(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ナノファイバシートの製造装置
(51)【国際特許分類】
D06H 7/00 20060101AFI20231201BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20231201BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20231201BHJP
【FI】
D06H7/00
D01D5/04
D04H1/728
(21)【出願番号】P 2019192103
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池山 卓
(72)【発明者】
【氏名】福田 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】東城 武彦
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-227688(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2005-0078677(KR,A)
【文献】国際公開第2019/021757(WO,A1)
【文献】特開2018-135615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0385889(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00-13/02
D04H1/00-18/04
D06B1/00-23/30
D06C3/00-29/00
D06G1/00-5/00
D06H1/00-7/24
D06J1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源、又は前記ノズルと対向するように配され且つ該ノズルとの間に電界を生じさせる対向電極及び該ノズルと該対向電極間に電圧を印加する電源と、
前記原料液から生成したナノファイバを堆積させる捕集部と、
前記ノズルを前記捕集部に対して移動させるノズル移動機構と、
前記捕集部に堆積した前記ナノファイバの層を含むナノファイバシートを所定の形状に切断する切断部とを具備するナノファイバシートの製造装置であって、
前記ノズル移動機構と前記切断部とが、共通の支持部によって支持されている、ナノファイバシートの製造装置。
【請求項2】
前記切断部が前記ノズル移動機構に取り付けられており、それによって該ノズル移動機構と該切断部とが、共通の前記支持部によって支持されている、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記切断部を前記捕集部に対して移動させる切断部移動機構を更に具備し、該切断部移動機構が前記支持部によって支持されており、それによって該切断部と前記ノズル移動機構とが、共通の前記支持部によって支持されている、請求項1に記載の製造装置。
【請求項4】
前記捕集部を、その捕集面内に沿って移動させる捕集部移動機構を更に具備し、該捕集部移動機構が前記支持部によって支持されている、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項5】
前記切断部がレーザー加工機である請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項6】
原料液を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源、又は前記ノズルと対向するように配され且つ該ノズルとの間に電界を生じさせる対向電極及び該ノズルと該対向電極間に電圧を印加する電源と、
前記原料液から生成したナノファイバを堆積させる捕集部と、
前記捕集部を前記ノズルに対して移動させる捕集部移動機構と、
前記捕集部に堆積した前記ナノファイバの層を含むナノファイバシートを所定の形状に切断する切断部とを具備するナノファイバシートの製造装置であって、
前記捕集部移動機構と前記切断部とが、共通の支持部によって支持されて
おり、
前記切断部がレーザー加工機である、ナノファイバシートの製造装置。
【請求項7】
前記ナノファイバシートが、前記ナノファイバの層と該層を支持する基材層とを有し、
前記切断部が、前記ナノファイバの層のみを切断するか、前記基材層のみを切断するか、又は前記ナノファイバシートの全体を切断するように構成されている請求項1ないし
6のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項8】
原料液を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源、又は前記ノズルと対向するように配され且つ該ノズルとの間に電界を生じさせる対向電極及び該ノズルと該対向電極間に電圧を印加する電源と、
前記原料液から生成したナノファイバを堆積させる捕集部と、
前記捕集部を前記ノズルに対して移動させる捕集部移動機構と、
前記捕集部に堆積した前記ナノファイバの層を含むナノファイバシートを所定の形状に切断する切断部とを具備するナノファイバシートの製造装置であって、
前記捕集部移動機構と前記切断部とが、共通の支持部によって支持されて
おり、
前記ナノファイバシートが、前記ナノファイバの層と該層を支持する基材層とを有し、
前記切断部が、前記ナノファイバの層のみを切断するか、前記基材層のみを切断するか、又は前記ナノファイバシートの全体を切断するように構成されている、ナノファイバシートの製造装置。
【請求項9】
前記切断部を前記捕集部に対して移動させる切断部移動機構を更に具備し、該切断部移動機構が前記支持部によって支持されており、それによって該切断部と前記捕集部移動機構とが、共通の前記支持部によって支持されている、請求項
1ないし8のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項10】
前記製造装置はその全体が、少なくとも一部に透明部を有するカバーで覆われており、該透明部がアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂又はガラスから構成されている請求項1ないし
9のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項11】
更に集塵脱臭機構を具備する請求項1ないし
10のいずれか一項に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノファイバシートの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバシートの製造装置に関する従来技術としては、例えば、特許文献1及び2に記載のものが知られている。これらの文献には、高分子溶液を吐出する噴射装置と、ジグザグ運転可能なロボットとを備え、噴射装置がロボットに取り付けられたナノファイバの製造装置が記載されている。
【0003】
特許文献3には、溶液材料に電圧を印加した状態で噴霧するノズルと、X方向に移動可能なXステージ及びY方向に移動可能なYステージを含むステージ部とを備え、ノズルがXステージに取り付けられているエレクトロスプレー装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-174855号公報
【文献】特開2008-196061号公報
【文献】特開2016-112549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、所定形状の輪郭を有するナノファイバシートを製造するときには、ナノファイバシートの製造装置と、製造されたナノファイバシートを所定形状の輪郭に切断する切断装置とが別個に用いられていた。そのことに起因して装置全体が大型になっていた。特許文献1ないし3に記載の装置も同様の課題を有していた。
【0006】
したがって本発明の課題は、ナノファイバシートの製造装置を小型化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、原料液を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源、又は前記ノズルと対向するように配され且つ該ノズルとの間に電界を生じさせる対向電極及び該ノズルと該対向電極間に電圧を印加する電源と、
前記原料液から生成したナノファイバを堆積させる捕集部と、
前記ノズルを前記捕集部に対して移動させるノズル移動機構と、
前記捕集部に堆積した前記ナノファイバの層を含むナノファイバシートを所定の形状に切断する切断部とを具備するナノファイバシートの製造装置であって、
前記ノズル移動機構と前記切断部とが、共通の支持部によって支持されている、ナノファイバシートの製造装置を提供するものである。
【0008】
また本発明は、原料液を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源、又は前記ノズルと対向するように配され且つ該ノズルとの間に電界を生じさせる対向電極及び該ノズルと該対向電極間に電圧を印加する電源と、
前記原料液から生成したナノファイバを堆積させる捕集部と、
前記捕集部を前記ノズルに対して移動させる捕集部移動機構と、
前記捕集部に堆積した前記ナノファイバの層を含むナノファイバシートを所定の形状に切断する切断部とを具備するナノファイバシートの製造装置であって、
前記捕集部移動機構と前記切断部とが、共通の支持部によって支持されている、ナノファイバシートの製造装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所定形状のナノファイバシートを製造できるコンパクトな製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明のナノファイバシートを製造する製造装置の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明のナノファイバシートを製造する製造装置の別実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明のナノファイバシートを製造する製造装置の一実施形態が模式的に示されている。本発明において、ナノファイバシートとは、文脈に応じ、ナノファイバの堆積物からなるシートを意味する場合と、ナノファイバの堆積物からなるナノファイバ層と、該層を支持する基材層とを有するシートを意味する場合とがある。
図1に示す製造装置は電界紡糸装置100Aから構成されている。電界紡糸装置100Aは、原料液を吐出するノズル20と、該ノズル20に電圧を印加する電源である電圧印加部32と、原料液から生成されたナノファイバFを集積する捕集部40と、ノズル20を移動させるノズル移動機構50と、ナノファイバシートを所定形状の輪郭に切断する切断部7とを具備している。原料液は、ナノファイバの原料樹脂の溶液又は分散液からなる。
【0012】
電界紡糸装置100Aは、原料樹脂の溶液又は分散液(以下、これらを総称して「原料液L」ともいう。)をノズル20から吐出して、電界紡糸によって細径のナノファイバFを形成するためのものである。ノズル20は、後述するノズル移動機構50に取り付けられている。ノズル20は、原料液供給部(不図示)から供給される原料液Lを吐出する部材である。ノズル20は、原料供給路(不図示)を介して原料液供給部と連通している。原料液供給部は、圧力負荷装置等の公知の手段によって、原料液Lをノズル20に定量的に供給可能になされている。原料液供給部は、原料液Lをノズル20に連続的に又は断続的に供給できるようになっている。
【0013】
本実施形態においてノズル20は、金属などの導電性材料から構成されている。ノズル20は、電圧印加部32と電気的に接続されている。その結果、ノズル20には正又は負の電圧が印加されるようになっている。
【0014】
ノズル20には、原料液Lを吐出するための吐出孔が備えられている。吐出孔の形状は特に制限されず、例えば円形等の任意の形状とすることができる。ナノファイバの堆積を効率的に行う観点から、前記吐出孔は、その直径が0.1mm以上20mm以下であることが好ましく、0.1mm以上15mm以下であることが更に好ましい。
【0015】
捕集部40は、ナノファイバFを集積する部材である。捕集部40は、後述する捕集部移動機構80に取り付けられている。捕集部40は、金属等の導電性材料から構成される部材である。捕集部40は、ノズル20と対向するように配されている。捕集部40は接地されている。したがって、ノズル20に正又は負の電圧が印加されることで、ノズル20と捕集部40との間に電界が生じる。
【0016】
ノズル20と捕集部40との間に加わる電位差は、原料液の帯電性を向上させる観点から、絶対値で1kV以上、特に10kV以上とすることが好ましく、放電を防止する観点から、絶対値で100kV以下、特に50kV以下とすることが好ましい。
【0017】
切断部7は、捕集部40上に形成されたナノファイバシート10を所定形状の輪郭に切断するものである。切断部7は、後述する切断部移動機構70に取り付けられている。切断部7としては、レーザー光の照射によって溶断するレーザー加工機、超音波振動による摩擦熱によって溶断する超音波カッター等が挙げられる。コンパクトでありながら細かな形状にカットできる観点から、レーザー加工機が好ましく用いられる。
【0018】
切断部7としてはレーザー加工機を用いる場合、照射するレーザー光としては、CO2レーザー、エキシマレーザー、アルゴンレーザー、半導体レーザー、YAGレーザー等が挙げられる。ナノファイバシートを効率よく切断する観点から、CO2レーザーが好ましく用いられる。レーザー光の出力は、1.5W以上であることが好ましく、5W以上であることが更に好ましく、そして150W以下であることが好ましく、50W以下であることが更に好ましい。レーザー光の照射時間は、1mm/秒以上であることが好ましく、20mm/秒以上であることが更に好ましく、そして1200mm/秒以下であることが好ましく、300mm/秒以下であることが更に好ましい。
【0019】
レーザー光を照射してナノファイバシート10を切断するときに、ナノファイバ層における基材層対向面の焦げを防止する観点から、捕集部40は、通気性を有する部材で形成されていることが好ましい。
【0020】
電界紡糸装置100Aは、非導電性材料から構成される台座90を具備している。台座90は、平面視してX軸方向に長い矩形状の板状体からなる。台座90は、X軸方向である縦方向と、X軸方向に直交するY軸方向である横方向とを有している。X軸方向及びY軸方向からなる台座90の主面は、ノズル20に対向している。
図1に示すように、台座90の主面の中央部には捕集部移動機構80が載置されている。また台座90の周縁部にはノズル移動機構50と切断部移動機構70とが互いに干渉しないような位置に配置されている。
【0021】
捕集部移動機構80は、X軸方向に延びるX軸レール84とY軸方向に延びるY軸レール86と有している。X軸レール84の表面には凹状の案内溝83がX軸方向に沿って形成されている。Y軸レール86の表面には凹状の案内溝85がY軸方向に沿って形成されている。捕集部40は電気的に絶縁された状態でX軸レール84に取り付けられている。捕集部40は案内溝83に沿ってX軸方向に摺動自在となっている。X軸レール84は電気的に絶縁された状態でY軸レール86に取り付けられている。X軸レール84は案内溝85に沿ってY軸方向に摺動自在となっている。Y軸レール86は、台座90のX軸方向中心位置を通るように台座90の主面に載置され且つ固定されている。捕集部40の捕集面と、台座90の主面とは平行になっている。以上の構成を有する捕集部移動機構80によれば、捕集部40が、X軸方向及びY軸方向の捕集面内に沿って自在に移動可能となっている。
【0022】
ノズル移動機構50は、少なくとも捕集部40が移動する範囲内において、ノズル20が移動可能なように構成されている。ノズル移動機構50は、ノズル20を保持するスライダ51と、X軸方向及びY軸方向それぞれに沿うレール53,55と、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直方向であるZ軸方向に延びるZ軸レール52とを備えている。Z軸レール52は、その表面に凹状に形成されたZ軸方向に沿う案内溝57を有している。スライダ51は、案内溝57に嵌め込まれており、案内溝57に沿ってZ軸方向に摺動自在となっている。レール55は、その表面にY軸方向に延びるY軸案内溝56を有している。レール53は、その表面にX軸方向に延びるX軸案内溝54を有している。Z軸レール52は電気的に絶縁された状態でレール55に取り付けられている。Z軸レール52はY軸案内溝56に沿ってY軸方向に摺動自在となっている。レール55は電気的に絶縁された状態でレール53に取り付けられている。レール55はX軸案内溝54に沿ってX軸方向に摺動自在となっている。レール53は、その一端が台座90の主面から立設する支柱59に固定されている。以上の構成を有するノズル移動機構50によれば、ノズル20が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に自在に移動可能となっている。
【0023】
切断部移動機構70は、少なくとも捕集部40が移動する範囲内において、切断部7が移動可能なように構成されている。切断部移動機構70は、切断部7を保持するスライダ71と、Y軸方向及びX軸方向それぞれに沿うレール73,75と、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直方向であるZ軸方向に延びるZ軸レール72とを備えている。Z軸レール72は、その表面に凹状に形成されたZ軸方向に沿う案内溝77を有している。スライダ71は案内溝77に嵌め込まれており、案内溝77に沿ってZ軸方向に摺動自在となっている。レール73は、その表面にY軸方向に延びるY軸案内溝74を有している。レール75は、その表面にX軸方向に延びるX軸案内溝76を有している。Z軸レール72は電気的に絶縁された状態でレール73に取り付けられている。Z軸レール72はY軸案内溝74に沿ってY軸方向に摺動自在となっている。レール73は電気的に絶縁された状態でレール75に取り付けられている。レール73はX軸案内溝76に沿ってX軸方向に摺動自在となっている。レール75は、その一端が台座90の主面から立設する支柱79に固定されている。以上の構成を有する切断部移動機構70によれば、切断部7が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に自在に移動可能となっている。
【0024】
捕集部移動機構80、ノズル移動機構50及び切断部移動機構70は、制御部(不図示)と電気的に接続されており、制御部に入力された移動軌道のデータや、操作者がコントローラーを介して制御部に入力した操作信号に基づき、捕集部40、ノズル20及び切断部7を移動させることが可能になされている。制御部には、移動軌道のデータが入力されているか、又は入力可能になされている。制御部への移動軌道のデータの入力は、USBメモリ等の記録媒体を介して入力可能であってもよいし、インターネットやイントラネット等のネットワークを介して入力可能であってもよい。
【0025】
本実施形態の電界紡糸装置100Aにおいては、ノズル移動機構50の支柱59と切断部移動機構70の支柱79とが共通の支持部である台座90によって支持されている。つまり、ノズル移動機構50と切断部7とが共通の支持部によって支持されている。その結果、電界紡糸装置100Aは、ノズル移動機構50によってノズル20を三軸方向に自在に移動させながら捕集部40上にナノファイバFを堆積させてナノファイバシート10を製造する製造部と、切断部移動機構70によって切断部7を三軸方向に自在に移動させながらナノファイバシート10を所定形状の輪郭に切断する切断部とを単一の装置内に備えているので、装置全体がコンパクトなものとなる。コンパクトである利点を活かして、本実施形態の電界紡糸装置100Aを、例えばナノファイバシートを販売する店頭等に気軽に設置することができ、顧客の要望に応じ、その場で所望形状の輪郭を有するナノファイバシートを提供することができる。
【0026】
ノズル移動機構50と切断部7とが共通の支持部によって支持されているとは、該支持部を移動させることで、ノズル移動機構50及び切断部7も同時に移動するように、ノズル移動機構50及び切断部7が支持部に取り付けられていることをいう。したがって、支持部を移動させたときにノズル移動機構50及び切断部7の何れか一方のみが移動し、他方は移動しないような場合には、ノズル移動機構50及び切断部7は共通の支持部に支持されていない。
【0027】
電界紡糸装置100Aを用いたナノファイバシート10の製造方法の好ましい一実施態様を、ナノファイバ層と基材層とを有するナノファイバシートの製造を例にとり説明する。先ず、捕集部40上に基材層を配置する。制御部(不図示)から送られる操作信号に基づき、捕集部移動機構80を作動させて、捕集部40を所定の位置に移動させる。次に、ノズル20と捕集部40との間に電界を生じさせた状態で、ノズル20に原料液Lを供給し、該ノズルから原料液Lを吐出させる。原料液Lを吐出させている間、制御部(不図示)から送られる操作信号に基づきノズル移動機構50を作動させてノズル20を移動させる。吐出された原料液Lは、基材層に到達するまでに原料液Lに含まれる溶媒を蒸発しつつ、ナノファイバFを形成しながら捕集部40に引き寄せられるように紡糸される。ナノファイバFは捕集部40に配された基材層上に堆積し、ナノファイバFの堆積物を形成する。この堆積物がナノファイバ層となる。
【0028】
次いで、制御部(不図示)から送られる操作信号に基づき、切断部移動機構70を作動させて切断部7を移動させながら、切断部7からレーザー光を照射してナノファイバシート10を切断する。これにより、所望の平面視形状のナノファイバシート10が形成される。切断部7は、レーザー光の照射条件等に応じ、基材層上のナノファイバ層のみを切断するか、堆積したナノファイバ層の周縁よりも外方に位置する基材層のみを切断するか、又は基材層及びナノファイバ層を備えるナノファイバシート10全体を切断するように構成されている。
【0029】
ナノファイバシート10の成形性の観点から、ノズル20、切断部7及び捕集部40の少なくとも一つは、一定速度で移動させることが好ましい。ノズル20、切断部7又は捕集部40の移動速度は、好ましくは5mm/秒以上、より好ましくは50mm/秒以上であり、また好ましくは1000mm/秒以下、より好ましくは150mm/秒以下であり、また好ましくは5mm/秒以上1000mm/秒以下であり、より好ましくは50mm/秒以上150mm/秒以下である。
【0030】
ナノファイバFを捕集部40上に堆積させるときには、ノズル20を移動させる代わりに、捕集部40を移動させることができる。或いは、ノズル20及び捕集部40の双方を移動させることもできる。ノズル20及び捕集部40の双方を移動させながらナノファイバ層を形成することには、ナノファイバ層の形状を任意の形状に調整し易くなるという利点がある。
【0031】
本実施形態の電界紡糸装置100Aは、店頭等に設置することを考慮して、その全体がカバーで覆われていることが好ましい。カバーには一部に透明部が設けられていることが好ましい。該透明部は、意図せず漏出するレーザー光を減衰させる観点から、レーザー光の波長の光を吸収し易い材料、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂又はガラス等から構成されていることが好ましい。
【0032】
電界紡糸装置100Aの全体がカバーで覆われているときには、店頭等に設置することを考慮して、レーザー光を照射してナノファイバシート10を切断するときの焦げの臭いを脱臭する集塵脱臭機構を具備していることが好ましい。
【0033】
次に、本発明の装置を用いて得られるナノファイバシート10について説明する。
ナノファイバシート10におけるナノファイバ層は、高分子化合物のナノファイバを含む層である。本明細書においてナノファイバとは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10nm以上3000nm以下、特に10nm以上1000nm以下のものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(ナノ繊維の塊、ナノ繊維の交差部分、ポリマー液滴)を除いた繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0034】
原料液Lとしては、繊維形成可能な高分子化合物を溶媒に溶解又は分散させた溶液を用いることができる。原料液Lには前記高分子化合物以外に、無機物粒子、有機物粒子、植物エキス、界面活性剤、油剤、イオン濃度を調整するための電解質等を適宜配合することができる。原料液Lの溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、グリコール等が挙げられる。これらの溶媒は単独で又は複数混合して用いることができる。
【0035】
基材層を有する場合、基材層としては、例えばポリオレフィン系の樹脂やポリエステル系の樹脂を始めとする合成樹脂製のフィルムや、不織布等の繊維シートを用いることができる。基材層の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下であり、また好ましくは5μm以上20mm以下、より好ましくは10μm以上15mm以下である。
【0036】
次に、本発明のナノファイバシートを製造する製造装置の第2実施形態の電界紡糸装置について、
図2を参照しながら説明する。第2実施形態に係る電界紡糸装置100Bについては、第1実施形態に係る電界紡糸装置100Aと異なる点について説明する。特に説明しない点については、第1実施形態に係る電界紡糸装置と同様であり、該電界紡糸装置の説明が適宜適用される。
【0037】
上述の電界紡糸装置100Aは、ノズル移動機構50と、ノズル移動機構50とは別に切断部移動機構70とを備えていたが、第2実施形態に係る電界紡糸装置100Bにおいては、切断部7がノズル移動機構50に取り付けられている。
【0038】
図2に示す電界紡糸装置100Bにおいては、台座90の中央部に捕集部移動機構80が載置されている。また台座90の周縁部にノズル移動機構50が配置されている。電界紡糸装置100Bのノズル移動機構50は、ノズル20を保持するスライダ51と、レール53,55と、Z軸レール52とを備えている。スライダ51は、Z軸レール52の表面に形成された案内溝57に嵌め込まれている。スライダ51は、ノズル20と、それ以外に切断部7とを保持している。ノズル移動機構50によれば、スライダ51が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に自在に移動可能となっている。その結果、ノズル20及び切断部7が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に自在に移動可能となっている。
【0039】
本実施形態の電界紡糸装置100Bにおいては、ノズル20及び切断部7が、ノズル移動機構50を構成するスライダ51に支持されている。つまり、ノズル移動機構50と切断部7とが共通の支持部によって支持されている。その結果、ノズル移動機構50によってノズル20及び切断部7を三軸方向に自在に移動させることができる。電界紡糸装置100Bは、ナノファイバシート10を製造する製造部と、ナノファイバシート10を所定形状の輪郭に切断する切断部とを同じノズル移動機構50内に備えているので、装置全体が更にコンパクトなものとなる。
【0040】
電界紡糸装置100Bを用いたナノファイバシート10の製造方法においては、上述の電界紡糸装置100Aと同様に、制御部(不図示)から送られる操作信号に基づき、ノズル移動機構50を作動させてノズル20を移動させながら、ノズル20から原料液Lを吐出させ、捕集部40に配された基材層上にナノファイバ層を形成してナノファイバシート10を製造する。次いで、制御部(不図示)から送られる操作信号に基づき、ノズル移動機構50を作動させて切断部7を移動させながら、切断部7からレーザー光を照射してナノファイバシート10を切断し、所望の形状のナノファイバシート10が形成される。
【0041】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
例えば、
図1及び
図2に図示されている台座90は、単一の部材で構成されていたが、これに代えて、二以上の部材が任意の連結手段ないし締結手段によって連結されて、実質的に単一部材とみなせる状態になっていてもよい。
【0042】
上述の電界紡糸装置100A及び電界紡糸装置100Bは、
図1及び
図2に示すように、共にノズル移動機構50を備えていたが、本発明の装置は、ノズル移動機構50を備えておらず、ノズル20が装置内の別支持部に固定されていてもよい。ノズル20が固定されているときには、切断部移動機構70及び捕集部移動機構80のうち、少なくとも捕集部移動機構80を備える必要がある。ノズル20が固定されている装置としては、ノズル20に対向して配置された台座90と、台座90の中央部に載置された捕集部移動機構80と、台座90の周縁部に配置された切断部移動機構70とを備え、捕集部移動機構80と切断部移動機構70とが共通の支持部である台座90によって支持されている装置が挙げられる。このような装置も装置全体が非常にコンパクトなものとなる。またノズル20が固定されているコンパクトな装置としては、ノズル20に対向して配置された台座90と、台座90の中央部に載置された捕集部移動機構80と、台座90の周縁部に立設する支柱に固定された切断部7とを備え、捕集部移動機構80と切断部7とが共通の支持部である台座90によって支持されている装置が挙げられる。
【0043】
図1に示すように、上述の電界紡糸装置100Aは、台座90の中央部に載置された捕集部移動機構80と、台座90の周縁部に互いに対向するように配置されたノズル移動機構50及び切断部移動機構70とを備えているが、本発明の装置は、ノズル移動機構50を有する一方、捕集部移動機構80を有しておらず、台座90の中央部に捕集部40が固定されていてもよい。また、捕集部移動機構80を有する一方、切断部移動機構70を有しておらず、台座90の周縁部に立設する支柱に切断部7が固定されていてもよい。これらの装置においても、ノズル移動機構50と切断部7とが、共通の支持部である台座90によって支持されており、装置全体が非常にコンパクトなものとなる。
【0044】
図2に示すように、上述の電界紡糸装置100Bは、台座90の中央部に載置された捕集部移動機構80と、台座90の周縁部に配置されたノズル移動機構50とを備え、ノズル移動機構50にノズル20及び切断部7が取り付けられているが、本発明の装置は、ノズル移動機構50を有する一方、捕集部移動機構80を有しておらず、台座90の中央部に捕集部40が固定されていてもよい。このような装置においても、ノズル20と切断部7とが、共通の支持部であるノズル移動機構50によって支持されており、装置全体が非常にコンパクトなものとなる。また、捕集部移動機構80を有する一方、切断部移動機構70を有しておらず、台座90の周縁部に立設する支柱にノズル20及び切断部7が固定されていてもよい。このような装置においても、ノズル移動機構50と切断部7とが、共通の支持部である台座90によって支持されており、装置全体が非常にコンパクトなものとなる。
【0045】
図1に示すように、上述の電界紡糸装置100Aは、台座90の中央部に載置された捕集部移動機構80と、台座90の周縁部に互いに対向するように配置されたノズル移動機構50及び切断部移動機構70とを備えているが、本発明の装置は、ノズル移動機構50及び捕集部移動機構80を有する一方、切断部移動機構70を有しておらず、台座90の周縁部に立設する支柱に切断部7が固定されていてもよい。このような装置においても、ノズル移動機構50と切断部7とが、共通の支持部である台座90によって支持されており、装置全体が非常にコンパクトなものとなる。
【0046】
図1及び
図2に示すように、上述の電界紡糸装置100A及び電界紡糸装置100Bは、ノズル20に電圧を印加する電源である電圧印加部32を備えているが、電圧印加部32の代わりに、特開2017-31517号公報に記載の電界紡糸装置1Aのように、ノズル21を備えた原料噴射部2と、ノズル21に対向するように配され且つ該ノズル21との間に電界を生じさせる凹曲面の対向電極3と、ノズル21と対向電極3との間に電圧を印加する電源である電圧発生部4とを備えていてもよい。原料噴射部2を備えていれば、捕集部40に向かって空気流を吹き付けながら、捕集部40に配された基材層上にナノファイバFを堆積させることが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
100A,100B 電界紡糸装置(ナノファイバシートの製造装置)
7 切断部
10 ナノファイバシート
20 ノズル
32 電圧印加部(電源)
40 捕集部
50 ノズル移動機構
70 切断部移動機構
80 捕集部移動機構
F ナノファイバ