(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質とその製造方法、および電極構造体、ならびに二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20231201BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231201BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231201BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 E
H01M4/587
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021550544
(86)(22)【出願日】2020-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2020034614
(87)【国際公開番号】W WO2021070564
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2019167877
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】714006565
【氏名又は名称】川上 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上総一郎
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-016446(JP,A)
【文献】特開2012-094490(JP,A)
【文献】特開2013-239267(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080245(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/080452(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/101072(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/0587
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料のリチウムイオン伝導体中に、非晶質もしくはナノ結晶のシリコンが含有されるシリコン元素と遷移金属元素とのシリコン合金が分散した粒子であって、該粒子中のシリコン元素が20~60質量%で
あり、
前記リチウムイオン伝導体がLixMyAz (x>0、y≧0、z>0)と表記できる化合物であり、
前記元素Mは、元素の周期律表の第13族元素のAl元素と、第14族元素のSi元素とGe元素から選択される1種類以上の元素であり、
前記元素Aは、第15族元素のN元素とP元素、第16族元素O元素とS元素から選択される1種以上の元素である、
ことを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの吸蔵放出が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)の負極用活物質。
【請求項2】
無機材料のリチウムイオン伝導体中に、非晶質もしくはナノ結晶のシリコンが含有されるシリコン元素と遷移金属元素とのシリコン合金が分散した粒子であって、該粒子中のシリコン元素が20~60質量%で
あり、
前記リチウムイオン伝導体がLi7La3Zr2O12、Li10GeP2O12、Li3BO3-Li2SO4、Li6PS5Cl、Li2S-P2S5、Li0.34La0.51TiO2.94、 Li1.07Ti1.46Al0.69P3O12、Li1.5Ti1.5Al0.5P3O12、Li1.5Ti1.7Al0.3Si0.2P2.8O12、Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12、Li6.25La3Zr2Al0.25O12、Li6.6La3Zr1.6Ta0.4O12、Li3YCl6、Li3YBr6、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3、57Li2S-38SiS2-5Li4SiO4、75Li2S-25P2S5から成る群から選択される少なくとも一種類以上のイオン伝導体であることを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの吸蔵放出が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)の負極用活物質。
【請求項3】
無機材料のリチウムイオン伝導体中に、非晶質もしくはナノ結晶のシリコンが含有されるシリコン元素と遷移金属元素とのシリコン合金が分散した粒子であって、該粒子中のシリコン元素が20~60質量%で
あり、
前記リチウムイオン伝導体がLi1.5Al0.5Ge1.5P3O12、55Li2S-30P2S5-15Li3Nから選択される1種類以上のリチウムイオン伝導体であることを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの吸蔵放出が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)の負極用活物質。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の活物質粒子が、黒鉛、非晶質カーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、から成る群から選択される一種類以上のカーボン材料と複合化されていることを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの挿入脱離が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)の負極用活物質。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の活物質中の前記シリコン合金粒子が、黒鉛、非晶質カーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、から成る群から選択される一種類以上のカーボン材料と複合化されていることを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの挿入脱離が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)の負極用活物質。
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載の活物質粒子の製造方法において、少なくともシリコン合金と、リチウムイオン伝導体もしくはリチウムイオン伝導体の原料を混合し、機械粉砕のメカニカルアロイング手法にて合成する工程を
有し、
前記リチウムイオン伝導体の原料がリン酸三リチウム粉末と水酸化アルミニウム粉末と二酸化ゲルマニウム粉末とシリカ粉末であることを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの挿入脱離が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)用負極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法において、前記機械粉砕時に黒鉛、非晶質カーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、から成る群から選択される一種類以上のカーボン材料を混合し複合化する工程を有することを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの挿入脱離が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)用負極活物質の製造方法。
【請求項8】
リチウムイオンの蓄積・放出が可能な蓄電デバイス用電極構造体において、該電極構造体が、少なくとも
請求項1~3の何れか1項に記載の負極用活物質、導電補助材、バインダー、集電体から成ることを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの挿入脱離が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)用電極構造体。
【請求項9】
少なくとも
請求項8記載の電極構造体の負極、リチウムイオン伝導体、リチウムイオンの脱離挿入が可能なリチウム遷移金属化合物から成る正極から構成されることを特徴とする電気化学的にリチウムイオンの吸蔵放出が可能な二次電池(リチウムイオン二次電池)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンを主成分とする、リチウムイオンを蓄積・放出できる負極用電極材料、その製造方法、該材料から成る電極構造体、及び該電極構造体を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素ガス量の増加が主因の温室効果により地球の気候変動が生じている可能性が指摘されている。移動手段として使用されている自動車から排出される二酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素などを含む大気汚染も健康への影響を指摘されている。原油等のエネルギーの高騰と環境保全から、最近、エネルギー効率の高い、蓄電デバイスに蓄えた電気で作動させる電気モーターとエンジンを組み合わせたハイブリッド車や電気自動車、発電設備からの電力をネットワーク管理して電力需要バランスの最適化をするシステムであるスマートグリッド、に大きな期待が寄せられて来ている。また、情報通信の分野でもスマートフォンなどの情報端末が情報の授受と発信が容易であることから、急激に社会に浸透しつつある。このような状況下、スマートフォン、ハイブリッド車や電気自動車、スマートグリッド等の性能を高め、生産コストを抑制するために、高出力密度と高エネルギー密度、長寿命を併せ持つ二次電池の蓄電デバイスの開発が期待されている。
【0003】
上記蓄電デバイスとして、現在製品化されているものの中で、最もエネルギー密度が高いものは、負極に黒鉛等のカーボン、正極にリチウムと遷移金属の化合物、を使用されるリチウムイオン二次電池(広義に意味ではリチウム二次電池と呼称する)である。
【0004】
しかし、このリチウムイオン二次電池では、負極がカーボン材料で構成されるために、理論的に炭素原子当たり最大1/6のリチウム原子しかインターカレートできない。そのために、さらなる高容量化は困難であり、高容量化のための新たな電極材料が望まれている。また、上記リチムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いことからハイブリッド車や電気自動車の電源として期待されているが、急速な放電には電池の内部抵抗が大きく十分な電気量を放出できない、即ち出力密度が小さいという問題点もある。そのために、出力密度が高くエネルギー密度の高い蓄電デバイスの開発が要望されている。これらの要望を満たすために、黒鉛より多くのリチウムイオンを貯蔵・放出できる、シリコン、並びにそれらの合金が研究されている。シリコンは電気化学的により多くのリチウムイオンを蓄えることができるが、約4倍もの体積膨張を起こし、充放電により膨張と収縮を繰り返すことにより、微粉化が生じ、電極のインピーダンスの増加と性能低下を招く。さらに充電時に不安定なSEI(Solid Electrolyte Interface)が形成され、充放電回数とともにSEI層の厚さが増し、電極のインピーダンスを増すことも原因で、充放電サイクル寿命の長い電池はまだ実用化されていない。
【0005】
シリコン電極のサイクル寿命を改善するために、特許文献1では、ゾルゲル法で酸化チタンあるいは酸化ジルコニウムを被覆したシリコン粒子が提案されている。また、特許文献2では、表面をMg, Al, Ti, Siの酸化物で被覆した、シリコンナノ粒子が酸化シリコン中に分散した負極材料が提案されている。
しかしながら、上記特許文献1で実施例で示されている150 nmの酸化チタンの被覆層で被覆された3μmのシリコン粒子では、充電時にシリコン粒子へのリチウム挿入で体積膨張を起こし、膨張時に発生する応力により微粉化が起こり、充放電サイクル寿命を実用領域まで延ばすことはできていない。また、特許文献2では、充放電サイクル寿命を伸ばせるものの、充電時に表面被覆層の金属酸化物、ならびに負極材の酸化シリコンとリチウムが不可逆な反応を起こし、初回の充放電効率が極度に低下する問題点がある。
【0006】
特許文献3では、シリコンあるいはスズ及びそれらの合金と、シリコン酸化物とスズの酸化物よりギプスの自由エネルギーが小さい金属酸化物あるいは半金属酸化物の複合体で、該複合体中の金属酸化物あるいは半金属酸化物の質量比が1/99~3/7である材料が提案されている。また、特許文献4ではシリコンのナノ粒子表面を少なくともLiとAl、Zr、Mg、Laから選択される金属の元素を含有する酸化物で被覆する方法が開示されている。
上記特許文献3ならびに特許文献4のいずれの提案の材料も、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵放出する二次電池の負極材料に用いた場合、シリコンあるいはスズ及びそれらの合金の表面での電解液等の分解が抑制され、充放電のサイクル寿命は改善されるものの、充電時の体積膨張は依然として大きく、提案の効果を長く維持できず、充放電のサイクル寿命を十分に向上できていない。
【0007】
非特許文献1では、エレクトロスピニング法にて、酸化シリコンで被覆された二重壁のシリコンナノチューブの作製により、長寿命が達成できることが示されている。しかしながら、上記非特許文献1においても、初期充電により、酸化シリコンと不可逆反応するリチウムがあるため、初期の充放電効率が低いという問題点がある。また、その製造プロセスでの製造コストは高く、量産化が難しい。
非特許文献2では、長サイクル寿命の電極活物質としてAtomic Layer Deposition法にてアルミナ被覆のシリコンナノワイヤーが提案されている。しかし、前記シリコンナノチューブの作製には多くの工程が必要で量産に適した方法とは言えず、また前記シリコンナノワイヤーの製造も量産には不適で、安価に前記シリコンナノチューブやシリコンナノワイヤーを提供することは困難であった。また前記Atomic Layer Deposition法でのアルミナ被覆も量産には不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-190642号公報
【文献】特開2011-96455号公報
【文献】米国公開特許2017/0200943A1
【文献】特開2016-021332号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Nature Nanotechnology, 7, 310-315 (2012)
【文献】The Journal of Materials Chemistry, 22, 24618-24626 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
シリコンは電気化学的に多量のリチウムを貯蔵し、放出することができる材料ではあるが、リチウムイオンを貯蔵すると大きな体積膨張をともなう。 また、リチウムイオンを貯蔵することで最大で約4倍もの体積に膨張し、リチウムイオンを放出することで収縮するが、膨張と収縮の繰り返しで、シリコン粒子(シリコン合金粒子も含んだシリコン系粒子をここでは総称してシリコン粒子と呼ぶ)が大きい場合は崩壊し微粉化に至る。微粒子化したシリコン粒子を採用しリチウムイオンの吸蔵時に微粉化に至らない場合にも、シリコン粒子とバインダーから少なくとも形成されている電極では、シリコン粒子の膨張収縮によって、(i) シリコン粒子とシリコン粒子を接着しているバインダーが伸ばされる、あるいはバインダーの切断が起きる、(ii) 充放電時の体積の膨張収縮でシリコン粒子の新たな活性な表面が出現し電解液等の副反応で絶縁体層が成長し電極のインピーダンスは増加する。電解質にリチウム塩を溶媒に溶解した電解液を用いる場合、シリコン粒子と電解液の固体-液体界面で、電解液の分解、ならびに分解生成物とリチウムイオンとの反応で、さまざまな化合物を含有する、SEI(Solid Electrolyte Interface)層と呼ばれるものが形成され、充放電を繰り返すことで、SEI層の膜厚が増加し、電極のインピーダンスが増大し、充放電性能の低下をもたらす。SEI層形成の元になる電解液分解反応は、シリコン粒子表面にある活性なシリコンのダングリングボンドで顕著に起きていると考えられる。
【0011】
上記シリコン粒子を用いた電極を負極に用いたリチウムイオン二次電池では、充放電の繰り返しに伴い、インピーダンスが増加し、充放電量が低下する。
また、通常、シリコン粒子には表層に酸化シリコン層が形成されている。上記酸化シリコンは充電時のリチウム挿入反応時にリチウムと不可逆反応を起こし、酸化シリコン層が厚い場合は初期の充放電効率を大きく低下させるので、電池の設計を難しくする。
【0012】
上述のように、シリコン粒子を負極材料に用いる、リチウムイオン二次電池では、高容量を達成できる半面、充放電サイクル寿命が短く、下記課題が解決されず、実用化されていない。
(1) 個々のシリコン粒子の膨張の抑制
(2) シリコン粒子表面の酸化シリコン層の低減
(3) 電解液の分解の抑制ならびにSEI層の膜厚増加の抑制
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究し、上記課題を解決する方法を見出した。
充電でシリコン粒子にリチウム挿入反応が起こる場合、リチウムイオンの還元反応でシリコンの表面からリチウムの侵入と合金化が起こり、内部にリチウムが拡散して行くとともに合金化と体積膨張が進むと考えられる。大きいシリコン粒子と小さいシリコン粒子とでは、大きいシリコン粒子の方が、シリコン粒子表面にかかる充電時の電界は不均一で、そのためリチウムの析出は不均一になりやすく不均一で大きい体積膨張が起きる、また、リチウムがシリコン粒子内を拡散する距離も長いので、リチウムとシリコンが合金化して体積膨張する時に発生する応力(ストレス)も大きく、崩壊して微粉化しやすい。小さいシリコン粒子ではより均一に合金化反応が起こるので、大きい粒子と小さい粒子の全重量が等しい場合であっても、小さい粒子の方が体積膨張は小さくなるし、微粉化しにくい。
【0014】
そのため、シリコン粒子から成る電極の充電時のリチウム挿入反応での体積膨張を極力抑えるためには、シリコン粒子をより小さくする方がよいが、粒子径が小さくなるにつれ、比表面積も大きくなり、酸素と反応しやすくなり、酸化シリコンを形成しやすく、シリコン粒子における酸化シリコンの比率が高まることで、リチウムイオン二次電池の負極に用いた場合、初期の充放電効率が極度に低下する問題が発生する。
また、シリコン粒子の活性な表面が電解液と直接接することで、保存時あるいは充電時の酸化還元反応にて、電解液の分解反応が促進し、シリコン表面にSEI層が成長する。
【0015】
本発明者は、以下の方法で上記(1)と(2)と(3)の課題を解決し、酸化シリコンの生成を抑えて、初期充放電効率を高められる、シリコン粒子の微粒子化を実現できる方法を見出した。
無機材料のリチウムイオン伝導体中に結晶子サイズの小さなナノメートルオーダーのナノ結晶もしくは非晶質のシリコンを分散させた、リチウムイオン電池の負極用活物質粒子を考案した。さらに、該活物質粒子の充電時の体積膨張を抑制するために、活物質粒子中のシリコン含有量を20~60質量%に制限した。ついで、シリコンの結晶サイズとその結晶子サイズをより小さくすることで、充電時にリチウムを吸蔵して膨張する体積量を小さくした。上記手法では、シリコン粒子の周囲を厚いリチウムイオン伝導体にすることで、電解液と非接触にして、シリコン粒子表面で副反応にてSEI層が生成するのを抑制できる。シリコン粒子を取り巻くリチウムイオン伝導体の厚さが厚いため、充放電によって、体積膨張収縮でシリコン粒子の活性な面が電解液に露出することがないので、新たなSEI層が成長することが抑制される。さらに、活物質粒子中のシリコン元素含有量を制限することで、充電時の活物質粒子の体積膨張をも制限して、電池の設計を容易にすることができる。
なお、前記シリコン粒子はシリコンあるいはシリコン合金を含む。上記シリコン合金は、少なくともシリコン元素と遷移金属元素との合金が好ましく、さらもスズ元素を含む合金がより好ましい。シリコン合金は原料にインゴットを使用することができ、より安価に製造でき、結晶子サイズを小さくできる利点があり、より好ましい。
【0016】
本発明の負極用活物質は、無機材料のリチウムイオン伝導体中に、非晶質もしくはナノ結晶のシリコンが分散した粒子であって、該粒子中のシリコン元素の質量比が20~60質量%であることを特徴とする。シリコンの含有量(シリコン酸化物は含まれない)を20~60質量%に限定した、上記活物質をリチウムイオン二次電池の負極に用いることで、充電時にリチウムを吸蔵してなる体積膨張を制限することが容易になる。上記活物質中のシリコン量が20質量%未満である場合は、既存の負極活物質の黒鉛に比べて、優位な容量密度を得ることができない。また、シリコン量が60質量%を超える場合は、より高い容量密度を得ることはできるが、充放電の繰り返し寿命が短くなる。シリコンの質量比は20~50質量%であることが高容量を維持し体積膨張率を下げるためにより好ましい。さらに、無機材料のリチウムイオン伝導体中に、シリコン合金粒子が分散され、該シリコン合金中に非晶質もしくはナノ結晶のシリコンが含有されているのがより好ましい。
【0017】
前記無機材料のリチウムイオン伝導体としては、
LixMyAz = Lix(M1aM2bM3cM4dM5eM6fM7g)(A1hA2iA3j)と表記できる化合物であり、該化合物において、
Mは概ね半金属も含む金属元素で元素の周期律表の第1族元素(M1)、第2族元素(M2)、第3族元素(M3)、第4族元素(M4)、第5族元素(M5)、第13族元素(M6)、第14族元素(M7)から選択される1種類以上の元素であり、
Aは概ね非金属元素で元素の周期律表の第15族元素(A1)、第16族元素(A2)、第17族元素(A3)から選択される1種類以上の元素からなり、
x>0、y>0、z>0であり、a≧0、b≧0、c≧0、d≧0、e≧0、f≧0、g≧0、h≧0、i≧0、j≧0、(a + b + c + d + e + f + g)>0、(h + i + j)>0である化合物であることが好ましい。
【0018】
さらに、上記リチウムイオン伝導体Lix(M1aM2bM3cM4dM5eM6fM7g)(A1hA2iA3j)において、
第1族元素(M1)としてはNa, Kから選択される1種類以上の元素、第2族元素(M2)としてはMg, Ca, Sr, Baから選択される1種類以上の元素、第3族元素(M3)としてはSc, Y,Laから選択される1種類以上の元素、第4族元素(M4)としてはTi, Zr, Hfから選択される1種類以上の元素、第5族元素(M5)としてはV, Nb, Taから選択される1種類以上の元素、第13族元素(M6)としてはB, Al, Ga, Inから選択される1種類以上の元素、第14族元素(M7)としてはSi, Ge, Snから選択される1種類以上の元素、第15族元素(A1)としてはN, P, Sb, Biから選択される1種類以上の元素、第16族元素(A2)としてはO, Sから選択される1種類以上の元素、第17族元素(A3)としては、F, Cl, Br, Iから選択される1種類以上の元素、であることが好ましい。前記イオン伝導体が高いイオン伝導率を得るためには、MとAの金属元素と非金属元素を合わせた元素では3種類以上の元素、さらには4種類以上の元素から成るのがより好ましい。前記イオン伝導体がさらに高いイオン伝導を有するには第15族元素(A1)としてP元素を含有するのが好ましい。
第16族元素(A2)はO元素であることがより好ましい。第16族元素(A2)がO元素である酸化物は、第16族元素(A2)がS元素である硫化物に比較して硬度が高く、本発明の蓄電デバイス用負極活物質を製造する工程の高加速度での機械粉砕(メカニカルミリング)でシリコンあるいはシリコン合金の非晶質化を容易にする。
【0019】
さらに、本発明において、前記無機リチウムイオン伝導体中にシリコン粒子が分散して成る活物質粒子は、黒鉛、非晶質カーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、から成る群から選択される一種類以上のカーボン材料と複合化されていることが好ましい。カーボン材料と複合化することで、電子伝導性を向上できる。
【0020】
また、本発明は前記活物質粒子の製造方法として、シリコンもしくはシリコン合金と、リチウムイオン伝導体もしくはリチウムイオン伝導体の原料を混合し、高加速度での機械粉砕のメカニカルアロイング手法にて合成する工程を有することを特徴とする。上記製造方法の利点としては、SiOやSi-C(シリコンと黒鉛の複合体)よりも製造コストが低く、リチウムイオン伝導体中に分散するシリコン粒子の結晶子サイズを小さくできる。結晶子サイズを小さくできることにより、充電時のリチウムの吸蔵でのシリコン粒子の体積膨張を低減でき、高容量で充放電サイクル寿命の長いリチウムイオン電池用負極を提供できるようになる。
前記本発明の製造方法において、前記機械粉砕処理後に200~1250℃の温度で熱処理を施す工程を有することも好ましい。これにより、製造される活物質中のリチウムイオン伝導性を向上することが可能になる。
【0021】
また、本発明は、前記本発明の負極用活物質と少なくとも、高分子もしくは低融点ガラスからから選択されるバインダー、から成る電極層が集電体上に形成されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池の負極用電極構造体である。
【0022】
また、本発明は、前記電極構造体を負極にして、少なくとも、リチウムイオン伝導体、リチウムイオンの挿入脱離が可能なリチウム遷移金属化合物から成る正極から構成されることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。上記二次電池において、負極と正極間に設けるリチウムイオン伝導体が電解液である場合、電解液とシリコン粒子が直接接することがないため、充放電の繰り返しによるSEI層の成長が抑制される。上記負極と正極間のリチウムイオン伝導体に固体電解質を採用する場合は、負極活物質中にリチウムイオン伝導体が含まれているので、負極中に新たに固体電解質を含有させる必要がないため、電池の容量密度の低下がない。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシリコン粒子の負極活物質を使用したリチウムイオン二次電池では、充放電効率を低下させる酸化シリコンの含有量が少なく、蓄電できる電気量が大きく、充放電サイクルを繰り返しても、高抵抗のSEI層を形成しにくく、高い容量を維持することができる。
【0024】
また、本発明の電極構造体を負極に用いたリチウムイオン二次電池では、充電時のシリコンへのリチウムの挿入最大量が制限されているので、挿入反応による膨張に伴うストレスが緩和され、充放電を繰り返しても高い性能を維持することができる。
【0025】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池では、負極と正極間のリチウムイオン伝導体に電解液を採用した場合、充放電の繰り返しで電解液の分解が抑制され、電池のインピーダンスの増加が抑えられるため、電池性能の低下が小さい。負極と正極間に固体電解質を用いて全固体化した二次電池においては、負極の容量密度を高く維持することができる。
【0026】
また、本発明の負極活物質の製造方法は、工程が簡単であるので、安価に負極活物質を製造することができる。
【0027】
したがって、本発明によれば、高エネルギー密度、高出力密度、より長い充放電サイクル寿命の性能を有する二次電池の達成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明のリチウムイオン二次電池の負極用活物質粒子の概略断面構成図である。
【
図2】本発明のカーボン材料が複合化されたリチウムイオン二次電池の負極用活物質粒子の概略断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
[リチウムイオン二次電池用負極活物質]
本発明のリチウムイオン二次電池の負極用活物質は、無機材料のリチウムイオン伝導体中に、非晶質もしくはナノ結晶のシリコンが分散した粒子であって、該粒子中のシリコンが20~60質量%であることを特徴とする。
図1において、本発明の負極活物質粒子3は非晶質もしくはナノ結晶のシリコン1が無機材料のリチウムイオン伝導体2中に分散されて形成されている。また、
図2のように、本発明の負極活物質粒子5はカーボン材料4で複合化されていてもよい。
上記負極用活物質中のシリコンの結晶子サイズとしては50 nm以下であることが好ましく、20 nm以下であることがより好ましい。シリコンの結晶子サイズが小さければ小さいほど、Li挿入がより均一になり体積膨張も低減される。なお、結晶子サイズはX線回折のピークの半価幅とScherrer式によって計算される。また、透過電子顕微鏡像から結晶のサイズも観察できる。
【0031】
前記前記リチウムイオン伝導体がLixMyAz = Lix(M1aM2bM3cM4dM5eM6fM7g)(A1hA2iA3j)と表記できる化合物であり、該化合物において、
Mは概ね半金属を含む金属元素で元素の周期律表の第1族元素(M1)、第2族元素(M2)、第3族元素(M3)、第4族元素(M4)、第5族元素(M5)、第13族元素(M6)、第14族元素(M7)から選択される1種類以上の元素であり、
Aは概ね非金属元素で元素の周期律表の第15族元素(A1)、第16族元素(A2)、第17族元素(A3)から選択される1種類以上の元素からなり、
x>0、y>0、z>0であり、a≧0、b≧0、c≧0、d≧0、e≧0、f≧0、g≧0、h≧0、i≧0、j≧0、(a + b + c + d + e + f + g)>0、(h + i + j)>0 であることを特徴とする。
第1族元素(M1)としてはNa, Kから選択される1種類以上の元素、第2族元素(M2)としてはMg, Ca, Sr, Baから選択される1種類以上の元素、第3族元素(M3)としてはSc, Y,Laから選択される1種類以上の元素、第4族元素(M4)としてはTi, Zr, Hfから選択される1種類以上の元素、第5族元素(M5)としてはV, Nb, Taから選択される1種類以上の元素、第13族元素(M6)としてはB, Al, Ga, Inから選択される1種類以上の元素、第14族元素(M7)としてはSi, Ge, Snから選択される1種類以上の元素、第15族元素(A1)としてはN, P, Sb, Biから選択される1種類以上の元素、第16族元素(A2)としてはO, Sから選択される1種類以上の元素、第17族元素(A3)としては、F, Cl, Br, Iから選択される1種類以上の元素、であることが好ましい。
高いイオン伝導率を得るためには、金属元素と非金属元素を合わせた元素は3種類以上の元素、さらには4種類以上の元素から成るのがより好ましい。前記イオン伝導体がさらに高いイオン伝導を有するには第15族元素(A1)としてP元素を含有するのが好ましい。
上記第16族元素(A2)はO元素であることがより好ましい。第16族元素(A2)がO元素である酸化物は、第16族元素(A2)がS元素である硫化物に比較して硬度が高く、後述の本発明の蓄電デバイス用負極活物質を製造する工程の高加速度での機械粉砕(メカニカルミリング)でシリコンあるいはシリコン合金の非晶質化を容易にする。
【0032】
(負極活物質を構成するリチウムイオン伝導体)
前記無機材料のリチウムイオン伝導体としては、Li7La3Zr2O12系、Li10GeP2O12系、Li3BO3-Li2SO4系、アルジロダイト(Li6PS5Cl) 系、ガラスセラミックスのLi2S-P2S5系、などの種々の無機固体電解質を使用できる。上記無機固体電解質の例としては、Li0.34La0.51TiO2.94、 Li1.07Ti1.46Al0.69P3O12、Li1.5Ti1.5Al0.5P3O12、Li1.5Ti1.7Al0.3Si0.2P2.8O12、Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12、Li7La3Zr2O12、Li6.25La3Zr2Al0.25O12、Li6.6La3Zr1.6Ta0.4O12、Li3YCl6、Li3YBr6、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3、Li10GeP2S12、57Li2S-38SiS2-5Li4SiO4、75Li2S-25P2S5などが挙げられる。
【0033】
[リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法は、シリコンもしくはシリコン合金と、リチウムイオン伝導体もしくはリチウムイオン伝導体の原料を混合し、高加速度での機械粉砕のメカニカルアロイング手法にて合成する工程を有することを特徴とする。上記高加速度の機械粉砕装置としては、振動ミル、アトライター、遊星ボールミル、その他の類似技術を用いた装置を使用する。これらの装置では粉砕メディアと原料に高加速度を与え、衝突によって、微粉砕、複合化、非晶質化が進行する。
上記原料に用いるシリコン材料は金属シリコンもしくはシリコン合金が、低価格であることから好ましい。特にシリコン合金は、合金形成のための原料が安価で非晶質化がシリコン単体に比べて容易であることから、より好ましい。
上記シリコン合金としては、少なくともシリコン元素と遷移金属元素(周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素)から成る合金であり、カーボン材料と複合化されていることが好ましい。さらに、上記シリコン合金はスズ元素を含んでいることがより好ましい。
【0034】
具体例としてシリコン合金からの本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造は、以下の手順で行う。
(1) 金属シリコン、遷移金属等を原料に、液体急冷凝固装置あるいはアトマイズ装置で溶融し、急冷凝固して、合金を作製する。
(2) (1)で得られた合金の粉末と無機材料のリチウムイオン伝導体もしくはその原料を混合し、適宜カーボン材料を添加し、高加速度の機械粉砕装置で微粉砕、複合化、非晶質化を行う。
(3) (2)で得られたシリコン合金とリチウムイオン伝導体の複合体を200~1250℃の温度で熱処理して、目的の負極活物質を得る。
または、
(1) 金属シリコン、遷移金属等を原料に、液体急冷凝固装置あるいはアトマイズ装置で、溶融し急冷凝固して、合金を作製する。
(2) (1)で得られた合金の粉末に、適宜カーボン材料を添加し、高加速度の機械粉砕装置で微粉砕、複合化、非晶質化を行う。
(3) (2)で得られた非晶質化合金の粉末と無機材料のリチウムイオン伝導体もしくはその原料を混合し、適宜カーボン材料を添加し、高加速度の機械粉砕装置で微粉砕、複合化、非晶質化を行う。
(4) (3)で得られたシリコン合金とリチウムイオン伝導体の複合体を200~1250℃の温度で熱処理して、目的の負極活物質を得る。
【0035】
上記シリコン合金を製造する装置例としては、単ロール液体急冷凝固装置、水アトマイズ装置などが挙げられ、原料として安価な金属インゴットや塊状金属を用いることができるので、製造コストは安価である。
上記製造工程中で添加するカーボン材料は、粉砕時に粉砕メディア表面と容器内壁に粉砕生成物が付着するのを抑制するとともに、複合化して電子伝導の高める役割を担っている。カーボン材料としては黒鉛、非晶質カーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、から成る群から選択される一種類以上のカーボン材料であることが好ましい。
【0036】
[電極構造体]
本発明のリチウムイオン二次電池の負極用電極構造体は少なくとも前記本発明の負極活物質とバインダーからなる電極層が集電体上に形成されたことを特徴とする。上記電極層は、本発明の負極活物質とバインダー以外に、黒鉛、非晶質カーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、から成る群から選択される一種類以上のカーボン材料が含有されていてもよい。
上記電極構造体中の本発明の負極活物質と黒鉛の含有量を調整することで、リチウムイオン二次電池に負極として組み込んだ場合、電池の容量を調整することができる。
【0037】
(バインダー)
前記本発明の電極構造体の電極層形成に用いる具体的なバインダーとしては、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、スチレンブタジエンコポリマー-カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビリニデン、などが挙げられる。
【0038】
(集電体)
本発明の電極構造体の集電体の材質としては、蓄電デバイスの充放電反応において、溶解することなく安定であることが必要で、具体的には、銅、ステンレス、チタン、ニッケル、ニッケルメッキ鋼板が挙げられる。また、集電体の形状としては、板状であるが、この“板状”とは、厚みについては実用の範囲上で特定されず、厚み約5 μmから100 μm程度の“箔”といわれる形態をも包含する。また、板状であって、例えばメッシュ状、スポンジ状、繊維状をなす部材、パンチングメタル、表裏両面に三次元の凹凸パターンが形成された金属箔、エキスパンドメタル等を採用することもできる。
【0039】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンの還元酸化反応を利用する蓄電デバイスであって、少なくとも、前記本発明の電極構造体を負極とし、リチウムイオン伝導体、リチウム遷移金属化合物から成る正極が、順次積層され構成されている。電池の具体的なセル形状としては、例えば、扁平形、円筒形、直方体形、シート形などがある。また、セルの構造としては、例えば、単層式、多層式、スパイラル式などがある。
【0040】
(正極)
上記正極は、正極集電体上に、正極活物質となるリチウム-遷移金属化合物とバインダーとカーボンブラック等の導電補助材から成る正極活物質層が形成されている。
上記リチウム-遷移金属化合物としては、リチウム-遷移金属酸化物,リチウム-遷移金属リン酸化合物を使用する。上記正極活物質に含有される遷移金属元素としては、Ni. Co, Mn, Fe, Cr, Vなどが主元素としてより好ましく用いられる。さらに上記正極活物質表面は少なくともAl, Zr, Mg, Ca, Laから選択される1種以上の金属元素とLiから構成されている複合金属酸化物で表層が被覆されているリチウム遷移金属化合物微粒子からなっているのが好ましい。
上記バインダーとしては、ポリフッ化ビリニデン等のフッ素樹脂、ポリアクリレート、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、スチレンブタジエンコポリマー-カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、が使用できる。
【0041】
上記集電体の材質としては電気伝導度が高く、且つ、電池反応に不活性な材質が望ましい。好ましい材質としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレススチール、チタンから選択される一種類以上金属材料から成るものが挙げられる。より好ましい材料としては安価で電気抵抗の低いアルミニウムが用いられる。また、集電体の形状としては、板状であるが、この“板状”とは、厚みについては実用の範囲上で特定されず、厚み約5 μmから100 μm程度の“箔”といわれる形態をも包含する。また、板状であって、例えばメッシュ状、スポンジ状、繊維状をなす部材、パンチングメタル、表裏両面に三次元の凹凸パターンが形成された金属箔、エキスパンドメタル等を採用することもできる。
【0042】
(リチウムイオン伝導体)
上記イオン伝導体には、電解液(電解質を溶媒に溶解させて調製した電解質溶液)を保持させたセパレータ、固体電解質、電解液を高分子ゲルなどでゲル化した固形化電解質、高分子ゲルと固体電解質の複合体、イオン性液体などのリチウムイオンの伝導体が使用できる。
負極と正極間の電気的短絡を防ぐための上記セパレータとしては、ミクロポア構造あるいは不織布構造を有する樹脂フィルムが用いられ、樹脂材料としては、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン,ポリイミド,ポリアミドイミド,セルロースが好ましい。上記微孔性樹脂フィルムは、耐熱性を高めるために、リチウムイオンを通過する、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物粒子含有層が表面に被覆されていてもよい。
【0043】
前記電解質としては、例えば、リチウムイオン(Li+)とルイス酸イオン(BF4-, PF6-, AsF6-, ClO4-, CF3SO3-, BPh4-(Ph: フェニル基))からなる塩、リチウム-ビス(フルオロスルホニル)イミド及びこれらの混合塩、イオン性液体が挙げられる。
上記塩は、減圧下で加熱したりして、十分な脱水と脱酸素を行なっておくことが望ましい。さらに、イオン性液体に上記リチウム塩を溶解して調製される電解質も使用できる。上記電解質の溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル、プロピレンカーボネイト、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、ジクロロエタン、ジエトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、クロロベンゼン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、スルホラン、ニトロメタン、ジメチルサルファイド、ジメチルサルオキシド、3-メチル-2-オキダゾリジノン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-プロピルシドノン、二酸化イオウ、又は、これらの混合液が使用できる。上記溶媒の水素元素をフッ素元素で置換した構造の溶媒も利用できる。
上記溶媒は、例えば、活性アルミナ、モレキュラーシーブ、五酸化リン、塩化カルシウムなどで脱水するか、溶媒によっては、不活性ガス中のアルカリ金属共存下で蒸留して不純物除去と脱水をも行なうのがよい。
また、電極と電解液との反応を抑制するために、電極表面に安定なSEI層を形成するフルオロエチレンカーボネートやジフルオロエチレンカーボネートなどの有機フッ素化合物、ビニレンカーボネートなどの化合物を添加することが好ましい。
【0044】
上記固体電解質としてはLi7La3Zr2O12系、Li10GeP2O12系、Li3BO3-Li2SO4系、アルジロダイト(Li6PS5Cl) 系、ガラスセラミックスのLi2S-P2S5系、などの種々の無機固体電解質を使用できる。上記無機固体電解質の例としては、Li0.34La0.51TiO2.94、 Li1.07Ti1.46Al0.69P3O12、Li1.5Ti1.5Al0.5P3O12、Li1.5Ti1.7Al0.3Si0.2P2.8O12、Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12、Li7La3Zr2O12、Li6.25La3Zr2Al0.25O12、Li6.6La3Zr1.6Ta0.4O12、Li3YCl6、Li3YBr6、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3、Li10GeP2S12、57Li2S-38SiS2-5Li4SiO4、75Li2S-25P2S5などが挙げられる。
上記固形化電解質としては、前記電解液をゲル化剤でゲル化して固形化したものが好ましい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマー、シリカゲルなどの吸液量の多い多孔質材料を用いるのが望ましい。上記ポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリエチレングリコールなどが用いられる。さらに、上記ポリマーは架橋構造のものがより好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例にそって、本発明をさらに詳細に説明する。
【0046】
[シリコンが主成分の蓄電デバイス用負極活物質の調製]
実施例M1
(シリコン合金の作製)
金属シリコン、金属スズ、金属銅を質量比で65 : 30 : 5に混合して、単ロール液体急冷凝固装置を用い、フレーク状のSi-Sn-Cu合金粉末を形成した。ついで、得られたSi-Sn-Cu合金と黒鉛粉末を質量比で95 : 5で混合し、ジルコニア製ボールとポットの振動ミルにて、10時間粉砕処理して、非晶質化Si-Sn-Cu合金 / C(カーボン)複合体粉末を作製した。
(負極用活物質の作製)
前記方法にて得られた非晶質化Si-Sn-Cu合金 / C複合体粉末と無機リチウムイオン伝導体のLi1.5Al0.5Ge1.5P3O12粉末を質量比50 : 50にて混合し、ジルコニアポットとジルコニアボールの遊星ボールミルにて150 Gの重力加速度で4時間メカニカルミリング処理を施した。ついで、アルゴン雰囲気下、900 ℃にて1時間熱処理を施して、リチウムイオン二次電池の負極用活物質を得た。
得られた活物質をX線回折と透過電子顕微鏡観察による分析した結果、Scherrer式から計算された結晶子サイズは11 nmで、透過電子顕微鏡から観察されたシリコンの結晶のサイズは10~20 nmであった。
【0047】
実施例M2
平均粒径5μmの金属シリコン粉末と無機リチウムイオン伝導体のLi1.5Al0.5Ge1.5P3O12粉末と単相カーボンナノチューブを質量比60:39:1にて混合し、ジルコニアポットとジルコニアボールの遊星ボールミルにて150 Gの重力加速度で4時間メカニカルミリング処理を施した。ついで、アルゴン雰囲気下、1100 ℃にて2時間熱処理を施して、リチウムイオン二次電池の負極用活物質粉末を作製した。
【0048】
実施例M3
平均粒径5μmの金属シリコン粉末とリン酸三リチウム粉末と水酸化アルミニウム粉末と二酸化ゲルマニウム粉末とシリカ粉末と単相カーボンナノチューブをそれぞれ質量比50:26:2.9:11.7:8.4:1にて混合し、ジルコニアポットとジルコニアボールの遊星ボールミルにて150 Gの重力加速度で4時間メカニカルミリング処理を施した。ついで、アルゴン雰囲気下、1100 ℃にて2時間熱処理を施してリチウムイオン二次電池の負極用活物質粉末を作製した。
【0049】
実施例M4
前記実施例M2において、金属シリコン粉末と無機リチウムイオン伝導体のLi1.5Al0.5Ge1.5P3O12粉末と単相カーボンナノチューブを質量比40:59:1に変更して、実施例M2同様に作製した。
【0050】
実施例M5
前記実施例M2において、金属シリコン粉末と無機リチウムイオン伝導体のLi1.5Al0.5Ge1.5P3O12粉末と単相カーボンナノチューブを質量比20:79:1に変更して、実施例M2同様に作製した。
【0051】
実施例M6
硫化リチウムLi2Sと五硫化二リンP2S5と窒化リチウムLi3Nを質量比で55 : 30 : 15に混合し、ジルコニアポットとジルコニアボールの遊星ボールミルにて150 Gの重力加速度で4時間メカニカルミリング処理を施し非晶質55Li2S-30P2S5-15Li3Nを調製した。
その後、実施例M1中で作製した非晶質化合金Si-Sn-Cu / C粉末と55Li2S-30P2S5-15Li3Nを質量比でSi-Sn-Cu / C : 55Li2S-30P2S5-15Li3N = 55 : 45となるように混合した後、遊星ボールミルにて150 Gの重力加速度で2時間メカニカルミリング処理を施し、さらにアルゴンガス雰囲気下330 ℃で1時間熱処理を施して、活物質を得た。
【0052】
比較例M1
前記実施例M2において、金属シリコン粉末と無機リチウムイオン伝導体のLi1.5Al0.5Ge1.5P3O12粉末と単相カーボンナノチューブを質量比65:34:1に変更して、実施例M2同様に作製した。
【0053】
比較例M2
前記実施例M2において、金属シリコン粉末と無機リチウムイオン伝導体Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12の粉末と単相カーボンナノチューブを質量比15:84:1に変更して、実施例M2同様に作製した。
【0054】
[電極構造体の作製]
実施例A1
実施例M1で得られたシリコン系活物質60質量%と、黒鉛粉末25質量%と、
導電助剤のアセチレンブラック5質量%と、結着剤(バインダー)として8質量%(10 mass%水溶液の固形分)のポリビニルアルコール(PVA)及び2質量%(2 mass%水溶液の固形分)のカルボキシメチルセルロースナトリウム (CMC)とを混合し、イオン交換水を添加してビーズミルで混練し、スラリーを調製した。次に、調製したスラリーを銅箔の上にコーターで塗布し110 ℃で乾燥し、ロールプレス機で電極層密度を調製した後、減圧下150 ℃で熱処理を施し、電極構造体を作製した。次いで所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して電極構造体を作製した。
【0055】
実施例A2
実施例A1における導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、実施例M2で得られたシリコン系活物質50質量%と黒鉛粉末35質量%を混合する以外は、実施例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0056】
実施例A3
実施例A1における導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、実施例M3で得られたシリコン系活物質50質量%と黒鉛粉末35質量%を混合する以外は、実施例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0057】
実施例A4
実施例A1における導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、実施例M3で得られたシリコン系活物質20質量%と黒鉛粉末65質量%を混合する以外は、実施例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0058】
実施例A5
実施例A1における導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、実施例M4で得られたシリコン系活物質35質量%と黒鉛粉末50質量%を混合する以外は、実施例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0059】
実施例A6
実施例A1における導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、それに実施例M5で得られたシリコン系活物質50質量%と黒鉛粉末35質量%を混合する以外は、実施例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0060】
実施例A7
実施例M6中で作製した非晶質化合金Si-Sn-Cu/ C粉末と固体電解質55Li2S-30P2S5-15Li3Nの複合体の活物質粉末、バインダーとしてポリフッ化ビリニデン(PVdF)の5質量%の酢酸ブチル溶液の固形分、導電助剤として単相カーボンナノチューブ(SWCN)、の順の質量比が97 : 2 : 1になるように混合し、酢酸ブチルを適宜添加して自公転ミキサーで混練し、スラリーを調製した。ついで、集電体としての銅箔上にスラリーを塗工し、110 ℃で1時間乾燥の上、ロールプレス機で厚みを調整し、さらに減圧下150 ℃で乾燥して、電極活物質層を形成した電極構造体を得た。得られた電極構造体を所定の大きさに打ち抜いて、ニッケルリードを超音波溶接で銅箔集電体タブに溶接し、電極構造体を作製した。
【0061】
比較例A1
実施例M1で得られた非晶質化Si-Sn-Cu合金 / C(カーボン)複合体粉末のシリコン系活物質30質量%と無機リチウムイオン伝導体Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12の粉末30質量%と、黒鉛粉末25質量%と、導電助剤のアセチレンブラック5質量%と、結着剤(バインダー)として8質量%(10 mass%水溶液の固形分)のポリビニルアルコール(PVA)及び2質量%(2 mass%水溶液の固形分)のカルボキシメチルセルロースナトリウム (CMC)とを混合し、イオン交換水を添加してビーズミルで混練し、スラリーを調製した。次に、調製したスラリーを銅箔の上にコーターで塗布し110 ℃で乾燥し、ロールプレス機で電極層密度を調製した後、減圧下150 ℃で熱処理を施し、電極構造体を作製した。次いで所定のサイズに電極構造体を切断後、ニッケルリードを集電体の銅箔のタブにスポット溶接機で溶接し、リード端子を取り出して電極構造体を作製した。
【0062】
比較例A2
比較例A1において、導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、それに比較例M1で得られたシリコン系活物質50質量%と黒鉛粉末35質量%を混合する以外は、比較例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0063】
比較例A3
実施例A3において、実施例M3で得られたシリコン系活物質50質量%に変えて、平均粒径5μmの金属シリコン粉末25質量%とリン酸三リチウム粉末13.0質量%と水酸化アルミニウム粉末1.5質量%と二酸化ゲルマニウム粉末5.9質量%とシリカ粉末4.2質量%と単相カーボンナノチューブ0.5質量%を混合する以外は、実施例A3と同様にしで電極構造体を作製した。
【0064】
比較例A4
比較例A1において、導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、それにシリコン系活物質として容量密度1100 mAh/gのSiO粉末20質量%と、黒鉛粉末65質量%とを混合する以外は、比較例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0065】
比較例A5
比較例A1において、導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、それにシリコン系活物質として、容量密度1100 mAh/gのSi-C(シリコンナノ粒子と黒鉛の複合体)粉末35質量%と、黒鉛粉末50質量%とを混合する以外は、比較例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0066】
比較例A6
比較例A1において、導電助剤と結着剤の材料は質量%を同一にして、それに比較例M2で得られたシリコン系活物質85質量%を混合する以外は、比較例A1と同様にしで電極構造体を作製した。
【0067】
比較例A7
硫化リチウムLi2Sと五硫化二リンP2S5と窒化リチウムLi3Nを質量比で55 : 30 : 15に混合し、ジルコニアポットとジルコニアボールの遊星ボールミルにて150 Gの重力加速度で4時間メカニカルミリング処理を施し非晶質55Li2S-30P2S5-15Li3Nを調製した。ついで、アルゴン雰囲気下、330℃にて1時間熱処理を施し固体電解質55Li2S-30P2S5-15Li3Nを得た。
その後、実施例M1中で作製した非晶質化合金Si-Sn-Cu / C粉末、固体電解質55Li2S-30P2S5-15Li3N、バインダーとしてポリフッ化ビリニデン(PVdF)の5質量%の酢酸ブチル溶液の固形分、導電助剤として単相カーボンナノチューブ(SWCN)、
の順で質量比が 53.35 : 43.65 ; 2 : 1となるように混合した後、酢酸ブチルを適宜添加して自公転ミキサーで混練し、スラリーを調製した。ついで、集電体としての銅箔上にスラリーを塗工し、110 ℃で1時間乾燥の上、ロールプレス機で厚みを調整し、さらに減圧下150 ℃で乾燥して、電極活物質層を形成した電極構造体を得た。得られた電極構造体を所定の大きさに打ち抜いて、ニッケルリードを超音波溶接で銅箔集電体タブに溶接し、電極構造体を作製した。
【0068】
[電極構造体の電気化学的リチウム挿入量の評価]
上記蓄電デバイスの負極用電極構造体の単極としての電気化学的リチウム挿入量の評価は、以下の手順で行った。
上記実施例A1~A6、比較例A1~A6、の各電極を作用極として、その対極として金属リチウムを組み合わせたセル(ハーフセル)を作製して、電気化学的なリチウムの挿入量を評価した。
リチウム極は、ニッケル箔のエキスパンドメタルに金属リチウム箔を圧着して、所定の大きさに打ち抜いて作製した。評価セルとしては、パウチセルを用いた。パウチセルの評価セルは、以下の手順で作製した。パウチセル(ラミネートタイプのセル)の作製は、露点-60℃以下の水分を管理した乾燥雰囲気下で全て行なった。ポリエチレン/アルミニウム箔/ナイロン構造のアルミラミネートフィルムをポケット状にした電槽に、作用極/セパレータ/リチウム極の電極群を挿入し、電解液を注入し、電極リードを取り出し、ヒートシールして評価用のセルを作製した。上記アルミラミネートフィルムの外側はナイロンフィルム、その内側はポリエチレンフィルムとする。上記セパレータとしてはミクロポア構造のポリエチレンフィルムを使用した。
なお、電解液は、十分に水分を除去したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを、体積比3 : 7で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム塩(LiPF6)を1M(モル/リットル)溶解して、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を5質量%添加して調製した。
【0069】
充放電は0.2C(1C:電池の容量を1時間で充放電する電流)程度の定電流で行ない、セルの電圧が0.01Vになるまで放電させ、1.50Vまで充電することによって、評価した。放電した電気量をリチウムが挿入するのに利用された電気量、充電した電気量をリチウムが放出されるのに利用された電気量とした。
性能評価は1回目のLi挿入量(電気量)に対する1回目のLi放出量(電気量)のクーロン効率と、50回目のLi放出量(mAh/g)の評価を行なった。なお、いずれの電気量(mAh/g)も電極層の重量あたりに換算した。評価結果としては、以下の通りであった。
【0070】
(実施例A1~A6と比較例A1~A6の電極の性能比較評価結果)
実施例A1と比較例A1、実施例A3と比較例A3の性能を比較したところ、実施例A1と比較例A1の電極層あたりの充放電1回目電極容量はいずれも約900 mAh/gで、実施例A3と比較例A3ではいずれも約940 mAh/gであったが、充放電50回目のLi放出量(mAh/g)は実施例の方がいずれも比較例より高いことを確認した。なお、比較例A1と比較例A3は、シリコン系活物質と固体電解質を単に混合して作製した電極であり、本発明の活物質製造方法にて性能が向上することがわかった。
実施例A2と比較例A2、実施例A6と比較例A6の性能を比較した。実施例A2と比較例A2では、シリコンとLiイオン伝導体の複合体中のシリコンの質量%が、実施例A2で60%、比較例A2では65%で、充放電1回目の電極層当たりの電極容量はどちらも約1000 mAh/gであったが、50回目の電極容量は実施例A2の方が比較例A2を上回った。50回の充放電後のセル厚の増分は比較例A2の方が大きかった。実施例A6と比較例A6では、シリコンとLiイオン伝導体の複合体中のシリコンの質量%が、実施例A6で20%、比較例A6では15%であり、1回目の電極容量は実施例A6で470 mAh/g、比較例A6では420 mAh/gであり、比較例A6の電極では黒鉛電極の容量と比較して大きな優位性が認められなかった。
実施例A4と比較例A4、実施例A5と比較例A5の性能を比較した。電極中のシリコン系活物質としては、比較例A4の電極ではSiOが、比較例A5の電極ではSi-C(シリコンナノ粒子と黒鉛の複合体)が用いられている。実施例A4と比較例A4の充放電1回目の電極容量はそれぞれ580 mAh/gと555 mAh/g、クーロン効率はそれぞれ86%と74%で、50回目の容量維持率は同程度であった。実施例A5と比較例A5では、充放電1回目の電極容量はそれぞれ650 mAh/gと575 mAh/g、クーロン効率はそれぞれ85%と88%で、50回目の容量維持率は実施例A5の電極が比較例A5を上回った。
上記評価結果から、本発明のシリコン系活物質を使用した電極性能が優れており、高い電極容量、高クーロン効率、容量維持率を有する電極を作成できることが判った。
【0071】
[蓄電デバイスの作製]
作製した電極に対極として正極を組み合わせたリチウムイオン二次電池フルセルを作製して、充放電の性能を評価した。上限電圧4.3 Vの0.2C定電流―定電圧充電で充電し、0.2C定電流にて2.5 Vまで放電する充放電条件にて電池の充放電特性を評価した。
【0072】
実施例F1
(正極の作製)
正極材料LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2をクエン酸リチウムと硝酸アルミニウムのエチルアルコール溶液に浸漬し乾燥の後、窒素雰囲気化300 ℃で熱処理して、リチウムとアルミニウムの複合酸化物LixAlyO2で表面被覆したLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2粉末を調整した。
LixAlyO2で表面被覆したLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2粉末、アセチレンブラック、ポリフッ化ビリニデン(PVdF)12質量%のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液の固形分の質量比が97 : 1 : 2になるように混合し、NMPを添加して、混練して電極活物質層を形成するためのスラリーを調製した。次いで、得られたスラリーを、コーターを用いて、アルミニウム箔上に、塗布した後、110 ℃で1時間乾燥の上、ロールプレス機で厚みを調整し、さらに減圧下150 ℃で乾燥して、電極活物質層を形成した電極構造体を得た。得られた電極構造体を所定の大きさに打ち抜いて、アルミニウムリードを超音波溶接でアルミニウム集電体タブに溶接し、正極用電極を作製した。
【0073】
(電解液の調製)
十分に水分を除去したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを、体積比3 : 7で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム塩(LiPF6)を1M(モル/リットル)溶解して、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を5質量%添加して電解液を調製した。
【0074】
(リチウムイオン二次電池作製と性能評価)
負極に実施例A1の電極構造体を用い、パウチセルを以下の手順で作製した。パウチセル(ラミネートタイプのセル)の作製は、露点-60℃以下の水分を管理した乾燥雰囲気下で全て行なった。ポリエチレン/アルミニウム箔/ナイロン構造のアルミラミネートフィルムをポケット状にした電槽に、負極/セパレータ/正極の電極群を挿入し、電解液を注入し、電極リードを取り出し、ヒートシールしてリチウムイオン二次電池としての評価用のセルを作製した。
【0075】
実施例F2
(正極の作製)
正極材料LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2をクエン酸リチウムと硝酸アルミニウムのエチルアルコール溶液に浸漬し乾燥の後、窒素雰囲気化300℃で熱処理して、リチウムとアルミニウムの複合酸化物LixAlyO2で表面被覆したLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2粉末を調整した。
上記正極活物質とて表面被覆したLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2粉末を85質量%、実施例M6と同じ手法で形成した固体電解質55Li2S-30P2S5-15Li3Nを12質量%、バインダーとしてポリフッ化ビリニデンPVdF(5質量%の酢酸ブチル溶液)の固形分として2質量%、導電助剤として単相カーボンナノチューブSWCNを1質量%、混合し、適宜酢酸ブチルを添加し、ジルコニアビーズと湿式ビーズミルで混練してスラリーを調製した。ついで、集電体としてのアルミニウム箔上にスラリーを塗工し、110 ℃で1時間乾燥の上、ロールプレス機で加圧し厚みを調整し、さらに減圧下150 ℃で乾燥して、電極活物質層を形成した電極構造体を得た。得られた電極構造体を所定の大きさに打ち抜いて、アルミニウムリードを超音波溶接でアルミニウム集電体タブに溶接し、正極用電極を作製した。
【0076】
(固体電解質層の作製)
実施例M6と同じ手法で形成した固体電解質55Li2S-30P2S5-15Li3N対、ブチルゴム(イソブチレン-イソプレン共重合体)のヘキサン溶液の固形分が質量比で、96 : 4になるように混合し、ジルコニアビーズを用いた湿式ビーズミルにて、混練し、スラリーを形成した。ついで、フッ素樹脂フィルム上にスラリーを塗工し、100℃で乾燥の後、フッ素樹脂フィルムで挟み、ロールプレス機で加圧処理して、固体電解質フィルムを形成した。(リチウムイオン二次電池に組み込む際にフッ素樹脂フィルムから剥離して使用する。)
【0077】
(リチウムイオン二次電池作製と性能評価)
実施例A7で得られた電極構造体を負極として、その上に上記固体電解質フィルムを積層し、さらに電解質フィルム上に上記正極を積層し、150 ℃でロールプレス機にて加圧し冷却して、セルを作製し、ポリエチレン/アルミニウム箔/ナイロン構造のアルミラミネートフィルムをポケット状にした電槽に挿入しで減圧下で密封した。さらにラミネートフィルム上から拘束治具でセル面を加圧してリチウムイオン二次電池としての評価用セルを得た。
【0078】
比較例F1
実施例F1において、負極として比較例A1の電極構造体を用いた以外は、実施例F1と同様にして、評価用セルを作製した。
【0079】
比較例F2
実施例F2において、負極として比較例A7の電極構造体を用いた以外は、実施例F2と同様にして、評価用セルを作製した。
【0080】
[蓄電デバイスの性能評価]
実施例F1と比較例F1の蓄電デバイスの充放電量、充放電効率、充放電の繰り返し寿命いずれも、先のハーフセルでの電極性能を反映した結果で、実施例F1の性能が比較例F1の性能を上回った。
実施例F2と比較例F2の蓄電デバイスの充放電量、充放電効率、充放電の繰り返し寿命いずれも、実施例F2の性能が比較例F2の性能を上回った。シリコン合金と固体電解質であるリチウムイオン伝導体の界面形成が蓄電デバイスとしての性能に影響を与えていると推察される。
【0081】
上記評価結果から、充放電量、並びに充放電の繰り返し特性を総合的に考えると、本発明の活物質を用いた電極構造体の電極、本発明の蓄電デバイスの性能が高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上、説明してきたように、本発明によれば、高出力密度、高エネルギー密度の、繰り返し寿命も長い蓄電デバイス、該蓄電デバイスの負極用電極構造体、ならびに該負極用電極構造体に用いる活物質(負極材料)を提供することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 非晶質もしくはナノ結晶のシリコン
2 無機材料のリチウムイオン伝導体
3 負極活物質粒子
4 カーボン材料
5 カーボン材料が複合化した負極活物質粒子