y)が、境界線(Y=-6X+680)の上領域(Y≧-6X+680)か否かを判定する。
【0026】
上領域(Y≧-6X+680)であれば、ステップS207において、積層造形用銅合金粉末として十分であると評価する。一方、下領域(Y<-6X+680)であれば、ステップS209において、積層造形用銅合金粉末としては不十分であると評価する。
【0027】
本実施形態の積層造形用銅合金粉末の評価方法によれば、高強度かつ高導電率の銅合金積層造形体を得る積層造形用銅合金粉末の評価をすることができる。
【0028】
[第2実施形態]
本実施形態においては、第1実施形態の積層造形用銅合金粉末の評価方法において、十分に満足する結果が得られた積層造形用銅合金粉末について説明する。
【0029】
<高評価であった材料>
本実施形態においては、上記(1)式で表される境界線よりも上部の領域、すなわち、高強度側かつ高導電率側の領域における特性を実現可能とする原料粉末の製造方法、および、その原料粉末とその原料粉末を用いて得られる積層造形体を提供する。
【0030】
本発明者らは上記(1)式で表される境界線よりも上部の領域、すなわち、高強度側かつ高導電率側の領域を目指し、その結果、銅-クロム合金に銀を加えた三元系合金にすることによって、上記(1)式で表される境界線よりも上部の領域、すなわち、高強度側かつ高導電率側の領域における特性を有する合金を見出した。
【0031】
すなわち、高導電率と高い機械的強度をバランス良く高いレベルで両立するためには、比較的低い時効処理温度においてもクロムを十分に析出させ切ることが必要となる。基質である溶媒元素中から溶質元素の析出を促進するには、溶質元素の化学ポテンシャルを上昇させることが有効である。そのため、基質中のクロムの化学ポテンシャルを上昇させるような元素を銅-クロム合金に添加すれば、元素同士の反発相互作用が高まってクロムの化学ポテンシャルが上がり、クロムの析出を促すことができると考えられる。そこで、クロムの化学ポテンシャルを上昇させる元素を銅-クロム合金に第三元素として添加することを検討した。種々の元素の中から、高い反発相互作用を有する第三元素の候補を探索し、銀を見出した。銀はクロムおよび基質である銅の双方とも高い反発相互作用を有する可能性があることが図3の状態図から類推されることから、少量でもクロムの化学ポテンシャル上昇に有効に作用すると考えられる。また、銀は銅に対する合金元素の中でも、基質の比抵抗を増加させる効果が最も少ない元素の一つであり、銅-クロム合金中に第三元素として添加しても、導電率への影響を最小限に抑えられると期待できる。以上のことから、本発明者らは銅-クロム合金に銀を第三元素として添加することに想到し、鋭意検討を加えて本発明を完成させるに至った。
【0032】
上述した検討に基づき、本実施形態においては、高導電率と高強度とを高いレベルで両立できる積層造形用銅合金粉末およびその積層造形体を提供することが可能となった。
【0033】
より具体的には、本実施形態の積層造形用銅合金粉末は、クロムを0.40~1.5重量%、および、銀を0.10~1.0重量%含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる銅合金粉末である。
【0034】
また、本実施形態の積層造形用銅合金粉末は、50%粒径が3~200μmである。
【0035】
また、本実施形態の積層造形用銅合金粉末は、JIS Z 2504の測定法で測定したときの、粉末の見掛密度が3.5g/cm3以上である。
【0036】
また、本実施形態の積層造形用銅合金粉末は、せん断試験によって得られた破壊包絡線から求めた銅合金粉末の付着力が、0.600kPa以下である。
【0037】
また、本実施形態の積層造形用銅合金粉末は、さらにジルコニウムを0~0.20重量%(ただし、ジルコニウムが0重量%である場合を除く)含有させることができる。
【0038】
本実施形態の銅合金積層造形体は、本実施形態の積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により積層造形されてなり、クロムを0.40~1.5重量%、および、銀を0.10~1.0重量%含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる。
【0039】
また、本実施形態の銅合金積層造形体は、本実施形態の積層造形用銅合金粉末を用いて、積層造形装置により積層造形されてなり、クロムを0.40~1.5重量%、銀を0.10~1.0重量%、および、ジルコニウムを0~0.20重量%(ただし、ジルコニウムが0重量%である場合を除く)含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる。
【0040】
本実施形態の銅合金積層造形体は、70%IACS以上の導電率を有する。
【0041】
本実施形態の銅合金積層造形体の製造方法は、本実施形態の銅合金積層造形体を、450~700℃で保持する時効処理工程をさらに含む。
【0042】
本実施形態の積層造形用銅合金粉末は、銅-クロム合金に第三元素として銀を添加したことにより、上記(1)式で表される境界線に対して上部の領域、すなわち、高強度側かつ高導電率側の領域にある、導電率と機械的強度に優れた銅合金積層造形体が製造可能となる。
【0043】
(本実施形態の積層造形用銅合金粉末)
本実施形態の積層造形用銅合金粉末の製造方法は特に限定されないが、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法、プラズマアトマイズ法、プラズマ回転電極法等のように、粉末粒子が溶融状態から急冷凝固される方式が好ましい。量産性の点からは、ガスアトマイズ法が特に好ましい。製造した粉末は、公知の分級方法によって、所定の分級条件にて分級し、適切な粒度の積層造形用銅合金粉末に調整することができる。分級を実施するための分級装置としては、気流分級機を好適に用いることができる。
【0044】
析出強化型銅合金である銅-クロム合金では、基質である銅に過飽和固溶したクロムが時効処理によって析出し、銅合金の強度が向上する。高い機械的強度を有する銅合金積層造形体を得るためには、クロムの含有量は0.40重量%以上が好ましい。0.40重量%未満の場合には、時効処理において析出量が不十分となり、強度向上の効果を十分に得られない。銅に対するクロムの固溶限は約1076℃の共晶温度で0.7~0.8重量%と言われていて、その量は小さいが、粉末製造方法としてアトマイズ法など金属を溶解して急速凝固させる製法を用いた場合、固溶限以上のクロムを銅基質中に含ませることができる。また、粉末床溶融法の積層造形法を用いた場合、その工程上、レーザもしくは電子ビームによる溶融と急速凝固が行われるため、銅基質中に固溶限以上のクロムを含有させたまま積層造形体を作製することができる。ただし、クロムの含有量が1.5重量%を超えて含有した場合、さらなる機械的強度向上の効果が得られるが、導電率の大幅な低下を招いてしまう。そのため、クロムの含有量は1.5重量%以下が好ましい。
【0045】
銀は上述のように、クロムの化学ポテンシャルを上昇させ、元素同士の反発相互作用を高めてクロムの析出を促すと考えられる重要な元素である。銀の含有量が0.10重量%未満の場合は、クロムの析出が不十分となり、本発明の高強度かつ高導電率をバランス良く同時に満たすことができない。銀の含有量が1.0重量%を超える場合には、銀の比率が高まるが、銀を増やしても特性上大きな効果は得られない。また、高価な銀を過剰に含有することでコストの増加を招く。そのため、銀の含有量は0.10重量%以上、1.0重量%以下とするのが好ましく、0.20重量%以上、0.50重量%以下とするのがより好ましい。
【0046】
本実施形態の積層造形用銅合金粉末の製造における品質の向上および、積層造形体の品質安定性を向上させることを目的として、さらにジルコニウムを含有させることができる。ジルコニウムは脱酸剤として作用し、品質を低下させる酸素と結び付いて化合物を形成することでその影響を抑制することができる。ただし、ジルコニウムは銀との親和性が高く、前出の銀の効果を低減させてしまうため、ジルコニウムの含有量は、0.20重量%以下とするのが好ましい。
【0047】
なお、本実施形態の積層造形用銅合金粉末には、クロム、銀以外に、不可避的不純物が含まれる場合がある。不可避的不純物は、積層造形用銅合金粉末の製造工程において、不可避的に混入するものであり、例えば、酸素、リン、鉄、アルミニウム、ケイ素、チタン等が挙げられる。これらの不可避的不純物は、導電率を低下させるおそれがあるため、0.10重量%以下とすることが好ましく、0.05重量%以下とすることがより好ましく、さらに0.01重量%以下とすることがより好ましい。
【0048】
積層造形用として用いられる粉末には、ホッパーから造形ステージ上への供給工程や、一定の厚みで均一に敷き詰められた粉末層を形成する工程、溶融凝固の工程など、積層造形の各プロセスに適合していることが要求される。そのため、以下の条件が必要とされる。その条件とは、適切な範囲内に調整された粒径、適切な範囲内の見掛密度、供給ホッパーからの供給が可能であり、かつ、適切な粉末層を形成可能とする粉末の流動性である。
【0049】
積層造形用銅合金粉末の50%粒径は、レーザ回折法で測定したときの体積基準の積算粒度分布における、粉末の積算値50%粒径(いわゆるメジアン径、D50)のことであり、3~200μmの範囲に含まれることが好ましい。50%粒径が3μm未満の場合には、粉末の流動性がなく、レーザ方式粉末床溶融法の積層造形装置においても粉末床を形成できない。また、粉末が激しく飛散して積層造形体に再付着するなど表面欠陥が生じてしまう。レーザ方式粉末床溶融法で積層造形する場合は50%粒径が100μmより大きい場合、電子ビーム方式粉末床溶融法で積層造形する場合は50%粒径が200μmより大きい場合は、粉末床の表面が荒れて造形に適切な粉末床を形成できない。また、積層造形体の表面が粗くなり外観不良を生じさせ、ビーム照射時に粉末層に生じたメルトプールが直下の凝固層にまで達せず、不十分な溶融凝固となり、造形不良を引き起こしてしまう。レーザ方式粉末床溶融法においては、50%粒径は3~100μmであることが好ましく、5~75μmであることがより好ましく、さらに10~45μmであることがより好ましい。電子ビーム方式粉末床溶融法においては、50%粒径は10~200μmであることが好ましく、25~150μmであることがより好ましく、さらに45~105μmであることがより好ましい。
【0050】
積層造形用銅合金粉末の見掛密度は、JIS Z 2504の測定法で測定したときの粉末の見掛密度が3.5g/cm3以上であることが好ましい。見掛密度が3.5g/cm3未満の場合、スキージングによって敷き詰められた粉末層の粉末充填率が低下して適切な粉末層を形成できない。また、粉末の充填性が低下することで、積層造形体に空孔が生じて積層造形体の密度が低下してしまう。
【0051】
積層造形法においては、流動性が特に重要とされる粉末特性である。特に粉末床溶融法では、供給ホッパーからの粉末供給および、リコータからの粉末供給、造形ステージ上での粉末層の形成と、積層造形体の品質にも直結する最も重要な粉末特性である。粉末床溶融法では、造形ステージ上に粉末を一定の厚みで均一に敷き詰める必要がある。この粉末を敷き詰める工程はスキージングと呼ばれており、粉末の敷き詰め性の良し悪しをスキージング性と呼ぶ。積層造形法にて用いられる粉末には十分なスキージング性が必要であり、そのためには粉末に適切な流動性が必要とされる。金属粉末の流動性を測定する指標として、JIS Z 2502「金属粉-流動度測定方法」の定める流動度(FR:Flow Rate)が用いられるが、レーザ方式粉末床溶融法向けとして主に使用される50%粒径が50μm以下の微粉では、粉末が測定容器から流出せず測定不可となり、流動性を評価できない場合がある。そのため、微粉の流動性を評価する指標としては、日本粉体工業技術協会規格(SAP15-13:2013)「粉体の一面せん断試験方法」にて規定されている、粉体の一面せん断試験方法(以下、せん断試験)により得られる粉末の付着力を使用することが有効である。付着力は、せん断試験において、垂直方向に圧密して形成させた粉体層を垂直方向に加圧した状態で、水平方向に横滑りさせた時に生じるせん断応力を測定することで、得られた粉体層の破壊包絡線から求めることができる。せん断試験は、例えば、フリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメータFT4を用いることで測定することができる。積層造形用銅合金粉末については、その付着力が0.600kPa以下であれば、均一な粉末層を敷き詰めることができる十分な流動性を有し、スキージング性が良好であると判断することができる。これによって、高密度で均質な積層造形体が得られる。付着力が0.600kPaより大きい場合は、積層造形用銅合金粉末の流動性が十分ではなく、スキージング性は不良となって適切な粉体層を形成することができない。よって、積層造形用銅合金粉末においては、せん断試験によって得られた破壊包絡線から求めた銅合金粉末の付着力が、0.600kPa以下であることが望ましい。
【0052】
(本実施形態の銅合金積層造形体)
銅合金積層造形体の作製には、種々公知の金属積層造形技術を用いることができる。例えば粉末床溶融法では、金属粉末を造形ステージにブレードあるいはローラーなどでならして敷き詰めて粉末層を形成し、形成した粉末層の所定位置にレーザあるいは電子ビームを照射して金属粉末を焼結・溶融させる工程を繰り返しながら積層造形体の作製を行う。金属積層造形の造形プロセスにおいては、高品質な積層造形体を得るために非常に多数のプロセスパラメータを制御する必要がある。レーザ方式粉末床溶融法においては、レーザ出力やレーザの走査速度など多数の走査条件が存在する。そこで、最適な走査条件を設定するにあたり、主要なパラメータを総括した指標であるエネルギー密度を用いて、主要パラメータの調整を行う。エネルギー密度E[J/mm3]は、レーザの出力をP[W]、レーザの走査速度をv[mm/s]、レーザ走査ピッチをs[mm]、粉末層の厚みをt[mm]とすると、E=P/(v×s×t)により決定される。レーザ方式粉末床溶融法においては、エネルギー密度は150J/mm3以上450J/mm3以下が好ましい。エネルギー密度が150J/mm3未満の場合、粉末層に未溶融や融合不良が生じ、積層造形体に空隙などの欠陥が生じてしまう。エネルギー密度が450J/mm3を超える場合、スパッタリングが生じて粉末層の表面が不安定となり、積層造形体に空隙などの欠陥が生じてしまう。電子ビーム方式粉末床溶融法においては、電子ビームを粉末層に照射した際に、粉末層に負電荷が蓄積されてチャージアップすると、粉末が霧状に舞い上がるスモーク現象が引き起こされてしまい、溶融不良につながってしまう。そのため、チャージアップを防ぐために粉末層を予備加熱して仮焼結させる予備工程が必要とされる。ただし、予備加熱温度が高過ぎる場合、焼結が進行してネッキングを引き起こし、造形後に積層造形体内部から残留した粉末を除去するのが困難となる。このため、積層造形用銅合金粉末においては、予備加熱温度は400~800℃に設定するのが好ましい。なお、ここでは粉末床溶融法による金属積層造形技術を例示したが、本発明の積層造形用銅合金粉末を用いて積層造形体を作製する一般的な積層造形方法としては、これに限定されるものではなく、例えば、指向性エネルギー堆積法による積層造形方法を採用してもよい。
【0053】
(時効処理)
積層造形体に時効処理を施すことで過飽和に固溶したクロムが析出し、積層造形体の強度が向上し導電率が向上する。そのため時効処理工程は、本発明の高強度かつ高導電率の特性を得るためには必須の工程である。時効処理は、積層造形体を所定の温度に加熱し、所定の時間保持することで実施できる。時効処理は還元性雰囲気もしくは不活性ガス中、真空で行うことが好ましい。時効処理の効果は、時効処理温度と時効処理時間の組み合わせで決まるので、目的とする特性と効率との兼ね合いで、適切な条件を設定することが重要である。時効処理温度は450℃以上、700℃以下が好ましい。より好ましくは500℃以上、700℃以下である。機械的強度を特に向上させたい場合には500℃とすることが好ましい。特に高い導電率を得たい場合には700℃にすることもできる。時効処理時間は、時効処理温度が500℃未満の場合には、0.5時間以上、10時間以下に設定するのが好ましく、時効処理温度が500℃以上の場合には、0.5時間以上、3時間以下に設定するのが好ましい。時効処理時間が上記の設定時間未満の場合には、クロムの析出が不十分となる。また、時効処理温度が上記の設定時間を超える場合には、過時効となって析出したクロムが粗大化し、硬さの低下を招く。時効処理温度が450℃未満の場合には、時効効果が得られるまでに長時間を要し、実用的ではない。また、時効処理温度が700℃を超える場合には、過時効となり、クロムの析出相が粗大化して強度が低下してしまう。本発明の積層造形用銅合金粉末を用いて作製した積層造形体においては、クロムと銀の反発相互作用によって、時効処理温度500℃で1時間程度の時効処理時間でも十分に導電率および機械的強度を向上させることが可能である。
【0054】
(銅合金積層造形体の評価)
ビッカース硬さは「JIS Z 2244:ビッカース硬さ試験-試験方法」に準拠した方法により測定される。ビッカース硬さは例えば、株式会社島津製作所製の微小硬さ試験機HMV-G21-DTなどにより測定することができる。
【0055】
積層造形体は、70%IACS以上の導電率を有する。導電率は、例えば渦流式導電率計などによって測定することができる。渦流式導電率計としては例えば、日本マテック株式会社製の高性能渦流式導電率計シグマチェックなどが挙げられる。なお、IACS(International Annealed Copper Standard)とは、導電率の基準として、国際的に採択された焼鈍標準軟銅(体積抵抗率:1.7241×10-2μΩm)の導電率を、100%IACSとして規定されたものである。導電率は、時効処理によって調整することができ、所望するビッカース硬さとの兼ね合いによって適宜調整することが好ましい。導電率は80%IACS以上が好ましく、より好ましくは90%IACS以上である。
【0056】
本実施形態によれば、高強度かつ高導電率の銅合金積層造形体が得られる積層造形用銅合金粉末、および、その銅合金積層造形体を提供できる。
【0057】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【実施例
【0058】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例、比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0059】
ガスアトマイズ法により以下の表1に示した各種組成の積層造形用銅合金粉末を製造し、得られた各種銅合金粉末を、レーザ方式粉末床溶融法向けとして粒径10μm以上45μm以下に、電子ビーム方式粉末床溶融法向けとして粒径45μm以上105μm以下となるように分級した。
【0060】
ICP発光分光分析法により、得られた積層造形用銅合金粉末における成分元素の含有量を測定した。また、JIS Z 2504に準じて、得られた積層造形用銅合金粉末の見掛密度(AD)(g/cm3)を測定した。また、JIS Z 2502に準じて、得られた積層造形用銅合金粉末の流動度(FR)(sec/50g)を測定した。また、レーザ回折法により50%粒径(D50)(μm)を測定した(マイクロトラックMT3300:マイクロトラックベル株式会社製)。
【0061】
パウダーレオメータFT4(フリーマンテクノロジー社製)を用いてせん断試験を実施し、得られた積層造形用銅合金粉末の付着力(kPa)を測定した。得られた積層造形用銅合金粉末のスキージング性は、3D粉末積層造形機(粉末床溶融法/レーザ方式もしくは電子ビーム方式)の造形ステージにて実際に、造形試験に供する粉末を敷き詰めて粉末層を形成することで評価した。実施例1~11および比較例1~12に用いた積層造形用銅合金粉末について、各種粉末特性の測定結果を表1に示した。比較例1の銅合金粉末は、スキージング性が不良のためスキージングが不可となり積層造形を実施することができなかった。
【0062】
【表1】
【0063】
上記実施例1~7、11および比較例2~12における積層造形用銅合金粉末を用いて、波長1064nmのYbファイバーレーザ搭載の3D粉末積層造形機(SLM Solutions GmbH、SLM280HL)にて試験に供する積層造形体を作製した。積層造形は、積層厚25~50μm、レーザ出力300~700W、走査速度900~1500mm/sec、エネルギー密度150~450J/mm3の条件で行った。上記実施例8~10における積層造形用銅合金粉末を用いて、電子ビーム搭載の3D粉末積層造形機(ArcamAB、EBM A2X)にて試験に供する積層造形体を作製した。積層造形は、積層厚50~100μm、電子ビーム電圧60kV、予備加熱温度600~700℃の条件で行った。
【0064】
上記の3D粉末積層造形機を用いてφ14mm、高さ10mmである円柱状の積層造形体を作製した。作製した積層造形体の密度を、置換媒体としてヘリウムガスを使用したアルキメデス法により測定し(AccuPyc1330:株式会社島津製作所製)、理論密度(積層造形体と同じ組成を有する溶製材の密度)を100%として相対密度(%)を算出した。測定結果は表1に示した。比較例2~4の積層造形用銅合金粉末を用いて得られた積層造形体では、表面欠陥や空隙が多く、信頼性の高い密度測定を行えなかった。よって、以下の積層造形体の特性評価からは除外した。
【0065】
積層造形法とは異なる溶製方法を用いて造形体を作製した場合の、造形体の特性に及ぼす影響を比較するため、公知の溶製方法にて造形体である溶製材を作製し評価を行った。溶製方法としてアーク溶解法を用いた。本発明の積層造形用銅合金粉末を使用して、アーク溶解を行い、アーク溶製材を作製した。アーク溶製材は以下に示した通りに作製した。まず、実施例1に用いた積層造形用銅合金粉末をプレス成形し、圧粉体を作製した。作製した圧粉体を日新技研株式会社製の真空アーク溶解炉を用いて、アルゴン雰囲気中でアーク溶解し、アーク溶製材を作製した。このアーク溶製材を比較例13とした。
【0066】
3D粉末積層造形機にて製造した実施例1~11および比較例5~12の積層造形体、およびアーク溶解にて作製した比較例13のアーク溶製材について、導電率(%IACS)を渦流式導電率計で測定した(高性能渦流式導電率計 シグマチェック:日本マテック株式会社製)。また、各積層造形体およびアーク溶製材のビッカース硬さ(Hv)を、微小硬さ試験機で測定した(微小硬さ試験機HMV-G21-DT:株式会社島津製作所製)。
【0067】
作製した積層造形体およびアーク溶製材に、不活性雰囲気中で、400、450℃に温度を設定して8時間、および500、600、700℃に温度を設定して1時間の時効処理を施した。時効処理を施した積層造形体およびアーク溶製材の導電率を、渦流式導電率計で測定した。また、ビッカース硬さを微小硬さ試験機で測定した。3D粉末積層造形機にて製造した実施例1~11および比較例5~12の積層造形体および比較例13のアーク溶製材について、各種特性の評価結果を表2に示した。
【0068】
【表2】
【0069】
そして、表2の各種特性の評価結果から、図1と同様の図4を生成した。図4は、本実施例と比較例において得られた銅合金積層造形体のビッカース硬さと導電率の関係および境界線を示すグラフである。
【0070】
(実施例および比較例の評価)
比較例5および6では銀を含有していない銅-クロム合金のため、本発明の高強度かつ高導電率をバランス良く同時に満たすことができていない。同様に比較例11では銀を含有していない銅-クロム-ジルコニウム合金のため、本発明の高強度かつ高導電率をバランス良く同時に満たすことができていない。比較例7では銀の含有量が本発明の含有量を下回っているため、本発明の高強度かつ高導電率をバランス良く同時に満たすことができていない。比較例8では本発明のクロムの含有量を満たしておらず、強度、導電率ともに高い値が得られていない。比較例9はクロムを十分に含有しているが、銀の含有量が過少であるため、本発明の高強度かつ高導電率をバランス良く同時に満たすことができていない。比較例10は十分な量の銀を含有しているが、1.76重量%ものクロムを含有するため高いビッカース硬さを示すものの、導電率は低く、本発明の高強度かつ高導電率をバランス良く同時に満たすことができていない。比較例12は十分な量のクロムおよび銀を含有しているが、ジルコニウム量が過剰のため、導電率が低下し、本発明の高強度かつ高導電率をバランス良く同時に満たすことができていない。
【0071】
アーク溶解にて作製した比較例13では、実施例1と同じ原料粉末を用いているが、高い導電率は得られているものの、ビッカース硬さは積層造形によって作製した実施例1の値を下回り、式(1)を上回ることはできていない。
【0072】
これに対して、実施例1~11においては、高強度かつ高導電率をバランス良く同時に実現している。
【0073】
以上のことから、本実施例によれば、優れた導電率と強度を実現できる積層造形用銅合金粉末および導電率と強度に優れた銅合金積層造形体を提供可能であることが確認された。また、上記の比較例13におけるアーク溶製材との比較から、積層造形法を用いることには強度向上等の特性向上をもたらす利点が認められ、製法としての優位性があると考えられる。
【0074】
この出願は、2020年12月25日に出願された日本国特許出願 特願2020-216764号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
図3
図4