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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20231201BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20231201BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/52
A23L2/54
A23L2/00 T
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019149403
(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公開番号】P2021029117
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利也
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-071845(JP,A)
【文献】特開昭61-212273(JP,A)
【文献】特開2015-159790(JP,A)
【文献】特開昭59-192076(JP,A)
【文献】国際公開第2018/194519(WO,A1)
【文献】特開2010-136658(JP,A)
【文献】特公昭46-029188(JP,B1)
【文献】特公昭46-040193(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
A23L 2/52
A23L 2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖度が4~30であり、グリセリンを30g/L以上で含有し、炭酸ガスを含有し、前記炭酸ガスの炭酸ガス圧が4.0ガスボリューム以上である、飲料(ただし、果汁を含有する飲料を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高い清涼感や身体の冷却効果を求めて、より低温で摂取できる飲料に対するニーズがある。
【0003】
これまでに、飲料に関する冷却技術は多数提案されている。例えば、特許文献1では、高圧耐性容器に大気圧以上の内圧をかけることで、0℃以下でも凍結しない炭酸飲料が開示されている。しかし、特許文献1に記載された方法では、高圧状態を保つための特殊な専用容器が必要であり、パーソナルユースには向かないという問題がある。
【0004】
そこで、氷点下でも凍結しない飲料を手軽に摂取できることを目的とした開発がなされており、例えば特許文献2には、特定量のフラボノイド配糖体を添加し、-5℃の温度下で所定の期間保存しても凍結しない飲料が記載されている。
【0005】
他方で、工業的用途や道路の凍結防止のような飲食品以外の分野においては、従来から凍結防止剤が広く用いられており、例えば特許文献3には、グリセリンを基剤とした液状凍結防止剤組成物が記載されている。
【0006】
グリセリンは、保湿、軟化、甘味等の付与を目的として、食品添加物としても使用されており、安全性は担保されている。しかし、飲食品における凍結防止に、グリセリンの添加が有用であることを開示した報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-171570号公報
【文献】特開2009-219394号公報
【文献】特開2007-161807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、氷点下の所定の温度で冷却しても凍結せず、飲料として好ましい風味(おいしさ)を有する飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、飲料にグリセリンを添加し、糖度を特定の範囲とすることで、氷点下の所定の温度で冷却しても凍結せず、かつ、飲料として好ましい風味(おいしさ)を有する飲料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
<1>糖度が4~30であり、グリセリンを含有する、飲料。
【0011】
<2>上記グリセリンを30g/L以上で含有する、<1>に記載の飲料。
【0012】
<3>炭酸ガスを含有する、<1>又は<2>に記載の飲料。
【0013】
<4>上記炭酸ガスの炭酸ガス圧が4.0ガスボリューム以上である、<3>に記載の飲料。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、氷点下の所定の温度で冷却しても凍結せず、飲料として好ましい風味(おいしさ)を有する飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】飲料の不凍温度と糖度の関係を示すグラフである。
図2】飲料の不凍温度と炭酸ガス圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
本明細書でいう「氷点下」とは、常圧で0℃以下のことをいう。また、本明細書でいう「凍結しない」とは、飲料の全ての部分が凍結していない状態のことをいう。
【0018】
本明細書でいう「不凍温度」とは、飲料の全ての部分が凍結していないことを確認した中で最も低い温度のことをいう。また、本明細書でいう「凍結温度」とは、飲料の一部又は全部が凍結していることを確認した中で最も高い温度のことをいう。
【0019】
<1.飲料>
飲料は、糖度が4~30であり、グリセリンを含有する。なお、グリセリンはグリセロールとも呼ばれるが、本明細書においては、特に断りがない限り、グリセリンとの表記で統一する。飲料の組成等をこのように調整することにより、氷点下の所定の温度で冷却しても凍結せず、飲料として好ましい風味(おいしさ)を有する飲料を得ることができる。
【0020】
飲料の種類は特に限定されないが、炭酸ガスを含有する炭酸飲料であることが好ましい。炭酸飲料は、炭酸による喉越しの爽快感を高めるために、より低温のものを摂取することが好まれるためである。また、グリセリンの添加により飲料の甘みが増すが、炭酸の刺激感により甘味の知覚が軽減される効果が期待される。更に、飲料を加圧することにより、凝固点が降下するという効果も期待される。
【0021】
しかし、飲料は炭酸飲料に限定されず、非炭酸飲料であってもよい。また、スポーツ飲料、健康飲料等の非アルコール飲料であってもよく、アルコール飲料であってもよい。
【0022】
以下、飲料の構成について詳述する。
【0023】
[糖度]
飲料の糖度は4~30の範囲であれば特に限定されないが、甘味が強すぎておいしさが損なわれるのを防ぐ観点から、上限は20以下であることが好ましい。甘味が適度であり、よりおいしく摂取できる観点から、糖度は5~20の範囲であることが好ましく、7~15の範囲であることがより好ましい。なお、「糖度」とは、試料の温度(液温度)20℃における糖用屈折計の示度をいう。また、本明細書において、特に断りがなければ、「糖度」と「Brix」は同一のものとする。
【0024】
[グリセリン]
飲料はグリセリンを含有する。グリセリンを含有することで飲料の凝固点が下がり、グリセリンを添加しない場合と比較して、より低温下においても凍結しない飲料を得ることができる。
【0025】
飲料におけるグリセリンの濃度は特に限定されないが、飲料の凍結防止効果を高める観点より、30g/L以上が好ましく、50g/L以上がより好ましく、70g/L以上が更に好ましく、100g/L以上が更により好ましい。
【0026】
なお、通常、食品添加物としてグリセリンが用いられるのは、香料中の基材としてであり、その際の添加量は、多くても飲料に対して1g/L程度である。したがって、本実施形態における飲料は、飲食品において通常採用される濃度に比べて遥かに高い濃度のグリセリンを含有する。
【0027】
飲料に添加するグリセリンの形態は特に限定されず、液体のグリセリンを添加してもよいし、粉末化されたグリセリンを添加してもよく、グリセリンを含有する香料等を添加してもよい。また、飲料へのグリセリンの添加方法も特に限定されず、所望の量のグリセリンを一度に添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよい。
【0028】
飲料を炭酸飲料とする場合のグリセリンの添加のタイミングは、ベースとなる水溶液や混合物に二酸化炭素を注入した後でもよいし、二酸化炭素を注入する前でもよい。
【0029】
[炭酸ガス圧]
飲料を炭酸飲料とする場合の炭酸ガス圧(炭酸ガス容量)は特に制限されないが、不凍温度をより低下させる観点より、3.5ガスボリューム以上であることが好ましく、4.0ガスボリューム以上であることがより好ましい。また、製造適正の観点から6.0ガスボリューム以下であることが好ましく、5.0ガスボリューム以下であることがより好ましい。
【0030】
なお、炭酸ガス圧とは、1気圧、20℃における、炭酸飲料全体の体積に対する、炭酸飲料に溶解している炭酸ガスの体積の比率をいう。炭酸ガス圧は公知の方法で測定することができ、例えば、市販のガスボリューム測定装置(GVA-500B、京都電子工業株式会社製)を用いて測定する。より具体的には、試料を20℃とした後、ガス内圧力計を取り付け、一度活栓を開いてガス抜き(スニフト)操作を行い、直ちに活栓を閉じてから激しく振とうし、圧力が一定になった時の値から算出することで得ることができる。
【0031】
[その他の成分]
飲料には、効果を阻害しない範囲で、一般的な飲料に通常用いられる他の原材料や添加剤を適宜配合することができる。配合量は得ようとする効果に応じて適宜設定できる。
【0032】
飲料に配合し得る成分としては、下記のものが挙げられる;溶媒(水、アルコール等)、糖類(ショ糖、砂糖、果糖、ぶどう糖、乳糖、麦芽糖等の単糖や二糖)、オリゴ糖、糖アルコール(エリスリトールやマルチトール等)、異性化糖(果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、高果糖液糖等)、高甘味度甘味料(ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等)、果汁(レモン、オレンジ、ブドウ、リンゴ、モモ等)、野菜汁、消泡剤、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等)、増粘安定剤(大豆多糖類、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム等)、酸化防止剤(トコフェロール、塩酸システイン等)、色素(カロチノイド色素、アントシアニン色素、カラメル色素、各種合成着色料等)、香料、保存料、防腐剤、防かび剤、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE等)やミネラル類(カリウム、カルシウム、マグネシウム等)、食物繊維、各種栄養成分、酸味料、希釈剤等。なお、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
<2.飲料の特性>
飲料は、氷点下の所定の温度で冷却しても凍結せず、飲料として好ましい風味(おいしさ)を有する。飲料の不凍温度や風味は、実施例に示す方法で評価される。
【0034】
<3.飲料の製造方法>
飲料は、飲料の製造において用いられる任意の条件や方法を採用して、所定量のグリセリン及び上記の成分を適宜調整することで得られる。得られた飲料は、容器充填や殺菌等を行って容器詰飲料とすることができる。また、グリセリン以外の成分を溶媒に混合して容器に充填した後に、グリセリンを添加剤として加えて飲料を得ることもできる。
【0035】
<4.飲料の冷却>
飲料は、飲料の冷却において採用される任意の条件や方法を用いて冷却できる。飲料の冷却温度は特に限定されないが、低温飲料の摂取による爽快感を高める観点より、-4℃以下であることが好ましく、-6℃以下であることがより好ましく、-8℃以下であることが更に好ましい。
【0036】
飲料の冷却時間は特に制限はないが、飲料に係る溶液の全ての部分を不凍温度により近づける観点より、8時間以上であることが好ましく、10時間以上であることがより好ましく、12時間以上であることが更に好ましく、24時間以上であることが更により好ましい。
【0037】
本出願人はこれまでにも、氷点下の所定の温度で冷却しても凍結しない飲料の提供方法を提案している(例えば、特開2015-133946号公報参照)。これは、凝固点以下の温度で冷却した場合においても、飲料容器が未開封の状態では内部の飲料が液体の状態にあるが、容器を開蓋すると凝固が開始されるものであり、圧力移動凍結作用を利用している。
【0038】
本実施形態における飲料は、氷点下の所定の温度で冷却した後に、飲料容器を振る又は開蓋等しても凝固しないことが確認された。このことより、本実施形態における飲料には、特開2015-133946号公報に開示されている作用とは異なる作用により、不凍効果がもたらされていることが示唆された。
【実施例
【0039】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
<飲料の調製>
常法にしたがい、下記表1に示す組成を有する飲料を調製した。調製後、カーボネーターにより、炭酸ガス圧が約4.0ガスボリュームになるように炭酸ガスを溶解させた。
【0041】
【表1】
【0042】
糖度は、デジタル屈折計RX-5000α(株式会社アタゴ製)を用いて20℃で測定したときの値である。
【0043】
無水クエン酸換算酸度は、平沼自動滴定装置COM-1700(平沼産業株式会社製)を用い、JAS法にしたがい、サンプルを0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液でpH8.1まで滴定したときの滴定量から算出したときのサンプル100ml中の有機酸量である。
【0044】
pHは、常法によって炭酸ガスを取除いた後、液温20℃となるように調整してから、pHメーターHM-30R(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて測定したときの値である。
【0045】
<不凍温度の測定>
庫内温度を所定の温度に調整した恒温機(株式会社いすゞ製作所製)を用いて、調製した飲料を各温度で12時間以上冷却して、不凍温度及び凍結温度を測定した。なお、飲料の全ての部分が凍結していないことを確認した中で最も低い温度を不凍温度とし、飲料の一部又は全部が凍結していることを確認した中で最も高い温度を凍結温度とした。不凍温度及び凍結温度は、各温度における温度確認用のサンプルが凍結しているか否かを目視で確認することで決定した。結果を表2及び図1に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2及び図1に示されるように、糖度が同程度である場合(例えば、比較例2と実施例1-4、比較例3と実施例1-5)において、不凍温度及び凍結温度は、いずれもグリセリンを添加した実施例の方が低いことが確認された。更に、実施例1-2は比較例1よりも糖度が低いが、不凍温度及び凍結温度はいずれも実施例1-2の方が低いことが確認された。これらのことより、飲料に所定量のグリセリンを添加することで、糖度を過剰に高めることなく、不凍温度及び凍結温度がより低い飲料を得られることがわかった。
【0048】
<官能評価>
上述の通り調製した比較例1、比較例2、実施例1-3の各飲料を専門パネル(3名)による官能評価に供した。具体的には、各飲料の「おいしさ」、「香りの良さ」、「爽快感の良さ」、「甘さの強さ」、「酸味の強さ」を点数化し、その平均値を算出した。かかる評価では、グリセリン不使用で糖度が約10の飲料(比較例1)を対照品(コントロール品)とし、基準点を4点とした。
【0049】
「おいしさ」、「香りの良さ」、「爽快感の良さ」については、下記の評価基準を用いて、7段階で評価した。
7点:大変良い
6点:良い
5点:やや良い
4点:普通
3点:やや悪い
2点:悪い
1点:大変悪い
【0050】
「甘さの強さ」、「酸味の強さ」については、下記の評価基準を用いて、7段階で評価した。
7点:大変強い
6点:強い
5点:やや強い
4点:普通
3点:やや弱い
2点:弱い
1点:大変弱い
【0051】
下記表3に、官能評価の結果を示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3の比較例1と比較例2との比較から、糖度が増すと、「爽快感の良さ」、「酸味の強さ」が弱くなり、かつ、「甘さの強さ」が強くなり、総合的な「おいしさ」が低下することがわかった。
【0054】
一方で、比較例1と実施例1-3の比較では、「おいしさ」、「香りの良さ」、「酸味の強さ」に関する評価点数はほぼ同等であった。ここで、上述した通り、比較例1の不凍温度は-5℃であり、実施例1-3の不凍温度は-11℃である。このことより、同程度の風味(おいしさ)を有するように調製した場合において、グリセリンを添加した飲料の方が、不凍温度がより低い(氷点下のより低い温度下でも凍結しない)ことがわかった。
【0055】
[実施例2]
グリセリン濃度が262.4(g/L)となるように、グリセリンを水に溶かした水溶液(糖度:15)を調製した。調製後、カーボネーターにより、0.0ガスボリューム(実施例2-1)、1.0ガスボリューム(実施例2-2)、2.0ガスボリューム(実施例2-3)、3.0ガスボリューム(実施例2-4)、4.0ガスボリューム(実施例2-5)の5段階の炭酸ガス圧となるように炭酸ガスを溶解させた。
【0056】
<不凍温度の測定>
調製した各水溶液の不凍温度を、実施例1と同様の方法を用いて測定した。結果を図2に示す。
【0057】
図2に示されるように、実施例2-1~2-4の不凍温度は-7℃であったのに対し、実施例2-5の不凍温度は-12℃であった。このことより、グリセリンの添加に加えて、比較的高圧の炭酸ガスを溶解させることにより、飲料の不凍温度はより低くなる傾向にあることがわかった。
図1
図2