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特許7394371紫外線硬化性樹脂組成物、有機EL発光装置の製造方法及び有機EL発光装置
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  • 特許-紫外線硬化性樹脂組成物、有機EL発光装置の製造方法及び有機EL発光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】紫外線硬化性樹脂組成物、有機EL発光装置の製造方法及び有機EL発光装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20231201BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20231201BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20231201BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231201BHJP
【FI】
C08G59/24
H05B33/04
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019083349
(22)【出願日】2019-04-24
(62)【分割の表示】P 2018171191の分割
【原出願日】2017-04-28
(65)【公開番号】P2019163468
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-01-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2016199522
(32)【優先日】2016-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017003679
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 広志
(72)【発明者】
【氏名】藤田 明
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】海老原 えい子
【審判官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-111792(JP,A)
【文献】特開2019-2027(JP,A)
【文献】特表2013-544909(JP,A)
【文献】特開2009-298887(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068454(WO,A1)
【文献】特開2006-272190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 1/00-101/14
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能カチオン重合性化合物、カチオン硬化触媒(C)、及び粘度8mPa・s以下の単官能カチオン重合性化合物(E)を含有する紫外線硬化性樹脂組成物であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物をAr雰囲気のドライボックス内に入れて1時間放置した場合の重量減少量が1%未満であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物の25℃における粘度が5~50mPa・sの範囲内であることと、前記紫外線硬化性樹脂組成物の50℃における粘度が5~20mPa・sの範囲内であることとのうち、少なくとも一方を満たし、
有機EL素子のための封止材を作製するために用いられる、
紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物の吸湿率が0.1質量%以上であり、前記吸湿率は、Ar雰囲気下で前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射することで作成された厚み10μmのフィルムを真空乾燥して、乾燥後の前記フィルムの質量(M0)を測定し、前記フィルムを85℃、85%RHの条件下に24時間曝露して、吸湿後の前記フィルムの質量(M)を測定し、(M-M0)/M0×100(質量%)の式で算出される、
請求項1に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物の、厚み寸法が10μmである場合の全光透過率は、90%以上である、
請求項1又は2に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
多官能ビニルエーテルを含有しない、
請求項1からのいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記多官能カチオン重合性化合物は、シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化
合物(A)を含有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記多官能カチオン重合性化合物(A)は、下記構造式(1)で示される化合物を含有し、
【化1】
式(1)において、R1~R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり、前記炭化水素基は酸素原子又はハロゲン原子を含んでいてもよく、Xは単結合、又は二価の有機基である
請求項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記多官能カチオン重合性化合物は、シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(B)を含有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記多官能カチオン重合性化合物(B)における前記シロキサン骨格のSi原子数は、2~15の範囲内である
請求項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記多官能カチオン重合性化合物(B)は、下記式(100)に示す化合物を含有し、
【化2】
前記式(100)中、nは0以上の整数である、
請求項又はに記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記式(100)中、nは0~8の範囲内の整数である、
請求項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
樹脂成分の全量に対する前記多官能カチオン重合性化合物(B)の量は、5~95質量%の範囲内である、
請求項から10のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
吸湿剤(D)を更に含有する、
請求項1から11のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
溶媒を含有しない、
請求項1から12のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
インクジェット法により成形してから、紫外線で硬化させることで前記有機EL素子のための前記封止材を作製するために用いられる、
請求項1から13のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
有機EL素子と前記有機EL素子を覆う封止材とを備える有機EL発光装置を製造する方法であり、
請求項1から14のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法により成形してから、前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して硬化することで前記封止材を作製することを含む、
有機EL発光装置の製造方法。
【請求項16】
有機EL素子と、前記有機EL素子を覆う封止材とを備え、前記封止材は、請求項1から14のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である、
有機EL発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光装置における封止材を作製するために好適な紫外線硬化性樹脂組成物、この紫外線硬化性樹脂を用いる有機EL発光装置の製造方法、及びこの封止材を備える有機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光装置は、照明用途、ディスプレイ用途などに適用されており、今後の普及が期待されている。
【0003】
有機EL発光装置のうち、トップエミッションタイプと呼ばれるものは、例えば支持基板上に有機EL素子を配置し、支持基板に対向するように透明基板を配置し、支持基板と透明基板との間に透明な封止材を充填して構成される。この場合、有機EL素子が発する光は封止材及び透明基板を通過して外部へ出射できる。
【0004】
封止材は、有機EL素子への水分の侵入を抑制することで、有機EL素子におけるダークスポットの発生及び成長を抑制する。ダークスポットとは、有機EL素子が水分で劣化することで生じる、発光しない部分のことである。
【0005】
封止材は、例えばカチオン硬化性樹脂とカチオン重合開始剤とを含有する組成物から作製される(特許文献1及び2参照)。この場合、紫外線照射等で組成物を硬化させて封止材を作製できるので、有機EL素子に熱による負荷をかけることなく封止材を作製できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5703429号公報
【文献】特許第5887467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載の有機EL封止用の組成物の粘度は50mPa・s以上であり、それほどの低粘度化は要求されておらず、インクジェット法で塗布することも想定されていない。
【0008】
本発明の課題は、低粘度化が可能であり、それによりインクジェット法による塗布も可能な紫外線硬化性樹脂組成物、この紫外線硬化性樹脂組成物を用いる有機EL発光装置の製造方法、及び有機EL発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、多官能カチオン重合性化合物、チオン硬化触媒(C)、及び粘度8mPa・s以下の単官能カチオン重合性化合物(E)を含有する。前記紫外線硬化性樹脂組成物をAr雰囲気のドライボックス内に入れて1時間放置した場合の重量減少量が1%未満である。前記紫外線硬化性樹脂組成物は、有機EL素子のための封止材を作製するために用いられる。
本発明の別の態様に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、多官能カチオン重合性化合物、及びカチオン硬化触媒(C)を含有する。前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物の吸湿率が0.1質量%以上である。前記吸湿率は、Ar雰囲気下で前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射することで作成された厚み10μmのフィルムを真空乾燥して、乾燥後の前記フィルムの質量(M0)を測定し、前記フィルムを85℃、85%RHの条件下に24時間曝露して、吸湿後の前記フィルムの質量(M)を測定し、(M-M0)/M0×100(質量%)の式で算出される。
【0010】
本発明の一態様に係る有機EL発光装置の製造方法は、有機EL素子と前記有機EL素子を覆う封止材とを備える有機EL発光装置を製造する方法であり、前記紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法により成形してから、前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して硬化することで前記封止材を作製することを含む。
【0011】
本発明の一態様に係る有機EL発光装置は、有機EL素子と、前記有機EL素子を覆う封止材とを備え、前記封止材は、前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様には、低粘度化が可能であり、それによりインクジェット法による塗布も可能な紫外線硬化性樹脂組成物、この紫外線硬化性樹脂組成物を用いる有機EL発光装置の製造方法、及び有機EL発光装置を提供できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】有機EL発光装置の一例を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
有機EL発光装置1の構造の一例を、図1を参照して説明する。有機EL発光装置1は、支持基板2、支持基板2と間隔をあけて対向する透明基板3、支持基板2の透明基板3と対向する面の上にある有機EL素子4、及び支持基板2と透明基板3との間に充填されている封止材5とを備える。また、図1に示す例では、有機EL発光装置1は、支持基板2の透明基板3と対向する面及び有機EL素子4を覆うパッシベーション層6を備える。
【0016】
支持基板2は、例えば樹脂材料から作製されるが、これに限定されない。透明基板3は透光性を有する材料から作製される。透明基板3は、例えば、ガラス製基板又は透明樹脂製基板である。有機EL素子4は有機発光ダイオードとも呼ばれる。有機EL素子4は、例えば一対の電極と、電極間にある有機発光層とを備える。パッシベーション層6は窒化ケイ素又は酸化ケイ素から作製されることが好ましい。
【0017】
封止材5を、本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X)という)から作製することができる。すなわち、組成物(X)は、好ましくは有機EL素子封止用の組成物、あるいは有機EL発光装置製造用の組成物である。
【0018】
[組成物(X)]
以下、組成物(X)について説明する。
【0019】
組成物(X)は、多官能カチオン重合性化合物、カチオン硬化触媒(C)、及び粘度8mPa・s以下の単官能カチオン重合性化合物(E)を含有する。多官能カチオン重合性化合物は、シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物(A)と、シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(B)とのうち、いずれか一方を含有することができ、両方を含有することもできる。紫外線硬化性樹脂組成物は、吸湿剤を含有できるが、含有しなくてもよい。
【0020】
組成物(X)に紫外線を照射すると、組成物(X)が光カチオン重合反応によって硬化することで、硬化物を作製できる。組成物(X)は、単官能カチオン重合性化合物(E)を含有することで、低い粘度を有することができる。このため、封止材5を作製する際などに組成物(X)を塗布する場合の塗布性が良好である。このため、キャスティング法、インクジェット法などにより組成物(X)を塗布することが可能であり、常温下でインクジェット法により組成物(X)を塗布することも可能である。
【0021】
また、組成物(X)の硬化物は、有機EL発光装置1における封止材5として相応しい十分に高い屈折率を有することができる。例えば硬化物は1.45以上、1.55未満の範囲内の屈折率を有することができる。このため、硬化物を有機EL発光装置1における封止材5に適用した場合に、封止材5を透過して外部へ出射する光の取り出し効率を向上できる。
【0022】
また、組成物(X)は良好なカチオン重合反応性を有することができ、このため、硬化物は高い強度を有することができる。また硬化物にタックが生じることを抑制できる。
【0023】
組成物(X)が吸湿剤を含有すると、硬化物は吸湿性を有することができる。吸湿剤の平均粒径は制限されない。吸湿剤が特に平均粒径が100nm以下の吸湿剤(D)を含有すると、硬化物は高い透明性も有することができる。また、組成物(X)は、粒径の小さい吸湿剤(D)を含有しても、単官能カチオン重合性化合物(E)を含有することで、低い粘度を有することができる。
【0024】
また、組成物(X)が多官能カチオン重合性化合物(B)を含有すると、組成物(X)が平均粒径が100nm以下の吸湿剤(D)を含有する場合の低粘度化が、更に容易である。
【0025】
組成物(X)の25℃における粘度は、5~50mPa・sの範囲内であることが好ましい。この場合、組成物(X)を膜状等に成形することが容易であり、キャスティング法、インクジェット法といった方法で組成物(X)を成形することができる。組成物(X)の25℃における粘度が、5~20mPa・sの範囲内であることも好ましい。この場合、組成物(X)が特に低い粘度を有することで、組成物(X)をインクジェット法で成形することが容易である。組成物(X)の50℃における粘度が、5~20mPa・sの範囲内であることも好ましい。この場合、常温における組成物(X)の粘度がいかなる値であっても、組成物(X)を僅かに加熱すれば低粘度化することが可能であり、このため、組成物(X)をインクジェット法で成形することが容易である。このような組成物(X)の低い粘度は、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。
【0026】
以下、組成物(X)の成分について更に詳しく説明する。
【0027】
上記の通り、第二の態様では、組成物(X)中の多官能カチオン重合性化合物に含まれる成分に特に制限はない。多官能カチオン重合性化合物は、多官能カチオン重合性化合物(A)と多官能カチオン重合性化合物(B)のうちいずれか一方又は双方を含有してよい。
【0028】
多官能カチオン重合性化合物(A)は、シロキサン骨格を有さず、一分子あたり二以上のカチオン重合性官能基を有する。多官能カチオン重合性化合物(A)の一分子あたりのカチオン重合性官能基の数は2~4個であることが好ましく、2~3個であれば更に好ましい。
【0029】
カチオン重合性官能基は、例えばエポキシ基、オキセタン基及びビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも一種の基である。
【0030】
多官能カチオン重合性化合物(A)は、例えば下記式(1)に示すような二官能脂環式エポキシ化合物、下記式(2)に示すような三官能エポキシ化合物、下記式(3)に示すような二官能オキセタン化合物、下記式(4)~(7)に示すようなアルキレングリコールジグリシジルエーテル、及び式(8)に示すようなアルキレングリコールモノビニルモノグリシジルエーテルのうち、少なくとも一種の成分を含有できる。
【0031】
【化1】
【0032】
式(1)において、R1~R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基である。炭化水素基は、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい。式(1)において、Xは単結合又は二価の有機基であり、有機基は、例えば-CO-O-CH2-である。
【0033】
式(1)に示す化合物の例は、下記式(1a)に示す化合物及び下記式(1b)に示す化合物を含む。
【0034】
【化2】
【0035】
【化3】
【0036】
【化4】
【0037】
【化5】
【0038】
【化6】
【0039】
【化7】
【0040】
【化8】
【0041】
【化9】
【0042】
【化10】
【0043】
より具体的には、多官能カチオン重合性化合物(A)は、例えばダイセル製のセロキサイド2021P及びセロキサイド8010、日産化学製のTEPIC-VL、東亞合成製のOXT-221、並びに四日市合成製の1,3-PD-DEP、1,4-BG-DEP、1,6-HD-DEP、NPG-DEP及びブチレングリコールモノビニルモノグリシジルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0044】
多官能カチオン重合性化合物(A)は、脂環式エポキシ構造を有することが好ましく、特に式(1)に示す化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)はより高いカチオン重合反応性を有することができる。
【0045】
特に組成物(X)は式(1a)に示す化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)は、より高いカチオン重合反応性を有するとともに、特に低い粘度を有することができる。
【0046】
樹脂成分の全量に対する多官能カチオン重合性化合物(A)の量は、5~95質量%の範囲内であることが好ましい。なお、樹脂成分とは、組成物(X)中のカチオン重合性を有する化合物のことをいい、多官能カチオン重合性化合物及び単官能カチオン重合性化合物(E)を含む。多官能カチオン重合性化合物(A)の量が5質量%以上であれば組成物(X)は光カチオン重合反応時に特に優れた反応性を有することができ、またそれによって、硬化物が高い強度を有することができる。また、多官能カチオン重合性化合物(A)の量が95質量%以下であれば、特に組成物(X)が平均粒径が100nm以下の吸湿剤(D)を含有する場合に、組成物(X)中で吸湿剤(D)を特に均一に分散させやすくできる。この多官能カチオン重合性化合物(A)の量は、12質量%以上であればより好ましく、15質量%以上であれば更に好ましく、20質量%以上であれば更に好ましく、25質量%以上であれば特に好ましい。またこの多官能カチオン重合性化合物(A)の量は、85質量%以下であればより好ましく、60質量%以下であれば更に好ましい。例えば多官能カチオン重合性化合物(A)の量が20~60質量%の範囲内であることが好ましい。
【0047】
多官能カチオン重合性化合物(B)は、シロキサン骨格と、一分子あたり二以上のカチオン重合性官能基とを有する。多官能カチオン重合性化合物(B)の一分子あたりのカチオン重合性官能基の数は、2~6個であることが好ましく、2~4個であれば更に好ましい。多官能カチオン重合性化合物(B)は、組成物(X)のカチオン重合反応性の向上に寄与できるとともに、硬化物及び封止材5の耐熱変色性の向上に寄与できる。封止材5の耐熱変色性が高いと、封止材5を備える有機EL発光装置1の発光強度の経時劣化及び発光色の経時変化を抑制できる。また、多官能カチオン重合性化合物(B)は硬化物及び封止材5の低弾性率化にも寄与することができ、このため、封止材5を備える有機EL発光装置1にフレキシブル性を付与することも可能である。また、多官能カチオン重合性化合物(B)は組成物(X)中及び硬化物中の吸湿剤(D)の分散性の向上に寄与できる。このため、たとえ吸湿剤(D)に分散性向上のための表面処理などを施さない場合であっても、組成物(X)中及び硬化物中において、吸湿剤(D)が良好に分散できる。
【0048】
多官能カチオン重合性化合物(B)は、25℃で液体であることが好ましい。特に多官能カチオン重合性化合物(B)の25℃における粘度は、10~300mPa・sの範囲内であることが好ましい。この場合、組成物(X)の粘度上昇を抑制できる。
【0049】
多官能カチオン重合性化合物(B)が有するカチオン重合性官能基は、例えばエポキシ基、オキセタン基及びビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも一種の基である。
【0050】
多官能カチオン重合性化合物(B)が有するシロキサン骨格は、直鎖状でも分岐鎖状でも環状でもよい。シロキサン骨格が有するSi原子の数は、2~15の範囲内であることが好ましい。この場合、組成物(X)は特に低い粘度を有することができる。このSi原子の数は、2~10の範囲内であればより好ましく、2~7の範囲内であれば更に好ましく、3~6の範囲内であれば特に好ましい。
【0051】
多官能カチオン重合性化合物(B)は、例えば式(10)に示す化合物と、式(11)に示す化合物とのうち、少なくとも一方を含有する。
【0052】
【化11】
【0053】
【化12】
【0054】
式(10)及び式(11)の各々におけるRは、単結合又は二価の有機基であり、アルキレン基であることが好ましい。Yはシロキサン骨格であり、直鎖状、分岐状及び環状のいずれでもよく、そのSi原子の数は2~10の範囲内であることが好ましく、2~7の範囲内であればより好ましく、3~6の範囲内であれば更に好ましい。nは2以上の整数であり、2~4の範囲内であることが好ましい。
【0055】
より具体的には、例えば多官能カチオン重合性化合物(B)は、次の式(10a)に示す化合物を含有する。
【0056】
【化13】
【0057】
式(10a)におけるRは、単結合又は二価の有機基であり、炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。式(10a)におけるnは0以上の整数である。式(10a)に示す化合物は、下記式(100)に示す化合物を含有することが好ましい。すなわち、多官能カチオン重合性化合物(B)は、下記式(100)に示す化合物を含有することが好ましい。
【0058】
【化14】
【0059】
式(100)中、nは0以上の整数であり、0~8の範囲内であることが好ましい。nが0~5の範囲内であればより好ましく、1~4の範囲内であれば更に好ましい。
【0060】
式(100)に示す化合物の例は、下記式(10a-1)に示す化合物を含む。
【0061】
【化15】
【0062】
多官能カチオン重合性化合物(B)は、式(10a)に示す化合物に代えて、或いは式(10a)に示す化合物とともに、次の式(10b)~(10d)並びに(11a)~(11b)に示す化合物のうち少なくとも一種の化合物を含有してもよい。
【0063】
【化16】
【0064】
【化17】
【0065】
【化18】
【0066】
式(10d)におけるRは、単結合又は二価の有機基であり、炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。式(10d)におけるnは0以上の整数である。式(10d)におけるmは2以上の整数である。
【0067】
【化19】
【0068】
式(11a)におけるRは、単結合又は二価の有機基であり、炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。式(11a)におけるnは0以上の整数であり、8~80の範囲内であることが好ましい。式(11a)におけるmは2以上の整数であり、2~6の範囲内であることが好ましい。
【0069】
【化20】
【0070】
式(11b)におけるRは、単結合又は二価の有機基であり、炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。式(11b)におけるnは0以上の整数であり、8~80の範囲内であることが好ましい。
【0071】
更に具体的には、多官能カチオン重合性化合物(B)は、例えば信越化学株式会社製の品番X-40-2669、X-40-2670、X-40-2715、X-40-2732、X-22-169AS、X-22-169B、X-22-2046、X-22-343、X-22-163、及びX-22-163Bからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。
【0072】
多官能カチオン重合性化合物(B)は脂環式エポキシ構造を有することが好ましく、多官能カチオン重合性化合物(B)が式(2)に示す化合物を含有すれば特に好ましい。式(2)に示す化合物は、組成物(X)のカチオン重合反応性の向上と低粘度化とに特に寄与できるとともに、硬化物及び封止材5の耐熱変色性の向上及び低弾性率化に特に寄与できる。組成物(X)が吸湿剤(D)を含有する場合は組成物(X)中の吸湿剤(D)の分散性向上にも特に寄与できる。
【0073】
樹脂成分の全量に対する多官能カチオン重合性化合物(B)の量は、5~95質量%の範囲内であることが好ましい。多官能カチオン重合性化合物(B)の量が5質量%以上であれば、特に組成物(X)が吸湿剤(D)を含有する場合に、組成物(X)中及び硬化物中での吸湿剤(D)の分散性が特に向上することで、硬化物の透明性が特に向上する。また、多官能カチオン重合性化合物(B)の量が95質量%以下であれば、組成物(X)特に高い光カチオン重合反応性を有することができ、そのため、硬化物は特に高い強度を有することができる。この多官能カチオン重合性化合物(B)の量は、6質量%以上であればより好ましく13質量%以上であれば更に好まく、20質量%以上であれば特に好ましい。また、この多官能カチオン重合性化合物(B)の量は、70質量%以下であればより好ましく、この場合、硬化物をより高屈折率化できる。多官能カチオン重合性化合物(B)の量は、45質量%以下であれば更に好ましい。例えば多官能カチオン重合性化合物(B)の量が20~70質量%の範囲内であることが好ましい。
【0074】
カチオン硬化触媒(C)は、光照射を受けてプロトン酸又はルイス酸を発生する触媒であれば、特に制限されない。カチオン硬化触媒(C)は、イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒と、非イオン性光酸発生剤のカチオン硬化触媒とのうち、少なくとも一方を含有できる。
【0075】
イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒は、オニウム塩類と有機金属錯体とのうち少なくとも一方を含有できる。オニウム塩類の例は、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、及び芳香族スルホニウム塩を含む。有機金属錯体の例は、鉄-アレン錯体、チタノセン錯体、及びアリールシラノール-アルミニウム錯体を含む。イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒は、これらの成分のうち少なくとも一種の成分を含有できる。
【0076】
非イオン性光酸発生剤のカチオン硬化触媒は、例えばニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、及びN-ヒドロキシイミドホスホナートからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0077】
カチオン硬化触媒(C)のより具体的な例は、みどり化学製のDPIシリーズ(105,106、109、201など)、BI-105、MPIシリーズ(103、105、106、109など)、BBIシリーズ(101、102、103、105、106、109、110、200、210、300、301など)、TSPシリーズ(102、103、105、106、109、200、300、1000など)、HDS-109、MDSシリーズ(103、105、109、203、205、209など)、BDS-109、MNPS-109、DTSシリーズ(102、103、105、200など)、NDSシリーズ(103、105、155、165など)、DAMシリーズ(101、102、103、105、201など)、SIシリーズ(105、106など)、PI-106、NDIシリーズ(105、106、109、1001、1004など)、PAIシリーズ(01、101、106、1001、1002、1003、1004など)、MBZ-101、PYR-100、NBシリーズ(101、201など)、NAIシリーズ(100、1002,1003、1004、101、105、106、109など)、TAZシリーズ(100、101、102、103、104、107、108、109、110、113、114、118、122、123、203、204など)、NBC-101、ANC-101、TPS-Acetate、DTS-Acetate、Di-Boc Bisphinol A、tert-Butyl lithocholate、tert-Butyl deoxycholate、tert-Butyl cholate、BX、BC-2、MPI-103、BDS-105、TPS-103、NAT-103、BMS-105、及びTMS-105;
米国ユニオンカーバイド社製のサイラキュアUVI-6970、サイラキュアUVI-6974、サイラキュアUVI-6990、及びサイラキュアUVI-950;
BASF社製のイルガキュア250、イルガキュア261及びイルガキュア264;
チバガイギー社製のCG-24-61;
株式会社ADEKA製のアデカオプトマーSP-150、アデカオプトマーSP-151、アデカオプトマーSP-170及びアデカオプトマーSP-171;
株式会社ダイセル製のDAICAT II;
ダイセル・サイテック株式会社製のUVAC1590及びUVAC1591;
日本曹達株式会社製のCI-2064、CI-2639、CI-2624、CI-2481、CI-2734、CI-2855、CI-2823、CI-2758、及びCIT-1682;
ローディア社製のテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート トルイルクミルヨードニウム塩であるPI-2074;
3M社製のFFC509;
米国Sartomer社製のCD-1010、CD-1011及びCD-1012;
サンアプロ株式会社製のCPI-100P、CPI-101A、CPI-110P、CPI-110A及びCPI-210S;並びに
ダウ・ケミカル社製のUVI-6992及びUVI-6976を、含む。
【0078】
樹脂成分の全量に対するカチオン硬化触媒(C)の量は、例えば0.05~3質量%の範囲内である。
【0079】
組成物(X)は、上記の通り吸湿剤を含有してもよい。吸湿剤は、吸湿性を有する無機粒子であることが好ましく、例えばゼオライト粒子、シリカゲル粒子、塩化カルシウム粒子、及び酸化チタンナノチューブ粒子からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。
【0080】
組成物(X)は、平均粒径100nm以下の吸湿剤(D)を含有してもよい。すなわち、組成物(X)中の吸湿剤が、平均粒径100nm以下の吸湿剤(D)を含有してもよい。
【0081】
吸湿剤(D)は、吸湿性を有する無機粒子であることが好ましく、例えばゼオライト粒子、シリカゲル粒子、塩化カルシウム粒子、及び酸化チタンナノチューブ粒子からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。吸湿剤(D)がゼオライト粒子を含有することが特に好ましい。
【0082】
平均粒径100nm以下のゼオライト粒子は、例えば一般的な工業的用ゼオライトを粉砕することで製造できる。ゼオライトを粉砕してから水熱合成などによって結晶化させてもよく、この場合、ゼオライト粒子は特に高い吸湿性を有することができる。このようなゼオライト粒子の製造方法は、特開2016-69266号公報、特開2013-049602号公報などにより公知である。
【0083】
平均粒径100nm以下のゼオライト粒子の製造方法の一具体例を示す。まず、ゼオライト粉を準備する。ゼオライト粉はLTA型(A型ゼオライト)などのナトリウムを含むゼオライトであることが好ましいが、これに限られない。このゼオライト粉を物理粉砕する。例えばゼオライト粉を水と混合してスラリーを調製し、このスラリーをビーズミル粉砕機にかけることで、ゼオライト粉を物理粉砕できる。
【0084】
続いて、水熱合成によりゼオライト粉を結晶化させる。例えば物理粉砕後のゼオライト粉を含むスラリーを、オートクレーブで加熱することで、水熱合成を行うことができる。水熱合成の条件は、例えば加熱温度150~200℃の範囲内、加熱時間15~24時間の範囲内である。
【0085】
続いて、ゼオライト粉を乾燥する。乾燥温度は例えば150~200℃の範囲内であり、乾燥時間は例えば2~3時間の範囲内である。続いて、必要に応じ、乾燥後のゼオライト粉を乳鉢などを用いて解砕してから篩いにかけることで粒径を整える。
【0086】
続いて、必要に応じ、ゼオライト粉にイオン交換処理を施す。特にゼオライト粉がLTAなどのナトリウムを含むゼオライトである場合は、ゼオライト粉中のナトリウムをマグネシウムと交換するイオン交換処理を施すことが好ましい。
【0087】
イオン交換処理は、例えばゼオライト粉を、マグネシウムイオンを含有する水溶液中に分散させて混合物を調製し、この混合物を加熱することで行われる。より具体的には、イオン交換処理は例えば次のように行われる。まずゼオライト粉を、塩化マグネシウム及び水と混合し、得られた混合物を加熱しながら撹拌する処理をする。この処理の間、撹拌を一時的に停止してから混合物の上澄みを捨て、続いて混合物に水を補充してから撹拌を再開するという操作を、適当な間隔をあけて複数回繰り返すことが好ましい。この処理における加熱温度は40~80℃の範囲内、処理時間は6~8時間の範囲内であることが好ましい。
【0088】
イオン交換処理を施した場合、続いて、ゼオライト粉を乾燥する。乾燥温度は例えば150~200℃の範囲内であり、乾燥時間は例えば2~3時間の範囲内である。続いて、必要に応じ、乾燥後のゼオライト粉を乳鉢などを用いて解砕してから篩いにかけることで粒径を整える。
【0089】
これにより、平均粒径100nm以下のゼオライト粒子を得ることができる。
【0090】
ゼオライト粉の結晶化を、シリケート及びアルカリ金属酸化物の存在下で行うこともできる。その場合の平均粒径100nm以下のゼオライト粒子の製造方法の具体例を示す。まず、ゼオライト粉を準備する。ゼオライト粉は、aM12O・bSiO2・Al23・cMeの組成を有することが好ましい。M1はアルカリ金属、プロトン、又はアンモニウムイオン(NH4 +)であり、Meはアルカリ土類金属であり、aは0.01~1の範囲内の数であり、bは20~80の範囲内の数であり、cは0~1の範囲内の数である。ゼオライト粉は、例えばFAU型、CHA型、BEA型、MFI型、MOR型、又はFER型であってよい。
【0091】
このゼオライト粉を物理粉砕する。例えばゼオライト粉をビーズミル粉砕機にかけることで、ゼオライト粉を物理粉砕できる。
【0092】
物理粉砕後のゼオライト粉を、M22O、SiO2及びH2Oを含有する溶液に分散させ、スラリーを調製する。M2はアルカリ金属であり、好ましくはK又はNaである。M22O/H2Oのモル比は例えば0.003~0.01の範囲内であり、SiO2/H2Oのモル比は例えば0.006~0.025である。ゼオライト粉の量は、例えば溶液100mlに対して0.5~10gである。
【0093】
このスラリーをオートクレーブで加熱することで、ゼオライト粉の結晶化を行うことができる。その条件は、例えば加熱温度100~230℃の範囲内、加熱時間1~24時間の範囲内である。続いて、ゼオライト粉を洗浄してから乾燥させる。
【0094】
これにより、平均粒径100nm以下のゼオライト粒子を得ることができる。
【0095】
ゼオライト粒子のpHは6~9の範囲内であることが好ましい。ゼオライト粒子のpHが6以上であると、ゼオライト粒子の結晶が破壊されにくくなり、そのためゼオライト粒子を含有する組成物(X)から作製された封止材が特に高い吸湿性を有することができる。また、ゼオライト粒子のpHが9以下であると、組成物(X)を硬化させる場合にゼオライト粒子が硬化を阻害しにくい。ゼオライト粒子のpHが6~8の範囲内であればより好ましく、6.5~8の範囲内であれば更に好ましい。
【0096】
なお、ゼオライト粒子のpHは、イオン交換水99.95gにゼオライト粒子0.05gを入れて得られた分散液を、90℃で24時間加熱してから、分散液の上澄みのpHをpH測定器で測定することで得られる値である。pH測定器としては、例えば堀場製作所製のコンパクトpHメータ<LAQUAtwin>B-711を用いることができる。
【0097】
ゼオライト粒子のpHが6~9の範囲内であるためには、ゼオライト粒子が、カウンターカチオンとしてプロトンを有するFAU Y型のゼオライトからなることが好ましい。
【0098】
ゼオライト粒子を作製する過程において、ゼオライトの水熱合成を行う場合に、pHの調整のための処理を施してもよい。pHの調整のための処理は、例えば水熱合成のために調製されたゼオライト粉を含むスラリーを加熱する前、スラリーの加熱中、又はスラリーの加熱後に行われる。pHの調整は、例えばスラリーに酸を添加することで行われる。酸は、例えば塩酸、硫酸、硝酸といった無機酸と、ギ酸、酢酸、シュウ酸といった有機酸とからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0099】
吸湿剤(D)の平均粒径は、10~100nmの範囲内であることが好ましい。この平均粒径が100nm以下であれば、硬化物は特に高い透明性を有することができる。また、この平均粒径が10nm以上であれば、吸湿剤(D)の良好な吸湿性を維持できる。なお、この平均粒径は、動的光散乱法による測定結果から算出されるメディアン径、すなわち累積50%径(D50)である。なお、測定装置としては、マイクロトラック・ベル株式会社のナノトラックNanotrac Waveシリーズを用いることができる。
【0100】
吸湿剤(D)の平均粒径が5~70nmの範囲内であれば特に好ましい。この場合、硬化物は、特に良好な透明性と吸湿性とを有することができる。
【0101】
吸湿剤(D)の累積90%径(D90)が100nm以下であることも好ましい。この場合、硬化物は特に高い透明性を有することができる。
【0102】
組成物(X)の全量に対する吸湿剤の量は、1~20質量%の範囲内であることが好ましい。吸湿剤の量が1質量%以上であれば硬化物は特に高い吸湿性を有することができる。また、吸湿剤の量が20質量%以下であれば組成物(X)の粘度を特に低減でき、組成物(X)がインクジェット法により塗布可能な程度の十分な低粘度を有することもできる。吸湿剤の量は、1~20質量%の範囲内であればより好ましく、5~15質量%の範囲内であれば更に好ましい。
【0103】
また、吸湿剤が平均粒径が10~100nmの範囲内の吸湿剤(D)を含有する場合、組成物(X)の全量に対する吸湿剤(D)の量は、1~20質量%の範囲内であることが好ましい。吸湿剤(D)の量が1質量%以上であれば硬化物は特に高い吸湿性を有することができる。また、吸湿剤(D)の量が20質量%以下であれば組成物(X)の粘度を特に低減でき、組成物(X)がインクジェット法により塗布可能な程度の十分な低粘度を有することもできる。吸湿剤(D)の量は、1~20質量%の範囲内であればより好ましく、5~15質量%の範囲内であれば更に好ましい。
【0104】
組成物(X)は、上記の通り、25℃における粘度が8mPa・s以下の単官能カチオン重合性化合物(E)を含有する。組成物(X)が単官能カチオン重合性化合物(E)を含有すると、組成物(X)が溶媒を含有しなくても、単官能カチオン重合性化合物(E)は組成物(X)の粘度を低減できる。特に単官能カチオン重合性化合物(E)の25℃における粘度は、0.1~8mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0105】
単官能カチオン重合性化合物(E)は、カチオン重合性官能基を一分子に対して一つのみ有する。カチオン重合性官能基は、例えばエポキシ基、オキセタン基及びビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも一種の基である。
【0106】
単官能カチオン重合性化合物(E)は、例えば下記式(13)~(15)、(9)及び(16)に示す化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
【0107】
【化22】
【0108】
【化23】
【0109】
【化24】
【0110】
【化25】
【0111】
【化26】
【0112】
単官能カチオン重合性化合物(E)は、特に上記式(16)で示される化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の低粘度化が可能である。さらに、式(16)で示される化合物は、単官能カチオン重合性化合物(E)が含有しうる成分のなかでは、沸点が高く、揮発性が低いため、組成物(X)の粘度の経時的な上昇を効果的に抑制できる。そのため、組成物(X)は、長期間保存された場合でも、良好な塗布性を有することができ、良好なインクジェット塗布性を維持することも可能である。
【0113】
樹脂成分の全量に対する単官能カチオン重合性化合物(E)の量は、5~50質量%の範囲内であることが好ましい。単官能カチオン重合性化合物(E)の量が5質量%以上であれば組成物(X)の粘度を特に低減できる。また、単官能カチオン重合性化合物(E)の量が50質量%以下であれば、組成物(X)は光カチオン重合反応時に特に優れた反応性を有することができ、またそれによって、硬化物が高い強度を有することができる。この単官能カチオン重合性化合物(E)の量は、10質量%以上であればより好ましく、15質量%以上であれば更に好ましい。また、この単官能カチオン重合性化合物(E)の量は、40質量%以下であればより好ましく、35質量%以下であれば更に好ましく、30質量%以下であれば特に好ましい。単官能カチオン重合性化合物(E)の量が特に35質量%以下であれば、組成物(X)を保管している間の組成物(X)中の成分の揮発量を効果的に低減でき、そのため組成物(X)を長期間保存しても組成物(X)の特性が損なわれにくい。さらに、硬化物にタックが生じることを特に抑制できる。例えば単官能カチオン重合性化合物(E)の量が10~35質量%の範囲内であることが好ましい。
【0114】
組成物(X)は、分散剤(F)を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)中の吸湿剤(D)の分散性を更に向上できるとともに、組成物(X)の粘度を更に低減できる。
【0115】
分散剤(F)は、例えば金属石鹸とシランカップリング剤とのうち少なくとも一方を含有できる。
【0116】
シランカップリング剤は、ビニルシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、アミンシラン、及びアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0117】
分散剤(F)は非アミン系であることが好ましい。アミン系の分散剤は、光カチオン重合を阻害するおそれがあるからである。このため、分散剤(F)は、上記のアミンシランを含有しないことがより好ましい。
【0118】
シランカップリング剤は、エポキシシランを含有することが好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと8-グリシドキシオクチルトリメトキシシランとのうち少なくとも一方を含有することがより好ましい。
【0119】
分散剤(F)の量は、フィラーの全量に対して20質量%以上であることが好ましい。この場合、吸湿剤(D)の分散性を特に向上するとともに組成物(X)の粘度を特に低減できる。分散剤(F)の量が、フィラーの量に対して40質量%以下であることも好ましい。この場合、組成物(X)からのアウトガスの発生を抑制し、硬化物とガラス製基板などとの密着性を高めることができる。分散剤(F)の量は、フィラーの全量に対して20~40質量%の範囲内であればより好ましく、25~35質量%の範囲内であれば更に好ましい。なお、フィラーとは、組成物(X)中の無機質粒子のことであり、吸湿剤(D)を含む。組成物(X)が後述する吸湿剤(D)以外の無機充填材を含有する場合には、フィラーは無機充填材も含む。
【0120】
組成物(X)は、吸湿剤(D)以外の無機充填材を含有してもよい。特に、組成物(X)は、ナノサイズの高屈折率粒子を含有することが好ましい。高屈折率粒子の例はジルコニア粒子を含む。組成物(X)が高屈折率粒子を含有すると、硬化物の良好な透明性を維持しながら、硬化物を高屈折率化することができる。そのため、硬化物を有機EL発光装置1における封止材5に適用した場合に、封止材5を透過して外部へ出射する光の取り出し効率を向上することができる。高屈折率粒子の平均粒径は、5~30nmの範囲内であることが好ましく、10~20nmの範囲内であれば更に好ましい。
【0121】
組成物(X)中の高屈折率微粒子の量は、硬化物が所望の屈折率を有するように適宜設計される。特に高屈折率粒子は、硬化物の屈折率が1.5~1.7の範囲内になるように組成物(X)に含有されることが好ましい。この場合、有機EL発光装置1の光の取り出し効率が特に向上する。
【0122】
組成物(X)は、上記以外の種々の添加剤を含有してもよい。例えば組成物(X)は増感剤を含有してもよい。
【0123】
組成物(X)は、溶剤を含有しないことが好ましい。この場合、組成物(X)から硬化物を作製する際に組成物(X)を乾燥させて溶剤を揮発させるような必要がなくなる。
【0124】
上述の成分を混合することで、組成物(X)を調製できる。組成物(X)は25℃で液状であることが好ましい。
【0125】
組成物(X)の硬化物の厚み寸法が10μmである場合の、硬化物の全光透過率は、90%以上であることが好ましい。この場合、硬化物を有機EL発光装置1における封止材5に適用した場合に、封止材5を透過して外部へ出射する光の取り出し効率を特に向上できる。このような硬化物の高い光透過性は、上述の組成物(X)の組成、特に組成物(X)が平均粒径100nm以下の吸湿剤(D)を含有することで、達成可能である。
【0126】
硬化物の吸湿率は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であればより好ましく、2質量%以上であれば最も好ましい。なお、吸湿率は、次の方法で求められる。Ar雰囲気下で、組成物(X)を塗布してから紫外線を照射することで、厚み10μmのフィルムを作製する。紫外線照射条件は、例えば紫外線のピーク波長365nm、紫外線強度3000mW/cm2、紫外線照射時間10秒間である。このフィルムを、例えば真空乾燥器を用いて、加熱温度120℃、加熱時間3時間の条件で、真空乾燥する。乾燥後のフィルムの質量を測定する。この測定結果を初期質量(M0)とする。続いて、フィルムを十分に吸湿させる。そのために、例えばフィルムを85℃、85%RHの条件下に24時間曝露する。吸湿後のフィルムの質量を測定する。この測定結果を吸湿後質量(M)という。これらの初期質量(M0)及び吸湿後質量(M)から、吸湿率を、(M-M0)/M0×100(質量%)の式で算出できる。
【0127】
硬化物は、窒化ケイ素及び酸化ケイ素との間で高い密着性を有することができる。窒化ケイ素及び酸化ケイ素は有機EL発光装置1におけるパッシベーション層6の材料として使用されることがある。このため、パッシベーション層6が窒化ケイ素又は酸化ケイ素から作製されている場合、封止材5とパッシベーション層6との密着性を向上することができ、このため有機EL発光装置1の信頼性が向上する。多官能カチオン重合性化合物がエポキシ基を有する場合、硬化物は窒化ケイ素及び酸化ケイ素との特に高い密着性を有することができる。
【0128】
[封止材の作製方法及び有機EL発光装置の作製方法]
封止材5の作製方法及び有機EL発光装置1の作製方法について説明する。
【0129】
まず、支持基板2を準備する。この支持基板2の一面上に、有機EL素子4を設ける。有機EL素子4は、蒸着法、塗布法といった適宜の方法で作製できる。特に有機EL素子4をインクジェット法などの塗布法で作製することが好ましい。
【0130】
次に、パッシベーション層6を設ける。パッシベーション層6は、例えば蒸着法で作製できる。
【0131】
次に、支持基板2の一面及び有機EL素子4を覆うように組成物(X)を塗布する。なお、パッシベーション層6を設けている場合にはパッシベーション層6を覆うように組成物(X)を塗布する。組成物(X)を塗布する方法は、例えばキャスティング法又はインクジェット法である。本実施形態では組成物(X)の低粘度化が可能であるため、インクジェット法で組成物(X)を塗布することが可能である。有機EL素子4の形成と組成物(X)の塗布のいずれにもインクジェット法を適用すれば、有機EL発光装置1の製造効率を特に向上できる。
【0132】
次に、透明基板3を組成物(X)に重ねる。透明基板3は、例えばガラス製基板又は透明樹脂製基板である。
【0133】
次に外部から透明基板3へ向けて紫外線を照射する。紫外線は透明基板3を透過して組成物(X)へ到達する。これにより、組成物(X)内でカチオン重合反応が進行して組成物(X)が硬化し、硬化物からなる封止材5が作製される。封止材5の厚みは例えば5~50μmの範囲内である。
【実施例
【0134】
以下、本発明の具体的な実施例を提示する。ただし、本発明は実施例のみに制限されない。
【0135】
1.組成物の調製
表の「組成」の欄に示す成分に示す成分を混合することで、実施例及び比較例の組成物を調製した。
【0136】
なお、表中に示される成分の詳細は次の通りである。また、下記の各成分の粘度はレオメータ(アントンパール・ジャパン社製、型番DHR-2)を使用し、温度25℃、せん断速度100s-1の条件で測定された値である。
【0137】
(1)シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物
・セロキサイド8010:ダイセル製、品名セロキサイド8010、式(1a)に示す化合物、粘度60mPa・s。
・OXT-221:東亞合成製、品番OXT-221、式(3)に示す化合物、粘度10mPa・s。
・セロキサイド2021P:ダイセル製、品名セロキサイド2021P、式(1b)に示す化合物、粘度250mPa・s。
・TEPIC-FL:日産化学製、品名TEPIC-FL、式(2)に示す化合物、粘度700mPa・s。
【0138】
(2)シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物
・X-40-2669:信越化学製、品番X-40-2669、式(10a-1)に示す化合物、粘度55mPa・s。
・X-40-2732:信越化学製、品番X-40-2732、式(10a)に示す化合物(n=1~4の混合物、R=C24)、粘度20mPa・s。
・X-22-169AS:信越化学製、品番X-22-169AS、式(10a)に示す化合物(n=8、R=C24)、粘度25mPa・s。
・X-22-2046:信越化学製、品番X-22-2046、式(10d)に示す化合物、粘度45mPa・s。
・X-40-2715:信越化学製、品番X-40-2715、直鎖3官能の化合物、粘度190mPa・s。
【0139】
(3)単官能カチオン重合性化合物
・OXT-212:3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン。
・エポゴーセー2EH:四日市合成製、品名エポゴーセー2EH、式(13)に示す化合物、粘度2mPa・s。
・AL-OX:四日市合成製、品名AL-OX、式(9)に示す化合物、粘度1mPa・s。
・3-アリルオキシメチル-3-エチルオキセタン:四日市合成製、式(16)に示す化合物、粘度2mPa・s。
【0140】
(4)触媒
・DTS-200:みどり化学製、品番DTS-200、C65-S-C64-S+(C652・B(C654 -
【0141】
(5)分散剤
・KBM403:信越化学製、品番KBM403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
・KBM4803:信越化学製、品番KBM4803、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン。
【0142】
(6)吸湿剤
(6-1)ゼオライト粒子1
ゼオライト粒子1は、下記の方法で製造され、そのD50は20nm、そのD90は50nm、そのpHは11である。
【0143】
出発物質のゼオライト粉として平均粒径5μmの4A型ゼオライト・ナトリウムイオンを用意し、このゼオライト粉100gとイオン交換水100gとを混合してスラリーを調製した。
【0144】
このスラリーに粒径100μmのジルコニアビーズ400gを入れてから、ビーズミル粉砕機でスラリー中のゼオライト粉を3時間粉砕することで、Na系ゼオライトの平均粒径を120nmにした。このときのスラリー流量は10kg/h、スラリー粘度は10mPa・sである。
【0145】
続いて、スラリーから粒径100μmのジルコニアビーズを取り除き、それに代えて粒径50μmのジルコニアビーズ400gを入れてから、ビーズミル粉砕機でスラリー中のNa系ゼオライトを1時間粉砕することで、ゼオライト粉の平均粒径を70nmにした。このときのスラリー流量は10kg/h、スラリー粘度は6mPa・sである。
【0146】
続いて、スラリーから粒径50μmのジルコニアビーズを取り除き、それに代えて粒径30μmのジルコニアビーズ450gを入れてから、ビーズミル粉砕機でスラリー中のゼオライト粉を1時間粉砕することで、ゼオライト粉の平均粒径を20nmにした。このときのスラリー流量は10kg/h、スラリー粘度は4mPa・sである。
【0147】
ビーズミル粉砕機で処理されたスラリー中のゼオライト粉に、次の方法で水熱合成処理を施した。スラリー50gをフッ素樹脂製容器に入れ、このフッ素樹脂製容器を、オートクレーブのステンレススチール製(SUS316製)容器に入れた。ステンレススチール製容器は、容量100cc、耐熱温度200℃、耐圧力50MPaであり、安全弁を備えた蓋により密閉される密閉構造を有する。このステンレススチール製容器を乾燥機に配置して密閉し、180℃で24時間加熱した。次に、乾燥機からステンレススチール製容器を取り出し、これを常温の水の中に入れることで急冷した。
【0148】
ステンレススチール製容器からフッ素樹脂製容器を取り出し、これをバットに入れて、180℃の温度下で2~3時間放置することで、フッ素樹脂製容器内のスラリーを乾燥した。これにより、微粉砕されたゼオライト粉を得た。このゼオライト粉をフッ素樹脂製容器から取り出し、乳鉢で解砕してから、メッシュを通過させることで粒度を整えることで、ゼオライト粒子1を得た。
【0149】
また、ゼオライト粒子のpHは次の方法で測定した。ポリエチレン製の瓶にゼオライト粒子0.05gとイオン交換水99.95gとを入れてから、瓶を恒温槽に入れて、90℃で24時間加熱した。続いて、瓶の中の液の上澄みのpHを、堀場製作所製のコンパクトpHメータ<LAQUAtwin>B-711を用いて測定した。
【0150】
(6-2)ゼオライト粒子2
ゼオライト粒子2は、下記の方法で製造され、そのD50は60nm、そのD90は100nm、そのpHは11である。
【0151】
出発物質のゼオライト粉として平均粒径5μmの4A型ゼオライト・ナトリウムイオンを用意し、このゼオライト粉100gとイオン交換水100gとを混合してスラリーを調製した。このスラリー中のゼオライト粉を、ゼオライト粒子1の場合に準じた方法で、平均粒径が60nmになるように粉砕した。続いて、ゼオライト粒子1の場合に準じた方法で水熱合成処理を施してから解砕し、更に粒度を整えることで、ゼオライト粒子2を得た。
【0152】
(6-3)ゼオライト粒子3
ゼオライト粒子3は、下記の方法で製造され、そのD50は150nm、そのD90は250nm、そのpHは11である。
【0153】
出発物質のゼオライト粉として平均粒径5μmの4A型ゼオライト・ナトリウムイオンを用意し、このゼオライト粉100gとイオン交換水100gとを混合してスラリーを調製した。このスラリー中のゼオライト粉を、ゼオライト粒子1の場合に準じた方法で、平均粒径が150nmになるように粉砕した。続いて、ゼオライト粒子1の場合に準じた方法で水熱合成処理を施してから解砕し、更に粒度を整えることで、ゼオライト粒子3を得た。
【0154】
(6-4)ゼオライト粒子4
ゼオライト粒子4は、表面処理が施されていない粉末品である東ソー製の品番ゼオラム4A、100メッシュパス品であり、そのD50は13μm、そのD90は30μm、そのpHは10である。
【0155】
(7)高屈折率粒子
・ナノジルコニア粒子:第一稀元素社製、品番UEP-100、一次平均粒径10~15nm。
【0156】
2.評価試験
実施例及び比較例について、次の評価試験を実施した。その結果を表に示す。
【0157】
(1)インクジェット性
組成物をインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、形式PX-B700)のカートリッジに入れ、インクジェットプリンターにおけるノズルからカートリッジ内の組成物を吐出しうることを確認してから、ノズルから組成物を吐出させてテストパターンを連続で印刷した。その結果、組成物を1時間吐出できるとともに吐出動作が安定していた場合を「A」、組成物を1時間吐出できたが吐出動作が断続的に不安定になった場合を「B」、吐出開始から1時間経過前にノズルが詰まって組成物を吐出できなくなった場合を「C」と、評価した。
【0158】
(2)ディスペンス性
エアーディスペンス装置(武蔵エンジニアリング社製、「SHOTMASTER300」)を用い、ディスペンスノズルを400μm、ノズルギャップを30μm、吐出圧を300kPaに設定して、組成物を塗布することで、クロスパターンを描いた。その結果、クロスパターンの塗布形状の不良と、塗布時の糸引きとのうち、少なくともいずれかが発生した場合を「B」、いずれも発生しなかった場合を「A」と評価した。
【0159】
(3)透過率
組成物を塗布して塗膜を作製し、この塗膜を、パナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器(ピーク波長365nm)を用いて、約3000mW/cm2の条件で10秒間紫外線照射して光硬化させることで、厚み10μmのフィルムを作製した。このフィルムの、JIS K7361-1による全光線透過率を測定した。
【0160】
(4)揮発性
組成物1gを直径30mmのシャーレに入れ、これをAr雰囲気のドライボックス内に入れて1時間放置した。その結果、組成物の重量減少量が1%以上である場合を「B」、1%未満である場合を「A」と、評価した。
【0161】
(5)鉛筆硬度
上記の透過率の評価の場合と同じ方法で、厚み10μmのフィルムを作製した。このフィルムの、JIS K5600-5-4による鉛筆硬度を測定した。
【0162】
(6)25℃粘度
組成物を容量200ccの樹脂製の瓶に入れ、この組成物の25℃での粘度を、E型粘度計(東機産業社製、VISCOMETER TV-25、コーンプレート:CP1型)を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した。
【0163】
(7)50℃粘度
組成物を容量200ccの樹脂製の瓶に入れ、この組成物を50℃の温度に1時間保持した時点の粘度を、E型粘度計(東機産業社製、VISCOMETER TV-25、コーンプレート:CP1型)を用いて、50℃、50rpmの条件で測定した。
【0164】
(8)タック性(硬化性)
組成物を平滑な台の上に塗布してから、これにパナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器を用いて、ピーク波長365nm、出力300mW/cm2の条件で紫外線を10秒間照射して光硬化させた。これにより、厚み10μmのフィルムを作製した。
【0165】
試験者が、このフィルムの表面に指で触れて、タックの有無を判断した。その結果、試験者がタックを感じない場合を「A」、タックを感じた場合を「B」と、評価した。
【0166】
(9)密着強度
石英ガラス片(寸法76mm×52mm×1mm)の表面上に、組成物を塗布して厚み50μmの塗膜を形成し、この塗膜の上に別の石英ガラス片(寸法76mm×52mm×1mm)を重ねた。続いて、塗膜を、パナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器(ピーク波長365nm)を用いて、約3000mW/cm2の条件で10秒間紫外線照射して、硬化させた。次に、二つの石英ガラス片の間の密着強度を、JIS K6854に基づくT字ピール試験を行うことで、評価した。
【0167】
(10)屈折率
組成物を塗布して塗膜を作製し、この塗膜を、パナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器(ピーク波長365nm)を用いて、約3000mW/cm2の条件で10秒間紫外線照射して光硬化させることで、厚み10μmのフィルムを作製した。
【0168】
このフィルムの全光透過率及び屈折率を、エリプソメータ(SCI社製、「Filmtek3000」)で測定した。
【0169】
(11)吸湿性
Ar雰囲気下のグローブボックス内で、組成物を塗布して塗膜を作製し、この塗膜を、パナソニック電工株式会社製のLED-UV照射器(ピーク波長365nm)を用いて、約3000mW/cm2の条件で10秒間紫外線照射して光硬化させることで、厚み10μmのフィルムを作製した。
【0170】
このフィルムを、真空乾燥器を用いて、加熱温度120℃、加熱時間3時間の条件で真空乾燥してから、このフィルムの質量を測定した。この測定結果を初期質量(M0)とする。続いて、フィルムを85℃、85%RHの条件下に24時間曝露してから、フィルムの質量を測定した。この測定結果を吸湿後質量(M)という。これらの初期質量(M0)及び吸湿後質量(M)から、吸湿率を、(M-M0)/M0×100(質量%)の式で算出した。
【0171】
その結果、吸湿率が2質量%以上の場合を「AA」、1質量%以上2質量%未満の場合を「A」、0.5質量%以上1質量%未満の場合を「B」、0.1質量%以上0.5質量%未満の場合を「C」と、0.1質量%未満の場合を「D」と、評価した。
【0172】
(12)保管性
組成物を容量50mlのガラス製容器にふたを開けた状態で入れて、この容器をAr雰囲気下のグローブボックス内で1か月放置した。続いて、組成物について、(1)と同様の方法で、インクジェット性を確認した。
【0173】
【表1】
【0174】
【表2】
【0175】
【表3】
【0176】
【表4】
【0177】
【表5】
【0178】
【表6】
図1