(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】遮熱性水系塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20231201BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231201BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231201BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20231201BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20231201BHJP
E01C 7/35 20060101ALI20231201BHJP
E01C 11/24 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/61
C09D133/00
C09D167/00
E01C7/35
E01C11/24
(21)【出願番号】P 2021102076
(22)【出願日】2021-06-18
【審査請求日】2021-06-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514112374
【氏名又は名称】株式会社ミラクール
(73)【特許権者】
【識別番号】590002482
【氏名又は名称】株式会社NIPPO
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】今泉 秀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 重宣
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 裕文
(72)【発明者】
【氏名】深江 典之
(72)【発明者】
【氏名】吉中 保
(72)【発明者】
【氏名】岩間 将彦
【合議体】
【審判長】前川 慎喜
【審判官】有家 秀郎
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-31927(JP,A)
【文献】特開2019-194323(JP,A)
【文献】特開2016-70025(JP,A)
【文献】特開2018-199779(JP,A)
【文献】特開2020-12345(JP,A)
【文献】特開2014-37731(JP,A)
【文献】特開2019-206634(JP,A)
【文献】特開2002-194294(JP,A)
【文献】特開2005-61133(JP,A)
【文献】特開2003-206534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮熱性水系塗料と骨材とを含む、遮熱性舗装用コーティング材であって、
前記遮熱性水系塗料が、1液型であり、エマルション系バインダー、遮熱材、及び繊維を含み、
保水性ゲル又は吸水性樹脂を実質的に含まず、かつ前記繊維が、無機繊維又は疎水性の有機繊維である、遮熱性舗装用コーティング材。
【請求項2】
前記エマルション系バインダーが、アクリル樹脂系エマルション又はポリエステル系エマルションである、請求項1に記載の遮熱性舗装用コーティング材。
【請求項3】
前記繊維の平均繊維径が、0.1μm以上である、請求項1又は2に記載の遮熱性舗装用コーティング材。
【請求項4】
前記繊維の平均繊維長が、1.0mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の遮熱性舗装用コーティング材。
【請求項5】
前記繊維が、無機繊維である、請求項1~3のいずれか一項に記載の遮熱性舗装用コーティング材。
【請求項6】
前記骨材として、アルミナ骨材を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の遮熱性舗装用コーティング材。
【請求項7】
遮熱性水系塗料と、骨材とを混合することを含む、遮熱性舗装用コーティング材の製造方法であって、
前記遮熱性水系塗料が、1液型であり、エマルション系バインダー、遮熱材、及び繊維を含み、
保水性ゲル又は吸水性樹脂を実質的に含まず、かつ前記繊維が、無機繊維又は疎水性の有機繊維である、遮熱性舗装用コーティング材の製造方法。
【請求項8】
樹脂バインダー、遮熱材、繊維、及び骨材を含
み、保水性ゲル又は吸水性樹脂を実質的に含まない遮熱性舗装用コーティングであって、前記繊維が、無機繊維又は疎水性の有機繊維であり、かつ前記樹脂バインダーが、(メタ)アクリル樹脂エマルション、スチレン-(メタ)アクリル樹脂エマルション、ポリエステル-(メタ)アクリル樹脂エマルション、シリコーン-(メタ)アクリル-エステル樹脂エマルション、EVA-アクリル-エステル樹脂エマルション、ポリエステル系エマルション、又はポリエステル系エマルションから得られるバインダーを含む、遮熱性舗装用コーティング。
【請求項9】
請求項8に記載の遮熱性舗装用コーティングを基体の表面に含む、遮熱性舗装構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱性水系塗料に関する。また、本発明は、遮熱性舗装用コーティング材及びその製造方法、並びに遮熱性コーティング及び遮熱性コーティングを含む遮熱性舗装構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アスファルト舗装、コンクリート舗装等の舗装面に、遮熱性塗料を塗布して遮熱性コーティングを路面に形成することが多くなっている。このような遮熱性塗料は、通常、赤外線を反射する顔料及び/又は中空微粒子を含有しており、これらが太陽光を効果的に反射することによって、路面の温度上昇を抑制する。これにより、道路利用者の暑さによる不快感を軽減させるだけではなく、熱による道路の劣化も防ぐことができるため、遮熱性塗料は、道路を長持ちさせる機能も有している。
【0003】
トラック等の大型車両が頻繁に通行する重交通車道のための遮熱性舗装には、MMA(メチルメタクリレート)系樹脂、ポリウレア系樹脂等を主剤とする二液型塗料が用いられる。このような二液型塗料は、非常に高い塗膜強度を有しているものの、塗装前に路面を研磨する必要があったり、二液型塗料を二液先端混合型スプレーで塗布した後に骨材を散布し、その上に再度二液型塗料を塗布する必要があったりする。このような遮熱性塗料は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
一方で、歩道又は大型車両が頻繁には通行しない中交通道路のための遮熱性舗装には、1液型の水系塗料を用いることができる。このような遮熱性水系塗料は、例えば密粒度アスファルト舗装面に対しては、ゴムレーキ等を用いて容易に塗布することができる。この遮熱性水系塗料は、通常は、事前に又は塗布直前に、滑り止め用の骨材を混合して用いられる。このような遮熱性水系塗料は、例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4401171号公報
【文献】特開2007-146062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塗布が容易であり、かつ高い強度又は柔軟性を遮熱性コーティングに与えることができる遮熱性水系塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
エマルション系バインダー、遮熱材、及び繊維を含む、遮熱性水系塗料。
《態様2》
前記エマルション系バインダーが、アクリル樹脂系エマルション又はポリエステル系エマルションである、態様1に記載の遮熱性水系塗料。
《態様3》
前記繊維の平均繊維径が、0.1μm以上である、態様1又は2に記載の遮熱性水系塗料。
《態様4》
前記繊維の平均繊維長が、1.0mm以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の遮熱性水系塗料。
《態様5》
前記繊維が、無機繊維である、態様1~3のいずれか一項に記載の遮熱性水系塗料。
《態様6》
態様1~5のいずれか一項に記載の遮熱性水系塗料と骨材とを含む、遮熱性舗装用コーティング材。
《態様7》
前記骨材として、アルミナ骨材を含む、態様6に記載の遮熱性舗装用コーティング材。
《態様8》
態様1~5のいずれか一項に記載の遮熱性水系塗料と、骨材とを混合することを含む、遮熱性舗装用コーティング材の製造方法。
《態様9》
樹脂バインダー、遮熱材、繊維、及び骨材を含む、遮熱性コーティング。
《態様10》
態様9に記載の遮熱性コーティングを基体の表面に含む、遮熱性舗装構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の遮熱性水系塗料は、従来技術と同等以上の遮熱性を有していながら、例えば従来の二液型の遮熱塗料と比較して、塗布が容易であり、臭気が低く、かつ低コストであり、また従来の一液型の遮熱塗料と比較して、高い強度又は柔軟性を遮熱性コーティングに与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、例7の荷重と伸びの関係のグラフを示している。
【
図2】
図2は、例8の荷重と伸びの関係のグラフを示している。
【
図3】
図3は、例9の荷重と伸びの関係のグラフを示している。
【
図4】
図4は、例10の荷重と伸びの関係のグラフを示している。
【
図5】
図5は、例11の荷重と伸びの関係のグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《遮熱性水系塗料》
本発明の遮熱性水系塗料は、エマルション系バインダー、遮熱材、及び繊維を含む。遮熱性塗料は、アスファルト及びセメントを含む必要がない。また、本発明の遮熱性水系塗料は、1液型であることが好ましい。
【0011】
本発明者らは、遮熱性水系塗料に繊維が含まれている場合、その塗料の施工性及び得られる遮熱性コーティングの物性値の大幅な低下がなく、コーティングの強度又は柔軟性を高められることを見出した。この結果、従来は、一液型の遮熱塗料では強度不足のためにあまり用いられてこなかった駐車場、車の展示場等においても、本発明の遮熱性水系塗料を用いれば、十分な強度のコーティングを形成できるため、積極的に採用できることが可能となった。ここで、強度とは、高い荷重がかかっても割れ又は剥がれが発生しにくいことをいい、柔軟性とは、高い荷重がかかっても伸びが大きく亀裂等が発生しにくいことをいう。なお、柔軟性が低くても強度が高ければ、コーティングとして問題が少ないのに対して、柔軟性が高いが強度が低いという場合には、コーティングに変形が生じやすくて問題が生じる場合がある。
【0012】
〈エマルション系バインダー〉
本発明の遮熱性水系塗料は、エマルション系バインダーを含む。エマルション系バインダーを含むことによって、遮熱性コーティングを形成した時に、遮熱材、繊維、及び骨材をコーティングされる基体に対して結着させることができれば、特に限定されない。
【0013】
エマルション系バインダーとしては、塗料に用いられる通常の樹脂エマルションを用いることができる。例えば、エマルション系バインダーとしては、乳化重合等によって製造することができる塗料分野で一般的に用いられるものでよく、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ポリエステル、エチレン-酢酸ビニル樹脂(EVA)、エポキシ樹脂、シリコーン変性樹脂、フッ素系樹脂などの樹脂を含む合成樹脂エマルションなどを挙げることができ、特にアクリル樹脂系エマルション、ポリエステル系エマルション等を挙げることができる。アクリル樹脂は、コーティングに高い光沢を与えることができ、また一液硬化型の場合には塗布も容易であるため好ましい。ポリエステルは、コーティングに高い耐擦過性と耐薬品性を与えることができるため好ましい。
【0014】
アクリル樹脂系エマルションとしては、水系塗料に用いられるアクリル樹脂系エマルションであれば特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル樹脂エマルション、スチレン-(メタ)アクリル樹脂エマルション、ポリエステル-(メタ)アクリル樹脂エマルション、シリコーン-(メタ)アクリル-エステル樹脂エマルション、EVA-アクリル-エステル樹脂エマルション等を挙げることができる。
【0015】
ポリエステル系エマルションとしては、水系塗料に用いられるポリエステル系エマルションであれば特に限定されない。例えば、不飽和ポリエステルエマルション、アルキド樹脂エマルション、ポリエステル-EVA樹脂エマルション、等を挙げることができる。
【0016】
遮熱性水系塗料に含まれるエマルション系バインダーに由来する樹脂の固形分濃度は、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってもよく、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってもよい。例えば、遮熱性水系塗料に含まれるエマルション系バインダーに由来する樹脂の固形分濃度は、1質量%以上60質量%以下、又は10質量%以上40質量%以下であってもよい。
【0017】
〈遮熱材〉
本発明の遮熱性水系塗料は、遮熱材を含む。遮熱材は、遮熱性コーティングを形成した時に、遮熱舗装体が少なくとも近赤外線の吸収を防止することができれば、特に限定されない。
【0018】
遮熱材としては、従来から遮熱性塗料で用いられてきた遮熱材を用いることができ、例えば遮熱材顔料及び/又は中空粒子を用いることができる。
【0019】
遮熱性水系塗料の遮熱材として用いることができる遮熱性顔料は、少なくとも近赤外線を反射できるのであれば、無機顔料であっても有機顔料であっても特に限定されない。例えば、白色顔料については、酸化チタン、酸化亜鉛顔料を挙げることができ、黒色顔料については、マンガンイットリウムブラック顔料を挙げることができ、黄色顔料については、アゾ系顔料、ベンゾイミダゾロン顔料を挙げることができ、赤色顔料については、キナクリドン顔料を挙げることができ、青色顔料については、銅フタロシアニンブルー顔料を挙げることができる。遮熱性水系塗料は、これらの顔料から選択される1種又は2種以上の顔料を含有することができる。
【0020】
遮熱性水系塗料の遮熱材として用いることができる中空粒子としては、透明又は半透明のセラミック中空粒子を挙げることができる。このようなセラミック中空粒子としては、ジルコニア・チタニア複合物、ホウ化ケイ素系セラミック、シラスバルーン、ガラスバルーン等の中空粒子を挙げることができる。中空粒子の粒子径としては5μm以上150μm以下、又は30μm以上100μm以下の範囲とすることができ、中空内は空気、空気以外の気体、真空のいずれでもよいが、真空であるものが断熱性の点等からより効果的である。
【0021】
遮熱性水系塗料に含まれる遮熱材の含有量は、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってもよく、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってもよい。例えば、遮熱性水系塗料に含まれる遮熱材の含有量は、1質量%以上50質量%以下、又は10質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0022】
〈繊維〉
本発明の遮熱性水系塗料は、繊維を含む。繊維は、遮熱性コーティングを形成した時に、遮熱性コーティングの強度又は柔軟性を高めることができれば、特に限定されない。繊維は、単糸又は単糸を撚り合わせた糸の状態で用いることができる。
【0023】
繊維としては、無機繊維及び有機繊維を挙げることができる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、ロックウール、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維等を挙げることができる。有機繊維としては、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維等を挙げることができる。これらの中でも特に、パラアラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等を挙げることができる。また、有機繊維としては、例えばセルロース系繊維のような親水性が高い繊維の場合には塗料の粘度が高くなりすぎる場合があるため、疎水性の有機繊維を挙げることができる。無機繊維は、遮熱性コーティングに、高い最大点荷重を与えることができ、それによりコーティングに割れ又は剥がれが発生しにくくすることができる傾向がある。また、有機繊維は、遮熱性コーティングに、高い最大点伸度を与えることができ、それによりコーティングに高い荷重がかかっても亀裂等が発生しにくくすることができる傾向がある。
【0024】
繊維の平均繊維径は、用いる繊維の種類によっても変わるが、0.1μm以上500μm以下、又は0.3μm以上300μm以下であってもよい。例えば、繊維が無機繊維の場合、平均繊維径は、0.1μm以上、0.2μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、又は1.0μm以上であってもよく、50μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下、又は1.0μm以下であってもよい。また、繊維が有機繊維の場合、平均繊維径は、1.0μm以上、3.0μm以上、5.0μm以上、10.0μm以上、又は30.0μm以上であってもよく、500μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下、又は50μm以下であってもよい。ここで、繊維の平均繊維径は、電子顕微鏡又は光学顕微鏡で観察して、代表的な繊維を100本以上観察して測定される繊維の平均直径をいう。このような範囲の平均繊維径の繊維であれば、遮熱性コーティングに十分な強度を与えやすい。
【0025】
繊維の平均繊維長は、用いる繊維の種類によっても変わるが、1.0μm以上20mm以下、又は5.0μm以上5mm以下であってもよい。例えば、繊維が無機繊維の場合、平均繊維長は、1.0μm以上、3.0μm以上、5.0μm以上、又は10.0μm以上であってもよく、100μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってもよい。また、繊維が有機繊維の場合、平均繊維長は、0.1mm以上、0.5mm以上、1.0mm以上、又は3.0mm以上であってもよく、20mm以下、10mm以下、又は5mm以下であってもよい。ここで、繊維の平均繊維長は、電子顕微鏡又は光学顕微鏡で観察して、代表的な繊維を100本以上観察して測定される繊維の平均長をいう。このような範囲の平均繊維長の繊維であれば、塗料中での分散が比較的容易であるため好ましい。繊維長が短いほど、多くの繊維を塗料中に高い分散状態で含有させることができる。
【0026】
遮熱性水系塗料に含まれる繊維の含有量は、例えば、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は1.5質量%以上であってもよく、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、又は1.5質量%以下であってもよい。例えば、遮熱性水系塗料に含まれる繊維の含有量は、0.1質量%以上5.0質量%以下、又は0.5質量%以上3.0質量%以下であってもよい。このような範囲であれば、繊維を添加する効果が十分に得られ、かつ塗料中での分散が比較的容易であるため好ましい。
【0027】
〈その他〉
遮熱性水系塗料は、さらに他の成分を含むことができる。例えば、遮熱性水系塗料は、体質顔料、着色剤、消泡剤、増粘剤、可塑剤、凍結防止剤、沈降防止剤、防腐剤、色分かれ防止剤、顔料分散剤、乾燥促進剤、紫外線吸収剤、防カビ剤、防錆剤、界面活性剤、硬化剤等を挙げることができるが特に限定はない。
【0028】
遮熱性水系塗料に含まれるその他の成分の含有量は、合計で、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってもよく、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってもよい。例えば、遮熱性水系塗料に含まれる遮熱材の含有量は、1質量%以上50質量%以下、又は10質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0029】
《遮熱性舗装用コーティング材》
本発明の遮熱性舗装用コーティング材は、上記のような遮熱性塗料と骨材とを含む。本発明の遮熱性舗装用コーティング材は、アスファルト及びセメントを含む必要がなく、遮熱性塗料と骨材のみから実質的に構成することができるが、さらに水等の希釈剤を含むこともできる。
【0030】
〈骨材〉
骨材は、遮熱性コーティングを形成した時に、滑り止めとして機能することができれば特に限定されない。
【0031】
骨材としては、細骨材及び粗骨材を挙げることができ、特に細骨材を挙げることができる。細骨材として、JIS A0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。また、粗骨材として、JIS A0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0032】
骨材は、粒径が大きいほうが遮熱性コーティングの耐摩耗性を向上させることができるが、表面の仕上がり性を考慮すると、粒径が小さい方が好ましい場合があり、歩道又は大型車両が頻繁には通行しない中交通道路のための遮熱性舗装には、特に、0.01mm~2.0mm又は0.05mm~0.3mm程度の直径を有する骨材を用いることが好ましい。
【0033】
骨材の種類としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂等の砂系骨材、アルミナ骨材、ガラス骨材、セラミック骨材、着色骨材、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。
【0034】
従来技術においては、骨材として珪砂が一般的に用いられていたが、本発明者らは、上記の遮熱性水系塗料を用いた場合には、珪砂に変えて又は珪砂と併用して、アルミナ骨材を用いることで、遮熱性コーティングに非常に高い耐摩耗性と柔軟性とを両立できることを見出した。さらに、本発明者らは、アルミナ骨材を用いることで、近赤外域の反射率も向上でき、非常に有利な遮熱性コーティングを形成できることを見出した。
【0035】
本発明の遮熱性舗装用コーティング材に含まれる、骨材の遮熱性塗料に対する重量比(骨材/遮熱性塗料)は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上であってもよく、2.0以下、1.5以下、1.0以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下であってもよい。例えば、その重量比は、0.1以上2.0以下、又は0.3以上0.8以下であってもよい。
【0036】
骨材として、アルミナ骨材と他の骨材(例えば、珪砂等の砂系骨材)とを組み合わせて用いる場合、アルミナ骨材は、骨材全量の10質量%以上、20質量以上、30質量%以上、又は40質量%以上であってもよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、又は60質量%以下であってもよい。例えば、アルミナ骨材は骨材全量の10質量%以上90質量%以下、又は30質量%以上70質量%以下であってもよい。
【0037】
本発明の遮熱性舗装用コーティング材は、さらに水等の希釈剤を含むことができ、希釈剤の遮熱性塗料に対する重量比(希釈剤/遮熱性塗料)は、0.01以上、0.03以上、0.05以上、又は0.08であってもよく、1.0以下、0.5以下、0.3以下、0.2以下、0.15以下、又は0.1以下であってもよい。例えば、その重量比は、0.01以上1.0以下、又は0.05以上0.15以下であってもよい。
【0038】
《遮熱性舗装用コーティング材の製造方法》
本発明の遮熱性舗装用コーティング材の製造方法は、上記のような遮熱性塗料と骨材とを混合する工程を含む。本発明の方法では、アスファルト及びセメントを混合する必要がなく、遮熱性塗料と骨材のみを実質的に混合することができるが、さらに水等の希釈剤を混合することもできる。
【0039】
遮熱性塗料に含まれる繊維は、その種類によっては塗料中への均一的な分散が難しい場合があるが、繊維を含む遮熱性塗料に骨材を混合して撹拌することによって、骨材がビーズミルの粉砕メディアのように機能して、繊維をコーティング材中に分散しやすくなることが分かった。
【0040】
混合は、施工現場において、遮熱性塗料と骨材とを容器に投入してハンドミキサー等によって行ってもよく、又は工場等でミキサー等を用いて行ってもよい。
【0041】
本発明の製造方法によって得られる遮熱性舗装用コーティング材は、上記の遮熱性舗装用コーティング材であってもよく、したがって、本発明の製造方法についての各構成については、上記の本発明の遮熱性舗装用コーティング材についての構成を参照することができる。
【0042】
《遮熱性コーティング》
本発明の遮熱性コーティングは、上記の遮熱性舗装用コーティング材を塗工することによって形成されるコーティングであってもよい。したがって、本発明の遮熱性コーティングについての各構成については、上記の本発明の遮熱性舗装用コーティング材についての構成を参照することができる。したがって、本発明の遮熱性コーティングは、エマルション系バインダーを乾燥して得られる樹脂バインダー、遮熱材、繊維、及び骨材を含むことができる。
【0043】
遮熱性コーティングは、遮熱性コーティング材を、レーキ塗装、ローラー塗装、スプレー塗装等によって塗工して形成することができる。これらは被塗装面の表面性状に応じて選択することができ、例えば開粒度アスファルト舗装に対して塗工する場合には、スプレー塗装を行うことができ、密粒度アスファルト舗装に対して塗工する場合には、レーキ舗装、ローラー舗装等を行うことができる。塗工は、複数回行うことができる。
【0044】
塗装前の前処理として、被塗装面の前処理を行って、表面に付着したゴミ、油分等を除去することができる。また、コーティングを形成しない部分にマスキングを行うことができる。
【0045】
塗膜の膜厚は、0.1kg/m2以上3kg/m2以下、又は0.5kg/m2以上1.5kg/m2以下とすることができる。このような範囲であれば、十分な遮熱効果が得られ、かつ骨材による滑り止め効果も十分となる傾向がある。
【0046】
《遮熱性舗装構造体》
本発明の遮熱舗装構造体は、基体及びその表面上の遮熱性コーティングを含む。遮熱性コーティングとしては、上記の遮熱性コーティングを挙げることができる。
【0047】
基体としては、歩道又は大型車両が頻繁には通行しない中交通道路のための基体を挙げることができる。具体的には、基体として、アスファルト舗装体及びコンクリート舗装体を挙げることができ、特にアスファルト舗装体として、アスファルトと骨材とを含むアスファルト混合物を表層に用いたアスファルト舗装体を挙げることができる。
【0048】
歩道及び中交通道路としては、例えば、公園、広場、遊園地等の遊歩道、散策路、自転車道を挙げることができ、また住宅街、商店街、スクールゾーン等の歩車共存道路も挙げることができる。さらに、本発明の遮熱構造体は、十分な強度又は柔軟性を有するために、駐車場、車の展示場等においても用いることができる。
【0049】
本発明の遮熱舗装構造体では、遮熱性コーティングが基体の表面形状に追随するように形成される。基体がアスファルト舗装体の場合は、その表面の凹凸形状に従って遮熱性コーティングが形成される。アスファルト舗装体の表層材用のアスファルト混合物の例としては、細粒度アスファルト混合物、密粒度ギャップアスファルト混合物、開粒度アスファルト混合物等を挙げることができ、機能的に表現したアスファルト舗装の例としては、明色舗装、着色舗装、凍結抑制舗装、排水性舗装、透水性舗装、半たわみ性舗装、砕石マスチック舗装等を挙げることができる。
【0050】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
実験1:アルミナ骨材及び繊維の効果の検討
《サンプル調製》
表1に記載の組成(単位はグラム)で、300ccのアクリルエマルション及び遮熱材を含む市販の一液型遮熱塗料(パーフェクトクール(商標)A 灰色、株式会社NIPPO)と繊維を混合し、さらに水と骨材を加えて、縦型分散機(ティスパーマット(商標))によって撹拌をして、例1~3の遮熱性舗装用コーティング材を調製した。
【0052】
なお、市販の遮熱塗料は、アクリル樹脂の固形分を約22.5質量%、遮熱材の酸化チタンを約15質量%、体質顔料の炭酸カルシウムを約15質量%、残量としてその他の添加剤、着色剤、及び水を含有していた。また、珪砂は、粒径が約0.2mmの7号珪砂を使用し;アルミナ骨材は、平均粒径約0.15mm~約0.2mmのアルミナ骨材を使用し;繊維は、繊維径が0.3~0.6μmで繊維長が10~20μmのチタン酸カリウム繊維(ティスモ、大塚化学株式会社製)を用いた。
【0053】
《試験方法》
〈引張強伸度試験〉
縁を折り曲げたブリキ板に離型紙を貼り付け、そこにコーティング材を流し込み、棒で表面を平滑化した。室温養生後に50℃の乾燥機にて、乾燥促進させた。脱型後、試験片に切り分けた。試験片は、幅10mm、膜厚約1mm、長さ60mmで、質量7~10グラムであった。その後、引張強伸度試験を行った。これを6回行った平均値を測定結果とした。引張強伸度試験は、テンシロン(商標)RTG-1225(株式会社エー・アンド・デイ)を使用し、標線間距離50mm、チャック間距離115mm、引張試験速度5mm/minの条件で測定を行った。
【0054】
〈日射反射率及び色相〉
隠蔽率試験紙上に、0.5kg/m2の厚さで、上記コーティング材を刷毛で2回塗りをした。これを室温で16時間乾燥させた後、50℃の乾燥機に移動させた。これによって、養生を促進し、完全に乾燥させた。その後、日射反射率及び色相をJIS K 5602に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(V-770、日本分光株式会社)によって測定した。
【0055】
〈耐摩耗性試験〉
鋼板上に、100mm×100mmの面積かつ0.5kg/m2の厚さで、上記コーティング材を刷毛で2回塗りをした。これを室温で16時間乾燥させた後、50℃の乾燥機に移動させた。これによって、養生を促進し、完全に乾燥させた。その後、摩耗量(グラム)を測定した。ここで、試験機には、ロータリーアブレージョンテスタTS-2(株式会社東洋精機製作所)を使用し、JIS K 5600-5-9に準拠して、耐摩耗性を試験した。ここで、荷重には、9.8N(1000グラム)で2つの摩耗輪を使用し、摩耗紙には、S-42 Sandpaper Stripsを使用し、回転数を1000回とした。
【0056】
《結果》
コーティング剤の組成及び試験結果を以下の表1を示す。
【0057】
【0058】
引張強伸度試験の結果を例1~例3で比較すると、アルミナ骨材を用いた例2は、最大点荷重、最大点応力、破断点荷重、及び破断点応力が例1よりも低下しているのに対して、アルミナ骨材を用いてかつ繊維を含む例3は、これらの物性値が非常に高くなっていることが分かる。これは、繊維を含むことによって、これらの物性を大幅に向上できていることを示す。これらの物性値が高いことは、コーティングに対して強い応力がかかった場合であっても、割れ又は剥がれが発生しにくく、強度が高いことを示唆している。
【0059】
また、アルミナ骨材を用いた例2は、最大点伸度及び破断点伸度が例1よりも大幅に向上しているのに対して、アルミナ骨材を用いてかつ繊維を含む例3は、例2との比較ではこれらの物性値が低下しているものの、例1との比較では同程度であることが分かる。これは、繊維とアルミナ骨材を含むことによって、最大点伸度及び破断点伸度が維持されることから、これらを含む実施形態では、コーティングが引き伸ばされた時であっても、コーティングが割れ又は剥がれが発生しにくいことを示唆している。このような実施形態は、特に被塗装面の凹凸が非常に大きい場合には、特に有利である。
【0060】
日射反射率及び色相の結果を参照すると、驚くべきことに、アルミナ骨材を用いることによって、色相の変化は実質的にないのにも関わらず、近赤外の反射率が向上していることが分かる。また、耐摩耗性の試験においても、アルミナ骨材を用いることで、摩耗量が大幅に低下しており、アルミナ骨材を含むコーティングは、耐久性の大幅な向上が期待できる事がわかった。
【0061】
実験2:アルミナ骨材の粒径による効果の検討
実験1の例3のアルミナ骨材を、粒径の異なるアルミナ骨材に変更したこと以外は、実験1と同様にして、引張強伸度試験及び耐摩耗性試験の実験を行った。例3の#80のアルミナ骨材(平均粒径約0.15mm~約0.2mm)を、例4~6では、#80よりも粒径が大きい、#60(平均粒径約0.2mm~約0.3mm)、#46(平均粒径約0.3mm~約0.4mm)、及び#36(平均粒径約0.4mm~約0.6mm)のアルミナ骨材にそれぞれ変更した。
【0062】
結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
引張強伸度試験の結果から、アルミナ骨材の粒径が小さい方がコーティングの強度が高い傾向を示している。これは、コーティングが密状態のため割れ又は破壊が発生しにくいためであると考えられる。一方で、アルミナ骨材の粒径が小さい方が、摩耗量が大きくなる傾向を示している。これは、アルミナ骨材の粒径が小さい方が、摩擦試験においてサンドペーパーとの接地面積が大きくなるためであると考えられる。
【0065】
実験3:繊維の種類による効果の検討
実験1の例3の繊維(繊維径が0.3~0.6μmで繊維長が10~20μmのチタン酸カリウム繊維(ティスモ、大塚化学株式会社製))を、ポリアリレート繊維(ベクトラン(商標)、繊維長3mm、株式会社クラレ)、及び超高分子量ポリエチレン繊維(イザナス(商標)、収束タイプ、繊維長4mm、東洋紡株式会社)に変更して実験を行った。
【0066】
結果を表3に示す。また、
図1~
図5に、それぞれ例7~例11の測定の一例の荷重と伸びの関係を示す。
【0067】
【0068】
無機繊維の繊維量を増やすことで最大点荷重、最大点応力等を大幅に向上できた。有機繊維を用いた例では、塗料中への繊維の分散性が低く、最大点荷重等については、実質的に変わらない一方で、最大点伸度については大幅に向上できることが分かった。