IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本エステル株式会社の特許一覧

特許7394439導電性マルチフィラメント、導電性マルチフィラメントの製造方法、織編物およびブラシ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】導電性マルチフィラメント、導電性マルチフィラメントの製造方法、織編物およびブラシ
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20231201BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20231201BHJP
   D01F 1/09 20060101ALI20231201BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20231201BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20231201BHJP
   D03D 15/533 20210101ALI20231201BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20231201BHJP
   A46D 1/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
D01F6/90 301
D01F6/60 311Z
D01F1/09
D04B1/16
D04B21/16
D03D15/533
D03D15/20 100
A46D1/00 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019174351
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021050443
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】山内 直哉
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-184713(JP,A)
【文献】特開2010-168696(JP,A)
【文献】特開2007-321274(JP,A)
【文献】特開2010-037703(JP,A)
【文献】特開平03-045705(JP,A)
【文献】米国特許第05213892(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00- 6/96
8/00- 8/18
9/00- 9/04
D01D 1/00-13/02
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00- 1/28
21/00-21/20
A46D 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子を15~35質量%の割合で含むポリアミド樹脂からなる単繊維から構成された、マルチフィラメントであって、下記(I)~(V)を同時に満足することを特徴とする導電性マルチフィラメント。
(I)170℃における乾熱収縮率が3.0%以下
(II)25℃と170℃における電気抵抗値が1012Ω/cm以下
(III)糸斑が3.0%以下
(IV)25℃での繊維の長さ方向の電気抵抗値のCV値が5.0%以下
(V)170℃での繊維の長さ方向の電気抵抗値のCV値が5.5%以下
【請求項2】
繊度のCV値が8%以下である、請求項1に記載の導電性マルチフィラメント
【請求項3】
25℃と170℃との電気抵抗値のCV値の変化率が、15%以下である、請求項1または2に記載の導電性マルチフィラメント。
【請求項4】
伸度が40~70%である、請求項1~3の何れか1項に記載の導電性マルチフィラメント。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の導電性マルチフィラメントを製造する方法であって、下記の工程(イ)~(ハ)をこの順に含む、製造方法。
(イ)導電性粒子を15~35質量%の割合で含み、かつ相対粘度が2.0~2.9であるポリアミド樹脂を、紡糸温度(ポリアミド樹脂の融点+15)~(ポリアミド樹脂の融点+50)℃かつ紡糸速度500~1500m/分で溶融紡糸し、未延伸マルチフィラメントを得る工程
(ロ)前記未延伸マルチフィラメントに、延伸倍率2.0~3.0倍、温度35℃以下で延伸処理を施して、マルチフィラメントを得る工程
(ハ)延伸処理後のマルチフィラメントに対し120℃以上で予備加熱した後、160~200℃で熱処理を施す工程
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の導電性マルチフィラメントを含む、織編物。
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項に記載の導電性マルチフィラメントを含む、ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れ、かつ導電性のバラツキが抑制された導電性マルチフィラメント、当該導電性マルチフィラメントの製造方法、並びに当該導電性マルチフィラメントを含む織編物およびブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、またはポリオレフィン樹脂のような疎水性ポリマーからなる繊維は、機械特性、耐薬品性、および耐候性といった多くの特性に優れる。そのため、衣料用途または産業資材用途にも広く用いられている。これらの繊維の表面は、例えば着用時の摩擦によって静電気が発生し易いため、空気中の粉塵を吸引して繊維表面の美観を低下させたり、人体に電撃を与えたりし、ひいては不快感を与える。さらには、電子機器、精密機器に用いられる場合には、静電気の発生により致命的な故障を発生させたり、引火性物質へ引火したりする。そこで、静電気に起因するこれらの問題を解決するために、導電性が付与された繊維が検討されている。
【0003】
導電性を付与する手法として、例えば、カーボンブラックまたは金属粉等の導電性粒子を熱可塑性ポリマーに分散させた繊維が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-105623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には単繊維間の電気抵抗値のバラツキが小さく、安定した電気抵抗値を示すマルチフィラメントが提案されている。しかし、こうしたマルチフィラメントを上記のような衣料用途、産業資材用途で使用する場合は、温度変化が大きい環境で使用する際、またはアイロン使用時等の高温環境下に晒される際の繊維変形により、繊維の長さ方向における均一な導電性が得難いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記したような従来技術の問題を解決し、導電性に優れ、かつ、温度変化が大きい環境で使用する場合においても導電性のバラツキが抑制された導電性マルチフィラメントを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、乾熱収縮率が小さく糸斑が抑制された導電糸性マルチフィラメントは、導電性に優れ、かつ導電性のバラツキおよび高温環境下における導電性のバラツキが抑制されて均一な導電性が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(7)を要旨とする。
(1)導電性粒子を15~35質量%の割合で含むポリアミド樹脂からなる単繊維から構成された、マルチフィラメントであって、下記(I)~(V)を同時に満足することを特徴とする導電性マルチフィラメント。
(I)170℃における乾熱収縮率が3.0%以下
(II)25℃と170℃における電気抵抗値が1012Ω/cm以下
(III)糸斑が3.0%以下
(IV)25℃での繊維の長さ方向の電気抵抗値のCV値が5.0%以下
(V)170℃での繊維の長さ方向の電気抵抗値のCV値が5.5%以下
(2)繊度のCV値が8%以下である、(1)の導電性マルチフィラメント
(3)25℃と170℃との電気抵抗値のCV値の変化率が、15%以下である、(1)または(2)の導電性マルチフィラメント。
(4)伸度が40~70%である、(1)~(3)の何れかの導電性マルチフィラメント。
(5)(1)~(4)の何れか1項に記載の導電性マルチフィラメントを製造する方法であって、下記の工程(イ)~(ハ)をこの順に含む、製造方法。
(イ)導電性粒子を15~35質量%の割合で含み、かつ相対粘度が2.0~2.9であるポリアミド樹脂を、紡糸温度(ポリアミド樹脂の融点+15)~(ポリアミド樹脂の融点+50)℃かつ紡糸速度500~1500m/分で溶融紡糸し、未延伸マルチフィラメントを得る工程
(ロ)前記未延伸マルチフィラメントに、延伸倍率2.0~3.0倍、温度35℃以下で延伸処理を施して、マルチフィラメントを得る工程
(ハ)延伸処理後のマルチフィラメントに対し120℃以上で予備加熱した後、160~200℃で熱処理を施す工程
(6)(1)~(4)の何れかの導電性マルチフィラメントを含む、織編物。
(7)(1)~(4)の何れかの導電性マルチフィラメントを含む、ブラシ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性マルチフィラメントは導電性に優れるのはもちろんのこと、高温で熱処理後の乾熱収縮率が小さく、かつ糸斑が抑制されているため、導電性のバラツキおよび高温環境下における導電性のバラツキが抑制されて、均一な導電性を達成することができる。そのために、衣料用途、産業資材用途(精密機器用ブラシなど)など、安定かつ均一な導電性が必要とされる繊維製品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
(導電性マルチフィラメント)
本発明の導電性マルチフィラメントは、導電性粒子を15~35質量%の割合で含む熱可塑性樹脂からなる単繊維から構成された、マルチフィラメントである。
【0011】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。なかでも、機械特性、強度などの観点から、ポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂としては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン12などを単独もしくは共重合、ブレンド(混合)したものが挙げられるが、導電性粒子を練り込み易く、好ましい融点を有し、紡糸性に優れるためにナイロン6が好ましい。
【0012】
導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、金属粉末(銀、ニッケル、銅、鉄またはこれらの合金等)、硫化銅、沃化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属化合物からなる粒子が挙げられる。また、酸化錫に酸化アンチモンを少量添加したり、酸化亜鉛に酸化アルミニウムを少量添加したりして、導電性粒子としたものも挙げられる。さらには、酸化チタンの表面に酸化錫をコーティングし酸化アンチモンを混合焼成し、導電性粒子としたものも用いることができる。なかでも、汎用性、導電性、取扱容易性等の観点から、カーボンブラックが好ましい。
【0013】
導電性粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径が200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。平均粒子径が200nm以下であると、導電性粒子の熱可塑性樹脂への分散性が良好となり、導電性、強伸度等の特性がより良好となる。導電性粒子の平均粒子径の下限値は、特に限定されるものではないが、凝集の懸念から10nmが好ましい。
【0014】
本発明の導電性マルチフィラメントを構成する単繊維において、熱可塑性樹脂中の導電性粒子の含有量は15~35質量%であり、20~30質量%とすることが好ましい。含有量が15質量%未満であると、導電性に劣るものとなり、一方35質量%を超えると、導電性粒子の熱可塑性樹脂への分散が良好とならず、糸斑を抑制することができない。その結果、電気抵抗値のCV値が大きくなり、導電性のバラツキが大きいものとなり、均一な導電性を得られないという問題がある。
【0015】
本発明の導電性マルチフィラメントは、170℃における乾熱収縮率が3.0%以下であることが必要であり、2.6%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましい。一般に長繊維の収縮率に関しては、沸水収縮率が用いて評価されることが多い。しかしながら、本発明の導電性マルチフィラメントを、例えば電子機器、工場用ユニフォーム等に使用する場合は、機器の発熱により乾燥状態で瞬間的な高温に晒される場合がある。または本発明の導電性マルチフィラメントを高温環境下で長期間保存したり、各種の加工に供したり、本発明の導電性マルチフィラメントを含む織編物にアイロンをかけたりする場合は、長時間高温に晒される場合がある。本発明者らは、従来の導電性マルチフィラメントでは高温環境下での使用時に熱による変形が生じ、導電性の均一性が失われることで、導電性にバラツキが出て、導電性の均一性に乏しくなることを突き止めた。そして本発明者らは、170℃で熱処理後の乾熱収縮率を3.0%以下とすることで、上記の問題を解消することができ、高温環境下であっても導電性の均一性に優れ、安定した導電性が得られることを見出した。170℃で熱処理後の乾熱収縮率を3.0%以下とするための手法は、後述の製造方法により詳細に説明する。
【0016】
本発明の導電性マルチフィラメントは、下記の式で求められる糸斑が3.0%以下である。
糸斑[%]=(|X-Xmax|/X×100 + |X-Xmin|/X×100)÷2
X:導電性マルチフィラメント500mを10mずつ50本に裁断し、これら50本について測定した繊度の平均値
Xmax:導電性マルチフィラメント500mを10mずつ50本に裁断し、これら50本の中での最大の繊度
Xmin:導電性マルチフィラメント500mを10mずつ50本に裁断し、これら50本の中での最小の繊度
【0017】
従来、導電性および導電性のバラツキを向上させるために、繊維の断面形状が様々に検討されてきた。しかし、繊維の断面形状を制御する手法では、導電性のバラツキを一定程度に抑制することは可能であるものの、長さ方向の繊維自体の糸斑に由来するバラツキを抑制することは困難であった。そこで、後述するような製造方法を行うことにより、繊維の長さ方向の糸斑を3.0%以下に抑制することができ、繊維の長さ方向における導電性のバラツキを抑制することが可能となることを見出したのである。糸斑が3.0%を超えると、繊維の長さ方向の電気抵抗値のバラツキが大きくなり、導電性が不均一になる。さらに局部的に繊度が細い部分ができるため、延伸時の切れ糸にも繋がる。特に、糸斑は2.5%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明の導電性マルチフィラメントは、25℃と170℃における電気抵抗値が1012Ω/cm以下であり、中でも、1011Ω/cm以下であることが好ましく、1010Ω/cm以下であることがより好ましい。電気抵抗値の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば10Ω/cmである。
電気抵抗値はAATCC76法により、以下のようにして算出する。
まず、25℃における電気抵抗値は、導電性マルチフィラメントを25℃、湿度50%の雰囲気中に15分間載置したものを使用する。170℃における電気抵抗値は、導電性マルチフィラメントを170℃、湿度50%の雰囲気中に15分間載置(熱処理)したものを使用する。これらの導電性マルチフィラメントを15cm程度にカットして、10サンプルを採取する。このサンプルの両端にケラチンクリームを塗布し、この表面部分を金属端子に接続し、試料測定長10cmにて50Vの直流電流を印加して電流値を測定し、下記式により10サンプルの電気抵抗値を測定し、これらの平均値を算出したものを電気抵抗値とする。
電気抵抗値(Ω/cm)=E/(I×L)
E:電圧(V)
I:測定電流(A)
L:測定長(cm)
【0019】
本発明の導電性マルチフィラメントは、上記のような物性を有し、導電性のバラツキが抑制されているために、25℃での繊維の長さ方向の電気抵抗値の変動率(CV値)が5%以下となる。中でも4.5%以下であることが好ましく、4.0%以下であることがより好ましく、3.2%以下であることがさらに好ましい。すなわち、電気抵抗値のCV値は導電性のバラツキを示すものであり、この数値を5%以下とすることで、導電性のバラツキが抑制された導電性マルチフィラメントとなる。
【0020】
また、本発明の導電性マルチフィラメントは、上記のように170℃における乾熱収縮率が3.0%以下になると同時に、170℃という高温環境下においても導電性のバラツキが抑制されるという効果を奏する。つまり、170℃での繊維の長さ方向の電気抵抗値の変動率(CV値)が5.5%以下となる。中でも5.0%以下であることが好ましく、4.5%以下であることがより好ましく、4.0%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
電気抵抗値のCV値は下記式に従って算出する。
電気抵抗値のCV値(%)=(V/W)×100
W:電気抵抗値(Ω/cm)
V:電気抵抗値の不偏分散の平方根
なお不偏分散は、上記のように測定する25℃と170℃における全てのサンプルの電気抵抗値と電気抵抗値の平均値の差をそれぞれ求め、これらの差を二乗して得られた値の総和を(試験片の数-1)で除して、得られた値を採用する。
【0022】
そして、下記式で算出される、25℃と170℃の電気抵抗値のCV値の変化率は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
25℃と170℃との電気抵抗値のCV値の変化率は、下記式により、算出する。
25℃と170℃との電気抵抗値のCV値の変化率(%)=(|a―b|÷a)×100
a:25℃での電気抵抗値のCV値
b:170℃で15分間熱処理した後の電気抵抗値のCV値
25℃と170℃における電気抵抗値のCV値を上記範囲とするためには後述するような製造方法により可能となる。
【0023】
本発明の導電性マルチフィラメントは、245℃で溶融した際の、せん断速度1000/secでの溶融粘度(以下、単に「溶融粘度」という場合がある)が1200~2200dPa・sであることが好ましく、1500~2000dPa・sであることがより好ましい。溶融粘度が1200dPa・s未満では、ポリマーの配向が十分に促進されず、非晶域に存在する導電性粒子のストラクチャーの繋がりが悪化し不均一となるために、導電性に乏しいものとなる場合がある。2200dPa・sを超えると、繊維の長さ方向における太さが安定しないために糸斑が悪くなり導電性のバラツキが大きくなる場合がある。
なお、245℃で溶融した際の、せん断速度1000/secでの溶融粘度の測定方法については、実施例にて後述する。
【0024】
導電性マルチフィラメントの245℃における溶融粘度を上記範囲とするためには、例えば、導電性粒子の含有量を上記範囲としたうえで、例えば、熱可塑性樹脂の相対粘度を好ましい範囲に設定すること、または紡糸温度を特定範囲とすることができる。なお、本発明における相対粘度は、96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定したものである。本発明における、熱可塑性樹脂の相対粘度は、2.0~2.9であることが好ましく、2.3~2.7であることがより好ましい。これにより、導電性粒子の含有量を好ましい範囲としつつ、導電性マルチフィラメントの245℃における溶融粘度を好ましい範囲とできる。
【0025】
本発明の導電性マルチフィラメントの伸度は40~70%であることが好ましく、45~65%であることがより好ましい。この範囲とすることでストラクチャー(導電性粒子のつながり)を破壊することがいっそう抑制されて、より良好で均一な導電性が得られる。すなわち、伸度が40%未満であると、繊維の歪が大きくなり、ストラクチャーが破壊され導電性にバラツキが生じる場合がある。伸度が70%を超えると、強度に劣るものになる上、外力による変形が起こり易くなり、繊維の長さ方向における導電性のバラツキが生し易くなる場合がある。
【0026】
本発明の導電性マルチフィラメントの伸度を上記範囲とするための手法として、例えば、後述する製造方法において、特定範囲の倍率で延伸する手法などが挙げられる。
【0027】
本発明の導電性マルチフィラメントにおいて、繊度のCV値が8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましい。繊度のCV値とは単繊維間でのバラツキの指標となるものである。繊度のCV値が8%を超えると、繊維の長さ方向における導電性のバラツキを抑制できない場合がある。
【0028】
本発明の導電性マルチフィラメントの繊度のCV値を上記範囲とするための手法として、後述するような製造方法における紡糸条件または延伸条件を好ましい条件とすることが挙げられる。
【0029】
本発明の導電性マルチフィラメントには、本発明の効果を損なわない範囲で、ワックス類、ポリアルキレンオキシド類、各種界面活性剤、有機電解質等の分散剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、艶消剤、着色剤、顔料、流動性改善剤、その他の添加剤が目的に応じて含まれていてもよい。
【0030】
本発明の導電性マルチフィラメントは、仮撚加工等の公知の加工が施されていてもよい。または、インターレース加工、タスラン加工等により、他の繊維と複合されて用いられてもよい。また、本発明の導電性マルチフィラメントの、繊度、フィラメント本数は、用途等に応じて適宜に設定できる。
【0031】
(導電性マルチフィラメントの製造方法)
次に、本発明の導電性マルチフィラメントの製造方法は、下記の工程(イ)~(ハ)をこの順に含む。
(イ)導電性粒子を15~35質量%の割合で含み、かつ相対粘度が2.0~2.9である熱可塑性樹脂を、紡糸温度(熱可塑性樹脂の融点+15)~(熱可塑性樹脂の融点+50)℃かつ紡糸速度500~1500m/分で溶融紡糸し、未延伸マルチフィラメントを得る工程
(ロ)前記未延伸マルチフィラメントに、延伸倍率2.0~3.0倍、温度35℃以下で延伸処理を施して、マルチフィラメントを得る工程
(ハ)延伸処理後のマルチフィラメントに対し120℃以上で予備加熱した後、160~200℃で熱処理を施す工程
【0032】
上記工程(イ)(紡糸工程)について、以下に述べる。
まず、導電性粒子を15~35質量%の割合で含み、かつ相対粘度が2.0~2.9である熱可塑性樹脂を得る方法としては、熱可塑性樹脂の重合段階で導電性粒子を添加する方法、または、導電性粒子を後工程で熱可塑性樹脂に添加して溶融混練する方法等がある。なかでも、用いるポリマーによっては重合段階での添加が困難なものもあるために、後工程で溶融混練する方法が好ましい。なお、熱可塑性樹脂の相対粘度は、2.3~2.7であることが好ましい。熱可塑性樹脂の相対粘度は、重合温度や時間を適宜変更することにより調整可能である。熱可塑性樹脂の相対粘度が2.0未満であると、得られる導電性マルチフィラメントは、導電性に劣る場合がある。一方、熱可塑性樹脂の相対粘度が2.9を超えると、得られる導電性マルチフィラメントは繊度のCV値または糸斑に劣るものとなり、その結果導電性のバラツキの悪いものとなる。
【0033】
このようにして得られた熱可塑性樹脂を用い、必要に応じて乾燥等の処理を行ってチップ化し、通常の溶融紡糸装置を用いて、例えばエクストルーダーで混練、溶融し、紡糸口金より押し出して溶融紡糸を行い、未延伸マルチフィラメントを得る。溶融紡糸の方法は特に限定するものではなく、常法により行うことができる。
【0034】
紡糸温度は、用いる熱可塑性樹脂の融点に対して、(融点+15)~(融点+50)℃であり、(融点+20)~(融点+40)℃とすることが好ましい。紡糸温度が(融点+50)℃を超えると、熱可塑性樹脂の熱分解が促進され易く糸斑が悪くなり、導電性のバラツキを抑制できない。また紡糸温度が(融点+15)℃未満であると、未溶解物が残存し易く、均一な混練とすることができない。紡出されたフィラメント(未延伸マルチフィラメント)は例えば冷却風により冷却され、さらに引き取り速度500~1500m/分で一旦捲き取られる。つまり、紡糸速度は500~1500m/分である。紡糸速度が500m/分未満と遅くなると、固化が促進されずに繊維形成が不安定となって糸斑が悪化し、導電性のバラツキを抑制することができない。一方、紡糸速度が1500m/分を超えて過度に速いと、紡糸操業性が低下する。紡糸速度は600~1400m/分が好ましく、700~1300m/分がより好ましい。
【0035】
上記工程(ロ)(延伸工程)について以下に述べる。工程(ロ)においては、工程(イ)にて得られた未延伸マルチフィラメントに延伸処理を施す。本発明の導電性マルチフィラメントにおいては、加熱ローラー等で加熱することなく、35℃以下の温度で延伸処理を施すことが肝要である。すなわち35℃を超える温度で延伸処理を施した場合は、導電性マルチフィラメントの分子配向を十分に促進させることができず、乾熱収縮率が高く寸法安定性に劣るものとなり、ひいては高温環境下における導電性のバラツキを抑制することができない。
【0036】
上記工程(ロ)において、延伸時の温度の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば20℃が好ましい。
【0037】
上記工程(ロ)において、延伸倍率は2.0~3.0倍であり、2.3~2.7倍であることが好ましい。延伸倍率が上記範囲であると、本発明の導電性マルチフィラメントの伸度を本発明の範囲とすることができ、導電性のバラツキを抑制できるという効果を奏する。すなわち、延伸倍率が2.0倍未満であると、得られる導電性マルチフィラメントの伸度が過度に高くなり、繊維方向にストラクチャー形成の斑が生じ、導電性のバラツキが抑制されない。一方、延伸倍率が3.0倍を超えると、得られる導電性マルチフィラメントの伸度が過度に低くなり、繊維内部のストラクチャーが不安定となるとともに、糸斑が十分に抑制されず、導電性のバラツキが抑制されない。
【0038】
上記工程(ロ)における延伸倍率は、上記範囲(2.0~3.0倍、好ましくは2.3~2.7倍)を満足したうえで、操業性の観点から、例えば最大延伸倍率(未延伸マルチフィラメントが延伸により切断する倍率)の80%以下とすることがさらに好ましく、75%以下とすることがいっそう好ましく、70%以下とすることが特に好ましい。最大延伸倍率とは、工程(イ)で得られた未延伸マルチフィラメントを引っ張ったときに切断される点をいう。具体的には、得られた未延伸マルチフィラメントを延伸にかけ、徐々に延伸倍率を上げていき、倍率が3.0倍になったときに切れる、というものであった場合、その未延伸糸の最大延伸倍率は3.0倍となり、生産条件としての延伸倍率は、その80%以下(すなわち、2.4倍以下)とすることが好ましい。
【0039】
上記工程(ハ)(熱処理工程)について以下に述べる。工程(ハ)においては、120℃以上に予備加熱した後、(以下、「第一の熱処理」という場合がある)、160~200℃で熱処理を施す(以下、「第二の熱処理」という場合がある)ものである。第一の熱処理温度は130℃以上であることが好ましく、第二の熱処理温度は170~190℃であることが好ましい。
【0040】
このような2段階の熱処理を施すことで、糸条に適した熱量を付与することができ、乾熱収縮率を低減させて、高温環境下での導電性のバラツキを抑制することができる。さらに、マルチフィラメントを構成する単繊維において導電性粒子を密に連鎖(接触)させて、導電性を均一に向上させることができる。1段階のみの熱処理を施した場合、または第一および第二の熱処理の熱処理温度が上記範囲を外れる場合は、糸条に十分な熱量を付与することができず、乾熱収縮率を低減させることができないために、高温環境下での導電性のバラツキを抑制することができない。
【0041】
第一の熱処理における温度が120℃未満であると、糸条に十分な熱量を付与することができず、乾熱収縮率が高くなってしまい、高温環境下での導電性のバラツキを抑制することができない。一方、第一の熱処理における温度の上限値については、特に限定されないが、糸条に与える熱量と操業性の観点から、第二の熱処理温度未満とすることが好ましい。
【0042】
第二の熱処理における温度が160℃未満であると、糸条に十分な熱量を付与することができないために、糸条の結晶化を促進させることができず、乾熱収縮率が高くなってしまい、高温環境下での導電性のバラツキを抑制することができない。一方、200℃を超えると疑似融着が発生し易くなり、捲き取りが困難となる。
【0043】
第一の熱処理、第二の熱処理においては、例えばヒートローラー、ヒートプレート等を用いることができる。
【0044】
本発明の導電性マルチフィラメントは、産業資材用途(精密機器用ブラシなど)など、安定かつ均一な導電性が必要とされる繊維製品に好適に用いられる。
【0045】
本発明の織編物は、本発明の導電性マルチフィラメントを含むものである。本発明の織編物において、導電性マルチフィラメントの混用率は0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。本発明の織編物は、例えば衣料用途(作業服、防塵衣料、クリーンルーム用衣料など)、もしくは産業資材用途(スマートフォン用手袋、スマートテキスタイル、電子機器等に用いる帯電用ブラシなど)などに用いられる。特に本発明の導電性マルチフィラメントは、高温での乾熱収縮率が低減されていることから高温での導電性のバラツキが抑制されるため、高温環境下で採用される用途に特に好ましい。
【0046】
本発明の織編物が織物の場合、その組織の具体例としては、平織、綾織、朱子織、又は絡み織などが挙げられる。織物密度としては、特に限定されるものではないが、経糸密度が50~250本/2.54cmであることが好ましく、緯糸密度が50~250本/2.54cmであることが好ましい。
【0047】
本発明の織編物が編物の場合、その組織の具体例としては、カノコ、フライス又はスムースなどが挙げられる。編地密度としては、特に限定されるものではないが、20~150コース/インチ、20~150ウェール/インチが挙げられる。
【実施例
【0048】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、以下の実施例に限定されない。なお、実施例中の各種の特性値及び評価は以下のとおりに行った。
【0049】
(1)相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。
【0050】
(2)乾熱収縮率
導電性マルチフィラメントの繊維長を無荷重で測定し、次に170℃で15分間熱処理を行い、熱処理後の繊維長を同様に測定した。そして熱処理前の繊維長(A)と熱処理後の繊維長(B)から下式にて乾熱収縮率を算出した。
乾熱収縮率(%)=〔(A-B)/A〕×100
【0051】
(3)糸斑
導電性マルチフィラメント500mを10mずつ50本に分割して重量測定により各々の繊度を測定し、50本の繊度の平均値をX、最大値をXmax、最小値をXminとして、以下の式によって求めた。
糸斑(%)=(|X-Xmax|/X + |X-Xmin|/X|)÷2
【0052】
(4)繊度のCV値
キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-600を用いて繊維断面の写真を撮影し、単繊維ごとの断面積からC、Dを算出し、次式に基づきCV値を求めた。
繊度のCV値(%)=(C/D)×100
C:導電性マルチフィラメントの全ての単繊維断面積の不偏分散の平行根
D:導電性マルチフィラメントの全ての単繊維断面積の平均値
単繊維断面積の不偏分散は以下のようにして求めた。つまり全ての試験片に対し、単繊維断面積と単繊維断面積の平均値の差を、それぞれ求めた。これらの差を二乗して得られた値の総和を(試験片の数-1)で除して、得られた値を不偏分散とした。
【0053】
(5)伸度
JIS L1013 8.5.1(標準時試験)に基づいて測定した。ORIENTEC製「TENSILON RTC-1210」を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分の条件で測定した。
【0054】
(6)25℃、170℃での電気抵抗値
AATCC76法により、以下のようにして算出した。
まず、25℃における電気抵抗値は、導電性マルチフィラメントを25℃、湿度50%の雰囲気中に15分間載置したものを使用した。170℃における電気抵抗値は、導電性マルチフィラメントを170℃、湿度50%の雰囲気中に15分間載置(熱処理)したものを使用した。これらの導電性マルチフィラメントを15cm程度にカットして、10サンプルを採取する。このサンプルの両端にケラチンクリームを塗布し、この表面部分を金属端子に接続し、試料測定長10cmにて50Vの直流電流を印加して電流値を測定し、下記式により10サンプルの電気抵抗値を測定し、これらの平均値を算出したものを電気抵抗値とした。
電気抵抗値(Ω/cm)=E/(I×L)
E:電圧(V)
I:測定電流(A)
L:測定長(cm)
【0055】
(7)電気抵抗値のCV値
下記式に従って算出した。
電気抵抗値のCV値(%)=(V/W)×100
W:電気抵抗値(Ω/cm)
V:電気抵抗値の不偏分散の平方根
なお不偏分散は、上記のように測定する25℃と170℃における全てのサンプルの電気抵抗値と電気抵抗値の平均値の差をそれぞれ求め、これらの差を二乗して得られた値の総和を(試験片の数-1)で除して、得られた値を採用した。
【0056】
(8)25℃と170℃との電気抵抗値のCV値の変化率
下記式により、算出した。
25℃と170℃との電気抵抗値のCV値の変化率(%)=(|a―b|÷a)×100
a:25℃での電気抵抗値のCV値
b:170℃で15分間熱処理した後の電気抵抗値のCV値
【0057】
(9)245℃で溶融した際の、せん断速度1000/secでの溶融粘度
島津製作所製フローテスター(CFT-500)を用いて、導電性マルチフィラメントを245℃で溶融し、せん断速度が1000sec-1の時の粘度を溶融粘度とした。
【0058】
実施例1
熱可塑性樹脂としてのポリアミド樹脂(ナイロン6、相対粘度2.5、融点225℃)を使用し、導電性粒子としてカーボンブラックを24.1質量%含有させたナイロン6を、通常の紡糸装置に供給し、孔径0.25mmの紡糸孔を96個有する紡糸口金を用いて、紡糸温度245℃で溶融紡糸した。紡出した糸条を冷却し、オイリングしながら、800m/分の速度で捲き取り、535dtex/96fの未延伸糸(最大延伸倍率3.65倍)を得た。この未延伸糸を30℃のローラーを介して2.41倍に延伸し、更に142℃の熱ローラーで予備加熱(第一の熱処理)を行い、次いで180℃のヒートプレートで熱処理(第二の熱処理)を行った後に捲き取り、220dtex/96fの導電性マルチフィラメントを得て、評価に付した。
【0059】
実施例2~5、比較例1~4
ポリアミド樹脂の相対粘度、カーボンブラックの含有量、または未延伸糸の最大延伸倍率に応じて延伸倍率を表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして導電性マルチフィラメントを得た。
【0060】
実施例6、比較例5~6
紡糸速度を、表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして導電性マルチフィラメントを得た。
【0061】
比較例7
延伸工程における温度条件を、表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして導電性マルチフィラメントを得た。
【0062】
実施例7~9、比較例8~9
第一の熱処理温度、第二の熱処理温度を、表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして導電性マルチフィラメントを得た。
【0063】
比較例10~11
第一の熱処理を行わず、表1に記載の延伸温度で延伸すると同時にヒートプレートで緊張熱処理した以外は、実施例1と同様にして導電性マルチフィラメントを得た。
【0064】
比較例12~13
延伸工程における延伸倍率を、表1に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして導電性マルチフィラメントを得た。
実施例および比較例の条件および評価結果を、表1、表2にまとめて示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表2から明らかなように、実施例1~9にて得られた本発明の導電性マルチフィラメントは、乾熱収縮率が小さく、糸斑が抑制されていることから、電気抵抗値のCV値(導電性のバラツキ)が小さく、高温環境下においても均一な導電性が達成されていた。
【0068】
比較例1にて得られたマルチフィラメントは、カーボンブラックの含有量が過多であったために、口金からの吐出が不安定となり、繊度のCV値および糸斑に劣るものとなった結果、導電性のバラツキの悪いものとなった。
【0069】
比較例2にて得られたマルチフィラメントは、ポリアミド樹脂におけるカーボンブラックの含有量が過少であったために、導電性に劣るものとなった。
【0070】
比較例3にて得られたマルチフィラメントは、ポリアミド樹脂の相対粘度が低過ぎたために、溶融粘度が低くなり、導電性に劣るものとなった。
【0071】
比較例4にて得られたマルチフィラメントは、ポリアミド樹脂の相対粘度が高過ぎたために、溶融粘度が高くなり、繊度のCV値および糸斑に劣るものとなった結果、導電性のバラツキが悪いものとなった。
【0072】
比較例5にて得られたマルチフィラメントは、紡糸速度が遅過ぎたために、固化が促進されずに繊維形成が不安定となって糸斑に劣るものとなり、導電性のバラツキの悪いものとなった。
【0073】
比較例6にて得られたマルチフィラメントは、紡糸速度が速過ぎたために、口金から吐出された糸条がドラフト切れを起こし、巻取が不可能であった。
【0074】
比較例7にて得られたマルチフィラメントは、延伸時の温度が80℃と、本発明の範囲を超えて高かったために配向が促進されず、乾熱収縮率が高くなった結果、高温環境下での導電性のバラツキの悪いものとなった。
【0075】
比較例8にて得られたマルチフィラメントは、第一の熱処理温度が低過ぎたために、糸条に十分な熱量を付与することができず、乾熱収縮率が高くなった結果、高温環境下での導電性のバラツキの悪いものとなった。
【0076】
比較例9にて得られたマルチフィラメントは、第二の熱処理温度が低過ぎたために、糸条に十分な熱量を付与することができず、乾熱収縮率が高くなった結果、高温環境下での導電性のバラツキの悪いものとなった。
【0077】
比較例10にて得られたマルチフィラメントは、第一の熱処理を施さなかったために、糸条に十分な熱量を付与することができず、また、第一の熱処理を施していないために乾熱収縮率が高くなった結果、高温環境下での導電性のバラツキの悪いものとなった。
【0078】
比較例11にて得られたマルチフィラメントは、延伸時の温度が高過ぎたために、配向が促進されず、比較例10と比較すると、さらに乾熱収縮率が高くなり、高温環境下での導電性のバラツキの悪いものとなった。
【0079】
比較例12にて得られたマルチフィラメントは、は延伸時の延伸倍率が低過ぎたために、伸度が高くなり、繊維方向にストラクチャー形成の斑が生じ、導電性のバラツキの悪いものとなった。
【0080】
比較例13にて得られたマルチフィラメントは、延伸時の延伸倍率が高過ぎたために、伸度が低くなり、繊維内部のストラクチャーが不安定となるとともに、糸斑が十分に抑制されず、導電性のバラツキの悪いものとなった。