(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ベータカゼイン類および認知機能
(51)【国際特許分類】
A61K 35/20 20060101AFI20231201BHJP
A23C 9/13 20060101ALI20231201BHJP
A23C 9/14 20060101ALI20231201BHJP
A23C 13/14 20060101ALI20231201BHJP
A23C 15/12 20060101ALI20231201BHJP
A23C 19/00 20060101ALI20231201BHJP
A23G 9/38 20060101ALI20231201BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20231201BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20231201BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
A61K35/20
A23C9/13
A23C9/14
A23C13/14
A23C15/12
A23C19/00
A23G9/38
A23L33/18
A61K38/17
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2018551398
(86)(22)【出願日】2017-03-29
(86)【国際出願番号】 NZ2017050035
(87)【国際公開番号】W WO2017171563
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-03
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515332160
【氏名又は名称】ズィ・エイツー・ミルク・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,アンドリュー・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】イェランド,グレゴリー・ウェイン
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/019832(WO,A1)
【文献】A2 Milk Story,2014年 9月,URL,https://www.womenshealthcouncil.org.nz/Womens+Health+Issues/A2+Milk+Story.html
【文献】Keith Woodford,The Devil in the Milk,ACRES USA ,2009年12月,Vol.39,No.12
【文献】Malav S.Trivedi et al.,Epigenetic effects of casein-derived opioid peptides in SH-SY5Y human neuroblastoma cells,Nutrition&Metabolism,2015年,12:54,p1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
健康なヒトの認知機能を向上させるための組成物であって、ウシベータカゼインを含み、該ベータカゼインの少なくとも75重量%が、
A2ベータカゼインである、組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の組成物であって、該ベータカゼインが、少なくとも90重量%のA2ベータカゼインを含む、組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の組成物であって、該ベータカゼインが、100%のA2ベータカゼインを含む、組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物であって、認知機能が、微妙な認知障害検査(SCIT)、自動認知検査(ACT)、自動神経心理評価マトリックス(ANAM)、認知症に関する認知薬物研究のコンピューター化された評価システム(COGDRAS-D)、認知症に関する共同体スクリーニング手段(CSI-D)、軽度な認知障害に関するコンピューターで施される神経心理学的スクリーニング(CANS-MCI)、軽度な認知障害に関するコンピューター評価(CAMCI)、コンピューター化された自己検査(CST)、フロリダ短時間記憶尺度(FBMS)、軽度認知障害(MCI)、神経心理学的検査バッテリー(NTB)、統合失調症における認知の簡潔な評価(BACS)、ケンブリッジ高齢者精神障害試験-改訂版(CAMDEX-R)、ケンブリッジ神経心理学検査自動バッテリー(CANTAB)、コンピューター化された多相双方向性神経認知デュアルディスプレイシステム(CMINDS)、コンピューター化された神経心理学検査バッテリー(CNTB)、記憶能力検査(MCT)、神経心理学評価バッテリー(NAB)
、実行的、言語的、空間的および記憶能力バッテリー(ELSMEM)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、ならびにハミルトンD認知検査(HAM-D)のいずれか1以上を用いて評価される、組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物であって、該組成物が、乳または乳製品である、組成物。
【請求項6】
請求項
5に記載の組成物であって、該乳が、原乳、粉乳、粉末から再構成された液乳、脱脂乳、ホモジナイズされた乳、練乳、無糖練乳、低温殺菌乳または非低温殺菌乳であ
る、組成物。
【請求項7】
請求項
5に記載の組成物であって、該乳製品が、クリーム、ヨーグルト、乳餅、チーズ、バターまたはアイスクリームである、組成物。
【請求項8】
健康なヒトにおいて認知機能を向上させるための組成物の製造における乳の使用であって、該乳は、ベータカゼインを含有し、該ベータカゼインの少なくとも75重量%は、
A2ベータカゼインである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳タンパク質ベータカゼインおよび動物における認知機能の向上に関する。特に、本発明は、主にA2ベータカゼインまたは関連するベータカゼインバリアントであるベータカゼイン組成物を有する乳および乳由来食物製品に関する。出願人は、ベータカゼインのA1バリアントを含有する乳の消費は、認知処理速度および正確性の低下と関係している一方で、ベータカゼインのA2バリアントのみを含有する乳の消費は、処理速度および正確性の増大と関係していることを見出した。
【背景技術】
【0002】
世界中の人々に消費されている乳、主に牛乳は、ヒトの食事におけるタンパク質の主な源である。牛乳は、典型的には1リットルあたり約30グラムのタンパク質を含む。カゼインは、そのタンパク質の最大の構成要素(80%)を構成し、ベータカゼインは、カゼインの約37%を構成する。過去20年間に、カゼインタンパク質、特にベータカゼインがいくつかの有害な生理的または生物学的作用および健康障害に関与していることを示す一連の証拠が、増えてきている。
【0003】
ベータカゼインは、A1ベータカゼインおよびA2ベータカゼインとして分類され得る。これらの2種類のタンパク質は、ほとんどのヒトの集団において消費される牛乳中の主なベータカゼインである。A1ベータカゼインは、A2ベータカゼインと1個のアミノ酸が異なる。ヒスチジンアミノ酸が、A1ベータカゼインの209アミノ酸配列の67位に位置しており、一方でプロリンが、A2ベータカゼインの同じ位置に位置している。しかし、この1個のアミノ酸の違いは、腸におけるベータカゼインの酵素消化に決定的に重要である。67位におけるヒスチジンの存在は、ベータカゾモルフィン-7(BCM-7)として知られる7アミノ酸を含むタンパク質断片が酵素消化で生成されることを可能にする。従って、BCM-7は、A1ベータカゼインの消化産物である。A2ベータカゼインの場合、67位はプロリンで占められており、それはその位置におけるアミノ酸結合の切断を妨げる。従って、BCM-7は、A2ベータカゼインの消化産物ではない。
【0004】
B、C、F、GおよびH1バリアントのような他のベータカゼインバリアントも、67位においてヒスチジンを有し、一方でA2バリアントに加えてA3、D、E、H2およびIバリアントのようなバリアントは、67位においてプロリンを有する。しかし、これらのバリアントは、欧州起源の雌ウシからの乳中に非常に低いレベルでしか存在しないか、または全く存在しない。従って、本発明の文脈において、A1ベータカゼインという用語は、67位においてヒスチジンを有するあらゆるベータカゼインを指してもよく、A2ベータカゼインという用語は、67位においてプロリンを有するあらゆるベータカゼインを指してもよい。
【0005】
BCM-7は、オピオイドペプチドであり、体全体にわたってオピオイド受容体に結合して活性化することができる。BCM-7は、胃腸壁を越えて循環に入る能力を有し、これはそれがオピオイド受容体を介して全身性および細胞性活性に影響を及ぼすことを可能にする。出願人らは、以前に、乳または乳製品中に存在するA1ベータカゼインの消費と、I型糖尿病1、冠動脈性心疾患2、神経障害3、腸の炎症4、ラクトース不耐性の症状5および血中グルコースレベルの制御6との間の有害な関係を決定している。ベータカゼインバリアントをこれらの疾患および障害に結び付ける、増えつつある科学的証拠が、ベータカゼイン消費のある範囲の生理的および行動的作用を調べるように、出願人を促してきた。
【0006】
67位においてプロリンではなくヒスチジンを有するベータカゼインバリアントを含有する乳の消費は、オピオイドペプチドまたはエキソルフィンの放出を引き起こすことが報告されており、それは、神経障害、例えば自閉症またはアスペルガー症候群を誘導する、または悪化させる可能性がある7。このオピオイドは、BCM-7であると同定されている。いくつかの研究が、自閉症を有する人における高められた尿ペプチドおよびエキソルフィンの分泌ならびにカゼインおよびBCM-7に対する抗体の存在を含め、カゼインと自閉症スペクトラム障害との間の繋がりを報告してきた8-13。カゼイン、特にカゼインに対する抗体、と統合失調症との間の関係も、報告されている14-18。BCM-7は、シナプス形成および中枢シグナル伝達プロセスに関わっているオピオイドおよびセロトニン受容体と相互作用するため、BCM-7への長期曝露は、脳の発達および機能に有害な作用を有し、神経性の疾患または病気の発現をもたらす可能性がある。
【0007】
BCM-7はラットにおいて正常な行動、例えば立ち上がり、歩行および毛づくろいを有意に低減させ、異常な活動、例えば爆発的運動行動、回転運動および低下した社会的相互作用を増進することが、報告されている19。BCM-7のこれらの行動的作用は、その作用が特異的オピエート受容体拮抗薬であるナロキソンにより消失したため、そのオピオイド受容体との相互作用により引き起こされていることが、決定されている。BCM-7はまた、統合失調症に関連する脳の領域、特に前頭前皮質、中隔側座核、分界条床核、および尾状核被殻においてfos様免疫反応性を誘導した20。
【0008】
BCM-7は、精神運動発達を含む他の神経性の活動にも影響を及ぼし得る21。ヒトおよびウシのBCM-7の免疫反応性が、人生の最初の3ヵ月以内に母乳で育てられた幼児および人工栄養の幼児においてそれぞれ検出されている22。特に、高められたウシBCM-7の免疫反応性が、精神運動発達の遅延および異常に高い筋緊張と関係していた。
【0009】
これらの報告された発見は、全てBCM-7または消化の際にBCM-7を生成するベータカゼインバリアントの、臨床診断された疾患または病気を患っている人の行動的特徴への影響に関連する。それらの発見は、健康な人には関係がない。さらに、組織の曝露に、従って生物学的反応に影響を及ぼす、BCM-7の生成、輸送および代謝に関連する多くの変数が存在するため、細胞培養実験に基づく研究の結果は、インビボまたは臨床での作用に信頼性をもって外挿され得ないことは、周知である。例えば、オピオイド類の濃度およびそれらのオピオイド受容体に対する親和性は、細胞応答に重要であることが、知られている。
【0010】
ベータカゼインバリアントとヒトにおける生物学的応答との間の繋がりに関するその進行中の研究において、出願人は、ここで、A1ベータカゼイン(およびBCM-7を生成する他のベータカゼインバリアント)と健康な人々の認知機能の2つの特定の側面または尺度との間の有害な関係を見出している。心理学および関連する学問の分野の当業者には、行動は認知とは異なることは、周知である。行動は、環境刺激の結果と考えられ、一方で認知は、どのようにヒトが彼らの周囲の世界を知覚し、覚えておき、そして理解するかに影響を及ぼす情報処理に関する。行動に影響を及ぼす因子は、通常は認知機能に影響を及ぼさず、それらが認知機能に影響を及ぼすことも予期されないであろう。出願人の研究は、ベータカゼインバリアントの消費と認知機能との間の直接の繋がりの最初の決定的な科学的証拠である。
【0011】
従って、ヒトおよび他の動物において認知機能を向上させるための方法を提供すること、または少なくとも既存の方法に対する有用な代替策を提供することが、本発明の目的である。
【発明の概要】
【0012】
本発明の第1側面において、ベータカゼインを含有する組成物を摂取することにより、またはベータカゼインを含有する組成物を動物に提供することにより、動物の認知機能を向上させる方法であって、ベータカゼインの少なくとも75重量%が動物の腸における消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインバリアントである、前記方法が提供される。
【0013】
本発明の特定の態様において、ベータカゼインバリアントは、A2ベータカゼイン、A3ベータカゼイン、Dベータカゼイン、Eベータカゼイン、H2ベータカゼインまたはIベータカゼインである。好ましい態様において、ベータカゼインバリアントは、A2ベータカゼインである。A2ベータカゼインの量は、ベータカゼインの重量により75%~100%の範囲内のあらゆる量、例えば少なくとも90%またはさらには100%であることができる。
【0014】
本発明の特定の態様において、向上した認知機能が、微妙な認知障害検査(Subtle Cognitive Impairment Test)(SCIT)、自動認知検査(ACT)、自動神経心理評価マトリックス(ANAM)、認知症に関する認知薬物研究のコンピューター化された評価システム(COGDRAS-D)、認知症に関する共同体スクリーニング手段(CSI-D)、軽度な認知障害に関するコンピューターで施される神経心理学的スクリーニング(CANS-MCI)、軽度な認知障害のコンピューター評価(CAMCI)、コンピューター化された自己検査(CST)、フロリダ短時間(Brief)記憶尺度(FBMS)、軽度認知障害(MCI)、神経心理学的検査バッテリー(Battery)(NTB)、統合失調症における認知の簡潔な評価(BACS)、ケンブリッジ高齢者精神障害試験-改訂版(CAMDEX-R)、ケンブリッジ神経心理学検査自動バッテリー(CANTAB)、コンピューター化された多相双方向性神経認知デュアルディスプレイ(Dual Display)システム(CMINDS)、コンピューター化された神経心理学検査バッテリー(CNTB)、記憶能力検査(MCT)、神経心理学評価バッテリー(NAB)、アルツハイマー病共同研究(ADCS)、実行的(Executive)、言語的、空間的および記憶能力バッテリー(ELSMEM)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、ならびにハミルトンD認知検査(HAM-D)のいずれか1以上を用いて評価される。
【0015】
本発明の特定の態様において、組成物は、乳または乳製品である。乳は、原乳、粉乳、粉末から再構成された液乳、脱脂乳、ホモジナイズされた乳、練乳、無糖練乳、低温殺菌乳または非低温殺菌乳であることができる。乳製品は、調整乳、クリーム、ヨーグルト、乳餅、チーズ、バター、アイスクリーム、またはあらゆる他の乳製品であることができる。
【0016】
本発明の第2側面において、動物において認知機能を向上させるための組成物が提供され、その組成物は、ベータカゼインを含有し、ここで、ベータカゼインの少なくとも75重量%は、動物の腸における消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインバリアントである。
【0017】
本発明の別の側面において、動物において認知機能を向上させるための組成物の製造における乳の使用が提供され、ここで、乳は、ベータカゼインを含有し、ここで、ベータカゼインの少なくとも75重量%は、動物の腸における消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインバリアントである。
【0018】
本発明のさらなる側面において、動物によるベータカゼインを含有する組成物の摂取を含むか、または動物にベータカゼインを含有する組成物を提供することによる、動物において認知障害を予防または処置する方法が提供され、ここで、ベータカゼインの少なくとも75重量%は、動物の腸における消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインバリアントである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、第1相成人摂食介入試験に関するSCIT反応時間を示す。
【
図2】
図2は、第2相成人摂食介入試験に関するSCIT反応時間を示す。
【
図3】
図3は、第1相学齢前摂食介入試験に関するSCITエラー率を示す。
【
図4】
図4は、第2相学齢前摂食介入試験に関するSCITエラー率を示す。
【
図5】
図5は、前部および後部の曝露期間のSCITエラー率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、タンパク質ベータカゼインを含有する組成物および動物、特にヒトにおいて認知機能を向上させるためのその使用に関する。重要なことだが、ベータカゼインは、ベータカゼインのA2バリアントであり、または組成物中に存在する総ベータカゼインバリアントの少なくとも75重量%を構成する。組成物においてA2バリアントが優勢であることの重要性は、出願人がA1バリアントの消費とヒトにおける低下した認知機能、特に微妙な認知障害検査における反応時間およびエラー率との間に直接の繋がりが存在することを示しているという事実によるものである。加えて、出願人は、A1バリアントの消費の回避の作用とは無関係にA2バリアントの消費と向上した認知機能との間に直接の繋がりが存在することを示している。
【0021】
用語“認知機能”または“認知”は、注意、記憶、言語の生成および理解、学習、推論、問題解決、および意思決定を含む精神的プロセスの群を意味することが意図されている。
【0022】
用語“ベータカゾモルフィン-7”または“BCM-7”は、アミノ酸配列の67位においてプロリンではなくヒスチジンを有するウシベータカゼインバリアントの酵素消化で生成するヘプタペプチドであるタンパク質断片Tyr-Pro-Phe-Pro-Gly-Pro-Ileを指す。
【0023】
ほとんどのヒト集団の食事におけるベータカゼインの主な(それのみではないとしても)源は、乳または乳に由来する製品であるため、そして消費されるほとんどの乳はベータカゼインのA1およびA2バリアントのみの混合物を含有するため、高含有率のA2バリアントを有する乳(またはそのような乳から作られた製品)の消費は、必然的に、A1バリアントの消費が低いことを意味するであろう。従って、ベータカゼインの唯一の食事での源がA2バリアントを含有し、他のバリアントを含有しない場合、A1バリアントの食事での摂取は、排除され、従ってBCM-7の認知機能に対する有害な作用も、排除されることが期待され得る。
【0024】
従って、本出願の発明は、食事におけるA1ベータカゼインの低減または排除、およびA2ベータカゼインの促進に基づく。これは、ベータカゼインを含有する食物組成物、特に乳および乳製品中のベータカゼインが、主に、またはさらには排他的にA2ベータカゼインであることを確実にすることにより達成される。
【0025】
理想的には、組成物中のベータカゼインは、100%A2ベータカゼインである。従って、A1ベータカゼインの完全な排除は、認知障害に関する可能性を低減する。しかし、認知障害は、ベータカゼインが主にA2ベータカゼインである、例えば、75重量%~100%のあらゆる量であるあらゆる組成物により高められる可能性があり、それには80重量%、90重量%、95重量%、98重量%および99重量%が含まれるが、それらに限定されない。
【0026】
本発明の組成物は、典型的には乳であるが、あらゆる乳由来の製品、例えばクリーム、ヨーグルト、乳餅、チーズ、バター、またはアイスクリームであり得る。組成物は、乳から得られたベータカゼインを含有する非乳製品であり得る。組成物は、ベータカゼイン自体であってもよく、またはベータカゼインから調製されてもよく、そのベータカゼインは、粉末もしくは顆粒のような固体形態、または固体のケーキの形態であってもよい。
【0027】
乳は、ヒト、ヤギ、ブタおよびバッファローを含むあらゆる哺乳類から得られ得るが、本発明の好ましい態様において、乳は牛乳である。
乳は、原乳、粉乳、粉末から再構成された液乳、脱脂乳、ホモジナイズされた乳、練乳、無糖練乳、低温殺菌乳もしくは非低温殺菌乳、または乳のあらゆる他の形態であり得る。
【0028】
本発明の組成物は、主にヒトによる消費に適用可能であるが、健康利益は一部の他の動物、例えばネコ、イヌおよび他の飼育動物にも関連することは、理解されるべきである。
本発明に関する支持が、成人の対象がA1およびA2ベータカゼイン両方を含有する乳(従来の乳と呼ばれる)およびA2ベータカゼインを含有するが他のベータカゼインバリアントを含有しない乳(A2ベータカゼインのみの乳と呼ばれる)を摂取するように割り当てられた試験を記載している実施例1において見出される。認知機能は、コンピューターベースの検査であり情報処理の速度および有効性を測定する微妙な認知障害検査(SCIT)を用いて評価された。SCIT分析は、従来の乳の消費が反応時間およびエラーにおける高度に有意な増大と関係していることを示した。反応時間における増大は、主により長い刺激期間(後部(tail))に関して見付かり、一方でエラー率における増大は、大部分がより短い刺激期間(前部(head))に限定されていた。これは、従来の乳の消費は前意識的自動処理の効率の低減と関係しているが、より長い刺激期間に制御されたプロセスは処理速度を犠牲にして処理効率における欠損を低減するのを助けることを示唆している。この認知機能の微小な障害は、迅速な刺激の検出および/または迅速な意思決定が必要とされる状況では、かなりの影響を有し得る。この発見は、A1ベータカゼインを含有する乳の消費が認知機能に影響を及ぼすことを実証している。
【0029】
実験は、SCITを用いて実施されたが、当業者には、認知機能に関するあらゆる他の適切な検査が用いられることができることは、理解されるであろう。例は、自動認知検査(ACT)、自動神経心理評価マトリックス(ANAM)、認知症に関する認知薬物研究のコンピューター化された評価システム(COGDRAS-D)、認知症に関する共同体スクリーニング手段(CSI-D)、軽度な認知障害に関するコンピューターで施される神経心理学的スクリーニング(CANS-MCI)、軽度な認知障害に関するコンピューター評価(CAMCI)、コンピューター化された自己検査(CST)、フロリダ短時間記憶尺度(FBMS)、軽度認知障害(MCI)、神経心理学的検査バッテリー(NTB)、統合失調症における認知の簡潔な評価(BACS)、ケンブリッジ高齢者精神障害試験-改訂版(CAMDEX-R)、ケンブリッジ神経心理学検査自動バッテリー(CANTAB)、コンピューター化された多相双方向性神経認知デュアルディスプレイシステム(CMINDS)、コンピューター化された神経心理学検査バッテリー(CNTB)、記憶能力検査(MCT)、神経心理学評価バッテリー(NAB)、アルツハイマー病共同研究(ADCS)、実行的、言語的、空間的および記憶能力バッテリー(ELSMEM)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、ならびにハミルトンD認知検査(HAM-D)を含む。
【0030】
上記で特筆されたように、いくつかの研究は、A1ベータカゼイン/BCM-7と臨床診断された神経性の病気、例えば自閉症および統合失調症との間の関係を明らかにしてきた。高められたBCM-7免疫反応性は、幼児における精神運動発達の遅延と関係していることも、報告されている。実施例1のデータは、A1ベータカゼインおよびそのペプチド誘導体が健康な対象における脳における情報処理にも影響を及ぼすことを暗に意味している。健康な対象の脳における情報処理は、診断された神経性の病気の作用とは無関係である。従って、タンパク質(またはあらゆる他の物質)と健康な対象の脳における情報処理との間の関係は、同じタンパク質(または他の物質)と神経性の病気との間の関係から予測可能であるとは考えられない。
【0031】
それぞれの曝露期間におけるSCIT反応時間に関する要約統計が、表2において研究の相および製品により示されている。
図1および2は、それぞれ介入相1および相2における、製品ごとの各曝露期間(16、32、48、64、80、96、112および128ms)における反応時間を示している。
【0032】
混合効果ANOVAの結果(表3)は、製品の作用がそれぞれの曝露期間における反応時間(p=0.0013)およびエラー率(p=0.0004)の両方において有意であったことを示している。有意な製品の作用は、後部の反応時間の平均(p=0.027)において、そして前部の反応時間の平均(p=0.020)においても見られた。全てのSCIT変数のベースラインレベルは、製品の介入後のレベルに関する有意な共変数であった。
【0033】
表4は、2つの試験製品の間の対比試験の結果を示す。従来の乳の介入下の対象は、A2ベータカゼインのみの乳の介入の下での反応時間およびエラー率と比較して8.6ms長い反応時間(p=0.0013)および1.76%多いエラー率(p=0.0004)を有していた。従来の乳の消費により、(80~128msの曝露期間における)後部の反応時間の平均は、A2ベータカゼインのみの乳よりも14.7秒長く(p=0.020)、(16~64msの曝露期間における)前部のエラー率の平均は、2.76%高く(p=0.027)、一方で2つの製品を比較した前部の反応時間の平均において、そして後部のエラー率の平均において、有意差は観察されなかった。
【0034】
実施例2は、学齢前の年齢の子供を含む試験である。結果が、
図3~5において示されている。前部および後部の両方に関して、エラー率の有意な結果が、重要な結果の3つ全てに関して観察された:
1.条件の主な作用-乳の消費のSCITパフォーマンスに対する何らかの作用が存在するかどうかを示すが、乳のタイプを区別しない。
【0035】
2.乳のタイプと条件との間の相互作用-乳の消費の前後のSCITパフォーマンスに関して乳のタイプの間で差が存在するかどうかを示す。
3.相、乳のタイプおよび条件の間の相互作用-参加者が乳のタイプを与えられる順序が、乳の消費の前後のSCITパフォーマンスに対して何らかの作用を有するかどうかを、乳のタイプの関数として示す。
【0036】
ベースラインと乳消費後の測定との間でパフォーマンスにおいて有意な全体的向上が存在した。しかし、これは主に、従来の乳の消費後のエラー率における明らかな増大の存在下でのA2ベータカゼインのみの乳の消費後のエラー率における大きな向上により引き起こされていた。この観察は、乳のタイプと条件との間の有意な相互作用により支持されている。相、乳のタイプおよび条件の間にも有意な相互作用が存在する。これは、相1においてA2ベータカゼインのみの乳を、相2において従来の乳を消費した参加者の群(群2)と比較した、相1において従来の乳を、相2においてA2ベータカゼインのみの乳を消費した参加者の群(群1)に関する、前部および後部のエラー率のデータに関して、
図3において最もよく説明されている。群1に関して、従来の乳の消費は、エラー率に対して作用を有しなかったが、A2ベータカゼインのみの乳の消費は、結果としてエラー率における大きい有意な低下をもたらした。群2に関して、相1におけるA2ベータカゼインのみの乳の消費は、結果としてA2ベータカゼインのみの乳の消費後にエラー率における大きい有意な低減をもたらした。しかし、この群に関して、それに続く相2における従来の乳の消費後に、エラーにおける大きい有意な増大も存在した。これは、相×乳のタイプ×条件の相互作用をもたらす結果であるが、従来の乳の真の作用を表さない。むしろ、第1相においてA2ベータカゼインのみの乳を消費したことの持ち越し作用が、群2の参加者に関して観察された。A2ベータカゼインのみの乳の消費後のエラー率における改善は、A2ベータカゼインのみの乳の非存在下のウォッシュアウト期間にわたって継続した。従来の乳が導入された際、参加者のパフォーマンスは、乳の消費のないベースラインに関するパフォーマンスと同等まで戻った。従って、前部および後部のエラー率に関する群1に関するグラフにおいて示されているパフォーマンスのパターンは、従来の乳対A2ベータカゼインのみの乳の消費の作用のよりよい描写であり、従来の乳の消費は、パフォーマンスに対して作用を有さず、一方でA2ベータカゼインのみの乳の消費は、SCITにおけるパフォーマンスの正確さをベースラインのパフォーマンスと比較して向上させた。さらに、A2ベータカゼインのみの乳の消費後のパフォーマンスの正確さの向上は、A2ベータカゼインのみの乳の非存在下で少なくとも10日間のウォッシュアウト期間の間、そしておそらくより長く継続した。
【0037】
これらの研究は、A1ベータカゼインの消費と認知機能の低減との間の繋がりの最初の明確な科学的証拠である。出願人の発見により、消化の際にBCM-7を生成するベータカゼインの消費は避けられるべきであることは、明らかである。加えて、これらの研究は、A1ベータカゼインの消費およびその後のBCM-7の生成の回避の作用とは無関係なA2ベータカゼインの消費および向上した認知機能の間の繋がりの最初の明確な科学的証拠である。さらに、A2ベータカゼインのみの乳の消費後のパフォーマンスの正確さの向上の継続は、A2ベータカゼインの消費の、消費後少なくとも2週間の継続的な有益な作用の明確な証拠である。従って、消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインの消費の利益は、消費および消化に関してかかる時間を十分に過ぎても継続する。
【0038】
実用的な点において、本発明の利益は、大きい集団に関して、主にA2ベータカゼインであるベータカゼイン含有率を有する乳を供給し、その乳由来の製品を生産し、その乳およびそれらの製品を、認知機能を向上、増進または維持する目的で利用可能にすることにより、達成され得る。
【0039】
雌ウシの乳は、A1ベータカゼインおよびA2ベータカゼインの相対的割合に関して試験され得る。あるいは、雌ウシは、A1ベータカゼイン(またはBCM-7を生成することができる他のバリアント)を含有する乳を生産するそれらの能力に関して遺伝学的に試験され得るか、あるいはA2ベータカゼイン(またはBCM-7を生成することができない他のバリアント)を含有する乳を生産するそれらの能力に関して、または両方の組み合わせに関して、試験され得る。これらの技法は、周知である。
【0040】
本発明は、比較的管理するのが容易である解決策、すなわち、A1ベータカゼインを含有する乳または乳製品の回避、ならびに、食事における乳および乳製品が、主にA2ベータカゼインである、好ましくは100%A2ベータカゼインであるベータカゼインを含有することを確実にすることを提供する。
【0041】
本明細書における先行技術文献へのあらゆる参照は、そのような先行技術が広く知られているか、またはその分野における共通の一般的な知識の一部を形成するという自認と考えられるべきではない。
【0042】
本明細書で用いられる際、単語“含む”、“含むこと”、および類似の単語は、排他的または包括的な意味で解釈されるべきではない。換言すると、それらは、“含んでいるが、それに限定されない”を意味することが、意図されている。
【0043】
本発明は、以下の実施例への参照によりさらに記載される。特許請求の範囲に記載された本発明が、これらの実施例により限定されることは決して意図されていないことは、理解されるであろう。
【実施例】
【0044】
実施例1:成人における乳の試験およびSCIT分析
試験設計
試験は、ソウル2008において改訂されたヘルシンキ宣言に従って実施され、上海栄養学会の倫理委員会により承認された(承認番号:SNSIRB#2014[002])。試験は、ClinicalTrials.govに登録された(識別名:NCT02406469)。全ての対象は、試験に含まれる前に書面にしたインフォームドコンセントを提供した。これは、単一施設の二重盲検式のランダム化された制御された2×2クロスオーバー試験であり、A2ベータカゼイン型のみを含有する乳対A1およびA2ベータカゼイン型を含有する乳の、不耐性の症状と相関する免疫反応マーカーの血清レベルに対する作用を評価するように設計されていた。対象が完全な臨床評価および尿ガラクトースに関する定性的検査を受けるスクリーニング訪問の後、適格な対象は、2週間のウォッシュアウト期間に入った。次いで、対象は、介入期間1に入り、ここで彼らは、ランダム化スキームに従ってA2ベータカゼインバリアントのみを含有する乳(A2ベータカゼインのみの乳)またはA1およびA2ベータカゼインバリアント両方を含有する乳(従来の乳)を2週間与えられた。2回目の2週間のウォッシュアウト期間の後、対象は、介入期間2に入り、ここで彼らは、逆の乳の製品を与えられた。訪問は、それぞれの介入期間の開始時およびそれぞれの介入期間の7および14日目にスケジュールされた。対象は、それぞれのウォッシュアウト期間の間に電話により接触された。試験は、上海交通大学医学部(中国、上海)と提携した新華病院の消化器科において実施された。
【0045】
介入
A2ベータカゼインのみの乳および従来の乳は、A2 Infant Nutrition Limited(Auckland、ニュージーランド)により提供され、SPRIM Chinaにより試験施設に分配された。SPRIM Chinaのスタッフが、調査者および対象が彼らがそれぞれの介入期間にどちらの製品を与えられるかが分からないことを確実にするために、製品の全てを再包装し、標識した。それぞれの介入期間において、対象は、14日間1日あたり2回の食事後に250mlの乳を消費するように指示された。対象は、乳の摂取およびそれぞれの介入に対する遵守を記録するために日記を用いた。使用済みおよび未使用の紙パックは、介入に関するコンプライアンスを評価するためおよび盲検が完全であることを確実にするために、それぞれの訪問時に集められた。対象は、性別により層別化され、密封された封筒中にとじ込まれた割当番号に従って順序1(従来の乳→A2ベータカゼインのみの乳)または順序2(A2ベータカゼインのみの乳→従来の乳)に対してランダム化された。割り当ては、SPRIM Chinaにより用意されたコンピューターで生成されたリストに基づいていた。
【0046】
A2ベータカゼインのみの乳は、(100mlあたり)271kJのエネルギー、3.1gのタンパク質、3.6gの脂肪、5.0gの炭水化物、48mgのナトリウム、150mgのカリウム、および117mgのカルシウムを含有していた。A1ベータカゼインのA2ベータカゼインに対する比率は、超高速液体クロマトグラフィーおよび質量分析により確証されたように、A1/A2製品においておおよそ40:60であった。両方の製品は、同一であり、同じ量のタンパク質を含有していた。
【0047】
提供された乳製品以外の乳製品の消費は、試験の間禁止された。対象は、それぞれのウォッシュアウト期間の間乳成分を含まない(non-dairy)乳製品を消費することは許可されたが、雌ウシの乳は許可されなかった。
【0048】
対象
加入基準は、以下の通りであった:男性または女性;年齢25~68歳;不規則な乳の消費(食物頻度質問表を用いて文書化された);自己申告された商業的な乳に対する不耐性;自己申告された乳の消費後の軽度~中程度の消化不快感;ならびに静かな呼吸の間の正常な心電図(ECG)および血圧。対象は、彼らが試験の間薬物、栄養補助剤、または乳酸菌乳を含む他の乳製品を一切摂取しないことに同意し;要求および手順の全てに応じる意思があり;署名されたインフォームドコンセントを提供し;本試験の間に別の介入的臨床研究に参加しないことに同意し;排除基準を一切満たさず;そして試験の性質、目的、利益、ならびに可能性のあるリスクおよび副作用を完全に理解した場合、登録された。対象は、市中病院の掲示板に置かれた広告により募集された。要約統計が、表1において示されている。
【0049】
【0050】
微妙な認知障害検査(SCIT)
SCITは、情報処理の速度および有効性を測定するコンピューターベースの検査である。対象は、標的刺激における2本の平行な縦線のどちらがより短いかを、マウスの左または右ボタンを押すことにより示した。視覚的に隠された標的刺激が、16、32、48、64、80、96、112および128msの曝露期間(合計96回の試験に関してそれぞれにおいて12回の試験)でランダムに与えられた。対象の反応時間およびエラー率が、刺激曝露期間に関して記録された。4つの最も短い曝露期間(16~64ms)に関するデータは、プールされてそれらのそれぞれの反応曲線の前部(前意識的自動処理)からの2種類のスコア:反応時間(SCIT-RTH)およびエラー率(SCIT-EH)を提供した。4つのより長い提示期間(83~133ms)に関するデータは、プールされてそれらのそれぞれの反応曲線の後部(意識的処理)に関する2種類のスコア:反応時間(SCIT-RTT)およびエラー率(SCIT-ET)を提供した。SCITは、高い試験-再試験および内的整合性信頼度ならびに中程度の~高い内容妥当性を有する20。
【0051】
統計分析
コルモゴロフ-スミルノフ検定は、連続的変数の正常性を評価するために用いられた。正常ではなく分布した変数は、正常な分布に近づけるために平方根または対数変換を施された。ベースライン特徴は、記述的に平均±標準偏差(SD)または対象の数(パーセント)として示される。SCIT変数は、混合効果分散分析を用いて分析され、ここで、割り当てられた介入および介入期間は固定効果として含まれ、対象は、試験順序(すなわち、順序1、従来の乳→A2ベータカゼインのみの乳;順序2、A2ベータカゼインのみの乳→従来の乳)内に組み込まれたランダム効果として含まれた。それぞれのエンドポイントに関して平均値において2種類の介入の間で差が存在するかどうか、そして平均値が試験期間の間に変化したかどうかを調べるため、固定効果のタイプIII検査が、介入および試験期間の効果を試験するために用いられた。加えて、対比検査が、それぞれの製品に関する平均値を比較するために実施された。持ち越し作用の存在は、介入×期間の相互作用を用いて評価された。この相互作用が有意ではなかった場合、両方の期間からのデータが、評価された。相互作用が有意であった場合、介入期間1からのデータのみが、用いられた。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
実施例2:学齢前の子供における乳の試験およびSCIT分析
この試験は、対象が学齢前の年齢の子供であることを除いて上記の実施例1に関する方法論と同じ方法論に従って実施された。試験は、80人の対象で開始したが、5人の子供が試験の間に脱退したため、75人に減った。
【0056】
全ての分析は、クロスオーバー設計に関する線形混合モデル分析を用いて実施された。主な分析において、3つの因子が存在する:
1.相(クロスオーバー設計の相1および相2)
2.乳のタイプ(混合およびA2ベータカゼインのみ)
3.条件(ベースラインおよび処置)、すなわち乳の消費前後のパフォーマンス。
【0057】
4つのSCIT尺度が、前部および後部の反応時間ならびに前部および後部のエラー率として用いられた。前部および後部は、それぞれ16~64ms(前部)および80~128ms(後部)の曝露期間において示された刺激に対する反応を指す。この分割は、自動プロセスのみが刺激の処理に利用可能である曝露期間(前部)および制御された(注意に駆動される)プロセスも利用可能である曝露期間(後部)に対応する。分析は、4つのSCIT尺度のそれぞれに関して別々に実施された。結果が、
図3~5において示されている。
【0058】
本発明は、例として記載されてきたが、特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱することなく変更および修正が行われることができることは、理解されるべきである。さらに、特定の特徴に対して既知の均等物が存在する場合、そのような均等物は、あたかも本明細書において具体的に言及されたかのように組み込まれる。
【0059】
参考文献
1.国際公開第1996/014577号
2.国際公開第1996/036239号
3.国際公開第2002/019832号
4.国際公開第2014/193248号
5.国際公開第2015/005804号
6.国際公開第2015/026245号
7.国際公開第2002/019832号
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15.Niebuhr DW, Li Y, Cowan DN, Weber NS, Fisher JA, Ford GM, et al. Association between bovine casein antibody and new onset schizophrenia among US military personnel. Schizophr Res. 2011; 128(1-3): 51-5.
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発明の態様
[態様1]ベータカゼインを含有する組成物を摂取することにより、またはベータカゼインを含有する組成物を動物に提供することにより、動物の認知機能を向上させる方法であって、該ベータカゼインの少なくとも75重量%が、該動物の腸における消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインバリアントである、前記方法。
[態様2]態様1に記載の方法であって、該ベータカゼインバリアントが、A2ベータカゼイン、A3ベータカゼイン、Dベータカゼイン、Eベータカゼイン、H2ベータカゼインまたはIベータカゼインである、前記方法。
[態様3]態様1または態様2に記載の方法であって、該ベータカゼインバリアントが、A2ベータカゼインである、前記方法。
[態様4]態様1~3のいずれかに記載の方法であって、該ベータカゼインが、少なくとも90重量%のA2ベータカゼインを含む、前記方法。
[態様5]態様1~4のいずれかに記載の方法であって、該ベータカゼインが、100%のA2ベータカゼインを含む、前記方法。
[態様6]態様1~5のいずれかに記載の方法であって、認知機能が、微妙な認知障害検査(SCIT)、自動認知検査(ACT)、自動神経心理評価マトリックス(ANAM)、認知症に関する認知薬物研究のコンピューター化された評価システム(COGDRAS-D)、認知症に関する共同体スクリーニング手段(CSI-D)、軽度な認知障害に関するコンピューターで施される神経心理学的スクリーニング(CANS-MCI)、軽度な認知障害に関するコンピューター評価(CAMCI)、コンピューター化された自己検査(CST)、フロリダ短時間記憶尺度(FBMS)、軽度認知障害(MCI)、神経心理学的検査バッテリー(NTB)、統合失調症における認知の簡潔な評価(BACS)、ケンブリッジ高齢者精神障害試験-改訂版(CAMDEX-R)、ケンブリッジ神経心理学検査自動バッテリー(CANTAB)、コンピューター化された多相双方向性神経認知デュアルディスプレイシステム(CMINDS)、コンピューター化された神経心理学検査バッテリー(CNTB)、記憶能力検査(MCT)、神経心理学評価バッテリー(NAB)、アルツハイマー病共同研究(ADCS)、実行的、言語的、空間的および記憶能力バッテリー(ELSMEM)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、ならびにハミルトンD認知検査(HAM-D)のいずれか1以上を用いて評価される、前記方法。
[態様7]態様1~6のいずれかに記載の方法であって、該組成物が、乳または乳製品である、前記方法。
[態様8]態様7に記載の方法であって、該乳が、原乳、粉乳、粉末から再構成された液乳、脱脂乳、ホモジナイズされた乳、練乳、無糖練乳、低温殺菌乳または非低温殺菌乳である方、前記法。
[態様9]態様7に記載の方法であって、該乳製品が、クリーム、ヨーグルト、乳餅、チーズ、バターまたはアイスクリームである、前記方法。
[態様10]態様1~9のいずれかに記載の方法であって、該動物が、ヒトである、前記方法。
[態様11]動物において認知機能を向上させるための組成物であって、該組成物は、ベータカゼインを含有し、該ベータカゼインの少なくとも75重量%は、該動物の腸における消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインバリアントである、前記組成物。
[態様12]動物において認知機能を向上させるための組成物の製造における乳の使用であって、該乳は、ベータカゼインを含有し、該ベータカゼインの少なくとも75重量%は、該動物の腸における消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインバリアントである、前記使用。
[態様13]動物によるベータカゼインを含有する組成物の摂取を含むか、または動物にベータカゼインを含有する組成物を提供することにより、動物において認知障害を予防または処置する方法であって、該ベータカゼインの少なくとも75重量%は、該動物の腸における消化の際にBCM-7を生成しないベータカゼインバリアントである、前記方法。