(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ステータ及びそれを用いたモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/46 20060101AFI20231201BHJP
H02K 3/12 20060101ALI20231201BHJP
H02K 3/18 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H02K3/46 B
H02K3/12
H02K3/18 P
(21)【出願番号】P 2020559090
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2019046253
(87)【国際公開番号】W WO2020121806
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2018233425
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 博
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】国友 浩勝
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-042574(JP,A)
【文献】特開2006-115565(JP,A)
【文献】特開2012-039742(JP,A)
【文献】特開2018-038209(JP,A)
【文献】特開平11-273934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/46
H02K 3/12
H02K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のヨークと、前記ヨークの周方向に所定の間隔をあけて配設されるとともに、前記ヨークの内周から前記ヨークの径方向に延びる複数のティースと、複数のティースのそれぞれに装着される複数のインシュレータと、断面が矩形状の導線で構成され、複数のインシュレータのそれぞれに巻回される複数のコイルと、を備えたステータであって、
前記インシュレータは、
前記導線が巻回される筒状の導線巻回部と、
前記導線巻回部の一端に設けられ、前記導線を前記導線巻回部に案内する導線案内溝を有する第1鍔部と、
前記導線巻回部の他端に設けられた第2鍔部と、を有し、
前記導線巻回部は、
前記導線案内溝の底面に連続する第1端面及び前記第1端面と前記ステータの軸方向で互いに対向する第2端面と、
前記第1端面の周方向端辺から前記第2端面の周方向端辺にかけて設けられ、前記周方向で互いに対向する第1側面及び第2側面と、
前記導線巻回部のコーナー部に少なくとも設けられ、前記径方向と直交する方向に対して所定の角度をなすように前記導線を前記第1端面に巻回させるための複数の突起と、を有し、
前記複数の突起は、前記径方向に互いに所定の間隔をあけて設けられ、
前記突起は、前記第1鍔部に対向する第1面と前記第2鍔部に対向する第2面とを有し、
前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方は、凸状の曲面を有することを特徴とするステータ。
【請求項2】
請求項1に記載のステータにおいて、
前記第1端面と前記第1側面とのコーナー部に設けられた前記突起と、前記第1側面と前記第2端面とのコーナー部に設けられた前記突起とは、それぞれに設けられた前記凸状の曲面が互いに同じ方向を向いていることを特徴とするステータ。
【請求項3】
請求項1に記載のステータにおいて、
前記第1端面と前記第1側面とのコーナー部に設けられた前記突起と、前記第1側面と前記第2端面とのコーナー部に設けられた前記突起とは、それぞれに設けられた前記凸状の曲面が互いに反対の方向を向いていることを特徴とするステータ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のステータにおいて、
前記導線巻回部に巻回される1層目の導線は、前記複数の突起に支持されることで、少なくとも前記第1端面に前記所定の角度で巻回されるとともに、前記径方向と所定の傾斜角をなすように前記導線巻回部の表面に傾斜して巻回されていることを特徴とするステータ。
【請求項5】
請求項4に記載のステータにおいて、
前記導線は前記導線巻回部にn層巻き(nは2以上の整数)されており、
i層目(iは2以上の整数で、かつi≦n)の導線は、前記第1端面において(i-1)層目の導線から巻き替わり、かつ前記(i-1)層目の導線の上に前記所定の角度と異なる角度で巻回されており、
前記i層目の導線は、前記(i-1)層目の導線の端面に支持されることで、前記径方向と前記所定の傾斜角をなすように前記(i-1)層目の導線の上に巻回されていることを特徴とするステータ。
【請求項6】
請求項5に記載のステータにおいて、
前記導線は、前記第2端面でj層目(jは整数で、1≦j≦n-1)から(j+1)層目に巻き替わることを特徴とするステータ。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載のステータにおいて、
前記導線巻回部の径方向内側端部には、前記1層目の導線の少なくともk巻き目(kは1層目の導線の巻回数)が配置される予定の部分に所定の高さの段差が設けられており、
前記段差には少なくとも前記1層目の導線が巻回されていないことを特徴とするステータ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のステータにおいて、
一のインシュレータに巻回された導線と、前記一のインシュレータと前記周方向に互いに隣り合う別のインシュレータに巻回された導線とは、巻回形状が非対称であることを特徴とするステータ。
【請求項9】
請求項8に記載のステータにおいて、
前記一のインシュレータに巻回された導線と、前記別のインシュレータに巻回された導線とは、それぞれのl巻き目(lは整数で、1≦l≦k;kは1層目の導線の巻回数)において巻回形状が非対称であることを特徴とするステータ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のステータにおいて、
一のインシュレータに巻回され、前記周方向または前記径方向で互いに隣り合う導線の間には、前記導線で発生した熱を外部に放散するための放熱材が充填されていることを特徴とするステータ。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載のステータにおいて、
前記ヨークは、複数の分割ヨークが前記周方向で互いに接続されることで構成されており、
前記ティースは前記複数の分割ヨークのそれぞれに配設されていることを特徴とするステータ。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のステータと、
前記ステータと所定の間隔をあけて設けられたロータと、を少なくとも備え、
前記導線は前記インシュレータに整列巻きかつ多層巻きされていることを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ、特に断面が矩形状の導線が巻回されるステータ及びそれを用いたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業、車載用途でモータの需要は高まっている。その中で、モータの効率向上が要望されており、ステータのスロット内に配置されるコイルの占積率向上がモータの効率向上のために有効であることが知られている。コイルの占積率を向上させることで、モータの駆動時に、コイルに流れる電流に起因する損失を抑制できる。
【0003】
従来、断面が矩形状の導線、いわゆる平角線を用いてコイルを構成したり、導線が巻回されるインシュレータの表面に導線を案内、保持ずる溝を設けたりすることで、スロット内でのコイルの占積率を向上する技術が知られている(例えば、特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-350420号公報
【文献】特開2007-267492号公報
【文献】特開2017-169310号公報
【文献】特許第4271495号公報
【文献】特許第5252807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モータの出力を高めるために、インシュレータの表面から順次積み上げるように導線を巻回してコイルが構成される、いわゆる多層巻きのコイルが多く用いられている。
【0006】
しかし、導線を多層巻きする場合、例えば、1層目の導線から2層目の導線への巻き替わり部分で膨らみが生じて導線の巻き乱れを起こしやすい。特に、平角線を用いて多層巻きのコイルを構成する場合、1層目の導線と2層目の導線とは平面同士が当接してインシュレータに巻回されるため、当接面で導線がすべりやすくなり、上記の巻き乱れがより起こりやすくなる。
【0007】
このように、導線の巻き乱れが生じると、コイルの占積率が低下してしまい、モータの効率を十分に高めることができなかった。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、導線の巻き替わり部分での巻き乱れを抑制し、コイルの占積率を高めたステータ及びそれを用いたモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るステータは、環状のヨークと、前記ヨークの周方向に所定の間隔をあけて配設されるとともに、前記ヨークの内周から前記ヨークの径方向に延びる複数のティースと、複数のティースのそれぞれに装着される複数のインシュレータと、断面が矩形状の導線で構成され、複数のインシュレータのそれぞれに巻回される複数のコイルと、を備えたステータであって、前記インシュレータは、前記導線が巻回される筒状の導線巻回部と、前記導線巻回部の一端に設けられ、前記導線を前記導線巻回部に案内する導線案内溝を有する第1鍔部と、前記導線巻回部の他端に設けられた第2鍔部と、を有し、前記導線巻回部は、前記導線案内溝の底面に連続する第1端面及び前記第1端面と前記ステータの軸方向で互いに対向する第2端面と、前記第1端面の周方向端辺から前記第2端面の周方向端辺にかけて設けられ、前記周方向で互いに対向する第1側面及び第2側面と、前記導線巻回部のコーナー部に少なくとも設けられ、前記径方向と直交する方向に対して所定の角度をなすように前記導線を前記第1端面に巻回させるための複数の突起と、を有し、前記複数の突起は、前記径方向に互いに所定の間隔をあけて設けられ、前記突起は、前記第1鍔部に対向する第1面と前記第2鍔部に対向する第2面とを有し、前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方は、凸状の曲面を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、断面が矩形状の導線をインシュレータに安定して整列巻きかつ多層巻きすることができる。
【0011】
また、本発明に係るモータは、前記ステータと、前記ステータと所定の間隔をあけて設けられたロータと、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、導線がインシュレータに整列巻きかつ多層巻きされることにより、コイルの占積率を高めることができ、高効率のモータを実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のステータによれば、断面が矩形状の導線をインシュレータに安定して整列巻きかつ多層巻きすることができる。また、本発明のモータによれば、コイルの占積率を高めることができ、高効率のモータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係るモータの断面図である。
【
図4】
図4は、軸方向上側から見たステータの要部の模式図である。
【
図6】
図6は、径方向に対する導線の傾斜角及び径方向に隣接する導線間距離の関係を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、スロットの後退角と径方向に対する導線の傾斜角との関係を説明する模式図である。
【
図8】
図8は、導線の巻回設備の構成を示す図である。
【
図9】
図9は、導線がインシュレータに巻回される過程を示す工程説明図である。
【
図10A】
図10Aは、突起を設けない場合の導線巻回部上の導線の配置を示す模式図である。
【
図10B】
図10Bは、突起を設けた場合の導線巻回部上の導線の配置を示す模式図である。
【
図12】
図12は、変形例に係る第1のインシュレータの模式図である。
【
図13】
図13は、変形例に係る第2のインシュレータの模式図である。
【
図14】
図14は、変形例に係る第3のインシュレータの模式図である。
【
図15】
図15は、変形例に係る第4のインシュレータの模式図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施形態2に係るインシュレータの模式図である。
【
図17】
図17は、軸方向下側から見たステータの要部の模式図である。
【
図18A】
図18Aは、本発明の実施形態3に係るステータの要部の断面模式図である。
【
図19A】
図19Aは、本発明の実施形態4に係るステータの要部の断面模式図である。
【
図20】
図20は、放熱材を充填したステータの要部の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0016】
(実施形態1)
[モータの構成]
図1は、本実施形態に係るモータの断面図を示す。なお、以降の説明において、モータ1000及びステータ100の半径方向を「径方向」と、外周方向を「周方向」と、モータ1000の出力軸210の延びる方向(
図1における紙面と垂直な方向)を「軸方向」とそれぞれ呼ぶことがある。また、出力軸210は、ステータ100の中心軸にほぼ一致するため、ステータ100の中心軸の延びる方向を「軸方向」と呼ぶことがある。また、径方向において、ステータ100の中心側を径方向内側と、外周側を径方向外側と呼ぶことがある。
【0017】
モータ1000は、ステータ100とロータ200とを有している。なお、モータ1000は、これら以外の構成部品、例えば、モータケースや出力軸210を軸支する軸受等の部品を有しているが、説明の便宜上、その図示及び説明を省略する。モータ1000は、いわゆるインナーロータ型のモータであるが特にこれに限定されず、アウターロータ型のモータであってもよい。
【0018】
ステータ100は、円環状のヨーク20と、ヨーク20の内周に接続され、当該内周に沿って等間隔に設けられた複数のティース10と、複数のティース10のそれぞれに装着された複数のインシュレータ50(
図2参照)と、周方向に隣り合うティース10の間の空間として構成される複数のスロット30と、複数のスロット30内にそれぞれ収容された複数のコイル40とを有しており、ロータ200の径方向外側に、ロータ200と一定の間隔をあけて配置されている。
【0019】
なお、以降の説明において、単数であることを意味する場合はトゥース(Tooth)10と呼び、複数であることを意味する場合はティース(Teeth)10と呼ぶこととする。また、単数、複数いずれでもよい場合は、ティース10と呼ぶこととする。
【0020】
ティース10は、例えば、ケイ素等を含有した電磁鋼板を積層後に打ち抜き加工して形成される。ヨーク20は、複数の分割ヨーク21を周方向に接続してなる円環状の部材である。分割ヨーク21は、ティース10と同様に、電磁鋼板を積層後に打ち抜き加工して形成される。分割ヨーク21のそれぞれにトゥース10が配設されている。
【0021】
コイル40は、断面が矩形状の導線41(
図3参照)が巻回されてなる部品であり、コイル40は、インシュレータ50を挟んでトゥース10に装着されて、スロット30内に収容されている。インシュレータ50はトゥース10及び分割ヨーク21に装着された絶縁材料からなる部品であり、コイル40とティース10及びヨーク20とを電気的に分離している。インシュレータ50の構造については後で詳述する。なお、本実施形態では、コイル40に流れる電流の位相に応じて、コイル40をコイルU1~U4,V1~V4,W1~W4とそれぞれ呼ぶことがある。また、コイル40を構成する導線41はトゥース10に装着されたインシュレータ50に対して整列巻きかつ多層巻きされている(
図3参照)。
【0022】
ロータ200は、軸心に配置された出力軸210と、ステータ100に対向してN極、S極が出力軸210の外周方向に沿って交互に配置された磁石220とを有している。なお、磁石220の材料や形状や材質については、モータ1000の出力等に応じて適宜変更しうる。
【0023】
コイルU1~U4,V1~V4,W1~W4はそれぞれ直列に接続されており、互いに電気角で120°の位相差を有するU,V,W相の3相の電流がそれぞれコイルU1~U4,V1~V4,W1~W4に供給されて励磁され、ステータ100に回転磁界が発生する。この回転磁界と、ロータ200に設けられた磁石220が発生する磁界とが相互作用して、ロータ200にトルクが発生し、出力軸210が図示しない軸受に支持されて回転する。
【0024】
[インシュレータの構成]
図2は、本実施形態に係るインシュレータの模式図を示す。なお、説明の便宜上、インシュレータ50の形状を簡略化して図示している。また、
図2において、破線で囲まれた部分の拡大図をあわせて図示している。また、
図2において、導線41が1層巻回された後の形状を一点鎖線で示している。
【0025】
図2に示すように、インシュレータ50は、導線41が巻回される導線巻回部52と、導線巻回部52の径方向外側端部に設けられ、導線案内溝51aを有する第1鍔部51と、導線巻回部52の径方向内側端部に設けられた第2鍔部53とを有している。
【0026】
導線41は、導線案内溝51aを通って、導線巻回部52に案内される。なお、導線案内溝51aの形状は、
図2に示す形状に限定されず、例えば、径方向に関して斜めに傾斜した形状(
図4参照)であってもよい。後者の方が、導線41の案内角δ(
図4参照)を小さくでき、導線41の巻き乱れを抑制しやすい。なお、第1鍔部51が分割ヨーク21の一部を覆うように、インシュレータ50がトゥース10に装着されている。
【0027】
導線巻回部52は、断面視で角筒状であり、導線案内溝51aの底面に連続する第1端面52aと第1端面52aと軸方向で互いに対向する第2端面52bと、を有している。さらに、導線巻回部52は、第1端面52aの周方向一端辺から第2端面52bの周方向一端辺にかけて、軸方向に延びるように設けられた第1側面52cと、第1端面52aの周方向他端辺から第2端面52bの周方向他端辺にかけて、軸方向に延びるように設けられた第2側面52d(
図3参照)とを有している。第1側面52c及び第2側面52dは周方向で互いに対向している。
【0028】
また、導線巻回部52は、4つのコーナー部52e1~52e4を有している。4つのコーナー部52e1~52e4は、第1端面52aと第1側面52cとの間に位置する第1コーナー部52e1と、第1側面52cと第2端面52bとの間に位置する第2コーナー部52e2と、第2端面52bと第2側面52dとの間に位置する第3コーナー部52e3と、第2側面52dと第1端面52aとの間に位置する第4コーナー部52e4と、からなる。
【0029】
また、4つのコーナー部52e1~52e4のそれぞれに複数の突起60が設けられている。突起60は各コーナー部52e1~52e4からそれぞれ隣接する面にかかるように延びて設けられている。例えば、第1コーナー部52e1に設けられた突起60は、第1端面52a及び第1側面52cにそれぞれかかるように設けられ、第3コーナー部52e3に設けられた突起60は、第2端面52b及び第2側面52dにそれぞれかかるように設けられている。また、各コーナー部52e1~52e4にそれぞれ設けられた複数の突起60は径方向に互いに間隔Zをあけて設けられている。
【0030】
突起60は、第1鍔部51に対向する第1面60aと、第2鍔部53に対向する第2面60bとを有しており、第1面60aがフラットな平面であるのに対し、第2面60bは径方向内側に向かって凸状の曲面となっている。
【0031】
[ステータの要部の構成]
図3は、本実施形態に係るステータの要部の模式図を示し、(a)図は、軸方向上側から見た斜視図を、(b)図は、軸方向下側から見た斜視図をそれぞれ示している。
図4は、軸方向上側から見たステータの要部の模式図を、
図5は、
図3のV-V線での断面図をそれぞれ示す。
【0032】
なお、説明の便宜上、
図3において、導線41は導線巻回部52に3層目の途中まで巻回された状態を、
図4において、導線41は導線巻回部52に1層目の途中まで巻回された状態をそれぞれ示している。さらに、説明の便宜上、
図4において、軸方向から見て、導線案内溝51aを、径方向と直交する方向に対して案内角δで傾斜した形状としている。
【0033】
また、
図5において、突起60の図示を省略している。なお、突起60も含めた断面形状は、後述する
図10Bに示している。また、
図5に示す矢印は導線41の各層における巻回順を示している。例えば、1層目の導線411は、第1鍔部51から第2鍔部53に向かって巻回され、2層目の配線412は、第2鍔部53から第1鍔部51に向かって巻回されている。
【0034】
なお、以降の説明において、導線41が導線巻回部52にn層巻き(nは2以上の整数)されている場合、(i-1)層目(iは2以上の整数で、かつi≦n)の導線41からi層目の導線41に巻き替わる部分をクロス部4i(クロス部42,43,・・・,4i)と呼ぶことがある。また、本実施形態において、第1端面52a上にクロス部4iが位置するように導線41は巻回される。また、導線41は、インシュレータ50の導線巻回部52に整列巻きかつ多層巻きされている。
【0035】
図3の(a)図及び
図4に示すように、導線案内溝51aから第1端面52aに案内された1層目の導線411は、径方向と直交する方向に対して所定のクロス角ε(
図4参照)をなすように第1端面52aに巻回されている。また、導線巻回部52の径方向内側端部で1層目の導線411から巻き替わった2層目の導線412は、クロス角εと異なる角度で第1端面52aに巻回されている。さらに、導線巻回部52の径方向外側端部で2層目の導線412から巻き替わった3層目の導線413は、クロス角εとほぼ同じ角度で第1端面52aに巻回されている。
【0036】
一方、
図3の(b)図に示すように、第2端面52bと第1側面52cと第2側面52dとにおいて、1層目~3層目の導線411~413ともに、第1鍔部51の径方向内側に位置する端面(以下、第1鍔部51の内面51bという)と互いに平行となるように導線巻回部52に巻回されている。
【0037】
また、1層目の導線411は、各コーナー部52e1~52e4に設けられた複数の突起60によって位置決めされて、導線巻回部52の表面に保持されている(
図10A,10B参照)。また、1層目の導線411は、径方向に対して所定の角度θをなすように、導線巻回部52の表面、つまり、第1端面52a、第2端面52b、第1側面52c、第2側面52dのそれぞれに対して傾斜して巻回されている。
【0038】
一方、
図5に示すように、2層目以降の導線41は、その直下の層の導線41における端面41bに支持されて整列巻きされている。2層目以降の導線41も1層目の導線411と同様に、径方向に対して所定の角度θをなすように傾斜して、直下の層の導線41に巻回されている。なお、
図5において、径方向と角度θをなす導線41の面を平面41aと、平面41aと直交する導線41の面を端面41bと呼び、以降の説明においても同様に呼ぶこととする。
【0039】
図3~
図5に示すように、導線41を導線巻回部52に整列巻きかつ多層巻きとするためには、特に1層目の導線411での巻き乱れを防止する必要がある。
【0040】
このことについてさらに説明する。導線案内溝51aから第1端面52aに案内された1層目の導線411は、第1鍔部51の内面51bに押し付けられるように巻回される。このため、
図4に示すように、導線案内溝51aの終端部分において、1層目の導線411に径方向内側に膨らむ湾曲部分が形成される。
【0041】
湾曲部分の曲率半径をRとするとき、曲率半径Rが小さくなると、導線案内溝51aの終端部分での1層目の導線411の変形量、つまり、径方向内側への膨らみ量が大きくなり、巻き乱れが生じやすくなる。したがって、曲率半径Rをできるだけ大きくする必要がある。
【0042】
このため、
図4に示す案内角δとクロス角εとが以下の式(1)の関係を満たすように1層目の導線411の巻回角度を設定することで、曲率半径Rを大きくでき、導線41、特に1層目の導線411の巻き乱れを抑制できる。
【0043】
ε≦δ ・・・(1)
【0044】
図6は、径方向に対する導線の傾斜角及び径方向に隣接する導線間距離の関係を説明する模式図を示し、(a)図は径方向に隣接する導線同士が重なり合う場合の理論限界を、(b)図及び(c)図は径方向に隣接する導線の端面同士が一部重なり合う場合をそれぞれ示す。なお、(c)図において、導線41の角部は所定の半径を有する円弧状の断面となっている。
【0045】
また、
図7は、スロットの後退角と径方向に対する導線の傾斜角との関係を説明する模式図を示す。なお、説明の便宜上、
図6,7において、インシュレータ50については図示を省略している。また、
図7において、破線で囲まれた部分の拡大図をあわせて図示している。
【0046】
インシュレータ50に巻回された導線41が径方向で互いに接する場合、
図6の(a)図に示すように、径方向に対する導線41の傾斜角θの最大値θmaxは式(2)で表わされる。なお、
図6の(a)図~(c)図は、いずれも1層目の導線411を示している。
【0047】
θmax=tan-1(Y/X) ・・・(2)
【0048】
ここで、Xは断面視における導線411の長辺、Yは断面視における導線411の短辺であり、Xは平面41aの一辺に、Yは端面41bの一辺にそれぞれ相当する。
【0049】
また、このとき、径方向に隣り合う導線411のピッチZの最大値Zmaxは以下の式(3)で表わされる。なお、このピッチZは、
図2に示す突起60間の間隔Zに相当する。
【0050】
Zmax=X/cos(θmax) ・・・(3)
【0051】
一方、
図6の(b)、(c)図に示すように、導線411が互いの短辺同士が所定の長さで重なるように接する場合は、上記の傾斜角θは以下の式(4)で表わされ、ピッチZは式(5)で表わされる。
【0052】
θ=θmax×α=tan-1(Y/X)(100-α) ・・・(4)
Z=Zmax×β=(X/cosθ)×(β/100) ・・・(5)
【0053】
ここで、変数αは導線41の短辺同士の重なり度合い(%)であり、変数βはピッチZの裕度(%)である。変数α、βは、それぞれ導線41の断面形状や、導線41における図示しない表面絶縁皮膜の材質、状態等により適宜変更されうる。また、変数α、βはそれぞれ、式(6)、(7)で表わされる範囲で変化しうる。
【0054】
0<α(%)<100 ・・・(6)
β(%)>100 ・・・(7)
【0055】
なお、互いの短辺同士が互いに重なるように導線41が接する場合、導線41が安定して導線巻回部52に保持されるためには、変数αは20%程度かそれ以上であるのが好ましい。同様に、変数βは103%程度であるのが好ましい。
【0056】
なお、
図6では、1層目の導線411が径方向で接する場合を示したが、式(2)~(7)に示す関係は、それ以外の場合、例えば、1層目の導線411と2層目の導線412とが互いの短辺同士が一部重なり合うように径方向で接している場合や、2層目の導線412と3層目の導線413とが互いの短辺同士が一部重なり合うように径方向で接している場合にも、当然に成立する。
【0057】
また、
図7中に一点鎖線で示しているのは、従来の巻回手順で巻回された導線41の配置であり、傾斜角θを付けず導線巻回部52に導線41が巻回された場合に相当する。この場合は、コイル40の最上層で導線41が配置されない非有効空間の体積が増加するか、あるいは導線41がスロット30からはみ出してしまうおそれがある。
【0058】
一方、
図7に示すように、径方向に対して上記の傾斜角θを付けて導線を巻回することで、上記の非有効空間の体積を低減できる。また、傾斜角θはスロット30の後退角θcore以下であるのが好ましい。ここで、θcoreは、トゥース10の径方向内側端部に設けられ、周方向に張り出した張り出し部10aの側面と、分割ヨーク21の側面とを通る仮想平面と、導線巻回部52の第1側面52cまたは第2側面52dとがなす角に相当する。例えば、第2側面52dを基準として、傾斜角θが後退角θcoreより小さければ、インシュレータ50に多層巻きされた導線41のうち最上層の導線41が、周方向にはみ出すことなく、対応するスロット30内に収容されるため、コイル40の占積率を高く維持できる。ただし、クロス角εや突起60間の間隔Z等も考慮した場合、傾斜角θは後退角θcore以下であればよい。
【0059】
[導線の巻回方法]
図8は、導線の巻線設備の構成を、
図9は、導線がインシュレータに巻回される過程の工程説明図をそれぞれ示す。なお、説明の便宜上、
図8において、巻回設備は要部のみを簡略化して図示している。また、インシュレータ50に設けられた突起60は図示を省略する。また、
図9において、巻線設備の図示を省略している。
【0060】
図8に示すように、本実施形態に示す導線41は、通常のワーク回転方式でインシュレータ50に巻回することができる。つまり、インシュレータ50が装着されたトゥース10を保持台2100にセットするとともに、導線案内溝51aから導線41を導線巻回部52に案内し、導線41の先端をノズル2200で把持する。なお、保持台2100は図示しない回転軸を有しており、この回転軸とインシュレータ50の径方向中心線とが一致するようにする。
【0061】
この状態で、保持台2100をその回転軸の回りに回転させるとともに、ノズル2200を保持台2100に対して相対的に移動させることで、導線41がインシュレータ50に巻回される。なお、ノズル2200は、1層目の導線411が突起60に保持されてクロス角εで第1端面52aに巻回されるように、導線41の先端を移動させる。さらに、第2端面52bと第1及び第2側面52c,52dでは、1層目の導線411が第1鍔部51の内面51bと互いに平行となるように、導線41の先端を移動させる。さらに、2層目の導線412以降では、ノズル2200は、
図9に示す巻回形状となるように導線41の先端を移動させる。
【0062】
このように導線41がインシュレータ50に巻回されることで、
図9の(a)図に示すように、1層目の導線411が導線巻回部52に整列巻きされる。次に、クロス部42で1層目の導線411から2層目の導線412に巻き替わるとともに、2層目の導線412は、径方向に関して1層目の導線411とほぼ対称をなすように第1端面52aに巻回される(
図9の(b)図)。さらに、2層目の導線412は、導線巻回部52の径方向外側端部まで巻回され(
図9の(c)図)、クロス部43で3層目の導線413に巻き替わる(
図9の(d)図)。3層目の導線413は、クロス角εとほぼ同じ角度で第1端面52aに巻回される。
【0063】
また、図示しないが、
図9の(c)図において、導線巻回部52の各コーナー部52e1~52e4に設けられた複数の突起60に支持されて、1層目の導線411は、径方向に対して傾斜角θをなすように、導線巻回部52の表面に対して傾斜して巻回されている。2層目の導線412は、1層目の導線411における端面41bに支持されて、径方向に対して傾斜角θをなすように、1層目の導線411に巻回されている。同様に、3層目の導線413は、2層目の導線412における端面41bに支持されて、径方向に対して傾斜角θをなすように、2層目の導線412に巻回されている。
【0064】
なお、本実施形態においては、ノズルを用いた巻線工法を一例に記しているが、ノズルに替えて導線41を案内するローラー、フック又はカム等を用いる巻線工法を採用してもよい。また、前述したように、ワーク回転方式が非円形の断面形状を有する導線41の巻装に適しているが、導線41がよじれて変形する等の不具合を解消できれば、ワーク固定方式で導線41を巻装してもよい。
【0065】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るステータ100は、環状のヨーク20と、ヨーク20の周方向に所定の間隔をあけて配設されるとともに、ヨーク20の内周からヨーク20の径方向に延びる複数のティース10と、複数のティース10のそれぞれに装着される複数のインシュレータ50と、断面が矩形状の導線41で構成され、複数のインシュレータ50のそれぞれに巻回される複数のコイル40と、を備えている。
【0066】
インシュレータ50は、導線41が巻回される筒状の導線巻回部52と、導線巻回部52の径方向外側端部に設けられ、導線41を導線巻回部52に案内する導線案内溝51aを有する第1鍔部51と、導線巻回部52の径方向内側端部に設けられた第2鍔部53と、を有している。
【0067】
導線巻回部52は、導線案内溝51aの底面に連続する第1端面52a及び第1端面52aとステータ100の軸方向で互いに対向する第2端面52bと、第1端面52aの周方向端辺から第2端面52bの周方向端辺にかけて設けられ、周方向で互いに対向する第1側面52c及び第2側面52dと、を有している。また、導線巻回部52は、そのコーナー部52e1~52e4に設けられ、径方向と直交する方向に対して所定のクロス角εをなすように導線41を第1端面52aに巻回させるための複数の突起60を有している。
【0068】
複数の突起60は、径方向に互いに間隔Zをあけて設けられ、第1鍔部51に対向する第1面60aと第2鍔部53に対向する第2面60bとを有している。第1面60aがフラットな平面であるのに対し、第2面60bは径方向内側に向かって凸状の曲面となっている。
【0069】
ステータ100をこのように構成することで、断面が矩形状の、いわゆる平角線の導線41をインシュレータ50に安定して整列巻きかつ多層巻きすることができる。このことについて、図面を用いてさらに説明する。
【0070】
図10Aは、突起を設けない場合の導線巻回部上の導線の配置を示す模式図であり、
図10Bは、突起を設けた場合の導線巻回部上の導線の配置を示す模式図である。なお、
図10A,10Bにおいて、破線で囲まれた部分の拡大図をあわせて図示している。また、
図10A,10Bにおいて、導線41のうち1層目の導線411のみを示している。また、一点鎖線は導線41の実際の位置を、点線は導線41が本来巻回されるべき位置をそれぞれ示している。
【0071】
図10Aに示すように、導線案内溝51aから案内された1層目の導線411が導線巻回部52に巻回される過程において、1層目の導線411は径方向に隣り合う1層目の導線411から径方向内側に向かう力を受ける。導線巻回部52に突起60を設けていない場合、1層目の導線411を径方向で支持する機構が無いため、1層目の導線411は本来の位置からずれて導線巻回部52に巻回される。このため、巻き乱れが生じて、1層目の導線411は導線巻回部52に整列巻きされなくなる。また、1層目の導線411に巻き乱れが生じると、その上に順次巻回される2層目以降の導線41も整列して巻回されなくなり、結果としてコイル40の占積率が低下してしまう。
【0072】
一方、
図10Bに示すように、本実施形態によれば、導線巻回部52の各コーナー部52e1~52e4にそれぞれ複数の突起60を設けることにより、1層目の導線411を径方向で支持できる。また、複数の突起60は径方向に互いに間隔Zをあけて設けられているため、1層目の導線411は整列巻きされた状態で導線巻回部52の表面に保持される。さらに、
図10Bでは図示していないが、2層目の導線412は、1層目の導線411の端面41bに支持されることで、1層目の導線411の上に整列巻きされ、3層目以降の導線41も同様にインシュレータ50に整列巻きされ、整列巻きかつ多層巻きされたコイル40を安定して実現できる。
【0073】
また、
図10Bに示すように、突起60の第1面60aがフラットな平面であるのに対し、第2面60bは、径方向内側に向かって凸状の曲面である。突起60をこのように構成することで、1層目の導線411の端面41bが第1面60aに安定して保持される。さらに、導線41の厚さ、この場合、断面視における1層目の導線411の長辺Xや短辺Yが設計値からばらついて傾斜角θが変動するような場合にも、第2面60bが曲面であるため、1層目の導線411を第2面60bに確実に当接させることができる。このことにより、1層目の導線411が所定の位置に位置決めされた状態で導線巻回部52の表面に保持されて整列巻きされる。
【0074】
また、第2面60bを凸状の曲面とすることで、インシュレータ50を図示しない金型で一体成形する場合に、金型から突起60を外すのが容易となる。このことにより、突起60を外しやすくするための特別な離型剤を用いたり、金型から突起60を外す際に、突起60が欠けてインシュレータ50の不良品が生じたりして、インシュレータ50の製造コストが増加するのを抑制できる。
【0075】
また、導線巻回部52に巻回される1層目の導線411は、複数の突起60に支持されることで、第1端面52aにクロス角εで巻回されるとともに、径方向と傾斜角θをなすように導線巻回部52の表面に傾斜して巻回されている。
【0076】
また、導線41は導線巻回部52にn層巻き(nは2以上の整数)されており、i層目(iは2以上の整数で、かつi≦n)の導線41は、第1端面52aにおいて(i-1)層目の導線41から巻き替わり、かつ(i-1)層目の導線41の上にクロス角εと異なる角度で巻回されている。i層目の導線41は、(i-1)層目の導線41の端面41bに支持されることで、径方向と傾斜角θをなすように(i-1)層目の導線の上に巻回されている。
【0077】
このように導線41を導線巻回部52に巻回することで、複数の突起60に保持され、径方向と傾斜角θをなして整列巻きされた1層目の導線411の端面41bを支持部として2層目の導線412がクロス部42で巻き乱れることなく1層目の導線411の上に整列巻きされる。同様に、整列巻きされた(i-1)層目の導線41の端面41bを支持部としてi層目の導線41がクロス部4iで巻き乱れることなく(i-1)層目の導線41の上に整列巻きされる。以上のように、インシュレータ50に整列巻きかつ多層巻きされたコイル40を安定して実現できる。
【0078】
第1端面52aと第1側面52cとのコーナー部52e1に設けられた突起60と、第1側面52cと第2端面52bとのコーナー部52e2に設けられた突起60とは、それぞれに設けられた凸状の曲面である第2面60bが互いに同じ方向、この場合は径方向内側を向いている。
【0079】
このようにすることで、クロス部4iの位置を確実に第1端面52aの上に定めることができる。
【0080】
本実施形態に係るモータ1000は、ステータ100と、ステータ100と所定の間隔をあけて設けられたロータ200と、を少なくとも備え、導線41はインシュレータ50に整列巻きかつ多層巻きされている。
【0081】
本実施形態によれば、導線巻回部52に設けられた複数の突起60によって、導線41がインシュレータ50に整列巻きかつ多層巻きされている。このことにより、スロット30内でのコイル40の占積率を高めることができ、高効率のモータ1000を実現できる。
【0082】
なお、本実施形態において、突起60は各コーナー部52e1~52e4からそれぞれ隣接する面にかかるように延びて設けられているが、特にこれに限られず、例えば、
図11に示すように、突起60は各コーナー部52e1~52e4のみに設けられるようにしてもよい。この場合も、1層目の導線411は、第1端面52aに対してクロス角εで傾斜して巻回されるとともに、突起60の第1面60aに支持されて導線巻回部52の表面に整列巻きされる。
【0083】
<変形例>
図12~
図15は、本変形例に係る第1~第4のインシュレータの模式図を示す。なお、各図において、(a)図は軸方向上側から見た斜視図を、(b)図は軸方向下側から見た斜視図を示している。また、
図12~
図15において、実施形態1と同様の箇所は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0084】
実施形態1に示す構成では、突起60が各コーナー部52e1~52e4に設けられていたのに対し、本変形例に示す構成では、それ以外の箇所、例えば、第1側面52cや第2側面52d等にも突起61が設けられている点で異なる。
【0085】
例えば、
図12に示すように、第1側面52c及び第2側面52dには、複数の突起61が、径方向に互いに間隔Zをあけて、かつ第1鍔部51の内面51bと互いに平行になるように設けられていてもよい。具体的には、コーナー部52e1からコーナー部52e2にかけて直線的に延びるように複数の突起61が第1側面52cに設けられていてもよい。また、コーナー部52e3からコーナー部52e4にかけて直線的に延びるように複数の突起61が第2側面52dに設けられていてもよい。
【0086】
また、
図13に示すように、
図12に示す構成に加えて、第2端面52bに、複数の突起62が径方向に互いに間隔Zをあけて、かつ第1鍔部51の内面51bと互いに平行になるように設けられていてもよい。具体的には、コーナー部52e2からコーナー部52e3にかけて直線的に延びるように複数の突起62が第2端面52bに設けられていてもよい。
図13に示す構成では、コーナー部52e1からコーナー部52e3にかけて連続して延びるように突起62が設けられている。
【0087】
さらに、
図14に示すように、
図13に示す構成に加えて、第1端面52aに、複数の突起63が径方向に互いに間隔Zをあけて設けられていてもよい。具体的には、コーナー部52e4からコーナー部52e1にかけて直線的に延びるように突起63が第1端面52
aに設けられていてもよい。また、
図14に示す構成において、第1端面52aに設けられた複数の突起63は、径方向と直交する方向に対してクロス角εで傾斜するように、かつ径方向に互いに間隔Zをあけてそれぞれ設けられている。
【0088】
図12~
図14に示すインシュレータ50をステータ100に適用することで、実施形態1と同様の効果を奏することができる。また、コーナー部52e1~52e4以外の導線巻回部52の表面に連続して延びる複数の突起61~63を設けることで、導線41の巻回位置を確実に定めることができ、導線41を安定して整列巻きにすることができる。
【0089】
なお、
図14に示す構成に代えて、
図15に示すように、第1及び第2端面52a,52bと第1及び第2側面52c,52dとに設けられた突起64をそれぞれ延在方向に関して不連続となるように構成してもよい。
【0090】
つまり、第1側面52c及び第2側面52dには、複数の突起64が、径方向及び軸方向にそれぞれ互いに間隔をあけて設けられている。また、第2端面52bには、複数の突起64が、径方向及び周方向にそれぞれ互いに間隔をあけて設けられている。第1端面52aには、複数の突起64が、径方向及び周方向にそれぞれ互いに間隔をあけて設けられている。なお、各面52a~52dにそれぞれ設けられた突起64の径方向の間隔は上記の間隔Zである。
【0091】
図15に示すインシュレータ50をステータ100に適用する場合も、実施形態1と同様の効果を奏することができる。また、図示しないが、
図12及び
図13に示す構成に
図15に示す突起64の形状を適用するようにしてもよい。
【0092】
(実施形態2)
図16は、本実施形態に係るインシュレータの模式図を示し、
図17は、軸方向上側から見たステータの要部の模式図を示す。なお、
図16において、破線で囲まれた部分の拡大図をあわせて図示している。また、
図16において、実施形態1と同様の箇所は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。また、
図17において、導線41のうち1層目の導線411のみを図示している。
【0093】
実施形態1に示す構成では、第1端面52aと第1側面52cとのコーナー部52e1に設けられた突起60と、第1側面52cと第2端面52bとのコーナー部52e2に設けられた突起60とは、それぞれに設けられた第2面60bがいずれも径方向内側を向いている。
【0094】
一方、
図16に示す本実施形態の構成では、第1端面52aと第1側面52cとのコーナー部52e1に設けられた突起60は、第2面60bが径方向内側を向いているのに対し、第1側面52cと第2端面52bとのコーナー部52e2に設けられた突起60は、第2面60bが径方向外側を向いている。つまり、前者の突起60と後者の突起60とでは、それぞれに設けられた第2面60bが互いに反対の方向を向いている。
【0095】
モータ1000の設計仕様によっては、クロス部4iを導線巻回部52の第1端面52aと異なる面上に設けることも要求される。しかし、実施形態1に示す構成では、クロス部4iを第1端面52a以外に設けることは難しかった。
【0096】
一方、本実施形態によれば、クロス部4iを第1端面52aの上だけでなく第2端面52bの上にも設けることができる。つまり、導線41は、第2端面52bでもj層目(jは整数で、1≦j≦n-1)から(j+1)層目に巻き替わり、クロス部4iが第2端面52bの上にも設けられる。このことにより、ステータ100,ひいてはモータ1000の設計自由度が向上できる。なお、この場合、例えば、
図17に示すように、第2端面52b上で1層目の導線411が径方向と直交する方向に対してクロス角εをなすように巻回されていてもよい。
【0097】
(実施形態3)
図18Aは、本実施形態に係るステータの要部の断面模式図を、
図18Bは比較のためのステータの要部の断面模式図をそれぞれ示している。なお、説明の便宜上、
図18A,18Bにおいて、突起60の図示を省略している。また、実施形態1と同様の箇所は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0098】
図18Aに示す本実施形態の構成は、導線巻回部52の径方向内側端部に、1層目の導線411のk巻き目(kは1層目の導線411の巻回数)が配置される予定の部分に所定の高さの段差52fが設けられている点で
図18Bに示す実施形態1の構成と異なる。なお、段差52fは導線巻回部52の表面に連続して、つまり第1及び第2端面52a,52bと第1及び第2側面52c,5
2dのいずれにも設けられている。また、段差52fには1層目の導線411が巻回されていない。
【0099】
本実施形態によれば、コイル40の内部を通過する磁束に起因して導線41に渦電流が流れ、モータ1000のエネルギーロスが生じるのを抑制できる。このことについてさらに説明する。
【0100】
図18Bに示すように、導線41に電流が流れると、コイル40の内部、つまり、分割ヨーク21及びトゥース10の内部を通るように磁束が発生し、トゥース10の径方向内側端部では、磁束の一部が導線41に漏れ出すことがある。この漏れ磁束がトゥース10に近い側の導線41、例えば、1層目の導線411に渦電流を発生させエネルギーロスが生じる原因となる。
【0101】
一方、本実施形態によれば、
図18Aに示すように、漏れ磁束が通過する導線41、つまり、1層目の導線411のうち径方向内側に位置するk巻き目に相当する部分に所定の高さの段差52fを設けることで、当該部分に1層目の導線411が巻回されないようにする。このことにより、漏れ磁束が導線41を通過するのを防止して、渦電流の発生、ひいてはモータ1000のエネルギーロスが生じるのを抑制できる。
【0102】
なお、段差52fは1層目の導線411の(k-1)巻き目とk巻き目とに跨がって設けられていてもよい。また、2層目の導線412の1巻き目が巻回される予定の部分にまで延びて段差52fが設けられていてもよい。段差52fの高さと径方向の長さとは、導線41に流れる渦電流の低減度合いとコイル40の占積率の低下との兼ね合いに応じて、適宜変更されうる。
【0103】
なお、分割ヨーク21に近い側での漏れ磁束の影響は小さいため、渦電流の発生を抑制するためには、導線41を第1鍔部51の内面51bに当接するように導線巻回部52に当接するのが好ましい。
【0104】
(実施形態4)
図19Aは、本実施形態に係るステータの要部の断面模式図を示し、
図19Bは比較のためのステータの要部の断面模式図をそれぞれ示している。なお、説明の便宜上、
図19A,19Bにおいて、突起60の図示を省略している。また、実施形態1と同様の箇所は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0105】
図19Bに示す構成では、周方向で互いに隣り合うインシュレータ50のうち、一方のインシュレータ50に巻回された導線41と、他方のインシュレータ50に巻回された導線41とで、その形状が対称となるようにそれぞれが巻回されている。
【0106】
一方、
図19Aに示す本実施形態の構成では、周方向で互いに隣り合うインシュレータ50のうち、一方のインシュレータ50に巻回された導線41と、他方のインシュレータ50に巻回された導線41とで、その形状が非対称となるようにそれぞれが巻回されている。
【0107】
各々の導線41を
図19Aに示す巻回形状とすることで、コイル40の占積率を高めることができる。このことについてさらに説明する。
【0108】
通常、複数のインシュレータ50に導線41をそれぞれ巻回するにあたって、巻回工程を標準化し、また、ステータ100の組立工程を簡素化するために、周方向に互いに隣り合うコイル40において、互いに対向する面が対称となるように導線41が巻回される。
【0109】
このように巻回された一組のコイル40において、コイル40同士の干渉を抑制するために、また,互いの絶縁距離を確保するために、周方向に互いに隣り合うコイル40及びこれらが装着されるティース10の間隔を所定値以上にあけて配置する必要がある。
【0110】
しかし、コイル40のサイズや導線41の巻回数によっては、当該間隔が大きくなりすぎてスロット30内で導線41に占有されない非有効空間が大きくなる場合があった。
【0111】
一方、本実施形態によれば、周方向に互いに隣り合うインシュレータ50にそれぞれ巻回された導線41の巻回形状を非対称とすることで、周方向に互いに隣り合うコイル40の絶縁距離を確保しつつ、上記の非有効空間を低減して、コイル40の占積率を高めることができる。
【0112】
なお、周方向に互いに隣り合うインシュレータ50にそれぞれ巻回された導線41において、それぞれの導線41のl巻き目(lは整数で、1≦l≦k;kは1層目の導線の巻回数)の巻回形状を非対称とすることで、非有効空間の低減度合いをより高められるとともに、コイル40の設計の自由度を向上できる。例えば、
図18Aに示すように、紙面で左側に位置する導線41の3巻き目及び4巻き目をそれぞれ7層としているのに対し、紙面で右側に位置する導線41では3巻き目を6層、4巻き目を5層とすることで、非有効空間の低減度合いを高め、かつ2つのコイル40間の絶縁距離も確保している。ただし、導線41の巻回形状は特にこれに限定されず、コイル40のサイズや導線41の層数、巻回数等に応じて適宜変更されうる。
【0113】
(その他の実施形態)
実施形態1~4において、インシュレータ50に巻回された導線41において、l巻き目と(l+1)巻き目との間や(i-1)層目やi層目との間、つまり周方向及び/または径方向で互いに隣り合う導線41の間に、
図20に示すように、導線41で発生した熱を外部に放散するための放熱材70が充填されていてもよい。
【0114】
ステータ100をこのように構成することで、ステータ100の温度上昇が抑制され、モータ1000の効率を向上できる。
【0115】
また、実施形態1において、導線41のインシュレータ50に巻回するにあたってワーク回転方式を用いるようにしたが、また、コイル7の巻回方法については特に限定されない。
【0116】
例えば、保持台2100を固定して、保持台2100の回りをノズル2200が移動する、いわゆる導線回転方式で導線41をインシュレータ50に巻回させるようにしてもよい。この場合には、ヨーク20は分割ヨーク21を周方向で接続する構成でなくてもよく、電磁鋼板を円環状に打ち抜き加工し、かつ打ち抜き加工後の電磁鋼板を積層してヨーク20を構成してもよい。また、ヨーク20を円環状に形成した後に、複数のティース10をそれぞれヨーク20の内周に接続するようにしてもよい。
【0117】
また、インシュレータ50は、トゥース10の軸方向上下方向からそれぞれ装着される、いわゆる分割タイプのインシュレータであってもよいし、トゥース10の全外周面を覆う一体構造であってもよい。
【0118】
また、実施形態1~4におけるステータ100において、コイル40が1層巻きの導線41で構成されていてもよい。この場合においても、複数のインシュレータ50のそれぞれに、導線41が整列巻きで巻回される。
【0119】
なお、導線41の断面形状は、
図6の(a),(b)図に示すように四角形でもよいし、
図6の(c)図に示すように、四隅が面取りされた四角形でもよい。また、導線41の断面形状は、
図6に示す形状に特に限定されず、例えば、辺Xが辺Yよりも長くなるようにしてもよい。
【0120】
また、トゥース10は、軸方向端部と軸方向中央部とで断面形状が異なっていてもよい。例えば、軸方向端部両端部、または上端部か下端部において、中央部よりも径方向と直交する方向の幅が狭くなるように、トゥース10の断面形状が連続的または段階的に変化していてもよい。インシュレータ50の導線巻回部52の内周面は、トゥース10の断面形状の変化に対応して変形されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のステータは、コイルの占積率を高めることができるため、高い効率が要求されるモータに適用する上で特に有用である。
【符号の説明】
【0122】
10 ティース(トゥース)
20 ヨーク
21 分割ヨーク
30 スロット
40 コイル
41 導線
4i クロス部
50 インシュレータ
51 第1鍔部
51a 導線案内溝
51b 第1鍔部51の内面
52 導線巻回部
52a 第1端面
52b 第2端面
52c 第1側面
52d 第2側面
52e1~52e4 コーナー部
52f 段差
53 第2鍔部
60~64 突起
60a 第1面
60b 第2面
70 放熱材
100 ステータ
110 ステータコア
200 ロータ
210 出力軸
220 磁石
411 1層目の導線
412 2層目の導線
413 3層目の導線
1000 モータ