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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】改質セルロース
(51)【国際特許分類】
   C08B 11/12 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
C08B11/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019175995
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021050311
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】羽野 里奈子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
(72)【発明者】
【氏名】熊本 吉晃
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099824(JP,A)
【文献】特開2019-099823(JP,A)
【文献】特開2018-145426(JP,A)
【文献】特開2017-071676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基及び下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の非イオン性置換基を有し、結晶化度が10%以上90%以下のセルロースI型結晶構造を有する改質セルロースであって、
該カルボキシ基の含有量が0.1mmol/g-セルロース以上3mmol/g-セルロース以下であり、
該非イオン性置換基の導入率が、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対して0.001モル以上1.5モル以下であり、
該非イオン性置換基はエーテル結合を介してセルロースと結合している改質セルロース。
-R (1)
-CH -CH(OH)-R (2)
-CH -CH(OH)-CH -(OA) -O-R (3)
(式中、R は炭素数2以上100以下の炭化水素基であり、R は炭素数1以上100以下の炭化水素基であり、R は炭素数1以上100以下の炭化水素基であり、nは0以上100以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。)
【請求項2】
改質セルロースが下記一般式(Ce)で示される、請求項1に記載の改質セルロース。
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基及び非イオン性置換基からなる群より選択され、Rの少なくとも一つはカルボキシ基であり、かつRの少なくとも一つは非イオン性置換基である。mは20以上3,000以下の整数である。)
【請求項3】
非イオン性置換基の導入率が、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対して0.005モル以上1.0モル以下である、請求項1又は2に記載の改質セルロース。
【請求項4】
原料のセルロースに対し、カルボキシ基を導入する工程、及び下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の非イオン性置換基をエーテル結合を介してセルロースのヒドロキシ基に導入する工程を有する、結晶化度が10%以上90%以下のセルロースI型結晶構造を有する改質セルロースの製造方法であって、
該カルボキシ基の含有量が0.1mmol/g-セルロース以上3mmol/g-セルロース以下であり、
該非イオン性置換基の導入率が、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対して0.001モル以上1.5モル以下である、改質セルロースの製造方法
-R (1)
-CH -CH(OH)-R (2)
-CH -CH(OH)-CH -(OA) -O-R (3)
(式中、R は炭素数2以上100以下の炭化水素基であり、R は炭素数1以上100以下の炭化水素基であり、R は炭素数1以上100以下の炭化水素基であり、nは0以上100以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。)
【請求項5】
カルボキシ基を有するセルロースのヒドロキシ基にエーテル結合を介して非イオン性置換基を導入する工程を含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
非イオン性置換基を有するセルロースのヒドロキシ基にカルボキシ基を導入する工程を含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
改質セルロースが下記一般式(Ce)で示される、請求項4~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基及び非イオン性置換基からなる群より選択され、Rの少なくとも一つはカルボキシ基であり、かつRの少なくとも一つは非イオン性置換基である。mは20以上3,000以下の整数である。)
【請求項8】
非イオン性置換基の導入率が、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対して0.005モル以上1.0モル以下である、請求項4~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
一般式(3)で示される置換基のnが0以上20以下の数であり、Aが炭素数2以上3以下の2価の飽和炭化水素基である、請求項4~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質セルロースに関する。更に詳しくは、本発明は、日用雑貨品、家電部品、自動車部品、三次元造形用樹脂等にフィラーとして好適に配合し得る改質セルロース、ならびに該改質セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロースを用いた材料が注目されている。
【0003】
例えば特許文献1には、吸湿性とともに熱時着色の改善されたセルロース繊維を提供すること等を目的として、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基およびアルデヒド基の少なくとも一方で置換されてなるセルロース繊維であって、前記セルロースの水酸基の置換されていない残基の少なくとも一部がアセチル基により置換された、特定の置換基構造を有する改質セルロース繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-99064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1において具体的に開示されている改質セルロース繊維は、原料のカルボキシ基を有するセルロースをフィルム化した後に、無水酢酸、酢酸ナトリウムの修飾剤で表面のアセチル化改質を行う方法によって調製されている。しかし、本発明者らが、当該方法に従って改質セルロース繊維を調製したところ、再分散性が十分ではなく、また製造面においても、実用的な生産性が得られない場合があることから、かかる技術は使用場面が非常に限定的であり、環境負荷や製造コスト低減の観点から更なる改善が求められる。
【0006】
かかる事項を鑑みて、本発明は、各種溶媒に配合した際に、安定分散可能で、再分散性に優れた改質セルロース、及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、セルロースにイオン性基と非イオン性置換基を導入することにより得られた改質セルロースは、溶媒除去後でもセルロースの凝集を起こすことなく、再分散性に優れたものであることを見出した。
【0008】
本発明は、下記〔1〕~〔4〕に関する。
〔1〕 イオン性基及び非イオン性置換基を有し、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロースであって、該非イオン性置換基はエーテル結合を介してセルロースと結合している改質セルロース。
〔2〕 原料のセルロースに対し、イオン性基を導入する工程、及び非イオン性置換基をエーテル結合を介してセルロースのヒドロキシ基に導入する工程を有する、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロースの製造方法。
〔3〕 イオン性基を有するセルロースのヒドロキシ基にエーテル結合を介して非イオン性置換基を導入する工程を含む、前記〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 非イオン性置換基を有するセルロースのヒドロキシ基にイオン性基を導入する工程を含む、前記〔2〕又は〔3〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の改質セルロースは、溶媒の除去過程においてセルロースの凝集を起こすことなく、再分散性に優れており、粉体として扱うことができるため、製造時、流通時又は保存時におけるハンドリング性の向上や、用途展開の拡大という優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<改質セルロース>
本発明の改質セルロースは、セルロースに二種類の置換基、即ち、イオン性基及び非イオン性置換基を有していることを特徴とする。ここで、前記非イオン性置換基はエーテル結合を介してセルロースと結合しており、本明細書において、「エーテル結合を介してセルロースと結合」とは、セルロースのヒドロキシ基と後述のエーテル化剤とが反応して、エーテル化剤が有する非イオン性置換基が、セルロースのヒドロキシ基から水素原子を除いた基にエーテル結合した状態を意味する。さらに本発明の改質セルロースはセルロースI型結晶構造を有することを特徴とする。
【0011】
かかる本発明の改質セルロースが再分散性に優れることの推定されるメカニズムとしては、詳細は不明だが、非イオン性置換基がエーテル結合を介してセルロースのヒドロキシ基に導入されることで、何らかの効果を発現しているものと考えられる。本明細書において「再分散性」とは、乾燥した状態の改質セルロースを媒体に懸濁させたときの分散性をいう。
【0012】
本発明の改質セルロースの一つの好ましい態様は、下記一般式(Ce)で示される構造を有する。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、イオン性基及び非イオン性置換基からなる群より選択され、Rの少なくとも一つはイオン性基であり、かつRの少なくとも一つは非イオン性置換基である。mは20以上3,000以下の整数である。)
【0015】
本発明において、より好ましい態様の改質セルロースは、セルロースを構成するグルコースの6位のヒドロキシ基の一部又は全てがカルボキシ基で置換され、かつ、3位又は4位の一部又は全ての炭素原子に、エーテル結合を介して非イオン性置換基が結合した構造を有する改質セルロースである。
【0016】
〔イオン性基〕
イオン性基としてはアニオン性基及びカチオン性基が挙げられる。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられ、カチオン性基としては、その基内にアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムなどのオニウムを有する基などが挙げられる。セルロースへの導入効率の観点から、好ましくはアニオン性基であり、より好ましくはカルボキシ基である。イオン性基は、単独で又は2種以上を組み合わせて導入されていてもよい。
【0017】
本発明における、イオン性基を含むセルロースは、セルロース中にアニオン性基を含むようにアニオン変性されたセルロース、すなわちアニオン変性セルロースであっても良い。アニオン変性セルロースの好ましい態様として、後述のTEMPO酸化由来のもの、即ち、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシ基(-CHOH)がカルボキシ基(-COOH又は-COO;Xは金属イオン又は有機カチオン)に変換されたセルロースが挙げられる(本明細書において、かかるカルボキシ基に変換されたセルロースを「酸化セルロース」という場合がある。)。ここで、前記金属イオンとしては、再分散性の観点から好ましくはアルカリ金属イオンであり、ナトリウムイオン、カリウムイオンが例示される。前記有機カチオンとしては、再分散性の観点から好ましくは1~4級のアンモニウムカチオンであり、アンモニア、アルキルアミン、共重合部を伴う炭化水素基を有するアルキルアミンが例示される。アルキルアミンの具体例としては、特開2019-094388号公報の段落0055に記載の第1級アミン~第3級アミン及び第4級アンモニウム化合物が挙げられ、共重合部を伴う炭化水素基を有するアルキルアミンとしては、特開2019-094388号公報の段落0069~0077に記載のEOPOアミンが挙げられる。
【0018】
(イオン性基の含有量)
改質セルロースにおけるイオン性基含有量としては、再分散性の観点から、好ましくは0.1mmol/g-セルロース以上、より好ましくは0.4mmol/g-セルロース以上、更に好ましくは0.6mmol/g-セルロース以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g-セルロース以下、より好ましくは2mmol/g-セルロース以下、更に好ましくは1.8mmol/g-セルロース以下、更に好ましくは1.5mmol/g-セルロース以下である。なお、「イオン性基含有量」とは、改質セルロース中のイオン性基の総量を意味し、イオン性基がアニオン性基(カルボキシ基)の場合、改質セルロース中のアニオン性基(カルボキシ基)の総量を意味する。なお、上述カルボキシ基は、-COOH又は-COO;Xは金属イオン又は有機カチオンと定義する。「g-セルロース」とは、「改質セルロースからイオン性基及び非イオン性置換基を除いたセルロースの1g」を意味する。イオン性基がアニオン性基の場合のアニオン性基含有量は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0019】
〔非イオン性置換基〕
非イオン性置換基とは、例えば、酸素原子を有していても良い一価の炭化水素基である。非イオン性置換基の炭素数としては、再分散性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、より好ましくは6以上、より好ましくは10以上であり、一方、非イオン性置換基の導入効率の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、より好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
【0020】
より具体的には、以下の一般式(1)、(2)、及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基が、非イオン性置換基として好ましい。なお、一般式(1)に該当する置換基は複数個存在するが、セルロースに導入される一般式(1)としての置換基は同一であっても2種以上であってもよい。このことは一般式(2)及び(3)においても同様である。
-R (1)
-CH-CH(OH)-R (2)
-CH-CH(OH)-CH-(OA)-O-R (3)
(式中、Rは炭素数2以上100以下の炭化水素基であり、Rは炭素数1以上100以下の炭化水素基であり、Rは炭素数1以上100以下の炭化水素基であり、nは0以上100以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。)
【0021】
一般式(1)におけるRの炭素数は、再分散性発現の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、入手性及び反応性の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下である。Rの好ましい具体例としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等の飽和アルキル基;ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等の不飽和アルキル基;シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、トリチル基等の環状構造を有する置換基が例示される。
【0022】
一般式(2)におけるRの炭素数は、再分散性発現の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、入手性及び反応性の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下である。Rの好ましい具体例としては、メチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等の飽和アルキル基;ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等の不飽和アルキル基;シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、トリチル基等の環状構造を有する置換基が例示される。
【0023】
一般式(3)におけるRの好ましい炭素数の範囲及び好ましい具体例は、前記の一般式(2)におけるRのそれらと同様である。
【0024】
一般式(3)におけるAは、炭素数1以上6以下の2価の飽和炭化水素基であり、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。入手性及びコストの観点から、Aの炭素数は好ましくは2以上であり、同様の観点から、好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。Aの好ましい具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が例示される。
【0025】
一般式(3)におけるnはアルキレンオキサイドの付加モル数を示す。入手性及びコストの観点から、nは好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上であり、同様の観点から、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。あるいは、アルキレンオキサイドが付加されない態様も好ましく、この場合、n=0である。
【0026】
一般式(3)で示される置換基における、nとAの好ましい組み合わせとしては、nが0以上20以下の数であり、Aが炭素数2以上3以下の2価の飽和炭化水素基である。
【0027】
(非イオン性置換基の導入率(モル置換度))
本発明の改質セルロースにおいて、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対する非イオン性置換基が導入されたモル量(モル置換度:MS)は、再分散性発現の観点から、好ましくは0.001以上であり、より好ましくは0.005以上であり、より好ましくは0.01以上であり、更に好ましくは0.03以上である。一方、コストの観点から、MSとしては、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.0以下であり、更に好ましくは0.75以下である。なお、本明細書において、無水グルコースユニットを「AGU」と略記することがある。ここで、非イオン性置換基が複数種の置換基で構成されている場合、非イオン性置換基のMSは各置換基のMSの合計である。本明細書において、モル置換度(MS)は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0028】
〔セルロースI型結晶構造及び結晶化度〕
本発明の改質セルロースは、その原料として天然セルロースを使用していることに起因して、セルロースI型結晶構造を有する。
本発明の改質セルロースの結晶化度は、改質セルロースを樹脂組成物に適用した際に得られる成形体の強度発現の観点から、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下であり、更に好ましくは80%以下であり、更に好ましくは75%以下である。
【0029】
本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、後述の実施例に記載のX線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0030】
〔平均繊維径〕
本発明の改質セルロースの平均繊維径の好適な範囲は、原料のセルロースと同様の範囲であってもよく、必要に応じて微細化を行い、数ナノメートル~数百ナノメートルの平均繊維径であってもよい。後者の場合、改質セルロースの平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上であり、取扱い性の観点から、好ましくは1μm未満、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下である。改質セルロース等の各種セルロースの平均繊維径等は、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0031】
〔平均繊維長〕
改質セルロースの平均繊維長は、例えば、後述の微細化処理を行った場合、好ましくは150nm以上、1,000nm以下である。一方、微細化処理を行わない場合の平均繊維長は特に限定されず、原料のセルロースと同程度でよい。かかる範囲の平均繊維長を有する改質セルロースは、前記一般式(Ce)における「mは20以上3,000以下の整数である」ことを満たすものである。改質セルロースの平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0032】
<改質セルロースの製造方法>
本発明のセルロースI型結晶構造を有する改質セルロースの製造方法は、原料のセルロースに対し、イオン性基を導入する工程、及び非イオン性置換基をエーテル結合を介してセルロースのヒドロキシ基を導入する工程を有する。本発明の製造方法において、イオン性基を導入する工程及び非イオン性置換基を導入する工程とは、どちらの工程を先に実施しても構わない。
【0033】
具体的には、イオン性基を有するセルロースのヒドロキシ基にエーテル結合を介して非イオン性置換基を導入する工程を含む、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロースの製造方法(態様1)、及び非イオン性置換基を有するセルロースのヒドロキシ基にイオン性基を導入する工程を含む、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロースの製造方法(態様2)が挙げられる。
【0034】
〔原料のセルロース〕
本発明で用いられる原料のセルロースは、木本系(針葉樹・広葉樹)、草本系(イネ科、アオイ科、マメ科の植物原料、ヤシ科の植物の非木質原料)、パルプ類(綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等)、紙類(新聞紙、段ボール、雑誌、上質紙等)等が挙げられる。なかでも、入手性及びコストの観点から、木本系、草本系が好ましい。
【0035】
原料のセルロースの形状は、特に制限はないが、取扱い性の観点から、繊維状、粉末状、球状、チップ状、フレーク状が好ましい。また、これらの混合物であってもよい。
【0036】
また、原料のセルロースは、取扱い性等の観点から、特開2018-145571号公報の段落0017~0018に記載された生化学的処理、化学処理、及び機械処理から選ばれる少なくとも1つの前処理を予め行うことができる。
【0037】
原料のセルロースの平均繊維径は、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上である。また、上限は特に設定されないが、取扱い性の観点から、好ましくは10,000μm以下、より好ましくは5,000μm以下である。なお、必要に応じて予め微細化処理を施した繊維径1~200nmの微細セルロースを原料のセルロースとして使用することもできる。原料のセルロースの平均繊維長は、入手容易性の観点から、好ましくは1,000μm以上、10,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径や平均繊維長は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0038】
〔イオン性基導入工程〕
本工程はセルロースに対してイオン性基を導入する工程である。態様1では、本工程は原料のセルロースに対して実施され、態様2では、本工程はヒドロキシ基に非イオン性置換基が導入されたセルロース、即ち、非イオン性置換基導入工程を経た後のセルロースに対して実施される。本工程を経ることによって、態様1の場合、イオン性基を有するセルロースが得られ、態様2の場合、イオン性基及び非イオン性置換基を有する改質セルロースが得られる。
【0039】
(イオン性基がカルボキシ基の場合)
イオン性基導入工程において導入されるイオン性基がカルボキシ基の場合、例えば、触媒として2,2,6,6,-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を使用し、更に次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を併用して、セルロースのヒドロキシ基を酸化することにより、カルボキシ基を導入することができる。より詳細には、特開2011-140632号公報に記載の方法を参照することができる。かかるセルロースの酸化を行うことにより、セルロース構成単位のC6位の基(-CHOH)が選択的にカルボキシ基に変換される。
【0040】
態様1の場合、原料のセルロースをTEMPO酸化することにより、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシ基がカルボキシ基に変換された酸化セルロースが得られる。
【0041】
(イオン性基がスルホン酸基又はリン酸基の場合)
セルロースにアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合、スルホン酸基を導入する方法としては、セルロースに硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。セルロースへリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロースに、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法等が挙げられる。
【0042】
イオン性基を有するセルロースにおけるイオン性基含有量としては、再分散性の観点から、好ましくは0.1mmol/g-セルロース以上、より好ましくは0.4mmol/g-セルロース以上、更に好ましくは0.6mmol/g-セルロース以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g-セルロース以下、より好ましくは2mmol/g-セルロース以下、更に好ましくは1.8mmol/g-セルロース以下、更に好ましくは1.5mmol/g-セルロース以下である。イオン性基がアニオン性基の場合のアニオン性基含有量は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0043】
反応終了後は、未反応の化合物や塩基等を除去するために、適宜後処理を行うことが好ましい。該後処理の方法としては、例えば、未反応の塩基を酸(有機酸、無機酸等)で中和し、その後、未反応の化合物や塩基が溶解する溶媒を用いて洗浄することができる。所望により、更に乾燥(真空乾燥等)を行ってもよい。
【0044】
〔非イオン性置換基導入工程〕
本工程はセルロースのヒドロキシ基にエーテル結合を介して非イオン性置換基を導入する工程である。態様1では、本工程はイオン性基が導入されたセルロース、即ち、イオン性導入工程を経た後のセルロースに対して実施され、態様2では、本工程は原料のセルロースに対して実施される。具体的には、好ましくは塩基及び溶媒の存在下で、セルロースと前記置換基を導入するためのエーテル化剤とを混合することにより、本工程を達成することができる。本工程を経ることによって、態様1の場合、イオン性基及び非イオン性置換基を有する改質セルロースが得られ、態様2の場合、非イオン性置換基を有するセルロースが得られる。
【0045】
(エーテル化剤)
本明細書において「エーテル化剤」とは、非イオン性置換基を導入するために用いられる、非イオン性置換基を有する化合物である。セルロースのヒドロキシ基とエーテル化剤との反応により、エーテル結合を介して、非イオン性置換基がセルロースと結合する。
【0046】
エーテル化剤としては、反応性の観点から、反応性を有する環状構造基を有する化合物及び/又は有機ハロゲン化合物が好ましく、エポキシ基及び/又はハロゲン化炭化水素基を有する化合物がより好ましい。以下に、前記一般式(1)、(2)、又は(3)で示される置換基を導入するためのエーテル化剤を例示する。
【0047】
一般式(1)で示される置換基を有するエーテル化剤としては、例えば、下記一般式(1A)で示されるノニオン性のハロゲン化炭化水素基を有する化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。なお、下記一般式(1A)におけるRの詳細は、前記一般式(1)で説明したとおりである。
【0048】
X-R (1A)
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数2以上100以下の炭化水素基である。)
【0049】
一般式(1A)で示される化合物の具体例としては、クロロエタン、1-クロロプロパン及びその異性体、1-クロロブタン及びその異性体、1-クロロペンタン及びその異性体、1-クロロヘキサンおよびその異性体、1-クロロデカンおよびその異性体、1-クロロドデカンおよびその異性体、1-クロロヘキサデカンおよびその異性体、1-クロロオクタデカンおよびその異性体、1-クロロエイコサンおよびその異性体、1-クロロトリアコンサンおよびその異性体、1-クロロ-5-ヘキセンおよびその異性体、クロロシクロヘキサン、クロロベンゼン、ベンジルクロリド、ナフチルクロリド、トリチルクロリド、および前記化合物の塩素を臭素もしくはヨウ素に置換したものが挙げられる。
【0050】
一般式(2)で示される置換基を有するエーテル化剤としては、例えば、下記一般式(2A)で示されるノニオン性の酸化アルキレン化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。なお、下記一般式(2A)におけるRの詳細は、前記一般式(2)で説明したとおりである。
【0051】
【化2】
【0052】
(式中、Rは炭素数1以上100以下の炭化水素基を示す。)
【0053】
一般式(2A)で示される化合物の具体例としては、酸化プロピレン、酸化ブチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシ-9-デセン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシ-17-オクタデセン、1,2-エポキシエイコサン、スチレンオキシド及びその誘導体が挙げられる。
【0054】
一般式(3)で示される置換基を有するエーテル化剤としては、例えば、下記一般式(3A)で示されるノニオン性のグリシジルエーテル化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。なお、下記一般式(3A)におけるR、A、nの詳細は、前記一般式(3)で説明したとおりである。
【0055】
【化3】
【0056】
(式中、Rは炭素数1以上100以下の炭化水素基であり、nは0以上100以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。)
【0057】
一般式(3A)で示される化合物の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、イソプレニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、イソステアリルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、5-ヘキセニルグリシジルエーテル、9-デセニルグリシジルエーテル、9-オクタデセニルグリシジルエーテル、17-オクタデセニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルおよびこれらの誘導体が挙げられる。
【0058】
(塩基)
本発明の改質セルロースの製造方法では、エーテル化反応を進行させる観点から、塩基の存在下でセルロースとエーテル化剤等を混合することが好ましい。
【0059】
塩基としては、エーテル化反応を進行させる観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0060】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0061】
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0062】
4級アンモニウム塩としては、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0063】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0064】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0065】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0066】
(溶媒)
セルロース及びエーテル化剤等の混合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、特に制限はなく、例えば、水、イソプロパノール、t-ブタノール、ジメチルホルムアミド、トルエン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサン、1,4-ジオキサン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0067】
(エーテル化反応及び反応条件)
セルロースとエーテル化剤とのエーテル化反応を進めるための混合条件としては、セルロースやエーテル化剤等が均一に混合され、十分に反応が進行できるのであれば特に制限はなく、連続的な混合処理を行っても行わなくてもよい。
【0068】
本工程における全成分の混合物中のセルロース濃度としては、製造効率の観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、更に好ましくは45質量%以下であり、更に好ましくは40質量%以下である。
【0069】
エーテル化剤の使用量は、非イオン性置換基の導入効率の観点から、セルロースの無水グルコースユニットの1ユニットに対して、好ましくは0.02当量以上であり、より好ましくは0.05当量以上であり、更に好ましくは0.1当量以上であり、更に好ましくは0.3当量以上であり、更に好ましくは1.0当量以上であり、一方、改質セルロースを樹脂組成物に適用した際に得られる樹脂組成物の成形体の機械的強度の観点から、セルロースの無水グルコースユニットの1ユニットに対して、好ましくは10.0当量以下であり、より好ましくは8.0当量以下であり、更に好ましくは7.0当量以下であり、更に好ましくは6.0当量以下である。
【0070】
塩基の使用量としては、エーテル化反応を進行させる観点から、セルロースの無水グルコースの1ユニットに対して、好ましくは0.01当量以上、より好ましくは0.05当量以上、更に好ましくは0.1当量以上、更に好ましくは0.2当量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10当量以下、より好ましくは8当量以下、更に好ましくは5当量以下、更に好ましくは3当量以下である。
【0071】
溶媒の使用量としては、セルロース100質量部に対して、反応性の観点から、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは50質量部以上であり、更に好ましくは75質量部以上であり、より好ましくは200質量部以上であり、一方、生産性の観点から、好ましくは10,000質量部以下であり、より好ましくは7,500質量部以下であり、更に好ましくは5,000質量部以下、より好ましくは2,000質量部以下である。
【0072】
反応温度としては、反応性を向上させる観点から、好ましくは25℃以上であり、より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは35℃以上であり、更に好ましくは40℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、一方、熱分解を抑制する観点から、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは110℃以下であり、更に好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは90℃以下であり、更に好ましくは80℃以下であり、更に好ましくは70℃以下である。また、必要に応じて適宜昇温・降温過程を設けてもよい。
【0073】
反応時間としては、反応性の観点から、好ましくは0.1時間以上であり、より好ましくは0.5時間以上であり、更に好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは2時間以上であり、更に好ましくは4時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは60時間以下であり、より好ましくは48時間以下であり、更に好ましくは36時間以下である。
【0074】
反応終了後は、未反応の化合物や塩基等を除去するために、適宜後処理を行うことが好ましい。該後処理の方法としては、例えば、未反応の塩基を酸(有機酸、無機酸等)で中和し、その後、未反応の化合物や塩基が溶解する溶媒を用いて洗浄することができる。所望により、更に乾燥(真空乾燥等)を行ってもよい。
【0075】
かかる製造方法により、好ましくは前記一般式(Ce)で示される構造を有する改質セルロースを製造することができる。
【0076】
〔微細化工程〕
本発明の改質セルロースの製造方法により得られる改質セルロースを、さらに微細化処理に供してもよい。例えば、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理や溶媒中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理を行うことで微細化することができる。
適宜、前工程で使用した溶媒を変更する操作や、前工程で生成した副生物や残余の試薬等を洗浄する操作を行うことができる。
【実施例
【0077】
以下、実施例及び比較例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例等は単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0078】
〔非イオン性置換基の導入率(モル置換度)〕
最初に、測定対象のセルロース中に含有される置換基の含有量%(質量%)を、Analytical Chemistry, Vol. 51, No. 13, 2172 (1979)、「第十五改正日本薬局方(ヒドロキシプロピルセルロースの分析方法の項)」等に記載の、セルロースエーテルのアルコキシ基の平均付加モル数を分析する手法として知られるZeisel法に準じて算出する。以下に手順を示す。
【0079】
(i) 200mLメスフラスコにn-テトラデカン0.1gを加え、ヘキサンにて標線までメスアップを行い、内標溶液を調製する。
(ii) 精製、乾燥を行った測定対象のセルロース70mg、アジピン酸80mgを10mLバイアル瓶に精秤し、ヨウ化水素酸2mLを加えて密栓する。
(iii) 前記バイアル瓶中の混合物を、スターラーチップにより攪拌しながら、160℃のブロックヒーターにて1時間加熱する。
(iv) 加熱後、バイアルに内標溶液2mL、ジエチルエーテル2mLを順次注入し、常温で1分間攪拌する。
(v) バイアル瓶中の2相に分離した混合物の上層(ジエチルエーテル層)をガスクロマトグラフィー(SHIMADZU社製、商品名:GC2010Plus)にて分析する。
(vi) 測定対象のセルロースを、その改質に用いたエーテル化剤5mg、10mg、15mgにそれぞれ変更する以外は、(ii)~(v)と同様の方法で分析を行い、エーテル化剤の検量線を作成する。
(vii) 作成した検量線と、測定対象のセルロースの分析結果から、測定対象のセルロース中に含有される置換基を定量する。分析条件は以下のとおりである。
【0080】
カラム:アジレント・テクノロジー社製、商品名:DB-5(12m、0.2mm×0.33μm)
カラム温度:30℃(10min Hold)→10℃/min→300℃(10min Hold)
インジェクター温度:300℃
検出器温度:300℃
打ち込み量:1μL
使用したエーテル化剤の検出量から、測定対象のセルロース中に含有される置換基の含有量(質量%)を算出する。
【0081】
次いで、得られた置換基含有量から、下記数式(1)を用いてモル置換度(MS)(無水グルコースユニット1モルに対する置換基モル量)を算出する。
数式(1)
MS=(W/Mw)/((100-W)/162.14)
W:測定対象のセルロース中の、非イオン性置換基導入工程で導入された置換基の含有量(質量%)
Mw:非イオン性置換基導入工程で使用したエーテル化剤の分子量(g/mol)
【0082】
〔セルロースの結晶構造の確認〕
原料のセルロース、アニオン変性セルロースや改質セルロース等の各種セルロースの結晶構造は、回折計(リガク社製、商品名:MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10~20MPaの範囲で、対象のセルロースに圧力を印加することで、面積320mm×厚さ1mmの平滑なペレットを調製する。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~40°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:15kv、管電流:30mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングする。
【0083】
各種セルロースの結晶構造は、上述の回折計を用いて、上述の条件で測定することにより確認する。
セルロースI型結晶構造の結晶化度は上述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて、以下の式(A)に基づいて算出する。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す。〕
【0084】
〔各種セルロースの平均繊維径及び平均繊維長〕
(1) 測定対象のセルロースの平均繊維径が数ナノメートル~数百ナノメートルであると見込まれる場合、次のようにしてセルロースの平均繊維径を求める。
測定対象のセルロースに適切な溶媒を加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital instrument社製、Nanoscope III Tapping mode AFM、プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロースの繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定する。適切な溶媒とは、測定対象のセルロースが膨潤する溶媒であればよく、セルロースの場合は水やエタノールが好ましく、改質セルロース又は微細改質セルロースの場合はジメチルホルムアミド(DMF)やメチルエチルケトン(MEK)、トルエンなどが好ましい。その際、該セルロースが確認できる顕微鏡画像において、セルロースを100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。一般に、高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6×6の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析される高さを繊維の幅とみなすことができる。
【0085】
(2) 測定対象のセルロースの平均繊維径が数百ナノメートル~数千マイクロメートルであると見込まれる場合、次のようにしてセルロースの平均繊維径を求める。
測定対象のセルロースに媒体を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロースを100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。
【0086】
〔各種セルロースのアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5g-セルロースの測定対象のセルロースを100mLビーカーにとり、脱イオン水、又はメタノール/脱イオン水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとする。ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。測定対象のセルロースが十分に分散するまで該分散液を撹拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT-701」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロースのアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g-セルロース)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/測定対象のセルロースの質量(0.5g-セルロース)
【0087】
測定対象のセルロースが化学修飾を受けていないセルロース又はイオン性基を有するセルロースの場合、「セルロースの質量(g-セルロース)」=「化学修飾を受けていないセルロースの質量又はイオン性基を有するセルロースの質量」と扱うことができ、測定対象のセルロースが非イオン性置換基を有するセルロースの場合、「セルロースの質量(g-セルロース)」=「非イオン性置換基を有するセルロースの質量(g)×162/〔162+エーテル化剤の分子量(g/mol)×モル置換度〕」と扱うことができる。なお、用いるエーテル化剤が2種類以上の場合、各エーテル化剤のモル比率を考慮して、セルロースの質量を算出する。
【0088】
〔アニオン変性セルロースの調製〕
調製例1
針葉樹の漂白クラフトパルプ(ウエストフレザー社製、商品名:ヒントン)を天然セルロースとして用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウム及び臭化ナトリウムは市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
【0089】
まず、前記漂白クラフトパルプ10gを990gの脱イオン水で十分に撹拌した後、該パルプ10gに対し、TEMPO 0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液27gをこの順で添加した。自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名:AUT-701)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持した。撹拌速度200rpmにて反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロース(酸化セルロース)を得た。
【0090】
得られた酸化セルロースを0.01Mの塩酸で中和処理を行った後、脱イオン水を用いてコンパクト電気伝導率計(堀場製作所製、LAQUAtwin EC-33B)によるろ液の電導度測定において200μs/cm以下になるまで十分に洗浄した。次いで脱水処理を行うことで、酸型の酸化セルロースを得た。この酸型の酸化セルロースのカルボキシ基含有量は1.3mmol/g-セルロースであった。
【0091】
実施例1
調製例1で得られた酸型の酸化セルロースをジメチルスルホキシド(DMF)で溶媒置換した。得られた分散液3.0g(固形分含有量26.4質量%)に、アセトニトリル1.21g、触媒としてのN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP) 0.74g(1.00当量/AGU)を添加し、均一に混合した。次いで、エーテル化剤としてラウリルグリシジルエーテル3.66g(四日市合成社製、2.5当量/AGU)を添加し、密閉した。次いで、70℃、24時間ブロックヒーターによる撹拌反応を行った。反応終了後、1Mの塩酸で中和し、次いでエタノールを添加して再沈殿を行った。得られた沈殿物を、ろ過操作においてエタノールにより十分に洗浄することで不純物を取り除き、70℃で一晩真空乾燥を行うことで、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロースを得た。この改質セルロースのセルロースI型結晶化度は65%であり、カルボキシ基含有量は1.3mmol/g-セルロースであった。
【0092】
実施例2
ラウリルグリシジルエーテルの使用量を6.0当量/AGUに変更した点以外は実施例1と同様の方法で、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロースを得た。
【0093】
比較例1
調製例1で得られた酸型の酸化セルロースを評価対象のセルロースとして、後述の試験例に供した。
【0094】
比較例2
調製例1で得られた酸型の酸化セルロースをDMFで溶媒置換して分散液を得た(固形分含有量0.5質量%)。得られた分散液に、酸化セルロース100質量部に対して24質量部(酸化セルロースのカルボキシ基あたり0.5当量)のラウリルアミン(花王株式会社製、商品名:ファーミン 20D)を添加した後、常温で1時間反応させた。反応終了後ろ過し、ケークをDMFで洗浄し、70℃で一晩真空乾燥を行った。得られた改質セルロースのカルボキシ基含有量は1.3mmol/g-セルロースであったことから、得られた改質セルロースのカルボキシ基の一部は、下式LAに示すような、酸化セルロースのカルボキシ基とラウリルアミンのアミノ基とがイオン結合で結合していると推定された。
【0095】
【化4】
【0096】
比較例3
調製例1で得られた酸型の酸化セルロースをN-メチルピロリドン(NMP)で溶媒置換して分散液を得た(固形分含有量13.4質量%)。得られた分散液37.3gに、無水酢酸1.5g及び炭酸カリウム1.25gを添加し、80℃で1.5時間静置して、酸化セルロースにおけるヒドロキシ基のアセチル化反応を行った。反応終了後、ろ過及び水による十分な洗浄を行い、80℃で一晩真空乾燥を行うことで、ヒドロキシ基がアセチル化された改質セルロースを得た。
【0097】
得られた改質セルロースにおける、非イオン性置換基に該当するアセチル基の導入の程度は、特開2016-176052号公報の段落0249~0253に記載された逆滴定方法によって求められる化学修飾度で示し、表1に値を記載した。なお、化学修飾度は、かかるアセチル化におけるアセチル化剤の量、反応温度、反応時間等を調節することにより調整することができる。
【0098】
試験例1(分散安定性)
各実施例及び比較例で得られた改質セルロース又はアニオン変性セルロースを、表1に示す各媒体を用いて高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、「ナノヴェイタL-ES」)処理に計10回供して分散処理を実施し、分散体(固形分含有量:0.5質量%)を得た。各分散体を常温で1日間静置し、透明性や沈殿物の有無を目視で確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、ここでの分散体中の改質セルロース又はアニオン変性セルロースの量は、改質セルロース又はアニオン変性セルロースからイオン性基及び非イオン性置換基を除いたセルロースが0.5質量%となる量である。
【0099】
評価A:透明状態又はやや白濁状態であり、沈殿物は確認されなかった。
評価B:一部沈殿物が確認された。
評価C:完全に分離し、全量が沈殿していた。
分散安定性はA>B>Cの序列で評価され、評価Aが優れた分散安定性を有していること、評価Bが実使用に支障を来さない程度の分散安定性を有していることを示す。
【0100】
試験例2(分散体の透過度)
試験例1で調製された、各実施例及び比較例に関して得られた分散体を使用して、分散体の透過度を次のようにして評価した。光透過率の測定は常温常圧下で実施した。
【0101】
具体的には、分散処理直後の各分散体30mLをスクリュー管(アズワン社製No.7)に移し、分散体をスクリュー管ごと振り、目視で均一になった状態の試料を光路長10mmの石英セルに3mL入れた。セルを1分間静置した後、ダブルビーム分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、「U-2910」)用いて、波長660nmの吸光度を測定した。それぞれの分散体の調製に用いた媒体をブランク(即ち、透過度100%)とし、各分散体の吸光度から透過度を求めた。
結果等を表1にまとめた。
【0102】
【表1】
【0103】
【化5】
【0104】
【化6】
【0105】
前記の実験結果より、本発明の改質セルロースは、分散体にした時の分散安定性及び透過度に優れたものであることが分かった(実施例1~2)。
一方、比較例によれば、非イオン性置換基を有さない酸化セルロース(比較例1、2)の分散体は、分散安定性及び透過度の評価が非常に劣っていることが分かった。さらに、非イオン性置換基がエーテル結合ではなくエステル結合で結合した改質セルロース(比較例3)の分散体も分散安定性及び透過度の評価が非常に劣っていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の改質セルロースは、自動車、航空機、船舶等の産業用途やスポーツ用途等の各種部材の材料として利用することができる。