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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231201BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019236377
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021106458
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/073247(WO,A1)
【文献】特開2016-208664(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0372927(US,A1)
【文献】特開平10-023760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点の電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、
該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、
前記制御装置は、
前記各相の上下アームスイッチング素子をスイッチングする際のデッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間を考慮して前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、前記モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すスイッチング動作を実行すると共に、
前記モータに流れる電流の向きが反転するキャリア周期では、当該電流の向きが反転する相の前記上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止し、他の二相の前記上下アームスイッチング素子のスイッチングを同期させることにより、前記モータに印加される相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すスイッチング動作に変更することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記制御装置は、何れか一相の前記下アームスイッチング素子がONし、他の二相の前記上アームスイッチング素子がONしている状態からキャリア周期を開始することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記制御装置は、何れか二相の前記下アームスイッチング素子がONし、他の一相の前記上アームスイッチング素子がONしている状態からキャリア周期を開始することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記モータに流れる電流の向きが反転するキャリア周期とそれに連続するキャリア周期全体での線間電圧の変化を解消、若しくは、抑制する方向で前記連続するキャリア周期におけるスイッチング動作を変更することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により三相交流電圧をモータに印加して駆動するインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりモータを駆動するためのインバータ装置は、複数のスイッチング素子により三相のインバータ回路を構成すると共に、UVW各相のスイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御し、正弦波に近い電圧波形をモータに印加して駆動するものである。
【0003】
図19はモータに流れる各相電流(モータ電流)の位相を示している。尚、iuはU相電流(実線)、ivはV相電流(一点鎖線)、iwはW相電流(破線)である(何れも-1~1に補正して正規化した値)。各相電流iu、iv、iw(モータ電流)は何れも正弦波状であるため、180°毎にゼロクロスし、電流の向きが反転する。この例では、例えばV相電流ivが30°の位相でゼロクロスし、負の値(モータから流出する方向)から正の値(モータに流れ込む方向)に反転している。
【0004】
次に、図20は従来のインバータ装置における三相変調電圧指令値Vu’、Vv’、Vw’とキャリア信号、U相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwの各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位Vcを示した図である。図示しない相電圧指令演算部は、モータの電気角、電流指令値と相電流に基づいてモータの各相の電機子コイルに印加する三相変調電圧指令値Vu’(U相電圧指令値)、Vv’(V相電圧指令値)、Vw’(W相電圧指令値)を演算する。尚、図20の三相変調電圧指令値Vu’、Vv’、Vw’は、直流電圧Vdcで正規化(-1~1に補正)した後の値である。
【0005】
また、実施例では鋸波のキャリア信号を使用しているため、U相電圧指令値Vu’には1キャリア周期内に立ち上げ指令値Vu’upと立ち下げ指令値Vu’downが存在する。同様に、V相電圧指令値Vv’にも1キャリア周期内に立ち上げ指令値Vv’upと立ち下げ指令値Vv’downが存在し、W相電圧指令値Vw’にも1キャリア周期内に立ち上げ指令値Vw’upと立ち下げ指令値Vw’downが存在する。
【0006】
次に、図示しないPWM信号生成部が、U相電圧指令値Vu’の立ち上げ指令値Vu’up、立ち下げ指令値Vu’down、V相電圧指令値Vv’の立ち上げ指令値Vv’up、立ち下げ指令値Vv’down、W相電圧指令値Vw’の立ち上げ指令値Vw’up、Vw’downとキャリア信号(鋸波キャリア)の大小を比較することで、インバータ回路の駆動指令信号となるPWM信号を生成する。このPWM信号が正規化後のU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwの各相電圧となる。
【0007】
そして、モータの中性点電位Vcは、各相電圧の平均値である(Vu+Vv+Vw)/3で算出されるが、従来では図20の最下段に示すようにこの中性点電位Vcが変動するため、コモンモードノイズが発生する問題があった。
【0008】
このコモンモードノイズは、例えば電動コンプレッサを構成するモータの場合、コンプレッサの筐体と接地間の浮遊容量を通して漏洩するコモンモード電流によって発生する。従来では大型のノイズフィルタを設置するなどの対策が採られていたが、その他に、電圧ベクトルの選択やスイッチングのタイミングにより対処するものや、特殊なキャリア信号を使用することで中性点電位の変動を抑制するもの等が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-23760号公報
【文献】特開2003-18853号公報
【文献】特許第4389446号公報
【文献】特許第5045137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では3相2レベルインバータでのスイッチング動作に関しては、2相のみ駆動させるため滑らかな正弦波電圧の印加が困難になり騒音の発生の原因となる。また、特許文献2ではPWM整流回路の動作を考慮したスイッチング動作をする必要があり、使用できる運転範囲及び製品が限定される。また、特許文献3では制御装置がPWM信号生成部の機能を利用するものを前提としていないため、高価な制御装置を用いる必要があり、量産品への適用が困難である。また、特許文献4では二つのキャリア信号をもったマイクロコンピュータでなければ実装できない。また、特許文献4ではキャリアカウントをクリアするタイミングでスイッチングさせているため、相電流の向きが等しいときにはデッドタイムの影響によりスイッチングのタイミングがずれてしまい、中性点電位の変動を抑制できないという問題がある。
【0011】
そこで、各相の電圧指令値Vu’、Vv’Vw’に補正を加えて電圧指令補正値Cu、Cv、Cwとし、図21図22に示すように、各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことで、中性点電位Vcを変動しないようにする方策が考えられる。尚、図22図21の枠Z1部分を拡大したものである。また、この場合の条件は、キャリア周波数20kHz、電気角周波数800Hzの場合である。
【0012】
各図中CuupはU相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値、CudownはU相電圧指令補正値Cuの立ち下げ指令値である。同様に、CvupはV相電圧指令補正値Cvの立ち上げ指令値、CvdownはV相電圧指令補正値Cvの立ち下げ指令値、CwupはW相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値、CwdownはW相電圧指令補正値Cwの立ち下げ指令値であり、この場合も、前述したPWM信号生成部がそれら(立ち上げ指令値Cuup、立ち下げ指令値Cudown、立ち上げ指令値Cvup、立ち下げ指令値Cvdown、立ち上げ指令値Cw、立ち下げ指令値Cwdown)とキャリア信号の大小を比較することで、インバータ回路の駆動指令信号となるPWM信号を生成する。
【0013】
例えば、図22中の30°の位相以降の位相P1でV相の上アームスイッチング素子がOFFし、デッドタイム(同じ相の上下アームスイッチング素子が同時にONした状態を作らないようにするためのタイムラグ。以下、同じ。)後の位相P2で下アームスイッチング素子がONした場合、V相電流ivが負の値でモータから流出する向きのまま反転しないときは、V相電圧Vvは下アームスイッチング素子の動作で変化し、位相P2で立ち下がる。U相電圧Vuはデッドタイムを考慮し、V相電圧Vvが立ち下がるタイミングに合わせて位相P2で立ち上がるように立ち上げ指令値Cuupが補正されるので、中性点電位Vcは変動しない。なお、制御装置が生成するPWM信号が実際にスイッチング素子で出力されるまでにはスイッチング素子のターンオン遅延時間、ターンオフ遅延時間などが存在するため、制御装置はこのスイッチング素子の遅延時間(スイッチング素子のターンオン遅延時間、ターンオフ遅延時間など)を考慮してPWM信号を出力する。また、スイッチング素子のターンオン遅延時間、ターンオフ遅延時間は使用するIGBTとフライホイールダイオードの特性により異なるものの、デッドタイムの影響と同様にモータに流れる相電流の正負判断によって分かる(遅延時間が分かる)ため、前記のデッドタイムと同様に補正することが可能である。このように、ターンオン遅延時間、ターンオフ遅延時間はデッドタイムの補正と同時に実施できるため、以後は補正方法について明記しないが、デッドタイムの補正を行う際には同時に補正を行うものとする。
【0014】
その後、位相P3でV相の下アームスイッチング素子がOFFし、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間後の位相P4で上アームスイッチング素子がONした場合、V相電流ivが負の値でモータから流出する向きのまま反転しないときは、V相電圧Vvは下アームスイッチング素子の動作で変化し、位相P3で立ち上がる。W相電圧Vwはデッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間を考慮し、V相電圧Vvが立ち上がるタイミングに合わせて位相P3で立ち下がるように立ち下げ指令値Cwdownが補正されるので、中性点電位Vcは変動しない。
【0015】
しかしながら、図19の例のように位相30°でV相電流ivが負の値から正の値(モータに流れ込む方向)に反転した場合、V相電圧Vvは上アームスイッチング素子の動作で変化するようになるので、図22に示すように上アームスイッチング素子がOFFする位相P1で立ち下がることになる。そのため、位相P2でU相電圧Vuを立ち上げても、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分の幅のパルス状に中性点電位Vcが下がる方向に変動してしまう。
【0016】
同様に、V相電圧Vvは上アームスイッチング素子がONする位相P4で立ち上がることになるため、位相P3でW相電圧Vwを立ち下げてしまうと、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分の幅のパルス状に中性点電位Vcが下がる方向に変動してしまう。即ち、この例では中性点電位Vcは位相P1~P4の計4回変動してしまうため、それぞれにおいて(計4回)コモンモードノイズが発生してしまうという問題があった。
【0017】
本発明は、係る従来の状況を考慮して成されたものであり、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間の影響を考慮した場合にも、相電流の反転に伴うコモンモードノイズの発生を効果的に解消、若しくは、抑制することができるインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のインバータ装置は、上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点の電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたものであって、制御装置は、各相の上下アームスイッチング素子をスイッチングする際のデッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間を考慮して各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すスイッチング動作を実行すると共に、モータに流れる電流の向きが反転するキャリア周期では、当該電流の向きが反転する相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止し、他の二相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを同期させることにより、モータに印加される相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すスイッチング制御に変更することを特徴とする。
【0019】
請求項2の発明のインバータ装置は、上記発明において制御装置は、何れか一相の下アームスイッチング素子がONし、他の二相の上アームスイッチング素子がONしている状態からキャリア周期を開始することを特徴とする。
【0020】
請求項3の発明のインバータ装置は、請求項1の発明において制御装置は、何れか二相の下アームスイッチング素子がONし、他の一相の上アームスイッチング素子がONしている状態からキャリア周期を開始することを特徴とする。
【0021】
請求項4の発明のインバータ装置は、前記各発明において制御装置は、モータに流れる電流の向きが反転するキャリア周期とそれに連続するキャリア周期全体での線間電圧の変化を解消、若しくは、抑制する方向で前記連続するキャリア周期におけるスイッチング動作を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点の電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、制御装置が、各相の上下アームスイッチング素子をスイッチングする際のデッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間を考慮して各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すスイッチング動作を実行するようにしたので、スイッチング素子のスイッチングタイミングによりモータの中性点電位の変動を解消、若しくは、著しく抑制することが可能となる。
【0023】
特に、制御装置が、モータに流れる電流の向きが反転するキャリア周期では、当該電流の向きが反転する相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止し、他の二相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを同期させることにより、モータに印加される相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すスイッチング制御に変更するようにしたので、モータに流れる電流の向きが反転する相の相電圧を変化させずに、他の二相の相電圧の変化を相互に打ち消すようにそれらの上下アームスイッチング素子を同期してスイッチングさせ、当該電流の向きが反転するキャリア周期での中性点電位の変動を解消することができるようになる。これらにより、コモンモードノイズの発生を極めて効果的に解消、若しくは、抑制することが可能となる。
【0024】
また、請求項2の発明の如く制御装置が、何れか一相の下アームスイッチング素子がONし、他の二相の上アームスイッチング素子がONしている状態からキャリア周期を開始し、或いは、請求項3の発明の如く制御装置が、何れか二相の下アームスイッチング素子がONし、他の一相の上アームスイッチング素子がONしている状態からキャリア周期を開始するようにすれば、相電圧の変化を他の相電圧の変化で円滑に打ち消すことができるようになる。
【0025】
更に、請求項4の発明の如く制御装置が、モータに流れる電流の向きが反転するキャリア周期とそれに連続するキャリア周期全体での線間電圧の変化を解消、若しくは、抑制する方向で前記連続するキャリア周期におけるスイッチング動作を変更するようにすれば、中性点電位の変動を解消、若しくは、抑制するためにスイッチング動作を変更することでモータに印加される電圧が変化してしまう不都合を解消、若しくは、抑制し、モータの安定した運転制御を実現することができるようになるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施例のインバータ装置の電気回路図である。
図2図1の制御装置の第1の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、PWM波形、モータの中性点電位を示す図である。
図3図2の枠Z2部分(V相電流ivが反転するキャリア周期とそれに連続するキャリア周期)を拡大し、スイッチング素子のON/OFF状態を加えた図である。
図4図1の制御装置の第1の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示すもう一つの図である(相電流の向きが変わらない場合)。
図5図1の制御装置の第1の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示す更にもう一つの図である(W相電流iwが反転するが、ゼロクロスの考慮しない場合)。
図6図1の制御装置の第1の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示す更にもう一つの図である(W相電流iwが反転し、ゼロクロスの考慮する場合)。
図7図1の制御装置の第2の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示す図である(U相電流iuが反転するが、ゼロクロスの考慮しない場合)。
図8図1の制御装置の第2の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示すもう一つの図である(U相電流iuが反転し、ゼロクロスの考慮する場合)。
図9図1の制御装置の第3の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示す図である(V相電流ivが反転するが、ゼロクロスの考慮しない場合)。
図10図1の制御装置の第3の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示すもう一つの図である(V相電流ivが反転し、ゼロクロスの考慮する場合)。
図11図1の制御装置の第4の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示す図である(W相電流iwが反転するが、ゼロクロスの考慮しない場合)。
図12図1の制御装置の第4の変更制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示すもう一つの図である(W相電流iwが反転し、ゼロクロスの考慮する場合)。
図13図1の制御装置の各変更制御によるモータの中性点電位を、図20の場合、図21の場合、第1の変更制御、第2の変更制御の場合、第3の変更制御、第4の変更制御の場合とを比較する図である。
図14】従来の通常の三相変調方式によるモータの線間電圧を示す図である(図20の場合)。
図15】相電流の反転(ゼロクロス)を考慮しない場合のモータの線間電圧を示す図である(図21図22の場合)。
図16図1の制御装置の各変更制御によるモータの線間電圧を示す図である。
図17図1の制御装置の第1の変更制御、第2の変更制御による相電圧と線間電圧を示す図である(最大相電圧時)。
図18図1の制御装置の第3の変更制御、第4の変更制御による相電圧と線間電圧を示す図である(最大相電圧時)。
図19】モータ電流(各相電流)の位相を示す図である。
図20】従来のインバータ装置における三相変調電圧指令値、キャリア信号、各相電圧(PWM信号)、モータの中性点電位を示す図である。
図21】各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消す制御を説明するための電圧指令補正値とキャリア信号、PWM波形、モータの中性点電位を示す図である(W相電流iwが反転するが、ゼロクロスの考慮しない場合)。
図22図21の枠Z1部分(V相電流ivが反転するキャリア周期とそれに連続するキャリア周期)を拡大し、スイッチング素子のON/OFF状態を加えた図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。実施例のインバータ装置1は、モータ8により圧縮機構を駆動する所謂インバータ一体型の電動コンプレッサに搭載されるものであり、電動コンプレッサは例えば電気自動車やハイブリッド自動車の車室内を空調する車両用空気調和装置の冷媒回路を構成するものである。
【0028】
(1)インバータ装置1の構成
図1においてインバータ装置1は、三相のインバータ回路28と、制御装置21を備えている。インバータ回路28は、直流電源(車両のバッテリ:例えば、300V)29の直流電圧を三相交流電圧に変換してモータ8に印加する回路である。このインバータ回路28は、U相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相ハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fには、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。
【0029】
尚、各スイッチング素子18A~18Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0030】
そして、インバータ回路28の上アームスイッチング素子18A~18Cの上端側は、直流電源29及び平滑コンデンサ32の上アーム電源ライン(正極側母線)10に接続されている。一方、インバータ回路28の下アームスイッチング素子18D~18Fの下端側は、直流電源29及び平滑コンデンサ32の下アーム電源ライン(負極側母線)15に接続されている。
【0031】
この場合、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fが直列に接続されている。
【0032】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点は、モータ8のU相の電機子コイル2に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点は、モータ8のV相の電機子コイル3に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点は、モータ8のW相の電機子コイル4に接続されている。
【0033】
(2)制御装置21の構成
制御装置21はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両ECUから回転数指令値を入力し、モータ8からモータ電流(相電流)を入力して、これらに基づき、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18FのON/OFF状態(スイッチング)を制御する。具体的には、各スイッチング素子18A~18Fのゲート端子に印加するゲート電圧を制御する。
【0034】
実施例の制御装置21は、相電圧指令演算部33と、PWM信号生成部36と、ゲートドライバ37と、モータ8に流れる各相のモータ電流(相電流)であるU相電流iu、V相電流iv、W相電流iwを測定するためのカレントトランスから成る電流センサ26A、26Bを有しており、各電流センサ26A、26Bは相電圧指令演算部33に接続されている。
【0035】
尚、電流センサ26AはU相電流iuを測定し、電流センサ26BはV相電流ivを測定する。そして、W相電流iwはこれらから計算により求める。また、各相のモータ電流を検出する方法については実施例のように電流センサ26A、26Bで測定する以外に、下アーム電源ライン15の電流値を検出し、その電流値とモータ8の運転状態から相電圧指令演算部33が推定する方法などがあることから、各相電流を検出・推定する方法に関しては、特に限定しない。
【0036】
この相電圧指令演算部33は、モータ8の電気角、電流指令値と相電流から得られるd軸電流、q軸電流に基づくベクトル制御により、モータ8の各相の電機子コイル2~4に印加するU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwを生成するための三相変調電圧指令値Vu’(以下、U相電圧指令値Vu’)、Vv’(以下、V相電圧指令値Vv’)、Vw’(以下、W相電圧指令値Vw’)を演算し、生成する。
【0037】
PWM信号生成部36は、相電圧指令演算部33により演算された三相変調電圧指令値Vu’、Vv’、Vw’を入力し、これら三相変調電圧指令値Vu’、Vv’、Vw’を後述する如く補正した後、単独のキャリア信号(実施例では鋸波キャリア)との大小を比較することによって、インバータ回路28のU相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wの駆動指令信号となるPWM信号を生成し、出力する。
【0038】
ゲートドライバ37は、PWM信号生成部36から出力されるPWM信号に基づき、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18A、下アームスイッチング素子18Dのゲート電圧と、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18B、下アームスイッチング素子18Eのゲート電圧と、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18C、下アームスイッチング素子18Fのゲート電圧を発生させる。
【0039】
そして、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18Fは、ゲートドライバ37から出力されるゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ37は、スイッチング素子18A~18Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0040】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8のU相の電機子コイル2に印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8のV相の電機子コイル3に印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8のW相の電機子コイル4に印加(出力)される。
【0041】
(3)制御装置21の動作
次に、図2図18を参照しながら、制御装置21の実際の制御動作について説明する。実施例のインバータ装置1の制御装置21を構成するPWM信号生成部36は、相電圧指令演算部33が前述した如く演算し、出力するU相電圧指令値Vu’、V相電圧指令値Vv’、及び、W相電圧指令値Vw’(三相変調電圧指令値)を、前記各スイッチング素子18A~18Fをスイッチングする際のデッドタイム及びPWM信号生成部36の指令から実際に各スイッチング素子18A~18Fがスイッチングするまでの遅延時間(各スイッチング素子18A~18Fの遅延時間)を考慮しながら補正することにより、モータ8の中性点電位Vcの変動が無くなる(ゼロとなる)ようなU相電圧指令補正値Cu、V相電圧指令補正値Cv、及び、W相電圧指令補正値Cw(電圧指令補正値)を演算する。
【0042】
そして、これらU相電圧指令補正値Cu、V相電圧指令補正値Cv、及び、W相電圧指令補正値Cwと後述する単独のキャリア信号X1、X2との大小を比較することにより、インバータ回路28のU相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wの駆動指令信号となるPWM信号を発生させ、モータ8を運転する。
【0043】
尚、各図で示すU相電圧指令補正値Cu、V相電圧指令補正値Cv、及び、W相電圧指令補正値Cw(電圧指令補正値)は、モータ8の三相変調制御を行う場合における電圧指令補正値の直流電圧Vdcでの正規化後(-1~1に補正後)の値である。また、U相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwの各相電圧も、直流電圧Vdcで正規化した後の値である。
【0044】
(3-1)制御装置21のPWM信号生成部36が実行する第1の変更制御(その1)
次に、図2図3を用いてPWM信号生成部36の実際の動作の一例について図21図22と対比させて説明する。即ち、ここでは前述した図21図22の問題を解決するためにPWM信号生成部36が実行する第1の変更制御の一例を概説する。基本的には図21図22の場合と同様にこの実施例のPWM信号生成部36も、相電圧指令演算部33が出力する各相の電圧指令値Vu’、Vv’Vw’に補正を加えて電圧指令補正値Cu、Cv、Cwとし、各相の上下アームスイッチング素子18A~18Fのスイッチングタイミングを同期させ、モータ8に印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことで、中性点電位Vcを変動しないように制御している。尚、図3図2の枠Z2部分の連続する2回のキャリア周期を拡大したものである。また、この場合の条件も、キャリア周波数20kHz、電気角周波数800Hzの場合である。
【0045】
前述同様に各図中CuupはU相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値、CudownはU相電圧指令補正値Cuの立ち下げ指令値である。同様に、CvupはV相電圧指令補正値Cvの立ち上げ指令値、CvdownはV相電圧指令補正値Cvの立ち下げ指令値、CwupはW相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値、CwdownはW相電圧指令補正値Cwの立ち下げ指令値であり、PWM信号生成部36がそれら(立ち上げ指令値Cuup、立ち下げ指令値Cudown、立ち上げ指令値Cvup、立ち下げ指令値Cvdown、立ち上げ指令値Cw、立ち下げ指令値Cwdown)とキャリア信号の大小を比較することで、インバータ回路28の駆動指令信号となるPWM信号を生成する。
【0046】
そして、この場合も図19に示すようにV相電流ivが30°の位相でゼロクロスし、負の値(モータから流出する方向)から正の値(モータに流れ込む方向)に反転するものとする。実施例のPWM信号生成部36は、キャリア周期が開始(スイッチングの規定区間の開始)する毎に、当該キャリア周期内で相電流(iu、iv、iw)がゼロクロスするか否か予測する。
【0047】
図19に示すように、V相電流ivがゼロクロスし、向きが反転すると予測した場合、PWM信号生成部36は当該キャリア周期(図3の向かって左側のキャリア周期)では、V相の上下アームスイッチング素子18B、18Eのスイッチングを停止するようにV相電圧指令補正値Cvの立ち上げ指令値Cvupと立ち下げ指令値Cvdownを変更する。
【0048】
また、PWM信号生成部36は、U相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値Cuupと立ち下げ指令値Cudown、及び、W相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値Cwupと立ち下げ指令値Cwdownを変更することにより、U相の上下アームスイッチング素子18A、18D、W相の上下アームスイッチング18C、18Fのスイッチングを同期させ、U相電圧Vuの変化を、W相電圧Vwの変化で打ち消す。
【0049】
このような第1の変更制御により、モータ8に流れる電流(V相電流iv)の向きが反転するV相電圧Vvを変化させずに、他の二相の相電圧(U相電圧Vu、W相電圧Vw)の変化を相互に打ち消すようにそれらの上下アームスイッチング素子18A、18D、18C、18Fを同期してスイッチングさせ、V相電流ivの向きが反転するキャリア周期での中性点電位Vcの変動を解消することができるようになる(図3の最下段)。
【0050】
即ち、本発明では各上下アームスイッチング素子18A~18Fのスイッチングタイミングによりモータ8の中性点電位Vcの変動を解消、若しくは、著しく抑制することが可能となる。特に、PWM信号生成部36が、モータ8に流れる電流の向きが反転するキャリア周期では、図22の如くデッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間に起因して生じるモータ8の中性点電位Vcの変動を解消、若しくは、抑制する方向でスイッチング動作を変更するので、モータ8に流れる電流の向きが反転することで生じるデッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間による誤差で、中性点電位Vcが変動してしまう不都合も解消、若しくは、抑制することができるようになる。これらにより、コモンモードノイズの発生を極めて効果的に解消、若しくは、抑制することが可能となる。
【0051】
また、図3の実施例ではU相の下アームスイッチング素子18DがONし、他の二相の上アームスイッチング素子18B、18CがONしている状態からスイッチングの規定区間(キャリア周期)を開始しているので、U相電圧Vuの変化をW相電圧Vwの変化で円滑に打ち消すことができるようになる。
【0052】
更に、上記第1の変更制御でPWM信号生成部36は、V相電流ivの向きが反転するキャリア周期(図3の向かって左側)と、それに連続するキャリア周期(図3の向かって右側)の全体において、図3に白抜き矢印で示す各相電圧Vu、Vv、Vwのパルス幅が、図22に白抜き矢印で示した各相電圧Vu、Vv、Vwのパルス幅とそれぞれ同一、若しくは、略同一となるようにスイッチングを制御する。
【0053】
これにより、図22図3を比較して、モータ8に流れる電流(V相電流iv)の向きが反転するキャリア周期(図3の向かって左側)とそれに連続するキャリア周期(図3の向かって右側)全体で線間電圧が変化してしまう不都合を解消、若しくは、抑制することができるようになるので、中性点電位Vcの変動を解消、若しくは、抑制するためにスイッチング動作を変更することで、モータ8に印加される電圧が変化してしまう不都合を解消、若しくは、抑制し、モータ8の安定した運転制御を実現することができるようになる。
【0054】
(3-2)制御装置21のPWM信号生成部36が実行する第1の変更制御(その2)
次に、図4図6を用いてPWM信号生成部36が実行する第1の変更制御を他の例を用いて詳述する。
(3-2-1)相電流(モータ電流)が反転しない場合
図4は連続する2回のキャリア周期を示しており、図4の最上段は制御装置21のPWM信号生成部36が生成するU相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値Cuup、立ち下げ指令値Cudown、V相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値Cvup、Cvdown、及び、W相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値Cwup、立ち下げ指令値Cwdownとキャリア信号(鋸波キャリア)X1、X2を示し、上から二段目は各相の上下アームスイッチング素子18A~18FのON/OFF状態、下から二段目はモータ8に印加されるU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vw、最下段はモータ8の中性点電位Vcをそれぞれ示している。
【0055】
また、図4の下側にはモータ8に流れるU相電流iu、V相電流iv、及び、W相電流iwの向きを示している。各相電流の向きは、モータ8に流入する方向を>0、モータ8から流出する方向を<0で示している。図4の例は、U相電流iu、及び、W相電流iwがモータ8に流入する向き、V相電流ivはモータ8から流出する向きであって、図4の各キャリア周期においては何れの相電流もゼロクロスせず、反転しない場合を示している。
【0056】
実施例ではデッドタイムを作るために本発明における単独のキャリア信号(鋸波キャリア)は二つの下りX1、X2から成る。下りX2は下りX1より進む位相である。そして、PWM信号生成部36はキャリア信号の下りX1、X2とU相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値Cuupを比較し、立ち上げ指令値Cuupが下りX1とクロスする位相で下アームスイッチング素子18DをOFFし、下りX2とクロスする位相で上アームスイッチング素子18AをONするPWM信号を生成する。また、立ち下げ指令値Cudownが下りX1とクロスする位相で上アームスイッチング素子18AをOFFし、下りX2とクロスする位相で下アームスイッチング素子18DをONするPWM信号を生成する。
【0057】
また、PWM信号生成部36はキャリア信号の下りX1、X2とV相電圧指令補正値Cvの立ち上げ指令値Cvupを比較し、立ち上げ指令値Cvupが下りX1とクロスする位相で下アームスイッチング素子18EをOFFし、下りX2とクロスする位相で上アームスイッチング素子18BをONするPWM信号を生成する。また、立ち下げ指令値Cvdownが下りX1とクロスする位相で上アームスイッチング素子18BをOFFし、下りX2とクロスする位相で下アームスイッチング素子18EをONするPWM信号を生成する。
【0058】
更に、PWM信号生成部36はキャリア信号の下りX1、X2とW相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値Cwupを比較し、立ち上げ指令値Cwupが下りX1とクロスする位相で下アームスイッチング素子18FをOFFし、下りX2とクロスする位相で上アームスイッチング素子18CをONするPWM信号を生成する。また、立ち下げ指令値Cwdownが下りX1とクロスする位相で上アームスイッチング素子18CをOFFし、下りX2とクロスする位相で下アームスイッチング素子18FをONするPWM信号を生成する。
【0059】
また、PWM信号生成部36は、実施例ではU相の下アームスイッチング素子18DがONし、V相の上アームスイッチング素子18B、及び、W相の上アームスイッチング素子18CがONしている状態からスイッチングの規定区間(1キャリア周期)を開始する。
【0060】
実施例の如くU相電流iu、及び、W相電流iwがモータ8に流入する向き、V相電流ivはモータ8から流出する向きである場合、U相では上アームスイッチング素子18Aの動作でU相電圧Vuが変化し、上アームスイッチング素子18AがONしている期間にU相電圧Vuは「H」となり、W相でも上アームスイッチング素子18Cの動作でW相電圧Vwが変化し、上アームスイッチング素子18CがONしている期間にW相電圧Vwは「H」となる。一方、V相では下アームスイッチング素子18Eの動作でV相電圧Vvが変化し、下アームスイッチング素子18EがOFFしている期間にV相電圧Vvは「H」となる。そして、図4中の「H」の期間の幅の総和が各相電圧(U相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vw)の大きさとなる。
【0061】
この図から明らかな如く、PWM信号生成部36は電圧指令値Vu’、Vv’、Vw’を補正して電圧指令補正値Cu、Cv、Cwとすることにより、図4の連続する2キャリア周期の最初のキャリア周期(向かって左側)の前半では、W相の上アームスイッチング素子18CがONし、下アームスイッチング素子18FがOFFしている状態に固定し、更に、U相の下アームスイッチング素子18DがOFFするタイミングと、V相の上アームスイッチング素子18BがOFFするタイミングを同期させ、U相の上アームスイッチング素子18AがONするタイミングと、V相の下アームスイッチング素子18EがONするタイミングを同期させることにより、U相電圧Vuが「H」となり、V相電圧Vvが「L」となるタイミングを同期させ、U相電圧Vuの変化を、V相電圧Vvの変化で打ち消す。
【0062】
また、最初のキャリア周期の後半では、U相の上アームスイッチング素子18AがONし、下アームスイッチング素子18DがOFFしている状態に固定し、更に、V相の下アームスイッチング素子18EがOFFするタイミングと、W相の上アームスイッチング素子18CがOFFするタイミングを同期させ、V相の上アームスイッチング素子18BがONするタイミングと、W相の下アームスイッチング素子18FがONするタイミングを同期させることにより、V相電圧Vvが「H」となり、W相電圧Vwが「L」となるタイミングを同期させ、V相電圧Vvの変化を、W相電圧Vwの変化で打ち消す。
【0063】
図4の連続する2キャリア周期の次のキャリア周期(向かって右側)の前半では、U相の上アームスイッチング素子18AがONし、下アームスイッチング素子18DがOFFしている状態に固定し、更に、V相の上アームスイッチング素子18BがOFFするタイミングと、W相の下アームスイッチング素子18FがOFFするタイミングを同期させ、V相の下アームスイッチング素子18EがONするタイミングと、W相の上アームスイッチング素子18CがONするタイミングを同期させることにより、V相電圧Vvが「L」となり、W相電圧Vvが「H」となるタイミングを同期させ、V相電圧Vvの変化を、W相電圧Vwの変化で打ち消す。
【0064】
また、次のキャリア周期の後半では、W相の上アームスイッチング素子18CがONし、下アームスイッチング素子18FがOFFしている状態に固定し、更に、U相の上アームスイッチング素子18AがOFFするタイミングと、V相の下アームスイッチング素子18EがOFFするタイミングを同期させ、U相の下アームスイッチング素子18DがONするタイミングと、V相の上アームスイッチング素子18BがONするタイミングを同期させることにより、U相電圧Vuが「L」となり、V相電圧Vvが「H」となるタイミングを同期させ、U相電圧Vuの変化を、V相電圧Vvの変化で打ち消す。
【0065】
上記のようなPWM信号生成部36の補正動作をより詳細に説明すると、以下の通りとなる。
通常の一般的なインバータ装置では、PWM信号生成部は、相電圧指令演算部の三相変調電圧指令値を、1キャリア周期内で実現するように、PWM信号を生成するが、実施例のインバータ装置1では、PWM信号生成部36が、連続する複数のキャリア周期内でモータ8の中性点電位Vcの変動がゼロとなり、且つ、当該連続する複数のキャリア周期全体でのU相-V相の線間電圧、V相-W相の線間電圧、W相-U相の線間電圧が変化しないように三相変調電圧指令値Vu’、Vv’、Vw’を補正して電圧指令補正値Cu、Cv、Cwを演算し、PWM信号を生成する。
【0066】
即ち、図4に示すように連続する複数キャリア周期を2周期であるとすると、相電圧指令演算部33の三相変調電圧指令値は2周期分の2つ存在する。PWM信号生成部36は、その2回の三相変調電圧指令値を足した値を、2キャリア周期分で再現する。或いは、1回目のキャリア周期で相電圧指令演算部33から受けた値を、2倍した値を、2キャリア周期分で再現してもよい。
【0067】
図4で具体的には説明すると、W相について見ると、連続する2回のキャリア周期では2キャリア周期全体で、W相電圧指令補正値Cw=W相電圧指令値Vw’+共通加算値αになる。これは、U相、V相、W相すべての相に共通で加算する数値となり、U相-V相の線間電圧、V相-W相の線間電圧、W相-U相の線間電圧でみれば、元の三相変調電圧指令値の通りの電圧に近い波形を印加できる。
【0068】
この共通加算値αは、三相変調電圧指令値はU相、V相、W相毎に出力しているが、この指令は実際には線間電圧の指令値であり、U相-V相の線間電圧、V相-W相の線間電圧、W相-U相の線間電圧を指令通りにすればよい。
数式的に表現すると、1回目のU相電圧指令値をVu’1、2回目のU相電圧指令値をVu’2として、1回目のU相PWM信号でモータ8に印加できる電圧をPU1、2回目のU相PWM信号でモータ8に印加できる電圧をPU2とすると、
PU1+PU2+α=Vu’1+Vu’2 ・・・(i)
となる。
【0069】
同様に、V相、W相を考えると、
PV1+PV2+α=Vv’1+Vv’2 ・・・(ii)
PW1+PW2+α=Vw’1+Vw’2 ・・・(iii)
となる。
尚、Vv’1は1回目のV相電圧指令値、Vv’2は2回目のV相電圧指令値、PV1は1回目のV相PWM信号でモータ8に印加できる電圧、PV2は2回目のV相PWM信号でモータ8に印加できる電圧である。また、Vw’1は1回目のW相電圧指令値、Vw’2は2回目のW相電圧指令値、PW1は1回目のW相PWM信号でモータ8に印加できる電圧、PW2は2回目のW相PWM信号でモータ8に印加できる電圧である。
【0070】
尚、前述した如く1回目のキャリア周期で相電圧指令演算部33から受けた値を、2倍した値を、2キャリア周期分で再現する場合を考えると式は以下の通りとなる。
PU1+PU2+α=2×Vu’1 ・・・(iv)
PV1+PV2+α=2×Vv’1 ・・・(v)
PW1+PW2+α=2×Vw’1 ・・・(vi)
【0071】
ちなみに、一般的な従来方式では上記式(iv)~(vi)は以下の式となる(二相変調等の線間変調をしていない場合は共通加算値αは0となる)。
PU1+α=Vu’1 ・・・(vii)
PV1+α=Vv’1 ・・・(viii)
PW1+α=Vw’1 ・・・(ix)
また、前述した特許文献の方式でも上記式(vii)~(ix)と同じ式で表現できる。
【0072】
前記式(i)~(vi)で線間電圧を考えると、U相-V相の線間電圧は、
PU1+PU2+α―(PV1+PV2+α)=Vu’1+Vu’2―(Vv’1+Vv’2) ・・・(x)
そして、この式(x)は下記式(xi)となる。
PU1―PV1+PU2―PV2=Vu’1―Vv’1+Vu’2―Vv’2 ・・・(xi)
【0073】
そして、前記式(vii)~(ix)の従来方式でも、2キャリア周期分を考慮すると同じ値になる。U相、V相の2キャリア周期分は以下の通り。
PU1+α+PU2+α=Vu’1+Vu’2 ・・・(xii)
PV1+α+PV2+α=Vv’1+Vv’2 ・・・(xiii)
これら式(xii)、(xiii)を式(x)の場合と同様に加算すると、以下のように同じ結果が得られる。
PU1+α+PU2+α―(PV1+α+PV2+α)=Vu’1+Vu’2―(Vv’1+Vv’2) ・・・(xiv)
そして、この式(xiv)は下記式(xv)となり、式(xi)と同じとなる。
PU1―PV1+PU2―PV2=Vu’1―Vv’1+Vu’2―Vv’2 ・・・(xv)
【0074】
以上の如く、実施例によっても2キャリア周期分を考慮した場合、PWM信号生成部36は、相電圧指令演算部33の出力通りに電圧(電圧指令補正値Cu、Cv、Cw)を出力していることが分かる(図4中の白抜き矢印の幅)。
【0075】
以上により、各相電圧Vu、Vv、Vwの平均である中性点電位Vcは、図4に示すように常に一定となり、変化しなくなるので、コモンモードノイズを効果的に解消、若しくは、抑制することができるようになる。また、実施例ではPWM信号生成部36が、図4の最初のキャリア周期の前半ではW相の上アームスイッチング素子18CをON、下アームスイッチング素子18FをOFF状態に固定させると共に、U相の下アームスイッチング素子18DがONし、V相の上アームスイッチング素子18BがONしている状態からスイッチングの規定区間を開始するようにしているので、U相電圧Vuの変化をV相電圧Vvの変化で円滑に打ち消すことができるようになる。
【0076】
また、図4の次のキャリア周期の前半ではU相の上アームスイッチング素子18AをON、下アームスイッチング素子18DをOFF状態に固定させると共に、V相の上アームスイッチング素子18BがONし、W相の下アームスイッチング素子18FがONしている状態からスイッチングの規定区間を開始するようにしており、ここでもV相電圧Vvの変化をW相電圧Vwの変化で円滑に打ち消すことができるようになる。
【0077】
(3-2-2)W相電流iwが反転する場合
しかしながら、図5に示す如く最初のキャリア周期でW相電流iwがゼロクロスし、モータ8に流入する向き(>0)から流出する向き(<0)に反転した場合、図4と同じタイミングでスイッチング制御を行うと、W相電圧VwはW相の下アームスイッチング素子18FがONするタイミングで立ち下がることになるので、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分の幅のパルス状に中性点電位Vcが上がる方向に変動してしまうことになる。
【0078】
ここで、実施例のPWM信号生成部36は、キャリア周期が開始(スイッチングの規定区間の開始)する毎に、当該キャリア周期内で相電流(iu、iv、iw)がゼロクロスするか否か予測する。この実施例のPWM信号生成部36は、最初のキャリア周期の後半でW相電流iwがゼロクロスし、モータ8に流入する向きから流出する向きに反転すると予測した場合、PWM信号生成部36は図6に示す如く、当該最初のキャリア周期(図6の向かって左側のキャリア周期)では、W相の上下アームスイッチング素子18C、18Fのスイッチングを停止するようにW相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値Cwupと立ち下げ指令値Cwdownを変更する。
【0079】
また、PWM信号生成部36は、U相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値Cuupと立ち下げ指令値Cudown、及び、V相電圧指令補正値Cvの立ち上げ指令値Cvupと立ち下げ指令値Cvdownを変更することにより、U相の上下アームスイッチング素子18A、18D、V相の上下アームスイッチング18B、18Eのスイッチングを同期させ、U相電圧Vuの変化を、V相電圧Vvの変化で打ち消す。
【0080】
このような第1の変更制御で各スイッチング素子18A~18Eのスイッチング動作を変更することにより、モータ8に流れる電流(W相電流iw)の向きが反転するW相電圧Vwを変化させずに、他の二相の相電圧(U相電圧Vu、V相電圧Vv)の変化を相互に打ち消すようにそれらの上下アームスイッチング素子18A、18D、18B、18Eを同期してスイッチングさせ、W相電流iwの向きが反転するキャリア周期(最初のキャリア周期)での中性点電位Vcの変動を解消することができるようになる(図6の最下段)。これにより、コモンモードノイズの発生を極めて効果的に解消、若しくは、抑制することが可能となる。
【0081】
また、この場合(図6)もU相の下アームスイッチング素子18DがONし、他の二相の上アームスイッチング素子18B、18CがONしている状態からスイッチングの規定区間(キャリア周期)を開始しているので、U相電圧Vuの変化をV相電圧Vvの変化で円滑に打ち消すことができるようになる。
【0082】
更に、この場合も上記第1の変更制御でPWM信号生成部36は、W相電流iwの向きが反転するキャリア周期(図6の向かって左側)と、それに連続するキャリア周期(図6の向かって右側)の全体において、図6に白抜き矢印で示す各相電圧Vu、Vv、Vwのパルス幅が、図4図5に白抜き矢印で示した各相電圧Vu、Vv、Vwのパルス幅とそれぞれ同一、若しくは、略同一となるようにスイッチングを制御する。
【0083】
これにより、モータ8に流れる電流(W相電流iw)の向きが反転するキャリア周期(図6の向かって左側)とそれに連続するキャリア周期(図6の向かって右側)全体で線間電圧が変化してしまう不都合を解消、若しくは、抑制することができるようになるので、中性点電位Vcの変動を解消、若しくは、抑制するためにスイッチング動作を変更することで、モータ8に印加される電圧が変化してしまう不都合を解消、若しくは、抑制し、モータ8の安定した運転制御を実現することができるようになる。
【0084】
(3-3)制御装置21のPWM信号生成部36が実行する第2の変更制御
次に、図7図8を用いてPWM信号生成部36が実行する第2の変更制御の一例を詳述する。
例えば、図7に示す如く連続する2回のキャリア周期の最初のキャリア周期でU相電流iuがゼロクロスし、モータ8に流入する向き(>0)から流出する向き(<0)に反転し、U相の下アームスイッチング素子18DがOFFするタイミングでU相電圧Vuが立ち上がってしまい、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分位相が遅れてV相の下アームスイッチング素子18EがONするタイミングでV相電圧Vvが立ち下がった場合にも、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分の幅のパルス状に中性点電位Vcが上がる方向に変動してしまうことになる。
【0085】
そこで、この実施例ではPWM信号生成部36は、最初のキャリア周期の後半でU相電流iuがゼロクロスし、モータ8に流入する向きから流出する向きに反転すると予測した場合、図8に示す如く、当該最初のキャリア周期(図8の向かって左側のキャリア周期)では、全ての相(U相、V相、W相)の上下アームスイッチング素子18A~18Fのスイッチングを停止するようにU相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値Cuupと立ち下げ指令値Cudown、V相電圧指令補正値Cvの立ち上げ指令値Cvupと立ち下げ指令値Cvdown、W相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値Cwupと立ち下げ指令値Cwdownを変更する。
【0086】
このような第2の変更制御で各スイッチング素子18A~18Eのスイッチング動作を変更することにより、モータ8に流れる電流(U相電流iu)の向きが反転するU相電圧Vuに加え、他の二相の相電圧(V相電圧Vv、W相電圧Vw)wも変化しないようになるので、U相電流iuの向きが反転するキャリア周期(最初のキャリア周期)での中性点電位Vcの変動を解消することができるようになる(図8の最下段)。これにより、コモンモードノイズの発生を極めて効果的に解消、若しくは、抑制することが可能となる。
【0087】
また、上記第2の変更制御でも、PWM信号生成部36はU相電流iuの向きが反転するキャリア周期(図8の向かって左側)と、それに連続するキャリア周期(図8の向かって右側)の全体において、図8に白抜き矢印で示す各相電圧Vu、Vv、Vwのパルス幅が、図7に白抜き矢印で示した各相電圧Vu、Vv、Vwのパルス幅とそれぞれ同一、若しくは、略同一となるようにスイッチングを制御する。
【0088】
これにより、モータ8に流れる電流(U相電流iu)の向きが反転するキャリア周期(図8の向かって左側)とそれに連続するキャリア周期(図8の向かって右側)全体で線間電圧が変化してしまう不都合を解消、若しくは、抑制することができるようになるので、中性点電位Vcの変動を解消、若しくは、抑制するためにスイッチング動作を変更することで、モータ8に印加される電圧が変化してしまう不都合を解消、若しくは、抑制し、モータ8の安定した運転制御を実現することができるようになる。
【0089】
(3-4)第1の変更制御と第2の変更制御の選択
また、PWM信号生成部36は上記の如く説明した第1の変更制御(図3図6)と、第2の変更制御(図8)のうち、各相の上下アームスイッチング素子18A~18Fのスイッチング動作を変更する前(図6の場合には図5図8の場合には図7)のスイッチング動作に近似する方を選択して実行する。これにより、スイッチング動作の変更がモータ8の運転に与える悪影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0090】
(3-5)制御装置21のPWM信号生成部36が実行する第3の変更制御
次に、図9図10を用いてPWM信号生成部36が実行する第3の変更制御の一例を詳述する。
例えば、図9に示す如く連続する2回のキャリア周期の最初のキャリア周期でU相とV相の下アームスイッチング素子19D、19EがONし、W相の上アームスイッチング素子18CがONした状態でスイッチングの規定区間が開始(キャリア周期が開始)する場合に、V相電流ivがゼロクロスし、モータ8に流入する向き(>0)から流出する向き(<0)に反転したときには、V相の下アームスイッチング素子18EがOFFするタイミングでV相電圧Vvが立ち上がってしまい、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分位相が遅れてU相の上アームスイッチング素子18AがOFFするタイミングでU相電圧Vuが立ち下がっても、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分の幅のパルス状に中性点電位Vcが立ち上がる。即ち、中性点電位Vcが立ち上がり、その後立ち下がるので、中性点電位Vcは2回変動することになる。
【0091】
そこで、この実施例でPWM信号生成部36は、図10に示す如く、V相電流ivが反転するキャリア周期(図10の向かって左側)では、図9の場合と同様にV相の上下アームスイッチング素子18B、18Eをスイッチングする。一方、U相の下アームスイッチング素子18AがOFFするタイミングと、W相の上アームスイッチング素子18CがOFFするタイミングを同期させ、U相の上アームスイッチング素子18AがONするタイミングと、W相の下アームスイッチング素子18FがONするタイミングを同期させるようにU相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値Cuupと立ち下げ指令値Cudown、W相電圧指令補正値Cwの立ち上げ指令値Cwupと立ち下げ指令値Cwdownを変更することにより、U相電圧Vuが「H」に立ち上がり、W相電圧Vwが「L」に立ち下がるタイミングを同期させ、U相電圧Vuの変化を、W相電圧Vwの変化で打ち消す。
【0092】
中性点電位VcはV相の下アームスイッチング素子18EがOFFするタイミングで立ち上がり、その後は上がったままで変動しない状態となる(図10の最下段)。このような第3の変更制御により、中性点電位Vcの変動を、モータ8に流れる電流の向きが反転するV相の上下アームスイッチング素子18B、18Eのスイッチングによる1回のみ(立ち上がるときのみ)に削減することが可能となる。
【0093】
このような第3の変更制御で各スイッチング素子18A~18Eのスイッチング動作を変更することにより、当該電流の向きが反転するキャリア周期(図10の向かって左側)での中性点電位Vcの変動を、図9に示した場合よりも抑制することができるようになる。特にこの場合は、前述した第1の変更制御や第2の変更制御よりも高い変調率に対応できるようになるので、モータ8の回転数が高い運転状態が要求される場合に有利となる。
【0094】
また、上記第3の変更制御では、図10の連続する2回のキャリア周期の全体において、PWM信号生成部36は全相に均等に図10に破線白抜き矢印で示すパルス幅の電圧を各相に加算している。モータ8に印加される電圧は、相電圧の差であるため、全相に同じパルス幅(破線白抜き矢印)を加算してもモータ8に流れる電流(V相電流iv)の向きが反転するキャリア周期(図10の向かって左側)とそれに連続するキャリア周期(図10の向かって右側)全体で線間電圧が変化してしまうことはない。これにより、中性点電位Vcの変動を解消、若しくは、抑制するためにスイッチング動作を変更することで、モータ8に印加される電圧が変化してしまう不都合を抑制しながら、モータ8の安定した運転制御を実現することができるようになる。
【0095】
(3-6)制御装置21のPWM信号生成部36が実行する第4の変更制御
次に、図11図12を用いてPWM信号生成部36が実行する第4の変更制御の一例を詳述する。
例えば、図11に示す如く連続する2回のキャリア周期の最初のキャリア周期でU相とV相の下アームスイッチング素子19D、19EがONし、W相の上アームスイッチング素子18CがONした状態でスイッチングの規定区間が開始(キャリア周期が開始)する場合に、W相電流iwがゼロクロスし、モータ8に流入する向きが反転すると予測されるが、W相電流iwの向きが不明であり、U相の上アームスイッチング素子18AがONするタイミングでU相電圧Vuが立ち上がってしまい、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分位相が遅れてW相の下アームスイッチング素子18FがONし、W相電圧Vwが立ち下がっても、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間分の幅のパルス状に中性点電位Vcが立ち上がる。即ち、中性点電位Vcが立ち上がり、その後立ち下がるので、中性点電位Vcは2回変動することになる。
【0096】
一方、この実施例の場合にはモータ8に流れる電流(iw)の向きが反転するW相以外のU相、V相は、何れも下アームスイッチング素子18D、18EがON状態でスイッチングの規定区間を開始することになるので、U相電圧VuとV相電圧Vvの変化を相互に打ち消すことができない。
【0097】
そこで、この実施例でPWM信号生成部36は、反転するW相電流iwの向きが分からないので、図12に示す如く、W相電流iwが反転するキャリア周期(図11の向かって左側)では、図11の場合と同様にw相の上下アームスイッチング素子18C、18Fをスイッチングする。一方、電流の向きがモータ8に流入する方向と分かっているU相の上アームスイッチング素子18Aは、W相電流iwがモータ8から流出する向き(<0)であるときにW相電圧Vwが立ち下がるタイミングに合わせてONするように同期させる。また、電流の向きがモータ8から流出する方向と分かっているV相の下アームスイッチング素子18Eは、W相電流iwがモータ8に流入する向き(>0)であるときにW相電圧Vwが立ち下がるタイミングに合わせてOFFするように同期させるようにU相電圧指令補正値Cuの立ち上げ指令値Cuupと立ち下げ指令値Cudown、V相電圧指令補正値Cvの立ち上げ指令値Cvupと立ち下げ指令値Cvdownを変更することにより、U相電圧Vuが「H」に立ち上がるタイミングと、V相電圧Vvが「H」に立ち上がるタイミングを、デッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間の影響で変わるW相電圧Vwの立ち下がるタイミングにそれぞれ同期させ、何れかによりW相電圧Vwの変化を打ち消す。
【0098】
図12の例では実際にはW相電流iwはモータ8に流入する向き(>0)から流出する向き(<0)に反転しているので、W相の下アームスイッチング素子18FがONするタイミングでW相電圧Vwは立ち下がる。従って、中性点電位VcはV相の下アームスイッチング素子18EがOFFするタイミングで立ち上がり、その後は上がったままで変動しない状態となる(図12の最下段)。このような第4の変更制御により、実施例では中性点電位Vcの変動を、V相の下アームスイッチング素子18Eのスイッチングによる1回のみ(立ち上がるときのみ)に削減することが可能となる。
【0099】
このような第4の変更制御で各スイッチング素子18A~18Eのスイッチング動作を変更することにより、電流の向きが反転するキャリア周期(図12の向かって左側)での中性点電位Vcの変動を、図11に示した場合よりも抑制することができるようになる。特にこの場合も、前述した第1の変更制御や第2の変更制御よりも高い変調率に対応できるようになるので、モータ8の回転数が高い運転状態が要求される場合に有利となる。
【0100】
また、上記第4の変更制御でも、図12の連続する2回のキャリア周期の全体において、PWM信号生成部36は全相に均等に図12に破線白抜き矢印で示すパルス幅の電圧を各相に加算しているので、モータ8に印加される電圧は、相電圧の差であるため、全相に同じパルス幅(破線白抜き矢印)を加算してもモータ8に流れる電流(W相電流iw)の向きが反転するキャリア周期(図12の向かって左側)とそれに連続するキャリア周期(図12の向かって右側)全体で線間電圧が変化してしまうことはない。これにより、中性点電位Vcの変動を解消、若しくは、抑制するためにスイッチング動作を変更することで、モータ8に印加される電圧が変化してしまう不都合を抑制しながら、モータ8の安定した運転制御を実現することができるようになる。
【0101】
(3-7)中性点電位Vcの変動の比較
ここで、図13は以上詳述した各変更制御と従来の制御によるモータ8の中性点電位Vcの変動を比較して示している。図中の最上段は図20で説明した従来の通常の三相変調方式の場合の中性点電位Vcを示しており、上から二段目は図21図22で説明した如く相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すように電圧指令値を補正するが、相電流(モータ電流)の反転(ゼロクロス)を考慮しない場合の中性点電位Vcを示している。
【0102】
そして、上から三段目は前述した第1の変更制御、第2の変更制御を行った場合の中性点電位Vcを示し、最下段は第3の変更制御、第4の変更制御を行った場合の中性点電位Vcを示している。尚、この場合の条件は、キャリア周波数20kHz、電気角周波数200Hzの場合である。
【0103】
この図から、第1の変更制御や第2の変更制御を実行することで、上から三段目に示される如くモータ8の中性点電位Vcの変動が抑えられていることが分かる。また、第3の変更制御や第4の変更制御によっても、最下段に示される如く中性点電位Vcが立ち上がり、立ち下がる回数が、最上段及び上から二段目に示される変動に比して、同じモータ電流位相において著しく減少していることが分かる。
【0104】
(3-8)線間電圧の纏め
また、図14図20で説明した従来の通常の三相変調方式によるモータの線間電圧を示し、図15図21図22で説明した相電流の反転(ゼロクロス)を考慮しない場合のモータの線間電圧を示している。そして、図16は上述した各変更制御によるモータの線間電圧を示している。
【0105】
尚、この場合の条件も、キャリア周波数20kHz、電気角周波数200Hzの場合である。これらの図から明らかな如く、図14図15に比して図16の場合には歪みが出やすくなるものの、各線間電圧は許容可能な正弦波となっていることが分かる。
【0106】
(3-9)第1の変更制御及び第2の変更制御と、第3の変更制御及び第4の変更制御の切り換え
次に、図17は前述した第1の変更制御と第2の変更制御による最大相電圧時の相電圧Vu、Vv、Vwと、U相-V相、V相-W相、W相-U相の各線間電圧を示している。また、図18は前述した第3の変更制御と第4の変更制御による最大相電圧時の相電圧Vu、Vv、Vwと、U相-V相、V相-W相、W相-U相の各線間電圧を示している。尚、何れも-1~1に補正して正規化した値である。
【0107】
この図から明らかな如く、第1の変更制御や第2の変更制御(図17)では、変調率は最大で2/3であるが、第3の変更制御や第4の変更制御(図18)では、変調率を最大で4√3/9まで上げることが可能となる。即ち、第1の変更制御や第2の変更制御に比して、第3の変更制御や第4の変更制御は最大相電圧が大きくなり、モータ8に印加することができる線間電圧が大きくなることが分かる。
【0108】
そこで、制御装置21のPWM信号生成部36は、モータ8の運転状態に応じて前述した第1の変更制御及び第2の変更制御、第3の変更制御及び第4の変更制御の切り換えを行う。具体的には、この実施例ではモータ8の回転数が所定の閾値より低い第1の領域(低い変調率でよい領域)では、第1の変更制御又は第2の変更制御を選択して実行し、この第1の領域より高い所定の第2の領域(高い変調率が必要となる領域)では、第3の変更制御又は第4の変更制御を選択して実行する。これにより、モータ8の運転状態に応じて適切に中性点電位Vcの変動を解消、若しくは、抑制することが可能となる。
【0109】
尚、実施例ではPWM信号生成部36が、相電圧指令演算部33が出力するU相電圧指令値Vu’、V相電圧指令値Vv’、及び、W相電圧指令値Vw’(三相変調電圧指令値)を、前記各スイッチング素子18A~18Fをスイッチングする際のデッドタイム及びスイッチング素子の遅延時間を考慮しながら補正することにより、モータ8の中性点電位Vcの変動が無くなる(ゼロとなる)ようなU相電圧指令補正値Cu、V相電圧指令補正値Cv、及び、W相電圧指令補正値Cw(電圧指令補正値)を演算し、更に、それらを変更することで相電流のゼロクロスによる中性点電位Vcの変動を解消若しくは抑制するようにしたが、電圧指令補正値Cu、Cv、Cwの生成及び変更を相電圧指令演算部33自体が行い、PWM信号生成部36に出力するようにしてもよい。
【0110】
また、上記各実施例では鋸波のキャリア信号を使用したが、それに限らず、三角波であってもよく、その形状は限定されない。また、実施例では2キャリア周期分を考慮した場合を示したが、同様に3キャリア周期以上を考慮してもよい。更に、実施例ではモータ8の回転数で上記各変更制御の切り換えを行うようにしたが、それに限らず、モータ8の負荷を示す別の指標を採用してもよい。更にまた、実施例では電動コンプレッサのモータを駆動制御するインバータ装置に本発明を適用したが、それに限らず、各種機器のモータの駆動制御に本発明は有効である。
【符号の説明】
【0111】
1 インバータ装置
8 モータ
10 上アーム電源ライン
15 下アーム電源ライン
18A~18F 上下アームスイッチング素子
19U U相ハーフブリッジ回路
19V V相ハーフブリッジ回路
19W W相ハーフブリッジ回路
21 制御装置
26A、26B 電流センサ
28 インバータ回路
33 相電圧指令演算部
36 PWM信号生成部
37 ゲートドライバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図20
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図22