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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ホップ抽出物含有エマルション
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/10 20160101AFI20231201BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20231201BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20231201BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231201BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20231201BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20231201BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20231201BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20231201BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20231201BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20231201BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
A23L29/10
A23L5/00 Z
A61K8/06
A61K8/34
A61K8/37
A61K8/55
A61K8/9789
A61Q11/00
A61Q5/00
A61Q17/04
A61Q19/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019180669
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021040608
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕子
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-173989(JP,A)
【文献】特開2011-000032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/10
A23L 5/00
A61K 8/06
A61K 8/34
A61K 8/37
A61K 8/55
A61K 8/9789
A61Q 11/00
A61Q 5/00
A61Q 17/04
A61Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップ抽出物と、少なくとも酵素分解レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び水とを含む、水中油型乳化物であるホップ抽出物含有エマルションであって、エマルション全体を100重量%とした場合に、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が3重量%以上であって、さらにポリオール含有量が75重量%以下である、ホップ抽出物含有エマルション。
【請求項2】
リン脂質1重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が0.1重量部以上5重量部以下である、請求項1記載のホップ抽出物含有エマルション。
【請求項3】
水1重量部に対して、ポリオール含有量が0.1重量部以上3重量部未満である、請求項1又は2記載のホップ抽出物含有エマルション。
【請求項4】
ホップ抽出物と、少なくとも酵素分解レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び水を含む原料を乳化処理することで、水中油型乳化物であるホップ抽出物含有エマルションを製造することを特徴とする、請求項1~の何れか1項に記載のホップ抽出物含有エマルションの製造方法。
【請求項5】
請求項1~の何れか1項に記載のホップ抽出物含有エマルションを含む食
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載のホップ抽出物含有エマルションを含む化粧品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップ抽出物含有エマルション及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップは、ビールに苦味を付与する他、泡持ちを向上させる効果や防腐効果も知られており、古くから利用されてきた。特に、ホップの苦味成分はルプリンという組織に存在する樹脂成分に由来しているが、樹脂成分には、α酸やβ酸といった軟質樹脂とキサントフモール等の硬質樹脂があり、近年、機能性も注目されている。
【0003】
樹脂成分を含むホップ抽出物は、水に溶けないため、水系の食品や化粧品等への使用にあたり、水への優れた分散性を有する乳化物とすることが求められており、例えば、乳化方法としては、ホップ抽出液を酸性下で不溶性化し、生成した沈殿物を油脂に溶解させ、斯くして調製した油相部を、乳化剤を溶解した水相部とともに乳化処理を行うことにより、ホップ抽出物含有乳化組成物が調製できること等が知られていた(特許文献1)。
【0004】
また、一般的な乳化技術については、可食性油性材料、乳化剤、多価アルコール及び水を減圧条件下で乳化処理し、平均乳化粒子径を0.2ミクロン以下とする飲食品用乳化液組成物の製法が知られていた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011‐000032号公報
【文献】特許第2741093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ホップ抽出物を含有する水中油型乳化物であって、乳化安定性に優れたホップ抽出物含有エマルションを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、ホップ抽出物と、少なくともリン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び水とを混合して乳化処理することで、水溶液中で乳化安定性がよく、加熱しても乳化が壊れない耐熱性に優れたホップ抽出物含有エマルションが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]の態様に関する。
[1]ホップ抽出物と、少なくともリン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び水とを含む、ホップ抽出物含有エマルションであって、エマルション全体を100重量%とした場合に、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が3重量%以上であって、さらにポリオール含有量が75重量%以下である、ホップ抽出物含有エマルション。
[2]リン脂質1重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が0.1重量部以上5重量部以下である、[1]記載のホップ抽出物含有エマルション。
[3]水1重量部に対して、ポリオール含有量が0.1重量部以上3重量部未満である、[1]又は[2]記載のホップ抽出物含有エマルション。
[4]エマルション全体を100重量%とした場合に、ポリオール含有量が10重量%以上60重量%以下である、[1]~[3]の何れかに記載のホップ抽出物含有エマルション。
[5][1]~[4]の何れかに記載のホップ抽出物含有エマルションの製造方法。
[6][1]~[4]の何れかに記載のホップ抽出物含有エマルションを含む食品又は化粧品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、樹脂成分を含み、水に不溶のホップ抽出物であっても、加熱しても乳化が壊れず、透明性を保つことが可能で、乳化安定性や分散性に優れたホップ抽出物含有エマルションを提供できるようになった。そのため、液状食品に使用した場合においても、濁り等による製品価値の低下を招きにくく、さらに、常圧下で乳化処理できるため、減圧条件下で乳化処理する必要がなく、特殊な減圧装置等を必要としないため、製造コストが安く、容易にホップ抽出物含有エマルションを製造することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ホップ抽出物と、少なくともリン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び水とを含む、ホップ抽出物含有エマルションである。製造方法は特に限定されないが、ホップ抽出物と、少なくともリン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び水を含む原料を乳化処理することで、水中油型乳化物であるホップ抽出物含有エマルションが得られる。
【0011】
本発明に記載のホップ抽出物は、α酸やβ酸等の樹脂成分を含むホップ抽出物であれば特に限定されないが、例えば、ホップ毬花からエタノールにより抽出された抽出物やホップペレットから超臨界二酸化炭素により抽出された抽出物が例示でき、市販品を使用することができる。
【0012】
ホップ抽出物含有量は、原料全体を100重量%とした場合又はホップ抽出物含有エマルション全体を100重量%とした場合に、0.2重量%以上20重量%以下が好ましく、0.5重量%以上10重量%以下がより好ましく、1重量%以上5重量%以下がさらに好ましい。
【0013】
本発明に記載のリン脂質は、本発明のホップ抽出物含有エマルションが得られれば特に限定されないが、大豆レシチン、ひまわりレシチン、卵黄レシチン等のレシチンが例示でき、ホスホリパーゼ等の酵素で分解した酵素分解レシチンが好ましい。酵素分解レシチンを使用することで、耐熱性に加え、耐冷凍性及び耐酸性に優れた乳化物が得られる。リン脂質含有量は、原料全体を100重量%とした場合又はホップ抽出物含有エマルション全体を100重量%とした場合に、1.0重量%以上25重量%以下が好ましく、2.0重量%以上20重量%以下がより好ましく、3.0重量%以上18重量%以下がさらに好ましい。ホップ抽出物1重量部に対して、リン脂質含有量は0.1重量部以上10重量部以下が好ましく、0.4重量部以上8重量部以下がより好ましく、0.5重量部以上6重量部以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明に記載のポリグリセリン脂肪酸エステルは、本発明のホップ抽出物含有エマルションが得られれば特に限定されず、市販の食品用乳化剤を使用することができる。デカグリセリンモノカプレート、テトラグリセリンモノラウレート、ペンタグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノラウレート、ペンタグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノミリステート、ペンタグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンジステアレート、ペンタグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリンモノオレエート、デカグリセリンモノオレエート等が例示でき、一種又は二種類以上を使用できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値(Hydrophile-Lipophile Balance Value)は、10~20が好ましく、12~18がより好ましい。
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量は、原料全体を100重量%とした場合又はホップ抽出物含有エマルション全体を100重量%とした場合に、3重量%以上であり、3.5重量%以上25重量%以下が好ましく、4.0重量%以上20重量%以下がより好ましい。また、リン脂質1重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量は0.1重量部以上5.0重量部以下が好ましく、0.2重量部以上4.5重量部以下がより好ましく、0.4重量部以上4.0重量部以下がさらに好ましい。前記範囲にすることで、耐熱性を有し、乳化安定性に優れた乳化物が得られる。
【0016】
本発明に記載のポリオールは、二価以上のアルコールであれば特に限定されず、グリセリン、プロピレングリコール、1、3-ブタンジオール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、イノシトール、マルチトール、ラクチトール、還元水あめ、還元澱粉分解物、フルクトース、グルコース、ガラクトース、マンノース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、澱粉分解物、水溶性食物繊維等が例示でき、一種又は二種類以上を使用できる。
【0017】
ポリオール含有量は、原料全体を100重量%とした場合又はホップ抽出物含有エマルション全体を100重量%とした場合に、75重量%以下であり、好ましくは70重量%以下であれば、耐熱性を有し、乳化安定性に優れた乳化物が得られ、さらにポリオール含有量を10重量%以上60重量%以下にすれば、耐冷凍性及び耐酸性を有する乳化物を得ることができる。また、水1重量部に対して、ポリオール含有量は0.1重量部以上3重量部未満が好ましく、2.7重量部以下がより好ましく、2.5重量部以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明に記載の水は、飲食品に配合できる水であればよく、特に限定されない。原料全体を100重量%とした場合又はホップ抽出物含有エマルション全体を100重量%とした場合に、水を10重量%以上85重量%以下含むのが好ましく、15重量%以上80重量%以下含むのがより好ましく、20重量%以上75重量%以下含むのがさらに好ましい。
【0019】
本発明に記載の抗酸化剤は、抗酸化力を有するものであれば、特に限定されず、市販品を使用することができる。例えば、ビタミンE(αトコフェロール、δトコフェロール、γトコフェロール)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ルチン、酵素処理ルチン、ヘスペリジン、酵素処理ヘスペリジン、トコトリエノール、カテキン等が例示でき、一種又は二種類以上を使用できる。抗酸化剤含有量は、原料全体を100重量%とした場合又はホップ抽出物含有エマルション全体を100重量%とした場合に、0.05重量%以上5.0重量%以下が好ましく、0.1重量%以上3.0重量%以下がより好ましく、0.3重量%以上2.0重量%以下がさらに好ましい。前記範囲にすることで、ホップ抽出物含有エマルション中のα酸及びβ酸をより安定化でき、機能性に優れた乳化物が得られる。
【0020】
乳化処理は、前記成分を混合し、均質化すればよく、一般的な乳化方法で行うことができる。例えば、水にリン脂質及びポリグリセリン脂肪酸エステルを溶解させ、好ましくはさらにポリオールを混合して水相部を調製し、この水相部と、油相部であるホップ抽出物とを、公知の乳化方法により乳化処理することで製造できる。乳化処理に用いる乳化装置としては、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の高速回転型乳化装置、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー等の高圧乳化装置、超音波式乳化装置、膜式乳化装置等を例示でき、二種類以上の装置を組み合わせてもよい。本発明は、常圧下での乳化処理で、微細な乳化粒子が均一に分散した乳化物を得ることが可能なため、特殊な減圧装置等を必要とせず、製造コストが安く、容易にホップ抽出物含有エマルションを製造することが可能である。
【0021】
本発明のホップ抽出物含有エマルションは、微細な乳化粒子径を有していれば特に限定されないが、平均粒子径は10~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましく、10~150nmがさらに好ましい。乳化粒子の平均粒子径は、市販の粒度分布計等で測定することができる。本発明のホップ抽出物含有エマルションは微細な乳化粒子径を有することで、乳化が壊れにくく、乳化安定性に優れている。さらに、濁りが忌避されるようなクリアな液状食品に添加した際でも、白濁することなく透明性を保持できる。
【0022】
また、本発明のホップ抽出物含有エマルションは、耐熱性を有する。詳細には、[評価試験1]に記載の条件で耐熱性試験を行った後も乳化状態を維持でき、1重量%水溶液の試験後の濁度は、好ましくはOD700が0.12以下、より好ましくは0.11以下である。
【0023】
本発明のホップ抽出物含有エマルションを各食品又は化粧品へ添加することで、ホップ抽出物含有エマルションを含む食品又は化粧品を製造できる。添加する食品は特に限定されないが、ソース、ドレッシング等の調味料、非アルコール飲料、アルコール飲料等の飲料、スープ等の液状食品、機能性食品等が例示できる。特にホップ抽出物含有エマルション中の組成によっては、耐熱性の他に、耐冷凍性や耐酸性を付加できることから、乳化が壊れやすい冷凍・解凍を伴う食品や酸性食品への添加も可能である。また、添加する化粧品は特に限定されないが、化粧水、美容液、UVケア商品、口腔用商品、毛髪用商品等が例示できる。各食品又は化粧品への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.01~20重量%、より好ましくは0.05~10重量%、さらに好ましくは0.1~5重量%である。
【実施例
【0024】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0025】
[試験例1]
(ポリオール濃度の検討)
水道水16.5g(試験例1-1)、14.5g(試験例1-2)、12.5g(試験例1-3)、10.5g(試験例1-4)、8.5g(試験例1-5)、6.5g(試験例1-6)、4.5g(試験例1-7)、2.5g(試験例1-8)又は0.5g(試験例1-9)に、リン脂質として酵素分解レシチンであるSLP(登録商標)-ホワイトリゾ(リン脂質含有量:92%以上、辻製油株式会社製)1.4g及びポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフト(登録商標)Q-17S(HLB:12.0、太陽化学株式会社製)1.4gを溶解させた後、ポリオールとして食品添加物グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)0g(試験例1-1)、2g(試験例1-2)、4g(試験例1-3)、6g(試験例1-4)、8g(試験例1-5)、10g(試験例1-6)、12g(試験例1-7)、14g(試験例1-8)又は16g(試験例1-9)を混合した。さらに、ホップ抽出物であるエタノールエキストラクト(Hopsteiner製)0.7gを加えて、ホモジナイザー(ヒスコトロンNS-20、株式会社マイクロテック・ニチオン製)を用いて乳化処理(20,000rpm、1分間)することにより、試験例1-1~1-9のホップ抽出物含有エマルション各20gを得た。原料割合を表1に示した。
【0026】
[評価試験1]
(1%溶液の耐熱性試験、耐冷凍性試験又は耐酸性試験前後の濁度)
試験例1-1~1-9の各ホップ抽出物含有エマルションについて、希釈溶液を調製し、(1)耐熱性試験、(2)耐冷凍性試験又は(3)耐酸性試験を行い、試験前後の濁度として、分光光度計(U-2000:株式会社日立製作所製)を用いて、光路長1cm、波長700nmの条件で光学密度700(OD700)を測定し、結果を表1に示した。最初に水で各ホップ抽出物含有エマルションの1%水溶液を調製して検体とし、(1)耐熱性試験では、検体を121℃、20分間加熱処理し、(2)耐冷凍性試験は、検体を-20℃で20時間冷凍保存後、解凍した。(3)耐酸性試験は、50mMクエン酸溶液(pH4.0)で各ホップ抽出物含有エマルションの1%溶液を調製して検体とし、121℃、20分間加熱処理した。なお、溶液調製直後にOD700が0.12以上の検体については、乳化不十分と判断し、その後の耐性試験は行わなかった。
OD700が、全試験で0.12未満のものを「○」、少なくとも1つの試験で0.12未満の結果があるものを「△」、1%水溶液調製直後に0.12以上ものを「×」として、表に示した。なお、OD700が0.12以上では、目視でも明確な濁りを確認できた。
【0027】
【表1】
【0028】
ホップ抽出物、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水を、ポリオール含有量が10~60%となるように配合して乳化処理した試験例1-2~1-7では、各ホップ抽出物含有エマルションの1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた乳化物であることが明らかになった。また、ポリオール含有量が70%となるように配合して乳化処理した試験例1-8では、1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後及び耐冷凍性試験後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性及び耐冷凍性に優れることが明らかになったが、1%クエン酸溶液調製後にOD700が0.12以上となり、耐酸性が低い乳化物であることが明らかになった。さらに、ポリオールなしで乳化処理した試験例1-1では、1%水溶液の調製直後及び耐熱性試験後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性に優れることが明らかになったが、耐冷凍性試験後及び1%クエン酸溶液調製後にOD700が0.12以上となり、耐冷凍性及び耐酸性が低い乳化物であることが明らかになった。
【0029】
一方、ポリオール含有量が80%となるように配合して乳化処理した試験例1-9では、1%水溶液の調製直後にOD700が0.12以上となり、希釈して1%水溶液とすると乳化状態を維持できなかった。
【0030】
よって、ホップ抽出物、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水を、ポリオール含有量0~70%で乳化処理することで、溶液中での乳化安定性がよく、耐熱性に優れたホップ抽出物含有エマルションが得られることが分かった。さらに、ポリオール含有量を10~70%として乳化処理することで、耐冷凍性にも優れたホップ抽出物含有エマルションが得られ、ポリオール含有量を10~60%として乳化処理することで、耐酸性にも優れたホップ抽出物含有エマルションが得られることが分かった。
【0031】
[試験例2]
(ポリグリセリン脂肪酸エステル濃度の検討)
水道水11.9g(試験例2-1)、11.7g(試験例2-2)、11.5g(試験例2-3)、11.1g(試験例2-3)、9.9g(試験例2-5)又は8.9g(試験例2-6)に、リン脂質として酵素分解レシチンであるSLP-ホワイトリゾ(リン脂質含有量:92%以上)1.4g、及びポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフトQ-17S(HLB:12.0)0g(試験例2-1)、0.2g(試験例2-2)、0.4g(試験例2-3)、0.8g(試験例2-4)、2.0g(試験例2-5)又は3.0g(試験例2-6)を溶解させた後、ポリオールとして食品添加物グリセリン6.0gを混合した。さらに、ホップ抽出物であるエタノールエキストラクト0.7gを加えて、ホモジナイザーを用いて乳化処理(20,000rpm、1分間)することにより、ホップ抽出物含有エマルション各20gを得た。原料割合を表2に示した。
また、上記評価試験1と同様に評価試験を実施し、結果を表2に記載した。
【0032】
【表2】
【0033】
ホップ抽出物、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水を、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が4~15%となるように配合して乳化処理した試験例2-4~2-6では、各ホップ抽出物含有エマルションの1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた乳化物であることが明らかになった。
【0034】
一方、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量を0~2%として乳化処理した試験例2-1~2-3では、1%水溶液の調製直後にOD700が0.12以上となり、希釈して1%水溶液とすると乳化状態を維持できなかった。
【0035】
よって、ホップ抽出物、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水を、ポリグリセリン脂肪酸エステルを4%以上含有させて乳化処理することで、溶液中での乳化安定性がよく、耐熱性、耐冷凍性及びに耐酸性に優れたホップ抽出物含有エマルションが得られることが分かった。
【0036】
[試験例3]
(ポリグリセリン脂肪酸エステル種類の検討)
水道水10.5gに、リン脂質として酵素分解レシチンであるSLP-ホワイトリゾ(リン脂質含有量:92%以上)1.4g、及びポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフトA-171E(HLB:13.0、太陽化学株式会社製)(試験例3-1)、サンソフトQ-14S(HLB:14.5、太陽化学株式会社製)(試験例3-2)又はSYグリスターMM-750(HLB:15.7、阪本薬品工業株式会社製)(試験例3-3)各1.4gを溶解させた後、ポリオールとして食品添加物グリセリン6.0gを混合した。これらにホップ抽出物であるエタノールエキストラクト0.7gを加えて、ホモジナイザーを用いて乳化処理(20,000rpm、1分間)することにより、ホップ抽出物含有エマルション各20gを得た。原料割合を表3に示した。
また、上記評価試験1と同様に評価試験を実施し、結果を表3に記載した。なお、試験例1-4では、HLB12.0のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用して、試験例3と同様に処理したため、表3に併記した。
【0037】
【表3】
【0038】
ホップ抽出物、リン脂質、ポリオール及び水と、HLB12.0~15.7のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用して乳化処理した試験例1-4及び3-1~3-3では、各ホップ抽出物含有エマルションの1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた乳化物であることが明らかになった。
【0039】
よって、HLB12.0~15.7のポリグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質、ポリオール及び水を使用してホップ抽出物を乳化処理することで、溶液中での乳化安定性がよく、耐熱性、耐冷凍性及びに耐酸性に優れたホップ抽出物含有エマルションが得られることが分かった。
【0040】
[試験例4]
(リン脂質の検討)
水道水11.5g(試験例4-1)、11.1g(試験例4-2)、9.9g(試験例4-3)、8.9g(試験例4-4)又は11.1g(試験例4-5)に、リン脂質として酵素分解レシチンであるSLP-ホワイトリゾ(リン脂質含有量:92%以上)0.4g(試験例4-1)、0.8g(試験例4-2)、2.0g(試験例4-3)、3.0g(試験例4-4)又はレシチンであるSLP-ホワイト(リン脂質含有量:96%以上)0.8g(試験例4-5)、及びポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフトA-171E(HLB:13.0)1.4gを溶解させた後、ポリオールとして食品添加物グリセリン6.0gを混合した。これらにホップ抽出物であるエタノールエキストラクト0.7gを加えて、ホモジナイザーを用いて乳化処理(20,000rpm、1分間)することにより、ホップ抽出物含有エマルション各20gを得た。原料割合を表4に示した。
また、上記評価試験1と同様に評価試験を実施し、結果を表4に記載した。
【0041】
【表4】
【0042】
ホップ抽出物、酵素分解レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水を、酵素分解レシチン含有量が4~15%となるように配合して乳化処理した試験例4-2~4-4では、各ホップ抽出物含有エマルションの1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた乳化物であることが明らかになった。また、酵素分解レシチン含有量を2%として乳化処理した試験例4-1では、1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び1%クエン酸溶液調製直後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性及び耐冷凍性に優れることが分かったが、1%クエン酸溶液調製後に熱処理することでOD700が0.12以上となり、酸性下での耐熱性が低い乳化物であることが分かった。また、レシチンを使用した試験例4-5では、1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後及び1%クエン酸溶液調製直後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性に優れることが分かったが、耐冷凍性試験後及び1%クエン酸溶液調製後の熱処理でOD700が0.12以上となり、耐冷凍性が低く、酸性下での耐熱性が低い乳化物であることが分かった。
【0043】
よって、ホップ抽出物、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水を乳化処理することで、溶液中での乳化安定性がよく、耐熱性に優れたホップ抽出物含有エマルションが得られることが分かった。さらに、酵素分解レシチン含有量を4~15%として乳化処理することで、耐冷凍性及び耐酸性にも優れたホップ抽出物含有エマルションが得られることが分かった。
【0044】
[試験例5]
(抗酸化剤の効果)
水道水10.4gに、リン脂質として酵素分解レシチンであるSLP-ホワイトリゾ(リン脂質含有量:92%以上)1.4g、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフトA-171E(HLB:13.0)1.4gを溶解させた後、ポリオールとして食品添加物グリセリン6.0g、抗酸化剤として、酵素処理ルチンであるαGルチンPS(東洋精糖株式会社製)0.1g(試験例5-1)、酵素処理ヘスペリジンであるαGヘスペリジンPA-T(東洋精糖株式会社製)0.1g(試験例5-2)又は緑茶カテキンであるサンフェノン(登録商標)EGcg-OP(太陽化学株式会社製)0.1g(試験例5-3)を混合した。これらにホップ抽出物であるエタノールエキストラクト0.7gを加えて、ホモジナイザーを用いて乳化処理(20,000rpm、1分間)することにより、ホップ抽出物含有エマルション各20gを得た。原料割合を表5に示した。
また、上記評価試験1と同様に評価試験を実施し、結果を表5に記載した。
【0045】
【表5】
【0046】
ホップ抽出物、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水と、抗酸化剤を使用して乳化処理した試験例5-1~5-3では、各ホップ抽出物含有エマルションの1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた乳化物であることが明らかになった。
【0047】
[評価試験2]
(加熱虐待試験前後のα酸及びβ酸含有量の測定)
試験例3-2及び試験例5-1~5-3の各ホップ抽出物含有エマルションについて、加熱虐待試験を行い、試験前後にα酸の一種であるコフムロン及びβ酸の一種であるコルプロンの含有量を測定し、α酸及びβ酸の試験後の残存率を表6に記した。なお、試験は、各ホップ抽出物含有エマルションそのものを検体とし、調製直後及び加熱虐待試験後に、HPLCを用いて下記測定条件で測定した。なお、試験例3-2は、抗酸化剤を含まないこと以外は試験例5-1~5-3と同様に処理したものである。
加熱虐待試験は、検体を90℃設定のウォーターバスに5時間静置した。
<HPLCの測定条件>
・検出器:UV検出器(317nm)
・カラム:Inertsil ODS-P(4.6mm×25cm)
・移動相:60%メタノール水溶液から87%メタノール水溶液へグラジエント
・流速:0.8ml/分
・カラム温度:40℃
・標品:国際校正ホップエキスのInternational Calibration Extract ICE4(コフムロン:10.98%、コルプロン:13.02%、AMERICAN SOCIETY OF BREWING CHEMISTS製)をエタノールに溶解して、検量線を作成した。
・検体:各試料を蒸留水で希釈した後、ジメチルスルホキシドで希釈した。
【0048】
【表6】
【0049】
表6より、試験例3-2のホップ抽出物含有エマルションの調製方法に、さらに抗酸化剤を加えて乳化処理した試験例5-1~5-3のホップ抽出物含有エマルションの方が、α酸及びβ酸の残存率が何れも高かったことから、抗酸化剤を使用することで、α酸及びβ酸をより安定化できることが明らかになった。
【0050】
よって、ホップ抽出物含有エマルションの調製時に、抗酸化剤を使用して乳化処理することで、より機能性に富んだホップ抽出物含有エマルションを調製できることが分かった。
【0051】
[試験例6]
(ポリオール種類の検討)
水道水10.3g(試験例6-1)、4.7g(試験例6-2)、4.7g(試験例6-3)又は4.7g(試験例6-4)に、リン脂質として酵素分解レシチンであるSLP-ホワイトリゾ(リン脂質含有量:92%以上)1.4g及びポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフトA-171E(HLB:13.0)1.4gを溶解させた後、ポリオールとして、食品添加物グリセリン6g(試験例6-1)、食品添加物グリセリン6.6gとマルチトールであるアマルティ(登録商標)シロップ5g(三菱商事ライフサイエンス株式会社)(試験例6-2)、食品添加物グリセリン6.6gと高糖化還元水あめであるアマミール(登録商標)5g(三菱商事ライフサイエンス株式会社)(試験例6-3)又は食品添加物グリセリン6.6gと還元水あめであるPO-500 5g(三菱商事ライフサイエンス株式会社)(試験例6-4)、及び抗酸化剤として酵素処理ヘスペリジンであるαGヘスペリジンPA-T0.2gを混合した。これらにホップ抽出物であるエタノールエキストラクト0.7gを加えて、ホモジナイザーを用いて乳化処理(20,000rpm、1分間)することにより、ホップ抽出物含有エマルション各20gを得た。原料割合を表7に示した。
また、上記評価試験1と同様に評価試験を実施し、結果を表7に記載した。
【0052】
【表7】
【0053】
ホップ抽出物、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、抗酸化剤及び水を、各種ポリオールを使用して乳化処理した試験例6-1~6-4では、各ホップ抽出物含有エマルションの1%水溶液の調製直後、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈して1%水溶液としても乳化状態を維持でき、さらに耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた乳化物であることが明らかになった。
【0054】
よって、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、抗酸化剤及び水を使用してホップ抽出物を乳化処理することで、ポリオールの種類に関係なく、溶液中での乳化安定性がよく、耐熱性、耐冷凍性及びに耐酸性に優れたホップ抽出物含有エマルションが得られることが分かった。
【0055】
[まとめ]
以上より、ホップ抽出物を、少なくとも、リン脂質、3%以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、75%以下のポリオール及び水に添加して乳化処理することで、希釈後の水溶液中で乳化安定性がよく、加熱しても乳化が壊れない耐熱性に優れたホップ抽出物含有エマルションを形成することができ、さらに10~70%のポリオールを配合することで、冷凍・解凍しても乳化が壊れない耐冷凍性も付与することができ、さらに4%以上の酵素分解レシチン及び10~60%のポリオールを配合することで、酸性下で加熱しても乳化が壊れない耐酸性も付与することができることが分かった。さらに、抗酸化剤を併用することで、ホップ抽出物由来の機能性成分であるα酸及びβ酸をより安定化したホップ抽出物含有エマルションを得ることができることも分かった。
よって、本発明のホップ抽出物含有エマルションは、酸性飲料を含む飲料、ソース、ドレッシング等の調味料、スープ等の液状食品等、製造過程に加熱工程を含むような商品に添加でき、さらに機能性食品や化粧品としても利用可能である。