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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/00 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
B24B27/00 Z
B24B27/00 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020080343
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021171902
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯田 成司
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 誠
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-128355(JP,U)
【文献】特開平07-213976(JP,A)
【文献】特開2005-059112(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0216301(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 23/00、27/00
B25F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨対象物に研磨部を接触させて研磨する研磨機と、
前記研磨機の上方に配置され作業者が立ち姿勢で把持可能な把持部と、を備え、
前記研磨機には、前記研磨対象物に接する前記研磨部の接触部を作用点とし前記把持部を力点とした場合に回転中心となる支点部が設けられ、
前記把持部が前記支点部を中心に傾動することに連動して前記研磨機が傾動することにより、前記研磨部が前記研磨対象物に対して接触または離間し、
前記研磨機には、作業者が踏み掛けることにより前記研磨部を前記研磨対象物に押し付けるための踏掛部が設けられる、
研磨装置。
【請求項2】
前記支点部と前記接触部との間の第1距離よりも前記支点部と前記把持部との間の第2距離の方が長い、
請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記支点部と前記接触部とを結んだ第1直線と前記支点部と前記把持部とを結んだ第2直線との内角は、90°以下である、
請求項1または2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記研磨機には、前記研磨装置を移動させるための車輪が設けられ、
前記支点部は、前記車輪の回転中心である、
請求項1から3の何れか1つに記載の研磨装置。
【請求項5】
前記踏掛部は、複数の貫通孔が設けられた板状部材により形成される、
請求項1から4の何れか1つに記載の研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円盤状の研磨部を有する手持ち型の研磨装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-028516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の研磨装置は、作業者により直接把持された状態で使用されることから、例えば、地面に敷設された鉄板等の表面を研磨する際、作業者はかがんだ状態で研磨作業を行うことになる。このようにかがんだ状態で研磨装置を鉄板等へ押し付け続ける研磨作業は、作業者の腰等への負担が大きいという問題がある。
【0005】
本発明は、研磨作業を行う作業者の負担を軽減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、研磨装置であって、研磨対象物に研磨部を接触させて研磨する研磨機と、前記研磨機の上方に配置され作業者が立ち姿勢で把持可能な把持部と、を備え、前記研磨機には、前記研磨対象物に接する前記研磨部の接触部を作用点とし前記把持部を力点とした場合に回転中心となる支点部が設けられ、前記把持部が前記支点部を中心に傾動することに連動して前記研磨機が傾動することにより、前記研磨部が前記研磨対象物に対して接触または離間し、前記研磨機には、作業者が踏み掛けることにより前記研磨部を前記研磨対象物に押し付けるための踏掛部が設けられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、研磨作業を行う作業者の負担を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る研磨装置を左側方から見た左側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る研磨装置を正面から見た正面図である。
図3】本発明の実施形態に係る研磨装置による研磨作業を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る研磨装置100について説明する。
【0010】
研磨装置100は、地面または建築物内に敷設された鉄板や鋼材等の研磨対象物の表面に生じた錆や溶接痕を研磨除去する研磨作業を行う際に用いられるものであり、特に本発明の実施形態に係る研磨装置100は、この研磨作業を作業者が立ち姿勢のままで行うことを可能とするものである。
【0011】
まず、図1及び図2を参照して、研磨装置100の構成について説明する。図1は、地面1に置かれた研磨装置100を左側方から見た左側面図であり、図2は、地面1に置かれた研磨装置100を正面から見た正面図である。
【0012】
図1及び図2に示すように、研磨装置100は、研磨対象物に回転する研磨部12を接触させて研磨する研磨機としてのグラインダ10と、グラインダ10の上方に配置され作業者が立ち姿勢で把持可能な把持部30と、グラインダ10から上方に向かって延びグラインダ10と把持部30とを連結する連結部40と、を備える。
【0013】
グラインダ10は、空気圧式のディスクグラインダであり、図示しないエアモータが内蔵される本体部11と、本体部11の一端側に設けられ、エアモータにより回転駆動される研磨部12と、本体部11の他端側に設けられ、エアモータへと圧縮空気を供給する供給管が接続される接続部13と、後述の一対の車輪24及び踏掛部50を接続部13に取り付けるためのアタッチメント20と、を有する。
【0014】
研磨部12は、円盤状の研磨材であり、その回転中心C2が、円柱状の本体部11の中心軸C1と直交するように、本体部11に設けられている。なお、本体部11の中心軸C1は、エアモータの回転中心とほぼ同軸であり、研磨部12は、エアモータの駆動軸と直交しエアモータの回転が伝達される図示しない回転軸を有する。
【0015】
アタッチメント20は、接続部13の外周面に取り付けられるクランプ22と、クランプ22が固定される板材21と、を有する。板材21は、本体部11の中心軸C1に直交する方向に沿って設けられたL形鋼であり、中心軸C1に対して平行に配される一方の板部には、溶接等によりクランプ22が固定されており、他方の板部には、接続部13との干渉を避けるために切り欠かれた切欠部21aが形成されている。また、一方の板部のクランプ22が固定される面とは反対側の面には、一対の車輪24が取り付けられる。
【0016】
一対の車輪24は、研磨装置100を移動させるために設けられているが、その回転中心C3は、後述の支点部としても機能する。
【0017】
また、アタッチメント20には、一対の車輪24に加えて、作業者が足を踏み掛ける踏掛部50が取り付けられる。踏掛部50は、後述のように、研磨作業時に作業者が足を踏み掛けることによって、グラインダ10の研磨部12を研磨対象物に対して押し付けるために設けられる。このように、グラインダ10には、アタッチメント20を介して、一対の車輪24及び踏掛部50が取り付けられる。
【0018】
踏掛部50は、グラインダ10の中心軸C1と平行に設けられ板材21の両端面21bにそれぞれ接合される一対の第1枠材51と、グラインダ10の本体部11の上方において一対の第1枠材51の端部間を連結する第2枠材52と、一対の第1枠材51及び第2枠材52によって支持される一枚の板状の踏掛板54と、を有する。踏掛部50は、図1に示すように、作業者が足を踏み掛ける踏み掛け面、すなわち、踏掛板54の上面がグラインダ10の中心軸C1に対して傾斜するように、具体的には、踏掛板54に載せられた作業者の足のつま先がグラインダ10の中心軸C1方向よりも上方を向くように、アタッチメント20に取り付けられている。
【0019】
踏掛板54は、略菱形状の切れ目が規則的に複数配されたエキスパンドメタル(板状部材)であり、一対の第1枠材51と第2枠材52とにより形成された枠体上に溶接等により接合されている。また、踏掛板54には、グラインダ10との干渉を避けるために切り欠かれた切欠部54aが形成されている。なお、踏掛板54は、エキスパンドメタルに限定されず、複数の貫通孔が設けられた板状部材であってもよい。また、第1枠材51をL形鋼とすることで、第1枠材51の一方の板部を板材21の端面21bに接合し、第1枠材51の他方の板部を踏掛板としてもよい。
【0020】
把持部30は、図2に示すように、水平方向に延びる棒状部材31と、棒状部材31の外周面を覆う円筒状の一対の緩衝部材32と、からなる。棒状部材31には、一対の緩衝部材32により挟まれた部分において、連結部40を構成する後述の第1連結部41が接合される。
【0021】
緩衝部材32は、スポンジやウレタンといった緩衝材で形成され、その外径の大きさは、作業者が手で把持し易い太さに設定される。この緩衝部材32は、研磨作業時の振動が作業者に伝わることを抑制するとともに、研磨作業時の振動によって作業者の手が滑って把持部30から外れてしまうことを抑制するために設けられる。
【0022】
連結部40は、一端が把持部30の棒状部材31に接合される第1連結部41と、第1連結部41の他端に結合されるグローブバルブ42と、一端がグローブバルブ42を介して第1連結部41に接続され他端が図示しないコネクタを介してグラインダ10の接続部13に接続される第2連結部43と、を有する。
【0023】
第1連結部41及び第2連結部43は、パイプ材により形成され、これらの内部はグラインダ10へ供給される圧縮空気が流れる流路として利用される。第1連結部41の外周面には、エアホースが接続される接続コネクタ41aが取り付けられており、外部に設置されるエアコンプレッサ等の圧縮空気供給源からエアホースを介して供給された圧縮空気は、第1連結部41の内部へと導かれ、さらに、グローブバルブ42及び第2連結部43を通じてグラインダ10へと導かれる。
【0024】
このように、連結部40は、グラインダ10と把持部30とを連結する連結部材として機能するとともに、グラインダ10へと圧縮空気を供給する供給管としても機能している。また、グラインダ10へ供給される圧縮空気の流量は、グローブバルブ42の開度を変更することによって調節され、これにより、研磨部12を回転駆動するエアモータの出力トルクを調節することが可能である。グローブバルブ42は、作業者が研磨作業中に操作し易いように、把持部30寄りに配置される。なお、圧縮空気の流量を調整する流量調整弁は、グローブバルブ42に限定されないが、エアモータの出力トルクを適宜調節するためには、ボールバルブ等の開閉弁よりもグローブバルブ42のように流路面積を徐々に変更可能な弁体の方が好ましい。
【0025】
また、第2連結部43には、図1に示すように、中心軸C1の延長線上に沿って延びる延出部43aと、第1連結部41に向かって上方へと曲げられた2つのベンド部43b,43cと、が接続部13側から順に設けられている。そして、2つのベンド部43b,43cのうち延出部43aに連続して形成される第1ベンド部43bの下方には、研磨装置100を地面1上に留め置く際に地面1に接する接地部60が設けられる。
【0026】
接地部60は、研磨装置100により研磨作業が行われていないとき、すなわち、グラインダ10の研磨部12が研磨対象物から離間した状態となっているときに、車輪24とともに地面1に接することによって、研磨装置100を地面1上に安定して留め置いておくために設けられる。
【0027】
具体的には、接地部60は、車輪24の回転中心C3と平行に配置され、第1ベンド部43bの下方側の外周面に溶接固定された棒状部材であり、図1に示すように、車輪24を挟んで研磨部12とは反対側の位置に設けられる。なお、接地部60は、棒状部材に限定されず、例えば、第1ベンド部43bから下方に向かって突出して設けられた円柱状部材であってもよい。しかしながら、研磨装置100をより安定して留め置くには、接地部60と地面1との接触面積が大きい方がよいことから、接地部60は、図2に示すように、回転中心C3方向においてある程度の長さを有する長尺部材であることが好ましい。
【0028】
車輪24と把持部30との間に設けられ地面1に接触可能な接地部60と、地面1に常時接している車輪24と、の間に研磨装置100の重心が位置していれば、研磨装置100は作業者が触れていない状態であっても地面1上に安定して留め置かれることになる。
【0029】
したがって、接地部60は、研磨装置100の重心位置を考慮し、車輪24から所定の距離だけ離れた位置に配置される。換言すれば、接地部60が固定される第1ベンド部43bの位置は、第2連結部43の延出部43aの長さによって変わることから、延出部43aの長さは、研磨装置100の重心位置を考慮して設定される。
【0030】
なお、接地部60の形態は、上記形態に限定されず、第2連結部43の2つのベンド部43b,43cの間に一端が接合され、他端が地面1に接触可能に形成された棒状部材であってもよいし、第1ベンド部43bではなく後述の一対の支持部材45の下方に接合された棒状部材であってもよい。また、第1ベンド部43bを接地部60として直接地面1に接触させた構成としてもよい。
【0031】
第2連結部43に設けられるベンド部は、略直角に曲げられた第1ベンド部43bと、150°程度の鈍角に曲げられた第2ベンド部43cと、であり、このように第2連結部43に適度に曲げられたベンド部を設け、さらに第1ベンド部43bと第2ベンド部43cとの間の直線部や第2ベンド部43cに連続して形成される直線部43dの長さを適切な長さとすることによって、把持部30を作業者が立ち姿勢のままで把持可能な位置に配置させることができる。
【0032】
なお、ベンド部の数は、2つに限定されず、例えば、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、作業者が立ち姿勢のままで把持部30を把持し易くするには、例えば、図1に示すように、研磨装置100が地面1に留め置かれた状態において、第2連結部43の直線部43dが延びる方向が地面1に対してほぼ垂直な方向となるように第1ベンド部43b及び第2ベンド部43cの角度を設定することが好ましい。
【0033】
また、第2連結部43には、第1ベンド部43bや第2ベンド部43cが形成されるベンド部における強度を補強するために、第1ベンド部43b及び第2ベンド部43cを挟む直線部43dと延出部43aとに架け渡して接合される補強部材44が設けられる。
【0034】
さらに、第2連結部43には、連結部40が一対の車輪24のいずれか一方側へと傾いてしまうこと、つまり、図2の左右のいずれかの方向へと傾いてしまうことを防止するために、連結部40を支える一対の支持部材45が設けられる。
【0035】
このように、補強部材44や支持部材45を設けることで、後述のように研磨作業時に把持部30に荷重が掛かった際に、第1ベンド部43bや第2ベンド部43cにおいて、第2連結部43が折損したり、把持部30が連結部40とともに傾いたりすることを防止することができる。
【0036】
次に、上記構成の研磨装置100による研磨作業について、図3を参酌して説明する。図3は、作業者が上記構成の研磨装置100によって、地面1に敷設された鉄板2の表面を研磨する研磨作業を行っている状態を示している。
【0037】
研磨作業を行うにあたり、まず、作業者は、立ち姿勢のままで把持部30を把持しつつグローブバルブ42を所定量開き、グラインダ10へと圧縮空気を供給する。これにより研磨部12は、エアモータにより回転駆動される。
【0038】
続いて、作業者は、立ち姿勢のままで把持部30を両手で把持し、片足を踏掛部50に載せる。そして、作業者は、鉄板2の研磨すべき箇所に回転駆動される研磨部12の外縁部が接するように、研磨装置100を操作する。
【0039】
ここで、研磨対象物である鉄板2に接する研磨部12の接触部を作用点P1とし、作業者が把持する把持部30を第1の力点P2(力点)とした場合、アタッチメント20を介してグラインダ10に設けられた車輪24の回転中心C3が支点部となり、把持部30(第1の力点P2)を、回転中心C3を中心に作用点P1に向けて傾動させると、これに連動してグラインダ10も回転中心C3を中心に傾動し、結果として、研磨部12が鉄板2に接触することになる。
【0040】
一方、把持部30を、回転中心C3を中心に作用点P1とは反対の方向に傾動させると、グラインダ10もこれに連動して回転中心C3を中心に傾動し、研磨部12は鉄板2から離間することになる。このように、作業者が回転中心C3を中心に把持部30を傾動させることに応じて、研磨部12は鉄板2に対して接触または離間する。
【0041】
したがって、作業者は、研磨装置100によって研磨作業を行う際、研磨すべき箇所に向けて把持部30を、回転中心C3を中心に傾動させて、回転駆動される研磨部12の外縁が鉄板2の研磨すべき箇所に押し付けられるように研磨装置100を操作する。
【0042】
作業者が研磨装置100をこのように操作し続けることにより、鉄板2の研磨すべき箇所にあった溶接痕は回転する研磨部12により徐々に研磨除去される。なお、研磨量を多くしたい場合には、グローブバルブ42をさらに開いてグラインダ10へ供給される圧縮空気の流量を増やし、エアモータの出力を増大させることで研磨部12の回転速度を上昇させる。
【0043】
このように、上記構成の研磨装置100を用いた研磨作業では、作業者は、立ち姿勢のままで把持部30を傾動させるだけで、グラインダ10の研磨部12を研磨対象物に対して接触または離間させることが可能である。したがって、作業者は、かがんだ状態で研磨作業を行う必要がなく、立ち姿勢のままでグラインダ10の研磨部12を研磨対象物へ押し付け続けることができることから、結果として、研磨作業を行う作業者の負担を軽減させることができる。
【0044】
また、図3に示すように、車輪24の回転中心C3(支点部)と作用点P1との間の距離を第1距離L1とし、車輪24の回転中心C3(支点部)と把持部30(力点P)との間の距離を第2距離L2とした場合、第1距離L1より第2距離L2の方が長く設定されている。このように支点部と力点Pとの間の距離を支点部と作用点P1との間の距離よりも長くすることによって、いわゆる梃子の原理により、把持部30を作用点P1に向けて傾動させる力が比較的小さくとも作用点P1において研磨部12は比較的大きな力で鉄板2に押し付けられることになる。
【0045】
さらに、車輪24の回転中心C3(支点部)と作用点P1とを結ぶ第1直線と、車輪24の回転中心C3(支点部)と把持部30(力点P)とを結ぶ第2直線と、の間に形成される内角αは、90°以下に設定されている。このように、支点部と力点Pとを結ぶ第1直線と支点部と作用点P1とを結ぶ第2直線との内角αを90°以下とすることによって、鉄板2に研磨部12が接した状態において、作業者が把持部30(力点P)を作用点P1に向けて押す力の少なくとも一部は、鉛直方向成分、すなわち、下方へと向かう成分となる。このため、作業者は、把持部30に寄り掛かるようにして把持部30を作用点P1に向けて押すことが可能となり、作業者は立ち姿勢のままであっても把持部30に対して力を掛けやすくなる。
【0046】
これにより、作業者は、グラインダ10の本体部11を手で直接把持し、かがんだ状態で鉄板2に研磨部12を主に腕力で押し付け続ける場合と比較し、小さな力で、且つ、立ち姿勢のままでグラインダ10の研磨部12を研磨対象物へ押し付け続けることが可能となる。この結果、研磨作業を行う作業者の腰等を含む体全体への負担を軽減させることができる。また、大きな力を要しないことから体力の消耗が低減されるとともに疲労を感じにくくなることで長時間連続して作業することが可能となり、結果として、研磨作業の作業効率を向上させることができる。
【0047】
また、図3に示すように、鉄板2に研磨部12が接した状態において、踏掛部50は、支点部となる回転中心C3の上方に位置している。このため、踏掛部50に載せられた作業者の片足を介して研磨装置100に作用する踏力の一部は、車輪24を鉄板2に向けて押し付けるように作用し、車輪24の位置、すなわち、回転中心C3(支点部)を所定の位置に固定させることになる。このように回転中心C3(支点部)の位置が固定されることで、作用点P1となる位置、すなわち、研磨部12が鉄板2に接する位置が安定することから、研磨部12を研磨すべき箇所(目標箇所)に接触させ続けることができる。
【0048】
さらに、図3に示すように、鉄板2に研磨部12が接した状態において、踏掛部50は、支点部となる回転中心C3の上方から作用点P1側に向かって延びている。このため、踏掛部50に載せられた作業者の片足を介して研磨装置100に作用する踏力の一部は、回転中心C3(支点部)から水平方向に離れた部分における踏掛部50を、回転中心C3を中心として作用点P1に向けて傾動させる力として作用することとなる。
【0049】
つまり、研磨部12は、作業者が把持部30(第1の力点P2)を押す力だけではなく、踏掛部50上の第2の力点P3に作用する作業者の踏力によっても鉄板2に押し付けられることになる。
【0050】
このように、作業者が踏掛部50を踏み込む力を、研磨部12を研磨対象物に押し付ける力として利用することによって、作業者は、より小さな腕力で研磨部12を研磨対象物へ押し付け続けることが可能となる。
【0051】
なお、作業者が踏掛部50を踏み込む力を、研磨部12を鉄板2に押し付ける力として利用する場合、図3に示すように、鉄板2に研磨部12が接した状態において、作業者が足を踏み掛ける踏掛部50の踏み掛け面、すなわち、踏掛板54の上面と地面1とが成す踏掛角度βが0°よりも大きい所定の大きさとなっていること、すなわち、踏掛部50が常につま先上がりとなっていることが好ましい。一般的につま先下がりに設けられた部材を力強く踏み込むことは難しいことから、このように、鉄板2に研磨部12が接した状態においても踏掛部50がつま先上がりとなるようにすることで、作業者が踏掛部50を踏み込む力を、研磨部12を鉄板2に押し付ける力として効率よく利用することが可能となる。
【0052】
また、一般的に脚力は腕力に比較して大きいことから、第2の力点P3を介して脚力によって研磨部12を鉄板2に押し付ける一方で、研磨部12を鉄板2から離すように把持部30(第1の力点P2)を腕力によって引き寄せることによって、研磨部12が鉄板2に押し付けられる押圧荷重、つまり、研磨部12により研磨対象物が研磨される度合いを適度に調整することも可能である。これにより、例えば、研磨対象物の表面をわずかに研磨したい場合などであっても、作業者は立ち姿勢のままで効率よく研磨作業を行うことができる。
【0053】
また、作業者が足を踏み掛ける踏掛部50の踏掛板54は、上述のように、略菱形状の切れ目が複数配されたエキスパンドメタルであることから、研磨作業中、作業者は貫通孔である踏掛板54の切れ目を通じて、研磨部12の周辺の鉄板2の表面の状態を視認することが可能である。このように踏掛板54に設けられた貫通孔を通じて、作業後の鉄板2の表面や作業前の鉄板2の表面を随時確認し、どの部分をどの程度研磨する必要があるかや再度研磨する必要があるかなどを考慮しながら作業を進めることができるため、研磨作業の作業効率を向上させることができる。
【0054】
また、研磨作業中、その回転中心C3が支点部として利用される一対の車輪24は、研磨作業の前後には、研磨装置100を移動させる移動手段として用いられる。つまり、研磨装置100では、一般的に移動手段として用いられる車輪24を支点部としても利用している。このため、支点部となる部材を別途設ける必要がないことから、研磨装置100の製造コストを低減させることができる。
【0055】
また、一般的に、鉄板2の表面に対して研磨部12が当たる角度、すなわち、図3において研磨部12の下面と鉄板2の表面との間に形成される鋭角の大きさが大きすぎると研磨された仕上がり面が粗くなってしまうことがある。このため、上記構成の研磨装置100では、研磨対象物に対する研磨部12の当たり角度の大きさを主に決定するグラインダ10と車輪24の回転中心C3との相対位置関係が、鉄板2の表面に対して研磨部12が当たる角度が15°程度の鋭角となるように予め設定されている。
【0056】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0057】
上記構成の研磨装置100によれば、研磨対象物に接するグラインダ10の研磨部12の接触部を作用点P1とし把持部30を第1の力点P2(力点)とした場合に回転中心となる支点部が、車輪24の回転中心C3としてグラインダ10に設けられる。そして、この支点部を中心に把持部30が傾動することに連動してグラインダ10が傾動することにより、研磨部12は研磨対象物に対して接触または離間する。つまり、グラインダ10の上方に配置され作業者が立ち姿勢で把持可能な把持部30を、作業者が、回転中心C3を中心に作用点P1に向けて傾動させて、研磨部12を研磨対象物に押し付けることにより、研磨対象物は研磨部12によって研磨されることになる。
【0058】
このように、上記構成の研磨装置100を用いた研磨作業では、作業者は、立ち姿勢のままで把持部30を傾動させるだけで、グラインダ10の研磨部12を研磨対象物に対して接触または離間させることが可能である。したがって、作業者は、かがんだ状態で研磨作業を行う必要がなく、立ち姿勢のままでグラインダ10の研磨部12を研磨対象物へ押し付け続けることができることから、結果として、研磨作業を行う作業者の負担を軽減させることができる。
【0059】
なお、次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の各実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0060】
上記実施形態では、グラインダ10は空気圧式である。これに代えて、グラインダ10は充電タイプまたはコードタイプの電動式であってもよい。なお、一般的に、空気圧式のグラインダ10の方が電動式よりも大きな出力を得やすいことから、空気圧式のものを用いることが好ましい。
【0061】
また、上記実施形態では、その回転中心C3が支点部となる一対の車輪24と作業者が足を踏み掛ける踏掛部50は、アタッチメント20を介してグラインダ10に取り付けられている。これに代えて、一対の車輪24及び踏掛部50は、グラインダ10の本体部11や接続部13に直接的に取り付けられていてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、把持部30の棒状部材31は、単に棒状の部材で形成されている。これに代えて、棒状部材31をパイプ材で形成し、第1連結部41及び第2連結部43とともに圧縮空気を供給する供給管として利用してもよい。この場合、接続コネクタ41aは、棒状部材31に取り付けられてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、連結部40が圧縮空気を供給する供給管として利用され、第2連結部43がグラインダ10の接続部13にコネクタを介して接続されている。これに代えて、エアコンプレッサから延びるエアホースを、グラインダ10の接続部13にコネクタを介して接続することにより圧縮空気を供給した構成としてもよい。この場合、接続部13に接続されていた第2連結部43は、例えばアタッチメント20や接続部13の外周面、本体部11の外周面に接合される。なお、グローブバルブ42が組み込まれた連結部40を圧縮空気供給管として利用した場合の方が、エアホースを配策したりグローブバルブを別途設置したりする必要がないため、研磨装置100を簡素化することが可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、グラインダ10は、図2に示すように、正面視において、研磨部12の回転中心C2が車輪24の回転中心C3と直交した状態となるようにクランプ22により把持されている。このため、研磨部12は、中心軸C1方向において最も先端側の縁部が研磨対象物に押し付けられることになる。これに代えて、グラインダ10は、正面視において、研磨部12の回転中心C2が車輪24の回転中心C3と所定の角度で交差した状態となるようにクランプ22により把持されていてもよい。これにより、研磨部12は、中心軸C1方向において最も先端側の縁部ではなく、任意の位置の縁部が研磨対象物に押し付けられることになる。なお、研磨部12のどの部分の縁部が研磨対象物に押し付けられるようにするか、すなわち、回転中心C2と回転中心C3とをどの程度の角度で交差させるかは、クランプ22による締め付けを緩めて、グラインダ10を、クランプ22内において、本体部11の中心軸C1を中心に適宜回転させることで調整可能である。
【0065】
また、上記実施形態では、アタッチメント20を介してグラインダ10に設けられた車輪24の回転中心C3が支点部となっている。支点部は、車輪24の回転中心C3に限定されず、作用点P1及び第1の力点P2の支点と成り得る部分であればどのような形状であってもよく、例えば、アタッチメント20の板材21から下方に向けて突出して形成された突起の先端部であってもよい。この場合、アタッチメント20に設けられ地面1に接する突起の先端部が支点部となり、この突起の先端部を中心に把持部30が傾動することに連動してグラインダ10が傾動することにより、研磨部12は研磨対象物に対して接触または離間することになる。
【0066】
また、上記実施形態では、グラインダ10の研磨部12は、その回転中心C2が、本体部11の中心軸C1と直交するように、本体部11に対して設けられている。これに代えて、グラインダ10の研磨部12は、その回転中心C2が、本体部11の中心軸C1と同軸または平行となるように、本体部11に対して設けられていてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、研磨機として、グラインダ10を例に説明したが、研磨機としては、グラインダ10に限定されず、鉄板等の表面を研磨することが可能であればどのような工具であってもよく、例えば、サンダーやポリッシャーであってもよい。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0069】
100・・・研磨装置
2・・・鉄板(研磨対象物)
10・・・グラインダ(研磨機)
12・・・研磨部
24・・・車輪
30・・・把持部
40・・・連結部
50・・・踏掛部
54・・・踏掛板
C3・・・回転中心(支点部)
P1・・・作用点
P2・・・第1の力点(力点)
P3・・・第2の力点
図1
図2
図3