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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】回転体
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/32 20060101AFI20231201BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20231201BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H02K1/32 Z
H02K1/22 C
F16C13/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022061750
(22)【出願日】2022-04-01
(65)【公開番号】P2023151891
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】512053428
【氏名又は名称】西岡可鍛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 学
(72)【発明者】
【氏名】亀本 明敬
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-533422(JP,A)
【文献】特開2020-093282(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0237316(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0013717(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00- 1/16
H02K 1/18- 1/26
H02K 1/28- 1/34
H02K 9/00- 9/28
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターにおけるローターが取り付けられて、当該ローターと一緒に回転する回転体であって、
全体が鋳造金属によって一体に形成された軸をなし、かつ、
前記軸の軸方向に延びる一続きの中空構造をなす鋳抜き穴と、
前記軸の外側面において前記軸方向に離れた2か所に設けられて、それぞれが前記中空構造を前記軸の外の空間に連通させる開口の組と、
前記軸方向で見て前記2か所の間となる位置に設定される中間部と、
前記中間部における前記外側面に設けられて、前記ローターが取り付けられるように構成された取り付け部と、
前記中間部における前記鋳抜き穴の鋳肌から突出された板をなして、当該鋳抜き穴の鋳肌を介した伝熱の効率を向上させる伝熱フィンと、
を備え、
前記伝熱フィンが、前記軸方向の一方側から他方側に向かって延びる仮想的ならせん面に沿って配設された状態で前記中空構造を仕切り、
前記伝熱フィンの根元部分に沿って、液体をすくうことが可能なすくい部分が設定され、
さらに、前記伝熱フィンの前記一方側または前記他方側の端から延びて前記鋳抜き穴の端に達し、前記開口から前記鋳抜き穴の内部に供給された液体をすくい部分に達するように伝わせるつたい部分を備えている、
回転体。
【請求項2】
請求項に記載された回転体であって、
それぞれが前記一方側から前記他方側に向かって延びる複数枚の前記伝熱フィンを、前記軸の周方向に並設した状態に備えている、
回転体。
【請求項3】
モーターにおけるローターが取り付けられて、当該ローターと一緒に回転する回転体であって、
全体が鋳造金属によって一体に形成された軸をなし、かつ、
前記軸の軸方向に延びる一続きの中空構造をなす鋳抜き穴と、
前記軸の外側面において前記軸方向に離れた2か所に設けられて、それぞれが前記中空構造を前記軸の外の空間に連通させる開口の組と、
前記軸方向で見て前記2か所の間となる位置に設定される中間部と、
前記中間部における前記外側面に設けられて、前記ローターが取り付けられるように構成された取り付け部と、
前記中間部における前記鋳抜き穴の鋳肌から突出された板をなして、当該鋳抜き穴の鋳肌を介した伝熱の効率を向上させる複数枚の伝熱フィンと、
を備え、
複数枚の前記伝熱フィンのそれぞれが、前記軸方向に垂直に広がって、前記鋳抜き穴がなす前記中空構造を部分的に仕切るオリフィス板である、
回転体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーターにおいてローターと一緒に回転する回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーターにおいては、ローターを回転体の外側面に一体に取り付け、これらが一緒に回転するようにした構成のものが存在する。このような構成のモーターに関しては、その回転体の内部に設けた流体の流路によってローターの温度調整の効率を向上させる技術が公知であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/086227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の従来技術では、回転体は、複数の部材を焼きばめによって嵌合させた上で、適宜にシール処理(具体的には例えばロウ付けまたは溶接など)を行うことによって生産される。言いかえると、上記特許文献1の回転体は、その生産にあたり複数の部材を組み合わせる必要があり、その生産に手間がかかるものであった。
【0005】
本開示は、ローターの温度調整の効率を向上させる流体の流路が内部に設けられた回転体であって、複数の部材を組み合わせる手間をかけることなく生産可能な回転体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における1つの特徴によると、モーターにおけるローターが取り付けられて、このローターと一緒に回転する回転体が提供される。この回転体は、全体が鋳造金属によって一体に形成された軸をなす。また、回転体は、軸の軸方向に延びる一続きの中空構造をなす鋳抜き穴を備えている。また、回転体は、軸の外側面において軸方向に離れた2か所に設けられて、それぞれが中空構造を軸の外の空間に連通させる開口の組を備えている。また、回転体は、軸方向で見て上記2か所の間となる位置に設定される中間部を備えている。また、回転体は、中間部における外側面に設けられて、ローターが取り付けられるように構成された取り付け部を備えている。また、回転体は、中間部における鋳抜き穴の鋳肌から突出された板をなして、この鋳抜き穴の鋳肌を介した伝熱の効率を向上させる伝熱フィンを備えている。
【0007】
上記の回転体によれば、回転体の内部には、2か所に設けられた開口の一方から他方に抜ける流体の流路が設定される。この流路は、伝熱フィンを有する鋳抜き穴の鋳肌を介して、ローターが取り付けられる取り付け部との間での熱伝達を実現させ、もってローターの温度調整の効率を向上させる。また、上記の回転体は、その全体が鋳造金属によって一体に形成された構成のため、1回の鋳造によって、複数の部材を組み合わせる手間をかけることなく生産することができる。これにより、上記の回転体は、ローターの温度調整の効率を向上させる流体の流路が内部に設けられた回転体であって、複数の部材を組み合わせる手間をかけることなく生産可能な回転体とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ローターの温度調整の効率を向上させる流体の流路が内部に設けられた回転体であって、複数の部材を組み合わせる手間をかけることなく生産可能な回転体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態にかかる回転体10を表した斜視図である。
図2図1の回転体10を表した正面図である。
図3図1の回転体10を表した右側面図である。
図4図1の回転体10を表した左側面図である。
図5図3のV-V線断面矢視図である。
図6図2のVI-VI線断面矢視図である。
図7図2のVII-VII線断面矢視図である。
図8図5のVIII-VIII線断面矢視図である。
図9図1の回転体10の使用状態を表した要部断面図である。
図10】第2の実施形態にかかる回転体20を表した平面図である。
図11図10の回転体20を表した右側面図である。
図12図10の回転体20を表した左側面図である。
図13図11のXIII-XIII線断面矢視図である。
図14図13のXIV-XIV線断面矢視図である。
図15】第3の実施形態にかかる回転体30を表した正面図である。
図16図15の回転体30を表した右側面図である。
図17図15の回転体30を表した左側面図である。
図18図16のXVIII-XVIII線断面矢視図である。
図19図18のXIX-XIX線断面矢視図である。
図20】第4の実施形態にかかる回転体40を表した正面図である。
図21図20の回転体40を表した右側面図である。
図22図20の回転体40を表した左側面図である。
図23図21のXXIII-XXIII線断面矢視図である。
図24図23のXXIV-XXIV線断面矢視図である。
図25】第5の実施形態にかかる回転体50を表した正面図である。
図26図25の回転体50を表した右側面図である。
図27図25の回転体50を表した左側面図である。
図28図26のXXVIII-XXVIII線断面矢視図である。
図29図28のXXIX-XXIX線断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記の回転体は、伝熱フィンが、軸方向の一方側から他方側に向かって延びるように配設された状態で中空構造を仕切っているものであってもよい。
【0011】
上記の回転体によれば、鋳抜き穴の内部において流体が移動する向きを伝熱フィンによって軸方向寄りに調整し、もって2か所に設けられた開口の一方から他方に抜ける流体の流れをよりスムーズにすることができる。
【0012】
上記の回転体は、それぞれが一方側から他方側に向かって延びる複数枚の伝熱フィンを、軸の周方向に並設した状態に備えているものであってもよい。
【0013】
上記の回転体によれば、流れの向きを調整するべき流体を複数枚の伝熱フィンに分散させてこの流体の流れに偏りが生じることを抑え、もって上記開口の一方から他方に抜ける流体の流れをよりスムーズにすることができる。
【0014】
上記の回転体は、伝熱フィンが、一方側から他方側に向かって延びる仮想的ならせん面に沿って配設されているものであってもよい。
【0015】
上記の回転体によれば、回転体がローターと一緒に回転するときに、伝熱フィンは鋳抜き穴の内部の流体を軸方向の片側に移動させるスクリューとして機能する。これにより、2か所に設けられた開口の一方から他方に抜ける流体の流れをよりスムーズにすることができる回転体を提供することができる。
【0016】
上記の回転体は、伝熱フィンの根元部分に沿って、液体をすくうことが可能なすくい部分が設定されているものであってもよい。
【0017】
上記の回転体によれば、回転体は、ローターと一緒に回転するときに、開口の組の片方から鋳抜き穴の内部に導入された液体をすくい部分ですくい、これを上記開口の組のもう一方に向けて運ぶことができる。これにより、上記開口の組の片方のみに液体の熱媒体が供給される場合でも、この熱媒体を中間部における鋳抜き穴の鋳肌に行き渡らせて、ローターの温度調整の効率を向上させることができる。
【0018】
以下に、本開示を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0019】
〈第1の実施形態〉
始めに、本開示の第1の実施形態にかかる回転体10について、図1ないし図9を用いて説明する。この回転体10は、図1および図9に示すように、モーター90におけるローター90Aが取り付けられて、このローター90Aと一緒に回転軸90Eの周りを回転する軸をなすものである。
【0020】
回転体10は、その全体が鋳造金属によって一体に形成されている。本実施形態においては、回転体10は、金属熔湯を砂型鋳型に鋳込んで得られる砂型鋳造品に対し、その外表面を適宜ターニングによって旋削することで生産される。ここで、上記砂型鋳型は、げんがたによって型取りされた複数の砂型を組み合わせてなる鋳型アッセンブリーであっても、3Dプリンターによって全体が一体に形成された砂型であってもよい。
【0021】
また、回転体10は、その軸の軸方向で見て一方側の端よりとなる部分が、モーター90の回転に対する負荷(図示せず)を取り付けるための軸先部10Bとされている。この軸先部10Bは、その一部がモーター90のきょう体から一方側に突出される。本実施形態においては、軸先部10Bは、一方側から他方側に向けて大径となる、複数段の段付き丸棒の形状を呈する。この段付き丸棒の中心軸は、回転軸90Eと一致される。
【0022】
また、回転体10は、その軸の軸方向で見て他方側の端よりとなる部分が、モーター90のきょう体における鏡板をなすエンドベル90Dに軸支される軸端部10Cとされている。本実施形態においては、軸端部10Cは、図1および図2に示すように、他方側から一方側に向けて大径となる複数段の段付き丸棒において他方側となる部分に、径方向外方に張り出すフランジ10Eを設けた形状を呈する。このフランジ10Eは、図1ないし図4に示すように、二方取り形状(すなわちベースとなる円筒からその径方向で見た両端を切り取って、これら両端を互いに平行な平面とした形状)を呈する。フランジ10Eが呈する二方取り形状において、その「ベースとなる円筒」の中心軸は、回転軸90Eと一致される。
【0023】
また、回転体10は、軸先部10Bと軸端部10Cとをつなぐ中間部10Dを備えている。本実施形態においては、中間部10Dは、図2および図4に示すように、回転体10の軸の軸方向(図2参照)に延びる長尺の円筒形状を呈する。この円筒の中心軸は、回転軸90Eと一致される。
【0024】
また、回転体10は、図1および図9に示すように、その軸の外側面10Aにおいて中間部10Dに対応する部分が、ローター90Aが取り付けられるように構成された取り付け部12とされている。言いかえると、回転体10は、中間部10Dにおける外側面10Aに設けられて、ローター90Aが取り付けられるように構成された取り付け部12を備えている。
【0025】
また、回転体10は、図2および図4に示すように、その軸の外側面10Aにおいて軸方向に離れた2か所に、開口11B、11Cの組を備えている。本実施形態においては、開口11B、11Cは、図4に示すように、それぞれ4つが1セットとされて、これらが軸の周方向に等角度間隔で開口されている。
【0026】
4つの開口11Cは、図2および図4に示すように、外側面10Aにおいてフランジ10Eに対応する部分に開口される。また、4つの開口11Bは、外側面10Aにおいて軸先部10Bの根元(すなわち中間部10Dと隣り合う部分)に対応する部分に開口される。このため、中間部10Dは、回転体10の軸方向で見て開口11B、11Cが設けられる2か所の間となる位置に設定されることになる。
【0027】
ここで、4つの開口11Cのうち2つは、図3に示すように、フランジ10Eが呈する二方取り形状の長手方向(図3では左右方向)を向いた状態に開口される。また、4つの開口11Cのうち残り2つは、フランジ10Eが呈する二方取り形状の長手方向に直交する方向を向いた状態に開口される。ここで、二方取り形状における「長手方向」とは、その両端の平面に平行で、かつ、ベースとなる円筒の中心軸に対して垂直な方向のことをいう。
【0028】
また、4つの開口11Bは、図4に示すように、その2つがフランジ10Eの二方取り形状の長手方向(図4では左右方向)を向いた状態に開口され、残り2つが該長手方向に直交する方向を向いた状態に開口される。言いかえると、4つの開口11Bは、4つの開口11Cと同じ向きを向いた状態に開口される。
【0029】
また、回転体10は、図5に示すように、その軸の軸方向に延びる一続きの中空構造をなす鋳抜き穴11を備えている。この鋳抜き穴11は、軸先部10Bの根元から中間部10Dを貫通してフランジ10Eに至るように設けられている。このため、鋳抜き穴11がなす中空構造は、組をなす開口11B、11Cのそれぞれによって、回転体10の軸の外となる空間に連通されることになる。
【0030】
また、回転体10は、中間部10Dにおける鋳抜き穴11の鋳肌11Aから突出されて、この鋳肌11Aを介した伝熱の効率を向上させる伝熱フィン13を備えている。この伝熱フィン13は、回転体10がなす軸の軸方向の一方側から他方側に向かって延びる仮想的ならせん面13Aに沿って配設されることで、この一方側から他方側に向かって延びるZ巻きのつるまき線をなすように配設される。
【0031】
本実施形態においては、鋳抜き穴11は、図5および図8に示すように、その伝熱フィン13を除いた部分の鋳肌11Aが、円筒形状となるように形成されている。ここで、鋳肌11Aがなす円筒の中心軸は、図3および図4に示すように、回転軸90Eと一致される。
【0032】
らせん面13Aは、図5に示すように、鋳抜き穴11の鋳肌11Aがなす円筒の中心軸(図4の回転軸90Eを参照)の周りを周回しながら軸方向に延びる常らせん面である。この常らせん面は、その周回1回分の長さであるピッチ13Eが常に一定であるという性質を有する。
【0033】
伝熱フィン13は、図5および図9に示すように、鋳抜き穴11がなす中空構造を部分的に仕切る1枚の板をなす。この板は、その根元部分に沿って、液体(具体的には例えば図9に示す熱媒体油91)をすくうことが可能なすくい部分13Bが設定されているものである。
【0034】
また、伝熱フィン13には、図5および図6に示すように、その一方側(すなわち軸先部10B側)の端からZ巻きのつるまき線をなして延びる突条であるつたい部分13Cが延設されている。本実施形態においては、つたい部分13Cは、鋳抜き穴11の鋳肌11Aから突出されるリブをなす。また、つたい部分13Cは、伝熱フィン13を軸方向両側(図5で見て左右方向)に引き伸ばした形状を呈して、鋳抜き穴11における一方側の端にまで達する。
【0035】
また、伝熱フィン13には、図5および図7に示すように、その他方側(すなわち軸端部10C側)の端からZ巻きのつるまき線をなして延びる突条であるつたい部分13Dが延設されている。本実施形態においては、つたい部分13Dは、鋳抜き穴11の鋳肌11Aから突出されるリブをなす。また、つたい部分13Dは、伝熱フィン13を軸方向両側(図5で見て左右方向)に引き伸ばした形状を呈して、鋳抜き穴11における他方側の端にまで達する。
【0036】
続いて、上述した回転体10が適用されるモーター90について説明する。このモーター90は、図9に示すように、その回転の負荷(図示せず)が取り付けられる軸先部10Bを斜め上方(図9では右上方向)に向けた状態に配設される。
【0037】
また、モーター90において、そのきょう体の鏡板をなすエンドベル90Dには、モーター90の外部から熱媒体油91が供給される熱媒体供給部90Bが組みつけられている。この熱媒体供給部90Bは、回転体10のフランジ10Eを取り巻くように配設されて、その開口11Cを介して熱媒体油91を鋳抜き穴11の内部に供給する。
【0038】
ここで、熱媒体油91は、液体の熱媒体であり、モーター90の外部に設けられた熱媒体循環式の温度調整装置(図示せず)から熱媒体供給部90Bに供給される。この温度調整装置は、循環させる熱媒体油91の流速、循環圧、および、温度のそれぞれをコントロールすることが可能に構成されている。本実施形態においては、温度調整装置は、鋳抜き穴11の容積に比して少ない量の熱媒体油91を、自然流下によって鋳抜き穴11の内部に供給する。この際、熱媒体油91は、その一部がこぼれ落ちることがあるが、このこぼれ落ちた熱媒体油91は、熱媒体供給部90Bが備えるドレイン(図示せず)によって回収され、上記温度調整装置に戻される。
【0039】
また、モーター90のきょう体には、回転体10における軸先部10Bの根元をくるむように配設されたドレイン部90Cが組みつけられている。このドレイン部90Cは、回転体10の開口11Bから熱媒体油91がこぼれ落ちた場合に、このこぼれ落ちた熱媒体油91を回収して上記温度調整装置に戻す。
【0040】
モーター90は、そのローター90Aおよび回転体10を回転軸90Eの周りに回転させる。この回転の向きは、回転体10の伝熱フィン13およびつたい部分13Dにおける他方側の端が、回転の前側を向いた状態となる向き(図7参照)として設定される。また、上記回転の速度は、鋳抜き穴11の内部に供給された熱媒体油91が、上記回転にともなって移動する鋳抜き穴11の鋳肌11Aにつられて広がろうとする作用を無視できる程度に遅い速度として設定される。
【0041】
このため、開口11Cから鋳抜き穴11の内部に供給された熱媒体油91は、その一部がつたい部分13Dを伝ってすくい部分13Bに達し、このすくい部分13Bによってすくわれる。このすくい部分13Bは、伝熱フィン13の板がなすつるまき線に沿って設定されているため、上記回転にともなって熱媒体油91を軸方向の一方側に移動させる。これにより、熱媒体油91は、鋳抜き穴11の開口11Bに達してこの開口11Bからこぼれ落ちる。このこぼれ落ちた熱媒体油91は、ドレイン部90Cによって回収されて上記温度調整装置に戻される。
【0042】
なお、回転体10は、回転の負荷が取り付けられる軸先部10Bを斜め下方に向けた状態に配設されるモーター(図示せず)に適用することもできる。この場合、熱媒体油91は、開口11Bを介して鋳抜き穴11の内部に供給され、つたい部分13Cを伝ってすくい部分13Bに達する。そして、熱媒体油91は、すくい部分13Bによってすくわれて軸方向の他方側に移動され、鋳抜き穴11の開口11Cに達してこの開口11Cからこぼれ落ちる。
【0043】
また、回転体10は、その鋳抜き穴11の内部に熱媒体油91を充満させた状態でローターおよび回転体10を回転させるモーター(図示せず)に適用することもできる。この場合、伝熱フィン13は、その回転により熱媒体油91に流れを生じさせることで、この熱媒体油91を開口11Cから開口11Bへと、または、開口11Bから開口11Cへと移動させる。
【0044】
上述した回転体10によれば、回転体10の内部には、2か所に設けられた開口の一方から他方(開口11Cから開口11B、または、開口11Bから開口11C)に抜ける流体(熱媒体油91)の流路が設定される。この流路は、伝熱フィン13を有する鋳抜き穴11の鋳肌11Aを介して、ローター90Aが取り付けられる取り付け部12との間での熱伝達を実現させ、もってローター90Aの温度調整の効率を向上させる。
【0045】
ここで、上記「温度調整」は、冷却の場合と加温の場合のいずれをも想定しうるものである。例えば、モーター90においては、その使用に際してローター90Aが高温状態となることによる悪影響が問題視される場合がある。この場合には、モーター90の使用者(図示せず)は、上述した温度調整装置の設定変更によりこの温度調整装置が循環させる熱媒体油91の温度を低下させ、もって熱媒体油91による冷却を実現することができる。また、モーター90においては、そのローター90Aまたは回転体10に適用されるグリースまたは潤滑油が低温によりかたくなることによる悪影響が問題視される場合がある。この場合には、モーター90の使用者(図示せず)は、上述した温度調整装置の設定変更によりこの温度調整装置が循環させる熱媒体油91の温度を上昇させ、もって熱媒体油91による加温を実現することができる。
【0046】
また、上述した回転体10は、その全体が鋳造金属によって一体に形成された構成のため、1回の鋳造によって、複数の部材を組み合わせる手間をかけることなく生産することができる。これにより、上述した回転体10は、ローター90Aの温度調整の効率を向上させる流体の流路(熱媒体油91)が内部に設けられた回転体10であって、複数の部材を組み合わせる手間をかけることなく生産可能な回転体10とすることができる。
【0047】
また、上述した回転体10によれば、鋳抜き穴11の内部において流体(熱媒体油91)が移動する向きが伝熱フィン13によって軸方向寄りに調整される。これにより、回転体10において2か所に設けられた開口の一方から他方(開口11Cから開口11B、または、開口11Bから開口11C)に抜ける流体(熱媒体油91)の流れをよりスムーズにすることができる。
【0048】
また、上述した回転体10によれば、回転体10がローター90Aと一緒に回転するときに、伝熱フィン13は鋳抜き穴11の内部の流体(熱媒体油91)を軸方向の片側に移動させるスクリューとして機能する。これにより、回転体10において2か所に設けられた開口の一方から他方(開口11Cから開口11B、または、開口11Bから開口11C)に抜ける流体(熱媒体油91)の流れをよりスムーズにすることができる。
【0049】
また、上述した回転体10は、ローター90Aと一緒に回転するときに、開口11B、11Cの組の片方から鋳抜き穴の内部に導入された熱媒体油91をすくい部分13Bですくい、これを開口11B、11Cの組のもう一方に向けて運ぶことができる。これにより、開口11B、11Cの組の片方のみに熱媒体油91が供給される場合でも、この熱媒体油91を中間部13Dにおける鋳抜き穴11の鋳肌11Aに行き渡らせて、ローター90Aの温度調整の効率を向上させることができる。
【0050】
〈第2の実施形態〉
続いて、本開示の第2の実施形態にかかる回転体20の構成について説明する。第2の実施形態にかかる回転体20は、図10ないし図12に示すように、その外側面20Aが、第1の実施形態にかかる回転体10の外側面10A(図2ないし図4を参照)と同様の形状およびサイズを呈する。したがって、第2の実施形態にかかる回転体20の構成のうち、上記第1の実施形態にかかる回転体10の各構成と同様の作用効果を奏する構成については、その構成に付した符号における十の位の数字のうち、「1」を「2」に置き換えた符号を付すことで対応させ、その詳細な説明を省略する。
【0051】
第2の実施形態にかかる回転体20は、その両端につたい部分13Cおよびつたい部分13Dが延設された1枚の板をなす伝熱フィン13(図5参照)の代わりに、両端に延設される構成のない1枚の板をなす伝熱フィン23(図13参照)を備えている。この伝熱フィン23の板は、根本側(すなわち鋳抜き穴21の鋳肌21A側)に向かうにつれて板厚が厚くなるように形成されている。
【0052】
伝熱フィン23は、鋳抜き穴21の鋳肌21Aがなす円筒の中心軸たる回転軸90E(図14参照)の周りを周回しながら軸方向に延びるつるまき線状の板をなす。本実施形態においては、伝熱フィン23は、図13に示すように、周回1回分の長さであるピッチ23Eが常に一定となるらせん面23Aに沿って配設されている。このらせん面23Aは、常らせん面である。なお、らせん面23Aのピッチ23Eは上述したらせん面13Aのピッチ13E(図5参照)よりも長い。
【0053】
上述した回転体20によれば、鋳抜き穴21の内部においてつるまき線状に配設される構成のピッチがピッチ23Eとして統一されるため、伝熱フィン13がその回転により熱媒体に流れを生じさせる場合に、この流れをよりスムーズにすることができる。また、伝熱フィン23の板の板厚を根本側に向かうにつれて厚くする構成によれば、伝熱フィン13が流れを生じさせる熱媒体から受ける反力に対する伝熱フィン13の耐久性を向上させることができる。
【0054】
〈第3の実施形態〉
続いて、本開示の第3の実施形態にかかる回転体30の構成について説明する。第3の実施形態にかかる回転体30は、図15ないし図17に示すように、その外側面30Aが、第2の実施形態にかかる回転体20の外側面20A(図10ないし図12を参照)と同様の形状およびサイズを呈する。したがって、第3の実施形態にかかる回転体30の構成のうち、上記第2の実施形態にかかる回転体20の各構成と同様の作用効果を奏する構成については、その構成に付した符号における十の位の数字のうち、「2」を「3」に置き換えた符号を付すことで対応させ、その詳細な説明を省略する。
【0055】
第3の実施形態にかかる回転体30は、中間部20Dにおける鋳抜き穴21の鋳肌21Aから1枚だけ突出される伝熱フィン23(図13参照)の代わりに、中間部30Dにおける鋳抜き穴31の鋳肌31Aから4枚が突出される伝熱フィン33(図18参照)を備えている。これらの伝熱フィン33は、それぞれ、鋳抜き穴31の鋳肌31Aがなす円筒の中心軸たる回転軸90E(図16参照)の周りを周回しながら、軸方向の一方側から他方側に向かってZ巻きのつるまき線をなして延びる。
【0056】
本実施形態においては、4枚の伝熱フィン33は、図19に示すように、回転体30がなす軸の周方向(図16参照)に等角度間隔で並設されている。また、4枚の伝熱フィン23は、図18に示すように、周回1回分の長さであるピッチ33Eが常に一定となるらせん面33Aに沿って配設されている。このらせん面33Aは、常らせん面である。なお、らせん面33Aのピッチ33Eは上述したらせん面23Aのピッチ23E(図13参照)よりも長く、各伝熱フィン33が軸方向に延びる長さとほぼ同じである。
【0057】
上述した回転体30によれば、流れの向きを調整するべき流体(熱媒体)を4枚の伝熱フィン33に分散させてこの流体の流れに偏りが生じることを抑え、もって開口31B、31Cの一方から他方に抜ける流体(熱媒体)の流れをよりスムーズにすることができる。
【0058】
〈第4の実施形態〉
続いて、本開示の第4の実施形態にかかる回転体40の構成について説明する。第4の実施形態にかかる回転体40は、図20ないし図22に示すように、その外側面40Aが、第3の実施形態にかかる回転体30の外側面30A(図15ないし図17を参照)と同様の形状およびサイズを呈する。したがって、第4の実施形態にかかる回転体40の構成のうち、上記第3の実施形態にかかる回転体30の各構成と同様の作用効果を奏する構成については、その構成に付した符号における十の位の数字のうち、「3」を「4」に置き換えた符号を付すことで対応させ、その詳細な説明を省略する。
【0059】
第4の実施形態にかかる回転体40は、それぞれが軸方向につるまき線をなして延びる4枚の伝熱フィン33(図19参照)の代わりに、それぞれが軸方向に延びる平板をなす4枚の伝熱フィン43(図23および図24を参照)を備えている。これらの伝熱フィン43は、図24に示すように、回転体40がなす軸の周方向に等角度間隔で並設されている。本実施形態においては、4枚の伝熱フィン43は、鋳抜き穴41の鋳肌41Aにおいて4つの開口41Bと同じ向きを向いた部分に配設される。
【0060】
なお、第4の実施形態にかかる回転体40は、温度調整のため回転体40の内部に流される熱媒体として、気体の熱媒体である熱媒体ガス92(図23参照)を採用することを想定した実施形態である。このため、回転体40は、第3の実施形態にかかる回転体30において液体をすくうことが可能とされたすくい部分33B(図19参照)に相当する構成を備えていない。
【0061】
上述した回転体40によれば、開口41B、41Cの一方から他方に抜ける流体(熱媒体ガス92)の流れを、伝熱フィン43によって整流することでよりスムーズにすることができる。
【0062】
〈第5の実施形態〉
続いて、本開示の第5の実施形態にかかる回転体50の構成について説明する。第5の実施形態にかかる回転体50は、図25ないし図27に示すように、その外側面50Aが、第4の実施形態にかかる回転体40の外側面40A(図20ないし図22を参照)と同様の形状およびサイズを呈する。したがって、第5の実施形態にかかる回転体50の構成のうち、上記第4の実施形態にかかる回転体40の各構成と同様の作用効果を奏する構成については、その構成に付した符号における十の位の数字のうち、「4」を「5」に置き換えた符号を付すことで対応させ、その詳細な説明を省略する。
【0063】
第5の実施形態にかかる回転体50は、それぞれが軸方向に延びる平板をなす4枚の伝熱フィン43(図23および図24を参照)の代わりに、それぞれが軸方向に垂直に広がるオリフィス板をなす5枚の伝熱フィン53(図28および図29を参照)を備えている。これらの伝熱フィン53は、図28に示すように、中間部50Dにおける鋳抜き穴51の内部にて、回転体50の軸の軸方向に等間隔に並んだ状態に配設される。また、各伝熱フィン53は、図29に示すように、そのオリフィスの中心が回転軸90E上に位置されて、鋳抜き穴51がなす中空構造を部分的に仕切る。
【0064】
上述した回転体50によれば、各伝熱フィン53は、開口51B、51Cの一方から他方に流体(熱媒体ガス92)が流れる際に、この流れに乱流92A(図28参照)を生じさせる。これにより、回転体50の内部にて乱流92Aによる乱流熱伝達を発生させ、もって流体(熱媒体ガス92)による温度調整の効率を向上させることができる。
【0065】
本開示は、上述した第1ないし第5の各実施形態で説明した外観、構成に限定されず、本開示の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、以下のような各種の態様を実施することができる。
【0066】
(1)鋳抜き穴がなす中空構造を外の空間に連通させる開口について、その配設数および配設位置を適宜に変更した態様。
【0067】
(2)鋳抜き穴の鋳肌から突出される伝熱フィンについて、その配設数および配設位置を適宜に変更した態様。
【0068】
(3)回転体においてローターが取り付けられる取り付け部を、円筒でない形状を呈するものとした態様。ここで、上記「円筒でない形状」の具体例としては、ふくらみ、および/または、へこみのある形状や、角筒形状などが挙げられる。
【0069】
(4)上述した第4の実施形態にかかる回転体40において鋳抜き穴41がなす中空構造を部分的に仕切る伝熱フィン43(図24参照)を、この中空構造の全体を仕切る伝熱フィンに置き換えた態様。
【符号の説明】
【0070】
10 回転体(軸)
10A 外側面
10B 軸先部
10C 軸端部
10D 中間部
10E フランジ
11 鋳抜き穴(中空構造)
11A 鋳肌
11B 開口
11C 開口
12 取り付け部
13 伝熱フィン
13A らせん面
13B すくい部分
13C つたい部分
13D つたい部分
13E ピッチ
20 回転体(軸)
20A 外側面
20B 軸先部
20C 軸端部
20D 中間部
21 鋳抜き穴(中空構造)
21A 鋳肌
21B 開口
21C 開口
22 取り付け部
23 伝熱フィン
23A らせん面
23B すくい部分
30 回転体(軸)
30A 外側面
30B 軸先部
30C 軸端部
30D 中間部
31 鋳抜き穴(中空構造)
31A 鋳肌
31B 開口
31C 開口
32 取り付け部
33 伝熱フィン
33A らせん面
33B すくい部分
40 回転体(軸)
40A 外側面
40B 軸先部
40C 軸端部
40D 中間部
41 鋳抜き穴(中空構造)
41A 鋳肌
41B 開口
41C 開口
42 取り付け部
43 伝熱フィン
50 回転体(軸)
50A 外側面
50B 軸先部
50C 軸端部
50D 中間部
51 鋳抜き穴(中空構造)
51A 鋳肌
51B 開口
51C 開口
52 取り付け部
53 伝熱フィン
90 モーター
90A ローター
90B 熱媒体供給部
90C ドレイン部
90D エンドベル
90E 回転軸
91 熱媒体油
92 熱媒体ガス
92A 乱流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図29