(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】溶接条件設定支援装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
B23K9/095 515A
(21)【出願番号】P 2021524831
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2020021553
(87)【国際公開番号】W WO2020246416
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019106355
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】近藤 暁靖
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 靖啓
(72)【発明者】
【氏名】國丸 楓
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-126274(JP,A)
【文献】特開2014-014857(JP,A)
【文献】特開2012-174083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークと電極との間に電圧を印加することでワークと電極との間にアークを発生させてアーク溶接を行う際に前記アーク溶接の溶接条件の設定を支援する装置であって、
前記アーク溶接時に前記ワークを撮影した動画を構成する複数の入力画像のそれぞれに対し、明るさを示す画素値が所定の閾値を超える画素が複数個連続する領域をスパッタとして検出するスパッタ検出処理を行うスパッタ検出ステップと、前記スパッタ検出ステップにおけるスパッタの検出回数が所定の基準回数以上となる前記動画上の位置を背景輝点として特定する背景輝点特定ステップと、前記複数の入力画像の1つについて、前記スパッタ検出処理によって検出されたスパッタのうち、前記背景輝点特定ステップによって特定された背景輝点で検出されたスパッタを除いたスパッタの数の特定を行うスパッタ数特定ステップとを実行する画像処理部を備えていることを特徴とする溶接条件設定支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接条件設定支援装置において、
前記背景輝点特定ステップは、前記スパッタ検出ステップにおいて検出されたスパッタの中心座標を算出し、中心座標として算出される回数が前記所定の基準回数以上となる前記動画上の座標を背景輝点として特定するものであり、
前記スパッタ数特定ステップは、前記複数の入力画像の前記1つについて、前記スパッタ検出処理によって検出されたスパッタのうち、前記背景輝点特定ステップによって特定された背景輝点を中心座標とするスパッタを除いたスパッタの数の特定を行うものであることを特徴とする溶接条件設定支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接条件設定支援装置において、
前記画像処理部は、前記所定の閾値を、第1の閾値と当該第1の閾値よりも大きい第2の閾値とに設定して前記スパッタ検出ステップを実行し、
前記背景輝点特定ステップは、前記所定の閾値を前記第1の閾値に設定した前記スパッタ検出ステップにおけるスパッタの検出回数が前記所定の基準回数以上となる前記動画上の位置を背景輝点として特定するものであり、
前記スパッタ数特定ステップは、前記複数の入力画像の前記1つについて、前記所定の閾値を前記第1の閾値に設定したスパッタ検出処理によって検出されたスパッタのうち、前記所定の閾値を前記第2の閾値に設定したスパッタ検出処理によって検出されたスパッタと、前記背景輝点特定ステップによって特定された背景輝点で検出されたスパッタとを除いたスパッタの数の特定を行うものであることを特徴とする溶接条件設定支援装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接条件設定支援装置において、
前記スパッタ検出処理は、スパッタが写っている複数枚の画像と、スパッタが写っていない複数枚の画像とを教師データとした教師あり学習によって生成された学習済みモデルを用いてスパッタを検出するものであることを特徴とする溶接条件設定支援装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の溶接条件設定支援装置において、
前記画像処理部のスパッタ数特定ステップにより特定されたスパッタの数を表示するディスプレイをさらに備えたことを特徴とする溶接条件設定支援装置。
【請求項6】
請求項5に記載の溶接条件設定支援装置において、
前記画像処理部は、前記複数の入力画像の前記1つに基づいて、前記スパッタ検出処理により検出したスパッタに目印を付ける加工を施した加工画像を生成する画像生成ステップをさらに実行し、
前記ディスプレイは、前記画像生成ステップにより生成された加工画像を表示することを特徴とする溶接条件設定支援装置。
【請求項7】
請求項1に記載の溶接条件設定支援装置において、
前記スパッタ検出処理は、
前記複数の入力画像から1つの入力画像を選択すること、
前記選択された入力画像に含まれる画素ごとに、前記画素の画素値と前記所定の閾値とを比較すること、
前記選択された入力画像中の前記所定の閾値以下の画素値を有する画素の画素値を第1の固定値に変更し、前記選択された入力画像中の前記所定の閾値を超える画素値を有する画素の画素値をそのまま維持または前記第1の固定値とは異なる第2の固定値に変更することにより、前記選択された入力画像からスパッタ検出対象画像を生成すること、
前記スパッタ検出対象画像中の前記所定の閾値を超える画素値を有する画素が複数個連続した領域を前記スパッタとして検出すること
を含むことを特徴とする溶接条件設定支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークと電極との間に電圧を印加することでワークと電極との間にアークを発生させてアーク溶接を行う際に溶接条件の設定を支援する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ビデオカメラを利用してアーク溶接時に発生するスパッタの数を特定する技術が開示されている。具体的には、この技術は、アーク溶接時にビデオカメラでアークを撮影して複数の入力画像を取得し、画像内の所定の検出線上の輝度分布を入力画像毎に取り込み、当該輝度分布に基づいて検出線上を通過したスパッタを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかし、上記特許文献1では、複数の入力画像に基づいて、検出線上を通過したスパッタを検出するので、ビデオカメラの撮影速度が遅いと、特定されるスパッタの数の精度が悪化する。したがって、撮影速度の速いビデオカメラが必要となり、設備コストが増大する。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、設備コストを削減することにある。
【0006】
本発明の一態様は、ワークと電極との間に電圧を印加することでワークと電極との間にアークを発生させてアーク溶接を行う際に溶接条件の設定を支援する装置に関する。この装置が、アーク溶接時にワークを撮影した動画を構成する複数の入力画像のそれぞれに対し、明るさを示す画素値が所定の閾値を超える画素が複数個連続する領域をスパッタとして検出するスパッタ検出処理を行うスパッタ検出ステップと、スパッタ検出ステップにおけるスパッタの検出回数が所定の基準回数以上となる動画上の位置を背景輝点として特定する背景輝点特定ステップと、複数の入力画像の1つについて、スパッタ検出処理によって検出されたスパッタのうち、背景輝点特定ステップによって特定された背景輝点で検出されたスパッタを除いたスパッタの数の特定を行うスパッタ数特定ステップとを実行する画像処理部を備えている。
【0007】
この態様によると、各入力画像に対するスパッタ検出処理を、1つの入力画像だけを使用して行えるので、撮影速度の速いビデオカメラが不要となり、設備コストを削減できる。
【0008】
また、閾値に対応する所定の大きさよりも大きいスパッタの数が特定されるので、特定されたスパッタの数を参照することにより、所定の大きさよりも大きいスパッタの数が少なくなるように溶接条件を設定しやすい。したがって、所定の大きさよりも大きいスパッタを減らすことが容易になる。
【0009】
また、アークの光の周辺機器からの反射光がスパッタ検出処理によりスパッタとして検出された場合でも、当該反射光の写り込んだ位置で検出されたスパッタを省いたスパッタの数が特定されるので、スパッタの数のより正確な特定が可能になる。
【0010】
本発明に係る溶接条件設定支援装置によれば、各入力画像に対するスパッタ検出処理を、1つの入力画像だけを使用して行えるので、撮影速度の速いビデオカメラが不要となり、設備コストを削減できる。
【0011】
また、閾値に対応する所定の大きさよりも大きいスパッタの数が特定されるので、特定されたスパッタの数を参照することにより、所定の大きさよりも大きいスパッタの数が少なくなるように溶接条件を設定しやすい。したがって、所定の大きさよりも大きいスパッタを減らすことが容易になる。
【0012】
また、アークの光の周辺機器からの反射光がスパッタ検出処理によりスパッタとして検出された場合でも、当該反射光の写り込んだ位置で検出されたスパッタを省いたスパッタの数が特定されるので、スパッタの数のより正確な特定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る溶接条件設定支援装置としてのコンピュータを備えた溶接システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、アーク溶接時に発生するスパッタを示す説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る溶接条件設定支援装置としてのコンピュータを用いてスパッタ数を数える手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、リスト修正処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、スパッタ除去処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、検出されるスパッタを例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0015】
図1は、溶接システム100を示す。溶接システム100は、溶接ロボット110と、ビデオカメラ120と、ビデオカメラ120に収容されるメモリカード130と、本発明の実施形態に係る溶接条件設定支援装置としてのコンピュータ140と、コンピュータ140に接続されたカードリーダ150とを備えている。
【0016】
溶接ロボット110は、
図2にも示すように、溶接ワイヤ160を保持可能な溶接トーチ111を備える。ワーク170は、溶接治具(クランプ)に保持されている。溶接ワイヤ160は、溶接トーチ111に保持された電極として働く。溶接ロボット110は、ワーク170と溶接ワイヤ160との間に電圧を印加することで、ワーク170と溶接ワイヤ160との間にアークAを発生させてアーク溶接を行う。アーク溶接時には、ワーク170の被溶接部分が溶融して溶融池171が形成され、溶融池171からスパッタSPが飛散する。なお、溶接トーチ111の先端には、シールドガスを噴出するための噴出穴(図示せず)が設けられている。
【0017】
ビデオカメラ120は、ワーク170全体を含むスパッタSPの飛散領域全体をND(Neutral Density)フィルタ(図示せず)を介して撮影可能な位置に設置されている。ビデオカメラ120は、撮影した動画をメモリカード130に保存する。なお、ビデオカメラ120のフレームレート(撮影速度)は、例えば、60fpsに設定されている。また、ビデオカメラ120のピント、絞り、及び電子シャッターのシャッタースピードは固定されている。
【0018】
コンピュータ140は、コンピュータ本体141と、ディスプレイ142とを備えている。コンピュータ本体141は、記憶部141aと画像処理部141bとを備えている。
【0019】
記憶部141aは、スパッタSPが写っている複数枚の画像と、スパッタSPが写っていない複数枚の画像とを教師データとした教師あり学習によって生成された学習済みモデルを記憶する。学習済みモデルを生成するための教師あり学習の手法としては、例えば、ディープラーニングが用いられる。また、記憶部141aは、ビデオカメラ120により撮影された動画と、当該動画を分割して得られる複数の静止画像とをさらに記憶する。
【0020】
画像処理部141bは、カードリーダ150に挿入されたメモリカード130に保存された動画をメモリカード130から読み出し、記憶部141aに保存する。また、画像処理部141bは、記憶部141aに保存された動画を複数の静止画像(フレーム)に分割して、これらの複数の静止画像を複数の入力画像として記憶部141aに保存する。さらに、画像処理部141bは、記憶部141aに保存された複数の入力画像のそれぞれに対し、スパッタSPを検出するスパッタ検出処理を行い、スパッタSPの検出回数が所定の基準回数以上となる動画上の位置を背景輝点として特定し、背景輝点で検出されたスパッタSPを除いたスパッタSPの数を特定する(スパッタ検出ステップ、背景輝点特定ステップ、スパッタ数特定ステップ)。画像処理部141bは、記憶部141aに記憶された学習済みモデルを用いてスパッタSPを検出する。また、画像処理部141bは、複数の入力画像から1つの入力画像を選択し、選択された入力画像に対して所定の加工を施した加工画像I(
図7参照)を生成する(画像生成ステップ)。スパッタSPの検出方法、背景輝点の特定方法、スパッタSPの数の特定方法、及び加工画像Iの生成方法の詳細については後述する。
【0021】
ディスプレイ142は、コンピュータ本体141の画像処理部141bにより生成された加工画像Iを表示する。
【0022】
以下、溶接システム100の溶接条件を設定する手順について、
図3を参照して説明する。
【0023】
まず、(S101)で、ユーザが、溶接ロボット110にアーク溶接を行わせた状態で、ビデオカメラ120に撮影を実行させ、撮影した動画をメモリカード130に保存させる。これにより、アーク溶接時におけるワーク170全体を含むスパッタSPの飛散領域全体の動画がメモリカード130に保存される。
【0024】
次に、(S102)で、ユーザが、メモリカード130をビデオカメラ120から取り出してカードリーダ150に挿入し、メモリカード130に保存された動画をカードリーダ150からコンピュータ本体141に転送させる。そして、コンピュータ本体141の画像処理部141bが、カードリーダ150から転送された動画を受信し、記憶部141aに保存する。
【0025】
次に、(S103)で、ユーザが、コンピュータ本体141の画像処理部141bに、記憶部141aに保存されたアーク溶接時の動画を複数の静止画像(フレーム)に分割させ、これらの複数の静止画像を複数の入力画像として記憶部141aに保存させる。
【0026】
次に、(S104)で、画像処理部141bが、記憶部141aに保存された複数の入力画像のうち、まだ(S104)~(S110)の処理を行っていない1つの入力画像をグレースケール画像に変換する。グレースケール画像は、複数の画素を含む。各画素は、明るさを示す画素値を有する。
【0027】
次に、(S105)で、画像処理部141bは、(S104)で得られたグレースケール画像からスパッタ検出対象画像IMを生成する。画像処理部141bは、具体的には、グレースケール画像中の所定の閾値Gs(第1の閾値)以下の画素値を有する画素の画素値を、黒を示す値(0)に変換する処理を施す。一方、画像処理部141bは、グレースケール画像中の所定の閾値Gsを超える画素値を有する画素の画素値をそのまま維持する。これにより、所定の閾値Gsを超える画素値を有する画素が、黒以外の画素(以下、グレー画素という)として特定される。そして、例えば
図6に示すように、画像処理部141bは、スパッタ検出対象画像IMにおけるグレー画素が複数個連続する領域(以下、グレー領域という)をスパッタSPとして検出する(スパッタ検出処理)。
図6中、PBは黒の画素、PWはグレー画素を示す。ここで、画像処理部141bは、記憶部141aに記憶された学習済みモデルを用いてスパッタSPを検出する。そして、画像処理部141bは、検出した全てのスパッタSPを特定する第1のスパッタリストListGsを作成する。なお、閾値Gsを超える画素値を有する画素の画素値は、黒以外の特定の値(例えば、白)に変換されてもよい。
【0028】
次に、(S106)で、画像処理部141bは、閾値を除き、(S105)と同じ処理を実行する。すなわち、画像処理部141bは、(S104)で得られたグレースケール画像に対し、所定の閾値Gm(第2の閾値)以下の画素値を有する画素の画素値を、黒を示す値(0)に変換する処理を施し、処理後の画像におけるグレー領域をスパッタSPとして検出する。ここでも、画像処理部141bは、記憶部141aに記憶された学習済みモデルを用いてスパッタSPを検出する。なお、閾値Gmは、閾値Gsよりも大きい値に設定される。そして、画像処理部141bは、検出した全てのスパッタSPを特定する第2のスパッタリストListGmを作成する。
【0029】
次に、(S107)で、画像処理部141bは、閾値を除き、(S105)と同じ処理を実行する。すなわち、画像処理部141bは、(S104)で得られたグレースケール画像に対し、所定の閾値Gl以下の画素値を有する画素の画素値を、黒を示す値(0)に変換する処理を施し、処理後の画像におけるグレー領域をスパッタSPとして検出する。ここでも、画像処理部141bは、記憶部141aに記憶された学習済みモデルを用いてスパッタSPを検出する。なお、閾値Glは、閾値Gmよりも大きい値に設定される。そして、画像処理部141bは、検出した全てのスパッタSPを特定する第3のスパッタリストListGlを作成する。なお、第1~第3のスパッタリストListGs,ListGm,ListGlでは、スパッタSPの左上の座標と、縦方向及び横方向の長さとによりスパッタSPが特定されている。
【0030】
ここで、スパッタSPのサイズが大きくなる程、スパッタSPの明るさも大きくなる。閾値Gs,Gm,Glは、それぞれ小サイズ、中サイズ、大サイズに対応する。(S105)は、小サイズ、中サイズおよび大サイズのスパッタSPを検出する。(S106)は、中サイズおよび大サイズのスパッタSPを検出する。(S107)は、大サイズのスパッタSPを検出する。
【0031】
次に、(S108)で、画像処理部141bは、第1のスパッタリストListGsで特定されるスパッタSPから、第2のスパッタリストListGmで特定されるスパッタSPを除いたスパッタSPを特定する小スパッタリストSmallSを作成する。
【0032】
続いて、(S109)で、画像処理部141bは、第2のスパッタリストListGmで特定されるスパッタSPから、第3のスパッタリストListGlで特定されるスパッタSPを除いたスパッタSPを特定する中スパッタリストMiddleSを作成する。
【0033】
続いて、(S110)で、画像処理部141bは、第3のスパッタリストListGlを、そのまま大スパッタリストLargeSとする。
【0034】
次に、(S111)で、画像処理部141bが、(S104)~(S110)の処理をまだ行っていない入力画像(フレーム)が記憶部141aに残っているか否かを判定する。そして、残っている場合には、(S104)に戻る一方、残っていない場合には、(S112)に進む。
【0035】
そして、(S112)では、画像処理部141bが、以下のリスト修正処理を行う。本実施形態では、上述の通り、画像処理部141bは、入力画像中のグレー領域をスパッタSPとして検出する。しかし、グレー領域は、本当のスパッタとは異なる光源(例えば、アークA)に起因することがある。リスト修正処理は、そのようなスパッタSPをリストから排除する。
【0036】
図4は、(S112)で行うリスト修正処理の手順を示す。
【0037】
(S112)では、まず、(S201)において、画像処理部141bが、記憶部141aに保存された全入力画像で検出された全てのスパッタSP、すなわち全入力画像の第1のスパッタリストListGsで特定される全てのスパッタSPの中心座標を算出する。本実施形態では、現実の飛散領域内の位置と入力画像内の位置(座標)との関係は全入力画像で共通である。例えば、動画は、第1および第2の入力画像を含む。第1の入力画像内の特定の座標(例えば、x=100,y=100)は、現実の飛散領域内の特定の位置(例えば、ワーク170の左上角)を指す。第2の入力画像内の同じ座標(x=100,y=100)は、現実の飛散領域内の同じ特定の位置(ワーク170の左上角)を指す。
【0038】
次に、(S202)において、画像処理部141bが、動画上の各位置(座標)について、(S201)でスパッタSPの中心座標として算出される回数(スパッタ検出回数)を算出する。画像処理部141bは、動画上の複数の位置と、それぞれの位置に対応するスパッタ検出回数とをスパッタ検出回数の分布として記憶する。
【0039】
次に、(S203)において、画像処理部141bが、(S202)で算出されたスパッタ検出回数、すなわち(S105)の処理におけるスパッタSPの検出回数が所定の基準回数以上となる動画上の座標(位置)を背景輝点として特定する。そして、背景輝点の座標を特定する背景輝点座標リストを作成する。
【0040】
次に、(S204)において、画像処理部141bが、記憶部141aに保存された全入力画像の小スパッタリストSmallS、中スパッタリストMiddleS、及び大スパッタリストLargeSに対し、(S203)で作成された背景輝点座標リストにその中心座標が存在するスパッタSPを除くスパッタ除去処理を行う。つまり、当該スパッタ除去処理によって除かれるスパッタSPは、(S203)で特定された背景輝点を中心座標とするスパッタSPとなる。
【0041】
ここで、小スパッタリストSmallSに対するスパッタ除去処理の具体的な手順を、
図5を参照して説明する。中スパッタリストMiddleS、及び大スパッタリストLargeSに対するスパッタ除去処理も同様の手順によって行われる。
【0042】
まず、(S301)において、k=0と設定する。
【0043】
次に、(S302)において、k=k+1と設定する。
【0044】
次に、(S303)において、小スパッタリストSmallSのk番目のスパッタSPの中心座標が背景輝点座標リストに存在するか否かを判定する。k番目のスパッタSPの中心座標が背景輝点座標リストに存在しない場合には、(S305)に進み、存在する場合には、(S304)に進む。
【0045】
(S304)では、k番目のスパッタSPを小スパッタリストSmallSから削除する。
【0046】
(S305)では、(S303)の判定を小スパッタリストSmallSのすべてのスパッタSPに対して行ったか否かを判定し、行っていない場合には(S302)に戻り、行った場合には、スパッタ除去処理を終了する。
【0047】
次に、(S205)において、画像処理部141bが、修正処理後の小スパッタリストSmallSで特定されるスパッタSPの数を、小さいスパッタSPのスパッタ数Sとして特定する。また、修正処理後の中スパッタリストSmallMで特定されるスパッタSPの数を、中程度の大きさのスパッタSPのスパッタ数Mとして特定する。さらに、修正処理後の大スパッタリストLargeSで特定されるスパッタSPの数を、大きいスパッタSPのスパッタ数Lとして特定する。アークAからの光が、溶接治具(クランプ)、溶接トーチ111、溶接ロボット110の本体等の周辺機器から反射し、ビデオカメラ120に入射することがある。このような反射光が(S105)~(S107)でスパッタSPとして検出された場合でも、画像処理部141bは、このスパッタSPを省いたスパッタSPの数を特定できる。したがって、スパッタ数S,M,Lのより正確な特定が可能になる。
【0048】
(S113)では、画像処理部141bが、スパッタ数S,M,Lの合計を合計スパッタ数Tとして特定する。さらに、画像処理部141bは、複数の入力画像から1つの入力画像を選択し、
図7に示すように、選択された入力画像に対し数量表示加工とサイズ表示加工を施して、加工画像Iを生成する。画像処理部141bは、複数の入力画像にそれぞれ対応する加工画像を生成してもよい。数量表示加工は、入力画像の左上の隅にスパッタ数S,M,L及び合計スパッタ数Tの表示を付与する加工である。サイズ表示加工は、(S112)での修正処理後の小スパッタリストSmallSで特定されるスパッタSPを青色の矩形状の枠F1で囲み、(S112)での修正処理後の中スパッタリストMiddleSで特定されるスパッタSPを黄色の矩形状の枠F2で囲み、かつ(S112)での修正処理後の大スパッタリストLargeSで特定されるスパッタSPを赤色の矩形状の枠F3で囲む加工である。なお、
図7中、青色の枠F1を破線、黄色の枠F2を実線、赤色の枠F3を点線で示す。また、
図7中、A’は、アークAの光及びヒュームから反射するアークAの光を示す。
【0049】
(S114)では、ディスプレイ142が、(S113)で生成された加工画像Iを表示する。ユーザは、ディスプレイ142に表示されたスパッタ数S,M,L、及び合計スパッタ数Tを参照することにより、ワーク170と溶接ワイヤ160との間に印加する電圧値等の溶接条件の適否を判定する。ユーザは、溶接条件を不適切と判定した場合には、大きいスパッタSPの数を減らすように溶接条件を変更し、(S101)~(S114)の処理を再度実行する。また、このときディスプレイ142にスパッタSPがその大きさに応じた色の枠F1,F2,F3を付して表示されるので、ユーザは、これら枠F1,F2,F3を参照することにより、ディスプレイ142に表示されるスパッタ数S,M,L,Tの信頼性を判断できる。
【0050】
したがって、本実施形態によると、(S105)~(S107)において、画像処理部141bが、1つの入力画像だけを使用してスパッタSPの検出を行うので、特許文献1の如く複数の入力画像を使用してスパッタSPの数を特定する場合に比べ、処理を簡素化できる。また、撮影速度の速いビデオカメラが不要となるので、設備コストを削減できる。
【0051】
また、一般に、ワーク170に小さいスパッタSPが固着しても、スパッタSPは金属ブラシ等で容易に除去できる一方、ワーク170に大きいスパッタSPが固着すると、スパッタSPはグラインダー等で研磨しないと除去できず、除去に要する工数が増大する。本実施形態によると、(S114)において、複数種類の大きさのスパッタSPの数、すなわちスパッタ数S,M,Lがディスプレイ142に表示される。ユーザは、これらスパッタ数S,M,Lを参照し、小さなスパッタSPの発生を容認し、大きなスパッタSPの発生を抑制するように溶接条件を設定できる。したがって、スパッタSPの除去に要する工数を削減できる。
【0052】
また、(S105)~(S107)において、画像処理部141bが、学習済みモデルを用いてスパッタSPを検出するので、グレー領域を全てスパッタSPとして検出する場合に比べ、シールドガスや装置の一部等、スパッタSPではないものをスパッタSPとして検出しにくい。したがって、誤検出の可能性を低減できる。
【0053】
また、周辺機器からの反射光がスパッタSPとして複数の入力画像から検出される場合に、各入力画像における周辺機器からの反射光の輝度(写り込む領域のサイズ)が、反射光の周囲の状況によって異なってくる場合がある。このような場合でも、本実施形態では、(S201)~(S203)において、検出されたスパッタSPの中心座標となる回数が基準回数以上の座標を背景輝点として特定するので、検出されたスパッタSPの端の座標となる回数が基準回数以上の座標を背景輝点として特定する場合に比べ、アークAの光の周辺機器からの反射光をより確実に背景輝点として特定できる。
【0054】
また、一般に、スパッタSPは大きい程重くなり、移動速度が低くなるので、1つの入力画像に写るスパッタSPの軌跡は、スパッタSPが大きい程短くなる。したがって、撮影範囲を狭くする場合でも、大きいスパッタSPが、小さいスパッタSPに比べて撮影範囲内に納まりやすく、大きいスパッタSPの検出漏れが発生しにくい。
【0055】
なお、本実施形態では、(S104)で画像処理部141bが入力画像を一旦グレースケール画像に変換したが、入力画像をグレースケール画像に変換せず、入力画像から直接、明るさを示す画素値が所定の閾値を超える画素を特定するようにしてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、(S105)~(S107)において、学習済みモデルを用いてスパッタSPの検出を行ったが、グレー領域を全てスパッタSPとして検出するようにしてもよい。また、グレー画素が第1の個数以上第2の個数(>第1の個数)以下だけ連続する領域を全てスパッタSPとして検出するようにしてもよい。このようにした場合、グレー画素が第2の個数を超えて連続する領域をスパッタSPとして検出しないので、スパッタSPではないものがスパッタSPとして誤検出されるのを防止できる。
【0057】
また、本実施形態では、(S201)~(S203)において、検出されたスパッタSPの中心座標に該当する回数が所定の基準回数以上となる入力画像上の座標を背景輝点として特定した。しかし、検出されたスパッタSPの中心以外の所定位置に該当する回数が所定の基準回数以上となる入力画像上の座標を背景輝点として特定するようにしてもよい。例えば、検出されたスパッタSPの左上の座標に該当する回数が所定の基準回数以上となる入力画像上の座標を背景輝点として特定し、各リストSmallS,MiddleS,LargeSに対し、その左上の座標が背景輝点となるスパッタSPを除く修正処理を行うようにしてもよい。
【0058】
また、本実施形態では、(S201)~(S203)において、全入力画像の第1のスパッタリストListGsに基づいて背景輝点座標リストを作成し、当該背景輝点座標リストを、(S204)における小スパッタリストSmallS、中スパッタリストMiddleS、及び大スパッタリストLargeSの修正処理に兼用した。しかし、全入力画像の小スパッタリストSmallSに基づいて作成した背景輝点座標リストを、小スパッタリストSmallSの修正処理に用い、全入力画像の中スパッタリストMiddleSに基づいて作成した背景輝点座標リストを、中スパッタリストMiddleSの修正処理に用い、全入力画像の大スパッタリストLargeSに基づいて作成した背景輝点座標リストを、大スパッタリストLargeSの修正処理に用いるようにしてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、入力画像に対し、検出したスパッタSPに枠F1,F2,F3付ける加工を施して加工画像Iとしたが、枠F1,F2,F3以外の目印を付ける加工を施して加工画像Iとするようにしてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、コンピュータ本体141の画像処理部141bが、入力画像を含む動画をカードリーダ150から受信したが、他の情報伝達装置から受信するようにしてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、溶接ロボット110を使用するアーク溶接に本発明を適用したが、本発明は、溶接トーチの操作を手作業で行う場合にも適用できる。
【0062】
また、本実施形態では、ワーク170と溶接ワイヤ160との間に印加される電圧がパルス電圧でない場合に本発明を適用したが、本発明は、ワーク170と溶接ワイヤ160との間に印加される電圧がパルス電圧である場合にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の溶接条件設定支援装置は、設備コストを削減でき、所定の大きさよりも大きいスパッタを減らすことが容易になり、かつスパッタの数のより正確な特定が可能になり、ワークと電極との間に電圧を印加することでワークと電極との間にアークを発生させてアーク溶接を行う際に溶接条件の設定を支援する装置として有用である。
【符号の説明】
【0064】
140 コンピュータ(溶接条件設定支援装置)
141a 記憶部
141b 画像処理部
142 ディスプレイ
160 溶接ワイヤ(電極)
170 ワーク
A アーク
SP スパッタ
I 加工画像
F1,F2,F3 枠(目印)