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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】計器取替用無停電工具
(51)【国際特許分類】
   G01R 11/00 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
G01R11/00 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023138394
(22)【出願日】2023-08-28
【審査請求日】2023-09-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594192062
【氏名又は名称】東邦電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 隆二郎
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-98562(JP,A)
【文献】特開2005-283209(JP,A)
【文献】特開2007-212318(JP,A)
【文献】特開平10-132858(JP,A)
【文献】特開2017-67671(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0033265(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0058193(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 11/00
G01R 11/04
G01R 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計器を無停電で取り替える際に、前記計器に接続された電源側のn本の電源側電線の芯線と負荷側のn本の負荷側電線の芯線とを電気的に接続させて、前記計器の取り外しを可能にする計器取替用無停電工具であって、
前記計器を取り外す際に前記n本の電源側電線と前記n本の負荷側電線に装着される工具本体を有し、
前記工具本体は、
前記n本の電源側電線の被覆を突き破って前記芯線と機械的及び電気的に接触するn個の第1の押し切り電極と、
前記n本の負荷側電線の被覆を突き破って前記芯線と機械的及び電気的に接触するn個の第2の押し切り電極と、
前記n個の第1の押し切り電極及び前記n個の第2の押し切り電極を進退可能に保持する2n個の押し切り電極保持部とを備え、
さらに前記工具本体には電線押し付け部材及び回動カバー部材が装着されており、
前記電線押し付け部材は、前記工具本体を前記n本の電源側電線及び前記n本の負荷側電線に当接させることを許容する待機状態、前記工具本体の当接後に前記n本の電源側電線をn個の前記押し切り電極保持部に押し付け且つ前記n本の負荷側電線を残りのn個の前記押し切り電極保持部に押し付ける押付状態になるように構成され、
前記回動カバー部材は、前記工具本体に対して一端が回動可能に装着され、前記計器が存在しているときには、前記計器の一部により他端が押圧されて前記工具本体に近接した閉位置にあり、前記計器が外されて前記他端が前記工具本体から離れた開位置に変位するように構成されており、
前記回動カバー部材の前記他端には、前記n本の電源側電線及び前記n本の負荷側電線の隣り合う2本の電線間に位置する2×(n-1)個の絶縁隔壁部が設けられており、
前記2×(n-1)個の絶縁隔壁部は、前記回動カバー部材が前記開位置にあるときに、前記隣り合う前記2本の電線の芯線の露出先端部間を完全に仕切る形状寸法を有しており、
前記電線押し付け部材には、前記押付状態にあるときに、前記回動カバー部材が前記閉位置から前記開位置に変位する際に前記2×(n-1)個の絶縁隔壁部が通過する2×(n-1)個のスリットが形成されていることを特徴とする計器取替用無停電工具。
【請求項2】
前記2n個の押し切り電極保持部は、前記n本の電源側電線及び前記n本の負荷側電線の対応する電線の前記被覆が接触する接触部と該接触部の中央に設けられた押し切り電極挿入孔を備えており、
前記電線押し付け部材には、前記押付状態にあるときに、前記n本の電源側電線の前記被覆の一部及び前記n本の負荷側電線の前記被覆の一部が嵌まる2n個の凹部が形成されており、
前記電線押し付け部材が前記押付状態にあるときに、前記接触部と前記凹部との間に前記被覆が挟持される請求項1に記載の計器取替用無停電工具。
【請求項3】
前記電線押し付け部材は、前記待機状態にあるときには、前記工具本体から分離されており、前記押付状態にあるときには、前記工具本体に固定されるように構成されている請求項1に記載の計器取替用無停電工具。
【請求項4】
前記電線押し付け部材は、一端が前記工具本体にガイドピンを介して回動可能に取付けられて前記待機状態から前記押付状態になる位置に移動させられ、前記押付状態になる位置にあるときに他端が前記工具本体に固定されるように構成されている請求項1に記載の計器取替用無停電工具。
【請求項5】
前記電線押し付け部材には前記工具本体に取付けられた1以上のガイドピンが篏入される1以上のガイド孔が形成されており、
前記ガイドピンはピン部の先端に前記ピン部よりも径寸法が大きい大径部を備えており、
前記ガイド孔は前記大径部が貫通する大孔と前記ピン部が貫通する小孔が連通した形状を有しており、前記大径部が前記大孔を貫通した状態で、前記ピン部を小孔内へ移動させることにより、前記電線押し付け部材が適正位置範囲にガイドされる請求項3に記載の計器取替用無停電工具。
【請求項6】
前記1以上のガイド孔は前記電線押し付け部材の中心領域に1個設けられており、前記工具本体には、1本の前記ガイドピンが取付けられている請求項5に記載の計器取替用無停電工具。
【請求項7】
前記工具本体には、複数本の取付ネジが貫通する複数の貫通孔が形成されており、前記電線押し付け部材には、前記複数の貫通孔を貫通した前記複数の取付ネジが螺合される複数のネジ孔が形成されて、前記電線押し付け部材の取付構造が構成されている請求項4または5に記載の計器取替用無停電工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力量計などの計器を無停電で取り替える際に使用する計器取替用無停電工具に関し、特に取り替え作業時に電線間で生じる短絡を防止することのできる計器取替用無停電工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6081777号公報(特許文献1)には、計器を無停電で取り替える際に、計器に接続された電源側の3本の電源側電線の芯線と負荷側の3本の負荷側電線の芯線とを電気的に接続させて、計器の取り外しを可能にする従来の計器取替用無停電工具の一例が開示されている。この計器取替用無停電工具では、計器を取り外す際に3本の電源側電線と3本の負荷側電線に装着される工具本体を有している。そして工具本体には、3本の電源側電線の被覆を突き破って芯線と機械的及び電気的に接触する3個の押し切り電極と、3本の負荷側電線の被覆を突き破って芯線と機械的及び電気的に接触する3個の押し切り電極と、6個の押し切り電極を進退可能に保持する押し切り電極保持部を備えている。そして工具本体には、電線の移動を阻止するために、符号13が付されたピン状の電線受け部材が装着されている。
【0003】
この公報に記載の計器取替用無停電工具を製品化したものの写真が、非特許文献1に特許第6081777号の番号表示と一緒に掲載されている。本出願の図14(A)及び(B)は、非特許文献1に示された計器取替用無停電工具の写真である。これらの図に明確に示されるように、実際の製品に、回動カバー部材Cが設けられている。この回動カバー部材Cは、ほぼ透明なプラスチック材料で形成されている。回動カバー部材Cは、工具本体Aに対して一端が回動可能に装着され、計器Mが存在しているときには、計器の一部により他端が押圧されて工具本体Aに近接した閉位置[図14(A)]にあり、計器Mが外されて他端が工具本体Aから離れた開位置[図14(B)]に変位するように構成されている。回動カバー部材Cの他端には、3本の電源側電線及び3本の負荷側電線の隣り合う2本の電線の両側に位置する7個の絶縁隔壁部Dが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6081777号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】https://www.keiko.co.jp/assets/pdf/product/muteiden/change120A.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
7個の隔壁部Dは、回動カバー部材Cが開位置にあるときに[図14(B)]、隣り合う2本の電線の芯線の露出先端部と部分的に対向する形状寸法を備えている。しかしながら電線の芯線は、作業者の作業の仕方によって、電線の芯線が解れてバラバラになりやすく、最悪の場合には、隔壁部Dを越えて隣接する電線の芯線どうしで短絡が発生するおそれがある。また従来の構造では、ピン状の電線受け部材(特許文献1の符号13参照)を押し込んで電線を受ける構造であるため、想定以上に電線の太さが太くなると、ピン状の電線受け部材を挿入できない問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、計器の交換作業の際に、電線間の短絡事故が発生することを防止できる計器取替用無停電工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の計器取替用無停電工具の理解を容易にするために図面に示した本発明の実施の形態に付した符号を以下の説明にも付するが、これらの符号は本発明を実施の形態に限定するものではない。
【0009】
本発明は、計器を取り替える際に、計器Mに接続された電源側のn本(nは2以上の整数)の電源側電線7Aの芯線8Aと負荷側のn本の負荷側電線7Bの芯線8Bとを電気的に接続させて、計器Mの取り外しを可能にする計器取替用無停電工具を改良の対象とする。本発明の計器取替用無停電工具1は、計器Mを取り外す際にn本の電源側電線7Aとn本の負荷側電線7Bに装着される工具本体1Aを有する。工具本体1Aは、n本の電源側電線7Aの被覆を突き破って芯線8Aと機械的及び電気的に接触するn個の第1の押し切り電極4Aと、n本の負荷側電線7Bの被覆を突き破って芯線8Bと機械的及び電気的に接触するn個の第2の押し切り電極4Bと、n個の第1の押し切り電極4A及びn個の第2の押し切り電極4Bを進退可能に保持する2n個の押し切り電極保持部5とを備えている。さらに工具本体1Aには電線押し付け部材2及び回動カバー部材3が装着されている。電線押し付け部材2は、工具本体1Aをn本の電源側電線7A及びn本の負荷側電線7Bに当接させることを許容する待機状態[図7(A)]と、工具本体1Aの当接後にn本の電源側電線7Aをn個の押し切り電極保持部5に押し付け且つn本の負荷側電線7Bを残りのn個の押し切り電極保持部5に押し付ける押付状態[図1(A),図1(B)]になるように構成されている。回動カバー部材3は、工具本体1Aに対して一端3Aが回動可能に装着され、計器Mが存在しているときには、計器Mの一部により他端3Bが押圧されて工具本体1Aに近接した閉位置[図8(B)]にあり、計器Mが外されて他端3Bが工具本体1Aから離れた開位置[図1(A)]に変位するように構成されている。そして回動カバー部材3の他端3Bには、n本の電源側電線7A及びn本の負荷側電線7Bの隣り合う2本の電線間に位置する2×(n-1)個の絶縁隔壁部6が設けられている。2×(n-1)個の絶縁隔壁部6は、回動カバー部材3が開位置[図1(A)]にあるときに、隣り合う2本の電線の芯線の露出先端部間を完全に仕切る形状寸法を有している。また電線押し付け部材2には、押付状態にあるときに、回動カバー部材3が閉位置から開位置に変位する際に2×(n-1)個の絶縁隔壁部6が通過する2×(n-1)個のスリット9が形成されている。
【0010】
本発明によれば、2×(n-1)個の絶縁隔壁部6が、回動カバー部材3が開位置[図1(A)]にあるときに、隣り合う2本の電線の芯線の露出先端部間を完全に仕切る形状寸法を有しているので、電線の芯線が解れて広がっていても、短絡事故が発生することがない。また本発明では、押し切り電極保持部5の接触部5Aと電線押し付け部材2との間に電線を挟持するため、電線の太さに合わせて、電線を確実に挟持できる。さらに絶縁隔壁部6の寸法が大きくなっても、電線押し付け部材2には、回動カバー部材3が閉位置にあるときに、回動カバー部材3が閉位置から開位置に変位する際に各絶縁隔壁部6が通過する2×(n-1)個のスリット9が形成されているので、電線押し付け部材2が回動カバー部材3の回動の障害になることがない。
【0011】
2n個の押し切り電極保持部5は、n本の電源側電線7A及びn本の負荷側電線7Bの対応する電線の被覆が接触する接触部5Aと該接触部の中央に設けられた押し切り電極挿入孔5Bを備えているのが好ましい。そして電線押し付け部材2には、押付状態[図1(A)]にあるときに、n本の電源側電線7Aの被覆の一部及びn本の負荷側電線7Bの被覆の一部が嵌まる2n個の凹部2Aが形成されており、電線押し付け部材2が押付状態にあるときに、接触部5Aと凹部2Aとの間に被覆が挟持されるのが好ましい。
【0012】
このような構造にすると、凹部2A内に電線が入った状態になるので、電線押し付け部材2の取付作業中に電線が動くことを阻止することができる。
【0013】
電線押し付け部材2は、待機状態にあるときには、工具本体1Aから分離されており、押付状態にあるときには、工具本体1Aに固定されるように構成されていてもよい。このような構造であれば、押し切り電極保持部5の接触部5Aと電線押し付け部材2との間に電線を挟持するため、電線の太さに合わせて、接触部5Aと電線押し付け部材2との間隔を調整することにより、電線を確実に挟持できる。
【0014】
電線押し付け部材2´は、一端2´Caが工具本体1Aに回動可能に取付けられて待機状態から押付状態になり、押付状態にあるときに他端が工具本体1Aに固定されるように構成されていてもよい。このような構造であれば、電線押し付け部材2´の取付けが容易になる上、電線押し付け部材2´の紛失を防止できる。
【0015】
また電線押し付け部材2には工具本体1Aに取付けられた1以上のガイドピン13が篏入される1以上のガイド孔が形成されていてもよい。この場合、ガイドピン13はピン部13aの先端には、ピン部13aよりも径寸法が大きい大径部13bを備えており、ガイド孔は大径部13bが貫通する大孔2Caとピン部13aが貫通する小孔2Cbが連通した形状を有しているのが好ましい。ガイドピン13の大径部13bが大孔2Caを貫通した状態で、ピン部13aを小孔2Cb内で移動させることにより、電線押し付け部材2が適正位置範囲にガイドされる。その結果、電線押し付け部材2の背面が見えない状態でも、電線押し付け部材2を適正位置に配置することができる。
【0016】
なお1以上のガイド孔は電線押し付け部材の中心領域に1個設けられており、工具本体1Aには、1本のガイドピンが取付けられていてもよい。この構造であれば、ガイドピンの数を最小にすることができる。
【0017】
工具本体1Aには、複数本の取付ネジ12が貫通する複数の貫通孔10を形成し、電線押し付け部材2には、複数の貫通孔10を貫通した複数の取付ネジ12が螺合される複数のネジ孔2Bを形成して、電線押し付け部材2の取付構造を構成してもよい。この取付構図であれば、工具本体1Aの正面側から複数の取付ネジを操作することにより、簡単に電線押し付け部材を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(A)及び(B)は、それぞれ第1の実施の形態の計器取替用無停電工具を見る角度を変えて示した斜視図である。
図2】工具本体を斜め上から見た斜視図である。
図3】回動カバー部材を閉じた状態の工具本体の斜視図である。
図4】回動カバー部材を閉じた状態の工具本体に電線押し付け部材を装着した状態を前方側から見た斜視図である。
図5図4の状態を工具本体の底面側から見た斜視図である。
図6】電線押し付け部材の斜視図である。
図7】(A)は工具本体と電線押し付け部材を電線に装着する前の分解斜視図であり、(B)は工具本体を電線に装着し、電線押し付け部材を電線に近付けた状態の斜視図である。
図8】(A)は工具本体と電線押し付け部材を電線に装着した後の斜視図であり、(B)は工具本体と電線押し付け部材を電線に装着した後、回動カバーをスライドさせ、回動可能とした状態の計器全体を含む斜視図である。
図9】第2の実施の形態で用いる電線押し付け部材の斜視図である。
図10】(A)は第2の実施の形態の工具本体と電線押し付け部材を電線に装着する前の分解斜視図であり、(B)は工具本体を電線に装着し、電線押し付け部材を電線から離している状態の斜視図である。
図11】(A)は第2の実施の形態の工具本体を電線に装着し、電線押し付け部材を電線に近付けた状態の背面方向詳細図であり、(B)は工具本体と電線押し付け部材を電線に装着した後の斜視図である。
図12】第3の実施の形態の計器取替用無停電工具で用いる電線押し付け部材を示している。
図13】(A)及び(B)は、図12の電線押し付け部材を装着する工具本体を斜め正面側から見た斜視図及び背面側から見た斜視図を示している。
図14】(A)及び(B)は、非特許文献1に示された計器取替用無停電工具の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の計器取替用無停電工具の実施の形態を詳細に説明する。図1(A)及び(B)は、本実施の形態の3線式電力量計用の計器取替用無停電工具1を見る角度を変えて示した斜視図である。これらの図において、3線式電力量計用の計器取替用無停電工具1は、工具本体1Aと、電線押し付け部材2と、回動カバー部材3を備えている。計器取替用無停電工具1は、3線式電力量計である計器M[図7(A)]を取り替える際に、計器Mに接続された電源側の3本の電源側電線7Aの芯線8Aと負荷側の3本の負荷側電線7Bの芯線8Bとを電気的に接続させて、計器Mの取り外しをする際に使用される。計器取替用無停電工具1は、計器Mを取り外す際に3本の電源側電線7Aと3本の負荷側電線7Bに装着される工具本体1Aを有する。
【0020】
図2に示すように、工具本体1Aは、3本の電源側電線7Aの被覆を突き破って芯線8Aと機械的及び電気的に接触する3個の第1の押し切り電極4Aと3本の負荷側電線7Bの被覆を突き破って芯線8Bと機械的及び電気的に接触する3個の第2の押し切り電極4Bと、3個の第1の押し切り電極4A及び3個の第2の押し切り電極4Bを進退可能に保持する6個の押し切り電極保持部5を備えている。6個の押し切り電極保持部5は、3本の電源側電線7A及び3本の負荷側電線7Bの対応する電線の被覆が接触する接触部5Aと該接触部5Aの中央に設けられた押し切り電極挿入孔5Bを備えている。なお図2においては、3個の第1の押し切り電極4A及び3個の第2の押し切り電極4Bを最大限前進させた状態で示してある。第1の押し切り電極4Aと第2の押し切り電極4Bは、先端に尖った電極部を有しており、図示しない後端に十字形のドライバスロットを備えている。図4に示すように、工具本体1Aの操作面には6個のドライバ挿入孔11が設けられている。これらのドライバ挿入孔11からドライバを挿入して第1の押し切り電極4Aと第2の押し切り電極4Bを進退させる。
【0021】
図1(A)及び(B)に示すように、工具本体1Aにはネジ孔2Bを設けるために複数のめねじ金具をインサート成形した樹脂材料からなる電線押し付け部材2と、樹脂材料により成形された回動カバー部材3が装着されている。
【0022】
電線押し付け部材2は、工具本体1Aを3本の電源側電線7A及び3本の負荷側電線7Bに当接させることを許容する待機状態[図7(A)]と、工具本体1Aの当接後に3本の電源側電線7Aを3個の押し切り電極保持部5に押し付け且つ3本の負荷側電線7Bを残りの3個の押し切り電極保持部5に押し付ける押付状態[図1(A)]になるように構成されている。そして電線押し付け部材2には、押付状態[図1(A)]にあるときに、3本の電源側電線7Aの被覆の一部及び3本の負荷側電線7Bの被覆の一部が嵌まる6個の凹部2Aが形成されている。各凹部2Aは、押し切り電極保持部5と上下方向に向かって開口する横断面形状が三角形状を呈する形を有している。電線押し付け部材2が押付状態にあるときに、押し切り電極保持部5の接触部5Aと凹部2Aの内面との間に電線の被覆が挟持される。このような構造にすると、凹部2A内に電線が入った状態になるので、電線押し付け部材2の取付作業中に電線が動くことを阻止することができる。本実施の形態では、押し切り電極保持部5の接触部5Aの先端を平坦に形成しているが、押し切り電極保持部5の接触部5Aの先端にも凹部2Aと同様に上下方向に向かって開口し電線押し付け部材2に向かって開口する横断面形状が三角形状を呈する形の凹部[図13(B)符号5C参照]を形成してもよい。
【0023】
電線押し付け部材2は、待機状態[図7(A)]にあるときには、工具本体1Aから分離されており、押付状態[図1(A)]にあるときには、両端が工具本体1Aに固定されている。具体的には、電線押し付け部材2の両端の2箇所と中央部の2箇所が4本の取付ネジ12と4つのネジ孔2Bを用いて、工具本体1Aに固定されている。電線押し付け部材2の取付けのために、図2図3及び図5に示すように、工具本体1Aの操作面側から挿入される4本の取付ネジ12と2本のガイドピン13が利用される。図6は、電線押し付け部材2を工具本体1Aに向かう面側から見た斜視図である。図6に示されるように、電線押し付け部材2には、4本の取付ネジ12を貫通する4つのネジ孔2Bが形成されており、また2本のガイドピン13が挿入される2つのガイド孔2Cが形成されている。図2及び図3に示すように、ガイドピン13は棒状のピン部13aの先端にピン部13aよりも径寸法が大きい大径部13bを備えている。また図6に示すように、ガイド孔2Cはガイドピン13の大径部13bが貫通する大孔2Caとピン部13aが貫通する小孔2Cbが連通した形状を有している。大径部13bが大孔2Caに挿入した後、ピン部13aを小孔2Cb内に移動させることにより、電線押し付け部材2が適正位置範囲にガイドされる。
【0024】
ガイドピン13をガイド孔2Cに挿入して仮固定した状態で、電線押し付け部材2により6本の電線を挟持できる位置に位置決めした後に、4本の取付ネジ12をネジ孔2B内の雌ネジに螺合させて、電線押し付け部材2を固定する。4本の取付ネジ12の締め付け量を調整することにより、電線の太さに合わせて、電線を確実に挟持できる。
【0025】
回動カバー部材3は、工具本体1Aの両方の側壁部に設けられた一対の回動中心軸1a及び一対の補助軸1bと、回動カバー部材3の両方の側壁に設けられた一対のくの字状溝3C及び一対の直線溝3Dを利用して、スライドと回動動作をする。くの字状溝3Cには補助軸1bが嵌合されており、直線溝3Dには回動中心軸1aが嵌合されている。回動カバー部材3は、後方(手前方向)にスライドして閉じた状態になる閉位置(図3に示す位置)と、前方(背面方向)にスライドして開いた状態になる開位置(図1に示す位置)との間を移動する。なお回動カバー部材3のスライド及び回動機構は、特許文献1及び非特許文献1に示された従来の工具に設けられた機構と同様である。
【0026】
回動カバー部材3は、作業者が手前方向へスライドさせることで、補助軸1bがくの字状溝3Cの先端に位置しているときには、閉位置に保持される(図3)。計器が装着状態にあるときに、作業者が回動カバー部材3を背面方向へスライドさせることで、補助軸1bがくの字状溝3Cの中央部に位置しているときには[図8(B)]、回動カバー部材3は計器Mによって閉位置に保持されている。しかし計器Mが除かれると、図示しないバネの放勢力で回動カバー部材3は回動中心軸1aを中心にして上方に回動可能となり、他端3Bが工具本体1Aから離れた開位置(図1)に変位する。この変位の動作は特許文献1及び非特許文献1に示した従来の工具における動作と同じである。
【0027】
特許文献1及び非特許文献1には示されていないが、非特許文献1の実際品では、回動カバー部材3と工具本体1Aとの間に、バネを用いた自動開機構が配置されている。この自動開機構は、例えば、手で回動カバー部材3を工具本体1A側に近づけて回動カバー部材3を手前方向にスライドさせると(閉位置に至ると)[図3図8(A)]、図示しないバネが蓄勢状態になる。そして回動カバー部材3を背面方向にスライドさせて[図8(B)]から手を離すと、図示しないバネが放勢されて、そのときのバネの放勢力で回動カバー部材3が開位置(図1)に変位する。作業後は作業者が手で回動カバー部材3を閉位置にしてから手前方向にスライドし、回動しない状態(図3)とする。
【0028】
図1(A)及び(B),図2図3及び図5に示されるように、回動カバー部材3の他端3Bには、3(n)本の電源側電線7A及び3(n)本の負荷側電線7Bの隣り合う2本の電線間に位置する2×(n-1)=4個の絶縁隔壁部6が設けられている。4個の絶縁隔壁部6は、回動カバー部材3が開位置[図1(A)]にあるときに、隣り合う2本の電線の芯線の露出先端部間を完全に仕切る形状寸法を有している。また電線押し付け部材2には、押付状態にあるときに、回動カバー部材3が閉位置から開位置に変位する際に4個の絶縁隔壁部6が通過する4個のスリット9が形成されている。4個の絶縁隔壁部6は、回動カバー部材3が開位置[図1(A)]にあるときに、隣り合う2本の電線(7A,7B)の芯線(8A,8B)の露出先端部間を完全に仕切る形状寸法を有している。その結果、本実施の形態によれば、電線の芯線が解れて広がっていても、短絡事故が発生することがない。さらに絶縁隔壁部6の寸法が大きくなっても、電線押し付け部材2には、回動カバー部材3が閉位置から開位置に変位する際に各絶縁隔壁部6が通過する4個のスリット9が形成されているので、電線押し付け部材2が回動カバー部材3の回動の障害になることはない。
【0029】
図7(A)及び図7(B)は、本実施の形態の計器取替用無停電工具1を用いて、3線式電力量計である計器Mを無停電で交換する場合の各工程を示している。図7(A)及び図7(B)に示すように、交換作業を開始する際には、計器取替用無停電工具1の工具本体1Aと電線押し付け部材2を、計器Mに接続された電源側の3本の電源側電線7Aと負荷側の3本の負荷側電線7Bを間に挟むように配置する。次に工具本体1Aの押し切り電極保持部5の接触部5Aを電線7A及び7Bに押し付ける。そして工具本体1Aの押し切り電極保持部5の接触部5Aと電線押し付け部材2側に設けた凹部2Aの内面との間に電線7A及び7Bの被覆を挟持するように電線押し付け部材2を位置決めする。電線押し付け部材2の取付けのためには、工具本体1Aの操作面側から挿入される4本の取付ネジ12と2本のガイドピン13を利用する。最初にガイドピン13をガイド孔2Cに挿入して仮固定した状態で、電線押し付け部材2により6本の電線を挟持できる位置に位置決めした後、4本の取付ネジ12をネジ孔2Bに挿入して、電線押し付け部材2を固定する[図8(A)]。
【0030】
次に、図8(B)に示す工具本体1Aのドライバ挿入孔11にドライバを挿入して、押し切り電極4A及び4Bを電線押し付け部材2側にネジ込む。このネジ込みにより、3個の第1の押し切り電極4Aは、電源側電線7Aの被覆を突き破って芯線8Aと機械的及び電気的に接触する。また3個の第2の押し切り電極4Bは、3本の負荷側電線7Bの被覆を突き破って芯線8Bと機械的及び電気的に接触する。この接触により、3本の電源側電線7Aと3本の負荷側電線7Bは、工具本体1Aの内部に配置された接続回路を介して電気的に相互に接続された状態になる。なおこの接続回路は、特許文献1にも示されているように公知であるため、説明を省略する。
【0031】
次に図8(B)に示す状態から計器Mと3本の電源側電線7A及び3本の負荷側電線7Bとの接続を解除して、計器Mを上側に移動して、計器Mを外すと、回動カバー部材3の他端3Bが図示しないバネの放勢力で上方に移動して、工具本体1Aから離れた開位置[図1(A)]に変位する。図1(A)及び(B)等に示すように、回動カバー部材3の他端3Bには、3本の電源側電線7A及び3本の負荷側電線7Bの隣り合う2本の電線間に位置する4個の絶縁隔壁部6が設けられており、しかも4個の絶縁隔壁部6が隣り合う2本の電線の芯線の露出先端部間を完全に仕切る形状寸法を有しているので、電線の芯線が解れて広がっていても、短絡事故が発生することを防止できる。また絶縁隔壁部6の形状寸法が大きくなっても、電線押し付け部材2には、各絶縁隔壁部6が通過する4個のスリット9が形成されているので、電線押し付け部材2が回動カバー部材3の回動の障害になることがない。
【0032】
新しい計器Mを装着する際には、新しい計器Mを図8(B)の破線で示す下側方向に移動させる。この移動により、回動カバー部材3が開位置から下側に回動して、閉位置に移動する。その状態で、新しい計器Mと3本の電源側電線7A及び3本の負荷側電線7Bとを接続したら、回動カバーを手前にスライドし、工具本体1Aのドライバ挿入孔11にドライバを挿入して、押し切り電極4A及び4Bを電線押し付け部材2側から離れる方向に回して、押し切り電極4A及び4Bと電源側電線7A及び負荷側電線7Bとの機械的及び電気的な接続を解除する。次に図7(B)に示した4本の取付ネジ12を解除方向に回して、4本の取付ネジ12と電線押し付け部材2との結合を解除すれば、工具本体1Aを電線7A及び7Bから引き離すことが可能になる。
【0033】
図9乃至図11には、本発明の計器取替用無停電工具の第2の実施の形態を示してある。第2の実施形態は、電線押し付け部材2´を工具本体1Aに常時装着しておくことができる点で、上記第1の実施の形態と相違する。第2の実施の形態で用いる電線押し付け部材2´は図9に示す構造を有している。この電線押し付け部材2´は、一端2´aが工具本体1Aに回動可能に取付けられて待機状態[図10(A)及び図10(B)]から押付状態[図11(A)及び図11(B)]になり、押付状態にあるときに他端2´bが工具本体1Aに固定される。図9に示すように、電線押し付け部材2´の一端2´aに設けたガイド孔2´Caは閉じられた形状を有しており、他端2´bに設けたガイド孔2´Cbは長手方向に開いた形状を有している。ガイド孔2´Caは、ガイドピン13が電線押し付け部材2´の長手方向に相対的に移動可能なように細長い形状を有している。ガイド孔2´Cbは、電線押し付け部材2´がガイド孔2´Caを中心にして回動した後に、ガイドピン13が入るように、一部が切り欠かれた形状を有している。
【0034】
ガイド孔2´Caに挿入されるガイドピン13の先端の大径部13bは取り外しが可能であるため、ガイド孔2´Caに挿入される際には先端の大径部13bが取り外され、挿入後に固定される。
【0035】
本実施の形態では、図10(A)及び(B)に示すように、ガイド孔2´Caにガイドピン13を挿入した状態で、電線押し付け部材2´を垂らした状態(待機状態)で、工具本体1Aを6本の電線に押し付ける。次に電線押し付け部材2´をガイド孔2´Caを中心にして回動し、電線押し付け部材2´の6個の凹部2Aと工具本体1A側の図示しない6個の押し切り電極保持部5の接触部5Aとの間に6本の電線の被覆を挟持する状態(押付状態)になるように、電線押し付け部材2´を位置決めする。その後図10(B)に示すように、4本の取付ネジ12をネジ孔2´Bに挿入し、電線押し付け部材2を固定する。このような構造にすると、電線押し付け部材2´の取付が容易になる上、電線押し付け部材2´の紛失を防止できる利点が得られる。
【0036】
図12は、第3の実施の形態の計器取替用無停電工具で用いる電線押し付け部材20を示している。また図13(A)及び(B)は、この電線押し付け部材20を装着する工具本体1´Aを斜め正面側から見た斜視図及び背面側から見た斜視図を示している。この電線押し付け部材20では、ガイドピン13の大径部13bを挿入するガイド孔2Cが、電線押し付け部材20の長手方向の中央部に設けられている。図12に示されるように、ガイド孔2Cは、大孔2Caの上に小孔2Cbが連通状態で配置されている。また電線押し付け部材20の両端の2箇所と中央部の1箇所が3本の取付ネジ12と3つのネジ孔2Bを用いて、工具本体1Aに固定されている。またガイド孔2Cに挿入されるガイドピン13は、工具本体1´Aの背面側に突出するように、1本設けられている。さらに本実施の形態では、押し切り電極保持部5の接触部5Aの先端には三角形状の凹部5Cを形成してある。この工具本体1´Aと第1の実施の形態の工具本体1Aとを比べると、工具本体1´Aの奥行き寸法が短い。これは第1の実施の形態では、電圧型電流センサを用いているのに対して、第3の実施の形態では変流器を用いた電流型電流センサを用いていることに基づくものである。
【0037】
上記実施の形態は、例として記載したものであり、その要旨を逸脱しない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、複数の絶縁隔壁部が、回動カバー部材が開位置にあるときに、隣り合う2本の電線の芯線の露出先端部間を完全に仕切る形状寸法を有しているので、電線の芯線が解れて広がっていても、短絡事故が発生することがない。また本発明では、押し切り電極保持部5の接触部5Aと電線押し付け部材はとの間に電線を挟持するため、電線の太さに合わせて、電線を確実に挟持できる。また電線押し付け部材には、回動カバー部材が閉位置から開位置に変位する際に各絶縁隔壁部が通過することを許容する複数個のスリットが形成されているので、電線押し付け部材が回動カバー部材の回動の障害になることがない。
【符号の説明】
【0039】
1 計器取替用無停電工具
1A 工具本体
2,2´,20 電線押し付け部材
2A 凹部
3 回動カバー部材
4A 第1の押し切り電極
4B 第2の押し切り電極
5 押し切り電極保持部
5A 接触部
6 絶縁隔壁部
7A 電源側電線
7B 負荷側電線
8A,8B 芯線
9 スリット
11 ドライバ挿入孔
12 取付ネジ
13 ガイドピン
【要約】
【課題】計器の交換作業の際に、電線間の短絡事故が発生することを防止できる計器取替用無停電工具を提供する。
【解決手段】回動カバー部材3の他端3Bに、複数本の電源側電線7A及び複数本の負荷側電線7Bの隣り合う2本の電線間に位置する複数の絶縁隔壁部6を設ける。複数の絶縁隔壁部6は、回動カバー部材3が開位置にあるときに、隣り合う2本の電線の芯線の露出先端部間を完全に仕切る形状寸法を有している。また電線押し付け部材2には、押付状態にあるときに、回動カバー部材3が閉位置から開位置に変位する際に複数の絶縁隔壁部6が通過する複数のスリット9を形成する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14