(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】放熱構造体およびそれを備えるバッテリー
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6554 20140101AFI20231201BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20231201BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20231201BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20231201BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20231201BHJP
H01M 10/6563 20140101ALI20231201BHJP
H01M 10/6568 20140101ALI20231201BHJP
H01M 50/20 20210101ALI20231201BHJP
【FI】
H01M10/6554
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/653
H01M10/6556
H01M10/6563
H01M10/6568
H01M50/20
(21)【出願番号】P 2020042637
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】手島 真広
(72)【発明者】
【氏名】本多 雅之
(72)【発明者】
【氏名】平田 佳樹
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-125665(JP,A)
【文献】特開2019-165081(JP,A)
【文献】特開平09-321468(JP,A)
【文献】特開2008-243999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/6554
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/6556
H01M 10/6568
H01M 10/653
H01M 10/6563
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源からの放熱を高める複数の放熱部材が連結された放熱構造体であって、
前記放熱部材は、
前記熱源からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シートと、
前記熱伝導シートの環状裏面に備えられ、前記熱伝導シートに比べて前記熱源の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材と、
前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路と、
を備え、
前記熱伝導シートは、スパイラル状に巻回している前記熱伝導シート同士の隙間に、伸縮可能なゴム部材を有し、
前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材により連結されていることを特徴とする放熱構造体。
【請求項2】
前記ゴム部材は、前記ゴム部材よりも熱伝導性の高いフィラーを含むことを特徴とする請求項1に記載の放熱構造体。
【請求項3】
前記クッション部材は、その長さ方向に前記貫通路を有する筒状クッション部材であって、
前記熱伝導シートは、前記筒状クッション部材の外側面をスパイラル状に巻回していることを特徴とする請求項1または2に記載の放熱構造体。
【請求項4】
前記クッション部材は、前記熱伝導シートの前記環状裏面に沿ってスパイラル状に巻回しているスパイラル状クッション部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の放熱構造体。
【請求項5】
前記連結部材は、糸で構成されており、前記複数の放熱部材の間に、撚りが加えられた撚り部を備え、
前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に前記糸で連結されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の放熱構造体。
【請求項6】
前記放熱部材の長さ方向の両端の内の少なくとも一端側を固定するシートを、さらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の放熱構造体。
【請求項7】
冷却媒体を流す構造を持つ筐体内に、1または2以上の熱源としてのバッテリーセルを備えたバッテリーであって、前記バッテリーセルと前記筐体との間に、請求項1から6のいずれか1項に記載の放熱構造体を備えることを特徴とするバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱構造体およびそれを備えるバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、船舶あるいは家庭用若しくは業務用電子機器の制御システムは、より高精度かつ複雑化してきており、それに伴って、回路基板上の小型電子部品の集積密度が増加の一途を辿っている。この結果、回路基板周辺の発熱による電子部品の故障や短寿命化を解決することが強く望まれている。
【0003】
回路基板からの速やかな放熱を実現するには、従来から、回路基板自体を放熱性に優れた材料で構成し、ヒートシンクを取り付け、あるいは冷却ファンを駆動するといった手段を単一で若しくは複数組み合わせて行われている。これらの内、回路基板自体を放熱性に優れた材料、例えばダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、立方晶窒化ホウ素(cBN)などから構成する方法は、回路基板のコストを極めて高くしてしまう。また、冷却ファンの配置は、ファンという回転機器の故障、故障防止のためのメンテナンスの必要性や設置スペースの確保が難しいという問題を生じる。これに対して、放熱フィンは、熱伝導性の高い金属(例えば、アルミニウム)を用いた柱状あるいは平板状の突出部位を数多く形成することによって表面積を大きくして放熱性をより高めることのできる簡易な部材であるため、放熱部品として汎用的に用いられている(特許文献1を参照)。
【0004】
ところで、現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国、日本においても、電気自動車の普及が進んでいる。電気自動車の普及には、高性能バッテリーの開発の他、多数の充電スタンドの設置などが必要となる。特に、リチウム系の自動車用バッテリーの充放電機能を高めるための技術開発が必要である。上記自動車バッテリーは、摂氏60度以上の高温下では充放電の機能を十分に発揮できないことが良く知られている。このため、先に説明した回路基板と同様、バッテリーにおいても、放熱性を高めることが重要視されている。
【0005】
バッテリーの速やかな放熱を実現するには、アルミニウム等の熱伝導性に優れた金属製の筐体に水冷パイプを配置し、当該筐体にバッテリーセルを多数配置し、バッテリーセルと筐体の底面との間に密着性のゴムシートを挟んだ構造が採用されている。このような構造のバッテリーでは、バッテリーセルは、ゴムシートを通じて筐体に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のような従来のバッテリーにおいて、ゴムシートは、アルミニウムやグラファイトと比べて熱伝導性が低いため、バッテリーセルから筐体に効率よく熱を移動させることが難しい。また、ゴムシートに代えてグラファイト等のスペーサを挟む方法も考えられるが、複数のバッテリーセルの下面が平らではなく段差を有することから、バッテリーセルとスペーサとの間に隙間が生じ、伝熱効率が低下する。かかる一例にもみられるように、バッテリーセルは種々の形態(段差等の凹凸あるいは表面状態を含む)をとり得ることから、バッテリーセルの種々の形態に順応可能であって高い伝熱効率を実現することの要望が高まっている。さらには、バッテリーセルの容器の材質をより軽量で弾性変形することが要望されており、バッテリーセルの軽量化やバッテリーセルを除去したときに元の形状に近い形状に戻る放熱構造体が望まれている。
【0008】
上記課題に鑑みて、本願に先立ち、本出願人は、以下の構成を有する放熱構造体を開発し、特許出願(特願2018-218082)およびそれをパリ条約優先権の基礎とする国際出願(PCT/JP2019/042192)を行った。
熱源からの放熱を高める複数の放熱部材が連結された放熱構造体であって、
前記放熱部材は、
前記熱源からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シートと、
前記熱伝導シートの環状裏面に備えられ、前記熱伝導シートに比べて前記熱源の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材と、
前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路と、
を備え、
前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材により連結されている放熱構造体。
上記放熱構造体において、スパイラル状に巻回されている熱伝導シート同士の隙間には、熱伝導性の低い空気が存在する。放熱構造体のさらなる高い熱伝導性を実現するには、当該空気を低減すると同時に、熱伝導シート自体の変形容易性を維持するのが好ましい。これは、バッテリーセルのみならず、回路基板、電子部品あるいは電子機器本体のような他の熱源にも通じる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱源の種々の形態に順応可能であって、軽量で、弾性変形性に富み、かつ放熱効率に優れる放熱構造体、および当該放熱構造体を備えるバッテリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る放熱構造体は、熱源からの放熱を高める複数の放熱部材が連結された放熱構造体であって、
前記放熱部材は、
前記熱源からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シートと、
前記熱伝導シートの環状裏面に備えられ、前記熱伝導シートに比べて前記熱源の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材と、
前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路と、
を備え、
前記熱伝導シートは、スパイラル状に巻回している前記熱伝導シート同士の隙間に、伸縮可能なゴム部材を有し、
前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材により連結されている。
(2)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記ゴム部材は、前記ゴム部材よりも熱伝導性の高いフィラーを含んでも良い。
(3)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記クッション部材は、その長さ方向に前記貫通路を有する筒状クッション部材であって、前記熱伝導シートは、前記筒状クッション部材の外側面をスパイラル状に巻回していても良い。
(4)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記クッション部材は、前記熱伝導シートの前記環状裏面に沿ってスパイラル状に巻回しているスパイラル状クッション部材であっても良い。
(5)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記連結部材は、糸で構成されており、前記複数の放熱部材の間に、撚りが加えられた撚り部を備え、前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に前記糸で連結されていても良い。
(6)別の実施形態に係る放熱構造体は、好ましくは、前記放熱部材の長さ方向の両端の内の少なくとも一端側を固定するシートを、さらに備えても良い。
(7)一実施形態に係るバッテリーは、冷却媒体を流す構造を持つ筐体内に、1または2以上の熱源としてのバッテリーセルを備えたバッテリーであって、前記バッテリーセルと前記筐体との間に、上述のいずれかの放熱構造体を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱源の種々の形態に順応可能であって、軽量で、弾性変形性に富み、かつ放熱効率に優れる放熱構造体、および当該放熱構造体を備えるバッテリーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る放熱構造体の平面図、右側面図、各図における一部Aおよび一部Bをそれぞれ拡大した拡大図を示す。
【
図2】
図2は、
図1のC-C線断面図の一部および
図1の放熱構造体の平面から裏面に向けて圧縮した際の当該断面図における一部Dの変化の拡大図を示す。
【
図3】
図3は、
図1の放熱部材を構成するスパイラル状の熱伝導シートがそのスパイラルの進行方向に伸縮したときの状態を示す。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る放熱構造体の平面図、右側面図、各図における一部Aおよび一部Bをそれぞれ拡大した拡大図を示す。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る放熱構造体の製造方法の一部を説明するための図を示す。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る放熱構造体の製造方法の一部を説明するための図を示す。
【
図7】
図7は、実施形態に係るバッテリーの縦断面図および放熱構造体上にバッテリーを載置した際の一部Eの変化の拡大図を示す。
【
図8】
図8は、放熱構造体の上に、バッテリーセルの側面を接触させるように横置きにしたときの断面図、その一部Fの拡大図および充放電時にバッテリーセルが膨張した際の一部Fの断面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
1.放熱構造体
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る放熱構造体の平面図、右側面図、各図における一部Aおよび一部Bをそれぞれ拡大した拡大図を示す。
図2は、
図1のC-C線断面図の一部および
図1の放熱構造体の平面から裏面に向けて圧縮した際の当該断面図における一部Dの変化の拡大図を示す。
【0015】
放熱構造体10は、熱源からの放熱を高める複数の放熱部材28が連結された構造体である。放熱部材28は、熱源からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シート30と、熱伝導シート30の環状裏面に備えられていて熱伝導シート30に比べて熱源の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材31と、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路32と、を備える。熱伝導シート30は、スパイラル状に巻回している熱伝導シート30同士の隙間に、伸縮可能なゴム部材34を、さらに有する。複数の放熱部材28は、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材35により連結されている。ここでは、熱伝導シート30は、好ましくは、クッション部材31に比べて熱伝導性に優れる材料からなる。クッション部材31は、好ましくは、その長さ方向に貫通路32を有する筒状クッション部材である。熱伝導シート30は、当該筒状クッション部材の外側面をスパイラル状に巻回している。放熱構造体10を構成する複数の放熱部材28は、熱源を載置していない状態では略円筒形状を有しているが、熱源を載置するとその重さで圧縮され扁平した形態になる(
図2参照)。
【0016】
(1)熱伝導シート
熱伝導シート30は、放熱部材28の外側面をスパイラル状に巻回しながら略円筒の長さ方向に進行する帯状のシートである。熱伝導シート30は、特に材料の制約は無いシートである。熱伝導シート30は、好ましくは、金属、炭素若しくはセラミックスの少なくとも1つを含むシートであって熱源からの熱を冷却側へと伝導させる機能を有する。以下、熱伝導シート30について詳述する。
【0017】
熱伝導シート30は、好ましくは炭素を含むシートであり、さらに好ましくは炭素フィラーと樹脂とを含むシートである。樹脂を合成繊維とすることもでき、その場合には、好適に、アラミド繊維を用いることもできる。本願でいう「炭素」は、グラファイト、グラファイトより結晶性の低いカーボンブラック、膨張黒鉛、ダイヤモンド、ダイヤモンドに近い構造を持つダイヤモンドライクカーボン等の炭素(元素記号:C)から成る如何なる構造のものも含むように広義に解釈される。熱伝導シート30は、この実施形態では、樹脂に、グラファイト繊維やカーボン粒子を配合分散した材料を硬化させた薄いシートとすることができる。熱伝導シート30は、メッシュ状に編んだカーボンファイバーであっても良く、さらには混紡してあっても混編みしてあっても良い。なお、グラファイト繊維、カーボン粒子あるいはカーボンファイバーといった各種フィラーも、すべて、炭素フィラーの概念に含まれる。
【0018】
熱伝導シート30に樹脂を含む場合には、当該樹脂が熱伝導シート30の全質量に対して50質量%を超えていても、あるいは50質量%以下であっても良い。すなわち、熱伝導シート30は、熱伝導に大きな支障が無い限り、樹脂を主材とするか否かを問わない。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を好適に使用できる。熱可塑性樹脂としては、熱源からの熱を伝導する際に溶融しない程度の高融点を備える樹脂が好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド(アラミド繊維)等を好適に挙げることができる。樹脂は、熱伝導シート30の成形前の状態において、炭素フィラーの隙間に、例えば粒子状あるいは繊維状に分散している。熱伝導シート30は、炭素フィラー、樹脂の他、熱伝導をより高めるためのフィラーとして、Al2O3、AlNあるいはダイヤモンドを分散していても良い。また、樹脂に代えて、樹脂よりも柔軟なエラストマーを用いても良い。熱伝導シート30は、また、上述のような炭素に代えて若しくは炭素と共に、金属および/またはセラミックスを含むシートとすることができる。金属としては、アルミニウム、銅、それらの内の少なくとも1つを含む合金などの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。また、セラミックスとしては、Al2O3、AlN、cBN、hBNなどの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。
【0019】
熱伝導シート30は、導電性に優れるか否かは問わない。熱伝導シート30の熱伝導率は、好ましくは10W/mK以上である。この実施形態では、熱伝導シート30は、好ましくは、グラファイト、アルミニウム、アルミニウム合金、銅あるいはステンレススチールの帯状の板であり、熱伝導性と導電性に優れる材料から成る。熱伝導シート30は、湾曲性(若しくは屈曲性)に優れるシートであるのが好ましく、その厚さに制約はないが、0.02~3mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましい。ただし、熱伝導シート30の熱伝導率は、その厚さが増加するほど低下するため、シートの強度、可撓性および熱伝導性を総合的に考慮して、その厚さを決定するのが好ましい。
【0020】
(2)クッション部材
クッション部材31の重要な機能は変形容易性と回復力である。回復力は、弾性変形性による。変形容易性は、熱源の形状に追従するために必要な特性であり、特にリチウムイオンバッテリーなどの半固形物、液体的性状も持つ内容物などを変形しやすいパッケージに収めてあるようなバッテリーセルを熱源とする場合には、設計寸法的にも不定形または寸法精度があげられない場合が多い。このため、クッション部材31の変形容易性や追従力を保持するための回復力の保持は重要である。
【0021】
クッション部材31は、この実施形態では貫通路32を備える筒状クッション部材である。クッション部材31は、熱源の下端部が平坦でない場合でも、熱伝導シート30と当該下端部との接触を良好にする。さらに、貫通路32は、クッション部材31の変形を容易にし、加えて放熱構造体10の軽量化に寄与し、また、熱伝導シート30と熱源の下端部との接触を高める機能を有する。クッション部材31は、熱源と冷却側の部材との間にあってクッション性を発揮させる機能の他に、熱伝導シート30に加わる荷重によって熱伝導シート30が破損等しないようにする保護部材としての機能も有する。この実施形態では、クッション部材31は、熱伝導シート30に比べて低熱伝導性の部材である。
【0022】
クッション部材31は、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。クッション部材31は、熱伝導シート30を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、クッション部材31は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。クッション部材31は、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴム中にAl2O3、AlN、cBN、hBN、ダイヤモンドの粒子等に代表されるフィラーを分散して構成されていても良い。クッション部材31は、その内部に気泡を含むものの他、気泡を含まないものでも良い。また、「クッション部材」は、柔軟性に富み、熱源の表面に密着可能に弾性変形可能な部材を意味し、かかる意味では「ゴム状弾性体」と読み替えることもできる。さらに、クッション部材31の変形例としては、上記ゴム状弾性体ではなく、金属を用いて構成することもできる。例えば、クッション部材は、バネ鋼で構成することも可能である。さらに、クッション部材として、コイルバネを配置することも可能である。また、スパイラル状に巻いた金属をバネ鋼にしてクッション部材として熱伝導シート30の環状裏面に配置しても良い。
【0023】
(3)ゴム部材
ゴム部材34は、熱伝導シート30同士の隙間にあって、伸縮可能な部材である。ゴム部材34は、クッション部材31の外側面をスパイラル状に巻回された熱伝導シート30同士の隙間を埋めている略スパイラル状の部材である。ゴム部材34は、クッション部材31の材料候補と同じ候補の材料にて構成されても良い。ゴム部材34は、空気より熱伝導性が高いため、そのままでも良いが、好ましくはゴム部材34よりも熱伝導性の高いフィラーを含めることができる。当該フィラーは、粒子状、繊維状、ウィスカー状など如何なる形態を有していても良い。当該フィラーの例示的材料は、Al2O3、AlN、cBN、hBN、グラファイトあるいはダイヤモンドである。ゴム部材34は、クッション部材31と一体であっても、別体であっても良い。また、ゴム部材34は、上述の通り、クッション部材31と同一の候補の材料で構成されていても良いが、好ましくは、クッション部材31より柔軟な材料で構成される。ゴム部材34をクッション部材31より柔軟な材料で構成することにより、放熱部材28全体の変形を妨げることなく、熱伝導シート30を割れにくくすることが可能となる。
【0024】
(4)連結部材
連結部材35は、例えば、糸やゴム等、少なくとも複数の放熱部材28の間に位置する部分が変形自在な材料で構成された部材である。本実施形態において、連結部材35は、糸で構成されることが好ましく、熱源からの放熱による温度上昇に耐え得る糸であることがより好ましい。より具体的には、連結部材35は、120℃程度の高温に耐え得る糸であって、天然繊維、合成繊維、カーボン繊維、金属繊維等の繊維からなる撚糸で構成されることが好ましい。また、連結部材35は、好ましくは、複数の放熱部材28の間に、撚りが加えられた撚り部37を備える(
図1参照)。放熱構造体10は、放熱部材28が熱源により圧縮されて扁平になっても、放熱部材28の変形に追従して連結部材35が撓むため、熱源の表面に追従・密着することができる。また、放熱構造体10は、複数の放熱部材28の間に撚り部37を備えることにより、熱源の表面への追従・密着性をより高めることができる。なお、連結部材35は、必ずしも、撚り部37を有していなくても良い。
【0025】
放熱部材28同士の隙間L1は、放熱部材28が熱源からの押圧を受けて潰れる際に、狭くなる。放熱部材28がほとんど潰れない場合には、熱伝導シート30と熱源および冷却側の部材との密着性が低くなる可能性がある。かかるリスクを低減するのに適切な放熱部材28の上下方向、すなわち熱源の底から冷却側の部材に向かう垂線方向に圧縮されたときの厚みは、少なくとも、放熱部材28の管径(=円換算直径:D)の80%である。ここで、「円換算直径」とは、放熱部材28をその長さ方向と垂直に切断したときの管断面の面積と同じ面積の真円の直径を意味する。放熱部材28が真円の断面をもった円筒の場合には、その直径は円換算直径と同一である。放熱部材28は、上記の圧縮を受けると、熱源および冷却側の部材と接する面を平面とし、放熱部材28間の隙間L1の方向を略円弧断面とするように変形するとみなすことができる(
図2参照)。放熱部材28が円換算直径Dの80%に相当する0.8Dの厚さに潰れた場合、放熱部材28がどの程度、隙間L1の方向に拡がるかを計算する。潰れた放熱部材28において、その左右方向に存在する半円弧の長さの総長は、0.8πDである。また、底部12に接する平面の長さは、放熱部材28の管円周から、上記の半円弧の長さの総長を差し引いた長さの半分であるから、(πD-0.8πD)/2=0.314Dである。平面の左右方向に拡張した円弧部分の長さは、0.4D×2=0.8Dである。したがって、潰れた放熱部材28が元の放熱部材28から隙間L1の方向に拡がった距離は、0.314D+0.8D-D=0.114Dとなる。隙間L1を十分に大きくすれば、放熱部材28は隣の放熱部材28と接触しない。逆に、隙間L1が小さすぎると、放熱部材28が上下方向に圧縮されても、隣の放熱部材28に接触して、それ以上に潰れなくなる可能性がある。隙間L1を放熱部材28の円換算直径Dの11.4%以上にすれば、放熱部材28が円換算直径Dの80%の厚さに圧縮されて変形する際に、放熱部材28同士が接触して、当該変形の障害となることを防止できる。なお、この実施形態では、隙間L1を0.6Dとしている。
【0026】
(5)熱伝導性オイル
熱伝導性オイルは、好ましくは、シリコーンオイルと、シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。熱伝導シート30は、微視的に、隙間(孔あるいは凹部)を有する。通常、当該隙間には空気が存在し、熱伝導性に悪影響を及ぼす可能性が有る。熱伝導性オイルは、その隙間を埋めて、空気に代わって存在することになり、熱伝導シート30の熱伝導性を向上させる機能を有する。
【0027】
熱伝導性オイルは、熱伝導シート30の表面、少なくとも熱源と熱伝導シート30とが接触する面に備えられている。本願において、熱伝導性オイルの「オイル」は、非水溶性の常温(20~25℃の範囲の任意の温度)で液状若しくは半固形状の可燃物質をいう。「オイル」という文言に代え、「グリース」あるいは「ワックス」を用いることもできる。熱伝導性オイルは、熱源から熱伝導シート30に熱を伝える際に熱伝導の障害にならない性質のオイルである。熱伝導性オイルには、炭化水素系のオイル、シリコーンオイルを用いることができる。熱伝導性オイルは、好ましくは、シリコーンオイルと、シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。
【0028】
シリコーンオイルは、好ましくは、シロキサン結合が2000以下の直鎖構造の分子から成る。シリコーンオイルは、ストレートシリコーンオイルと、変性シリコーンオイルとに大別される。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルを例示できる。変性シリコーンオイルとしては、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルを例示できる。反応性シリコーンオイルは、例えば、アミノ変性タイプ、エポキシ変性タイプ、カルボキシ変性タイプ、カルビノール変性タイプ、メタクリル変性タイプ、メルカプト変性タイプ、フェノール変性タイプ等の各種シリコーンオイルを含む。非反応性シリコーンオイルは、ポリエーテル変性タイプ、メチルスチリル変性タイプ、アルキル変性タイプ、高級脂肪酸エステル変性タイプ、親水性特殊変性タイプ、高級脂肪酸含有タイプ、フッ素変性タイプ等の各種シリコーンオイルを含む。シリコーンオイルは、耐熱性、耐寒性、粘度安定性、熱伝導性に優れたオイルであるため、熱伝導シート30の表面に塗布して、熱源と熱伝導シート30との間に介在させる熱伝導性オイルとして特に好適である。
【0029】
熱伝導性オイルは、好ましくは、油分以外に、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーを含む。金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、ベリリウム、タングステンなどを例示できる。セラミックスとしては、アルミナ、窒化アルミニウム、キュービック窒化ホウ素、ヘキサゴナル窒化ホウ素などを例示できる。炭素としては、ダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブなどを例示できる。
【0030】
熱伝導性オイルは、熱源と熱伝導シート30との間に介在する他、熱伝導シート30と冷却側の部材との間に介在する方が好ましい。熱伝導性オイルは、熱伝導シート30の全面に塗布されていても、熱伝導シート30の一部分に塗布されていても良い。熱伝導性オイルを熱伝導シート30に存在させる方法は、特に制約されることなく、スプレーを用いた噴霧、刷毛等を用いた塗布、熱伝導性オイル中への熱伝導シート30の浸漬など、如何なる方法によるものでも良い。なお、熱伝導性オイルは、放熱構造体10あるいは後述のバッテリーにとって必須の構成ではなく、好適に備えることのできる追加的な構成である。これは、第2実施形態以降でも同様である。
【0031】
図3は、
図1の放熱部材を構成するスパイラル状の熱伝導シートがそのスパイラルの進行方向に伸縮したときの状態を示す。
【0032】
放熱部材28上に何らの加重もかかっていない状態(図中のaの状態)から、荷重のかかった状態(図中のbの状態)になると、熱伝導シート30を巻回したときの隙間が広がる。一方、熱伝導シート30がその長さ方向を短くする方向に圧縮された状態(図中のcの状態)では、隙間が縮まる。当該隙間にはゴム部材34が存在するため、熱伝導シート30を巻回した領域全体の熱伝導性は、ゴム部材34が存在しないときに比べて高くなる。なお、熱伝導シート30の隙間を生じないように、クッション部材31の外側面全体を熱伝導シート30にて完全に被覆することも考えられる。この場合には、熱伝導性の点では問題は無い。しかし、熱源にて放熱部材28を圧縮した際に、熱伝導シート30の変形が難しく、熱伝導シート30の破損、断裂などが生じる可能性が高くなる。このため、帯状の熱伝導シート30をスパイラル状に巻回し、かつ熱伝導シート30同士のスパイラル状の隙間に、空気より熱伝導性の高い材料であって伸縮容易なゴム部材34を備えている。
【0033】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る放熱構造体について説明する。第1実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0034】
図4は、第2実施形態に係る放熱構造体の平面図、右側面図、各図における一部Aおよび一部Bをそれぞれ拡大した拡大図を示す。
【0035】
第2実施形態に係る放熱構造体10aは、第1実施形態に係る放熱構造体10と異なり、放熱部材28の長さ方向の両端を固定するシート39を、さらに備えている。なお、シート39は、放熱部材28の長さ方向の両端ではなく、少なくとも一端側を固定していても良い。本実施形態において、連結部材35は、糸で構成されることが好ましく、熱源からの放熱による温度上昇に耐え得る糸であることがより好ましい。連結部材35は、好ましくは、ミシン等を用いて複数の放熱部材28を縫い付ける部材である。連結部材35の縫い方は、特に限定されず、手縫い、本縫い、千鳥縫い、単環縫い、二重環縫い、縁かがり縫い、扁平縫い、安全縫い、オーバーロック等の如何なる縫い方でも良い。また、JIS L 0120の規定する表示記号によれば、好適な縫い方として、「101」、「209」、「301」、「304」、「401」、「406」、「407」、「410」、「501」、「502」、「503」、「504」、「505」、「509」、「512」、「514」、「602」および「605」の各種縫い目を構成する縫い方を例示できる。なお、連結部材35は、第1実施形態に係る連結部材35と異なり、複数の放熱部材28の間に撚り部37を備えていない。
【0036】
放熱構造体10は、第1実施形態と同様の製造方法により製造された複数の放熱部材28を、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並べた状態で、シート39間をブリッジする形で配置され、連結部材35でシートに固定されて製造される。より具体的には、放熱構造体10は、複数の放熱部材28を並べた状態で、ミシン等を用いて糸でシート39に縫い付けることにより連結される。
【0037】
なお、熱伝導シート30、クッション部材31およびゴム部材34については、第1実施形態にて説明した通りである。
【0038】
2.放熱構造体の製造方法
次に、放熱構造体の製造方法について説明する。
(第1実施形態)
図5は、第1実施形態に係る放熱構造体の製造方法の一部を説明するための図を示す。
【0039】
まず、クッション部材31を成形する。次に、帯状の熱伝導シート30をクッション部材31の外側面にスパイラル状に巻く。このとき、クッション部材31が完全には硬化していない未硬化状態で、熱伝導シート30をクッション部材31の外側面に巻き、その後、加温によりクッション部材31を完全に硬化させることができる。次に、帯状の熱伝導シート30のクッション部材31の両端からはみ出した部分があればカットする。次に、熱伝導シート30同士の隙間に、硬化後にゴム部材34となる硬化性ゴム組成物を供する。次に、硬化性ゴム組成物を硬化すると、当該隙間にゴム部材34が形成される。最後に、オプションとして、熱伝導シート30の表面に熱伝導性オイルを塗布する。
【0040】
熱伝導シート30のクッション部材31の両端からはみ出した部分をカットする工程および熱伝導性オイルを塗布する工程は、上述のタイミングで行うことに限定されず、少なくともクッション部材31に熱伝導シート30を巻いた後であれば、いつ行ってもよい。また、熱伝導シート30は、クッション部材31を完全に硬化させた状態で、その外側面に巻いてもよい。この場合、クッション部材31の外側面が粘着性を有していなければ、接着剤等を使用して熱伝導シート30をクッション部材31に固定してもよい。
【0041】
放熱構造体10は、上述の製造方法により製造された複数の放熱部材28を、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並べた状態で、連結部材35で連結することにより製造される。より具体的には、放熱構造体10は、複数の放熱部材28を並べた状態で、手縫いで、若しくはミシンを用いて、糸を縫い付けることにより連結される。また、シート39に複数の放熱部材28を連結部材35にて固定して放熱構造体10aを製造しても良い(
図4参照)。
【0042】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態に係る放熱構造体の製造方法の一部を説明するための図を示す。
【0043】
前述の放熱構造体10,10aは、放熱部材28と異なる形態の放熱部材28aを連結部材35により複数連結しても良い。放熱部材28aは、クッション部材31を、筒状クッション部材とせずに、熱伝導シート30の裏側に備えられる帯状のクッション部材であって熱伝導シート30と共にスパイラル状に巻回されているスパイラル状のクッション部材とする。
【0044】
上述のスパイラル状のクッション部材31(「スパイラル状クッション部材」ともいう)を備える放熱構造体10,10aの製造方法の一例は、次の通りである。
【0045】
まず、略同等の幅を持つ熱伝導シート30およびクッション部材31の二層からなる積層体40を製造する。次に、積層体40をスパイラル状に巻く。次に、スパイラル状に巻回された積層体40の少なくとも熱伝導シート30間の隙間に、ゴム部材34を存在せしめる。ゴム部材34は、熱伝導シート30間のみならず、クッション部材31間に存在していても良い。ゴム部材34の形成方法は、第1実施形態に係る放熱構造体の製造方法にて説明した方法と同様である。ゴム部材34の形成後、オプションとして、熱伝導シート30の表面に、熱伝導性オイルを塗布する。こうして、積層体40をスパイラル状に巻回した細長い形状の放熱部材28aが完成する。なお、熱伝導性オイルは、積層体40を製造する前に熱伝導シート30上に塗布しても良いし、ゴム部材34の形成前に熱伝導シート30上に塗布しても良い。また、積層体40は、クッション部材31が完全には硬化していない未硬化状態で、熱伝導シート30をクッション部材31に積層し、その後、加温によりクッション部材31を完全に硬化させて形成されても良い。
【0046】
放熱構造体10,10aは、複数の放熱部材28aを、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並べた状態で、連結部材35で連結することにより製造される。なお、複数の放熱部材28aを連結部材35で連結する方法は、第1実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、放熱部材28aは、その長さ方向に貫通する貫通路32を備えている。
【0047】
3.バッテリー
次に、バッテリーについて説明する。
図7は、実施形態に係るバッテリーの縦断面図および放熱構造体上にバッテリーを載置した際の一部Eの変化の拡大図を示す。
【0048】
この実施形態に係るバッテリー50は、例えば、電気自動車用のバッテリーであって、多数のバッテリーセル(単に、セルと称しても良い。)60を備える。バッテリーセル60は、上述の熱源の一例である。バッテリー50は、一方に開口する有底型の筐体51を備える。筐体51は、好ましくは、アルミニウム若しくはアルミニウム基合金から成る。バッテリーセル60は、筐体51の内部54に配置される。バッテリーセル60の上方には、電極が突出して設けられている。複数のバッテリーセル60は、好ましくは、筐体51内において、その両側からネジ等を利用して圧縮する方向に力を与えられて、互いに密着するようになっている(不図示)。筐体51の底部52には、冷却媒体55の一例である冷却水を流すために、1または複数の水冷パイプ53が備えられている。底部52は、上述の冷却側の部材の一例である。なお、冷却媒体は、冷却部材あるいは冷却剤と称しても良い。バッテリーセル60は、底部52との間に、放熱構造体10を挟むようにして筐体51内に配置されている。一部Eの拡大図に示すように、バッテリーセル50からの加重を受けて、放熱構造体10は、その厚さ方向に圧縮され扁平化する。このような構造のバッテリー50では、バッテリーセル60は、放熱構造体10を通じて筐体51に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。なお、冷却媒体55は、冷却水に限定されず、液体窒素、エタノール等の有機溶剤も含むように解釈される。冷却媒体55は、冷却に用いられる状況下にて、液体であるとは限らず、気体あるいは固体でも良い。
【0049】
放熱構造体10は、複数の放熱部材28または放熱部材28aを連結している。放熱部材28,28aは、バッテリーセル60からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シート30と、熱伝導シート30の環状裏面に備えられていて熱伝導シート30に比べてバッテリーセル20の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材31と、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路32と、スパイラル状に巻回している熱伝導シート30同士の隙間に存在する伸縮可能なゴム部材34と、を備える。複数の放熱部材28,28aは、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材35により連結されている。放熱構造体10に代えて、放熱構造体10aをバッテリー50に備えることもできる。バッテリー50をこのように構成することによって、バッテリーセル60の種々の形態に順応可能であって、放熱効率に優れた放熱構造体10,10aを備えるバッテリーとなる。また、放熱構造体10,10aは、貫通路32に起因してより軽量になる。
【0050】
4.その他の実施形態
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0051】
図8は、放熱構造体の上に、バッテリーセルの側面を接触させるように横置きにしたときの断面図、その一部Fの拡大図および充放電時にバッテリーセルが膨張した際の一部Fの断面図をそれぞれ示す。
図8では、連結部材35を省略している。
【0052】
先述の各実施形態では、バッテリーセル60を縦にしてその下端に放熱構造体10,10aを接触せしめている状況について説明したが、バッテリーセル60の配置形態は、これに限定されない。
図8に示すように、バッテリーセル60aの側面を放熱構造体10の各放熱部材28に接触させるように、バッテリーセル60aを配置しても良い。バッテリーセル60aは、充電および放電の際に温度上昇する。バッテリーセル60aの容器自体が柔軟性に富む材料にて形成されていると、バッテリーセル60aの特に側面が膨らむ可能性がある。そのような場合でも、
図8に示すように、放熱構造体10を構成している各放熱部材28がバッテリーセル60aの外面の形状に合わせて変形できるので、充放電時にも放熱性を高く維持できる。なお、
図8に示す放熱構造体10に代えて、放熱構造体10aを用いて、放熱構造体10aの上にバッテリーセル60aの側面を接触させても良い。
【0053】
熱源は、バッテリーセル60,60aのみならず、回路基板や電子機器本体などの熱を発する対象物を全て含む。例えば、熱源は、キャパシタおよびICチップ等の電子部品であっても良い。同様に、冷却媒体55は、冷却用の水のみならず、有機溶剤、液体窒素、冷却用の気体であっても良い。また、放熱構造体10,10aは、バッテリー50以外の構造物、例えば、電子機器、家電、発電装置等に配置されていても良い。
【0054】
また、放熱部材28aにおけるスパイラル状のクッション部材31は、熱伝導シート30の幅と同一に限定されず、熱伝導シート30の幅に対して大きくても、あるいは小さくても良い。
【0055】
また、上述の各実施形態の複数の構成要素は、互いに組み合わせ不可能な場合を除いて、自由に組み合わせ可能である。例えば、放熱部材28aをシート39に固定した放熱構造体10aをバッテリー50に搭載しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る放熱構造体は、例えば、自動車用バッテリーの他、自動車、工業用ロボット、発電装置、PC、家庭用電化製品などの各種電子機器にも利用することができる。また、本発明に係るバッテリーは、自動車用のバッテリー以外に、家庭用の充放電可能なバッテリー、PC等の電子機器用のバッテリーにも利用できる。
【符号の説明】
【0057】
10,10a・・・放熱構造体、28,28a・・・放熱部材、30・・・熱伝導シート、31・・・クッション部材(筒状クッション部材およびスパイラル状クッション部材を含む)、32・・・貫通路、34・・・ゴム部材、35・・・連結部材、37・・・撚り部、39・・・シート、40・・・積層体、50・・・バッテリー、51・・・筐体、52・・・底部(冷却側の部材の一例)、55・・・冷却媒体、60,60a・・・バッテリーセル(熱源の一例)。