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特許7394588情報処理装置、情報処理方法、および撮像システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、および撮像システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20231201BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20231201BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20231201BHJP
【FI】
A61B6/03 360J
A61B5/055 380
G16H50/20
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019202597
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2021074232
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】溝部 秀謙
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 修平
(72)【発明者】
【氏名】福井 寿文
【審査官】後藤 昌夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-120022(JP,A)
【文献】国際公開第2018/202541(WO,A1)
【文献】特開2002-109512(JP,A)
【文献】特開2018-061771(JP,A)
【文献】国際公開第2018/232388(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0108634(US,A1)
【文献】特開2002-325754(JP,A)
【文献】特開2019-051315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体をスキャンする撮像部によって生成されたデータを取得する取得手段と、
前記データに基づいて、前記被検体の情報を示す第一の画像データを再構成する第一の再構成手段と、
前記データに基づいて、前記被検体の情報を示す第二の画像データを再構成する第二の再構成手段と、
画像データから特定の傷病を識別するように学習された学習済モデルを用いて、前記被検体の前記第一の画像データから前記特定の傷病を検出する検出手段と、
前記被検体の前記第一の画像データから前記特定の傷病が検出された場合に、検出結果を通知する通知手段と、
前記第二の画像データを外部装置に出力する出力手段と
を有し、
前記検出手段における前記特定の傷病の検出に用いられる前記第一の画像データのデータサイズは、前記出力手段から前記外部装置に出力される前記第二の画像データのデータサイズより小さい
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
表示装置に前記被検体の前記第二の画像データを表示させる表示制御手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記表示制御手段は、前記検出手段によって検出された前記特定の傷病の領域の情報を、前記被検体の前記第二の画像データとともに前記表示装置に表示させる
ことを特徴とする請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記出力手段は、前記検出手段によって検出された前記特定の傷病の領域の情報を、前記被検体の前記第二の画像データとともに前記外部装置に出力する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第一の再構成手段による前記第一の画像データの再構成は、前記第二の再構成手段による前記第二の画像データの再構成よりも、再構成の処理時間が短い
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記第一の画像データは、前記第二の画像データよりも、解像度が低い
ことを特徴とする請求項1~5のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記第一の再構成手段による前記第一の画像データの再構成は、前記第二の再構成手段による前記第二の画像データの再構成と再構成条件が異なる
ことを特徴とする請求項1~6のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記第一の再構成手段による前記第一の画像データの再構成は、前記第二の再構成手段における前記第二の画像データの再構成よりも先に行われるか、又は
前記第一の再構成手段による前記第一の画像データの再構成と、前記第二の再構成手段による前記第二の画像データの再構成とは、並行して行われる
ことを特徴とする請求項1~7のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記検出手段は、複数の学習済モデルを有しており、前記複数の学習済モデルの中から検出処理に用いる学習済モデルを選択する
ことを特徴とする請求項1~8のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記複数の学習済モデルは、再構成条件が異なる学習データを用いて学習されたモデルであり、
前記検出手段は、検出処理に用いる前記第一の画像データに対応する再構成条件で生成された学習データを用いて学習された学習済モデルを、検出処理に用いる学習済モデルとして選択する
ことを特徴とする請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記複数の学習済モデルは、造影条件が異なる学習データを用いて学習されたモデルであり、
前記検出手段は、検出処理に用いる画像データの撮影時の造影条件に対応する学習データを用いて学習された学習済モデルを、検出処理に用いる学習済モデルとして選択する
ことを特徴とする請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記通知手段は、前記検出結果として、前記特定の傷病の位置又は領域に関する情報を通知する
ことを特徴とする請求項1~11のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記通知手段は、前記検出結果を表示装置に表示する
ことを特徴とする請求項1~12のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記通知手段は、前記特定の傷病が検出された画像とともに前記検出結果を前記表示装置に表示する
ことを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項15】
前記データは、前記被検体を透過したX線の強度を計測することにより得られるデータである
ことを特徴とする請求項1~14のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項16】
前記データは、核磁気共鳴によって前記被検体の内部から発生する電磁波を計測することにより得られるデータである
ことを特徴とする請求項1~15のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項17】
被検体をスキャンする撮像部と、
請求項1~16のうちいずれか1項に記載の情報処理装置と、
を有することを特徴とする撮像システム。
【請求項18】
プロセッサが実行する情報処理方法であって、
被検体をスキャンする撮像部によって生成されたデータを取得する取得ステップと、
前記データに基づいて、前記被検体の情報を示す第一の画像データを再構成する第一の再構成ステップと、
前記データに基づいて、前記被検体の情報を示す第二の画像データを再構成する第二の再構成ステップと、
画像データから特定の傷病を識別するように学習された学習済モデルを用いて、前記被検体の前記第一の画像データから前記特定の傷病を検出する検出ステップと、
前記被検体の前記第一の画像データから前記特定の傷病が検出された場合に、検出結果を通知する通知ステップと、
前記第二の画像データを外部装置に出力する出力ステップと
を有し、
前記検出ステップにおける前記特定の傷病の検出に用いられる前記第一の画像データのデータサイズは、前記出力ステップにおいて前記外部装置に出力される前記第二の画像データのデータサイズより小さい
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項19】
コンピュータを、請求項1~16のうちいずれか1項に記載の情報処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、および撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像診断の分野では、被検体の内部の情報を画像化するモダリティが利用されている。例えば、X線CT(Computed Tomography)装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging
)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、超音波診断装置などが実用化されている。
【0003】
病院における画像診断の一般的な流れは例えば次のとおりである。まず、技師が患者(被検体)をモダリティまで誘導し、患者を撮像台(クレードル)上に横たわらせる。技師が撮影部位などの撮影に関する条件を設定した後、撮像が開始される。撮像により計測された生データ(raw data)は、コンソールと呼ばれる情報処理装置に順次取り込まれる。情報処理装置は、取得した生データから、患者の体内の情報が画像化された画像データを生成する(この処理は「画像再構成」又は単に「再構成」と呼ばれる)。技師は、生成された画像を検像し、当該画像が診断に適していると判断したら、PACS(Picture Archiving and Communication Systems:医療用画像管理システム)等の画像サーバ
に送信する。検像とは、モダリティから得られた画像が適切な撮像範囲と適切な画質を有しているかを確認し、必要に応じて修正や編集を行う作業である。そして、画像サーバに保存された画像を、医師や放射線科医が画像ビューワを用いて読影する。また、画像サーバに送信された画像は、画像ビューワ内のワークリスト上に反映され、時系列的に蓄積される。
【0004】
ここで、撮像中に患者の状態の変化を検出して警報を通知することで、監視員が迅速に対応できるようにする技術がある。特許文献1には、検査機器で検出できる血圧や脈拍や心電図等のバイタルデータを監視して、患者の容態の異常が検出された時に、検査値や原因や対応処置等の情報を、ブザーやポケットベル等に自動発信または画面に表示する技術が開示されている。また、特許文献2には、結節の輪郭を取得し、その物理的特徴に対応した測定値を生成し、その測定値をニューラルネットワークに入力することで、画像中の肺結節の悪性腫瘍の尤度を決定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-236938号公報
【文献】特表2002-530133号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Wei Liu, Dragomir Anguelov, Dumitru Erhan, Christian Szegedy, Scott Reed, Cheng-Yang Fu, Alexander C. Berg, "SSD: Single Shot MultiBox Detector", https://arxiv.org/pdf/1512.02325.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
患者の状態や病態によっては、体内の異常(疾病、傷など)を迅速に発見すべき場合がある。しかしながら、前述したモダリティの場合、断層画像に含まれる特定の傷病が検出されるのは、再構成された画像データが画像サーバ(PACSなど)に格納された後の読影のタイミングとなる。そのため、患者(被検体)を撮影してから医師が特定の傷病を発
見するまでにある程度の時間を要するという実情があった。
【0008】
特許文献1の方法によれば、患者のバイタルの異常を医師に対して直ちに通知することはできるが、モダリティにおける撮像から画像データの読影(特定の傷病の検出)までの時間を短縮することはできない。また、特許文献2の方法によれば、撮像から画像データの読影の準備が整うまでの時間は短縮できない。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、モダリティによる撮像から、画像データに基づく特定の傷病を検出するまでの時間を短縮する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一態様は、被検体をスキャンする撮像部によって生成されたデータを取得する取得手段と、前記データに基づいて、前記被検体の情報を示す第一の画像データを再構成する第一の再構成手段と、前記データに基づいて、前記被検体の情報を示す第二の画像データを再構成する第二の再構成手段と、画像データから特定の傷病を識別するように学習された学習済モデルを用いて、前記被検体の前記第一の画像データから前記特定の傷病を検出する検出手段と、前記被検体の前記第一の画像データから前記特定の傷病が検出された場合に、検出結果を通知する通知手段と、前記第二の画像データを外部装置に出力する出力手段とを有し、前記検出手段における前記特定の傷病の検出に用いられる前記第一の画像データのデータサイズは、前記出力手段から前記外部装置に出力される前記第二の画像データのデータサイズより小さいことを特徴とする情報処理装置を提供する。

【0011】
本発明の第二態様は、被検体をスキャンする撮像部と、第一態様に係る情報処理装置と、を有することを特徴とする撮像システムを提供する。
【0012】
本発明の第三態様は、プロセッサが実行する情報処理方法であって、被検体をスキャンする撮像部によって生成されたデータを取得する取得ステップと、前記データに基づいて、前記被検体の情報を示す第一の画像データを再構成する第一の再構成ステップと、前記データに基づいて、前記被検体の情報を示す第二の画像データを再構成する第二の再構成ステップと、画像データから特定の傷病を識別するように学習された学習済モデルを用いて、前記被検体の前記第一の画像データから前記特定の傷病を検出する検出ステップと、前記被検体の前記第一の画像データから前記特定の傷病が検出された場合に、検出結果を通知する通知ステップと、前記第二の画像データを外部装置に出力する出力ステップとを有し、前記検出ステップにおける前記特定の傷病の検出に用いられる前記第一の画像データのデータサイズは、前記出力ステップにおいて前記外部装置に出力される前記第二の画像データのデータサイズより小さいことを特徴とする情報処理方法を提供する。
【0013】
本発明の第四態様は、コンピュータを、第一態様に係る情報処理装置の各手段として機能させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モダリティによる撮像から、画像データに基づく特定の傷病を検出するまでの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係る撮像システムの構成を示す図。
図2】情報処理装置のハードウェア構成を示す図。
図3】第1の実施形態に係る情報処理装置の処理を示すフロー図。
図4】第2の実施形態に係る情報処理装置の処理を示すフロー図。
図5】第3の実施形態に係る情報処理装置の構成を示す図。
図6】第3の実施形態に係る学習フェーズを模式的に示す図。
図7】第3の実施形態に係る異常検出処理を模式的に示す図。
図8】第3の実施形態に係る再構成条件のテーブルを示す図。
図9】第4の実施形態に係る造影剤の濃度を示す図。
図10】第5の実施形態に係る情報処理装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、被検体をスキャンして得られたデータから被検体の情報を画像化する撮像システムに関し、特に、撮像(計測)を開始してからできるだけ短時間に当該被検体の体内
の異常(例えば特定の傷病)を検出するための技術に関する。以下に述べる撮像システムでは、短時間での傷病検出を実現するため、医師による読影の準備が整うよりも前に、AI(人工知能)による検出処理を実行し、その検出結果をすみやかに通知する。これにより、従来の手順(すなわち、撮像、画像再構成、画像サーバへの送信、読影という手順)に比べて、傷病検出までに要する時間の大幅な短縮が実現できる。
【0017】
本発明は、生データ(raw data)から画像再構成によって診断用の画像データを生成するモダリティに対して好ましく適用できる。この種のモダリティは、例えば、X線CT装置、MRI装置、SPECT装置、PET装置を含む。X線CT装置は、照射方向を変えながら被検体にX線を照射し、被検体を透過したX線の強度を計測し、得られた生データから画像再構成によって体内の線源弱係数分布を画像化する。X線CT装置で計測される生データは、投影データ又はサイノグラムデータと呼ばれる。MRI装置は、静磁場内に配置した被検体に特定周波数の電磁波(ラジオ波)を照射して核磁気共鳴を起こしたのち、プロトンから発生する電磁波を計測し、得られた生データから画像再構成によって体内のプロトン分布を画像化する。MRI装置で計測される生データは、MR信号又はk空間データと呼ばれる。SPECT装置は、被検体内に導入した放射性物質(放射性トレーサ)から放出されるガンマ線を計測し、得られた生データから画像再構成によって体内の放射能分布を画像化する。SPECT装置で計測される生データは、投影データ又はサイノグラムデータと呼ばれる。PET装置は、陽電子放出核種で標識された放射性物質(放射性トレーサ)を被検体内に導入し、陽電子が陰電子と結合して消滅する際に放出されるガンマ線を計測し、得られた生データから画像再構成によって体内の放射能分布を画像化する。PET装置で計測される生データは、コインシデンスデータ又はサイノグラムデータと呼ばれる。
【0018】
撮像システムは、例えば、撮像部と情報処理装置を備えて構成される。撮像部は、被検体を撮影し生データを出力するユニットであり、ガントリとも呼ばれる。モダリティの種類によって(つまり撮像原理によって)撮像部の具体的構成は異なるが、被検体をスキャンして生データの生成・出力を行うという基本構成は共通している。情報処理装置は、各種のデータ処理や制御を担うユニットであり、コンソールとも呼ばれる。情報処理装置は、例えば、画像再構成、AIによる傷病検出、画像や検出結果の表示、画像サーバへのデータ伝送、撮像部の制御、再構成条件その他のパラメータの設定、などの機能を提供する。
【0019】
画像再構成は、生データに基づいて被検体の内部の情報を示す画像データを生成する処理である。画像再構成にはどのようなアルゴリズムを採用してもよく、例えば、逆投影法、フィルタ補正逆投影法、フーリエ変換法、逐次近似法などが例示できる。情報処理装置は、複数種類の再構成処理を実行可能であるとよく、画像データの用途・目的に応じて適切な再構成処理を使い分けるとよい。例えば、情報処理装置は、AIによる検出処理用の画像データ(「第1の画像データ」と呼ぶ)を再構成する場合には、処理速度を優先した第1の再構成処理を用いるとよい。また、情報処理装置は、画像診断用の画像データ(「第2の画像データ」と呼ぶ)を再構成する場合には、画像品質を優先した第2の再構成処理を用いるとよい。すなわち、両者を比べた場合に、第1の再構成処理は第2の再構成処理よりも再構成に必要な時間が短い処理であるとよく、第2の再構成処理は第1の再構成処理よりも画像品質が高い処理であるとよい。ここで、画像品質は、例えば、解像度、ビット深度、コントラスト、再構成の精度、SN比、圧縮率などを含む。典型的には解像度であり、第2の画像データの解像度(画像の画素数)をフルサイズ(1/1サイズ)とした場合、第1の画像データの解像度は例えば1/16~1/2サイズでもよい。このように第1の画像データのサイズを小さくすることで、再構成処理の時間を大幅に短縮することができるとともに、AIによる検出処理の高速化を図ることができる。第1の再構成処理と第2の再構成処理は、異なる再構成アルゴリズムを用いるものであってもよいし、同
じ再構成アルゴリズムにおいて異なる再構成条件を用いるものであってもよい。再構成条件は、例えば、スライス厚、スライス間隔、分解能(ピクセルサイズ)、再構成関数、画像処理フィルタ、逐次近似の繰り返し数などを含む。情報処理装置は、第1の再構成処理を第2の再構成処理よりも先に実行するか、又は、2つの再構成処理を並列に実行するとよい。第1の画像データを先に生成することで、撮影後、AIによる検出処理を可及的すみやかに実行することができる。
【0020】
AIによる検出機能は、例えば、画像から特定の傷病を識別するように機械学習された学習済モデル(pre-trained model)を用いて、被検体の画像データから特定の傷病を検出するように構成される。ここで、「傷病」は、体内に生じた傷もしくは疾病、又は、傷もしくは疾病に起因して体内に生じた変化などである。典型的には、病変部位、出血部位、骨折部位などが該当する。また「特定の」とは、「あらかじめ決められた種類の」という意味である。すなわち、学習済モデルは、あらゆる種類の傷病をすべて識別可能な能力を有している必要はなく、限られた種類の傷病を識別可能であるようにトレーニングされていれば足りる。なお、学習済モデルに入力される画像データは、3次元の画像データ(例えばボリュームデータ)でもよいし、2次元の画像データ(例えば断層画像データ)でもよい。機械学習のモデルとしては、ディープラーニング(ニューラルネットワーク)、サポートベクターマシンなど、どのようなモデルを用いてもよい。
【0021】
情報処理装置は、複数の学習済モデルをあらかじめ有しており、それら複数の学習済モデルの中から傷病検出処理に用いる学習済モデルを選択可能なように構成されてもよい。複数の学習済モデルは、例えば、識別可能な傷病の種類が異なるモデルであってもよいし、処理対象とする画像の条件が異なるモデルであってもよい。処理対象とする画像の条件とは、例えば、画像の撮影部位(頭部/胸部/腹部/胴部のように身体部位で分けてもよいし、心臓/肺/胃のように臓器で分けてもよい)、入力画像の形式(2次元/3次元の別、画像サイズなど)などである。複数の学習済モデルは、異なる学習データを用いて機械学習されたモデルである。例えば、再構成条件が異なる学習データ、撮影時の造影条件が異なる学習データ、識別すべき傷病の種類が異なる学習データ、画像の撮影部位が異なる学習データなどを用いることができる。
【0022】
検出処理に用いる学習済モデルは、自動で適切なものが選択されてもよいし、ユーザの指示に従って選択されてもよい。例えば、AIによる検出処理でどのような傷病を検出したいかによって、学習済モデルが適宜選択されるとよい。あるいは、検出処理に用いる画像データに対応する再構成条件で生成された画像データを用いて機械学習された学習済モデルを、検出処理に用いる学習済モデルとして選択してもよい。あるいは、検出処理に用いる画像データの撮影時の造影条件に対応する画像データを用いて機械学習された学習済モデルを、検出処理に用いる学習済モデルとして選択してもよい。さらに、選択された学習済モデル(つまり検出処理に用いる学習済モデル)にあわせて、第1の画像データの再構成条件を変えてもよい。再構成条件の選び方で画像化される情報に相違があるからである。例えば、検出対象となる傷病の種類又は撮影部位を指定する情報(設定情報)をユーザに入力させ、その設定情報に従って、情報処理装置が適切な学習済モデルと再構成条件とを選択してもよい。検出対象にあわせて適切な再構成条件及び学習済モデルを選択することで、傷病検出の精度及び信頼性の向上が期待できる。
【0023】
情報処理装置は、情報出力やユーザへの通知を行う機能を有してもよい。例えば、情報処理装置は、AIによる検出処理によって画像データから傷病を検出した場合に、その検出結果をユーザに通知してもよい。これにより、画像診断用の第2の画像データの再構成、画像サーバへの第2の画像データの伝送、医師による読影(画像診断)などの工程の進み具合とは無関係に、特定の傷病の検出及び通知をすみやかに実行できる。これにより、従来に比べて、撮像から傷病検出までに要する時間の大幅な短縮が実現できる。
【0024】
ユーザに通知する検出結果は、少なくとも、画像中に特定の傷病が含まれていることを知らせる情報を含んでいればよい。また、検出結果が、画像中の傷病の位置又は領域に関する情報を含んでいてもよい。検出結果の通知方法は問わない。ユーザが使用している端末(例えばパーソナルコンピュータ、タブレット、スマートフォンなど)に検出結果が送信されてもよいし、情報処理装置が備える表示装置に検出結果が表示されてもよい。検出結果を表示装置に表示する場合には、傷病が検出された画像を一緒に表示してもよい。
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る撮像システムの具体的な構成例について、図面を用いて詳しく説明する。同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る撮像システムの構成を示している。第1の実施形態では、X線CT装置により撮影された胸部CT画像から、気胸の原因である病変部位をAIにより自動検出する例を説明する。
【0027】
撮像システム1は、概略、撮像部10と情報処理装置11とを備える。情報処理装置11は、再構成部110、検出部111、表示制御部112、アラート部113を有する。図1における符号12は被検体であり、本実施形態では被検体12として人体を想定する。撮像システム1は、ネットワークを介して外部の画像サーバ13に接続されている。画像サーバ13は、画像診断用の画像データなどの蓄積・共有を行うコンピュータシステム(例えばPACS)である。
【0028】
(撮像部10)
撮像部10は、X線CTの撮像装置であり、ガントリとも呼ばれる。撮像部10は、ベッド(クレードル)に横たわった被検体12をスキャンし、取得した投影データを情報処理装置11の再構成部110に送信する。予め設定された撮影条件及び撮影部位に従ってベッドの移動及び撮像部10の制御が行われることで、所望の撮像範囲の投影データが取得される。
【0029】
X線CTの撮像部10は、X線管と検出器が対向して配置された構成を有する。被検体12を中心にX線管と検出器が同時に回転しながら、X線管からX線を射出する。射出されたX線は、被検体12を通過し、検出器で検出される。検出器で検出されるX線は、被検体12によってその一部が吸収される。X線の吸収率は被検体12内の組織の水分量や密度などによって異なるため、検出器から出力される投影データは被検体12内部の構造を反映したものとなる。
【0030】
(再構成部110)
再構成部110は、様々な方向からX線を照射して得た投影データに基づいて、画像データを再構成する。再構成部110は、生成された画像データ(「再構成画像」とも称する)を検出部111、表示制御部112、アラート部113、外部の画像サーバ13などに送信する。画像再構成は、公知の方法で行うことができる。
【0031】
(検出部111)
検出部111は、機械学習された学習済モデルを用いて、画像データから特定の傷病(本実施形態では、肺嚢胞などの気胸の原因とみられる病変)を検出する傷病検出処理を行う。特定の傷病が検出された場合、検出部111は検出結果を表示制御部112およびアラート部113に送信する。
【0032】
学習済モデルは、例えば深層ニューラルネットワークなどの人工知能モデルであり、あ
らかじめ深層学習などの機械学習法を利用して、画像の中から特定の傷病を識別するようにトレーニングされたものである。2次元の画像データ(断層画像データ)から傷病を識別するモデルを用いてもよいし、3次元の画像データ(ボリュームデータ)から傷病を識別するモデルを用いてもよい。あるいは、時系列の画像データ(動画像データまたは複数の時相の画像データ)から傷病を識別するモデルを用いてもよい。検出された傷病の領域は、ROI(Region of Interest)又はVOI(Volume of Interest)として出力される。本実施形態では、3次元の画像データ(ボリュームデータ)から、3次元的な病変領域をセグメンテーションするように構成されたモデルが用いられる。
【0033】
機械学習に用いる学習データは、画像データとその画像データに含まれる特定の傷病の領域を示すラベル(教師信号)とから構成される。すなわち、ラベルは、画像から検出すべきROI又はVOIを教示する情報である。本実施形態の場合は、多数の被検体(例えば自然気胸の患者)から集められた胸部CT画像が学習データとして用いられる。なお、撮像システム1には事前に学習された学習済モデルが実装されるが、これに限らず、本システム1で撮像された画像を用いて追加学習を行う機能を情報処理装置11が有していてもよい。
【0034】
(表示制御部112)
表示制御部112は、検出部111の検出結果を表示装置に表示する。検出結果は、例えば、病変の存在、病変の位置又は領域を示す情報などを含む。表示制御部112は、これらの検出結果とともに、被検体12を特定する情報(患者のID、氏名などの患者情報)、病変が検出された再構成画像などを表示してもよい。
【0035】
(アラート部113)
アラート部113は、所定の外部端末に対し、検出部111の検出結果の報知を行う。本実施形態のアラート部113は、検出部111によって特定の傷病が検出された場合に、患者情報、病変が検出された再構成画像、および画像中の病変領域を示す情報を、外部サーバを経由して医師のモバイル端末に送信する。
【0036】
(情報処理装置のハードウェア構成)
情報処理装置11は、プロセッサ、メモリ、ストレージなどを備えたコンピュータにより構成してもよい。この場合、ストレージに格納されたプログラムをメモリにロードし、当該プログラムをプロセッサが実行することにより、再構成部110、検出部111、表示制御部112、アラート部113などの機能および処理が実現される。ただしこの構成に限らず、例えば、再構成部110、検出部111、表示制御部112、アラート部113のうちの全部又は一部を、専用に設計されたプロセッサ(ASICなど)又はFPGAにより実現してもよい。あるいは、演算処理の一部をGPUやDSPなどのプロセッサで実行してもよい。また、情報処理装置11は、単一のハードウェアで構成されていてもよいし、複数のハードウェアで構成されていてもよい。例えば、クラウドコンピューティングや分散コンピューティングを利用し、複数のコンピュータが協働して情報処理装置11の機能および処理を実現してもよい。
【0037】
図2は、情報処理装置11の具体的な構成の一例を示している。この例では、情報処理装置11が、CPU20、GPU21、RAM22、ROM23、記憶装置24を有しており、これらがシステムバス25で接続されている。また、情報処理装置11には、表示装置26と、マウスやキーボードなどの入力装置27とが接続されている。
【0038】
(情報処理装置の動作)
次に、図3のフローチャートを用いて、情報処理装置11が実行する処理を説明する。
【0039】
ステップS30において、撮像部10によって計測された胸部の投影データが情報処理装置11に順次取り込まれる。ステップS31において、再構成部110は、投影データを用いて再構成処理を行い、3次元の画像データ(ボリュームデータ)を生成する。ステップS32において、検出部111は、画像データを学習済モデルに入力して、画像データから気胸の原因が疑われる病変部位を検出する。病変部位が検出された場合には(ステップS33のYES)、ステップS34において、表示制御部112が、病変部位が検出されたことを通知するメッセージとともに、病変部位の領域が色付けされた画像を表示装置に表示する。ここで表示される画像は、ボリュームデータでもよいし、2次元の断層画像でもよい。さらに、ステップS35において、アラート部113は、病変部位が検出されたことを通知するメッセージとともに、病変部位の領域が色付けされた画像、患者情報などを、予め設定された担当医師のモバイル端末に送信する。ステップS32の検出処理で病変部位が検出されなかった場合には、ステップS34及びS35の通知処理はスキップされる。最後に、ステップS36において、ステップS31で生成された画像データが外部の画像サーバ13に送られ、格納される。画像サーバ13に格納された画像データは、医師による読影(画像診断)に利用される。
【0040】
本実施形態に係る情報処理装置によれば、医師による読影の準備が整うよりも前に、特定の傷病を自動で検出してアラートすることができる。これにより、従来の手順(すなわち、撮像、画像再構成、画像サーバへの送信、読影という手順)に比べて、傷病検出までに要する時間の大幅な短縮が実現できるので、緊急性の高い疾患が重篤化する割合を低減させることができる。
【0041】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、AIによる傷病検出に用いる第1の画像データの解像度を、画像診断用に外部の画像サーバ13に送信する第2の画像データの解像度よりも小さくする。本実施形態では、MRI装置により撮影された頭部MR画像から頭蓋内出血をAIにより自動検出する例を説明する。
【0042】
以下、本実施形態に係る撮像システム1の構成に関して、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0043】
(撮像部10)
本実施形態の撮像部10は、MRIの撮像装置であり、ガントリとも呼ばれる。撮像部10は、ベッド(クレードル)に横たわった被検体12をスキャンし、取得した生データ(k空間データ)を情報処理装置11の再構成部110に送信する。予め設定された撮影条件及び撮影部位に従ってベッドの移動及び撮像部10の制御が行われることで、所望の撮像範囲のk空間データが取得される。
【0044】
MRIの撮像部10は、静磁場磁石、3方向の傾斜磁場コイル、照射コイル、受信コイルなどを有する。静磁場磁石によって形成される均一な磁場空間の中に被検体12を置き、傾斜磁場コイルによって所定の方向の傾斜磁場を印加した状態で、照射コイルから特定周波数の電磁波を照射する。そして、電磁波の照射を止めたのちに、体内のプロトンから発生する微弱な電磁波(MR信号)を受信コイルで計測する。MR信号の強度はプロトンの存在量(典型的には、水素原子の量すなわち水分量)によって異なるため、受信コイルで計測される信号は被検体12内部の構造を反映したものとなる。
【0045】
(再構成部110)
再構成部110は、撮像部10から得られたk空間データから画像データを再構成する。画像再構成には、例えば、2次元フーリエ変換などの手法が用いられる。
【0046】
本実施形態の再構成部110は、検出処理用の低解像度の第1の画像データと画像診断用の高解像度の第2の画像データを生成可能である。第1の画像データを再構成する処理(第1の再構成処理)では、例えば、k空間データを間引いた後に2次元フーリエ変換を行うことで、第2の画像データに比べて解像度(画像サイズ)の小さい画像が生成される。本実施形態では、例えば、第1の画像データとして、コロナル方向、アキシャル方向、サジタル方向の画素数がいずれも第2の画像データの半分となる画像データが生成される。
【0047】
第1の画像データは、検出部111による傷病検出、表示制御部112による画像表示、アラート部113による通知処理などに利用される。他方、第2の画像データは、外部の画像サーバ13に送信される。
【0048】
(検出部111)
検出部111は、機械学習された学習済モデルを用いて、第1の画像データから特定の傷病(本実施形態では、頭蓋内の出血部位)を検出する傷病検出処理を行う。特定の傷病が検出された場合、検出部111は検出結果を表示制御部112およびアラート部113に送信する。学習済モデルの構成及び機械学習法は第1の実施形態と同様である。ただし、学習データとして、第1の画像データと同じ解像度(サイズ)の画像データが用いられる点が第1の実施形態と異なる。
【0049】
(情報処理装置の動作)
次に、図4のフローチャートを用いて、本実施形態における情報処理装置11が実行する処理を説明する。
【0050】
ステップS40において、撮像部10によって計測されたMR信号が情報処理装置11に順次取り込まれる。MR信号をk空間にマッピングすることでk空間データが生成される。ステップS41において、再構成部110は、k空間データを用いて第1の再構成処理を行い、低解像度の第1の画像データを生成する。ステップS42において、検出部111は、第1の画像データを学習済モデルに入力して、第1の画像データから頭蓋内出血が疑われる部位を検出する。出血部位が検出された場合には(ステップS43のYES)、ステップS44において、表示制御部112が、頭蓋内出血が検出されたことを通知するメッセージとともに、出血部位の領域が色付けされた画像を表示装置に表示する。さらに、ステップS45において、アラート部113は、頭蓋内出血が検出されたことを通知するメッセージとともに、出血部位の領域が色付けされた画像、患者情報などを、予め設定された担当医師のモバイル端末に送信する。ステップS42の検出処理で出血部位が検出されなかった場合には、ステップS44及びS45の通知処理はスキップされる。次に、ステップS46において、再構成部110は、k空間データを用いて第2の再構成処理を行い、高解像度の第2の画像データを生成する。最後に、ステップS47において、第2の画像データが外部の画像サーバ13に送られ、格納される。画像サーバ13に格納された第2の画像データは、医師による読影(画像診断)に利用される。
【0051】
本実施形態に係る情報処理装置によれば、医師による読影の準備が整うよりも前に、特定の傷病を自動で検出してアラートすることができる。加えて、本実施形態では低解像度の第1の画像データを傷病検出に利用するため、再構成処理に要する時間、及び、AIによる傷病検出処理に要する時間を短縮することができる。これにより、第1の実施形態よりもさらに傷病検出までに要する時間の短縮を図ることができるので、緊急性の高い疾患が重篤化する割合を一層低減させることができる。
【0052】
[第3の実施形態]
第3の実施形態では、複数の学習済モデルがあらかじめ用意されており、傷病検出に用
いる学習済モデルを再構成条件に応じて適応的に選択する構成例を説明する。
【0053】
図5は、本実施形態の情報処理装置11の構成を模式的に示している。情報処理装置11は、学習済モデルを記憶するモデル記憶部50と、撮像システム1に対する設定パラメータ(設定情報)に基づいて使用する学習済モデル及び再構成条件を設定する設定部51と、モデルの機械学習を実施する学習部52とを備える。その他の構成は前述した第1の実施形態のものと同様である。
【0054】
モデル記憶部50には、複数の学習済モデルM1、M2、M3・・・があらかじめ登録されている。それぞれの学習済モデルM1、M2、M3・・・は、再構成条件(例えば、スライス厚、スライス間隔、再構成関数など)が異なる学習データを用いて機械学習されたものである。モデル記憶部50には、各学習済モデルM1、M2、M3・・・が、対応する再構成条件F1、F2、F3・・・と関連付けて記憶されている。
【0055】
図6は、学習フェーズを模式的に示している。再構成部110は、撮像部10から取得された生データを基に、学習データとして用いる画像データを再構成する。このとき、同じ生データを用いて、それぞれの再構成条件F1、F2、F3・・・での再構成処理を行うことで、再構成条件が異なる複数の画像データが生成される。ここで、例えば再構成条件F1は、肝臓の異常検出に適した画像を再構成するための条件であり、再構成条件F2は、肺の異常検出に適した画像を再構成するための条件である。さらに、再構成条件F3は、大腸の異常検出に適した画像を再構成するための条件である。すなわち、再構成条件F1、F2、F3・・・は、画像の撮影部位又は識別すべき傷病の種類に応じて設定された条件である。
【0056】
ここで、撮影部位や傷病の種類に応じて再構成条件を変える理由について説明する。一般に読影のためには、高域強調の特性を持つなど、医師が読みやすい画像を生成する再構成関数が用いられる。このような再構成関数を用いると、一般に画像ノイズが大きくなる傾向がある。これに対し、AIによる傷病検出処理(推論)の精度向上のためには、画素値の定量性がより高い再構成関数及び画像ノイズを極力抑える再構成関数が好ましい。そのような目的では、例えば、低域の周波数特性がフラットで、かつ高域については遮断する特性を持つフィルタが用いられる場合がある。また、撮影部位や識別したい傷病の種類に応じて、再構成画像において描出されるべき情報も異なる。それゆえ、どのような画像情報に注目したいかによって、フィルタその他の条件を最適化することが好ましい。
【0057】
各再構成条件F1、F2、F3・・・の画像データが得られたら、医師などの専門家が画像データを確認し、ROI又はVOI(つまり傷病検出処理によって識別すべき傷病の領域)にマーキングを行う。マーキングは、例えば、表示装置に表示された画像データに対し、マウス等の入力装置で領域を指定し又は画素を選択することにより行うとよい。そして、画像データ(再構成画像)とマーキングされた領域を示すラベル情報とのセットが、学習データとして保存される。なお、学習データはできるだけ多い方がよく、また、バリエーションに富んでいる方が好ましい。したがって、多数の患者から学習データを収集するとよい。十分な数の学習データが得られたら、学習部52が、再構成条件ごとにモデルの機械学習を行い、学習済モデルM1、M2、M3・・・をモデル記憶部50に登録する。
【0058】
なお、本実施形態では、撮像システム1自体が機械学習を行う構成としたが、機械学習は他のシステムで行ってもよい。その場合は、情報処理装置11が、他のシステムで生成された学習済モデルM1、M2、M3・・・と対応する再構成条件F1、F2、F3・・・のデータを受け取り、それらをモデル記憶部50に登録すればよい。
【0059】
図7は、学習済モデルを用いた検出処理を模式的に示している。例えば、胸部CT画像から気胸の原因である病変部位を検出するケースを想定する。この場合、ユーザ(技師など)は撮像システム1に対し胸部撮影用の設定パラメータを入力する。設定部51は、入力された設定パラメータに基づいて、肺の異常検出に適した再構成条件F2と学習済モデルM2を選択し、再構成部110に対し再構成条件F2を設定するとともに、検出部111に対し学習済モデルM2を設定する。
【0060】
撮像部10から被検体12の生データが取り込まれると、再構成部110が再構成条件F2による再構成処理を行い、画像データI2を生成する。そして、検出部111が、画像データI2を学習済モデルM2に入力し、気胸の原因である病変部位を検出する。このように、撮影部位や識別したい傷病の種類に応じて再構成条件と学習済モデルを変更することによって、傷病検出の精度及び信頼性を向上することができる。なお、ここでは再構成条件F2を用いる例を説明したが、他の再構成条件についても同様である。
【0061】
図8は、再構成条件の具体例(テーブル)を示す図である。テーブルには、肝臓用、肺用、大腸用・・・のように、撮影部位(あるいは疾患部位)ごとの再構成条件F1、F2、F3・・・が設定されている。この例では、再構成条件として、スライス厚、スライス間隔、分解能、再構成関数などが設定されている。ただし、あくまで図8は一例であり、再構成条件の種類や項目はこれに限られない。例えば、肝臓癌、肝硬変、大腸癌、乳癌、動脈硬化・・・のように疾病ごとに再構成条件を設定してもよい。また、項目としては、画像処理フィルタ、逐次近似の繰り返し数などを設定してもよい。
【0062】
なお、本実施形態では、撮像システム1の設定にあわせて、第1の画像データ用の再構成条件と学習済モデルの両方を設定したが、学習済モデルの選択方法はこれに限られない。例えば、再構成部110で第1の画像データに適用された再構成条件にあわせて、検出部111が最適な学習済モデルを選択してもよい。具体的には、検出部111は、第1の画像データの再構成条件と同一もしくは類似する再構成条件で生成された学習データを用いて機械学習された学習済モデルを、最適な学習済モデルとして選択してもよい。
【0063】
[第4の実施形態]
第4の実施形態では、複数の学習済モデルがあらかじめ用意されており、傷病検出に用いる学習済モデルを造影条件に応じて適応的に選択する構成例を説明する。情報処理装置11の構成は図5に示したものと同様である。
【0064】
モデル記憶部50には、複数の学習済モデルM1、M2、M3・・・があらかじめ登録されている。それぞれの学習済モデルM1、M2、M3・・・は、造影条件(例えば、造影剤の流量、濃度など)が異なる学習データを用いて機械学習されたものである。モデル記憶部50には、各学習済モデルM1、M2、M3・・・が、対応する造影条件F1、F2、F3・・・と関連付けて記憶されている。
【0065】
一般的に、造影剤注入装置は、被検体に注入する造影剤の量および濃度を制御することができる。図9に示すように、造影剤の注入し始めのt1秒間は注入速度x1[cc/秒]で持続的に造影剤を注入し、その後のt2秒間は注入速度x2[cc/秒]で造影剤を持続的に注入する。そうすると、冠動脈血中における造影剤の濃度Ca(t)が一定とみなせる区間T1(濃度一定期間)および所定領域における造影剤の濃度Cmyo(t)が一定とみなせる区間Tが得られる。この例では、注入速度3cc/秒で20秒間に渡って静注し、引き続き注入速度1.5cc/秒で30秒間注入を行うものとしている。
造影剤注入装置は、一定の条件に従って、単位時間当たり所要の量の造影剤を被検体内に注入し、冠動脈血中および所定部位における造影剤の濃度Ca(t)、Cmyo(t)が一定とみなせる状態を得ることができるようにされる。
【0066】
学習フェーズでは、再構成部110は、撮像部10から取得された生データを基に、学習データとして用いる画像データを再構成する。このとき、再構成部110は、区間T1(造影剤の濃度が一定である期間)に撮影された生データに対する再構成処理と、区間T1以外の期間(造影剤の濃度が一定でない期間)に撮影された生データに対する再構成処理を実行する。これにより造影条件が異なる複数の画像データが生成される。
【0067】
各造影条件F1、F2、F3・・・の画像データが得られたら、医師などの専門家が画像データを確認し、ROI又はVOI(つまり傷病検出処理によって識別すべき傷病の領域)にマーキングを行う。そして、画像データ(再構成画像)とマーキングされた領域を示すラベル情報とのセットが、学習データとして保存される。十分な数の学習データが得られたら、学習部52が、造影条件ごとにモデルの機械学習を行い、学習済モデルM1、M2、M3・・・をモデル記憶部50に登録する。
【0068】
学習済モデルを用いた検出処理は次のように行われる。例えば、ユーザ(技師など)は撮像システム1に対し造影条件を設定する。設定部51は、入力された造影条件に基づいて、適切な学習済モデルを選択し、検出部111に設定する。撮像部10から被検体12の生データが取り込まれると、再構成部110が再構成処理を行い、第1の画像データを生成する。そして、検出部111が、第1の画像データを学習済モデルに入力し、病変部位を検出する。このように、造影条件に応じて学習済モデルを変更することによって、傷病検出の精度及び信頼性を向上することができる。
【0069】
[第5の実施形態]
図10は、第5の実施形態に係る情報処理装置11の構成を示している。上述した第2の実施形態では、再構成部110が再構成処理を変えることによって、検出処理用の低解像度の第1の画像データと画像診断用の高解像度の第2の画像データを生成する構成を採用した。これに対し、第5の実施形態では、再構成部110によって生成された画像データをダウンサイズすることによって低解像度の(データサイズの小さい)画像データを生成し、ダウンサイズされた画像データを検出処理、表示処理、通知処理などに利用する。
【0070】
本実施形態の情報処理装置11は、画像データのダウンサイズ(解像度変換)を行う処理部114、画像サーバ13などの外部装置への画像データの出力を行う出力部115を有している。その他の構成は上述した実施形態のものと同じでよい。
【0071】
再構成部110は、撮像部10から得られた生データを基に画像再構成を行い、高解像度の画像データを生成する。処理部114は、再構成部110によって生成された画像データのダウンサイズを行い、検出処理用の第1の画像データ、表示用の第3の画像データ、通知用の第4の画像データを生成する。ここで、第1の画像データのサイズは第3の画像データよりも小さいとよい。また、第4の画像データのサイズは第3の画像データよりも小さいとよい。ダウンサイズ処理は、画素の間引き処理でもよいし、バイキュービックやバイリニアやニアレストネイバーなどの解像度変換でもよいし、それ以外の処理でもよい。再構成部110によって生成された高解像度の画像データは、画像診断用の第2の画像データとして利用される。
【0072】
検出部111は、ダウンサイズされた第1の画像データを用いて特定の傷病の検出処理を行う。特定の傷病が検出された場合、検出部111は、その検出結果(例えば特定の傷病の領域の情報)を表示制御部112、アラート部113、出力部115に出力する。表示制御部112は、表示用の第3の画像データとともに傷病の検出結果を表示装置26に表示させる。アラート部113は、通知用の第4の画像データとともに傷病の検出結果を医師等の端末14に送信する。また、出力部115は、画像診断用の第2の画像データと
ともに傷病の検出結果を画像サーバ13に送信する。
【0073】
本実施形態の構成によれば、ダウンサイズされた第1の画像データが検出処理に利用されるため、迅速な検出が可能である。表示に用いられる第3の画像データは、第1の画像データよりも高精細であるため、第1の画像データから検出された特定の傷病を画面上で確認する作業に好適である。一方、通知用に用いられる第4の画像データはデータサイズが小さいため、端末へのデータ伝送の負荷が軽減され、かつ、低スペックの端末での表示が容易となる。そして、画像診断用には最も高精細な第2の画像データが利用されるため、信頼性の高い画像診断が実現できる。また、第1の画像データから検出された傷病の情報が表示用の第3の画像データや画像診断用の第2の画像データに付加されるため、コンソール画面での表示や画像診断において、画像中の傷病の領域(位置)を確認する作業が容易になる。
【0074】
[変形例]
上記実施形態は本発明の一例を示したものである。本発明の範囲は上記実施形態に限られることはなく、さまざまな変形例を含んでもよい。
【0075】
例えば、第2の実施形態では、傷病検出処理用の第1の画像データと画像診断用の第2の画像データの2種類の画像データを生成したが、これらに加えて、情報処理装置11のコンソール画面への表示用の第3の画像データを生成してもよい。第3の画像データは、第1の画像データよりも解像度が高い(画像サイズが大きい)とよい。第1の画像データから検出された傷病を技師又は医師が目視により確認する際に、高解像度の画像を用いる方が好ましいからである。他方、第3の画像データは、第2の画像データよりも解像度が低い(画像サイズが小さい)とよい。コンソール画面における高速な画像表示を行うためである。
【0076】
さらに、アラート部113がモバイル端末に送信するために用いられる、通知用の第4の画像データを生成してもよい。第4の画像データは第1の画像データよりも解像度が低い(画像サイズが小さい)とよい。モバイル端末へのデータ伝送の負荷を軽減し、かつ、低スペックのモバイル端末での表示を容易にするためである。
【0077】
第2の実施形態では、傷病検出用の第1の画像データを再構成した後に、画像サーバへの送信用の第2の画像データを再構成したが、本発明の実施はこれに限らない。例えば、第1の画像データの再構成と、第2の画像データの再構成を並行して行ってもよい。低解像度の第1の画像データの方が再構成の処理時間が短い。それゆえ、第1の画像データが先に生成され、その画像を用いて特定の傷病の検出を行っている間に、第2の画像データの再構成を行うことができる。このような処理によれば、迅速な傷病検出を実現しつつ、画像診断用の第2の画像データの再構成処理も早く完了することができる。
【0078】
第2の実施形態では、第1の画像データの解像度を第2の画像データよりも低くすることで、第1の画像データの再構成に必要な時間を短くした。しかし、第1の画像データの再構成が第2の画像データの再構成よりも短い処理時間で済むのであれば、第1の画像データと第2の画像データの解像度は同じでもよい。処理時間の短い再構成アルゴリズムとしては、例えば、ディープラーニング再構成、逐次再構成などが挙げられる。
【0079】
第1の実施形態では特定の傷病が気胸である場合について説明し、第2の実施形態では特定の傷病が頭蓋内出血である場合について説明したが、傷病検出処理の対象はこれらに限らず、大動脈解離や脳梗塞等でもよい。
【0080】
第1および第2の実施形態では、学習済モデルによって画像中の特定の傷病領域をセグ
メンテーションする例を説明した。しかし、本発明の実施はこれに限らず、傷病領域をセグメンテーションする代わりに、非特許文献1のような方法で画像中の傷病領域を包含するバウンディングボックスを取得してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1:撮像システム
10:撮像部
11:情報処理装置
12:被検体
110:再構成部
111:検出部
112:表示制御部
113:アラート部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10