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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】監査証跡の管理システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20231130BHJP
【FI】
G06Q50/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023151771
(22)【出願日】2023-09-19
【審査請求日】2023-09-25
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315001682
【氏名又は名称】岩井ファルマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 正貴
(72)【発明者】
【氏名】森 良樹
【審査官】松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-194452(JP,A)
【文献】特開2010-042350(JP,A)
【文献】特開2007-241490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品、飲料又は食品を製造する処理装置と、
複数のステップからなる制御プログラムを実行することで前記処理装置を制御する制御装置と、
前記制御装置にデータを入力可能な入力装置と、
監査証跡を記録する監査証跡記録手段と、
前記監査証跡の妥当性を検証する妥当性検証手段と、を備える監査証跡の管理システムであって、
前記制御装置は、作業員による前記入力装置を介した操作により前記制御プログラムの前記ステップを次に進めることが可能であり、
前記監査証跡記録手段は、一の前記ステップ(以下、前ステップ)が完了して前記操作によって次の前記ステップ(以下、次ステップ)を実行する前に、
前記前ステップで制御対象であった前記処理装置の位置を表す第1位置情報と、
前記次ステップに進めるための操作が入力された前記入力装置の位置を表す第2位置情報と、
を監査証跡として記録し、
前記妥当性検証手段は、監査証跡に含まれる前記第1位置情報と前記第2位置情報から、操作がなされた前記入力装置の位置と前記処理装置との位置が所定範囲以内であるならば、当該監査証跡は妥当であると判定する
ことを特徴とする監査証跡の管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載する監査証跡の管理システムにおいて、
前記監査証跡記録手段は、前記前ステップが完了して前記操作によって前記次ステップを実行した際に、
前記前ステップの完了時と、前記次ステップの完了時との時間であるステップ時間を監査証跡として記録し、
前記妥当性検証手段は、監査証跡に含まれる前記第1位置情報と前記第2位置情報から、操作がなされた前記入力装置の位置と前記処理装置との位置が所定範囲外であり、かつ前記ステップ時間が所定時間以上であれば、当該監査証跡は妥当である判定する
ことを特徴とする監査証跡の管理システム。
【請求項3】
請求項1に記載する監査証跡の管理システムにおいて、
前記制御プログラムは、複数の運転モードを有し、
前記妥当性検証手段は、運転モードごとに異なる前記所定範囲を用いる
ことを特徴とする監査証跡の管理システム。
【請求項4】
請求項2に記載する監査証跡の管理システムにおいて、
前記制御プログラムは、複数の運転モードを有し、
前記妥当性検証手段は、運転モードごとに異なる前記所定時間を用いる
ことを特徴とする監査証跡の管理システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載する監査証跡の管理システムにおいて、
前記操作を実行するための理由を入力するための理由入力画面を前記入力装置に表示させ、前記理由入力画面を介して入力された理由を取得する理由取得手段を備え、
前記監査証跡記録手段は、前記ステップが完了した際に前記理由取得手段により取得した前記理由を監査証跡として記録し、
前記妥当性検証手段は、前記理由に応じて設定された前記所定範囲を用いる
ことを特徴とする監査証跡の管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、飲料又は食品を製造する設備において、監査証跡の妥当性を管理することができる監査証跡の管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品を製造する設備には、各種の処理目的に応じた処理装置、処理装置の運転データを取得するセンサー等、及び処理装置を制御するための制御装置が配備されている。制御装置は制御プログラムを実行することで、各種処理装置を動作させ、目的とする医薬品を製造する。
【0003】
制御プログラムは、製造工程を実現するための複数のステップからなり、そのうちいくつかのステップは作業員の操作によって次ステップに進むようになっている。制御プログラムは、例えば、原料を投入する工程、攪拌工程を実現するための各ステップを次のように進捗させる。
原料投入工程 ステップ1:タッチパネルなどの入出力装置に、原料をタンク(処理装置の一例)投入させる旨の情報を表示する。
原料投入工程 ステップ2:作業員が実際に原料の投入を終えた際に押すべきボタンなどのGUI部品を入出力装置に表示する。
原料投入工程 ステップ3:作業員がボタンを押したら原料投入口工程を終了し、次の攪拌工程に進む。
【0004】
このようなステップが行われる設備では、処理装置の運転データや、各ステップの実行状況である作業データを記録している。運転データや作業データを監査証跡と称する。監査証跡は、医薬品を製造するステップには、医薬品に関するデータの改ざんや不正な操作が行われていないことを証明するものとなる。
【0005】
制御装置とタッチパネルは、互いにネットワークを介して接続可能である。設備構成や保守作業のためなどの理由により、処理装置の近くに配置されたタッチパネルだけではなく、遠くに配置されたタッチパネルからでも、上述の2の入力を可能とすることがある。このような制御装置やタッチパネル等を用いた設備において、作業員が例えば一階に配置されたタンクに原料を投入する作業を行って、二階に配置されたタッチパネルで上述の2の操作がなされたとする。この場合、製品の品質上問題ないとしても、定められた標準的な作業(以下、標準作業)から逸脱しており、妥当な作業が行われていないと捉えることもできる。
【0006】
このように製造工程としては正常に進んでいるように見えても標準作業から逸脱しているといった事態は、製造管理の観点から把握しておかなければならない。従来では、妥当な作業が行われているか否か、換言すれば作業を記録した監査証跡が妥当であるかを検証する管理システムが提案されているが(特許文献1参照)、作業対象となる処理装置の場所と、制御プログラムのステップを進めるための操作がなされるタッチパネルの場所との位置関係を考慮して監査証跡の妥当性を検証するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-194452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、医薬品、飲料又は食品の製造設備において、処理装置の場所と、制御プログラムのステップを進めるための操作がなされる入力装置の場所との位置関係に基づいて監査証跡の妥当性を検証することができる監査証跡の管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための態様は、医薬品、飲料又は食品を製造する処理装置と、複数のステップからなる制御プログラムを実行することで前記処理装置を制御する制御装置と、前記制御装置にデータを入力可能な入力装置と、監査証跡を記録する監査証跡記録手段と、前記監査証跡の妥当性を検証する妥当性検証手段と、を備える監査証跡の管理システムであって、前記制御装置は、作業員による前記入力装置を介した操作により前記制御プログラムの前記ステップを次に進めることが可能であり、前記監査証跡記録手段は、一の前記ステップ(以下、前ステップ)が完了して前記操作によって次の前記ステップ(以下、次ステップ)を実行する前に、前記前ステップで制御対象であった前記処理装置の位置を表す第1位置情報と、前記次ステップに進めるための操作が入力された前記入力装置の位置を表す第2位置情報と、を監査証跡として記録し、前記妥当性検証手段は、監査証跡に含まれる前記第1位置情報と前記第2位置情報から、操作がなされた前記入力装置の位置と前記処理装置との位置が所定範囲以内であるならば、当該監査証跡は妥当であると判定することを特徴とする監査証跡の管理システムにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、医薬品、飲料又は食品の製造設備において、処理装置の場所と、制御プログラムのステップを進めるための走査がなされる入力装置の場所との位置関係に基づいて監査証跡の妥当性を検証することができる監査証跡の管理システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】監査証跡の管理システムの概略構成図である。
図2】監査証跡の管理システムの機能を示すブロック図である。
図3】制御プログラムの一例を示す図である。
図4】監査証跡の一例を示す図である。
図5】監査証跡の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、監査証跡の管理システム1の概略構成図である。本実施形態の管理システム1は、医薬品を製造する設備を対象とする。設備は、医薬品を製造するための様々な処理装置と、処理装置から運転データを計測する計測装置から構成されている。
【0013】
タンク2は、タンク2の投入口から原料が供給され、該原料を内部に貯留する装置である。タンク2には、攪拌装置3、冷却装置4、送液装置5及び洗浄装置6など各種装置が設けられ、または接続されている。これらのタンク2、攪拌装置3、冷却装置4、洗浄装置6及び送液装置5は処理装置の一例であり、これらをまとめて処理装置2~6と称する。
【0014】
攪拌装置3は、タンク2の内部に配置されたスクリューを回転させて原料を攪拌する動作を行う。攪拌装置3には、タンク2内部の原料を攪拌する際のスクリューの回転数や回転時間などがPLC10から制御信号として与えられる。そして、攪拌装置3は、その制御信号を受信し、設定された回転数及び回転時間でタンク2内の原料を攪拌するように構成されている。また、攪拌装置3からの情報、例えば、実際の回転数や回転を始めてからの経過時間などは、PLC10に送信され、PLC10はその情報を読み取ることが可能となっている。
【0015】
冷却装置4は、タンク2の内部に貯留された原料の温度を冷却するための装置である。冷却装置4は、PLCから与えられた温度となるように原料を冷却する。
【0016】
送液装置5は、タンク2に貯留された原料を、他の処理装置(図示せず)に移送させるための装置である。例えば、タンク2内に圧縮した空気を供給するポンプや、その空気が流通する配管に設けられた弁などである。送液装置5には、ポンプの出力や、弁の開度などがPLC10から制御信号として与えられる。そして、送液装置5は、その制御信号を受信し、設定された出力でポンプを動作させ、設定された開度で弁を開けるように構成されている。
【0017】
洗浄装置6は、タンク2に水や洗浄液を供給してタンク2やそれに接続された配管などの各種機器を洗浄する動作を行う。洗浄装置6には、タンク2に供給する水や洗浄液の量や、洗浄時間などがPLC10から制御信号として与えられる。そして、洗浄装置6は、その制御信号を受信し、設定された量の水で、設定された洗浄時間、タンク2内部を洗浄するように構成されている。また、洗浄装置6からの情報、例えば、水や洗浄液の量、洗浄を開始してからの経過時間などは、PLC10に送信され、PLC10はその情報を読み取ることが可能となっている。
【0018】
温度センサー7及び計量器8は計測装置の一例であり、これらをまとめて計測装置7~8と称する。温度センサー7は、タンク2の内部に貯留された原料の温度を計測する動作を行う。すなわち、タンク2内部の原料の温度を計測し、その温度をPLC10に送信するように構成されている。また、計量器8は、内部に貯留された原料を計量する動作を行う。すなわち、タンク2内部の原料の重量を計測し、その重量をPLC10に送信するように構成されている。
【0019】
これらの処理装置2~6の動作によりタンク2において原料が混合され、その原料は他の処理装置(特に図示せず)にて所定の処理が実行され、設備全体で医薬品が製造されるようになっている。
【0020】
図2に示すように、管理システム1は、このような処理装置2~6及び各種計測装置7~8を備えた設備の制御装置として、PLC10及びタッチパネル20を備えている。
【0021】
PLC10は、プログラマブルコントローラ又はシーケンサとも称される装置である。PLC10は、CPU11及びメモリ12を備え、メモリに記憶された制御プログラムを読み取り実行することで、処理装置2~6を制御する。制御プログラムは、メモリから処理装置2~6を制御するための設定値を読み取り、設定値で稼動するように処理装置2~6を制御する。
【0022】
タッチパネル20は、PLC10に接続されており、所定の画面を表示するとともに、操作者の操作を検出する。具体的には、タッチパネル20は、CPU21、入出力部22及びメモリ23を備えている。タッチパネル20は、ネットワークを通じてPLC10と接続可能となっている。
【0023】
本実施形態の管理システム1では二台のタッチパネル20A、タッチパネル20Bを備えている。これらを区別しない場合はタッチパネル20と称する。タッチパネル20Aはタンク2の近くに配置され、タッチパネル20Bはタンク2からは遠くに離れて配置されているとする。もちろん、タッチパネル20は二台に限定されず、管理システム1は二台以上の複数のタッチパネル20を備えていてもよいし、タッチパネル20の配置に限定はない。
【0024】
タッチパネル20はネットワークを介してPLC10とデータの送受信が可能となっている。PLC10から各タッチパネル20に画面を表示することが可能となっており、また、各タッチパネル20からPLC10に、例えばボタンなどGUI部品を操作したというデータや、GUI部品を操作して生成した文字や数値などのデータを送信することが可能となっている。
【0025】
入出力部22は、具体的には、表示装置と、その表示装置の表面に触れた操作を検出するための検出機構とから構成されている。表示装置は、液晶パネルや有機ELなど公知の表示装置を用いることができる。また、検出機構は、抵抗膜方式や静電容量方式など公知のものを用いることができる。
【0026】
メモリ23には、タッチパネル20を動作させるためのプログラムが記憶されており、CPU21はこのプログラムをメモリ23から呼び出して実行する。また、タッチパネル20は、PLC10のメモリ12を読み書き可能となっている。このため、タッチパネル20のプログラムは、PLC10に記憶された設定値を入出力部22に表示したり、入出力部22の操作に基づいて変更された新たな設定値をPLC10のメモリ12に書き込むことが可能となっている。
【0027】
また、PLC10には、メモリ12には、制御プログラム30、監査証跡記録部40、妥当性検証部50及び監査証跡60が記憶されている。
【0028】
図3に制御プログラムの例を示す。制御プログラム30は、製品を製造するために処理装置2~6を動作させるためのプログラムである。制御プログラム30は、ラダー回路などの言語で記述されている。制御プログラム30は、複数のステップからなり順次実行されるが、一部のステップについては作業員がタッチパネル20に対して行った操作により次に進めることが可能となっている。このような作業員の操作があったら次のステップに進むステップを確認ステップと称する。
【0029】
ステップ[1]~[3]は、「原料投入工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
ステップ[1]:原料投入を促す旨の情報をタッチパネル20に表示する。作業員はその情報をみて実際に原料をタンク2に投入する。
【0030】
ステップ[2]:タンク2に投入された原料の重量を確認するステップである。具体的には、制御プログラム30は、計量器8により得られたタンク2に投入された原料の重量、当該重量が規定通りであるならば押すべきボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[3]に進む。ステップ[2]は作業員の操作があったら次のステップ[3]に進む確認ステップの一つである。
【0031】
ステップ[3]:原料投入が完了したことを確認するステップである。具体的には、制御プログラム30は、原料投入が完了したなら押すべきボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[4]に進む。ステップ[3]は確認ステップの一つである。
【0032】
ステップ[4]~[6]は、「攪拌工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
【0033】
ステップ[4]:攪拌に関する設定値、例えば攪拌装置3の回転数(rpm)や攪拌する時間などを確認させるステップである。具体的には攪拌に関する設定値、当該設定値が規定通りであるならば押すべきボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[4]に進む。ステップ[4]は作業員の操作があったら次のステップ[5]に進む確認ステップの一つである。
【0034】
ステップ[5]:攪拌装置3にタンク2内を攪拌させるステップである。具体的には設定値に基づいて所定の命令を実行することで攪拌装置3を動作させる。
【0035】
ステップ[6]:攪拌が完了したことを確認するステップである。具体的には、制御プログラム30は、攪拌が完了したなら押すべきボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。作業員は目視などにより攪拌後の原料の状態を確認し、当該ボタンを押す。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[7]に進む。ステップ[6]は確認ステップの一つである。
【0036】
ステップ[7]~[8]は、「冷却工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
ステップ[7]:冷却装置4にタンク2内の原料を所定温度まで冷却させるステップである。具体的には設定値に基づいて所定の命令を実行することで冷却装置4を動作させる。
【0037】
ステップ[8]:冷却が完了したことを判定するステップである。具体的には、制御プログラム30は、冷却を開始してから所定条件が成立したら冷却が完了したと判定する。所定条件とは例えば冷却を開始してからの時間であったり、温度センサー7で計測されたタンク2の原料の温度が所定温度になったか否かである。冷却が完了したら次のステップ[9]に進む。このようなステップは、タッチパネル20に対する作業員の操作によらずに次ステップに進むため、確認ステップではない。
【0038】
ステップ[9]~[10]は、「移送工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
【0039】
ステップ[9]:タンク2内の原料を他の処理装置へ移送するために送液装置5を制御するステップである。
【0040】
ステップ[10]:移送が完了したことを判定するステップである。具体的には、制御プログラム30は、移送を開始してから所定条件が成立したら移送が完了したと判定する。所定条件とは例えば移送を開始してからの時間であったり、計量器8で計測されたタンク2の原料の重量がゼロとなったか否かである。移送が完了したら次のステップ[11]に進む。このようなステップは、タッチパネル20に対する作業員の操作によらずに次ステップに進むため、確認ステップではない。
【0041】
ステップ[11]~[12]は、「洗浄工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
【0042】
ステップ[11]:タンク2内を洗浄する洗浄装置6を制御するステップである。
【0043】
ステップ[12]:洗浄が完了したことを判定するステップである。具体的には、制御プログラム30は、洗浄を開始してから所定条件が成立したら洗浄が完了したと判定する。所定条件とは例えば洗浄を開始してからの時間などである。洗浄が完了したらタンク2における一連の製造工程が終了する。
【0044】
監査証跡記録部40は、運転データ及び作業データを監査証跡としてメモリ12に記録する。具体的には、監査証跡記録部40は、PLC10により実行されるプログラムであって、計測装置7~8から運転データを得て、得た時刻と共にメモリ12に記録し、作業員が行った作業データをメモリ12に記録するものである。
【0045】
運転データとは、計測装置7~8から得られるデータである。PLC10が上述したような制御プログラムを実行することで処理装置2~6が動作して医薬品の製造が行われるが、この間、計測装置7~8からタンク2内の原料の重量や温度が運転データとして得られる。
【0046】
作業データは、製造工程を構成するステップの実行状況を表すデータである。具体的には、日時、処理装置を特定するためのデータ、実行されたステップを表すデータが作業データとなる。また、作業員の操作が必要となるステップについては、作業を行った作業員を特定するデータ、作業員が次ステップに進めるために操作したタッチパネル20を特定するためのデータも作業データに含まれる。
【0047】
処理装置を特定するためのデータ(以下、第1特定データ)とは、処理装置を特定するためのIDや名称などであり、さらに処理装置の位置を表す第1位置情報が関連づけられている。
【0048】
タッチパネル20を特定するためのデータ(以下、第2特定データ)とは、タッチパネル20を特定するためのIDや名称などであり、さらにタッチパネル20の位置を表す第2位置情報が関連づけられている。表1に、第1特定データ・第2特定データと、第1位置情報・第2位置情報との関連付けの例を示す。
【表1】
【0049】
例えば、第1特定データは「タンク2」という名称であり、第1位置情報として「1階」が関連づけられている。第2特定データは「タッチパネル20A」「タッチパネル20B」という名称であり、第2位置情報として「1階-タンク2前」「2階-制御室」が関連づけられている。表1のような関連付けされたデータはメモリ12に予め記録されている。
【0050】
なお、本実施形態の監査証跡記録部40は、PLC10により実行され、監査証跡をPLC10のメモリ12に記録するものであるが、このような態様に限定されない。例えば、監査証跡をメモリ12に記録するのではなく、一般的なパーソナルコンピューターなどに通信手段を介して送信し、そのパーソナルコンピューターで監査証跡を記録するようにしてもよい。他にも、監査証跡記録部40は、一般的なパーソナルコンピューパーソナルコンピューターグラムとし、通信手段を用いて計測装置7~8から運転データを得たり、PLC10から作業データを得て、それらを監査証跡として記録する構成でもよい。
【0051】
図4に監査証跡のうちの作業データの例を示す。各行は監査証跡である作業データを表している。N行目の監査証跡を監査証跡[N]と表記する。
【0052】
監査証跡[1]、[5]、[7]~[12]は、PLC10によりステップ1、ステップ5、ステップ7~12が実行されたことと、そのステップが実行完了した日時を含む作業データが監査証跡として記録されたことを表している。
【0053】
監査証跡[2]は、ステップ2に係る作業データを表している。作業員Aが原料を投入した後、タンク2内の原料の重量を確認し、重量を確認したという操作をタッチパネル20Aで行うと、ステップ2からステップ3に進行する。このステップ2、ステップ3のそれぞれは請求項に記載の「前ステップ」、「次ステップ」に相当する。監査証跡記録部40は、原料投入を行った「作業員A」を記録する。「作業員A」とは、作業員を特定する情報の一例であり、タッチパネル20Aの操作に先だって作業員を認証することにより得られる情報である。
【0054】
また、監査証跡記録部40は、
・第1特定データとしてステップ2(前ステップ)で制御対象であった「タンク2」
・第1特定データに対応する第1位置情報である「1階」
・第2特定データとしてステップ3(次ステップ)に進めるための操作(タッチパネル20Aに表示されたボタンを押すなど)が行われた「タッチパネル20A」
・第2特定データに対応する第2位置情報である「1階-タンク前」
を監査証跡(作業データ)として記録する。
【0055】
なお、第1特定データは、予め、各ステップと、ステップが制御対象とする処理装置とを関連づけてメモリ12に記録させておき、その記録を参照することで得ることができる。また、タッチパネル20Aにおいて作業員が操作を行ったというデータがタッチパネル20AからPLC10に送られるようになっているので、PLC10は送信元の「タッチパネル20A」を第2特定データとすることができる。
【0056】
このように、監査証跡[2]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(原料投入、重量確認)を行って、「タッチパネル20A」にて次のステップ3へ進むための操作を行ったことを表している。監査証跡[3][4][6]についても同様である。
【0057】
監査証跡[3]は、ステップ3に係る作業データを表している。作業員Aが原料の投入を完了したという操作をタッチパネル20Aで行うと、ステップ3からステップ4に進行する。このとき、監査証跡記録部40は、原料投入を行った「作業員A」を記録する。また、監査証跡記録部40は、作業員Aが作業した対象である「タンク2」を第1特定データとして記録し、重量を確認したという操作が行われた「タッチパネル20A」を第2特定データとして記録する。つまり、監査証跡[3]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(原料投入完了)を行って、「タッチパネル20A」にて次のステップ4へ進むための操作を行ったことを表している。
【0058】
監査証跡[4]は、ステップ4に係る作業データを表している。作業員Aが攪拌のための設定値を確認したという操作をタッチパネル20Aで行うと、ステップ4からステップ5に進行する。このとき、監査証跡記録部40は、設定値を確認した「作業員A」を記録する。また、監査証跡記録部40は、作業員Aが確認した対象である「タンク2」を第1特定データとして記録し、設定値を確認したという操作が行われた「タッチパネル20A」を第2特定データとして記録する。つまり、監査証跡[4]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(設定値確認)を行って、「タッチパネル20A」にて次のステップ5へ進むための操作を行ったことを表している。
【0059】
監査証跡[6]は、ステップ6に係る作業データを表している。作業員Aが、攪拌が完了したことを確認したという操作をタッチパネル20Bで行うと、ステップ6からステップ7に進行する。このとき、監査証跡記録部40は、攪拌完了の確認をした「作業員A」を記録する。また、監査証跡記録部40は、作業員Aが確認した対象である「タンク2」を第1特定データとして記録し、設定値を確認したという操作が行われた「タッチパネル20B」を第2特定データとして記録する。つまり、監査証跡[6]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(攪拌完了の確認)を行って、「タッチパネル20B」にて次のステップ7へ進むための操作を行ったことを表している。
【0060】
妥当性検証部50は、PLC10により実行されるプログラムであって、メモリ12から監査証跡を読み出し、その妥当性を検証するものである。もちろん、本実施形態の妥当性検証部50は、このような態様に限定されない。例えば、妥当性検証部50は、一般的なパーソナルコンピューターなどで実行されるプログラムであってもよい。この場合、妥当性検証部50は、通信手段を用いて制御装置10から監査証跡を得たり、又はパーソナルコンピューターに記録された監査証跡を得て、検証する構成となる。
【0061】
妥当性検証部50は、具体的には、次のように監査証跡が妥当性の検証をする。まず、監査証跡をメモリ12から読み取り、監査証跡に含まれる第1位置情報と第2位置情報から、操作がなされたタッチパネル20の位置と処理装置であるタンク2との位置が所定範囲以内であるならば、当該監査証跡は妥当であると判定する。
【0062】
例えば、図4に示した監査証跡[2]については、表1を参照することで、第1位置情報は第1特定データに関連づけられた「1階」、第2位置情報は第2特定データに関連づけられた「1階-タンク2前」を得ることができる。所定範囲としては、任意に定めればよいが、作業対象のタンク2と、操作したタッチパネル20との距離が許容できる範囲であるものを適宜設定すればよい。ここでは所定範囲を「同一階」とする。監査証跡[2]は第1位置情報及び第2位置情報は何れも「1階」であり同一階であることから所定範囲以内であると判定し、監査証跡[2]は妥当であると判定する。つまり、監査証跡[2]からは作業員がタンク2で作業(原料投入、重量の確認)を行い、そのタンク2から近くに配置されたタッチパネル20Aに対して次ステップに進むように操作していると判定でき、妥当な作業がなされていると判定できる。
【0063】
一方、図4に示した監査証跡[6]については、表1を参照することで、第1位置情報は第1特定データに関連づけられた「1階」、第2位置情報は第2特定データに関連づけられた「2階-制御室」を得ることができる。監査証跡[6]は第1位置情報及び第2位置情報は同一階でないことから所定範囲以内にはないと判定し、監査証跡[6]は妥当でないと判定する。つまり、監査証跡[6]からは作業員がタンク2で作業(攪拌完了の確認)を行ったものの、そのタンク2から遠くに配置されたタッチパネル20Bに対して次ステップに進むように操作していると判定でき、妥当とは言えない作業がなされていると判定できる。
【0064】
また、妥当性検証部50は、第1位置情報及び第2位置情報に加えて、ステップ間の時間(以後、ステップ時間)が所定時間以上であるかを基準として監査証跡が妥当であるかを判定してもよい。
【0065】
例えば、図4の監査証跡[6]については次のように妥当性を判定する。まず妥当性検証部50は、ステップS5(前ステップ)の完了時と、監査証跡[6]として記録されたステップS6(次ステップ)の完了時とからステップ時間を計算する。この場合、ステップ時間は「9:45:00」から「9:50:00」までの「5分」である。
【0066】
次に、妥当性検証部50は、監査証跡[6]に含まれる第1位置情報と第2位置情報が所定範囲外であり、かつステップ時間が所定時間以上であれば、監査証跡[6]は妥当であると判定する。所定時間としては、任意に定めればよいが、前ステップの完了時に作業員が居る場所として想定される処理装置(タンク2付近)の場所から、操作したタッチパネル20Bへ移動するのに必要な時間を設定することが好ましい。ここでは所定時間を「3分」とする。
【0067】
この場合、妥当性検証部50は、ステップ時間は所定時間以上であるから、妥当性検証部50は、監査証跡[6]を妥当であると判定する。つまり、ステップ6の対象のタンク2と、次ステップに進めるための走査をしたタッチパネル20Bが遠くても、作業員がタンク2からタッチパネル20Bに移動するまでに十分な時間が経過しているので妥当な作業と判定できる。
【0068】
一方、図4の監査証跡[6]に関するステップ時間が「1分」であったとすると、通常は「3分」は掛かるところ、作業員がタンク2からタッチパネル20Bに移動するまでに要する時間が短すぎることから妥当とは言えない作業がなされていると判定できる。
【0069】
また、妥当性検証部50は、運転モード毎に異なる所定範囲、所定時間を用いてもよい。具体的には、設備は複数の運転モードで稼動可能であり、PLC10で実行される制御プログラム30は、複数の運転モードを有している。つまり、処理装置2~6などからなる設備は、装置構成が同じであっても、目的に応じて異なる動作が可能である。運転モードとしては、通常運転モード、洗浄モード、メンテナンスモードなどである。通常運転モードは医薬品を製造する運転モードであり、洗浄モードは各種処理装置2~6にCIP/SIPを実行する運転モードであり、メンテナンスモードは各種処理装置2~6のメンテナンスを実行するモードである。
【0070】
PLC10のメモリ12には、運転モードごとに異なる所定範囲、所定時間を予め設定しておく。そして、妥当性検証部50は運転モード毎に定められた所定範囲、所定時刻を読み出し、上述したような妥当性の検証を行う。これにより、例えば通常運転モードで得られた監査証跡、メンテナンスモードで得られた監査証跡が同じであったとしても、判定基準となる所定範囲分、所定時間が異なるので、妥当であるか否かの判断が異ならせることができる。これにより運転モードに合わせて柔軟に妥当性を判定することができる。
【0071】
さらに、妥当性検証部50は、監査証跡に含まれる理由に応じて設定された所定範囲を用いてもよい。具体的には管理システム1は、理由取得手段(図示せず)を含む。本実施形態の理由取得手段は、タッチパネル20で実行されるプログラムの一部として実装されている。もちろん、PLC10で実行される制御プログラムの一部として実装されていてもよい。
【0072】
理由取得手段は、ステップを実行する際に、作業員が行った作業をなぜ行ったかを表す理由を入力するための理由入力画面を表示する機能をタッチパネル20に実現させる。具体的には、理由取得手段は、予め定義された複数の理由の中から選択させるためのGUI部品からなる画面を入出力部22に表示させる。そして、理由取得手段は、作業者によって選択された理由をメモリ12に記憶する。メモリ12に記憶された理由は各ステップが実行されたときにPLC10へ送信され、監査証跡(作業データ)として記憶される。
【0073】
図5に理由を含む監査証跡の例を示す。ここでは、ステップ1の原料投入を行っただけでなく、臨時で原料を追加投入したとする。作業員は、ステップ3にて作業者がステップ4(次ステップ)に進行させるために操作をする際に、理由として「臨時の追加投入」を選択したとする。この結果、監査証跡[3]にはその理由が含まれることになる。
【0074】
妥当性検証部50は、通常であれば所定範囲として「同一階」を用いるところ、予め理由に応じて設定された異なる所定範囲を用いる。例えば「臨時の追加投入」に対応して定められた所定範囲が「1階差」であるとする。これは同一階または1階違いであれば所定範囲であるとするものである。図5の監査証跡[3]では第1位置情報「1階」、第2位置情報「2階」であるが、所定範囲「1階差」以内であるので、妥当であると判定される。このようにイレギュラーな作業が行われた場合であっても正当な理由があれば所定範囲を変更することで妥当であると判定することができる。
【0075】
以上に述べたように、本実施形態の管理システム1は、設備の監査証跡を記録すると共に、タンク2などの処理装置の場所と、タッチパネル20の場所との位置関係に基づいて監査証跡の妥当性を検証する。これにより、作業員の動線を踏まえて妥当な作業が行われたかどうかを検証することができる。
【0076】
本実施形態の管理システム1は、上記位置関係に加えてステップ時間が所定時間以上であるかを元にして妥当性を検証する。これにより、作業員の動線をより正確に捉えることができるので、監査証跡の妥当性の精度を向上することができる。
【0077】
本実施形態の管理システム1は、複数の運転モードがある設備において、運転モードに合わせて異なる所定範囲・所定時間を用いるので、運転モードに応じて柔軟に妥当性を判定することができる。
【0078】
本実施形態の管理システム1は、監査証跡に作業時の理由を含んでいる場合において、理由に応じた所定範囲を用いる。このため、例えばイレギュラーな作業が行われた場合であっても正当な理由があれば、監査証跡が妥当であると判定することができる。
【0079】
なお、上述した各実施形態では、医薬品を製造する設備における管理システムについて説明したが、これに限定されず、食品や飲料を製造する設備においても本発明は適用できる。
【0080】
第1位置情報、第2位置情報としては「1階」「タンク前」など場所を示す名称を用いたが、これに限らない。例えば第1位置情報、第2位置情報は平面視でみたときの2次元座標や、3次元座標であってもよい。所定範囲としては同一階、1階差など設備の構造に基づいた条件としたがこれに限定されない。例えば処理装置とタッチパネルとの全組み合わせについて所定範囲に含まれるか含まれないかを表すデータを定義しておき、当該データを参照することで所定範囲以内に含まれるか否かを判定してもよい。また、第1位置情報及び第2位置情報を座標で表す場合は、所定範囲を距離で表してもよい。
【0081】
タッチパネル20は請求項の入力装置の一例であるが、これに限定されない。PLC10に接続可能であり入力可能な装置であればよく、キーボードやマウスなども入力装置として用いてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…管理システム、10…PLC(制御装置)、20…タッチパネル、30…制御プログラム、40…監査証跡記録部(監査証跡記録手段)、50…妥当性検証部(妥当性検証手段)
【要約】
【課題】医薬品、飲料又は食品の製造設備において、処理装置の場所と、制御プログラムのステップを進めるための操作がなされる入力装置の場所との位置関係に基づいて監査証跡の妥当性を検証することができる監査証跡の管理システムを提供する。
【解決手段】PLC10は、作業員によるタッチパネル20を介した操作により制御プログラムのステップを次に進めることが可能であり、監査証跡記録部40は、次ステップに進めるための操作が入力されたタッチパネル20の位置を表す第1位置情報と、前ステップで制御対象であったタンク2等の処理装置の位置を表す第2位置情報と、を監査証跡として記録し、妥当性検証部50は、監査証跡に含まれる第1位置情報と第2位置情報から、操作がなされたタッチパネル20の位置とタンク2との位置が所定範囲以内であるならば、当該監査証跡は妥当であると判定する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5