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特許7394698ゴムクローラの起動輪、駆動機構、及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ゴムクローラの起動輪、駆動機構、及び車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/12 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
B62D55/12 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020080733
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021172320
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000239127
【氏名又は名称】福山ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 宏司
(72)【発明者】
【氏名】木曽 毅彦
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-205850(JP,A)
【文献】特開2002-178962(JP,A)
【文献】特開平07-205852(JP,A)
【文献】特開2005-145234(JP,A)
【文献】実開昭63-063279(JP,U)
【文献】特開平04-271977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とした環状をなして、周方向に配置された複数の歯部を有するスプロケット部と、
前記スプロケット部と同軸かつ一体に設けられているとともに、外周面が前記軸線を中心として前記スプロケット部の最大外径よりも大きい外径を有する円筒面とされたリング部と、
を有し、
前記スプロケット部の歯部の表面の摩擦係数よりも、前記リング部の前記円筒面の摩擦係数が大きい、ゴムクローラの起動輪。
【請求項2】
前記スプロケット部と前記リング部はそれぞれ表面の摩擦係数が異なる材料で形成されている請求項1に記載のゴムクローラの起動輪。
【請求項3】
前記軸線を中心とした筒状のホイール本体と、
該ホイール本体に着脱可能に取り付けられた前記スプロケット部、及び前記リング部と、
を有する請求項1又は2に記載のゴムクローラの起動輪。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の起動輪と、
該起動輪に巻回された状態で駆動されるゴムクローラと、
を備える駆動機構。
【請求項5】
請求項4に記載の駆動機構と、
該駆動機構によって駆動される車体と、
を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、起動輪、駆動機構、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
主として不整地での車両の移動を円滑に行うための装置として、無限軌道が広く実用化されている。無限軌道は、車両の幅方向両側に設けられた起動輪、誘導輪、転輪に巻回されるベルト状をなしており、起動輪によって駆動されることで巻回方向に転動する。従来、無限軌道は金属によって構成されていた一方、近年では、軽量化や低コスト化を目的として、これをゴムによって構成する例が増えている。この種の無限軌道は、クローラ(又はゴムクローラ)と呼ばれる。
【0003】
ゴムクローラを駆動する方式には、起動輪の円筒面とゴムクローラとの間の摩擦力を用いる方式と、起動輪の歯部をゴムクローラに係合させて駆動する方式と、これらの組み合わせがこれまでに実用化されている。いずれの方式でも、起動輪自体は樹脂で形成されることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-205852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、起動輪が樹脂で形成されている場合、円筒面とゴムクローラとの間の摩擦力が得られにくく、しかも円筒面と歯部に摩耗が進行しやすいという課題があった。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、伝達トルクが高く、より摩耗の生じにくい起動輪、駆動機構、及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係るゴムクローラの起動輪は、軸線を中心とした環状をなして、周方向に配置された複数の歯部を有するスプロケット部と、前記スプロケット部と同軸かつ一体に設けられているとともに、外周面が前記軸線を中心として前記スプロケット部の最大外径よりも大きい外径を有する円筒面とされたリング部と、を有し、前記スプロケット部の歯部の表面の摩擦係数よりも、前記リング部の前記円筒面の摩擦係数が大きい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、伝達トルクが高く、より摩耗の生じにくいゴムクローラの起動輪、駆動機構、及び車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る車両の側面図である。
図2】本開示の実施形態に係る起動輪の正面図である。
図3】本開示の実施形態に係る起動輪の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(車両の構成)
以下、本開示の実施形態に係る起動輪11を備える車両100について、図1から図3を参照して説明する。車両100は、主として不整地を移動することを目的として用いられる輸送機械である。図1に示すように、車両100は、車体1と、駆動機構2と、を備えている。
【0011】
車体1は、乗員や荷物等を収容する車体上部1Aと、エンジンや変速機等が収容される車体下部1Bと、車体下部1Bの幅方向両側に設けられた複数の車輪と、を有している。より具体的には、それぞれ1つの起動輪11と、1つの誘導輪12と、複数(一例として5つ)の下部転輪13Aと、複数(一例として5つ)の上部転輪13Bと、が設けられている。起動輪11は、車体下部1Bの前方側の端部に取り付けられている。起動輪11は、後述するクローラ3(ゴムクローラ)に係合する複数の歯部21(後述)を有している。起動輪11とクローラ3とは駆動機構2を構成している。起動輪11は、エンジンから伝達された動力によって車両100の幅方向に延びる回転軸回りに回転駆動される。なお、以降の説明では、車両100の幅方向を単に「幅方向」と呼ぶ。
【0012】
誘導輪12は、車体下部1Bにおける起動輪11とは反対側の端部に設けられている。誘導輪12は、幅方向に延びる回転軸回りに回転自在とされている。言い換えると、誘導輪12には動力は与えられない。下部転輪13Aは、車体下部1Bの下部に設けられ、車体1の荷重を支持しつつ、幅方向に延びる回転軸回りに回転自在とされている。上部転輪13Bは、クローラ3の垂れ下がりを防止するため、下部転輪13Aの上方であって、起動輪11と誘導輪12との間に設けられている。
【0013】
(クローラの構成)
これら起動輪11、誘導輪12、下部転輪13A、及び上部転輪13Bには、無限軌道としてのクローラ3が外側から囲むようにして巻回されている。より具体的には、クローラ3は、起動輪11から上部転輪13Bを経て誘導輪12に向かって延びるとともに、誘導輪12から下部転輪13Aを経て起動輪11まで延びている。以降の説明では、このクローラ3の延びる方向を「巻回方向」と呼ぶ。
【0014】
クローラ3は、主としてゴムによって形成された複数の履板3Bを有している。クローラ3は、幅方向に直交する面内で自在に湾曲することが可能とされている。起動輪11の爪がクローラ3に係合した状態で当該起動輪11を回転させることによって当該クローラ3に駆動力を与えられる。つまり、クローラ3は、巻回方向におけるいずれか一方側に向かって転動する。なお、クローラ3の駆動方式は上記に限定されず、例えば下部転輪13A又は上部転輪13Bによって駆動される方式を採ることも可能である。また、誘導輪12を備えない構成を採ることも可能である。
【0015】
クローラ3は、一例として巻回方向における中途位置で複数に分割されている。つまり、一定の単位長さを有する複数のユニットを連結することで、環状のクローラ3が形成されている。なお、連続する1つのユニットの両端部同士を接続することで環状のクローラ3を構成してもよい。
【0016】
(起動輪の構成)
次いで、図2図3を参照して、起動輪11の構成について説明する。起動輪11は、ホイール本体10と、スプロケット部20と、リング部30と、押さえ板40と、ボルト41と、を有している。
【0017】
ホイール本体10は、幅方向に延びる軸線Acを中心とする筒状をなしている。図3に示すように、ホイール本体10は、一対の筒部10Aと、一対の縮径部10Bと、一対の底部10Cと、一対のつば部10Dと、を有している。一対の筒部10Aは軸線Acを中心とする円筒状をなし、幅方向に間隔をあけて配置されている。縮径部10Bは、一対の筒部10Aにおける互いに対向する端縁から幅方向の中央部に向かうに従って次第に縮径する円錐面状をなしている。底部10Cは、軸線Acを中心とする円盤状をなし、一対の縮径部10B同士を互いに結合している。筒部10Aの外周面であって縮径部10B側に偏った位置には、当該外周面から径方向外側に張り出すつば部10Dが設けられている。つば部10Dは、軸線Acを中心とする円環状をなしている。
【0018】
それぞれの筒部10Aの外周面には、1つずつのスプロケット部20が設けられている。図2に示すように、スプロケット部20は、軸線Acを中心とする環状をなすとともに、周方向に配列された複数の歯部21を有している。これら歯部21は、クローラ3の端縁に形成された凹部に係合する。それぞれの歯部21は、径方向外側に向かって突出している。これら歯部21を、軸線Acを中心とする環状に一体に接続することでスプロケット部20が形成されている。スプロケット部20は、筒部10Aに圧入されている。なお、詳しくは図示しないが、歯部21の内周側には筒部10Aに形成されたキー溝と係合するキーが設けられている。また、スプロケット部20は、樹脂材料で形成されている。なお、スプロケット部20を、クローラ3とは異なる摩擦係数を有する金属材料で形成することも可能である。
【0019】
リング部30は、筒部10Aの外周面上でスプロケット部20と隣接した状態で同軸上に取り付けられている。より具体的には、リング部30は、一対のスプロケット部20の内側に1つずつ配置されている。リング部30は、軸線Acを中心とする筒状の円筒部31と、円筒部31の端縁から内周側に張り出す円環状の支持部32と、を有している。円筒部31の外周面は、軸線Acを中心とする円筒面31Sとされている。この円筒面31Sは、クローラ3の内面に対して摩擦力を伴って当接する。つまり、この駆動機構2では、上述のスプロケット部20による係合と、リング部30による摩擦力とによってクローラ3を転動させる。リング部30は、スプロケット部20を形成する樹脂材料よりも摩擦係数が大きな金属材料、又は樹脂材料で形成されている。つまり、歯部21の表面よりも円筒面31Sの摩擦係数は大きく設定されている。なお、このような摩擦係数の差異を実現するには、上記のように材料を違える構成のほか、同一の材料で表面粗さを違える構成とすることも可能である。また、異なる材料で表面粗さをさらに違える構成を採ることも可能である。言い換えれば、スプロケット部20とリング部30とは、それぞれ表面の摩擦係数が異なる材料で形成されていればよい。
【0020】
リング部30、及びスプロケット部20は、ホイール本体10の筒部10Aに対して、幅方向の外側からこの順ではめ込まれている。この状態で、スプロケット部20の外面には押さえ板40が取り付けられている。押さえ板40は、軸線Acを中心とする円環状をなしている。押さえ板40は、筒部10Aの端部10Eに対してボルト41によって結合されている。なお、端部10Eとは、筒部10Aにおける軸線Ac方向を向く円環状の端面である。押さえ板40とつば部10Dとの間に、スプロケット部20、及びリング部30が挟持されている。言い換えると、ボルト41を取り外すことで、スプロケット部20、及びリング部30をそれぞれ取り外すことができる。
【0021】
(作用効果)
次いで、車両100、及びクローラ3の動作について説明する。車両100を移動させるためには、まずエンジンによって起動輪11を回転駆動する。起動輪11の歯部21がクローラ3に係合し、リング部30が摩擦力をもって当接した状態で当該起動輪11を回転させることによって当該クローラ3に駆動力を与えられる。これにより、クローラ3は、巻回方向におけるいずれか一方側に向かって転動する。その結果、車両100には推進力が与えられる。
【0022】
ここで、起動輪11が樹脂のみで一体に形成されている場合、円筒面31Sとクローラ3との間の摩擦力が得られにくく、しかも円筒面31Sと歯部21に摩耗が進行しやすくなる虞がある。しかしながら、上記構成によれば、円筒面31Sの摩擦係数が、スプロケット部20の歯部21の表面の摩擦係数よりも大きい。これにより、円筒面31Sとクローラ3との間で生じる摩擦力を大きく確保できるとともに、歯部21とクローラ3との間で生じる摩擦力を小さく抑えることができる。これにより、スプロケット部20とリング部30とによるトルク伝達のうち、リング部30によるトルク伝達の比率を大きくすることができるため、歯部21の摩耗を抑制することができる。その結果、起動輪11全体としての損耗を低減し、より長期にわたって安定的に車両100を運用することができる。
【0023】
上記構成によれば、スプロケット部20が樹脂材料で形成されていることから、起動輪11全体の重量を小さく抑えることができる。さらに、リング部30は金属材料で形成されていることから、高いトルク伝達比率のもとで大きな負荷がかかる状態でも、当該リング部30の摩耗を小さく抑えることができる。
【0024】
上記構成によれば、スプロケット部20、及びリング部30がホイール本体10に対して着脱可能であることから、これらスプロケット部20、及びリング部30に摩耗が生じた場合にそれぞれ容易に交換することができる。これにより、より車両100のメンテナンス性を向上させることができる。
【0025】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、上記実施形態では、スプロケット部20がリング部30の外側に設けられている例について説明した。しかしながら、スプロケット部20がリング部30の内側に設けられている構成を採ることも可能である。
【0026】
<付記>
各実施形態に記載の起動輪11、駆動機構2、及び車両100は、例えば以下のように把握される。
【0027】
(1)第1の態様に係る起動輪11は、軸線Acを中心とした環状をなして、周方向に配置された複数の歯部21を有するスプロケット部20と、前記スプロケット部20と同軸かつ一体に設けられているとともに、外周面が前記軸線Acを中心とする円筒面31Sとされたリング部30と、を有し、前記スプロケット部20の歯部21の表面の摩擦係数よりも、前記リング部30の前記円筒面31Sの摩擦係数が大きい。
【0028】
上記構成によれば、リング部30の円筒面31Sの摩擦係数が、スプロケット部20の歯部21の表面の摩擦係数よりも大きい。これにより、円筒面31Sとクローラ3との間で生じる摩擦力を大きく確保できるとともに、歯部21とクローラ3との間で生じる摩擦力を小さく抑えることができる。これにより、スプロケット部20とリング部30とによるトルク伝達のうち、リング部30によるトルク伝達の比率を大きくすることができるため、歯部21の摩耗を抑制することができる。
【0029】
(2)第2の態様に係る起動輪11では、前記スプロケット部20と前記リング部30はそれぞれ表面の摩擦係数が異なる材料で形成されている
【0030】
上記構成によれば、スプロケット部20とリング部30とが、表面の摩擦係数が異なる材料で形成されていることから、高いトルク伝達比率のもとで大きな負荷がかかる状態でも、摩耗を小さく抑えることができる。
【0031】
(3)第3の態様に係る起動輪11は、前記軸線Acを中心とした筒状のホイール本体10と、該ホイール本体10に着脱可能に取り付けられた前記スプロケット部20、及び前記リング部30と、を有する。
【0032】
上記構成によれば、スプロケット部20、及びリング部30がホイール本体10に対して着脱可能であることから、これらスプロケット部20、及びリング部30に摩耗が生じた場合にそれぞれ容易に交換することができる。
【0033】
(4)第4の態様に係る駆動機構2は、起動輪11と、該起動輪11に巻回された状態で駆動されるゴムクローラ(クローラ3)と、を備える。
【0034】
上記構成によれば、摩耗が生じにくい起動輪11を備えることで、長期にわたって安定的に駆動機構2を動作させることができる。
【0035】
(5)第5の態様に係る車両100は、駆動機構2と、該駆動機構2によって駆動される車体1と、を備える。
【0036】
上記構成によれば、長期にわたってより安定的に運用することが可能な車両100を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
100 車両
1 車体
1A 車体上部
1B 車体下部
2 駆動機構
3 クローラ
10 ホイール本体
10A 筒部
10B 縮径部
10C 底部
10D つば部
10E 端部
11 起動輪
12 誘導輪
13A 下部転輪
13B 上部転輪
20 スプロケット部
21 歯部
30 リング部
31 円筒部
31S 円筒面
32 支持部
40 押さえ板
41 ボルト
Ac 軸線
図1
図2
図3