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特許7394301二本鎖核酸の融解温度上昇化剤及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】二本鎖核酸の融解温度上昇化剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20231201BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231201BHJP
   C08F 226/04 20060101ALN20231201BHJP
   C08F 220/06 20060101ALN20231201BHJP
   C08F 220/60 20060101ALN20231201BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z ZNA
C12N15/09
C08F226/04
C08F220/06
C08F220/60
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023527795
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2022044338
(87)【国際公開番号】W WO2023106190
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2021201162
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】橘 亜美
(72)【発明者】
【氏名】内木 智朗
(72)【発明者】
【氏名】竹内 実
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晃司
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/018841(WO,A1)
【文献】特表2004-537263(JP,A)
【文献】特開2018-104850(JP,A)
【文献】Molecules,2019年,Vol.24, No.3,575
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6827
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二本鎖核酸の融解温度上昇化剤であって、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化1】

(式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)、並びに
一般式(1-f)
【化2】

(式中Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、nは2~4の整数である。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-4)、
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のカチオン性構成単位(1)と、
一般式(II-a)
【化3】

(式中Rは、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-1)、並びに、
一般式(II-d)
【化4】

(式中R10は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-4)、
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のアニオン性構成単位(2)と、を含む両性共重合体を含むことを特徴とする、二本鎖核酸の融解温度上昇化剤。
【請求項2】
前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、請求項に記載の二本鎖核酸の融解温度上昇化剤。
【請求項3】
前記ノニオン性構成単位(3)は、メタクリルアミド系単量体またはアクリルアミド系単量体から導かれる構成単位である、請求項2に記載の融解温度上昇化剤。
【請求項4】
試料核酸とプローブ核酸との間の核酸ミスマッチの検出方法であって、
(1)請求項1~3の何れか1項に記載する二本鎖核酸の融解温度上昇化剤を添加してまたは添加せずに前記プローブ核酸と前記プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度を測定し、前記両性共重合体の存在による、前記プローブ核酸と、前記プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との融解温度の上昇値(基準ΔTm)を決定する工程と、
(2)請求項1~3の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤を添加してまたは添加せずに前記試料核酸と前記プローブ核酸との二本鎖核酸の融解温度を測定し、前記両性共重合体の存在による、前記試料核酸と前記プローブ核酸との二本鎖核酸の融解温度の上昇値(試料ΔTm)を決定する工程と、
(3)前記基準ΔTmから前記試料ΔTmを引いた値(ΔΔTm)に基づいて、核酸ミスマッチの有無を判定する工程と
を含むことを特徴とする、核酸ミスマッチの検出方法。
【請求項5】
前記ΔΔTmが5.0℃以上の場合に、核酸ミスマッチが存在すると判定する、請求項4に記載の核酸ミスマッチの検出方法。
【請求項6】
試料核酸と、プローブ核酸との間の核酸ミスマッチ検出キットであって、
前記プローブ核酸と、
前記プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸と、
請求項1~3の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤と
を含む、核酸ミスマッチ検出キット。
【請求項7】
試料核酸の基準核酸に対する変異を検出する方法であって、
(1)請求項1~3の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤を添加してまたは添加せずに前記基準核酸と前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度を測定し、前記両性共重合体の存在による、前記基準核酸と前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度の上昇値(基準ΔTm)を決定する工程と、
(2)請求項1~3の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤を添加してまたは添加せずに前記試料核酸と前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度を測定し、前記両性共重合体の存在下による、前記試料核酸と前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度の上昇値(試料ΔTm)を測定する工程と、
(3)前記基準ΔTmから前記試料ΔTmを引いた値(ΔΔTm)に基づいて、変異の有無を判定する工程と
を含む、変異の検出方法。
【請求項8】
前記ΔΔTmが5.0℃以上の場合に、変異が存在すると判定する、請求項7に記載の変異の検出方法。
【請求項9】
試料核酸と、基準核酸との間の変異検出キットであって、
前記基準核酸と、
前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸と、
請求項1~3の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤と
を含む、変異検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二本鎖核酸の融解温度(Tm)上昇化剤、これを用いて二本鎖核酸におけるミスマッチもしくは試料核酸中の基準核酸に対する変異を検出する方法およびこれを実施するためのキットに関する。より具体的には、特定の構造を有する両性共重合体を含む二本鎖核酸の融解温度(Tm)上昇化剤、これを用いて二本鎖核酸におけるミスマッチもしくは試料核酸中の基準核酸に対する変異を検出する方法およびこれを実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の細菌やウィルスを同定したり、ヒトの疾患易罹患性や薬剤反応性などを判定したりするために、ゲノム核酸中の変異を検出することが広く行われ、最近では、ゲノム核酸の1塩基の変異を、正確、迅速、および低コストで検出し得ることが要求されるようになっている。
【0003】
ゲノム核酸の変異を検出する方法として、種々の方法が開発されており、例えば、基準核酸とその相補鎖からなる二本鎖核酸を試料核酸と共存させ、相補鎖が試料核酸と置換する速度または率を測定することで、試料核酸中の基準核酸に対するミスマッチを検出する方法が提案されている(特許文献1乃至3)。この方法では、ポリリジンやポリアルギニンなどのカチオン性高分子を主鎖として、デキストランやポリエチレングリコール等を側鎖としてグラフト重合したポリマーを添加することで、相補鎖が試料核酸と置換する速度を促進して検出感度を高めており、一塩基のミスマッチでも検出できるとされている。しかし、この方法は、相補鎖の試料核酸への置換をFRET法で検出するものであり、基準核酸および相補鎖を蛍光色素で標識しておくことが必要となるため、これを不要とできればより便利である。
【0004】
FRET法等のように蛍光色素で標識した核酸を用いずにゲノム核酸の変異を検出可能な方法としては、融解温度(Tm)を利用して二本鎖核酸のミスマッチを検出する方法がある。
融解温度(Tm)は、二本鎖核酸の50%が一本鎖に変性する温度をいい、相補的な関係にあるフルマッチ二本鎖に比べ、相補的な関係にないミスマッチ二本鎖では、融解温度(Tm)が低くなる。このため、この現象を利用して、試料核酸の基準核酸に対する変異を検出したり、この現象により生じる核酸増幅効率の差を通じて標的配列を検出したりすることができる。ただし、一塩基のミスマッチによって生じる融解温度(Tm)の変化は1~3℃程度であるとされ、融解温度(Tm)を利用してゲノム核酸中のごく僅かな変異を検出するには、感度を高める工夫が必要になる。
【0005】
この点、融解曲線を解析して僅かな変異を検出可能とする方法がなされている(特許文献4および5)。しかし、これらの方法では、厳密な温度制御が必要なため高精度な恒温装置が必要となり、実用上より簡便な方法が望まれる。
また、上述した特許文献1では、上記カチオン性ポリマーの存在下および非存在下で、一塩基のミスマッチを有する20mer二本鎖核酸、およびフルマッチの20mer二本鎖核酸のTm値が測定され、それぞれのカチオン性高分子ポリマーの存在によるTm上昇値が示されている。残念ながら、ミスマッチの二本鎖核酸と、フルマッチの二本鎖核酸とで、カチオン性ポリマーの存在によるTm上昇値はいずれも15℃程度であり、両者に有意な差はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第03/018841 A1号パンフレット
【文献】特開2001-78769号
【文献】特開2008-278779号
【文献】特開2005-58107号
【文献】特開2003-528626号
【文献】国際公開2016/167320 A1号パンフレット
【文献】特許第6242336号
【文献】特許第5813263号
【文献】特許第4731324号
【文献】特許第4383178号
【文献】特許第5030998号
【文献】特許第4151751号
【文献】特開第2001-89496号公報
【文献】国際公開第2003/068795号パンフレット
【文献】国際公開第2005/021570号パンフレット
【文献】特許第3756313号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような従来技術における問題に対処し得る、新規な二本鎖核酸の融解温度(Tm)の上昇化剤、二本鎖核酸のミスマッチもしくは試料核酸中の基準核酸に対する変異を検出する方法、およびこれらの方法を実施するキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定のカチオン性構成単位(1)と、特定のアニオン性構成単位(2)とを含む両性共重合体(以下、「特定両性共重合体」と略称することがある。)を核酸溶液に添加すると、相補的な関係にあるフルマッチの二本鎖核酸における特定両性共重合体の存在によるTm上昇値と、相補的な関係にないミスマッチの二本鎖核酸における特定両性共重合体の存在によるTm上昇値との差が拡大し、これにより一塩基レベルでもミスマッチを検出可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の融解温度上昇化剤、核酸ミスマッチの検出方法、試料核酸の基準核酸に対する変異の検出方法、核酸ミスマッチ検出キットおよび変異検出キットを提供するものである。
[1] 二本鎖核酸の融解温度上昇化剤であって、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化1】

(式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)、
一般式(I-c)若しくは一般式(I-d)
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基であり、Xa-はカウンターイオンを示し、aは該カウンターイオンの価数を示す。)で表される構造を有する構成単位(1-2)、
一般式(1-e)
【化3】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、又は炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-3)、並びに
一般式(1-f)
【化4】

(式中Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、nは2~4の整数である。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-4)、
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のカチオン性構成単位(1)と、
一般式(II-a)
【化5】

(式中Rは、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-1)、
一般式(II-b)
【化6】

(式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-2)、
一般式(II-c)
【化7】

(式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-3)、並びに、
一般式(II-d)
【化8】

(式中R10は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-4)、
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のアニオン性構成単位(2)と、を含む両性共重合体を含む、二本鎖核酸の融解温度上昇化剤。
[2] 前記カチオン性構成単位(1)が、構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれ、
前記アニオン性構成単位(2)が、構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれる、[1]に記載の二本鎖核酸の融解温度上昇化剤。
[3] 前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[1]又は[2]に記載の二本鎖核酸の融解温度上昇化剤。
[4] 試料核酸とプローブ核酸との間の核酸ミスマッチの検出方法であって、
(1)[1]~[3]の何れか1項に記載する二本鎖核酸の融解温度上昇化剤を添加してまたは添加せずに前記プローブ核酸と前記プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度を測定し、前記両性共重合体の存在による、前記プローブ核酸と、前記プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との融解温度の上昇値(基準ΔTm)を決定する工程と、
(2)[1]~[3]の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤を添加してまたは添加せずに前記試料核酸と前記プローブ核酸との二本鎖核酸の融解温度を測定し、前記両性共重合体の存在による、前記試料核酸と前記プローブ核酸との二本鎖核酸の融解温度の上昇値(試料ΔTm)を決定する工程と、
(3)前記基準ΔTmから前記試料ΔTmを引いた値(ΔΔTm)に基づいて、核酸ミスマッチの有無を判定する工程と
を含む、核酸ミスマッチの検出方法。
[5] 前記ΔΔTmが5.0℃以上の場合に、核酸ミスマッチが存在すると判定する、請求項4に記載の核酸ミスマッチの検出方法。
[6] 試料核酸と、プローブ核酸との間の核酸ミスマッチ検出キットであって、
前記プローブ核酸と、
前記プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸と、
[1]~[3]の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤と
を含む、核酸ミスマッチ検出キット。
[7] 試料核酸と基準核酸との間の変異の検出方法であって、
(1)[1]~[3]の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤を添加してまたは添加せずに前記基準核酸と前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度を測定し、前記両性共重合体の存在による、前記基準核酸と前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度の上昇値(基準ΔTm)を決定する工程と、
(2)[1]~[3]の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤を添加してまたは添加せずに前記試料核酸と前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度を測定し、前記両性共重合体の存在下による、前記試料核酸と前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の融解温度の上昇値(試料ΔTm)を測定する工程と、
(3)前記基準ΔTmから前記試料ΔTmを引いた値(ΔΔTm)に基づいて、変異の有無を判定する工程と
を含む、変異の検出方法。
[8] 前記ΔΔTmが5.0℃以上の場合に、変異が存在すると判定する、[7]に記載の変異の検出方法。
[9] 試料核酸と、基準核酸との間の変異検出キットであって、
前記基準核酸と、
前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸と、
[1]~[3]の何れか1項に記載する融解温度上昇化剤と
を含む、変異検出キット。
[10]
二本鎖核酸の融解温度上昇化剤を製造するための、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化9】

(式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)、
一般式(I-c)若しくは一般式(I-d)
【化10】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基であり、Xa-はカウンターイオンを示し、aは該カウンターイオンの価数を示す。)で表される構造を有する構成単位(1-2)、
一般式(1-e)
【化11】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、又は炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-3)、並びに
一般式(1-f)
【化12】

(式中Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、nは2~4の整数である。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-4)、
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のカチオン性構成単位(1)と、
一般式(II-a)
【化13】

(式中Rは、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-1)、
一般式(II-b)
【化14】

(式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-2)、
一般式(II-c)
【化15】

(式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-3)、並びに、
一般式(II-d)
【化16】

(式中R10は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-4)、
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のアニオン性構成単位(2)と、
を含む、両性共重合体の使用。
[11]
前記カチオン性構成単位(1)が、構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれ、
前記アニオン性構成単位(2)が、構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれることを特徴とする、[10]に記載の使用。
[12]
前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[10]又は[11]に記載の使用。
[13]
二本鎖核酸の融解温度を上昇させる方法であって、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化17】

(式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)、
一般式(I-c)若しくは一般式(I-d)
【化18】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基であり、Xa-はカウンターイオンを示し、aは該カウンターイオンの価数を示す。)で表される構造を有する構成単位(1-2)、
一般式(1-e)
【化19】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、又は炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-3)、並びに
一般式(1-f)
【化20】

(式中Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、nは2~4の整数である。)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-4)、
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のカチオン性構成単位(1)と、
一般式(II-a)
【化21】

(式中Rは、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-1)、
一般式(II-b)
【化22】

(式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-2)、
一般式(II-c)
【化23】

(式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-3)、並びに、
一般式(II-d)
【化24】

(式中R10は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構造を有する構成単位(2-4)、
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のアニオン性構成単位(2)と、
を含む、両性共重合体を、二本鎖核酸と溶液中で混合して、前記二本鎖核酸の融解温度を上昇させる方法。
[14]
前記カチオン性構成単位(1)が、構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれ、
前記アニオン性構成単位(2)が、構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれることを特徴とする、[13]に記載の方法。
[15]
前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[13]又は[14]に記載の方法。
【0010】
本発明によれば、二本鎖核酸の融解温度(Tm)を利用して、簡易且つ高感度に、二本鎖核酸ミスマッチを検出することができる。従って、基準核酸(例えば、野生型ゲノム核酸)に対する試料核酸の変異の有無を二本鎖核酸の融解温度(Tm)を利用して、簡易且つ高感度で検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図2】ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図3】ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図4】ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図5】ジアリルメチルアミン・マレイン酸共重合体の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図6】ジアリルメチルアミン・マレイン酸共重合体の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図7】ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図8】ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図9】アリルアミン重合体(重量平均分子量(Mw):3000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図10】アリルアミン重合体(重量平均分子量(Mw):3000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図11】アリルアミン重合体(重量平均分子量(Mw):8000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図12】アリルアミン重合体(重量平均分子量(Mw):8000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図13】アリルアミン重合体(重量平均分子量(Mw):15000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図14】アリルアミン重合体(重量平均分子量(Mw):15000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図15】アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体(重量平均分子量(Mw):100000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図16】アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体(重量平均分子量(Mw):100000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図17】アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体(重量平均分子量(Mw):20000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図18】アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体(重量平均分子量(Mw):20000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図19】50モル%アセチル化ポリアリルアミン(重量平均分子量(Mw):15000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図20】50モル%アセチル化ポリアリルアミン(重量平均分子量(Mw):15000)の存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図21】ポリアクリルアミドの存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーと相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図22】ポリアクリルアミドの存在下または非存在下、あるいは当該共重合体に代え、MgClの存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対する完全相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図23】ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体の存在下または非存在下での、基準核酸オリゴマーとBNA相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図24】ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体の存在下または非存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対するBNA相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図25】ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体の存在下または非存在下での、基準核酸オリゴマーとBNA相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
図26】ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体の存在下または非存在下での、基準核酸オリゴマーに対して1塩基の変異を有する核酸オリゴマーと基準核酸オリゴマーに対するBNA相補鎖オリゴマーとの間の二本鎖融解曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定して理解されるべきものではない。
本発明は、特定の構成単位を含む両性共重合体を含む二本鎖核酸の融解温度(Tm)上昇化剤、これを用いて二本鎖核酸におけるミスマッチまたは基準核酸に対する試料核酸中の変異を検出する方法、およびこれら方法を実施するためのキットに関する。以下、これら実施形態について詳細に説明する。
【0013】
1.二本鎖核酸の融解温度(Tm)上昇化剤
本発明の一の実施形態は、特定両性共重合体を含む、二本鎖核酸のTm上昇化剤に関する。この二本鎖核酸のTm上昇化剤は、特定両性共重合体のみで構成されていてもよく、特定両性共重合体をヌクレアーゼフリーの媒体(例えば、水)に溶解した水溶液のように、それ以外の成分を含んでいてもよい。
二本鎖核酸のTm上昇化剤は、二本鎖核酸の融解温度を16.0℃以上、好ましくは、20.0℃以上、上昇させる。特に二本鎖核酸がミスマッチを含まない二本鎖核酸(フルマッチ二本鎖核酸)である場合、二本鎖核酸のTm上昇化剤は、フルマッチ二本鎖核酸の融解温度を20.0℃以上、好ましくは25.0℃以上、特に好ましくは30.0℃以上上昇させる。
【0014】
特定両性共重合体
特定両性共重合体は、特定の構造を有するカチオン性構成単位(1)と、特定の構造を有するアニオン性構成単位(2)とを含むものであり、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)のみで構成されていてもよく、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)に加えて、それ以外の構成単位を有していてもよい。それ以外の構成単位としては、後述のノニオン性構成単位(3)や、特定の構造を有するカチオン性構成単位(1)及び特定の構造を有するアニオン性構成単位(2)のいずれにも該当しない構造のカチオン性又はアニオン性の構成単位を挙げることができる。
【0015】
カチオン性構成単位(1)
特定両性共重合体を構成するカチオン性構成単位(1)は、下記の構成単位(1-1)、構成単位(1-2)、構成単位(1-3)及び構成単位(1-4)からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のカチオン性構成単位である。
以下に一般式等を用いて示す様に、カチオン性構成単位(1)はその構造中にカチオン基としてアミノ基を有するものであるが、良好なTm値上昇効果を実現する等の観点から、該アミノ基は第2級又は第3級のアミノ基であることが好ましい。
特定両性共重合体は、カチオン性構成単位(1)1種類のみを含んでいてもよく、2種類以上のカチオン性構成単位(1)を含んでいてもよい。2種類以上のカチオン性構成単位(1)を含む場合の当該2種類以上のカチオン性構成単位(1)は、ともに構成単位(1-1)に分類される構成単位の組み合わせ、ともに構成単位(1-2)に分類される構成単位の組み合わせ、ともに構成単位(1-3)に分類される構成単位の組み合わせ、又はともに構成単位(1-4)に分類される構成単位の組み合わせであってもよく、構成単位(1-1)から(1-4)のうち互いに異なるものに分類される構成単位同士の組み合わせであってもよい。
特定両性共重合体においては、二本鎖核酸のミスマッチもしくは試料核酸中の基準核酸に対する変異をより確実に検出可能であることから、前記カチオン性構成単位(1)が構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれるものであることが特に好ましく、前記カチオン性構成単位(1)が構成単位(1-1)であることが最も好ましい。
【0016】
構成単位(1-1)
構成単位(1-1)は、下記一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位である。
【化25】

式中、Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。Rは、水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、水素原子、またはメチル基であることが特に好ましい。
【0017】
構成単位(1-1)は、上記の構造式(1-a)、又は(1-b)で示される構造の無機酸塩、若しくは有機酸塩等である構造、すなわち酸付加塩である構造を有していてもよい。
特定両性共重合体が構成単位(1-1)を有する場合、特定両性共重合体の製造にあたっては、製造コスト等の観点からは、付加塩を有するジアリルアミンモノマーを用いることが好ましい。重合体からHCl等の付加塩を除去するプロセスは煩雑であり、コスト増大の原因ともなることから、その様なプロセスを要さずして製造可能である、付加塩型の構成単位(1-1)を用いることは、コスト等の観点からも好ましい実施形態である。
入手の容易さや反応の制御性等の観点から、この実施形態の構成単位(1-1)における無機酸塩、又は有機酸塩は、塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、又はアルキルサルフェート塩であることが好ましく、塩酸塩であることが特に好ましい。
【0018】
構成単位(1-2)
構成単位(1-2)は、下記一般式(I-c)若しくは一般式(I-d)で表される構造を有する構成単位である。
【化26】

式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、又は炭素数7~10のアラルキル基であり、Xa-はカウンターイオンを示し、aは該カウンターイオンの価数を示す。
及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、メチル基、またはエチル基であることが特に好ましい。
良好なTm値上昇効果を実現する等の観点からは、R及びRの少なくとも一方が水素原子であることが好ましい。
【0019】
カウンターイオンXa-には特に限定はないが、入手の容易さや反応の制御性等の観点から、塩素イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、又はアルキルサルフェートイオンであることが好ましく、塩素イオン、又はエチルサルフェートイオンであることが特に好ましい。
特定両性共重合体の製造にあたっては、製造コスト等の観点からは、カウンターイオンを有するジアリルアミンモノマーを用いることが好ましい。重合体からカウンターイオンを除去するプロセスは煩雑であり、コスト増大の原因ともなることから、その様なプロセスを要さずして製造可能である、カウンターイオン型の構成単位(1-2)を有する特定両性共重合体を使用することは、コスト等の観点からも好ましい実施形態である。
【0020】
構成単位(1-3)
構成単位(1-3)は、下記一般式(I-e)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位である。
【化27】

式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、又は炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。
及びRとして好ましい炭素数1~12のアルキル基又は炭素数7~10のアラルキル基は、直鎖状、枝分かれ状のいずれであってもよい。その例としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ベンジル基などが挙げられる。また、R及びRとして好ましい炭素数5~6のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基が挙げられるが、これらには限定されない。
及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、水素原子、またはメチル基であることが特に好ましい。
良好なTm値上昇効果を実現する等の観点からは、R及びRの両方が同時には水素原子とならないことが好ましい。
【0021】
構成単位(1-3)が一般式(I-e)で表される構造の酸付加塩である場合の付加塩の種類には特に制限はないが、入手性や反応の制御の容易さ等の観点から、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、亜リン酸塩、亜硝酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等を使用することができる。
中でも、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が好ましく、モノアリルアミンから導かれる構造の塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が特に好ましい。
【0022】
構成単位(1-4)
構成単位(1-4)は、下記一般式(I-f)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位である。
【化28】

式中Rは水素原子又はメチル基、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、nは2~4の整数である。
は、メチル基であることが好ましく、nは2~3であることが好ましく、RおよびRはそれぞれメチル基であることが好ましい。
構成単位(1-4)が一般式(I-f)で表される構造の酸付加塩である場合の付加塩の種類には特に制限はないが、入手性や反応の制御の容易さ等の観点から、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、亜リン酸塩、亜硝酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等を使用することができる。
中でも、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が好ましく、モノアリルアミンから導かれる構造の塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が特に好ましい。
【0023】
特定両性共重合体の全構成単位に占めるカチオン性構成単位(1)の割合は、通常10~70モル%であり、好ましくは15~60モル%であり、特に好ましくは20~55モル%である。2種類以上のカチオン性構成単位(1)を含む場合の上記割合は、当該2種類以上のカチオン性構成単位(1)の合計量に基づいて定義される。
【0024】
アニオン性構成単位(2)
本発明において用いられる特定両性共重合体を構成するアニオン性構成単位(2)は、下記の構成単位(2-1)、構成単位(2-2)、構成単位(2-3)及び構成単位(2-4)からなる群の中から選ばれる少なくとも1種のアニオン性構成単位である。
特性両性共重合体は、アニオン性構成単位(2)1種類のみを含んでいてもよく、2種類以上のアニオン性構成単位(2)を含んでいてもよい。2種類以上のアニオン性構成単位(2)を含む場合の当該2種類以上のアニオン性構成単位(2)は、ともに構成単位(2-1)に分類される構成単位の組み合わせ、ともに構成単位(2-2)に分類される構成単位の組み合わせ、ともに構成単位(2-3)に分類される構成単位の組み合わせ、又はともに構成単位(2-4)に分類される構成単位の組み合わせであってもよく、構成単位(2-1)から(2-4)のうち互いに異なるものに分類される構成単位同士の組み合わせであってもよい。
特定両性共重合体においては、二本鎖核酸のミスマッチもしくは試料核酸中の基準核酸に対する変異をより確実に検出可能であることから、前記アニオン性構成単位(2)が構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれるものであることが特に好ましい。
【0025】
構成単位(2-1)
構成単位(2-1)は、下記一般式(II-a)で表される構造を有する構成単位である。
【化29】

式中Rは、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feを表す。
は、水素であることが好ましく、Yは水素またはNaであることが好ましい。構成単位(2-1)は、マレイン酸から導かれるものであることが特に好ましい。
【0026】
構成単位(2-2)
構成単位(2-2)は、下記一般式(II-b)で表される構造を有する構成単位である。
【化30】

式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feを表す。
Yは水素またはNaであることが好ましい。
【0027】
構成単位(2-3)
構成単位(2-3)は、下記一般式(II-c)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位である。
【化31】

式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。
Yは水素またはNaであることが好ましい。
【0028】
構成単位(2-4)
構成単位(2-4)は、下記一般式(II-d)で表される構造を有する構成単位である。
【化32】

式中、R10は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。
10は、水素であることが好ましく、Yは水素またはNaであることが好ましい。
構成単位(2-4)は、(メタ)アクリル酸から導かれるものであることが好ましく、アクリル酸から導かれるものであることが特に好ましい。
【0029】
特定両性共重合体におけるアニオン性構成単位(2)として、1種類のみのアニオン性構成単位(2)を単独で用いてもよいし、複数種類の互いに異なる構造のアニオン性構成単位(2)を組み合わせて用いてもよい。
複数種類の互いに異なるアニオン性構成単位を用いる場合、それぞれのアニオン性構成単位は、同一の一般構造式(II-a)、(II-b)、(II-c)又は(II-d)で表される範囲内において互いに異なる構造を有していてもよいし、異なる一般構造式で表される互いに異なる構造を有していてもよい。前者の場合、例えば、一般構造式(II-a)で表されるが、Yの元素が互いに異なることによって構造が互いに異なる、複数種類のアニオン性構成単位(2)を用いてもよい。後者の場合、例えば、構造式(II-a)で表される構造を有する1のアニオン性構成単位(2-1)と、構造式(II-d)で表される構造を有する他のアニオン性構成単位(2-4)とを用いてもよい。
【0030】
特定両性共重合体は、上記カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)を含むので、カチオン性及びアニオン性を有する両性共重合体となる。
特定の構造を有するカチオン性構成単位(1)及び特定の構造を有するアニオン性構成単位(2)を含む特定両性共重合体を用いることで、二本鎖核酸ミスマッチが存在する場合としない場合との二本鎖核酸融解温度の差を顕著に拡大するメカニズムは必ずしも明らかではないが、カチオン性構成単位のカチオン密度が高すぎると、核酸間の結合を強化し過ぎて、二本鎖核酸融解温度の測定自体が難しくなり、カチオン性構成単位のカチオン密度が低すぎると、二本鎖核酸融解温度の上昇が小さくなりミスマッチの検出感度が低くなることから、特定の構造を有するカチオン性構成単位(1)のポジティブチャージと特定の構造を有するアニオン性構成単位(2)のネガティブチャージとが適度に干渉し、核酸間の結合を適度に強化しているものと推定される。
【0031】
上述の様に二本鎖核酸のミスマッチもしくは試料核酸中の基準核酸に対する変異をより確実に検出可能であることから、特定両性共重合体において、カチオン性構成単位(1)が構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれるものであることが好ましく、アニオン性構成単位(2)が構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれるものであることが好ましいので、カチオン性構成単位(1)として構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれるものを有し、アニオン性構成単位(2)として構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれるものを有する特定両性共重合体を特に好ましく用いることができる。
【0032】
カチオン性構成単位(1)とアニオン性構成単位(2)との合計が特定両性共重合体の全構成単位に占める割合には特に制限は無いが、通常25モル%以上であり、好ましくは30~90モル%であり、より好ましくは35~75モル%であり、特に好ましくは40~60モル%である。
カチオン性構成単位(1)とアニオン性構成単位(2)との割合にも特に制限は無いが、モル比(カチオン構成単位(1):アニオン性構成単位(2))で通常0.1:1~2:1であり、好ましくは0.3:1~0.8:1であり、より好ましくは0.4:1~1.2:1であり、特に好ましくは0.5:1~1:1である。
特定両性共重合体における、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)のモル比は、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)の構造が既知である場合、特定両性共重合体をイソプロピルアルコール又はアセトン等の有機溶媒で再沈し、再沈物について、Perkin Elmer 2400II CHNS/O全自動元素分析装置又は同等の性能の装置を用いて、前記構成単位の構造に応じた適宜のモードで分析することで特定することができる。なお、測定は、キャリアーガスとしてヘリウムガスを使用し、錫カプセルに固体試料を量りとり、燃焼管内に落下して純酸素ガス中で燃焼温度1800℃以上で試料を燃焼し、分離カラム及び熱伝導検出器によるフロンタルクロマトグラフィー方式で各測定成分を検出し、校正係数を用いて各元素の含有率を定量することで行うことができる。ここで、特定両性共重合体におけるカチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)の構造が未知である場合、上記元素分析装置による測定の前に、1H-NMR又は13C-NMRを用いた公知の方法により、それぞれの構成単位の構造を特定する。また、特定両性共重合体の製造(共重合)において供給した各単量体の量、及び特定両性共重合体に取り込まれずに残留した各単量体の量から計算することもできる。なお、特定両性共重合体における各単量体から導かれる構成単位の割合(モル比)は、各構成単位の仕込み組成(モル比)とほぼ一致するため、本明細書では便宜的にモノマーの配合比を構成単位の割合(モル比)として取り扱う事がある。
【0033】
それ以外の構成単位
特定両性共重合体は、上記カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)に加えて、それ以外の構成単位を有していてもよい。
それ以外の構成単位としては、ノニオン性構成単位(3)や、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)のいずれにも該当しないカチオン性又はアニオン性の構成単位を挙げることができる。
カチオン性構成単位(1)とアニオン性構成単位(2)との間に位置することで、両者のスペーサーとして機能して、各構成単位のポジティブチャージとネガティブチャージとの干渉を調整し、二本鎖核酸のミスマッチもしくは試料核酸中の基準核酸に対する変異をより確実に検出可能となることから、特定両性共重合体はノニオン性構成単位(3)を含むことが好ましい。また、ノニオン性構成単位は、カチオン性構成単位(1)とアニオン性構成単位(2)との間に位置することが好ましい。特に、カチオン性構成単位が、上記一般式(I-f)で表される構造、又はその酸付加塩である構造である場合には、ノニオン性構成単位がスペーサーとして特に有効に機能することから、特定両性共重合体はノニオン性構成単位(3)を含むことが特に好ましい。
【0034】
ノニオン性構成単位(3)
本実施形態におけるノニオン性構成単位(3)は、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)と共重合可能な非イオン性の単量体から導かれる構成単位であればよく、特にそれ以外の制限はないが、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、アクリルアミド系単量体、二酸化硫黄等から導かれる構成単位を、好ましく用いることができる。より具体的な例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、アクリロイルモルフォリン、イソプロピルアクリルアミド、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、又は二酸化硫黄から導かれる構成単位を挙げることができる。アクリルアミドから導かれる構成単位を使用することが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(3)は、通常、単量体として非イオン性の単量体を用いることで、高分子中に導入することができる。
特定両性共重合体がノニオン性構成単位(3)を有する場合のノニオン性構成単位(3)の含有量には特に制限はなく、またノニオン性構成単位(3)の種類によってもその好適な量は異なるが、アニオン性構成単位(2)とのモル比が、ノニオン性構成単位(3)/アニオン性構成単位(2)=0.1/1~1/1であることが好ましく0.2/1~0.8/1であることがより好ましく、0.3/1~0.7/1であることがさらに好ましく、0.4/1~0.6/1であることが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(3)がメタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、又はアクリルアミド系単量体から導かれる場合には、上記比率は0.1/1~1/1であることが好ましく0.2/1~0.8/1であることがより好ましく、0.3/1~0.7/1であることがさらに好ましく、0.4/1~0.6/1であることが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(3)が二酸化硫黄から導かれる場合には、上記比率は0.1/1~1/1であることが好ましく、0.2/1~1/1であることが特に好ましい。
【0035】
特定両性共重合体の製造方法
特定両性共重合体の製造方法には特に制限はなく、従来当該技術分野において公知の方法で製造することができるが、例えばカチオン性構成単位(1)に対応する構造のカチオン性単量体、及びアニオン性構成単位(2)に対応する構造のアニオン性単量体、並びに所望によりノニオン性構成単位(3)に対応する構造のノニオン性単量体等のそれ以外の単量体を共重合することにより製造することができる。
【0036】
カチオン性構成単位(1)に対応する構造のカチオン性単量体、アニオン性構成単位(2)に対応する構造のアニオン性単量体等を共重合する場合の溶媒は特に限定されず、水系の溶媒であっても、アルコール、エーテル、スルホキシド、アミド等の有機系の溶媒であってもよいが、水系の溶媒であることが好ましい。
カチオン性構成単位(1)に対応する構造のカチオン性単量体、アニオン性構成単位(2)に対応する構造のアニオン性単量体等を共重合する場合の単量体濃度は、単量体の種類により、また共重合を行う溶媒の種類により、異なるが、水系の溶媒の場合通常10~75質量%である。この共重合反応は、通常、ラジカル重合反応であり、ラジカル重合触媒の存在下に行なわれる。ラジカル重合触媒の種類は特に限定されるものでなく、その好ましい例として、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、アゾビス系、ジアゾ系などの水溶性アゾ化合物が挙げられる。
【0037】
ラジカル重合触媒の添加量は、一般的には全単量体に対して0.1~20モル%、好ましくは1.0~10モル%である。重合温度は一般的には0~100℃、好ましくは5~80℃であり、重合時間は一般的には1~150時間、好ましくは5~100時間である。重合雰囲気は、大気中でも重合性に大きな問題を生じないが、窒素などの不活性ガスの雰囲気で行なうこともできる。
【0038】
2.試料核酸とプローブ核酸との間の核酸ミスマッチの検出方法
本発明の他の実施形態は、試料核酸とプローブ核酸との間の核酸ミスマッチの検出方法に関し、この方法は、
(1)前記特定両性共重合体の存在による、前記プローブ核酸と、前記プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸融解温度の上昇値(基準ΔTm)を決定する工程と、
(2)前記特定両性共重合体の存在による、試料核酸と、プローブ核酸との二本鎖核酸融解温度の上昇値(試料ΔTm)を決定する工程と、
(3)前記基準ΔTmから前記試料ΔTmを引いた値(ΔΔTm)に基づいて、核酸ミスマッチの有無を判定する工程とを含む。
【0039】
(1)の工程において、融解温度の上昇値(基準ΔTm)は、特定両性共重合体の存在下における、プローブ核酸とそれに相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸の核酸融解温度(Tm1)、並びに特定両性共重合体の不在下における、プローブ核酸とそれに相補的な塩基配列を備える核酸との二本鎖核酸融解温度(Tm2)をそれぞれ測定し、Tm1-Tm2を算出することにより決定する。
同様に、(2)の工程において、融解温度の上昇値(試料ΔTm)は、特定両性共重合体の存在下における、試料核酸とプローブ核酸との二本鎖核酸の融解温度(Tm1)、並びに特定両性共重合体の不在下における、試料核酸とプローブ核酸との二本鎖核酸融解温度(Tm2)をそれぞれ測定し、Tm1-Tm2を算出することにより決定する。
【0040】
本願明細書において、「核酸」は、DNAおよびRNAのいずれも含まれる。また、非天然型核酸も含む。試料核酸およびプローブ核酸に相補的な配列を含む核酸は、ゲノムDNA、cDNA、ゲノムRNA、mRNA、rRNAなどのあらゆる核酸を含み得る。また、プローブ核酸およびプローブ核酸に相補的な配列を含む核酸は、天然型核酸でも非天然型核酸でもよい。非天然型核酸は、人工ヌクレオチドをその一部に含むDNA又はRNAであり、人工ヌクレオチドとしては、例えば、BNA(Bridged Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid)、PNA(Peptide Nucleic Acid)、ホスフェート基を有するペプチド核酸(PHONA)、またはモルホリノ核酸を少なくとも一部に含む核酸等が挙げられる(これら非天然型核酸の詳細は、例えば、特許文献6~16等に記載されており、参照によりその内容を本願明細書に組み込む)。
【0041】
試料核酸及びプローブ核酸の重合度は、特に限定されないが、検出感度の点から、通常、4~100merであり、好ましくは、5~50merであり、より好ましくは、6~30merであり、さらに好ましくは、7~20merであり、特に好ましくは、8~15merである。
【0042】
試料核酸及びプローブ核酸のGC含量は、特に限定さないが、検出感度の点から、通常、30~80%であり、好ましくは、50~75%である。
【0043】
二本鎖核酸の融解温度の測定は、通常核酸水溶液を用いて行うが、溶媒は、ヌクレアーゼフリーな水性媒体であればよく、典型的にはヌクレアーゼフリーな水である。また、核酸は、緩衝液中に溶解してもよく、例えば、核酸分析試薬で用いられる核酸用緩衝液を使用することができる。また、核酸水溶液は、特定両性共重合体による融解温度(Tm)の上昇に影響を及ぼさない範囲で、界面活性剤を含んでもよく、核酸分析試薬で用いられる界面活性剤が挙げられる。
【0044】
二本鎖核酸の融解温度(Tm)の測定において、特定両性共重合体は、通常、0.03~3.0質量%の濃度で溶液中に含有させることができ、0.2~2.0質量%の濃度で溶液中に含有させることが好ましい。
【0045】
本発明の一の実施形態では、特定両性共重合体に加え、MgCl等の既知の融解温度(Tm)上昇化剤を反応液に含んでもよい。ただし、MgClを含む場合、その濃度は、5mM以下とすることが好ましい。また、融解温度(Tm)の上昇に影響を及ぼさない範囲で、NaClなどの塩を含んでもよい。この場合、塩は、300mM以下とすることが好ましい。
【0046】
二本鎖核酸の融解温度(Tm)の測定において、試料核酸およびプローブ核酸は、通常、それぞれ10~1000μMの濃度で測定を行うことができ、30~300μMの濃度で測定を行うことが好ましい。
溶液pHは、3.0~11.0とすることができ、5.0~9.0とすることが好ましい。
【0047】
二本鎖核酸の融解温度(Tm)の測定における温度スケジュールは、二本鎖核酸の変性を検出する方法によっても異なるが、基本的には、完全に二本鎖が形成される温度から徐々に温度を上昇させて二本鎖核酸の変性を生じさせればよい。
二本鎖核酸の変性を検出する方法としては、核酸の紫外線領域(例えば、260nm)での吸光度が二本鎖核酸の変性に伴って変化するのを利用する方法、蛍光色素、酵素、発光色素等で標識した、プローブ核酸、またはプローブ核酸およびそれに相補的な配列を有する核酸を利用して、二本鎖核酸の形成の程度を検出する方法(例えば、FRET法)、および蛍光色素等を二本鎖核酸形成時に核酸間に取り込ませ、二本鎖核酸の変性に伴う蛍光強度の減少を利用する方法(例えば、インターカレータ―法)がある。
蛍光色素等で標識したプローブ核酸を準備する必要がなく、簡単な装置でリアルタイムな分析が可能な点で、蛍光色素等を二本鎖核酸形成時に核酸間に取り込ませ、二本鎖核酸の変性に伴う蛍光強度の減少を利用する方法(例えば、インターカレータ―法)が好ましい。なお、本願明細書中でTmの具体的数値に言及する場合、特に他の方法を特定しない限り、実施例1に記載する方法で測定された数値を意味し、基準ΔTm、試料ΔTmおよびΔΔTmの具体的数値は、この様にして得られたTmから計算で求められた値を意味する。
【0048】
試料核酸とプローブ核酸との間の核酸ミスマッチの検出感度は、核酸の長さ、核酸のGC含量、塩濃度等の条件で感度が変わり得るが、本発明の検出方法においては、核酸の重合度が20以下であれば、一塩基のミスマッチであっても、通常、前記基準ΔTmが前記試料ΔTmよりも5.0℃以上高くなる。従って、前記基準ΔTmが、前記試料ΔTmよりも5.0℃以上高くなった場合に、二本鎖核酸ミスマッチが存在すると判定することが好ましく、擬陽性を低減するという観点からは、好ましくは、7.5℃以上高い場合に、核酸ミスマッチが存在すると判定することがより好ましく、10.0℃以上高い場合に、核酸ミスマッチが存在すると判定することが特に好ましい。
【0049】
3.試料核酸の基準核酸に対する変異の検出方法
上記の核酸ミスマッチの検出方法の一態様として、基準核酸(例えば、野生型ゲノム核酸)に対する試料核酸の変異の有無を検出することができる。具体的には、上記検出方法におけるプローブ核酸として、野生型ゲノム核酸のアンチセンス鎖を用い、プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸として、当該野生型ゲノム核酸のセンス鎖を用い、上記と同様にして、プローブ核酸、すなわち野生型ゲノム核酸のアンチセンス鎖と、試料核酸との核酸ミスマッチを検出することで、試料核酸中の野生型ゲノム核酸センス鎖に対する変異を検出することができる。換言すると、本発明の他の実施形態により、試料核酸における基準核酸に対する変異を検出する方法であって、
(1)特定両性共重合体の存在による、前記基準核酸と、前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との融解温度の上昇値(基準ΔTm)を測定する工程と、
(2)特定両性共重合体の存在による、前記試料核酸と、前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸との融解温度の上昇値(試料ΔTm)を測定する工程と、
(3)前記試料ΔTmと前記基準ΔTmとの差(ΔΔTm)に基づいて、変異の有無を判定する工程とを含む、変異の検出方法が提供される。
【0050】
4.核酸ミスマッチ検出キットおよび変異検出キット
本発明の他の実施形態において、上述した試料核酸とプローブ核酸との間の核酸ミスマッチを検出する方法、ならびに試料核酸における基準核酸に対する変異を検出する方法を実施するためのキットが提供される。具体的には、一の実施形態において、
プローブ核酸と、
前記プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸と、
特定両性共重合体を含む、二本鎖核酸の融解温度(Tm)上昇化剤と
を含む、試料核酸とプローブ核酸との間の核酸ミスマッチを検出するためのキットが提供される。
【0051】
また、他の実施形態において、
基準核酸と、
前記基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸と、
特定両性共重合体を含む、二本鎖核酸の融解温度(Tm)上昇化剤と
を含む、試料核酸における基準核酸に対する変異を検出するためのキットが提供される。
【0052】
これらキットにおける、「プローブ核酸」、「プローブ核酸に相補的な塩基配列を備える核酸」、「基準核酸」、「基準核酸に相補的な塩基配列を備える核酸」および「特定両性共重合体」の詳細および好ましい形態は、前述の通りである。
また、これらに加えて、水性媒体、緩衝液、界面活性剤、塩、他の融解温度(Tm)上昇化剤、二本鎖核酸を検出するための試薬等の、二本鎖核酸の融解温度(Tm)の測定に使用し得る他の成分を含み得、これらについても前述の通りである。特に、核酸ミスマッチ検出および変異検出を容易にするという点から、二本鎖核酸を検出するための試薬として、インターカレーター性蛍光色素を含むことが好ましい。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体を含むポリマー水溶液を、二本鎖核酸のTm上昇化剤として使用して、ミスマッチ二本鎖とフルマッチ二本鎖におけるTm上昇幅を比較し、ミスマッチの検出について当該共重合体を評価した。
1.ポリマー水溶液(二本鎖核酸のTm上昇化剤)
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩(モノマー1)と、アクリルアミド(モノマー2)と、アクリル酸(モノマー3)とを以下の重合条件1で共重合してなり、モノマー1に由来する構成単位1とモノマー2に由来する構成単位2とモノマー3に由来する構成単位3とのモル比が1:1:2である、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体を10.0質量%含み、pHが7.0である、ポリマー水溶液を調製した。
重合条件1:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩(固形分濃度51.2質量%)を16.15g(0.04モル相当)、アクリルアミド(固形分濃度97質量%)を2.93g(0.04モル相当)、アクリル酸(固形分濃度99%質量%)を5.82g(0.08モル相当)、蒸留水を143.86g仕込み、60℃に昇温した。2時間毎に、水溶液中の過硫酸アンモニウム量がモノマー全量に対してそれぞれ0.25、0.5、0.5、0.75モル%となる量だけ、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、一晩反応を継続した。
【0055】
2.基準核酸、相補的な配列からなる核酸および変異を有する核酸
基準核酸のヌクレオチド配列に対して1塩基の変異を検出可能か評価するために、以下のオリゴDNAを用いた。
【表1】
【0056】
3.反応液の調製
以下の反応液1乃至4を調製した。なお、蛍光色素溶液中の蛍光色素は、インターカレーター性蛍光色素に該当する。
【表2】
【0057】
4.二本鎖融解曲線の作成
調製した各反応液を、StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社製)にセットし、95℃で15秒間加熱した後、10℃で1分間保温し、次いで、0.3秒毎に蛍光計測を実施しながら、95℃まで昇温させて二本鎖融解曲線を得、その後、95℃で15秒間保持した。
【0058】
[参照例]
参考として、上記ポリマー水溶液に代えて、従来から二本鎖核酸のTm上昇化剤として知られている塩化マグネシウム溶液を用いて二本鎖融解曲線を得た。
具体的には、上記反応液2および4に代え、以下の反応液5および6を調製し、実施例1と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得た。
【表3】
【0059】
[試験結果]
図1に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図2に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図1に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、基準核酸と相補鎖との間のTm値は、37.0℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、基準核酸と相補鎖との間のTm値は、67.30℃となり、30.30℃のTm値の上昇が認められた。
また、図2に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、変異鎖と上記相補鎖との間のTm値は、34.25℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、変異鎖と上記相補鎖との間のTm値は、53.35℃となり、19.10℃のTm値の上昇が認められた。
この結果、基準核酸と相補鎖間と、変異鎖と相補鎖間とでは、ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下でのTm値の上昇に、11.20℃の差が認められた。
【0060】
[実施例2]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、ジアリルアミン塩酸塩(モノマー1)と、マレイン酸(モノマー2)とを以下の重合条件2で共重合してなり、モノマー1に由来する構成単位1とモノマー2に由来する構成単位2とのモル比が1:1である、ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得、それからポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在による、基準核酸および相補鎖間のTm上昇幅(基準ΔTm)と、変異鎖および相補鎖間のTm上昇幅(試料ΔTm)を決定し、両者の差(ΔΔTm)を算出した。
重合条件2:温度計、撹拌機、冷却管を備えた500mLの四つ口フラスコに66.78%ジアリルアミン塩酸塩160.07g(0.80モル)、無水マレイン酸78.45g(0.80モル)、蒸留水91.86gを仕込み、内温を50℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を、当該水溶液中の過硫酸アンモニウム量がモノマーの全量に対して0.5質量%となる量だけ添加し重合を開始した。過硫酸アンモニウムの量がそれぞれ4時間後にモノマー全量に対して0.5質量%、20、26時間後にモノマー全量に対して1.0質量%、45、51時間後にモノマー全量に対して1.5質量%となる量だけ、前記過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、68時間反応させた。
【0061】
図3に、それぞれ反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図4に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図3に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、基準核酸と相補鎖間のTm値は、37.00℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、基準核酸と相補鎖間のTm値は、69.85℃となり、32.85℃のTm値の上昇が認められた。
また、図4に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、変異鎖と上記相補鎖間のTm値は、34.25℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、変異鎖と上記相補鎖間のTm値は、56.05℃となり、21.80℃のTm値の上昇が認められた。
この結果、基準核酸と相補鎖間と、変異鎖と相補鎖間とでは、ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下でのTm値の上昇について、11.05℃の差が認められた。
【0062】
[実施例3]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、ジアリルメチルアミン(モノマー1)と、マレイン酸(モノマー2)とを以下の重合条件3で共重合してなり、モノマー1に由来する構成単位1とモノマー2に由来する構成単位2とのモル比が1:1である、ジアリルメチルアミン・マレイン酸共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得、それからポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在による、基準核酸および相補鎖間のTm上昇幅(基準ΔTm)と、変異鎖および相補鎖間のTm上昇幅(試料ΔTm)を決定し、両者の差(ΔΔTm)を算出した。
重合条件3:温度計、撹拌機、冷却管を備えた20Lの四つ口フラスコに無水マレイン酸1.86kg(19.0モル)と蒸留水0.34kgを仕込み、ジアリルメチルアミン(DAMA)2.11kg(19.0モル)を冷却下で滴下した。その後、内温を50℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を、当該水溶液中の過硫酸アンモニウム量がモノマーの全量に対して0.5質量%となる量だけ添加し重合を開始させた。3、21、25時間後に1.0質量%添加し、さらに一晩反応させた。
【0063】
図5に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図6に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図5に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、基準核酸と相補鎖間のTm値は、37.00℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、基準核酸と相補鎖間のTm値は、65.05℃となり、28.05℃のTm値の上昇が認められた。
また、図6に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、変異鎖と上記相補鎖間のTm値は、34.25℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、変異鎖と上記相補鎖間のTm値は、50.95℃となり、16.70℃のTm値の上昇が認められた。
この結果、基準核酸と相補鎖間と、変異鎖と相補鎖間とでは、ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下でのTm値の上昇について、11.35℃の差が認められた。
【0064】
[実施例4]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、ジアリルアミン塩酸塩(モノマー1)と、アクリルアミド(モノマー2)と、アクリル酸(モノマー3)とを以下の重合条件4で共重合してなり、モノマー1に由来する構成単位1とモノマー2に由来する構成単位2とモノマー3に由来する構成単位3とのモル比が1:1:2である、ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体を用いた以外は、オリゴ-オリゴ二本鎖融解試験を実施した。
重合条件4:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジアリルアミン塩酸塩 (固形分濃度65.40質量%)を20.43g(0.1モル相当)、蒸留水を110.9g仕込み、65℃に昇温した。水溶液中の過硫酸アンモニウムの量がモノマー全量に対して2.0モル%となる量、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を添加後、30分経過してからアクリルアミド(固形分濃度97質量%)を7.11g (0.1モル相当)、アクリル酸(固形分濃度99質量%)を14.56g (0.2モル相当)、蒸留水を21.15g混合した溶液を3時間かけて滴下し、一晩反応を継続した。
【0065】
図7に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図8に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図7に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、基準核酸と相補鎖間のTm値は、38.40℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、基準核酸と相補鎖間のTm値は、67.68℃となり、29.28℃のTm値の上昇が認められた。
また、図8に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、変異鎖と上記相補鎖間のTm値は、31.64℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、変異鎖と上記相補鎖間のTm値は、53.39℃となり、21.75℃のTm値の上昇が認められた。
この結果、基準核酸と相補鎖間と、変異鎖と相補鎖間とでは、ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下でのTm値の上昇について、7.53℃の差が認められた。
【0066】
[比較例1]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、GPC測定により得られる重量平均分子量(Mw)が3000である、アリルアミン重合体(製品名:PAA-03、ニットーボーメディカル製)を用いた以外は、実施例1と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得、それからポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在による、基準核酸および相補鎖間のTm上昇幅(基準ΔTm)と、変異鎖および相補鎖間のTm上昇幅(試料ΔTm)を決定し、両者の差(ΔΔTm)を算出した。
図9に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図10に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図9および10に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、明確なピークが検出されず、Tm値の決定が困難であった。
【0067】
[比較例2]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、GPC測定により得られる重量平均分子量Mwが8000である、アリルアミン重合体(製品名:PAA-08、ニットーボーメディカル製)を用いた以外は、実施例1と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得、それからポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在による、基準核酸および相補鎖間のTm上昇幅(基準ΔTm)と、変異鎖および相補鎖間のTm上昇幅(試料ΔTm)を決定し、両者の差(ΔΔTm)を算出した。
図11に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図12に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図11および12に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、明確なピークが検出されず、Tm値の決定が困難であった。
【0068】
[比較例3]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、GPC測定により得られる重量平均分子量Mwが15000である、アリルアミン重合体(製品名:PAA-15C、ニットーボーメディカル製)を用いた以外は、実施例1と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得、それからポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在による、基準核酸および相補鎖間のTm上昇幅(基準ΔTm)と、変異鎖および相補鎖間のTm上昇幅(試料ΔTm)を決定し、両者の差(ΔΔTm)を算出した。
図13に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図14に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図13および14に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、明確なピークが検出されず、Tm値の決定が困難であった。
【0069】
[比較例4]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、アリルアミン塩酸塩(モノマー1)と、ジアリルアミン塩酸塩(モノマー2)とを以下の重合条件5で共重合してなり、モノマー1に由来する構成単位1とモノマー2に由来する構成単位2とのモル比が1:1であり、GPC測定により得られる重量平均分子量Mwが100000である、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体を用いた以外は、オリゴ-オリゴ二本鎖融解試験を実施した。
重合条件5:温度計、撹拌機、冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに57.22質量%のアリルアミン塩酸塩245.24g(1.50モル)と65.22質量%のジアリルアミン塩酸塩307.31g(1.50モル)を仕込み、60℃に昇温した。30質量%のV-50(2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩)懸濁液を、当該懸濁液中のV-50の量がモノマー全量に対して0.50質量%となる量だけ添加し重合を開始させた。3時間後に0.50質量%、24、27、48、51、54時間後に0.25質量%添加し、さらに一晩反応させた。
図15に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図16に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図15および16に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、明確なピークが検出されず、Tm値の決定が困難であった。
【0070】
[比較例5]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、アリルアミン塩酸塩(モノマー1)と、ジアリルアミン塩酸塩(モノマー2)とを以下の重合条件6で共重合してなり、モノマー1に由来する構成単位1とモノマー2に由来する構成単位2とのモル比が4:1であり、GPC測定により得られる重量平均分子量Mwが20000である、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体を用いた以外は、オリゴ-オリゴ二本鎖融解試験を実施した。
重合条件6:温度計、撹拌機、冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに57.22質量%のアリルアミン塩酸塩490.48g(3.00モル)と65.22質量%のジアリルアミン塩酸塩153.66g(0.75モル)を仕込み、60℃に昇温した。30質量%のV-50(2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩)懸濁液を、当該懸濁液中のV-50量がモノマー全量に対して1.00質量%となる量だけ添加し、重合を開始させた。24時間後に1.00質量%、48時間後に0.50質量%添加し、さらに一晩反応させた。
図17に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図18に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図17および18に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、明確なピークが検出されず、Tm値の決定が困難であった。
【0071】
[比較例6]
以下の反応条件1により得られた、GPC測定により得られる重量平均分子量Mwが15000である、50モル%アセチル化ポリアリルアミンを用いた以外は、実施例1と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得、それからポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在による、基準核酸および相補鎖間のTm上昇幅(基準ΔTm)と、変異鎖および相補鎖間のTm上昇幅(試料ΔTm)を決定し、両者の差(ΔΔTm)を算出した。
図19に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図20に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図19および20に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、明確なピークが検出されず、Tm値の決定が困難であった。
反応条件1:温度計、撹拌機、冷却管を備えた20Lの四つ口フラスコに15.15質量%のアリルアミン重合体(製品名:PAA-15C、ニットーボーメディカル製)17.00kg(45.11モル)を仕込んだ。その後、冷却しながら無水酢酸2.37kg(22.55モル)を滴下し、室温で一晩反応させた。
【0072】
[比較例7]
GPC測定により得られる重量平均分子量Mwが20000であり、以下の重合条件7で重合してなる、ポリアクリルアミドを用いた以外は、実施例1と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得、それからポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在による、基準核酸および相補鎖間のTm上昇幅(基準ΔTm)と、変異鎖および相補鎖間のTm上昇幅(試料ΔTm)を決定し、両者の差(ΔΔTm)を算出した。
重合条件7:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、蒸留水を186.59g仕込み、60℃に昇温した。過硫酸アンモニウムを0.75g添加した後、アクリルアミド(固形分濃度97質量%)を25.65g(0.35モル相当)、蒸留水を36.55g混合した溶液を5時間かけて滴下し、一晩反応を継続した。
図21に、反応液1、2および5から得られた二本鎖融解曲線を示し、図22に、反応液3、4および6から得られた二本鎖融解曲線を示す。図21に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、基準核酸と相補鎖間のTm値は、38.4となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、基準核酸と相補鎖間のTm値は、49.81℃となり、11.41℃のTm値の上昇が認められた。
また、図22に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、変異鎖と上記相補鎖間のTm値は、31.64℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、変異鎖と上記相補鎖間のTm値は、42.14℃となり、10.50℃のTm値の上昇が認められた。
この結果、基準核酸と相補鎖との間と、変異鎖と相補鎖との間では、ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下でのTm値の上昇について、僅か0.91℃の差しか認められなかった。
【0073】
以下に試験結果を纏めて示す。
【表4】

【表5】

【表6】
【0074】
[実施例5]
基準核酸に対する相補鎖として、一部がBNAで構成されている非天然オリゴDNAを用いて、実施例1と同様にして、ミスマッチの検出についてジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体を評価した。
1.ポリマー水溶液(二本鎖核酸のTm上昇化剤)
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、実施例1で用いたジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸共重合体を10.0質量%含み、pHが7.0である、ポリマー水溶液を調製した。
【0075】
2.基準核酸、相補的な配列からなる核酸および変異を有する核酸
基準核酸のヌクレオチド配列に対して1塩基の変異を検出可能か評価するために、以下のオリゴDNAを用いた。
【表7】

【化33】
【0076】
3.反応液の調製
以下の反応液1乃至4を調製した。
【表8】
【0077】
4.二本鎖融解曲線の作成
調製した各反応液を、StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社製)にセットし、95℃で15秒間加熱した後、10℃で1分間保温し、次いで、0.3秒毎に蛍光計測を実施しながら、95℃まで昇温させて二本鎖融解曲線を得、その後、95℃で15秒間保持した。
【0078】
[試験結果]
図23に、反応液1および2から得られた二本鎖融解曲線を示し、図24に、反応液3および4から得られた二本鎖融解曲線を示す。図23に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、基準核酸およびBNA相補鎖間のTm値は、63.74℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、基準核酸およびBNA相補鎖間のTm値は、92.95℃となり、29.21℃のTm値の上昇が認められた。
【0079】
また、図24に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、変異鎖および上記BNA相補鎖間のTm値は、62.40℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、変異鎖および上記BNA相補鎖間のTm値は、79.92℃となり、17.52℃のTm値の上昇が認められた。
この結果、基準核酸およびBNA相補鎖間と、変異鎖およびBNA相補鎖間とでは、ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下でのTm値の上昇に、11.69℃の差が認められた。
【0080】
[実施例6]
二本鎖核酸のTm上昇化剤として、実施例2で用いたジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体を10.0質量%含み、pHが7.0である、ポリマー水溶液を用いた以外は、実施例5と同様にして各反応液から二本鎖融解曲線を得、それからポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在による、基準核酸およびBNA相補鎖間のTm上昇幅(基準ΔTm)と、変異鎖およびBNA相補鎖間のTm上昇幅(試料ΔTm)を決定し、両者の差(ΔΔTm)を算出した。
【0081】
図25に、それぞれ反応液1および2から得られた二本鎖融解曲線を示し、図26に、反応液3および4から得られた二本鎖融解曲線を示す。図25に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、基準核酸およびBNA相補鎖間のTm値は、63.74℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、基準核酸およびBNA相補鎖間のTm値は、92.95℃となり、29.21℃のTm値の上昇が認められた。
また、図26に示す通り、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の非存在下では、変異鎖および上記BNA相補鎖間のTm値は、62.40℃となった。他方、上記ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下では、変異鎖および上記BNA相補鎖間のTm値は、81.10℃となり、18.60℃のTm値の上昇が認められた。
この結果、基準核酸およびBNA相補鎖間と、変異鎖およびBNA相補鎖間とでは、ポリマー(二本鎖核酸のTm上昇化剤)の存在下でのTm値の上昇に、10.61℃の差が認められた。
【0082】
実施例5および6の試験の結果を纏めて以下に示す。
【表9】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
【配列表】
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