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  • 特許-字消し 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】字消し
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
B43L19/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019216883
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021084408
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宏和
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111320(JP,A)
【文献】特開2013-233725(JP,A)
【文献】特開昭63-137899(JP,A)
【文献】特開昭57-039999(JP,A)
【文献】実開平05-080790(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色度90%以上のPPC用紙との静摩擦係数及び動摩擦係数が0.80~0.95であり、フィブリル化した有機繊維を配合してなることを特徴とする字消し。
【請求項2】
フィブリル化した有機繊維は、融点がないか、または、融点が100℃~300℃である請求項1に記載の字消し。
【請求項3】
有機繊維がポリオレフィン繊維である、請求項1または2に記載の字消し。
【請求項4】
色度75%以上の上質紙との耐折れが21回以上である請求項1~3のいずれかに記載の字消し。
【請求項5】
プレス成形により成形された請求項1~4のいずれかに記載の字消し。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、字消し使用時の耐折れ・耐欠け性(字消しが使用中に折れたり欠けたりしないこと)に優れ、軽い使用感、優れた消字性を有する字消しに関する。
【背景技術】
【0002】
字消しは、筆記線の消去に欠かすことのできないものとして広く使用されている。字消しは一般に基材樹脂に可塑剤を配合し、さらに必要に応じて安定剤、着色料、香料等の材料を添加し混合撹拌した後、プレス成形、射出成形、押出成形等の成形方法により加熱、成形して製造される。
【0003】
字消しの強度は、繊維状物の添加により向上することが知られている。しかし、消し感の軽さを併せ持つものではなかった。
【0004】
例えば、特許文献1には、マグネシウムオキシサルフェート(MgSO・5MgO・8HO)繊維(平均繊維径0.5μm、平均繊維長50μm)を、字消し全体に対する重量割合で1~40%添加し射出成形や押出成形することにより、字消しの曲げ強さ、耐ひび割れ性が向上することが開示されている。実施例3では、前記繊維をポリ塩化ビニル、炭酸カルシウム、可塑剤等と配合した材料を、ミキサーで混練しプラスチゾルとした後、押出成形機(130℃)で円柱状物に成形して消しゴム(字消し)を得ている。
【0005】
特許文献2には、チタン酸カリウム繊維(平均繊維径0.2~0.3μm、平均繊維長20μm)を、ポリ塩化ビニル系の字消し全体に対する重量割合で0.2~10%添加し押出成形することにより、字消しの曲げ強度が向上することが開示されている。ガラス繊維を配合した場合に比べて曲げ強度(腰の強さ)が向上し優れた補強効果が得られ、チタン酸カリウム繊維は、繊維径が非常に細いため消去時に紙面に対するタッチがソフトであり、紙面を無理に削り取らずに適度に摩耗させることができることが記載されている。実施例1では、前記繊維をポリ塩化ビニル、重質炭酸カルシウム、可塑剤等を配合した材料を、ミキサーで混練しプラスチゾルとした後、押出成形機(100~150℃)で成形して消しゴム(字消し)を得ており、押出成形に際して、微細繊維が絡み合って押出されてくるため消しゴム強度の補強効果が顕著に現われ、成形時の安定性が高いことが記載されている。
【0006】
一方、字消しの摩耗力を小さくせず、字消しに消し感の軽さを付与する方法も知られているが、消し感の軽さと強度を併せ持つものは得られていない。
【0007】
例えば、特許文献3には、紡錘形炭酸カルシウムを消しゴム(字消し)全量の37%以上配合し、ポリ塩化ビニル、可塑剤と混練しプラスチゾルとした後、角棒に押出成形する方法が提案されている。
【0008】
特許文献4には、粒子径が150μm以下のガラスビーズを、樹脂100重量部に対して1~400重量部添加する方法が提案されている。
【0009】
また、特許文献5には、消しカスがでない字消しの消去力向上と変形抑制のために、繊維径7~12μm(最大で20μm)、繊維長1~3mmのファイバー粒子(炭素繊維、ガラス繊維、ポリアミド繊維等)を添加することが提案されている。しかし、消し感の軽さと強度を併せ持つものは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭63-137899号公報(特許請求の範囲、第1頁左欄第11-12行、第2頁右下欄第2-13行、実施例3等)
【文献】特公昭62-47720号公報(特許請求の範囲、第2頁第3欄第16-37行等)
【文献】特開2015-91649号公報(特許請求の範囲、段落[0014]等)
【文献】特許第4633777号公報(特許請求の範囲、表1等)
【文献】特開2014-111320号公報(特許請求の範囲、段落[0023]、実施例5~7等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これまで知られていなかった、字消しの摩耗力を小さくさせず、消し感(使用感)の軽さと、使用時の耐折れ・耐欠け性に優れ、消字性にも優れる字消しを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討を行い、基材樹脂にフィブリル化した有機繊維を添加することにより、消し感の軽さと強度(使用時の耐折れ・耐欠け性)に優れる字消しが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0014】
1)白色度90%以上のPPC用紙との静摩擦係数及び動摩擦係数が0.80~0.95であり、フィブリル化した有機繊維を配合してなることを特徴とする字消し。
2)フィブリル化した有機繊維は、融点がないか、または、融点が100℃~300℃である前記1)に記載の字消し。
3)有機繊維がポリオレフィン繊維である、前記1)または2)に記載の字消し。
)白色度75%以上の上質紙との耐折れが21回以上である前記1)~3)のいずれかに記載の字消し。
5)プレス成形により成形された前記1)~4)のいずれかに記載の字消し。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消字性に優れると共に、消し感(即ち、使用感)が軽く、強度(即ち、使用時の耐折れ・耐欠け性)に優れる字消しを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】摩擦係数の測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で用いるフィブリル化した有機繊維とは、有機繊維がフィブリル状に解離したものであり、好ましくは、繊維表面からフィブリルが出ている多分岐構造を有する繊維が用いられる。有機繊維をカットした短繊維(カットファイバー)と異なり、多分岐構造を有する。
【0018】
フィブリル化した有機繊維の種類としては、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等の合成繊維;アセテート等の半合成繊維;レーヨン、リヨセル(テンセル)、ポリノジック等の再生繊維;セルロース繊維;等が挙げられる。これらを1種又は2種以上併用して使用することができる。これらの中でも、字消しの摩擦係数を小さくすることができ、強度及び消字性に優れている、ポリオレフィン繊維およびセルロース繊維が好ましい。さらに繊維表面からフィブリルが出ている多分岐構造を有していて、粉末として配合することが可能で加工性に優れている点より、ポリオレフィン繊維がより好ましい。
【0019】
フィブリル化した有機繊維は市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、フィブリル化したポリオレフィン繊維として、ケミベストFDSS-5、ケミベストFDSS-2、ケミベストFD380(三井化学ファイン株式会社)等、フィブリル化したセルロース繊維として、FD-100F、FD-200L、KY-100S、KY-100G(株式会社ダイセル)等、フィブリル化したポリアミド繊維として、KY-400S(株式会社ダイセル)等が挙げられる。
【0020】
フィブリル化した有機繊維の繊維長は0.1mm~10mmが好ましい。0.1mm未満では、字消しに充分な強度を付与できないおそれがあり、10mmを超えると、字消し表面からカスが剥離しにくくなり、消字性能が低下する傾向がある。前記の繊維長は、さらに好ましくは0.1mm~5mm、特に好ましくは0.5~2mmである。
【0021】
フィブリル化した有機繊維の繊維径は0.01μm~30μmが好ましい。0.01μm未満では、フィブリル化した有機繊維製造時の機械的エネルギーが大きくなるためコスト高となり、30μmを超えると、字消しの摩擦係数が極端に小さくなるため消字力が低下するおそれがある。前記の繊維径は、さらに好ましくは2~30μmである。繊維径は1本、1本の繊維を、光学顕微鏡、電子顕微鏡などの顕微鏡で観察して測定できる。
【0022】
フィブリル化した有機繊維の含有量は、基材樹脂100質量部に対して、0.5~30質量部が好ましく、さらに好ましくは1~20質量部、特に好ましくは2.5~10質量部である。含有量が少なすぎる場合は字消しの消し感及び強度を向上させることが困難であり、反対に多すぎても効果が頭打ちになるため不経済となる。
【0023】
本発明の字消しに用いられる基材樹脂としては、フィブリル化した有機繊維を添加した際に、消し感の軽い字消しが得られることより、塩化ビニル系樹脂が好ましい。基材樹脂は、単独又は必要に応じて2種類以上組み合わせて用いてもよい。基材樹脂の含有量は、字消し組成物全量に対して、20~50質量%(以下、「%」と略記する)が好ましく、さらに好ましくは25~40%である。
【0024】
塩化ビニル系樹脂としては、従来用いられている塩化ビニル系樹脂を全て用いることができ、例えば、重合度400~4,000程度のポリ塩化ビニルの他、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン、塩化ビニル-アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸メチル共重合体、及び塩化ビニル-アクリル酸オクチル共重合体等が挙げられる。これらは単独又は必要に応じて2種類以上組み合わせて用いてもよい。塩化ビニル系樹脂としては、ペーストレジンが可塑剤等との混和及び加工が容易な点で好ましい。
【0025】
本発明の字消しにおいては、公知の可塑剤を特に限定なく用いることができ、塩化ビニル系樹脂との混和性に優れている可塑剤が好ましく用いられる。
【0026】
好ましい可塑剤の具体例としては、例えば、
ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート(n-DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジノニルフタレート(DNP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジトリデシルフタレート(DTDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)等のフタル酸系可塑剤;
トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソデシルトリメリテート(TIDTM)、トリイソオクチルトリメリテート(TIOTM)、トリイソノニルトリメリテート等のトリメリット酸系可塑剤;
トリオクチルピロメリット酸(TOPM)等のピロメリット酸系可塑剤;
二塩基酸(例えば、アジピン酸)と、多価アルコール(例えば、炭素数2~18の脂肪族グリコールならびにジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール)の少なくとも1種と、炭素9~18の一価アルコール又は炭素数9~18の一価カルボン酸から選ばれた少なくとも1種と、を縮合して得られるポリエステル等のポリエステル系可塑剤(液状ポリエステル系可塑剤も含まれる);
エポキシ化油脂、エポキシ化脂肪酸エステル等のエポキシ系可塑剤;
ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ジイソデシルアジペート(DIDA)等のアジピン酸系可塑剤;
ジ-2-エチルヘキシルセバケート(DOS)、ジブチルセバケート(DBS)等のセバシン酸系可塑剤;
ジ-2-エチルヘキシルアゼレート(DOZ)等のアゼライン酸系可塑剤;
トリクレジルフォスフェート(TCP)、トリ-2-エチルヘキシルフォスフェート(TOP)等のリン酸系可塑剤;
トリエチルシトレート、アセチルトリ-n-ブチルシトレート、トリ-n-ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ-(2-エチルヘキシル)シトレート等のクエン酸系可塑剤;
PN-6120(商品名、ADEKA社、グリコールジエステル)、Benzoflex9-88(ジプロピレングリコールジベンゾエート)、Benzoflex50(ジエチレングリコールジベンゾエートとジプロピレングリコールジベンゾエートの混合物)、Benzoflex2088(ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエートの混合物)(いずれも商品名、EASTMAN社)、PB-3A、W-83(いずれも商品名、DIC社)等の安息香酸系可塑剤;
メザモール、メザモールII(いずれも商品名、バイエル社)等のアルキルスルフォン酸フェニルエステル;
DINCH(商品名、BASF社)等のシクロヘキサンジカルボン酸エステル;
等が挙げられる。
【0027】
上記のアルキルスルフォン酸フェニルエステルは、下記式で表わされる。
【化1】
上記のシクロヘキサンジカルボン酸エステルは、下記式で表わされる。
【化2】
式中、R、Rは互いに独立して、炭素数1~20のアルキル基を表す。R、Rは、同一又は異なっていてよい、直鎖又は分岐鎖を有する、炭素数1~20のアルキル基(好ましくは炭素数3~18のアルキル基、特に好ましくは炭素数7~13のアルキル基)である。R、Rは、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基でもよい。上記のシクロヘキサンジカルボン酸エステルの中でも、R、Rが、炭素数7~13のアルキル基である、例えば、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソペンチルエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソヘプチルエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソノニルエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジノニルエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソデシルエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸のジ(C7-11)アルキルエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸のジ(C9-11)アルキルエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸のジ(C7-9)アルキルエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸のジ(C8-13)アルキルエステル等が好ましい。
【0028】
上記の可塑剤は、単独又は必要に応じて2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記の可塑剤の中でも、環境適応性が高いことより、非フタル酸系可塑剤が好ましい。非フタル酸系可塑剤の中では、消字性に優れていてべたつきが少ない可塑剤である、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルが好ましい。また、これらの可塑剤と、常温で液状である、液状アクリルポリマーもしくは液状ポリエステルとの併用も好ましい。液状アクリルポリマーもしくは液状ポリエステルを他のエステル系可塑剤と併用することにより、他の可塑剤の耐移行性(字消し表面に可塑剤が移行するのを抑制すること)を向上させることができ、表面がべたつかない、消字性の高い字消しを得ることができる。また、アルキルスルフォン酸フェニルエステルは、基材樹脂との相溶性が高く、容易に混合または混練され、可塑剤の移行が起こりにくく、耐熱性、加工性に優れているため、フィブリル化したポリオレフィン繊維との組合せに好適である。
【0030】
本発明の字消しにおける可塑剤の配合量は、字消し組成物全量に対して、30~70%とすることが好ましく、さらに好ましくは40~65%、特に好ましくは45~60%である。可塑剤の配合量が30%未満では字消しが硬くなり弾力性が低下し消字性も低下する場合があり、70%を超えると字消しが柔らかくなり過ぎ消字性が低下することで、字消しとして使用困難になる場合がある。
【0031】
本発明の字消しには、硬度及び消し感を調整するために、充填剤を配合することができる。充填剤としては、珪石粉(主成分:二酸化珪素)あるいは石灰石粉(重質炭酸カルシウム)を用いるのが一般的であり、これらの無機粉体は、筆記面を痛めないように微粉化したものを用いる。その他、珪藻土、タルク、シラス粉末、炭酸マグネシウム、無機及び有機の中空粒子等を使用することができる。良好な消し感が得られることより、石灰石粉が好ましい。
【0032】
充填剤の配合量は、字消し組成物全量に対して、5~40%が好ましく、さらに好ましくは10~30%、特に好ましくは10~20%である。充填剤の配合量が5%以上あれば、消し感が重くならず消しカスも出やすいため消字性能が低下することがなく、40%以下であれば、紙面と接する基材樹脂の面積が充分確保されるため、消字性能が低下することがない。
【0033】
充填剤とフィブリル化した有機繊維の配合比率は質量比で、フィブリル化した有機繊維/充填剤=0.02/1~0.5/1に調製することが好ましい。さらに好ましくは0.08/1~0.4/1、特に好ましくは0.1/1~0.4/1である。フィブリル化した有機繊維が少な過ぎる場合は、強度が不十分となるおそれがあり、反対に多すぎる場合は不経済になる。
【0034】
本発明の字消しには、基材樹脂が成形時に高温劣化するのを防止するため、必要に応じて安定剤を用いることができ、光安定性向上のため紫外線吸収剤等の光安定剤を配合することもできる。その他、粘度調整剤、滑剤、溶剤、着色剤、防腐剤、防黴剤、香料等の添加剤を配合することもできる。これらの添加剤は、本発明による効果を阻害しない範囲内であれば、配合量も特に制限されない。
【0035】
本発明の字消しは、消し感が優れている。字消しと、白色度90%以上のPPC用紙との静摩擦係数及び動摩擦係数は、0.80~0.95であることが好ましい。前記の摩擦係数が0.80以上であれば、しっかりと字消しが紙に食い付き消字できる。実際の使用では摩擦係数が小さすぎると、筆記線が伸び、また字消し表面が削れにくくなるため消しているうちに消えなくなってしまう。一方、摩擦係数が0.95以下であれば、良好な消し感の軽さを得ることができる。摩擦係数が前記の範囲内であると、紙面との摩擦力を適度な大きさにできるため、良好な消し感の軽さと、字消しとして使用するに充分な消字力を維持、両立することができる。前記の摩擦係数は、さらに好ましくは0.80~0.92である。
【0036】
本発明の字消しは、強度(耐折れ・耐欠け性)が優れている。耐折れは、後述する耐折れ評価方法による評価が21回以上であることが好ましい。このような耐折れは、シリカ粉末の様なゴム製品等に一般的に用いられる補強材類の一部の配合で達成可能であるが、その場合は軽い消し感が得られないという不都合が生じる。また、高強力繊維の短繊維を配合した場合も、前記耐折れを達成可能であるが、その場合は紙との摩擦力が小さくなり過ぎることにより消字力が低下し、また実際の使用では筆記線が伸び、消しているうちに消えなくなってしまうため、実用に供し得ない字消しになる。一方、フィブリル化していない有機繊維であるKCフロックの配合では、消字力は確保できるが、耐折れが不良になる。即ち、KCフロックの配合では、摩擦係数が0.80~0.95の範囲内でも、フィブリル化した繊維に比べて耐折れ効果が劣る。
【0037】
本発明の字消しは、基材樹脂、可塑剤、安定剤、フィブリル化した有機繊維、更に必要に応じて各種配合剤の所定量を常法により混練した後、プレス成形、射出成形、押出成形等、公知の方法で成形することができる。成形温度は90~150℃である。成形品は所定の寸法に裁断して製品とされる。成形法は、特に限定されるものではなく、消し感の軽さ、強度、及び所望の消字率が得られる成形方法を選択すればよい。
【実施例
【0038】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
字消しの硬度、消字率、耐折れ、摩擦係数は、下記の方法により測定又は評価した。
[硬度(硬さ)]
(1)C型(表面の硬さ);JIS S 6050:2002 6.2に準拠した。硬さ試験機を用い、水平に保持した試験片の表面に、試験機の押針が鉛直になるようにして加圧面を接触させ、直ちに目盛を読み取った。
【0040】
[消字率]
JIS S 6050:2002 6.4に準拠した。
(1)字消しを厚さ5mmの板状に切り、着色紙と接触する先端部分を半径6mmの円弧に仕上げたものを試験片とした。
(2)画線機を用いて、JIS S 6006に規定する鉛筆のHBと、坪量90g/m以上、白色度75%以上の上質紙を使用して着色紙を作製し、この着色紙に対して、試験片を垂直に、しかも着色線に対して直角になるように接触させ、試験片におもりとホルダの質量の和が0.5kgとなるようにおもりを載せ、150±10cm/minの速さで着色部を4往復摩消させた。
(3)濃度計によって、着色紙の非着色部分の濃度を0として、着色部及び摩消部の濃度をそれぞれ測定した。
(4)消字率は次の式によって算出し、3回の平均値を求めた。
消字率(%)=(1-(摩消部の濃度÷着色部の濃度))×100
【0041】
[耐折れ]
(1)字消しを厚さ5mmの板状に切り、着色紙と接触する先端部分を半径6mmの円弧に仕上げたものを試験片とした。
(2)消字率と同様の着色紙に対し、試験片を垂直に、また移動方向が試験片の厚さ方向になるように接触させ、試験片に、おもりとホルダの質量の和が1.0kgとなるようにおもりを乗せ、150±10cm/minの速さで往復させた。
(3)試験片が破断するまでの往復回数(往路で破断した場合は切り上げ)を最大50回まで測定し、3回の中央値を求めた。
【0042】
[摩擦係数]
摩擦係数の測定方法を図面を参照しながら説明する。図1は、摩擦係数の測定方法を示す模式図であり、(a)は全体図、(b)は4個の試験片1とワイヤー6を取り付けた金属板2を下方から見た図である。なお、図1は模式図のため、各部分の大きさの比率や形状は正確ではない。
(1)横12mm、高さ8mm、厚さ(縦)5mmの長方形板状の字消しの、下方先端(試験紙4と接触させる部分)を半径6mmの円弧に成形したものを試験片1とし、同じものを計4個作製した。
(2)厚さ(高さ)6mmの正方形(縦60mm×横60mm)の金属板2の下面の四隅に、試験片1を前記円弧を下側にして、向きをそろえて1個ずつ貼り付けた(図1(b)参照)。
(3)地面と水平に設置された摩擦試験機5は、本体部5aの上を水平方向に移動可能な試験台5bと、ロードセル5cを備える。この試験台5bの上に、白色度90%以上のPPC用紙である試験紙4を貼り付けた。
(4)上記試験紙4の上に、上記(2)の金属板を、試験片1を下側とし、試験台5bの移動方向が試験片1の円弧の頂点の接線方向(試験片1の厚さ方向と垂直の方向)となる向きに置き、4個の試験片1を試験紙4に対して垂直に接触させた。
(5)金属板2の上面中央に、金属板2と併せて重量が0.5kgとなるよう、おもり3を乗せた。
(6)金属板2をロードセル5cにワイヤー6を介してつなぎ、試験台5b(及び試験紙4)を200mm/分の速さでロードセル5c側と反対の方向(図1(a)中の矢印方向)へ50mm移動させて、4個の試験片1と試験紙4の間の静摩擦係数および動摩擦係数を測定し、3回測定した中央値を測定値とした。
【0043】
(実施例1~11、比較例1~11)
表1に示す基材樹脂、可塑剤、安定剤ならびに表2に示す各材料を、所定の割合(表1、表3、表4参照)で、減圧下にて撹拌した後、110℃でプレス成形し、試験体を得た。表2に示す各材料のうち、炭酸カルシウムは充填剤である。フィブリル化した有機繊維である多分岐ポリオレフィン繊維、フィブリル化した有機繊維であるフィブリル化セルロース繊維、シリカ粉末(以上、実施例)、粉末セルロース、超高強力ポリエチレン繊維、珪酸塩鉱物(以上、比較例)は、字消しの補強材として使用した。なお、フィブリル化セルロース繊維は含水材料(固形分25%)のため、押出成形により試験体を得た。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
得られた字消しの評価結果を表3、表4に示す。なお、実施例6~10は参照例である。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表3及び表4より、フィブリル化した有機繊維を配合した本発明例の字消しは、KCフロックを配合した字消しに比べて、耐折れ及び摩擦係数が優位にあることが分かる(例えば、実施例4と比較例6の対比)。
フィブリル化した有機繊維とシリカ粉末を併用することにより(実施例6)、フィブリル化した有機繊維と炭酸カルシウムを併用した字消し(実施例3)に比べて、耐折れ性が著しく向上することが分かり、またシリカ粉末を単体で使用した字消し(比較例9)と比べても、耐折れ、摩擦係数が向上することが分かる。
【0050】
超高強力ポリエチレン繊維を配合した字消し(比較例3)は、耐折れ及び摩擦係数は本発明例より優位にあるが、消字率が劣り、使用により筆記線が伸び、消している間に消しカスが出にくくなり消えなくなる現象が見られた。無機長繊維(ウォラストナイト)を配合した字消し(比較例4)は、摩擦係数が高く、耐折れも劣っていた。無機粉末を配合した字消しでは、軽い消し感が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の字消しは、鉛筆やシャープペンシル等の筆記描線の消去等に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 試験片
2 金属板
3 おもり
4 試験紙
5 摩擦試験機
5a 本体部
5b 試験台
5c ロードセル
6 ワイヤー
図1