(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】フランジ付鋳鉄管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 23/026 20060101AFI20231201BHJP
F16L 23/028 20060101ALI20231201BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
F16L23/026
F16L23/028
B23K9/04 H
(21)【出願番号】P 2019029265
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】堤 親平
(72)【発明者】
【氏名】中本 光二
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-318071(JP,A)
【文献】特開昭54-106915(JP,A)
【文献】特開2017-094343(JP,A)
【文献】特開昭57-031492(JP,A)
【文献】実開昭58-177682(JP,U)
【文献】実開昭58-177681(JP,U)
【文献】特開平09-163562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 23/026
F16L 23/028
B23K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直管部の外周面にフランジが取り付けられたフランジ付鋳鉄管において、
前記フランジは前記直管部に対して相対的に軸方向および周方向に移動可能なルーズフランジであり、前記直管部の軸方向端部の外周面には、前記ルーズフランジを抜け止めする突起が直管部の軸端から軸方向外側にはみ出さない状態で設けられており、前記突起が肉盛溶接材料によって形成され、前記ルーズフランジの軸方向外側の内周部には前記突起が収まる凹部が設けられ、前記ルーズフランジと前記突起とが嵌め合い関係にあることを特徴とするフランジ付鋳鉄管。
【請求項2】
前記ルーズフランジが周方向に複数のフランジ片に分割されていることを特徴とする請求項1に記載のフランジ付鋳鉄管。
【請求項3】
請求項
1に記載のフランジ付鋳鉄管の製造方法において、
前記ルーズフランジを前記直管部の外周面に取り付ける際には、前記直管部の軸方向端部の外周面に肉盛溶接を行って肉盛層を形成した後、前記肉盛層の表面を加工することにより前記突起を形成するようにし、
前記ルーズフランジが一体成形されたものである場合は、前記直管部の外周面に突起を形成する前にルーズフランジを直管部の外周に嵌めてお
くことを特徴とするフランジ付鋳鉄管の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載のフランジ付鋳鉄管の製造方法において、
前記ルーズフランジを前記直管部の外周面に取り付ける際には、前記直管部の軸方向端部の外周面に肉盛溶接を行って肉盛層を形成した後、前記肉盛層の表面を加工することにより前記突起を形成するようにし、
前記直管部の外周面に突起を形成した後に、前記直管部の周りに前記各フランジ片でルーズフランジを組み立てることを特徴とするフランジ付鋳鉄管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント内配管等に使用されるフランジ付鋳鉄管とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所のプラント内で石炭灰の輸送に使用される灰流し管は、粉粒体である石炭灰による内面のエロージョン摩耗が生じやすいため、耐摩耗性に優れた配管が要求される。また、プラント内配管は、点検や取り替えの容易さに対する要求から、両端にフランジを有する継手形式のもの(両フランジ管)が主流となっている。
【0003】
上記のような要求を満たすプラント内配管として、フランジ付きの耐摩耗鋳鉄管がよく使用される。ただし、鋳鉄管は一般に遠心鋳造によって製造されており、その鋳造方法の特性から直管部の両端にフランジを設けた形で鋳造を行うことは困難なので、フランジ付鋳鉄管の場合、少なくとも一方のフランジは鋳造した直管部に溶接等で取り付ける必要がある。
【0004】
そして、鋳鉄は炭素を多量に(2.14%以上)含む鉄系合金であり、難溶接材料として知られているため、鋳鉄で形成された部材に溶接する際は、一般に、高温予熱(500~600℃)を行い、溶接中も極力高温に保持し、かつ後熱、徐冷を行う方法や、低温予熱を行うか予熱なしで、Ni系やFe-Ni系の溶接棒または溶接ワイヤ等を用いて溶接を行う方法が採られる。
【0005】
図5は、上記のような溶接方法により直管部51の軸方向端部の外周面にフランジ52を溶接したフランジ付鋳鉄管の一例を示す。このフランジ付鋳鉄管の直管部51へのフランジ52の溶接は、通常の差し込みフランジ溶接方法(例えば、特許文献1参照。)によって行われており、フランジ52の一部が直管部51の軸端から軸方向外側にはみ出した状態で、フランジ52の軸方向内側の端面と直管部51の外周面との間に外側溶接部53が形成され、フランジ52のはみ出し部の内周面と直管部51の軸端面との間に内側溶接部54が形成されている。
【0006】
しかし、このフランジ付鋳鉄管は、
図6に示すように、同じ構成のものと軸方向で突き合わせた状態で、それぞれのフランジ52のボルト孔52aに通したボルト(図示省略)を締め付けて接合した場合、そのフランジ接合部の内面に凹部が生じるので、この凹部によって管内を輸送される物体の流れが乱され、管内面の摩耗が早く進行してしまうおそれがある。
【0007】
これに対して、
図7に示すように、フランジ52の内周部に開先52bを設けて、フランジ52が直管部51の軸端からはみ出さない状態で、
図5の例と同様に外側溶接部53が形成され、フランジ52の開先52bと直管部51の外周面との間に内側溶接部54’が形成されるように溶接を行えば、管どうしのフランジ接合部の内面が平坦になり、管内面の早期摩耗を生じにくくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のようにフランジ52に開先52bを設ける方式の差し込みフランジ溶接方法を採用したフランジ付鋳鉄管では、
図8に示すように、その内側溶接部54’の収縮に伴って直管部51に生じる径方向の引張応力が大きくなりやすい。
【0010】
そして、その直管部51を形成する鋳鉄は、炭素を多く含む材料のため溶接時の急加熱、急冷により熱影響部に脆化層が発生しやすく、溶接割れが発生してしまう場合がある。なお、フランジ52は、SS400等の熱影響を受けにくい材料を使用しているため、変形が起こりにくい。
【0011】
また、いずれの方式の差し込みフランジ溶接方法を採用しても、両フランジ管では、溶接時に両側のフランジのボルト孔の軸心(いわゆる「通り芯」)を一致させるのに高い技量が必要とされ、両側のフランジのボルト孔の通り芯にズレが生じた場合はフランジの取り付け直しが必要となるという問題もある。
【0012】
そこで、本発明は、フランジ取付時にトラブルが生じにくく、かつ長期間にわたって耐摩耗性を維持できるフランジ付鋳鉄管とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のフランジ付鋳鉄管は、直管部の外周面にフランジが取り付けられたフランジ付鋳鉄管において、前記フランジは前記直管部に対して相対的に軸方向および周方向に移動可能なルーズフランジであり、前記直管部の軸方向端部の外周面には、前記ルーズフランジを抜け止めする突起が設けられており、前記突起が肉盛溶接材料によって形成されている構成とした。
【0014】
上記の構成によれば、フランジとして直管部に直接溶接されないルーズフランジを用いているので、両フランジ管の場合でも両フランジのボルト孔の通り芯は接合時に容易に一致させることができ、フランジ取付時には問題とならない。そして、そのルーズフランジを抜け止めする直管部の突起は肉盛溶接材料で形成されているので、開先を設けたフランジを直管部に溶接するものと異なり、突起の溶接時には直管部に径方向の引張応力が生じにくく、直管部の熱影響部での溶接割れのおそれがない。また、同じ構成のフランジ付鋳鉄管とフランジ接合した際にそのフランジ接合部の内面が平坦となるので、管内を輸送される物体の流れの乱れによる早期摩耗も生じにくい。
【0015】
ここで、前記ルーズフランジが周方向に複数のフランジ片に分割されている構成とすれば、ルーズフランジを抜け止めする突起を形成した後でルーズフランジの取り付けができるようになり、フランジ取付作業の自由度を高めることができる。
【0016】
また、本発明のフランジ付鋳鉄管の製造方法は、上記構成のフランジ付鋳鉄管の製造方法において、前記ルーズフランジを前記直管部の外周面に取り付ける際には、前記直管部の軸方向端部の外周面に肉盛溶接を行って肉盛層を形成した後、前記肉盛層の表面を加工することにより前記突起を形成するようにし、前記ルーズフランジが一体成形されたものである場合は、前記直管部の外周面に突起を形成する前にルーズフランジを直管部の外周に嵌めておき、前記ルーズフランジが複数の前記フランジ片からなるものである場合は、前記直管部の外周面に突起を形成した後に、前記直管部の周りに前記各フランジ片でルーズフランジを組み立てるようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフランジ付鋳鉄管は、上述したように、ルーズフランジを肉盛溶接材料で形成した突起で抜け止めしたものであるから、両フランジ管の場合でもフランジのボルト孔の通り芯はフランジ取付時には問題とならないし、突起の溶接時には直管部に径方向の引張応力が生じにくいので、直管部の熱影響部での溶接割れのおそれがない。また、同じ構成のものとフランジ接合した際にそのフランジ接合部の内面が平坦となるので、長期間にわたって耐摩耗性を維持することができる。したがって、プラント内配管等、耐摩耗性が要求される両フランジ管として使用するのに適している。
【0018】
また、本発明のフランジ付鋳鉄管の製造方法によれば、上記構成のフランジ付鋳鉄管を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図1のフランジ付鋳鉄管の分解斜視図(フランジは一方のみ図示)
【
図3】(a)、(b)は、それぞれ
図1の突起の形成手順の説明図
【
図4】
図1のフランジ付鋳鉄管のフランジ接合状態の要部拡大正面断面図
【
図5】従来のフランジ付鋳鉄管の一例を示す正面断面図
【
図6】
図5のフランジ付鋳鉄管のフランジ接合状態の要部拡大正面断面図
【
図7】従来のフランジ付鋳鉄管の別の例を示す正面断面図
【
図8】
図7のフランジ付鋳鉄管に生じる引張応力の説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1乃至
図4に基づき、本発明の実施形態を説明する。このフランジ付鋳鉄管は、石炭火力発電所の灰流し管等、耐摩耗性が要求される両フランジ形式のプラント内配管として使用されるもので、
図1および
図2に示すように、直管部1の外周面に取り付けた2つのルーズフランジ2を、直管部1の軸方向両端部の外周面に形成した環状の突起3で抜け止めしたものである。その直管部1は耐摩耗性を有する鋳鉄で形成されたものであり、ルーズフランジ2はSS400製で、軸方向に貫通するボルト孔2aが周方向に等間隔で設けられている。
【0021】
前記ルーズフランジ2は、
図2に示すように、周方向に2つのフランジ片2bに分割されている。各フランジ片2bは、互いに内径の異なる2つの半円の扇部2c、2dが周方向に所定角度ずれた状態で一体成形されたもので、その一方の扇部2cの内径は直管部1の外径よりわずかに大きく、他方の扇部2dの内径は直管部1の突起3の外径よりわずかに大きく形成されている。したがって、2つのフランジ片2bを組み合わせて直管部1の外周面に取り付けると、ルーズフランジ2全体として直管部1に対して相対的に軸方向および周方向に移動可能で、各フランジ片2bの他方の扇部2dの内側に直管部1の突起3が入り込む状態で抜け止めされるようになる(
図1参照)。
【0022】
一方、直管部1の突起3は、
図3(a)に示すように、直管部1の軸方向両端部の外周面にFe-Ni系の溶接棒または溶接ワイヤを用いた肉盛溶接を行って複数の溶接ビードBで肉盛層を形成した後、
図3(b)に示すように、その肉盛層の表面を研削機等で加工して断面矩形に整形したものである。
【0023】
このフランジ付鋳鉄管は、上記の構成であり、フランジとして直管部1に直接溶接されないルーズフランジ2を用いているので、両フランジ2のボルト孔2aの通り芯は他の管とフランジ接合する際に容易に一致させることができる。したがって、フランジ取付時には、従来のようにボルト孔の通り芯のズレによって取り付け直しの作業が発生することがなく、フランジ2のボルト孔2aの通り芯を気にせずに作業できる。
【0024】
そして、ルーズフランジ2を抜け止めする直管部1の突起3は肉盛溶接材料で形成されているので、開先を設けたフランジを直管部に溶接するものと異なり、突起3を直管部1に溶接する際にも直管部1に径方向の引張応力が生じにくく、直管部1の熱影響部で溶接割れが生じるおそれがない。
【0025】
また、
図4に示すように、同じ構成のものと軸方向で突き合わせた状態で、それぞれのフランジ2のボルト孔2aに通したボルト(図示省略)を締め付けて接合した場合、そのフランジ接合部の内面は凹凸のない平坦な形状となる。したがって、そのフランジ接合部で管内を輸送される物体の流れを乱すことがなく、管内面の早期摩耗が生じにくい。
【0026】
このフランジ付鋳鉄管の製造方法は、予め直管部1を遠心鋳造によって作製しておく。そして、ルーズフランジ2を直管部1の外周面に取り付ける際には、まず、直管部1の軸方向端部の外周面に肉盛溶接を行って肉盛層を形成し、その肉盛層の表面を加工することによりルーズフランジ2を抜け止めする突起3を形成する。その後、直管部1の周りでフランジ片2bを2つずつ軸方向および周方向に貼り合せてルーズフランジ2を組み立てればよい。
【0027】
そして、この製造方法では、フランジを直管部に溶接するものに比べると、溶接個所が少ないうえ、前述のようにフランジ2のボルト孔2aの通り芯を気にしなくてよいので、溶接作業の負荷が少なく、フランジ付鋳鉄管を効率よく製造することができる。また、直管部1に突起3を形成した後でもルーズフランジ2の取り付けを行えるので、フランジ取付作業の自由度が高いという利点もある。
【0028】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
例えば、実施形態のフランジ付鋳鉄管は両フランジ管としたが、片フランジ管としてもよい。また、ルーズフランジは、実施形態では周方向に複数のフランジ片に分割されたものを用いたが、一体成形された環状のものを用いることもできる。なお、一体成形されたルーズフランジは、両フランジ管に用いる場合には、直管部の外周面に突起を形成する前に直管部の外周に嵌めておく必要があるが、片フランジ管に用いる場合には、管の一端に突起を形成した後でも管の他端に突起がなければ、その他端側から嵌めることができる。
【0030】
また、本発明は、実施形態のような耐摩耗性が要求されるプラント内配管の鋳鉄管に特に有効に適用できるが、そのほか耐摩耗性の要求が高くない一般的なフランジ付鋳鉄管にももちろん適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 直管部
2 ルーズフランジ
2a ボルト孔
2b フランジ片
2c、2d 扇部
3 突起